説明

画像表示装置

【課題】広画角の観察光学系を使用する画像表示装置において、観察者との干渉を避けるとともに、融像しやすい左右の観察画像を提供する。
【解決手段】本発明に係る画像表示装置は、画像表示素子と、画像表示素子の原画像を観察者の左右の眼球に投影する観察光学系を有し、観察者が正面を向いた状態の視軸に対して、画像表示素子の中心から観察者眼球中心に至る観察光学系の軸上主光線を外側に傾け、両眼で観察される原画像の水平方向の中心位置を、各眼球に投影される表示画像の水平方向の中心位置に対し、軸上主光線の傾けた角度に応じて内側にずらしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示素子に表示される原画像を観察光学系で観察者眼球に拡大投影する画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、小型画像表示素子を用い、表示される原画像を観察光学系によって拡大した虚像を観察者に呈示する画像表示装置が知られている。観察光学系の持つ画角が大きいほど観察者には大きな画面を呈示することができるため、高い臨場感を提供することを目的とする場合には、観察画角はできるだけ広いことが望まれる。
【0003】
このような場合、表示素子の画像をリレー光学系によって一度中間像を形成し、それを接眼光学系で拡大して眼球に投影するタイプの観察光学系が好適と考えられる。例えば、特許文献1、特許文献2には、光路中に中間結像を形成する光学系が開示されている。
【0004】
また、観察者の左右の眼に対してそれぞれ1つの画像表示素子と観察光学系を用いている場合には、その装置の特性を生かして、左右眼に視差のついた別々の画像を表示することで比較的容易に立体視を観察することが可能である。例えば、特許文献3には視差画像を呈示して観察する画像表示装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−166211号公報
【特許文献2】特開2001−255489号公報
【特許文献3】特開平8−160353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、画像表示装置の観察光学系が広画角の場合においても、観察光学系自体或いは観察光学系によって形成される光束が観察者の顔面や鼻部と干渉することなく利用できる画像表示装置を提供するところにある。さらに、両眼観察時において、左右の観察画像が融像しやすい画像表示装置を提供するところにある。
【0007】
特許文献1、特許文献2は、観察像を表示する2次元画像表示素子と、2次元画像表示素子の実像を空中に投影するリレー光学系と、その実像を空中に拡大投影すると共に光軸を反射屈曲させる接眼鏡とを具備した視覚表示装置であるが、観察画角を広くした場合、観察者の顔面や鼻部に光線が干渉し、観察画像の一部が眼球に到達できず、観察画像の一部が見えなくなる。或いは、観察光学系の一部である凹面鏡またはプリズムが観察者の顔面や鼻部に干渉してしまう恐れがある。
【0008】
特許文献3には、視差を有する複数枚の入力画像に基づいて画像表示手段の上に右眼用及び左眼用の表示画像を表示し、該表示画像によって形成した複数の観察映像を観察者の両眼が視認し、該観察者に立体像を認識させる画像表示装置において、該観察者の右眼に提示する右眼用の観察映像の垂直方向の中心線と観察者の左眼に提示する左眼用の観察映像の垂直方向の中心線との間に、0゜より大きく、3゜以下の範囲の逆ハの字型の相対的な傾きを与えるものである。この画像表示装置では、左右眼の観察映像を逆ハの字に呈示させるため、少なくとも左右どちらかの観察画像は水平でない状態で観察されるため、観察者に対して不安感を与えてしまう恐れがある。
【0009】
本発明は従来技術のこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は画像表示装置の観察光学系が広画角の場合に、観察者視軸に対して観察光学系の軸上主光線を外側に傾けることで、観察光学系或いは観察光学系の光束が観察者の顔面や鼻部と干渉することなく利用でき、さらに、観察者の両眼で観察する場合に、左右の観察画像が融像しやすい画像表示装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのため、本発明に係る画像表示装置は、
画像表示素子と、前記画像表示素子の原画像を観察者の左右の眼球に投影する観察光学系を有する画像表示装置において、
