説明

生物脱硫装置及び方法

【課題】芳香族化合物と硫化水素とを含む被処理ガスに適用可能な生物脱硫装置と方法とを提供する。
【解決手段】芳香族化合物と硫化水素とを含有する被処理ガスを吸収液に接触させることにより被処理ガス中の芳香族化合物と硫化水素とを該吸収液に吸収させる吸収部1と、該吸収液中の芳香族化合物を除去する芳香族化合物除去部2と、芳香族化合物が除去された前記吸収液中の硫化水素を微生物により好気的に酸化分解させる脱硫部3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物脱硫装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
資源を有効利用する観点から、石炭等の化石燃料をガス化してC1化学の原料ガスや燃料ガスとして使用することが注目されている。このガス化ガス中には、水素、一酸化炭素の他に硫化水素が含まれているが、さらにベンゼン、トルエン、フェノール、キシレン、チオフェン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族化合物が副生物として含まれている。硫化水素が含まれたガスは、化学原料として不適合であるばかりでなく、燃料ガスとして使用する際には装置を腐食したり、燃焼排ガス中の硫黄酸化物濃度が高くなる等の問題を生じるため、ガス中から硫化水素を除去する必要がある。
【0003】
従来、芳香族化合物を含むガスの脱硫方法としては、高圧下で有機溶媒に硫化水素を吸収させる物理吸収法の他、アミン系吸収剤と硫化水素とを反応させて除去する化学吸収法が用いている。ところが、これら物理および化学脱硫法は、吸着剤や酸化剤の使用量が多く、処理コストが高くなるという問題があった。これに対して、有機性廃棄物等から得られるバイオガスを対象とした生物脱硫法とその装置が提案されている。生物脱硫法は、バイオガス中の硫化水素を微生物に分解させて除去するので、吸着剤や酸化剤を定期的に交換する必要がなく、物理および化学脱硫法に比べて、低コストで処理を行える。
【0004】
下記特許文献1〜4には、いずれも硫化水素を含むバイオガスを吸収液と接触させる気液接触塔と、この気液接触塔から排出される吸収液を導入して微生物により好気的に酸化分解する酸化槽と、この酸化槽から排出された処理水の一部を前記気液接触塔に吸収液として循環供給させる手段とを備えてなる生物脱硫装置と方法とが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−79034号公報
【特許文献2】特開2003−113386号公報
【特許文献3】特許第3750648号公報
【特許文献4】特開2006−36961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、芳香族化合物を含むガスの脱硫には、生物脱硫法を適用することができなかった。何故なら、芳香族化合物が油膜を形成して微生物が硫化水素の分解や繁殖の際に必要とする酸素の供給を妨げたり、細胞膜を破壊するような毒性を示して微生物の活性や繁殖を低下させるためである。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、芳香族化合物と硫化水素とを含む被処理ガスに適用可能な生物脱硫装置と方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、生物脱硫装置に係る第1の解決手段として、
芳香族化合物と硫化水素とを含有する被処理ガスを吸収液に接触させて、被処理ガス中の芳香族化合物と硫化水素とを該吸収液に吸収させる吸収部と、該吸収液中の芳香族化合物を除去する芳香族化合物除去部と、芳香族化合物が除去された前記吸収液中の硫化水素を微生物により好気的に酸化分解させる脱硫部とを備える、という手段を採用する。
【0009】
生物脱硫装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記芳香族化合物除去部が、芳香族化合物を吸着する吸着材を備えてなる、という手段を採用する。
【0010】
生物脱硫装置に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、
前記芳香族化合物除去部が、芳香族化合物を分解する従属栄養細菌を有してなる、という手段を採用する。
【0011】
また、本発明では、生物脱硫方法に係る第1の解決手段として、芳香族化合物と硫化水素とを含有する被処理ガスを吸収液に接触させることにより、被処理ガス中の芳香族化合物と硫化水素とを該吸収液に吸収させる工程と、該吸収液中の芳香族化合物を除去する工程と、芳香族化合物が除去された前記吸収液中の硫化水素を微生物により好気的に酸化分解させる工程とを備える、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、芳香族化合物除去部で芳香族化合物を除去するので、芳香族化合物を原因とした微生物の活性や繁殖力の低下が起きず、芳香族化合物と硫化水素とを含む被処理ガスに生物脱硫法を適用することが可能となる。また、芳香族化合物を分解する従属栄養細菌を用いれば、芳香族化合物の除去も生物により行うことができ、物理および化学脱硫装置装置を用いる場合に比べて低コストで脱硫を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る生物脱硫装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る生物脱硫装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
