説明

画像処理装置及びこれを備えた画像形成装置、画像処理方法

【課題】ブロック単位の処理により圧縮された画像データを伸張したときに発生する各種ノイズ(ブロックノイズ等)を除去、軽減し、伸張した画像データの画質を向上させる。
【解決手段】画像処理装置は、画素のブロック単位で圧縮処理された圧縮画像データの伸張処理を行う伸張処理部と、伸張処理部により伸張処理された画像データに対して、各ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときと、各ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うときとでは、係数の異なるフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うフィルター処理部と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮された画像データを伸張した際に生ずるノイズの除去、軽減を行う画像処理装置に関する。又、画像処理装置を備えた複合機、複写機、プリンター、FAX装置等の画像形成装置に関する。又、画像処理装置を使用する画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伝送するデータ量の削減や、必要な記憶容量の削減等の観点から、画像データに対して圧縮処理を行うことがある。そして、画像データの圧縮処理方式には、画像データを一定のブロック(例えば、8×8画素の領域)に分割し、ブロック単位で一部の周波数成分を除去し、不可逆に圧縮処理を行うものがある。このような圧縮を行う方式としては、例えば、JEPG方式が挙げられる。そして、圧縮レベルが強いほど(圧縮率が高いほど)、除去される情報量は多くなる。
【0003】
そのため、ブロック単位で圧縮処理がなされた圧縮画像データを伸張したとき、ブロックノイズやモスキートノイズと呼ばれるノイズが発生することがある。ブロックノイズは、隣接するブロック同士の濃度差が大きくなり、圧縮前の画像での濃度(階調)の変化の連続性(滑らかさ)が失われることで、ブロックの輪郭が目立つノイズである。モスキートノイズは、輪郭部分や色の変化の激しい部分で起こり、蚊の大群がまとわり付くように見えるノイズである。これらのノイズは、圧縮処理の圧縮レベルが強いほど、伸張処理した際に強く表れる。
【0004】
そして、ブロック単位で圧縮された圧縮画像データの伸張において発生するノイズを軽減する発明が特許文献1に記載されている。具体的に、特許文献1には、ブロック単位の圧縮処理結果を含む不可逆圧縮データの伸長画像に基づいて、同一ブロック内の複数画素について平滑化を行って第1低周波成分を求める第1手段と、伸長画像又は前記第1低周波成分に基づいて、複数ブロックに跨った領域の複数画素について少なくとも平滑化を行って第2低周波成分を求める第2手段と、伸長画像に対し、第1低周波成分を差し引くとともに、第2低周波成分を加えて、出力画像を求める第3手段と、を備えた画像処理装置が記載されている。この構成により、ブロックノイズやトーンジャンプといった画質劣化を低減しようとする(特許文献1:請求項2、段落[0060]等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−234907
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、JPEG方式では、画像データを一定のブロック(例えば、8×8画素)に分割する。そして、離散コサイン変換により、周波数成分に変換し、変換されたデータを量子化テーブルにより情報量を落としつつ量子化を行う。一般には、量子化テーブルでは、低周波数成分よりも高周波数成分の情報をより多く落とすように係数が定められる。
【0007】
一方、画像処理として、バイラテラルフィルターによる画像処理が知られている。バイラテラルフィルターによるフィルタリングでは、画像データでのエッジを保持しつつ平滑化を行える。例えば、画像データの圧縮率が比較的低ければ(例えば、JPEG方式のquality設定で100〜90程度)、バイラテラルフィルターの画像処理を画像データ全体に施すことでブロックノイズ等をかなり解消することができる。
【0008】
しかし、画像データの圧縮率が高くなれば(例えば、JPEG方式のquality設定で80以下)、単に1種類のフィルターを用いては、適切に伸張した画像データで適切にノイズを除去できないという問題がある。例えば、画像データの圧縮率が高いと、伸張したときに強いブロックノイズが画像データに含まれてしまい、バイラテラルフィルターの画像処理を施してもブロックノイズが明確に残ることがある。一方、ブロックの境界部分の濃度差を近づけてブロックノイズ除去するため、強い平滑化効果を有するように定められた係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うと、全体として平滑化されすぎて、返って画質が低下することがある。
【0009】
ここで、特許文献1記載の画像処理装置によれば、一種の平滑化処理を行うので、確かにブロックノイズ等を軽減することはある。しかし、特許文献1の図4に示すように、ブロック間の濃度差(画素値の差)を解消しきれていない。そのため、特許文献1記載の画像処理装置では、ブロックノイズが残りやすいという問題がある。又、特許文献1記載の画像処理装置では、画像データの全画素に対し同じ処理を行うので、もともとのエッジ部分に対して平滑化をしてしまい、かえってノイズが増えることもあり得るという問題もある。従って、特許文献1記載の発明はノイズ除去の点で不十分である。
【0010】
本発明は、上記問題点を鑑み、圧縮率を問わず、ブロック単位の処理により圧縮された画像データを伸張したときに発生するブロックノイズなどの各種ノイズを十分に除去、軽減し、伸張した画像データの画質を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために請求項1に係る画像処理装置は、画素のブロック単位で圧縮処理された圧縮画像データの伸張処理を行う伸張処理部と、前記伸張処理部により伸張処理された画像データに対して、各前記ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときと、各前記ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うときとでは、係数の異なるフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うフィルター処理部と、を含むこととした。
【0012】
この構成によれば、フィルター処理部は、伸張処理部により伸張処理された画像データに対して、各ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときと、各ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うときとでは、係数の異なるフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行う。これにより、ブロックノイズやモスキートノイズ等の伸張後の画像データでの各種ノイズが除去される。又、ブロックの境界に面する画素に対しては、隣接するブロックの画素を参照しつつ、ブロックの境界に面する画素用の係数を含むフィルターを用いた画像処理を行うことができる。一方、ブロックの境界に面しない画素(ブロック内の画素)に対しては、ブロック内の画素用の係数を含むフィルターを用いた画像処理を行うことができる。従って、バイラテラルフィルターの画像処理の効果を、ブロックの境界に面する画素と面しない画素で使い分け、ブロックの境界に面する(隣接する)画素と面しない画素で異なる内容の画像処理を行うことができる。
