画像読取光学系および画像読取装置
【課題】 アナモルフィックな結像光学系を用いた画像読取光学系であって、焦点ズレによるコントラスト性能の変化が少ない画像読取光学系およびこれを用いた画像読取装置を提供する。
【解決手段】 光学的位相変更フィルタは、入射する光束の中心における面法線を含み、かつ主走査方向あるいは副走査方向を含む所定面に関してのみ、対称な形状の面形状成分を備え、入射する光束の中心における面法線を含み、前記所定面に直交する面に関して一方側を前記進相領域、他方側を前記遅相領域とする。
【解決手段】 光学的位相変更フィルタは、入射する光束の中心における面法線を含み、かつ主走査方向あるいは副走査方向を含む所定面に関してのみ、対称な形状の面形状成分を備え、入射する光束の中心における面法線を含み、前記所定面に直交する面に関して一方側を前記進相領域、他方側を前記遅相領域とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像読取光学系および画像読取装置に関し、特に高開口かつコントラスト性能が安定した画像読取を必要とするイメージスキャナーやデジタル複写機等に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、原稿面上の画像情報を読取る画像読取装置として、主走査方向に複数の受光素子を配列したリニアイメージセンサを用いるものが知られている。結像光学系で画像情報をリニアイメージセンサに結像させ、原稿とリニアイメージセンサとの相対的位置を副走査方向に変位させ、リニアイメージセンサから得られる出力信号を利用して画像情報を読取る画像読取装置がある。
【0003】
図17は、従来のキャリッジ一体型走査方式の画像読取装置の概略図である。同図において、照明光源81から放射された光束は、直接原稿台ガラス82に載置した原稿87を照明する。原稿87からの反射光束は、順に第1、第2、第3折り返しミラー83a、83b、83cを介して、キャリッジ86内部でその光路を折り曲げ、結像レンズ(結像光学系)84によりリニアイメージセンサ85面上に原稿87の画像情報を結像している。
【0004】
そして、キャリッジ86を副走査用のモーター88により、矢印A方向(副走査方向)に移動させることにより原稿87の画像情報を読み取っている。同図におけるリニアイメージセンサ85は、複数の受光素子を1次元方向(主走査方向)に配列した構成により成り立っている。
【0005】
図18は、図17の画像読取装置の読取光学系の基本構成の説明図である。図中、84は結像光学系、85R、85G、85Bは各々リニアイメージセンサ85を構成するR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の各色を読み取るリニアイメージセンサである。87R、87G、87Bはリニアイメージセンサ85R、85G、85Bで読取るための原稿87面上の読取範囲である。
【0006】
原稿面を副走査方向に走査することによって、ある時間間隔をおいて同一箇所を異なる色で読み取ることができる。この構成において、結像光学系84が通常の屈折系からなる場合には軸上色収差や倍率色収差等が発生する。そこで、基準のリニアイメージセンサ85Gに対し、リニアイメージセンサ85B、85Rに結像されるライン像にデフォーカスあるいは位置ズレが発生する。したがって、各色画像を重ね合わせて再現した時に、色にじみや色ズレの目立つ画像になる。即ち、高開口、高解像度の性能が要求される場合には要求に対応できなくなる。
【0007】
一方、リニアイメージセンサを前提とした光学系であることから、主走査方向と副走査方向に非対称なアナモルフィック光学系を用いて上記要求に対応する技術がある。特に、アナモルフィック光学系のうち、非共軸光学系においても基準軸という概念を導入し、構成面を非対称非球面にすることで十分に収差を補正することが可能な光学系が提案されている。
【0008】
こうした非共軸光学系は、オフアキシャル光学系(像中心と瞳中心を通る光線に沿った基準軸を考えたとき、構成面の基準軸との交点における面法線が基準軸上にない曲面(オフアキシャル曲面)を含む光学系として定義される。この時、基準軸は折れ曲がった形状となる)と呼ばれる。
【0009】
このオフアキシャル光学系は、構成面が一般には非共軸となり、反射面でもケラレが生じることがないため、反射面を使った光学系の構築がし易い。また、光路の引き回しが比較的自由に行える、構成面を一体成型する手法で一体型の光学系を作りやすい、という特徴をもっている。
【0010】
特許文献1では、2面のオフアキシャル反射面を複合させたオフアキシャル光学系が開示されている。この光学系によれば、高価になりがちな金型や成形機を一つにすることができ、製造コストを大幅に下げることができる。これによって、図19に示すように、小型でかつ部品点数の少ない画像読取装置が実現される。
【0011】
図19中、1は光源装置であって、蛍光灯やLEDアレイ等から成っている。2は原稿台ガラスであり、その台上に原稿(物体)7が載置されている。3a、3b、3cは順に第1、第2、第3の反射ミラーである。図20に詳細を示す94は画像読取用の結像光学系(オフアキシャル光学系)であり、原稿7の画像情報に基づく光束を読取手段としてのリニアイメージセンサ5上に結像させている。
【0012】
この結像光学系では、基準軸光線の反射点での面法線が基準軸上にない。自由曲面形状の反射面を複数一体に形成した自由曲面反射部材4aは、平面形状の反射面を備えた平面反射部材4bと対向するように配置されている。SPは絞りであり、平面ミラー部材4bの平面反射面R2に設けている。例えば、絞りは黒色の樹脂シート部材を平面ミラー表面に接着するなどの方法で作成される。5はCCD等で構成されるリニアイメージセンサ(受光手段)であり、像面に相当する位置に配置されている。6はキャリッジ(筐体)であり、各部材1、3a、3b、3、94、5等を収納している。
【0013】
ここで、リニアイメージセンサ5の画素の並び方向(紙面と垂直方向X方向)が主走査方向、それに直交する方向(紙面内方向Y方向)が副走査方向である。光束の進行方向をZ方向とする。このときXZ面が主走査断面、YZ面が副走査断面である。光源1から発した光束で原稿台ガラス2の上に載置された原稿(物体)7を照明し、原稿7からの光束を第1、第2、第3の反射ミラー3a、3b、3cを介してオフアキシャル反射面部材4aのオフアキシャル反射面R1に入射させている。
【0014】
そして、オフアキシャル反射面R1で反射した光束を、平面ミラー部材4bの平面反射面R2に入射させ、鋭角に反射させる。その後、該オフアキシャル反射面R1とは異なるオフアキシャル反射面R3に入射させ、反射させた後、リニアイメージセンサ5上に結像させる。尚、このとき各々の反射面は副走査断面内において光路を折り曲げている。そして、原稿7とキャリッジ6との相対的位置を副走査方向(矢印A方向)に変えて原稿7の画像情報を2次元的に読み取っている。
【0015】
画像読取装置をコンパクトに構成するために第1、第2、第3の反射ミラー3a、3b、3cにより光路を折り畳んでいる。結像光学系94も光路を折り畳むのに寄与している。本従来例は、Fナンバー(以下、Fno)が6.0、倍率が0.11、物体高が150mmで設計されている。図22(A)に像面上で60LinePair/mmでのMTF(Modulation Transfer Function)深度特性を示す。実線が副走査方向のMTF(S_MTF)を示す。破線が主走査方向のMTF(M_MTF)を示す。横軸の中心0が合焦位置である。
【0016】
結像光学系94では、光路をオフアキシャル面によって、おおよそZの形状に折り畳むことで互いのオフアキシャル反射面で発生する偏心収差をキャンセルし易くしている。さらに、平面ミラー部材を用い、収差に影響することなくΣの形状に折りたたんでいる。これによって、平面ミラー部材1枚とオフアキシャル反射面部材1枚という少ない構成にも関わらず良好なる結像性能を得ている。
【0017】
昨今の画像読取装置は高速化が求められており、光学系としても高開口化が求められるようになってきている。図20の従来のオフアキシャル光学系をFno4.0に高開口化したのが図21で示す光学系である。この光学系のMTF深度特性を図22(B)に示す。一般に高開口化された光学系は、合焦位置ではMTFが高く、焦点がずれた位置では急激に低下する。また、収差が大きい場合は、合焦状態でもMTFが低く、焦点がずれた場合にさらに低下する。
【0018】
特に、オフアキシャル光学系を含むアナモルフィック光学系では、主走査方向と副走査方向で特性が共通ではない。そのため、図22に示すように、実線で示す副走査方向のMTFは合焦状態の位置0においては、高いMTF値を示し、焦点ズレを起こすと急激に低下する。破線で示す主走査方向には、合焦状態でも収差のMTF値は副走査方向に比べて低く、焦点ズレによってさらに低下する。図23に、図22の合焦位置における波面収差を示す。一般に外周部に近づくにつれて収差量は大きくなることから、高開口化した場合に収差量は増える。
【0019】
画像読取装置において、焦点ズレが発生すると画像が劣化するだけでなく様々な問題を併発する。例えば、画像先鋭化のための処理などは工場出荷時に最適化されている。よって、その状態から焦点ズレを起こすと適切な処理ができなくなり、画像が先鋭化されなくなる。そのために、MTF値は常に安定した状態であることが望まれている。MTF値が安定しているかどうかの指標として、式1を用いることができる。
(式1)
MTF安定度:MS=(最も高いMTF−最も低いMTF)/(最も高いMTF+最も低いMTF)(%)
【0020】
図22(A)に示す従来の光学系は、合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度S=4.6%である。ここでは、1ステップを0.025mmとしている。そのため、合焦位置前後±1ステップとは、合焦位置から撮像面を±0.025mm移動させることに相当する。同安定度は前述の問題が顕著とならないように8%以下にすることが好ましい。図22(B)に示す従来の光学系は合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度MS=14.4%であり、改善が必要であった。
