説明

産業用ロボットのアームの基準位置決め方法、及び産業用ロボット

【課題】揺動アームと揺動アームに対して回転駆動可能に取り付けられたツール取付回転アームとの基準位置を簡単な構成で、精度よく位置決めできる産業用ロボットのアームの基準位置決め方法を提供する。
【解決手段】ツール取付回転アーム160の所定位置に設けられた取付部170に揺動アーム150側に向けて光ビームLBが出射されるように発光装置320を取り付け、発光装置320から光ビームLBを出射させ、取付部170に対向する揺動アーム150の所定位置に設けられ、発光装置320からの光ビームLBを受光する受光部410の許容範囲に発光装置320からの光ビームLBが照射されるように揺動アーム150とツール取付回転アーム160とを位置決めすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットのアームを基準位置に位置決めする産業用ロボットのアームの基準位置決め方法、及び産業用ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、溶接ロボットなどの産業用ロボットとしては、いわゆる、多関節型ロボットなどが多く用いられている。多関節型ロボットは、例えば、各関節にモータ、動力伝達機構、エンコーダなどを内蔵しており、エンコーダから供給されるパルスを、基準位置を「0」としてカウントし、そのカウント値によりアームの回転位置を検知し、プログラムによって指示された所望の回転位置となるようにアームを駆動するように制御を行っている。
【0003】
多関節ロボットにおいて、ロボットを新たに製造する場合などにアームを駆動するモータやそのモータの駆動力をアームに伝達する動力伝達機構などをロボットに組み付けるときには、アーム同士の位置関係、アームとモータ又は動力伝達機構との位置関係が定まっていない。このため、アームなどの位置を基準位置に位置決めする作業が必要となる。
また、故障などによりアームを駆動するモータや、そのモータの駆動力をアームに伝達する動力伝達機構などをロボットから取り外し、新しいモータや、動力伝達機構を組み付ける場合などに、駆動モータ又は動力伝達機構などを交換すると、アーム同士の位置関係、アームとモータ又は動力伝達機構との位置関係がずれる恐れがある。このため、モータや動力伝達機構などの交換後に、従前のプログラムに従って、従前のような動作を行わせるには、アームなどの位置を基準位置に位置決めする作業が必要となる。
【0004】
位置決めする作業は、例えば、6軸多関節型ロボットの5軸の基準位置の調整として、揺動アームに基準ピンを設け、揺動アームに対して回転駆動されるツール取付回転アームに突起を設け、ツール取付回転アームの突起を揺動アームの基準ピンに当接させることにより、ツール取付回転アームを揺動アームに位置決めする方法がある。あるいは、位置決め作業として、ツール取付回転アームの回転軸周辺に設けたけがき線などによりツール取付回転アームを揺動アームに位置決めする方法が提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、他の基準位置の位置決め方法として、ロボットベースにテーパ孔を有する治具を固定し、ロボット手首(ツール取付部)に、ロボットベースに設けられたテーパ孔に嵌合する治具を固定し、ロボット手首に固定された治具をロボットベースに固定された治具のテーパ孔に嵌合させることにより、基準位置を設定する基準位置決め方法が提案されていた(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらに、産業用ロボットにおいては、水準器などを用いてツール取付回転アームの基準位置を位置決めする方法も用いられている。
図10に、従来の産業用ロボットのアームの位置決め方法を説明するための図を示す。図10(a)は産業用ロボットの要部の平面図、図10(b)は正常な調整状態のときの産業用ロボットの要部の側面図、図10(c)は誤調整時の産業用ロボットの要部の側面図を示す。
水準器などを用いてツール取付回転アームの基準位置を位置決めする方法では、まず、図10(a)、図10(b)に示すように、揺動アーム611に水準器613を搭載し、作業者が水準器613を目視しながら、揺動アーム611が水平となるように揺動アーム611を、その動作軸(3軸)A11を中心に回転させて、揺動アーム611の位置を調整する。なお、揺動アーム611の動作軸(3軸)A11は、揺動アーム611の回転中心であり、例えば、産業用ロボットの設置面に対して平行な方向に延長する軸である。
【0007】
