説明

画像形成装置

【課題】誘導加熱用のコイルに印加される入力電圧に波形ひずみが生じていても、精度の高い電力制御を行うことができる誘導加熱装置を備えた画像形成装置を提供する。
【解決手段】コイル103へ入力される入力電圧のピーク値を検出するピーク電圧検出手段107と、入力電圧の実効値を検出する実効電圧検出手段108と、入力電圧のピーク値と入力電圧の実効値とに基づいて、電力算出用電圧値が決定される。決定された電圧値を用いて、定着装置側への供給電力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、定着装置の発熱体を加熱するのに用いられる誘導加熱装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コピー機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置、さらにはこれらの装置の機能を集約したMFP(Multi Function Peripherals)と称される多機能デジタル画像形成装置等には、定着装置の発熱体を加熱する加熱源として誘導加熱装置を備えたものがある。
【0003】
このような誘導加熱装置として、誘導加熱用のコイルへ例えば商用の交流電圧を全波整流し直流に変換して印加するとともに、誘導加熱用のコイルと直列に接続された例えば絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)等からなるスイッチング素子のオン・オフを制御することにより、定着装置の発熱体へ供給する電力を制御する方式のものが従来より用いられている。
【0004】
この場合、前記定着装置の発熱体への供給電力量はスイッチング素子のオン・オフのデューティ比により変化するが、従来では、前記入力電圧のピーク値と、発熱体を所定温度に発熱させるのに必要な電力値とから、前記デューティ比が決定されていた(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−098860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、誘導加熱装置の動作中において、商用の入力交流(50/60Hz)に電圧変動が生じることがあるが、変動した入力電圧のピーク値が大きいと、誘導加熱用のコイルをスイッチングする前記スイッチング素子に過大な電圧が印加され、スイッチング素子が破壊されることがある。
【0007】
また、入力電圧波形のひずみも供給電力に大きな影響を及ぼす。入力電圧波形のひずみは、発電機の劣化等により発生する現象で第3地域に多く見られる。波形ひずみが発生すると実際の実効電圧Vrmsと入力電圧におけるピーク電圧Vpとの関係が、通常の正弦波のようにVrms=Vp/√2という関係から逸脱してしまう。
【0008】
しかるに、入力電圧のピーク値を基にスイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する従来の誘導加熱装置では、波形ひずみが生じた入力電圧に対しては精度の良い電力制御を行うことができないという欠点があった。
【0009】
この発明は、このような技術的背景に鑑みてなされたものであって、誘導加熱用のコイルに印加される入力電圧に波形ひずみが生じていても、精度の高い電力制御を行うことができる誘導加熱装置を備えた画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の手段によって解決される。
(1)発熱体を有する定着装置と、前記発熱体を加熱するための誘導加熱用のコイルと、前記コイルへ入力される入力電圧のピーク値を検出するピーク電圧検出手段と、前記入力電圧の実効値を検出する実効電圧検出手段と、前記ピーク電圧検出手段により検出された入力電圧のピーク値と、前記実効電圧検出手段により検出された入力電圧の実効値とに基づいて、電力制御用電圧値を決定する電圧値決定手段と、前記電圧値決定手段により決定された電圧値を用いて、定着装置側への供給電力を制御する電力制御手段と、を備えたことを特徴とする画像形成装置。
(2)交流電力を整流する整流手段と、前記整流手段により整流された電力を、画像形成装置本体の各部へ供給するために電力変換を行う半導体スイッチング素子とを有する直流電源装置を備え、前記実効電圧検出手段は前記直流電源装置に備えられている前項1に記載の画像形成装置。
(3)前記電力制御手段は、前記直流電源装置の負荷率に応じて、前記電圧値決定手段により決定された電力制御用電圧値を補正する前項1または2に記載の画像形成装置。
【発明の効果】
【0011】
