説明

画像処理装置、画像処理方法、及び画像処理プログラム

【課題】管腔内画像において粘膜領域と残渣等の非粘膜領域とをより高い精度で判別することができる画像処理装置等を提供する。
【解決手段】画像処理装置は、管腔内画像に含まれる粘膜領域と非粘膜領域とを判別する画像処理装置において、管腔内画像を構成する各画素の特徴量に基づいて、粘膜領域であるか否かの判別対象とする残渣候補領域を検出する残渣候補領域検出部16と、管腔内画像に含まれる構造エッジを検出する構造エッジ領域検出部17と、構造エッジと残渣候補領域との相対的な位置関係に基づいて、残渣候補領域が粘膜領域であるか否かを判別する近似構造エッジ線算出部18及び交差判定部19とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管腔内を撮像した管腔内画像を処理する画像処理装置、画像処理方法、及び画像処理プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、患者等の被検者の体内に導入されて、管腔内を非侵襲に観察する医用観察装置として、内視鏡が広く普及している。近年では、カプセル型の筐体内部に撮像装置及び通信装置等を収容し、撮像装置により撮像された画像データを体外に無線送信する飲み込み型の内視鏡(カプセル内視鏡)も開発されている。このような医用観察装置によって撮像された一連の画像(管腔内画像)は膨大な数(数万枚以上)に上ると共に、各管腔内画像に対する観察及び診断には多くの経験が必要とされる。そのため、医師による診断を補助する医療診断支援機能が望まれている。この機能を実現する画像認識技術の1つとして、管腔内画像から異常部を自動的に検出して、重点的に診断すべき画像を示す技術が提案されている。
【0003】
ところで、画像認識によって異常部を検出する際には、前処理として、残渣等が映された観察不要な領域(不要領域)を除去して、粘膜領域を抽出することが重要となる。例えば特許文献1には、生体粘膜を撮像した画像に対して設定された所定の処理対象領域において、画素の色調特徴量に基づいて特定の生体粘膜の存在を検出する画像処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−166939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、色情報のみを用いて不要領域を検出する場合、白色病変部のように、残渣等と色が類似する領域が、粘膜領域であるにもかかわらず不要領域として除去されてしまうことがある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、管腔内画像において粘膜領域と残渣等の非粘膜領域とをより高い精度で判別することができる画像処理装置、画像処理方法、及び画像処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る画像処理装置は、管腔内画像に含まれる粘膜領域と非粘膜領域とを判別する画像処理装置において、管腔内画像を構成する各画素の特徴量に基づいて、粘膜領域であるか否かの判別対象とする候補領域を検出する候補領域検出手段と、前記管腔内画像に含まれる構造エッジを検出する構造エッジ検出手段と、前記構造エッジと前記候補領域との相対的な位置関係に基づいて、前記候補領域が粘膜領域であるか否かを判別する領域判別手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る画像処理方法は、管腔内画像に含まれる粘膜領域と非粘膜領域とを判別する画像処理方法において、管腔内画像における各画素の特徴量に基づいて、非粘膜領域の候補となる候補領域を検出する候補領域検出ステップと、前記管腔内画像に含まれる構造エッジを検出する構造エッジ検出ステップと、前記構造エッジと前記候補領域との相対的な位置関係に基づいて、前記候補領域が粘膜領域であるか否かを判別する領域判別ステップとを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る画像処理プログラムは、管腔内画像に含まれる粘膜領域と非粘膜領域とを判別する画像処理プログラムにおいて、管腔内画像における各画素の特徴量に基づいて、非粘膜領域の候補となる候補領域を検出する候補領域検出手順と、前記管腔内画像に含まれる構造エッジを検出する構造エッジ検出手順と、前記構造エッジと前記候補領域との相対的な位置関係に基づいて、前記候補領域が粘膜領域であるか否かを判別する領域判別手順とをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、管腔内画像から非粘膜領域の候補領域を画素値に基づいて検出し、この候補領域が粘膜領域であるか否かを、管腔内画像に含まれる構造エッジと上記候補領域のとの相対的な位置関係に基づいて判別するので、色情報のみを用いる場合と比較して、より高い精度で粘膜領域と非粘膜領域とを判別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、図1に示す画像処理装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】図3は、管腔内画像の一例を示す模式図である。
【図4】図4は、管腔内画像内の構造エッジの検出処理を示すフローチャートである。
【図5】図5は、残渣候補領域と近似構造エッジ線との位置関係を示す図である。
【図6】図6は、近似構造エッジ線の算出方法の一例を示す図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態2に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図8】図8は、図7に示す画像処理装置が実行する残渣候補領域の判別処理を示すフローチャートである。
【図9】図9は、近似構造エッジ線と残渣候補領域との交差状態の判別方法を説明する図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態3に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図11】図11は、図10に示す画像処理装置が実行する残渣候補領域の判別処理を示すフローチャートである。
【図12】図12は、近似構造エッジ線と残渣候補領域との交差状態の判定方法を説明する図である。
【図13】図13は、本発明の実施の形態4に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図14】図14は、図13に示す画像処理装置に動作を示すフローチャートである。
【図15】図15は、処理対象である管腔内画像の一例を示す模式図である。