【0021】
焦点ズレは様々な現象によって、発生する可能性がある。例えば、画像読取装置の設置される環境温度が極端に熱いまたは寒いと、光学素子は変形し焦点ズレが生じる場合がある。他に、設置作業時や輸送時の振動が大きいと位置ズレなどによって焦点ズレが生じる可能性もある。現在は、上記のような焦点ズレを発生させないように、設置環境や振動について、空調や梱包などによって対策されている。しかしながら、新興国の経済成長とともに、これまで想定されていなかった設置環境で使用される場合や、道路事情が良くない中を輸送されるケースが予想されている。
【0022】
よって、焦点ズレの対策は、画像読取光学系として重要な案件である。焦点ズレについての対策としては焦点調整機構を搭載するなどの対策が考えられる。しかしながら、画像読取装置は前述のように高速でキャリッジが移動するので焦点調整機構など重量の増える機構の搭載は困難である。よって、焦点ズレしてもコントラスト性能の変化が少ない光学系が必要である。
【0023】
一方で、焦点ズレしてもコントラスト性能の変化を低減できるようにする技術もある。特許文献2には、光学的位相変更フィルタによりコントラスト性能を補正する方法が提案されている。この光学的位相変更フィルタは、N(2、3、・・・)回対称性を有し、入射する光束の波面の位相を進める進相作用を有する進相領域と入射する光束の波面の位相を遅らせる遅相作用を有する遅相領域とを備える。N回対称性とは、基準軸を中心に360/N°回転させたときに同一形状になる特徴を言う。この場合、入射する光束の中心における面法線を含み、上述した対称面に直交する面に関して、一方側を進相領域、他方側を遅相領域とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2006−259544号公報
【特許文献2】特開平9−288254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
特許文献2に記載される技術は、カメラなど光軸を基準に回転対称配置された一般的な結像光学系を用いるものに対して効果を発揮できる。即ち、回転対称配置された一般的な結像光学系として、焦点ズレによるコントラスト性能の変化が少ない結像光学系を得ることができる。
【0026】
しかしながら、画像読取装置として、スリット領域を結像するアナモルフィックな結像光学系(スリット領域の長手方向である主走査方向と、これに直交する副走査方向とで断面形状が異なる結像光学系)を用いるものに対しては、十分な効果が得られなかった。即ち、アナモルフィックな結像光学系として、焦点ズレによるコントラスト性能の変化が少ない結像光学系を得ることができなかった。
【0027】
そこで、本発明の目的は、アナモルフィックな結像光学系を用いた画像読取光学系であって、焦点ズレによるコントラスト性能の変化が少ない画像読取光学系およびこれを用いた画像読取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的を達成するために、本発明の代表的な構成は、原稿のスリット領域をイメージセンサに結像するために用いられ、前記スリット領域の長手方向である主走査方向と前記主走査方向に直交する副走査方向とで断面形状が異なる光学素子を備える結像光学系と、前記原稿から前記イメージセンサへの結像光路中に設けられる絞りと、前記絞りの付近に設けられ、入射する光束の中心の波面の位相を基準とするとき、前記入射する光束の波面の位相を進める進相作用を有する進相領域と、前記入射する光束の波面の位相を遅らせる遅相作用を有する遅相領域とを備える光学的位相変更フィルタと、を有する画像読取光学系であって、前記光学的位相変更フィルタは、前記入射する光束の中心における面法線を含み、かつ前記主走査方向あるいは前記副走査方向を含む所定面に関してのみ、対称な形状の面形状成分を備え、前記入射する光束の中心における面法線を含み、前記所定面に直交する面に関して一方側を前記進相領域、他方側を前記遅相領域とすることを特徴とする。
【0029】
また、本発明の他の代表的な構成は、原稿のスリット領域をイメージセンサに結像するために用いられ、前記スリット領域の長手方向である主走査方向と前記主走査方向に直交する副走査方向とで断面形状が異なる光学素子を備える結像光学系と、前記原稿から前記イメージセンサへの結像光路中に設けられる絞りと、前記絞りの付近に設けられ、入射する光束の中心の波面の位相を基準とするとき、前記入射する光束の波面の位相を進める進相作用を有する進相領域と、前記入射する光束の波面の位相を遅らせる遅相作用を有する遅相領域とを備える光学的位相変更フィルタと、を有する画像読取光学系であって、前記光学的位相変更フィルタは、前記入射する光束の中心における面法線を含み、かつ前記入射する光束の中心における面法線を含む複数の対称面に関して、対称な形状の第1の面形状成分と、前記主走査方向あるいは前記副走査方向を含む所定面に関してのみ、対称な形状の第2の面形状成分と、を前記光学的位相変更フィルタの単一の面あるいは異なる面に備え、前記第1の面形状成分、前記第2の面形状成分は、前記入射する光束の中心における面法線を含み、前記複数の対称面あるいは前記所定面に直交する面に関して一方側を前記進相領域、他方側を前記遅相領域とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、アナモルフィックな結像光学系を用いた画像読取光学系であって、焦点ズレによるコントラスト性能の変化が少ない画像読取光学系およびこれを用いた画像読取装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る画像読取光学系を搭載した画像読取装置の要部概略図である。
【図2】第1の実施形態のYZ面内での全体の構成を示す要部断面図である。
【図3】第1の実施形態の光学的位相変換フィルタの形状を示す概略図である。
【図4】第1の実施形態のMTFデフォーカス特性を示す図である。
【図5】第1の実施形態の波面収差を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係る画像読取装置の要部概略図である。
【図7】第2の実施形態のYZ面内での全体の構成を示す要部断面図である。
【図8】第2の実施形態の光学的位相変換フィルタの形状を示す概略図である。
【図9】第2の実施形態のMTFデフォーカス特性を示す図である。
【図10】第2の実施形態の波面収差を示す図である。
【図11】第3の実施形態に係る画像読取光学系を搭載した画像読取装置の要部概略図である。
【図12】第3の実施形態のYZ面内での全体の構成を示す要部断面図である。
【図13】第3の実施形態の光学的位相変換フィルタの形状を示す概略図である。
【図14】第3の実施形態のMTFデフォーカス特性を示す図である。
【図15】第3の実施形態の波面収差を示す図である。
【図16】本発明の実施形態に係る光学的位相変換フィルタの焦点ズレによるコントラスト性能の変化が少ない基本的作用を説明する図である。
【図17】従来の画像読取装置の要部概略図である。
【図18】従来のカラー画像読取装置の基本構成図である。
【図19】従来のオフアキシャル光学系を用いた画像読取装置の要部概略図である。
【図20】従来のオフアキシャル光学系のYZ面内での全体の構成を示す要部断面図である。
【図21】従来の高開口のオフアキシャル光学系のYZ面内での全体の構成を示す要部断面図である。
【図22】従来の高開口のオフアキシャル光学系のMTFデフォーカス特性を示す図である。
【図23】従来の高開口のオフアキシャル光学系の波面収差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
《第1の実施形態》
(画像読取光学系)
以下、本発明の第1の実施形態に係るオフアキシャル結像光学系を備えた画像読取光学系について説明する。図1は、本実施形態の副走査断面内の要部概略図である。図2は、図1の結像光学系4を抽出したときの副走査断面内の概略図である。図3は、図2の光学的位相変更フィルタ上に設けられた反射面R3の形状を説明する図である。図中、1は光源装置であって、蛍光灯やLEDアレイ等から成っている。2は原稿台ガラスであり、その台上に原稿(物体)7が載置されている。3a、3b、3cは順に第1、第2、第3の反射ミラーである。
【0033】
4は画像読取用の結像光学系(オフアキシャル光学系)であり、原稿7の画像情報に基づく光束を読取手段としてのリニアイメージセンサ5上に結像させている。結像光学系4は、基準軸光線の反射点での面法線は基準軸上にないオフアキシャル光学系である。自由曲面形状の反射面を複数一体に形成した自由曲面反射部材4aは、反射面を備えた光学的位相変換フィルタ4bと対向するように配置されている。SPは絞りであり、光学的位相変更フィルタ4bの反射面R2に設けている。例えば、絞りは黒色の樹脂シート部材を光学的位相変更フィルタ表面に接着するなどの方法で作成される。
【0034】
5はCCD等で構成されるリニアイメージセンサ(受光手段)であり、像面に相当する位置に配置している。6はキャリッジ(筐体)であり、各部材1、3a、3b、3c、4、5等を収納している。ここでリニアイメージセンサ5の画素の並び方向(紙面と垂直方向X方向)が主走査方向、それに直交する方向(紙面内方向Y方向)が副走査方向である。光束の進行方向をZ方向とする。このときXZ面が主走査断面、YZ面が副走査断面である。
【0035】
本実施形態においては、光源1から発した光束で原稿台ガラス2の上に載置された原稿(物体)7を照明する。そして、原稿7からの光束を第1、第2、第3の反射ミラー3a、3b、3cを介して、オフアキシャル反射面部材4aのオフアキシャル反射面R1に入射させる。オフアキシャル反射面R1で反射した光束を、光学的位相変更フィルタ4bの反射面R2に入射させ、鋭角に反射させた後、オフアキシャル反射面R1とは異なるオフアキシャル反射面R3に入射させる。そして、反射させた後、リニアイメージセンサ5上に結像させている。光学的位相変更フィルタを除く他の構成要素は、従来光学系と共通で良い。