【0013】
又、請求項2に係る発明は、請求項1の発明において、前記フィルター処理部は、各前記ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うとき、各前記ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときよりも、積分効果の高い係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うこととした。
【0014】
この構成によれば、フィルター処理部は、各ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うとき、各ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときよりも、積分効果の高い係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行う。これにより、ブロックの境界に面する画素に対しては、隣接するブロックの画素との濃度差がより少なくなるように係数が定められたバイラテラルフィルターによる画像処理がなされる。従って、ブロックノイズを十分に除去、軽減することができる。一方、ブロックの境界に面しない画素に対しては、積分効果が抑えられたバイラテラルフィルターによる画像処理がなされるので、ノイズ軽減処理によりエッジがぼやけすぎるといった弊害や、積分効果が強すぎて、返って格子状の縞が現れるといった弊害の発生を抑えることができる。
【0015】
又、請求項3に係る発明は、請求項1又は2の発明において、前記フィルター処理部は、各前記ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うとき、前記圧縮画像データの圧縮レベルに応じて複数種のフィルターを使い分け、前記圧縮画像データの圧縮レベルが高くて圧縮率が高いほど、積分効果の高い係数を含むフィルターを用い、前記圧縮画像データの圧縮レベルが低くて圧縮率が低いほど、前記圧縮画像データの圧縮レベルが高くて圧縮率が高いときよりも積分効果の低い係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うこととした。
【0016】
この構成によれば、フィルター処理部は、各前記ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うとき、圧縮画像データの圧縮レベルに応じて複数種のフィルターを使い分け、圧縮画像データの圧縮レベルが高くて圧縮率が高いほど、積分効果の高い係数を含むフィルターを用い、圧縮画像データの圧縮レベルが低くて圧縮率が低いほど、圧縮画像データの圧縮レベルが高くて圧縮率が高いときよりも積分効果の低い係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行う。適切にノイズ除去を行うには、圧縮レベル(圧縮率)に応じて、フィルターの係数を変えるべきところ、これにより、ブロックノイズを確実、適切に消すことができる。従って、圧縮レベルに応じて、伸張された画像データに対して、適切なバイラテラルフィルターの画像処理を行うことができる。
【0017】
又、請求項4に係る画像形成装置は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の画像処理装置と、前記圧縮画像データを記憶する記憶部と、前記フィルター処理部が処理した伸張後の画像データに基づき印刷を行う画像形成部と、を含むこととした。
【0018】
この構成によれば、フィルター処理部が処理した伸張後の画像データに基づき印刷を行う画像形成部と、を含む。これにより、圧縮率を問わず、画像データを伸張したときに発生するノイズが十分に除去、軽減された画像データに基づき印刷が行われる。従って、印刷物での画質が高い画像形成装置を提供することができる。又、画質への問題がないので、高圧縮率で画像データを圧縮したうえで画像データを記憶部に記憶させることができ、記憶部の実質的な記憶容量を増やすことができる。
【0019】
又、請求項5に係る画像処理方法は、画素のブロック単位で圧縮処理された圧縮画像データの伸張処理を行い、伸張処理された画像データに対して、各前記ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときと、各前記ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うときとでは、係数の異なるフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うこととした。
【0020】
又、請求項6に係る発明は、請求項5の発明において、各前記ブロックの境界に面する画素を注目画素に対して画像処理を行うとき、各前記ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときよりも、積分効果の高い係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うこととした。
【0021】
又、請求項7に係る発明は、請求項5又は6の発明において、各前記ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うとき、前記圧縮画像データの圧縮レベルに応じて複数種のフィルターを使い分け、前記圧縮画像データの圧縮レベルが高くて圧縮率が高いほど、積分効果の高い係数を含むフィルターを用い、前記圧縮画像データの圧縮レベルが低くて圧縮率が低いほど、前記圧縮画像データの圧縮レベルが高くて圧縮率が高いときよりも積分効果の低い係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うこととした。
【0022】
請求項5〜7の発明は、請求項1〜3の発明を方法として捉えたものであり、請求項1〜3と同様の効果を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、圧縮画像データの圧縮率を問わず、画素の位置に応じて、バイラテラルフィルターの画像処理の内容を切り替え、ブロック単位の処理により圧縮された画像データを伸張したときに発生する各種ノイズ(特に、ブロックノイズ)を除去、軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】複合機の概略構成を示す模型的断面図である。
【図2】画像形成ユニットの拡大断面図である。
【図3】複合機のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【図4】複合機に入力された画像データを用いた印刷での処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図5】ブロックに分割された画像データの一例を示す説明図である。
【図6】(a)、(b)は、ブロックの境界に面さない画素を注目画素とするときのフィルターの一例を示す説明図である。
