説明

生物活性ガラス被覆物

本発明は、生物活性ガラス被覆物、特に、Ti6Al4V合金及びクロム・コバルト合金用の生物活性ガラス被覆物に関する。このガラス被覆物の熱膨張係数はその合金の熱膨張係数にマッチされている。こうした被覆物は特に医療用プロステーシスに用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物活性ガラス被覆物(bioactive glass coating)に関する。特に、本発明は、Ti6Al4V合金及びクロム・コバルト合金用の生物活性ガラス被覆物に関する。このガラス被覆物の熱膨張係数はその合金の熱膨張係数にマッチされている。こうした被覆物は特に医療用プロステーシス(プロテーゼ)に用いられる。
【背景技術】
【0002】
生物活性物質(biologically active material)は、生きている組織(living tissue)に移植されると、その物質とそれを取り囲んだ組織との間に界面結合(interfacial bond)を形成するものである。より具体的に、生物活性ガラス(bioactive glass)は生物活性ガラスと生きている組織(例えば、骨)との間の強力な結合を形成する生物学的活性を誘導するように設計された表面反応性ガラス−セラミック(surface-reactive glass-ceramics)である。生物活性ガラスの生物活性は、生理学的状態(条件)下にガラスの表面に対する一連の複雑な生理化学的反応の結果であり、それにより、炭酸ハイドロキシアパタイト(carbonated hydroxyapatite;HCA)相の沈殿及び結晶化が起こる。
【0003】
ガラス表面上でのHCAの形成速度(rate of development)は生物活性のインビトロ・インデックスを提供する。このインデックスの使用は、硬い組織との結合を得るためにはHCAの最小形成速度が必要であることを示す知見に基づく。生物活性は、体内の関連する移植部位に見られる液体組成物を模倣する非生物学的溶液を用いて効果的に調べることができる。検査は、人工体液(Simulated Body Fluid;SBF)(Kokubo T, J. Biomed. Mater. Res. 1990; 24; 721-735参照)、及び、トリス(Tris)緩衝液のような様々な溶液を用いて行われてきた。SBFがヒトの血漿とほぼ同じイオン濃度を有する緩衝液であるに対して、トリス緩衝液は簡単な有機緩衝液である。SBRに露出されたガラスに対するHCA層の沈着は既知の生物活性テストである。
【0004】
生きていいる組織(硬い組織及び軟質の結合組織を含む。)と相互作用する生物活性ガラスの能力に基づいて、これは様々な医療的用途を有し得る。この一つが、整形外科用インプラント(orthopaedic implant)を含めた医療プロステーシス(prosthesis)用の被覆物を提供することである。
【0005】
金属プロステーシス(チタン、Ti6Al4V及びクロム・コバルト合金のような金属合金又は金属からなる。)は広く使われている。これらは非毒性、及び、優れた機械的な特性を有しているが、生物的な活性は有しない。この種を利用すると、移植箇所に密集した繊維性組織(dense fibrous tissue)が形成され、それにより、移植が失敗に終わってしまう。現在、大部分のインプラント(例えば、股関節及び膝関節置換術に用いられるプロステーシス)の固定(fixation)は、アクリル性骨セメント(acrylic bone cement)の使用によって改善された。しかしながら、こうしたセメントの使用により隣接した骨が毀損される場合がある。股関節置換の約20%ではセメントを使用しない固定(cementless fixation)が行われるが、そのときにプロステーシス上のプラズマ溶射ハイドロキシアパタイト被覆を用いるケースが最も多い。セメントを使用しない固定に伴う主な問題は、骨がハイドロキシアパタイト被覆物に成長するのに相当時間がかかることである。
【0006】
医療プロステーシスの固定を改善するためのもう一つの選択肢は、プロステーシス材料に上手く付着して、周辺組織との界面結合の形成を促すことができる生物活性被覆物を備えたプロステーシスを提供することである。こうしたプロステーシス用被覆物を提供するために生物活性ガラスが提案されていた。生物活性ガラスの生物活性が高ければ高いほど、周辺組織と生物活性ガラス(つまり、プロステーシス)との結合が速く形成される。
【0007】
プロステーシスは、セラミック、プラスチック、又は、金属で形成され得るが、その大部分はTi6Al4V合金又はクロム・コバルト合金で構成される。先行技術文献(特許)によれば、金属プロステーシスを溶融ガラスに浸すことで(その金属プロステーシスを)ガラスで被覆することができる(米国特許第4,234,972号)。しかしながら、この工程は、ガラスの熱膨張係数(TEC)を金属合金にマッチさせることの重要性を軽視したものである。ガラス被覆物のTECとプロステーシス材料のTEC間に大差が存在すれば、被覆過程における熱膨張の差異によって熱ストレスが生じ、それにより、被覆物の剥離及びクラッキング(cracking)が生じてしまう。その結果、被覆物が切り取られて細かくなるか(chip)、破片になるか(fragment)、又は、分離される(separate)。したがって、TECマッチングをなくしては、プロステーシス−被覆物の接合面(界面)は信頼性に欠けることになる。
【0008】
こうした研究もまた、金属合金の酸化及び相変化(phase change)を軽視していた。チタン及びその合金において、過度な酸化によって厚いTiO2層が形成されるが、その層は壊れやすく、その被覆物がTiO2に結合されたとしても、このTiO2層は破壊されてしまう(spoil away)。チタン及びチタン合金(例えば、Ti6Al4V)の酸化は、α-β相転移(alpha to beta phase transition)に相応して高温(>960℃)で脆化(embrittlement)をもたらす。
【0009】
米国特許第4,613,516号には、金属基材にガラスを結合させるときのTECマッチング(matching)の重要性が記載されている。このガラスは酸化コバルト(III)、酸化コバルト(II),酸化ニッケル、又は、酸化マンガンと混合して金属基材に適用される。これらのガラスの生物活性は測定されない。焼結(sintering)を促すために加えられたB23はガラスのネットワーク連結性(network connectivity;NC)を増加させ、ガラスの分解及び生物活性を減少させる。また、酸化ニッケルのような酸化物をガラスに含ませること(米国特許第4,613,516号に記載された量)によって、細胞毒性を有するこの種の体内放出を有意に引き起こす。
【0010】
