説明

画像形成装置及び画像形成方法

【課題】光導電層と表面層の間に設けられた光導電層方向から表面層方向に向かって組成が連続的に変化するアモルファスシリコン系感光体とピーク波長が380nm以上500nm以下の像露光を用いた画像形成装置、画像形成方法において、ゴーストメモリーが抑制され、干渉縞の生じない高品質な画像を提供可能とする。
【解決手段】前露光手段よりアモルファスシリコン系感光体に照射される光が少なくとも2つのピーク波長を有しており、最も短いピーク波長をX(nm)、最も長いピーク波長をY(nm)として、像露光手段よりアモルファスシリコン系感光体に照射される光のピーク波長A(nm)との関係を、X<A、かつY>A、とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像形成装置及び画像形成方法に関し、特にアモルファスシリコン系感光体及び380nm以上500nm以下の波長の光を像露光に用いたプリンター、ファクシミリ、複写機などに適した画像形成装置及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンター、ファクシミリ、複写機などに用いられる電子写真装置においては、帯電手段により帯電した感光体に光を照射し、画像に相当する部分以外、あるいは画像に相当する部分を露光することにより画像に対応した静電潜像を感光体に形成し、これにトナーを供給して静電潜像を現像し、静電潜像に付着したトナーを転写体へ転写した後に定着することで電子写真画像を得る。一方、トナー像を転写体へ転写した感光体はその表面を除電する工程を経た後、次サイクルの画像形成工程が開始される。
【0003】
従来の画像形成装置は例えば図2に示したようなものである。図2において、101はアモルファスシリコン系感光体(以下「a−Si系感光体」と称す)、102は前露光手段、104は一次帯電器、105は不図示の像露光手段より照射された像露光、106は現像手段、107はポスト帯電器、108は給紙部、109は転写・分離帯電器、110は搬送装置、111はクリーニング手段である。
【0004】
a−Si系感光体101は図2に示した方向から見ると時計方向に回転し、その表面が一次帯電器104により一様帯電がなされる。その後、不図示の像露光手段より画像信号に基づいた像露光105が照射されてa−Si系感光体101の表面に潜像が形成され、続いて現像手段106によって可視像のトナー像が形成される。
【0005】
一方、給紙部108より供給された転写紙はa−Si系感光体101と転写・分離帯電器109の間に搬送され、転写・分離帯電器109の作用によってa−Si系感光体101上のトナー像の転写を受けた後、a−Si系感光体101から分離され、搬送装置110によって不図示の定着装置に搬送される。前露光手段102よりa−Si系感光体に照射される光はa−Si系感光体内部に潜在する光キャリアを過多にし全面で均一になるようにして、光メモリーを消去する。
【0006】
前露光手段102よりa−Si系感光体に照射される光の波長は一般的には像露光105の波長と同等、もしくは長く設定される。これはa−Si系感光体での前露光の光吸収率を像露光105と同等、もしくは小さくすることで、前露光による光キャリア発生領域を像露光による光キャリア発生領域と同等、もしくは広くなるようにするためである。
【0007】
このような電子写真装置の画像形成に用いられる感光体における光導電材料としては、高感度で、SN比〔光電流(Ip)/暗電流(Id)〕が高く、照射する電磁波のスペクトル特性に適合した吸収スペクトルを有すること、光応答性が早く、所望の暗抵抗値を有すること、使用時において人体に対して無害であること等の特性が要求される。特に、事務機としてオフィスで使用される電子写真装置内に組み込まれる感光体の場合には、上記の使用時における無公害性は重要な点である。このような点に優れた性質を示す光導電材料にアモルファスシリコンがあり、電子写真感光体の光導電部材として多用されている。
【0008】
アモルファスシリコンを光導電部材として用いた感光体は、一般的には、導電性基体を50℃〜350℃に加熱し、該基体上に真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、熱CVD法、光CVD法、プラズマCVD法等の成膜法によりa−Siからなる光導電層を形成する。なかでもプラズマCVD法、すなわち、原料ガスを高周波あるいはマイクロ波グロー放電によって分解し、基体上にa−Si堆積膜を形成する方法が好適なものとして採用され、このように形成した光導電層上に、磨耗や、温度、湿度などの使用環境に対して耐久性を付与する表面層を積層し、実用に適した感光体が製造されている。
【0009】
一方、近年電子写真装置のデジタル化、カラー化へのシフトが急速に進み、その高画質化への要求は以前に増して高まっている。ここでいう高画質とは、高解像であること、高精細であること、濃度ムラが少ないこと、画像欠陥(白抜けや黒点など)が少ないことを指している。
【0010】
これらのうち高解像に関しては、トナーの小粒径化と並んで、像形成用のレーザー光のスポット径を小さくすることが有効である。レーザー光のスポット径を小さくする手段としては、レーザー光を光導電層に照射する光学系の精度を向上させたり、結像レンズの開口率を大きくしたりすること等が挙げられる。結像レンズの開口率を大きくするにはレンズの大型化や機械精度の向上等の理由により装置の大型化やコスト上昇は避け難い。
【0011】
そのため、近年、レーザー光の波長を短くしてスポット径を小さくし、静電潜像の解像度を高めるという技術が注目されている。これは、レーザー光のスポット径の最小値がレーザー光の波長に正比例することによる。従来の電子写真装置においては、画像露光の際に600〜800nmの発振波長を有するレーザー光が一般的に用いられており、この波長をさらに短くすることで画像の解像度を高めることができる。近年、発振波長の短い半導体レーザーの開発が急速に進んでおり、日亜化学工業(株)では1995年に410nmに発振波長を有する青色半導体レーザーの開発に成功している。これを機に、400nm近辺に発振波長を有する半導体レーザーの実用化が図られ、そのような短波長帯の光に対応できる感光体が要請されている。
【0012】
