説明

画像補間装置、画像補間方法、及び画像補間プログラム

【課題】1枚の画像を用いて、画像全体を通じて違和感の少ない補間画像を補間対象領域に補間する画像補間装置、画像補間方法、及び画像補間プログラムを提供することを課題とする。
【解決手段】第1変形部14が、変形後の補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値と変形前の補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値との差の2乗和が最小であって、変形後の補間画像の輪郭を形成する各画素値が補間対象領域の輪郭を形成する各画素値に一致し、変形後の補間画像の輪郭を形成する各画素値の微分係数が補間対象領域の輪郭を形成する各画素値の微分係数に一致することを境界条件とし、この境界条件下でポアソン方程式を用いて補間画像を変形し、第2変形部17が、補間対象領域の周辺画像を変形し、第1変形部14は、補間対象領域の周辺画像が変形されるに伴って変形した補間対象領域の輪郭を形成する各画素値を用いて、変形された補間画像を更に変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画素値が欠落した補間対象領域に補間画像を補間する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通信ネットワークを介して映像や画像を送受信する場合に、ルーティング装置やスイッチング装置の処理能力や通信回線の輻輳等の影響によりパケットロスが発生し、映像や画像を構成する各画素の画素値(例えば、輝度値や濃淡値)の一部若しくは全部が欠落する場合があることが知られている。また、利用者の意思に基づいて、デジタルカメラで撮影した画像の一部であって不要と思われる領域を消去することにより、画像の一部が欠落してしまう場合もある。
【0003】
このような欠落した領域に対し、画像を補間する複数の技術(filling−in法:非特許文献1乃至3参照)が既に開示されている。具体的には、例えば1枚の画像中において画素値が欠落した領域(以降、「補間対象領域」と称する)に対して、補間対象領域の近傍の画像(以降、「補間画像」と称する)を少しずつコピーしていく方法(非特許文献2参照)や、拡散系方程式に基づいて補間する方法(非特許文献1参照)がある。
【非特許文献1】M. Bertalmio、外3名、“Image inpainting”、ACM Proc. SIGGRAPH.、2000年、p.417-424
【非特許文献2】V. Kwatra、外4名、“Graphcut textures: image and video synthesis using graph cut”、ACM Proc. SIGGRAPH、2004年
【非特許文献3】A. Criminisi、外2名、“Region filling and object removal by exemplar-based image inpainting”、IEEE Transactions on Image Processing、2004年、vol. 13、no. 9、p.1200-1212
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の画像補間方法は、補間画像を規則的或いは準規則的に補間対象領域内に伝播させるため、周期的なパターン模様が生じ、視覚的違和感が残るという問題があった。特に、補間対象領域の大きさが大きくなるに従って、若しくは、補間対象領域の内部方向に向かうに従って、この問題が顕著に発生するという問題もあった。また、海や雲などのダイナミック・テクスチャや波状パターン等のように同じ模様のテクスチャが発生する確率が非常に低い場合には、同様の問題が更に顕著に発生するという問題があった。
【0005】
また、利用者の意思によって補間画像を補間対象領域に補間する場合には、人為的な操作が増加するため、コンピュータによる自動処理よりも非効率的であるという問題があった。特に動画の場合には、膨大な作業工程を必要とする問題があった。
【0006】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、1枚の画像を用いて、画像全体を通じて違和感の少ない補間画像を補間対象領域に補間する画像補間装置、画像補間方法、及び画像補間プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の請求項に係る発明は、各画素に画素値を有する画像を蓄積する蓄積手段と、前記画像を前記蓄積手段から読み出して、前記画素値が欠落した補間対象領域を検出する検出手段と、前記補間対象領域と同じ大きさの形状であって当該補間対象領域に補間する補間画像を前記画像から検索する検索手段と、変形後の前記補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値と変形前の前記補