説明

生物油ならびにその生産および使用

本発明は、生物油ならびにその方法および使用を提供する。生物油は、好ましくは、セルロース含有供給材料を主要な炭素源として使用する一種または複数種の微生物の従属栄養発酵により生産される。本発明は、生物油を使用して、脂質に基づくバイオ燃料および食品、栄養的生成物、ならびに薬学的生成物を生産する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、35U.S.C.§119(e)の下、この開示が参照により完全に本明細書に組み入れられる、2007年9月12日出願の米国仮出願第60/960,037号に基づく優先権の恩典を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、生物油(biological oil)ならびにその使用および生産に関する。本発明の生物油は、好ましくは、セルロース含有供給材料を使用した微生物の発酵により生産され得る。本発明は、これらの生物油を使用して、脂質に基づくバイオ燃料および燃料添加剤、ならびに食品、栄養的生成物、および薬学的生成物を生産する方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
(脂肪種子を含む)植物、微生物、および動物のような起源からの生物油の生産は、様々な目的のために不可欠である。例えば、バイオディーゼルの生産は、大量の生物油を必要とする。バイオディーゼルは、石油由来ディーゼルに換わるカーボンニュートラルな液体燃料として提唱されている。バイオディーゼルは、最も一般的には、(メタノール、エタノール、またはイソプロパノールのような)単純アルコールを使用した植物油脂のアシル基のエステル交換反応により形成される。次いで、得られたアルキルエステルは、機械的な修飾なしに、最新の圧縮着火エンジンにおいて直接燃焼され得る。バイオディーゼルのエネルギー密度は、石油ディーゼル(または「化石ディーゼル」)のそれの95%と推定されている。しかしながら、バイオディーゼルのより高い潤滑性(従って、改善された燃料効率)のため、等しい容量の化石ディーゼルまたはバイオディーゼルから、ほぼ等しい燃費が得られる。
【0004】
バイオディーゼルは、現在、CO2固定植物の種子油から主に作成されているため、数百万年もの間、大気中に存在していなかった炭素を燃焼時に放出する化石ディーゼルとは対照的に、バイオディーゼルの燃焼から放射されるCO2は全て最近の大気中に既に存在していたという点で、この燃料は「カーボンニュートラル」であると見なされる。従って、バイオディーゼルおよびその他のカーボンニュートラルな燃料は、(CO2のような)温室効果ガスの放射を減少させるための世界的な努力に大いに寄与することができる。
【0005】
米国内のいくつかの州は、その州において販売される化石ディーゼルにバイオディーゼルを混合することを命じており、連邦政府も、再生可能な輸送燃料の使用に関する目標を設定した。バイオディーゼルへの変換のための植物油の現在の供給は、これらの命令のレベルを満たすのに苦労しており、そのため、多くの脂肪種子作物、特にダイズの価格が上がってきている。現在の傾向が継続すれば、重要な脂肪種子作物の価格は、著しく上昇するかもしれない。最終的に、目標は、化石燃料の全ての起源を競争価格を有するバイオベースの代替物に取り替えることである。残念ながら、バイオディーゼルのための現在の油源が著しく変化しなければ、この目標が実現されることはない。
【0006】
この課題を認識して、オープンポンドで増殖させた光合成藻類からバイオディーゼルを作成することの実現可能性を含む、バイオディーゼル生産のための代替的な油源に関して調査が実施されている。いくつかの藻類は油質であり、極めて急速に増殖する(接種から収穫までの期間が2週間未満のものもある)ため、年間の1エーカー当たりの油の理論収量は、高等植物に由来するものより数桁高くなり得る。大部分の油生産高等植物の種子の小さな部分は、植物の全体重量のほんの一部分に相当するが、光合成微細藻類は、それらの重量のより高い割合を、バイオディーゼル生産のために有用な油として蓄積し得ることに注目すべきである。しかしながら、化石ディーゼル技術と効果的に競争するために必要とされる大規模なスケールアップを妨害する重大な問題が、光合成藻類技術には存在する。
【0007】
光合成微細藻類は、しばしば、油の高い収量を達成するためにCO2を補足されなければならなかった。通常であれば大気中に放出されるであろう、石炭または油を燃料とする電気工場から放出される過剰のCO2が、バイオディーゼルを作成するための供給材料として使用され得るため、バイオレメディエーションの観点から、これは実際に利点である。石炭工場からのCO2は、最終的には(バイオディーゼルが燃焼された後)大気中に放出されるため、このアプローチは、明らかに、真のカーボンニュートラル燃料を生産しないが、化石由来CO2が放出される速度を遅延させ、化石燃料の単位重量当たりのより多くの有用なエネルギーを生じる。実際、Greenfuels Inc.を含むいくつかの会社が、この技術を利用するために設立されている。Greenfuelsは、特に、化石燃料を燃料とする電気工場からの極めて高レベルのCO2を光合成藻類培養物へ溶解させる閉鎖型フォトバイオリアクター系を使用している。自己遮光という生物物理学的制限のため、バイオマスの蓄積は全受光表面積に依存している。従って、限られた量のバイオディーゼルを生産するのにも、多くのフォトバイオリアクターが必要とされる。従って、この技術は、化石燃料を燃焼させる電気工場からの炭素(およびその他の温室効果ガス)を隔離するためのバイオレメディエーション戦略としては有用であるが、将来のバイオディーゼル需要を満たすのに必要とされるレベルにまで大規模化できる可能性は低い。
【0008】
大規模化可能性の問題を解決するため、他の機関は、光合成藻類由来バイオディーゼルを作成するため、オープンポンド技術をさらに発展させることを選んだ。オープンポンド系も、仮説的に経済的なレベルの油蓄積のため、CO2補充に頼っている。従って、これらの系は、化石燃料からの廃棄炭素のバイオレメディエーションのための系とも見なされ得る。これらの系からの有用な油の年間の1エーカー当たりの収量は、種子油作物に由来し得るものより数桁高い。大部分の観点から、これらの系は、バイオディーゼル油の限られた供給に対する最適な回答であるように見える。しかしながら、未だ解決されていない重大な問題が存在する。年間の1エーカー当たりの油の絶対的な理論収量は非常に高いが、オープンポンド系で蓄積されるバイオマスの実際の密度は比較的希薄である。このため、バイオマスから油を抽出するためには、大容量の培養培地を加工する必要があり、それは、最終的な油のコストを著しく増加させ得る。
【0009】
ガソリンをエタノールのような再生可能代替物に交換する経路は、それほど複雑でない。しかしながら、(化石ディーゼルまたはバイオディーゼルを燃焼する)圧縮燃焼エンジンの市場と、(ガソリンまたはエタノールを燃焼する)着火燃焼エンジンの市場とは、一般に、異なる需要を満たすことに注意すべきである。圧縮着火エンジンは、優れたトルクを提示し、従って、より大きな加速度を提示する着火燃焼エンジンより、産業的な適用においてより有用である(従って、後者は一般的な通勤のためより人気がある)。従って、ガソリンのための再生可能代用物が完全に採用された場合でも、着火燃焼エンジンが圧縮燃焼エンジンに完全に取って代わることを予想する理由は存在しない。
【0010】
いくらかの短所にも関わらず、液体輸送燃料としてガソリンに取って代わるエタノールの可能性から、多くのことがなされている。エタノール発酵のための供給材料としてサトウキビに頼るブラジルモデルは、バイオ燃料実現性の先駆的な例としてしばしば引用されている。残念ながら、米国は、大規模なエタノール生産のために必要とされる種類のサトウキビ生産性を支持し得る気候を有していない。アメリカのエタノール発酵をスケールアップする最初の努力においては、コーンシロップおよびコーンスターチが供給材料として使用されたが、この計画の持続可能性および大規模化可能性に関しても論争がある。このため、より最近の努力においては、エタノール発酵における供給材料として使用するための「セルロース性」糖源に焦点が当てられている。セルロース性供給材料とは、セルロースを含有している任意の供給材料であり得る。
【0011】
大部分の植物が、構造的多糖(セルロースおよびヘミセルロース)ならびにリグナンから主に構成されているため、セルロースおよびその他の構造的多糖の糖単量体がエタノール発酵のための供給材料として動員された場合、面積がより効率的に使用され得る。これは、トウモロコシ植物穀粒にのみ見出され、作物の乾燥重量の比較的低い割合を構成するコーンスターチの使用とは対照的である。さらに、全ての植物がセルロースを含有しているため、はるかに生長が速く、より気候耐性の高い植物が、セルロースに基づく糖の主な起源として使用され得る。そのような植物の例には、スイッチグラス、ミスカンサス・ギガンツス(Miscanthus gigantus)、およびポプラが含まれる。
【0012】
バイオディーゼル作物の種子に由来する油のみが、バイオディーゼルを作成するために使用されているため、今日の主なバイオディーゼル作物は、(エタノールのためのトウモロコシと)同様に非効率的な方式で土地を使用している。セルロース性エタノールプロセスは、未だ大規模には採用されていないが、今までのところ、セルロース性エタノールは、可能性のある持続可能でかつ経済的に競争力のあるガソリン代替物として広く認められている。セルロース性供給材料は、(プラスチックのような)その他の石油由来生成物の製造のために既に考慮されている。
【0013】
特許出願公開WO 2005/035693(特許文献1)、US 2005/0112735(特許文献2)、WO 2007/027633(特許文献3)、WO 2006/127512(特許文献4)、US 2007/0099278(特許文献5)、US 2007/0089356(特許文献6)、およびWO 2008/067605(特許文献7)(これらの内容は、参照により完全に本明細書に組み入れられる)は、全て、バイオディーゼルまたはバイオ燃料の生産系に関する。
【0014】
最近、発酵による微細藻類クロレラ・プロトテコイデス(Chlorella protothecoides)の従属栄養増殖が、バイオディーゼル生産の目的のために調査された。Tsinghua University(Beijing,China)の研究者らが、従属栄養性微細藻類クロレラ・プロトテコイデスに由来する油を使用したバイオディーゼル生産に関する研究を実施した。これらの研究においては、グルコースまたはトウモロコシ粉末加水分解物を炭素源として使用して、発酵槽において微細藻類を増殖させる。次いで、微細藻類の油を抽出し、バイオディーゼルを生産するためにエステル交換する。Miao,X.and Wu,Q.,Bioresource Technology 97:841-846(2006)(非特許文献1);Xu,H.et al.,Journal of Biotechnology 126:499-507(2006)(非特許文献2)を参照のこと。これらの研究者らは、デンプンおよびセルロースの加水分解溶液が、発酵プロセスにおける炭素源としてグルコースの低コストの代替物となり得ることを示唆したが、セルロース加水分解が困難であり高コストであることも示唆した。Li,X.et al.,"Large-scale biodiesel production from microalga Chlorella protothecoids through heterotrophic cultivation in bioreactors,"Biotechnology and Bioengineering,Accepted Preprint,Accepted April 20,2007(非特許文献3)を参照のこと。
【0015】
ディーゼルに加えて、再生可能かつ持続可能な起源を必要としている、もう一つの油に基づく燃料は、ジェット燃料である。航空機は、灯油型ジェット燃料およびナフサ型ジェット燃料を含む様々な型のジェット燃料の使用に頼っている。航空産業は、石油に基づくジェット燃料の限られた供給に大いに頼っているため、再生可能バイオジェット燃料の発見が緊急に必要とされている。
【0016】
従って、化石ディーゼルおよびジェット燃料に取って代わるため、容易にスケールアップされ得る、脂質に基づくバイオ燃料を生産するための、低コストで効率的な方法が必要とされている。本明細書において使用されるように、「脂質に基づくバイオ燃料」とは、バイオディーゼル、バイオジェット燃料、および専門燃料を含むが、これらに限定はされない、本発明の生物油から生産される任意の燃料をさす。この必要性を満たすためには、脂質に基づくバイオ燃料へと変換され得る生物油を生産するための安価で単純な方法を開発しなければならない。脂質に基づくバイオ燃料の生産のコストを低下させるため、セルロース含有供給材料のような豊富で安価な原料の主な炭素源としての使用を通して生物油を生産する低コストの方法が必要されている。安価な原料を使用する必要に加え、生物油の生産におけるコスト低下も目標とする、改善されたプロセスも必要とされる。これらの生物油を生産する改善された方法は、脂質に基づくバイオ燃料の生産のコストを低下させるのみならず、食品、栄養的生成物、および薬学的生成物を含むその他の多くの適用においても、これらの生物油の使用に関連したコストを低下させるであろう。
【0017】
例えば、生物油に見出される多くの有益な栄養素の食事摂取を増加させることは望ましい。特に有益な栄養素には、オメガ-3およびオメガ-6長鎖多価不飽和脂肪酸(LC-PUFA)のような脂肪酸、ならびにそれらのエステルが含まれる。オメガ-3 PUFAは、動脈硬化症および冠動脈心疾患を防止し、炎症状態を軽減し、腫瘍細胞の増殖を遅らせるための重要な食事性化合物として認識されている。オメガ-6 PUFAは、ヒト身体の構造的脂質としてのみならず、プロスタグランジン、ロイコトリエン、およびオキシリピンのような炎症における多数の因子のための前駆物質として機能している。長鎖オメガ-3およびオメガ-6 PUFAは、PUFAの重要なクラスとなっている。
【0018】
脂肪酸のメチル末端に最も近い二重結合の位置に依って、LC-PUFAの二つの主要な系またはファミリーが存在する:オメガ-3系は、3番目の炭素に二重結合を含有しており、オメガ-6系は6番目の炭素まで二重結合を有しない。従って、ドコサヘキサエン酸(「DHA」)は、22炭素という鎖長を有し、メチル末端から3番めの炭素から開始する6個の二重結合を有し、「22:6 n-3」と表記される。その他の重要なオメガ-3 LC-PUFAには、「20:5 n-3」と表記されるエイコサペンタエン酸(「EPA」)および「22:5 n-3」と表記されるオメガ-3ドコサペンタエン酸(「DPA n-3」)が含まれる。重要なオメガ-6 LC-PUFAには、「20:4 n-6」と表記されるアラキドン酸(「ARA」)および「22:5 n-6」と表記されるオメガ-6ドコサペンタエン酸(「DPA n-6」)が含まれる。
【0019】
ヒトおよびその他の多くの動物が、オメガ-3およびオメガ-6必須脂肪酸を直接合成することができないため、それらは食事で得られなければならない。PUFAの伝統的な食事性の起源には、植物油、海生動物油、魚油、および脂肪種子が含まれる。さらに、ある種の微生物により生産された油は、LC-PUFAに富んでいることが見出されている。PUFAの食事性の起源の生産に関連したコストを低下させるため、PUFAを含有している生物油を生産する低コストで効率的な方法が必要とされている。PUFA含有生物油のコストを低下させるためには、(セルロース含有供給材料のような)安価な原料を使用してこれらの生物油を生産する方法、および生産のコストを低下させるために設計された改善されたプロセスを開発する必要が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】WO 2005/035693
【特許文献2】US 2005/0112735
【特許文献3】WO 2007/027633
【特許文献4】WO 2006/127512
【特許文献5】US 2007/0099278
【特許文献6】US 2007/0089356
【特許文献7】WO 2008/067605
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Miao,X.and Wu,Q.,Bioresource Technology 97:841-846(2006)
【非特許文献2】Xu,H.et al.,Journal of Biotechnology 126:499-507(2006)
【非特許文献3】Li,X.et al.,"Large-scale biodiesel production from microalga Chlorella protothecoids through heterotrophic cultivation in bioreactors, "Biotechnology and Bioengineering, Accepted Preprint,Accepted April 20,2007