そのような短波長光を用いた技術としては、感光層が水素化a−Siを含有する層であり、露光手段が380nm〜450nmに主たる発振波長を有する紫外青紫色レーザー光発振器を具備することを特徴とする画像形成装置(例えば特許文献1参照)や、a−Si系感光体を用い、画像形成光線を露光する時点に於ける感光体にかかる電界が150kV/cm以上であり、画像形成光線の波長が500nm以下であることを特徴とする電子写真装置が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0013】
400nm近辺に発振波長を有する半導体レーザーを画像露光に使用した場合に感光体に要請されることは、第一には、露光波長に関して十分な感度を有すること、第二には、表面層にて露光波長がほとんど吸収されないことである。a−Si系の感光層は感度のピークが600〜700nm付近であるため、ピーク感度に比べればやや劣るものの、条件を工夫すれば400〜410nm付近の感度は有しており、例えば、405nmの短波長レーザーを用いた場合でも使用可能である。ただし、感度的にはピーク感度に比べて半分前後となる場合もあり、その場合に表面層における吸収が殆どないことが好ましいことになる。このような観点から、従来表面層に好適に用いられてきたアモルファス炭化シリコン(以降a−SiC)系材料やアモルファスカーボン(以降a−C)系材料に変わる表面層材料として、アモルファス窒化シリコン(以降a−SiN)系材料等を用いる技術の開発が進められており、例えば特許文献3には表面層として好適なa−SiN系の膜の作成条件が開示されている。
【0014】
このようなトナー、潜像形成用レーザー光、感光体の改善により解像度の向上、高画質化は着々と進められているが、これら技術が有するポテンシャルを最大限に活かすためには、これらをいかに適切に組み合わせるか、あるいは画像形成装置の他の機構をいかにこれら技術に適した構成に改善するかといった画像形成装置トータルとしての工夫が求められるが、これらに関してはまだ改善の余地が多く残されている。
【特許文献1】特開2000−258938号公報
【特許文献2】特開2002−311693号公報
【特許文献3】特開平5−150532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように短波長光を像露光として用いることで解像度が向上し、解像度という観点での高画質化は可能となってきた。しかしながら、他の高画質化の観点、即ち濃度むらが少ないこと、画像欠陥(白抜けや黒点など)が少ないこと等の観点からの改善はまだ明確な方向性が十分には示されていない。これらのうちの1つとして、濃度むらの一種であるゴーストメモリーが挙げられる。ゴーストメモリーとは前回のプロセス工程で形成した画像の残像が次回のプロセス工程で現れてしまう現象である。このようなゴーストメモリーは写真のように中間調画像をコピーした場合、あるいはカラー画像をコピーした場合に特に画像品質を大きく損ねてしまい、解像度としては十分であっても画像全体としては“高画質”を達成できない場合がある。
【0016】
ゴーストメモリーの低減方法として、感光体製造方法では光導電層のキャリアの走行性を高めるためドーパントを多めに入れる方法や画像形成装置としては前露光の光量を多くする方法が従来よく知られている。しかしながら、感光体の光導電層に多量のドーパントを入れた場合には帯電能を低下させてしまったり、画像形成プロセス開始直後の電位変化を大きくする等の弊害が生じてしまう場合がある。また、前露光の光量を多くした場合にも帯電能を低下させる方向としてしまうことが知られている。このようなことから、従来は帯電能とゴーストメモリーのバランスを考慮しながら感光体の光導電層に導入するドーパント量や前露光光量を調整していた。したがって、このような調整手段によりゴーストメモリーを更に抑制するためには他の特性、主に帯電能を犠牲にせざるを得ない場合が多かった。
【0017】
本発明は上記課題の解決を目的とするものである。即ち、帯電能の低下を最小限に抑えながらも解像度が高く、ゴーストメモリーが抑制された画像を得る事が可能な画像形成方法、画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、前露光として2つのピーク波長を有する光を用い、それらの波長と像露光の波長を特定の関係とすることで帯電能の低下を最小限に抑えながら、ゴーストメモリーを効果的に低減させることが可能であることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0019】
即ち、本発明は、少なくともa−Si系感光体と帯電手段と像露光手段と前露光手段とを備え、該a−Si系感光体は少なくともアモルファスシリコンを主成分とする光導電層とその上に形成される表面層と該光導電層と該表面層の間に設けられ該光導電層方向から該表面層方向にむかって組成が連続的に変化する変化層を有し、更に、該像露光手段より該a−Si系感光体に照射される光はそのピーク波長が380nm以上500nm以下の画像形成装置において、該前露光手段より該a−Si系感光体に照射される光は少なくとも2つのピーク波長を有しており、最も短いピーク波長をX(nm)、最も長いピーク波長をY(nm)としたときに、該像露光手段より該a−Si系感光体に照射される光の波長A(nm)との関係が、
X<A、かつY>A
であることを特徴とする。
【0020】
このような本発明によれば、帯電能の低下を最小限に抑えながらも解像度が高く、ゴーストメモリーが抑制された画像を得る事が可能となる。
【0021】
なお、本発明においてピーク波長とは光エネルギーが極大値をとり、その波長から長波長側、及び低波長側に向かって光エネルギーが該極大値に対して1/2以下となるまで実質的に単調減少する場合の波長を指す。
【0022】
このような本発明について、以下、図を用いて詳述する。
【0023】
図1は本発明に用いることができる画像形成装置の概略構成図の一例である。図1において、101はa−Si系感光体、102は第1の前露光手段、103は第2の前露光手段、104は一次帯電器、105は不図示の像露光手段より照射された像露光、106は現像手段、107はポスト帯電器、108は給紙部、109は転写・分離帯電器、110は搬送装置、111はクリーニング手段である。
【0024】
a−Si系感光体101は図1に示した方向から見ると時計方向に回転し、その表面が一次帯電器104により一様帯電がなされる。その後、不図示の像露光手段より画像信号に基づいた像露光105が照射されてa−Si系感光体101の表面に潜像が形成され、続いて現像手段106によって可視像のトナー像が形成される。
