説明

生物活性薬の封入

本発明は、Hip剤を使用して、ナノ粒子等の微粒子担体中にタンパク質などの生物活性薬を封入するための方法を提供する。また当該方法によって得られた微粒子担体を含む組成物および治療におけるかかる組成物の使用も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Hip剤を使用して、ナノ粒子等の微粒子担体中にタンパク質などの生物活性薬を封入するための方法を提供する。また当該方法によって得られた微粒子担体を含む組成物および治療におけるかかる組成物の使用も提供する。
【背景技術】
【0002】
いくつもの薬物は脳内または眼内の標的において活性を有し、これらがその標的に到達するためには血液脳関門などの生物学的関門を通過しなければならない。いくつかの分子は生物学的関門を横切ることができる一方、他の分子はこれらの関門を効率的にまたは事実上全く通過しない。多くの薬物はまた、直接標的組織中に投与されたときにのみ有効であって、もしこの標的組織に到達できなければその薬物は作用することができない。それ故に、多くの潜在的に効力を持つ薬物はかかる生物学的関門を通過する能力がないために臨床的に無用になる。
【0003】
これらの生物学的関門を通って薬物貫入を増加するいくつもの手法が当技術分野では記載されている。
【0004】
1つの手法は関門それ自体の機能を改変することであった。例えば、浸透剤またはコリン様アレコリンは血液脳関門を開放するかまたは透過性の変化をもたらす(Saija A et al、J Pharm. Pha. 42:135-138 (1990))。
【0005】
他の手法は薬物分子自体の改変を行う。例えば、血液脳関門の通過を企てるタンパク質の改変には、かかるタンパク質の糖化、あるいはプロドラッグの形成が挙げられる(WO/2006/029845)。
【0006】
さらに他の手法は制御放出ポリマーの移植であって、この手法は活性成分をマトリックス系から神経組織中に直接放出する。しかし、この手法は侵襲性であり、もし脳または脊髄中に直接移植するのであれば外科介入を必要として(Sableら、米国特許第4,833,666号)患者コンプライアンスの問題があり、通常非常に速やかに排出される投与薬による脳内の局所送達にだけ行われることが多い(WO/2006/029845)。
【0007】
これらの制限を克服するために薬物担体系が使用されている、しかし、標的化薬物送達における主な問題は、肝臓および脾臓における細網内皮系(RES)による、とりわけマクロファージによる速やかなオプソニン化と注入された担体の取込みである。
【0008】
それ故に、タンパク質などの巨大分子を脳および眼に送達する効率的かつ効果的な手法に対するニーズが存続している。特に、巨大分子の血液脳関門を横切る送達の方法であって、脳中に進入して活性を保持し得て、かつ所望の放出動力学も提供してタンパク質安定性と活性を維持し、そしてクリアランス機構を避けることができる前記方法を見出すことが所望される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO/2006/029845
【特許文献2】米国特許第4,833,666号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Saija A et al、J Pharm. Pha. 42:135-138 (1990)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様においては、生物活性薬を微粒子担体に封入する方法、例えばタンパク質および/またはペプチドをナノ粒子中に、または、中におよび上に、または、によって封入する方法、ならびにタンパク質および/またはペプチドを、ナノ粒子中に、または、中におよび上に、または、によって封入することにより血液脳関門を横切って送達する方法、ならびにタンパク質および/またはペプチドを、微粒子担体中に、または、中におよび上に、または、によって封入することにより眼に送達する方法を提供する。
【0012】
本発明の他の実施形態においては、粒子形成物質およびタンパク質および/またはペプチドなどの生物活性薬を含む微粒子担体であって、タンパク質またはペプチドを血液から脳へ血液脳関門を横切って送達するかまたは眼へ送達するための前記微粒子担体を提供する。本発明の他の実施形態においては、ナノ粒子の組成物ならびに中枢神経系および/または眼の障害または疾患を治療する上でのそれらの使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1a】動的光散乱(DLS)により得た粒度分布測定データであり、懸濁液中のナノ粒子の存在を示す。図1(a)は動的光散乱によるナノ粒子懸濁液の分析によって得たコレログラム(Correlogram)である。
【図1b】動的光散乱(DLS)によりナノ粒子製剤に対して得た粒度分布測定データであり、懸濁液中で中空法を介して調製したナノ粒子の存在を示す。図1(b)はプロットしたナノ粒子の多モードサイズ分布(誘導したデータ)であり、全サイズ範囲にわたる粒子集団(数)の分布を示す。
【図1c】動的光散乱(DLS)によりナノ粒子製剤に対して得た粒度分布測定データであり、懸濁液中で中空法を介して調製したナノ粒子の存在を示す。図1(c)はプロットしたナノ粒子の多モードサイズ分布(誘導したデータ)であり、全サイズ範囲にわたる粒子集団(数)の分布を示す。
【図1d】動的光散乱(DLS)によりナノ粒子製剤に対して得た粒度分布測定データであり、懸濁液中で中空法を介して調製したナノ粒子の存在を示す。図1(d)はプロットしたナノ粒子の多モードサイズ分布(誘導したデータ)であり、全サイズ範囲にわたる粒子集団(数)の分布を示す。
【図2】HIP法を用いて得た封入されたダラルジンの量と、粒子表面上への吸収の通常の方法により得た量との比較である。
【図3】HIP-PBCAナノ粒子による送達後の脳内のダラルジンレベルである。ペプチドは、HIPプロセスを用いて粒子内に封入したときにだけ脳内で検出可能であった。
【図4】HIPプロセスを用いるダラルジンのPBCAナノ粒子中への封入である。水相のpHの封入効率に与える効果の確認を示す。
【図5】HIPプロセスを用いる、抗雌鳥卵リゾチームドメイン抗体のPBCAナノ粒子への封入である。ナノ粒子をエドマン配列決定法により分析した。
【図6】dAbのHIP-PBCAナノ粒子中への封入をSDS-PAGE分析により確認した。ナノ粒子を遠心分離してフリーdAbを除去し、ペレットをSDS-PAGEにより分析して封入されたdAbを可視化した。
【図7】VEGF dAb(DOM15-26-593)のHIP-PBCAナノ粒子中への負荷の、SDS-PAGE分析による測定である。ナノ粒子製剤をdAb標準と比較してナノ粒子中に存在するdAbの量を定量した。12mgの出発入力のうち、全部で3.31mgのdAbがナノ粒子内に封入されていた。それ故に、負荷効率は27.6%であった。dAb負荷は3.31%w/wであった。
【図8】静脈内経路経由でそのタンパク質負荷をマウスの脳へ送達する能力について、ドメイン抗体を含有するHIP PBCAナノ粒子のin vivo評価から得た結果である。投与後10分に、ナノ粒子中のdAbは検出可能な脳取込みをもたらし、8.0ng/mlに達した。フリーdAbも若干低い濃度の3.3ng/ml(予備データ)にて脳内で検出可能であった。それ故に、ナノ粒子はタンパク質の脳取込みをわずかに増加すると思われた(予備データ)。60分になると逆の結果が観察され、フリーdAbが脳中に蓄積して脳レベルはさらに13.5ng/mlに増加した。脳レベルは補正したものである。
【図9】静脈内経路経由でドメイン抗体を含有するHIP PBCAナノ粒子のin vivo評価から誘導したdAbの脳対血液比である。この結果はdAbをナノ粒子と共に与えた場合、溶液中にフリーで与えた場合と比較して、血液と比べてより高い比率のdAbが脳内に存在したことを示す。
【図10】ドメイン抗体を含有するHIP PBCAナノ粒子の、タンパク質負荷を頸動脈経路経由でマウスの脳へ送達する能力についてin vivo評価から得た結果である。投与後10分間に、ナノ粒子グループ中のdAbは高いレベルの脳内のdAbを示し、平均627.60ng/mlであった。
【図11】頸動脈経路経由でドメイン抗体を含有するHIP PBCAナノ粒子のin vivo評価から誘導したdAbの脳対血液比である。ナノ粒子グループのdAbは、両時点において1を超える脳対血液比(10および60分後にそれぞれ1.569および1.845)を示し、製剤したdAbの大部分が首尾よく脳に到達したことを示す。
【図12】光顕微鏡による、ミクロスフェアの作製の確認である。ミクロスフェアの製剤は全てポリカプロラクトンを用いるHIPプロセスにより作製した。(a) Vit E TPGS 2% 界面活性剤 4000rpm 2分間 20x 拡大率 (b) Vit E TPGS 2% 界面活性剤 7500rpm 2分間 20x 拡大率 (c) Vit E TPGS 2% 界面活性剤 7500rpm 2分間 + dAb1 20x 拡大率 (d) Vit E TPGS 2% 界面活性剤 7500rpm 2分間 + dAb2 20x 拡大率
【図13a】レーザー回折によるミクロスフェアの作製の確認である。ミクロスフェアの製剤は全てポリカプロラクトンを用いるHIPプロセスにより作製した。(a) Vit E TPGS 2% 界面活性剤 4000rpm 2分間 20x 拡大率
【図13b】レーザー回折によるミクロスフェアの作製の確認である。ミクロスフェアの製剤は全てポリカプロラクトンを用いるHIPプロセスにより作製した。(b) Vit E TPGS 2% 界面活性剤 7500rpm 2分間 20x 拡大率
【図13c】レーザー回折によるミクロスフェアの作製の確認である。ミクロスフェアの製剤は全てポリカプロラクトンを用いるHIPプロセスにより作製した。(c) Vit E TPGS 2% 界面活性剤 7500rpm 2分間 + dAb1 20x 拡大率
【図13d】レーザー回折によるミクロスフェアの作製の確認である。ミクロスフェアの製剤は全てポリカプロラクトンを用いるHIPプロセスにより作製した。(d) Vit E TPGS 2% 界面活性剤 7500rpm 2分間 + dAb2 20x 拡大率
【図14】SDS-PAGE分析による、HIP-PCミクロスフェア中へのdAbの封入の確認である。ミクロスフェアを濾過し(F)、遠心分離して(3kまたは13K rpm)フリーdAbおよび上清(S)、およびペレット(P)を取出し、SDS-PAGEにより分析して封入dAbを可視化した。
【図15】SDS-PAGE分析による、HIP-PCミクロスフェアからの封入dAbの放出の確認。ミクロスフェアを洗浄し、次いで56℃で0、20、40または60分間熱処理し、dAbを放出し、デブリスをペレット化し(5分間、5kにて)、ペレット化dAb(5分間、5kにて)および上清、(S)をSDS-PAGEにより分析して封入されたdAbを可視化した。分子マーカーについては、Blue Plus 2前染色した標準(invitrogen)、分子量(kd)を参照されたい。ゲルはdAbの放出が起こったことを確認した。ゲルはまた、dAbが無傷であって、放出プロセスによって断片化されなかったことも確認した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は粒子形成物質および生物活性薬を含む微粒子担体ならびに前記微粒子担体を作製する方法を提供する。
【0015】
本発明の一実施形態においては、生物活性薬を微粒子担体中に封入する方法であって、
a)生物活性薬を疎水性イオン対形成(HIP)剤の存在でかつ有機溶媒中で溶解するステップ;
b)ポリマー形成物質のモノマーおよび/またはオリゴマーをステップ(a)で形成した有機相に溶解するステップ;
c)ステップ(b)で形成した有機相の、連続水相中の乳濁液を形成し、モノマーを重合するステップ;ならびに
d)形成した微粒子担体を乳濁液から得るステップ
を含むものである前記方法を提供する。
【0016】
本発明のさらなる実施形態においては、生物活性薬を微粒子担体中に封入する方法であって、
a)水相中の生物活性薬を有機溶媒中の疎水性イオン対形成(HIP)剤と混合して生物活性薬-HIP複合体を形成するステップ;
b)前記複合体を水相から分離するステップ;
c)水相を除去しかつ複合体を有機相でホモジナイズするステップ;
d)(i)ポリマーをステップ(c)で形成した有機相に溶解し、次いで連続水相中に有機相の乳濁液を形成するステップ;または
(ii)ポリマー形成物質のモノマーまたはオリゴマーをステップ(c)で形成した有機相に溶解し次いで連続水相中に有機相の乳濁液を形成し、モノマーまたはオリゴマーを重合してポリマーを形成するステップ;ならびに
e)形成した微粒子担体をステップ(d)の乳濁液から得るステップ
を含むものである前記方法を提供する。
【0017】
疎水性イオン対形成剤を用いるこの方法は、生物活性薬、例えば親水性タンパク質などのタンパク質の疎水性ポリマー粒子のコア内の封入を可能にする。疎水性イオン対形成はタンパク質の有機媒質中への抽出を可能にし、従って、本方法は単一乳濁液による微粒子担体の調製を可能にする。
【0018】
さらなる一実施形態において、本発明の微粒子担体はタンパク質またはペプチドなどの生物活性薬を含む。かかるタンパク質は抗原結合分子であって、本明細書で抗体、抗体断片および標的と結合することができる他のタンパク質構築物を意味しうる。
【0019】
抗原結合分子はドメインを含みうる。「ドメイン」はタンパク質の残部とは独立した三次構造を有するフォールドされたタンパク質構造である。一般に、ドメインはタンパク質の明確な機能特性に関わり、多くの場合、タンパク質および/またはドメインの残部の機能を喪失することなく、他のタンパク質に加えるか、取り除くかまたは伝達することができる。「単一抗体可変ドメイン」は抗体可変ドメインの特徴的な配列を含むフォールドしたポリペプチドドメインである。それ故に、単一抗体可変ドメインには、完全な抗体可変ドメイン、および、例えば、1以上のループが抗体可変ドメインの特徴でない配列により置き換えられている改変された可変ドメイン、または末端切断されているかまたはN-もしくはC-末端伸長部を含む抗体可変ドメイン、ならびに全長ドメインの少なくとも結合活性および特異性を保持する可変ドメインのフォールドされた断片が含まれる。
【0020】
抗原結合分子は少なくとも1つの免疫グロブリン可変ドメインを含んでもよく、例えば、かかる分子は抗体、ドメイン抗体、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、ScFv、ダイアボディ、ヘテロコンジュゲート抗体を含んでもよい。かかる抗原結合分子は単一標的と結合することができてもよく、または多特異的、すなわち、いくつもの標的と結合してもよく、例えば、これらの分子は二特異的または三特異的であってもよい。一実施形態において、抗原結合分子は抗体である。他の実施形態において、抗原結合分子はドメイン抗体(dAb)である。なおさらなる実施形態において、抗原結合分子は抗体と抗原結合断片の組合わせ、例えば、モノクローナル抗体と結合した1以上のdAbおよび/または1以上のScFvであってもよい。なおさらなる実施形態において、抗原結合分子は抗体とペプチドの組合わせであってもよい。抗原結合分子は少なくとも1つの非-Ig結合ドメイン、例えば、異なるV領域またはドメインとは独立した抗原またはエピトープと特異的に結合するドメインを含んでもよく、このドメインはdAb、例えばヒト、ラクダ科動物またはサメ免疫グロブリン単一可変ドメインであってもよく、またはこのドメインはCTLA-4(エヴィボディ);リポカリン;プロテインAから誘導される分子、例えばプロテインA(アフィボディ、SpA)のZ-ドメイン、A-ドメイン(アビマー/マキシボディ);熱ショックタンパク質、例えばGroELおよびGroES;トランスフェリン(trans-body);アンキリン反復タンパク質(DARPin);ペプチドアプタマー;C型レクチンドメイン(テトラネクチン);ヒト-クリスタリンおよびヒト-ユビキチン(アフィリン);PDZドメイン;scorpion毒素;ヒト-プロテアーゼインヒビターのkunitz型ドメイン;およびフィブロネクチン(アドネクチン)からなる群より選択されるスカフォールドの誘導体であって;自然リガンド以外のリガンドとの結合を得るためにタンパク質工学で処理されていてもよい。
【0021】
CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4)は、主にCD4+T細胞で発現されるCD28ファミリー受容体である。その細胞外ドメインは可変ドメイン様Igフォールドを有する。抗体のCDRに対応するループを、異なる結合特性を与える異種配列で置換することができる。異なる結合特異性を有するように遺伝子操作で作られたCTLA-4分子はエヴィボディ(Evibody)としても公知である。さらなる詳細は、Journal of Immunological Methods 248 (1-2), 31-45 (2001)を参照されたい。
【0022】
リポカリンはステロイド、ビリン、レチノイドおよび脂質などの小さい疎水性分子を輸送する細胞外タンパク質のファミリーである。これらはコニカル構造の開放端末にいくつものループをもつ強固なシート二次構造を有し、この構造は異なる標的抗原を結合するように遺伝子操作で作ることができる。アンチカリンは、サイズが160〜180アミノ酸であって、リポカリンから誘導される。さらなる詳細は、Biochim Biophys Acta 1482: 337-350 (2000)、US7250297B1およびUS20070224633を参照されたい。
【0023】
アフィボディは黄色ブドウ球菌のプロテインAから誘導されたスカフォールドであって、抗原と結合するように遺伝子操作で作ることができる。そのドメインはおよそ58アミノ酸の3つのヘリカル束から成る。ライブラリーを表面残基の無作為化により作製することができる。さらなる詳細については、Protein Eng. Des. Sel. 17, 455-462 (2004)およびEP1641818A1を参照されたい。
【0024】
アビマーは、A-ドメインスカフォールドファミリーから誘導されたマルチドメインタンパク質である。およそ35アミノ酸の生来のドメインは規定されたジスルフィド結合構造を採用している。多様性は、A-ドメインのファミリーにより表された自然変異シャッフリングにより作られる。さらなる詳細については、Nature Biotechnology 23(12), 1556 - 1561 (2005)およびExpert Opinion on Investigational Drugs 16(6), 909-917 (June 2007)を参照されたい。
【0025】
トランスフェリンは単量体の血清輸送糖タンパク質である。トランスフェリンは、許容しうる表面ループにおいてペプチド配列の挿入により異なる標的抗原と結合するように遺伝子操作することができる。遺伝子操作で作られたトランスフェリンスカフォールドの例にはtrans-bodyが含まれる。さらなる詳細は、J. Biol. Chem 274, 24066-24073 (1999)を参照されたい。
【0026】
設計されたアンキリン反復タンパク質(DARPin)は、内在膜タンパク質の細胞骨格との結合に介在するタンパク質のファミリーであるアンキリンから誘導される。単一アンキリン反復は、2つのヘリックスと1つのターンから成る33残基モチーフである。これらを、各反復の第1ヘリックスと1つのターン内の残基を無作為化することにより、遺伝子操作で異なる標的抗原と結合するように作ることができる。これらの結合界面はモジュール数を増加することにより増加することができる(アフィニティ成熟の方法)。さらなる詳細は、J. Mol. Biol. 332, 489-503 (2003), PNAS 100(4), 1700-1705 (2003)およびJ. Mol. Biol. 369, 1015-1028 (2007)およびUS20040132028A1を参照されたい。
【0027】
フィブロネクチンは抗原と結合するように遺伝子操作で作ることができる。
【0028】