前項(1)に記載の発明によれば、ピーク電圧検出手段により検出された入力電圧のピーク値と、実効電圧検出手段により検出された入力電圧の実効値とに基づいて、電力制御用電圧値が決定され、この決定された電圧値を用いて、定着装置側への供給電力が制御されるから、従来のように入力電圧のピーク値のみを用いて定着装置側への供給電力を制御する場合に較べて、実効電圧検出手段により検出された入力電圧の実際の実効値を考慮することができる。その結果、誘導加熱用のコイルに印加される入力電圧に波形ひずみが生じていても、精度の高い電力制御を行うことができる画像形成装置となし得る。
【0012】
前項(2)に記載の発明によれば、実効電圧検出手段として、交流電力を整流して画像形成装置本体の各部へ供給する直流電源装置に備えられているものを流用することにより、誘導加熱制御のための専用の実効電圧検出手段を備える必要はなく、装置の構成を簡素化できる。
【0013】
前項(3)に記載の発明によれば、直流電源装置の負荷率に応じて、電圧値決定手段により決定された電力制御用電圧値を補正するから、より精度の高い電力制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の一実施形態に係る画像形成装置の構成を示すブロック図である。
【図2】(A)はピーク電圧検出回路の一例を示す回路図、(B)は入力電圧の波形図である。
【図3】実効電圧検出回路の一例を示す回路図である。
【図4】実効電圧検出回路により検出された実効電圧の波形図である。
【図5】実効電圧検出回路が直流電源装置に備えられている画像形成装置のブロック図である。
【図6】直流電源装置の実効電圧検出回路を利用する場合に、装置内の直流負荷によって実効電圧が変化することを説明するための波形図である。
【図7】電力制御部の動作を説明するためのフローチャートである。
【図8】図7のフローチャートにおけるステップS02、S05の電圧値決定処理のサブルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、この発明の一実施形態に係る画像形成装置の構成を示すブロック図である。
【0017】
画像形成装置1は、誘導加熱装置10と、本体制御部20と、定着装置30とを備えている。
【0018】
前記誘導加熱装置10は、全波整流回路102と、誘導加熱用のコイル(インダクタ)103と、コンデンサ104と、スイッチング素子105と、IGBT駆動回路106と、ピーク電圧検出回路107と、実効電圧検出回路108と、入力電流検出回路109と、電力制御部110を備えている。
【0019】
全波整流回路102は、50/60Hzの100Vの交流電源である商用電源101の100Vの交流電圧を全波整流して直流に変換するものである。
【0020】
コイル103は、前記全波整流回路102の出力を入力電圧として受領し、磁気的に結合された定着装置30の発熱体(図示せず)を誘導加熱する。
【0021】
コンデンサ104はコイル103と並列に接続され、コイル103とで共振回路112を形成する。
【0022】
スイッチング素子105はコイル103と直列に接続され、商用電源101から全波整流回路102、共振回路112、スイッチング素子105及び全波整流回路102を巡って商用電源101へと至る閉ループを形成している。スイッチング素子105の種類は限定されないが、この実施形態では、前述した絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられている。
【0023】
IGBT駆動回路106は、電力制御部110からの指示に基づいてスイッチング素子105をオン・オフすることにより、スイッチング素子105を高周波スイッチング駆動するものである。
【0024】
ピーク電圧検出回路107は、全波整流回路102からコイル103へ入力される入力電圧V0のピーク値Vpを検出するものである。このピーク電圧検出回路107は、例えば図2(A)に示すように、入力電圧V0によって充電されるコンデンサ107aを備えており、このコンデンサ107aは入力電圧V0によって、図2(B)に示すように、最大で入力電圧のピーク値(ピーク電圧ともいう)Vpまで充電されることから、充電電圧の最大値を検出することによりピーク電圧Vpを検出するものとなされている。なお、ピーク電圧Vpは大きな値であることから、実際にはピーク電圧検出回路107はピーク電圧Vpを変圧または分圧する回路を備えており、扱う電圧値を小さくしている。
【0025】