前記観察者が正面を向いた状態の視軸に対して、前記画像表示素子の中心から前記観察者眼球中心に至る前記観察光学系の軸上主光線を外側に傾け、
両眼球で観察される前記原画像の水平方向の中心位置を、各眼球で観察される表示画像の水平方向の中心位置に対し、軸上主光線の傾けた角度に応じて内側にずらしたことを特徴とする。
【0011】
リレー光学系によって画像表示素子の画像の1次像を形成し、その1次像を接眼光学系によって観察者眼球に虚像を投影する観察光学系であり、投影する画角が大きい場合には、観察者の鼻と投影する光束が干渉することがある。このような場合には、上記の構成の観察光学系とすることで、観察者の内側(鼻側)の画角は、光学系を傾けた角度分実効的に内側画角が小さくなるため、鼻との干渉を避けることができる。
【0012】
さらに、両眼で1つの画像を観察するまたは、左右眼で視差画像を観察する2眼式画像表示装置の場合には、単眼での水平画角をω、外側に傾けた角度をαとすると、両眼で観察する画角は、ω+2αとなり、単眼水平画角よりも大きな画角で画像を呈示することになる。一方、両眼で観察する領域である融像領域はω−αとなり、制限を受けることになる。
【0013】
以下に本発明の原理を詳しく説明する。
図1に画像表示装置の観察光学系と観察者顔面との関係を示すために観察者の両眼に観察光学系を配備した場合を示している。なお、図1並びに以後に示す図において、観察者1の顔面輪郭について、観察斜眼球2付近におけるY−Z平面での断面を実線で、鼻頂付近でのY−Z平面での断面を破線で示している。
【0014】
観察者1の右眼2aの前方には、右眼用観察光学系3aが配備されている。観察光学系3aの後側焦点位置近傍に画像表示素子5aが設置されているため、観察者には、画像表示素子5aに表示された原画像が拡大投影された虚像として認識される。
【0015】
左右各観察光学系3a、3bの水平画角は80度である。このように広い水平画角の映像を観察者1の両眼に提供する場合、内側、すなわち、観察者1に対して近い方の光束が観察者の鼻11と干渉することとなり、内側の画像は遮蔽された画像を観察することになる。また、左右の接眼光学系30a、30bが互いに干渉、あるいは、観察者1の鼻に干渉するため、物理的な配置についても困難になってしまう。
【0016】
図2は、本発明の実施形態に係る画像表示装置を示した図であって、図1の観察光学系3a、3bを10度、外側に回転させた場合の観察者1の顔面と観察光学系3の関係が示されている。図1では観察者の鼻と干渉していた光束が、観察光学系3を外側に傾けたことで、鼻11との干渉が解消されている。
【0017】
図3は、画像表示装置の回転について説明する図である。本実施形態では、左右の各画像表示装置について、接眼光学系30a、リレー光学系40a、画像表示素子5aを組として、その相対位置関係を変えることなく、観察者視軸に対して観察光学系3の光軸(軸上主光線)102を外側に回転させ、さらに、画像表示素子5に表示する原画像を上記回転した角度に相当する画像の分だけ水平にずらし、観察者視軸に対応する原画像の位置を画像中心にし、内側画像は融像領域とし、その外側画像を単眼観察領域としている。
【0018】
本発明の光学装置によれば、観察者1の眼前に配備される接眼光学系30と観察者の顔面の干渉、あるいは観察者1の顔面(の鼻)による光束の干渉を解消することができ、画
面周辺まで遮蔽のないクリアな画像を観察することができ、さらに、単眼の画角よりも広い画角の観察画面を両眼で観察することが可能となる。
【0019】
さらに本発明に係る画像表示装置は、前記観察光学系を、眼球中心もしくは射出瞳中心、あるいは、その近傍を中心として回転させることで、前記軸上主光線を外側に傾けることを特徴とする。
【0020】
図2の実施形態では、射出瞳21a、21bの中心位置を回転中心として、左右それぞれ外側に開くように回転させている。このような場合、観察者が正面を向いたときに観察しやすい画像を提供することが可能となる。なお、回転中心は、射出瞳21のみならず、観察者1の眼球2a、2bの回旋中心を中心としてもよい。その場合、観察者が正面とは異なる方向を眼を向けたときにも、観察しやすい画像を提供することができる。さらに、観察者1の正面、あるいは、正面とは異なる方向に眼を向けたとき、どちらの場合にも観察しやすいよう折衷することも可能である。この場合、射出瞳21と観察者眼球2の回旋中心の近傍が回転中心として設定されることとなる。
