説明

画像加熱装置

【課題】加熱回転体にシートの先端或いは後端によって付いたすじ状の傷が、トナー像に傷転写すじとなって発生しても視認性の違和感を軽減できるようにすること。
【解決手段】定着装置は、表面に離型層を備え、記録材上のトナー画像をニップ部にて加熱する加熱回転体2を有している。離型層1cは、そのヤング率が10Mpa以上1000Mpa以下であり、且つ、その表面には深さが0.3μm以上0.5μm以下の溝1dがその回転軸線方向に実質沿って且つその回転方向における密度が5本/mm以上100本/mm以下となるように多数形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー像を記録材に定着する画像加熱装置、特に加熱回転体にシートの先端或いは後端によって付いた傷が、トナー像に傷すじとなって転写されても視認性の違和感を軽減する画像加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記録材にトナー像を形成する画像形成装置は、トナー像を記録材に定着する画像加熱装置としての定着装置を備えている。定着装置は、所定の温度に維持された加熱回転体としての定着ローラと、弾性層を有してこの加熱ローラに圧接される加圧ローラとによって記録材を挟持回転しながら、トナー像を加熱して記録材に定着するようになっている。
【0003】
特に、カラー画像形成装置に設けられている定着装置は、モノクロトナー像に比べて、シアン、マゼンタ、イエロー等の何色かの多くのカラートナー像を記録材に定着するようになっている。
【0004】
カラートナーには、混色性及びOHPの透過性を高めるため、モノクロトナーに比べて低融点、低溶融粘度のシャープメルト性の材料で形成した非磁性トナーが用いられている。このため、カラートナー像は、定着装置の定着ローラの表面に融着して記録材から離れる、いわゆるオフセットを発生しやすい傾向にある。そこで、定着ローラは、多色重ねのトナー像に対する追従性と定着性そのものを向上させるため、適度の弾性を備えている。具体的に、定着ローラは、HTV等の弾性層上に、LTV、RTV等の離型性の高いシリコーンゴムで表面層を形成されている。
【0005】
なお、HTVは、高温加硫ゴム(High Temperature Vulcanizing)の略称である。LTVは、低温加硫ゴム(Low Temperature Vulcanizing)の略称である。RTVは、室温加硫ゴム(Room Temperature Vulcanizing)の略称である。
【0006】
シリコーンゴムは、シリコーンゴムが含有しているシリコーンオイルと同種の材料であるため両者の親和性が高く、シリコーンオイルがゴム表面だけでなく内部にも浸透して、高い離型性をもたらし、オフセット防止効果を発揮するようになっている。
【0007】
しかし、従来の定着装置のカラートナーの定着には以下のような問題があった。
【0008】
すなわち、定着ローラは、表層のシリコーンゴムに浸透しているシリコーンオイルの膨潤によって径が変化し易い。また、シリコーンゴムが剥れ易い。これを防止するのに、定着ローラは、オイルバリヤーの働きを持たせた中間層を必要としていた。このため、定着ローラは、構成が複雑になり、コストアップになっていた。また、記録材にシリコーンオイルの染みが付いたり、トナー像上にシリコーンオイルのすじが付いたりしていた。さらに、定着ローラは、表層のシリコーンゴムに浸透しているシリコーンオイルが枯れたり、記録材の紙粉や異物等によって傷ついたりすると、本来の離型性能が失われてトナー像のオフセットや記録材の巻き付き等の不具合が発生していた。
【0009】
このような問題を解決するため、特許文献1に記載の装置では次のような構成としている。つまり、従来の定着装置では、ワックス含有トナーを使用するとともに、定着ローラの表層をトナーとの離型性の良い離型層としている。この離型層としては、例えば、FEP(フッ化エチレン共重合樹脂)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)といったフッ素樹脂層が好適とされている。さらに、加圧ローラの弾性層の厚みや硬度を選択することによって加圧ローラを定着ローラに食い込ませることによって、従来のようにシリコーンオイルを塗布しないでも、離型性や分離性能を維持しつつ良好な定着を可能としていた。