Ti6Al4V合金上に生物活性ガラス被覆物を形成する別の試みによれば、TECマッチされ、かつ十分に焼結された優れた界面接着性(interfacial adhesion)を有する被覆物が形成されるが、これらの特性と、一般に認められる定義に基づく十分な生物活性を兼備した被覆物はなかなか得られない。実際、ハイドロキシアパタイト粒子及び市販用Bioglass(登録商標)粒子をガラス被覆物の表面に加えて生物活性を改善していた。文献[Gomez-Vega et al. J. Biomed. Mater. Res. 46: 549-559 (1999) and Gomez-Vega et al Biomaterials 21(2):105-111 (2000)]参照。
【0011】
多くの要因が被覆組成物の成功に影響する。金属又は金属合金を成功裏に被覆するためには、被覆物は合金のα-β相転移温度未満の温度で適用されなければならず、750℃以下の温度で適用されて、その表面において合金の酸化を阻害できるのが好ましい。また、合金にTECマッチされ、結晶形成開始温度(crystallisation temperature onset;Tc onset)を下回る温度で適用され、かつ、完全密度(full density)まで焼結されるが好ましい。
【0012】
出願人は、更なる別の重要な要因を見出した。生物活性を有するためには、ガラス被覆物は2.0ネットワーク連結性(NC)の値に相当する圧倒的なQ2ケイ酸塩構造を有しなければならない。ネットワーク連結性(NC)はそのガラス構造におけるネットワーク形成元素あたり平均架橋結合数を表す。NCによって粘性、晶析速度(crystallisation rate)、及び、分解能(degradability)のようなガラス特性が決められる。シリカ系ガラスの場合、NC2.0では無限のモル質量(infinite molar mass)の線状ケイ酸塩鎖が存在すると考えられる。NCが2.0を下回ると、モール質量及びケイ酸塩鎖長が急速に減少される。NCが2.0を上回ると、ガラスは3次元ネットワークとなる。SiO2は生物活性ガラスの非結晶質(無晶形)のネットワークを形成し、そして、ガラスにおけるSiO2のモル%を含んだ組成要因(compositional factor)はそのネットワーク連結性(NC)に影響を及ぼす。
【0013】
焼結処理には適しているがネットワーク連結性の重要性を実現できないガラスは、主に多量のシリカ成分を使用した結果として、最適な生物活性を示さない。文献[Brink et al, J. Biomed Mater. Res. 37 (1997) 114-121; Brink, J. Biomed. Mater. Res 36 (1997) 109-117 and US 6,054,400]参照。
【0014】
したがって、ガラスが生物活性を有するためには、低NCの高度に崩壊したガラス(highly disrupted glass)でなければならない。しかしながら、より崩壊したガラスネットワークであるほど、そのガラスはより容易に結晶化されて、焼結適合性が減少される。結晶化は避けなければならないが、その理由は次のとおりである:
1)ガラスは同等な結晶性組成物よりも高エネルギー状態であるので、結晶構造の同等な組成に比べてガラスのほうが常に反応性が高く、よって、生物活性も高い
2)結晶化は、固体状態の焼結工程よりも容易に起こる粘性流焼結(viscous flow sintering)を妨げる
3)高度に崩壊したガラスは優先的に不均一な結晶核形成過程(ここで、結晶化はガラス粒子表面上で始まる。)を経る。
【0015】
その結果、より軽度に崩壊したネットワークを使用することで結晶化を防止するように設計されたガラス組成物は、より高度のネットワーク連結性とともに減少された生物活性を有するものとなる。同様に、高度に崩壊したネットワークを有するガラス組成物(ネットワーク連結性が低い。)は、結晶化されやすく、その結晶化に基づいて生物活性が減少される。
【0016】
以上の理由から、好適な被覆組成物を提供するのに必要とされる条件すべてを満たすガラス組成物はほとんど存在しない。したがって、Ti6Al4V合金及びクロム・コバルト合金用の被覆物(具体的に、TECマッチングが得られ、結晶化、クラック形成、剥離といった望まれない効果を回避でき、かつ、ガラスが生物活性を有する。)を提供するのに適したガラス組成物に対するニーズは依然として存在する。したがって、本発明の目的の一つは、合金のTECとマッチするTECを有し、750℃以下の温度で焼結され(それにより、結晶化を防止できる。)、かつ、約2.0程度のNC値を有する(それにより、生物活性を保つ。)ガラスを製造することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第4,613,516号
【特許文献2】米国特許第4,234,972号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
出願人は、この明細書に記載したような多成分ガラス組成物を見出した。この組成物は、被覆物に適した物理的な特性を有するだけでなく、生物活性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
したがって、本発明の第1の特徴によれば、35〜53モル%のSiO2、2〜11モル%のNa2O、2モル%以上のCaO、2モル%以上のMgO、2モル%以上のK2O、0〜15モル%ZnO、0〜3モル%のP2O5、及び0〜2モルの%B2O3を含み、SiO2、P2O5及びB2O3を合わせたモル%が40〜54モル%であるストロンチウムフリー(strontium-free)生物活性ガラスを提供する。
【0020】
本発明の第1の特徴に係る生物活性ガラスは、45〜50モル%のSiO2を含むのが好ましい。好ましくは、生物活性ガラスは8〜35モル%のCaOを含む。好ましくは、生物活性ガラスは3〜11モル%のK2Oを含む。好ましくは、生物活性ガラスは1〜3モル%のP25を含む。好ましくは、生物活性ガラスは1〜15モル%(より好ましくは、1〜12モル%)のZnOを含む。好ましくは、生物活性ガラスは、1〜5モル%のLi2Oを含む。好ましくは、生物活性ガラスは、0〜10%のCaF2を含む。
【0021】
多成分ガラス組成物を使用することによって、ガラス構造を混乱させて、その結晶化を妨げることができる。それにより、本発明のガラスが焼結に適したものとなる。ガラスは、ガラス転移温度(Tg)と結晶化開始温度(Tc onset)間の温度差と定義されるプロセッシングウィンドウ(processing window)を有する。ガラス転移温度(Tg)と外挿結晶化開始温度(Tc onset)間の温度差が大きければ大きいほど、プロセッシングウィンドウは大きい。焼結に適したガラス組成物は90℃を越えるプロセッシングウィンドウを有するのが好ましい。本発明のガラスは、150℃以上のプロセッシングウィンドウを有するのが好ましい。Tc onsetの外挿値(extrapolated value)についてはこの明細書に定義されているが、それは加熱速度(heating rate)が減少すればTcも減少し、焼結過程において、加熱速度は事実上0Kmin-1であるからである。