【図7】(a)、(b)は、ブロックの境界に面する画素を注目画素とするときのフィルターの一例を示す説明図である。
【図8】ノイズ除去処理を施していない伸張処理後の画像データの一例を示す説明図である。
【図9】従来のノイズ除去処理の一例を示す説明図である。
【図10】2種のバイラテラルフィルターの処理を使い分けたときのノイズ除去処理後の画像データの一例を示す説明図である。
【図11】バイラテラルフィルターによる処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図1〜図11を用いて、本発明の実施形態に係る画像処理装置100を含む画像形成装置を説明する。画像形成装置として複合機101を例に挙げて説明する。但し、本実施形態に記載されている構成、配置等の各要素は、発明の範囲を限定せず単なる説明例にすぎない。
【0026】
(画像形成装置の概略構成)
まず、図1及び2を用い、実施形態に係る画像形成装置(複合機101)の概略を説明する。図1は、複合機101の概略構成を示す模型的断面図である。図2は画像形成ユニット41の拡大断面図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の複合機101は、正面上部に操作パネル1を有する。又、操作パネル1は、液晶表示部11を備える。液晶表示部11は、複合機101の状態(例えば、エラー発生やモード)の表示を行う。又、液晶表示部11は、タッチパネル部を含み、表示した設定画面を押すことによるユーザからの各種の入力を受け付ける。操作パネル1は、ジョブの実行開始を指示するスタートキー12などのハードキーも含む。
【0028】
そして、複合機101は、上部に画像読取部2aや原稿搬送装置2bを備える。又、複合機101は、本体内に給紙部3a、搬送路3b、画像形成部4、中間転写部5a、定着部5b等を含む。
【0029】
原稿搬送装置2bは、原稿の複写時、複数のローラーの回転駆動により、原稿トレイ21に積載された原稿を1枚ずつ、自動的、連続的に、画像読取部2aの読み取り位置(送り読取用コンタクトガラス22)に向けて搬送する。画像読取部2aは原稿を読み取り、原稿の画像データを生成する。画像読取部2aの上面には、送り読取用コンタクトガラス22と載置読取用コンタクトガラス23が設けられ、画像読取部2a内には露光用のランプ、ミラー、レンズ、イメージセンサ(例えば、CCD、図4参照)等の光学系部材(いずれも不図示)が設けられる。
【0030】
そして、画像読取部2aは、これらの光学系部材を用い、原稿搬送装置2bが搬送する原稿や、コンタクトガラスに載置される原稿に光を照射し、その原稿の反射光を受けたイメージセンサの各画素の出力値をA/D変換して画像データを生成する。尚、本実施形態の画像読取部2aは、カラーで画像を読み取ることもできるし、白黒(グレースケール)での読み取りも可能である。
【0031】
複合機101では、読み取りで得られた画像データに基づいた印刷や送信を行うことができる(コピー機能や送信機能)。尚、図1の紙面奥側に設けられた支点により、原稿搬送装置2bは持ち上げ可能である。そして、載置読取用コンタクトガラス23に原稿を載置後、原稿搬送装置2bで原稿を押さえることができる。
【0032】
又、給紙部3aは、中間転写部5a等に向け、例えば、コピー用紙、再生紙、ラベル用紙等の各種各サイズ(A4等のA型用紙や、B型用紙や、レターサイズ等)の用紙を収容する。又、給紙部3aは、モータ等の駆動機構(不図示)により回転する給紙ローラー31で搬送路3bに1枚ずつ用紙を送り出す。そして、搬送路3bは、複合機101内で用紙を搬送し、給紙部3aから供給された用紙を中間転写部5a、定着部5bを経て排出トレイ32まで導く。搬送路3bには、搬送ローラー対33や、排出ローラー対34や、搬送経路に沿って設けられるガイド35や、及び搬送される用紙を中間転写部5aの手前で待機させ画像形成部4で形成されたトナー像の転写タイミングにあわせて用紙を送り出すレジストローラー対36等が設けられる。
【0033】
又、図1に示すように、複合機101は、形成すべき画像の画像データに基づき、トナー像を形成する部分として画像形成部4を備える。具体的に、画像形成部4は、図1の左側から、ブラックの画像を形成する画像形成ユニット41Bkと、イエローの画像を形成する画像形成ユニット41Yと、シアンの画像を形成する画像形成ユニット41Cと、マゼンタの画像を形成する画像形成ユニット41Mと、露光装置42等を備える。
【0034】
ここで、図2に基づき、各画像形成ユニット41Bk〜41Mを詳述する。尚、各画像形成ユニット41Bk〜41Mは、形成するトナー像の色が異なるだけで、いずれも基本的に同様の構成で、同様に説明できる。そこで、図2では1つの画像形成ユニット41のみ示し、以下の説明では、特に説明する場合を除き、各画像形成ユニット41の色の識別用の符号であるBk、Y、C、Mの符号は省略する。
【0035】
まず、各感光体ドラム43は、駆動装置(不図示)によって所定のプロセススピードで紙面反時計方向に回転駆動される。各帯電装置44は、感光体ドラム43を一定の電位に帯電させる。各画像形成ユニット41の下方の露光装置42は、入力されるカラー色分解された画像信号をレーザ出力部(不図示)にて光信号にそれぞれ変換し、変換された光信号であるレーザ光(破線で図示)を4色分出力可能であり、帯電後の感光体ドラム43の走査露光を行って、静電潜像を形成する。
【0036】
各現像装置45は、トナー等を含む現像剤を収納する(画像形成ユニット41Bkの現像装置45はブラック、画像形成ユニット41Yの現像装置45はイエロー、画像形成ユニット41Cの現像装置45はシアン、画像形成ユニット41Mの現像装置45はマゼンタの現像剤を収納する)。各現像装置45は、感光体ドラム43に対向し、画像形成時に感光体ドラム43にトナーを供給する。現像装置45から帯電したトナーが飛翔し、露光によって設けられた電位の大小に応じ感光体ドラム43表面に付着し、静電潜像がトナー像として現像される。尚、各清掃装置46は感光体ドラム43の清掃を行う。
【0037】
図1に戻り、説明を続ける。中間転写部5aは、感光体ドラム43からトナー像の1次転写を受け、用紙に2次転写を行う。中間転写部5aは、感光体ドラム43の1本に応じて、1本設けられる各1次転写ローラー51(51Bk〜51Mの計4本)、中間転写ベルト52、駆動ローラー53、従動ローラー54a、54b、54c、2次転写ローラー55、ベルト清掃装置56等を含む。各1次転写ローラー51と対応する各感光体ドラム43は、無端状の中間転写ベルト52を挟み込む。そして、転写用の電圧が各1次転写ローラー51に印加される。そして、トナー像は、順次、ずれなく重畳されつつ中間転写ベルト52に転写される。
【0038】
中間転写ベルト52は、各1次転写ローラー51の他、駆動ローラー53、従動ローラー54a〜54cに張架される。そして、駆動ローラー53の回転駆動により、中間転写ベルト52は、図1の紙面時計方向に周回する。又、駆動ローラー53と2次転写ローラー55は、中間転写ベルト52を挟み込む。そして、所定の転写用の電圧が2次転写ローラー55に印加される。これにより、各色重ね合わされた中間転写ベルト52上のトナー像は、中間転写ベルト52から用紙に転写される。尚、2次転写後の中間転写ベルト52上の残トナー等は、ベルト清掃装置56で除去されて回収される。
【0039】