【0010】
このような構成において、坪量200g/m以上の厚紙や、樹脂コート紙などの厚い記録材を搬送する際、その記録材の先端或いは後端の縁が、定着ローラの離型層に回転軸線方向に沿ったすじ状の傷を付けることがあった。
【0011】
【特許文献1】特開平10−148988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来の定着装置では、このようなすじ状の傷により、装置の使用に伴いトナー画像の光沢度が使用初期に比して低下してしまうことがあった。このため、形成されるトナー画像の光沢度が変動してしまい、高品位な画像を長期に亘って形成することができない恐れがあった。
【0013】
そこで、本発明の目的は、加熱回転体に生じたすじ状の傷に伴う画像の光沢度変動を目立たなくさせることができる画像加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の画像加熱装置は、表面に離型層を備え、記録材上のトナー画像をニップ部にて加熱する加熱回転体を有しており、前記離型層は、そのヤング率が10Mpa以上1000Mpa以下であり、且つ、その表面には深さが0.3μm以上0.5μm以下の溝がその回転軸線方向に実質沿って且つその回転方向における密度が5本/mm以上100本/mm以下となるように多数形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加熱回転体に生じたすじ状の傷に伴う画像の光沢度変動を目立たなくさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態である画像加熱装置としての定着装置と、この定着装置を装置本体に備えた画像形成装置とを図に基づいて説明する。本実施形態において、取り上げる数値は、参考数値であって、本発明を限定する数値ではない。
【0017】
(画像形成装置)
図6は、本発明の実施形態の画像加熱装置としての定着装置を備えた画像形成装置の縦断面図である。
【0018】
なお、画像形成装置は、フルカラー中間転写方式の画像形成装置であるが、モノクロの画像形成装置であってもよい。したがって、本発明の実施形態の画像加熱装置が備えられる画像形成装置は、カラー画像形成装置に限定されるものではない。また、画像形成装置には、複写機、プリンタ、ファクシミリ等がある。
【0019】
本実施形態の画像形成装置100は、各色の画像形成部200Y,200M,200C,200Kを直列配置し、可視像化までのプロセスを各色で並列処理するタンデム方式を採用している。各色の画像形成部の配列順序は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの順であるが、この配列順序に限定されるものではない。なお、符号に付してあるY,M,C,Kは、それぞれイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックを示すものとする。
【0020】
画像形成装置100は、表面に静電潜像を担持する像担持体120Y,120M,120C,120Kを備えている。像担持体120Y〜120Kの表面は、1次帯電器121Y,121M,121C,121Kによって所望の電位に一様に帯電されて、露光器122Y,122M,122C,122Kによって露光され、静電潜像を形成される。静電潜像は、現像装置123Y,123M,123C,123Kによってトナー現像されて、トナー像として可視像化される。
【0021】
