説明

生産知識検索システム、情報構築装置及び情報公開検索装置並びにプログラム

【課題】工業製品等の生産に関するノウハウを含む生産知識を適切に公開して効率的に検索し取得することができる生産知識検索システムを提供する。
【解決手段】生産に関するノウハウを含む情報情報の概念関係を示すオントロジが設定された生産知識を格納する生産知識データベース14と、生産知識及びその構成情報の公開に関するセキュリティレベルを設定するセキュリティ設定部9と、生産知識の検索要求を受け付け、検索要求で指定された検索条件に基づいて生産知識データベース13を検索し、検索条件に対応する生産知識を特定する検索処理部10と、検索処理部10により特定された生産知識及びその構成情報のセキュリティレベルに応じて公開可否を決定すると共に、この生産知識に設定されたオントロジの概念関係で公開する情報公開処理部8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生産知識検索システム、これを構成する情報構築装置及び情報公開検索装置並びにこれら装置としてコンピュータを機能させるプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
知識データベースを利用した従来の生産管理システムとしては、例えば特許文献1に開示されるプラント運転ガイド装置がある。このシステムは、マンマシンインタフェースで知識データベースを構築するオフライン計算機システムと、知識データベースをリアルタイム環境下で利用できるように最適化され、プラントの変化に即応した運転ガイドや制御を行うオンライン計算機システムを備える。知識データベースには、運転員のノウハウに相当する経験則や知識、システム構成の知識等が登録される。
【0003】
【特許文献1】特許第2635567号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工業製品の生産現場には、必ずしも理論で解明されないノウハウが存在する。例えば、設計図に書き表すことができない事象であるにもかかわらず、それが重要な不具合の要因であったり、季節によって生産設備のいわゆる「調子」が異なる、というような感覚的なものもあり、さらには作業者の頭の中にある「暗黙知」であったり、メモやキーワードのように文書化されていない断片的な情報からノウハウが得られる場合もある。
【0005】
従来では、このようなノウハウを含めた生産知識をどのように蓄積して伝承するかに関して明確な考え方がなく、ノウハウを含む生産知識を効率的に取得する手段がなかった。例えば、特許文献1のシステムでは、マンマシンインタフェースでノウハウに相当する情報を登録する旨の記述はあるが、生産現場やそれに関わる技術者から収集した情報からノウハウをどのように抽出して生産知識を構築するのかについて具体化されていない。
【0006】
例えば、企業においてノウハウを含む生産知識が適切に伝承されなかった場合、「同じ失敗を繰り返す」、「新製品の量産化に長時間を要する」といったように、その企業の生産業務に支障を来すと共に、ノウハウを有する作業者の育成には多大な時間を要する。このようにノウハウを含む生産知識は企業にとって重要な資産である一方、企業の価値を判断する一つの指標となり得る。
【0007】
例えば、自社製品に必要な部品を製作する企業をビジネスパートナーとして選ぶ場合、その部品の生産に関する生産知識が公開されていれば、高い生産知識を有する企業を選択することができる。その反面、生産知識は、企業にとって重要な資産であるため、何の制限もなく公開することはできず、その内容に応じて公開に関するセキュリティレベルを適切に設定する必要がある。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、工業製品等の生産に関するノウハウを含む生産知識を蓄積し、これを適切に公開して効率的に検索し取得することができる生産知識検索システム、これを構成する情報構築装置及び情報公開検索装置並びにこれら装置としてコンピュータを機能させるプログラムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る生産知識検索システムによれば、生産に関するノウハウを含む情報からなり、これら情報の概念関係を示すオントロジが設定された生産知識を格納する生産知識データベースと、生産知識およびその構成情報の公開に関するセキュリティレベルを設定するセキュリティ設定手段と、生産知識の検索要求を受け付け、検索要求で指定された検索条件に基づいて生産知識データベースを検索し、検索条件に対応する生産知識を特定する検索手段と、検索手段により特定された生産知識を生産知識データベースから読み出し、この生産知識およびその構成情報のセキュリティレベルに応じて公開可否を決定するとともに、この生産知識に設定されたオントロジの概念関係で公開する情報公開手段とを備えるものである。
【0010】
この発明に係る生産知識検索システムによれば、セキュリティ設定手段がセキュリティレベル設定ルールに従って生産知識およびその構成情報のセキュリティレベルを設定するものである。
【0011】
この発明に係る生産知識検索システムによれば、セキュリティ設定手段が生産知識に関係する様々な情報に応じた複数のセキュリティレベル設定ルールが予め登録されており、これらセキュリティレベル設定ルールのうちから、検索手段により特定された生産知識に関係する情報に応じたセキュリティレベル設定ルールを選択することにより、生産知識およびその構成情報のセキュリティレベルを動的に更新するものである。
【0012】
この発明に係る生産知識検索システムによれば、生産知識データベースが生産知識をその提供元ごとに分類して格納し、セキュリティ設定手段が生産知識の提供元ごとの関係に応じてセキュリティレベルを設定するものである。
【0013】
この発明に係る生産知識検索システムによれば、生産に関する情報を入力する入力手段と、入力手段を介して入力された生産に関する情報から一連の数値データ群を入力し、この数値データ群をモデリングしてその特性を示す関係式をモデル知識として求めるモデリング手段と、入力手段を介して入力された生産に関する情報から特定の作業者による生産に関する情報を入力し、この情報をマイニング処理して作業者のノウハウを公開可能にデータ化するマイニング手段と、マイニング手段によりデータ化されたノウハウと生産知識を構成する他の情報とを対応付ける対応付け手段と、データ化されたノウハウを含む生産知識を構成する情報の概念関係を示すオントロジを作成し、生産知識に設定するオントロジ作成手段とを有する情報構築手段を備えものである。
【0014】
この発明に係る生産知識検索システムによれば、オントロジ作成手段が生産工程のフローに生産知識を構成する情報をメタデータとして反映させたオントロジを作成するものである。
