説明

画像形成装置、及び画像形成方法

【課題】S/N比の向上とイメージを形成するための所要時間の短縮とを実現可能とする画像形成装置を提供する。
【解決手段】画像形成装置は、電磁波照射手段405と、電磁波検出手段406と、駆動手段403と、周期信号413を発生する周期信号発生手段411と、記憶手段416と、演算処理手段414、415と、画像形成手段420を有する。駆動手段403は、対象物401と電磁波照射手段406における照射部との相対的位置関係を周期的に変化させる。電磁波検出手段406は、対象物401からの電磁波を時系列検出信号412として取得する。演算処理手段414、415は、前記時系列検出信号412と前記周期信号413とを用いて演算を行い、記憶手段416に記憶させる。画像形成手段420は、記憶手段416における記憶情報に基づいて対象の画像形成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に電磁波を照射して得られる透過波または反射波を検出することを利用した画像形成装置に関する。特に、30GHz乃至30THzの周波数領域内の電磁波(以下、本明細書ではミリ波及びテラヘルツ波と呼ぶ。)を用いる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光領域で広く行われてきた画像形成は、最近では、テラヘルツ波の周波数領域でも重要と考えられている。これは、この周波数領域の電磁波が、例えば、幾つかの物体に対して比較的透過性が強いといった光とは異なる性質を有していて、こうした特有の性質を利用できるためである。しかしながら、この周波数領域では発生器や検出器などの装置開発が比較的遅れており、画像形成を行う為に、典型的には、次の様な方法が用いられてきた。
【0003】
その一つとして、この周波数領域の電磁波をイメージングする対象物の一点に絞り、その点と対象物とを相対的に移動させてイメージを取得する方法が知られている。この方法は、二次元イメージを一度に取得する方法とは異なり、発生器からの強力な照射や高感度な検出器を必ずしも必要としない。そのため、よく用いられている方法の一つとなっている。こうした画像形成方法として、特許文献1(特開平8-320254号公報)に記載のものがある。当該文献に記載の方法では、電磁波を対象物の或る領域に集光させると共に対象物を走査するなどして、集光点が対象物の複数領域を通過するようにする。そして、対象物の複数領域における電磁波伝播状態を検出し、これらの検出信号をイメージ形成手段によって処理してイメージを形成する。ここで、集光は、検出信号と雑音の比(S/N比)が優れないために行われるのであって、S/N比を向上させるためのものである。更に、対象物の或る領域に集光させた状態を一定時間持続し、検出信号を複数回積算すると、積算平均の効果によってS/N比が向上する。そのため、典型的な場合、こうしてイメージが形成される。ところが、この方法では、検出信号を複数回積算するときに時間を必要としてしまう。したがって、S/N比の向上とイメージ形成に要する所要時間はトレードオフの関係であった。
【0004】
トレードオフの関係は、画像形成装置とは異なるTHz-TDS(Terahertz-Time-Domain-Spectroscopy)と呼ばれる時間分解型の分光装置でも生じている。これは、THz-TDSにおける光伝導スイッチで放射されるパルス波形の時間分解を行うときに生じる。パルス波形を取得する際、S/N比の向上を図るために、パルス波形の一点について複数回積算しながら時間分解を行うためである。
【0005】
これを解決するために特許文献2(国際公開WO 00/79248号公報)では、パルス波形を周期的に取得する処理を利用して、S/N比の向上とパルス波形取得のための所要時間の短縮とを同時に実現する。このために、パルス波形の一点に対応する光遅延時間を周期的に変化させる様に構成している。こうして取得されたパルス波形は、スペクトラムアナライザなどで帯域幅を制限してS/N比の向上が可能となるため、優れた方法と考えられる。
【特許文献1】特開平8-320254号公報
【特許文献2】国際公開WO 00/79248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、パルス波形を周期的に取得する処理を利用した上記の方法では、制限する帯域幅の設定が比較的容易であっても、画像形成においてはこの設定は容易ではない。なぜなら、パルス波形は予め帯域幅が予測できるのに対し、イメージングされる対象物の透過率分布又は反射率分布の帯域幅は、一般に対象物に依存し、予め予測することができない。したがって、画像形成においては、S/N比の向上とイメージ形成のための所要時間の短縮とを共に実現するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る画像形成装置は、次の特徴を有する。