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値との差の2乗和が最小であって、変形後の前記補間画像の輪郭を形成する各画素値が前記補間対象領域の輪郭を形成する各画素値に一致し、変形後の前記補間画像の輪郭を形成する各画素値の微分係数が前記補間対象領域の輪郭を形成する各画素値の微分係数に一致することを境界条件とし、当該境界条件下でポアソン方程式を用いて前記補間画像を変形する第1の変形手段と、前記補間対象領域の周辺画像を特徴付ける周辺画像特徴量を解析する解析手段と、変形された前記補間画像を特徴付ける補間画像特徴量を解析し、当該補間画像特徴量と前記周辺画像特徴量との類似度を計算して、当該類似度が所定の範囲内であるか否かを判定する判定手段と、前記類似度が所定の範囲外の場合に、前記補間対象領域の周辺画像を変形する第2の変形手段と、を有し、前記第1の変形手段は、当該補間対象領域の周辺画像が変形されるに伴って変形した補間対象領域の輪郭を形成する各画素値を用いて、変形された前記補間画像を更に変形することを要旨とする。
【0008】
本発明にあっては、各画素に画素値を有する画像を蓄積する蓄積手段と、この画像を蓄積手段から読み出して、画素値が欠落した補間対象領域を検出する検出手段と、この補間対象領域と同じ大きさの形状であって当該補間対象領域に補間する補間画像を先の画像から検索する検索手段と、変形後の補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値と変形前の補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値との差の2乗和が最小であって、変形後の補間画像の輪郭を形成する各画素値が補間対象領域の輪郭を形成する各画素値に一致し、変形後の補間画像の輪郭を形成する各画素値の微分係数が補間対象領域の輪郭を形成する各画素値の微分係数に一致することを境界条件とし、当該境界条件下でポアソン方程式を用いて補間画像を変形する第1の変形手段と、補間対象領域の周辺画像を特徴付ける周辺画像特徴量を解析する解析手段と、変形された補間画像を特徴付ける補間画像特徴量を解析し、この補間画像特徴量と先の周辺画像特徴量との類似度を計算して、当該類似度が所定の範囲内であるか否かを判定する判定手段と、この類似度が所定の範囲外の場合に、補間対象領域の周辺画像を変形する第2の変形手段と、を有し、先の第1の変形手段が、補間対象領域の周辺画像が変形されるに伴って変形した補間対象領域の輪郭を形成する各画素値を用いて、変形された補間画像を更に変形するため、1枚の画像を用いて、画像全体を通じて違和感の少ない補間画像を補間対象領域に補間することができる。
【0009】
本発明にあっては、検索手段が、補間対象領域と同じ大きさの形状であってこの補間対象領域に補間する補間画像を同画像から検索するため、大量のデータベースを用いることなく、与えたれた1枚の画像内の情報だけで違和感のない画像を自動で生成することができる。
【0010】
第2の請求項に係る発明は、前記境界条件を満たす式には、所定の条件により前記補間画像の透明度を可変可能な式が含まれていることを要旨とする。
【0011】
本発明にあっては、境界条件を満たす式には、所定の条件により補間画像の透明度を可変可能な式が含まれているため、画像全体から得られる違和感をより確実に低減することができる。
【0012】
第3の請求項に係る発明は、前記第2の変形手段が、前記補間対象領域の周辺画像を構成する各画素値に対して所定の動きベクトルを与えた時間発展的に計算可能な移流方程式を用いて、前記補間対象領域の周辺画像を変形することを要旨とする。
【0013】
本発明にあっては、第2の変形手段が、補間対象領域の周辺画像を構成する各画素値に対して所定の動きベクトルを与えた時間発展的に計算可能な移流方程式を用いて、補間対象領域の周辺画像を変形するため、画像全体から得られる違和感をより確実に低減することができる。
【0014】
第4の請求項に係る発明は、各画素に画素値を有する画像を蓄積手段に蓄積する第1のステップと、前記画像を前記蓄積手段から読み出して、前記画素値が欠落した補間対象領域を検出する第2のステップと、前記補間対象領域と同じ大きさの形状であって当該補間対象領域に補間する補間画像を前記画像から検索する第3のステップと、変形後の前記補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値と変形前の前記補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値との差の2乗和が最小であって、変形後の前記補間画像の輪郭を形成する各画素値が前記補間対象領域の輪郭を形成する各画素値に一致し、変形後の前記補間画像の輪郭を形成する各画素値の微分係数が前記補間対象領域の輪郭を形成する各画素値の微分係数に一致することを境界条件とし、当該境界条件下でポアソン方程式を用いて前記補間画像を変形する第4のステップと、前記補間対象領域の周辺画像を特徴付ける周辺画像特徴量を解析する第5のステップと、変形された前記補間画像を特徴付ける補間画像特徴量を解析し、当該補間画像特徴量と前記周辺画像特徴量との類似度を計算して、当該類似度が所定の範囲内であるか否かを判定する第6のステップと、前記類似度が所定の範囲外の場合に、前記補間対象領域の周辺画像を変形する第7のステップと、を有し、前記第4のステップは、当該補間対象領域の周辺画像が変形されるに伴って変形した補間対象領域の輪郭を形成する各画素値を用いて、変形された前記補間画像を更に変形することを要旨とする。