【0036】
(光学的位相変更フィルタの基本的作用)
本実施形態に係る光学的位相変更フィルタの基本的作用を図16(B)に示す。光学的位相変更フィルタは、原稿からイメージセンサへの結像光路中に設けられる絞りの付近に設けられる。この光学的位相変更フィルタは、入射する光束の中心の波面の位相を基準とするとき、入射する光束の波面の位相を進める進相作用を有する進相領域と、入射する光束の波面の位相を遅らせる遅相作用を有する遅相領域とを備える。従来技術を示す図16(A)と比較し、図16(B)では焦点ズレによるコントラスト性能の変化が少ない結像光学系となることが理解される。
【0037】
即ち、結像光学系の絞り付近にフィルタを設ける場合、図16(B)の結像光学素子(ここでは透過型のレンズとして簡略化)の上側に位置する進相領域では後ピン状態で結像する一方、下側に位置する遅相領域では前ピン状態で結像する。これにより、前ピン状態、合ピン状態、後ピン状態の各位置でのコントラスト変化が大きい図16(A)の場合に比べ、図16(B)では前ピン状態、合ピン状態、後ピン状態の各位置でのコントラスト変化が小さく抑えられることが分かる。
【0038】
(第1の実施形態における光学的位相変更フィルタ)
反射性フィルタである光学的位相変更フィルタ4bの単一の面としての反射面R2は、図3(C)に示す特徴の面形状を備えている。図3(C)の面形状は、図3(A)に示す第1の面形状成分と、図3(B)に示す第2の面形状成分を合成(加算)したものである。
【0039】
1)第1の面形状成分
図3(A)で示す面は、基準となる中心軸を中心に72°回転させた場合に回転させる前と等しい形状になる対称面であって、式2で表現される。
(式2)
S(ρ,φ)=A×ρ^i×cos(mφ+α)
A=0.109μm、i=5、m=5、α=0°
ρ:径方向の座標系において半径で正規化した数値 0≦ρ≦1
φ:回転方向の座標系 0≦φ≦360°
A:定数
i:径方向の形状を決定するための数値
m:回転対称性を示す数値
α:初期位相
【0040】
この角度72°は、360°を5で除算した数値であるから、この対称性は一般に5回対称と呼ばれる。同面は、中心軸を中心に周期的に凸部と凹部を繰り返している。凸部は他の領域に比べて先に光を反射するので、光束の波面が先に進む進相作用を有している。凸部は中心軸から外周部に近づくにしたがって隆起する。逆に、凹部は他の領域に比べて遅れて光を反射するので、光束の波面が後に遅れて進む遅相作用を有している。凹部は、中心軸から外周部に近づくにしたがって沈下する。
【0041】
進相と遅相を周期的に与えることにより、結像光学系としての合焦位置の前と後に向かって一部の光束を向けるので、デフォーカス特性が合焦位置前後で安定するようになる。進相と遅相が繰り返されると、同特性は主走査方向と副走査方向の区別なく、両方向についてデフォーカス特性が安定する作用を有する。
【0042】
2)第2の面形状成分
図3(B)で示す面は、基準となる中心軸を中心に360°回転させた場合のみに等しい形状になる面であって、式3で表現される。この第2の面形状成分については、光学的位相変更フィルタとして以下の条件を備えることとなる。即ち、入射する光束の中心における面法線を含み、かつ主走査方向あるいは副走査方向を含む所定面に関してのみ、対称な形状の面成分を備える。そして、入射する光束の中心における面法線を含み、前記所定面に直交する面に関して、一方側を進相領域、他方側を遅相領域とする。
(式3)
T(ρ,φ)=B×ρ^j×cos(φ+β)
B=0.164μm、j=5、β=180°
ρ:径方向の座標系において半径で正規化した数値 0≦ρ≦1
φ:回転方向の座標系 0≦φ≦360°
B:定数
j:径方向の形状を決定するための数値
β:初期位相
【0043】
この対称性は1回対称と呼ばれる。同面は直交する一方向については、進相と遅相作用を有するが、他の方向については進相も遅相作用も有さないという特徴がある。よって、主走査方向もしくは副走査方向に特化した収差補正の作用を有する。本実施形態においては、副走査方向に進相と遅相作用を与えることし、図3(A)の面と合成した結果、図4(A)のように主走査と副走査のMTFデフォーカス特性を揃えることができた。合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度MS=6.5%であり、十分安定したMTF特性が得られている。ここでは、1ステップを0.025mmとしている。そのため、合焦位置前後±1ステップとは、合焦位置から撮像面を±0.025mm移動させることに相当する。
【0044】
仮に、図3(A)の面だけで構成された場合は、図4(B)のように主走査方向と副走査方向のMTF値に依然としてバラツキが残る。合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度MS=9.8%であり、MTFの安定性という本発明の課題に対して不十分である。そこで、図3(B)の面を合成することで、本発明の課題が解決される。即ち、主走査方向と副走査方向のMTF値に関し、第1の面形状成分では不十分であったものを、第2の面形状成分を付加することで補填することができる。
【0045】
図4(A)の合焦位置0における波面収差量を図5に示す。主走査方向、副走査方向への収差がバランスよくなり、かつ微妙なうねり状の収差が発生していることから、MTF安定度が改善したことがわかる。このように、光学系の平面ミラーを光学的位相変更フィルタ4bに置き換えることで、高開口化による高速読取も可能となる画像読取装置が実現する。上記に示した本実施形態の画像読取装置は、原稿サイズが例えばA3サイズ(300mm×420mm)の原稿を読み取る際に好適なものである。
【0046】
《第2の実施形態》
以下、本発明の第2の実施形態に係るオフアキシャル光学系について説明する。図6は、本実施形態の結像光学系を画像読取装置に適用したときの副走査断面内の要部概略図である。図7は、図6の結像光学系24を抽出したときの副走査断面内の概略図である。図8は、図7の光学的位相変更フィルタ上に設けられた透過面T1とT2の形状を説明する図である。第1の実施形態とは、結像光学系4と24以外は共通構成である。
【0047】
結像光学系24は、基準軸光線の反射点での面法線は基準軸上にないオフアキシャル光学系である。自由曲面形状の反射面を複数一体に形成した自由曲面反射部材4aは、平面反射面を備えた反射部材4bと、反射部材4bに隣接して配置された光学的位相変換フィルタ24fと対向するように配置されている。SPは絞りであり、平面反射部材4bの反射面R2に設けている。例えば、絞りは黒色の樹脂シート部材を光学的位相変更フィルタ表面に接着するなどの方法で作成される。
【0048】
5はCCD等で構成されるリニアイメージセンサ(受光手段)であり、像面に相当する位置に配置している。6はキャリッジ(筐体)であり、各部材1、3a、3b、3c、24、5等を収納している。ここで、リニアイメージセンサ5の画素の並び方向(紙面と垂直方向X方向)が主走査方向、それに直交する方向(紙面内方向Y方向)が副走査方向である。光束の進行方向をZ方向とする。このときXZ面が主走査断面、YZ面が副走査断面である。
【0049】
本実施形態においては、光源1から発した光束で原稿台ガラス2の上に載置された原稿(物体)7を照明し、原稿7からの光束を第1、第2、第3の反射ミラー3a、3b、3cを介してオフアキシャル反射面部材4aのオフアキシャル反射面R1に入射させている。そして、オフアキシャル反射面R1で反射した光束を、光学的位相変更フィルタ24fの透過面T1とT2を順に透過したのちに、4bの反射面R2に入射させ鋭角に反射させる。
【0050】
続いて、再び光学的位相変更フィルタ24fのT2、T1面を透過してから、オフアキシャル反射面R1とは異なるオフアキシャル反射面R3に入射させ、反射させた後、リニアイメージセンサ5上に結像させている。光学的位相変更フィルタを除く他の構成要素は従来光学系と共通で良い。
【0051】
(第2の実施形態における光学的位相変更フィルタ)
基本的には第1の実施形態と同様であるが、透過性フィルタである光学的位相変更フィルタ24fの表面としての透過面T1は、図8(A)に示す面形状成分を備える一方、裏面としての透過面T2は、図8(B)に示す面形状成分を備えている。
【0052】
1)第1の面形状成分
光学的位相変更フィルタ24fの透過面T1は、図8(A)に示す特徴の面形状を備えている。図8(A)で示す面は、基準となる中心軸を中心に120°回転させた場合に回転させる前と等しい形状になる対称面であって、式4で表現される。
(式4)
S(ρ,φ)=A×ρ^i×cos(mφ+α)
A=0.205μm、i=3、m=3、α=180°
【0053】
この角度120°は、360°を3で除算した数値であるから、この対称性は一般に3回対称と呼ばれる。同面は中心軸を中心に周期的に凸部と凹部を繰り返している。凸部は他の領域に比べて先に光を屈折するので、光束の波面が遅れて進む遅相作用を有している。凸部は中心軸から外周部に近づくにしたがって隆起する。逆に凹部は他の領域に比べて遅れて光を屈折するので、光束の波面が先に進む進相作用を有している。凹部は中心軸から外周部に近づくにしたがって沈下する。
【0054】
進相と遅相を周期的に与えることにより、結像光学系としての合焦位置の前と後に向かって一部の光束を向けるので、デフォーカス特性が合焦位置前後で安定するようになる。進相と遅相が繰り返されると同特性は、主走査方向と副走査方向の区別なく、両方向についてデフォーカス特性が安定する作用を有する。
【0055】
2)第2の面形状成分
光学的位相変更フィルタ24fの透過面T2、図8(B)に示す特徴の面形状を備えている。図8(B)で示す面は、基準となる中心軸を中心に360°回転させた場合のみに等しい形状になる面であって、式5で表現される。