本画像形成装置は、電磁波照射手段と、電磁波検出手段と、駆動手段と、周期信号発生手段と、複数の記憶部を有する記憶手段と、演算処理手段と、画像形成手段とを有する。前記駆動手段は、画像形成の対象物と前記電磁波照射手段における照射部との相対的な位置関係を周期的に変化させる。前記周期信号発生手段は、前記位置関係の変化の周期に同期した基本波又はその高調波を含む複数の周期信号を発生する。
更に、前記駆動手段は、前記位置関係の周期的な変化によって、前記対象物を複数領域に時分割する。
前記電磁波検出手段は、前記電磁波照射手段によって前記複数領域にそれぞれ電磁波を照射して得られる透過波又は反射波を、時系列検出信号として取得する。
前記演算処理手段は、
前記複数領域にそれぞれ対応した時間において得られる前記時系列検出信号と、前記複数の周期信号とをそれぞれ乗算する処理と、
前記複数の周期信号に対応してそれぞれ設けられている前記記憶手段の複数の記憶部へ、前記複数の乗算結果を加算してそれぞれ記憶させる処理とを行う。
前記画像形成手段は、
前記電磁波検出手段による前記時系列検出信号の取得と前記演算処理手段による処理とが、前記複数領域に対してそれぞれ複数回繰り返された後、
前記複数の周期信号にそれぞれ対応して前記記憶手段の複数の記憶部に記憶されている情報に基づいて、前記対象物の一部又は全体の画像形成を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、後述の原理説明から分かるように、適切な帯域幅制限を行うことが可能となり、S/N比の向上とイメージを形成するための所要時間の短縮とを同時に実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明による画像形成装置の一実施形態について図面を参照して説明する。はじめに本発明に係る画像形成装置が行う画像形成方法の原理を説明する。
【0010】
いま、適当な手段で、イメージングする対象物(検体)と電磁波照射手段(電磁波発生手段)及び電磁波検出手段との相対的な位置関係が周期的に変化するとする。そして、対象物の時分割された複数領域からの透過波又は反射波を、それぞれ、時系列検出信号として取得できるとする。対象物と電磁波照射手段及び電磁波検出手段との相対的な位置関係を周期的に変化させるのは、対象物と電磁波照射手段の照射部との相対的な位置関係を周期的に変化させる為である。なお、対象物が動くことによって、前記照射部と前記対象物とが相対的に位置変化する場合は、当該対象物と前記電磁波検出手段も相対的に位置変化していることになる。図1は、このときの時系列検出信号F(t)=(F(t1)、F(t2)、・・・)に基づいて、本発明の画像形成方法によってイメージ形成が行われるフローチャートを示している。図1において、説明を分かりやすくするために、対象物のイメージングされる領域は2つとし、それぞれをA領域とB領域とする。勿論、解像度を求める場合は数多くの領域が必要となる。
【0011】
ここで、A領域、B領域は、時分割された領域である。上記の様に、対象物と電磁波照射手段の照射部との相対的な位置関係に変化を与えると、容易に時分割ができる。ここで、照射部とは、電磁波照射手段における実際に電磁波を外部に出力する部分を意味する。時系列検出信号F(t)のうち、A領域の検出信号F(t1)102及びB領域の検出信号F(t2)112は、それぞれ、A領域の検出101及びB領域の検出111によって得られる。対象物と照射部との相対的な位置関係が周期的に変化するということは、「1単位の相対位置変化」が周期的に複数回繰り返されることを意味する。図1における引き出し線121は、斯かる意味で、「周期的繰り返し」と記載している。したがって、時系列検出信号F(t)は上記のF(t1)とF(t2)とが周期的に複数回繰り返される検出信号となる。この周期的繰り返し121は、イメージの形成を行うか否かの判断120まで行われる。
【0012】
以上に説明した様に、本発明では、駆動手段により、イメージングされるべき対象物と電磁波照射手段の照射部との相対的な位置関係を周期的に変化させる。すなわち、駆動手段は、画像形成の対象物と前記電磁波照射手段における照射部との相対的な位置関係を周期的に変化させることになる。また、この駆動手段は、前記位置関係の周期的な変化によって、前記対象物を複数領域に時分割することになる。そして、電磁波検出手段は、前記電磁波照射手段によって前記複数領域にそれぞれ電磁波を照射して得られる透過波又は反射波を時系列検出信号として取得する。
