説明

画像処理装置

【課題】TDI型検出器において発生する解像度の低下を空間フィルタ処理により最適な条件で補正する。
【解決手段】時間遅延による電荷の積分機能をもち、時間的に変化する複数の画素により同一地点を撮像するTDI型検出器1と、TDI型検出器1のTDI動作の切り替えや制御を行うTDI制御部2と、TDI制御部2からの制御データに基づいて、TDI型検出器1において撮像した画像データの各座標の画素値の補正処理を行うことにより、当該画像データに発生したTDI動作に起因する解像度の低下を補正する空間フィルタ処理部3とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像処理装置に関し、時間遅延による電荷の積分機能をもつTDI型検出器を備えた光学センサに対して解像度を改善するための画像処理装置に関するもので、特に衛星に搭載される光学センサに適した画像処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、光学センサの信号量を増加させてS/N比を向上させるために、複数行のラインセンサ出力を積分するTDI(Time Delayed Integration)型検出器が用いられている(例えば、特許文献1参照)。TDI型検出器は同一地点を撮像する画素が時間的に変化するときに、同一地点を撮像する画素の出力を積分することで、実質的に長時間露光した時と同等の信号量を得ることができる検出器である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−298805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような従来のTDI型検出器によって得られた画像は、同一地点を撮像する画素が時間的に変化するため、像が動くことによる解像度の低下が発生する。特に衛星搭載光学系のような慣性移動する光学センサでは、均質的な像のぼけが全域に発生し、結像性能が低下してしまうという問題点があった。
【0005】
この発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、TDI型検出器において発生する解像度の低下を空間フィルタ処理により最適な条件で補正することが可能な画像処理装置を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、時間遅延による電荷の積分機能をもち、時間的に変化する複数の画素により同一地点を撮像するTDI型検出器と、上記TDI型検出器のTDI動作の切り替えや制御を行うTDI制御部と、上記TDI制御部からの制御データに基づいて、上記TDI型検出器において撮像した画像データの各座標の画素値の補正処理を行う空間フィルタ処理部とを備えたことを特徴とする画像処理装置である。
【発明の効果】
【0007】
この発明は、時間遅延による電荷の積分機能をもち、時間的に変化する複数の画素により同一地点を撮像するTDI型検出器と、上記TDI型検出器のTDI動作の切り替えや制御を行うTDI制御部と、上記TDI制御部からの制御データに基づいて、上記TDI型検出器において撮像した画像データの各座標の画素値の補正処理を行う空間フィルタ処理部とを備えたことを特徴とする画像処理装置であるので、TDI動作に起因してTDI型検出器において発生した解像度の低下を空間フィルタ処理により最適な条件で補正することができ、結像性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1に係る画像処理装置の構成を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る画像処理装置の光学センサが人工衛星等の機器に搭載された状態を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る画像処理装置のシミュレーション結果をグラフで示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る画像処理装置の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る画像処理装置の構成を示す構成図である。図1において、1は、TDI型検出器であり、光学センサに搭載され、同一地点を撮像する画素が時間的に変化して、それらの複数の画素の出力を積分することにより、結果として長時間露光した場合と等価な信号量を出力することができるものである。2は、TDI型検出器1のTDI動作切り替えやTDI段数を制御するTDI制御部である。3は、TDI型検出器1から出力された画像データの画質を向上させるための画像処理を行う空間フィルタ処理部で、TDI制御部2から出力されるTDI型検出器1の制御データを元に画像処理を行う。4は、空間フィルタ処理部3から出力される出力画像である。
【0010】
光学センサは、例えば、図2に示すように、人工衛星のような慣性運動をする機器に搭載され、機器の運動により撮像領域を移動させることで画像を生成する。このとき、機器は光学センサの露光中も移動しているため、光学センサとしては相対的に撮像対象が動いていることと同等になり、像流れが発生することから解像度が低下する。一方、TDI型検出器1を搭載した光学センサでは、機器の移動に合せて画素を順次切り替えながら同一地点を撮像することで等価的に露光時間を増加させるため、露光時間に対する結像性能への影響はTDI型検出器特有のものとなる。すなわち、通常の検出器は露光時間中に移動した像の移動量が像流れの大きさとなるが、TDI型検出器では画素の切り替えが起こるため、像流れの大きさは大きくても、常に画素程度の大きさの像流れしか発生しない。このことから、TDI型検出器1により得られた画像に対しては、通常の光学センサのような撮像時の機器移動量などの撮影条件に合わせた画像処理よりも、TDI動作に最適化した画像処理を行う方が解像度の改善がより効果的になる。
【0011】
本実施の形態では、光センサを搭載している機器の移動に合せて、TDI型検出器1が、同一地点を撮像する画素を時間的に変化させて、観測対象の撮像を行う。TDI型検出器1は、時間遅延による電荷の積分機能を持っているため、時間的に変化した複数の画素からの出力を積分することで、実質的に長時間露光した時と同等の画像のデータを得る。次に、空間フィルタ処理部3に、TDI型検出器1によって撮像された当該画像のデータが入力される。空間フィルタ処理部3では、入力された当該画像における座標(i,j)の画素値h(i,j)を用いて、下記の(式1)を用いて、解像度の低下を補正した画素値g(i,j)を計算し、当該画素値g(i,j)を座標(i,j)の画素値とする画像を出力画像4として出力する。ここで、jはTDI方向とし、光センサを搭載している機器の進行方向、すなわちTDI型検出器の画素が時間的に変化する方向のことである。光センサを搭載している機器が人工衛星である場合には、TDI方向jは変化せず、常に、ほぼ一定となる(場合が多い)。また、wは空間フィルタの大きさを(半幅)を表すパラメータである。
【0012】
【数1】