【図16】図16は、図13に示す画像処理装置が実行する残渣候補領域周辺の構造エッジの検出処理を示すフローチャートである。
【図17】図17は、正規化された周囲相似曲線が投影された特徴空間を示す模式図である。
【図18】図18は、特徴空間において抽出されたエッジ座標の連続性を判定する方法を説明する図である。
【図19】図19は、連続性があるエッジ座標を管腔内画像上の座標に変換した例を示す模式図である。
【図20】図20は、図13に示す相似曲線算出部が実行する複数の周囲相似曲線の算出処理を示すフローチャートである。
【図21】図21は、図13に示す連続性判定部が実行する連続性あるエッジ座標の検出処理を示すフローチャートである。
【図22】図22は、連続性があるエッジ座標の検出処理において設定される探索範囲の変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る画像処理装置について、図面を参照しながら説明する。なお、これら実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0013】
以下に説明する実施の形態に係る画像処理装置は、例えば内視鏡やカプセル内視鏡等の医用観察装置によって被検者の体内(管腔内)を撮像した管腔内画像を処理するものであり、具体的には、管腔内画像に対して、観察(診断)対象とする粘膜領域と、観察対象としない非粘膜領域(例えば残渣領域)とを判別する処理を行う。また、以下の実施の形態において画像処理を施される管腔内画像は、例えば、各画素においてR(赤)、G(緑)、B(青)の各色成分に対する画素レベル(画素値)を持つカラー画像である。
【0014】
本出願において、非粘膜領域とは、管腔内画像の画面において粘膜領域に重なって(即ち、粘膜領域よりも手前側に)映し出された粘膜以外の領域のことを言う。具体的には、粘膜に付着した残渣領域や、粘膜から離れて浮遊する残渣(浮遊残渣とも呼ばれる)領域等が含まれる。本出願においては、このような残渣領域を、観察対象とならない不要領域としている。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、画像処理装置1は、画像処理装置1全体の動作を制御する制御部10と、画像取得部11と、入力部12と、表示部13と、記録部14と、演算部15とを備える。
【0016】
画像取得部11は、医用観察装置によって撮像された管腔内画像の画像データを取得する。画像取得部11は、医用観察装置を含むシステムの態様に応じて適宜構成される。例えば、医用観察装置がカプセル内視鏡であり、医用観察装置との間の画像データの受け渡しに可搬型の記録媒体が使用される場合、画像取得部11は、この記録媒体を着脱自在に装着し、保存された管腔内画像の画像データを読み出すリーダ装置で構成される。また、医用観察装置によって撮像された管腔内画像の画像データを保存しておくサーバを設置する場合、画像取得部11は、サーバと接続される通信装置等で構成され、サーバとデータ通信を行って管腔内画像の画像データを取得する。或いは、画像取得部11を、内視鏡等の医用観察装置から、ケーブルを介して画像信号を入力するインターフェース装置等で構成しても良い。
【0017】
入力部12は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等によって実現され、入力信号を制御部10に出力する。
表示部13は、LCDやELディスプレイ等の表示装置によって実現され、制御部10の制御の下で、管腔内画像を含む各種画面を表示する。
【0018】
記録部14は、更新記録可能なフラッシュメモリ等のROMやRAMといった各種ICメモリ、内蔵若しくはデータ通信端子で接続されたハードディスク、又は、CD−ROM等の情報記録媒体及びその読取装置等によって実現される。記録部14は、画像取得部11によって取得された管腔内画像の画像データの他、画像処理装置1を動作させると共に、種々の機能を画像処理装置1に実行させるためのプログラムや、このプログラムの実行中に使用されるデータ等を格納する。具体的には、管腔内画像から非粘膜領域を識別するための画像処理プログラム141を格納する。
【0019】
演算部15は、CPU等のハードウェアによって実現され、画像処理プログラム141を読み込むことにより、管腔内画像の画像データを処理して非粘膜領域を識別するための種々の演算処理を行う。演算部15は、残渣候補領域検出部16と、構造エッジ領域検出部17と、残渣領域判別手段としての近似構造エッジ線算出部18及び交差判定部19とを有する。
【0020】
残渣候補領域検出部16は、残渣領域であるか否かの判別対象である候補領域を、色特徴量に基づいて検出する。具体的には、残渣候補領域検出部16は、まず、管腔内画像を類似した色ごとに領域分割すると共に、各画素についてR値、G/R値、B/G値を算出する。そして、分割された各領域について、平均R値、平均G/R値、及び平均B/G値を算出する。次いで、これらの平均R値、平均G/R値、及び平均B/G値を、R値−G/R値−B/G値の3軸からなる特徴空間に写像する。残渣候補領域検出部16は、この特徴空間において、これらの平均値を閾値処理することにより、候補領域を検出する。なお、候補領域の検出方法としては、上記説明をした方法に限定されず、例えば、R値、G値、B値をHSI色空間に写像し、H値(色相の値)を閾値処理する等、色特徴量に基づいて検出する方法であれば既知の様々な方法を用いても良い。
【0021】
構造エッジ領域検出部17は、管腔内画像に含まれる構造エッジ領域を検出する。ここで、管腔内画像には、粘膜間の溝等による構造エッジや、粘膜面とは吸光特性が異なる血管領域等による色エッジが存在する。構造エッジ領域検出部17は、この内の構造エッジを、色成分毎の微分強度の相対関係に基づいて抽出する。構造エッジ領域検出部17は、管腔内画像を構成する各画素の第1の色成分(例えば、R成分)を用いて第1の微分強度を算出する第1微分強度算出部171と、各画素の第2の色成分(例えば、G成分)を用いて第2の微分強度を算出する第2微分強度算出部172と、第1及び第2の色成分の強度比に基づいて第2の微分強度を正規化する正規化処理部173と、第1の微分強度及び正規化された第2の微分強度が所定の閾値以上であるか否かを判別する閾値処理部174とを有する。
【0022】
残渣領域判別手段としての近似構造エッジ線算出部18及び交差判定部19は、残渣候補領域が残渣領域であるか否かを、当該残渣候補領域と構造エッジとの相対的な位置関係に基づいて判別する。
【0023】
近似構造エッジ線算出部18は、検出された構造エッジの近似線(近似構造エッジ線)を算出する。近似構造エッジ線算出部18は、残渣候補領域近傍(例えば、残渣候補領域と一部が交差又は接する程度)において検出された構造エッジをラベリングするラベリング処理部181と、ラベリングされた各構造エッジについて近似関数を算出する関数近似部182とを含む。