【0013】
周期的繰り返し121の各周期において、時系列検出信号F(t)は以下の様に処理される。いま、周期的繰り返し121の周波数をfとする(例えば、対象物が周波数fで回転している、あるいは周波数fで並進往復していることを意味する)。まず、時間t1=0(又はt2m+1=0+m/f、mは整数で(m+1)周期目における時間)において、次の処理がなされる。A領域の電磁波伝播状態を含んだ検出信号F(t1)102は、乗算器104によって周期信号G0(t1)103(例えばG0=1/2(DC))と乗算され、加算器105を経て記憶装置106に加算される。更に、検出信号F(t1)102は、乗算器114によって周期信号G1(t1)113(例えばG1=cos(2πft)(基本波))と乗算され、加算器115を経て記憶装置116に加算される。
【0014】
続いて、時間t2=1/2f(又はt2m+2=1/2f+m/f、mは整数で(m+1)周期目における時間)において、次の処理がなされる。B領域上の電磁波伝播状態を含んだ検出信号F(t2)112は、乗算器104によって周期信号G0(t2)103と乗算され、加算器105を経て記憶装置106へ加算される。更に、検出信号F(t2)112は、乗算器114によって周期信号G1(t2)113と乗算され、加算器115を経て記憶装置116に加算される。ここで、加算器105、115は、それぞれ、出力先の記憶装置106、116に記憶されている数値が零であれば、加算される数値そのものを記憶装置106、116へ出力して記憶させる。出力先の記憶装置106、116に既に記憶されている数値があれば、それぞれ、その数値との和を記憶装置106、116に記憶させる。
【0015】
以上の処理は、フーリエ展開を逐次的に行っていることに相当し、それぞれのフーリエ成分を畳み込みによって一定の信号(DC)に復調する処理となる。したがって、周期信号としては、得たいフーリエ成分と等しい周波数の正弦波信号、余弦波信号などが選択される。周期信号としては、前記駆動手段による前記周期的繰り返しと同期した複数の周期信号が選択される。また、前記位置関係の変化の周期に同期した基本波又はその高調波を含む複数の周期信号が選択される。なお、時系列検出信号におけるF(t)に含まれるDC信号の復調のために、周期信号として広義にはDCも含む。
【0016】
ここで、例えば、時系列検出信号F(t)と周期信号G1(t)の1周期に渡る積分を∫として、F(t)=A×cos(2πft)とする。すると、∫F(t)G1(t)dt=A/2となるように、時系列検出信号F(t)に含まれるG1(t)と等しい周波数のフーリエ成分Aを抽出できる。図1の例ではフーリエ成分は2点のみであるので、DCにおけるフーリエ成分の加算値は記憶装置106に、周波数fにおけるフーリエ成分の加算値は記憶装置116に記憶される。すなわち、乗算器や加算器などの演算処理手段は、前記複数領域にそれぞれ対応した時間において得られる前記時系列検出信号と、前記複数の周期信号とをそれぞれ乗算する処理を行う。また、前記複数の周期信号に対応してそれぞれ設けられている前記記憶手段の複数の記憶部へ、前記複数の乗算結果を加算してそれぞれ記憶させる処理を行う。そして、前記電磁波検出手段による前記時系列検出信号の取得と、前記演算処理手段による処理とが、前記複数領域に対してそれぞれ複数回繰り返して行われる。この複数回の繰り返しは、例えば、前記駆動手段による、「1単位の相対位置変化」の繰り返し回数だけ行うことができる。
【0017】
なお、上記の如く周期的な繰り返し121を行うのは、それぞれのフーリエ成分を複数回積算することによって積算平均の効果を与えるためである。これは実質的には、それぞれのフーリエ成分にバンドパスフィルタを掛けていることに相当する。積算回数が多くなることは、バンドパス帯域幅をより狭くすることに相当する。結果的には、DCと周波数fとに対応するフーリエ成分の周辺のみに、自動的に、測定する帯域幅が絞り込まれるので、適切な雑音帯域幅の制限が行える様になる。このことを示した図が図2である。図2は、図1における時系列検出信号F(t)の周波数fにおけるフーリエ成分のみに注目した時系列検出信号と帯域幅の関係を示している。
【0018】