【0015】
この発明に係る情報構築装置によれば、上記情報構築手段を備えるものである。
【0016】
この発明に係る情報公開検索装置によれば、上記セキュリティ設定手段、検索手段および情報公開手段を備えるものである。
【0017】
この発明に係るプログラムによれば、上記情報構築装置としてコンピュータを機能させるものである。
【0018】
この発明に係るプログラムによれば、上記情報公開検索装置としてコンピュータを機能させるものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、生産に関するノウハウを含む情報からなり、これら情報の概念関係を示すオントロジが設定された生産知識を格納する生産知識データベースと、生産知識およびその構成情報の公開に関するセキュリティレベルを設定するセキュリティ設定手段と、生産知識の検索要求を受け付け、検索要求で指定された検索条件に基づいて生産知識データベースを検索し、検索条件に対応する生産知識を特定する検索手段と、検索手段により特定された生産知識を生産知識データベースから読み出し、この生産知識およびその構成情報のセキュリティレベルに応じて公開可否を決定するとともに、この生産知識に設定されたオントロジの概念関係で公開する情報公開手段とを備えるので、工業製品等の生産に関するノウハウを含む生産知識を適切に公開して効率的に取得することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による生産知識検索システムの構成を示すブロック図である。図1に示す生産知識検索システムは、情報公開検索装置1、情報構築装置2、生産知識DBサーバ3及びインタフェース装置4を備える。情報公開検索装置1、情報構築装置2、生産知識DBサーバ3及びインタフェース装置4は、ネットワーク7にそれぞれ接続しており、情報公開検索装置1は、ネットワーク7を介して情報端末5及び情報検索システム6と通信接続が可能である。ネットワーク7としては、例えばインターネットに代表される巨視的な通信網の他、無線LAN(Local Area Network)等の局所的な通信網も含まれる。
【0021】
情報公開検索装置1は、生産知識DBサーバ3の生産知識データベース14に格納された生産知識を検索して情報端末5に公開する装置であり、情報公開処理部(情報公開手段)8、セキュリティ設定部(セキュリティ設定手段)9及び検索処理部(検索手段)10を備える。情報公開処理部8は、生産知識DBサーバ3の生産知識データベース14に格納された生産知識を読み出し、セキュリティ設定部9から設定されたセキュリティレベルに応じて生産知識に設定されたオントロジに対応した概念関係で当該生産知識の各情報を情報端末5側に公開する。
【0022】
セキュリティ設定部9は、インタフェース装置4の更新処理部15から取得した生産知識の更新情報や、情報検索システム6により取得された企業情報等に応じたセキュリティレベル設定ルールに従って、生産知識の公開に関するセキュリティレベルを決定する。検索処理部10は、情報端末5からの検索条件に基づいて情報公開処理部8に所望の生産知識を公開させ、情報端末5からの送信要求に基づいて対応する生産知識を送信する。
【0023】
上述した、情報公開処理部8、セキュリティ設定部9及び検索処理部10は、本発明の趣旨に従う情報公開処理用プログラムを、ネットワーク7を介した通信機能を有するコンピュータに読み込ませてその動作を制御することにより、当該コンピュータ上でソフトウエアとハードウェアが協働した具体的な手段として具現化することができる。
【0024】
情報構築装置2は、生産知識を構築するための生産情報の入力を受け付け、入力された生産情報を、生産情報の他、生産に関する理論・技術とノウハウに分類し、これら生産に関する理論・技術、生産情報及びノウハウから生産知識を構築して生産知識データベース14に登録する装置であり、入力設定部11、理論・技術データベース12a、生産情報データベース12b、ノウハウデータベース12c、及びノウハウ対応付け処理部13を備える。入力設定部11は、生産知識を構築するための生産情報の入力を受け付け、入力された生産情報から生産に関する理論・技術及びノウハウを求め、これら情報をデータベース12a〜12cにそれぞれ分類して登録する。
【0025】
理論・技術データベース12aは、生産に関する理論や技術を規定する情報を格納するデータベースである。生産に関する理論や技術を規定する情報としては、生産現場において普遍化された予測可能なルールとして、生産設備等の特性を示す関係式で表されるモデル知識や、生産に関するテキストデータがある。なお、モデル知識は、後述する生産情報に含まれる生産設備のプロセスデータや生産管理データを表す数値データ群の特性を数式化したものであり、例えば遺伝的プログラミングを用いたモデリングにより得られる。また、生産に関するテキストデータとは、生産知識を構成し得る文書化されたデータであり、例えば生産すべき製品や製造装置のカタログ、未公開の知的財産権に関する書類、生産設備の作業マニュアル、作業報告(日報等)、自社特許などが挙げられる。
【0026】
生産情報データベース12bは、生産情報を格納するデータベースである。生産情報とは、生産知識を構築するための材料データであり、例えば生産設備のプロセスデータや生産管理データを表す数値データやテキストデータ、生産作業現場の画像や動画像データ、設計図面、技術者に行った業務に関するインタビューの音声データなどがある。ノウハウデータベース12cは、生産に関する明示化された(公開可能にデータ化された)ノウハウやFAQ(Frequently Asked Question)を示す情報を格納するデータベースである。このデータベース12cに格納されるノウハウは、生産情報に含まれる数値データをデータマイニングしたり、生産情報に含まれるテキストデータをテキストマイニングすることにより、定性ルールとして抽出される。
【0027】
ノウハウ対応付け処理部13は、理論・技術データベース12aに格納された生産に関する理論や技術を規定する情報と、ノウハウデータベース12cに格納されたノウハウとの対応付けを行い、データベース12a〜12cに格納された情報を用いて生産知識のオントロジを生成する。このノウハウ対応付け処理部13には、例えば既存のオントロジ記述言語が用いられ、生産業務(工程)フローをGUI(Graphical User Interface)として表示する基本フォーマットに生産知識をはめ込んで、この概念関係を示すオントロジを作成する処理が自動的に行われるが、作成後のオントロジの概念関係で情報を情報構築装置2の管理者に提示してその詳細を修正するようにしてもよい。
【0028】