次に、ツール取付回転アーム612に水準器613を搭載し、作業者が水準器613を目視しながら、ツール取付回転アーム612が水平になるように、ツール取付回転アーム612を、その動作軸(5軸)A12を中心に回転させて、アーム612の基準位置を調整する。動作軸A12は、ツール取付回転アーム612の回転中心であり、動作軸A11に平行な軸である。このとき、ツール取付回転アーム612は、図10(b)に示すように揺動アーム611が水平の状態であり、かつ、ツール取付回転アーム612が水平のときに、基準となる位置に位置決めされたものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−210586号公報
【特許文献2】特開平10−34572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に開示されている基準位置の位置決め方法は、先端部分など回転中心からの位置決め部までの距離を大きくとれない箇所で位置決めを行うと、回転変位に対して位置決め部での移動量が小さいので、位置決め精度がよくなかった。例えば、溶接ロボットなどにおいては、溶接具を取り付ける手首付近は、溶接具を溶接対象の狭隘箇所に侵入しやすくする目的から極力小さく設計される。このため、位置決めを行う回転軸の中心から位置決めを目視する箇所までの距離を大きく取ることができず、調整精度を向上させることができない。
【0010】
また、特許文献2に開示されている基準位置の位置決め方法は、ロボットベースに治具を取り付ける必要があり、治具により周囲の領域、例えば、ワーク領域が狭くなる。基準位置調整のためのロボット姿勢がワーク領域側に突出するため、現場で基準位置調整のためのロボット姿勢をとることができない。複数の軸(2軸〜全軸)を使って基準位置調整を行うため、個々の位置ずれなどに関係なく、位置決めされ、よって、個々のアームの基準位置が正しく調整されない場合がある。また、基準位置決めに必要となる部品点数も多いため部品の取付誤差が増加して、調整精度を向上させることができない。
【0011】
さらに、図10に示すように揺動アーム611、ツール取付回転アーム612の上面に水準器613を載置し、揺動アーム611、ツール取付回転アーム612がともに水平状態となったときの状態を基準位置として設定する方法では、水準器613が必要となる。基準位置を高精度に位置決めするためには、高精度な水準器が必要となるが、高精度な水準器は、高価である。また、図10(c)に示すようにツール取付回転アーム612が水平であっても、揺動アーム611の誤差θが揺動アーム611の誤差として反映されてしまい、正確な位置決めが行えない。また、調整が煩雑となる。
【0012】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、揺動アームとツール取付回転アームとの基準位置を、簡単な構成で、かつ、精度よく位置決めできる産業用ロボットのアームの基準位置決め方法、及び産業用ロボットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に係る産業用ロボットのアームの基準位置決め方法は、揺動アームと、揺動アームに回転軸を介して取り付けられるツール取付回転アームとを基準位置に位置決めする産業用ロボットのアームの基準位置決め方法であって、ツール取付回転アームの所定位置に設けられた取付部に、揺動アーム側に向けて発光装置の光ビームが出射されるように発光装置を取付部に取り付ける第1ステップと、取付部に取り付けられた発光装置から光ビームを出射させる第2ステップと、取付部に対向する揺動アームの所定位置に設けられ、取付部に取り付けられた発光装置からの光ビームを受光する受光部の予め設定された許容範囲に、取付部に取り付けられた発光装置からの光ビームが照射されるように、揺動アームとツール取付回転アームとを位置決めする第3ステップとを含むものである。
【0014】
本発明の請求項2に係る産業用ロボットのアームの基準位置決め方法は、受光部が、光ビームの入射方向に向けて開口され、底面に向けて尖った形状とされた穴から構成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項3に係る産業用ロボットのアームの基準位置決め方法は、揺動アームが、回転軸に直交する第1動作軸を中心に回転し、取付部が、ツール取付回転アームに設けられ、第1動作軸と平行であり、かつ、回転軸上で第1動作軸と交差する第2動作軸を中心に回転し、ツールが取り付けられるツール取付部であり、発光装置が、取付部材を介してツール取付部に取り付けられ、光ビームを第2動作軸上、揺動アーム側に向けて出射し、受光部が、揺動アームの第1動作軸上、ツール取付回転アーム側に向けて設けられることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項4に係る産業用ロボットのアームの基準位置決め方法は、揺動アームが、第1動作軸方向に貫通しており、第1動作軸上を通る隔壁により隔てられ、ツールに接続されるケーブルが貫通する少なくとも一つの貫通穴を含む複数の貫通穴を備え、受光部が、隔壁のツール取付回転アーム側の端面の第1動作軸上に設けられることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項5に係る産業用ロボットは、揺動アームと、揺動アームに回転軸を介して取り付けられるツール取付回転アームとを含む産業用ロボットであって、ツール取付回転アームのツール取付部の位置に設けられ、揺動アーム側に向けて発光装置の光ビームが出射されるように発光装置を取り付ける取付部と、ツール取付回転アームの取付部に対向する揺動アームの所定位置に設けられ、取付部に取り付けられた発光装置からのビームを受光する受光部とを備え、取付部に取り付けられた発光装置からの光ビームが受光部の予め設定された許容範囲を照射したときに基準位置に位置決めされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の請求項1によれば、光ビームを受光部に照射して、揺動アームに対してツール取付回転アームを位置決めすることにより、揺動アームの傾斜などによらずにツール取付回転アームの基準位置を位置決めすることができる。また、光ビームは直進性に優れているので、ツール取付回転アームの揺動軸から調整部位である受光部までの距離を大きくとることができるため、調整精度を向上させることができる。
【0019】
本発明の請求項2によれば、受光部を底面に向けて尖った形状とすることにより、受光部の中心が視認しやすいため、位置決め作業を容易に行える。
【0020】
本発明の請求項3によれば、発光装置を、光ビームを第2動作軸上、揺動アーム側に向けて出射するように取付部材を介してツール取付部に取り付け、受光部を揺動アームの第1動作軸上、ツール取付回転アーム側に向けて設けることにより、基準位置調整を行うための機構を別途設ける必要がないので、部品点数が少なく、誤差を小さくできるため、調整を精度よく行うことができる。
【0021】
本発明の請求項4によれば、受光部を複数の貫通穴を隔てる隔壁のツール取付回転アーム側の端面の第1動作軸上に設けることにより、基準位置調整を行うための部品を別途設ける必要がないので、部品点数が少なく、また、誤差を小さくでき、よって、調整を精度よく行うことができる。
【0022】
本発明の請求項5によれば、ツール取付回転アームに設けられた発光装置から出射される光ビームを揺動アームに設けられた受光部の予め設定された許容範囲に照射するように、揺動アームに対してツール取付回転アームを回転させてツール取付回転アームの基準位置の調整を自動的に行うことにより、人が受光部に照射される位置を目視で確認するよりもさらに短時間で精度よく調整作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る産業用ロボットの基準位置の位置決め方法の一実施形態を説明するための図であり、(a)は、揺動アーム周辺の発光装置取外時の斜視図、(b)は、揺動アーム周辺の発光装置組付時の斜視図、(c)は、ツール取付回転アーム周辺の発光装置組付時の斜視図である。
【図2】本発明に係る産業用ロボットの一実施形態の受光部周辺の構成図であり、(a)は、受光部周辺の斜視図、(b)は、受光部の断面図である。
【図3】本発明に係る産業用ロボットの一実施形態の斜視図である。
【図4】本発明に係る産業用ロボットの一実施形態のブロック構成図である。
【図5】本発明に係る産業用ロボットの一実施形態の構成図であり、(a)は、側面破断面図、(b)は、平面破断面図である。
【図6】本発明に係るロボットアームの一実施形態のアームの基準位置調整方法を説明するための図であり、(a)は、ツール取付回転アーム調整前の側面図、(b)はツール取付回転アーム調整後の側面図である。
【図7】本発明に係るロボットアームの一実施形態における調整精度を説明するための図であり、(a)は、従来の調整精度を説明するためアームの側面図、(b)は、本発明の調整精度を説明するためのアームの側面図である。
【図8】本発明に係る産業用ロボットの他の実施形態を説明するための図である。
【図9】本発明に係る産業用ロボットの他の実施形態のロボットコントローラの処理フローチャートである。
【図10】従来の産業用ロボットのアームの位置決め方法の一例を説明するための図であり、(a)は産業用ロボットの要部の平面図、(b)は正常な調整状態のときの産業用ロボットの要部の側面図、(c)は誤調整時の産業用ロボットの要部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、本発明に係る産業用ロボットのアームの基準位置決め方法が適用される産業用ロボット100の全体外観構成を、図3を用いて説明する。
本実施例の産業用ロボット100は、いわゆる、6軸多関節型溶接ロボットであり、図3に示すように、設置面に固定されるロボットベース110と、ロボットベース110上で第1軸A1を中心に回転する旋回フレーム120と、旋回フレーム120に接続され、第2軸A2を中心に回転する下腕130と、下腕130に接続され、第3軸A3を中心に回転する上腕131から構成されている。