【0025】
一方、給紙部108より供給された転写紙はa−Si系感光体101と転写・分離帯電器109の間に搬送され、転写・分離帯電器109の作用によってa−Si系感光体101上のトナー像の転写を受けた後、a−Si系感光体101から分離され、搬送装置110によって不図示の定着装置に搬送される。転写紙にトナー像を転写したa−Si系感光体101はその後クリーニング手段111によって表面の不要トナーがクリーニングされ、第1の前露光手段102、及び第2の前露光手段103によってその表面が除電された後、次工程に進む。
【0026】
本発明の効果を得るためには、第1の前露光手段102から照射される光の波長と第2の前露光手段103から照射される光の波長、及び像露光105の波長を特定の関係となるよう設定する。即ち、第1の前露光手段102、第2の前露光手段103のうちの一方を像露光105の波長よりも短く設定し、他方を像露光105の波長よりも長く設定する。
【0027】
また、本発明に用いるa−Si系感光体101は光導電層方向から表面層方向に向かって組成が連続的に変化する変化層を有している。本発明に用いられるa−Si系感光体101の具体的層構成は例えば図3に示すようなものである。また、このような画像形成装置に用いることができるa−Si系感光体の層構成は図3に示したようなものである。
【0028】
図3(a)に示す電子写真用感光体300は、支持体301の上に、a−Si:H,Xからなり光導電性を有する光導電層302と、表面層303、及びその間に配置され光導電層302方向から表面層303方向に向かって組成が連続的に変化する変化層307を有している。
【0029】
図3(b)に示す電子写真用感光体300は、支持体301の上に、a−Si:H,Xからなり光導電性を有する光導電層302と、表面層303と、アモルファスシリコン系電荷注入阻止層304、及びその間に配置され光導電層302方向から表面層303方向に向かって組成が連続的に変化する変化層307とから構成されている。
【0030】
図3(c)に示す電子写真用感光体300は、支持体301の上に、光導電層302が設けられている。該光導電層302はアモルファスシリコン系の電荷発生層305ならびに電荷輸送層306とからなり、更に表面層303、及び光導電層302と表面層303の間に配置され光導電層302方向から表面層303方向に向かって組成が連続的に変化する変化層307が設けられている。
【0031】
また、図3に示した層構成のほかに、例えば、変化層307の下または上に上部電荷注入阻止層を配置してもよいし、あるいは光導電層302と表面層303の間に2つ以上の変化層を設けても良く、更にはこれら2つ以上の変化層が連続的に設けられていてもよいし、2つ以上の変化層が実質的に組成が一定な一定層を挟んで設けられていてもよい。
【0032】
変化層307の上、または下に上部電荷注入阻止層、一定層を設ける場合には、画像形成時の露光による干渉が実質的に問題となるレベルで生じないように、ガス組成等の製造条件を調整して屈折率の急激な変化が生じないようにする。
【0033】
本発明に用いることができるa−Si系感光体の各層の具体的材料としては、従来公知の材料を用いることができる。例えば表面層材料としては水素原子(H)及び/またはハロゲン原子(X)含有し、更に炭素原子を含有するアモルファスシリコン(以下「a−SiC:H,X」と表記する)、水素原子(H)及び/またはハロゲン原子(X)を含有し、更に酸素原子を含有するアモルファスシリコン(以下「a−SiO:H,X」と表記する)、水素原子(H)及び/またはハロゲン原 子(X)を含有し、更に窒素原子を含有するアモルファスシリコン(以下「a−SiN:H,X」と表記する)、水素原子(H)及び/またはハロゲン原子(X)を含有し、更に炭素原子、酸素原子、窒素原子の少なくとも一つを含有するアモルファスシリコン(以下「a−SiCON:H,X」と表記する)、水素原子(H)及び/またはハロゲン原 子(X)を含有するアモルファスカーボン(以下「a−C:H,X」と表記する)等が挙げられるが、これらのうち、380nm〜500nmの光に対して透過性が高いという観点からa−SiN:H,Xが好適である。また、スパッタリング法により形成可能なフッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化ランタン(LaF)等の金属フッ化物も好適である。
【0034】
変化層307は光導電層302と表面層303の屈折率の違いにより光導電層302と表面層303の界面で光が反射することによって生じる干渉を抑制することを主の目的とし、場合によっては光導電層302と表面層303の密着性向上の役割を果たす。具体的には、光導電層302から表面層303に向かって組成が連続的に変化する構成とし、これにより、光導電層302から表面層303に向かって屈折率が連続的に変化する構成とする。光導電層302、変化層307、表面層303がこの順で積層される場合には、変化層307は光導電層302の材料組成から表面層303の材料組成へと連続的に変化させる。例えば、光導電層材料が水素原子(H)及び/またはハロゲン原子(X)含有するアモルファスシリコン(以下「a−Si:H,X」と表記する)であって表面層303がa−SiN:H,Xの場合には、変化層307は光導電層302側から表面層303側に向かって窒素量が連続的に増加する構成とすればよい。
【0035】
また、光導電層302の上に上部電荷注入層等の一定層を設け、その上に変化層307、表面層303を積層する場合には、変化層307は一定層の組成から表面層303の組成に連続的に変化するように構成すればよい。光導電層302、変化層307を積層した後、一定層を形成し、更にその上に表面層303を形成する場合には、変化層307は光導電層302の組成から一定層の組成に連続的に変化するように構成すればよい。
【0036】
なお、本発明において「組成が連続的に変化する」とは、その材料を構成する主要元素の比率が連続的に変化することを指すものであって、電気特性を制御するためのドーパントは連続的に変化している必要はない。前記ドーパントとしては、半導体分野における、いわゆる不純物を挙げることができ、p型伝導特性を与える周期律表第13族に属する原子(以後「第13族原子」と略記する)またはn型伝導特性を与える周期律表第15族に属する原子(以後「第15族原子」と略記する)を用いることができる。
【0037】