なお、本発明でのオントロジとは、生産知識を構成する情報の概念同士の関係やそれらを解釈するための論理的なルールを定義する文章の集合である。例えば、「プレス加工段取り製品外観検査」という内容を検索する場合、現状のウェブでは、HTMLからそのままの単語を取り出して検索結果としており、多くの検索ゴミが発生する。一方、オントロジを用いた方法では、(1)プレス加工は生産工程の名前であること、(2)プレス加工には金型取付、段取り、サンプル製作等の工程があること、(3)段取り工程には製品外観検査があること、等のそれらを解釈するための論理的なルールが定義され、この文章の集合から効率的に有効な検索結果を得ることができる。
【0029】
また、ノウハウ対応付け処理部13によって、生産知識データベース14の内容を公開する情報公開検索装置1がセマンティックウェブシステムとして機能する。このシステムでは、生産知識を構成する情報の内容を記述するメタデータとしてセマンティクス(意味情報)が付与される。メタデータの構造にはRDF(Resource Description Framework)があり、メタデータの与え方としてはRDFスキーマを用いることができる。オントロジでは、メタデータ間の関連が記述され、また、クラス階層の述語関係がRDFスキーマを用いて記述される。例えば、概念(クラス)、特性(プロパティ)としては、生産工程の各プロセスの親子関係や背反関係が表示される。
【0030】
上述した、入力設定部11及びノウハウ対応付け処理部13は、本発明の趣旨に従う情報構築用プログラムを、ネットワーク7を介した通信機能を有するコンピュータに読み込ませてその動作を制御することにより、当該コンピュータ上でソフトウエアとハードウェアが協働した具体的な手段として具現化することができる。また、データベース12a〜12cは、上記コンピュータに搭載されたハードディスク装置や当該コンピュータで再生可能な記憶メディアの記憶領域上に構築される。
【0031】
生産知識DBサーバ3は、ネットワーク7を介して情報公開検索装置1、情報構築装置2及びインタフェース装置4と通信接続が可能なコンピュータからなり、生産知識データベース14を備える。生産知識データベース14は、情報構築装置2で構築された生産知識を格納するデータベースである。なお、生産知識DBサーバ3に直接アクセスすることにより、生産知識データベース14の生産知識を企業ごとに公開可否を設定してもよい。
【0032】
インタフェース装置4は、情報公開検索装置1のセキュリティ設定部9及びネットワーク7を介して生産知識DBサーバ13と通信接続可能なコンピュータからなり、更新処理部15を備える。更新処理部15は、ネットワーク7を介して生産知識DBサーバ13と通信接続して生産知識データベース14の内容をモニタし、内容に更新があると更新された情報を生産知識データベース14から読み出してセキュリティ設定部9に通知する。
なお、インタフェース装置4を別個の装置とせず、情報公開検索装置1若しくは情報構築装置2の構成要素として情報公開検索装置1内若しくは情報構築装置2内にインタフェース装置4を構築してもよい。
【0033】
情報端末5は、PDA(Personal Digital Assistant)やノートPCなどのネットワーク7を介して情報公開検索装置1と通信接続が可能なユーザ端末である。なお、この情報端末5を用いて、情報構築装置2への情報入力を行えるようにしてもよい。情報検索システム6は、ネットワーク7に接続する既存の検索エンジンにより具現化され、セキュリティ設定部9から受信した検索条件に基づいてネットワーク7上の不図示のWebサーバから上記検索条件に応じた情報を取得してセキュリティ設定部9に返信する。
【0034】
なお、以下の説明において、本発明の情報公開検索装置1、情報構築装置2、生産知識DBサーバ3及びインタフェース装置4を具現化するコンピュータ自体の構成及びその基本的な機能については、当業者が当該技術分野の技術常識に基づいて容易に認識できるものであり、本発明の本質に直接関わるものでないので詳細な記載を省略する。
【0035】
図2は、図1中の入力設定部の構成を示すブロック図であり、入力設定部11へ生産情報を入力する態様も併せて図示している。図2において、入力設定部11は、入力部16a、通信処理部16b、生産情報を記憶する記憶部17、モデリング処理部(モデリング手段)18、マイニング処理部(マイニング手段)19及び分類処理部20を備える。入力部16a、通信処理部16b、モデリング処理部18、マイニング処理部19及び分類処理部20は、例えば情報構築用プログラムにおける入力設定部11の機能に関するプログラムモジュールをコンピュータが実行することにより具現化される。
【0036】
具体的に説明すると、入力部16aは、生産情報を入力するための構成要素であり、情報構築装置2が構築されたコンピュータが実行するソフトウエアと当該情報構築装置2に装備されたディスプレイやマイク、マウス、キーボード等のハードウエアとが協働した具体的な手段として実現される。例えば、設定画面をディスプレイに表示して生産情報を入力するためのGUIを提供する。また、ディスプレイをタッチパネルにしたり、マイクを介して入力された音声の生産情報をテキストデータとして認識する音声認識機能を持たせてもよい。
【0037】
通信処理部16bは、ネットワーク7を介して送信された生産情報を受信するための構成要素であり、情報構築装置2が構築されたコンピュータが実行するソフトウエアと当該情報構築装置2の通信処理に関与するハードウエアとが協働した具体的な手段として実現される。例えば、インターネットを介した巨視的な通信網との通信接続の他、LAN等の屋内通信網を介した通信、生産情報を送信する情報端末5との間でのBluetoothや赤外線等の短距離無線通信が考えられる。
【0038】
記憶部17には、入力部16a及び通信処理部16bを介して入力された生産情報を構成する音声データ、画像データ、動画像データ、テキストデータが格納される。モデリング処理部18は、記憶部17に格納された生産情報のうち、生産設備のプロセスデータや生産管理データを表す数値データ群を読み出し、この数値データ群の特性を示す数式であるモデル知識を求める。
【0039】
マイニング処理部19は、記憶部17に格納された生産情報のうち、生産に関するデータをデータマイニングしたり、生産情報に含まれるテキストデータをテキストマイニングすることにより、生産に関する明示化されたノウハウを定性ルールとして抽出する。分類処理部20は、記憶部17、モデリング処理部18及びマイニング処理部19から生産情報、モデル知識及び明示化されたノウハウに関する情報をそれぞれ入力し、データベース12a〜12cの各々に対応する情報に分類して格納する。
【0040】
次に生産情報の収集処理及び生産知識を構成する情報の抽出処理について説明する。