【0015】
第5の請求項に係る発明は、前記境界条件を満たす式には、所定の条件により前記補間画像の透明度を可変可能な式が含まれていることを要旨とする。
【0016】
第6の請求項に係る発明は、前記第7のステップが、前記補間対象領域の周辺画像を構成する各画素値に対して所定の動きベクトルを与えた時間発展的に計算可能な移流方程式を用いて、前記補間対象領域の周辺画像を変形することを要旨とする。
【0017】
第7の請求項に係る発明は、請求項4乃至6のいずれか1項に記載の画像補間方法における各ステップをコンピュータによって実行させることを要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、1枚の画像を用いて、画像全体を通じて違和感の少ない補間画像を補間対象領域に補間する画像補間装置、画像補間方法、及び画像補間プログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。本実施の形態における画像補間装置は、補間対象領域に補間する初期の部分画像を1枚の画像内から境界部の連続性が最も高い部分画像を検索し、検索された補間画像を所定の境界条件下でポアソン方程式を用いて変形することを特徴としている。更に、非定常性パターンと称されている海,雲,煙,森林などの画像の場合、境界部の連続性のみならず、補間対象領域の周期画像の画像特徴量と変形後の補間画像の画像特徴量との類似度を計算し、所定の範囲内になるまで前述の境界条件の値を変えて補間画像の変形を繰り返すことで、違和感の少ない画像全体を表示することを可能としている。以下、この画像補間装置の構成及び処理について説明する。
【0020】
<画像補間装置のブロック構成及び全体の処理について>
図1は、本実施の形態における画像補間装置のブロック構成を示すブロック図である。この画像補間装置は、入力部10と、蓄積部11と、検出部12と、検索部13と、第1変形部14と、解析部15と、判定部16と、第2変形部17と、表示部18を備えた構成である。この画像補間装置は、専用のハードウェアとして構成してもよいし、汎用的なコンピュータを用いて構成してもよい。また、各部の処理をコンピュータプログラムによって実行させるようにしてもよい。更に、このコンピュータプログラムを読み取り可能な記録媒体に記録するようにしてもよい。なお、各部が処理した処理結果は、蓄積部11に蓄積される。
【0021】
図2は、本実施の形態における画像補間装置の全体処理を示すフローである。最初に、入力部10は、カメラを通じて撮影された画像の入力を受け付けて、蓄積部11に蓄積する(S101)。なお、本実施の形態で取り扱う画像は、複数の画素によって構成される静止画像である。ここで、画像の幅がwidthであり、高さがheightであるとすると、width×height個の画素によって構成される。各画素は、RGBカラーモデルにおいて色を表現可能な輝度値若しくは濃淡値(以降、「画素値」と称する)であり、画像におけるx座標値とy座標値とR値とG値とB値によって構成され、x座標値は1以上width以下の整数値であり、y座標値は1以上height以下の整数値であり、R値とG値とB値とはそれぞれ0以上255以下の整数値である。
【0022】
次に、検出部12は、蓄積部11に蓄積された画像を読み出して、伝送の途中で発生したパケットロスによる画像の一部分の欠落や不要な物体の消去の目的等により補正すべき領域がある場合に、その画素値が欠落した補間対象領域を検出する(S102)。例えば、R値とG値とB値との全てが0(零)である画素を検索し、この画素から上下方向若しくは左右方向に向かってR値とG値とB値との全てを0(零)とする連続領域を補間対象領域とすることができる。
【0023】
続いて、検索部13は、補間対象領域と同じ大きさの形状であって、この補間対象領域に補間する補間画像を、同画像において欠落していない他の領域から検索する(S103)。検索部13における処理の詳細については後述する。
【0024】