像担持体120Y〜120K上の各トナー像は、1次転写装置124Y,124M,124C,124Kによって中間転写体125上に順次重ねて1次転写される。そして、全色1次転写された中間転写体125上のトナー像は、その後、2次転写装置126によって記録材P上に一括転写される。なお、記録材Pは、給紙装置128によって2次転写装置126まで搬送される。転写されたトナー像を担持した記録材Pは、定着装置27へと搬送され、定着装置27によって加熱及び加圧されて未定着のトナー像が溶融定着される。
【0022】
以上のようにして、本実施形態の画像形成装置は、帯電、露光、現像、転写、定着等の一連の画像形成プロセスを実行して、記録材やOHP用紙等の記録材P上にカラートナー像を形成して排出する。
【0023】
なお、モノクロ画像形成装置は、以上の説明におけるブラックの像担持体のみが存在し、その像担持体に形成されたトナー像を転写装置で記録材に転写するようになっている。
【0024】
本実施形態の画像形成装置は、後述するように、定着装置においてトナー像に傷転写すじが発生しても、その傷転写すじを視認性の違和感を軽減できるようになっているので、傷転写すじの付いた記録材に相当する記録材に、再度、トナー像を形成する必要がない。したがって、画像形成装置は、画像形成効率を向上させることができる。
【0025】
(定着装置)
図2に、本実施形態における定着装置を示す。
【0026】
画像加熱装置としての定着装置27は、上下に圧接した回転体対としての定着ローラ1と加圧ローラ2とで記録材を挟持搬送しながら記録材にトナー像を加熱定着するようになっている。
【0027】
加熱回転体としての定着ローラ1は、基層1aとしての鉄、アルミニウム等のパイプ状の芯金と、芯金上に設けた弾性層1bとしての耐熱シリコーンゴム層と、弾性層1b上に設けた離型層としての表層1cとの3層構造になっている。すなわち、定着ローラ1は、離型層の下層に弾性層を有している。
【0028】
表層1cは、定着時にトナーが定着ローラにオフセットしてしまうのを抑制する機能を果たしている。従って、この表層1cとしては、FEP、PFA、PTFE等により構成されたフッ素樹脂層とするのが好ましい。なお、FEPは、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体である。PFAは、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体である。PTFEは、ポリテトラフルオロエチレンである。本実施形態では、後述するように、表層1cはPFA樹脂層とされている。
【0029】
弾性層1bの厚みは、1mm以上5mm以下とするのが好ましい。弾性層1bの厚みが1mm未満の場合、定着ローラ1の硬度が高く、耐熱シリコーンゴムを変形させてニップ幅を取ることができないため、弾性層1bとしては不適当な厚みである。逆に、弾性層1bの厚みが5mmを超えると、熱源が基層1aである芯金内にあるため、基層1aと表層1cとの温度差が大きくなり、耐熱シリコーンゴムが劣化し易くなる。したがって、弾性層1bの厚みは、1mm〜5mm程度が好ましい。
【0030】
本実施形態の定着ローラ1は、直径が80mm、厚みが3mm、内径が74mmのアルミニウム製の筒状の芯金の外周に、弾性層としてJIS−A硬度で20度の厚さ2.5mmのシリコーンゴムを設けてある。そして、その弾性層の外周には、表層であるPFA(パーフロロアルコキシ樹脂)製の厚さが50μmのチューブを被覆してある。なお、表層のチューブは、PFA、PTFE製であってもよい。
【0031】
定着ローラ1は、チューブ状に成形したPFA樹脂製の表層と、この表層に挿入された芯金との間に弾性層となるJIS−A硬度10度の液状のシリコーンゴムを注入して、焼成することによって、形成されている。
【0032】
なお、ニップ部において記録材上のトナー像を加熱する加熱回転体としては上述した定着ローラに限らず、次に説明するベルト状の部材を用いる構成としても構わない。
【0033】
つまり、加熱回転体としての定着ベルトも、定着ローラと同様に、基層、弾性層、及び表層の3層で形成されている。
【0034】