定着部5bは、用紙搬送方向の下流側に配され、用紙に2次転写されたトナー像を加熱・加圧して定着させる。そして、定着部5bは主として発熱源を内蔵する加熱ローラー57とこれに圧接される加圧ローラー58とで構成される。両ローラー間にニップが形成され、ニップを通過することにより、トナー像を転写された用紙は、加熱・加圧される。その結果、トナー像が用紙に定着する。尚、定着後の用紙は、排出トレイ32に排出され画像形成が完了する。
【0040】
(複合機101のハードウェア構成)
次に、図3に基づき、実施形態に係る複合機101のハードウェア構成を説明する。図3は、複合機101のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0041】
まず、本実施形態の複合機101は、内部に主制御部6を有する。主制御部6は、装置全体の動作を統括し、複合機101の各部の制御を司る。そして、主制御部6には、例えば、中央演算処理装置としてのCPU61が含まれる。CPU61は、後述のROM62やRAM63やHDD64内のデータやプログラムを利用して複合機101を制御する。
【0042】
そして、ROM62、RAM63、HDD64などを含む記憶部65が、バス等で主制御部6と通信可能に接続される。ROM62は、電源がオフしても記憶内容が保持される不揮発性メモリーである。ROM62は、CPU61が制御のため実行するプログラムや、起動時プログラムや、装置固有の各種パラメータなどの各種制御用の固定データを記憶する。RAM63は、CPU61が制御の際に実行するプログラムや、各種データを一時的に記憶する。HDD64は、制御用のデータやプログラムのほか、画像データを記憶できる(詳細は後述)。
【0043】
又、複合機101は、外部との通信を行う通信部66を含む。例えば、通信部66は、外部のコンピューター200と、ネットワークやケーブルで接続して通信可能に接続される。又、通信部66は、公衆回線等を通じて外部のFAX装置300と通信可能である。そのため、通信部66は、複合機101とコンピューター200やFAX装置300間で通信を行うためのコネクタ、回路、通信制御用のコントローラー、チップやモデム等を含む。複合機101は、通信部66を介してコンピューター200やFAX装置300等から画像データや印刷の設定データを含む印刷用データを受け、印刷を行うことができる(プリンター機能、FAX機能)。あるいは、複合機101は、通信部66を介してコンピューター200やFAX装置300に画像データを送信することもできる(送信機能)。
【0044】
又、エンジン制御部40が主制御部6に通信可能に接続される。エンジン制御部40は、用紙搬送やトナー像形成等、印刷を実際に制御する。主制御部6は、エンジン制御部40に指示を与える。この指示を受け、エンジン制御部40は、用紙搬送や画像形成で用いる各種回転体(搬送ローラー対33や感光体ドラム43等)を回転させ、トナー像を形成させる。例えば、エンジン制御部40は、給紙部3a、搬送路3b、画像形成部4、中間転写部5a、定着部5bを制御する。
【0045】
又、主制御部6は、バスや通信線等により操作パネル1とも通信可能に接続される。そして、操作パネル1になされた設定内容を示すデータは、主制御部6に送られる。主制御部6は、使用者の設定どおりに複合機101が動作するように制御する。
【0046】
又、複合機101は、画像処理部7と通信可能に接続される。画像処理部7は、画像読取部2aでの読み取りで得られた画像データや通信部66で受信した画像データに対して画像処理を行う。画像処理部7は、例えば、画像処理専用の回路としてのASIC71や画像処理用の作業領域としてのワークメモリー72や、画像処理に関するプログラムや設定データを記憶する画像処理メモリー73等を含む。例えば、画像処理部7は、濃度変更や、拡大縮小(ズーム)や、フィルター処理等の各種画像処理を画像データに施す。
【0047】
又、画像処理部7には、画像データに対して圧縮処理を行う圧縮処理部74や、圧縮した画像データの伸長処理を行う伸張処理部8や、伸張処理した画像データに含まれるノイズを除去するフィルター処理部9等が含まれる。尚、圧縮処理部74や伸張処理部8やフィルター処理部9は、ASIC71やプログラム等により、機能的(ソフトウェア的)に実現されても良い。このように、複合機101には、画像処理を行う伸張処理部8やフィルター処理部9を含む画像処理部7が設けられる。従って、複合機101は、本発明に係る画像処理装置100を含む。(図3に画像処理装置100の一例を破線で図示)。
【0048】
(画像データの入力と印刷までの基本的な流れ)
次に、図3、図4に基づき、実施形態に係る複合機101への画像データの入力と処理の流れの一例を説明する。図4は、複合機101に入力された画像データを用いた印刷での処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0049】
図4のフローチャートのスタートは、例えば、複合機101に対して、データが入力される時点である。例えば、画像読取部2aを用いた原稿読み取りでは、操作パネル1でスタートキー12がおされ、原稿の読み取りが開始される時点である。又、例えば、通信部66がコンピューター200などから印刷用データの受信を開始する時点である。
【0050】
そして、複合機101に対して、データ入力が行われる(ステップ♯1)。例えば、画像読取部2aを用いた原稿読み取りでは、主制御部6は、画像読取部2aに読み取りを行わせ、原稿の画像データを生成させる。又、通信部66は、主制御部6の制御の下、例えば、コンピューター200や相手方FAX装置300から画像データを含む印刷用データを受信する。
【0051】
例えば、主制御部6は、読み取りで得られた原稿の画像データや通信部66が受信した印刷用データ中の画像データを、一旦、記憶部65のRAM63などに蓄積させる(ステップ♯2)。この記憶部65への蓄積に伴い、画像処理部7は、印刷用データ中のデータを複合機101で扱える形式に変換する処理を行っても良いし、画像読取部2aの原稿読み取りで得られた画像データの補正処理などを行ってもよい。又、画像処理部7は、操作パネル1でなされた設定や印刷用データに含まれる設定に沿って、例えば、ズームや濃度変換等の画像処理を行ってもよい。
【0052】
そして、記憶部65に蓄積された画像データに対し、圧縮処理部74が圧縮処理を行う(ステップ♯3)。圧縮処理部74は、記憶部65から画像データを受け取り、圧縮処理を行う。尚、通信部66が受信したデータに含まれる画像データが既に圧縮されているものであれば、圧縮処理部74は圧縮処理を行う必要はない。
【0053】
本実施形態の圧縮処理部74は、例えば、JPEG方式の圧縮処理を行う。例えば、圧縮処理部74は、画像データを固定のブロック(例えば、8×8画素)に分割し、ブロック単位で離散コサイン変換(DCT:Discrete Cosine Transform)処理を行う、続いて、圧縮処理部74は、量子化テーブルを用いて量子化を行う。そして、例えば、圧縮処理部74は、ハフマン符号による符号化を行って、画像データを圧縮する。
【0054】
又、圧縮処理部74は、JPEG方式のquality設定において、複数種のquality設定に応じた画像データの圧縮処理を行える。例えば、圧縮処理部74は、90、75、50といったJPEG方式のquality設定で圧縮処理を行える。言い換えると、圧縮処理部74は、複数の圧縮レベル(圧縮率)で圧縮を行うことができる。いずれの圧縮レベル(qualityの設定値)で圧縮を行うかは、操作パネル1で設定可能としてもよい。あるいは、圧縮前の画像データのサイズに合わせて、圧縮処理部74が自動的に圧縮レベルを判断してもよい(例えば、圧縮前の画像データのサイズが大きいほど、圧縮レベルを高くして高圧縮率とする)。