(式5)
T(ρ,φ)=B×ρ^j×cos(φ+β)
B=0.287μm、j=7、β=90°
【0056】
この対称性は1回対称と呼ばれる。同面は直交する一方向については、進相と遅相作用を有するが、他の方向については進相も遅相作用も有さないという特徴がある。よって、主走査方向もしくは副走査方向に特化した収差補正の作用を有する。本実施形態においては、主走査方向に進相と遅相作用を与えることした。本実施形態における光学的位相変更フィルタは、上述の2種の定義面を表裏で備えた透過性フィルタである。中心厚さを0.2mmと薄く設定することで、合成した作用を得ることができ、図9(A)のように主走査と副走査のMTFデフォーカス特性を揃えることができた。
【0057】
合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度MS=6.0%であり、十分安定したMTF特性が得られている。ここでは、1ステップを0.025mmとしている。そのため、合焦位置前後±1ステップとは、合焦位置から撮像面を±0.025mm移動させることに相当する。仮に図8(A)の面だけで構成された場合は図9(B)のように主走査と副走査のMTF値に依然としてバラツキが残る。合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度MS=11.3%であり、MTFの安定性という本発明の課題に対して不十分であり、図8(B)の面を合成することで課題が解決できる。
【0058】
図9(A)の合焦位置0における波面収差量を図10に示す。主走査方向・副走査方向への収差がバランスよくなり、かつ微妙なうねり状の収差が発生していることからMTF安定度が改善したことがわかる。このように、光学系に透過性の光学的位相変更フィルタを挿入するだけで、高開口化による高速読取も可能となる画像読取装置が実現する。上記に示した本実施形態の画像読取装置は、原稿サイズが例えばA3サイズ(300mm×420mm)の原稿を読み取る際に好適なものである。
【0059】
《第3の実施形態》
以下、本発明の第3の実施形態に係るオフアキシャル光学系について説明する。図11は本実施形態の副走査断面内の要部概略図である。図12は、図11の結像光学系34を抽出したときの副走査断面内の概略図である。図13は、図12の光学的位相変更フィルタ上に設けられた透過面T31、T32の形状を説明する図である。結像光学系34は、基準軸光線の反射点での面法線が基準軸上にないオフアキシャル光学系である。
【0060】
自由曲面反射部材34a、34b、34c、34dは、絞りSPと光学的位相変換フィルタ34fを略中心として二つの「4の字」を描くように配置されている。絞りSPは、光学的位相変換フィルタ34fの透過面T31に設けられている。例えば、絞りは黒色の樹脂シート部材を光学的位相変更フィルタ表面に接着するなどの方法で作成される。5はCCD等で構成されるリニアイメージセンサ(受光手段)であり、像面に相当する位置に配置している。6はキャリッジ(筐体)であり、各部材1、3a、3b、3c、34、5等を収納している。
【0061】
ここで、リニアイメージセンサ5の画素の並び方向(紙面と垂直方向X方向)が主走査方向、それに直交する方向(紙面内方向Y方向)が副走査方向である。光束の進行方向をZ方向とする。このとき、XZ面が主走査断面、YZ面が副走査断面である。本実施形態においては、光源1から発した光束で原稿台ガラス2の上に載置された原稿(物体)7を照明する。そして、原稿7からの光束を第1、第2、第3の反射ミラー3a、3b、3cを介してオフアキシャル反射面部材34aのオフアキシャル反射面R31に入射させている。そして、オフアキシャル反射面R31で反射した光束を、オフアキシャル反射面R32で反射させた後に、光学的位相変更フィルタ34fのT31面、T32面を順に透過させる。続いて、オフアキシャル反射面R33、R34で反射した光束をリニアイメージセンサ5上に結像させている。
【0062】
(第3の実施形態における光学的位相変更フィルタ)
基本的には第1、第2の実施形態と同様であるが、透過性フィルタである光学的位相変更フィルタ34fの単一の面としての透過面T31は、図13(C)に示す特徴の面形状を備えている。図13(C)の面形状は、図13(A)に示す第1の面形状成分と、図13(B)に示す第2の面形状成分を合成(加算)したものである。
【0063】
1)第1の面形状成分
図13(A)で示す面は、基準となる中心軸を中心に51.43°回転させた場合に回転させる前と等しい形状になる対称面であって、式6で表現される。
(式6)
S(ρ,φ)=A×ρ^i×cos(mφ+α)
A=0.410μm、i=4、m=7、α=180°
【0064】
この角度51.43°は、360°を7で除算した数値であるから、この対称性は一般に7回対称と呼ばれる。同面は中心軸を中心に周期的に凸部と凹部を繰り返している。凸部は他の領域に比べて先に光を屈折するので、光束の波面が遅れて進む遅相作用を有している。凸部は中心軸から外周部に近づくにしたがって隆起する。逆に凹部は他の領域に比べて遅れて光を屈折するので、光束の波面が先に進む進相作用を有している。凹部は中心軸から外周部に近づくにしたがって沈下する。
【0065】
進相と遅相を周期的に与えることにより、結像光学系としての合焦位置の前と後に向かって一部の光束を向けるので、デフォーカス特性が合焦位置前後で安定するようになる。進相と遅相が繰り返されると同特性は、主走査方向と副走査方向の区別なく、両方向についてデフォーカス特性が安定する作用を有する。
【0066】
2)第2の面形状成分
図13(B)で示す面は、基準となる中心軸を中心に360°回転させた場合のみに等しい形状になる面であって式7で表現される。
(式7)
T(ρ,φ)=B×ρ^j×cos(φ+β)
B=0.983μm、j=5、β=180°
【0067】
この対称性は1回対称と呼ばれる。同面は直交する一方向については、進相と遅相作用を有するが、他の方向については進相も遅相作用も有さないという特徴がある。よって、主走査方向もしくは副走査方向に特化した収差補正の作用を有する。本実施形態においては、副走査方向に進相と遅相作用を与えることし、図13(A)の面と合成した結果、図14(B)のように主走査と副走査のMTFデフォーカス特性を揃えることができた。
【0068】
本実施形態における光学的位相変更フィルタは、上述の2種の定義面(図13(A)、(B))を合成した面を透過面T31に備えている。光学的位相変更フィルタの中心厚さは0.5mmである。合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度MS=4.9%であり、十分安定したMTF特性が得られている。ここでは、1ステップを0.025mmとしている。そのため、合焦位置前後±1ステップとは、合焦位置から撮像面を±0.025mm移動させることに相当する。光学的位相変換フィルタを備えない従来の光学系では、図14(A)のようなMTFデフォーカス特性であり、安定度MS=12.3%と、課題が大きかった。また、仮に透過面T31が図13(A)の面だけで構成された場合は図14(C)のように主走査と副走査のMTF値に依然としてバラツキが残る。
【0069】
この構成では、合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度MS=16.5%であり、MTFの安定性という本発明の課題に対しては不十分であるが、図13(B)の面を合成することで課題が解決できる。
【0070】
図14(B)の合焦位置0における波面収差量を図15に示す。主走査方向、副走査方向への収差がバランスよくなり、かつ微妙なうねり状の収差が発生していることから、MTF安定度が改善したことがわかる。副走査方向の最周辺部で急激な波面収差増があるが、面積にして微小であるために問題ない。このように、光学系に透過性の光学的位相変更フィルタを挿入するだけで、高開口化による高速読取も可能となる画像読取装置が実現する。
【0071】
上記に示した本実施形態の画像読取装置は、原稿サイズが例えばA3サイズ(300mm×420mm)の原稿を読み取る際に好適なものである。
【0072】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0073】
以下に、実施形態の一覧を記す。
【0074】
【表1】
【0075】
A、Bは定数である。mは2以上の整数であり、回転対称性を示す。本実施形態では3から5の範囲で設定される。3よりも小さい場合は、主走査もしくは副走査方向など、一部の方向についてのMTF特性が不均一になる場合があり好ましくない。5より大きい場合であっても本発明の効果は発揮されるが、8以上となると波面収差の細かなウネリ成分が増えるので、高周波のMTF特性に影響を及ぼし好ましくない。よって、mは3以上で7以下に設定されると本発明の効果がより発揮される。
【0076】
iとjは径方向の形状を決定する数値である。光束の波面を進める進相作用か、逆に遅らせる遅相作用を持たせる必要があり、曲面形状である必要があるから、iとjは、いずれも2以上でないと本発明の効果は得られない。
【0077】
径方向の形状は前記の関数に特定される必要はないが、変曲点を有すると波面収差に不要なウネリ成分が増えるので高周波のMTF特性に影響を及ぼし好ましくない。よって、下記の条件式である式8を満たしているのが良い。
(式8)
ρ>0の領域において、d2(S+T)/dρ2≠0
これは、径方向の形状として変曲点を備えないという条件に相当する。
【0078】
(変形例1)
上述した実施形態においては、非共軸な光学素子を備えるアナモルフィク結像光学系(スリット領域の長手方向である主走査方向と前記主走査方向に直交する副走査方向とで断面形状が異なる光学素子を備える)について述べたが、本発明はこれに限られない。共軸な光学素子を備えるアナモルフィク結像光学系(スリット領域の長手方向である主走査方向と前記主走査方向に直交する副走査方向とで断面形状が異なる光学素子を備える)であっても良い。また光学素子は複数備わる場合の他、単数備わる場合でも良い。