【0024】
交差判定部19は、近似構造エッジ線が残渣候補領域と交差するか否かを判定し、両者の交差状態に基づいて残渣候補領域が残渣領域であるか否かを判別する。
【0025】
制御部10は、CPU等のハードウェアによって実現され、記録部14に格納された各種プログラムを読み込むことにより、画像取得部11から入力される画像データや入力部12から入力される操作信号等に従って、画像処理装置1を構成する各部への指示やデータの転送等を行い、画像処理装置1全体の動作を統括的に制御する。
【0026】
次に、画像処理装置1の動作について、図2及び図3を参照しながら説明する。図2は、画像処理装置1の動作を示すフローチャートである。また、図3は、カプセル内視鏡によって撮像され、画像処理装置1によって処理される管腔内画像の一例を示す模式図である。
【0027】
まず、ステップS10において、画像処理装置1は、外部から管腔内画像群の入力を受け付け、記録部14に格納する。演算部15は、記録部14から処理対象の管腔内画像100を読み出して取得する。
【0028】
ステップS11において、残渣候補領域検出部16は、管腔内画像100から、残渣領域か否かの判別対象となる残渣候補領域を色特徴量に基づいて検出する。
【0029】
残渣候補領域101が検出された場合(ステップS12:Yes)、続いて、構造エッジ領域検出部17は管腔内画像100内の構造エッジを検出する(ステップS13)。一方、残渣候補領域が検出されなかった場合(ステップS12:No)、残渣領域は存在しないものと判断され、動作は終了する。
【0030】
ステップS14において、近似構造エッジ線算出部18は、検出された構造エッジ102〜104の内、残渣候補領域101の周囲の構造エッジ103、104の近似構造エッジ線を算出する。具体的には、まず、ラベリング処理部181が、残渣候補領域101近傍の構造エッジ103、104をラベリングする。続いて、関数近似部182は、ラベリングされた構造エッジ103、104を構成する画素(構造エッジ画素)の座標に基づき関数近似法により、近似構造エッジ線を算出する。関数近似法としては、例えば、最小二乗法を用いた一次関数近似や二次関数近似等、既知の様々な方法が用いられる。
【0031】
図5は、図3に示す残渣候補領域101近傍の拡大図である。例えば図5に示すように、構造エッジ103に近似する近似構造エッジ線105が算出された場合(ステップS15:Yes)、交差判定部19は、残渣候補領域101と近似構造エッジ線105との位置関係に基づいて、残渣候補領域101が残渣領域であるか否かを判別する(ステップS16)。
【0032】
具体的には、交差判定部19は、残渣候補領域101内をスキャンし、近似構造エッジ線105の座標上に存在する画素を検出する。そして、近似構造エッジ線105上の画素が存在する場合、交差判定部19は、近似構造エッジ線105と残渣候補領域101とが交差すると判定し、当該残渣候補領域101は構造エッジ103を遮蔽する残渣領域であると判別する。
【0033】
一方、近似構造エッジ線105上の画素が存在しない場合、交差判定部19は、近似構造エッジ線105と残渣候補領域101とは交差しないと判定し、当該残渣候補領域101は残渣領域ではない(即ち粘膜領域である)と判別する。
【0034】
また、交差判定部19は、近似構造エッジ線が算出されなかった場合(ステップS15:No)、当該残渣候補領域101は残渣領域ではないと判別する(ステップS17)。
【0035】
その後、未だ判別処理が実行されていない残渣候補領域が存在する場合(ステップS18:No)、動作はステップS14に移行し、次の残渣候補領域に対する処理が行われる。一方、管腔内画像100から検出された全ての残渣候補領域に対する判別処理が終了すると(ステップS18:Yes)、演算部15は、判別結果を出力して表示部13に表示させると共に、記録部14に記録させる(ステップS19)。
【0036】
次に、図4を参照しながら、構造エッジの検出処理(図2のステップS13)の詳細を説明する。図4は、構造エッジ領域検出部17が実行する構造エッジの検出処理の動作を示すフローチャートである。
【0037】
まず、ステップS131において、第1微分強度算出部171は、管腔内画像100を構成する1つの画素について、例えばソーベル(Sobel)フィルタ等を用いた一次微分処理により、R成分の微分強度を算出する。また、ステップS132において、第2微分強度算出部172は、同じ画素について、同様にしてG成分の微分強度を算出する。
【0038】
ステップS133において、正規化処理部173は、R成分及びG成分の強度比に基づいて、R成分及びG成分の微分強度を正規化する。これは一般に、管腔内画像を構成する各画素における各色成分(R、G、B)の強度は通常、R値>G値>B値となっており、それに応じてR成分の微分強度がG成分の微分強度よりも高くなる傾向にあるため、G成分の微分強度をR成分の微分強度に合わせるためである。実施の形態1においては、G成分の微分強度に対して、G成分に対するR成分の強度比を掛けることにより正規化する。
【0039】
続くステップS134において、閾値処理部174は、正規化された微分強度に対して閾値処理を行う。例えば、血管領域の境界のような色エッジ領域においては、R成分の微分強度が低く、G成分の微分強度が高くなるため、色成分毎に微分強度の差が生じる。一方、構造エッジ領域においては、R成分もG成分も同じ傾向で変化するため、色成分毎の微分強度にあまり差が生じない。そこで、閾値処理部174は、R成分及びG成分の微分強度が共に閾値以上であるような画素を、構造エッジ画素として抽出する。
構造エッジ領域検出部17は、このような処理を、管腔内画像100内の全ての画素について繰り返す(ステップS135:No、ステップS131)。
【0040】
管腔内画像100内の全ての画素について閾値処理が実行されると(ステップS135:Yes)、構造エッジ領域検出部17は、抽出された構造エッジ画素をラベリングし、さらに、細線化処理(参考:CG−ARTS協会、ディジタル画像処理、p.185〜p.190)を行う(ステップS136)。それにより、図3に示すような構造エッジ102〜104が検出される。その後、動作はメインルーチンに戻る。
【0041】
以上説明したように、実施の形態1においては、残渣候補領域を色特徴量に基づいて検出し、当該残渣候補領域が残渣領域であるか否かを、当該残渣候補領域と構造エッジとの相対的な位置関係(即ち、当該残渣候補領域が構造エッジを遮蔽するか否か)に基づいて判別する。従って、色特徴量のみを用いて残渣領域を特定する場合よりも高い精度で、残渣領域を抽出することができる。従って、抽出された残渣領域を不要領域として管腔内画像から予め除外しておくことにより、読影効率を向上させることが可能となる。