定着ベルトの基層には、厚み20μm〜100μmのポリイミド製のフィルムや金属製フィルムを使用することができる。基層の外周の弾性層は、厚みを1mm以下にすることができるが、トナーや記録材の凹凸に追従して、所望の均一で光沢のあるトナー像を得るには、150μm以上にする必要がある。従って、弾性層の厚みは、150μm〜1mmであるのが好ましい。
【0035】
定着ベルトの弾性層の外周に設けた離型層としての表層は、定着ローラの表層と同様に、FEP、PFA、PTFE等のフッ素樹脂で形成されている。定着ベルトの表層のPFAチューブは、膜厚が10μm未満であると、厚みを均一なチューブに成型したり、弾性層に被覆したりするのが困難である。また、弾性層の膜厚を100μm以上にすると、弾性層のゴムに低硬度のゴムを使用しても、チューブ状の表層自体が硬いため、定着ベルトの外周が硬くなるという問題が生じる。そこで、弾性層に低硬度のゴムを使用すると、ゴムの液状化や、ゴムの断絶(破断)が生じやすくなり、耐久性に問題が生じる。また、カラートナー像における単色から4色重ねにわたるトナーの厚み変動(数μm〜数十μm)に追従しにくくなるため、微小な光沢ムラが発生する。したがって、表層のPFAチューブの厚みは、10μm以上、100μm未満にすることが好ましい。
【0036】
また、定着ローラ、定着ベルトの表層に使用されるフッ素樹脂のヤング率は、10MPa〜1000MPa程度であるのが好ましい。このヤング率の範囲であると、定着ローラや定着ベルトは、トナー像を記録材に定着させやすい弾性をそなえていることになる。ヤング率が10MPa未満では柔らかすぎるため表層の加工が難しい。また、ヤング率1000MPaを超えると硬すぎて、100μm以上の膜厚と同様に耐久性が低下し、光沢ムラが生じる。しかし、定着ローラ、定着ベルトの表層に使用されるフッ素樹脂のヤング率は、50MPa〜500MPa程度が最も好ましい。
【0037】
定着ベルトの表層の表面には、深さが0.3μm以上0.5μm以下のすじ状の溝がその回転軸線方向に実質沿って且つその回転方向における密度が5本/mm以上100本/mm以下となるように多数形成されている。すなわち、溝は、500μm〜100μmの間隔でほぼ均一に形成されている。
【0038】
(定着ローラの溝)
定着ローラ1の表層の表面には、図1に示すように、深さが0.3μm以上0.5μm以下のすじ状の溝1dがその回転軸線方向に実質沿って且つその回転方向における密度が5本/mm以上100本/mm以下となるように多数形成されている。すなわち、溝1dは、500μm〜100μmの間隔でほぼ均一に形成されている。溝1dは、5本/mm未満の密度で形成されると、間隔が広くなり過ぎて、溝によってトナー像に形成され溝転写すじが急激に目立つようになり、視感度的に違和感がある。また、溝1dは、100本/mmを超える密度で形成されると、間隔が狭すぎて、溝を1つ1つ所望の深さと幅で形成することが実際に困難になる。
【0039】
さらに、溝1dは、深さが0.3μm未満であると、記録材の先端或いは後端の角によって定着ローラ1に形成される傷の深さと比べて浅すぎて、傷によってトナー像に形成される突状の傷転写すじが目立つことになり、適切な深さではない。また、溝1dは、深さが5μmを超えると、表層1cの耐久性を損なうことになる。
【0040】
定着ローラ1の溝1dは、定着ローラを成型した後に、凹凸のある金属ローラを定着ローラに加圧して、定着ローラと金属ローラとを回転させることで、金属ローラの凹凸が定着ローラに転写されて成型される。金属ローラは、直径60mm、表面に段差200μmの凹みを軸方向に形成され、周方向の段差のピッチは15mmのローラである。この金属ローラを定着ローラに1000Nの押圧力で加圧して、周速度600m/secの速度で3分間従動回転させると、定着ローラに溝が形成される。
【0041】
なお、溝1dは、PFA樹脂チューブにあらかじめ所望の横すじ状溝を付けた後に、定着ローラを成型してもよい。
【0042】
また、溝1dは、図1(b)において、断面V字状に形成されているが、断面U字状、であって、断面形状はとわない。但し、溝1dは、溝1dにトナーが進入したとき、トナーが抜けやすい形状であるのがよい。そのようなことから、断面V状、断面U字が好ましい。