【0079】
(変形例2)
なお、原稿のスリット領域を結像する結像面に設けられるイメージセンサとしてリニアイメージセンサを示したが、エリアイメージセンサを用いることもできる。
【符号の説明】
【0080】
1 照明光源
2 原稿台ガラス
3a、3b、3c 反射ミラー
4 結像光学系
4a 自由曲面反射部材
4b 光学的位相変換フィルタ
5 読取手段(リニアイメージセンサ)
7 原稿
SP 絞り
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像読取光学系および画像読取装置に関し、特に高開口かつコントラスト性能が安定した画像読取を必要とするイメージスキャナーやデジタル複写機等に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、原稿面上の画像情報を読取る画像読取装置として、主走査方向に複数の受光素子を配列したリニアイメージセンサを用いるものが知られている。結像光学系で画像情報をリニアイメージセンサに結像させ、原稿とリニアイメージセンサとの相対的位置を副走査方向に変位させ、リニアイメージセンサから得られる出力信号を利用して画像情報を読取る画像読取装置がある。
【0003】
図17は、従来のキャリッジ一体型走査方式の画像読取装置の概略図である。同図において、照明光源81から放射された光束は、直接原稿台ガラス82に載置した原稿87を照明する。原稿87からの反射光束は、順に第1、第2、第3折り返しミラー83a、83b、83cを介して、キャリッジ86内部でその光路を折り曲げ、結像レンズ(結像光学系)84によりリニアイメージセンサ85面上に原稿87の画像情報を結像している。
【0004】
そして、キャリッジ86を副走査用のモーター88により、矢印A方向(副走査方向)に移動させることにより原稿87の画像情報を読み取っている。同図におけるリニアイメージセンサ85は、複数の受光素子を1次元方向(主走査方向)に配列した構成により成り立っている。
【0005】
図18は、図17の画像読取装置の読取光学系の基本構成の説明図である。図中、84は結像光学系、85R、85G、85Bは各々リニアイメージセンサ85を構成するR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の各色を読み取るリニアイメージセンサである。87R、87G、87Bはリニアイメージセンサ85R、85G、85Bで読取るための原稿87面上の読取範囲である。
【0006】
原稿面を副走査方向に走査することによって、ある時間間隔をおいて同一箇所を異なる色で読み取ることができる。この構成において、結像光学系84が通常の屈折系からなる場合には軸上色収差や倍率色収差等が発生する。そこで、基準のリニアイメージセンサ85Gに対し、リニアイメージセンサ85B、85Rに結像されるライン像にデフォーカスあるいは位置ズレが発生する。したがって、各色画像を重ね合わせて再現した時に、色にじみや色ズレの目立つ画像になる。即ち、高開口、高解像度の性能が要求される場合には要求に対応できなくなる。
【0007】
一方、リニアイメージセンサを前提とした光学系であることから、主走査方向と副走査方向に非対称なアナモルフィック光学系を用いて上記要求に対応する技術がある。特に、アナモルフィック光学系のうち、非共軸光学系においても基準軸という概念を導入し、構成面を非対称非球面にすることで十分に収差を補正することが可能な光学系が提案されている。
【0008】
こうした非共軸光学系は、オフアキシャル光学系(像中心と瞳中心を通る光線に沿った基準軸を考えたとき、構成面の基準軸との交点における面法線が基準軸上にない曲面(オフアキシャル曲面)を含む光学系として定義される。この時、基準軸は折れ曲がった形状となる)と呼ばれる。
【0009】
このオフアキシャル光学系は、構成面が一般には非共軸となり、反射面でもケラレが生じることがないため、反射面を使った光学系の構築がし易い。また、光路の引き回しが比較的自由に行える、構成面を一体成型する手法で一体型の光学系を作りやすい、という特徴をもっている。
【0010】
特許文献1では、2面のオフアキシャル反射面を複合させたオフアキシャル光学系が開示されている。この光学系によれば、高価になりがちな金型や成形機を一つにすることができ、製造コストを大幅に下げることができる。これによって、図19に示すように、小型でかつ部品点数の少ない画像読取装置が実現される。
【0011】
図19中、1は光源装置であって、蛍光灯やLEDアレイ等から成っている。2は原稿台ガラスであり、その台上に原稿(物体)7が載置されている。3a、3b、3cは順に第1、第2、第3の反射ミラーである。図20に詳細を示す94は画像読取用の結像光学系(オフアキシャル光学系)であり、原稿7の画像情報に基づく光束を読取手段としてのリニアイメージセンサ5上に結像させている。
【0012】
この結像光学系では、基準軸光線の反射点での面法線が基準軸上にない。自由曲面形状の反射面を複数一体に形成した自由曲面反射部材4aは、平面形状の反射面を備えた平面反射部材4bと対向するように配置されている。SPは絞りであり、平面ミラー部材4bの平面反射面R2に設けている。例えば、絞りは黒色の樹脂シート部材を平面ミラー表面に接着するなどの方法で作成される。5はCCD等で構成されるリニアイメージセンサ(受光手段)であり、像面に相当する位置に配置されている。6はキャリッジ(筐体)であり、各部材1、3a、3b、3、94、5等を収納している。
【0013】
ここで、リニアイメージセンサ5の画素の並び方向(紙面と垂直方向X方向)が主走査方向、それに直交する方向(紙面内方向Y方向)が副走査方向である。光束の進行方向をZ方向とする。このときXZ面が主走査断面、YZ面が副走査断面である。光源1から発した光束で原稿台ガラス2の上に載置された原稿(物体)7を照明し、原稿7からの光束を第1、第2、第3の反射ミラー3a、3b、3cを介してオフアキシャル反射面部材4aのオフアキシャル反射面R1に入射させている。
【0014】
そして、オフアキシャル反射面R1で反射した光束を、平面ミラー部材4bの平面反射面R2に入射させ、鋭角に反射させる。その後、該オフアキシャル反射面R1とは異なるオフアキシャル反射面R3に入射させ、反射させた後、リニアイメージセンサ5上に結像させる。尚、このとき各々の反射面は副走査断面内において光路を折り曲げている。そして、原稿7とキャリッジ6との相対的位置を副走査方向(矢印A方向)に変えて原稿7の画像情報を2次元的に読み取っている。
【0015】
画像読取装置をコンパクトに構成するために第1、第2、第3の反射ミラー3a、3b、3cにより光路を折り畳んでいる。結像光学系94も光路を折り畳むのに寄与している。本従来例は、Fナンバー(以下、Fno)が6.0、倍率が0.11、物体高が150mmで設計されている。図22(A)に像面上で60LinePair/mmでのMTF(Modulation Transfer Function)深度特性を示す。実線が副走査方向のMTF(S_MTF)を示す。破線が主走査方向のMTF(M_MTF)を示す。横軸の中心0が合焦位置である。
【0016】
結像光学系94では、光路をオフアキシャル面によって、おおよそZの形状に折り畳むことで互いのオフアキシャル反射面で発生する偏心収差をキャンセルし易くしている。さらに、平面ミラー部材を用い、収差に影響することなくΣの形状に折りたたんでいる。これによって、平面ミラー部材1枚とオフアキシャル反射面部材1枚という少ない構成にも関わらず良好なる結像性能を得ている。
【0017】
昨今の画像読取装置は高速化が求められており、光学系としても高開口化が求められるようになってきている。図20の従来のオフアキシャル光学系をFno4.0に高開口化したのが図21で示す光学系である。この光学系のMTF深度特性を図22(B)に示す。一般に高開口化された光学系は、合焦位置ではMTFが高く、焦点がずれた位置では急激に低下する。また、収差が大きい場合は、合焦状態でもMTFが低く、焦点がずれた場合にさらに低下する。
【0018】
特に、オフアキシャル光学系を含むアナモルフィック光学系では、主走査方向と副走査方向で特性が共通ではない。そのため、図22に示すように、実線で示す副走査方向のMTFは合焦状態の位置0においては、高いMTF値を示し、焦点ズレを起こすと急激に低下する。破線で示す主走査方向には、合焦状態でも収差のMTF値は副走査方向に比べて低く、焦点ズレによってさらに低下する。図23に、図22の合焦位置における波面収差を示す。一般に外周部に近づくにつれて収差量は大きくなることから、高開口化した場合に収差量は増える。
【0019】
画像読取装置において、焦点ズレが発生すると画像が劣化するだけでなく様々な問題を併発する。例えば、画像先鋭化のための処理などは工場出荷時に最適化されている。よって、その状態から焦点ズレを起こすと適切な処理ができなくなり、画像が先鋭化されなくなる。そのために、MTF値は常に安定した状態であることが望まれている。MTF値が安定しているかどうかの指標として、式1を用いることができる。
(式1)
MTF安定度:MS=(最も高いMTF−最も低いMTF)/(最も高いMTF+最も低いMTF)(%)
【0020】
図22(A)に示す従来の光学系は、合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度S=4.6%である。ここでは、1ステップを0.025mmとしている。そのため、合焦位置前後±1ステップとは、合焦位置から撮像面を±0.025mm移動させることに相当する。同安定度は前述の問題が顕著とならないように8%以下にすることが好ましい。図22(B)に示す従来の光学系は合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度MS=14.4%であり、改善が必要であった。
【0021】