【0013】
図3に、上記の(式1)におけるパラメータσの値に対する空間フィルタ処理の補正効果を検証するために行ったシミュレーションの結果を示す。シミュレーションでは、複数の参照画像に対してTDI型検出器1による模擬画像を作成した。そして、パラメータσを変化させながら、上記の(式1)による空間フィルタ処理を適用し、元の参照画像との補正残差量を算出した。図3において、補正残差量が小さい方が元の参照画像との誤差が小さく、像流れによる解像度低下を改善する。図3に示すシミュレーション結果より、パラメータσが0.5近傍で補正残差量は最小となり、上記の(式2)に示すように、|σ−0.5|<0.1とすることで、TDI型検出器1に最適化した空間フィルタ処理となることがわかる。
TDI制御部2から空間フィルタ処理部3への制御データとしては、例えばTDI型検出器1の動作/非動作を表す信号が出力される。TDI動作時には空間処理フィルタ部3でフィルタ処理が行われる。一方、TDI検出器が非動作時には空間処理フィルタは不要であり、空間処理フィルタ部3でフィルタの適用を停止することで画像が過補正になるのを防ぐことができ、また処理負荷も軽減し高速になる。なお、この場合においては、必要であれば、TDIの状況(動作/非動作)に応じてσの値を変更するようにしてもよい。
【0014】
以上のように、本実施の形態に係る画像処理装置によれば、時間遅延による電荷の積分機能を持ち、時間的に順次変化する複数の画素により同一地点を撮像して、それらの画素の出力を積分することにより、長時間露光した場合と等価な信号量を出力する、TDI型検出器1と、TDI型検出器1のTDI動作の切り替えや制御を行うTDI制御部2と、TDI制御部2からの制御データに基づいて、TDI型検出器1において撮像した画像データの各座標の画素値の補正処理を行うことにより、当該画像データに発生したTDI動作に起因する解像度の低下を補正する空間フィルタ処理部3とを備え、空間フィルタ処理部3がTDI制御部2からの制御データに基づいて、上記所定の数式におけるパラメータ値を変化させて、補正処理を変化させるようにしたので、TDI検出器1において発生する解像度の低下を空間フィルタ処理により最適な条件で補正することができ、像のぼけの発生をなくし、結像性能を向上させることができる。
【0015】
なお、上述の本実施の形態の説明においては、空間フィルタ処理部3とTDI型検出器1とを別体で構成する例について図1に示したが、その場合に限らず、空間フィルタ処理部3をTDI型検出器1が持つ電気回路で構成し、空間フィルタ処理部3で行う(式1)の計算を、TDI型検出器1の当該電気回路内で行うようにすれば、フィルタ処理の効率化を行うことができる。TDI型検出器1には、いわゆるROIC(Readout Integrated Circuit)が備わっており、画素値を並列的に積分して出力する機能がある。空間フィルタ処理を逐次的に行った場合、画素数に応じて処理時間が長くなる。そこで、TDI型検出器1のROICに空間フィルタ処理を行う機能を組み込み並列的に行うことで処理が効率化され、空間フィルタ処理部3の高速化を行うことができる。図1のように、TDI型検出器1の積分機能と空間フィルタ処理部3を分離して順次処理を行う場合に比べて効率的あることは言うまでもない。
【0016】
また、上述の本実施の形態の説明では、人工衛星のような慣性運動をする機器に搭載されるとしたが、その場合に限らず、光学センサに対して像がほぼ等速に移動する系に対しては本構成の画像処理装置を適用できることは言うまでもなく、その場合においても同様の効果を得ることができる。
【0017】
実施の形態2.
図4は、この発明の実施の形態2に係る画像処理装置の構成を示す構成図である。図4において、符号1〜4は、図1に示した実施の形態1と同様であるため、ここでは説明を省略する。5は、姿勢センサ部で、光学センサ(TDI型検出器1)を搭載した機器の姿勢を計測し、その結果を空間フィルタ処理部3に出力するものである。
【0018】
光学センサの姿勢が変化することにより視軸変位が発生し、像流れとなって解像度を低下させる。本実施の形態では光学センサの姿勢を検出する姿勢センサ部5を備えるため、視軸の変位量を計測することができる。また、姿勢センサ部5で得られた視軸変位量を空間フィルタ処理部3に出力することで、TDI型検出器による像流れと同様にそれを補正し、解像度を改善することが可能である。
【0019】
TDI型検出器1では視軸変位による像流れが発生したとき、TDI方向と平行な成分はTDI動作による像流れと同等に働くため、例えば、空間フィルタ処理部3での出力を、下記の(式3)および(式4)とすることにより補正することができる。
【0020】
【数2】