【発明の概要】
【0022】
本発明は、セルロースを含む供給材料を炭素源として使用した従属栄養発酵によりストラメノパイル(Stramenopile)界の微生物を増殖させることを含む、生物油の中の不飽和脂肪酸の約11%〜約99%が多価不飽和脂肪酸である生物油を生産する方法を提供する。本発明のいくつかの態様において、生物油の中の不飽和脂肪酸の約50%超が、多不飽和脂肪酸である。
【0023】
本発明において使用される微生物は、トラウストキトリド(Thraustochytrid)であり得るが、これに限定はされず、好ましくは、シゾキトリウム(Schizochytrium)属の微生物、トラウストキトリウム(Thraustochytrium)属の微生物、およびウルケニア(Ulkenia)属の微生物からなる群より選択される。
【0024】
本発明のいくつかの態様において、使用される微生物はセルロースを糖化する。好ましくは、本発明の微生物は、リグニン、ヘミセルロース、植物油、植物細胞外多糖、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される供給材料成分を分解するかまたはそれらに対して抵抗性である。本発明のいくつかの態様において、微生物は、遺伝学的に修飾された微生物である。
【0025】
本発明の微生物は、乾燥バイオマスの約25重量%〜約85重量%の量のトリグリセリド型の油を生産する。本発明のいくつかの態様において、微生物バイオマスの増殖は、約10%〜約100%の溶存酸素濃度で実施される。微生物による生物油の生産は、例えば、0%〜約10%の溶存酸素濃度で実施される。微生物は約15℃〜約45℃の温度で増殖し得る。
【0026】
本発明のいくつかの態様において、生物油を生産する方法は、微生物が乾燥バイオマスの約30%〜約90重量%の量の油を生産した後、微生物の自己溶解または誘導された溶解を実行することをさらに含む。微生物の溶解の誘導は、pH、温度、酵素の存在、界面活性剤の存在、物理的破壊、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、溶解のために好都合な条件に微生物を曝すことにより達成され得る。
【0027】
本発明のいくつかの態様において、セルロースを含有している発酵供給材料は、草、サトウキビ、農業廃棄物、紙くず、下水、木材、ビリジプランテ(viridiplantae)界の生物、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるセルロース源を含む。
【0028】
本発明の好ましい態様において、発酵は非滅菌発酵槽において実施される。本発明のいくつかの態様において、発酵は、繊維補強重合体発酵槽、金属マトリクス複合材料発酵槽、セラミックマトリクス複合材料発酵槽、熱可塑性複合材料発酵槽、金属発酵槽、エポキシ被覆炭素鋼発酵槽、プラスチック被覆炭素鋼発酵槽、プラスチック発酵槽、ガラス繊維発酵槽、およびコンクリート発酵槽において実施される。
【0029】
本発明のいくつかの態様において、発酵は、水で浸した発酵槽において実施される。第一の発酵槽または連続する発酵槽セットからの冷却水流出物が、第二の発酵槽または連続する発酵槽セットのための冷却水供給物として使用されるよう、連続して接続された冷却系を有する発酵槽において発酵が実施されてもよい。同様に、第一の発酵槽または連続する発酵槽セットからの拡散排気が、第二の発酵槽または連続する発酵槽セットのための気体供給物として使用されるよう、連続して接続された気体系を有する発酵槽において発酵が実施されてもよい。
【0030】
本発明は、(a)生物油の中の不飽和脂肪酸の約11%〜約99%が多価不飽和脂肪酸である生物油を生産するため、セルロースを含む供給材料を炭素源として使用した従属栄養発酵によりストラメノパイル界の微生物を増殖させること;および(b)バイオディーゼルを生産するため、生物油をエステル交換することを含む、バイオディーゼルを生産する方法をさらに提供する。本発明のいくつかの態様において、生物油の中の不飽和脂肪酸の約50%超が、多価不飽和脂肪酸である。
【0031】
生物油のエステル交換は、アルコール生産プロセスに由来するアルコールを使用して実施されてもよい。本発明のいくつかの態様において、生物油のエステル交換から得られたグリセロールは、アルコールまたは生物油を生産するためのその後の発酵プロセスのための炭素源として使用されてもよい。本発明のいくつかの態様において、その後の発酵プロセスは、グリセロールを炭素源として使用することができる微生物を増殖させる。
【0032】
本発明は、(a)生物油の中の不飽和脂肪酸の約11%〜約99%が多価不飽和脂肪酸である生物油を生産するため、セルロースを含む供給材料を炭素源として使用した従属栄養発酵によりストラメノパイル界の微生物を増殖させること;および(b)バイオジェット燃料を生産するため、生物油をクラッキングすることを含む、バイオジェット燃料を生産する方法も提供する。本発明のいくつかの態様において、バイオジェット燃料を生産するために使用される生物油は、約10重量%〜約75重量%の多価不飽和脂肪酸を含む。
【0033】
本発明は、20個以上の炭素を有する長鎖脂肪酸のアルキルエステルを約1重量%〜約75重量%含む、脂質に基づくバイオ燃料組成物を提供する。本発明のいくつかの態様において、脂質に基づくバイオ燃料組成物は、約30℃〜約-50℃の融解温度を有する。
【0034】
本発明は、(a)セルロースを含む供給材料を炭素源として使用した従属栄養発酵により二種以上の微生物を同時にまたは連続的に増殖させることを含む、生物油を生産する方法も提供する。ここで、微生物のうちの一つまたは複数は該セルロースを糖化することができる。
【0035】
本発明は、セルロースを含む供給材料を炭素源として使用した従属栄養発酵を受けた二種以上の微生物により生産された生物油をエステル交換することを含む、バイオディーゼルを生産する方法をさらに提供する。ここで、微生物のうちの一つまたは複数はセルロースを糖化することができる。バイオジェット燃料を生産するためには、セルロースを含む供給材料を炭素源として使用した従属栄養発酵を受けた二種以上の微生物により生産された生物油に対してクラッキングが実施され得る。ここで、微生物のうちの一つまたは複数はセルロースを糖化することができる。
【0036】
本発明は、非滅菌発酵槽において従属栄養発酵により微生物を増殖させることを含む、生物油を生産する方法を提供する。本発明のいくつかの態様において、生物油は、非滅菌発酵槽において、約5g/L/日〜約70g/L/日の速度で、好ましくは、約30g/L/日〜約70g/L/日の速度で生産される。
【0037】
本発明のいくつかの態様において、非滅菌発酵槽における微生物の増殖は、約10g/L〜約300g/L、好ましくは約150g/L〜約250g/Lの細胞密度を達成する。好ましくは、微生物の増殖は炭素源としてのセルロースの使用を含む。
【0038】
本発明は、(a)生物油を生産するため、非滅菌発酵槽において微生物を増殖させること;および(b)バイオディーゼルを生産するため、生物油をエステル交換することを含む、バイオディーゼルを生産する方法も提供する。本発明は、(a)生物油を生産するため、非滅菌発酵槽において微生物を増殖させること;および(b)バイオジェット燃料を生産するため、生物油をクラッキングすることを含む、バイオジェット燃料を生産する方法をさらに提供する。
【0039】
本発明は、(a)生物油を生産するため、再利用媒体を含む栄養素を使用して微生物を増殖させること;および(b)バイオディーゼルを生産するため、生物油をエステル交換することを含む、バイオディーゼルを生産する方法を提供する。再利用媒体は、脱脂バイオマス、加水分解バイオマス、部分加水分解バイオマス、再利用金属、再利用塩、再利用アミノ酸、再利用細胞外炭水化物、再利用グリセロール、再利用酵母バイオマス、およびそれらの組み合わせであり得るが、これらに限定はされない。好ましくは、微生物の増殖は、炭素源としてのセルロースの使用を含む。
【0040】
本発明は、(a)生物油を生産するため、再利用媒体を含む栄養素を使用して微生物を増殖させること;および(b)バイオジェット燃料を生産するため、生物油をクラッキングすることを含む、バイオジェット燃料を生産する方法をさらに提供する。
【0041】
本発明のいくつかの態様は、(a)生物油を生産するため、連続シード段階および脂質生産段階を含む発酵系を使用して微生物を増殖させること;ならびに(b)バイオディーゼルを生産するため、生物油をエステル交換することを含む、バイオディーゼルを生産する方法を提供する。好ましくは、連続シード段階は、微生物の全バイオマス生産の約10%〜約95%が連続シード段階の間に達成されるよう、微生物のバイオマスを生産する。本発明のいくつかの態様において、脂質生産段階は流加プロセスとして実施される。好ましくは、脂質生産段階は、微生物の全脂質生産の約10%〜約95%が脂質生産段階の間に達成されるよう、脂質を生産する。本発明のいくつかの態様において、微生物の増殖は、炭素源としてのセルロースの使用を含む。
【0042】
本発明は、(a)生物油を生産するため、連続シード段階および脂質生産段階を含む発酵系を使用して、微生物を増殖させること;ならびに(b)バイオジェット燃料を生産するため、生物油をクラッキングすることを含む、バイオジェット燃料を生産する方法をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明による生物油およびバイオディーゼルを生産する方法の様々な態様を示す。
【図2】本発明による発酵系設計の例を示す。
【図3】実施例4に記載された滅菌滅菌条件下および非滅菌滅菌条件下での微生物(ATCC 20888)の増殖について、乾燥細胞重量、脂質の重量パーセント、DHAの重量パーセント、および、発酵ブロス1リットル当たりの生産された脂質量の経時的なグラフを示す。
【図4】実施例4に記載された滅菌滅菌条件下および非滅菌条件下での微生物(ATCC 20888)の増殖について、糖消費速度、油生産速度(1日当たり発酵ブロス1リットル当たりのグラム数として)、バイオマス生産速度(1日当たり1リットル当たりのグラム数)、および無脂質バイオマスの量の経時的なグラフを示す。
【図5】連続シード段階および流加脂質蓄積段階を含む二段階発酵プロセスの図解を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
発明の詳細な説明
本発明は、生物油ならびにその使用および生産を提供する。本発明のいくつかの態様は、バイオディーゼル製造のため、直接、セルロースに基づく糖類またはリグノセルロースに基づく糖類に由来する炭素を、発酵を介して植物油に変換するために適している油性の従属栄養性の生物およびプロセスを提供する。本発明のプロセスは、(種子油バイオディーゼルまたは光合成藻類バイオディーゼルのような)現在使用されているかまたは調査されているプロセスより、大規模化可能であり、持続可能であり、コスト競争力のあるバイオディーゼルを生じるであろう。
【0045】
本発明のいくつかの局面は、糖化されたセルロース性供給材料を使用する二つの油性微生物の高密度増殖を含む。例えば、原生生物シゾキトリウムsp.および油性酵母ヤロウィア・リポリチカ(Yarrowia lipolytica)は、いずれも、微生物を修飾するための良く開発された形質転換系を有しており、発酵により高レベルの脂質を生産することができるため、そのようなプロセスのために適している。本発明のいくつかの局面は、多様なセルロース性基質およびリグノセルロース性基質で増殖することができる油性のトラウストキトリドおよび真菌、ならびに天然に糖化および発酵の組み合わせが可能であり、リグニン分解または抵抗性も可能な生物を提供する。
【0046】
本発明は、分子的、生物学的、古典遺伝学的、および生理学的手段を介した油生産のため、セルロースに基づく基質を利用するための、改良された生物の株およびプロセスにも関する。本発明のいくつかの態様は、細胞アシルグリセリドをバイオディーゼルに変換するための発酵プロセスの経済的スケールアップを提供する。本発明は、本発明の方法の実行のための生物学的および化学的なリアクタの設計および構築ならびに商業的生産戦略も提供する。
【0047】
微生物を含む様々な生物が、本発明による生物油の生産のために使用され得る。微生物は、藻類、細菌、真菌、または原生生物であり得る。微生物の起源および微生物を増殖させるための方法は、当技術分野において公知である(Industrial Microbiology and Biotechnology,2nd edition,1999,American Society for Microbiology)。例えば、微生物は、発酵槽において発酵培地中で培養され得る。微生物により生産された油は、本発明の方法および組成物において使用され得る。いくつかの態様において、生物は、(ストラメノパイル界の微生物のような)金色藻類、緑色藻類、珪藻、(例えば、クリプテコジニウム・コーニー(Crypthecodinium cohnii)のようなクリプテコジニウム属のメンバーを含む、ジノフィソー(Dinophyceae)目の微生物のような)渦鞭毛藻類、((ヤロウィア・リポリチカのような)ヤロウィア属、(クリプトコッカス・アルビダス(Cryptococcus albidus)のような)クリプトコッカス属、トリコスポロン(Trichosporon)属、カンジダ(Candida)属、リポミセス(Lipomyces)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、およびロドトルラ(Rhodotorula)属のメンバーのような)酵母、ならびにモルチエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)およびモルチエレラsect.シュマッケリ(schmuckeri)を含むが、これらに限定はされない、ムコール(Mucor)属およびモルチエレラ属の真菌からなる群より選択されるものを含む。微生物群ストラメノパイルのメンバーは、以下の微生物の群を含む微細藻類様および藻類様の微生物を含む:ハマトレス(Hamatores)、プロテロモナド(Proteromonads)、オパリン(Opalines)、デベルパエラ(Develpayella)、ジプロフリス(Diplophrys)、ラブリンツリド(Labrinthulids)、トラウストキトリド、ビオセシド(Biosecids)、卵菌(Oomycetes)、ヒポキトリジオミセテス(Hypochytridiomycetes)、コマチオン(Commation)、レチキュロスフェラ(Reticulosphaera)、ペラゴモナス(Pelagomonas)、ペラゴコッカス(Pelagococcus)、オリコラ(Ollicola)、アウレオコッカス(Aureococcus)、パルマレス(Parmales)、ジアトム(Diatoms)、キサントフィテス(Xanthophytes)、フェオフィテス(Phaeophytes)(褐藻)、ユースチグマトフィテス(Eustigmatophytes)、ラフィドフィテス(Raphidophytes)、シヌリド(Synurids)、アキソジネス(Axodines)(リゾクロムリナーレス(Rhizochromulinaales)、ペジネラレス(Pedinellales)、ジクチオカレス(Dictyochales)を含む)、クリソメリダレス(Chrysomeridales)、サルシノクリシダレス(Sarcinochrysidales)、ヒドルラレス(Hydrurales)、ヒベルジアレス(Hibberdiales)、およびクロムリナレス(Chromulinales)。トラウストキトリドは、シゾキトリウム属(種はアグレガツム(aggregatum)、リムナセウム(limnaceum)、マングロベイ(mangrovei)、ミヌツム(minutum)、オクトスポルム(octosporum)を含む)、トラウストキトリウム属(種はアルジメンタレ(arudimentale)、アウレウム(aureum)、ベンチコラ(benthicola)、グロボスム(globosum)、キンネイ(kinnei)、モチバム(motivum)、マルチルジメンタレ(multirudimentale)、パキデルマム(pachydermum)、プロリフェルム(proliferum)、ロゼウム(roseum)、ストリアツム(striatum)を含む)、ウルケニア属(種はアメボイデア(amoeboidea)、ケルゲレンシス(kerguelensis)、ミヌタ(minuta)、プロフンダ(profunda)、ラジアテ(radiate)、サイレンス(sailens)、サルカリアナ(sarkariana)、シゾキトロプス(schizochytrops)、ビスルゲンシス(visurgensis)、ヨルケンシス(yorkensis)を含む)、アプラノキトリウム(Aplanochytrium)属(種はハリオチジス(haliotidis)、ケルゲレンシス(kerguelensis)、プロフンダ(profunda)、ストッキノイ(stocchinoi)を含む)、ジャポノキトリウム(Japonochytrium)属(種はマリナム(marinum)を含む)、アルトルニア(Althornia)属(種はクロウチー(crouchii)を含む)、およびエリナ(Elina)属(種はマリサルバ(marisalba)、シノリフィカ(sinorifica)を含む)を含む。ラブリンツリドは、ラビリンツラ(Labyrinthula)属(種はアルゲレンシス(algeriensis)、コエノシスチス(coenocystis)、チャットニー(chattonii)、マクロシスチス(macrocystis)、マクロシスチス・アトランチカ(atlantica)、マクロシスチス・マクロシスチス、マリナ(marina)、ミヌタ(minuta)、ロスコッフェンシス(roscoffensis)、バルカノビー(valkanovii)、ビテリナ(vitellina)、ビテリナ・パシフィカ(pacifica)、ビテリナ・ビテリナ、ゾプフィ(zopfi)を含む)、ラビリントミクサ(Labyrinthomyxa)(種はマリナ(marina)を含む)、ラビリンツロイデス(Labyrinthuloides)属(種はハリオチジス(haliotidis)、ヨルケンシス(yorkensis)を含む)、ジプロフリス(Diplophrys)属(種はアルケリ(archeri)を含む)、ピロソルス(Pyrrhosorus)*属(種はマリヌス(marinus)を含む)、ソロジプロフリス(Sorodiplophrys)*属(種はステルコレッド(stercored)を含む)、クラミドミクサ(Chlamydomyxa)*属(種はラビリンツロイデス(labyrinthuloides)、モンタナ(montana)を含む)を含む。(*=現在、これらの属の正確な分類学的位置付けに一般的なコンセンサスはない)。