ロボットベース110は、例えば、作業場所の床面などの所定の設置面に固定されている。ロボットベース110には、旋回フレーム120が第1軸A1を中心に回転駆動するように取り付けられている。第1軸A1は、設置面に対して直交する方向に延長する軸である。旋回フレーム120は、下腕130を第2軸A2に沿って回転駆動できるようにロボットベース110上に設けられている。
【0025】
下腕130は、一端が旋回フレーム120に、第2軸A2を中心に回転駆動するように取り付けられている。第2軸A2は、第1軸A1に直交する方向に延長する軸であり、設置面に対して平行に設けられている。また、下腕130には、上腕131が第3軸A3を中心に回転駆動するように取り付けられている。
上腕131は、下腕130に接続され、第3軸A3を中心に回転するショルダ140と、ショルダ140に接続され、第4軸A4を中心に回転する揺動アーム(5軸アーム)150と、揺動アーム150に接続され、第5軸A5を中心に回転するツール取付回転アーム(エンドアーム)160と、ツール取付回転アーム160に取付られ、第6軸A6を中心に回転するツール取付部170とから構成されている。
【0026】
ショルダ140は、下腕130の他端に第3軸A3を中心に回転駆動可能に取り付けられる。第3軸A3は、揺動アーム150を上下方向に駆動する軸であり、第2軸A2に平行となる方向に延長する軸である。ショルダ140は、第3軸A3に直交する方向に揺動アーム150の一端が取り付けられる。揺動アーム150は、ショルダ140に、第4軸A4を中心に回転駆動するように取り付けられている。第4軸A4は、第3軸A3に直交する方向に延長する軸である。
【0027】
ツール取付回転アーム160は、一端が揺動アーム150の他端に、第5軸A5を中心に回転駆動するように取り付けられる。第5軸A5は、特許請求の範囲に記載の回転軸に相当しており、第3軸A3に対して平行な方向であり、かつ、第4軸A4に対して直交する方向に延長する軸である。
【0028】
ツール取付部170は、略円筒形状をなし、ツール取付回転アーム160の他端の側に、第6軸A6を中心に回転駆動するように取り付けられており、ツール180が取り付けられる。第6軸A6は、第5軸A5に直交する軸であり、かつ、第5軸A5上で第4軸A4に交差し、ツール取付部170を回転させる軸である。ツール180は、ツール取付部170の内周側に挿入され、ツール取付部170に取り付けられる。ツール180は、ツール取付部170に設けられたロック機構によりロックされる。ツール180は、例えば、溶接ツールであり、ツール取付部170の揺動アーム150側でケーブル190に接続される。また、ツール取付部170は、取付部材310を取り付けるように構成されている。
【0029】
次に、産業用ロボット100の制御系のブロック構成を、図4を用いて説明する。
旋回フレーム120は、図4に示すように第1駆動部210に接続されており、第1駆動部210により第1軸A1を中心に回転駆動する。第1駆動部210は、モータ211、動力伝達機構212、エンコーダ213などを含む。モータ211は、ロボットコントローラ270に接続されており、ロボットコントローラ270から供給される駆動信号により回転する。
【0030】
モータ211の回転軸は、動力伝達機構212を介して旋回フレーム120に接続されている。動力伝達機構212は、例えば、タイミングベルト、減速歯車機構などを含み、モータ211の回転を旋回フレーム120に伝達し、旋回フレーム120を第1軸A1を中心に回転させる。エンコーダ213は、例えば、ロータリーエンコーダなどから構成され、モータ211の回転軸の回転角度情報を示すパルスを出力する。エンコーダ213から出力されたパルスは、ロボットコントローラ270に供給される。
【0031】
ロボットコントローラ270は、エンコーダ213から得られる回転角度情報を示すパルスを基に動力伝達機構の減機比を乗算して、旋回フレーム120の回転位置を認識する。ロボットコントローラ270は、旋回フレーム120の回転位置が所望の位置となるようにモータ211の回転方向及び回転量を制御する。また、ロボットコントローラ270には、操作部280が接続され、作業者による操作が可能な構成とされている。操作部280は、例えば、リモートコントローラなどから構成され、作業者が手元で操作可能となるように構成されている。
【0032】
下腕130は、図4に示すように第2駆動部220に接続されており、第2駆動部220により第2軸A2を中心に回転駆動される。ショルダ140は、図4に示すように第3駆動部230に接続されており、第3駆動部230により第3軸A3を中心に回転駆動される。揺動アーム150は、図4に示すように第4駆動部240に接続されており、第4駆動部240により第4軸A4を中心に回転駆動される。
【0033】