最初に、図1を参照して本発明の第1実施形態について説明する。第1実施形態に係る生物脱硫装置は、図1に示すように、吸収部1と芳香族化合物除去部2と脱硫部3とpH調整槽4と、これらを相互接続する管路8、10、12、15とから構成されている。
【0015】
本生物脱硫装置の適用対象となる被処理ガスは、芳香族化合物と硫化水素とを含むガスであって、例えば石炭ガス化ガス等である。芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、フェノール、キシレン、チオフェン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等を例示できる。
【0016】
吸収部1は、被処理ガスと吸収液とを接触させることにより被処理ガス中の芳香族化合物と硫化水素とを吸収液に吸収させるためのものであって、内部に気液接触用の充填層6を有した充填塔等である。吸収部1には、充填層6に吸収液を供給する吸収液供給管15と、被処理ガスを導入する被処理ガス流入管5と、浄化された被処理ガスを排出する浄化ガス排気管7とが接続されている。
【0017】
充填層6は、特に限定されるものではないが、ラシヒリング、ポールリング、レッシリングが例示できる。また、被処理ガスを吸収部1の底部から導入して、塔頂部から散水される吸収液と向流接触させると、気液接触効率を高めることができる。
【0018】
吸収部1の下段には第1導入管8を介して芳香族化合物除去部2が配設されている。
芳香族化合物除去部2は、その内部に除去層9を備えてなる充填塔であって、除去層9の上部から下部へ向かって吸収液を流通させる際に芳香族化合物を除去するものであり、エア供給管16aとエア排気管17とが配設されている。
【0019】
除去層9は吸着材や生物担体からなる。吸着材は、芳香族化合物を吸着可能なものであれば特に限定されるものではなく、活性炭等を例示できる。吸着材は芳香族化合物の吸着によって、その活性が低下するので、定期的に交換する必要がある。
【0020】
生物担体は、芳香族化合物を分解可能な従属栄養細菌を担持した担体からなる。担体は特に限定されるものではなく、スポンジ、活性炭、吸収部で使用した充填材あるいはこれらを組み合わせたものを例示できるが、高密度に細菌を保持でき、液体と酸素とを充分に通過させ、かつ形状を自在に変化させ易いものが適当である。より具体的には、除膜したスポンジのように、網目内に閉塞物がなく、網目が細かく、比表面積が大きく、網目内に細菌を絡ませて多量に保持できる担体が好適である。
芳香族化合物除去部2で生物担体を用いると、定期的な交換が不要となり、低コストで芳香族化合物の除去が可能となり、好適である。除去層9は必要に応じて、吸着材と生物担体との両方を備えていてもよい。
【0021】
従属栄養細菌としては、芳香族化合物を分解するものであれば特に限定されないが、Rhodococcus属、Pseudomonas属、Sphingomonas属等を例示でき、これらは単独でも複数種類であってもよい。これらの細菌が芳香族化合物を分解して生じた生成物は、芳香族化合物が除去された吸収液と共に排出される。
【0022】
生物担体での芳香族化合物の分解が好気的である場合には、その活性化のために、生物担体へエア供給管16aからエアを送入して、吸収液を曝気してもよい。芳香族化合物除去部2からのエアの排出はエア排気管17から行う。このようなエアとしては、当該好気的分解に必要な酸素を含むものであれば特に限定されるものではなく、酸素ガス、空気、あるいはこれらを組み合わせたものが例示できる。また、曝気の方法も特に限定されるものではなく、例えば、芳香族化合物除去部2の低部からエアを供給しながら、芳香族化合物除去部2内の吸収液を攪拌する方法が挙げられる。
【0023】
芳香族化合物除去部2の下段には、第2導入管10を介して脱硫部3が配設されている。脱硫部3は、その内部に生物脱硫層11を備えてなる充填塔であって、排水管13、エア供給管16b、エア排気管18、補給液供給管19が配設されている。
生物脱硫層11は、上部から下部へ向かって吸収液を流通させる際に硫化水素を除去するものであり、硫化水素を酸化分解可能な微生物を担持した担体からなる。この担体としては、上記芳香族化合物除去部2の生物担体と同様のものが使用可能であり、ラシヒリング、レッシングリング等が好適である。
【0024】
生物脱硫層11で用いられる微生物としては、硫化水素を酸化分解可能なものであれば、特に限定されるものではなく、硫化水素を硫酸にまで酸化分解する硫黄酸化細菌等が例示でき、これらは単独でも複数種類であってもよい。生物脱硫層11の微生物による硫化水素の好気的酸化分解を活性化するために、芳香族化合物除去部2と同様のエア流入を行って、生物脱硫層11を曝気する。
【0025】
微生物が硫化水素を分解して生じた硫酸塩等の分解生成物が生物脱硫層11に蓄積しないように、生物脱硫層11には補給液供給管19から補給液が適宜供給され、分解生成物は処理水もしくは排水と共に流出除去される。補給液は生物脱硫層11の微生物の栄養源となるリン酸塩や微量金属を含むものであって、例えば、KHPO、NaHPO、(HH)SO、MgSO・7HO、FeCl・6HO、MnSO・XHO、CaCl・2HOを含む水溶液等である。
【0026】
脱硫部3の下段には、処理水排出管12を介してpH調整槽4が配設されている。pH調整槽4は、ポンプ14を備えた吸収液供給管15により、吸収部1に接続されている。pH調整槽4は、処理水の一部にpH調整剤を添加して液性を調整し、吸収液として再生して貯留するものである。pH調整剤は、酸性の処理水を所定液性にするためのものであって、特に限定されないが、安価で強アルカリのNaOHが好適である。