【0048】
本発明のいくつかの態様は、セルロースを含む供給材料を炭素源として使用した従属栄養発酵によりストラメノパイル界の微生物を増殖させることを含む、生物油を生産する方法を提供する。本発明のいくつかの態様において、生物油は、かなりの部分が多価不飽和脂肪酸である不飽和脂肪酸を含有している。以前に記載されたように、オメガ-3およびオメガ-6長鎖多価不飽和脂肪酸のようなある種の多価不飽和脂肪酸は、特に重要な食事性化合物である。従って、相当量の多価不飽和脂肪酸を含む生物油を生産することは望ましい。本発明のいくつかの態様において、生物油は、脂質に基づくバイオ燃料に変換される。そのような適用のため、特に、バイオジェット燃料適用のためには、様々な鎖長の炭化水素を生産することが望ましいかもしれない。多価不飽和脂肪酸の中の複数の不飽和部位は、炭化水素を作成するための複数の切断部位を提供するため、脂質に基づくバイオ燃料を生産するために使用される生物油の中の相当量の多価不飽和脂肪酸の存在は、炭化水素の生産のための、より大きな柔軟性および多様性を提供するであろう。例えば、ある種のジェット燃料は、2〜8個の炭素を有する炭化水素を必要とする。多価不飽和脂肪酸は、様々な鎖長のより短い炭化水素を生産するために、クラッキングのような当技術分野において公知のプロセスを通して切断され得る。
【0049】
いくつかの態様において、本発明の方法を通して生産された生物油は、生物油の中の不飽和脂肪酸の約11%〜約99%が多価不飽和脂肪酸である不飽和脂肪酸を有する。本発明の生物油は、生物油の中の不飽和脂肪酸の約20%〜約99%、約26%〜約99%、約30%〜約99%、約40%〜約99%、約51%〜約99%、約60%〜約99%、約70%〜約99%、約80%〜約99%、または約90%〜約99%が多価不飽和脂肪酸である不飽和脂肪酸を含有しているかもしれない。本発明のいくつかの態様において、生物油の中の不飽和脂肪酸の約10%超、約20%超、約25%超、約30%超、約40%超、約50%超、約60%超、約70%超、約80%超、または約90%超が多価不飽和脂肪酸である。
【0050】
本発明のいくつかの態様において、生物油は、約10重量%〜約75重量%の多価不飽和脂肪酸を含む。ある種の使用のため、生物油は、好ましくは、約20重量%〜約75重量%、約30重量%〜約75重量%、約40重量%〜約75重量%、約50重量%〜約75重量%、または約60重量%〜約75重量%の多価不飽和脂肪酸を含む。本発明のいくつかの態様において、生物油は、少なくとも約10重量%、少なくとも約20重量%、少なくとも約30重量%、少なくとも約40重量%、少なくとも約50重量%、少なくとも約60重量%、または少なくとも約70重量%の多価不飽和脂肪酸を含む。本発明による生物油を生産する方法は、任意で、微生物から生物油を収集することをさらに含んでいてもよい。
【0051】
本明細書において使用されるように、「セルロース」には、糖化または加水分解されていないセルロースも含まれるし、糖化または加水分解されたセルロースも含まれる。本発明のいくつかの態様において、使用される微生物はトラウストキトリドである。好ましくは、微生物は、シゾキトリウム属、トラウストキトリウム属、またはウルケニア属のものである。本発明のいくつかの態様において、使用される微生物は、(ヤロウィア・リポリチカのような)ヤロウィア属、(クリプトコッカス・アルビダスのような)クリプトコッカス属、トリコスポロン属、カンジダ属、リポミセス属、ロドスポリジウム属、またはロドトルラ属の酵母である。特許出願公開WO 2004/101757(その内容は参照により完全に本明細書に組み入れられる)は、これらの酵母の例を開示している。
【0052】
本発明は、生物油または生物油の混和物を生産するための二種以上の微生物の組み合わせの使用をさらに企図する。発酵のコストを低下させるため、二種以上の微生物は、好ましくは、同一の発酵条件の下で増殖させられる。二種以上の異なる微生物が生物油を生産するために組み合わせられる場合、一種または複数種の微生物は、発酵の間に油を蓄積するかもしれない。一種または複数種の微生物は、これらに限定はされないが、(セルロースの糖化のような)使用可能な糖単量体への供給材料成分の異化、(リグニン、(キシラン、グルクロノキシラン、アラビノキシラン、グルコマンナン、およびキシログルカンのような)ヘミセルロース、植物油、植物細胞外多糖等のような供給材料成分の代謝または分解のような)もう一つの微生物の増殖を阻害する供給材料成分の分解 、ならびに(その微生物の増殖を容易にするある種の酵素の合成のような)もう一つの微生物の増殖を促進する成分の合成のような活性を通して、もう一つの微生物の増殖および油蓄積を容易にするかもしれない。
【0053】
ヘミセルロースの代謝のために適している生物には、フィブロバクター・スクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ならびに(クリプトコッカス・アルビダス、クリプトコッカス・クルバツス(curvatus)のような)クリプトコッカス属、トリコスポロン属、カンジダ属、リポミセス属、ロドスポリジウム属、およびロドトルラ属の酵母が含まれるが、これらに限定はされない。ヘミセルロースの代謝のために適しているその他の生物には、(ピキア・スチピチス(Pichia stipitis)のような)ピキア(Pichia)、アエロモナス(Aeromonas)、アスペルギルス(Aspergillus)、ストレプトミセス(Streptomyces)、ロドコッカス(Rhodococcus)、(バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・ブレビス(brevis)、およびバチルス・レンティス(lentis)のような)バチルス、エケリキア(Echerichia)、クルイベロミセス(Kluyveromyces)、サッカロミセス(Saccharomyces)の種、ならびにトリコデルマ(Trichoderma)属の生物が含まれ、リグニンの代謝のために適している生物には、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)およびその他の「ホワイトロット」真菌が含まれるが、これらに限定はされない。特許出願公開WO 91/018974(その内容は参照により完全に本明細書に組み入れられる)は、ヘミセルラーゼ活性を有する生物の例を開示している。
【0054】
リグノセルロース性バイオマスから遊離の糖およびオリゴ糖を生成させるための、本発明において使用するのに適している方法は、例えば、特許出願公開US 2004/0005674(これの内容は、参照により完全に本明細書に組み入れられる)に開示されている。これらの方法は、リグノセルロースを異化する(セルラーゼ、キシラナーゼ、リグニナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、リピダーゼ(lipidase)、およびグルクロニダーゼのような)酵素により、リグノセルロース性バイオマスを遊離の糖および低分子のオリゴ糖に変換することを含む。これらの酵素は、販売元から購入されてもよいし、または微生物、真菌、即ち、酵母、もしくは植物のいずれかにおける発現等により組換え生産されてもよい。
【0055】
油性微生物が、本発明において使用するために好ましい。本明細書において使用されるように、「油性微生物」とは、細胞の乾燥重量の20%超を脂質の形態で蓄積することができる微生物と定義される。本発明のいくつかの態様において、微生物は、乾燥バイオマスの約30重量%〜約95重量%を脂質として生産する。好ましくは、本発明の微生物は、乾燥バイオマスの約35〜約93重量%、約40〜約90重量%、約45〜88重量%、約50〜約85重量%、約55〜約83重量%、約60〜約80重量%、約65〜約78重量%、または約70〜約75重量%を脂質として生産する。本発明のいくつかの態様において、微生物は、乾燥バイオマスの少なくとも約30重量%、少なくとも約35重量%、少なくとも約40重量%、少なくとも約45重量%、少なくとも約50重量%、少なくとも約55重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約65重量%、または少なくとも約70重量%を脂質として生産する。
【0056】
二種以上の微生物が本発明の生物油を生産するために使用される場合、一種または複数種の微生物が生物油を生産するかもしれない。本発明のいくつかの態様において、二種以上の微生物が生物油を生産するために組み合わせられる場合、重量で測定されるような、第一の微生物により生産される油の量と、第二の微生物により生産される油の量との比率は、約1:9〜約1:1、約1:9〜約2:3、約1:9〜約3:7、または約1:9〜約1:4である。
【0057】
好ましくは、本発明の微生物は、乾燥バイオマスの約25重量%〜約85重量%、乾燥バイオマスの約30重量%〜約85重量%、乾燥バイオマスの約35重量%〜約85重量%、乾燥バイオマスの約40重量%〜約85重量%、乾燥バイオマスの約45重量%〜約85重量%、乾燥バイオマスの約50重量%〜約85重量%、乾燥バイオマスの約55重量%〜約85重量%、乾燥バイオマスの約60重量%〜約85重量%、乾燥バイオマスの約60重量%〜約80重量%、乾燥バイオマスの約65重量%〜約80重量%、乾燥バイオマスの約65重量%〜約75重量%、または乾燥バイオマスの約70重量%〜約75重量%の量のトリグリセリド型の油を生産する。本発明のいくつかの態様において、微生物は、乾燥バイオマスの少なくとも約25重量%、少なくとも約30重量%、少なくとも約35重量%、少なくとも約40重量%、少なくとも約45重量%、少なくとも約50重量%、少なくとも約55重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約65重量%、または少なくとも約70重量%の量のトリグリセリド型の油を生産する。
【0058】
本明細書において使用されるように、「トリグリセリド」とは、CH2(OOCR1)CH(OOCR2)CH2(OOCR3)という一般化学式を有する3個の脂肪酸残基とグリセロールとのエステルであり、式中、OOCR1、OOCR2、およびOOCR3は、各々、脂肪酸残基を表す。本発明のいくつかの態様において、適当なトリグリセリドは、少なくとも一つのPUFAを含有していることができる。いくつかの態様において、PUFAは、少なくとも18炭素の鎖長を有する。そのようなPUFAは、本明細書において、長鎖PUFAまたはLC PUFAと呼ばれる。いくつかの態様において、PUFAは、ドコサヘキサエン酸C22:6 n-3(DHA)、オメガ-3ドコサペンタエン酸C22:5 n-3(DPA(n-3))、オメガ-6ドコサペンタエン酸C22:5 n-6(DPA(n-6))、アラキドン酸C20:4 n-6(ARA)、エイコサペンタエン酸C20:5 n-3(EPA)、ステアリドン酸(SDA)、リノレン酸(LLA)、アルファリノレン酸(ALA)、ガンマリノレン酸(GLA)、共役リノレン酸(CLA)、エイコサテトラエン酸(C20:4 n-3)、ホモ-アルファおよびホモ-ガンマリノレン酸(C20:3 n-6および20:3 n-3)、アドレン酸(C22:4 n-6)、オクタコサオクタエン酸(C28:8)、またはそれらの混合物であり得る。PUFAは、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、リン脂質、遊離脂肪酸、またはこれらの脂肪酸の天然または合成の誘導体型(例えば、脂肪酸のカルシウム塩等)を含むが、これらに限定はされない、天然の脂質に見出される一般的な型のうちのいずれかで存在していてもよい。PUFA残基を有するトリグリセリドを含む油またはその他の組成物との言及は、本発明において使用されるように、DHAのような単一の型のPUFA残基のみを有するトリグリセリドを含む組成物、またはDHA、EPA、およびARAのような複数の型のPUFA残基の混合物を有するトリグリセリドを含む組成物のいずれかをさすことができる。
【0059】
本発明の好ましい態様において、微生物は高密度細胞増殖が可能である。本発明のいくつかの態様において、微生物は、少なくとも約10g/L、少なくとも約15g/L、少なくとも約20g/L、少なくとも約25g/L、少なくとも約30g/L、少なくとも約50g/L、少なくとも約75g/L、少なくとも約100g/L、少なくとも約125g/L、少なくとも約135g/L、少なくとも約140g/L、少なくとも約145g/L、または少なくとも約150g/Lの細胞密度を達成することができる。本発明のいくつかの態様において、微生物は、約10 g/L〜約300g/L、約15 g/L〜約300g/L、約20 g/L〜約300g/L、約25 g/L〜約300g/L、約30 g/L〜約300g/L、約50 g/L〜約300g/L、約75 g/L〜約300g/L、約100 g/L〜約300g/L、約125 g/L〜約300g/L、約130 g/L〜約290g/L、約135 g/L〜約280g/L、約140 g/L〜約270g/L、約145 g/L〜約260g/L、または約150 g/L〜約250g/Lの細胞密度を達成することができる。本発明の微生物の高密度増殖は、(温度、pH、イオン濃度、および気体濃度のような)発酵条件を調整することにより増加させられ得る。
【0060】
本発明は、高度に効率的な生物油の生産を提供する。本発明のいくつかの態様において、生産される生物油の量は、少なくとも約5g/L/日、少なくとも約10g/L/日、少なくとも約20g/L/日、少なくとも約30g/L/日、少なくとも約40g/L/日、少なくとも約50g/L/日、少なくとも約60g/L/日、または少なくとも約70g/L/日である。本発明のいくつかの態様において、生産される生物油の量は、約5 g/L/日〜約70g/L/日、約10 g/L/日〜約70g/L/日、約20 g/L/日〜約70g/L/日、または約30〜約70g/L/日である。
【0061】
本発明のいくつかの態様において、生物油の生産のために使用される微生物は、セルロース分解性の微生物であり、従って、セルロース性またはリグノセルロース性の供給材料に由来するセルロースを糖化することができる。セルロース性またはリグノセルロース性の供給材料には、セルロースを含む任意の起源が含まれる。これらには、草、サトウキビ、農業廃棄物、紙くず、下水、木材、およびビリジプランテ(viridiplantae)界の任意の生物またはそれらの産物が含まれるが、これらに限定はされない。好ましくは、使用されるセルロースは、木に基づくセルロース源以外の起源に由来する。セルロースの起源として有用な草の型には、ソーグラス(saw grass)、ウィートグラス(wheat grass)、ライスグラス(rice grass)、スイッチグラス(switch grasses)、およびミスカンツス(Miscanthus)型の草が含まれるが、これらに限定はされない。
【0062】