【0022】
また、多成分ガラス組成物を調整すること(tailoring)で、被覆しようとする合金のTEC(熱膨張係数)にマッチしたTECを有するガラスの製造が可能となる。例えば、マグネシウムイオン、任意に亜鉛イオンを含ませるとガラスのTECが変わる。一般的にはTECを増加させるが、CaOの代わりに使われたときにはTECを減少させる。
【0023】
好ましくは、生物活性ガラスは5〜18モル%のMgOを含む。MgOを加えると、ネットワーク連結性が若干増加される。少量(small proportion)のMgがケイ酸塩ガラスネットワークに入り、結晶化を阻害するとともに、粘性流焼結を促進する。また、Mgはガラス転移温度(Tg)と結晶化開始温度(Tc onset)間のプロセッシングウィンドウを広げる(open up)。
【0024】
好ましくは、本発明のガラスは1.8〜2.5、よりこのましくは、1.9〜2.4のネットワーク連結性を有する。こうした範囲のネットワーク連結性は、ガラスの生物活性を確保する点から好まく、主にガラス組成物中SiO2及びP25のモル%を調整すること(balancing)によって得ることができる。
【0025】
本発明のガラスは医療用プロステーシスを被覆するのに用いられる。好ましくは、この医療用プロステーシスは、Ti6Al4V合金又はクロム・コバルト合金を含む。Ti6Al4V合金の熱膨張係数は通常8×10-6-1〜10.6×10-6-1である。好ましくは、Ti6Al4V合金を含む表面被覆用の生物活性ガラスは8.8×10-6-1〜12×10-6-1のTECを有する。この生物活性ガラスのTECは被覆しようとする合金のTECより高いのが好ましいが、それはガラスが圧縮されるからである。金属合金の表面から一部の酸化物がガラス被覆物内に溶け込んで、ガラスと金属合金間の界面ではガラスのTECが若干減少されることもあり得る。
【0026】
クロム・コバルト合金のTECは通常12.5×10-6-1である。クロム・コバルト合金を含む表面被覆用の生物活性ガラスは11×10-6-1〜14×10-6-1のTEC(好ましくは、12×10-6-1〜14×10-6-1のTEC)を有するのが好ましい。前述したように、この生物活性ガラスのTECは被覆しようとする合金のTECより高いのが好ましい。こうした好ましいTECの範囲は任意のクロム・コバルト合金に適したものであり、本発明の生物活性ガラス被覆物は表6に記載したもの以外のクロム・コバルト合金を被覆するのに用いられる。実際、クロム・コバルト合金のTECは1×10-6-1未満の範囲でそれぞれ異なる。
【0027】
本発明の第1の特徴に係る第1の実施形態によれば、Na2O及びK2Oのモル%の合計は15モル%未満であり、生物活性ガラスは8.8×10-6-1〜12×10-6-1のTECを有する。このガラス組成物は、特にTi6Al4V合金を被覆するのに有用である。好ましくは、ガラス組成物が50%未満のSiO2、2モル%以上のMgO、及び、好ましくは、1モル%以上のZnOを含み、そして、好ましくは、ガラスが1.9〜2.4のネットワーク連結性(より好ましくは、2.1〜2.4のネットワーク連結性)を有する。CaOとMgOを合わせたモル%が40%を超えないのが好ましく、より好ましくは、30〜40%で、最も好ましくは33.27〜39.87%である。一部の実施例において、CaFは存在しない。CaFが存在する別の実施例では、CaO、MgO、及び、CaFを合わせたモル%が30〜40%で、より好ましくは、33.27〜39.87である。
【0028】
好ましくは、本発明の第1の特徴の第1の実施形態に係る生物活性ガラスは45〜50モル%のSiO2、1〜2モル%のP25、15〜35モル%のCaO、3〜7モル%のNa2O、3〜7モル%のK2O、2〜4%のZnO、5〜18モル%のMgO、及び、0〜10モル%のCaF2を含む。より好ましくは、この実施形態に係る生物活性ガラスは、49〜50モル%のSiO2 、1〜1.5モル%のP2O5、17〜33モル%のCaO、3.3〜6.6モル%のNa2O、3.3〜6.6モル%のK2O、2〜4モル%のZnO、7〜17モル%のMgO及び0〜6モル%のCaF2を含む。最も好ましくは、この実施形態に係る生物活性ガラスは49.46モル%のSiO2、1.07モル%のP2O5及び3モル%のZnOを含む。
【0029】
本発明の第1の特徴に基づく第2の実施形態によれば、Na2OとK2Oを合わせたモル%が30モル%未満であり、そして、ガラスは11×10-6-1〜14×10-6-1、好ましくは12×10-6-1〜14×10-6-1の熱膨張係数を有する。このガラス組成物は特にクロム・コバルト合金を被覆するのに有用である。好ましくは、この生物活性ガラスは52モル%未満のSiO2、2モル%以上のMgO、又は、1モル%以上のZnOを含み、かつ、1.8〜2.5のネットワーク連結性を有する。好ましくは、このガラスにおけるNa2OとK2Oを合わせたモル%は15〜18モル%である。
【0030】
好ましくは、本発明の第1の特徴に係る第2の実施形態に係る生物活性ガラスは、45〜50モル%のSiO2、1〜3モル%のP2O5、0〜2モル%のB2O3、8〜25モル%のCaO、7〜11モル%のNa2O、7〜11モル%のK2O、2〜12%のZnO、8〜12モル%のMgO、及び、0〜5モル%のCaF2を含む。
【0031】
好ましくは、本発明の生物活性ガラスは粉末の形態である。この粉末の平均粒度は100μm未満である。好ましくは、このガラス粉末は50μm未満の粒度を有し、より好ましくは、40μm未満の粒度を有し、最も好ましくは10μm未満の粒度を有する。
【0032】
前述した粒度は、ボールミル粉砕或いはジャイロミル(振動パックミル)を用いた振動粉砕後ふるいにかけるか、又は、10kgを超える大量のガラスについては、ジェット粉砕後空気分級(事実上、遠心分離)を行うことによって得ることができる。粒度は、レーザ光散乱、又は、コールター・カウンター(好ましくは、レーザ光散乱)によって決定することができる。
【0033】
一部の実施形態において、本発明のガラスは、実質上前述した実施形態に記載された酸化物成分からなる。
【0034】
アルミニウムは神経毒であり、かつ、極小量(例えば、1ppm未満)でもインビボにおいて骨石灰化(bone mineralisation)の阻害剤である。したがって、本発明のガラスはアルミニウムを含まないのが好ましい。
【0035】
好ましくは、ガラスは酸化鉄(III)(例えば、Fe23)及び酸化第二鉄(例えば、FeO)のような鉄系酸化物を含まないのが好ましい。
【0036】