第13族原子としては、具体的には、硼素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)等があり、特にB、Al、Gaが好適である。第15族原子としては、具体的には燐(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等があり、特にP、Asが好適である。
【0038】
このようなa−Si系感光体の製造は従来公知の方法により行うことができる。図4は電源としてRF帯の周波数を用いたRFプラズマCVD法(以後「RF−PCVD」と略記する)による電子写真用感光体の形成装置の一例を示す模式的な構成図である。図4に示す形成装置の構成は以下の通りである。
【0039】
この装置は大別すると、堆積装置2100、原料ガスの供給装置2200、反応容器2101内を減圧にするための排気装置(図示せず)から構成されている。堆積装置2100中の反応容器2101内には円筒状基体2112、基体加熱用ヒーターを内蔵した基体支持体2113、原料ガス導入管2114が設置され、更に高周波マッチングボックス2115が反応容器2101の一部を構成するカソード電極2111に接続されている。カソード電極2111は碍子2120によりアース電位と絶縁され、基体支持体2113を通してアース電位に維持されアノード電極を兼ねた円筒状基体2112との間に高周波電圧が印加可能となっている。
【0040】
原料ガス供給装置2200は、SiH、N、NO、H、CH、B、PH等の原料ガスのボンベ2221〜2226とバルブ2231〜2236,2241〜2246,2251〜2256およびマスフローコントローラー2211〜2216から構成され、各原料ガスのボンベはバルブ2260介して反応容器2111内のガス導入管2114に接続されている。
【0041】
この装置を用いた堆積膜の形成は、例えば以下のように行うことができる。まず、反応容器2101内に円筒状基体2112を設置し、不図示の排気装置(例えば真空ポンプ)により反応容器2101内を排気する。続いて、基体支持体2113に内蔵された基体加熱用ヒーターにより円筒状基体2112の温度を200℃乃至350℃の所定の温度に制御する。
【0042】
堆積膜形成用の原料ガスを反応容器2101に流入させるには、ガスボンベのバルブ2231〜2237、反応容器のリークバルブ2117が閉じられていることを確認し、又、流入バルブ2241〜2246、流出バルブ2251〜2256、補助バルブ2260が開かれていることを確認して、まずメインバルブ2118を開いて反応容器2111およびガス配管内2116を排気する。
【0043】
次に真空計2119の読みが所定の値になった時点で補助バルブ2260、流出バルブ2251〜2256を閉じる。
【0044】
その後、ガスボンベ2221〜2226より各ガスをバルブ2231〜2236を開いて導入し、圧力調整器2261〜2266により各ガス圧を所定の値に調整する。次に、流入バルブ2241〜2246を徐々に開けて、各ガスをマスフローコントローラー2211〜2216内に導入する。以上のようにして成膜の準備が完了した後、以下の手順で各層の形成を行う。円筒状基体2112が所定の温度になったところで流出バルブ2251〜2256のうちの必要なものおよび補助バルブ2260を徐々に開き、ガスボンベ2221〜2226から所定のガスをガス導入管2114を介して反応容器2101内に導入する。
【0045】
次にマスフローコントローラー2211〜2216によって各原料ガスが所定の流量になるように調整する。その際、反応容器2101内の圧力が所定の値になるように真空計2119を見ながらメインバルブ2118の開口を調整する。内圧が安定したところで、周波数13.56MHzのRF電源(不図示)を所望の電力に設定して、高周波マッチングボックス2115、カソード2111を通じて反応容器2101内にRF電力を導入し、円筒状基体2112をアノードとして作用させてグロー放電を生起させる。この放電エネルギーによって反応容器内に導入された原料ガスが分解され、円筒状基体2112上に所定のシリコンを主成分とする堆積膜が形成されるところとなる。所望の膜厚の形成が行われた後、RF電力の供給を止め、流出バルブを閉じて反応容器へのガスの流入を止め、堆積膜の形成を終える。
【0046】
同様の操作を複数回繰り返すことによって、所望の多層構造の光受容層が形成される。
【0047】
それぞれの層を形成する際には必要なガス以外の流出バルブはすべて閉じられていることは言うまでもなく、また、それぞれのガスが反応容器2101内、流出バルブ2251〜2256から反応容器2101に至る配管内に残留することを避けるために、流出バルブ2251〜2256を閉じ、補助バルブ2260を開き、さらにメインバルブ2118を全開にして系内を一旦高真空に排気する操作を必要に応じて行う。
【0048】
膜形成の均一化を図るために、層形成を行なっている間は、円筒状基体2112を駆動装置(不図示)によって所定の速度で回転させることも有効である。
【0049】
さらに、上述のガス種およびバルブ操作は各々の層の作成条件にしたがって変更が加えられることは言うまでもない。
【0050】
このような本発明によりゴーストメモリーの抑制が可能となり、高画質の画像を得る事が可能となる効果がなぜ生じるのかに関しては現在のところ明らかになっていないが、a−Si系感光体の光導電層と表面層の間に設けられた変化層での光生成キャリアが関与しているのではないかと推察している。表面層は光導電層へ所定の入射光量が到達するように光導電層よりもバンドギャップが広い材料で構成される。また、光導電層と表面層の間に設けられる変化層は光導電層と表面層の間の組成となっているため、光導電層よりもバンドギャップが広い構成となっている。このため、従来の例えば600nm等の比較的波長の長い像露光を用いた場合には、表面層及び変化層での光吸収は小さく、そこで生成される光キャリアの影響は実質的に影響を及ぼさないレベルであったものと考えられる。
【0051】
これに対して、380nm〜500nmの比較的短い波長の像露光を用いた場合には、表面層及び変化層で光吸収を生じ、光キャリアが生じる。表面層は画像流れが生じないように、感光体表面での電荷の流れが生じないレベルの電気抵抗に設定されているため、そこで生じた光キャリアの多くはその場で再結合し、電気特性に大きな影響を及ぼさない。これに対して、変化層は光導電層と表面層の間の組成のため、キャリアの走行性は光導電層でのキャリアの走行性に比べ小さいものの、電気特性に影響を及ぼす程度の走行性を有する。