アドネクチンは、ヒトフィブロネクチンIII型(FN3)の15反復ユニットの第10ドメインの自然アミノ酸配列の骨格から成る。そのサンドイッチの一端の3ループを遺伝子操作して、アネクチンが目的の治療標的を特異的に認識できるようにすることができる。さらなる詳細は、Protein Eng. Des. Sel. 18, 435-444 (2005)、US20080139791、WO2005056764およびUS6818418B1を参照されたい。
【0029】
ペプチドアプタマーは、定常スカフォールドタンパク質、典型的にはチオレドキシン(TrxA)から成るコンビナトリアル認識分子であり、この分子は活性部位に挿入された束縛された可変ペプチドループを含有する。さらなる詳細は、Expert Opin. Biol. Ther. 5, 783-797 (2005)を参照されたい。
【0030】
ミクロボディは、長さで25〜50アミノ酸の3〜4システイン架橋を含有する天然ミクロタンパク質から誘導され、ミクロタンパク質の例にはKalata B1およびコノトキシンおよびノッティンsが含まれる。ミクロタンパク質は、ミクロタンパク質の全フォールドに影響を与えずに25アミノ酸まで含むように遺伝子操作で作ることができるループを有する。遺伝子操作で作ったknottinドメインのさらなる詳細はWO2008098796を参照されたい。
【0031】
他の非Ig結合ドメインには、異なる標的抗原結合特性を遺伝子操作で作るスカフォールドとして使用されたタンパク質が含まれ、それには、ヒト-クリスタリンおよびヒトユビキチン(アフィリン)、ヒトプロテアーゼインヒビターのkunitz型ドメイン、Ras-結合プロテインAF-6のPDZ-ドメイン、スコルピン毒素 (カリブドトキシン)、C-型レクチンドメイン(テトラネクチン)が含まれ、Handbook of Therapeutic Antibodies (2007、Stefan Dubel編)の第7章「非抗体スカフォールド」およびProtein Science 15:14-27 (2006)に総括されている。本発明の非Ig結合ドメインはこれらの代わりのタンパク質ドメインのいずれかから誘導してもよい。
【0032】
本発明の一実施形態において、抗原結合分子は中枢神経系に、例えば脳または脊髄に、または例えば神経細胞組織に見出される標的と結合する。
【0033】
本明細書に記載した本発明のなおさらなる実施形態において、抗原結合分子は神経性疾患または障害に関連することが公知の標的、例えばMAG(ミエリン関連糖タンパク質)、NOGO(神経突起成長阻害タンパク質)またはβ-アミロイドと特異的に結合する。
【0034】
かかる抗原結合分子には、NOGOと結合することができる抗原結合分子、例えば抗NOGO抗体が含まれる。本発明で用いる抗NOGO抗体の一例は、配列番号1の重鎖および配列番号2の軽鎖により規定された抗体、または配列番号1および2に記載した抗体のCDRを含む抗NOGO抗体またはその抗原結合断片である。この抗体(H28 L16)のさらなる詳細は、本明細書に参照により組み入れられるPCT出願WO2007068750に見出すことができる。
【0035】
かかる抗原結合分子には、MAGと結合することができる抗原結合分子、例えば抗MAG抗体が含まれる。本発明で使用する抗MAG抗体の一例は、配列番号11の重鎖可変域および配列番号12の軽鎖可変域により規定された抗体、または配列番号1および2に記載した抗体のCDRを含む抗MAG抗体またはその抗原結合断片である。この抗体(BvH1 CvL1)のさらなる詳細は、本明細書に参照により組み入れられるPCT出願WO2004014953に見出すことができる。
【0036】
かかる抗原結合分子には、β-アミロイドと結合することができる抗原結合分子、例えば抗β-アミロイド抗体が含まれる。本発明で使用する抗β-アミロイド抗体の一例は、配列番号5の重鎖および配列番号6の軽鎖により規定された抗体、または抗β-アミロイド抗体または配列番号5および6に記載した抗体のCDRを含むその抗原結合断片である。この抗体(H2 L1)のさらなる詳細は、本明細書に参照により組み入れられるPCT出願WO2007113172に見出すことができる。
【0037】
本発明で使用する代替的な抗β-アミロイド抗体は、配列番号7の重鎖および配列番号8の軽鎖により規定された抗体または抗β-アミロイド抗体または配列番号7および8に記載した抗体のCDRを含むその抗原結合断片である。
【0038】
かかる抗体のCDR配列はKabat番号系(Kabat et al; Sequences of proteins of Immunological Interest NIH, 1987)、Chothia番号系(Al-Lazikani et al., (1997) JMB 273,927-948)、接触定義法(MacCallum R.M., and Martin A.C.R. and Thornton J.M, (1996), Journal of Molecular Biology, 262 (5), 732-745)または抗体の残基を番号付けるためのおよび当業者に公知のCDRを確認するための他の確立された方法により確認することができる。
【0039】
本発明の一実施形態において、抗原結合タンパク質は、眼中に見出される標的、例えば、TNF、TNFr-1、TNFr-2、TGFβ受容体-2、VEGF、NOGO、MAG、IL-1、IL-2、IL-6、IL-8、IL-17、CD20、βアミロイド、FGF-2、IGF-1、PEDF、PDGFまたは補因子、例えばC3、C5、C5aR、CFD、CFH、CFB、CFI、sCR1またはC3と結合することができる。
【0040】
本発明のさらなる実施形態において、抗原結合タンパク質は、VEGFに結合する。本発明の代替的な実施形態において、抗原結合タンパク質は、βアミロイドに結合する。
【0041】
本発明の一実施形態において、微粒子担体はミクロスフェアまたはナノ粒子であってもよい。かかる一実施形態において、微粒子担体はナノ粒子であり、生物活性薬はタンパク質である。他の実施形態において、微粒子担体はナノ粒子であり、生物活性薬はペプチドである。さらなる実施形態において、微粒子担体はナノ粒子であり、生物活性薬は抗原結合分子、例えばドメイン抗体または抗体を含む。なおさらなる実施形態において、微粒子担体はナノ粒子であり、生物活性薬はドメインを含む。他の実施形態において、微粒子担体はミクロスフェアであり、生物活性薬はタンパク質である。さらなる実施形態において、微粒子担体はミクロスフェアであり、生物活性薬はペプチドである。なおさらなる実施形態において、微粒子担体はミクロスフェアであり、生物活性薬は抗原結合分子、例えばドメイン抗体または抗体を含む。なおさらなる実施形態において、微粒子担体はミクロスフェアであり、生物活性薬はドメインを含む。
【0042】
本発明の一実施形態においては、本明細書に記載した本発明のいずれかの方法によるナノ粒子を含む組成物を提供する。さらなる実施形態においては、動的光散乱法を用いて測定すると、数で少なくとも約90%のナノ粒子は約1nm〜約1000nmの範囲内にある。さらなる実施形態においては、動的光散乱法を用いて測定すると、数で少なくとも約90%のナノ粒子は約1nm〜約400nmの範囲内、または約1nm〜約250nmの範囲内、または約1nm〜約150nmの範囲内、または約40nm〜約250nmの範囲内、または約40nm〜約150nmの範囲内、または約40nm〜約100nmの範囲内にある。
【0043】
本発明のなおさらなる実施形態においては、動的光散乱法を用いて測定すると、数で少なくとも約90%のナノ粒子は約40nm〜約250nmの範囲内にある。
【0044】
本発明のなおさらなる実施形態においては、動的光散乱法を用いて測定すると、数で少なくとも約90%のナノ粒子は約40nm〜約150nmの範囲内にある。
【0045】
本発明のなおさらなる実施形態においては、本発明のナノ粒子を含む組成物であって、組成物中のナノ粒子のメジアンサイズは、動的光散乱法を用いて測定すると、直径で約1000nm未満である、例えば直径で約400nm未満である、例えば直径で約250nm未満である、例えば直径で約150nm未満である前記組成物を提供する。
【0046】
本発明のなおさらなる実施形態において、組成物中のナノ粒子のメジアンサイズは約40nm〜約250nmである。本発明のなおさらなる実施形態において、組成物中のナノ粒子のメジアンサイズは約40nm〜約150nmである。
【0047】
本発明の一実施形態において、本明細書に記載した本発明のいずれかの方法によるミクロスフェアを含む組成物を提供する。さらなる実施形態において、低角レーザー光散乱法を用いて測定すると、数によりミクロスフェアの少なくとも約90%は約1μm〜約100μmの範囲内の直径を有する。さらなる実施形態において、低角レーザー光散乱法を用いて測定すると、数により粒子の少なくとも約90%は約1μm〜約80μm、または約1μm〜約60μmまたは約1μm〜約40μm、または約1μm〜約30μmまたは約1μm〜約10μmの範囲にある。
【0048】
本発明のなおさらなる実施形態において、低角レーザー光散乱法を用いて測定すると、数によりミクロスフェアの少なくとも約90%は約1μm〜約60μmの範囲にある。
【0049】
本発明のなおさらなる実施形態において、低角レーザー光散乱法を用いて測定すると、数によりミクロスフェアの少なくとも約90%は約1μm〜約30μmの範囲にある。
【0050】
なおさらなる実施形態においては、本発明のミクロスフェアを含む組成物であって、低角レーザー光散乱法により測定すると、その組成物中のミクロスフェアのメジアンサイズは直径が約100μm未満であり、例えば直径が約80μm未満であり、例えば直径が約60μm未満であり、例えば直径が約40μm未満である前記組成物を提供する。
【0051】
なおさらなる実施形態において、組成物中のミクロスフェアのメジアンサイズは約1μm〜約6μm、または1μm〜約30μmである。
【0052】
本発明の他の実施形態において、微粒子担体は活性生物分子の治療量を、少なくとも3ヶ月以上、または6カ月まで、または12か月以上の期間にわたって放出し続ける。
【0053】
一実施形態において、この生物活性薬は疎水性イオン対形成剤の存在なしには有機相に不溶である。
【0054】
本明細書に記載した本発明の一実施形態において、タンパク質がアニオンである場合、疎水性イオン対形成剤はカチオン性HIP形成剤である。他の実施形態において、タンパク質がカチオンである場合、疎水性イオン対形成剤はアニオン性HIP形成剤である。さらなる実施形態において、アニオン性HIP形成剤は、アルキル四級アンモニウムカチオン、好ましくは臭化アルキルアンモニウム、より好ましくは臭化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラヘキシルアンモニウム、臭化テトラオクチルアンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、オレイン酸ナトリウムまたはドクセートナトリウム(aka Aerosol OT(登録商標))からなる群より選択され、HIP形成剤はタンパク質の正味の正電荷の数以上の化学量論量で存在する。他の実施形態において、カチオン性HIP形成剤は、臭化ジメチルジオクタデシル-アンモニウム(DDAB18);1,2-ジオレオイルオキシ-3-(トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);または臭化セトリモニウム(CTAB)からなる群より選択され、HIP形成剤はタンパク質の正味の負電荷の数以上の化学量論量で存在する。
【0055】
さらなる実施形態において、いずれの疎水性カチオンまたはアニオンも潜在的に、タンパク質を可溶化するHIP形成剤として用いることができる。疎水性イオン対形成(HIP)は、極性対イオンの、類似電荷をもつが容易に溶媒和しない化学種との化学量論置換に関わる。本明細書に開示した通り、本発明は、HIPを用いてタンパク質の溶解度特性を変え、タンパク質の有機溶媒、例えば塩化メチレン中への抽出を可能にする方法を提供する。ドクセートナトリウム(すなわちビス(2-エチルヘキシル)コハク酸ナトリウム)は好適なイオン対形成剤の一例である。一実施形態においては、ドクセートナトリウムを含有する塩化メチレンをタンパク質水溶液と混合する。これは、ドクセートイオンのタンパク質とのイオン対形成および次いでタンパク質の油相中への分配をもたらす。タンパク質を塩化メチレンに溶解することによって、タンパク質を単一水中油乳濁液法を介して調製したナノ粒子またはミクロスフェアに封入することが可能になる。
【0056】
本明細書に記載した本発明の一実施形態において、タンパク質がアニオンでありかつHIP形成剤がカチオンである場合、連続水相は約7.0以上のpHを有し、例えば、pHは少なくとも約8.0または少なくとも約10.0であってもよく、または少なくとも約12.0である。
【0057】
本明細書に記載した本発明の代わりの実施形態において、タンパク質がカチオンでありかつHIP形成剤がアニオンである場合、連続水相は約7.0以下のpHを有し、例えば、pHは約6.0以下または約4.0以下または約2.0以下であってもよい。
【0058】
かかる一実施形態において、タンパク質のポリマーに対する重量/重量(w/w)比は0.5%〜90%であってもよく、例えば、少なくとも約0.5%であるか、または少なくとも約1%であるか、または少なくとも約2%であるか、または少なくとも約2.5%であるか、または少なくとも約5%であるか、または少なくとも約9%であるか、または少なくとも約10%であるか、または少なくとも約15%であるか、または少なくとも約20%であるか、または少なくとも約40%であるか、または少なくとも約50%であるか、または少なくとも約60%であるか、または少なくとも約70%であるか、または少なくとも約80%であるか、または少なくとも約90%である。例えば、タンパク質がペプチドである場合、ペプチド対ポリマー比は少なくとも約9%であってもよく、タンパク質が抗体である場合、抗体対ポリマー比は少なくとも約2%であってもよく、またはタンパク質がドメイン抗体である場合、ドメイン抗体対ポリマー比は少なくとも約2.5%であってもよい。
【0059】
本発明の一実施形態において、タンパク質の全製剤(ポリマー+HIPおよび任意に界面活性剤)に対するw/w比は、0.5%〜50%であってもよく、例えば少なくとも約5%または少なくとも約9%または少なくとも約15%または少なくとも約16%または少なくとも約20%または少なくとも約25%である。例えば、タンパク質がペプチドである場合、ペプチド対全製剤比は少なくとも約16%であってもよく、タンパク質が抗体である場合、抗体対ポリマー比は少なくとも約1%であってもよく、またタンパク質がドメイン抗体である場合、ドメイン抗体対全製剤比は少なくとも約9%であってもよい。
【0060】
本発明の一実施形態において、粒子の封入効率は、少なくとも約1%であるか、または少なくとも約2%であるか、または少なくとも約10%であるか、または少なくとも約20%であるか、または少なくとも約40%であるか、または少なくとも約50%であるか、または少なくとも約60%であるか、または少なくとも約70%であるか、または少なくとも約80%であるか、または少なくとも約90%であるか、または少なくとも約95%であるか、または少なくとも約97%であるか、または少なくとも約99%である。例えば、タンパク質がペプチドである場合、封入効率は少なくとも約90%でありうるし、タンパク質が抗体である場合、封入効率は少なくとも約1%でありうるし、タンパク質がドメイン抗体である場合、封入効率は少なくとも約70%でありうる。
【0061】
本発明の一実施形態において、モノマーまたはオリゴマーは、メチルメタクリレート、アルキルシアノアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸、エチレングリコールジメタクリレート、アクリルアミド、N、N'-ビスメチレンアクリルアミドおよび2-ジメチルアミノエチルメタクリレートからなる群より選択される。さらなる実施形態において、モノマーはアルキルシアノアクリレート、例えばブチルシアノアクリレート(BCA)である。
【0062】
さらなる実施形態において、本明細書に記載した方法のいずれかに使用するポリマーは、限定されるものでないが、ポリ-L-乳酸(PLA)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLG)、ポリ(乳酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)および/またはそれらのコポリマーから選択される。好適な粒子形成物質としては、限定されるものでないが、ポリ(ジエン)、例えばポリ(ブタジエン)など;ポリ(アルケン)、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなど;ポリ(アクリル酸)、例えばポリ(アクリル酸)など;ポリ(メタクリル酸)、例えばポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)など;ポリ(ビニルエーテル類);ポリ(ビニルアルコール);ポリ(ビニルケトン);ポリ(ハロゲン化ビニル)、例えばポリ(塩化ビニル)など;ポリ(ビニルニトリル)、ポリ(ビニルエステル)、例えばポリ(酢酸ビニル)など;ポリ(ビニルピリジン)、例えばポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(5-メチル-2-ビニルピリジン)など;ポリ(スチレン);ポリ(カーボネート);ポリ(エステル);ポリ(オルトエステル);ポリ(エステルアミド);ポリ(無水物);ポリ(ウレタン);ポリ(アミド);セルロースエーテル類、例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど;セルロースエステル、例えば酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸酪酸セルロースなど;多糖類、タンパク質、ゼラチン、デンプン、ガム、樹脂などが挙げられる。これらの材料は単独で、物理的混合物(ブレンド)として、またはコポリマーとして用いることができる。また、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリブチルシアノアクリレート、ポリアルキルシアノアクリレート、ポリアリールアミド、ポリアリールアミド、ポリ無水物、ポリオルトエステル、N,N-L-リシンジイルテレフタレート、ポリ無水物、脱溶媒した生物活性薬または炭水化物、多糖、ポリアクロレイン、ポリグルタルアルデヒドおよび誘導体、コポリマーおよびポリマーブレンドも好適な粒子形成物質として挙げられる。
【0063】
本発明の方法で使用するのに好適な有機溶媒の例としては、限定されるものでないが、水-非混和性エステル、例えば酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n-プロピル、酢酸イソブチル、酢酸n-ブチル、イソ酪酸イソブチル、酢酸2-エチルヘキシル、エチレングリコールジアセテート;水-非混和性ケトン、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルn-アミルケトン、ジイソブチルケトン;水-非混和性のアルデヒド、例えばアセトアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、2-エチルヘキスアルデヒド、イソブチルアルデヒドおよびプロピオンアルデヒド;水-非混和性エーテルエステル、例えば3-エトキシプロピオン酸エチル;水-非混和性の芳香族炭化水素、例えばトルエンキシレンおよびベンゼン;水-非混和性ハロゲン化炭化水素、例えば1,1,1-トリクロロエタン;水-非混和性グリコールエーテルエステル、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル酢酸エステル、エチレングリコールモノエチルエーテル酢酸エステル、エチレングリコールモノブチルエーテル酢酸エステル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル酢酸エステル;水-非混和性フタル酸エステル可塑剤、例えばフタル酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、テレフタル酸ジオクチル、フタル酸ブチルオクチル、ベンジルフタル酸ブチル、フタル酸アルキルベンジル;水-非混和性可塑剤、例えばアジピン酸ジオクチル、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、トリメリット酸トリオクチル、グリセリルトリアセテート、グリセリルトリプロピオネート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート、塩化メチレン、酢酸エチルまたはジメチルスルホキシド、四塩化炭素、クロロホルム、シクロヘキサン、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ヘプタン、ヘキサンおよび他の炭化水素、メチル-tert-ブチルエーテル、ペンタン、トルエン、2,2,4-トリメチルペンタン、1-オクタノールおよびその異性体またはベンジルアルコールが挙げられる。