【0055】
圧縮処理部74が圧縮した画像データ(圧縮画像データ)は、一時的または長期間、記憶部65に蓄積される(ステップ♯4)。例えば、圧縮画像データは、記憶部65のRAM63に格納された後、記憶部65のHDD64に格納される。このように、画像データを圧縮して扱うので、画像データの記憶や読み出しの処理速度が向上する。
【0056】
そして、印刷を行うため、伸張処理部8は、記憶部65に蓄積された圧縮画像データの伸張処理を行う(ステップ♯5)。伸張処理部8は、例えば、圧縮処理部74が行った処理を逆の順序で実行して伸張処理を行う。
【0057】
例えば、コピーやプリンターとしての印刷のとき、記憶部65に圧縮画像データが蓄積された後、画像形成部4で印刷可能であれば、伸張処理部8は、直ちに圧縮画像データを記憶部65から読み出して伸張処理を行う。この場合、圧縮画像データの記憶部65への記憶は、一時的である。一方、本実施形態の複合機101では、記憶部65のHDD64に画像データを蓄えておき、操作パネル1に対して操作を行うことで、記憶部65のHDD64に蓄積された画像データを後日印刷することができる(再利用)。この場合、圧縮画像データの記憶部65への記憶は、コピーのときに比べ、長くなる。
【0058】
尚、画像データを通信部66からコンピューター200などに送信するときでは、伸張処理部8は、圧縮画像データの伸張を行う必要は必ずしもなく、通信部66は、圧縮画像データのまま送信を行っても良い(FAXのときは、FAX規格に合わせたデータの符号化のため、圧縮画像データの伸張がなされる)。
【0059】
次に、フィルター処理部9は、伸張処理部8により伸張処理された画像データのノイズを除去するためのフィルター処理を行う(ステップ♯6)。フィルター処理部9は、例えば、画像データに対して、バイラテラルフィルターの画像処理を行う(詳細は後述)。
【0060】
そして、フィルター処理部9が処理した画像データに基づいて、主制御部6は、エンジン制御部40に指示して印刷を行わせる(ステップ♯7)。具体的には、フィルター処理部9が処理した画像データは、画像処理部7内で、露光装置42に供給するための画像処理が行われた後、露光装置42に向けて送信される。露光装置42は、フィルター処理部9に処理された画像データに基づいて感光体ドラム43の走査、露光を行う。
【0061】
(バイラテラルフィルターによる画像処理)
次に、図5〜図7を用いて、本実施形態のフィルター処理部9が行う処理の一例を説明する。図5は、ブロックに分割された画像データの一例を示す説明図である。図6(a)、(b)は、ブロックの境界に面さない画素を注目画素とするときのフィルターの一例を示す説明図である。図7(a)、(b)は、ブロックの境界に面する画素を注目画素とするときのフィルターの一例を示す説明図である。
【0062】
まず、バイラテラルフィルターのフィルター処理の概要を数式1〜数式3を用いて説明する。
【0063】
【数1】

【0064】
まず、数式1は、バイラテラルフィルターの基本式である。基本式中のg(i,j)は、注目画素のフィルター処理後の画素値を示す。f(i,j)は、注目画素のフィルター処理前の画素値を示す。mとnは、注目画素を原点として参照画素までの座標(距離)を示すための値である。f(i+m,j+n)は、参照画素のフィルター処理前の画素値を示す。σ1、σ2はバイラテラルフィルターの効果を定めるパラメータとして機能する値である。尚、数式1中の分母は、足し合わせた値を割って正規化するための計算式である。
【0065】
【数2】

【0066】
数式1に含まれる数式2は、注目画素と参照画素の位置に基づいた重み付けを行うための式である。この式からわかるように、距離が離れるほど分子の値が大きくなり、その結果、数式2の値は小さくなる。従って、注目画素に近い画素ほど大きい評価となる。
【0067】
【数3】

【0068】
数式1に含まれる数式3は、注目画素と参照画素の画素値の差に基づいた重み付けを行うための式である。このように、バイラテラルフィルターでは、画素間の距離と画素間の画素値が考慮して処理が行われる。これにより、エッジを保存しつつ平滑化を行える。
【0069】
そして、本実施形態のフィルター処理部9は、伸張処理部8により伸張された画像データに含まれる各画素に対して、それぞれバイラテラルフィルターの画像処理を施す。そこで、図5を用いて、本実施形態のバイラテラルフィルターによる処理を説明する。
【0070】
まず、図5は、画像データの一部を模式的に示したものである。図5での「b」又は「c」の文字が入れられたマス目は、1つの画素を示す。そして、図5での太線は、圧縮処理や伸張処理での単位としてのブロックの境界を示す。そして、図5は、1つのブロックには、8画素×8画素(計64個)の画素が含まれる例を示している。尚、1つのブロックは、16画素×16画素とされることもある。
【0071】
そして、図5に示すように、ブロックとブロックの境界に位置しない画素(境界に面する画素の内側の画素)には、「b」の記号が付されている。この「b」の符号は、ブロックとブロックの境界に位置しない画素用のフィルターを用いて画像処理を行う画素であることを示している。言い換えると、フィルター処理部9は、境界に面しない画素を注目画素としてバイラテラルフィルターの処理を行うとき、境界に面しない画素用の係数を含むフィルターを用いて画像処理(画素値の変換処理)を行う。
【0072】
一方、図5に示すように、ブロックとブロックの境界に位置する画素(境界に面する画素)には、「c」の記号が付されている。この「c」の符号は、ブロックとブロックの境界に位置する画素用のフィルターを用いて画像処理を行う画素であることを示している。言い換えると、フィルター処理部9は、境界に面する画素を注目画素としてバイラテラルフィルターの処理を行うとき、境界に面する画素用の係数を含むフィルターを用いて画像処理(画素値の変換処理)を行う。
【0073】
例えば、画像処理メモリー73(記憶部65などでもよい)は、これらの境界に面する画素用のフィルターや境界に面しない画素用のフィルターを記憶する。そして、フィルター処理部9は、画像処理メモリー73等に記憶されたフィルターを読み出して、伸張後の画像データに対してバイラテラルフィルターの画像処理(フィルタリング)を行う。
【0074】
そして、図6(a)、(b)は、ブロックの境界に面さない画素を注目画素とするときのフィルターの一例を示している。本実施形態では、フィルター処理部9は、ブロックの境界に面さない画素を注目画素とし、注目画素を中心として、3画素×3画素の範囲を対象としたフィルターを用いてバイラテラルフィルターの処理を行う。そして、図6(a)は、バイラテラルフィルターの係数を「b」を頭文字とした変数で示したものである(図5の各画素の「b」の文字に対応)。
【0075】
一方、図6(b)は、フィルター処理部9が、ブロックの境界に面さない画素を注目画素としてバイラテラルフィルター処理を行うときのフィルターの一例を示している。図6(b)に示すように、境界に面さない画素用のフィルターでは、注目画素から離れるほど係数が小さくされる。
【0076】