【0042】
(変形例1−1)
構造エッジの検出方法としては、上述した第1及び第2の色成分の微分強度に基づく検出方法の他にも、既知の様々な方法を用いることができる。例えば、少なくとも1つの色成分の微分強度を用いて構造エッジを検出することも可能である。具体的には、管腔内における吸光帯域から最も離れた色成分(R、G、Bの内ではR成分)を用いると良い。R成分は3つの色成分の内で最も波長が長く、血液(ヘモグロビン)による吸光成分が少ないため、生体組織の表面構造を最もよく反映した情報を得ることができるからである。この場合、ソーベル(Sobel)フィルタ等を用いた1次微分処理やラプラシアン(Laplacian)等を用いた2次微分処理等、公知のエッジ抽出技術により、各画素のR成分からエッジ強度を算出する。
【0043】
(変形例1−2)
近似構造エッジ線の算出方法としては、上述した関数近似による方法以外にも、既知の様々な方法を用いることができる。一例として、図6(a)に示すように、ラベリングされた構造エッジ110を構成する構造エッジ画素111から近似構造エッジ線を算出する方法について説明する。まず、各構造エッジ画素111に対してx方向及びy方向にソーベルフィルタを適用することにより、各構造エッジ画素111の勾配方向を求める。次いで、各構造エッジ画素111の勾配方向と直交するベクトル(直交ベクトル)112を算出する(図6(b))。さらに、これらの直交ベクトル112の平均値(平均直交ベクトル)と、構造エッジ110を構成する全ての構造エッジ画素111の重心位置113とを算出する。そして、平均直交ベクトルと同じ傾きを有し、重心位置113を通る一次関数を、近似構造エッジ線114とする(図6(c))。
【0044】
(変形例1−3)
近似構造エッジ線の算出方法の別の例を説明する。まず、図6に示すように、ラベリングされた構造エッジ110を構成する各構造エッジ画素111(座標(x,y))において、ヘッセ行列を求める。ここで、ヘッセ行列とは、多変数スカラー関数(本変形例1−3においては画素値f(x,y))の2階偏微分を要素とする正方行列である。このようなヘッセ行列の第2固有ベクトルは、画素値f(x,y)を高度と見なした場合の谷又は尾根に沿った方向(即ち、図6の直交ベクトル112と同じ方向)を向く。従って、各構造エッジ画素111におけるヘッセ行列の第2固有ベクトルの平均ベクトルと、構造エッジ110の重心位置113とを算出して、平均ベクトルと同じ傾きを有し、重心位置113を通る一次関数を求め、これを近似構造エッジ線とすれば良い。
【0045】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る画像処理装置について説明する。図7に示すように、実施の形態2に係る画像処理装置2は演算部20を備える。その他の構成については、図1に示すものと同様である。
【0046】
演算部20は、残渣候補領域検出部16と、構造エッジ領域検出部17と、残渣領域判別手段としての近似構造エッジ線算出部18及び交差判定部21とを備える。この内、残渣候補領域検出部16、構造エッジ領域検出部17、及び近似構造エッジ線算出部18の構成及び動作については、実施の形態1において説明したものと同様である。
【0047】
交差判定部21は、近似構造エッジ線と残渣候補領域の輪郭線との類似度を算出する類似度算出部211を含み、算出された類似度に基づいて近似構造エッジ線と残渣候補領域との交差関係を判定し、さらに、この判定結果に基づいて、残渣候補領域が残渣領域であるか否かを判別する。
【0048】
次に、画像処理装置2の動作について、図2、図8、及び図9を参照しながら説明する。画像処理装置2の動作は、図2のステップS10〜S15及びS18〜S19に関して実施の形態1で説明したものと共通であり、残渣候補領域の判別処理の動作(ステップS16)のみが実施の形態1とは異なる。
【0049】
図8は、画像処理装置2が実行する残渣候補領域の判別処理を示すフローチャートである。また、図9は、近似構造エッジ線と残渣候補領域との交差状態の判定方法を説明する図であり、管腔内画像100から検出された残渣候補領域101、構造エッジ103、104、及び近似構造エッジ線105を拡大して示している。
【0050】
ステップS21において、交差判定部21は残渣候補領域101内をスキャンし、近似構造エッジ線105の座標上に存在する画素(以下、「近似線上画素」という)を検出する。
【0051】
ここで、近似線上画素が存在する場合、構造エッジ103は残渣候補領域101によって遮蔽されているものと考えられる。この場合、構造エッジ103を遮蔽している領域としては、残渣領域か、又は、例えば白色病変領域のように、粘膜領域であるが、色特徴量から残渣候補領域として検出されてしまった領域である可能性がある。このような病変領域は、周囲の粘膜領域よりも隆起している場合があるため、撮像の向きによっては構造エッジ103を遮蔽しているように映し出されることがあるからである。しかしながら、粘膜領域の隆起により構造エッジを遮蔽しているように見える領域は、構造エッジを僅かしか跨ぐことはない。そのため、そのような遮蔽領域の輪郭線は構造エッジの近傍に存在する。そこで、実施の形態2においては、近似構造エッジ線105と残渣候補領域101の輪郭線106との類似度に基づいて、残渣候補領域101が残渣領域であるのか、又は、隆起により構造エッジ103を遮蔽しているように見える粘膜領域であるのかを判定する。
【0052】
近似線上画素が検出された場合(ステップS22:Yes)、類似度算出部211は、各近似線上画素の座標Pにおける近似構造エッジ線105の法線方向を算出する(ステップS23)。また、類似度算出部211は、この法線方向における座標Pと輪郭線106との間の距離を算出する(ステップS24)。このとき、法線方向には2つの向きが存在するため、距離dSHORT及び距離dLONGの2つの値が算出される。類似度算出部211は、この内の短いほうの距離dSHORT(即ち、輪郭線106に近い側の距離)を採用する。
【0053】
ステップS25において、類似度算出部211は、ステップS21において検出された全ての画素について算出された距離dSHORTから、平均値dAVEを算出する。
【0054】
ステップS26において、交差判定部21は、平均値dAVEが所定の閾値以上であるか否かを判定する。平均値dAVEが閾値以上である場合(ステップS26:Yes)、交差判定部21は、近似構造エッジ線105と輪郭線106とは類似しておらず、当該残渣候補領域101は残渣領域であると判別する(ステップS27)。その後、動作はメインルーチンに戻る。
【0055】