そして、第1変形部14は、変形後の補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値と変形前の補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値との差の2乗和が最小であって(第1境界条件)、変形後の補間画像の輪郭を形成する各画素値が補間対象領域の輪郭を形成する各画素値に一致し(第2境界条件)、変形後の補間画像の輪郭を形成する各画素値の微分係数が補間対象領域の輪郭を形成する各画素値の微分係数に一致すること(第3境界条件)を境界条件(後述するC級の境界条件に相当)とし、この境界条件と先の画像との最小化問題から導出されたポアソン方程式を用いて補間画像を変形する(S104)。第1変形部14における処理の詳細については後述する。
【0025】
続いて、解析部15は、補間対象領域の周辺に位置する周辺画像を特徴付ける周辺画像特徴量を解析する(S105)。この画像特徴量とは、周波数解析,色彩解析,テクスチャ解析等で解析された解析値である(後述するS106で説明する画像特徴量も同様である)。なお、解析部15の処理は、補間対象領域が検出された後に実行可能なので、S102からS104までの任意の段階で処理してもよい。
【0026】
次に、判定部16は、第1変形部14で変形された補間画像を特徴付ける補間画像特徴量を解析し、この補間画像特徴量と解析部15で解析した周辺画像特徴量との類似度を計算して、類似度が所定の範囲内であるか否かを判定する(S106)。例えば、テクスチャの持つ周波数の分布特徴量に関して類似度を計算し、この類似度が3%未満の場合には、S104で変形した補間画像を補間対象領域に補間した画像全体を表示する。計算した類似度が3%以上の場合には、S107に進む。なお、判定部16は、1種類の解析値のみを用いて判定してもよく、複数の解析値を復合的に用いて判定してもよい。
【0027】
そして、第2変形部17は、判定の結果、類似度が所定の範囲外の場合に、補間対象領域の周辺画像を変形する(S107)。S107の処理の後、S104に戻り、第1変形部14は、補間対象領域の周辺画像が変形されるに伴って変形した補間対象領域の輪郭を形成する各画素値を用いて、変形された補間画像を更に変形する。なお、第2変形部17における処理の詳細については後述する。
【0028】
最後に、表示部18は、判定部16での判定の結果、類似度が所定の範囲内の場合に、S104で変形した補間画像を補間対象領域に補間した画像全体を表示する。(S108)。なお、補間画像を補間対象領域に補間する処理は、補間画像が検索された後に実行可能なので、S103以降の任意の段階で処理してもよい。
【0029】
<検索部の処理について>
図3は、検索部の処理を説明するための説明図である。検索部13は、補間対象領域を有する画像と同じ画像の他の領域から任意の1つの画像のみを検索し、それを補間画像とすることも可能であるが、画像全体を通じて違和感のより少ない補間画像を検索するためには、補間画像の輪郭を形成する各画素の色彩及びテクスチャが、補間対象領域の輪郭を形成する各画素の色彩及びテクスチャに類似する類似画像を補間画像とすることが望ましい。
【0030】
まず、検索部13は、同画像において欠落領域の無い領域のうち、左上に位置する類似画像#1を探索(探索#1)する。そして、検索部13は、この類似画像#1の点線上に対応した画像の輝度値(色彩及びテクスチャ)の空間1次微分と、補間対象領域の実線上に対応した画像の輝度値(色彩及びテクスチャ)の空間1次微分とを計算し、正規化相関関数を用いて両者の類似度を計算する。検索部13は、類似画像#1の領域を下方向及び/又は右方向にずらしながら画像内の全てにわたって同様の類似度計算を行い、図4に示すように、類似度が最大である類似画像を補間画像とする。
【0031】
<第1変形部の処理について>
図5は、第1変形部の処理を説明するための説明図である。ここでは説明の都合上、画像Fの内部にある初期画像g(変形前の補間画像)をデジタル編集などのツールにより切り取って変形し、変形画像f(変形後の補間画像)を別の画像Fの補間対象領域fに貼り付ける処理について説明する。なお、補間画像の輪郭を形成する各画素値を∂Ωとし、補間画像を構成する各画素値(即ち、∂Ωの内側の領域)をΩとする。また、Ωにおける初期画像gの各画素値の初期値をgとし、Ωにおける変形画像fの各画素値をfとする。以下、2種類の境界条件について説明する。
【0032】
〔境界条件がC級の場合:従来の境界条件〕
境界条件がC級の場合には、初期画像gのテクスチャ情報をなるべく保存しながら∂Ωを目立たなくするため、変形画像fを構成する各画素値の空間1次微分値と初期画像gを構成する各画素値の空間1次微分値との差の2乗和が最小となることを第1境界条件とする。また、補間画像が補間対象領域fに違和感なく貼り付けられるためには、補間画像の輪郭の色及びテクスチャと、補間対象領域の輪郭の色及びテクスチャとが画素値において連続することが必要であるため、変形画像fの輪郭を形成する各画素値が補間対象領域fの輪郭を形成する各画素値に一致することを第2境界条件とする。
【0033】
即ち、これらの条件を上記変数に置き換えると、第1境界条件は、Ωにおいてfの勾配とgの勾配の差の2乗和が最小であって、第2境界条件は、∂Ωにおいてf=fとなる。そして、これら2つの条件を満たす式は、式(1)となる。
【数1】