時系列検出信号のフーリエ成分201は、もともとは図2(a)に示す如く、周波数fに存在する。周波数fの周期信号とともに畳み込みを行えば、図2(b)に示す様に周波数fのフーリエ成分はDCに復調される。更に、周期的な繰り返し121による複数回の積算(又は積算平均)は、図2(c)に示す様に測定する帯域幅202を制限する。図2(a)、(b)、(c)において、雑音203は、全周波数に渡る白色雑音に1/f雑音が上乗せされた典型例を表すものである。周波数fを100Hz以上にとることができれば、時系列検出信号のフーリエ成分201における1/f雑音を効果的に低減することができる。これは、1/f雑音が典型的にはDCから100Hzまでの帯域で多いとされるからである。
【0019】
最後に、画像形成を行う為には以下の手順を選択する。すなわち、S/N比が十分となってイメージ形成を行うという判断120が行われたら、イメージ形成手段によって、記憶装置106、116に積算されている数値について逆フーリエ展開を行う。これは、フーリエ成分の集合体が逆空間イメージとなっているからであって、実空間に展開すればイメージの形成122が完了する。なお、周期構造の解析など、あえて逆空間イメージを得たい場合は、逆フーリエ展開は不要である。こうして、イメージ形成手段が、記憶手段に複数の周期信号にそれぞれ対応して個別に記憶された情報に基づいて対象物の一部又は全体の画像形成を行う。
【0020】
対象物のイメージングされる領域は、N個として、図1を一般化することができる。このときは、周期信号としては、周波数fに対応する基本波に加えて2倍波、3倍波、…、(N-1)倍波を用いて、DC、f、2f、3f、…、(N-1)fに対応するそれぞれのフーリエ成分を同様に処理すればよい。したがって、このときは、N個の記憶装置、積算器、加算器を用いて構成が拡張される。故に、N個の記憶装置、積算器、加算器としてはPC(personal computer)などにおけるメモリ、演算機能を用いるのが好ましい。
【0021】
図3は、本発明に係る画像形成装置及び方法によってイメージの形成を行うまでの時系列検出信号と帯域幅との関係を、従来例と比較して示すものである。図3(a)は、上記特許文献1の画像形成方法において、対象物の或る領域の電磁波伝播状態を含む検出信号301aと帯域幅302aの関係を示す図である。この場合、検出信号301aはDCと定義できる。複数回の積算(又は積算平均)は、302aの様な帯域幅に測定を制限していることに相当する。一般に1/f雑音はDC付近に多いため、S/N比を向上する為には適した方法とは言えない方法であることが分かる。
【0022】
図3(b)は、上記特許文献2のパルス波形の取得方法において、パルス波形の時系列検出信号301bと帯域幅302bの関係を示す図である。この場合、時系列検出信号301bは周期関数であって、DCと周波数fとfの高調波におけるフーリエ成分と定義できる。時系列検出信号301bの様に予めパルス波形がどの様な帯域まで及んでいるかが既知でないと、帯域幅302bの制限は難しいことが分かる。
【0023】
図3(c)は、本発明に係る画像形成装置及び方法において、対象物の時分割された複数領域の電磁波伝播状態を含む時系列検出信号301cと帯域幅302cの関係を示す図である。この場合、時系列検出信号301cは周期関数であって、DCと周波数fとfの高調波におけるフーリエ成分と定義できる。時系列検出信号301cは、周波数fやfの高調波信号によってそれぞれが畳み込まれてDCに変換されてから複数回積算される。複数回の積算(積算平均)は、302cの様な帯域幅に測定を制限していることに相当する。したがって、図3(c)の様に、白色雑音や1/f雑音を低減できる効果がある。同じ積算回数を仮定すれば、帯域幅302aと帯域幅302cは等しくなるから、少なくとも、DCにおけるフーリエ成分以外のフーリエ成分についてはS/N比の向上が図られていることになる。これは、電磁波伝播状態が一様な(分かりやすく言うとベタに塗りつぶされた)対象物以外であれば、あらゆる対象物について、イメージを形成するためのS/N比の向上と所要時間の短縮を同時に実現できるということに等しい。なお、図3(a)、(b)、(c)においても、雑音303は、全周波数に渡る白色雑音に1/f雑音が上乗せされた典型例を表すものである。
【0024】
以上において、イメージングされるべき対象物と電磁波照射手段及び電磁波検出手段との相対的な位置関係を周期的に変化させる様な具体的な手段が必要であった。図1の場合でいえば、A領域の検出101とB領域の検出111を周期的に複数回繰り返すための手段である。既に述べた様に、周期的に変位を与えるものであり、S/N比の向上の為に周波数fを大きくできる高速変位を与えるものが好ましい。この為には、例えば、電気エネルギーを運動エネルギーに変換するアクチュエータなどの駆動手段を利用して、対象物を電磁波照射手段や電磁波検出手段に対して運動をさせるのが最も簡単である。好ましくは、回転運動を選択し、例えば、電磁モータなどで回転の可能な台上に対象物を固定化して、対象物を回転運動させればよい。その際、電磁モータを制御する信号をトリガとして利用して、上記周期信号を発生させる方法を選択してもよい。