微生物がセルロースを炭素源として使用するためには、セルロースが構成糖単量体へと異化されなければならない。セルロースは、高度に安定な直線構造を提供するベータグルコシド結合により連結されたグルコースの重合体である。セルロースの糖単量体への異化(セルロースの糖化とも呼ばれる)は、難題であり、これを達成するため多くの試みが成されてきた。セルラーゼによるセルロースの酵素的加水分解は、セルロースを分解するための一つのアプローチである。セルロースの完全な加水分解は、一般に、セルロース重合体の内部領域を切断するエンドグルカナーゼ;セルロース重合体の末端からセロビオース単位を切断するエキソグルカナーゼ;およびセロビオースをグルコースサブユニットへと切断するベータグルコシダーゼを必要とする。セルラーゼは、エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ、およびベータグルコシダーゼの活性を達成する複数の複合体を有するかもしれない。トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)は、セルラーゼの生産のために使用されている重要な生物である。セルロースを糖単量体へと異化するその他の方法には、熱水、水蒸気爆発、酸処理、および/またはアンモニア繊維爆発を含む熱化学的破壊(機械的破壊を含む、または含まない)が含まれる。
【0063】
本発明のいくつかの態様において、生物油を生産するために増殖させられる微生物は、セルロースを糖化するのと同一の微生物である。本発明のいくつかの態様において、セルロースを含有している供給材料を主要な炭素源として使用して、生物油を生産するため、二種以上の微生物を同時にまたは連続的に増殖させてもよい。本発明によると、二種以上の微生物が同時にまたは連続的に発酵される場合、微生物の一種または複数種が、セルロースを糖化することができる。本発明のいくつかの態様において、発酵の間のセルロースの糖化を増強するために、微生物はセルラーゼの存在下で従属栄養発酵を受けてもよい。いくつかの態様において、微生物のうちの少なくとも一種は、ストラメノパイル界のものであり、好ましくは、一般にトラウストキトリドと呼ばれる群のメンバーである。
【0064】
本発明において使用するために適している微生物は、高温および/または酸性培地によって増殖が阻害されず、いくつかの場合には、増強すらされるよう、高温および/または高度に酸性もしくは塩基性の環境に対して耐性であってもよい。本発明のいくつかの態様において、微生物は、セルロースの分解を容易にする温度および/またはpHで、セルロースを含有している供給材料を使用した従属栄養発酵により増殖させられる。本発明のいくつかの態様において、発酵は、約15℃〜約70℃、約20℃〜約40℃、または約25℃〜約35℃の温度で実施される。本発明のさらなる態様において、発酵は、約3〜約11、約3〜約10、約4〜約9.5、約4〜約9、約5〜約7、または約6〜約9のpHで実施される。例えば、セルラーゼ、化学的および/または機械的な破壊、ならびにアンモニア繊維爆発を使用したセルロース含有供給材料の前処理を、本発明の生物油の生産において供給材料を使用する前に実施してもよい。または、そのような前処理は必要でない。
【0065】
供給材料を前処理する方法のいくつかの例は、特許出願公開番号US 2007/0161095、WO 05/053812、WO 06/086757、US 2006/0182857、US 2006/177551、US 2007/0110862、WO 06/096834、WO 07/055735、US 2007/0099278、WO 06/119318、US 2006/0172405、およびUS 2005/0026262に開示されており、これらの内容は、参照により完全に本明細書に組み入れられる。
【0066】
セルロースの消化のために適している酵素の例は、特許または特許出願公開US 2003/0096342、WO 03/012109、US 7059993、WO 03/012095、WO 03/012090、US 2003/0108988、US 2004/0038334、US 2003/0104522、EP 1 612 267、およびWO 06/003175に開示されており、これらの内容は、参照により完全に本明細書に組み入れられる。
【0067】
本発明のいくつかの態様において、微生物を増殖させるために使用されるセルロース性供給材料は、炭素供給材料の乾燥重量の約5%〜約100%、約10%〜約95%、約20%〜約90%、約30%〜約85%、約40%〜約80%、約50%〜約75%、または約60%〜約70%の量のセルロースを含む。本発明のいくつかの態様において、セルロース性供給材料は、炭素供給材料の乾燥重量の少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、または少なくとも約70%の量のセルロースを含む。
【0068】
好ましくは、本発明において使用される微生物は、リグニン、キシラン、ヘミセルロース、植物油、植物細胞外多糖、およびそれらの組み合わせのような供給材料成分に対して抵抗性であるかまたはそれらを分解する。これらの供給材料成分の分解またはそれらに対する抵抗性は、微生物の発酵性能がこれらの成分の存在によって阻害されないことを確実にする。
【0069】
本発明のいくつかの態様において、微生物を増殖させるために使用されるセルロース性供給材料は、リグニン、ヘミセルロース、またはそれらの組み合わせより選択される成分を、約1重量%〜約50重量%、約5重量%〜約40重量%、または約10重量%〜約30重量%含む。本発明のいくつかの態様において、微生物を増殖させるために使用されるセルロース性供給材料は、リグニン、ヘミセルロース、またはそれらの組み合わせより選択される成分を、少なくとも約1重量%、少なくとも約5重量%、少なくとも約10重量%、少なくとも約20重量%、または少なくとも約30重量%含む。
【0070】
適当な生物は、天然環境からの収集を含む、多数の入手可能な起源から入手され得る。本明細書において使用されるように、生物または特定の型の生物には、野生株、変異体、または組換え型が含まれる。これらの生物を培養するかまたは増殖させる増殖条件は、当技術分野において公知であり、これらの生物のうちの少なくともいくつかのための適切な増殖条件は、例えば、米国特許第5,130,242号、米国特許第5,407,957号、米国特許第5,397,591号、米国特許第5,492,938号、米国特許第5,711,983号、および米国特許第6,607,900号に開示されており、全て、参照により完全に本明細書に組み入れられる。微生物の油が使用される場合、微生物は、本明細書において油生産を促進することができる培地と定義される、有効な培地において培養される。好ましくは、有効な培地は、迅速な微生物の増殖も促進する。微生物は、回分、流加、半連続、および連続を含むが、これらに限定はされない、従来の発酵モードで培養され得る。本明細書において使用されるように、「半連続」モードとは、微生物を含有している発酵培養物の一部が発酵プロセスの完了後に発酵槽から採集されない発酵モードをさす。発酵槽に残った発酵培養物の一部は、その後の発酵プロセスのためのシードとして機能することができる。本発明のいくつかの態様において、発酵培養物の約1体積%〜約50体積%、約1体積%〜約25体積%、約1体積%〜約15体積%、約1体積%〜約10体積%、または約2体積%〜約8体積%が、発酵プロセスの完了後に採集されず、その後の発酵プロセスのためのシードとして発酵槽に残される。
【0071】
本発明のいくつかの態様において、発酵プロセスは、微生物のバイオマスの蓄積を標的とする第一段階、および微生物による脂質蓄積を標的とする第二段階を含む。好ましくは、バイオマス蓄積段階の間は、栄養素制限はない。脂質蓄積段階は、好ましくは、窒素を制限し、炭素を供給しながら実施される。
【0072】
バイオディーゼルを生産するための本発明の方法は、(a)生物油を生産するため、連続シード段階および脂質生産段階を含む発酵系を使用して、微生物を増殖させること、ならびに(b)バイオディーゼルを生産するため、生物油のエステル交換のような当技術分野において公知の手段を通して、生物油をバイオディーゼルに変換すること、を含み得る。連続シード段階はバイオマス蓄積を標的とし、シード容器(初期接種を含む容器)に連続的な栄養素供給を提供することにより実施される。シード容器から発酵ブロスが引き出され、脂質生産段階容器に移される。脂質生産段階容器は、運転の間を通して標的糖濃度を維持するために炭素源がバッチに供給される流加プロセスとして実行され得る。
【0073】
バイオジェット燃料の生産のためにも、類似した二段階発酵プロセスが、生物油を生産するために使用され得る。本発明のいくつかの態様において、バイオジェット燃料を生産する方法は、生物油をバイオジェット燃料に転換するのを補助するクラッキングのようなプロセスを利用して、当技術分野において公知の方法により、この発酵系を使用して生産された生物油をバイオジェット燃料へと変換することを含む。
【0074】
二段階発酵プロセスは、生物油生産プロセスの効率を増加させ、従って、脂質に基づくバイオ燃料生産のコストの低下に寄与する。脂質に基づくバイオ燃料の生産のためのこの改善された発酵系は、生物油の効率的な大規模生産を最大限にするために特に有利であり、従って、脂質に基づくバイオ燃料の生物油からの生産を、より商業的に実行可能なものにするために大いに貢献する。二段階発酵プロセスは、特定の適用の要件に依って、高いまたは低い多価不飽和脂肪酸含有量を有する生物油を生産するために使用されてもよい。
【0075】
本発明のいくつかの態様において、(連続シード段階のような)バイオマス蓄積段階は、微生物の全バイオマス生産の約10%〜約95%、約20%〜約95%、約30%〜約95%、約40%〜約95%、または約50%〜約95%がバイオマス蓄積段階の間に達成されるよう、微生物のバイオマスを生産する。本発明のさらなる態様において、微生物の全バイオマス生産の約60%〜約95%、約70%〜約95%、または約80%〜約95%が、バイオマス蓄積段階の間に達成される。本発明のいくつかの態様において、バイオマス蓄積段階は、微生物の全バイオマス生産の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%がバイオマス蓄積段階の間に達成されるよう、微生物のバイオマスを生産する。好ましくは、微生物の全バイオマス生産の約50%〜約95%がバイオマス蓄積段階の間に達成される。
【0076】
本発明のいくつかの態様において、脂質蓄積段階は、微生物の全脂質生産の約10%〜約95%、約20%〜約95%、約30%〜約95%、約40%〜約95%、または約50%〜約95%が脂質蓄積段階の間に達成されるよう、脂質を生産する。本発明のさらなる態様において、微生物の全脂質生産の約60%〜約95%、約70%〜約95%、または約80%〜約95%が脂質蓄積段階の間に達成される。本発明のいくつかの態様において、脂質蓄積段階は、微生物の全脂質生産の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%が脂質蓄積段階の間に達成されるよう、脂質を生産する。好ましくは、微生物の全脂質生産の約50%〜約95%が脂質蓄積段階の間に達成される。
【0077】
遺伝学的に修飾された微生物も、本発明のために適している。本発明の微生物は、(例えば、セルロースに基づく供給材料を主要な炭素源として使用する増強された能力を通して)低下したコストで生物油を生産する能力を増強するために遺伝学的に修飾されていてもよい。これらの遺伝学的に修飾された微生物には、セルロースもしくはセルロース性供給材料を糖化する増強された能力を有するよう、増加した油生産を有するよう、リグニンを分解するかもしくはリグニンに対して抵抗性である能力を有するよう、または(高温もしくは高度に酸性の培地のような)対応する野生型生物にとって最適でない培養条件において増殖するよう、遺伝学的に修飾された微生物が含まれるが、これらに限定はされない。例えば、微生物は、エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ、および/またはベータグルコシダーゼの活性を導入するかまたは増強するために遺伝学的に修飾されていてもよい。
【0078】
セルラーゼを生ずるために使用される生物に由来する遺伝子を、セルロースを糖化する能力を増強するため、微生物へ導入することができる。例えば、トリコデルマ属、クロストリジウム(Clostridium)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、サーモビフィダ(Thermobifida)属、アシドサーマス(Acidothermus)属、シゾキトリウム属、またはトラウストキトリウム属の生物に由来するセルラーゼの成分をコードする遺伝子を、セルロースを直接糖化することができる微生物を生産するため、組換え遺伝子技術を通して、本発明の微生物へ導入することができる。好ましくは、トリコデルマ・リーセイ種、クロストリジウム・サーモセラム(thermocellum)種、アシドサーマス・セルロリチクス(cellulolyticus)種、またはシゾキトリウム・アグレガツム(aggregatum)種に由来するセルラーゼ成分をコードする遺伝子が、本発明の微生物に導入され発現される。本発明のいくつかの態様において、ある生物に由来するセルラーゼが、異なる生物へクローニングされる。
【0079】
微生物のための遺伝学的形質転換技術は、当技術分野において周知であり、例えば、Sambrook et al.,1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Labs Pressに記述されている。クリプテコジニウム・コーニーに使用するために適応し得る、渦鞭毛藻類の形質転換のための一般的な技術は、Lohuis and Miller,The Plant Journal(1998)13(3):427-435に詳細に記載されている。トラウストキトリドの遺伝学的形質転換のための一般的な技術は、2003年9月4日公開の米国特許出願公開第20030166207号に詳細に記載されている。
【0080】
本発明のいくつかの態様において、生物油を生産するための微生物の発酵は、低い溶存酸素濃度の下で実施される。低い溶存酸素濃度で増殖し、油を生産する微生物の能力は、発酵へのエネルギー入力を低下させ、従って、発酵のコストも低下させるであろう。本発明のいくつかの態様において、微生物バイオマスの増殖(バイオマス蓄積段階)は、約4%〜約100%、約10%〜約100%、約10%〜約80%、約10%〜約70%、約10%〜約60%、約15%〜約50%、または約20%〜約40%の溶存酸素濃度で実施される。微生物による生物油の生産(脂質蓄積段階)は、例えば、0%〜約10%、0%〜約8%、約1%〜約5%、または約1%〜約3%の溶存酸素濃度で実施され得る。
【0081】
発酵槽の冷却に関連したエネルギーコストを低下させるため、本発明において使用される微生物は、好ましくは、広範囲の温度で温度耐性である。本発明のいくつかの態様において、微生物は、約15℃〜約45℃、約20℃〜約45℃、約25℃〜約45℃、約30℃〜約45℃、または約35℃〜約45℃の温度で増殖し、油を生産することができる。
【0082】
従来、微生物の発酵は、微生物のバイオマス増殖および/または脂質蓄積に干渉するかもしれない汚染物質を回避するため、滅菌環境で通常実施されている。滅菌条件下で発酵を実施することは、微生物からの生物油の生産のコストを増す。発酵のコストを最小化するため、本発明は、非滅菌発酵槽における発酵により生物油を生産するという予想外の解決策を提供する。微生物から油を生産するための非滅菌発酵槽の使用は、油生産のコストを著しく低下させ、脂質に基づくバイオ燃料の生産をより商業的に実行可能なものにするため、脂質に基づくバイオ燃料を目的とした油の生産のために特に適している。非滅菌発酵槽は、特定の適用のための要件に依って、高いまたは低い多価不飽和脂肪酸含有量を有する生物油を生産するために使用されてもよい。
【0083】
好ましくは、繊維補強重合体発酵槽、金属マトリクス複合材料発酵槽、セラミックマトリクス複合材料発酵槽、熱可塑性複合材料発酵槽、金属発酵槽、エポキシ被覆炭素鋼発酵槽、プラスチック被覆炭素鋼発酵槽、プラスチック発酵槽、ガラス繊維発酵槽、コンクリート発酵槽、および(ポリプロピレン(PP)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、カイナー(kynar)、およびナイロンのような)重合体から作成された発酵槽を含む、低コストの発酵槽が発酵において利用され得る。低コストの発酵槽は、上記の材料の組み合わせから作成されてもよい。低コストのタンク清掃も、発酵のコストをさらに低下させるため、本発明により利用され得る。低コストのタンク清掃には、発酵タンクを化学的にスクラブするためのメトキシドまたはエトキシドの使用が含まれるが、これらに限定はされない。
【0084】
本発明のいくつかの態様において、生物油は、非滅菌発酵槽において、約5 g/L/日〜約70g/L/日の速度で生産される。好ましくは、非滅菌発酵槽において生産される生物油の量は、少なくとも約5g/L/日、少なくとも約10g/L/日、少なくとも約20g/L/日、少なくとも約30g/L/日、少なくとも約40g/L/日、少なくとも約50g/L/日、少なくとも約60g/L/日、または少なくとも約70g/L/日である。本発明のいくつかの態様において、非滅菌発酵槽において生産される生物油の量は、約10 g/L/日〜約70g/L/日、約20 g/L/日〜約70g/L/日、または約30 g/L/日〜約70g/L/日である。
【0085】