【0027】
次に、このように構成された生物脱硫装置の動作、すなわち当該生物脱硫装置を用いた生物脱硫方法について説明する。
【0028】
芳香族化合物と硫化水素とを含む被処理ガスは、吸収部1に被処理ガス流入管5から送入され、吸収液と接触する。この気液接触で、被処理ガス中の芳香族化合物と硫化水素とが吸収液中に吸収される。芳香族化合物と硫化水素とが除去された浄化ガスは浄化ガス排気管7から排気され、必要に応じて更なる精製処理が施されて、合成ガスや燃料ガス等として使用される。
【0029】
吸収液は芳香族化合物除去部2に導入されて、吸収液中の芳香族化合物が除去層9で除去された後、脱硫部3に導入される。脱硫部3に導入される吸収液中には芳香族化合物が含まれていないために、生物脱硫層11の微生物の脱硫活性や繁殖力が低下することがなく、吸収液中の硫化水素は、生物脱硫層11で微生物によって好気的に酸化分解されて、芳香族化合物と硫化水素とが除去された処理水とされる。
【0030】
処理水の一部は、脱硫部3からpH調整槽4へ供給され、残部は排水管13から排水される。処理水は硫化水素の分解生成物を含み、酸性であるので、pH調整槽4でpH調整剤を添加してpHを6〜8に調整され、吸収液として再生される。吸収液の液性を中性付近に調整することで、吸収部1での気液接触時の芳香族化合物と硫化水素との吸収効率を高くできる。pHが9より高くなると脱硫部2における微生物の活性が低下するので、これ以下とする。この吸収液はpH調整槽4で貯留された後、吸収液供給管15から吸収部1へ供給されて再使用される。
【0031】
除去層9の芳香族化合物を分解する従属栄養細菌と、生物脱硫層11の硫化水素を酸化分解する微生物との両方の活性と繁殖力とを保持するために、これらの2層に供給される吸収液の温度は20〜35℃の範囲に保つことが好ましい。20℃以下になると、除去層9の細菌も生物脱硫層11の細菌も共に活性が低下し、35℃を超えると死滅する恐れがあるためである。このような温度範囲に吸収液を加温または冷却する方法は特に限定されるものではないが、pH調整槽4または吸収液供給管15にヒーターや冷却装置等を設置して、これらにより加熱、冷却、保温すれば温度管理を行い易く好適である。
【0032】
このように本発明の生物脱硫装置及び生物脱硫方法によれば、芳香族化合物と硫化水素とを含む被処理ガスを生物脱硫して浄化することができ、かつ低コストでの脱硫処理が可能となる。
【0033】
〔第2実施形態〕
次に、図2を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。図2は、第2実施形態に係る生物脱硫装置の概略構成であり、第1実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0034】
本生物脱硫装置が第1実施形態のものと異なるところは、芳香族化合物除去部2と脱硫部3とを一体化して、複合除去部20としたところである。このような構成とすることで生物脱硫装置の簡略化が実現される。
【0035】
複合除去部20は、吸収部1の下段に導入管22を介して配設されており、除去層9と生物脱硫層11とを一体化した充填塔からなる。除去層9と生物脱硫層11とは、多孔質の板材等からなる分離層21を介して分離されており、互いの充填物が混入しないように保持されている。特に、除去層9が生物担体からなる場合には、芳香族化合物を分解する従属性栄養細菌が吸収液と共に生物脱硫層11に流入すると、生物脱硫層11の微生物が駆逐されるので、吸収液の流入速度、分離層21の膜厚、孔の大きさを適宜選択する。
【0036】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、石炭ガス化ガスの脱硫のみならず、芳香族化合物と硫化水素とを含む各種のガスの脱硫に適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…吸収部、2…芳香族化合物除去部、3…脱硫部、6…充填層、9…除去層、11…生物脱硫層、20…複合除去部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族化合物と硫化水素とを含有する被処理ガスを吸収液に接触させることにより、被処理ガス中の芳香族化合物と硫化水素とを該吸収液に吸収させる吸収部と、
該吸収液中の芳香族化合物を除去する芳香族化合物除去部と、
芳香族化合物が除去された前記吸収液中の硫化水素を微生物により好気的に酸化分解させる脱硫部と
を備えることを特徴とする生物脱硫装置。
【請求項2】
前記芳香族化合物除去部が、芳香族化合物を吸着する吸着材を備えてなることを特徴とする請求項1記載の生物脱硫装置。
【請求項3】
前記芳香族化合物除去部が、芳香族化合物を分解する従属栄養細菌を有してなることを特徴とする請求項1または2記載の生物脱硫装置。
【請求項4】
芳香族化合物と硫化水素とを含有する被処理ガスを吸収液に接触させて、被処理ガス中の芳香族化合物と硫化水素とを該吸収液に吸収させる工程と、
該吸収液中の芳香族化合物を除去する工程と、
芳香族化合物が除去された前記吸収液中の硫化水素を微生物により好気的に酸化分解させる工程と
を有することを特徴とする生物脱硫方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−5950(P2012−5950A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143805(P2010−143805)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】