生産知識を構築するための生産情報は、データ化されて企業等のデータベースに保存されているものだけでなく、製品の設計現場や製造現場に各種の情報形態(テキスト、音声、画像)で散在している。ここで、生産技能は、熟練した作業者が有する定性的知識であるので、作業者に対するヒアリングで表出化が可能である。一方、生産知識を構成するノウハウは、定型化されたマニュアルとは異なり、作業者の頭の中に内在する「暗黙知」である場合も多い。このため、作業者に対してヒアリングを行っただけでは、ノウハウの表出化は困難である。つまり、生産に関するノウハウは、報告書(クレーム、不具合)のみならず、作業や設備に関わる自然文(手書きメモやキーワード、音声による説明、作業者同士の会話、アンケートなど)のように文書化されていない断片的な情報からノウハウが得られる場合もある。
【0041】
そこで、実施の形態1による情報構築装置2の入力設定部11では、様々な情報形態の生産情報の入力を受け付ける。図2は、生産設備のトラブル対応に関して熟練した作業者と打ち合わせを行った際に生産情報を収集する様子を示している。生産情報には、生産に関する静止画像や動画像データがある。例えば、生産設備における特定のトラブルで発生する製品の不具合を実物の製品を用いて説明する場合、ビデオカメラ21で実物の製品やその不具合の説明状況を撮影し、特定のトラブルで発生する製品の不具合の静止画像や動画像データを得る。
【0042】
撮影された静止画像や動画像データは、ビデオカメラ21の記憶メディアを介して情報端末5aに与えられるか、又は有線通信を介してビデオカメラ21から情報端末5aに送られる。情報端末5aは、無線通信を介して上記静止画像や動画像データを他の情報端末5bへ送信することが可能である。情報端末5bから入力設定部11の入力部16aへの上記静止画像や動画像データの入力は、例えば情報端末5bと入力部16aとの間を通信ケーブルをUSB接続して行うか、近距離無線通信を介して入力する場合などが考えられる。なお、情報端末5a,5bがネットワーク7に通信接続する機能を有する情報端末であれば、ネットワーク7を介して通信処理部16bに上記静止画像や動画像データを送信するようにしてもよい。
【0043】
また、作業者は、情報端末5cにマニュアルや作業日報等のテキストデータを記録しておき、記憶メディアや有線通信を介して入力部16aに上記テキストデータを送信してもよい。情報端末5cがネットワーク7に通信接続する機能を有していれば、ネットワーク7を介して通信処理部16bに上記テキストデータを送信するようにしてもよい。
【0044】
具現化されていない「暗黙知」に相当するノウハウについては、作業者をインタビューした回答や打ち合わせでの会話内容を、音声データとして音声レコーダ22に記録する。この音声データを、音声認識機能を有するコンピュータ23で音声認識することにより、インタビュー内容や打ち合わせの会話内容が記述されたテキストデータ24が得られる。テキストデータ24は、コンピュータ23から入力部16aや通信処理部16bに直接送信してもよいし、上述した情報端末5a〜5cと同様の機能を有する情報端末5dに記録し、この情報端末5dを介して入力部16aや通信処理部16bに送信するようにしてもよい。これにより、作業者のノウハウとなり得る情報が、「暗黙知」の状態から言葉や文章、数式、図表等によって表出可能な「形式知」として収集される。
【0045】
上述のように、入力部16aや通信処理部16bを介して入力された生産情報は、記憶部17に保持される。モデリング処理部18は、記憶部17から生産に関する一連の数値データ群を読み出し、この数値データ群に対して、例えば遺伝的プログラミングを用いたモデリング処理を施してモデル知識を求める。遺伝的プログラミングでは、データ(解の候補)を遺伝子で表現した個体を複数用意し、適応度の高い個体を優先的に選択して交叉・突然変異などの操作を繰り返しながら解が探索される。これにより、データの連続性や微分可能性といった制約を前提とせず、与えられたデータに対して演算子を組み合わせることで最も適合する非線形関数を構成することができる。
【0046】
マイニング処理部19は、記憶部17から生産に関する数値データを読み出し、この数値データをデータマイニングすることにより、生産に関する明示化されたノウハウを抽出する。例えば、熟練した作業者による生産設備の操作データ(数値データ)をデータマイニングすることで、この生産設備において頻繁に生起する事象間で相関の強い事象の関係や相関ルールが定性ルールとして抽出される。このとき、明示化されたノウハウを構成する事象同士の相関や相関ルールが数式化される場合もある(ノウハウが数式として求められる)。
【0047】
また、マイニング処理部19は、記憶部17から生産に関するテキストデータを読み出し、このテキストデータをテキストマイニングすることにより、生産に関する明示化されたノウハウを抽出する。例えば、熟練作業者のインタビュー内容を音声認識して得たテキストデータや、作業日報に含まれるキーワード群をテキストマイニングすることにより、単語頻度解析や言葉ネットワークを作成し、構文化されていないキーワード群からノウハウを定性ルールとして抽出する。
【0048】
図3は、図2中のマイニング処理部によるテキストマイニングを説明するための図であり、コイル加工に関して抽出されたキーワード群をテキストマイニングした場合を示している。図3中で矢印を付して示すように、キーワード群をテキストマイニングすることによって各キーワード間の相互関係が抽出される。例えば、「材料コイル」というキーワードは、「固定」、「はがす」、「失敗」、「取り付ける」、「垂直」などのキーワードとの間で相関が高く、これらキーワードが「材料コイル」という文言と一緒に頻繁に使われているのがわかる。
【0049】
図3中に破線で囲った領域内のキーワードは、上記キーワード群のうち、テキストデータにおける出現頻度が所定の閾値を越えるキーワードであり、熟練した作業者がコイル加工で重要と考える事項であると推測される。実施の形態1では、上記出現頻度の高い破線中のキーワード群のうち、「材料コイル」、「固定」、「斜め」、「崩れる」というキーワード間の相関が強いものを求めることにより、作業者のノウハウを表す定性ルールを決定することができる。例えば、「材料コイル」を「斜め」に「固定」すると、「崩れる」という定性ルールがノウハウとして導出される。
【0050】
分類処理部20は、上述のようにして収集された生産情報と、生成されたモデル知識やノウハウを入力し、これらを対応するデータベース12a〜12cにそれぞれ分類して登録する。例えば、モデリング処理部18から入力した情報は理論・技術データベース12aに登録する情報、記憶部17から入力した情報は生産情報データベース12bに登録する情報、マイニング処理部19から入力した情報はノウハウデータベース12cに登録する情報というように、情報の入力元の違いに応じて入力情報を分類する。このようにして、熟練した作業者やナレッジワーカーによる生産情報の取捨選択を行い、伝承すべきノウハウに相当する情報を一旦蓄積する。