【0052】
このため、像露光により変化層で生じた光キャリアはそのサイクルでは十分にはき出されず、次サイクルに入ってからはき出され、次サイクルで感光体表面の帯電電荷をキャンセルし、ゴーストメモリーを生じてしまうものと推察される。従来の前露光、即ち、像露光と同等の波長もしくは像露光よりも長い波長の光を用いた前露光では、この変化層での光キャリアの生成が十分ではなく、ゴーストメモリーが生じやすくなっていたものと推察される。また、この変化層での光キャリアの生成を十分に増やすために光量を増やした場合、光導電層での光キャリアの生成が過剰となってしまい、帯電能の不要な低下をもたらしていたのではないかと推察する。
【0053】
また、逆に前露光の波長を像露光の波長よりも短く設定した場合には、変化層での光キャリア生成量を適正化すると光導電層での光キャリア生成が不足してゴーストメモリーを生じ、光導電層での光キャリア生成量を適正化すると変化層での光キャリア生成が過剰となってしまい、帯電能の不要な低下をもたらしていたものと推察される。
【0054】
本発明においては、前露光として像露光の波長よりも長い光と像露光の波長よりも短い光を有する構成であるため、同一波長に対して光吸収率が異なる複数の層を有する場合においても光生成キャリアの発生量を各層毎に適正化可能となり、上記のような問題が回避され、不要な帯電能の低下を伴うことなくゴーストメモリーの抑制が可能となるのではないかと推察される。
【0055】
本発明においては、像露光手段よりa−Si系感光体に照射される光はそのピーク波長が380nm以上420nm以下とすることが好ましい。420nm以下とすることで不要な帯電能の低下を伴うことなくゴーストメモリーの抑制が可能となる本発明の効果をより顕著に得る事ができる。
【0056】
また、画像形成装置は更にクリーニング手段を有し、前露光手段はクリーニング手段と該帯電手段の間に設けられていることが好ましい。前露光手段をクリーニング手段の前に設けた場合、感光体上にトナー像が残った状態で前露光を照射することとなる。このような場合においても本発明の効果は得られるものの、トナー像が残っている個所と残っていない個所で感光体に入射する光量が異なるため、どちらの光量においても感光体内部に発生させる光キャリアの量が適正範囲に入るように調整する必要が生じる。これに対して、前露光手段をクリーニング手段と帯電手段の間に設けることによって、感光体に入射する光量は感光体全域で同じになり、前露光光量の適正範囲のラチチュードが広がり、本発明の効果をより安定して得る事ができる。
【0057】
また、前露光手段が少なくとも1つの波長の光のエネルギーを独立に制御可能な光源であることが好ましく、更には前露光手段が少なくとも2つの波長の光のエネルギーを独立に制御可能な光源であることがより好ましい。本発明は前露光の複数の波長のエネルギー比率が本発明の効果を得る上で重要なポイントとなる。このエネルギー比率は用いる感光体の特性に応じて適宜設定することとなり、用いる感光体の特性が同じであれば基本的には同じエネルギー比率で本発明の効果を得る事ができる。しかしながら、実際には同じ条件で作製した感光体であってもその特性は感光体毎に若干異なるのが現実であり、その差異を調整し、本発明の効果を最大限に得る上で前露光の1つの波長のエネルギーを独立に制御可能であることが好ましく、更には前露光の複数の波長のエネルギーを独立に制御可能であることがより好ましい。
【0058】
そして、前露光手段は波長の異なる光を発光する素子が該a−Si系感光体の母線軸方向に交互に設けられた構成とすることが、本発明の効果を維持しながら装置の小型化を実現する上で好ましい。図5はこのような前露光手段の一例を模式的に示した図である。500は前露光手段、501は像露光の波長よりも短い波長の光を発光する短波長発光手段、502は像露光の波長よりも長い波長の光を発光する長波長発光手段であり、軸方向に交互に配置されている。そして、その配置間隔は短波長発光手段501から照射される光が感光体表面で実質的に均一な光量となるよう、更に、長波長発光手段502から照射される光が感光体表面で実質的に均一な光量となるように設定すればよく、具体的間隔は前露光手段と感光体との距離、短波長発光手段501、長波長発光手段502の表面に必要に応じて設けられる不図示のレンズ形状によって異なるので感光体表面での光量を測定して適宜設定する。
【0059】
このような前露光手段を用いる場合には画像形成装置の構成としては図2に示した構成でよく、前露光手段102を従来の単一波長の光を発する前露光手段に替えて、図5に示した2つの波長の光を発する前露光手段を用いる。また、前露光手段としてa−Si系感光体の母線軸方向に列状に並んだ複数の発光手段がa−Si系感光体の周方向に少なくとも2列設ける構成とすることで、感光体表面での前露光光量の均一化が容易となり、均一性の向上が可能となるので本発明の効果を顕著に得るために好ましい。
【0060】
そして、このような構成とする場合には帯電手段から最も離れた列に並べられた発光手段より照射される光の波長が帯電手段に最も近い列に並べられた発光手段より照射される光の波長よりも長くすることが好ましい。この原因については明確にはなっていないが、長波長光のほうが感光体の深い位置にキャリアを生成するため、帯電工程での過剰キャリアのはき出しが不十分になりやすく、次サイクルへの影響を及ぼしやすいことが関係しているのではないかと推察している。長波長光の方が光照射から帯電工程までの時間が長く設定されるため、帯電工程まででの過剰キャリアの再結合率が高くなり、帯電工程に至った時点での過剰キャリア数が減少し、帯電工程でのキャリアのはき出し不足が生じにくくなるのではないかと推察している。
【発明の効果】
【0061】
以上説明したように、本発明によれば、光導電層と表面層の間に設けられた光導電層方向から表面層方向に向かって組成が連続的に変化するa−Si系感光体とピーク波長が380nm以上500nm以下の像露光を用いた画像形成装置、画像形成方法において、ゴーストメモリーが抑制され、干渉縞の生じない高品質な画像を提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【実施例】
【0063】
[実施例1]
図4に示す堆積膜形成装置により、表1に示す条件で電荷注入阻止層、光導電層、変化層、表面層からなる電子写真感光体を形成した。電子写真感光体の形成手順は概略以下のようにして行った。