【0021】
そして、両眼で観察される原画像の水平方向の中心位置を、各眼球に投影される表示画像の水平方向の中心位置に対し、軸上主光線の傾けた角度に応じて内側にずらすことが両眼観察における融像領域を確保する上で重要となる。観察光学系は、固定式であっても回転可能であってもよい。回転可能とした場合、回転量を検出する検出部を設け、検出された回転量に応じて、内側にずらす量が変更されることとなる。
【0022】
さらに本発明に係る画像表示装置は、
以下の条件式(A)を満足することを特徴とする。
0.9 ≦ 2Δtan(ω/2)/H tanα ≦ 3.0 ・・・(A)
ただし、
H:前記画像表示素子の表示面の水平方向の長さ
ω:観察画角
α:前記観察者視軸に対して前記観察光学系の軸上主光線を外側に傾ける角度
Δ:前記画像表示素子に表示する原画像の水平方向の中心位置を画面の内側にずらす距離、である。
【0023】
以下に、上記の条件をとる理由について説明する。
図4に左眼2b、右眼2aと、観察光学系3a、3bで左右の眼球投影される様子を模式的に示す。両眼の水平観察画角はそれぞれω度とする。表示画面の中心から観察者眼球中心へ至る光線を軸上主光線とする。この図の場合、観察者視軸と軸上主光線は一致した関係にある。
【0024】
図5には、図4の左右眼用の観察光学系の軸上主光線をそれぞれ外側にα度傾け、それに合わせて表示素子を傾けて配備された場合の模式図が、図6には、図5の状態で両眼観察した場合に、両眼に投影される画角を説明するための模式図が示されている。どちらの
図において観察者視軸が一点鎖線で、軸上主光線が破線で示されている。
【0025】
図6において、両眼で観察する場合の水平画角をη、融像領域の水平画角をξ、単眼観察領域の水平画角をそれぞれεとする。図5、図6を用いて上述したそれぞれの画角を考える。図5に示すように、単眼のみの場合、外側の画角はω/2+α、内側の画角はω/2−αである。したがって、両眼で観察する水平画角η=ω+2α、両眼の融像領域の水平画角ξ=ω−2α、画像の左右両端はそれぞれ左眼と右眼の単眼観察領域となり、単眼観察領域ε=2αとなる。
【0026】
つまり、単眼で呈示する画角に比べて、光学系が傾いた角度αの2倍、2αだけ画角が広がって観察されることになる。
【0027】
このような観察画面を観察する場合には、単眼で表示する画面の中心を内側に、画像を水平にずらして表示することで、両眼の画面を安定して観察することが可能となる。
【0028】
以下に、表示する画像をずらす方法について説明する。
図7は、図6の状態で両眼で観察する場合の両眼観察像を模式的に示している。原画像である左画像と右画像は左右の眼で同時に観察することで、両眼画像のように、中心部は両眼で同じ画像を観察する融像領域と、左単眼領域、右単眼領域に分かれて認識される。その場合の両眼観察している画面の様子を図8に示す。左右の表示画像がわかりやすいように、上下に若干ずらして図示しているが、実際には、上下のずれはない。両眼の観察画像の中心が観察画像全体の1/2になっており、単眼画像の中心軸とはずれている。
【0029】
ここで、図8の右眼表示画像のみを抽出したものを図9に示す。表示画面の中心軸と、全体画面の中心軸のずれ量をΔとする。また、上述しているが、水平画角ω、軸上主光線の傾斜角α、表示素子の水平方向の長さHとして計算する。観察光学系の焦点距離をfとすると、観察光学系の幾何関係から、
Δ=f tanα ・・・(1)
とあらわされる。また、同様に焦点距離fは
f =H/2tan(ω/2) ・・・(2)
であり、(2)式を(1)式に代入すると
Δ=H tanα/2tan(ω/2) ・・・(3)
となる。Δを(3)式で定義される値にすることで、左右の軸上主光線を一致させることができるが、実際の装置においては必ずしも一致させなくともよい。
【0030】
式(3)を変形して、
2Δ tan(ω/2)/H tanα=1 ・・・(4)
とすると、(4)式の左辺をパラメータとして、以下の条件式(A)を満たすことで、両眼で観察する場合に安定した画像を提示することが可能となる。
【0031】
左右の観察光学系3は、光学系とそれを支持し、観察者の眼球の瞳孔位置、または眼球回旋中心に対して、光学系の射出瞳位置を略一致させることで、原画像を観察者眼球に投影することが可能になるが、観察者の頭部形状、眼球位置、眼福距離、視軸などは個人差があるため、光学系との配置は一義的には決まらない。