【0051】
次に生産知識を構築する処理について説明する。
図4は、図1中のノウハウ対応付け処理部の構成を示すブロック図である。図4において、ノウハウ対応付け処理部13は、対応付け部(対応付け手段)25、オントロジ作成部(オントロジ作成手段)26及び登録処理部27を備える。対応付け部25、オントロジ作成部26及び登録処理部27は、例えば情報構築用プログラムにおけるノウハウ対応付け処理部13の機能に関するプログラムモジュールをコンピュータが実行することにより具現化される。
【0052】
対応付け部25は、理論・技術データベース12aから入力したモデル知識とノウハウデータベース12cから入力した明示化されたノウハウとの対応付けを行う。明示化されたノウハウは、例えば「材料コイル」を「斜め」に「固定」すると「崩れる」というような「If〜Then〜」で表現される定性ルールである。これらルールは離散表現に変換することができ、論理命題として記述できる。また、等式や不等式のような制約運動方程式の基で、動的システムの最適な操作量を決定する手法としてハイブリッドシステム理論がある。ハイブリッドシステム理論では、制約条件を論理命題として記述した混合整数計画法が用いられる。
【0053】
そこで、対応付け部25を、明示化されたノウハウを論理命題として記述して制約条件を設定し、モデル知識を動的システムの特性を示す数式として、混合整数計画法により明示化されたノウハウとモデル知識との対応付け(融合)を実行するハイブリッドシステムとして構成する。これにより、明示化されたノウハウとモデル知識との最適な対応付けが自動的に行われる。なお、対応付け処理後の情報を情報構築装置2の管理者に提示して、その詳細を修正可能に構成してもよい。
【0054】
オントロジ作成部26は、対応付け部25により対応付けられたモデル知識とノウハウ、生産情報データベース12bから入力した生産情報を用いて、生産知識のオントロジ情報を作成する。生産知識に設定するオントロジの作成手順としては、先ず、オントロジ作成部26が、対応付け部25により対応付けられたモデル知識とノウハウ、生産情報データベース12bから入力した生産情報を、定形情報と不定形情報に分類する。
【0055】
定形情報とは、成文化された文書情報であり、例えば技術マニュアルや規定集、製品カタログ、公開前の知的財産権に関する書類などがある。これらの文書は、生産情報のうちの定形情報として予め分類して収集するようにしてもよい。また、不定形情報とは、定形情報以外の成文化されていない生産情報であり、例えば不具合やクレームの報告文、キーワードや気付きなどのノウハウ、作業画像、設計図面などがある。なお、ノウハウデータベース12cに蓄積しておいたノウハウに相当する情報のうち、実験や生産行為により再現性や普遍性を検証した情報を不定形情報として採用する。
【0056】
続いて、オントロジ作成部26は、定形情報を構成概念とするオントロジを作成する。定形情報については、例えば生産業務のフロー(生産工程のフロー)がGUIとして表示される基本フォーマットにはめ込んで、定形情報をメタデータとするオントロジが作成される。図5は、定形情報の記述例を示す図であり、プレス加工に関する定形情報をプレス加工の工程フローにあてはめた場合を示している。図5においては、プレス加工の各工程と処理対象を示す「What」、各工程での処理内容を示す「How」、各工程の処理に関連した技術理論を示す「Theory」、不具合等を説明する「事例」を、定形情報を記述する基本フォーマットとしている。オントロジ作成部26では、この基本フォーマットの各項目に対応する定形情報をはめ込む。
【0057】
例えば、「What」に関しては、工程・工法情報として「鍛造加工」、設備情報として「金型」、製品情報として「材料」に関する定形情報が挿入され、さらに「金型」に対応して「設計」、「試作」、「手入れ」に関する定形情報が挿入される。このようにして、各定形情報がメタデータとして反映された生産工程フローを表示する概念関係のオントロジが作成される。なお、この生産工程フローは、情報端末5の画面上に表示された際、各項目(プレス加工、鍛造加工、試作、事例、金型理論、潤滑理論等)をクリックすることで、各項目に対応する詳細な情報が表示される。
【0058】
一方、不定形情報については、定形情報がはめ込まれた上記基本フォーマットに対し、この定形情報に対応する不定形情報を記述する。図6は、不定形情報の記述例を示す図であり、図5の表示内容に不定形情報を記述した場合を示している。図6に示す例では、当日情報(音声、画像、動画像を含む)、製品情報、設備情報、工程・工法情報のうちの不定形情報が、図5に示した生産工程フローに反映される。このように、オントロジ作成部26は、定形情報と不定形情報とを関連付けた概念関係のオントロジを作成する。
【0059】
この生産工程フローは、情報端末5の画面上に表示された際、例えばノウハウ、気づきに関する項目をクリックすることで、不定形情報であるノウハウに関する情報Aが表示される。情報Aは、加工法における抜き加工で発生する不具合現象とその原因がツリー構造で表示される。検索者は、この情報Aの不具合現象と原因との関係を見ることで、上記不具合現象がどのような原因で生じるのかという熟練した作業者のノウハウを知ることができる。
【0060】
登録処理部27は、ネットワーク7を介して生産知識DBサーバ3に通信接続し、オントロジ作成部26によりオントロジが作成・設定された生産知識を生産知識データベース14に登録する。このとき、生産知識は、これを提供した企業ごとのデータに分類し、例えば企業ごとの識別情報に対応付けて登録する。
【0061】
図7は、生産知識を構築する情報間の関係を示す図である。本発明でいう生産知識は、図7に示すように、生産情報、理論・技術に関する情報、及びノウハウに関する情報から構成される。上述したように、モデル知識は、生産情報(例えば、プロセスデータ、音声、画像、キーワード)をモデリングして求められ、理論・技術に関する情報となる。この理論・技術に関する情報は、研究・開発・設計などの各工程で参照すべき普遍的な情報である。また、明示化されたノウハウは、生産情報をデータ又はテキストマイニングすることにより獲得され、ノウハウに関する情報となる。このノウハウに関する情報は、製造現場の様々な状況に応じた情報であったり、熟練した作業者の「暗黙知」を情報化したものである。
【0062】
ノウハウの一表現として「If〜Then〜」形式で記述されたルールと、微分方程式などで記述された理論とは、ハイブリッドシステム(対応付け部25)によって対応付け(融合)され、体系化される。これにより、理論・技術に関する情報に対して明示化されたノウハウが反映され、体系的な情報に集約される。つまり、本発明の生産知識は、生産情報を基にして理論・技術に関する情報にノウハウを反映することで、真の「形式知」に集約されており、生産に関する普遍性や予測性が技術として確保される。