ツール取付回転アーム160は、図4に示すように第5駆動部250に接続されており、第5駆動部250により第5軸A5を中心に回転駆動される。ツール取付部170は、図4に示すように第6駆動部260に接続されており、第6駆動部260により第6軸A6を中心に回転駆動される。
なお、第2駆動部220、第3駆動部230、第4駆動部240、第5駆動部250、第6駆動部260は、モータ211、動力伝達機構212などの構造が相違するものの駆動原理的には、第1駆動部210と略同じ構成であるのでその説明は省略する。
【0034】
ここで、ツール取付回転アーム160を第5軸A5を中心に回転駆動する第5駆動部250の構成を、図5を用いて説明する。
第5駆動部250は、図5に示すように、モータ211、動力伝達機構212、エンコーダ213から構成されている。モータ211、動力伝達機構212、エンコーダ213は、揺動アーム150に内蔵されている。モータ211は、ロボットコントローラ270から供給される駆動信号により回転軸S1を中心に矢印A方向に回転する。
【0035】
動力伝達機構212は、プーリ221、タイミングベルト222、減速機構223を含む構成とされている。プーリ221は、モータ211の回転軸S1に取り付けられ、モータ211の回転により矢印A方向に回転する。タイミングベルト222は、プーリ221と減速機構223とにまたがって巻きつけられており、プーリ221の回転により矢印B方向に移動し、減速機構223に動力を伝達する。減速機構223は、伝達された動力を減速させて、ツール取付回転アーム160を、第5軸A5を中心に矢印C方向に回転させる。
【0036】
次に、本発明に係るツール取付回転アーム160を基準位置に位置決めするために必要な構造を、図1、図2を用いて説明する。
ツール取付回転アーム160を基準位置に位置決めするときには、ツール取付部170に、図3に示すツール180に替えて、図1(a)〜(c)に示すように取付部材310を取り付ける。取付部材310は、取付部材本体311、つば部312を含む構成とされている。
【0037】
取付部材本体311は、略円筒形状をなし、内周部313に発光装置320が装着され、ツール取付部170の内周部に挿入される。つば部312は、取付部材本体311の一端の周囲に設けられている。つば部312は、取付部材本体311がツール取付部170に挿入されたとき、ツール取付部170の周辺端部に当接し、固定される。
【0038】
取付部材310は、内周部に発光装置320が装着される。発光装置320は、例えば、レーザポインタから構成され、光ビームを所定の方向に出射する。光ビームは、例えば、レーザ光であり、指向性が高く、かつ、収束性に優れた赤色の可視光である。
発光装置320は、光ビームの出射方向が揺動アーム150側の方向となるように取付部材310を介してツール取付部170に取り付けられる。また、このとき、発光装置320は、取付部材310を介してツール取付部170に取り付けられて、光ビームの光軸が第6軸A6と略一致するようになる。
【0039】
発光装置320から出射された光ビームは、揺動アーム150がツール取付回転アーム160に対して基準となる位置にあるとき、受光部410に照射される。受光部410は、揺動アーム150の第4軸A4上に設けられている。
図2に示すように、揺動アーム150は、ショルダ140側にケーブル190を挿通するケーブル挿通部150aを備えており、このケーブル挿通部150aは、ショルダ140とは別部品で構成され、ショルダ140に対して回転自在な構成とされている。ケーブル挿通部150aには、隔壁153により隔てられた貫通穴151、152が設けられている。ケーブル挿通部150aには、隔壁153により隔てられた貫通穴151、152が設けられている。貫通穴151、152は、揺動アーム150を第4軸A4方向に貫通する穴であり、例えば、図3に示すように、ツール取付部170に取り付けられるツール180に接続されるケーブル190を貫通させるものである。また、隔壁153は、図2(a)に示すように、第4軸A4上を通るように形成されており、貫通穴151と貫通穴152とを隔てている。
【0040】
受光部410は、隔壁153のツール取付回転アーム160側の端面の第4軸A4上に形成されている。
受光部410は、例えば、図2(b)に示すように、光ビームLBの入射方向、すなわち、ツール取付回転アーム160側に向けて開口され、底面に向けて尖った楔形状となる穴から構成されている。なお、受光部410は、穴の底となる最底面が第4軸A4を通るように形成されて、最底面から開口方向に角度θとなるように形成されている。受光部410をこのように底面が尖った形状とすることにより、光ビームLBを位置決めすべき位置を認識しやすくなる。なお、角度θは、略120度程度に設定されることが好ましい。θを120度にすることで、光ビームLBが底面に合致したかどうかを目視で確認しやすくなる。
【0041】