一方、平均値dAVEが閾値より小さい場合(ステップS26:No)、交差判定部21は、近似構造エッジ線105と輪郭線106とは類似しており、当該残渣候補領域101は残渣領域でないと判別する(ステップS28)。また、ステップS22において近似構造エッジ線105上に存在する画素が検出されなかった場合(ステップS22:No)も、交差判定部21は、当該残渣候補領域101は残渣領域ではないと判別される(ステップS28)。
【0056】
以上説明したように、実施の形態2によれば、近似構造エッジ線と残渣候補領域の輪郭線との類似度に基づいて残渣候補領域のカテゴリを判別する。そのため、色特徴量から残渣候補領域として抽出されて構造エッジを遮蔽している粘膜領域を、残渣領域と区別することができる。従って、管腔内画像から残渣領域のみを、より正確に抽出することが可能となる。
【0057】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3に係る画像処理装置について説明する。図10に示すように、実施の形態3に係る画像処理装置3は演算部30を備える。その他の構成については、図1に示すものと同様である。
【0058】
演算部30は、残渣候補領域検出部16と、構造エッジ領域検出部17と、残渣領域判別手段としての近似構造エッジ線算出部18及び交差判定部31とを備える。この内、残渣候補領域検出部16、構造エッジ領域検出部17、及び近似構造エッジ線算出部18の構成及び動作については、実施の形態1において説明したものと同様である。
【0059】
交差判定部31は、近似構造エッジ線と残渣候補領域の輪郭線との角度差を算出する角度差算出部311を含み、算出された角度差に基づいて近似構造エッジ線と残渣候補領域との交差関係を判定し、さらに、この判定結果に基づいて、残渣候補領域が残渣領域であるか否かを判別する。
【0060】
次に、画像処理装置3の動作について、図2、図11、及び図12を参照しながら説明する。画像処理装置3の動作は、図2のステップS10〜S15及びS18〜S19に関して実施の形態1で説明したものと共通であり、残渣候補領域の判別処理の動作(ステップS16)のみが実施の形態1とは異なる。
【0061】
図11は、画像処理装置3が実行する残渣候補領域の判別処理を示すフローチャートである。また、図12は、近似構造エッジ線と残渣候補領域との交差状態の判定方法を説明する図であり、管腔内画像100から検出された残渣候補領域101、構造エッジ103、104、及び近似構造エッジ線105を拡大して示している。
【0062】
ステップS31において、交差判定部31は、残渣候補領域101に対して輪郭追跡(参考:CG−ARTS協会、ディジタル画像処理、p.178〜p.179)を行うことにより、近似構造エッジ線105と座標が一致する輪郭画素(以下、「近似線上輪郭画素」という)を検出する。
【0063】
近似線上輪郭画素が検出された場合(ステップS32:Yes)、角度差算出部311は、近似線上輪郭画素の座標Qにおいて、残渣候補領域101の輪郭線106の法線ベクトルvを算出すると共に(ステップS33)、同じ座標Qにおける近似構造エッジ線105の接線ベクトルuを算出する(ステップS34)。
【0064】
さらに、ステップS35において、角度差算出部311は、接線ベクトルuと法線ベクトルvとの外積の値(|u×v|=|u|・|v|・sinθ)を算出する。この外積の値|u×v|は、接線ベクトルuと法線ベクトルvとのなす角度θ(0≦θ≦180°)に応じて変化する。言い換えれば、|u×v|は、近似構造エッジ線105の向きと輪郭線106の向きとの類似関係を表す。即ち、外積の値|u×v|が大きい場合(例えば、sinθ=1、θ=90°)、近似構造エッジ線105と輪郭線106とは、向きが類似する交差関係となる。一方、外積の値|u×v|が小さい場合(例えば、sinθ=0、θ=0°)、近似構造エッジ線105と輪郭線106とは、向きが非類似の交差関係となる。
【0065】
ステップS36において、交差判定部31は、算出された外積の値|u×v|が所定の閾値以下であるか否かを判定する。外積の値|u×v|が閾値以下である場合(ステップS36:Yes)、交差判定部31は、近似構造エッジ線105と輪郭線106とは類似しておらず、当該残渣候補領域101は残渣領域であると判別する(ステップS37)。その後、動作はメインルーチンに戻る。
【0066】
一方、外積の値|u×v|が閾値より大きい場合(ステップS36:No)、交差判定部31は、近似構造エッジ線105と輪郭線106とは類似しており、当該残渣候補領域101は残渣領域でないと判別する(ステップS38)。また、ステップS32において近似線上輪郭画素が検出されなかった場合(ステップS32:No)も、当該残渣候補領域101は残渣領域ではないと判別される(ステップS38)。
【0067】
以上説明したように、実施の形態3によれば、近似線上輪郭画素におけるベクトルを用いるので、近似構造エッジ線と残渣候補領域の輪郭線との交差関係を、より少ない演算量で正確に判定することが可能となる。
【0068】
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4に係る画像処理装置について説明する。図13に示すように、実施の形態4に係る画像処理装置4は演算部40を備える。その他の構成については、図1に示すものと同様である。
【0069】
演算部40は、残渣候補領域検出部16と、構造エッジ領域検出部41と、残渣領域判別手段としての近似構造エッジ線算出部42及び交差判定部19とを備える。この内、残渣候補領域検出部16及び交差判定部19の動作については、実施の形態1において説明したものと同様である。
【0070】
構造エッジ領域検出部41は、残渣候補領域周辺(残渣候補領域を包囲する管腔内画像の一部の領域)において、残渣候補領域の輪郭から等距離にある画素からなり、残渣候補領域の輪郭と相似する形状を有する相似曲線(以下、周囲相似曲線という)を、残渣候補領域の輪郭からの距離ごとに複数算出する相似曲線算出部411と、各周囲相似曲線がエッジと交差する位置の座標であるエッジ座標を抽出するエッジ位置検出部412と、各周囲相似曲線間におけるエッジ座標の連続性を判定する連続性判定部413とを含み、残渣候補領域周辺の構造エッジ領域を検出する。
【0071】
近似構造エッジ線算出部42は、関数近似法により近似構造エッジ線を算出する関数近似部421を含み、各周囲相似曲線間において連続的と判定されたエッジ座標を抽出し、これらのエッジ座標に基づいて近似構造エッジ線を算出する。
【0072】
次に、画像処理装置4の動作について説明する。図14は、画像処理装置4の動作を示すフローチャートである。なお、図14に示すステップS10〜S12及びS19の動作は、実施の形態1において説明したものと共通である。また、図15は、画像処理装置4によって処理される管腔内画像の一例を示す模式図である。図15に示す管腔内画像200には、ステップS11において検出された残渣候補領域201が示されている。