焦点ズレは様々な現象によって、発生する可能性がある。例えば、画像読取装置の設置される環境温度が極端に熱いまたは寒いと、光学素子は変形し焦点ズレが生じる場合がある。他に、設置作業時や輸送時の振動が大きいと位置ズレなどによって焦点ズレが生じる可能性もある。現在は、上記のような焦点ズレを発生させないように、設置環境や振動について、空調や梱包などによって対策されている。しかしながら、新興国の経済成長とともに、これまで想定されていなかった設置環境で使用される場合や、道路事情が良くない中を輸送されるケースが予想されている。
【0022】
よって、焦点ズレの対策は、画像読取光学系として重要な案件である。焦点ズレについての対策としては焦点調整機構を搭載するなどの対策が考えられる。しかしながら、画像読取装置は前述のように高速でキャリッジが移動するので焦点調整機構など重量の増える機構の搭載は困難である。よって、焦点ズレしてもコントラスト性能の変化が少ない光学系が必要である。
【0023】
一方で、焦点ズレしてもコントラスト性能の変化を低減できるようにする技術もある。特許文献2には、光学的位相変更フィルタによりコントラスト性能を補正する方法が提案されている。この光学的位相変更フィルタは、N(2、3、・・・)回対称性を有し、入射する光束の波面の位相を進める進相作用を有する進相領域と入射する光束の波面の位相を遅らせる遅相作用を有する遅相領域とを備える。N回対称性とは、基準軸を中心に360/N°回転させたときに同一形状になる特徴を言う。この場合、入射する光束の中心における面法線を含み、上述した対称面に直交する面に関して、一方側を進相領域、他方側を遅相領域とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2006−259544号公報
【特許文献2】特開平9−288254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
特許文献2に記載される技術は、カメラなど光軸を基準に回転対称配置された一般的な結像光学系を用いるものに対して効果を発揮できる。即ち、回転対称配置された一般的な結像光学系として、焦点ズレによるコントラスト性能の変化が少ない結像光学系を得ることができる。
【0026】
しかしながら、画像読取装置として、スリット領域を結像するアナモルフィックな結像光学系(スリット領域の長手方向である主走査方向と、これに直交する副走査方向とで断面形状が異なる結像光学系)を用いるものに対しては、十分な効果が得られなかった。即ち、アナモルフィックな結像光学系として、焦点ズレによるコントラスト性能の変化が少ない結像光学系を得ることができなかった。
【0027】
そこで、本発明の目的は、アナモルフィックな結像光学系を用いた画像読取光学系であって、焦点ズレによるコントラスト性能の変化が少ない画像読取光学系およびこれを用いた画像読取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的を達成するために、本発明の代表的な構成は、原稿のスリット領域をイメージセンサに結像するために用いられ、前記スリット領域の長手方向である主走査方向と前記主走査方向に直交する副走査方向とで断面形状が異なる光学素子を備える結像光学系と、前記原稿から前記イメージセンサへの結像光路中に設けられる絞りと、前記絞りの付近に設けられ、入射する光束の中心の波面の位相を基準とするとき、前記入射する光束の波面の位相を進める進相作用を有する進相領域と、前記入射する光束の波面の位相を遅らせる遅相作用を有する遅相領域とを備える光学的位相変更フィルタと、を有する画像読取光学系であって、前記光学的位相変更フィルタは、前記入射する光束の中心における面法線を含み、かつ前記主走査方向あるいは前記副走査方向を含む所定面に関してのみ、対称な形状の面形状成分を備え、前記入射する光束の中心における面法線を含み、前記所定面に直交する面に関して一方側を前記進相領域、他方側を前記遅相領域とすることを特徴とする。
【0029】
また、本発明の他の代表的な構成は、原稿のスリット領域をイメージセンサに結像するために用いられ、前記スリット領域の長手方向である主走査方向と前記主走査方向に直交する副走査方向とで断面形状が異なる光学素子を備える結像光学系と、前記原稿から前記イメージセンサへの結像光路中に設けられる絞りと、前記絞りの付近に設けられ、入射する光束の中心の波面の位相を基準とするとき、前記入射する光束の波面の位相を進める進相作用を有する進相領域と、前記入射する光束の波面の位相を遅らせる遅相作用を有する遅相領域とを備える光学的位相変更フィルタと、を有する画像読取光学系であって、前記光学的位相変更フィルタは、前記入射する光束の中心における面法線を含み、かつ前記入射する光束の中心における面法線を含む複数の対称面に関して、対称な形状の第1の面形状成分と、前記主走査方向あるいは前記副走査方向を含む所定面に関してのみ、対称な形状の第2の面形状成分と、を前記光学的位相変更フィルタの単一の面あるいは異なる面に備え、前記第1の面形状成分、前記第2の面形状成分は、前記入射する光束の中心における面法線を含み、前記複数の対称面あるいは前記所定面に直交する面に関して一方側を前記進相領域、他方側を前記遅相領域とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、アナモルフィックな結像光学系を用いた画像読取光学系であって、焦点ズレによるコントラスト性能の変化が少ない画像読取光学系およびこれを用いた画像読取装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る画像読取光学系を搭載した画像読取装置の要部概略図である。
【図2】第1の実施形態のYZ面内での全体の構成を示す要部断面図である。
【図3】第1の実施形態の光学的位相変換フィルタの形状を示す概略図である。
【図4】第1の実施形態のMTFデフォーカス特性を示す図である。
【図5】第1の実施形態の波面収差を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係る画像読取装置の要部概略図である。
【図7】第2の実施形態のYZ面内での全体の構成を示す要部断面図である。
【図8】第2の実施形態の光学的位相変換フィルタの形状を示す概略図である。
【図9】第2の実施形態のMTFデフォーカス特性を示す図である。
【図10】第2の実施形態の波面収差を示す図である。
【図11】第3の実施形態に係る画像読取光学系を搭載した画像読取装置の要部概略図である。
【図12】第3の実施形態のYZ面内での全体の構成を示す要部断面図である。
【図13】第3の実施形態の光学的位相変換フィルタの形状を示す概略図である。
【図14】第3の実施形態のMTFデフォーカス特性を示す図である。
【図15】第3の実施形態の波面収差を示す図である。
【図16】本発明の実施形態に係る光学的位相変換フィルタの焦点ズレによるコントラスト性能の変化が少ない基本的作用を説明する図である。
【図17】従来の画像読取装置の要部概略図である。
【図18】従来のカラー画像読取装置の基本構成図である。
【図19】従来のオフアキシャル光学系を用いた画像読取装置の要部概略図である。
【図20】従来のオフアキシャル光学系のYZ面内での全体の構成を示す要部断面図である。
【図21】従来の高開口のオフアキシャル光学系のYZ面内での全体の構成を示す要部断面図である。
【図22】従来の高開口のオフアキシャル光学系のMTFデフォーカス特性を示す図である。
【図23】従来の高開口のオフアキシャル光学系の波面収差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
《第1の実施形態》
(画像読取光学系)
以下、本発明の第1の実施形態に係るオフアキシャル結像光学系を備えた画像読取光学系について説明する。図1は、本実施形態の副走査断面内の要部概略図である。図2は、図1の結像光学系4を抽出したときの副走査断面内の概略図である。図3は、図2の光学的位相変更フィルタ上に設けられた反射面R3の形状を説明する図である。図中、1は光源装置であって、蛍光灯やLEDアレイ等から成っている。2は原稿台ガラスであり、その台上に原稿(物体)7が載置されている。3a、3b、3cは順に第1、第2、第3の反射ミラーである。
【0033】
4は画像読取用の結像光学系(オフアキシャル光学系)であり、原稿7の画像情報に基づく光束を読取手段としてのリニアイメージセンサ5上に結像させている。結像光学系4は、基準軸光線の反射点での面法線は基準軸上にないオフアキシャル光学系である。自由曲面形状の反射面を複数一体に形成した自由曲面反射部材4aは、反射面を備えた光学的位相変換フィルタ4bと対向するように配置されている。SPは絞りであり、光学的位相変更フィルタ4bの反射面R2に設けている。例えば、絞りは黒色の樹脂シート部材を光学的位相変更フィルタ表面に接着するなどの方法で作成される。
【0034】
5はCCD等で構成されるリニアイメージセンサ(受光手段)であり、像面に相当する位置に配置している。6はキャリッジ(筐体)であり、各部材1、3a、3b、3c、4、5等を収納している。ここでリニアイメージセンサ5の画素の並び方向(紙面と垂直方向X方向)が主走査方向、それに直交する方向(紙面内方向Y方向)が副走査方向である。光束の進行方向をZ方向とする。このときXZ面が主走査断面、YZ面が副走査断面である。
【0035】
本実施形態においては、光源1から発した光束で原稿台ガラス2の上に載置された原稿(物体)7を照明する。そして、原稿7からの光束を第1、第2、第3の反射ミラー3a、3b、3cを介して、オフアキシャル反射面部材4aのオフアキシャル反射面R1に入射させる。オフアキシャル反射面R1で反射した光束を、光学的位相変更フィルタ4bの反射面R2に入射させ、鋭角に反射させた後、オフアキシャル反射面R1とは異なるオフアキシャル反射面R3に入射させる。そして、反射させた後、リニアイメージセンサ5上に結像させている。光学的位相変更フィルタを除く他の構成要素は、従来光学系と共通で良い。