本発明のガラスは、特に結晶化を起こさずに焼結を促進するように設計されている。したがって、本発明のガラスは焼結後も非結晶質(無定形)を保つ。このために、本発明の組成物は事実上多成分であり、それにより、混合のエントロピーを増加させるとともに、既知の結晶相の化学量論を回避する。NC値を約2(1.8〜2.5、好ましくは、1.9〜2.4)にするとともに、結晶化を回避できるガラス組成物にすることによって、そのガラスは生物活性を保持しつつも、そのTECをTi6Al4V及びクロム・コバルト合金のTECにマッチさせることができる。
【0037】
本発明の第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係る生物活性ガラスをTi6Al4V又はクロム・コバルト合金を含む表面を被覆するのに使用することである。好ましくは、この第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係る生物活性ガラスをTi6Al4V合金を含む表面を被覆するのに使用することである。好ましくは、この第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係る生物活性ガラスをクロム・コバルト合金を含む表面を被覆するのに使用することである。好ましくは、Ti6Al4V合金又はクロム・コバルト合金を含む表面はプロステーシスの表面である。
【0038】
本発明の第3の特徴は、本発明の第2の特徴に係る生物活性ガラスを含むガラス被覆物を提供することである。
【0039】
本発明の生物活性ガラス被覆物(bioactive glass coating)は、本発明の第1又は第2の特徴に係る生物活性ガラスからなる1以上の層を含んでも良い。実施例3及び5に記載するように、単層被覆物を設けても良い。また、二層被覆物を設けても良い。単層又は多層被覆物は本発明の第1又は2の特徴に係る生物活性ガラスを含んでも良い。また、その被覆物は、その1以上の層に本発明の第1又は第2の特徴に係る生物活性ガラスを含み、かつ、1以上の層に本発明の生物活性ガラスを含まない二層又は多層被覆物であっても良い。
【0040】
二層被覆物は生物活性ガラスからなる二層を含んでも良い。例えば、比較的生物活性に劣り、かつ、より化学的安定性に優れた基層(base layer)、及び、より生物活性に優れ、かつ、比較的化学的安定性に劣る最上層(top layer)を設けても良い。最適な生物活性はオッセオインテグレーション(osseointegration)を促進するために必要とされる。しかしながら、合金は体内で長期間にわたって被覆状態を保持するのが望ましい。この理由から、プロステーシスが被覆状態を保持できるようにより反応性の小さいガラス基層と、最適な生物活性を可能にするより反応性の大きい最上層を設けるのが望ましい。こうした被覆物は、2つのステップからなる工程(例えば、実施例4)によって作製され得る。両方の層は本発明の生物活性ガラスを含んでも良い。また、より反応性の小さいガラス(例えば、既知のガラス)を含む基層と、本発明の生物活性ガラスを含む最上層と、を有する二層を設けても良い。
【0041】
二層被覆物は、プロステーシスからそれを取り囲んだ液体及び/又は組織へイオンが溶け込む現象を防止するために設けても良い。この二層被覆物は、特にクロム・コバルトに対して望ましいが、それは合金の酸化物保護層からガラスへコバルト、ニッケル、クロムの酸化物(これらはガラスから体内へ放出され得る。)が有意に溶け込む可能性があるからである。この理由から、化学的に安定したベース(基層)被覆用ガラス組成物が好ましい。したがって、クロム・コバルト合金に使用できる二層被覆物は、化学的に安定した、より生物活性の小さい基層(base layer)と、本発明の生物活性ガラスを含んだ1以上の最上層(top layer)と、を有するのが好ましい。こうした二層被覆物は、実施例6に記載した二段階反応によって作製され得る。
【0042】
好ましくは、クロム・コバルト合金の基層被覆物(base coating)は60〜70mol%のSiO2、6〜23mol%のCaO、7〜13mol%のNa2O、3〜11mol%のK2O、0〜5mol%のZnO及び0〜5mol%のMgOを含む。好ましくは、Ti6Al4V合金の基層被覆物は、60〜70mol%のSiO2、2〜3mol%のP2O5、10〜14mol%のCaO、4〜11mol%のNa2O、1〜7mol%のK2O及び6〜11mol%のMgOを含む。
【0043】
その被覆物は、体内へ挿入されるインプラント/プロステーシスを被覆するために用いられて、Ti6Al4V及びクロム・コバルト合金のようなインプラント材料の優れた機械的な強度と、生物活性ガラスの生体適合性とを組み合わせることができる。生物活性ガラス被覆物は、例えば、エナメル加工、艶出し加工、フレーム溶射、プラズマ溶射、溶融ガラスへの急速な浸漬、ポリマーバインダーを含んだ溶媒へのガラス粒子スラリーの浸漬、又は、電気泳動析出のような方法によって金属インプラントの表面に適用され得る。例えば、金属合金Ti6Al4Vを含むプロステーシスは、結合層(bond coat layer)の存・不在下でプラズマ溶射によって生物活性ガラスで被覆され得る。
【0044】
生物活性被覆物はプロステーシス(骨内部成長及びオッセオインテグレーションを支持する。)の表面に対しHCA層を形成する。これは、インプラントの表面と隣接組織間の界面結合を形成する。このプロステーシスは、骨又は関節(例えば、股、顎、肩、肘又はひざのプロステーシス)を取り替えるために提供され得る。このプロステーシスは、関節置換術に用いられる。生物活性被覆物は股関節形成の大腿部成分(component)のような整形外科用装置、又は、骨折固定装置における骨ねじ(bone screw)或い爪(nail)、又は歯科インプラントを被覆するのに用いられる。
【0045】
本発明の第4の特徴は、Ti6Al4V又はクロム・コバルト合金を含むプロステーシスを提供することである。このプロステーシスは、本発明の第1又は2の特徴に係る生物活性ガラスを含む被覆物、又は、本発明の第3の特徴に係るガラス被覆物によって被覆されている。このプロステーシスがTi6Al4V合金であれば、その被覆物は本発明の第1の特徴の第1の実施形態に係る生物活性ガラスを含むのが好ましい。このプロステーシスがクロム・コバルト合金であれば、その被覆物は本発明の第1の特徴の第2の実施形態に係る生物活性ガラスを含むのが好ましい。このプロステーシスは、例えば、整形外科用装置/インプラント、骨ねじ(bone screw)若しくは爪(nail)又は歯科インプラントであっても良い。
【0046】
本発明の第5の特徴は、本発明の第1の特徴に係る生物活性ガラスを含むガラス粉末を提供することである。このガラス粉末は、100μm未満の平均粒度を有し、かつ、90℃以上のプロセッシングウィンドウ(即ち、処理温度ウィンドウ)を示す。このガラス粉末が50μm未満の平均粒度を有するのが好ましく、より好ましくは、40μm未満の平均粒度を有し、最も好ましくは、10μm未満の平均粒度を有する。
【0047】