【0025】
勿論、以上に述べた様な手段は、対象物のイメージングされる領域がN個のときにでも容易に拡張できる。更に具体的には以下の実施例において説明する。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
図4は、本発明に係る画像形成装置の実施例1を示す図である。
図4において、イメージングされる対象物401は保持部材402に保持され、保持部材402は対象物401と一体になって電磁モータ403によって回転運動を行える様になっている。回転運動は比較的高速にすることが可能であって、例えば、100Hz(6000rpm)以上でも周期的な動作を安定に行える。そのため、本発明に係る画像形成装置の構成として好ましい。こうして、対象物401と電磁波照射手段405及び電磁波検出手段406との位置関係が、1回転を「1単位の相対位置変化」として、周期的に変化できる様にする。
【0027】
駆動手段である電磁モータ403の回転数つまり周波数は、電磁モータ制御手段404によって制御される。ここで、電磁モータ403は、例えば、サーボモータであって、電磁モータ制御器404は、例えば、回転数を与えるパルスを発生するためのプログラマブルコントローラ(PLC)、アンプ、フィードバック制御のためのエンコーダによって構成される。ここでは、周波数f=100Hzに設定して、対象物401は、電磁波照射手段405や電磁波検出手段406との位置関係を周波数f=100Hzで繰り返し変化できる様にする。その際、周期信号発生手段である周期信号発生器411は、電磁モータ制御器404から抽出したトリガ410を参照して、これと同期したf=100Hzの基本波やその高調波である周期信号413を発生する。例えば、トリガ410をPCで取り込むなどして、制御プログラムによって周期信号発生器を構成してもよい。
【0028】
本実施例において、電磁波照射手段405は、例えば、Backward-Wave-Oscillator(BWO)と呼ばれるテラヘルツ帯の電磁波を出射するものである。電磁波検出手段406は、例えば、単画素のショットキーバリアダイオードである。本実施例では、図4の様に、レンズなどの集光器407を使って対象物401に集光されて照射され、反射される電磁波は、同じくレンズなどの集光器408を使って集光されて検出される。こうして電磁波検出手段406によって時系列検出信号412が生成される。
【0029】
対象物401の時分割された複数領域の電磁波伝播状態を含んだ時系列検出信号412は、これまでに説明した様に、演算処理手段により処理される。すなわち、乗算器414によって周期信号413とともに乗算され、各周期信号413に対応するフーリエ成分毎に記憶装置416に加算される。更に、電磁モータ403の回転運動と共に繰り返される「1単位の相対位置変化」を周期的に複数回行うことによって、それぞれのフーリエ成分について複数回の積算(又は積算平均)が行われる。
【0030】
図5は、対象物401のイメージされる領域を具体的にどの様に設定するかを示したものである。電磁波照射手段405からのテラヘルツ波で照射されるのは、501の照射領域である。円周方向に沿ってメッシュ状に仕切られたイメージング領域502は、対象物401のN個に時分割された複数領域と一致する。図5では、例として、円周方向に沿ってN=58としている。Nは更に大きくすることもできるが、Nの上限は存在し、対象物401と電磁波照射手段405及び電磁波検出手段406との位置関係が周期的に変化する周波数fに依存して決定される。これは、N個の領域についてそれぞれN回のオーダの演算(乗算、加算)が行われるため、少なくても演算に要する時間が画像形成のボトルネックとならない様なNが望ましいからである。
【0031】
このことを試算するために、現在における廉価品のPC(1GFLOPS=1秒間に10億回の演算)をもって演算処理手段である乗算器414、加算器415を構成したとして単純計算する。この仮定の下では一回の計算に1nsec掛かり、1周期を処理するための所要時間はN2nsecとなる。一方で、いまの場合、1周期は10msec=1/(100Hz)であるから、演算が時間的なボトルネックとならない様にする為には、N<3162と見積もられる。ただし、並列計算機やこうした処理に特化した演算用チップを利用してもよいため、Nはこれより大きくすることもできると考えられる。