【0036】
(光学的位相変更フィルタの基本的作用)
本実施形態に係る光学的位相変更フィルタの基本的作用を図16(B)に示す。光学的位相変更フィルタは、原稿からイメージセンサへの結像光路中に設けられる絞りの付近に設けられる。この光学的位相変更フィルタは、入射する光束の中心の波面の位相を基準とするとき、入射する光束の波面の位相を進める進相作用を有する進相領域と、入射する光束の波面の位相を遅らせる遅相作用を有する遅相領域とを備える。従来技術を示す図16(A)と比較し、図16(B)では焦点ズレによるコントラスト性能の変化が少ない結像光学系となることが理解される。
【0037】
即ち、結像光学系の絞り付近にフィルタを設ける場合、図16(B)の結像光学素子(ここでは透過型のレンズとして簡略化)の上側に位置する進相領域では後ピン状態で結像する一方、下側に位置する遅相領域では前ピン状態で結像する。これにより、前ピン状態、合ピン状態、後ピン状態の各位置でのコントラスト変化が大きい図16(A)の場合に比べ、図16(B)では前ピン状態、合ピン状態、後ピン状態の各位置でのコントラスト変化が小さく抑えられることが分かる。
【0038】
(第1の実施形態における光学的位相変更フィルタ)
反射性フィルタである光学的位相変更フィルタ4bの単一の面としての反射面R2は、図3(C)に示す特徴の面形状を備えている。図3(C)の面形状は、図3(A)に示す第1の面形状成分と、図3(B)に示す第2の面形状成分を合成(加算)したものである。
【0039】
1)第1の面形状成分
図3(A)で示す面は、基準となる中心軸を中心に72°回転させた場合に回転させる前と等しい形状になる対称面であって、式2で表現される。
(式2)
S(ρ,φ)=A×ρ^i×cos(mφ+α)
A=0.109μm、i=5、m=5、α=0°
ρ:径方向の座標系において半径で正規化した数値 0≦ρ≦1
φ:回転方向の座標系 0≦φ≦360°
A:定数
i:径方向の形状を決定するための数値
m:回転対称性を示す数値
α:初期位相
【0040】
この角度72°は、360°を5で除算した数値であるから、この対称性は一般に5回対称と呼ばれる。同面は、中心軸を中心に周期的に凸部と凹部を繰り返している。凸部は他の領域に比べて先に光を反射するので、光束の波面が先に進む進相作用を有している。凸部は中心軸から外周部に近づくにしたがって隆起する。逆に、凹部は他の領域に比べて遅れて光を反射するので、光束の波面が後に遅れて進む遅相作用を有している。凹部は、中心軸から外周部に近づくにしたがって沈下する。
【0041】
進相と遅相を周期的に与えることにより、結像光学系としての合焦位置の前と後に向かって一部の光束を向けるので、デフォーカス特性が合焦位置前後で安定するようになる。進相と遅相が繰り返されると、同特性は主走査方向と副走査方向の区別なく、両方向についてデフォーカス特性が安定する作用を有する。
【0042】
2)第2の面形状成分
図3(B)で示す面は、基準となる中心軸を中心に360°回転させた場合のみに等しい形状になる面であって、式3で表現される。この第2の面形状成分については、光学的位相変更フィルタとして以下の条件を備えることとなる。即ち、入射する光束の中心における面法線を含み、かつ主走査方向あるいは副走査方向を含む所定面に関してのみ、対称な形状の面成分を備える。そして、入射する光束の中心における面法線を含み、前記所定面に直交する面に関して、一方側を進相領域、他方側を遅相領域とする。
(式3)
T(ρ,φ)=B×ρ^j×cos(φ+β)
B=0.164μm、j=5、β=180°
ρ:径方向の座標系において半径で正規化した数値 0≦ρ≦1
φ:回転方向の座標系 0≦φ≦360°
B:定数
j:径方向の形状を決定するための数値
β:初期位相
【0043】
この対称性は1回対称と呼ばれる。同面は直交する一方向については、進相と遅相作用を有するが、他の方向については進相も遅相作用も有さないという特徴がある。よって、主走査方向もしくは副走査方向に特化した収差補正の作用を有する。本実施形態においては、副走査方向に進相と遅相作用を与えることし、図3(A)の面と合成した結果、図4(A)のように主走査と副走査のMTFデフォーカス特性を揃えることができた。合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度MS=6.5%であり、十分安定したMTF特性が得られている。ここでは、1ステップを0.025mmとしている。そのため、合焦位置前後±1ステップとは、合焦位置から撮像面を±0.025mm移動させることに相当する。
【0044】
仮に、図3(A)の面だけで構成された場合は、図4(B)のように主走査方向と副走査方向のMTF値に依然としてバラツキが残る。合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度MS=9.8%であり、MTFの安定性という本発明の課題に対して不十分である。そこで、図3(B)の面を合成することで、本発明の課題が解決される。即ち、主走査方向と副走査方向のMTF値に関し、第1の面形状成分では不十分であったものを、第2の面形状成分を付加することで補填することができる。
【0045】
図4(A)の合焦位置0における波面収差量を図5に示す。主走査方向、副走査方向への収差がバランスよくなり、かつ微妙なうねり状の収差が発生していることから、MTF安定度が改善したことがわかる。このように、光学系の平面ミラーを光学的位相変更フィルタ4bに置き換えることで、高開口化による高速読取も可能となる画像読取装置が実現する。上記に示した本実施形態の画像読取装置は、原稿サイズが例えばA3サイズ(300mm×420mm)の原稿を読み取る際に好適なものである。
【0046】
《第2の実施形態》
以下、本発明の第2の実施形態に係るオフアキシャル光学系について説明する。図6は、本実施形態の結像光学系を画像読取装置に適用したときの副走査断面内の要部概略図である。図7は、図6の結像光学系24を抽出したときの副走査断面内の概略図である。図8は、図7の光学的位相変更フィルタ上に設けられた透過面T1とT2の形状を説明する図である。第1の実施形態とは、結像光学系4と24以外は共通構成である。
【0047】
結像光学系24は、基準軸光線の反射点での面法線は基準軸上にないオフアキシャル光学系である。自由曲面形状の反射面を複数一体に形成した自由曲面反射部材4aは、平面反射面を備えた反射部材4bと、反射部材4bに隣接して配置された光学的位相変換フィルタ24fと対向するように配置されている。SPは絞りであり、平面反射部材4bの反射面R2に設けている。例えば、絞りは黒色の樹脂シート部材を光学的位相変更フィルタ表面に接着するなどの方法で作成される。
【0048】
5はCCD等で構成されるリニアイメージセンサ(受光手段)であり、像面に相当する位置に配置している。6はキャリッジ(筐体)であり、各部材1、3a、3b、3c、24、5等を収納している。ここで、リニアイメージセンサ5の画素の並び方向(紙面と垂直方向X方向)が主走査方向、それに直交する方向(紙面内方向Y方向)が副走査方向である。光束の進行方向をZ方向とする。このときXZ面が主走査断面、YZ面が副走査断面である。
【0049】
本実施形態においては、光源1から発した光束で原稿台ガラス2の上に載置された原稿(物体)7を照明し、原稿7からの光束を第1、第2、第3の反射ミラー3a、3b、3cを介してオフアキシャル反射面部材4aのオフアキシャル反射面R1に入射させている。そして、オフアキシャル反射面R1で反射した光束を、光学的位相変更フィルタ24fの透過面T1とT2を順に透過したのちに、4bの反射面R2に入射させ鋭角に反射させる。
【0050】
続いて、再び光学的位相変更フィルタ24fのT2、T1面を透過してから、オフアキシャル反射面R1とは異なるオフアキシャル反射面R3に入射させ、反射させた後、リニアイメージセンサ5上に結像させている。光学的位相変更フィルタを除く他の構成要素は従来光学系と共通で良い。
【0051】
(第2の実施形態における光学的位相変更フィルタ)
基本的には第1の実施形態と同様であるが、透過性フィルタである光学的位相変更フィルタ24fの表面としての透過面T1は、図8(A)に示す面形状成分を備える一方、裏面としての透過面T2は、図8(B)に示す面形状成分を備えている。
【0052】
1)第1の面形状成分
光学的位相変更フィルタ24fの透過面T1は、図8(A)に示す特徴の面形状を備えている。図8(A)で示す面は、基準となる中心軸を中心に120°回転させた場合に回転させる前と等しい形状になる対称面であって、式4で表現される。
(式4)
S(ρ,φ)=A×ρ^i×cos(mφ+α)
A=0.205μm、i=3、m=3、α=180°
【0053】
この角度120°は、360°を3で除算した数値であるから、この対称性は一般に3回対称と呼ばれる。同面は中心軸を中心に周期的に凸部と凹部を繰り返している。凸部は他の領域に比べて先に光を屈折するので、光束の波面が遅れて進む遅相作用を有している。凸部は中心軸から外周部に近づくにしたがって隆起する。逆に凹部は他の領域に比べて遅れて光を屈折するので、光束の波面が先に進む進相作用を有している。凹部は中心軸から外周部に近づくにしたがって沈下する。
【0054】
進相と遅相を周期的に与えることにより、結像光学系としての合焦位置の前と後に向かって一部の光束を向けるので、デフォーカス特性が合焦位置前後で安定するようになる。進相と遅相が繰り返されると同特性は、主走査方向と副走査方向の区別なく、両方向についてデフォーカス特性が安定する作用を有する。
【0055】
2)第2の面形状成分
光学的位相変更フィルタ24fの透過面T2、図8(B)に示す特徴の面形状を備えている。図8(B)で示す面は、基準となる中心軸を中心に360°回転させた場合のみに等しい形状になる面であって、式5で表現される。
(式5)
T(ρ,φ)=B×ρ^j×cos(φ+β)
B=0.287μm、j=7、β=90°
【0056】