本発明の第6の特徴は、Ti6Al4V又はクロム・コバルト合金を含む基材上にガラス被覆物を形成する方法を提供することである。この方法は、被覆しようとする基材に本発明の第1又は2の特徴に係るガラス(好ましくは、本発明の第5の特徴に係るガラス粉末の形態)を適用して焼結することを含む。
【0048】
好ましくは、ガラス粉末は600〜1000℃の温度で焼結される。好ましくは、ガラス粉末は、Tc onset未満であってガラス転移温度(Tg)より50℃以上高い温度(好ましくは、Tgより100℃以上高い温度)で焼結される。
【0049】
ガラスのプロセッシングウィンドウは、Tgと結晶化開始温度(onset temperature for crystallisation)との差異と定義される。その結晶化開始温度はDSC(示差走査熱量測定)又はDTA(示差熱分析)によって決定され得る。ここで、ガラス転移温度は、測定のための疑似二次熱力学的転移(quasi-second order thermodynamic transition)として扱われる(図2参照)。前述のとおり、結晶化開始温度は、DSC又はDTAによって決定される。最適な焼結温度は、様々な加熱速度(heating rate)上でDSCを実施し、Tc onsetを0加熱速度(zero heating rate)に外挿することで得ることができる。TgとTc onset推定値(挿入値)との温度差が大きければ大きいほど、プロセッシングウィンドウも大きくなる。一般的に、焼結に適したガラス組成物は90℃を超えるプロセッシングウィンドウを有する。
【0050】
本発明の第6の特徴に係る第1の実施形態において、本発明の第5の特徴のガラス粉末は、Ti6Al4Vを含む表面に蒸着(沈着)被覆され、かつ、1〜60℃min-1の速度で600〜960℃の焼結温度(α-β相転移温度未満)に加熱される。
【0051】
本発明の第6の特徴に係る第2の実施形態において、本発明の第5の特徴のガラス粉末は、クロム・コバルト合金を含む表面に沈着(蒸着)され、かつ、600〜760℃の焼結温度に焼結される。
【0052】
本発明の第5の特徴のガラス粉末を、ガラス粒子の懸濁液中の浸漬被覆(dip coating)、フレーム溶射、プラズマ溶射、又は、電気泳動析出によって、被覆しようとする基材に適用するのが好ましい。本発明の第6の特徴に係る方法は、被覆しようとする表面に酸化コバルト(II)及び/又は酸化コバルト(III)を適用することをさらに含んでも良い。この被覆物は730℃以上の温度で焼結される。酸化コバルト(II)及び/又は酸化コバルト(III)は生物活性ガラス粉末の0.2〜3.0重量%の量で適用されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0053】
本発明の被覆物は、体内へ挿入されるインプラント/プロステーシスなどを被覆するために用いられ、Ti6Al4V及びクロム・コバルト合金のようなインプラント材料の優れた機械的な強度と、生物活性ガラスの生物活性とを上手く組み合わせることができる。
【0054】
本発明の各特徴の好ましい事項すべては、変更すべきところは変更してその他のすべての特徴に適用される。
【0055】
本発明については、次の実施例及び図面に基づいて具体的に説明することとする。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、クロム・コバルト合金上における実施例22(表5)のガラス組成物を含むベース被覆物のSEM画像を示す。この合金の組成は表6に記載されている。これによれば、表面にほとんど空隙のない、十分に焼結された被覆物を提供することができる。
【図2】図2は、焼結又はプロセッシングウィンドウを概略的に示す。矢印に示すように、Tg及びTc onsetは、加熱速度(heating rate)が減少されるにつれて低くなる。
【図3】図3は、表2のガラス1についてのガラス転移温度(Tg)及び軟化点(Dilatometric Softening Point;Ts)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明のガラスを生物活性ガラスという。生物活性ガラスは、生きていいる組織に移植されると、その物質とそれを取り囲んだ生きている組織との間に界面結合を形成できるものである。人工体液(SBF)に露出させたガラスの表面における炭酸ハイドロキシアパタイト(hydroxycarbonated apatite;HCA)の生成速度(rate of development)は、生物活性のインビト・ロインデックスを提供する。本発明において、例えば次の実施例1に記載した手順に基づいてSBFに露出したときに、結晶性HCA層の沈着が起こるのであれば、そのガラスは生物活性ガラスとされる。結晶性HCA層の沈着のほうは、例えば、フーリエ変換赤外分光(FTIR)によって測定することができる。生物活性を代表するHCA層の沈着は、SBFに露出されてから7日以内に結晶性HCA層が沈着されれば(FTIRによって測定する。)、起きたものと考えられる。その沈着が3日以内に起こるのが好ましく、24時間以内に起こるのがより好ましい。また、HCA沈着は、X線回折(X-ray Powder Diffraction;XRD)によって検出することができる。
【0058】
生物活性ガラスの熱膨張係数は、実施例7に記載した方法によって計算した。ネットワーク連結性は、実施例2に記載した方法によって計算した。
【0059】
当業者に知られたように、ガラス組成物は、その酸化物成分の比率により定義される。本発明の好ましいガラス組成物を次の表2及び3に表した。また、本発明のガラスは、ガラス組成物を構成する酸化物、及び/又は、熱によって分解されて酸化物を形成するその他の化合物(例えば、炭酸塩)から製造され得る。そのガラスは、周知の溶融法(melt technique)に基づいて製造され得る。溶融系ガラス(melt-derived glass)は、適当な炭酸塩または酸化物の粒(grain)を混合し、溶融し、その混合物を1250〜1500℃の温度で均質化(homogenizing)して製造するのが好ましい。その後、その混合物を冷却して(好ましくは、脱イオン水のような適当な液体に溶融混合物を浸漬することによって冷却する。)、ガラスフリット(glass frit)を生成する。このガラスフリットは、乾燥され、粉砕され、かつ、ふるいにかけられて、ガラス粉末を形成できるものである。ふるいにかけることで最大粒度(最も大きい粒子寸法)を有するガラス粉末を得ることができる。例えば、以下の実施例に示すように、最大粒度<38ミクロンを有するガラス粉末を製造するために38ミクロン未満のふるいを用いることができる。
【実施例1】
【0060】
生物活性の測定
トリス−緩衝液の製造
トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液(tris-hydroxy methyl amino methane buffer)を製造するために、USBiomaterials Corporation(SOP-006)の標準製造法に従った。約400mlの脱イオン水で満たされた目盛付きのフラスコにTHAM7.545gを移した。THAMが溶解されたら、2NのHCl22.1mlをそのフラスコに加えた。その後、脱イオン水を加えて1000mlに調整し、37℃でpH7.25となるように調整した。
【0061】
人工体液(SBF)の製造
Kokubo,T.らの方法(Kokubo, T., et al., J. Biomed. Mater.Res., 1990. 24: p. 721-734)に基づいてSBFを製造した。
【0062】
脱イオン水に表1の試薬を順次加えて、SBF1リットルを製造した。試薬すべてを700mlの脱イオン水に溶かして、37℃に加温した。そのpHを測定し、pH7.25となるようにHClを加え、そして、脱イオン水を用いてその体積を1000mlにした。
【0063】
【表1】

【0064】
生物活性を決定するための粉末分析(powder assay)
トリス−緩衝液又はSBF50mlに38ミクロン未満の粒度を有するガラス粉末を加えて、37℃で振った。一連の時間間隔にサンプルをとって、既知の誘導結合プラズマ発光分光(例えば、Kokubo 1990)を用いてイオン種の濃度を測定した。
【0065】
また、HCA層の形成に関して、X線回折及びFTIRによってガラスの表面をモニターした。HCAピークの出現(X線回折パターンにおいて25.9、32.0、32.3、33.2、39.4 and 46.9の2つのシータ値を特徴とする。)はHCA層の形成を示した。これらの値は、空間格子(lattice)における炭酸塩置換及びSr置換に起因してある程度変動する。FTIRスペクトルでは、566及び598cm-1の波長におけるP−Oバンドシグナル(bend signal)の出現は、HCA層の沈着を示す。
【実施例2】
【0066】
ネットワーク連結性の計算
ネットワーク連結性(NC)は、文献[Hill, J. Mater. Sci. Letts., 15, 1122-1125 (1996)]に記載された方法に基づいて計算されるが、燐が別のオルト燐酸塩相として存在し、ガラスネットワークを構成しないとの前提(仮定)の下で計算された。この前提は、ソリッドステートNMRデータを含んでガラスネットワークにおける燐の役割の実験的観察に基づく。
【0067】
NCは次のとおり計算される。
【0068】
【数1】

【0069】
NC計算を行うために、構造的前提(仮定)を設けなければならない。この計算は、MgO及びZnOが単にネットワーク変更性酸化物(network modifying oxide)として作用し、中間酸化物(intermediate oxide)として作用しないとの前提の下で行われる。フッ化物を含んだガラスの場合、フッ化物は、最も電荷の大きいカチオンと錯体を形成し、非架橋フッ化物(non-bridging fluoride)を形成しないので、例えばフッ素がCaF2で加えられるとき、それはNCに影響を及ぼさない。B23の場合、これはガラスネットワークにいくつかの役割をするかもしれないが、その役割が明確になっていないためNCの計算では無視された。
【実施例3】
【0070】
Ti6Al4Vの単層被覆
表2は、特にTi6Al4V合金に適したガラス組成物の例を示す。
【0071】
5〜6ミクロンの平均粒度を有する粒度<38ミクロンのガラス組成物1(表2)を、そのガラスと分子量50000〜100000の1%ポリ(メチルメタクリレート)を含有するクロロホルムと混合すること(重量比1:5)で、TiAl6V合金製股インプラントに被覆した。プロステーシスの大腿骨ステム(femoral stem)を前記クロロホルムガラス懸濁液に浸し、ゆっくりと引き伸ばし、そのクロロホルムを蒸発させた。その後、プロステーシスの温度を2〜60℃/min-1で750℃(ガラス転移温度である614℃より高いが、結晶化開始温度である790℃より低い。)まで上昇させた。プロステーシスは、真空下で前記温度にて30分間放置され、その後、室温に冷却された。
【0072】
被覆されたプロステーシスは、それが浸された領域上に厚さ50〜300ミクロンの光沢のある生物活性ガラス被覆物を有していた。人工体液中に置くと、7日以内にその被覆物にHCA層が形成された。
【実施例4】
【0073】
Ti6Al4Vの二層被覆
Ti6A14V合金用ベース被覆組成物、及び、本発明のガラスを含んだ被覆物層と併せて使えるベース被覆組成物については表4に表した。
【0074】
5〜6ミクロンの平均粒度を有する粒度<38ミクロンのガラス組成物16(表4)を、そのガラスと分子量50000〜100000の1%ポリ(メチルメタクリレート)を含有するクロロホルムと混合すること(重量比1:5)で、TiAl6V合金製股インプラントに被覆した。プロステーシスの大腿骨ステムを前記クロロホルムガラス懸濁液に浸し、ゆっくりと引き伸ばし、そのクロロホルムを蒸発させた。その後、プロステーシスの温度を60℃/min-1で450℃まで上昇させ、30分間放置した。その後、750℃に上昇させて、真空下で前記温度にて30分間放置し、その後、室温に冷却した。
【0075】
ガラス組成物2(表2)に対して以上の手順を繰り返した。被覆されたプロステーシスは、それが浸された領域上に厚さ50〜300ミクロンの光沢のある生物活性ガラス被覆物を有していた。
【実施例5】
【0076】
クロム・コバルト合金の単層被覆
表3は、特にクロム・コバルト合金を被覆するに適したガラス組成物の例を示す。
【0077】
5〜6ミクロンの平均粒度を有する粒度<38ミクロンのガラス組成物15(表3)を、そのガラスと分子量50000〜100000の1%ポリ(メチルメタクリレート)を含有するクロロホルムと混合すること(重量比1:5)で、クロム・コバルト合金製股インプラントに被覆した。プロステーシスの大腿骨ステム(femoral stem)を前記クロロホルムガラス懸濁液に浸し、ゆっくりと引き伸ばし、そのクロロホルムを蒸発させた。
【0078】
その後、プロステーシスの温度を2〜60℃/min-1で450℃まで上昇させて10分間放置し、その後、800℃まで温度を上げて真空下で30分間放置し、その後、室温に冷却した。
【0079】
表3の実施例8のガラスから分かるように、35〜53モル%の(好ましくは、45〜50%) SiO2、2〜11モル%のNa2O、2モル%以上のCaO、2モル%以上のMgO、2モル%以上のK2O、0〜15モル%のZnO、0〜2モル%のB2O3及び0〜9モル%のP2O5を有するストロンチウムフリーガラス組成物を製造した。この組成物はそれぞれ8〜10モル%のP2O5、CaO、Na2O、K2O、ZnO及びMgOを含むのが好ましい。
【実施例6】
【0080】
クロム・コバルト合金の二層被覆
クロム・コバルト合金用ベース被覆組成物、及び、本発明のガラスを含んだ被覆物層と併せて使えるベース被覆組成物については表5に表した。
【0081】