又、図7(a)、(b)は、ブロックの境界に面する画素を注目画素とするときのフィルターの一例を示している。本実施形態では、フィルター処理部9は、ブロックの境界に面する画素を注目画素とし、注目画素を中心として、3画素×3画素の範囲を対象としたフィルターを用いてバイラテラルフィルターの処理を行う。そして、図7(a)は、バイラテラルフィルターの係数を「c」を頭文字とした変数で示したものである(図5の各画素の「c」の文字に対応)。
【0077】
一方、図7(b)は、フィルター処理部9が、ブロックの境界に面する画素を注目画素としてバイラテラルフィルター処理を行うときのフィルターの一例を示している。図7(b)に示す境界に面する画素用のフィルターも、注目画素から離れるほど係数が小さくなる。
【0078】
そして、図6(b)と図7(b)を比較すると、ブロックの境界に面する画素用のフィルターの方が、係数が大きくされる。そのため、参照画素の係数は、注目画素の係数に近づく。これにより、変換後の画素値には、参照画素の影響が強く表れることになる。言い換えると、参照画素の係数を注目画素の係数に向けて大きくしたフィルターは、例えば、フィルター内の係数が全て同じであるような単純な平滑化フィルターに近づく。
【0079】
そのため、図7(b)のフィルターの方が、図6(b)に示すフィルターよりも積分効果(平滑化効果)が強くなる。そして、図7(b)のフィルターは、ブロックの境界に面する画素を注目画素とするとき用いられる。そのため、ブロックの境界に面する画素を注目画素としたバイラテラルフィルターによる画像処理は、ブロックの境界に面しない画素を注目画素としたバイラテラルフィルターによる画像処理のよりも、意図的に強くされた積分効果(平滑化効果)を有する。
【0080】
これにより、境界を挟んだ画素間での濃度差が縮められる。従って、圧縮率が高くても、フィルター処理部9は、伸張後の画像データから効率的にブロックノイズを除去することができる。又、ブロックの境界に面さない画素に対しては、フィルター処理部9は、ブロックの境界に位置する画素よりも積分効果を弱め、エッジ保持を図りつつ、伸張後の画像データからモスキートノイズ等のノイズを除去する。
【0081】
尚、圧縮画像データの圧縮レベル(JPEGでのquality設定、圧縮率)によって、発生するブロックノイズの強さに差が生ずる。例えば、圧縮レベルが高いとき(高い圧縮率。例えば、JPEGでのquality設定の50)の方が、圧縮レベルが低いとき(低い圧縮率。例えば、JPEGでのquality設定の90)よりも、強いブロックノイズが発生しやすい。
【0082】
そこで、ブロックの境界に面した画素用のフィルターであって、係数の異なるフィルターを複数用意し、画像処理メモリー73に記憶させておく。例えば、圧縮レベルが高いほど、積分効果を強めた係数を含むフィルターとする。又、圧縮レベルが低いほど、積分効果を弱めた係数を含むフィルターとする。そして、フィルター処理部9は、圧縮画像データの圧縮レベルに応じて、バイラテラルフィルターの処理で使用するフィルターを切り替えても良い。
【0083】
ここで、図5と図7(b)を用いて、バイラテラルフィルターの画像処理での演算の一例を説明する。そして、図5に示すように、ブロック内での左上隅の画素を注目画素とする例を説明する。尚、図5では、注目画素を横線網掛で示し、注目画素の周囲の参照画素を斜線網掛で示している。
【0084】
そして、図5に示すように、フィルター処理部9は、注目画素を中心とし、周囲の画素を参照画素として、3画素×3画素の領域を、フィルター処理を行う領域とする。そして、便宜上、図5に示すように、3画素×3画素の領域のうち、注目画素をa12とし、参照画素をa01、a02、a03、a11、a13、a21、a22、a23として説明する。そして、ブロック内での左上隅の画素は、ブロックの境界に面する。そこで、フィルター処理部9は、ブロックの境界に面する画素用の係数を有するフィルターを用いてバイラテラルフィルターの処理を行う(例えば、図7(b)のフィルター)。
【0085】
まず、バイラテラルフィルターの処理において、数式1での分子部分についての演算式(演算内容)は以下のようにとなる。
分子部分=a01×c01×d01+a02×c02×d02+a03×c03×d03+a11×c11×d11+a12×c12×d12++a13×c13×d13+a21×c21×d21+a22×c22×d22+a23×c23×d23
【0086】
上記の演算式に示すように、フィルター処理部9は、伸張した画像データでの3画素×3画素の領域に含まれる画素について、それぞれ対応する位置のフィルターの係数を乗じたものの総和を求める。
【0087】
分子部分でのc01〜c23は、フィルターの各係数である。又、d01、d02、d03、d11、d12、d13、d21、d22、d23は、数式3に対応する演算結果である。言い換えると、注目画素と参照画素の画素値の差に基づき算出される係数である。例えば、画像処理メモリー73は、注目画素と参照画素の画素値の差に基づいた数式3の計算結果に対応する値を格納したテーブルが記憶される。例えば、画素値が0〜255(8ビット)の値を取るならば、画素値の差のパターンは、256通りある。そこで、画像処理メモリー73は、画素値の差のパターンの数だけ、数式3の演算結果に基づく各値を格納したテーブルを記憶してもよい。
【0088】
ここで、テーブルに格納される各値は、数式3の計算結果により得られた値そのものである必要はない。例えば、バイラテラルフィルターでの演算では、注目画素の画素値から注目画素の画素値を引く演算も含まれる。そうすると、a12×c12×d12の式は必ず0になる。そこで、画素値の差に一定の値(例えば、255)を加算して、数式3に基づく計算を行って得られた値をテーブルに格納してもよい。又、小数点以下を含む演算を避ける等の目的で、画素値の差に応じて得られた数式3の各計算結果に定数を乗じた値をテーブルに格納してもよい。そして、フィルター処理部9は、演算時間の短縮のため、比較する画素の画素値の差に応じて予め定められたテーブルから値を読み出し、d01〜d23に代入して、総和を求める。
【0089】
一方、バイラテラルフィルターでの数式1での分母部分についての演算式は以下のようにとなる。
分母部分=c01×d01+c02×d02+c03×d03+c11×d11+c12×d12+c13×d13+c21×d21+c22×d22+c23×d23
【0090】
尚、分母部分でのc01〜c23は、フィルターの各係数である。又、d01〜d23は、分子部分での説明と同様である。そして、フィルター処理部9は、分子部分の演算結果を分母部分の演算結果で除して、注目画素の画素値を変換する。
【0091】
(2種のバイラテラルフィルターの使い分けの効果)
次に、図8〜図10を用いて、本実施形態の画像処理装置100の特徴である2種のバイラテラルフィルター処理の使い分けの効果を説明する。図8は、ノイズ除去処理を施していない伸張処理後の画像データの一例を示す説明図である。図9は、従来のノイズ除去処理の一例を示す説明図である。図10は、2種のバイラテラルフィルターの処理を使い分けたときのノイズ除去処理後の画像データの一例を示す説明図である。
【0092】
尚、図8〜図10では、なだらかな濃度変化のある画像(例えば、写真)を圧縮処理した後、伸張したときの画像の一例を左側に示す。又、文字やグラフ線、斜線、罫線のある画像(例えば、文書やグラフ)を圧縮処理した後、伸張したときの画像の一部の一例を右側に示す。
【0093】