【0063】
また、明示化されたノウハウが体系化された理論・技術に関する情報と、生産情報とを参照することにより、設計・製造の同期化、いわゆるコンカレントエンジニアリングが可能である。例えば、ある製品を大量生産するにあたり、この製品の部品を初めて製造する作業部門も含む複数の作業部門が、明示化されたノウハウが体系化された理論・技術に関する情報と、生産情報とを参照することで、その製品の製造における理論・技術に関する情報や熟練した作業者のノウハウを知ることができることから、複数の作業部門が共同して同時に作業を進めることができる。
【0064】
次に生産知識のセキュリティ設定とその公開処理について説明する。
図8は、図1中のセキュリティ設定部の構成を示すブロック図である。図8において、セキュリティ設定部9は、更新情報解析部28、企業情報取得部29、情報記憶部30、セキュリティレベル算出部31及びレベル設定部32を備える。更新情報解析部28、企業情報取得部29、セキュリティレベル算出部31及びレベル設定部32は、例えば情報公開検索用プログラムにおけるセキュリティ設定部9の機能に関するプログラムモジュールをコンピュータが実行することにより具現化される。
【0065】
更新情報解析部28は、インタフェース装置4の更新処理部15から更新情報を受信し、この更新情報を解析して生産知識データベース14の生産知識のうち、情報内容が更新された生産情報の企業を特定し、企業情報取得部29に通知する。例えば、インタフェース装置4の更新処理部15が、更新情報で規定される生産知識の更新内容に加え、この生産知識を有する企業の識別情報を更新情報解析部28に送信し、この識別情報に基づいて、情報内容が更新された生産情報の企業を特定する。更新情報の内容とその企業を特定する情報は、更新情報解析部28により情報記憶部30に格納される。
【0066】
企業情報取得部29は、ネットワーク7を介して情報検索システム6に通信接続し、更新情報解析部28から通知された企業について所定の検索条件で情報検索させ、検索結果の企業情報を情報記憶部30に格納する。検索条件としては、例えば企業の株価、時価総額、1株利益、株価収益率が考えられる。
【0067】
セキュリティレベル算出部31は、情報記憶部30に格納された生産知識の更新情報及び企業情報に応じたセキュリティレベル設定ルールに従って、その企業の生産知識の公開に関するセキュリティレベルを算出する。なお、このセキュリティレベル設定ルールにおいて、セキュリティレベルの値は、生産知識の更新内容や生産知識の提供元の企業情報の数値化された情報に応じてファジィ推論により動的に算出される。
【0068】
以降では説明の簡単のため、設定可能なセキュリティレベルの範囲が1〜4までであるものとする。また、セキュリティレベル設定ルールは、セキュリティレベルが小さくなるほど非公開とし、大きくなるほど公開するものとして、例えば対象製品の開発時期(第1の設定ルール)と対象企業の株価(第2の設定ルール)に応じてセキュリティレベルを設定する(If 対象製品の開発時期かつ対象企業の株価 Then セキュリティレベル)。
【0069】
ここでは、第1の設定ルールとして、対象製品の開発時期から現在に至るまでの経過時間が所定期間内である場合、開発時期が中程度と判断してセキュリティレベルを2又は3に設定する。例えば、所定期間を2分割し、開発時期がより現在に近い場合、セキュリティレベルを2とし、開発時期がより古い場合はセキュリティレベルを3とする。開発時期から現在に至るまでの経過時間が所定期間よりも短い場合、開発時期が最新であると判断してセキュリティレベルを1に設定する。反対に、開発時期から現在に至るまでの経過時間が所定期間よりも長い場合、開発時期が古いと判断してセキュリティレベルを4に設定する。
【0070】
また、第2の設定ルールとして、対象企業の株価が所定価格範囲内である場合、対象企業の株価が中程度と判断し、セキュリティレベルとして2又は3を設定する。例えば、所定価格範囲を2分割し、対象企業の株価がより高い場合、セキュリティレベルを2とし、対象企業の株価がより安い場合はセキュリティレベルを3とする。対象企業の株価が所定価格範囲よりも高い場合、対象企業の株価が高いと判断してセキュリティレベルを1に設定する。反対に、対象企業の株価が所定価格範囲よりも安い場合、対象企業の株価が安いと判断してセキュリティレベルを4に設定する。
【0071】
セキュリティレベル算出部31は、上述した第1及び第2の設定ルールで設定されたセキュリティレベルの平均値を算出し、これを最終的なセキュリティレベルとしてレベル設定部32へ出力する。なお、生産知識データベース14に生産知識を登録した企業が、何らかの通信装置を用いてセキュリティレベル算出部31に直接アクセスし、セキュリティレベルを修正してもよい。
【0072】
また、セキュリティレベル算出部31に様々なセキュリティレベル設定ルールを予め登録しておき、生産知識の更新情報にセキュリティレベル設定ルールを指定する情報を含め、この指定情報に応じたセキュリティレベル設定ルールに従ってセキュリティレベルを決定するようにしてもよい。つまり、本発明では、更新情報解析部28や企業情報取得部29がリアルタイムに収集した情報に応じてセキュリティレベル設定ルールを選択することにより、生産知識の公開セキュリティレベルを動的に変更することができる。
【0073】
レベル設定部32では、セキュリティレベル算出部31から入力したセキュリティレベルとその生産知識に関する情報を情報公開処理部8に設定する。情報公開処理部8は、レベル設定部32から設定されたセキュリティレベルに応じて生産知識及びその構成情報の公開可否を設定するとともに、この生産知識に設定されたオントロジの概念関係で生産知識を情報端末5側に公開する。
【0074】
このように生産知識を公開することにより、例えば技術や製品の売買、企業間の提携(パートナーシップ)など、企業活動や技術の市場化に活用できる。ある企業が対象製品について提携相手を探す場合を考える。この場合、対象製品の開発時期が新しく、かつ対象企業の株価が中程度であれば、セキュリティレベルが2又は3の中程度となる。このとき、この生産知識を検索した企業に対して、新製品であり、あまり公開したくない、加えて対象企業の事業はまずまずなので、中程度にパートナーになりたい旨を伝えることができる。
【0075】
一方、対象製品の開発時期が中程度であり、かつ対象企業の株価が高ければ、セキュリティレベルが4で最大値となる。このとき、この生産知識を検索した企業に対しては、製品が中程度の新鮮さであり、加えて事業は好調であることから、当該製品に関する生産知識を積極的に公開して、強くパートナーになりたい旨を伝えることができる。なお、自社のキャッシュフローなど、自社の経営状況をセキュリティレベルを決定するルールに組み込んでもよい。