非滅菌発酵槽における微生物の増殖は、好ましくは、少なくとも約10g/L、少なくとも約15g/L、少なくとも約20g/L、少なくとも約25g/L、少なくとも約30g/L、少なくとも約50g/L、少なくとも約75g/L、少なくとも約100g/L、少なくとも約125g/L、少なくとも約135g/L、少なくとも約140g/L、少なくとも約145g/L、少なくとも約150g/L、または少なくとも約200g/Lの高い細胞密度を達成する。本発明のいくつかの態様において、非滅菌発酵槽において発酵を受ける微生物は、約10g/L〜約300g/L、約15g/L〜約300g/L、約20g/L〜約300g/L、約25g/L〜約300g/L、約30g/L〜約300g/L、約50g/L〜約300g/L、約75g/L〜約300g/L、約100g/L〜約300g/L、約125g/L〜約300g/L、約130g/L〜約290g/L、約135g/L〜約280g/L、約140g/L〜約270g/L、約145g/L〜約260g/L、または約150g/L〜約250g/Lの細胞密度を達成することができる。
【0086】
本発明のいくつかの態様において、(pH、温度、溶存酸素濃度、イオン比率等のような)微生物の発酵条件の変化が、生物油の意図された使用に依って、得られる油の脂肪酸プロファイルを改変するために利用され得る。本発明の生物油の意図された使用によって、発酵条件は、例えば、微生物によるトリグリセリド型の脂質の生産を促進もしくは抑制するため、(特定の鎖長もしくは不飽和度の脂肪酸のような)特定の脂肪酸もしくは脂肪酸の混和物の微生物による生産を促進もしくは抑制するため、油の単位容量当たりの高いもしくは低いエネルギーレベルを提供する油の生産を促進もしくは抑制するため、または微生物により生産される油の中のある種の副産物の蓄積を促進もしくは抑制するため、調整され得る。脂質に基づくバイオ燃料を目的とした本発明の生物油の異なる使用には、暖房用油、輸送バイオディーゼル、ジェット燃料、および燃料添加剤としての使用が含まれるが、これらに限定はされない。本発明のいくつかの態様において、超低容量の、極めて高い値の、専門的な燃料または滑沢剤の生産を容易にするため、重水素が発酵培地において利用され得る。本発明のいくつかの態様において、脂質に基づくバイオ燃料への生物油の変換は、(プラスチック成分のような)石油蒸留物に類似している専門的な化学的化合物を生産することができる、または生産するために使用され得る、当技術分野において公知の化学的プロセスおよび精錬技術を含む。これらの専門化学物質の販売からの利益も、脂質に基づくバイオ燃料の生産のコストを償うことができる。生物油のその他の様々な使用が、本発明の範囲内で企図される。例えば、本発明の生物油は、適当な食品、栄養的生成物、または薬学的生成物において使用され得る。
【0087】
本発明は、冷却用水のような液体に浸した発酵タンクにおいて微生物を発酵させる方法も提供する。本発明のいくつかの態様において、発酵設備はエネルギー使用を最小化するために連続して設定され得る。例えば、一連の発酵槽からの冷却流出液および拡散排気が、それぞれ、連続する次の、または上流にある発酵槽のための冷却水および気体の供給(または部分的供給)として使用され得る。発酵系は、湖、池、または海のような天然の水界から冷却水が来るよう設定されてもよい。発酵系は、第一の発酵槽または連続する発酵槽セットからの冷却水流出が、第二の発酵槽または連続する発酵槽セットのための冷却水供給として使用され得るよう、発酵槽のための冷却系が連続して接続されるよう設計され得る。同様に、発酵系は、第一の発酵槽または連続する発酵槽セットからの拡散排気が、第二の発酵槽または連続する発酵槽セットのための気体供給として使用され得るよう、発酵槽への気体供給が連続して接続されるように、設計され得る。第一の発酵槽または発酵槽セットは、連続する中で、第二の発酵槽または発酵槽セットより前にあってもよいし、または後にあってもよい。本発明の発酵は、好ましくは、回分モード、流加モード、半連続モード、または連続モードで実施される。
【0088】
本発明のいくつかの態様において、トリグリセリドを含む生物油は、(より詳細に後述される)粗製油であってもよいが、本発明において有用であるようなその他の油が、当業者に公知の任意の適当な手段によって起源から回収されてもよい。例えば、クロロホルム、ヘキサン、塩化メチレン、メタノール等のような溶媒による抽出、超臨界流体抽出、または無溶媒抽出法により、油は回収され得る。本発明のいくつかの態様において、生物油は、ヘキサンによる抽出により回収される。または、油は、いずれも参照により完全に本明細書に組み入れられる、いずれも2001年1月19日出願の「Solventless Extraction Process」という名称の米国特許第6,750,048号およびPCT特許出願US01/01806に記載されたような抽出技術を使用して抽出され得る。付加的な抽出および/または精製の技術は、全て参照により完全に本明細書に組み入れられる、2001年4月12日出願の「Method for the Fractionation of Oil and Polar Lipid-Containing Native Raw Materials」という名称のPCT特許出願PCT/IB01/00841;2001年4月12日出願の「Method for the Fractionation of Oil and Polar Lipid-Containing Native Raw Materials Using Water-Soluble Organic Solvent and Centrifugation」という名称のPCT特許出願PCT/IB01/00963;2001年5月14日出願の「Production and Use of a Polar Lipid-Rich Fraction Containing Stearidonic Acid and Gamma Linolenic Acid from Plant Seeds and Microbes」という名称の米国仮特許出願60/291,484;2001年5月14日出願の「Production and Use of a Polar-Lipid Fraction Containing Omega-3 and/or Omega-6 Highly Unsaturated Fatty Acids from Microbes, Genetically Modified Plant Seeds and Marine Organisms」という名称の米国仮特許出願60/290,899;2000年2月17日出願、2002年6月4日発行の「Process for Separating a Triglyceride Comprising a Docosahexaenoic Acid Residue from a Mixture of Triglycerides」という名称の米国特許第6,399,803号;および2001年1月11日出願の「Process for Making an Enriched Mixture of Polyunsaturated Fatty Acid Esters」という名称のPCT特許出願US01/01010に教示されている。濃縮油材料の試料を生産するため、抽出された油を減圧下で蒸発させてもよい。脂質の回収のためのバイオマスの酵素処理のプロセスは、2002年5月3日出願の「HIGH-QUALITY LIPIDS AND METHODS FOR PRODUCING BY ENZYMATIC LIBERATION FROM BIOMASS」という名称の米国仮特許出願60/377,550;2003年5月5日出願の「HIGH-QUALITY LIPIDS AND METHODS FOR PRODUCING BY ENZYMATIC LIBERATION FROM BIOMASS」という名称のPCT特許出願PCT/US03/14177;2004年10月22日出願の「HIGH-QUALITY LIPIDS AND METHODS FOR PRODUCING BY LIBERATION FROM BIOMASS」という名称の米国特許出願10/971,723;いずれも「Process for extracting native products which are not water-soluble from native substance mixtures by centrifugal force」という名称のEP特許公開0 776 356および米国特許第5,928,696号に開示されており、これらの開示は参照により完全に本明細書に組み入れられる。油は圧搾により抽出されてもよい。
【0089】
いくつかの態様において、上記の起源から入手された油は、従来の加工に供されていない場合ですら、本発明の方法による(エステル交換反応またはクラッキングのような)さらなる修飾のための出発材料として機能することができる。回避され得るそのような従来のプロセスの例には、精錬(例えば、物理的精錬、シリカ精錬、または腐食精錬)、脱溶媒、脱臭、脱ロウ、冷却濾過、および/または漂白が含まれる。従って、ある種の態様において、トリグリセリドを含有している油は、精錬、脱溶媒、脱臭、脱ロウ、冷却濾過、および漂白より選択される一つまたは複数の処理に供されておらず、さらなる態様において、油は、精製、脱溶媒、脱臭、脱ロウ、冷却濾過、および漂白のいずれにも供されていない。
【0090】
いくつかの態様において、粗製油は、さらなる精錬または精製に供されることなく、標準的な技術を使用して微生物から単離され得る。例えば、油は、ヘキサン抽出、イソプロパノール抽出等のような溶媒抽出にのみ供された微生物油であり得る。本発明のいくつかの態様において、粗製油は、さらなる精錬または精製に供されることなく、(ホモジナイザーの使用または圧搾のような)物理的および/または機械的な抽出法を使用して、微生物から単離され得る。
【0091】
その他の態様において、上記の油のような多価不飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドを含む組成物は、精錬、脱溶媒、脱臭、脱ロウ、冷却濾過、および/または漂白のようなさらなる加工工程に供されてもよい。そのような「加工された」油には、溶媒抽出およびこれらの付加的な加工工程のうちの一つまたは複数に供された微生物油が含まれる。いくつかの態様において、油は最小限に加工される。「最小限に加工された」油には、溶媒抽出および濾過に供された微生物油が含まれる。ある種の態様において、最小限に加工された油は、さらに脱ロウに供されている。
【0092】
本発明のいくつかの態様において、FRIOLEX(登録商標)(Westfalia Separator Industry GmbH,Germany)プロセスに類似している方法が、微生物により生産された生物油を抽出するために使用される。FRIOLEX(登録商標)は、油を含有している原料が、従来の溶媒抽出法を使用することなく、油を抽出するために直接使用され得る、水に基づく物理的油抽出プロセスである。このプロセスにおいては、水溶性有機溶媒が、プロセスの補助剤として使用され得、油は重力または遠心力を使用した密度分離により原料ブロスから分離される。特許出願公開WO 01/76715およびWO 01/76385がそのような抽出法を開示しており、これらの内容は参照により完全に本明細書に組み入れられる。
【0093】
油が抽出された後、当技術分野において公知の任意の適当な手段により、油が非脂質成分から回収または分離され得る。本発明の好ましい態様において、低コストの物理的および/または機械的な技術が、非脂質組成物から、脂質を含有している組成物を分離するために使用される。例えば、油を抽出するために使用される抽出法により複数の相または画分が作出され、一つまたは複数の相または画分が脂質を含有している場合には、脂質を含有している相または画分を回収する方法は、脂質を含有している相もしくは画分を非脂質相もしくは画分から物理的に除去すること、またはその逆を含むことができる。本発明のいくつかの態様において、FRIOLEX(登録商標)型の方法が、微生物により生産された脂質を抽出するために使用され、次いで、(密度分離の後、タンパク質に富む重い相の上にある、脂質に富む相を除去すること等により)脂質に富む軽い相が、タンパク質に富む重い相から物理的に分離される。
【0094】
ある種のpH、ある種の温度、酵素の存在、界面活性剤の存在、物理的破壊、またはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定はされない条件に微生物を曝すことにより、微生物の自己溶解または誘導された溶解から、本発明の微生物により生産された生物油が回収され得る。本発明のいくつかの態様において、微生物は、乾燥バイオマスの約30重量%〜約90重量%、乾燥バイオマスの約40重量%〜約90重量%、乾燥バイオマスの約50重量%〜約90重量%、乾燥バイオマスの約60重量%〜約90重量%、乾燥バイオマスの約65重量%〜約85重量%、乾燥バイオマスの約70重量%〜約85重量%、または乾燥バイオマスの約75重量%〜約80重量%の量の油を生産した後、自己溶解または誘導された溶解を促進するそのような条件に曝される。本発明のさらなる態様において、微生物は、乾燥バイオマスの少なくとも約30重量%、少なくとも約40重量%、少なくとも約50重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約70重量%、または少なくとも約75重量%の量の油を生産した後、自己溶解または誘導された溶解を促進するそのような条件に曝される。本発明のいくつかの態様において、微生物の溶解または自己溶解は、機械的な力の使用により実施される。本発明のさらなる態様において、微生物の溶解または自己溶解の後、脂質の非脂質組成物からの機械的な分離が行われる。
【0095】
油生産微生物の溶解を誘導するために使用され得る適当な酵素には、プロテイナーゼKまたはアルカラーゼ(Alcalase)のような市販の酵素または酵素混合物が含まれるが、これらに限定はされない。他の微生物の溶解を誘導するか、または自己溶解を誘導する酵素の活性を導入するための微生物の遺伝学的修飾が、本発明の範囲内で企図される。本発明のいくつかの態様において、油生産微生物は、イオン性(陽イオン性もしくは陰イオン性)界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、またはそれらの組み合わせのような界面活性剤の存在下で誘導された溶解を受ける。本発明のさらなる態様において、機械的な粉砕、液体ホモジナイゼーション、超音波処理における高周波数波の使用、凍結/解凍サイクル法、圧搾、押し出し、または摩砕のような物理的な破壊法が、油生産微生物の溶解を誘導するために使用され得る。好ましくは、油の抽出は、油生産微生物のタンク内溶解により発酵の終了時に発酵槽内で行われるであろう。
【0096】
生物油が本発明により生産された後は、バイオディーゼル、バイオジェット燃料、または食品もしくは薬学的生成物のための要素として使用するための脂肪酸のエステルへと生物油を変換するため、当技術分野において公知の様々な方法が使用され得る。本発明のいくつかの態様において、脂肪酸のエステルの生産は、微生物により生産された生物油のエステル交換を含む。本発明のいくつかの態様において、微生物からの油の抽出および油のエステル交換は、一工程の方法で、同時に実施され得る。例えば、油生産微生物を含有している培養物を、油の抽出および油のエステル交換の両方を促進する条件もしくは処理(または条件もしくは処理の組み合わせ)に曝すことができる。そのような条件または処理には、pH、温度、圧力、溶媒の存在、水の存在、触媒または酵素の存在、界面活性剤の存在、および物理的/機械的な力が含まれ得るが、これらに限定はされない。二つの条件または処理のセットが、油の抽出またはエステル交換のいずれかの効率の有意な低下を引き起こさずに組み合わせられ得るのであれば、油を抽出しエステル交換する一工程の方法を作製するため、二つの条件または処理のセットを組み合わせてもよく、ここで一方の条件または処理のセットは、油の抽出を有利に促進し、他方の条件または処理のセットは、油のエステル交換を有利に促進する。本発明のいくつかの態様において、完全細胞バイオマスの加水分解およびエステル交換が、直接、実施されてもよい。本発明のその他の態様において、油の抽出は、油のエステル交換の工程とは別の工程として実施される。
【0097】
好ましくは、そのようなエステル交換反応は、酸または塩基触媒を使用して実施される。本発明のいくつかの態様において、バイオディーゼルとして、または食品もしくは薬学的生成物のための要素として使用するための脂肪酸のエステルへ、生物油をエステル交換する方法は、トリグリセリドからの脂肪酸残基のエステルを生成させるため、アルコールおよび塩基の存在下で、トリグリセリドを含有している生物油を反応させることを含む。
【0098】