5〜6ミクロンの平均粒度を有する粒度<38ミクロンのガラス組成物22(表5)を、そのガラスと分子量50000〜100000の1%ポリ(メチルメタクリレート)を含有するクロロホルムと混合すること(重量比1:5)で、TiAl6V合金製股インプラントに被覆した。プロステーシスの大腿骨ステムを前記クロロホルムガラス懸濁液に浸し、ゆっくりと引き伸ばし、そのクロロホルムを蒸発させた。
【0082】
その後、プロステーシスの温度を2〜60℃/min-1で450℃まで上昇させ、10分間放置した。その後、750℃に上昇させて、真空下で前記温度にて30分間放置し、その後、室温まで冷却した。
【0083】
ガラス組成物15(表3)に対して以上の手順を繰り返した(ただし、最終的に800℃で放置した。)。
【0084】
被覆されたプロステーシスは、それが浸された領域上に厚さ50〜300ミクロンの光沢のある生物活性ガラス被覆物を有していた。SBF中に置かれたとき、その被覆物は7日以内にHCA層を沈着させた(FTIRによる検出)。
【実施例7】
【0085】
熱膨張係数(TEC)の推定(estimation)
TEC値はAppenファクタを用いて計算した。文献[Cable, M., Classical Glass Technology (Chapter 1), in Glasses and Amorphous Materials, J. Zarzycki, Editor. 1991, VCH: Weinheim]参照。Appenファクタは、以前研究されたケイ酸塩ガラスに基づく実験的パラメータである。このAppenファクタ計算には、リン酸塩についてのAppenファクタを考慮にいれない(即ち、無視する)第1の方法(リン酸塩の存在を含まないAppenファクタ計算法)と、リン酸塩のAppenファクタを用いる第2の方法がある。第1の方法では、リン酸塩はオルトリン酸塩として存在し、かつ、ケイ酸塩ガラスマトリックス相に分散された第2のナノスケールガラス相として存在するとみなされる。マトリックスケイ酸塩相がTECを決定するとの仮定(前提)を立てた。計算に当たっては、Ca2+及びNa+イオンはガラス組成物全体に存在する比率でオルトリン酸塩相と電荷平衡をなすと仮定する。その後、(オルトリン酸塩の電荷平衡後)ケイ酸塩相の組成を再計算し、TECのAppen計算を行う。
【0086】
ガラス1(表2)の計算を行った。ガラス1のTECは10.9×10-6-1であった。第2の計算法によれば、このガラスのTECは9.69×10-6-1であった。
【実施例8】
【0087】
膨張率測定法を用いた熱膨張係数の測定
各ガラスについてTs(dilatometric softening temperature)及びTECを決定するためにNetzch膨張計を用いて膨張率測定を行った。5℃/minの速度で30℃〜ガラス転移温度(DSC分析により確認されたもの)にて20mmのキャストバー(cast bar)サンプルを分析した。このTEC及びTsはシステムソフトウェアを用いて各トレース(trace)から決定された。一部のケースでは、ガラスがTs後に非常によく流れることが観察された。
【実施例9】
【0088】
ガラスの製造
本発明のガラスの例は表2及び3に示されている。これらのガラスは、既知の溶融−急冷製造法(melt-quench production)によって製造した。ガラス1は、次のとおり製造した。本発明に係るその他のガラスの製造には、酸化物/炭酸塩の比率を異ならせる点を除き、同じ製法を用いることができる。
【0089】
49.49gのシリカ(石英)、2.53gの五酸化リン、54.37gの炭酸カルシウム、5.82gの炭酸ナトリウム、7.60gの炭酸カリウム、4.07gの酸化亜鉛、及び、4.87gの酸化マグネシウムを混合し白金るつぼに入れ、1440℃で1.5時間溶融し、脱塩水に加えて、粒状ガラスフリットを得た。そのフリットを乾燥し、振動ミル(vibratory mill)を用いて粉にすることで、粉末を得た。
【実施例10】
【0090】
ガラス1に対するDSC計算
表2に表したガラス1に対して示差走査熱量測定を行った。この分析から、Tg開始(Tg onset)が604℃で、結晶化開始(crystallization onset)が808℃であるので、プロセッシング/焼結ウィンドウが204℃であることが分かった。DSC分析は、Stanton Redcroft DSC1500装置、場合によっては、Stanton Redcroft DTA/TGA1600を用いて行われた。
【0091】
場合によっては、Tc onsetを正確に決定するのが難しい(特に、結晶化が遅い場合に)。いずれのケースでも、Tc onsetは750℃を上回る。よって、本発明のガラスのプロセッシングウィンドウは>(750℃−Tg)といえる。これを考慮すれば、表2に示したガラスすべては152℃を超えるプロセッシングウィンドウを有する。
【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
35〜53モル%のSiO2、2〜11モル%のNa2O、2モル%以上のCaO、2モル%以上のMgO、2モル%以上のK2O、0〜15モル%ZnO、0〜3モル%のP2O5、及び0〜2モルの%B2O3を含み、かつ、SiO2、P2O5及びB2O3を合わせたモル%が40〜54モル%であることを特徴とするストロンチウムフリー生物活性ガラス
【請求項2】
45〜50モル%のSiO2を含む請求項1に記載の生物活性ガラス。
【請求項3】
8〜35モル%のCaOを含む請求項1又は2に記載の生物活性ガラス。
【請求項4】
5〜18モル%のMgOを含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の生物活性ガラス。
【請求項5】
3〜11モル%のK2Oを含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の生物活性ガラス。
【請求項6】
1〜3モル%のP2O5を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の生物活性ガラス。
【請求項7】
1〜5モル%のZnOを含む請求項1〜6のいずれか一項に記載の生物活性ガラス。
【請求項8】
1〜5モル%のLi2Oを含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の生物活性ガラス。
【請求項9】
0〜10%のCaF2を含む請求項1〜8のいずれか一項に記載の生物活性ガラス。
【請求項10】
Na2OとK2Oとを合わせたモル%が15モル%未満であり、そして、前記生物活性ガラスの熱膨張係数が8.8×10-6-1〜12×10-6-1である請求項1〜9のいずれか一項に記載の生物活性ガラス。
【請求項11】
前記ガラスが、50モル%未満のSiO2、2モル%以上のMgO又は1モル%以上のZnOを含み、かつ、1.9〜2.4のネットワーク連結性を有する請求項10に記載の生物活性ガラス。