実効電圧検出回路108は、前記入力電圧V0の実効値(実効電圧ともいう)Vrmsを検出するものである。この実効電圧検出回路108は、例えば図3に示すように、整流回路102に直列に接続されたチョークコイル108aと、チョークコイル108aの出力を充電するコンデンサ108bを備えたチョークインプット型の整流器からなる、このような実効電圧検出回路108では、入力電圧V0が図4(A)に一点鎖線で示すような正弦波の場合であっても、図4(B)に破線で示すようなひずみ波であっても、コンデンサ108bの出力により実効値Vrmsを検出できる。ただし、コンデンサ108bの出力にはリップルがあるため、検出電圧として使用するためには電力制御部110に備えられているCPUのADポートを使用する場合等では、平均化処理を行うのが良い。
【0026】
ちなみに、全波整流回路102の出力波形をCPUのADポートに接続し、瞬時の電圧を検出することにより、実効値を検出することは可能である。しかし、この方法では、精度良く実効値を検出するためには出力波形1周期分の高速サンプリングと、サンプリング後の高速演算が必要となるため、演算回路が高価となる。これに対して、図3に示したような回路を用いた場合には、CPUはチョークインプット波形に対する数点のサンプリング結果を平均化演算するだけで良いから、高価な演算回路を備えなくても高精度の実効値検出を行うことができる。
【0027】
入力電流検出回路109は、全波整流回路102を介してコイル103へ入力される電流を検出するものである。
【0028】
電力制御部110は、IGBT駆動回路106を介してスイッチング素子105のオン・オフを制御することにより、定着装置30の発熱体への供給電力を制御するものであり、図示しないCPU、ROM、RAM等により構成されている。
【0029】
具体的には、ピーク電圧検出回路107により検出されたピーク電圧と、実効電圧検出回路108により検出された実効値とから、電力制御用電圧値を決定し、この決定された電圧値と入力電流検出回路109で検出された入力電流値とを用いて、電力を算出するとともに、算出した電力値と画像形成装置本体側から指示される必要電力値とに差がある場合は、デューティ比決定部110aで決定されるスイッチング素子105の駆動パルス信号のデューティ比を変化させる等の動作を行う。
【0030】
本体制御部20の制御回路21は、図示しないCPU、ROM、RAM等を備え、電力制御部110に対して電力供給の開始指示や定着装置30の必要電力値の指示を行う。
【0031】
なお、図1の実施形態では、誘導加熱装置10に実効電圧検出回路108を設けた場合を示したが、実効電圧検出回路108は画像形成装置1の直流電源装置に一般に備えられている場合が多い。
【0032】
そこで、この直流電源装置に備えられている実効電圧検出回路を誘導加熱装置10の一部として兼用しても良い。
【0033】
この場合の画像形成装置1の要部の構成を図5のブロック図に示す。この画像形成装置1は商用電源101からの交流電力を整流して画像形成装置1内の直流負荷23に直流電力を供給するための直流電源装置22を備え、この直流電源装置22には、整流された電力を、画像形成装置1内の直流負荷23へ供給するために電力変換を行う半導体スイッチング素子を備えたスイッチングレギュレータが設けられている。また、整流後の入力電圧V0の実効値を検出するための実効電圧検出回路108が備えられている。
【0034】
この実効電圧検出回路108で検出された実効値は本体制御部20の制御回路21へ入力され、制御回路21から定着装置30への必要電力値の情報と共に、誘導加熱装置10の電力制御部110へ送信される。誘導加熱装置10は、該加熱装置10内にあるピーク電圧検出回路107で検出された入力電圧のピーク値と、前記本体制御部20の制御回路21から送信されてきた実効値とから、電力制御用の電圧値を決定し、この電圧値と入力電圧検出回路109で検出された入力電流値を用いて、入力電力の算出等を行う。
【0035】
なお、画像形成装置1の直流電源装置22に備えられている実効電圧検出回路108により実効値を検出する場合、図6(A)に示すように装置内の直流負荷23が定格付近にあるときの整流電圧の実効値を用いることが望ましい。軽負荷の場合には、同図(B)に示すように整流電圧がずれて精度の高い実効値を検出できないおそれがあるからである。
【0036】
このため、この実施形態では、ピーク電圧検出回路107で検出された入力電圧のピーク値と、実効電圧検出回路108で検出された入力電圧の実効値とで決定される電力制御用電圧値を、直流電源装置22の負荷率に応じて補正できるようになっている。例えば画像形成装置1の待機時とプリント時とでは負荷率が異なり、軽負荷の場合には、実効値を検出された実効値よりも小さくし、電力制御用電圧値を小さくするようにしている。
【0037】
図7は、前記電力制御部110で実行される電力制御処理を示すフローチャートである。
【0038】
ステップS01で、本体制御部20の制御回路21から、定着装置側への供給電力値P1の指示を受信する。次いでステップS02で、制御用電圧値の決定処理を実行する。この処理については後述する。