【0034】
min∬|∇f−∇g|は第1境界条件を満たし、f|∂Ω=f∂Ωは第2境界条件を満たしている。そして、式(1)をfに関するEuler−Lagrange方程式として解くと式(2)で表現することができる。
【数2】

【0035】
式(2)の第1項は0(ゼロ)になるので、式(2)は、式(3)に示すように第2項のみで表現可能となり、
【数3】

【0036】
最終的には、式(4)に示すように、fに関するポアソン方程式を得ることができる。
【数4】

【0037】
ここで、式(4)をコンピュータで処理するため、各変数を離散化する必要がある。例えば、Δfを離散化するには、上下方向と左右方向とに隣接するピクセルとの差分から式(5)を用いることが必要となる。
【数5】

【0038】
従って、式(4)は式(6)に示すような離散化された表現で表すことができる。
【数6】

【0039】
但し、pはΩ内の点とし、qはpの近傍4画素を示し、Nはqの個数(=4)である。f|∂Ω=f∂Ωを満たしているのが、式(6)の左辺第2項(Σf+Σf)である。pの近傍画素qをΩと∂Ωとに分け、∂Ω上の点qに対してはfの画素を用いることで、f|∂Ω=f∂Ωを満足することになる。故に、結局全てのΩ内の点pにおいて式(6)が成立する。
【0040】
ここで、式(6)の左辺第2項(Σf+Σf)のうち、qの属性が∂Ωの項を右辺に移項すると、式(7)及び式(8)を得ることができる。
【数7】

【数8】

【0041】
式(7)は、未知数fに関する連立1次方程式なので、ガウスの消去法等でコンピュータを用いて計算させることができる。
【0042】
〔境界条件がC級の場合:本発明の境界条件〕
しかしながら、従来の境界条件C級の場合、変形画像fと補間対象領域fとの境界における微分係数は連続していない。そこで本発明の境界条件C級の場合には、第1境界条件及び第2境界条件に加えて、変形画像fの輪郭(以降、「境界」と称する場合もある)を形成する各画素値の微分係数が補間対象領域fの輪郭を形成する各画素値の微分係数に一致することを更なる境界条件(第3境界条件)とする。この境界条件を上記変数に置き換えると、∂Ωにおいて∇f=∇fとなる。従って、第1〜第3境界条件を満たす式は式(9)となる。なお、式(1)との違いは、第3境界条件を満たすため、∇f|∂Ω=∇f∂Ωの条件を含み、更に、ガイダンス場gが、初期値gからg’に変更されている。
【数9】

【数10】

【数11】

【0043】
式(10)は、式(11)で示す条件により補間画像の透明度を可変に設定可能とする式である。言い換えれば、貼り付ける画像の透明度を設定する設定式であり、境界付近で透明、且つ補間画像の中心方向に向かうに従って不透明に設定することができる。境界付近を透明とすることでC級での連続性を担保している。
【0044】
式(11)に示すnlは座標xと座標xに最も近い境界上の座標との距離であり、Lは境界上の座標と補間画像の中心座標との距離であり、r(0<r<1)はC級の連続性を決定するパラメータである。故に、例えば、r=1の場合には、境界で透明であり、中心方向に向かうに従って透明度が低くなり、中心で不透明になるよう補間画像を変更することができる。また、r=0.5の場合には、境界で透明であり、中心方向に向かうに従って透明度が低くなり、境界から中心までの距離の半分の位置で不透明になり、半分の位置から中心までは不透明になるよう補間画像を変更することができる。
【0045】
式(9)をfに関するEuler−Lagrange方程式として解くと、式(12)に示すように、fに関するポアソン方程式を得ることができる。
【数12】