【0064】
本発明の一実施形態において、本発明の方法に使用する溶媒は塩化メチレン、酢酸エチルまたはジメチルスルホキシド、四塩化炭素、クロロホルム、シクロヘキサン、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ヘプタン、ヘキサンおよびその他の炭化水素、メチル-tert-ブチルエーテル、ペンタン、トルエン、2,2,4-トリメチルペンタン、1-オクタノールおよびその異性体、ベンジルアルコールから選択しうる。
【0065】
本明細書に記載した本発明の全ての態様において、微粒子担体、それらを含む組成物またはそれらを作る方法はさらに、界面活性剤の添加を含みうるのであって、前記界面活性剤としては、例えば、限定されるものでないが、コール酸ナトリウム、ポロキサマー188(プルロニックF68(登録商標)、またはF127)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリソルベート80、デキストラン、ポロキサマー、ポロキサミン、多官能性アルコールのカルボン酸エステル、アルコキシル化エーテル類、アルコキシル化エステル、アルコキシル化モノ-、ジおよびトリグリセリド、アルコキシル化フェノールおよびジフェノール、エトキシル化エーテル類、エトキシル化エステル、エトキシル化トリグリセリド、GenapolR(登録商標)およびBaukiR(登録商標)シリーズの物質、脂肪酸の金属塩、カルボン酸の金属塩、アルコール硫酸エステルの金属塩、および脂肪族アルコール硫酸エステルの金属およびスルホコハク酸の金属塩および前記物質の2種以上の混合物が挙げられる。
【0066】
さらなる実施形態において、界面活性剤はコール酸ナトリウム、ポロキサマー188(プルロニックF68(登録商標))、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリソルベート80およびデキストランから選択される。
【0067】
本発明の一実施形態においては、本明細書に記載した本発明の方法のいずれかにより得ることができる、生物活性薬を含む微粒子担体を提供する。
【0068】
本発明の微粒子担体および/または組成物に封入された生物活性薬は微粒子担体から放出されると少なくともいくらかの生物活性を保持し、例えば、生物活性薬が結合剤である場合、組成物中の分子の一部分は少なくともいくらかのそれらの標的と結合する能力を保持し、生物活性薬が粒子から放出されると生物学的応答を誘発しうる。かかる結合は好適な生物学的結合アッセイで測定することができ、好適なアッセイの例としては、限定されるものでないが、ELISAまたはBiacore(登録商標)が挙げられる。さらなる実施形態において、組成物は、生物学的結合アッセイにより粒子からの放出を測定した場合、例えば、ELISA、Biacoreにより測定した一実施形態において、標的に対してアフィニティの少なくとも50%、または、標的に対してアフィニティ(Kd)の少なくとも70%または少なくとも90%を保持する。一実施形態において、本組成物は投与した被験者において治療効果を誘発する能力を有しうる。本発明の組成物の生物活性は、封入された生物活性分子の活性を測定するいずれかの好適なアッセイにより測定することができ、例えば、生物活性分子がVEGF dAbである場合、実施例18に記載したアッセイを使用することができる。
【0069】
他の実施形態においては、本発明に記載した本発明の微粒子担体に封入された生物活性薬を含む医薬組成物を提供する。
【0070】
さらなる実施形態においては、本発明に記載した本発明のナノ粒子に封入されたタンパク質を含む医薬組成物を提供する。
【0071】
さらなる実施形態においては、本発明の組成物は、血液脳関門を越える微粒子担体を伴う、障害または疾患の治療および/または予防に使用することができる。
【0072】
さらなる実施形態においては、本明細書に記載した本発明の組成物を中枢神経系障害または疾患を治療および/または予防するために使用してもよく、例えば、アルツハイマー病、ハンチントン病、ウシ海綿状脳症、西ナイルウイルス脳炎、神経-エイズ、脳傷害、脊椎損傷、脳の転移性癌、または多発性硬化症、脳卒中を治療および/または予防するために使用してもよい。
【0073】
さらなる実施形態において、本組成物は脳卒中または神経細胞傷害の治療および/または予防用の抗MAG抗体を含んでもよい。
【0074】
他の実施形態において、本組成物は脳卒中または神経細胞傷害の治療および/または予防用の、または例えば神経変性疾患、例えばアルツハイマー病の治療および/または予防用の抗NOGO抗体を含んでもよい。
【0075】
他の実施形態において、本組成物は脳卒中または神経細胞傷害の治療および/または予防用の、または例えば神経変性疾患、例えばアルツハイマー病の治療および/または予防用の抗βアミロイド抗体を含んでもよい。
【0076】
本明細書に記載した本発明の一実施形態においては、微粒子担体を、患者へ非経口注射または注入、静脈内または動脈内投与により投与することができる。
【0077】
さらなる実施形態においては、本明細書に記載した本発明の組成物を用いて、眼の障害または疾患を治療および/または予防することができる。さらなる実施形態においては、本明細書に記載した本発明の組成物を用いて、障害、例えば、限定されるものでないが、加齢に関係する黄斑変性症(新生血管性/湿性)、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞疾患、ブドウ膜炎、角膜新血管新生または緑内障を治療および/または予防することができる。
【0078】
なおさらなる実施形態においては、本組成物を用いて、AMD(加齢に関係する黄斑変性症)、例えば湿性AMD、または感性AMDを治療および/または予防することができる。
【0079】
本発明の他の実施形態においては、本明細書に記載したナノ粒子およびまたはミクロスフェアに封入された、医薬に使用するための生物活性薬を提供する。
【0080】
本発明の一実施形態においては、中枢神経系の疾患の治療および/または予防用の医薬品の製造における、本明細書に記載した本発明の組成物の使用を提供する。さらに他の実施形態においては、アルツハイマー病の治療および/または予防用の医薬品の製造における、本明細書に記載した本発明の組成物の使用を提供する。なおさらなる実施形態においては、脳卒中または神経細胞傷害の治療および/または予防用の医薬品の製造における、本明細書に記載した本発明の組成物の使用を提供する。
【0081】
本発明の他の実施形態においては、眼の疾患の治療および/または予防用の医薬品の製造における、例えばAMDの治療および/または予防用の医薬品の製造における、本明細書に記載した本発明の組成物の使用を提供する。
【0082】
本発明は、本発明の組成物を用いて中枢神経系の疾患を治療および/または予防する方法を提供する。さらなる実施形態においては、本発明の組成物を用いてアルツハイマー病を治療および/または予防する方法を提供する。本発明のなお他の実施形態においては、本発明の組成物を用いて脳卒中または神経細胞傷害を治療および/または予防する方法を提供する。
【0083】
本発明はまた、本発明の組成物を用いて眼の疾患を治療および/または予防する方法を提供する。さらなる実施形態においては、本発明の組成物を用いてAMDを治療および/または予防する方法を提供する。
【0084】
定義:
本明細書で使用する用語「粒子形成物質」を用いて、重合することができるいずれかのモノマーおよび/またはオリゴマー、または水性環境で不溶粒子を形成することができるポリマー、例えばPBCA、PLGAを記載する。粒子形成物質は重合していないときには有機溶媒に可溶である。
【0085】
本明細書で使用する用語「微粒子担体」はナノ粒子とミクロスフェアの両方を包含するために用いられる。「ミクロスフェア」は1μmを超える直径をもつ様々な天然および合成材料から構成される粒子であるが、本明細書で使用する「ナノ粒子」はサブミクロンサイズの粒子、例えば1〜1000nmである。
【0086】
一実施形態において、本明細書で使用する用語「微粒子担体」、「ナノ粒子」および「ミクロスフェア」は、生体適合性でありかつ使用環境による化学および/または物理的破壊に十分な耐性をもつ担体構造を示し、投与に続いてヒトまたは動物身体に進入後、および所望の標的器官または組織、例えば脳または眼に到達可能な十分な時間の間、粒子の十分な量が実質的に無傷のまま残存する。
【0087】
本明細書で使用する用語「生物活性薬」は、分子がそれらの所望の標的に到達するときに少なくともいくらかの生物学的活性を果たす能力を有するに違いないことを示すために用いる用語である。疑念を晴らすために述べると、本明細書全体を通して使用する用語「生物活性薬」と「生物活性分子」は同じ意味を有しかつ互換的に使用しうると意図している。
【0088】
用語「可溶化」は、溶媒中の個々の分子の形態での溶液の形成かまたは液に懸濁した分子の微細な固体凝集物の形態での懸濁液中の固体の形成として定義される。可溶化プロセスはまた、完全に溶解した分子と懸濁した固体凝集物の混合物をもたらしうる。
【0089】
微粒子担体中の封入に対する本明細書を通して使用する用語「タンパク質」には、少なくとも11kDa、または少なくとも12kDa、または少なくとも50kDa、または少なくとも100kDa、または少なくとも150kDaまたは少なくとも200kDaの分子量を有するタンパク質が含まれる。封入のためのタンパク質はまた、かなりの長さ、例えば長さで少なくとも70アミノ酸または長さで少なくとも100アミノ酸または長さで少なくとも150アミノ酸または長さで少なくとも200アミノ酸でありうる。
【0090】
微粒子担体中の封入に対する本明細書を通して使用する用語「ペプチド」には、約10kDa以下、または約8kDa以下、または約5kDa以下、または約2kDa以下または約1kDa以下または1kDa未満の分子量を有するアミノ酸の短い配列が含まれる。封入のためのペプチドは、例えば長さで70アミノ酸以下または長さで50アミノ酸以下または長さで40アミノ酸以下または長さで20アミノ酸以下または長さで10アミノ酸以下でありうる。
【0091】
用語「眼周囲」は、眼の外側を囲む位置への局所投与を意味し、限定されるものでないが、次を含む:「結膜下」‐結膜(眼球を強膜の上方で覆う透明な粘液膜)の下;「テノン嚢下」‐眼を包むテノン膜の下で、強膜の外側;「眼球周囲」‐眼腔内に位置する眼球の下の空間;「眼球後方」‐視神経に近接した眼球の直ぐ背部の空間;「上脈絡膜」‐強膜の下で、上脈絡膜空間中への脈絡膜の外側;「経強膜」‐この用語はまた、横切る、すなわち、強膜の外側からの送達を意味しうる。
【0092】
表現「免疫グロブリン単一可変ドメイン」は、異なるV域またはドメインとは独立した抗原またはエピトープと特異的に結合する抗体可変ドメイン(VH、VHH、VL)を意味する。免疫グロブリン単一可変ドメインは他の異なる可変域またはドメインを伴うフォーマット(例えば、ホモ-またはヘテロ-多量体)で存在することができ、その場合、他の領域またはドメインは単一免疫グロブリン可変ドメインによる抗原結合に必要でない(すなわち、その場合、免疫グロブリン単一可変ドメインはさらなる可変ドメインとは独立して抗原と結合する)。「ドメイン抗体」または「dAb」は、抗原と結合することができる本明細書で使用する「免疫グロブリン単一可変ドメイン」と同じである。免疫グロブリン単一可変ドメインはヒト抗体可変ドメインであってもよいがまた、他の種、例えばげっ歯類(例えば、WO00/29004に開示された)、ナースサメ(nurse shark)およびラクダ科動物VHHdAb由来の単一抗体可変ドメインも含む。ラクダ科動物VHHは、軽鎖を天然に欠く重鎖抗体を産生するラクダ、ラマ、アルパカ、ヒトコブラクダ、およびグアナコを含む種由来の免疫グロブリン単一可変ドメインポリペプチドである。かかるVHH ドメインは、当技術分野で利用可能な標準技法によってヒト化することができ、かかるドメインも本発明による「ドメイン抗体」と考えられる。本明細書で使用する「VH」はラクダ科動物VHHドメインを含む。
【0093】
本明細書で使用する用語「抗原結合分子」は、標的と結合することができる抗体、抗体断片および他のタンパク質構築物を意味する。
【0094】
「ドメイン」はタンパク質の残部とは独立した三次構造を有するフォールドされたタンパク質構造である。一般に、ドメインはタンパク質の明確な機能特性に関わり、そして、多くの場合、タンパク質および/またはドメインの残部の機能を喪失することなく、他のタンパク質に加えるか、除去するかまたは伝達することができる。「単一抗体可変ドメイン」は抗体可変ドメインの特徴的な配列を含むフォールドしたポリペプチドドメインである。それ故に、単一抗体可変ドメインには、完全な抗体可変ドメイン、ならびに、例えば1以上のループが、抗体可変ドメインの特徴でない配列により置き換えられている改変された可変ドメイン、または末端切断されているかまたはN-もしくはC-末端伸長部を含む抗体可変ドメイン、ならびに全長ドメインの少なくとも結合活性および特異性を保持する可変ドメインのフォールドされた断片が含まれる。
【0095】
本明細書で使用する用語「光散乱技法」は溶液中の小粒子のサイズ 分布 プロファイルを測定するために用いられる手法である。光散乱技法の一例としては、ナノ粒子の測定に用いられ得る動的光散乱が挙げられる、また別の例としては、ミクロスフェアを測定するために用いら得る静的光散乱または低角度光散乱が挙げられる。
【0096】
本明細書で使用する用語「動的光散乱」(DLS)は、粒子分散液により散乱される光を利用して粒子のサイズに関する情報を得る方法である。動的光散乱は、液懸濁液において、粒子のブラウン運動が粒子径に依存しかつ粒子のブラウン運動が粒子サンプルから散乱された光の強度の揺らぎを生じるという事実に依存する。相関関数を用いてこれらの揺らぎを分析することにより粒子径を誘導する。次いでストークス-アインシュタイン式を適用して粒子の平均水力学的直径を得る。
【0097】
多指数分析からサイズ分布を得ることができ、これがサンプル内に異なる種の存在についての洞察を与える。DLSはナノ粒子の分析に一般的に受け入れられている。
【0098】
本明細書全体で相互互換的に使用する「静的光散乱」はまたは「低角レーザー光散乱」はレーザー回折とも呼ばれる。レーザー回折は、回折角が粒子径に反比例するという事実に依存する。その方法は、全Mie理論を利用し、これは光と物質の相互作用に対する式を完全に解く。レーザー回折は、ナノ粒子およびミクロ粒子(直径で0.02〜2000μm)の分析に用いることができる。
【0099】
本明細書で使用する用語「血液脳関門」(BBB)は主に脳を血液中の化学物質から保護する一方、なお必須の代謝機能を可能にする膜構造である。BBBは、脳毛細管に非常に緻密に詰められている脳ミクロ血管内皮細胞から構成される。この高い密度は、身体の随所にある毛細管の内皮細胞よりはるかに厳しく血流からの物質通過を制限する。
【0100】
本明細書全体を通して「パーセント薬物負荷」は粒子製剤(ポリマー重量)に用いた材料の重量当たりの薬物の重量w/wのパーセント:
%薬物負荷=(薬物の重量/粒子製剤に用いた材料の重量)x100%
として規定した。
【0101】
本明細書においては、本発明を実施形態を参照して明確かつ簡潔な説明ができるように記載した。実施形態は、本発明から引き離すことなく、様々に組み合わせたりまたは分離したりすることができると考えておりかつ理解されるべきである。
【実施例】
【0102】
実施例1 HIPプロセスによるPBCAナノ粒子の調製
100μl BCAモノマーを可溶化HIPイオン(1mlジクロロメタン中のドクセートナトリウム、3.058-6.116%w/v)を含有する有機相に加えることにより、ナノ粒子を調製した。得られる溶液を水相(1%w/v デキストラン、0.2%w/v プルロニックF68、10ml、pH 7.0)中にピペットで加え、Silverson L4RTホモジナイザーを用いて7,000にてホモジナイズした。中性pHの水相に曝露すると、BCAモノマーは迅速に重合してPBCAポリマーを形成した。形成した乳濁液を45秒間ホモジナイズし、次いでヒュームフード内で3時間インキュベートして有機溶媒が蒸発させ、ナノ粒子を形成させた。得られるナノ粒子懸濁液を4℃にて貯蔵した。
【0103】
実施例2 動的光散乱によるナノ粒子形成の確認
HIPプロセスによるPBCAナノ粒子の形成を、動的光散乱(DLS)を用いる粒度分布測定により確認した。粒子をBrookhaven Instruments Corporationの粒子径分析計(BIC 90 plus)を用いて分析した。図1は懸濁液中のナノ粒子の存在を示すDLSにより得た粒度分布測定データを示す。DLSによる粒度分布測定は平均水力学直径291.4 nmのナノ粒子が形成したことを示した(図1a)。粒子集団はまた、比較的単分散であって、サンプル中の粒子径の範囲の広さの尺度である多分散指数は0.242であることも見出された(図1a)。この値は粒子製剤に対する最高許容値の0.300より低い。全体的に、コレログラムによって、この粒子調製プロセスは良い品質のPBCAナノ粒子懸濁液を首尾よく作製したことを確認した。
【0104】
誘導されたデータは粒子の大部分が小さいことを示唆する(図1b〜d)。この結果は、粒子集団のおよそ96.3%が201.37以下の直径を有することを示唆する(図1b)。懸濁液はまた、一般的に大きい凝集物を含まずかつ直径506.81nmを超える粒子を含有せず、粒子集団の大部分は有意に小さいと思われた(図1c)。製剤はまた、143.38より小さい粒子を含有しないようであった(図1d)。それ故に、粒子の大部分は143.38〜201.37の直径であり、静脈内投与にとって安全であるが薬物負荷を低下させるほど小さくない。
【0105】
図1(a)は動的光散乱によるナノ粒子懸濁液の分析に従って得たコレログラムである。得たデータによると粒子の平均水力学直径は291.4nmであり、多分散指数は0.242である。
【0106】
図1(b) 全サイズ範囲にわたる粒子集団(数)の分布を示すためにプロットしたナノ粒子の多モードサイズ分布(誘導したデータ)である。粒子集団の96.3%は201.37以下の直径を有すると思われた。
【0107】
図1(c) 全サイズ範囲にわたる粒子集団(数)の分布を示すためにプロットしたナノ粒子の多モードサイズ分布(誘導したデータ)である。このデータは粒子集団の96.3%が201.37以下の直径を有しかつ粒子サンプルの100%が732.05以下の直径を有することを示唆する。それ故に、懸濁液は大きい凝集物を含まずかつそれ故に静脈内投与用に安全であると考えれらる。
【0108】
図1(d) 全サイズ範囲にわたる粒子集団(数)の分布を示すためにプロットしたナノ粒子の多モードサイズ分布(誘導したデータ)である。このデータは粒子サンプルの6.2%が143.38nm以下の直径を有することを示唆する。
【0109】
色々なナノ粒子製剤を調製したときに、本プロセスは類似のナノ粒子径を生じることが見出された。表1は6回の異なる組成物のシリーズから得た粒度分布測定データを総括したものである。
【表1】