本発明において使用するために適しているアルコールには、1〜6個の炭素原子を含有している低級アルキルアルコール(即ち、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、およびそれらの異性体のようなC1-6アルキルアルコール)が含まれる。理論によって拘束はされないが、本発明のいくつかの態様において、本発明の方法における低級アルキルアルコールの使用は、脂肪酸残基の低級アルキルエステルを生成させると考えられる。例えば、エタノールの使用はエチルエステルを生成させる。ある種の態様において、アルコールはメタノールまたはエタノールである。これらの態様において、生成する脂肪酸エステルは、それぞれ、脂肪酸残基のメチルエステルおよびエチルエステルである。本発明のプロセスにおいて、アルコールは、典型的には、油組成物、アルコール、および塩基の混合物の約5重量%〜約70重量%、約5重量%〜約60重量%、約5重量%〜約50重量%、約7重量%〜約40重量%、約9重量%〜約30重量%、または約10重量%〜約25重量%を構成する。ある種の態様において、組成物および塩基は、純粋なエタノールまたは純粋なメタノールのいずれかに添加され得る。一般に、使用されるアルコールの量は、トリグリセリドを含有している油または組成物の、アルコールへの溶解度によって変動し得る。
【0099】
反応体として使用するのに適していることが当技術分野において公知の任意の塩基が、本発明において使用され得る。式RO-Mの塩基は、本発明のために特に好適であり、式中、Mは一価陽イオンであり、かつROはC1-6アルキルアルコールのアルコキシドである。適当な塩基の例には、元素ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、およびカリウムエトキシドが含まれる。いくつかの態様において、塩基はナトリウムエトキシドである。本発明のプロセスにおいて、塩基は、典型的には、トリグリセリドの約0.05〜約2.0モル当量、トリグリセリドの約0.05〜約1.5モル当量、トリグリセリドの約0.1〜約1.4モル当量、トリグリセリドの約0.2〜約1.3モル当量、またはトリグリセリドの約0.25〜約1.2モル当量の量で、組成物およびアルコールを含む反応工程へ添加される。
【0100】
トリグリセリドを含む組成物、アルコール、および塩基は、脂肪酸残基およびアルコールからのエステルの生成を可能にする温度および時間で一緒に反応させられる。エステルを生成させるための適当な反応時間および温度は、当業者により決定され得る。理論によって拘束されるものではないが、反応工程の間、脂肪酸残基がトリグリセリドのグリセロール骨格から切断され、各脂肪酸残基のエステルが形成されると考えられる。ある種の態様において、アルコールおよび塩基の存在下で組成物を反応させる工程は、約20℃〜約140℃、約20℃〜約120℃、約20℃〜約110℃、約20℃〜約100℃、または約20℃〜約90℃の温度で実施される。さらなる態様において、アルコールおよび塩基の存在下で組成物を反応させる工程は、少なくとも約20℃、75℃、80℃、85℃、90℃、95℃、105℃、または120℃の温度で実施される。本発明のいくつかの態様において、アルコールおよび塩基の存在下で組成物を反応させる工程は、約20℃、75℃、80℃、85℃、90℃、95℃、105℃、または120℃の温度で実施される。いくつかの態様において、アルコールおよび塩基の存在下で組成物を反応させる工程は、約2時間〜約36時間、約3時間〜約36時間、約4時間〜約36時間、約5時間〜約36時間、または約6時間〜約36時間、実施される。ある種の態様において、アルコールおよび塩基の存在下で組成物を反応させる工程は、約0.25、0.5、1.0、2.0、4.0、5.0、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、10、12、16、20、24、28、32、または36時間、実施される。
【0101】
一つの態様において、油組成物、アルコール、および塩基を反応させる工程は、PUFAエステルのような脂肪酸エステルを生成させるため、成分を還流することにより実施され得る。さらなる態様において、油組成物を反応させる工程は、反応成分の還流をもたらさない温度で実施されてもよい。例えば、大気圧より大きな圧力の下で油組成物を反応させる工程の実施は、反応混合物中に存在する溶媒の沸点を増加させるかもしれない。そのような条件の下では、大気圧では溶媒が沸騰するであろう温度で、反応が起こり得、反応成分の還流は生じないであろう。いくつかの態様において、反応は、1平方インチ当たり約5〜約20ポンド(psi);約7〜約15psi;または約9〜約12psiの圧力で実行される。ある種の態様において、反応は、7、8、9、10、11、または12psiの圧力で実行される。圧力下で実行される反応は、上述の反応温度で実施され得る。いくつかの態様において、圧力下で実行される反応は、少なくとも約70℃、75℃、80℃、85℃、または90℃で実施され得る。いくつかの態様において、圧力下で実行される反応は、70℃、75℃、80℃、85℃、または90℃で実施され得る。
【0102】
脂肪酸エステルを含む反応混合物は、混合物から脂肪酸エステルを入手するため、さらに加工されてもよい。例えば、脂肪酸エステルを含む組成物を生産するため、混合物を冷却し、水で希釈し、水性溶液をヘキサンのような溶媒により抽出することができる。粗反応混合物の洗浄および/または抽出のための技術は、当技術分野において公知である。
【0103】
本発明のいくつかの態様において、低レベルのPUFAを生産する微生物は、生物油、特にバイオディーゼル生産において使用するための生物油を生産するために使用される。この方法は、バイオディーゼル生産のコストを低下させ得る。本発明のいくつかの態様において、生物油の中の不飽和脂肪酸の約50%未満がPUFAである。ある種のバイオ燃料適用のため、生物油の中の不飽和脂肪酸は、好ましくは、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約10%未満、または約5%未満のPUFAを含有している。本発明のいくつかの態様において、生物油は、約50重量%未満、約40重量%未満、約30重量%未満、約20重量%未満、約10重量%未満、または約5重量%未満のPUFAを含む。
【0104】
バイオディーゼル生成物の生産の全体コストを低下させるため、より有益なPUFAエステルを蒸留によって回収して高効力PUFAエステルを得、次いで、それを販売することができる。
【0105】
修飾された脂質生産系の例は、特許出願公開WO 06/031699、US 2006/0053515、US 2006/0107348、およびWO 06/039449に開示されており、これらの内容は、参照により完全に本明細書に組み入れられる。
【0106】
本発明の一つの態様において、脂肪酸のエステルを含む画分を回収するため、組成物を蒸留することにより、脂肪酸エステルが反応混合物から分離される。このようにして、関心対象の脂肪酸エステルを含む反応混合物の標的画分が、反応混合物から分離され回収され得る。
【0107】
ある種の態様において、蒸留は減圧下で実施される。理論によって拘束はされないが、減圧下での蒸留は、減圧の非存在下よりも低い温度で蒸留が達成されることを可能にし、従って、エステルの分解を防止することができる。典型的な蒸留温度は約120℃〜約170℃の範囲である。いくつかの態様において、蒸留の工程は、約180℃未満、約175℃未満、約170℃未満、約165℃未満、約160℃未満、約155℃未満、約150℃未満、約145℃未満、約140℃未満、約135℃未満、または約130℃未満の温度で実施される。減圧蒸留のための典型的な圧力は、約0.1 mmHg〜約10mmHgの範囲である。いくつかの態様において、減圧蒸留のための圧力は、少なくとも約0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、または4mmHgである。本発明のいくつかの態様において、減圧蒸留のための圧力は、約0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、または4mmHgである。
【0108】
本発明のいくつかの態様において、生物油のエステル交換を通して生成した脂肪酸エステルは、さらに尿素付加(urea adduction)を通して単離される。脂肪酸エステルおよび溶解した尿素を含む媒体が形成されるよう、脂肪酸エステルを含む媒体に尿素を溶解させることができる。次いで、この媒体を、尿素および飽和脂肪酸エステルの少なくとも一部を含む沈殿物と、多価不飽和脂肪酸エステルの少なくとも大部分を含む液体画分とが形成されるよう、冷却または濃縮することができる。次いで、飽和脂肪酸エステルまたは多価不飽和脂肪酸エステルを単離するため、沈殿物および液体画分を分離することができる。本発明のいくつかの態様において、脂肪酸エステルおよび溶解した尿素を含む媒体は、約20℃〜約-50℃、約10℃〜約-40℃、または約0℃〜約-30℃の温度に冷却される。米国特許第6,395,778号は、エステル交換の後の尿素付加の方法を開示しており、この内容は参照により完全に本明細書に組み入れられる。
【0109】
上記のエステル交換法に加えて、本発明の生物油の粘性率を低下させるその他の技術を、脂質に基づくバイオ燃料を生産する本発明の方法に組み入れることもできる。これらの技術には、リパーゼの使用、超臨界メタノール触媒作用、および宿主においてリパーゼを細胞質内に過剰発現させた後、細胞質におけるトリグリセリドのエステル交換の触媒作用を可能にするため宿主細胞を透過処理することを含む完全細胞系の使用が含まれるが、これらに限定はされない。特許または特許出願公開US 7226771、US 2004/0005604、WO 03/089620、WO 05/086900、US 2005/0108789、WO 05/032496、WO 05/108533、US 6982155、WO 06/009676、WO 06/133698、WO 06/037334、WO 07/076163、WO 07/056786、およびWO 06/124818は、脂質をバイオディーゼルに変換するためのプロセスの例を開示しており、これらの内容は参照により完全に本明細書に組み入れられる。
【0110】
トラウストキトリド一般、特に、シゾキトリウムは、細胞脂質の中に、ある程度の量の多価不飽和脂肪酸(PUFA)を蓄積するという点で、多くの海洋および河口の微細藻類および原生生物に類似している。低いPUFAレベルは、燃料のゲル化点を低下させ、燃料を寒冷気候により適したものするはずであるため、有用であるかもしれない。(部分的に酸化された燃料を排気中に通す)非効率的なエンジンにおけるPUFA含有バイオディーゼルの燃焼から発生する臭気に関する可能性のある消費者苦情は、この問題を最小化するため、1〜99%の比率で化石ディーゼルに微細藻類バイオディーゼル燃料を混和することができるという事実によりある程度相殺されるかもしれない。100%微細藻類油に由来するバイオディーゼルが大きな消費者問題なしに燃焼され得ることを保証するためは、マーガリンの製造においてルーチンであるような部分的または完全な油の水素化が使用され得る。本発明のいくつかの態様において、(製油業において公知のクラッキング法のような)クラッキング技術が、脂肪酸鎖長を低下させるために使用され得る。生物油が本発明の方法により生産された後、所望の脂質に基づくバイオ燃料を生産するため、生物油のクラッキングが実施され得る。バイオジェット燃料のような、多様な比較的短い炭化水素が必要とされるある種の脂質に基づくバイオ燃料のためには、様々な炭化水素を生成させるため複数の部位においてPUFAの切断が起こるよう、高いPUFAレベルが有用であるかもしれない。
【0111】
本発明の脂質に基づくバイオ燃料組成物は、低コストで生産され、石油ディーゼルまたはジェット燃料のための効率的な交換物である。本発明のいくつかの態様において、脂質に基づくバイオ燃料組成物は、20個以上の炭素を有する長鎖PUFAのアルキルエステルを、約1重量%〜約75重量%含む。本発明のさらなる態様において、バイオディーゼル組成物は、20個以上の炭素を有する長鎖PUFAのアルキルエステルを、約2重量%〜約50重量%、約4重量%〜約25重量%、または約5重量%〜約10重量%含む。
【0112】
本発明のいくつかの態様において、脂質に基づくバイオ燃料組成物(石油ディーゼルまたはジェット燃料と混和されていない100%脂質に基づくバイオ燃料)は、約30℃〜約-60℃、約30℃〜約-50℃、約25℃〜約-50℃、約20℃〜約-30℃、約20℃〜約-20℃、約20℃〜約-10℃、約10℃〜約-10℃、または約0℃〜約-10℃の融解温度を有する。本発明のさらなる態様において、バイオディーゼル組成物は、1リットル当たり約30〜約45メガジュール、1リットル当たり約35〜約40メガジュール、または1リットル当たり約38〜約40メガジュールを放出する。バイオディーゼルの様々な型が、例えば、特許または特許出願公開WO 07/061903、US 7172635、EP 1 227 143、WO 02/38709、WO 02/38707、およびUS 2007/0113467に開示されており、これらの内容は参照により完全に本明細書に組み入れられる。
【0113】
本発明は、(セルロース性エタノール設備のような)エタノール生産設備と共同設置された、大規模化可能な脂質に基づくバイオ燃料の製造設備を提供する。(エタノールのような)脂質に基づかない燃料の生産と関連した藻類系の例は、特許または特許出願公開US 7135308 およびWO 02/05932に開示されており、これらの内容は、参照により完全に本明細書に組み入れられる。
【0114】
本発明のいくつかの態様において、セルロース性エタノールの場合でも、セルロース性脂質に基づくバイオ燃料の発酵の場合でも、供給材料の処理は類似しているかまたは同一であろう。例えば、セルロース性バイオディーゼル発酵の後、油は、バイオディーゼルを作成するため、(同時にまたは連続的に)抽出されエステル交換され得る。エステル交換反応において使用されるアルコールは、(セルロース性エタノール生産プロセスのような)エタノール生産プロセスに由来してもよく、バイオディーゼルエステル交換からの残余のグリセロールが、エタノール発酵プロセスのため(または、シゾキトリウムのような生物は容易にグリセロールを代謝するため、バイオディーゼルプロセス自体のため)補足的な炭素源として使用されてもよい。本発明の好ましい態様において、本発明において使用される微生物は、グリセロールを炭素源として使用することができる。(酵母バイオマスのような)窒素廃棄物も、バイオディーゼル発酵において窒素源として機能し得る(大部分のトラウストキトリドは、酵母抽出物を窒素源として利用することができる)。脱脂微生物バイオマスのような廃棄物は、その後の発酵において使用するため再利用されてもよいし、熱もしくは電気のために燃焼されてもよいし、またはセルロース性供給材料を提供する作物のための肥料として使用されてもよい。得られたバイオディーゼルまたは廃棄ガスは、バイオディーゼルまたはエタノールの生産設備の燃料として使用され得、それらをエネルギー非依存性にすることができる。さらに、設備内のポンプが、回収された排気により駆動されてもよい。
【0115】
本発明のいくつかの態様において、脂質に基づくバイオ燃料を生産する方法は、生物油を生産するため、再利用媒体を含む栄養素を使用して微生物を増殖させることを含む。再利用媒体には、全て、以前の発酵運転またはその他のプロセスから再利用されたものである、脱脂バイオマス、加水分解バイオマス、部分加水分解バイオマス、金属、塩、アミノ酸、細胞外炭水化物、グリセロール、再利用酵母バイオマス、またはそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定はされない。例えば、残余の酵母バイオマスおよび加水分解されたストラメノパイル脱脂バイオマス廃棄物は、図1に示されるように、水蒸気前処理、アンモニア繊維爆発、分離の工程、または酵素加水分解、分離、および蒸発の工程へと再利用され得る。部分加水分解バイオマスは、さらなる加水分解のため、これらの工程へ媒体と共に戻し再利用され得る。再利用媒体の使用は、特定の適用の要件に依って、高いまたは低い多価不飽和脂肪酸含有量を有する生物油の生産のために利用され得る。
【0116】
本発明のセルロースに基づく(低コスト炭素)技術は、遺伝学的に修飾された微生物を含む(トラウストキトリドのような)ストラメノパイル界の酵母または微生物の発酵により生産され得る任意の化合物の生産のコストを低下させるために使用され得る。本発明の方法を使用して生産され得る化合物の例には、PUFA、PUFAエステル、タンパク質(酵素および治療用タンパク質を含む)、オキシリピン、カロテノイド、ならびに脂質が含まれるが、これらに限定はされない。
【0117】
いくつかの態様において、本発明の方法は、高い割合のPUFAまたはPUFAエステルを含有している組成物を生産するために使用され得る。例えば、そのような組成物は、約50重量%〜約100重量%のPUFAまたはPUFAエステルを含有しているかもしれず、その他の態様において、組成物は、少なくとも約50重量%、少なくとも約55重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約65重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約75重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約85重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、少なくとも約99重量%のPUFAまたはPUFAエステルを含むことができる。