【0046】
ここで、式(12)をコンピュータで処理するため、各変数を離散化すると式(13)〜式(15)を得ることができる。
【数13】

【数14】

【数15】

【0047】
なお、nlはqとqに最も近い境界上の座標との距離であり、Lは境界上の座標と補間画像の中心座標との距離であり、r(0<r<1)はC級の連続性を決定するパラメータである。式(13)は、未知数fに関する連立1次方程式なので、式(7)と同様に、ガウスの消去法等でコンピュータを用いて計算させることができる。
【0048】
<第2変形部の処理について>
第2変形部17は、第1変形部で用いた境界条件の値を時空間的に変形する。具体的には、波の動きベクトルを格納部に予め格納しておき、この動きベクトルu(t)と、補間対象領域の周辺に存在する周辺画像を構成する各画素値c(x(t),y(t))とを式(16)に示す移流方程式に代入し、各画素値の時間発展解を計算して補間対象領域の周辺画像のテクスチャを変形する。
【数16】

【0049】
式(16)の移流方程式を用いて時間発展後の画素値(濃淡値)を各画素で求めることにより、これまでのように移流方程式を差分近似する処理が不要となる。この数式は、時間発展後の画素値が、過去の画素値を変化させずに到達したものと仮定している。これは、移流方程式における誤差拡散のない理想解を求めていることに相当している。
【0050】
補間対象領域の周辺画像が変形することは、前述した第2境界条件における変形された補間対象領域の周辺画像の変形に対応するため、第1変形部で用いた境界条件の値が変化することになる。
【0051】
<画像補間装置における処理の効果について>
図6は、人為的につくられた1つの補間対象領域を有する雲画像である。また、図7は、図6に示す雲画像を用いて画像補間を行った画像全体である。図7(a)は、C級の境界条件を用いて本実施の形態で説明した補間方法に従って補間した画像であり(以降、「本願法」と称する)、図7(b)は、非特許文献2に開示された従来のKWATRA法を用いて補間した画像である(以降、「従来法」と称する)。
【0052】
従来法の場合、補間対象領域に補間された補間画像とその周辺画像との間のテクスチャ性が本願法よりも大きく異なるため、補間対象領域において本願法よりも違和感を与える画像となっている。しかしながら、本願法の場合には、補間対象領域内のテクスチャ性が周辺画像と同じであり、色彩については、境界条件を用いて補間対象領域の内部方向に自然に伝搬するよう変形されているため、補間対象領域に補間される補間画像とその周辺画像との間のテクスチャ性等の違和感が従来法よりも小さい。
【0053】
図8は、本実施の形態における補間方法に従って花畑画像の補間対象領域を補間した画像全体である。左上の画像は、補間対象領域のない本来の画像である。また、右上の画像は、図8の画像に対して6つの補間対象領域を人為的に作成した画像であり、左下の画像は、同画像の他の領域から最も類似する類似画像を補間画像として補間する状態を示す画像である。そして、右下の画像は、補間後の画像全体である。
【0054】
左下の画像によれば、6つの補間対象領域に補間する補間画像が同画像内におけるどこの領域から検索されたかを把握することができる。必ずしも各補間対象領域に近い領域とは限らず、かなり離れた領域が補間画像として検索されている。手作業の場合には補間対象領域の近傍から補間画像を探索することが多くなるが、本願法によれば、コンピュータを用いて処理を自動化させることで、人為的な手作業よりも連続性のある違和感の少ない画像をより確実に補間対象領域に補間することが可能となる。また、図7を用いて説明した処理結果と同様に、補間対象領域内のテクスチャ性が周辺画像と同じであり、色彩については、境界条件を用いて補間対象領域の内部方向に自然に伝搬するよう変形されているため、補間対象領域に補間される補間画像とその周辺画像との間のテクスチャ性等に違和感を与えることなく補間可能であることを把握できる。
【0055】
最後に、本実施の形態で説明したポアソン方程式を用いて行う画像補間方法によれば、C級の境界条件を満たす式(9)には、式(11)で示す条件により補間画像の透明度を可変可能な式(10)が含まれているので、虹,水面下の魚,霧と車などの半透明なシーンの画像であっても違和感のない画像全体を表示することができる。例えば、式(11)において、ある1枚の画像の濃淡値と、もう1枚の画像或いは同画像における他の領域の画像の濃淡値とにおける両者の混合比を0.7:0.3などに設定することで、違和感のない自然な画像補間が可能となる。
【0056】