【0039】
次にステップS03で、ステップS02において決定された制御用電圧値を、直流電源装置22の負荷率に応じて補正した後、ステップS04で、スイッチング素子105の駆動パルス信号を仮に決定する。この駆動パルス信号のデューティ比は例えば次のようにして決定される。
【0040】
即ち、制御用電圧値と、スイッチング素子105の駆動信号のデューティ比と、定着装置側への供給電力の関係が、予めテーブルとして電力制御部109に保持されており、デューティ決定部110aは、前記制御用電圧値と定着装置側への供給電力値とに基づいて、前記テーブルからスイッチング素子105の駆動信号のデューティ比を選択する。
【0041】
次にステップS05で、再度、制御用電圧値の決定処理を実行したのち、ステップS06で、ステップS02において決定された制御用電圧値を、直流電源装置22の負荷率に応じて補正する。次いで、ステップS07で、入力電流検出回路109の出力に基づいて、入力電流を検出した後、ステップS08で、前記決定された制御用電圧値と入力電流値とを用いて、供給電力値P2を算出する。
【0042】
ステップS09では、本体制御部20の制御回路21から指示された電力値P1と算出された電力値P2を比較し、同等でなければ(ステップS09でNO)、ステップS10で、スイッチング素子105の駆動信号のデューティ比を変更した後、ステップS05に戻る。同等であれば(ステップS09でYES)、そのままステップS05に戻る。
【0043】
図8は、図7のフローチャートのステップS02及びステップS05における制御用電圧値決定処理のサブルーチンを示すフローチャートである。
【0044】
ステップS021では、ピーク電圧検出回路107の出力に基づいてピーク電圧値を検出した後、ステップS022で、実効電圧検出回路108の出力に基づいて実効値を検出する。そして、ステップS023で、制御用電圧値を決定したのち、リターンする。
【0045】
このように、この実施形態では、ピーク電圧検出回路107により検出された入力電圧のピーク値と、実効電圧検出回路108により検出された入力電圧の実効値とに基づいて、電力制御用電圧値が決定され、この決定された電圧値を用いて、定着装置側への供給電力が制御されるから、従来のように入力電圧のピーク値のみを用いて定着装置側への供給電力を制御する場合に較べて、実効電圧検出回路108により検出された入力電圧の実際の実効値を考慮することができる。その結果、誘導加熱用のコイルに印加される入力電圧に波形ひずみが生じていても、精度の高い電力制御を行うことができる画像形成装置となし得る。
【符号の説明】
【0046】
1 画像形成装置
10 誘導加熱装置
20 本体制御部
21 制御回路
22 直流電源装置
30 定着装置
101 商用電源
102 全波整流回路
103 コイル
104 コンデンサ
105 スイッチング素子
107 ピーク電圧検出回路
108 実効電圧検出回路
109 入力電流検出回路
110 電力制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体を有する定着装置と、
前記発熱体を加熱するための誘導加熱用のコイルと、
前記コイルへ入力される入力電圧のピーク値を検出するピーク電圧検出手段と、
前記入力電圧の実効値を検出する実効電圧検出手段と、
前記ピーク電圧検出手段により検出された入力電圧のピーク値と、前記実効電圧検出手段により検出された入力電圧の実効値とに基づいて、電力制御用電圧値を決定する電圧値決定手段と、
前記電圧値決定手段により決定された電圧値を用いて、定着装置側への供給電力を制御する電力制御手段と、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
交流電力を整流する整流手段と、前記整流手段により整流された電力を、画像形成装置本体の各部へ供給するために電力変換を行う半導体スイッチング素子とを有する直流電源装置を備え、
前記実効電圧検出手段は前記直流電源装置に備えられている請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記電力制御手段は、前記直流電源装置の負荷率に応じて、前記電圧値決定手段により決定された電力制御用電圧値を補正する請求項1または2に記載の画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−237873(P2012−237873A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106724(P2011−106724)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】