【0110】
一般的に、HIPプロセスは所望の直径および多分散を生じることが見出された。
【0111】
実施例3 HIPプロセスを用いるペプチドの有機相中への可溶化とPBCAナノ粒子中への封入
ヘキサペプチド、ダラルジンの溶液は、30〜60mgのペプチドを3mlのCaCl2(18.3mM)中に溶解し、濃HCl(2M)を加えてpHを3.05に下げることにより調製した。得られる溶液(500μl、10〜20mg/ml、およびペプチドの全量5〜10mg)を、2mlエッペンドルフチューブに入れたジクロロメタン中のHIP形成剤ドクセートナトリウムの溶液(1ml、3.058〜6.116%w/v)に加えた。使用したHIP溶液の体積はペプチド溶液(500μlペプチド 溶液に対して1ml HIP溶液)の体積の2倍であった。HIP:ペプチドのモル比は5mgペプチドでは10:1であり、10mgペプチドでは5:1であった。有機相と水相を最高速度で1分間ボルテックス攪拌することにより混合した。次いで、得られる懸濁液を20,817rcfで50分間遠心分離して2相に分離した。有機相(可溶化ペプチドを含有する)を採集して使用し、ナノ粒子を調製した。
【0112】
本プロセスが首尾よくペプチドを有機相中に可溶化したことを確認するために、水相に残留するペプチドの量を確認した。LC-MSによる分析およびエドマン配列決定法は、少なくとも99%のペプチドが首尾よく有機相中に抽出されたことを示した。
【0113】
実施例4 PBCAナノ粒子内にペプチドの封入
100μl BCAモノマーを、可溶化ペプチドとHIP(1ml)を含有する有機相に加えることにより、ナノ粒子を調製した。得られる溶液を水相(1%w/v デキストラン、0.2%w/v プルロニックF68、10 ml、pH 7.0)中にピペットで加え、Silverson L4RT ホモジナイザー(fine emulsor screen、3/4インチのプローブ)を用いて7,500にてホモジナイズした。中性pHの水相に曝露すると、BCAモノマーは迅速に重合してPBCAポリマーを形成した。形成した乳濁液を45秒間ホモジナイズし、次いでヒュームフード内で攪拌しながら(IKA磁性攪拌子、速度設定4)1時間インキュベートし、有機相を蒸発させた。次いで速度設定を3に下げ、その製剤をさらに2時間インキュベートして有機相の蒸発とナノ粒子形成を確実なものにした。ナノ粒子懸濁液を採集して4℃にて貯蔵した。
【0114】
得られるナノ粒子を遠心分離してフリーペプチドを除去し、水またはPBSに懸濁した。
【0115】
LC-MSによって粒子を分析することにより封入効率を測定した。高ペプチド含量(10mg)を用いたときでもなお、およそ90%のペプチド用量が封入されたことを見出した。HIPにより達成した封入ペプチドの量を、粒子表面上への通常の吸着法により達成した量と比較すると、HIP-PBCA プロセスの優れていることが明らかに実証された(図2)。吸着法を用いたときには、わずかに1.5%のペプチド用量しか粒子上に負荷されなかった。吸着法によりダラルジンを負荷したナノ粒子の分析を異なる時間に実施した。現行HIP法の開発に先立ち、先行技術の評価を目的とする手段としてKreuter法で吸着させた粒子を作って分析した。使用したLC/MS法およびHPLCは等しく感受性があった。
【0116】
実施例5 in vivo(マウスモデル)でのHIP-PBCAナノ粒子送達系の評価
ペプチド負荷を脳へ送達するHIP-PBCAナノ粒子の能力をマウスモデルにおいてin vivoで確認した。HIPプロセスを用いて封入したダラルジンを含有するHIP-PBCAナノ粒子を、Kreuterらが報じたように粒子表面上に吸着させたペプチドを有するHIP-PBCAナノ粒子と比較した。静脈内経路経由で脳送達するためのナノ粒子を、その表面をポリソルベート80界面活性剤でコーティングすることにより調製した。概略を述べると、ナノ粒子を、1%w/v界面活性剤を含有するPBSに30分間インキュベートした後に注入する。界面活性剤は、血清アポリポタンパク質のナノ粒子表面上への吸着を促進することにより、間接的にナノ粒子を脳に標的化すると文献に報じられている。これによって、粒子は血液脳関門上のアポリポタンパク質受容体と結合し、経細胞輸送して脳に到達することを可能にする。
【0117】
次の製剤を比較した:
1. HIP-PBCAナノ粒子単独(5:1、HIP含量)
2. HIP-PBCAナノ粒子単独(10:1、HIP含量)
3. 溶液中のダラルジン(2.0mg/kg)
4. 表面上にダラルジンを吸着したHIP-PBCAナノ粒子(2.0mg/kg、製剤に用いた全用量)
5. ダラルジンを封入したHIP-PBCAナノ粒子(5:1、HIP:ダラルジンのモル比)(2.0mg/kg、製剤に用いた全用量)
6. ダラルジンを封入したHIP-PBCAナノ粒子(5:1、HIP:ダラルジンのモル比)(2.0mg/kg、製剤に用いた全用量)−上と同じ製剤であるが、1/10の用量で注入
7. ダラルジンを封入したHIP-PBCAナノ粒子(10:1、HIP:ダラルジンのモル比)(2.0mg/kg、製剤に用いた全用量)−上と同じ製剤であるが、1/10の用量で注入
マウスを注入後20分に犠牲にし、脳と血液サンプルを採集してLC-MS-MSによりペプチドの存在について分析した。脳1グラム当たり15μlの血液汚染を仮定して、脳データを血液汚染について補正した。得た結果を図3に示した。
【0118】
in vivo研究の結果は、HIPプロセスを用いるHIP-PBCAナノ粒子コア内のペプチドの封入は、粒子表面上のペプチドの吸着を上回ることを示唆する。
【0119】
実施例6 HIP-PBCAナノ粒子におけるダラルジン封入効率に与えるpHの効果
先行技術においては、油乳濁液中の酸性水中のBCAモノマーの緩徐な重合によってPBCAナノ粒子を形成し、この場合、水相のpHはほぼ2.0(0.01N HCl)であった。酸性条件下の重合反応は完了するまで少なくとも3時間を要した。しかし本方法は中性pHを使って迅速な重合を可能にする。使用する水相はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS、pH 7.2)である。中性pHでBCAモノマーが迅速に(数秒内に)重合することは公知である。その結果、HIP-PBCAナノ粒子の作製に当たっては乳濁液を非常に速く形成させることが必要である。これは、Silverson L4RTホモジナイザーを用いる高速(7,500rpm以上)でのホモジナイズによる本方法により達成される。ペプチドを粒子内に速やかに捕捉することにより、中性pHにおける迅速な重合反応の封入効率を改善しうると仮定した。対照的に、重合が長引くと、乳濁液から水相中へのペプチドの緩徐な損失が起こりうる。
【0120】
この仮定を試すためにナノ粒子を、HIP-PBCAプロセスを用いて、PBSまたは先行技術の元来の媒質0.01N HClの両方で調製した。中性と酸性の水相は両方とも所要の安定剤(0.2%プルロニックF68、1%デキストラン)を含有した。ナノ粒子は実施例3に記載した手順に従い調製した。1製剤当たりに用いたペプチドの量は5mgであった。次の製剤を調製した(それぞれ1回の調製):
1. HIP-PBCAナノ粒子単独(35:1、HIP含量)、pH2;
2. HIP-PBCAナノ粒子単独(35:1、HIP含量)、pH7;
3. HIP-PBCAナノ粒子(35:1、HIP:ダラルジンモル比)、ダラルジン封入(5.0mg含有)、pH2;
4. HIP-PBCAナノ粒子(35:1、HIP:ダラルジンモル比)、ダラルジン封入(5.0mg含有)、pH7;
5. HIP-PBCAナノ粒子(10:1、HIP:ダラルジンモル比)、ダラルジン封入(5.0mg含有)、pH2;
6. HIP-PBCAナノ粒子(10:1、HIP:ダラルジンモル比)、ダラルジン封入(5.0mg含有)、pH7;
7. HIP-PBCAナノ粒子(5:1、HIP:ダラルジンモル比)、ダラルジン封入(5.0mg含有)、pH2;
8. HIP-PBCAナノ粒子(5:1、HIP:ダラルジンモル比)、ダラルジン封入(5.0mg含有)、pH7。
【0121】
ナノ粒子製剤を遠心分離してフリーペプチドを除去し、水またはPBS中に懸濁化した。封入効率は、粒子を10mM NaOH(一晩、室温でインキュベーション)中で分解し次いでLC-MSにより分析することにより測定した。得た結果を図4に示した。
【0122】
この結果は、中性pHにおけるPBCAポリマーの急速な形成は、先行技術の場合のような酸性pHにおけるポリマーの緩徐な形成よりも高いペプチド封入効率を生じるという仮定を支持する。NaOH処理による分解のためにいくらかのペプチドの損失にも関わらず、得た結果は、明らかに、中性pHで粒子を形成することの利点を示している。10:1のHIP:ダラルジン比において、粒子をpH7で形成した場合、入力ペプチドの63.23%がナノ粒子中に捕捉された。pH 2での封入効率は2.36%と有意に低かった。結局、粒子をpH7で調製した場合、pH2で調製した場合より封入効率が高かった。
【0123】
実施例7 HIPプロセスを用いる、ドメイン抗体のPBCAナノ粒子中の封入
実施例3に記載した手順に従い、ドメイン抗体(抗雌鳥卵リゾチームdAb)をPBCAナノ粒子中に製剤した。製剤に用いたタンパク質の量は10mgであった。製剤を全部で2回調製した。封入されたdAbの量を確認するために、粒子を遠心分離してフリーのタンパク質を除去し次いでエドマン配列決定法により分析した。エドマン配列決定法を用いると、配列情報だけでなく、定量的な情報も提供することができる。このプロセスは過酷な化学処理に関わり、粒子を破壊しかつ封入された材料の検出も可能にする。得た結果を図10に示した。結果は、HIP-PBCAプロセスを用いてさらに大きい分子を封入できるが、効率は低くなることを示唆する。しかし、封入の効率はドメイン抗体を使用するプロトコルを最適化することにより増加可能でありうる。現在のプロトコルは、ダラルジンについて最適化されていて、使用した10mgのうちおよそ2.56mgを封入することが可能である。これは封入効率25.6%に当たり、タンパク質を疎水性粒子マトリックス内に捕捉する単一乳濁液プロセスとしては高いものである。
【0124】
実施例8 PBCAナノ粒子におけるドメイン抗体封入改善のためのHIPプロセスの最適化
ドメイン抗体の負荷を改善するために、ダラルジンプロトコルをさらに最適化した。最適化のための出発点として用いたダラルジンのプロトコルは実施例3および4に記載した。
【0125】
プロトコル改変の目標は、有機相における抗体の全可溶化およびナノ粒子中への効率的な組込みを達成することであった。
【0126】
これは有機相においてHIP-dAb複合体の懸濁液を形成するためのさらなるホモジナイズ化ステップを含むことにより達成した。全体的に、ダラルジンプロトコルに次の改変を行った。
【0127】
使用したdAbはVEGF-myc dAbであった。このdAbはDOM15-26-593と名付けられ、PCT WO2008/149147に開示されている。
【0128】
dAbは、100mgPBCAポリマー当たり12mg(0.843μmol)の入力量(12%w/w dAb/PBCA、100mgPBCAポリマー当たり12mg)で製剤した。
【0129】
dAbをHIP(ドクセートナトリウム)と82:1のモル比で複合化した。HIP溶液濃度は30.581mg/ml(1ml中の0.06879mmol)であった。
【0130】
dAb溶液の酸性化は徐々に、定常的に混合しながら行い、分子があまりに低いpH値に曝されて分解することを避けた。
【0131】
HClによりdAb溶液のpHを3.6に下げた。
【0132】
CaCl2はHIPのdAbとの結合を妨げうるので使用しなかった。
【0133】
500μl酸性化dAb溶液(24mg/ml、12mgタンパク質)をDCM(30.581mg/ml、3.058%w/w)中の1,000μlドクセートナトリウムとボルテックス混合することにより、酸性化dAbを水相から抽出し、次いで遠心分離して2相に分離した。ダラルジンと異なり、dAbは有機相中に全て可溶化されないことが見出された。その代わり、dAbは界面に白色の沈降物を形成した。沈降物はその体積が抽出に用いたHIPとdAbの量に正比例していると思われるので、明らかにdAb:HIP複合体から成るものであった。500μlから367.76μl(水の無添加)に減じた水相の体積を用いてdAbを全て抽出する試みは、500μl体積を用いる場合ほど巧く行かなかった。一連の実験は、高い等電点は具合がよいものの、低いpI(この場合、VEGF dAb-myc、pI=6.6)でも首尾よくdAbを沈降させることができることを示唆した。遠心分離後、水相を採集し、4℃にて貯蔵した。HIP-dAb固体ペレットを含む有機相を用いてナノ粒子を調製した。
【0134】
ナノ粒子を調製するために、HIP-dAbペレットを有機相中に可溶化することが必要であった。これは、次のさらなるホモジナイズ化ステップをプロセスに導入することにより達成した。
【0135】
水相を除去し、有機相とdAb沈降物を2mlエッペンドルフ中でUltra-Turrax ホモジナイザー(T25 基本型、速度設定1)を用いてホモジナイズした。製剤を15分間ホモジナイズして白色懸濁液を形成させた。
【0136】
HIP-dAbペレットがホモジナイザープローブと接触させることおよび直ぐに混合することを確実に行うのが重要である。
【0137】
1分間のより長い時間、ホモジナイズ化するとより良い懸濁液を得るが、dAbは活性を失った。
【0138】
ホモジナイズ化の後、有機相を2mlエッペンドルフ中に残して100μl BCAモノマーを加えた。液体モノマーは有機相と容易に混合することを見出した。次いでこの有機相を用いて実施例1に記載したようにナノ粒子を調製した。
【0139】
改変した手順も、封入したmAbを含有するHIP-PBCAナノ粒子の調製に適用した。全長モノクローナル抗体(PCT WO99/58679に開示された抗CD23mAb、150,000Da、100mgPBCAポリマー当たり12mg、860:1 HIP:mAbモル比)を、dAbのために開発したプロトコルに従って製剤した。次の観察を得た:
mAb(WO99/58679に開示された抗CD23)はVEGF dAbより多い量のHClを必要とすることが見出された。HIP形成剤を用いて抽出する場合、mAbはdAbと同様な挙動であることが見出された:これらは有機相中に全て可溶化せず、界面に白色沈降物を形成した。
【0140】
高濃度のmAbストック溶液を用いると500μlの代わりに250μl体積の水相の使用による、mAbの有機相中への全抽出を達成する実験が可能になる。4:1の有機相対水相の比はそれほど結果がよくなく、多い溶媒に曝されたので、mAbの活性を損なうと思われた。1:1の有機相対水相比はmAbとdAbの両方について明らかに好ましかった。
【0141】
ナノ粒子を調製するために、dAbに用いたのと同じホモジナイズ化ステップの手法によるホモジナイズ化により、HIP-mAbペレットを有機相中に可溶化した。ホモジナイズ化は成功したが、懸濁液はそれほどスムースでなく、恐らくHIP-mAb複合体のサイズがより大きいことによると思われた。1分間のより長い期間のホモジナイズ化は良い懸濁液を与えるが、mAbは変性したと思われた。それ故に、ホモジナイズ化ステップは15秒間だけ行った。
【0142】
次いでナノ粒子を、本実施例で先に記載したdAbプロトコルに従って調製した。
【0143】
全体的に、ペプチドより大きい生物医薬品の封入は、ダラルジンプロトコルに実質的な改変が必要であることが見出された。dAbとmAbの両方は可溶化のために、より高いHIP;生物医薬品のモル比を必要とする(それぞれ、82:1および860)。
【0144】
dAbとmAbは両方とも有機相中に全て可溶化しないことが見出された。その代わりに、界面に沈降物を形成した。有機相中に可溶化するために、沈降物を有機相中にホモジナイズ化して油懸濁液中の固体を形成させた。これによって粒子形成が成功した。
【0145】
実施例9 改変HIPプロセスを用いる、ドメイン抗体のPBCAナノ粒子中の封入
実施例8に記載したdAb用の改変HIPプロトコルを用いて一連のdAb分子を封入した。dAbをその等電点に基づいて選択した。目的は、このプロセスで恐らく使用しうる等電点の範囲をカバーして、プロセスが多方面に利用可能でありかつある範囲のdAbに好適であることを確認することであった。次のdAbを実験のために選択した(表2)。
【表2】