【0032】
本実施例では、イメージの形成を行う為に、やはりPCをイメージ形成手段420として利用する。S/N比が十分かどうかの判断は、或るフーリエ成分のS/N比について、適宜しきい値を設定してもよい。又は、逆フーリエ展開に高速なFFTを利用して、例えば、10周期に一回といった具合で、適時、逆空間イメージを実空間に展開して、これを見ながら判断してもよい。
【0033】
なお、対象物401のほぼ全体の画像形成を行う為には、電磁波照射手段405によって照射される照射領域501を、上記回転の動径の位置とは異なる動径の位置の方向に走査して、再び同じ様に画像形成を行えばよい。ただし、本実施例では、動径=0つまり回転軸と一致した領域のみは、対象物401と電磁波照射手段405及び電磁波検出手段406の相対的な位置関係が変わらない特異点となる。
【0034】
本実施例において、電磁波照射手段405は、特にBWOに限られるわけではなく、量子カスケードレーザ(QCL)、共鳴トンネルダイオード(RTD)、ガンダイオードなどを使用してもよい。更には、インコヒレントな光伝導スイッチでもよい。また、電磁波検出手段406も、特にショットキーバリアダイオードに限られるわけでなく、マイクロボロメータ、焦電素子、光音響素子、ボロメータなどを使用してもよい。更には、インコヒレントな光伝導スイッチでもよい。
【0035】
電磁波の周波数についても限られるわけではないが、発生器や検出器などの装置開発が比較的遅れていてS/N比が比較的小さいとされるミリ波及びテラヘルツ波の周波数領域(30GHz乃至30THz)において好ましいと考えられる。その理由は次の通りである。S/N比を10倍向上させるために、例えば、複数回の積算(積算平均)によってこれを行おうとすると、元の100倍の積算回数が必要となる。積算回数はイメージを形成するための所要時間に比例するため、元の100倍の時間を積算(積算平均)に費やすことになる。したがって、S/N比の向上が仮に少しでもよい場合は、所要時間にとっては効果的な短縮化につながる。そのため、上記構成は、発生器や検出器の性能の乏しい周波数領域において大変重要な効果をもたらすと考えられる。
【0036】
以上では反射波を用いていたが、図6の様に変形し、対象物401を透過する電磁波(集光器607,608で集光される)を利用して画像形成を行う構成にしてもよい。このときは、照射する電磁波に対してできるだけ透明な保持部材602を用いると良い。更に好ましくは、フレネル反射ロスが低い低誘電率の保持部材602を用いると良い。電磁波照射手段605の照射できる周波数領域や電磁波検出手段606の感度の高い周波数領域にも依るが、30GHz付近では、ベンゾシクロブテンやポリイミドなどが好適に選ばれる。1THz付近であれば、シクロオレフィンやベンゾシクロブテン、これらよりやや誘電率が高いものの高抵抗のSiなどを選んでもよい。30THz付近であれば、同様の理由で、ZnSeなどを選んでもよい。
【0037】
以上に説明した本実施例では、適切な帯域幅制限を行うことが可能となり、S/N比の向上とイメージを形成するための所要時間の短縮とを同時に実現することができる。
【0038】
(実施例2)
図7は、本発明の画像形成装置及び方法の実施例2を示す図である。
本実施例は、複数画素が一次元状に配された電磁波検出手段706を用いた例に係る。電磁波検出手段706は、例えば、マイクロボロメータアレイと呼ばれるアレイ型検出器によって構成される。したがって、電磁波照射手段705は、例えば、QCLを使用し、これから放射されるテラヘルツ帯の電磁波を更にシリンドリカルレンズ707によって線状の偏平ビームに成型し、対象物701に照射する構成とする。これにより、イメージングされる対象物のほぼ全体の画像形成を行うために動径方向の走査が必要であった実施例1とは異なり、走査を不要とすることができる。
【0039】
図7のこれら以外の構成は、実施例1と同様であって、702は保持部材、703は電磁モータ、704は電磁モータ制御手段、710はトリガ、720はイメージ形成手段である。ただし、対象物701から反射される電磁波は、やはりシリンドリカルレンズなどの集光器708を使って線状の偏平ビームとして検出される。この様にして電磁波検出手段706によって時系列検出信号712が生成される。こうして得た時系列検出信号712は、これまでに説明した様に処理される。
【0040】
ただし、本実施例では、時系列検出信号712は電磁波検出手段706の画素の数に増える。そのため、周期信号713を出力する周期信号発生装置711、乗算器714、加算器715、記憶装置716は更に多くが必要である。もっとも、PCによってこれらを構成することは容易である。