【0032】
また、両眼で観察する場合には、観察者の両眼の視軸のなす角度である輻輳角を設けることがあり、上式(4)の値を1より大きくすることにより実現することができる。特に左右眼に視差画像を呈示することで立体視を観察する場合には、観察画像の視差量に対応した輻輳角を持たせることで、自然な立体視が可能になる。
【0033】
このような考察を(4)式にあてはめると、以下のような条件式を満足することが重要となる。
0.9 ≦ 2Δ tan(ω/2)/H tanα ≦ 3.0 ・・・(A)
【0034】
(A)式の下限0.9を超えて小さくなると、両眼の視軸が開散するため、左右眼の画像を融像して観察することが困難になる。一方(A)式の上限3.0を超えて大きくなると、左右眼の視軸のなす角度が大きくなるため、画像を融像して見るためには眼球を内側に寄せて緊張して観察するため、観察者に疲労感を与えることになる。
【0035】
このように条件式(A)を満足することで、両眼観察時に融像しやすい観察画面を提供することが可能となる。
【0036】
さらに本発明に係る画像表示装置において、前記観察光学系3は、画像表示素子5の原画像の中間像を形成するとリレー光学系40と、前記中間像を観察者眼球に投影する接眼光学系30の組み合わせによって構成されていることを特徴とする。
【0037】
原画像を表示する画像表示素子5の原画像を接眼光学系30により虚像として観察者眼球に投影する場合、原画像を表示する画像表示素子を大きくせずに、広画角を達成するためには、画像表示素子5の画像を拡大した中間像(1次像)をリレー光学系40で形成、その中間像を接眼光学系30によって眼球に投影することにより広画角な観察光学系3となる。
【0038】
このような構成を採用することで、小型でありながら広画角な観察光学系3を実現し、大きな観察画面を提供することが可能となる。
【0039】
さらに本発明に係る画像表示装置において、前記観察光学系を構成する光学面の少なくとも1面は前記軸上主光線に対して偏心して配備されたことを特徴とする。
【0040】
光学系を説明するにあたり、観察者眼球2から画像表示素子5に向かう逆光線追跡によって説明する。例えば、接眼光学系30を凹面鏡で構成する場合には、観察者視軸と凹面鏡の中心軸をずらすことにより、ある画角を持って凹面鏡にて反射した光は1方向に反射されるようにでき、その後のリレー光学系40をコンパクトに構成することが可能となる。よって、小型でありながら広画角な観察光学系3を実現し、大きな観察画面を提供することが可能となる。
【0041】
さらに本発明に係る画像表示装置において、記観察光学系を構成する光学面の少なくとも1面は回転非対称面によって構成されていることを特徴とする。
【0042】
偏心して配備された光学面は、軸上主光線からずれて配備されるため、偏心に伴う収差、所謂、偏心収差が発生する。その偏心収差を補正するためには、回転非対称な曲面を用いることによって良好に補正することが可能となる。このような構成を採用することで、広画角な観察光学系3を実現し、大きな観察画面を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、広画角でありながら観察者の顔面、鼻等に干渉すること無く、画像表示素子の画像を虚像として観察者眼球に投影することが可能な観察光学系であり、さらに両眼観察時において、左右の観察画像が融像しやすい画像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】回転させる前の画像表示装置の構成を示す図
【図2】本発明の実施形態に係る画像表示装置の構成を示す図
【図3】画像表示装置の回転について説明するための図
【図4】標準の観察光学系の状態を示す模式図
【図5】両眼の観察光学系をα度外側に傾斜させた状態を示す模式図
【図6】両眼に投影される画角を説明するための模式図
【図7】両眼による観察像を説明するための模式図
【図8】両眼で観察した観察象の状態を示す模式図
【図9】右眼画像の表示位置を説明するための模式図
【図10】本発明の画像表示装置を装着したときの様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の画像表示装置について実施例を用いて説明する。後述する数値実施例においては、図2に示すように、逆光線追跡で、軸上主光線102を、接眼光学系30の射出瞳21の中心を通り、像面(画像表示素子)5の中心に到る光線で定義している。