【0073】
ステップS41において、構造エッジ領域検出部41は、残渣候補領域201周辺の構造エッジを検出する。
【0074】
図16は、ステップS41における構造エッジ領域検出部41の詳細な動作を示すフローチャートである。
まず、ステップS401において、相似曲線算出部411は、残渣候補領域201からの距離が互いに異なる複数の周囲相似曲線を算出する。図15に示す周囲相似曲線202〜204は、残渣候補領域201の輪郭からそれぞれ距離d1〜d3だけ離れた位置における周囲相似曲線である。
【0075】
これらの周囲相似曲線202〜204の周の長さは、互いに異なる。そこで、ステップS402において、相似曲線算出部411は、残渣候補領域201からの距離が最も短い第1の周囲相似曲線(図15においては周囲相似曲線202)の長さを基準長として、残渣候補領域201との距離がそれよりも長い2番目以降の周囲相似曲線(図15においては周囲相似曲線203、204)の周の長さを、基準長との比率に基づいて正規化する。それにより、周囲相似曲線202〜204の周の長さが統一される。
【0076】
ステップS403において、相似曲線算出部411は、正規化された周囲相似曲線202〜204を図17に示す特徴空間に投影する。図17に示す特徴空間は、周囲相似曲線上の位置(所定の基準位置からの距離)を表す正規化座標、基準とした周囲相似曲線202に対する他の周囲相似曲線203、204の相対距離、及び周囲相似曲線202〜204上の画素の画素値との3軸で構成される。図17に示す特徴空間内の正規化座標における画素値を表す画素値曲線301〜303は、管腔内画像200上の周囲相似曲線202〜204に対応している。
【0077】
ステップS404において、エッジ位置検出部412は、各画素値曲線301〜303における微分強度を算出し、微分強度が所定の閾値以上である正規化座標をエッジ座標として抽出する。例えば図18に示す特徴空間の場合、第1の画素値曲線301からエッジ座標a1、b1、c1が抽出され、第2の画素値曲線302からエッジ座標a2及びc2が抽出され、第3の画素値曲線303からエッジ座標a3及びc3が抽出される。
【0078】
ステップS405において、連続性判定部413は、検出されたエッジ座標a1〜a3、b1、c1〜c3について、隣り合う画素値曲線間で連続性があるか否かを判定し、連続性があるエッジ座標を抽出する。この連続性の判定は、例えば画素値曲線301上の座標a1に対し、所定の探索範囲Δs内に別の画素値曲線上の座標が存在するか否かを探索することにより行う。なお、連続性の判定処理の詳細については後述する。ここでは、エッジ座標a1〜a3、及びエッジ座標c1〜c3が連続性を有するエッジ座標として抽出されたものとする。
【0079】
ステップS406において、連続性判定部413は、抽出されたエッジ座標a1〜a3及びc1〜c3を、実画像空間上の座標に変換する。それにより、図19に示すように、エッジ座標a1〜a3に対応する座標A1〜A3と、エッジ座標c1〜c3に対応する座標C1〜C3が得られる。
【0080】
さらに、ステップS407において、構造エッジ領域検出部41は、これらの座標A1〜A3、C1〜C3からそれぞれ任意の数の座標を抽出し、抽出された座標を通る直線又は曲線を構造エッジ205、206として抽出する。その後、動作はメインルーチンに戻る。
【0081】
このような処理の結果、構造エッジが検出されると(ステップS42:Yes)、近似構造エッジ線算出部42は、検出された構造エッジ205、206に近似する近似構造エッジ線を、例えば関数近似法により算出する(ステップS43)。
【0082】
ステップS44において、交差判定部19は、算出された近似構造エッジ線と残渣候補領域201とが交差するか否かを判定し、この判定結果に基づいて、残渣候補領域201が残渣領域であるか否かを判別する。この判別方法の詳細は、実施の形態1において説明したものと同様である。或いは、交差判定部19は、実施の形態2又は3と同様に、近似構造エッジ線と残渣候補領域201の輪郭との交差関係に基づいて、残渣候補領域201の判別を行っても良い。
【0083】
また、交差判定部19は、ステップS42において構造エッジが検出されなかった場合、当該残渣候補領域201は残渣領域ではないと判別する(ステップS45)。
【0084】
その後、未だ判別処理が実行されていない残渣候補領域が存在する場合(ステップS46:No)、動作はステップS41に移行し、次の残渣候補領域に対する処理が行われる。一方、管腔内画像200から検出された全ての残渣候補領域に対する判別処理が終了すると(ステップS46:Yes)、動作はステップS19に移行する。
【0085】
次に、複数の周囲相似曲線の算出処理(図16のステップS401)の詳細について説明する。図20は、ステップS401における相似曲線算出部411の動作を示すフローチャートである。
【0086】
まず、ステップS411において、相似曲線算出部411は、管腔内画像200内の各画素の値を残渣候補領域201からの距離を表す値に変換することにより、距離画像を作成する。距離画像の作成方法としては、公知の様々な方法を用いることができる(例えば、平田富夫、加藤敏洋、「ユークリッド距離変換アルゴリズム」(情報処理学会研究報告、アルゴリズム研究会報告 第94巻、第82号、第25−31頁、1994年9月21日)参照)。
【0087】
続くステップS412において、相似曲線算出部411は、残渣候補領域201の輪郭から第n番目の周囲相似曲線までの距離dを設定する。ここで、n(n=1、2、3、・・・)は、各周囲相似曲線を識別する番号である。また、距離dは所望の方法で設定して良い。例えば、隣り合う周囲相似曲線間の間隔Δdを予め定めておき、番号nと間隔Δdとを掛け合わせることにより、距離dを設定してもよい。
【0088】
ステップS413において、相似曲線算出部411は、設定された距離dを閾値として距離画像を2値化する。そして、残渣候補領域201の輪郭からの距離がd以下の領域に対して輪郭追跡を行い、この残渣候補領域201の輪郭からの距離が閾値(距離d)以下の領域の輪郭上の画素の画素値を順に取得する。それにより、周囲相似曲線が作成される(ステップS414)。
【0089】
相似曲線算出部411は、残渣候補領域201の輪郭からの距離が異なる周囲相似曲線をさらに作成する場合(ステップS415:Yes)、番号nをインクリメントする(n=n+1、ステップS416)。その後、動作はステップS412に移行する。また、所望の数の周囲相似曲線が作成された場合(ステップS415:No)、動作はメインルーチンに戻る。
【0090】
次に、隣り合う画素値曲線間で連続性があるエッジ座標を検出する処理(図16のステップS405)の詳細について、図21を参照しながら説明する。図21は、ステップS405における連続性判定部413の動作を示すフローチャートである。