【0146】
DOM番号はWO2008/149146に開示されたドメイン抗体を意味する。mycはドメイン抗体のmyc-タグを意味しまたはHAはドメイン抗体のHAタグを意味する。
【0147】
ドクセートナトリウムをHIP形成剤として70:1のモル比で用いて、各dAbをPBCAナノ粒子中に個別に製剤した。
【0148】
HIP抽出に用いた試薬を下表(表3)に掲げた。
【表3】

【0149】
抽出のためのdAb溶液の酸性化
酸性化の前に、dAb溶液に下表の通り水を加えて希釈した(表4):
【表4】

【0150】
溶液にHClを加えて酸性化した(2 M)。全てのdAb溶液を試験紙により測定してほぼ3.0のpHまで酸性化した。各酸性化溶液の最終体積を水を用いて500μlにした。
【0151】
次いでdAbを、実施例16に記載した通り、有機相中に抽出した。全てのdAbが有機相にすっかり可溶化せず、界面で沈降物を形成することを見出した。タグ無しdAb(NT)は他のdAbよりはるかに薄い沈降物を生じることが見出された。高い等電点と強い正電荷のdAbは明らかにより強く、より疎水性の複合体をHIPと形成することができ、より大きい可溶化度をもたらし、有機相中に移動した。
【0152】
水相(トップ層)を除去した後、有機相とdAb沈降物をホモジナイズ化により可溶化し、ナノ粒子を実施例8に記載の通り調製した。
【0153】
dAbの負荷を評価するための、SDS-PAGEによるナノ粒子の分析
SDS-PAGEによりナノ粒子懸濁液を分析するために、サンプルを10分間13,000rpmにてマイクロ遠心分離機で遠心分離した。上清をアスピレーターで吸引して取出し、ペレットを100μlのPBSに再懸濁した。上清とペレット画分を1 x NuPAGE LDおよび還元剤を用いて分解し、80℃にて4分間加熱し、そして市販のNuPAGEゲルを用いてSDS-PAGEにより試験した。dAbを含有する中空製剤からの上清のサンプルも試験し、これをポジティブ対照として用いた。
【0154】
レーン1および6:分子量マーカー。レーン2:VEGF dAb DOM15-10-11、HIP-PBCAナノ粒子に封入された無タグ。レーン3:VEGF dAb DOM15-10-11、HIP-PBCAナノ粒子に封入されたmycタグ付き。レーン4:VEGF dAb DOM15-10-11、HIP-PBCAナノ粒子に封入されたHAタグ付き。レーン5:VEGF dAb DOM15-10-11、中空ナノ粒子に封入されたタグ無し(ポジティブ対照)。ゲルは、dAbの封入が起こっていることを確認した。ゲルはまた、dAbが無傷であることおよびそれらが粒子調製プロセスによって断片化されなかったことを確認した。
【0155】
ゲルは明らかに、dAbが粒子内に封入されていて、それらがフリーdAbの除去後にナノ粒子と共局在していることを示した(図6)。
【0156】
非変性条件下のペレット(生来のゲル)の分析はゲル上にバンドを生ずることなく、dAbは粒子中に残存していたので(結果は示してない)、dAbは明らかにナノ粒子内に封入されていた。dAbを粒子から放出してゲルに流すためには変性条件(SDSの存在での熱処理)が必要があったので、SDS-PAGEにより粒子を分析する必要があった。試験した全てのdAbで封入は成功したことがわかった。これは、さらなるホモジナイズ化ステップが首尾よくHIP-dAb複合体を有機相中に可溶化してdAbの粒子中への捕捉を可能にすることを示唆した。結果として、とりわけ低いpIのdAbの場合、HIP-dAb複合体が抽出後に界面で沈降した事実は粒子中のdAbの封入を損なわなかった。それ故に、dAbのHIP-PBCA粒子中への封入に対する改変プロトコルは、試験した範囲においてpIに無関係でありかつある範囲のdAbについて好適であることが見出された。
【0157】
実施例10 改変HIPプロセスを用いる、ドメイン抗体のPBCAナノ粒子中の封入:負荷効率の決定と製剤化したdAbの活性の測定
改変HIPプロトコルが達成しうる負荷効率を決定するために、HIP PBCAナノ粒子製剤をツールdAb(VEGF-myc dAb、WO2008/149147に開示されたDOM15-26-593)を用いて調製した。dAbは、100mg PBCAポリマー当たり12mg(0.843μmol)の入力量(12%w/w dAb/PBCA、100mgPBCAポリマー当たり12mg)で製剤した。製剤は実施例9に記載したdAbに対する改変HIPプロトコルを用いて調製した。
【0158】
調製後、dAbが無傷のままでありかつ首尾よく粒子内に捕捉されているかを確認するために、ナノ粒子をSDS-PAGEにより特徴づけた。SDS-PAGEによる分析は実施例9に記載した通り実施した。製剤と一緒に、既知量のdAb標準のセットもゲル上で分析し、封入されたdAbの量を確認するために用いた(図7)。これはゲルを写真撮影し、labworks V4.6を用いて標準のバンドからシグナル強度を測定することにより実施した。ゲルは次の通りセットアップした:
レーン1および7:分子量マーカー。レーン2〜4:dAbナノ粒子製剤。レーン5:空のナノ粒子(ネガティブ対照)。レーン7〜10:dAb標準(500、125、31.25および7.8μg/ml)。レーン11〜14:dAb標準(7.8、31.25、125および500μg/ml)。ゲルは、dAbの封入が起こっていることおよびdAbが無傷であることを確認した。サンプルバンド強度の、標準のバンド強度との比較は、ナノ粒子サンプル中のdAbの濃度が413.7μg/mlであることを示唆した。
【0159】
バンド強度を用いて標準曲線を構築した。次いでこの曲線を用いて、ナノ粒子製剤中のdAbの量をナノ粒子サンプルのバンド強度から計算した。
【0160】
ゲルは、dAbが首尾よく粒子内に捕捉されたことおよび封入後に無傷のままであることを確認した。標準との比較からナノ粒子製剤中の濃度は413.7μg/mlであることが見出された。これは、12mg入力から全量で3.31mgのdAbがナノ粒子に封入されたことになる。それ故に、負荷効率は27.6%であった。dAb負荷は3.31%w/wであった。
【0161】
封入されたdAbを放出させてその活性を評価するために、ナノ粒子サンプルはまた、熱処理した。4〜65℃の温度にて1時間、1% Tween 20の存在でのインキュベーションにより、dAbをナノ粒子から放出させた。このプロセスは封入されたdAbの少なくとも一部分の粒子からの放出を達成するが、dAb活性のいくらかを喪失しうることは公知である。熱処理によるdAb活性の損失を最小化するために、サンプルはまた、65℃にて5分間インキュベートし、その後、37℃の低い温度にて55分間おだやかな処理を行った。
【0162】
インキュベーションの後、サンプルを10,000rcfにて10分間、遠心分離にかけ、放出されたdAbを粒子から分離した。放出されたdAbを含有する上清を採集し、ELISAにより活性を分析した。
【0163】
放出されたdAbをELISAにより次の通り分析した:Nunc maxisorb 96ウエルプレートを0.5μg/ml rVEGFを用いて一晩4℃にてコーティングした。次いでプレートを洗浄バッファー(PBS+0.1%Tween)を用いて4回洗浄し、次いでブロックバッファー(PBS+1% BSA)を用いて1時間室温にて揺動しながらブロックした。プレートを上記の通り洗浄し、次いで三つ組の50μlの上清サンプルをウエルに加え、プレートを上記の通りインキュベートした。プレートを洗浄し、次いでウエル1個当たり50μlの抗mycAb(マウス)溶液を加え、プレートを再び上記の通りインキュベートした。プレートの洗浄後、ウエル1個当たり50μlの抗 マウス HRPを加え、プレートを上記の通りインキュベートした。プレートを最終的に上記の通り洗浄し、次いで50μl/ウエルのTMB試薬を加えた。発色させ、50μl/ウエルのHCl(1M)を加えることにより反応を停止した。吸収を450nmにてVersamaxプレートリーダーとSoftmax Pro V5.3ソフトウエアを用いて測定した。
【0164】
ELISAアッセイから得た結果を表5に示す:
【表5】