【0021】
ここで、βは、視軸変位による像流れのTDI方向に対して平行な成分とする。また、パラメータσは、実施の形態1と同様に、TDI型検出器1に最適化して決定するものであり、すなわち、|σ−0.5|<0.1を満足する。
【0022】
一方、TDI型検出器1では視軸変位による像流れが発生したとき、TDI方向と垂直な成分はTDI動作による像流れと空間的に畳み込み積分を行うのとほぼ同等に働くため、例えば空間フィルタ処理部3での出力を、下記の(式5)および(式6)とすることにより補正することができる。
【0023】
【数3】

【0024】
ここで、αは、視軸変位による像流れのTDI方向に対して垂直な成分である。また、パラメータσは、実施の形態1と同様に、TDI型検出器1に最適化して決定するものであって、すなわち、|σ−0.5|<0.1を満足する。
【0025】
このように、本実施の形態によれば、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、空間フィルタ処理部3でTDI型検出器1のTDI動作により発生する像流れに加えて、光学センサの姿勢が変化することによる視軸変位による像流れを補正することで、光学センサの解像度改善処理が一度で行えるようになり、処理の効率化や低負荷化、高速化を行うことができる。
【0026】
また、光学センサが進行する方向と平行にラインセンサを配置し、進行方向と垂直に走査しながら画像を取得するウィスクブルーム型のセンサでは原理的にTDI方向と垂直に像流れが発生する。このような像流れに関しても視軸変位と同等に扱うことで、本実施の形態により解像度の改善が可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 TDI型検出器、2 TDI制御部、3 空間フィルタ処理部、4 出力画像、5 姿勢センサ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間遅延による電荷の積分機能をもち、時間的に変化する複数の画素により同一地点を撮像するTDI型検出器と、
上記TDI型検出器のTDI動作の切り替えや制御を行うTDI制御部と、
上記TDI制御部からの制御データに基づいて、上記TDI型検出器において撮像した画像データの各座標の画素値の補正処理を行う空間フィルタ処理部と
を備えたことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
上記空間フィルタ処理部が、入力画像の座標(i,j)の画素値をh(i,j)とし、TDI方向をjとするとき、
【数1】

となる画素値g(i,j)の画像を出力することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
衛星の姿勢を検出する姿勢センサ部を備え、
上記TDI制御部に上記姿勢センサ部からの出力を入力することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
上記姿勢センサ部の出力から算出される視軸移動量のうち、TDI方向と平行な成分βから、上記空間フィルタ処理部が、入力画像の座標(i,j)の画素値をh(i,j)とし、TDI方向をjとするとき、
【数2】

となる画素値g(i,j)の画像を出力することを特徴とする請求項3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
上記姿勢センサ部の出力から算出される視軸移動量のうち、TDI方向と垂直な成分αから、上記空間フィルタ処理部が、入力画像の座標(i,j)の画素値をh(i,j)とし、TDI方向をjとするとき、
【数3】

となる画素値g(i,j)の画像を出力することを特徴とする請求項3に記載の画像処理装置。
【請求項6】
上記空間フィルタ処理部は、上記TDI型検出器が持つ電気回路で構成され、
上記空間フィルタ処理部で行う計算を上記TDI型検出器が持つ電気回路内で行うことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−97416(P2011−97416A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250243(P2009−250243)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】