【0043】
定着ローラ1の基層1aである芯金は、中空の筒体に形成されており、その中空内には発熱部としてのハロゲンヒータ3が内在されている。ハロゲンヒータ3が定着に必要な熱を定着ローラ1に供給するようになっている。定着ローラ1には、定着ローラ1の温度を測定するサーミスタ(温度検知素子)4が接触している。定着ローラ1の温度制御は、温度変化にともなうサーミスタ4の抵抗値変化から定着ローラ1の温度を検知して、不図示の制御装置により、ハロゲンヒータ3のON/OFFを制御し、定着ローラ1の温度を所定の温度に維持するようになっている。
【0044】
(加圧ローラ)
加圧回転体(ニップ形成部材)としての加圧ローラ2は、基層2aとしての芯金上に厚み2mmのシリコーンゴムの弾性層2bを設け、その外周にフッ素樹脂の離型層としての表層2cを設けて形成されている。この加圧ローラ2は、不図示の駆動機構によって回転する定着ローラ1との間にニップ部を形成して、定着ローラ1に従動回転するようになっている。
【0045】
加圧ローラ2の弾性層2bは、定着ローラ1と加圧ローラ2との間にニップを形成できるようにするため、LTV若しくはHTVのシリコーンゴムを用いて芯金1a上に形成されている。弾性層2bは弾性が小さいと、トナー像の凹部の未定着や、トナーの潰れによる画像の解像度の低下をもたらすので、適当な大きさの弾性を備えている必要がある。
【0046】
以上の構成で、必要なニップ幅(記録材の搬送方向の長さ)を10mmにするため、定着ローラ1への加圧ローラ2の圧接力(加圧力)を800Nに設定してある。
【0047】
以上の定着装置27に、坪量300g/m、厚み300μmの両面コート紙を10枚通過させて、トナー像を確認したところ、定着ローラ1の溝1dによってトナー像上に形成された横すじ状の溝転写すじに違和感がなかった。
【0048】
これに対して、溝1dを形成された定着ローラ1の代わりに、溝を形成されていない定着ローラで、坪量300g/m、厚み300μmの両面コート紙を10枚通過させたところ、コート紙の先端又は後端による300μmの段差によって横すじ状の傷が付いた。この傷のため、トナー像上に突出した傷転写すじが顕著に発生した。
【0049】
図3は、定着ローラ1と加圧ローラ2とのニップに記録材の先端が突入したとき、表層1cのPFA樹脂に生じる分力を示した図である。
【0050】
記録材Pの段差のエッジ部(先端の上下角)によって、PFA樹脂には段差に沿うように剪断力Aが発生する。剪断力Aは、記録材Pが普通紙の場合、小さく、厚さ300μm以上の厚紙の場合、大きい。
【0051】
また、ニップ内で弾性層1bのシリコーンゴムが変形して、PFA樹脂に定着ローラ1の周方向に伸ばそうとする引っ張り力Bが発生する。引っ張り力Bは、弾性層1bであるシリコーンゴム層に低硬度のゴムを使用した場合や、加圧ローラの加圧力が大きい場合には、大きくなり、シリコーンゴムの弾性変形が大きくなる。
【0052】
そのため、この剪断力Aと引っ張り力BがPFA樹脂の弾性に勝ると、段差に対応した横すじ状の傷が発生する。しかし、PFA樹脂のヤング率が小さく、弾性が高い場合には剪断力Aと引っ張り力Bが働いても、記録材がニップを通過すると、元に復元しやすく、定着ローラ1に横すじ状の傷が発生しにくい。ところが、ヤング率の小さいPFA樹脂は、表面のフッ素樹脂の純度が低く、離型性が悪いため、トナーのオフセットが起こり実際には使用することができない。また、表層にシリコーンゴムやフッ素樹脂などのヤング率の小さい(10MPa未満の)弾性体を用いると、同じように横すじ状の傷が発生しにくいが、同じように離型性が悪いため、離型オイル等の離型剤が必要になる。このため、定着ローラは、オイルによる膨潤でローラ径が変化したり、弾性体が剥れたりするようになる。また、これを防止するには、定着ローラにオイルバリヤーの働きを持たせた中間層が必要となり、定着ローラは、構造が複雑になり、コスト高になる。また、記録材へのオイル染みやトナー像上にオイルのすじが発生する。