【0076】
図9は、セキュリティレベルを設定した生産知識の公開例を示す図であり、A社がある製品に関してビジネスパートナー(例えば、当該製品を製造する会社)を探索する際に、その製品のスペックとその開発時期で生産知識を検索した場合を示している。この図9及び図1を用いてセキュリティレベルを設定した生産知識の公開について説明する。
【0077】
先ず、A社の検索者は、情報端末5を用いて情報公開検索装置1の検索処理部10にアクセスし、ある製品のスペック及びその開発時期を検索条件として生産知識の検索を要求する。検索処理部10は、ネットワーク7を介して生産知識DBサーバ3に通信接続し、情報端末5から受信した検索条件に基づいて生産知識データベース14を検索し、検索条件に応じた生産知識を取得する。図9の例では、上記製品を製造するC社がビジネスパートナー候補として検索され、その生産知識が取得される。検索処理部10により取得された検索条件に応じた生産知識は、情報公開処理部8に送られる。
【0078】
情報公開処理部8では、検索処理部10から入力した生産知識のうち、セキュリティ設定部9によってセキュリティレベルが設定された情報を抽出し、そのセキュリティレベルに応じて公開可否を設定するとともに、この生産知識に設定されたオントロジを抽出し、このオントロジの概念関係で情報を情報端末5に公開する。なお、検索結果がC社であることを、セキュリティ設定部9の更新情報解析部28及び企業情報取得部29へ通知し、C社の生産知識について更新の有無、企業情報を収集させ、これら情報に応じたセキュリティレベルを設定するようにしてもよい。
【0079】
図9の例では、C社の生産知識のうち、ノウハウにはセキュリティレベル1が設定されて非公開であり、製造に関わるHow to achieve(図5中の「How」参照)にはセキュリティレベル2が設定され、製造に関わるWhat to achieve(図5中の「What」参照)にはセキュリティレベル3が設定されており、これらに含まれるノウハウを除いた情報が公開される。また、製造に関わる普遍的な技術(図5中の「Theory」参照)については、セキュリティレベル4が設定され、全ての情報が公開される。
【0080】
また、本発明の生産知識検索システムによるサービスを受ける際に支払う対価の額に応じたキー情報を情報端末5に付与し、このキー情報に応じてセキュリティレベルを変更できるようにしてもよい。例えば、情報端末5から検索処理部10へ検索条件を送信するにあたり、自端末に付与されたキー情報も送信する。検索処理部10は、キー情報を情報公開処理部8を介してセキュリティ設定部9のセキュリティレベル算出部31へ通知し、このキー情報の値に応じたセキュリティレベルを設定する。
【0081】
さらに、競合会社を考慮して、企業ごとの関係に応じて公開可否を設定できるようにしてもよい。例えば、情報構築装置2がある企業の生産知識を構築した際、競合する企業に対しては非公開とする旨を示す情報を設定しておき、この情報に応じたセキュリティレベルで公開可否を設定する。
【0082】
さらに、生産知識を公開するにあたり、セキュリティレベル設定ルールの内容を公開するようにしてもよい。このように生産知識がどのようなセキュリティレベル設定ルールで公開可否が設定されているのかを公開することにより、例えばビジネスパートナーを検索する場合、セキュリティレベルの設定に用いられた内容(対象製品の開発時期や対象企業の株価)を参照して判断基準とすることができる。
【0083】
以上のように、この実施の形態1によれば、生産に関するノウハウを含む情報からなり、これら情報の概念関係を示すオントロジが設定された生産知識を格納する生産知識データベース14と、生産知識及びその構成情報の公開に関するセキュリティレベルを設定するセキュリティ設定部9と、生産知識の検索要求を受け付け、検索要求で指定された検索条件に基づいて生産知識データベース13を検索し、検索条件に対応する生産知識を特定する検索処理部10と、検索処理部10により特定された生産知識を生産知識データベース14から読み出し、この生産知識及びその構成情報のセキュリティレベルに応じて公開可否を決定するとともに、この生産知識に設定されたオントロジの概念関係で公開する情報公開処理部8とを備えるので、工業製品等の生産に関するノウハウを含む生産知識を適切に公開して情報を共有することができる上、効率的に検索して取得することができる。
【0084】
また、生産に関するノウハウを含む情報からなり、これら情報の概念関係を示すオントロジが設定された生産知識を公開、検索することから、生産知識を登録した企業では、自己が蓄積した生産知識を効率よく活用することができる。例えば、新製品の早期量産化(試作回数の低減、試作時間の短縮、過去の失敗の回避、設計・製造のコンカレントリー化)を図ることができ、また自己学習や学習支援にも使用できることから人材育成にも貢献することができる。さらに、生産知識データベース14に蓄積された生産知識を技術パッケージとして新規の事業を早期に立ち上げることも可能である。
【0085】
さらに、上記実施の形態1によれば、セキュリティ設定部9が、生産知識に関係する様々な情報に応じたセキュリティレベル設定ルールのうちから、検索処理部10により特定された生産知識に関係する情報に応じたセキュリティレベル設定ルールを選択することにより、生産知識及びその構成情報のセキュリティレベルを動的に更新する。また、生産知識データベース14に生産知識をその提供元の企業ごとに分類して格納しておき、セキュリティ設定部9が、生産知識の提供元の企業ごとの関係に応じてセキュリティレベルを設定する。このようにすることにより、企業にとって重要な資産である生産知識を適切なセキュリティレベルで公開することができる。
【0086】
なお、上記実施の形態1において、本発明の生産知識検索システムによるサービスを受けるユーザを、予め登録された特定の企業や団体、個人とすることで、生産知識の漏洩を回避するようにしてもよい。
【0087】
上記実施の形態1によるシステムは、生産知識を例えばウェブ上で公開することから、当該生産知識を提供した企業の社内向けには、インターネット接続が可能な端末さえあれば、製造現場等であっても作業者が生産知識を自由に閲覧することができる。これにより、作業者は、最新の作業手順やそれに関わるノウハウやFAQ情報を遅滞なく知ることができる。一方、社外向けには、バーチャル展示会として自社の生産知識を公開することができる。例えば、関心を示す来客(自社の生産知識にキーワードがヒットし、当該生産知識にアクセスするユーザ)に対して、自社の製品パンフレットに記載された内容を越えて、ノウハウやこれに相当する情報を開示してPRすることが可能である。なお、本システムによる生産知識の公開サイトにアクセスしてきたサイト訪問者と予めシステムに登録した所定のユーザとの間で異なるセキュリティレベルを設定することにより、単なるサイト訪問者と、生産知識を公開した企業にとってビジネス対象となり得る来客者とを区分けしたバーチャル展示会とすることができる。