【0091】
まず、ステップS421において、連続性判定部413は、第1の画素値曲線から検出されたエッジ座標を基点座標に設定する。例えば、図18の場合、画素値曲線301のエッジ座標a1、b1、c1が基点座標となる。
【0092】
続いて、連続性判定部413は、連続性の判定を行う基点座標を設定する(ステップS422)。以下、基点座標(エッジ座標)a1から連続性の判定を開始する。
【0093】
ステップS423において、連続性判定部413は、第n番目(n=2、3、・・・)の画素値曲線において基点座標と連続するエッジ座標を探索する探索範囲を設定する。この探索範囲としては、第1の画素値曲線における基点座標を中心とする任意の幅を設定する。或いは、探索範囲として、1つ内側(第n−1番目)の画素値曲線を探索した際に検出されたエッジ座標を中心とする任意の幅を設定しても良い。例えば、n=3の場合には、基点座標a1を中心とする探索範囲Δsを探索しても良いし、画素値曲線302を探索した際に検出されたエッジ座標a2を中心とする探索範囲Δs’を探索しても良い。
【0094】
ステップS424において、連続性判定部413は、第n番目の画素値曲線の探索範囲内にエッジ座標が存在するか否かを判定する。その結果、エッジ座標が存在する場合(ステップS424:Yes)、さらに外側(第n+1番目)の画素値曲線が存在していれば(ステップS425:Yes)、番号nをインクリメント(n=n+1、ステップS426)した後にステップS423に移行し、1つ外側の画素値曲線に対する探索を行う。例えば図18の場合、第2番目の画素値曲線302の探索範囲Δsからエッジ座標a2が検出されると、第3番目の画素値曲線303に対する探索が行われる。
【0095】
連続性判定部413は、最も外側の画素値曲線におけるエッジ座標の探索が終了すると(ステップS425:No)、各画素値曲線で検出されたエッジ座標を連続性があるエッジ座標として抽出する(ステップS427)。例えば、基点座標a1に対しては、エッジ座標a2及びa3が抽出される。
【0096】
一方、連続性判定部413は、第n番目の画素値曲線に対する探索の結果、探索範囲からエッジ座標が存在しなかった場合(ステップS424:No)、第1番目から第n−1番目までの画素値曲線において検出されたエッジ座標を連続するエッジ座標として抽出する(ステップS428)。
【0097】
その後、未だエッジ座標の連続性の判定を行われていない基点座標が存在する場合(ステップS429:No)、動作はステップS422に移行し、別の基点座標に対する処理が行われる。一方、全ての基点座標についてエッジ座標の連続性が判定されると(ステップS429:Yes)、動作はメインルーチンに戻る。
【0098】
このような探索処理の結果、図18に示す特徴空間においては、エッジ座標a1〜a3及びエッジ座標c1〜c3が連続する座標として抽出される。
【0099】
以上説明したように、実施の形態4においては、残渣候補領域毎にその周囲の構造エッジを検出するので、構造エッジを検出するための演算量を低減して、効率良く残渣候補領域の判別を行うことができる。
【0100】
(変形例4−1)
画素値曲線間で連続性があるエッジ座標を検出する際の探索範囲の設定方法としては、上述した方法に限定されない。例えば、図22に示すように、内側の画素値曲線301、302で連続すると判定されたエッジ座標a1、a2から、正規化座標−相対距離の2次元空間における近似線Lを算出し、この近似線Lの周囲を探索範囲Δsとしても良い。
【0101】
(変形例4−2)
画素値曲線間で連続性のあるエッジ座標を検出する方法としては、上述した方法に限定されない。例えば、全ての周囲相似曲線を画像化し、画像上のエッジ特徴量に基づいてエッジの連続性を判別しても良い。具体的には、周囲相似曲線の番号nを縦軸、正規化座標を横軸、周囲相似曲線における画素値を濃度とする画像を作成する。そして、当該画像を構成する各画素の微分強度を閾値処理して2値化することにより2値画像を生成する。さらに、この2値画像をラベリングし、ラベル領域の主軸長が所定の閾値以上であれば、該ラベル領域に属するエッジ座標は連続していると判定する。
【0102】
(変形例4−3)
残渣候補領域周囲の局所的な構造エッジを検出する方法としては、上述した周囲相似曲線を用いる方法に限定されない。例えば、残渣候補領域周囲の所定範囲を構造エッジの検出対象領域として設定し、この領域内部について、実施の形態1と同様の処理を行うことにより構造エッジを検出しても良い。
【0103】
以上説明した実施の形態1〜4に係る画像処理装置は、記録媒体に記録された画像処理プログラムをパーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータシステムで実行することにより実現することができる。また、このようなコンピュータシステムを、ローカルエリアネットワーク、広域エリアネットワーク(LAN/WAN)、又は、インターネット等の公衆回線を介して、他のコンピュータシステムやサーバ等の機器に接続して使用しても良い。この場合、実施の形態1〜4に係る画像処理装置は、これらのネットワークを介して管腔内画像の画像データを取得したり、これらのネットワークを介して接続された種々の出力機器(ビュアーやプリンタ等)に画像処理結果を出力したり、これらのネットワークを介して接続された記憶装置(記録媒体及びその読取装置等)に画像処理結果を格納するようにしても良い。
【0104】
なお、本発明は、実施の形態1〜4及びそれらの変形例に限定されるものではなく、各実施の形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明を形成できる。例えば、各実施の形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を除外して形成しても良いし、異なる実施の形態や変形例に示した構成要素を適宜組み合わせて形成しても良い。
【符号の説明】
【0105】
1〜4 画像処理装置
10 制御部
11 画像取得部
12 入力部
13 表示部
14 記録部
141 画像処理プログラム
15、20、30、40 演算部
16 残渣候補領域検出部
17 構造エッジ領域検出部
171 第1微分強度算出部
172 第2微分強度算出部
173 正規化処理部
174 閾値処理部
18 近似構造エッジ線算出部
181 ラベリング処理部
182 関数近似部
19、21、31 交差判定部
211 類似度算出部
311 角度差算出部
41 構造エッジ領域検出部
411 相似曲線算出部
412 エッジ位置検出部
413 連続性判定部
42 近似構造エッジ線算出部
421 関数近似部
100、200 管腔内画像
101、201 残渣候補領域
102〜104、110、205、206 構造エッジ