【0046】
実施例においては、軸上主光線(観察者視軸)102の進行方向に沿った方向をZ軸正方向とし、このZ軸と像面中心を含む平面をY−Z平面とし、原点を通りY−Z平面に直交し、紙面の手前から裏面側に向かう方向をX軸正方向とし、X軸、Z軸と右手直交座標系を構成する軸をY軸とする。
【0047】
実施例では、このY−Z平面内で各面の偏心を行っており、また、各回転非対称自由曲面の唯一の対称面をY−Z面としている。偏心面については、対応する座標系の原点から、その面の面頂位置の偏心量(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向をそれぞれX、Y、Z)と、その面の中心軸(自由曲面については、前記(a)式のZ軸)のX軸、Y軸、Z軸それぞれを中心とする傾き角(それぞれα、β、γ(°))とが与えられている。なお、その場合、αとβの正はそれぞれの軸の正方向に対して反時計回りを、γの正はZ軸の正方向に対して時計回りを意味する。
【0048】
また、実施例の光学系を構成する光学作用面の中、特定の面(仮想面を含む)とそれに続く面が共軸光学系を構成する場合に、面間隔が与えられており、その他、媒質の屈折率、アッベ数が慣用法に従って与えられている。
【0049】
また、本発明で用いられる自由曲面の面の形状は次式(a)式により定義し、その定義式のZ軸が自由曲面の軸となる。
Z=cr2 /[1+√{1−(1+k)c22 }]
65
+Σ Cj Xmn ・・・(a)
j=2
ここで、(a)式の第1項は球面項、第2項は自由曲面項である。
【0050】
球面項中、
R:頂点の曲率半径
k:コーニック定数(円錐定数)
r=√(X2 +Y2
である。
【0051】
自由曲面項は、
66
Σ Cj Xmn
j=2
=C1
+C2 X+C3 Y
+C4 X2 +C5 XY+C6 Y2
+C7 X3 +C8 X2 Y+C9 XY2 +C10Y3
+C11X4 +C12X3 Y+C13X22 +C14XY3 +C15Y4
+C16X5 +C17X4 Y+C18X32 +C19X23 +C20XY4
+C21Y5
+C22X6 +C23X5 Y+C24X42 +C25X33 +C26X24
+C27XY5 +C28Y6
+C29X7 +C30X6 Y+C31X52 +C32X43 +C33X34
+C34X25 +C35XY6 +C36Y7
・・・・・・
ただし、Cj (jは2以上の整数)は係数である。
【0052】
上記自由曲面は、一般的には、X−Z面、Y−Z面共に対称面を持つことはないが、本発明ではXの奇数次項を全て0にすることによって、Y−Z面と平行な対称面が1つだけ存在する自由曲面となる。例えば、上記定義式(a)においては、C2、C5、C7、C9、C12、C14、C16、C18、C20、C23、C25、C27、C29、C31、C33、C35・・・の各項の係数を0にすることによって可能である。
【0053】
また、Yの奇数次項を全て0にすることによって、X−Z面と平行な対称面が1つだけ存在する自由曲面となる。例えば、上記定義式においては、C3、C5、C8、C10、C12
、C14、C17、C19、C21、C23、C25、C27、C30、C32、C34、C36・・・の各項の係数を0にすることによって可能である。
【0054】
また、上記対称面の方向の何れか一方を対称面とし、それに対応する方向の偏心、例えば、Y−Z面と平行な対称面に対して光学系の偏心方向はY軸方向に、X−Z面と平行な対称面に対しては光学系の偏心方向はX軸方向にすることで、偏心により発生する回転非対称な収差を効果的に補正しながら同時に製作性をも向上させることが可能となる。
【0055】
また、上記定義式(a)は、前述のように1つの例として示したものであり、本発明の自由曲面は、対称面を1面のみ有する回転非対称な面を用いることで偏心により発生する回転非対称な収差を補正し、同時に製作性も向上させるということが特徴であり、他のいかなる定義式に対しても同じ効果が得られることはいうまでもない。
【0056】
また、非球面は、以下の定義式(b)で与えられる回転対称非球面である。
Z=(Y2/R)/[1+{1−(1+k)Y2/R21/2
+aY4+bY6+cY8+dY10+・・・
…(b)
ただし、Zを光の進行方向を正とした光軸(軸上主光線)とし、Yを光軸と垂直な方向にとる。ここで、Rは近軸曲率半径、kは円錐定数、a、b、c、d、…はそれぞれ4次、6次、8次、10次の非球面係数である。この定義式のZ軸が回転対称非球面の軸となる。