【0088】
上記実施の形態1では、情報公開検索装置1、情報構築装置2、生産知識DBサーバ3及びインタフェース装置4を備える生産知識検索システムを示したが、本発明はこの形態に限定されるものではない。つまり、情報公開検索装置1、情報構築装置2、生産知識DBサーバ3及びインタフェース装置4にとらわれず、これらの構成要素を有する装置によって上述の処理が実行できればよい。例えば、情報公開検索装置1、情報構築装置2及びインタフェース装置4の各構成要素を組み合わせた1つの装置を設けても良いし、情報構築装置2のデータベース12a〜12cを生産知識DBサーバ3に設けた構成であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】この発明の実施の形態1による生産知識検索システムの構成を示すブロック図である。
【図2】図1中の入力設定部の構成を示すブロック図である。
【図3】図2中のマイニング処理部によるテキストマイニングを説明するための図である。
【図4】図1中のノウハウ対応付け処理部の構成を示すブロック図である。
【図5】定形情報の記述例を示す図である。
【図6】不定形情報の記述例を示す図である。
【図7】生産知識を構築する情報間の関係を示す図である。
【図8】図1中のセキュリティ設定部の構成を示すブロック図である。
【図9】セキュリティレベルを設定した生産知識の公開例を示す図である。
【符号の説明】
【0090】
1 情報公開検索装置
2 情報構築装置
3 生産知識DBサーバ
4 インタフェース装置
5,5a〜5d 情報端末
6 情報検索システム
7 ネットワーク
8 情報公開処理部(情報公開手段)
9 セキュリティ設定部(セキュリティ設定手段)
10 検索処理部(検索手段)
11 入力設定部
12a 理論・技術データベース
12b 生産情報データベース
12c ノウハウデータベース
13 ノウハウ対応付け処理部
14 生産知識データベース
15 更新処理部
16a 入力部
16b 通信処理部
17 記憶部
18 モデリング処理部(モデリング手段)
19 マイニング処理部(マイニング手段)
20 分類処理部
21 ビデオカメラ
22 音声レコーダ
23 コンピュータ
24 テキストデータ
25 対応付け部(対応付け手段)
26 オントロジ作成部(オントロジ作成手段)
27 登録処理部
28 更新情報解析部
29 企業情報取得部
30 情報記憶部
31 セキュリティレベル算出部
32 レベル設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生産に関するノウハウを含む情報からなり、これら情報の概念関係を示すオントロジが設定された生産知識を格納する生産知識データベースと、
前記生産知識およびその構成情報の公開に関するセキュリティレベルを設定するセキュリティ設定手段と、
生産知識の検索要求を受け付け、前記検索要求で指定された検索条件に基づいて前記生産知識データベースを検索し、前記検索条件に対応する生産知識を特定する検索手段と、
前記検索手段により特定された生産知識を前記生産知識データベースから読み出し、この生産知識およびその構成情報のセキュリティレベルに応じて公開可否を決定するとともに、この生産知識に設定されたオントロジの概念関係で公開する情報公開手段とを備えた生産知識検索システム。
【請求項2】
セキュリティ設定手段は、セキュリティレベル設定ルールに従って生産知識およびその構成情報のセキュリティレベルを設定することを特徴とする請求項1記載の生産知識検索システム。
【請求項3】
セキュリティ設定手段は、生産知識に関係する様々な情報に応じた複数のセキュリティレベル設定ルールが予め登録されており、これらセキュリティレベル設定ルールのうちから、検索手段により特定された生産知識に関係する情報に応じたセキュリティレベル設定ルールを選択することにより、前記生産知識およびその構成情報のセキュリティレベルを動的に更新することを特徴とする請求項2記載の生産知識検索システム。
【請求項4】
生産知識データベースは、生産知識をその提供元ごとに分類して格納し、
セキュリティ設定手段は、生産知識の提供元ごとの関係に応じてセキュリティレベルを設定することを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の生産知識検索システム。
【請求項5】
生産に関する情報を入力する入力手段と、
前記入力手段を介して入力された生産に関する情報から一連の数値データ群を入力し、この数値データ群をモデリングしてその特性を示す関係式をモデル知識として求めるモデリング手段と、
前記入力手段を介して入力された生産に関する情報から特定の作業者による生産に関する情報を入力し、この情報をマイニング処理して前記作業者のノウハウを公開可能にデータ化するマイニング手段と、
前記マイニング手段によりデータ化されたノウハウと生産知識を構成する他の情報とを対応付ける対応付け手段と、
前記データ化されたノウハウを含む生産知識を構成する情報の概念関係を示すオントロジを作成し、前記生産知識に設定するオントロジ作成手段とを有する情報構築手段を備えたことを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載の生産知識検索システム。
【請求項6】
オントロジ作成手段は、生産工程のフローに生産知識を構成する情報をメタデータとして反映させたオントロジを作成することを特徴とする請求項5記載の生産知識検索システム。
【請求項7】
請求項5または請求項6記載の情報構築手段を備えた情報構築装置。
【請求項8】
請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載のセキュリティ設定手段、検索手段および情報公開手段を備えた情報公開検索装置。
【請求項9】
請求項7記載の情報構築装置としてコンピュータを機能させるプログラム。
【請求項10】
請求項8記載の情報公開検索装置としてコンピュータを機能させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−87242(P2009−87242A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258995(P2007−258995)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【出願人】(300077456)セコム山陰株式会社 (2)
【Fターム(参考)】