次に、ツール取付回転アーム160の基準位置決め方法を、図6を用いて説明する。
本実施例のツール取付回転アーム160の基準位置決め方法を用いた作業は、産業用ロボット100を新たに製造する時、あるいは作業場所に産業用ロボット100を設置する時、産業用ロボット100の修理、部品交換などのメンテナンス時などに行われる。
ツール取付回転アーム160の基準位置決め方法を用いた作業を行うときには、前準備として、まず、作業者は、ツール取付部170に取り付けられた図3に示すツール180を取り外し、図6(a)に示すように、発光装置320を取付部材310に装着し、発光装置320が装着された取付部材310をツール取付部170に取り付ける。そして、取付部材310に取り付けた発光装置320から光ビームLBを出射させる。
発光装置320から光ビームLBが出射された状態で、作業者は、操作部280を操作して、ツール取付回転アーム160を、図6(b)に示すように第5軸A5を中心に徐々に矢印X2方向に回転させ、発光装置320から出射された光ビームLBが受光部410の中央に照射させる。これにより、ツール取付回転アーム160は、揺動アーム150に対して基準位置に位置決めされた状態となる。次に、作業者は、ツール取付回転アーム160が揺動アーム150に対して基準位置に位置決めされた状態で、リセット操作を行う。
【0042】
例えば、図6(a)に示すように、ツール取付回転アーム160が揺動アーム150に対して角度Δθだけ矢印X1方向にずれた状態、すなわち、第6軸A6が第4軸A4に対して角度Δθだけ矢印X1方向にずれた状態のときには、第6軸A6上を通る光ビームLBは、受光部410から距離εだけずれた位置に照射される。
【0043】
図6(a)に示す状態では、発光装置320から発光された光ビームLBが受光部410に照射されていないので、作業者は、発光装置320から発光された光ビームLBの照射位置を目視により確認しながら、操作部280を操作して、ツール取付回転アーム160を、第5軸A5を中心に図6(b)に示す矢印X2方向に徐々に回転させる。
【0044】
図6(b)に示すように、ツール取付回転アーム160が、作業者の操作部280の操作により、第5軸A5を中心として角度Δθだけ矢印X2方向に回動すると、発光装置320から出射された光ビームLBが受光部410に照射される。作業者は、目視により、発光装置320から出射された光ビームLBが受光部410に照射されることを確認すると、操作部280の操作によりツール取付回転アーム160の回転動作を停止させる。発光装置320からの光ビームLBが受光部410に合致することで、第6軸A6と第4軸A4とが直線上となるようにツール取付回転アーム160の位置が調整される。
【0045】
次に、作業者は、発光装置320からの光ビームLBが受光部410の中心に照射された状態で、操作部280を操作して、リセット操作を行う。リセット操作は、操作部280の操作により、ロボットコントローラ270の第5駆動部250のエンコーダ213からのパルスのカウント値を、例えば、「0」にリセットする操作である。
作業者は、リセット操作が終了すると、ツール取付部170から取付部材310を取り外す。これにより、ツール取付回転アーム160の位置決め作業は終了する。
【0046】
次に、本実施例のツール取付回転アーム160の位置決め方法による調整精度を、図7を用いて説明する。
例えば、図7(a)に示すように、ツール取付回転アーム710に対して回転軸A21を中心に回転するツール取付回転アーム710を、ツール取付回転アーム710の回転中心である第5軸A21から距離r1の位置で揺動アーム720に対して位置決めするものとする。ここで、距離r1は、例えば、50mm程度とする。ここで、図7(a)に示すようにずれている距離εを0.5mmとすると、回転軸A21の調整角度xは、
x=ε/r1=0.5/50=0.01〔rad〕
となる。
【0047】
これに対して、本実施例では、図7(b)に示すように、第5軸A5から受光部410までの距離をr2は、略400mm程度とることができる。
よって、光ビームLBが受光部410からずれている距離εを、図7(a)と同様に、0.5mmとすると、第5軸A5の調整角度xは、
x=ε/r2=0.5/400=0.00125〔rad〕
となる。
このように、本実施例の産業用ロボット100によれば、第5軸A5から受光部410までの距離r2を大きくとることができるため、調整精度を向上させることが可能となる。
【0048】
なお、カウント値は、ロボットコントローラ270に内蔵されたレジスタなどに保持されているものであり、これを「0」にリセットする。これにより、ロボットコントローラ270は、ツール取付回転アーム160の第5軸A5を中心とした回転位置が、第4軸A4と第6軸A6とが一致する位置となったときに、ツール取付回転アーム160の回転量が「0」、すなわち、基準位置にあると認識する。
【0049】