105、114 近似構造エッジ線
106 輪郭線
111 構造エッジ画素
112 直交ベクトル
113 重心位置
202〜204 管腔内画像上の周囲相似曲線
301〜303 特徴空間内の画素値曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管腔内画像に含まれる粘膜領域と非粘膜領域とを判別する画像処理装置において、
管腔内画像を構成する各画素の特徴量に基づいて、粘膜領域であるか否かの判別対象とする候補領域を検出する候補領域検出手段と、
前記管腔内画像に含まれる構造エッジを検出する構造エッジ検出手段と、
前記構造エッジと前記候補領域との相対的な位置関係に基づいて、前記候補領域が粘膜領域であるか否かを判別する領域判別手段と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記非粘膜領域は、前記粘膜領域に重なった残渣領域であることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記候補領域検出手段は、前記各画素の色特徴量に基づいて前記候補領域を検出することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記構造エッジ検出手段は、前記管腔内画像を構成する複数の色成分の内で、管腔内における吸光帯域から最も離れた1つの色成分を用いて前記構造エッジを検出することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記構造エッジ検出手段は、
前記各画素の第1の色成分を用いて各画素の第1の微分強度を算出する第1の微分強度算出手段と、
前記各画素の第2の色成分を用いて各画素の第2の微分強度を算出する第2の微分強度算出手段と、
前記第1及び第2の色成分の強度比に基づいて前記第2の微分強度を正規化する正規化手段と、
前記第1の微分強度及び正規化された前記第2の微分強度が共に所定の閾値以上である場合に、当該画素は構造エッジを表すと判別する閾値処理手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記構造エッジ検出手段は、前記候補領域を包囲する周囲の領域において前記構造エッジを検出することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記構造エッジ検出手段は、
前記候補領域の輪郭から等距離にある画素からなり、前記候補領域の輪郭と相似する形状を有する相似曲線であって、前記候補領域の輪郭からの距離が互いに異なる複数の相似曲線を算出する周囲相似曲線算出手段と、
前記複数の相似曲線におけるエッジ位置をそれぞれ検出するエッジ位置検出手段と、
前記複数の相似曲線の内で隣り合う相似曲線間におけるエッジ位置の連続性を判定する連続性判定手段と、
を備えることを特徴とする請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記領域判別手段は、
前記構造エッジの近似線である近似構造エッジ線を算出する近似構造エッジ線算出手段と、
前記近似構造エッジ線と前記候補領域が交差するか否かを判定する交差判定手段と、
を備え、
前記交差判定手段の判定結果に基づいて前記候補領域が粘膜領域であるか否かを判別することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記近似構造エッジ線算出手段は、前記候補領域近傍において検出された複数の前記構造エッジをラベリングし、ラベリングされた前記構造エッジの各々について近似構造エッジ線を算出することを特徴とする請求項8に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記近似構造エッジ線算出手段は、前記構造エッジを関数近似する関数近似手段を備えることを特徴とする請求項8に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記関数近似手段は、前記構造エッジ上に位置する画素における画素値の勾配方向に直交するベクトルを算出し、該ベクトルに基づいて関数近似を行うことを特徴とする請求項10に記載の画像処理装置。
【請求項12】
前記関数近似手段は、前記構造エッジ上に位置する画素における画素値に基づいてヘッセ行列の固有ベクトルを算出し、該固有ベクトルに基づいて関数近似を行うことを特徴とする請求項10に記載の画像処理装置。
【請求項13】
前記関数近似手段は、前記構造エッジ上に位置する画素の座標に基づいて関数近似を行うことを特徴とする請求項10に記載の画像処理装置。
【請求項14】
前記交差判定手段は、前記近似構造エッジ線と前記候補領域の輪郭線との座標が一致する位置において、前記輪郭線の法線と前記近似構造エッジ線とがなす角度に基づいて判定を行うことを特徴とする請求項8に記載の画像処理装置。
【請求項15】
前記領域判別手段は、前記候補領域の輪郭線と前記近似構造エッジ線との類似度を算出する類似度算出手段をさらに備え、前記類似度に基づいて前記候補領域が粘膜領域であるか否かを判別することを特徴とする請求項8に記載の画像処理装置。
【請求項16】
管腔内画像に含まれる粘膜領域と非粘膜領域とを判別する画像処理方法において、
管腔内画像における各画素の特徴量に基づいて、非粘膜領域の候補となる候補領域を検出する候補領域検出ステップと、
前記管腔内画像に含まれる構造エッジを検出する構造エッジ検出ステップと、
前記構造エッジと前記候補領域との相対的な位置関係に基づいて、前記候補領域が粘膜領域であるか否かを判別する領域判別ステップと、
を含むことを特徴とする画像処理方法。
【請求項17】
管腔内画像に含まれる粘膜領域と非粘膜領域とを判別する画像処理プログラムにおいて、
管腔内画像における各画素の特徴量に基づいて、非粘膜領域の候補となる候補領域を検出する候補領域検出手順と、
前記管腔内画像に含まれる構造エッジを検出する構造エッジ検出手順と、
前記構造エッジと前記候補領域との相対的な位置関係に基づいて、前記候補領域が粘膜領域であるか否かを判別する領域判別手順と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図12】
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【図15】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−143340(P2012−143340A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2984(P2011−2984)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】