【0064】
まず、反応容器2101内に円筒状基体2112を設置し、不図示の排気装置により反応容器2101内を排気した。続いて、基体支持体2113に内蔵された基体加熱用ヒーターにより円筒状基体2112の温度を260℃に制御した。
【0065】
次に、堆積膜形成用の原料ガスを反応容器2101に流入させるために、ガスボンベのバルブ2231〜2237、反応容器のリークバルブ2117が閉じられていることを確認し、叉、流入バルブ2241〜2246、流出バルブ2251〜2256、補助バルブ2260が開かれていることを確認して、まずメインバルブ2118を開いて反応容器2111およびガス配管内2116を排気した。真空計2119の読みが所定の値になった時点で補助バルブ2260、流出バルブ2251〜2256を閉じた。
【0066】
その後、ガスボンベ2221〜2226より各ガスをバルブ2231〜2236を開いて導入し、圧力調整器2261〜2266により各ガス圧を調整した。次に、流入バルブ2241〜2246を徐々に開けて、各ガスをマスフローコントローラー2211〜2216内に導入した。
【0067】
以上のようにして成膜の準備が完了した後、以下の手順で各層の形成を行った。
【0068】
流出バルブ2251〜2256のうちの必要なものおよび補助バルブ2260を徐々に開き、ガスボンベ2221〜2226から所定のガスをガス導入管2114を介して反応容器2101内に導入した。次にマスフローコントローラー2211〜2216によって各原料ガスが表1に示した電荷注入阻止層条件の流量になるように調整した。その際、反応容器2101内の圧力が表1に示した電荷注入阻止層の値になるように真空計2119を見ながらメインバルブ2118の開口を調整した。内圧が安定したところで、周波数13.56MHzのRF電源(不図示)を表1に示した電荷注入阻止層の電力に設定して、高周波マッチングボックス2115、カソード2111を通じて反応容器2101内にRF電力を導入し、円筒状基体2112をアノードとして作用させてグロー放電を生起させ、円筒状基体2112上に電荷注入阻止層を形成した。表1に示した膜厚の電荷注入阻止層の形成を行った後、RF電力の供給を止め、流出バルブを閉じて反応容器へのガスの流入を止めた。
【0069】
次に、流出バルブ2251〜2256を閉じ、補助バルブ2260を開き、さらにメインバルブ2118を全開にして系内を一旦高真空に排気した後、電荷注入阻止層を形成した時と同様にして表1に示す条件で光導電層を形成した。表1に示した膜厚の光導電層の形成を行った後、RF電力の供給を止めずに、また流出バルブを閉じずに、連続して表1に示した条件の変化層の形成を行った。変化層では表1に示したようにガス流量、RF電力、圧力を徐々に連続的に変化させ所定膜厚の形成を行った。
【0070】
変化層の形成が終了したら、RF電力の供給を止めずに、また流出バルブを閉じずに、連続して表1に示した条件の表面層の形成を行った。表1に示した膜厚の表面層を形成した後、RF電力の供給を止め、流出バルブを閉じて反応容器へのガスの流入を止めて電子写真感光体の形成を終了した。
【0071】
【表1】

【0072】
このようにして形成された感光体を、図1に示した構成の電子写真装置(キヤノン製電子写真装置iR−6000を本検討用に改造し、前露光手段を2つ設置可能とし、また、像露光のピーク波長を380nm、400nm、420nm、450nm、500nmの各々に変更可能としたもの)に設置し、第1の前露光手段102より感光体に照射される第1の前露光のピーク波長、第2の前露光手段103より感光体に照射される第2の前露光のピーク波長、像露光105のピーク波長を表2に示す5条件として、ゴーストメモリーの評価を行った。なお、第1の前露光手段、第2の前露光手段は共に、感光体の母線軸方向に列状に発光手段を複数並べた構成とした。また、第1の前露光手段、第2の前露光手段から感光体表面に照射される光のエネルギーは不図示の駆動回路により各々独立に制御可能とした。
【0073】
ゴーストメモリーの具体的評価方法は以下のようにした。
ゴーストメモリー …… 一次帯電器の電流値を所定値とし、現像器位置における暗部電位が所定の値となるよう、第1の前露光の光量、及び第2の前露光の光量を調整した。第1の前露光の光量と第2の前露光の光量の比率は以下に示すゴーストメモリーの評価値が最も良好となる比率に設定した。次いで、所定の白紙を原稿とした際の明部電位が所定の値となるよう像露光光量を調整した。この状態で反射濃度0.3のA3サイズの中間調原稿に反射濃度1.5、直径10mmの黒丸を図6のように貼り付けた本テスト用のチャートを原稿台に置きコピーした際のコピー画像において、中間調コピー上に認められる直径10mmの黒丸の反射濃度と中間調部分の反射濃度との差を測定した。なお、図6において、601は反射濃度0.3のA3サイズの中間調原稿、602は反射濃度1.5、直径10mmの黒丸である。黒丸602は20mm間隔で列状に2列並べられており、列と列は20mm間隔とした。
このような測定を感光体母線方向全領域にわたって行い、その中の最大反射濃度差をゴーストメモリーの値とした。従って、数値が小さいほどゴーストメモリーが良好であることを示す。
【0074】
[比較例1]
実施例1で用いた電子写真装置において、第2の前露光手段を取り外し、実施例1で用いた感光体を設置し、表2に示す5条件でゴーストメモリーの評価を行った。ゴーストメモリーの具体的評価方法は実施例1と同様とした。
【0075】
実施例1、比較例1の評価結果を表2に示す。表2において、評価結果は各像露光波長毎に比較例1の評価結果を基準とし、ゴーストメモリーの値が1/2未満まで良化したものを◎、1/2以上3/4未満まで良化したものを◎〜〇、3/4以上7/8未満まで良化したものを〇、7/8以上9/8未満を△、9/8以上を×で示した。
【0076】
表2より、本発明により帯電能の低下をもたらすことなくゴーストメモリーを改善できることが明らかとなった。また、像露光波長が380nm以上420nm以下において特にゴーストメモリーが良好で、本発明の効果が顕著に得られることが明らかとなった。
【0077】
【表2】

【0078】
[実施例2]
図4に示す堆積膜形成装置により、表3に示す条件で電荷注入阻止層、光導電層、変化層、表面層からなる電子写真感光体を形成した。電子写真感光体の形成手順は実施例1と同様とした。
【0079】