【0165】
放出されたdAbは活性があることが見出され、高温で大量のタンパク質を粒子から放出した。65℃と37℃の2つの温度レベルで処理したサンプルは、放出された活性dAbの最高量を示すことが見出された。放出方法が活性を損なうことは公知であるので製剤の元来の活性レベルを見積もることは困難である、しかし、PAGE結果を考察すると、前記65/37℃の方法は標準の比活性のおよそ50%をもつ材料を生成した。
【0166】
放出されたdAbをELISA(活性dAbの読取値を与える)、ならびにSDS-PAGE(全dAbを検出する)により分析した。dAbをゲル上で標準のシリーズと並んで分析した。次いでdAbの量を、標準バンド強度を測定することにより構築した標準曲線を用いて決定した。活性dAbの濃度(ELISAで測定して61ug/ml)は全dAb(SDS-PAGEで測定して137.89 ug/ml)の44%であることが見出された。
【0167】
それ故に、ナノ粒子中の製剤化したdAbの少なくとも50%が活性であることが見出された。製剤プロセスが有機相における可溶化と次いでホモジナイズ化による混合への曝露に関わることを考えると、これは非常に良い活性レベルであると考えられた。それ故に、この粒子調製プロセスはドメイン抗体の製剤化に好適であると思われる。
【0168】
実施例11 ドメイン抗体を含有するHIP PBCAナノ粒子の、静脈内経路を介してマウス脳へタンパク質負荷を送達する能力のin vivo評価
実施例10に記載したナノ粒子製剤を、そのdAb負荷をマウスモデルの脳へ送達する能力について評価した。封入されたVEGF dAbを含有するナノ粒子をフリーdAbと比較して、この粒子がdAbの脳取込みをフリーdAb分子と比較して増加し得るかどうかを確認した。空の粒子のバッチも調製し、ネガティブ対照として評価した。
【0169】
in vivo研究の設計:
本研究は、2つの異なる時点:投与後10分および60分においてdAb脳レベルを評価した。前者の時点は、ダラルジンペプチドで見られるように、注入後数分内に脳におけるdAb濃度がピークとなる場合に選んだ。後者の時点は、dAbのいくらかのクリアランスが血液循環から起こるのに対応するために選択した。血液中に存在するいずれかのdAbは脳サンプルを汚染し、得られるデータをゆがめ得る。血液循環中のdAbの半減期(20分間)は短いので、おそらくその後の時点の血液汚染は限定され、脳貫入読取値は明確になるであろう。
【0170】
脳サンプル中の血液汚染の補正:
脳取込みによるのでなくて単に脳血管中に存在し脳組織自身に存在しない脳サンプル中のdAbの量(血液汚染)を説明するために、「出発-追跡(start-chase)」研究を実施した。全てのマウスに、血液中に残存し脳に貫入しないことが公知である追跡分子のある用量を与えた。選んだ追跡分子は、無視しうる脳取込みを示すWO99/58679に開示された抗CD23全長抗体であった。従って、脳サンプル中に検出される抗CD23mAbの量は単に脳組織を汚染する血液中のその存在によるものであろう。追跡剤を動物に与え、5分後に動物を犠牲にして前記抗体が血液中に残存して身体の他の領域における組織取込みが起こらないことを確実にした。
【0171】
動物のグループ分け:
A:対照粒子、t=0に投与、次いでt=5分に追跡剤を投与、
B:ナノ粒子中のdAb、t=0に投与、次いでt=5分に追跡剤を投与、
C:溶液中のフリーdAb(対照)、t=0に投与、次いでt=5分に追跡剤を投与、
以上のグループはt=10分に、すなわち追跡剤の投与後5分に犠牲にした。
【0172】
D: 対照粒子、t=0に投与、次いでt=55分に追跡剤を投与、
E: ナノ粒子中のdAb、t=0に投与、次いでt=55分に追跡剤を投与、
F:溶液中のフリーdAb(非製剤化対照)、次いでt=55分に追跡剤を投与、
以上のグループはt=60分に、すなわち追跡剤の投与後5分に犠牲にした。
【0173】
用量の調製
追跡剤:PCT WO99/58679に開示された抗CD23 mAb、2.0mg/kg。
【0174】
用量は、68mg/ml mAbストック溶液を500μg/mlへ希釈することにより調製した。これは25gマウスについて100μl体積中の50μg用量となった。
【0175】
dAb:1.584mg/kg、50mg/kg PBCA ポリマーを伴うナノ粒子
注射用のナノ粒子懸濁液は、160μlポリソルベート80溶液(25%w/w)を3,600μlナノ粒子懸濁液へ加えることにより調製した。これによって、396.1μg/mlの製剤されたdAbの最終濃度を得た。これは25gマウスについて100μl体積中の39.6μgのdAb用量となった。
【0176】
空のナノ粒子(ネガティブ対照):50mg/kg PBCAポリマー。
【0177】
注射用のナノ粒子懸濁液は、上記のように、160μlポリソルベート80溶液(25%w/w)を3,600μlナノ粒子懸濁液へ加えることにより調製した。これによって、1.25mg/mlのPBCAポリマーの最終濃度を得た。これは25gマウスについて100μl体積中の125μgのPBCA用量となった。
【0178】
溶液中のフリーdAb(非製剤化対照):1.584mg/kg.
注射用のdAb溶液は、2.0mg/mlストック溶液を396.1μg/mlへ希釈することにより調製した。これは25gマウスについて100μl体積中の39.6μgのdAb用量となった。
【0179】
マウスの注射:
CD1マウスの静脈内に注射した(尾静脈注入)。注射体積はマウスの体重に基づいて計算した。in vivo処置が終わった後、脳と血清サンプルを全てのマウスから採集して凍結した。組織サンプルを液体窒素に入れて瞬間凍結した。全てのサンプルは-80℃にて貯蔵した。
【0180】
分析用の脳のホモジナイズ化
脳を解凍して秤量した。脳体積の重量の2倍であるPBSの体積をそれぞれの脳に加えた。次いで脳をCovarisアコースティック組織プロセッサー(Covaris E210)を用いてホモジナイズした。
【0181】
メソスケールディスカバリー(MSD)による脳の分析
脳ホモジネートと血清サンプルをMSDにより分析した。これは、実施例18に記載した抗VEGF ELISAアッセイをMSDフォーマットに適用することにより実施した。血清サンプルは1:10,000希釈液中で1:1,000にて分析した。脳サンプルは1:5希釈で分析した。
【0182】
結果
データを処理して図8に示した結果を得た。投与後10分にナノ粒子中のdAbは検出しうる脳取込みをもたらし、8.0ng/mlに達した。フリーdAbも脳において検出可能であり、若干低い濃度の3.3ng/ml(予備データ)であった。予備データは、血液汚染を補正できなかった2動物からの読取値を含まない(これらの血清からの読取値が高過ぎて定量できなかったためである)。全体的に、ナノ粒子は、10分の時点におけるタンパク質の脳取込みをわずかに増加すると思われた。しかし、60分においては、状況が逆転した。フリーdAbは脳に蓄積して、その脳レベルはさらに13.5ng/mlに増加した。
【0183】
観察された結果は次の通り説明することができる:
1. 血液循環におけるフリーdAbの半減期(t1/2)は、その親水性の故に恐らく粒子の半減期より長いと思われる。このことは恐らく、ナノ粒子に製剤されたdAbと比較して、もっと多くのフリーdAbが脳取込みに利用できることを意味した。
【0184】
2. dAbの粒子中への負荷は、全身循環からの急速な排除による製剤の損失を埋め合わせるだけ十分高くなかった。粒子中の薬物負荷は3.31%w/wであった。従来、ダラルジン製剤は45ng/mlの脳レベルを生じるのには5.0%w/wの負荷を必要としていた。より高い8.9%のペプチド負荷は833ng/mlまでの脳のペプチド濃度を与えていた。3.31%w/wの負荷は、とりわけ高分子量の生物医薬にとって、有意な脳送達用に十分でなく、それ故に負荷のさらなる最適化が必要であろう。
【0185】
3. 10分および60分の時点はおそらく遅すぎた。ダラルジンとロペラミドに関する従来の研究は全て、送達が迅速で注射の2〜3分以内であることを示した。従来の研究はまた、脳内の最高薬物レベルは投与の5分以内に達成されることを示唆した。「出発-追跡研究」を実施するのに十分な時間を確実にするために10分の時点が選ばれ、ドメイン抗体の持続効果を検出するために60分が選ばれた。
【0186】
4. HIP PBCA系は脳をただ受動的に標的化するだけである。静脈内に投与した場合、疎水性表面を有するかかる微粒子は受動的に脳だけでなくいくつもの器官を標的化することは公知である。これらの器官には、肝臓と脾臓が含まれる。静脈内に投与した場合、ナノ粒子は最初に肝臓と脾臓に到着し、その後に脳に遭遇するであろう。その結果、注射した用量の大部分はこれらの組織に送達され、一部分だけが残って脳への送達に利用される。このことは、本実験において粒子の脳に到達する能力を著しく損なうであろう。
【0187】
血液循環からのdAbの損失の影響を強調するために、脳対血液比も計算した(図9)。この結果は、dAbを溶液中にフリーで与えた場合と比較して、ナノ粒子で与えた場合、血液と比較してはるかに高い比率のdAbが脳中に存在することを明白に示す。
【0188】
実際、製剤されたdAbは0.04の脳対血液比(60分)を示し、これはある化合物が脳貫入性であると考えられる比を超えるものである。フリーdAbは、分析した時点のいずれにおいても、この脳貫入閾値を超えなかった。それ故に、注射された用量の有意な損失にも関わらず、血液脳関門を貫入する総合的能力では、本粒子が究極的にフリーdAbより優れていると思われる。
【0189】
一般的に、静脈内経路はHIP-PBCA系のような受動的標的化粒子にとって最も困難な経路であることは公知である。それ故に、静脈内投与は、薬物を血液からBBBを横切って送達するHIP-PBCA 系の能力を評価する理想的方法でなかった。この理由によって、頚動脈内研究も実施した。頚動脈内経路経由の投与は組織、例えば肝臓および脾臓をバイパスして脳へのより直接的な経路を提供する。その結果、注射したナノ粒子用量のより多くが脳送達用に利用される。フリーな薬物と製剤化した薬物との間の頭部-対-頭部比較において、頚動脈内経路は、ナノ粒子のBBBを克服する能力の真の物指を提供するようである。
【0190】
実施例12 ドメイン抗体を含有するHIP PBCAナノ粒子の、頚動脈内経路を介してマウス脳へタンパク質負荷を送達する能力についてin vivo評
ナノ粒子製剤のin vivo評価(頚動脈内投与の場合)
ナノ粒子製剤を、マウスの脳へ頸動脈内経路経由でそのdAb負荷を送達する能力について評価した。
【0191】
この経路を選択した理由は、これが脳への直接通路を提供するからである。ある物質を頸動脈中に投与した場合、到達する最初の組織は脳である。対照的に、ある薬物を静脈内に投与すると、その薬物は脳に到達する前に、組織、例えば肝臓に遭遇するであろう。この場合、これらの薬物は組織、例えば肝臓および脾臓により取り込まれることもわかっているので、脳へ送達するナノ粒子の能力を制限することがわかっていた。実際、Kreuteらは彼らのPBCA吸着粒子、注射した空のナノ粒子用量(ほぼ60%)の大部分について、尾静脈経由で投与した場合、肝臓により取り込まれるのを観察した。
【0192】
一般的に、受動標的化送達系、例えばHIP-PBCAナノ粒子にとって、静脈内経路は最も好ましくないかつ最も困難な投与経路であることは周知である。それ故に、頚動脈内経路が恐らく、血液脳関門を克服するナノ粒子の能力の正確な使用を提供すると思われた。
【0193】
in vivo研究の設計。
【0194】
研究設計は静脈内研究と同じであったが、次の点だけが異なった:
1. 実験中を通じて、動物を終末部麻酔下に保った。関わる外科処置が複雑なためにこれが必要であった。
【0195】
2. ナノ粒子製剤とフリーdAbを、外科的に設けたカニューラを用いて頚動脈内経路経由で投与した。
【0196】
3. 追跡剤を静脈内に尾静脈経由で与えたが、従来の研究と異なりその抗体はカニューラを用いて与えた。
【0197】
動物のグループ:
A: 対照粒子、t=0にて与え、次いで、t=5分にて追跡剤投与。
【0198】
E: ナノ粒子中のdAb、t=0にて与え、次いで、t=5分にて追跡剤投与。
【0199】
C: 溶液中のフリーdAb(対照)、t=0にて与え、次いで、t=5分にて追跡剤投与。
【0200】
上記のグループはt=10分にて、追跡剤の投与後5分にて犠牲にした。
【0201】
B: 対照粒子、t=0にて与え、次いで、t=55分にて追跡剤投与。
【0202】
F: ナノ粒子中のdAb、t=0にて与え、次いで、t=55分にて追跡剤投与。
【0203】
D: 溶液中のフリーdAb(非製剤化対照)、t=0にて与え、次いで、t=55分にて追跡剤投与。
【0204】
上記グループはt=60分にて、追跡剤の投与後5分にて犠牲にした。
【0205】
用量の調製。
【0206】
追跡剤:PCT WO99/58679に開示された抗CD23 mAb、2.0mg/kg。
【0207】
用量は68mg/ml mAbストック溶液を500μg/mlに希釈することにより調製した。これは25gマウスについて100μl体積中の50μg用量となった。
【0208】
dAb:1.584mg/kg、50mg/kg PBCA ポリマーを伴うナノ粒子。
【0209】
注入用のナノ粒子懸濁液は、160μlポリソルベート80溶液(25%w/w)を3,600μlナノ粒子懸濁液へ加えることにより調製した。これによって、396.1μg/mlの製剤されたdAbの最終濃度を得た。これは25gマウスについて100μl体積中の39.6μgのdAb用量となった。
【0210】
空のナノ粒子(ネガティブ対照):50mg/kg PBCAポリマー。
【0211】
ナノ粒子懸濁液は上記のように、160μlポリソルベート80溶液(25%w/w)を3,600μlナノ粒子懸濁液へ加えることにより調製した。これによって、1.25mg/mlのPBCAポリマーの最終濃度を得た。これは25gマウスについて100μl体積中の125μgのPBCA用量となった。
【0212】
溶液中のフリーdAb(非製剤化対照): 1.584 mg/kg。