以上のように、本実施例によれば、第5軸A5から受光部410までの距離を長くとることができるため、ツール取付回転アーム160の基準位置調整精度を向上させることができる。また、必要な部品点数がきわめて少ないため、取り付け誤差などが小さくなって、ツール取付回転アーム160の基準位置調整精度を向上させることができる。さらに、揺動アーム150とツール取付回転アーム160との間の位置を調整するものであり、第3軸A3の調整精度の影響を受けないので、基準位置の調整精度を向上させることができる。
【0050】
発光装置320を例えば、レーザポインタなどから構成する場合、レーザポインタから出射される光ビームの直径は、通常、略2mm程度であるが、略0.5mm程度まで収束させることにより、調整精度を向上させることができる。
【0051】
なお、上記実施例では、発光装置320から出射された光ビームの受光部410への照射を作業者の目視により確認しつつ、作業者が、直接、ツール取付回転アーム160を操作したり、操作部280によりツール取付回転アーム160を揺動アーム150に対して第5軸A5を中心に回転させることにより位置決めを行ったりしているが、ロボットコントローラ270を用いて自動的にツール取付回転アーム160を基準となる位置に位置決めするようにしてもよい。
【0052】
ロボットコントローラ270を用いて自動的にツール取付回転アーム160を基準となる位置に位置決めする場合の構成について説明する。
ロボットコントローラ270を用いて自動的にツール取付回転アーム160を基準となる位置に位置決めする場合には、図1、図2に示す受光部410に、図8に示すようにフォトセンサ510を設置した構成とする。フォトセンサ510は、発光装置320からの光ビームLBを受光して、検出信号を出力するデバイスである。
【0053】
フォトセンサ510から出力される検出信号は、信号検出装置520に供給される。信号検出装置520は、フォトセンサ510からの検出信号をパルスに変換して出力する装置である。信号検出装置520で変換された基準位置検出パルスは、ロボットコントローラ270に供給される。ロボットコントローラ270は、作業者の操作部280の操作によるツール取付回転アーム160の位置決め動作の開始指示に基づいて、第5駆動部250を制御して、ツール取付回転アーム160を、第5軸A5を中心に回転させて、信号検出装置520からの基準位置検出パルスの供給を監視し、信号検出装置520から基準位置検出パルスが供給されたときに第5駆動部250のエンコーダ213から供給されるパルスのカウント値を「0」にリセットする処理を行うものである。
【0054】
次に、ロボットコントローラ270を用いて自動的にツール取付回転アーム160を基準となる位置に位置決めするときの動作について説明する。
ロボットコントローラ270を用いて自動的にツール取付回転アーム160を基準となる位置に位置決めする作業は、例えば、産業用ロボット100の導入時、あるいは、メンテナンス時に行われ、作業者は、前準備として、まず、ツール取付部170に取り付けられたツール180を取り外し、発光装置320を取付部材310に装着し、発光装置320が装着された取付部材310をツール取付部170に取り付ける。そして、取付部材310に取り付けた発光装置320から光ビームLBを出射させる。
次に、作業者は、操作部280を操作して、ツール取付回転アーム160の位置決め動作の開始をロボットコントローラ270に指示する。ロボットコントローラ270は、操作部280よりツール取付回転アーム160の位置決め動作の開始が指示されると、図9のステップS1−1に示すように第5駆動部250のモータ211を駆動し、ツール取付回転アーム160を、第5軸A5を中心として揺動させる。
【0055】
ロボットコントローラ270は、ステップS1−2において、ツール取付回転アーム160を、第5軸A5を中心に揺動されている状態で、信号検出装置520からのパルスを監視する。ロボットコントローラ270は、ステップS1−2で信号検出装置520から基準位置検出パルスが供給されると、そのときには発光装置320から出射された光ビームLBがフォトセンサ510に照射されていることが確認できるので、ステップS1−3で信号検出装置520から基準位置検出パルスが供給されるタイミングで、第5駆動部250のエンコーダ213から供給されるパルスのカウント値を「0」にリセットする。これにより、発光装置320から出射された光ビームLBがフォトセンサ510に照射されているタイミング、すなわち、ツール取付回転アーム160が基準位置にあるときに、第5駆動部250のエンコーダ213から供給されるパルスのカウント値が「0」にリセットされ、ツール取付回転アーム160を基準位置に、自動的に設定することができる。
ロボットコントローラ270は、第5駆動部250のエンコーダ213から供給されるパルスのカウント値が「0」にリセットされると、ツール取付回転アーム160の揺動を停止させて、ツール取付回転アーム160の自動位置決め動作を終了する。作業者は、ツール取付回転アーム160の自動位置決め動作が終了すると、ツール取付部170から取付部材310を取り外す。