作製した感光体を実施例1で用いた電子写真装置に設置し、第1の前露光手段102より感光体に照射される第1の前露光のピーク波長を400nm、第2の前露光手段103より感光体に照射される第2の前露光のピーク波長を440nm、像露光105のピーク波長を420nmとしてゴーストメモリーの評価を行った。なお、第1の前露光手段、第2の前露光手段は共に、感光体の母線軸方向に列状に発光手段を複数並べた構成とした。また、第1の前露光手段、第2の前露光手段から感光体表面に照射される光のエネルギーは不図示の駆動回路により各々独立に制御可能とした。
【0080】
ゴーストメモリーの具体的評価方法は実施例1と同様とした。
【0081】
【表3】

【0082】
[実施例3]
実施例2で作製した感光体を実施例2で用いた電子写真装置に設置し、第1の前露光手段102より感光体に照射される第1の前露光のピーク波長を440nm、第2の前露光手段103より感光体に照射される第2の前露光のピーク波長を400nm、像露光105のピーク波長を420nmとしてゴーストメモリーの評価を行った。なお、第1の前露光手段、第2の前露光手段は共に、感光体の母線軸方向に列状に発光手段を複数並べた構成とした。また、第1の前露光手段、第2の前露光手段から感光体表面に照射される光のエネルギーは不図示の駆動回路により各々独立に制御可能とした。
【0083】
ゴーストメモリーの具体的評価方法は実施例1と同様とした。
【0084】
[比較例2]
実施例3において第2の前露光手段103を取り外す以外は実施例3と同様にしてゴーストメモリーの評価を行った。ゴーストメモリーの具体的評価方法は実施例1と同様とした。
【0085】
前露光のピーク波長は440nm、像露光105のピーク波長は420nmである。
【0086】
実施例2、実施例3、比較例2の評価結果を表4に示す。表4において、評価結果は比較例2の評価結果を基準とし、ゴーストメモリーの値が1/2未満まで良化したものを◎、1/2以上3/4未満まで良化したものを◎〜〇、3/4以上7/8未満まで良化したものを〇、7/8以上9/8未満を△、9/8以上を×で示した。
【0087】
表4より、帯電能の低下をもたらすことなくゴーストメモリーを改善できる本発明の効果が確認された。また、感光体の母線軸方向に列状に並んだ発行素子を2列設けた前露光手段の構成において、帯電手段から離れた列に並べられた発光手段から照射される光の波長が帯電手段に近い列に並べられた発光手段から照射される光の波長よりも長いように構成することで、本発明の効果がより顕著に得られることが明らかとなった。
【0088】
【表4】

【0089】
[実施例4]
図4に示す堆積膜形成装置により、表5に示す条件で電荷注入阻止層、光導電層、第1の変化層、上部電荷注入阻止層、第2の変化層、表面層からなる電子写真感光体を形成した。電子写真感光体の形成手順は実施例1と同様とした。
【0090】
作製した感光体を実施例1で用いた電子写真装置に設置してゴーストメモリーの評価を行った。但し、本実施例においては、像露光のピーク波長を400nmとし、第1の前露光手段102に替えて図5に示した構成の前露光手段を設置し、第2の前露光手段103は取り外した。第1の前露光手段102に替えて設置した前露光手段は、ピーク波長380nmの光を発する短波長発光手段501とピーク波長420nmの光を発する長波長発光手段502とを感光体母線軸方向に交互に複数並べた構成とした。また、短波長発光手段501のみを発光させた際のドラム表面上での光量分布、及び長波長発光手段502のみを発光させた際のドラム表面上での光量分布が各々、
0.90≦(ドラム母線軸方向での最小光量)/(ドラム母線軸方向での最大光量)≦0.95
となるように、短波長発光手段501、長波長発光手段502と感光体表面との距離、及び短波長発光手段501、長波長発光手段502の設置ピッチを調節した。
【0091】
また、短波長発光手段501、長波長発光手段502から感光体表面に照射される光のエネルギーは不図示の駆動回路により各々独立に制御可能とした。ゴーストメモリーの具体的評価方法は実施例1と同様とした。
【0092】
【表5】

【0093】
[比較例3]
実施例4において短波長発光手段501を常に消灯する以外は実施例4と同様にして、ゴーストメモリーの評価を行った。したがって、像露光のピーク波長は400nm、前露光のピーク波長は420nmである。
【0094】
ゴーストメモリーの具体的評価方法は実施例1と同様とした。
【0095】
実施例4、比較例3の評価結果を表6に示す。表6において、評価結果は比較例3の評価結果を基準とし、ゴーストメモリーの値が1/2未満まで良化したものを◎、1/2以上3/4未満まで良化したものを◎〜〇、3/4以上7/8未満まで良化したものを〇、7/8以上9/8未満を△、9/8以上を×で示した。
【0096】
表6より、帯電能の低下をもたらすことなくゴーストメモリーを改善できる本発明の効果が確認された。
【0097】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明に用いることができる画像形成装置の構成を示した図である。
【図2】従来の画像形成装置の構成を示した図である。
【図3】本発明に用いることができるa−Si系感光体の層構成を模式的に示した図である。
【図4】RFプラズマCVD法による電子写真用感光体形成装置の一例を示す構成図である。
【図5】本発明に用いることができる前露光手段の一例を模式的に示した図である。
【図6】ゴーストメモリーの評価に用いた原稿を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0099】
101 a−Si系感光体
102 第1の前露光手段
103 第2の前露光手段
104 一次帯電器
105 像露光
106 現像手段
107 ポスト帯電器
108 給紙部
109 転写・分離帯電器
110 搬送装置
111 クリーニング手段
301 基体
302 光導電層
303 表面層
304 電荷注入阻止層
305 電荷発生層
306 電荷輸送層
307 変化層
2100 堆積装置
2101 反応容器
2111 カソード電極
2112 円筒状基体
2113 基体支持体
2114 原料ガス導入管
2115 マッチングボックス
2116 原料ガス配管
2117 反応容器リークバルブ
2118 メイン排気バルブ
2119 真空計
2200 原料ガス供給装置
2211〜2216 マスフローコントローラー