【0057】
なお、データの記載されていない自由曲面に関する項は0である。屈折率については、d線(波長587.56nm)に対するものを表記してある。長さの単位はmmである。

【0058】
実施例の光軸を含むY−Z断面図を図2に示す。この実施例は、光軸を含むY−Z断面
図を観察者の頭部断面の両眼に対して視軸と軸上主光線を一致させて配備した場合を図1の構成において、左右それぞれのリレー光学系40、接眼光学系30からなる観察光学系と、画像表示素子3の組について、観察者視軸に対して軸上主光線が10度外側に傾くように配備している。なお、本実施形態では、リレー光学系40、接眼光学系30からなる観察光学系と、画像表示素子3の組は、射出瞳21の中心を回転中心として外側に回転させることとしているが、回転中心は、射出瞳21の中心近傍、あるいは、観察者眼球2の回旋中心あるいは、その近傍に設定してもよい。
【0059】
実施例の画像表示装置は、図2に示すように、リレー光学系40と接眼光学系30とからなり、リレー光学系40は3つの光学面41〜43からなり、その3つの面41〜43で囲まれた空間を屈折率が1より大きい透明媒質で満たされている。また、接眼光学系30は凹面透過面31と凹面反射面32とからなる裏面鏡である。
【0060】
リレー光学系40は、第1面41と、第1面41から入射した光束を反射させる第2面42と、第2面42から反射された光束を反射させる第1面41と、第1面41から反射された光束を射出する第3面43を備え、第1面41から第3面43への光路中においてプリズム内で交差しないような光学面を有する自由曲面プリズムを用いており、これら第1面41〜第3面43に面対称自由曲面を用いられている。
【0061】
観察者瞳位置である射出瞳から画像表示素子に至る逆光線追跡で光路を説明する。射出瞳1を通る軸上主光線2は、接眼光学系の裏面鏡5の入射面である凹面透過面21から入射して、凹面反射面22で反射され、再び凹面透過面21にて透過され、次に自由曲面プリズム4の透過面である第3面23に入射して自由曲面プリズム4内に入り、内部反射面として作用する第1面13で反射され、次に反射面の第2面12で反射され、その反射光線は透過作用を有する領域の第1面11を透過して自由曲面プリズム4から射出して、像面の位置に配置された画像表示素子3の表示面に到達して結像する。ここで、第1面21は、第3面23から入射した光線に対しては、第1面21に対する入射角が臨界角以上の場合、その領域では全反射を起こして反射する。第1面21に対する入射角が臨界角より小さい場合には、その領域にはアルミニウムなどの反射膜をコーティングされる。また、この反射コーティングする領域は、画像表示素子3へ射出する領域と重ならないようにすることが肝要となる。
【0062】
この実施例の場合は、自由曲面プリズム4中の第3面23と裏面鏡5の射出面52の間に湾曲した中間像面6が形成されている。実際には画像表示素子3から射出された表示光は上記の光路を逆に辿り、射出瞳1の位置に瞳が位置する観察者の眼球内に拡大投影される。この実施例の凹面鏡8は回転対称非球面形状が2面で構成された曲面鏡であり、水平画角75度、垂直画角60度、全光学系の焦点距離は10mm、瞳径はφ10.0mmである。
【0063】
図2の実施例の配置で両眼観察時の各画角を上述した方法で計算すると、両眼で観察する水平画角η=75+20=95度、両眼の融像領域の水平画角ξ=75−20=55度、画像の左右両端はそれぞれ左眼と右眼の単眼観察領域となり、単眼観察領域ε=20度となる。
【0064】
また、条件式(A)を以下のように設定している。
H=15.4mm、α=10度とすると、条件式 2Δtan(ω/2)/H tanαはΔ=1.6mmから5.3mmmの範囲で移動させることで、条件式(A)を満たしたものとなっており、両眼観察がしやすい画像表示装置となる。
【0065】
以下に上記実施例についての数値実施例を示す。これら数値実施例において“FFS”
は自由曲面を示す。なお、記号“e”は、それに続く数値が10を底にもつ、べき指数であることを示している。例えば「1.0e-005」は「1.0×10-5」であることを意味している。
【0066】
(実施例)
面番号 曲率半径 面間隔 偏心 屈折率 アッベ数
物体面 ∞ -1000.00
1 ∞(ダミー面)
2 ∞(絞り面)
3 非球面[1] 偏心(1) 1.5254 56.2