【請求項12】
45〜50モル%のSiO2、1〜2モル%のP2O5、15〜35モル%のCaO、3〜7モル%のNa2O、3〜7モル%のK2O、2〜4%のZnO、5〜18モル%のMgO、及び、0〜10モル%のCaF2を含む請求項1〜7、9〜11のいずれか一項に記載の生物活性ガラス。
【請求項13】
49〜50モル%のSiO2、1〜1.5モル%のP2O5、17〜33モル%のCaO、3.3〜6.6モル%のNa2O、3.3〜6.6モル%のK2O、2〜4モル%のZnO、7〜17モル%のMgO、及び、0〜6モル%のCaF2を含む請求項12に記載の生物活性ガラス。
【請求項14】
49.46モル%のSiO2、1.07モル%のP2O5及び3モル%のZnOを含む請求項13に記載の生物活性ガラス。
【請求項15】
Na2OとK2Oとを合わせたモル%が30モル%未満であり、かつ、前記ガラスの熱膨張係数が11×10-6-1〜14×10-6-1である請求項1〜9のいずれか一項に記載の生物活性ガラス。
【請求項16】
前記ガラスが、52モル%未満のSiO2、2モル%以上のMgO、及び、1モル%以上のZnOを含み、かつ、1.8〜2.5のネットワーク連結性を有する請求項15に記載の生物活性ガラス。
【請求項17】
45〜50モル%のSiO2、1〜3モル%のP2O5、0〜2モル%のB2O3、8〜25モル%のCaO、7〜11モル%のNa2O、7〜11モル%のK2O、2〜12%のZnO、8〜12モル%のMgO、及び、0〜5モル%のCaF2を含む請求項1〜7、9〜11に記載の生物活性ガラス。
【請求項18】
35〜53モル%のSiO2、2〜11モル%のNa2O、2モル%以上のCaO、2モル%以上のMgO、2モル%以上のK2O、0〜15モル%のZnO、0〜2モル%のB2O3及び0〜9モル%のP2O5を含むことを特徴とするストロンチウムフリー生物活性ガラス。
【請求項19】
それぞれ8〜10モル%のP2O5、CaO、Na2O、K2O、ZnO及びMgOを含む請求項18に記載の生物活性ガラス。
【請求項20】
Ti6Al4V又はクロム・コバルト合金を含む表面を被覆するために用いられる請求項1〜19のいずれか一項に記載の生物活性ガラス。
【請求項21】
Ti6Al4V合金を含む表面を被覆するために用いられる請求項10〜14のいずれか一項に記載の生物活性ガラス。
【請求項22】
クロム・コバルト合金を含む表面を被覆するために用いられる請求項15〜19のいずれか一項に記載の生物活性ガラス。
【請求項23】
Ti6Al4V又はクロム・コバルト合金を含むプロステーシスの表面を被覆するために用いられる請求項20〜22のいずれか一項に記載の生物活性ガラス。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれか一項に記載の生物活性ガラスを含むことを特徴とするガラス被覆物。
【請求項25】
前記ガラス被覆物が二層被覆物であり、そして、前記二層被覆物を構成する二層のうち1以上の層が請求項1〜23のいずれか一項に記載の生物活性ガラスを含む請求項24に記載のガラス被覆物。
【請求項26】
請求項24又は25に記載のガラス被覆物、又は、請求項1〜23のいずれか一項に記載の生物活性ガラスを含む被覆物によって被覆された、Ti6Al4V又はクロム・コバルト合金を含むプロステーシス。
【請求項27】
前記プロステーシスが、Ti6Al4Vを含み、そして、前記被覆物が請求項10〜14のいずれか一項に記載の生物活性ガラスを含む請求項26に記載のプロステーシス。
【請求項28】
前記プロステーシスが、クロム・コバルト合金を含み、そして、前記被覆物が請求項15〜19のいずれか一項に記載の生物活性ガラスを含む請求項24に記載のプロステーシス。
【請求項29】
平均粒度が100μm未満であり、かつ、90℃以上の処理温度ウィンドウを有する、請求項1〜23のいずれか一項に記載の生物活性ガラスを含むガラス粉末。
【請求項30】
前記粉末の平均粒度が50μm未満である請求項29に記載のガラス粉末。
【請求項31】
請求項29又は30に記載の前記ガラス粉末を被覆しようとする基材に適用して、焼結することを含む、Ti6Al4V又はクロム・コバルト合金を含む基材上にガラス被覆物を製造する方法。
【請求項32】
前記ガラス粉末を600〜1000℃の温度で焼結する請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ガラス粉末をガラス転移温度より50℃以上高く、かつ、結晶化開始温度未満の温度で焼結する請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ガラス粉末をガラス転移温度より100℃以上高い温度で焼結する請求項33に記載の方法。
【請求項35】
Ti6Al4Vを含む表面上に前記ガラス粉末を沈着し、1〜60℃min-1の速度で600〜960℃の焼結温度まで加熱する請求項32〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
クロム・コバルト合金を含む表面上に前記ガラス粉末を沈着し、600〜760℃の焼結温度に加熱する請求項32〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
ガラス粒子の懸濁液中の浸漬被覆、フレーム溶射、プラズマ溶射、又は、電気泳動析出によって、被覆しようとする前記基材に前記ガラス粉末を適用する請求項32〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
被覆しようとする前記表面に酸化コバルト(II)及び/または酸化コバルト(III)を適用する工程をさらに含み、かつ、前記被覆物を730℃以上の温度で焼結する請求項32〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記酸化コバルト(II)及び/又は酸化コバルト(III)を前記生物活性ガラス粉末の0.2〜3.0重量%の総量で適用する請求項38に記載の方法。
【請求項40】
本明細書の実施例及び/又は図面に記載したガラス、被覆物、プロステーシス、ガラス粉末、又は、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−507786(P2011−507786A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538897(P2010−538897)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/GB2008/004196
【国際公開番号】WO2009/081120
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(508077506)インペリアル イノベーションズ リミテッド (7)
【Fターム(参考)】