【0056】
以上により、ツール取付回転アーム160の基準位置が自動的に位置決めされる。なお、エンコーダ213がパルスをカウントし、カウント値をロボットコントローラ270に供給する構成である場合には、エンコーダ213のカウント値をリセットするようにしてもよい。また、この場合、ロボットコントローラ270側で管理するエンコーダ213からのカウント値にオフセットを設定することによりリセットするようにしてもよい。
【0057】
また、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲で、適宜適用することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0058】
100 産業用ロボット
110 ロボットベース
120 旋回フレーム
130 下腕
131 上腕
140 ショルダ
150 揺動アーム
160 ツール取付回転アーム
170 ツール取付部
180 ツール
211 モータ
212 動力伝達機構
213 エンコーダ
250 第5駆動部
270 ロボットコントローラ
280 操作部
310 取付部材
320 発光装置
410 受光部
A4 第4軸
A5 第5軸
A6 第6軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動アームと、前記揺動アームに回転軸を介して取り付けられるツール取付回転アームとを基準位置に位置決めする産業用ロボットのアームの基準位置決め方法であって、
前記ツール取付回転アームの所定位置に設けられた取付部に、前記揺動アーム側に向けて発光装置の光ビームが出射されるように当該発光装置を取り付ける第1ステップと、
前記取付部に取り付けられた当該発光装置から当該光ビームを出射させる第2ステップと、
前記取付部に対向する前記揺動アームの所定位置に設けられ、前記取付部に取り付けられた前記発光装置からの前記光ビームを受光する受光部の予め設定された許容範囲に、前記取付部に取り付けられた前記発光装置からの前記光ビームが照射されるように、前記揺動アームと前記ツール取付回転アームとを位置決めする第3ステップとを含むことを特徴とする産業用ロボットのアームの基準位置決め方法。
【請求項2】
前記受光部は、前記光ビームの入射方向に向けて開口され、底面に向けて尖った形状とされた穴から構成されていることを特徴とする請求項1に記載された産業用ロボットのアームの基準位置決め方法。
【請求項3】
前記揺動アームは、前記回転軸に直交する第1動作軸を中心に回転し、
前記取付部は、前記ツール取付回転アームに設けられ、前記第1動作軸と平行であり、かつ、前記回転軸上で前記第1動作軸と交差する第2動作軸を中心に回転し、ツールが取り付けられるツール取付部であり、
前記発光装置は、取付部材を介して前記ツール取付部に取り付けられ、前記光ビームを前記第2動作軸上、前記揺動アーム側に向けて出射し、
前記受光部は、前記揺動アームの前記第1動作軸上、前記ツール取付回転アーム側に向けて設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された産業用ロボットのアームの基準位置決め方法。
【請求項4】
前記揺動アームは、前記第1動作軸方向に貫通しており、前記第1動作軸上を通る隔壁により隔てられ、前記ツールに接続されるケーブルが貫通する少なくとも一つの貫通穴を含む複数の貫通穴を備え、
前記受光部は、前記隔壁の前記ツール取付回転アーム側の端面の前記第1動作軸上に設けられることを特徴とする請求項3に記載された産業用ロボットのアームの基準位置決め方法。
【請求項5】
揺動アームと、前記揺動アームに回転軸を介して取り付けられるツール取付回転アームとを含む産業用ロボットであって、
前記ツール取付回転アームのツール取付部の位置に設けられ、前記揺動アーム側に向けて発光装置の光ビームが出射されるように当該発光装置を取り付ける取付部と、
前記ツール取付回転アームの前記取付部に対向する前記揺動アームの所定位置に設けられ、前記取付部に取り付けられた前記発光装置からの前記光ビームを受光する受光部とを備え、
前記取付部に取り付けられた前記発光装置からの前記光ビームが前記受光部の予め設定された許容範囲を照射したときに基準位置に位置決めされることを特徴とする産業用ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−218523(P2011−218523A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93151(P2010−93151)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】