4 非球面[2] 偏心(2) 1.5254 56.2
5 非球面[1] 偏心(1)
6 FFS[1] 偏心(3) 1.5254 56.2
7 FFS[2] 偏心(4) 1.5254 56.2
8 FFS[3] 偏心(5) 1.5254 56.2
9 FFS[2] 偏心(4)
像 面 ∞ 偏心(6)

非球面[1]
曲率半径 1001.72
k -8.9463
a -2.8719e-007 b 1.1477e-011 c -2.5182e-015
d 1.3967e-019

非球面[2]
曲率半径 -101.98
k -1.0053
a -7.6692e-008 b -2.6006e-012 c 7.7137e-016

FFS[1]
C4 -8.1912e-004 C6 -2.4574e-002 C8 -1.0985e-003
C10 6.2016e-004 C11 1.8828e-005 C13 3.8065e-005
C15 -4.1559e-005 C17 -4.5723e-006 C19 -1.8374e-006
C21 1.8014e-006 C22 -5.2576e-009 C24 2.5927e-007
C26 6.4070e-008 C28 -3.1023e-008

FFS[2]
C4 -8.0395e-003 C6 -5.0653e-003 C8 -1.6821e-004
C10 1.0889e-004 C11 -5.5993e-006 C13 -9.2824e-007
C15 -5.8464e-006 C17 -3.4199e-007 C19 -1.8962e-007
C21 1.6875e-007 C22 -1.3475e-008 C24 2.8715e-008
C26 3.8422e-009 C28 -3.4084e-009

FFS[3]
C4 -1.1814e-002 C6 -1.1386e-002 C8 -7.9670e-005
C10 -8.3894e-005 C11 -1.2008e-006 C13 -3.2577e-006
C15 -2.8915e-006 C17 -3.9496e-009 C19 -4.7920e-008
C21 -4.2985e-008 C22 -5.0941e-010 C24 -4.3484e-010
C26 -1.1172e-009 C28 -5.9436e-010


偏心[1]
X 0.00 Y 25.65 Z 29.99
α 12.72 β 0.00 γ 0.00

偏心[2]
X 0.00 Y -35.64 Z 61.97
α -0.83 β 0.00 γ 0.00

偏心[3]
X 0.00 Y -69.40 Z -5.09
α 33.35 β 0.00 γ 0.00

偏心[4]
X 0.00 Y -81.36 Z -20.59
α 94.00 β 0.00 γ 0.00

偏心[5]
X 0.00 Y -74.64 Z -59.13
α 142.96 β 0.00 γ 0.00

偏心[6]
X 0.00 Y -98.88 Z -37.24
α 110.54 β 0.00 γ 0.00
【0067】
以上、説明したような画像表示装置を観察者に装着することで、両眼で観察できる据え付け型又は頭部装着型の画像表示装置として構成することができる。
【0068】
図10には、観察者が画像表示装置を装着した場合の様子が示されている。図中、61R、61Lは左右の表示装置本体部であって、各表示装置本体部には、前述の画像表示素子5と観察光学系が格納されている。
【0069】
左右に配置される各表示装置本体部61の支持部材としては、一端を表示装置本体部61に接合し、観察者の側頭部を渡るように延在する前フレーム62、後フレーム63と、後フレーム63の他端に挟まれるように自らの両端を一方ずつ接合し、観察者の頭頂部を支持する頭頂フレーム64とから構成されている。両眼前方に保持される表示装置本体部61R、61Lをそれぞれ、前方フレーム62、後フレーム63を介して頭頂フレーム64にて支持することで、観察者に対して固定配置している。
【0070】
前フレーム62における上記の後フレーム63との接合近傍には、弾性体からなり例えば金属板バネ等で構成されたリヤプレート65が接合されている。このリヤプレート65は、上記支持部材の一翼を担うリヤカバー66が観察者の後頭部から首のつけねにかかる部分で耳の後方に位置して支持可能となるように接合されている。リヤプレート65又はリヤカバー66内に観察者の耳に対応する位置にスピーカー69が取り付けられている。