【0041】
この様な構成を活用して対象物701のイメージ形成される領域を具体的にどの様に設定するかを、図8は示す。この場合、電磁波照射手段705によって照射されるのは、例えば、801の照射領域であって、これは図5における照射領域501に対応する。円周方向については、これまでに述べた様にして画像形成が行われる。これと直交する方向については、電磁波検出手段706の画素の数だけ領域を確保し、更に線状の偏平ビームで照射できれば、どの様な照射パターンでもよい。なお、円周方向に沿ってメッシュに仕切られたイメージング領域802は、図5における領域502に対応する。ただし、本実施例でも、動径=0つまり回転軸と一致した領域のみは、対象物と電磁波照射手段や電磁波検出手段の相対的な位置関係が変わらない特異点となる。その他の点は、実施例1と同じである。
【0042】
(実施例3)
図9は、本発明の画像形成装置及び方法の実施例3を示す図である。
本実施例では、図9に示す様に、イメージングされる対象物901は保持部材902に保持され、更に保持部材902は、対象物901と一体になって超音波モータ903によって並進往復運動を行える様になっている。往復並進運動は、一般に、加速と減速を伴い、周期的な動作を安定に行う為にはあまり高速にはできない。しかし、回転運動において唯一の特異点となった回転軸付近の領域の如き領域を発生させず、全ての領域のイメージの形成が可能となる画像形成装置を実現できる。
【0043】
本実施例では、こうして、対象物901と電磁波照射手段905や電磁波検出手段906との位置関係が、1単位の相対位置変化を周期的に複数回繰り返して、周期的に変化する様にする。この場合、1単位の相対位置変化は、1往復であってもよいし、往路と復路を共に1単位としてもよい。前者では、復路では電磁波照射を止めて時系列検出信号912を取得しない。後者では、往路と復路の走査方向が逆になるので、それを考慮して演算処理と記憶を行う。超音波モータ903の周波数は、超音波モータ制御手段904によって制御される。ここでは、周波数f=10Hzに設定して、対象物901が電磁波照射手段905や電磁波検出手段906との位置関係を周波数f=10Hzで繰り返し変化できる様にする(前記後者では、実質的に周波数は20Hzとなる)。その際、周期信号発生器911は、超音波モータ制御器904から抽出したトリガ910を参照して、これと同期したf=10Hzの基本波やその高調波である周期信号913を発生する。あまり高速ではないf=10Hzでも、100Hz以上の高調波におけるフーリエ成分からは1/f雑音が低減できるので、少しでも高速化することには意味がある。ただし、並進運動では、回転運動とは異なり、変位と時間の関係が正弦波状又は余弦波状の様にはなりにくく、そのままではフーリエ成分の抽出がやや難しくなる。そのため、望ましくは、これを補正した時系列検出信号912とするとよい。例えば、往復する長さを、対象物901のこの方向の長さより大きくとって、対象物901のところではほぼ等速で電磁波ビームが変位するようにし、往復運動の両端の部分における電磁波の信号を捨てて時系列検出信号を得るようにする。
【0044】
電磁波照射手段905は、例えば、ガンダイオードであって、ミリ波帯の電磁波を照射するものである。電磁波検出手段906は、例えば、単一画素を有したショットキーバリアダイオードが一次元状に配されて構成される。更に実施例2と同様に、ガンダイオードから放射されるミリ波を更にシリンドリカルレンズなど集光器907によって線状の偏平ビームに成型し、対象物901に照射する構成とする。この様にして、並進運動と直交する方向に関しては線状の偏平ビームで照射すると、実施例2と同様に、対象物のほぼ全体の画像形成を行うための走査を不要とできる。また、回転軸が存在しないため対象物の全ての領域について画像形成を行うことができる。
【0045】
図9のこれら以外の構成は、実施例1と同様であって、914は乗算器、915は加算器、916は記憶装置、920はイメージ形成手段である。ただし、対象物901から反射される電磁波は、やはりシリンドリカルレンズなどの集光器908を使って線状の偏平ビームとして検出される。この様にして電磁波検出手段906によって時系列検出信号912が生成される。こうして得た時系列検出信号912は、これまでに説明した様に処理される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明による画像形成の原理について説明するフローチャート図。
【図2】本発明に係る時系列検出信号と帯域幅の関係を説明する図。