図9は、半透明なシーンの合成画像を示す図である。図9(a)に示すように、透明感のある波画像に別の画像素材である魚画像を補間(合成)して魚画像を変形する。半透明表現を用いない場合(例えば、式(11)で示すrがr’以上の場合)は、図9(b)に示すように、魚の周辺のテクスチャは波の状態に変形されているものの、魚を覆う表面の波画像は透明に表現されている。一方、半透明表現を用いる場合(例えば、式(11)で示すrがr’未満の場合)には、図9(c)に示すように、魚のテクスチャがポアソン方程式における境界条件により保存され、魚を覆う表面の波画像の透明度が下がり半透明に表現されて、半透明表現を用いない場合よりも、魚が水面下にあるような表現を容易に得ることが可能となる。魚と波の双方のテクスチャを残したシーン合成は一般に困難であり、従来は人為的な作業により行われていたが、本発明により自動的に合成可能となる。
【0057】
また、このような画像補間方法は、マルチメディア分野,符号化分野,通信分野などの様々な分野において適応可能であることは言うまでもない。
【0058】
本実施の形態によれば、各画素に画素値を有する画像を蓄積する蓄積部11と、この画像を蓄積手段から読み出して、画素値が欠落した補間対象領域を検出する検出部12と、この補間対象領域と同じ大きさの形状であって当該補間対象領域に補間する補間画像を先の画像から検索する検索部13と、変形後の補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値と変形前の補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値との差の2乗和が最小であって、変形後の補間画像の輪郭を形成する各画素値が補間対象領域の輪郭を形成する各画素値に一致し、変形後の補間画像の輪郭を形成する各画素値の微分係数が補間対象領域の輪郭を形成する各画素値の微分係数に一致することを境界条件とし、当該境界条件下でポアソン方程式を用いて補間画像を変形する第1変形部14と、補間対象領域の周辺画像を特徴付ける周辺画像特徴量を解析する解析部15と、変形された補間画像を特徴付ける補間画像特徴量を解析し、この補間画像特徴量と先の周辺画像特徴量との類似度を計算して、当該類似度が所定の範囲内であるか否かを判定する判定部16と、この類似度が所定の範囲外の場合に、補間対象領域の周辺画像を変形する第2変形部17と、を有し、第1変形部14が、補間対象領域の周辺画像が変形されるに伴って変形した補間対象領域の輪郭を形成する各画素値を用いて、変形された補間画像を更に変形するので、1枚の画像を用いて、画像全体を通じて違和感の少ない補間画像を補間対象領域に補間することができる。
【0059】
本実施の形態によれば、検索部13が、補間対象領域と同じ大きさの形状であってこの補間対象領域に補間する補間画像を同画像から検索するので、大量のデータベースを用いることなく、与えたれた1枚の画像内の情報だけで違和感のない画像を自動で生成することができる。
【0060】
本実施の形態によれば、境界条件を満たす式には、所定の条件により補間画像の透明度を可変可能な式が含まれているので、画像全体から得られる違和感をより確実に低減することができる。
【0061】
本実施の形態によれば、第2変形部17が、補間対象領域の周辺画像を構成する各画素値に対して所定の動きベクトルを与えた時間発展的に計算可能な移流方程式を用いて、補間対象領域の周辺画像を変形するので、画像全体から得られる違和感をより確実に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本実施の形態における画像補間装置のブロック構成を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態における画像補間装置の全体処理を示すフローである。
【図3】検索部の処理を説明するための説明図である。
【図4】類似画像の探索数と類似度との関係を示す図である。
【図5】第1変形部の処理を説明するための説明図である。
【図6】人為的につくられた1つの補間対象領域を有する雲画像である。
【図7】図6に示す雲画像を用いて画像補間を行った画像全体である。
【図8】本実施の形態における補間方法に従って花畑画像の補間対象領域を補間した画像全体である。
【図9】半透明なシーンの合成画像を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
10…入力部
11…蓄積部
12…検出部
13…検索部
14…第1変形部
15…解析部
16…判定部
17…第2変形部
18…表示部
S101〜S108…ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各画素に画素値を有する画像を蓄積する蓄積手段と、