【0213】
dAb溶液は2.0 mg/mlストック溶液を396.1μg/mlへ希釈することにより調製した。これは25gマウスについて100μl体積中の39.6μgのdAb用量となった。
【0214】
結果
データを処理し、図9に示した結果を得た。投与後10分に、ナノ粒子中のdAbグループは脳において平均627.60 ng/mlの高レベルのdAbを表した。上図は2動物からの読取値を含まなかったので、脳におけるdAbの実濃度はおそらくもっと高かった。2つのサンプルは定量するのに高過ぎるシグナルを与えたが、残念ながらその時分析しなかったので本文書に含まれていない。動物のうちの1動物は明らかに異常値であって、比較的低い45.45 ng/mlの脳濃度を与えた。これがこのグループで観察された大きい誤差を生じた。それにも関わらず、脳における製剤されたdAbの平均濃度は、71.67ng/mlであったフリーdAbのそれよりほぼ9倍高かった。
【0215】
注射後60分に、脳におけるdAbのレベルは146.51 ng/mlにて高く残存した。フリーdAbの濃度は、代わりに、3.17ng/mlの平均に低下した。それ故に、注射後60分において、ナノ粒子中で与えたdAbの脳濃度は裸のdAbで達成した値より46倍高かった。
【0216】
全体的に、dAbを頚動脈内経路経由で脳へ送達することに非常に成功したことが見出された。
【0217】
これは、このグループに対する脳対血液比の決定値からも明らかである(図11)。ナノ粒子グループ中のdAbは、両方の時点において1より大きい脳対血液比(10および60分において、それぞれ1.569および1.845)を表し、製剤したdAbの大多数が首尾よく脳に到達したことを示す。対照的に、フリーdAbグループは、有意に低い脳対血液比(10および60分の時点において、それぞれ0.012および0.286)により特徴付けられた。
【0218】
結論として、このナノ粒子送達系は頸動脈内経路経由で与えると、dAbの脳への送達を大きく改善することが見出された。何故ならこの経路は、製剤が脳だけでなく受動的に標的化する肝臓および脾臓の前に、脳に到達するからであった。
【0219】
静脈内経路は成功せず、脳におけるdAbの取込みを増加する一過的な暗示を与えた。これは恐らく、粒子中への不十分なdAb負荷によること、ならびに、この送達系は他組織により取り上げられ、注射した粒子の一部分だけが脳に到達することによるのであろう。
【0220】
それ故に、この系を改善して静脈内経路経由の脳への効率的な送達を達成するためには、ナノ粒子中へのdAbの負荷をさらに改善する必要がある。これは、HIP PBCA系より大きいdAb負荷能力を有することが示されている中空PBCA系を使用することにより達成しうる。もしin vivoで十分に安定であれば、中空PBCA粒子はdAbの脳への送達においてHIP PBCA 系よりもっと成功しうる。その安定性を確実にするには、PBCAポリマーとPLGA、PLAまたはPCLなどの高分子量の他のポリマーとのブレンドを利用することが必要かも知れない。送達系はまた、PEG化コポリマーの使用が有利かも知れない。かかるポリマーは血液中のナノ粒子の循環時間を改善し、従って脳送達を改善しうる。
【0221】
送達系を改善するさらなる手法はその脳標的化の機構を変えることである。BBB上の標的と結合するリガンドを表す能動的標的化ナノ粒子は、脳取込みを改善し同時に粒子の他組織への損失を制限しそうである。能動的標的化を達成するには、他の器官への非特異的標的化を制限するために、ナノ粒子表面を広汎にPEG化する必要がありうる。
【0222】
一般的に、本明細書に記載したナノ粒子系は、ドメイン抗体の脳への効率的送達を達成する大きい可能性を有する。しかしこれを達成するには意味のある最適化がさらに必要である。
【0223】
実施例13 改変HIPプロセスを用いる、ドメイン抗体のPCLミクロスフェア中の封入
ポリマー、ポリカプロラクトン(PCL、Lactel)を、dAb封入用のHIPプロセスについてのミクロスフェアの作製と徐放性ポリマーの使用の両方に対するテストケースとして用いた。最初の実験は実施例7と8に記載したHIP封入プロトコルの改変版を用いてPCLの使用に適合させ、空のナノ粒子とミクロスフェアの両方を作製した。
【0224】
最初の製剤は、ジクロロメタン(DCM)中のPCLの100mg/mlストック、および界面活性剤として1%プルロニックF68(Sigma)を使用し、4000〜7500rpmのホモジナイズ化速度で45秒間処理したが、少しのミクロスフェアまたはナノ粒子しか作れなかった(データは示してない)。色々な界面活性剤:1%コール酸ナトリウム(Sigma)、または1%Lutrol F127ポロキサマー407(BASF Corp.)、または1%ビタミンE TPGS(d-αトコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸エステル)(Peboc/Eastman)を試みることによりプロセスをさらに最適化してわずかな最初の改善があり(データは示してない)、入力ポリマーの量が10mg/mlに減じ、その場合、>20μmの少数の大きく脆弱なミクロスフェアが光顕微鏡下で観察された(データは示してない)、しかし有機溶媒を蒸発してしまうと、PCLの大部分は懸濁液から巨視的粒子となった(データは示してない)。上記の実験から最も期待される2種の界面活性剤(Lutrol F127 Polaxomer 407、(BASF Corp.)またはビタミンE TPGS)を2%で用いて懸濁液の安定化を助けることによりこのプロセスを粒子安定性の点でさらに改善しかつ7500〜9000rpmの速度で45秒〜2分間ホモジナイズ化した。このプロセスを用いてほぼ1μmサイズの粒子を全事例で作製し(データは示してない)、そして2%ビタミンE TPGSを界面活性剤とする2分間ホモジナイズ化を、以下に示したdAbを封入するプロトコルに選んだ。
【0225】
dAbを封入するHIP-PCLミクロスフェア(M/P)の調製。
【0226】
上記実施例13の手法と以下に詳述したこのプロトコルに対する変法に従ってHIP-PCLミクロスフェアを調製した。
【0227】
使用した製剤:
4種のPCL(ポリ-e-カプロラクトン)製剤を調製した:
i) M/PとしてのPCLとのHIPによる空の粒子-4000rpm(界面活性剤として2%ビタミンE[TPGS])-2分間
ii) M/PとしてのPCLとのHIPによる空の粒子-7500rpm(界面活性剤として2%ビタミンE[TPGS])-2分間
iii) M/PとしてのPCLとのHIPによる粒子+dAb、分析用、(dAb1)-7500rpm(界面活性剤として2%ビタミンE[TPGS])-2分間
iv) M/PとしてのPCLとのHIPによる粒子+dAb、粒度分布測定用、(dAb2)-7500rpm(界面活性剤として2%ビタミンE[TPGS])-2分間
必要な溶液:
(1)抽出するdAb:抗VEGF(WO2008/149147に開示されたDOM15-26-593)、バッチTB090220 1.5mg/ml(14,246Da)-4 x 5ml(Nanodrop 1000 分光光度計、Thermo Scientificを用いるdAb濃度の実再読取値、実確認濃度1.04mg/ml)を使用
(2)82:1 HIP溶液(1ml、30.58mg/ml)
(3)酸性化dAb溶液(25mg/ml)N/A
(4)水相:PBS中の1%w/vデキストラン、2%w/v界面活性剤*
(5)DCMに溶解したPCLポリマー
*ストック10%ビタミンE[TPGS]
DCM中のPCL溶液の調製。
【0228】
目標は1製剤当たりDCM中に溶解した10mgのPCLを提供することであった(溶解度は最大DCM中約100mg/mlであって、もっと多く溶解し得た)@〜10mg/ml。5つの製剤用に十分なPCL、すなわち、5ml DCM中の50mgを作った。50mg PCLを量り分け、(-20℃から室温へ開放して解凍した真空デシケーター)、秤量し(微量天秤)、10mlビーカー中でPCL + 4ml DCMを攪拌し、ヒュームフード内でカバーをしてガラス攪拌子を用いて攪拌した。溶解し終わると、ガラス製測定シリンダーで測定し、そしてDCMによって5mlまで満たし、次いで再混合して(ビーカーを攪拌して)、速やかに使用した。
【0229】
dAb溶液の濃度。
【0230】
調製は最初にO/NをRT 600rpmで行い、次いで希釈して正しい濃度に戻した。
【0231】
その溶液を、Vivaspin濃縮器(Vivaspin 6、Sartorius、VS0691、MWCO 3,000 PES)を用いてSorvall説明文「RTベンチトップ遠心分離機(RT Bench Top centrifuge)」の製造業者取扱説明書に従って濃縮した。濃度は予想された1.5mg/ml(4 x Vivaspin中の5mlとして20.0ml)から〜25mg/ml(ほぼ700μl)であった。このプロセスは1000〜1500rpmで2時間を要しかつさらに3000rpmでほぼ1時間を要した。75倍希釈した最初のdAb 400μlはNanodrop分光光度計によると0.56mg/mlであり、次いで760μlへ希釈して25mg/mlとし、酸処理してpHをほぼ3.7に下げた。模倣物材料はpHほぼ2.5で酸処理した。dAbは25mg/ml、ほぼpH 5.0/4.5であった。目標はpH3.7に下げることである。pHをpH2.5〜4.5に試験紙でチェックした。380μl、例えば1製剤当たり9.5mgだけを用いた(そして1mg/ml(1.5mg/mlではない)の最初の入力濃度に適合させた)。
【0232】
酸性化溶液の調製
【表6】

【0233】
表7:HIP抽出用の製剤と試薬(標準体積プロトコル).
(A)有機相dAb
【表7A】

【0234】
(B)有機相HIP
【表7B】

【0235】
目標は1:2混合物のdAb(aq):DCM/HIPを作ることであった。上記は1 x 混合物、すなわちほぼ500μl:1000μl有機相についてである。
【0236】
空の対照(有機相)の調製
【表8】

【0237】
ドクセートナトリウムをHIP形成剤として用いる、dAbまたは模倣物(空の粒子)の有機相中への抽出。
【0238】
酸性化したdAbまたは「模倣物」溶液と有機相を2mlエッペンドルフチューブ内で混合し、水相に加えた。その混合物を最大速度で1分間ボルテックス混合し、次いでベンチトップミキサー5432に入れて5分間混合した。得られる白色混合物を最大速度で(ミクロ遠心分離機で20,817 rcf、14000rpmにて)50分間、遠心分離した。dAb-HIP複合体が現れ、厚い白色沈降物を界面に形成した。その水相を採集し4℃で貯蔵した。トップ水相を除去して貯蔵し、この手順をボトム有機相について続けて行った。
【0239】
HIP-dAb複合体の有機相中へのホモジナイズ化。
【0240】
有機相を2mlエッペンドルフチューブ内でIKA T25ホモジナイザー(polytron、速度設定1)を用いて7〜10秒間ホモジナイズ化した。目標は白色沈降物(dAbとHIP複合体)の有機溶媒(DCM)中への完全なホモジナイズ化を達成することであった。HIP-dAb複合体は容易に有機相中に可溶化して均質と思われる乳濁液を形成した。有機相を全部で10秒間ホモジナイズ化した。有機相のホモジナイズ化と除去の後、チューブ内に僅かな沈降物しか残らなかった。
【0241】
ミクロスフェアの調製。
【0242】
ホモジネートの有機相1mlを採取し、DCM(100mg)に溶解したPCL 1mlをピペット内で上下することにより混合した。
【0243】
得られる白色懸濁液(2ml)をピペットで採取して水相(25mlビーカーに入った水中の10mlデキストランとPBS中の2%界面活性剤溶液)中の液体表面下のプローブ流入点に注入した。水相を、Silverson L4RTホモジナイザーを用いて7,500rpm(M/P)または4000rpm(M/P)のいずれかにてホモジナイズした。その乳濁液を2分間ホモジナイズした。次いで製剤をヒュームフード内で攪拌しながら(速度設定 4)3時間インキュベートして有機相を蒸発させた。インキュベーションに入って1時間に、設定を3に下げ、ビーカー表面上に凝集物を生じる乳濁液の過剰混合を避けた。
【0244】
実施例14 ミクロスフェアの粒度分布測定
(a)光顕微鏡
上記(i)〜(iv)の全4製剤を顕微鏡(ニコンEclipse E400)で可視光を用いて粒度分布測定した。これらの粒子の画像を示すデータを図12に示す。類似したサイズ範囲の可視ミクロスフェアを全4製剤(dAbを伴うものと伴わないものの両方)から見ることができる。そのデータは、このプロセスを用いるとdAbの存在のもとでミクロスフェアが同様に形成されることを示唆する。
【0245】
(b)多角度静的光散乱
全4サンプルを高解像度粒度分布分析計(Micromeritics Saturn DigiSizer 5200)で粒度分布測定した。
【0246】
十分な上記微粒子粒度分布測定からの材料を、Saturn Digisizer 5200に添付された低体積サンプルハンドリングユニット中に負荷することによりサンプルを粒度分布測定して、脱ガスしたPBS、(製剤の50〜100%を必要とする)のマトリックス中の5〜30%、好ましくは15%以上の遮蔽を可能にした。次いでサンプルを分析のポリカプロラクトンモデルを使い、1.476の屈折率の実数部分割と0.0001の屈折率の虚数部分割を用いて分析した。流速は6L/分で、停止ビーム角は45°、媒質はPBS、そして計数は三通り行った。体積と数分布の両方を報じたが、得たデータは組合わせた報告、累積グラフおよび頻度グラフであり、方法の詳細についてはthe Micromeritics Saturn Digisizer 5200 Operators Manual V1.12、(March 2007) および the Quick Reference guideを参照されたい。
【0247】
関係製剤:(i)〜(iv)についてのデータを図13(a)〜(d)に、粒子数の頻度を粒子径に対してプロットするグラフとして提示した。以下のこれらのグラフに対応するデータを参照されたい。
【0248】
図13(a)