【0071】
映像・音声信号等を外部から送信するためのケーブル71が表示装置本体部61から、頭頂フレーム64、後フレーム63、前フレーム62、リヤプレート65の内部を介してリヤプレート65あるいはリヤカバー66の後端部より外部に突出している。そして、このケーブル71はビデオ再生装置70に接続されている。なお、図中、70aはビデオ再生装置70のスイッチやボリュウム調整部である。
【0072】
なお、ケーブル71は先端をジャックして、既存のビデオデッキ等に取り付け可能としてもよい。さらに、TV電波受信用チューナーに接続してTV鑑賞用としてもよいし、コンピュータに接続してコンピュータグラフィックスの映像や、コンピュータからのメッセージ映像等を受信するようにしてもよい。また、邪魔なコードを排斥するために、アンテナを接続して外部からの信号を電波によって受信するようにしても構わない。このような2眼式画像表示装置にて、それぞれ右眼用、左眼用として作成された映像を表示させることで、観察者に立体映像を提供することが可能となる。
【0073】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態のみに限られるものではなく、それぞれの実施形態の構成を適宜組み合わせて構成した実施形態も本発明の範疇となるものである。
【符号の説明】
【0074】
1…観察者
2…観察者眼球
3…観察光学系
30…接眼光学系
31…凹面透過面
32…凹面反射面
40…リレー光学系(自由曲面プリズム)
41…第1面
42…第2面
43…第3面
5…画像表示素子
51…視野像
61…本体
62…前フレーム
63…後フレーム
64…頭頂フレーム
65…リヤプレート
66…リヤカバー
70…ビデオ再生装置
71…ケーブル
101…観察者視軸
102…軸上主光線
103…中間像面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示素子と、前記画像表示素子の原画像を観察者の左右の眼球に投影する観察光学系を有する画像表示装置において、
前記観察者が正面を向いた状態の視軸に対して、前記画像表示素子の中心から前記観察者眼球中心に至る前記観察光学系の軸上主光線を外側に傾け、
両眼で観察される前記原画像の水平方向の中心位置を、各眼球に投影される表示画像の水平方向の中心位置に対し、軸上主光線の傾けた角度に応じて内側にずらしたことを特徴とする
画像表示装置。
【請求項2】
前記観察光学系を、眼球中心もしくは射出瞳中心、あるいは、その近傍を中心として回転させることで、前記軸上主光線を外側に傾けることを特徴とする
請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
以下の条件式(A)を満足することを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の画像表示装置。
0.9 ≦ 2Δ tan(ω/2)/H tanα ≦ 3.0 ・・・(A)
ただし、
H:前記画像表示素子の表示面の水平方向の長さ
ω:観察画角
α:前記観察者視軸に対して前記観察光学系の軸上主光線を外側に傾ける角度
Δ:前記画像表示素子に表示する原画像の水平方向の中心位置を画面の内側にずらす距離、である。
【請求項4】
前記観察光学系は、画像表示素子の原画像の中間像を形成するとリレー光学系と、前記中間像を観察者眼球に投影する接眼光学系の組み合わせによって構成されていることを特徴とする
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記観察光学系を構成する光学面の少なくとも1面は、前記軸上主光線に対して偏心して配備されたことを特徴とする
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記観察光学系を構成する光学面の少なくとも1面は、回転非対称面によって構成されていることを特徴とする
請求項5に記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−25101(P2013−25101A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159993(P2011−159993)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】