【0118】
本発明のPUFAまたはPUFAエステルを含む組成物は、薬学的生成物において使用されてもよい。いくつかの態様において、薬学的生成物は、付加的な薬学的活性を有する薬剤なしにPUFAまたはPUFAエステルを含有していてもよい。その他の態様において、薬学的生成物は、薬学的活性を有する薬剤を含んでいてもよい。薬学的活性を有する薬剤の例には、スタチン、抗高血圧剤、抗糖尿病剤、抗痴呆剤、抗うつ薬、抗肥満剤、食欲抑制薬、ならびに記憶および/または認知機能を増強するための薬剤が含まれる。薬学的生成物は、当技術分野において公知の任意の薬学的に許容される賦形剤、担体、結合剤、またはその他の製剤成分をさらに含んでいてもよい。
【0119】
本発明の方法により生産されたPUFAまたはPUFAエステルは、治療的および実験的な薬剤として使用するのに適している。本発明の態様は、PUFA欠損乳児の処置のためのPUFAまたはPUFAエステルの生産を含む。PUFAまたはPUFAエステルは、乳児のPUFA供給を強化するため、非経口経路を通して乳児に投与され得る非経口製剤に含まれ得る。好ましい非経口経路には、皮下経路、皮内経路、静脈内経路、筋肉内経路、および腹腔内経路が含まれるが、これらに限定はされない。非経口製剤は、本発明のPUFAまたはPUFAエステルと、非経口送達のために適している担体とを含むことができる。本明細書において使用されるように、「担体」とは、適当なインビボの作用部位に分子または組成物を送達するための媒体として適当な任意の物質をさす。そのような担体の例には、水、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、血清含有溶液、ハンクス液、およびその他の水性の生理学的に平衡な溶液が含まれるが、これらに限定はされない。適当な担体には、油に基づく担体、非水性溶液、懸濁物、および乳剤も含まれ得る。例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、オレイン酸エチルのような注射可能な有機エステル、ポリエトキシル化ヒマシ油(クレマフォール(cremaphor))、および当技術分野において公知のその他のものが含まれる。有効な様式でPUFAまたはPUFAエステルを投与するための許容されるプロトコルには、個々の用量サイズ、用量の数、用量投与の頻度、および投与のモードが含まれる。そのようなプロトコルの決定は、乳児の体重およびPUFA欠損の程度を含む多様な変数に依って、当業者によって達成され得る。本発明のもう一つの態様は、成人、特に妊婦の処置のためのPUFAまたはPUFAエステルの生産を含む。PUFAまたはPUFAエステルの成人への投与のための許容されるプロトコルには、非経口供給技術、または経口投与用のゼラチン(即ち、摂取可能)カプセルのようなカプセル、および/もしくは流動食製剤への本発明のPUFAもしくはPUFAエステルの封入が含まれる。流動食製剤は、食事を補足するために適している栄養素または完全な食事として十分な栄養素を含有している液体組成物を含むことができる。
【0120】
本発明の方法により生産されたPUFAまたはPUFAエステルは、高トリグリセリド血症を有する対象を含む高いトリグリセリドレベルを有する対象(例えば、ヒトまたは動物)を処置するためにも使用され得る。例えば、500mg/dL以上のトリグリセリドレベルを有する対象は、本発明のPUFAまたはPUFAエステルによる処置から利益を得るかもしれない。いくつかの態様において、個々のPUFAまたはPUFAエステルが、高いトリグリセリドレベルを処置するため、対象に投与され得る。ある種の態様において、PUFAまたはPUFAエステルは、DHAまたはARAであり得る。その他の態様において、PUFAまたはPUFAエステルの組み合わせが、高いトリグリセリドレベルを処置するため、対象に投与され得る。ある種の態様において、PUFAまたはPUFAエステルの組み合わせは、DHAおよびDPA n-6のようなオメガ-3およびオメガ-6 PUFAを含み得る。いくつかの態様において、PUFAまたはPUFAエステルは、対象に投与される組成物の約90%を構成し得る。PUFAまたはPUFAエステルは、上記の担体のような、その他の成分および賦形剤と共に投与され得る。PUFAまたはPUFAエステルは、高いトリグリセリドレベルに関連しているかもしれない心血管疾患または高血圧のような疾患を有する対象を処置するためにも使用され得る。
【0121】
本発明の方法により生産されたPUFAエステルは、PUFA塩を生産するために使用されてもよい。いくつかの態様において、PUFA塩は、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化カリウム)のようなアルカリ金属塩基の存在下で本発明のPUFAエステルを反応させることにより生産され得る。本発明のPUFAエステルから形成されたPUFA塩は、食物、飲料、および医薬のような多様な適用において使用され得る。いくつかの態様において、本発明のPUFAエステルを使用して生産されたPUFA塩は、水溶性であり、食物、飲料、および医薬において直接使用され得る。
【0122】
本発明の方法により生産されたPUFAまたはPUFAエステルは、増強された濃度のPUFAを有する食品を作出するため、動物の食材、特に、ヒトのための食材において使用され得る。食品中に天然にある脂肪酸の量は、食品によって異なる。本発明の食品は、正常な量のPUFAまたは修飾された量のPUFAを有することができる。前者の場合には、天然に存在する脂質の一部が、本発明のPUFAまたはPUFAエステルにより置換され得る。後者の場合には、天然に存在する脂質が、本発明のPUFAまたはPUFAエステルにより補足され得る。
【0123】
PUFAまたはPUFAエステルは、調製粉乳およびベビーフードのような乳児用の食物に添加されてもよい。本発明によると、乳児とは、約2歳未満の乳児および幼児をさし、特に、未熟児を含む。ある種のPUFAは、乳児の急速な成長(即ち、生後1年間での体重の倍化または3倍化)のため、調製粉乳およびベビーフードの特に重要な成分である。調製粉乳を補足するPUFAまたはPUFAエステルの有効量は、ヒトの母乳中のPUFAの濃度に近い量である。調製粉乳またはベビーフードに添加するべきPUFAまたはPUFAエステルの好ましい量は、全脂肪酸の約0.1〜約1.0%、より好ましくは全脂肪酸の約0.1〜約0.6%の範囲であり、さらに好ましくは全脂肪酸の約0.4%である。
【0124】
本発明のもう一つの局面は、本発明のPUFAまたはPUFAエステルと組み合わせられた食材を含む食品を含む。増強された濃度のPUFAを有する食品を作出するため、PUFAまたはPUFAエステルが食材に添加され得る。本明細書において使用されるように、「食材」という用語は、ヒトまたは非ヒト動物に供給される任意の食物の型をさす。本発明の方法により生産されたPUFAまたはPUFAエステルを食材に添加することを含む、食品を作成する方法も、本発明の範囲内である。
【0125】
本発明の食品の形成のために有用な適当な食材には、動物のための食物が含まれる。「動物」という用語は、動物界(Animalia)に属している任意の生物を意味し、非限定的に、霊長類(例えば、ヒトおよびサル)、家畜、ならびに家庭用ペットを含む。「食品」という用語には、そのような動物に供給される任意の生成物が含まれる。ヒトにより消費される好ましい食材には、調製粉乳およびベビーフードが含まれる。家庭用ペットにより消費される好ましい食材には、ドッグフードが含まれる。
【0126】
本発明の方法により生産されたPUFAまたはPUFAエステルは、様々な生産段階の、焼成物、ビタミンサプリメント、栄養補助食品、粉末飲料等のような広範囲の生成物に添加され得る。多数の完成したまたは半完成した粉末食品が、本発明の組成物を使用して生産され得る。
【0127】
本発明の生成物を含む食品の部分的なリストには、生地、ケーキ種、例えば、ケーキ、チーズケーキ、パイ、カップケーキ、クッキー、バー、パン、ロールケーキ、ビスケット、マフィン、ペストリー、スコーン、およびクルトンのような品を含む焼成食品;液体食品、例えば、飲料、栄養飲料、調製粉乳、液体食、果汁、マルチビタミンシロップ、食事代替物、医用食物、およびシロップ;ベビーフード、ヨーグルト、チーズ、シリアル、パンケーキミックスのような半固体食品;エネルギーバーを含むフードバー;加工肉;アイスクリーム;フローズンデザート;フローズンヨーグルト;ワッフルミックス;サラダドレッシング;ならびに代替卵(replacement egg)ミックスが含まれる。クッキー、クラッカー、スイーツ、スナックケーキ、パイ、グラノーラ/スナックバー、およびトースターペストリーのような焼成品;ポテトチップス、コーンチップス、トルティーヤチップス、成形スナック、ポップコーン、プレッツェル、ポテトクリスプス、およびナッツのような塩味スナック;ディップ、ドライフルーツスナック、ミートスナック、ポークリンヅ、ヘルスフードバー、およびライス/コーンケーキのような特製スナック;ならびにキャンディーのような糖菓スナックも含まれる。
【0128】
本発明のもう一つの生成物態様は、医用食物である。医用食物には、医師の監督下で消費または外用投与される製剤に含まれ、認識された科学原理に基づき、医学的評価により特殊な栄養的必要性が確立されている疾患または状態の特別の食事管理を目的とした食物が含まれる。
【0129】
本発明は、特定の方法、生成物、および生物に関して開示されたが、当業者が利用可能であるような置換、修飾、および最適化を含む、本明細書に開示された教示に従い入手可能であり有用であるような方法、生成物、および生物を全て含むものとする。以下の実施例および試験結果は、例示を目的として提供され、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0130】
実施例
実施例1
典型的な発酵条件の下で、2リットルの発酵槽を使用して、野生型のシゾキトリウムまたはトラウストキトリウムの培養物を、糖化されたセルロース源を使用して培養した。各発酵槽に、炭素(セルロース糖化物)、窒素、リン、塩、微量金属、およびビタミンを含有している培地を投入した。典型的なシード培養物を各発酵槽に接種し、次いで、72〜120時間培養し、培養の間、炭素(セルロース糖化物)供給および窒素供給の両方を供給した。窒素供給は増殖期の間にのみ供給され消費されたが、炭素(セルロース糖化物)は発酵の間中、供給され消費された。72〜120時間後、各発酵槽を採集し、自己溶解または加水分解した。加水分解した材料を、油画分とバイオマス画分とに分離した。次いで、油をエステル交換し、グリセロールから分離した。最終生成物を生産するため、モノアルキルエステルを水洗した。
【0131】
典型的な発酵制御条件:
温度:20〜40摂氏度
pH:3.0〜10.0
撹拌:100〜400cps
空気流:0.25〜3.0vvm
セルロース糖化物:5〜35g/L(タンク内濃度)
接種原:1%〜50%
【0132】
実施例2
典型的な発酵条件の下で、10リットルの発酵槽を使用して、野生型またはトランスジェニックのシゾキトリウムまたはトラウストキトリウムの培養物を、液化セルロース源を使用して培養した。生物は、セルロースの糖化、ならびにグルコース、キシロース、ヘミセルロース、およびリグニンの代謝を同時に行うために必要な酵素を生産する。各発酵槽に、炭素(液化セルロース)、窒素、リン、塩、微量金属、およびビタミンを含有している培地を投入した。典型的なシード培養物を各発酵槽に接種し、次いで、72〜120時間培養し、培養の間、炭素供給(液化セルロース)および窒素供給の両方を供給した。窒素供給は増殖期の間にのみ供給され消費されたが、炭素(液化セルロース)は発酵の間中、供給され消費された。72〜120時間後、各発酵槽を採集し、自己溶解または加水分解した。加水分解した材料を、油画分とバイオマス画分とに分離した。次いで、油をエステル交換し、グリセロールから分離した。最終生成物を生産するため、モノアルキルエステルを水洗した。
【0133】
典型的な発酵条件:
温度:20〜40摂氏度
pH:3.0〜10.0
撹拌:100〜400cps
空気流:0.25〜3.0vvm
液化セルロース:5〜35g/L(タンク内濃度)
接種原:1%〜50%
【0134】
実施例3
実施例2のトランスジェニックのシゾキトリウムまたはトラウストキトリウムは、公知の適切なセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、リグニナーゼ、糖トランスポーター、エピメラーゼ、および糖イソメラーゼをコードする遺伝子を発現するよう、(特許出願公開WO 2002/083869 A2に開示されたもののような)既存の形質転換系を使用して開発される。または、以前に特徴決定されていないセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、リグニナーゼ、糖トランスポーター、エピメラーゼ、および糖イソメラーゼが、既存のゲノムデータベースから単離されてもよいし、または相同遺伝子の保存された領域に基づく縮重プライマーを用いたPCR、もしくは大量配列決定および発現配列タグ(EST)もしくはゲノム配列の発掘、もしくはその他の技術を含む、特徴決定されていないか、もしくは十分に特徴決定されていない生物を用いた標準的な遺伝子発見戦略を介して単離されてもよい。適切な遺伝子発現および遺伝子産物活性は、ゲル電気泳動、ノーザンブロットおよびウエスタンブロット、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ならびに基質変換アッセイのような標準的な技術を使用してバリデートされる。
【0135】
実施例4
滅菌条件下および非滅菌条件下での脂肪酸プロファイルおよび脂質生産速度を比較するため、典型的な発酵条件の下で、2リットルの発酵槽を使用して、野生型シゾキトリウム(ATCC 20888)の二つの培養物を培養した。炭素、窒素、リン、塩、微量金属、およびビタミンを含有している培地を各発酵槽に投入した。滅菌発酵槽を120分間オートクレーブ処理し、全ての培地成分を、発酵槽内で滅菌するか、またはオートクレーブ処理後の滅菌溶液として添加した。非滅菌発酵槽には、水道水を投入し、全ての要素を、接種前に減菌することなく発酵槽に添加した。典型的なシード培養物を各発酵槽に接種し、次いで50時間培養し、培養の間、炭素供給および窒素供給の両方を供給した。窒素供給は増殖期の間にのみ供給され消費されたが、炭素は発酵の間中、供給され消費された。50時間後、各発酵槽を試料採取し、遠心分離し、凍結乾燥し、脂肪酸メチルエステルへと変換し、ガスクロマトグラフィにより分析した。
【0136】
典型的な発酵条件:
温度:28〜30摂氏度
pH:5.0〜7.5
撹拌:100〜300cps
空気流:0.25〜2.0vvm
グルコース:5〜55g/L(濃度)
接種原:1%〜30%
【0137】
結果は以下の通りであった:

【0138】
図3および4は、実験結果のグラフを示す。
【0139】
実施例5
低コストの非滅菌条件を使用して、従属栄養により藻類バイオマスを生産する可能性を評価するため、低コストの発酵条件の下で、5リットルの発酵槽を使用して、野生型シゾキトリウム(ATCC 20888)を培養した。非滅菌発酵槽は、ポリプロピレン膜で被覆された軟鋼容器、チューブスパージャ、1つの排気ライン、および1つの添加ラインからなっていた。非滅菌発酵槽に、水道水、ならびに炭素、窒素、リン、塩、微量金属、およびビタミンを含有している培地を投入した。要素は、接種前に減菌することなく、発酵槽に添加された。250mLのフラスコからの培養物50mLを発酵槽に接種した。発酵槽を6日間培養し、培養中(接種後)は、何も発酵槽に添加しなかった。6日後、発酵槽を試料採取し、凍結乾燥し、脂肪酸メチルエステルへと変換し、ガスクロマトグラフィにより分析した。
【0140】
典型的な発酵条件:
温度:28〜30摂氏度
pH:無制御
撹拌:なし
空気流:2.0〜4.0vvm
グルコース:80g/L(初期濃度;付加的供給なし)
接種原:1%
【0141】
非滅菌バッチ培地:

【0142】
結果は以下の通りであった:

【0143】
実施例6
二段階発酵系が、微生物の従属栄養発酵において使用され得る。第一段階(シード段階)はバイオマスの蓄積を標的とし、第二段階(脂質生産段階)は脂質蓄積を標的とする。発酵系の一例を、以下に記載する。
【0144】
下記の発酵系は、連続シード容器および流加モードで運転される複数の脂質生産容器を含む。以下の仮定に基づき、シード容器は、脂質生産段階容器(xxxガロン)の8分の1であるxxガロンというワーキング容量を有する。
(1)細胞倍化時間は6時間である
(2)各脂質生産段階バッチの充填時間は24時間である
(3)各脂質生産バッチの(充填後の)初期容量は採集容量の1/2である
【0145】
連続シード段階