まず、JPEG方式のようなブロック単位で圧縮処理がなされた圧縮画像データを伸張したとき、何ら処理を行わなければ、図8の左側の画像で示すようにブロックノイズやモスキートノイズが明確に現れてしまうことがある。圧縮画像データの圧縮率が高ければ高いほど(圧縮レベルが強いほど)、伸張したときブロックノイズは明確に現れる。
【0094】
このようなブロックノイズ低減のため、従来、ブロック周辺画素(ブロックの境界に面する画素や境界に面する画素に面する画素等)に対して積分フィルター(平滑化フィルター)による平滑化処理を行ってブロックノイズを除去することがあった。図9に示すように、この平滑化フィルターによるブロックノイズの除去処理により、写真のような画像では、ブロックノイズは軽減される。
【0095】
しかし、文字や罫線等の濃淡の差が激しい(エッジが多い)画像では、単に積分フィルターを用いた平滑化処理を行うと、フィルター処理が行われた画素の画素値がグレーとなりやすい。そのため、図9に示すように、返ってグレーの格子状の模様が現れてしまうことがある。従って、積分フィルターを用いてブロックノイズを適切に除去できるか否かは、除去処理を行う対象の画像の性質によるところが大きく、場合により、新たなノイズを生む可能性がある。
【0096】
そこで、本実施形態のフィルター処理部9は、ブロックの境界に面する画素と境界に面さない画素で、バイラテラルフィルターによる画像処理内容(フィルターの係数)を変化させる。これにより、フィルター処理部9は、ブロックの境界に面する画素では、隣接するブロックの画素との濃度差を緩和してブロックノイズを軽減する。又、フィルター処理部9は、ブロックの境界に面しない画素では、ブロックの境界に面する画素よりも積分効果(平滑化効果)の弱い係数を有するフィルターを用いて、エッジ部分が崩れるようなバイラテラルフィルターの画像処理が行われることを防ぐ。これにより、図10に示すように、写真、文書、グラフといった画像データの内容(性質)を問わず、伸張後の画像データから適切にノイズを除去することができる。
【0097】
(バイラテラルフィルター処理の流れ)
次に、図11を用いて、本実施形態の画像処理装置100でのバイラテラルフィルターによる処理の流れの一例を説明する。図11は、バイラテラルフィルターによる処理の流れの一例を示すフローチャートである。尚、図11は、1ページ分の画像データに対するバイラテラルフィルターによる処理の流れを示す。
【0098】
図11のスタートは、圧縮画像データが伸張され、フィルター処理部9が伸張された画像データに基づきフィルター処理を開始する時点である(図4のステップ♯6)。
【0099】
まず、フィルター処理部9は、注目画素がブロックの境界に面する画素であるか否かを確認する(ステップ♯11)。もし、ブロックの境界に面する画素であれば(ステップ♯11のYes)、フィルター処理部9は、境界に面する画素用の係数を含むフィルターを画像処理メモリー73から読み出す(ステップ♯12)。これにより、バイラテラルフィルターの画像処理で、積分効果が強められたフィルターがセットされることになる。
【0100】
このフィルターのセットのとき、上述したように、フィルター処理部9は、予め用意された(画像処理メモリー73に記憶された)複数種のフィルターのうち、圧縮画像データの圧縮レベルに対応した境界に面する画素用の係数を含むフィルターを選択したうえで、フィルターをセットしてもよい。
【0101】
一方、ブロックの境界に面する画素でなければ(ステップ♯11のNo)、フィルター処理部9は、境界に面さない画素用の係数を含むフィルターを画像処理メモリー73から読み出す(ステップ♯13)。そして、フィルター処理部9は、セットされたフィルターに応じて、バイラテラルフィルター処理を行う(ステップ♯14)。処理結果は、例えば、画像処理部7のワークメモリー72に書き込まれる。
【0102】
次に、フィルター処理部9は、1ページの全ての画素にバイラテラルフィルターによる画像処理を行ったか否かを確認する(ステップ♯15)。もし、全画素に対するフィルター処理を完了していれば(ステップ♯15のYes)、フィルター処理部9は、処理を完了し(ステップ♯16)、フローは終了する(エンド)。
【0103】
一方、もし、全画素に対してバイラテラルフィルター処理を完了していなければ(ステップ♯15のNo)、予め定められた順序に沿って、フィルター処理部9は、次の注目画素を設定する(ステップ♯17)。そして、フローは、ステップ♯11に戻る。
【0104】
このようにして、本実施形態の画像処理装置100は、画素のブロック単位で圧縮処理された圧縮画像データの伸張処理を行う伸張処理部8と、伸張処理部8により伸張処理された画像データに対して、各ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときと、各ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うときとでは、係数の異なるフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うフィルター処理部9と、を含む。
【0105】
又、本実施形態の画像処理方法は、画素のブロック単位で圧縮処理された圧縮画像データの伸張処理を行い、伸張処理された画像データに対して、各ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときと、各ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うときとでは、係数の異なるフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行う。
【0106】
これら画像処理装置100、画像処理方法によれば、ブロックノイズやモスキートノイズ等の伸張後の画像データでの各種ノイズが除去される。又、ブロックの境界に面する画素に対しては、隣接するブロックの画素を参照しつつ、ブロックの境界に面する画素用の係数を含むフィルターを用いた画像処理を行うことができる。一方、ブロックの境界に面しない画素(ブロック内の画素)に対しては、ブロック内の画素用の係数を含むフィルターを用いた画像処理を行うことができる。従って、バイラテラルフィルターの画像処理の効果を、ブロックの境界に面する画素と面しない画素で使い分け、ブロックの境界に面する(隣接する)画素と面しない画素で異なる内容の画像処理を行うことができる。
【0107】
又、本実施形態の画像処理装置100のフィルター処理部9は、各ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うとき、各ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときよりも、積分効果の高い係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行う。同様に、本実施形態の画像処理方法では、各ブロックの境界に面する画素を注目画素に対して画像処理を行うとき、各ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときよりも、積分効果の高い係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行う。
【0108】