【0053】
さらに、表層のシリコーンゴム層に浸透しているシリコーンオイルが枯れたり、紙粉や異物等によって定着ローラ1に傷が付いたりすると、シリコーンゴム層の本来の離型性能が失われてトナーのオフセットが生じることがある。また、記録材が定着ローラに巻き付くことがある。そもそもこれらの問題を解決するためにワックス内包トナーを用いているのであって、これらの問題が生じるような構成は、本発明の思想に反する。
【0054】
逆に、剪段力Aと引っ張り力Bに勝るヤング率1000MPaを超えた、高硬度の表層を用いると、横すじ状の傷が発生しにくいが、ヤング率を1000MPa超えると硬すぎて、100μm未満の膜厚のときと同様に耐久性と光沢ムラに問題がある。そこで、定着ローラ1の表層には、より好ましくは50MPa〜500MPa程度のヤング率のフッ素樹脂を用いるのが良い。ちなみに、ヤング率とは、微小変形時にはフックの法則に従うものと考え、 E =σ /εと定義される。ここでE=ヤング率、σ=引張応力、ε=引張歪み、ヤング率の単位は応力と同じPaで表される。実際の測定には、テンシロン万能試験機UCT−5T(オリエンテック社製)を使用した。
【0055】
このように、定着ローラ1の表層にヤング率50MPa〜500MPa程度の高純度のPFA樹脂を用いると、高い離型性を得ることができる。しかし、図4(a)に示すように、ニップ内に突入した厚紙の先端の厚み(段差エッジ部)による屈曲によって発生する剪断力Aと、弾性層1bの弾性変形とによって発生する引っ張り力Bとにより、図4(b)に示すような横すじ状の傷が定着ローラ1に発生する。
【0056】
図4(b)に示すように、定着ローラ1は、横すじ状の傷1eが表層1cに付くと、再度、トナーTを定着するとき、図4(c)に示すように、傷1eに対応した部分をトナー像Tに転写して、突出した傷転写すじTeを形成することになる。この傷転写すじTeは、傷転写すじTeと周りの平坦部との光沢差によって、横すじ状の光沢すじとして視認されて、違和感を与える。
【0057】
傷1eのトナー像Tへの転写は、溶融時のトナーTが溶けて粘度が低い状態で定着されるほど転写されやすく、傷1eの凹凸を再現されやすい。また、記録材Pの表面にコート層を有しない非コート紙は、溶融トナーが記録材の繊維層に浸透しやすいので、傷1eがトナー表面に転写されることが少ない。一方、記録材Pの表面にコート層を有するコート紙は、溶融トナーが紙に浸透しないのでトナー像に傷1eを転写されやすい。
【0058】
これらのことからして、厚紙の表面性の良いコート紙に、トナーを良く溶かして高光沢なトナー像の定着を行う場合、定着ローラ上の傷1eがトナー像に転写されやすいので、トナー像に形成された傷転写すじTeが目立ちやすくなる。60度光沢度でトナー像の光沢度が10以下のトナー像では、定着ローラの傷1eが殆ど転写されていないため、画像上の傷は見えにくい。
【0059】
図4(c)に示すように、高光沢なトナー像に傷転写すじTeが発生すると、周辺のトナー像の光沢に対して傷転写すじTeで光が乱反射するため、周囲との対比によって傷転写すじTeが目立ちやすく違和感がある。
【0060】
本実施形態で、定着ローラ1は、表層1cに厚紙の段差で付く横すじ状の傷1eと同程度の平均深さ2μm、幅20μmの横すじ状の溝1dが、ほぼ等間隔で、回転方向に1mm当たり5本乃至100本の割合で形成されている。このため図4(d)に示すように、定着ローラ1と加圧ローラ2のニップ内で、溝1dがトナー像Tにピッチ5本/mm乃至100本/mm程度の無数の溝転写すじTdとして転写される。この溝転写すじTdは、図4(e)に示すように、マクロ的に見ると定着後のトナー像の表面に、均一な光沢を与えて、違和感が無い。溝の深さは、Zygo社製の干渉顕微鏡を用いて深度を測定した。また、この同じ干渉顕微鏡を用いて定着ローラの回転方向における1mmあたりの溝(傷)の本数(密度)を測定した。
【0061】