定常状態に達するまでの初期接種/増殖の後、シード容器は、一定の速度で連続的に滅菌栄養素供給を受容する(xx GPM、1時間当たり採集容量のおよそ1/48)。ブロスを容器から取り出し、栄養素供給と同一の速度で脂質生産段階容器に移す。次いで、生産容器が所望の出発容量(およそ24時間の充填の後、採集容量のおよそ1/2)に達した後、シード容器を次の利用可能な脂質生産容器に接続する。
【0146】
栄養素供給は、適切な増殖を持続させる(かつ後に最適な脂質生産を支持する)濃度の炭素源(セルロース性供給材料および/または単糖)、窒素源(例えば、NH3)、塩、ビタミン、ならびに微量金属を含むであろう。原料コストを低下させるため、再利用脱脂バイオマスおよびグリセロールが栄養素の一部として使用されてもよい。定常状態において、バイオマス濃度は少なくとも約50〜100g/Lに達する可能性が高い。
【0147】
細胞増殖のために十分な酸素を提供するため、空気流を供給する。およそ50〜150mmol/L/hrのOUR(酸素取り込み速度)を達成するため、空気流の要件は、およそ0.5〜1.0vvmの範囲内にあり得る。相当の代謝熱発生がプロセスのために予想され、十分な熱除去が、標的プロセス温度(例えば、およそ25〜35℃)を維持するために必要とされる。O2取り込み1mmol当たり0.113Kcalという関係が、微生物による代謝熱発生を推定するために一般的に利用されており、およそ6〜17Kcal/L/hrの熱発生が生じると推定される。熱の一部は空気流によって除去され得るが、標的温度を維持するためには、やはり、相当の熱除去能が必要とされる。酸(例えば、硫酸)および/または塩基(腐食剤)によるpH制御が、至適増殖のためのpH標的を維持するために必要とされるかもしれない。シード段階の性質のため、培地およびプロセス条件は汚染菌の増殖にとって好都合である可能性が極めて高く;従って、低い汚染リスクを有する系の設計が非常に望ましい。二段階プロセスは、汚染菌にとって不利な条件の選択を通して、非滅菌発酵槽において実施され得る。もう一つの選択肢は、連続シード段階を滅菌的に運転し、(窒素制限のような栄養素制限の下にあり得る)脂質生産段階を非滅菌条件下で運転することである。
【0148】
脂質生産段階(流加)
脂質生産段階容器は、流加プロセスとして運転される。大部分の栄養素は、(24時間の充填時間の間に)シード段階から受容され、運転の全体にわたって標的糖濃度を維持するため、炭素源がバッチに供給される。
【0149】
各脂質生産バッチは、充填(シード容器からのブロスの受容)のため24時間、脂質生産のため72時間、採集&再運転準備のため24時間、全部で120時間のサイクル時間を有する。従って、各シード容器は、5個の脂質生産段階容器のために接種原を供給することができるはずである。上述のように、シード移動速度はおよそxxx GMP(1時間当たりpf採集容量の1/48)であると予想される。24時間の充填時間の後、生産容器は、標的採集容量の約1/2を有するはずである。セルロース性供給材料(およそ70%の糖濃度)のような炭素源が、運転時間の大部分を通して標的糖濃度を維持するために添加される。気泡を最小化するため、必要に応じて、消泡剤が添加される。採集時、少なくとも約150g/Lまたは少なくとも約300g/Lのバイオマス濃度、およびバイオマス中の60〜80%の油が達成され得る。
【0150】
連続的または半連続的な生産戦略が、脂質生産のために使用され得る。連続法においては、バイオマスが、脂質生産容器が充填されるのと同一の速度で採集される。半連続法においては、バイオマスが等間隔で採集され、採集されるバイオマスの量は脂質生産サイクルに依存する。例えば、72時間の脂質生産サイクルにおいては、バイオマスを含有している生産タンクの半分が、36時間毎に採集され得る;同様に、生産タンク内のバイオマスの25%が18時間毎に採集されてもよいし、生産タンク内のバイオマスの75%が54時間毎に採集されてもよい、など。
【0151】
酸素は細胞維持および脂質生産のために必要とされ、空気流が十分な酸素移動を提供するために供給される。およそ40〜150mmol/L/hrのOUR(酸素取り込み速度)を達成するため、空気流の要件は、およそ0.5〜1.0vvmの範囲内にあり得る。有意な代謝熱発生がプロセスのために予想される。O2取り込み1mmol当たり0.113Kcalという関係が、微生物による代謝熱発生を推定するために一般的に利用されており、およそ6〜17Kcal/L/hrの熱発生が生じると推定される。熱の一部は空気流によって除去され得るが、標的温度を維持するためには、やはり、相当の熱除去能が必要とされる。酸(例えば、硫酸)および/または塩基(腐食剤)によるpH制御が、高い脂質生産性のためのpH標的を維持するために必要とされ得る。
【0152】
その他の情報/考察
(液体培地または脱脂バイオマスのような)発酵廃棄物を効率的に再利用することができれば、発酵のコストを低下させることができる。
【0153】
糖からバイオマスへの変換収率は、およそ45〜55%(モルベース)である可能性が高く、糖から油への変換収率は、およそ30〜40%である可能性が高い。
【0154】
機器の故障またはバッチの異常による可能性のある中断時間を最小化するため、付加的なシード容器および脂質生産容器が、工場設計のために考慮されるべきである。
【0155】
本発明の原理、好ましい態様、および作動モードが、上記の明細書に記載された。しかしながら、開示された特定の型は、限定的なものではなく、例示的なものと見なされるべきであるため、本明細書において保護されることが意図される本発明は、開示された特定の型に限定されるものと解釈されるべきではない。本発明の本旨を逸脱することなく、当業者によって、変動および変化がなされ得る。従って、本発明を実施するための上記の最適のモードは、例示的なものであって、添付の特許請求の範囲に示されるような本発明の範囲および本旨に対して限定的なものではないと見なされるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを含む供給材料を炭素源として使用した従属栄養発酵によりストラメノパイル(Stramenopile)界の微生物を増殖させる工程を含む、生物油(biological oil)を生産する方法であって、該生物油の中の不飽和脂肪酸の約11%〜約99%が多価不飽和脂肪酸である、方法。
【請求項2】
前記生物油の中の不飽和脂肪酸の約50%超が、多価不飽和脂肪酸である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記微生物がトラウストキトリド(Thraustochytrid)である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記微生物が、シゾキトリウム(Schizochytrium)属の微生物、トラウストキトリウム(Thraustochytrium)属の微生物、およびウルケニア(Ulkenia)属の微生物からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記微生物が前記セルロースを糖化する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記微生物が、リグニン、ヘミセルロース、植物油、植物細胞外多糖、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される供給材料成分に対して抵抗性であるかまたはそれらを分解する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記微生物が、遺伝学的に改変された微生物である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記微生物が、その乾燥バイオマスの約25重量%〜約85重量%の量のトリグリセリド型の油を生産する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記微生物がその乾燥バイオマスの約30重量%〜約90重量%の量の油を生産した後、前記微生物の自己溶解または誘導された溶解を実行する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
pH、温度、酵素の存在、界面活性剤の存在、物理的破壊、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される溶解のために好都合な条件に前記微生物を曝すことにより、前記微生物の溶解を誘導する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記セルロースを含む供給材料が、草、サトウキビ、農業廃棄物、紙くず、下水、木材、ビリジプランテ(viridiplantae)界の生物、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるセルロース源を含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記発酵が非滅菌発酵槽において実施される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記発酵が、繊維補強重合体発酵槽、金属マトリクス複合材料発酵槽、セラミックマトリクス複合材料発酵槽、熱可塑性複合材料発酵槽、金属発酵槽、エポキシ被覆炭素鋼発酵槽、プラスチック被覆炭素鋼発酵槽、プラスチック発酵槽、ガラス繊維発酵槽、およびコンクリート発酵槽からなる群より選択される発酵槽において実施される、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記発酵が、水に浸した発酵槽において実施される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
第一の発酵槽または連続する発酵槽セットからの冷却水流出物が、第二の発酵槽または連続する発酵槽セットのための冷却水供給物として使用されるよう、連続する接続された冷却系を有する発酵槽において、前記発酵が実施される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
第一の発酵槽または連続する発酵槽セットからの拡散排気が、第二の発酵槽または連続する発酵槽セットのための気体供給物として使用されるよう、連続して接続された気体系を有する発酵槽において、前記発酵が実施される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
以下の工程を含む、バイオディーゼルを生産する方法:
(a)生物油の中の不飽和脂肪酸の約11%〜約99%が多価不飽和脂肪酸である生物油を生産するため、炭素源としてセルロースを含む供給材料を使用する従属栄養発酵によりストラメノパイル界の微生物を増殖させる工程;および
(b)バイオディーゼルを生産するため、該生物油をエステル交換する工程。
【請求項18】
前記生物油の中の不飽和脂肪酸の約50%超が、多価不飽和脂肪酸である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記生物油のエステル交換が、アルコール生産プロセスに由来するアルコールを使用して実施される、請求項17記載の方法。
【請求項20】
前記生物油のエステル交換から得られたグリセロールを、アルコールまたは生物油を生産するための後続の発酵プロセスのための炭素源として使用する工程をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項21】
前記後続の発酵プロセスが、炭素源として前記グリセロールを使用することができる微生物を増殖させる、請求項20記載の方法。
【請求項22】
以下の工程を含む、バイオジェット燃料を生産する方法:
(a)前記生物油の中の不飽和脂肪酸の約11%〜約99%が多価不飽和脂肪酸である生物油を生産するため、炭素源としてセルロースを含む供給材料を使用する従属栄養発酵によりストラメノパイル界の微生物を増殖させる工程;および
(b)バイオジェット燃料を生産するため、前記生物油をクラッキングする工程。
【請求項23】
前記生物油が、約10重量%〜約75重量%の多価不飽和脂肪酸を含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
20個またはそれ以上の炭素を有する長鎖脂肪酸アルキルエステルを、約1重量%〜約75重量%含む、脂質に基づくバイオ燃料組成物。
【請求項25】
約30℃〜約-50℃の融解温度を有する、請求項24記載の脂質に基づくバイオ燃料組成物。
【請求項26】
炭素源としてセルロースを含む供給材料を使用する従属栄養発酵により二種またはそれ以上の微生物を同時にまたは連続的に増殖させる工程を含む、生物油を生産する方法であって、該微生物のうちの一種または複数種が該セルロースを糖化することができる、方法。
【請求項27】
非滅菌発酵槽において従属栄養発酵により微生物を増殖させる工程を含む、生物油を生産する方法。
【請求項28】
前記生物油が、約5g/L/日〜約70g/L/日の速度で生産される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記生物油が、約30g/L/日〜約70g/L/日の速度で生産される、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記微生物の増殖が、約10g/L〜約300g/Lの細胞密度を達成する、請求項27記載の方法。
【請求項31】
前記微生物の増殖が、約150g/L〜約250g/Lの細胞密度を達成する、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記微生物の増殖が炭素源としてのセルロースの使用を含む、請求項27記載の方法。
【請求項33】
以下の工程を含む、バイオディーゼルを生産する方法:
(a)生物油を生産するため、非滅菌発酵槽において微生物を増殖させる工程;および
(b)バイオディーゼルを生産するため、該生物油をエステル交換する工程。
【請求項34】
以下の工程を含む、バイオジェット燃料を生産する方法:
(a)生物油を生産するため、非滅菌発酵槽において微生物を増殖させる工程;および
(b)バイオジェット燃料を生産するため、該生物油をクラッキングする工程。
【請求項35】
以下の工程を含む、バイオディーゼルを生産する方法:
(a)生物油を生産するため、再利用媒体を含む栄養素を使用して微生物を増殖させる工程;および
(b)バイオディーゼルを生産するため、該生物油をエステル交換する工程。
【請求項36】
前記再利用媒体が、脱脂バイオマス、加水分解バイオマス、部分加水分解バイオマス、再利用金属、再利用塩、再利用アミノ酸、再利用細胞外炭水化物、再利用グリセロール、再利用酵母バイオマス、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記微生物を増殖させる工程が炭素源としてのセルロースの使用を含む、請求項35記載の方法。
【請求項38】
以下の工程を含む、バイオジェット燃料を生産する方法:
(a)生物油を生産するため、再利用媒体を含む栄養素を使用して微生物を増殖させる工程;および
(b)バイオジェット燃料を生産するため、該生物油をクラッキングする工程。
【請求項39】
以下の工程を含むバイオディーゼルを生産する方法:
(a)生物油を生産するため、連続シード段階および脂質生産段階を含む発酵系を使用して、微生物を増殖させる工程;ならびに
(b)バイオディーゼルを生産するため、該生物油をエステル交換する工程。
【請求項40】
前記連続シード段階が、前記微生物の全バイオマス生産の約10%〜約95%が前記連続シード段階の間に達成されるよう、前記微生物のバイオマスを生産する、請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記脂質生産段階が流加プロセスとして実施される、請求項39記載の方法。
【請求項42】
前記脂質生産段階が、前記微生物の全脂質生産の約10%〜約95%が前記脂質生産段階の間に達成されるよう、脂質を生産する、請求項39記載の方法。
【請求項43】
前記微生物を増殖させる工程が炭素源としてのセルロースの使用を含む、請求項39記載の方法。
【請求項44】
以下の工程を含むバイオジェット燃料を生産する方法:
(a)生物油を生産するため、連続シード段階および脂質生産段階を含む発酵系を使用して微生物を増殖させる工程;ならびに
(b)バイオジェット燃料を生産するため、該生物油をクラッキングする工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−538642(P2010−538642A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524844(P2010−524844)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/010454
【国際公開番号】WO2009/035551
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(508004410)マーテック バイオサイエンシーズ コーポレーション (26)
【Fターム(参考)】