前記画像を前記蓄積手段から読み出して、前記画素値が欠落した補間対象領域を検出する検出手段と、
前記補間対象領域と同じ大きさの形状であって当該補間対象領域に補間する補間画像を前記画像から検索する検索手段と、
変形後の前記補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値と変形前の前記補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値との差の2乗和が最小であって、変形後の前記補間画像の輪郭を形成する各画素値が前記補間対象領域の輪郭を形成する各画素値に一致し、変形後の前記補間画像の輪郭を形成する各画素値の微分係数が前記補間対象領域の輪郭を形成する各画素値の微分係数に一致することを境界条件とし、当該境界条件下でポアソン方程式を用いて前記補間画像を変形する第1の変形手段と、
前記補間対象領域の周辺画像を特徴付ける周辺画像特徴量を解析する解析手段と、
変形された前記補間画像を特徴付ける補間画像特徴量を解析し、当該補間画像特徴量と前記周辺画像特徴量との類似度を計算して、当該類似度が所定の範囲内であるか否かを判定する判定手段と、
前記類似度が所定の範囲外の場合に、前記補間対象領域の周辺画像を変形する第2の変形手段と、を有し、
前記第1の変形手段は、当該補間対象領域の周辺画像が変形されるに伴って変形した補間対象領域の輪郭を形成する各画素値を用いて、変形された前記補間画像を更に変形することを特徴とする画像補間装置。
【請求項2】
前記境界条件を満たす式には、所定の条件により前記補間画像の透明度を可変可能な式が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の画像補間装置。
【請求項3】
前記第2の変形手段は、
前記補間対象領域の周辺画像を構成する各画素値に対して所定の動きベクトルを与えた時間発展的に計算可能な移流方程式を用いて、前記補間対象領域の周辺画像を変形することを特徴とする請求項1又は2に記載の画像補間装置。
【請求項4】
各画素に画素値を有する画像を蓄積手段に蓄積する第1のステップと、
前記画像を前記蓄積手段から読み出して、前記画素値が欠落した補間対象領域を検出する第2のステップと、
前記補間対象領域と同じ大きさの形状であって当該補間対象領域に補間する補間画像を前記画像から検索する第3のステップと、
変形後の前記補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値と変形前の前記補間画像を構成する各画素値の空間1次微分値との差の2乗和が最小であって、変形後の前記補間画像の輪郭を形成する各画素値が前記補間対象領域の輪郭を形成する各画素値に一致し、変形後の前記補間画像の輪郭を形成する各画素値の微分係数が前記補間対象領域の輪郭を形成する各画素値の微分係数に一致することを境界条件とし、当該境界条件下でポアソン方程式を用いて前記補間画像を変形する第4のステップと、
前記補間対象領域の周辺画像を特徴付ける周辺画像特徴量を解析する第5のステップと、
変形された前記補間画像を特徴付ける補間画像特徴量を解析し、当該補間画像特徴量と前記周辺画像特徴量との類似度を計算して、当該類似度が所定の範囲内であるか否かを判定する第6のステップと、
前記類似度が所定の範囲外の場合に、前記補間対象領域の周辺画像を変形する第7のステップと、を有し、
前記第4のステップは、当該補間対象領域の周辺画像が変形されるに伴って変形した補間対象領域の輪郭を形成する各画素値を用いて、変形された前記補間画像を更に変形することを特徴とする画像補間方法。
【請求項5】
前記境界条件を満たす式には、所定の条件により前記補間画像の透明度を可変可能な式が含まれていることを特徴とする請求項4に記載の画像補間方法。
【請求項6】
前記第7のステップは、
前記補間対象領域の周辺画像を構成する各画素値に対して所定の動きベクトルを与えた時間発展的に計算可能な移流方程式を用いて、前記補間対象領域の周辺画像を変形することを特徴とする請求項4又は5に記載の画像補間方法。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか1項に記載の画像補間方法における各ステップをコンピュータによって実行させることを特徴とする画像補間プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−163616(P2009−163616A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2221(P2008−2221)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】