本実施形態において、溝1dのある定着ローラ1による定着後のトナー像の光沢は、60度光沢度で40〜45程度であった。一方、溝の無い定着ローラによる定着後のトナー像の光沢は、光沢度45〜55程度であった。この結果、溝の無い定着ローラの方が、トナー像の表面性が良く、光沢も高い。しかし、定着ローラの傷1eによってトナー像に形成された傷転写すじTeは、違和感を与える。
【0062】
本実施形態において、定着ローラは、傷1eと溝1dとを、傷転写すじTeと溝転写すじTdとして、トナー像に転写するようになっている。このため、ミクロ的に拡大してみると、トナー表面上は凹凸が形成されている。しかし、ピッチ5本/mm〜100本/mm程度の無数の溝転写すじTdが均一に形成されているので、傷転写すじTeが周りの光沢との差が殆んどなく、マクロ的に見ると全体的に若干光沢が下がる程度で、傷転写すじTeが違和感を与えることがない。すなわち、傷転写すじTeは、溝転写すじTdに紛れ込んだ状態になり、違和感を与えることがない。
【0063】
図5は、15cm離れた対象物に対して人間の視覚の空間周波数特性を示す図である。空間周波数で5本/mm以上の周波数ノイズに関しては感度特性が0.1以下となり、視覚的にノイズによる違和感が低減することを示している。例えば、印刷物などに用いられる、130線や175線の網点パターンも、ミクロ的に見るとドットの集合であるが、対象物を離してマクロ的に見ると均一なハーフトーンとして違和感をないことと同じ原理である。
【0064】
なお、本発明は、定着ローラと加圧ローラを用いた熱ローラ方式の定着装置に関して記述しているが、ベルトやフィルムを用いた定着装置や、熱源にハロゲンヒータ以外の熱源を用いた定着装置に関しても適用することができる。したがって、定着装置は、定着ローラと加圧ローラとに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態における定着器の定着ローラの図である。(a)は、外観図である。(b)は、溝の部分の拡大図である。
【図2】本発明の実施形態における定着器の定着ローラと加圧ローラとの正面図である。
【図3】図2の定着ローラと加圧ローラとのニップに記録材の先端が進入したときに生じる分力の説明図である。
【図4】図2の定着ローラに付いた傷が、トナー像に転写されることを説明するための図である。
【図5】15cm離れた対象物に対して人間の視覚の空間周波数特性を示す図である。
【図6】本実施形態の定着器を備えた画像形成装置の断面図である。
【符号の説明】
【0066】
P 記録材
T トナー像
Te 傷転写すじ
Td 溝転写すじ
1 定着ローラ(回転体対、加熱回転体)
1a 基層
1b 弾性層
1c 表層(離型層)
1d 溝
1e 傷
2 加圧ローラ(回転体対)
2a 基層
2b 弾性層
2c 表層
3 ハロゲンヒータ(発熱部)
4 サーミスタ
27 定着装置(画像加熱装置)
100 画像形成装置
200Y,200M,200C,200K 画像形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に離型層を備え、記録材上のトナー画像をニップ部にて加熱する加熱回転体を有する画像加熱装置において、
前記離型層は、そのヤング率が10Mpa以上1000Mpa以下であり、且つ、その表面には深さが0.3μm以上0.5μm以下の溝がその回転軸線方向に実質沿って且つその回転方向における密度が5本/mm以上100本/mm以下となるように多数形成されていることを特徴とする画像加熱装置。
【請求項2】
前記離型層はフッ素樹脂を有することを特徴とする請求項1の画像加熱装置。
【請求項3】
前記加熱回転体は前記離型層の下層に弾性層を有することを特徴とする請求項1又は2の画像加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−191178(P2008−191178A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22342(P2007−22342)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】