これら画像処理装置100、画像処理方法によれば、ブロックの境界に面する画素に対しては、隣接するブロックの画素との濃度差がより少なくなるように係数が定められたバイラテラルフィルターによる画像処理がなされる。従って、ブロックノイズを十分に除去、軽減することができる。一方、ブロックの境界に面しない画素に対しては、積分効果が抑えられたバイラテラルフィルターによる画像処理がなされるので、ノイズ軽減処理によりエッジがぼやけすぎるといった弊害や、積分効果が強すぎて、返って格子状の縞が現れるといった弊害の発生を抑えることができる。
【0109】
又、本実施形態の画像処理装置100のフィルター処理部9は、各ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うとき、圧縮画像データの圧縮レベルに応じて複数種のフィルターを使い分け、圧縮画像データの圧縮レベルが高くて圧縮率が高いほど、積分効果の高い係数を含むフィルターを用い、圧縮画像データの圧縮レベルが低くて圧縮率が低いほど、圧縮画像データの圧縮レベルが高くて圧縮率が高いときよりも積分効果の低い係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行う。同様に、本実施形態の画像処理方法では、各ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うとき、圧縮画像データの圧縮レベルに応じて複数種のフィルターを使い分け、圧縮画像データの圧縮レベルが高くて圧縮率が高いほど、積分効果の高い係数を含むフィルターを用い、圧縮画像データの圧縮レベルが低くて圧縮率が低いほど、圧縮画像データの圧縮レベルが高くて圧縮率が高いときよりも積分効果の低い係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行う。
【0110】
これら画像処理装置100、画像処理方法によれば、ブロックノイズを確実、適切に消すことができる。従って、圧縮レベルに応じて、伸張された画像データに対して、適切なバイラテラルフィルターの画像処理を行うことができる。
【0111】
又、本実施形態の画像形成装置(例えば、複合機101)は、上述の画像処理装置100と、圧縮画像データを記憶する記憶部65と、フィルター処理部9が処理した伸張後の画像データに基づき印刷を行う画像形成部4と、を含む。これにより、圧縮率を問わず、画像データを伸張したときに発生するノイズが十分に除去、軽減された画像データに基づき印刷が行われる。従って、印刷物での画質が高い画像形成装置を提供することができる。又、画質への問題がないので、高圧縮率で画像データを圧縮したうえで画像データを記憶部65に記憶させることができ、記憶部65の実質的な記憶容量を増やすことができる。
【0112】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、伸張後の画像データに画像処理を行う画像処理装置や、この画像処理装置を含む複合機、複写機、ファクシミリ、プリンターといった画像形成装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0114】
4 画像形成部
65 記憶部
8 伸張処理部
9 フィルター処理部
100 画像処理装置
101 複合機(画像形成装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素のブロック単位で圧縮処理された圧縮画像データの伸張処理を行う伸張処理部と、
前記伸張処理部により伸張処理された画像データに対して、各前記ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときと、各前記ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うときとでは、係数の異なるフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うフィルター処理部と、を含むことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記フィルター処理部は、各前記ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うとき、各前記ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときよりも、積分効果の高い係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うことを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記フィルター処理部は、各前記ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うとき、前記圧縮画像データの圧縮レベルに応じて複数種のフィルターを使い分け、前記圧縮画像データの圧縮レベルが高くて圧縮率が高いほど、積分効果の高い係数を含むフィルターを用い、前記圧縮画像データの圧縮レベルが低くて圧縮率が低いほど、前記圧縮画像データの圧縮レベルが高くて圧縮率が高いときよりも積分効果の低い係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の画像処理装置と、
前記圧縮画像データを記憶する記憶部と、
前記フィルター処理部が処理した伸張後の画像データに基づき印刷を行う画像形成部と、を含むことを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
画素のブロック単位で圧縮処理された圧縮画像データの伸張処理を行い、
伸張処理された画像データに対して、各前記ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときと、各前記ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うときとでは、係数の異なるフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うことを特徴とする画像処理方法。
【請求項6】
各前記ブロックの境界に面する画素を注目画素に対して画像処理を行うとき、各前記ブロックの境界に面さない画素を注目画素として画像処理を行うときよりも、積分効果の高い係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うことを特徴とする請求項5記載の画像処理方法。
【請求項7】
各前記ブロックの境界に面する画素を注目画素として画像処理を行うとき、前記圧縮画像データの圧縮レベルに応じて複数種のフィルターを使い分け、
前記圧縮画像データの圧縮レベルが高くて圧縮率が高いほど、積分効果の高い係数を含むフィルターを用い、前記圧縮画像データの圧縮レベルが低くて圧縮率が低いほど、前記圧縮画像データの圧縮レベルが高くて圧縮率が高いときよりも積分効果の低い係数を含むフィルターを用いて、バイラテラルフィルターによる画像処理を行うことを特徴とする請求項5又は6に記載の画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図11】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−38479(P2013−38479A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170710(P2011−170710)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】