【0249】
図13(b)

【0250】
図13(c)

【0251】
図13(d)

【0252】
最も明確な平均粒子径の決定は幾何学的平均数分布からであって、次の平均粒子径を与える:
i)M/PとしてのPCLとHIPによる空の粒子-4000rpm(界面活性剤として2%ビタミンE[TPGS])-2分間平均粒子径 1.231
ii)M/PとしてのPCLとHIPによる空の粒子-7500rpm(界面活性剤として2%ビタミンE[TPGS])-2分間平均粒子径 1.181
iii)M/PとしてのPCLとHIPによる粒子+dAb1(分析用)-7500rpm(界面活性剤として2%ビタミンE[TPGS])-2分間平均粒子径 1.355
iv)M/PとしてのPCLとHIPによる粒子+dAb2(粒度分布測定用)-7500rpm(界面活性剤として2%ビタミンE[TPGS])-2分間平均粒子径 1.393。
【0253】
結論として、これらの条件下で若干大きいミクロスフェアが作製されたとしてもその影響は大きいものでない、すなわち、7,500rpmでのホモジナイズ化について記載した条件はdAbの存在で平均径1.4μmをもつミクロスフェアを作製し、従ってこのプロセスにおける空の粒子より若干大きい。
【0254】
実施例15 dAbを含有するHIP-PCLミクロスフェアの分析
dAbを含有するHIP PCLミクロスフェアを上記実施例13の通り調製した。50μlの各製剤(dAb1およびdAb2)を採取して次のいずれかの処理を行った:
i) 1.5mlミクロ遠心チューブに入れて3K rpmにて5分間遠心分離して、上清(S)(30μlを新しいミクロ遠心チューブに取出す)とペレット(P)画分(50μl PBSに再懸濁する)を作製する;
ii) 1.5mlミクロ遠心チューブに入れて13K rpmにて5分間遠心分離して上清(S)(30μlを新しいミクロ遠心チューブに取出す)とペレット(P)画分(50μl PBSに再懸濁する)を作製する;
iii) Vivaspin 500(1,000,000分子量カットオフ)に入れて5分間遠心分離し、組み込まれたdAbを除去し(粒子はカラム中に保持されるので)、50μl PBSを上清(F)として通過させ、採取する。Vivaspin 500(Sartorius stedim biotech)は製造業者の取扱説明書に従って使用した。
【0255】
負荷用のサンプルは、21μlのサンプルを8μlの4 x 負荷する染料および3μlの10 x 還元剤に加えることにより調製して32μlの最終体積とし、そのうちの10μlは、PCRブロック(PTC-100、MJ research Inc)に置いた96ウエルPCRプレート中で、80℃に5分間加熱した後に、負荷した。
【0256】
次いでサンプルを、製造業者取扱説明書に従ってMES SDS(2Nモルホリノエタンスルホン酸、ドデシル硫酸ナトリウム)バッファー中でゲル試験に35分間負荷し、(invitrogen)、SimplyBlue SafeStainプロトコル(invitrogen)の電子レンジ使用版を用いて染色した。封入されてないdAbの負荷標準も、ゲル上に並んで試験して
濃度を計算する助けとした、すなわち、例えば、3.28μg、0.82μg、0.21μgおよび0.05μgは、サンプル調製で先に記載した500ng/μl、125ng/μl、31.25ng/μl、および7.8ng/μlストックの10μl負荷から希釈したものである。染色したゲルの画像を図14に示す。
【0257】
ゲルは次の通りセットした:
レーン1:全dAb1、レーン2:dAb1 3K S、レーン3:dAb1 3K P、レーン4:dAb1 13K S、レーン5:dAb1 13K P、レーン6:dAb1 F、レーン7:全dAb2、レーン8:dAb2 3K S、レーン9:dAb2 3K P、レーン10:dAb2 13K S、レーン11:dAb2 13K P、レーン12:dAb2 F、レーン13:分子マーカー-ブループラス2 前染色標準(invitrogen)参照、分子量(kd)、レーン14:3.28μg dAb標準、レーン15:0.82μg dAb標準、レーン16:0.21μg dAb標準、レーン17:0.05μg dAb標準。ゲルはdAbの封入が起こったことを確認した。ゲルはまた、dAbが無傷でありかつdAbが粒子調製プロセスによって断片化されてないことも確認した。
【0258】
全体の材料、上清およびPCL HIP粒子のペレット画分の量を、dAb1について、バンド捕獲およびLabworks 4.6 ソフトウエア(UVP)のIDゲル定量パッケージを用いて確かめた。分析用の画像はオリンパスカメラに供えられたVisionワークステーションを用いて白色光のもとで撮影した。データを表9に示す。
【0259】
PCL-HIP ミクロスフェア中のdAb負荷の定量
【表9】

【0260】
レーン1:全dAb1、レーン2:dAb1 3K S、レーン3:dAb1 3K P、レーン4:dAb1 13K S、レーン5:dAb1 13K P、レーン6:dAb1 F、レーン7:全dAb2、レーン8:dAb2 3K S、レーン9:dAb2 3K P、レーン10:dAb2 13K S、レーン11:dAb2 13K P、レーン12:dAb2 F、レーン13:分子マーカー-ブループラス2 前染色標準(Invitrogen)を参照、分子量(kd)、レーン14:3.28μg dAb標準、レーン15:0.82μg dAb標準、レーン16:0.21μg dAb標準、レーン17:0.05μg dAb標準。
【0261】
バンド強度に対するdAb標準のプロット(データは示してない)を利用して、dAbの強度に対するゲル読取値をdAb(μg)に変換した(表9)。
【0262】
平均全dAb製剤は(レーン1および7)、3.5μg+4.5μg/2=4μg;10μlを負荷する際にサンプル21を32に希釈したので、10μl中の全dAb=32/21x4=6μgである。
【0263】
dAb1上清、(レーン2、4および6)=1.0+0.9+0.73/3=0.9μg、希釈にたいして補正すると1.4μgである。
【0264】
dAb1ペレット、(レーン3および5)=3.0+3.1/2=3.0μg、希釈にたいして補正すると1.4μgである。
【0265】
諸画分は全体として、6μg=dAb1上清(1.4μg)+dAb1ペレット(4.6μg)で全dAbに一致するようであり、これらの数字を用いると、封入されたdAbのパーセントは全dAbの77%(4.6/6.0)である。
【0266】
しかし、入力dAb-10μl(9.5μg)の封入されたパーセントは4.6/9.5x100=48%である。
【0267】
実施例16 HIP PCLミクロスフェアからのdAbの放出
機能活性分析用のHIP PCL粒子からdAbを放出させるために、サンプルの50μlアリコートをdAb1とdAb2 HIP PCL製剤から採取して1.5mlエッペンドルフに入れた。これらを1mlのPBSを用いてエッペンドルフ5417Cミクロ遠心分離機で5分間5000rpmで回転して2回洗浄した。ペレットを50μl PBSに再懸濁し、0、20、40、および60分間の時間にわたり、56℃にてTechne加熱ブロック中でインキュベーションした。次いでサンプルを5分間5000rpmで回転して30μlの上清(S)を取出し、氷上で分析に供した。次いでペレット(P)を乾燥し、50μlに再懸濁した。
【0268】
全画分をゲル分析に供し、放出された上清は1つのゲル上で分析し、放出されたペレットは他のゲル上で分析した。上清ゲルを図15に示す。負荷は図14の最初の分析ゲルで記載したようにセットアップした。
【0269】
PCL HIP粒子の放出された上清およびペレット画分中の材料の量を、dAb1とdAb2について、バンド捕獲およびLabworks 4.6 ソフトウエア (UVP)のIDゲル定量パッケージを用いて確認した。分析用画像はオリンパスカメラを備えたVisionワークステーションを用いて白色光のもとで撮影した。
【0270】
バンド強度に対するdAb標準のグラフプロット(データは示してない)を用いて、dAbの強度に対するゲル読取値をdAb量(ng)に変換した(表10、列2)。
【0271】
このプロセスにより放出される材料の量は、粒子中のほぼ882〜1000ngのペレット源から120〜189ng(データは示してない)の範囲であり、ここで材料の12〜19%が放出されたことに注意されたい。
【0272】
PCL HIP粒子から放出されたdAbのELISAによる機能分析。
【0273】
ELISAアッセイプロトコルは、可溶性ドメイン抗体(VEGF dAb)の組換えVEGFと結合する能力を測定する結合アッセイを記載する。本アッセイはELISAプレート(Nunc Immunosorb)の表面上にコートした組換えヒトVEGF(R&D Systems)を用いてVEGF dAbを捕獲する。プレートを洗浄して無結合のdAbを除去する。結合したdAbは、VEGF dabのMycタグに対する抗体(9E10、Sigma)を用いて実質的に検出する。過剰の抗体は洗浄により除去し、結合した抗myc抗体は抗マウスIgGペルオキシダーゼ複合体(Sigma)を用いて検出する。アッセイはTMB溶液を用いて現像し、酸を用いて停止する。アッセイからのシグナルはdAbの量に比例する。
【0274】
ELISAプレートは、下表のサンプルおよびまた0分後に「放出された」dAb1とdAb2のサンプルを分析するようにセットアップした。除去され放出されたサンプル30μlから、21μlをSDS PAGE分析に使用し、9μlを残して1/100、1/1000および1/10000の希釈物を作った。
【0275】
計算した全放出dAbとELISAにより測定した機能活性のあるdAbとの比較を表10に示す。
【0276】
機能活性のあるdAbと全放出dAbの定量
【表10】

【0277】
この放出手順を用いると、機能活性のあるdAbがミクロスフェアより放出される物質から検出され、その範囲は封入保持されている活性(ELISA測定による)の60〜100%でありうることがわかる。合計dAb-対-活性dAbの比は放出されるdAb、dAbの熱不活性化またはなんらかの分解によって変動しうるが、その値の分散は有意に異ならないと考えられる。
【0278】
配列表

【0279】
配列





【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物活性薬を微粒子担体中に封入する方法であって、以下のステップ:
a) 生物活性薬を疎水性イオン対形成(HIP)剤の存在下でかつ有機溶媒中で溶解し、有機相を形成するステップ;
b) ポリマー形成物質のモノマーまたはオリゴマーをステップ(a)で形成した有機相に溶解するステップ;
c) ステップ(b)で形成した有機相の連続水相中の乳濁液を形成し、モノマーを重合するステップ;ならびに
d)形成した微粒子担体を乳濁液から得るステップ,
を含む、上記方法。
【請求項2】
生物活性薬を微粒子担体中に封入する方法であって、以下のステップ:
a)水相中の生物活性薬を有機溶媒相中の疎水性イオン対形成(HIP)剤と混合して生物活性薬-HIP複合体を形成するステップ;
b)該複合体を該水相から分離するステップ;
c)該水相を除去しかつ該複合体を該有機相でホモジナイズするステップ;
d)(i)ポリマーをステップ(c)で形成した有機相に溶解し、次いで連続水相中に有機相の乳濁液を形成するステップ;または
(ii)ポリマー形成物質のモノマーまたはオリゴマーをステップ(c)で形成した有機相に溶解し次いで連続水相中に有機相の乳濁液を形成し、モノマーまたはオリゴマーをポリマー化してポリマーを形成するステップ;ならびに
e)形成した微粒子担体をステップ(d)の乳濁液から得るステップ、
を含む、上記方法。
【請求項3】
モノマーがアルキルシアノアクリレート(ACA)を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
モノマーがブチルシアノアクリレート(BCA)を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ポリマーがポリ-L-ラクチド (PLA)、ポリブチルシアノアクリレート (PBCA)またはポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLG)またはポリ(カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)および/またはそれらのコポリマーを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
ポリマーがポリ(カプロラクトン)を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ポリマーがポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLG)を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ポリマーがポリ-L-ラクチド(PLA)を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
連続水相が約6またはそれ以上のpHを有する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項10】
微粒子担体がナノ粒子である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
生物活性薬がタンパク質またはペプチドである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
生物活性薬が抗原結合分子である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
抗原結合分子がドメインを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
抗原結合分子が抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
抗原結合分子がドメイン抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
生物活性薬が疎水性イオン対形成剤の非存在下において有機相中に不溶性である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
生物活性薬が陽イオン性である場合、HIP剤がアニオン性HIP剤である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
HIP剤がドクセートナトリウムである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
生物活性薬がアニオン性である場合、HIP剤が陽イオン性HIP剤である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
HIP剤が臭化ジメチルジオクタデシル-アンモニウム (DDAB18)、1,2-ジオレオイルオキシ-3(トリメチルアンモニウム) プロパン (DOTAP)または臭化セトリモニウム (CTAB)である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法によって得られた、封入された生物活性薬を含む微粒子担体。
【請求項22】
タンパク質のポリマー対する比が、少なくとも約1.0% w/w、少なくとも約2.5% w/wまたは少なくとも約5% w/wである、請求項21に記載の微粒子担体。
【請求項23】
ペプチドのポリマー対する比が、少なくとも 約 5% w/wまたは少なくとも 約 9%である、請求項21に記載の微粒子担体。
【請求項24】
抗体のポリマー対する比が、少なくとも 約 1% w/wまたは少なくとも 約 2.5% w/wである、請求項21に記載の微粒子担体。
【請求項25】
ナノ粒子中ドメイン抗体のポリマー対する比が、少なくとも 約 5% w/wである、請求項21に記載の微粒子担体。
【請求項26】
請求項21〜25のいずれか1項に記載の微粒子担体を含む医薬組成物。
【請求項27】
疾患の予防または治療のための、請求項26に記載の医薬組成物。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13a】
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【図13b】
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【図13c】
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【図13d】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2011−519894(P2011−519894A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507899(P2011−507899)
【出願日】平成21年5月5日(2009.5.5)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055438
【国際公開番号】WO2009/135855
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【Fターム(参考)】