2221〜2226 原料ガスボンベ
2231〜2236 原料ガスボンベバルブ
2241〜2246 ガス流入バルブ
2251〜2256 ガス流出バルブ
2261〜2266 圧力調整器
500 前露光手段
501 短波長発光手段
502 長波長発光手段
601 反射濃度0.3のA3サイズの中間調原稿
602 反射濃度1.5、直径10mmの黒丸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともアモルファスシリコン系感光体と帯電手段と像露光手段と前露光手段とを備え、該アモルファスシリコン系感光体は少なくともアモルファスシリコンを主成分とする光導電層とその上に形成される表面層と該光導電層と該表面層の間に設けられ該光導電層方向から該表面層方向にむかって組成が連続的に変化する変化層を有し、更に、該像露光手段より該アモルファスシリコン系感光体に照射される光はそのピーク波長が380nm以上500nm以下の画像形成装置において、該前露光手段より該アモルファスシリコン系感光体に照射される光は少なくとも2つのピーク波長を有しており、最も短いピーク波長をX(nm)、最も長いピーク波長をY(nm)としたときに、該像露光手段より該アモルファスシリコン系感光体に照射される光の波長A(nm)との関係が、
X<A、かつY>A
であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像形成装置において、該像露光手段より該アモルファスシリコン系感光体に照射される光はそのピーク波長が380nm以上420nm以下であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の画像形成装置において、該画像形成装置は更にクリーニング手段を有し、該前露光手段は該クリーニング手段と該帯電手段の間に設けられていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の画像形成装置において、該前露光手段が少なくとも1つの波長の光のエネルギーを独立に制御可能な光源であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項4に記載の画像形成装置において、該前露光手段が少なくとも2つの波長の光のエネルギーを独立に制御可能な光源であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の画像形成装置において、該前露光手段は波長の異なる光を発光する素子が該アモルファスシリコン系感光体の母線軸方向に交互に設けられていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項1〜5いずれかに記載の画像形成装置において、該前露光手段は該アモルファスシリコン系感光体の母線軸方向に列状に並んだ複数の発光手段が該アモルファスシリコン系感光体の周方向に少なくとも2列設けられていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
請求項7に記載の画像形成装置において、該帯電手段から最も離れた列に並べられた発光手段より照射される光の波長が該帯電手段に最も近い列に並べられた発光手段より照射される光の波長よりも長いことを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
少なくともアモルファスシリコンを主成分とする光導電層とその上に形成される表面層と該光導電層と該表面層の間に設けられ該光導電層方向から該表面層方向にむかって組成が連続的に変化する変化層を有したアモルファスシリコン系感光体を帯電手段により所定電位に帯電する帯電工程と、像露光手段によりアモルファスシリコン系感光体に光を照射し像形成を行う像露光照射工程と、前露光手段により該アモルファスシリコン系感光体を均一露光して光メモリーを消去する前露光照射工程とを有し、該像露光照射工程で該アモルファスシリコン系感光体に照射する光の波長が380nm以上500nm以下の画像形成方法において、該前露光照射工程で該アモルファスシリコン系感光体に照射する光が少なくとも2つのピーク波長を有しており、最も短い波長をX(nm)、最も長い波長をY(nm)としたときに、該像露光照射工程で該アモルファスシリコン系感光体に照射する光の波長A(nm)との関係が、
X<A、かつY>A
であることを特徴とする画像形成方法。
【請求項10】
請求項9に記載の画像形成方法において、該像露光照射工程で該アモルファスシリコン系感光体に照射する光の波長が380nm以上420nm以下であることを特徴とする画像形成方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の画像形成方法において、該画像形成方法は更にクリーニング工程を有し、該前露光照射工程が該クリーニング工程と該帯電工程の間でなされることを特徴とする画像形成方法。
【請求項12】
請求項9〜11いずれかに記載の画像形成方法において、該前露光照射工程で少なくとも1つの波長の光のエネルギーを独立に制御可能であることを特徴とする画像形成方法。
【請求項13】
請求項12に記載の画像形成方法において、該前露光照射工程で少なくとも2つの波長の光のエネルギーを独立に制御可能であることを特徴とする画像形成方法。
【請求項14】
請求項9〜13いずれかに記載の画像形成方法において、該前露光照射工程は波長の異なる光を該アモルファスシリコン系感光体の母線軸方向に交互に照射することを特徴とする画像形成方法。
【請求項15】
請求項9〜13いずれかに記載の画像形成方法において、該前露光照射工程は該アモルファスシリコン系感光体の母線軸方向に列状に光を照射する工程が少なくとも2回なされることを特徴とする画像形成方法。
【請求項16】
請求項15に記載の画像形成方法において、該帯電工程から最も離れた位置で照射する光の波長が該帯電手段に最も近い位置で照射する光の波長よりも長いことを特徴とする画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−57684(P2007−57684A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241175(P2005−241175)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】