【図3】本発明に係る時系列検出信号と帯域幅の関係を従来例と比較して説明する図。
【図4】本発明に係る画像形成装置を構成する実施例1を示す図。
【図5】実施例1における対象物のイメージングされる領域を示す図。
【図6】実施例1の変形例を示す図。
【図7】本発明に係る画像形成装置を構成する実施例2を示す図。
【図8】実施例2における対象物のイメージングされる領域を示す図。
【図9】本発明に係る画像形成装置を構成する実施例3を示す図。
【符号の説明】
【0047】
102…A領域の検出信号(時間t1における時系列検出信号)
103、113…周期信号
106、116…記憶部(記憶装置)
416、716、916…記憶手段(記憶装置)
112…B領域の検出信号(時間t2における時系列検出信号)
401、601、701、901…対象物
403、703、903…駆動手段(電磁モータ、超音波モータ)
404、704、904…駆動手段(電磁モータ制御手段、超音波モータ制御手段)
405、605、705、905…電磁波照射手段
406、606、706、906…電磁波検出手段
411、711、911…周期信号発生手段(周期信号発生装置)
412、712、912…時系列検出信号
413、713、913…周期信号
414、714、914…演算処理手段(乗算器)
415、715、915…演算処理手段(加算器)
420、720、920…イメージ形成手段(画像形成手段)
501、801…照射領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置であって、
電磁波照射手段と、
電磁波検出手段と、
画像形成の対象物と前記電磁波照射手段における照射部との相対的な位置関係を周期的に変化させるための駆動手段と、
前記位置関係の変化の周期に同期した基本波又はその高調波を含む複数の周期信号を発生する周期信号発生手段と、
複数の記憶部を有する記憶手段と、
演算処理手段と、
画像形成手段とを有し、
前記駆動手段は、前記位置関係の周期的な変化によって、前記対象物を複数領域に時分割し、
前記電磁波検出手段は、前記電磁波照射手段によって前記複数領域にそれぞれ電磁波を照射して得られる透過波又は反射波を、時系列検出信号として取得し、
前記演算処理手段は、
前記複数領域にそれぞれ対応した時間において得られる前記時系列検出信号と、前記複数の周期信号とをそれぞれ乗算する処理と、
前記複数の周期信号に対応してそれぞれ設けられている前記記憶手段の複数の前記記憶部へ、前記複数の乗算結果を加算してそれぞれ記憶させる処理とを行い、
前記画像形成手段は、
前記電磁波検出手段による前記時系列検出信号の取得と前記演算処理手段による処理とが、前記複数領域に対してそれぞれ複数回繰り返された後、
前記複数の周期信号にそれぞれ対応して前記記憶手段の前記記憶部に記憶されている情報に基づいて、前記対象物の一部又は全体の画像形成を行うことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、1単位の相対位置変化を周期的に複数回繰り返すことを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記電磁波検出手段は、単一の画素を有した検出器であって、
前記対象物からの透過波又は反射波を前記検出器で検出することを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記電磁波検出手段は、複数の画素を有した検出器であって、
前記対象物からの透過波又は反射波を前記検出器で検出することを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記駆動手段は、前記対象物を回転運動させるものであること特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記駆動手段は、前記対象物を往復並進運動させるものであること特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記電磁波照射手段から照射される電磁波の周波数は30GHz乃至30THzの周波数領域内の周波数を含むことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−249695(P2008−249695A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45941(P2008−45941)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】