この対称性は1回対称と呼ばれる。同面は直交する一方向については、進相と遅相作用を有するが、他の方向については進相も遅相作用も有さないという特徴がある。よって、主走査方向もしくは副走査方向に特化した収差補正の作用を有する。本実施形態においては、主走査方向に進相と遅相作用を与えることした。本実施形態における光学的位相変更フィルタは、上述の2種の定義面を表裏で備えた透過性フィルタである。中心厚さを0.2mmと薄く設定することで、合成した作用を得ることができ、図9(A)のように主走査と副走査のMTFデフォーカス特性を揃えることができた。
【0057】
合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度MS=6.0%であり、十分安定したMTF特性が得られている。ここでは、1ステップを0.025mmとしている。そのため、合焦位置前後±1ステップとは、合焦位置から撮像面を±0.025mm移動させることに相当する。仮に図8(A)の面だけで構成された場合は図9(B)のように主走査と副走査のMTF値に依然としてバラツキが残る。合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度MS=11.3%であり、MTFの安定性という本発明の課題に対して不十分であり、図8(B)の面を合成することで課題が解決できる。
【0058】
図9(A)の合焦位置0における波面収差量を図10に示す。主走査方向・副走査方向への収差がバランスよくなり、かつ微妙なうねり状の収差が発生していることからMTF安定度が改善したことがわかる。このように、光学系に透過性の光学的位相変更フィルタを挿入するだけで、高開口化による高速読取も可能となる画像読取装置が実現する。上記に示した本実施形態の画像読取装置は、原稿サイズが例えばA3サイズ(300mm×420mm)の原稿を読み取る際に好適なものである。
【0059】
《第3の実施形態》
以下、本発明の第3の実施形態に係るオフアキシャル光学系について説明する。図11は本実施形態の副走査断面内の要部概略図である。図12は、図11の結像光学系34を抽出したときの副走査断面内の概略図である。図13は、図12の光学的位相変更フィルタ上に設けられた透過面T31、T32の形状を説明する図である。結像光学系34は、基準軸光線の反射点での面法線が基準軸上にないオフアキシャル光学系である。
【0060】
自由曲面反射部材34a、34b、34c、34dは、絞りSPと光学的位相変換フィルタ34fを略中心として二つの「4の字」を描くように配置されている。絞りSPは、光学的位相変換フィルタ34fの透過面T31に設けられている。例えば、絞りは黒色の樹脂シート部材を光学的位相変更フィルタ表面に接着するなどの方法で作成される。5はCCD等で構成されるリニアイメージセンサ(受光手段)であり、像面に相当する位置に配置している。6はキャリッジ(筐体)であり、各部材1、3a、3b、3c、34、5等を収納している。
【0061】
ここで、リニアイメージセンサ5の画素の並び方向(紙面と垂直方向X方向)が主走査方向、それに直交する方向(紙面内方向Y方向)が副走査方向である。光束の進行方向をZ方向とする。このとき、XZ面が主走査断面、YZ面が副走査断面である。本実施形態においては、光源1から発した光束で原稿台ガラス2の上に載置された原稿(物体)7を照明する。そして、原稿7からの光束を第1、第2、第3の反射ミラー3a、3b、3cを介してオフアキシャル反射面部材34aのオフアキシャル反射面R31に入射させている。そして、オフアキシャル反射面R31で反射した光束を、オフアキシャル反射面R32で反射させた後に、光学的位相変更フィルタ34fのT31面、T32面を順に透過させる。続いて、オフアキシャル反射面R33、R34で反射した光束をリニアイメージセンサ5上に結像させている。
【0062】
(第3の実施形態における光学的位相変更フィルタ)
基本的には第1、第2の実施形態と同様であるが、透過性フィルタである光学的位相変更フィルタ34fの単一の面としての透過面T31は、図13(C)に示す特徴の面形状を備えている。図13(C)の面形状は、図13(A)に示す第1の面形状成分と、図13(B)に示す第2の面形状成分を合成(加算)したものである。
【0063】
1)第1の面形状成分
図13(A)で示す面は、基準となる中心軸を中心に51.43°回転させた場合に回転させる前と等しい形状になる対称面であって、式6で表現される。
(式6)
S(ρ,φ)=A×ρ^i×cos(mφ+α)
A=0.410μm、i=4、m=7、α=180°
【0064】
この角度51.43°は、360°を7で除算した数値であるから、この対称性は一般に7回対称と呼ばれる。同面は中心軸を中心に周期的に凸部と凹部を繰り返している。凸部は他の領域に比べて先に光を屈折するので、光束の波面が遅れて進む遅相作用を有している。凸部は中心軸から外周部に近づくにしたがって隆起する。逆に凹部は他の領域に比べて遅れて光を屈折するので、光束の波面が先に進む進相作用を有している。凹部は中心軸から外周部に近づくにしたがって沈下する。
【0065】
進相と遅相を周期的に与えることにより、結像光学系としての合焦位置の前と後に向かって一部の光束を向けるので、デフォーカス特性が合焦位置前後で安定するようになる。進相と遅相が繰り返されると同特性は、主走査方向と副走査方向の区別なく、両方向についてデフォーカス特性が安定する作用を有する。
【0066】
2)第2の面形状成分
図13(B)で示す面は、基準となる中心軸を中心に360°回転させた場合のみに等しい形状になる面であって式7で表現される。
(式7)
T(ρ,φ)=B×ρ^j×cos(φ+β)
B=0.983μm、j=5、β=180°
【0067】
この対称性は1回対称と呼ばれる。同面は直交する一方向については、進相と遅相作用を有するが、他の方向については進相も遅相作用も有さないという特徴がある。よって、主走査方向もしくは副走査方向に特化した収差補正の作用を有する。本実施形態においては、副走査方向に進相と遅相作用を与えることし、図13(A)の面と合成した結果、図14(B)のように主走査と副走査のMTFデフォーカス特性を揃えることができた。
【0068】
本実施形態における光学的位相変更フィルタは、上述の2種の定義面(図13(A)、(B))を合成した面を透過面T31に備えている。光学的位相変更フィルタの中心厚さは0.5mmである。合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度MS=4.9%であり、十分安定したMTF特性が得られている。ここでは、1ステップを0.025mmとしている。そのため、合焦位置前後±1ステップとは、合焦位置から撮像面を±0.025mm移動させることに相当する。光学的位相変換フィルタを備えない従来の光学系では、図14(A)のようなMTFデフォーカス特性であり、安定度MS=12.3%と、課題が大きかった。また、仮に透過面T31が図13(A)の面だけで構成された場合は図14(C)のように主走査と副走査のMTF値に依然としてバラツキが残る。
【0069】
この構成では、合焦位置前後±1ステップの範囲において、安定度MS=16.5%であり、MTFの安定性という本発明の課題に対しては不十分であるが、図13(B)の面を合成することで課題が解決できる。
【0070】
図14(B)の合焦位置0における波面収差量を図15に示す。主走査方向、副走査方向への収差がバランスよくなり、かつ微妙なうねり状の収差が発生していることから、MTF安定度が改善したことがわかる。副走査方向の最周辺部で急激な波面収差増があるが、面積にして微小であるために問題ない。このように、光学系に透過性の光学的位相変更フィルタを挿入するだけで、高開口化による高速読取も可能となる画像読取装置が実現する。
【0071】
上記に示した本実施形態の画像読取装置は、原稿サイズが例えばA3サイズ(300mm×420mm)の原稿を読み取る際に好適なものである。
【0072】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0073】
以下に、実施形態の一覧を記す。
【0074】
【表1】
【0075】
A、Bは定数である。mは2以上の整数であり、回転対称性を示す。本実施形態では3から5の範囲で設定される。3よりも小さい場合は、主走査もしくは副走査方向など、一部の方向についてのMTF特性が不均一になる場合があり好ましくない。5より大きい場合であっても本発明の効果は発揮されるが、8以上となると波面収差の細かなウネリ成分が増えるので、高周波のMTF特性に影響を及ぼし好ましくない。よって、mは3以上で7以下に設定されると本発明の効果がより発揮される。
【0076】
iとjは径方向の形状を決定する数値である。光束の波面を進める進相作用か、逆に遅らせる遅相作用を持たせる必要があり、曲面形状である必要があるから、iとjは、いずれも2以上でないと本発明の効果は得られない。
【0077】
径方向の形状は前記の関数に特定される必要はないが、変曲点を有すると波面収差に不要なウネリ成分が増えるので高周波のMTF特性に影響を及ぼし好ましくない。よって、下記の条件式である式8を満たしているのが良い。
(式8)
ρ>0の領域において、d2(S+T)/dρ2≠0
これは、径方向の形状として変曲点を備えないという条件に相当する。
【0078】
(変形例1)
上述した実施形態においては、非共軸な光学素子を備えるアナモルフィク結像光学系(スリット領域の長手方向である主走査方向と前記主走査方向に直交する副走査方向とで断面形状が異なる光学素子を備える)について述べたが、本発明はこれに限られない。共軸な光学素子を備えるアナモルフィク結像光学系(スリット領域の長手方向である主走査方向と前記主走査方向に直交する副走査方向とで断面形状が異なる光学素子を備える)であっても良い。また光学素子は複数備わる場合の他、単数備わる場合でも良い。
【0079】
(変形例2)
なお、原稿のスリット領域を結像する結像面に設けられるイメージセンサとしてリニアイメージセンサを示したが、エリアイメージセンサを用いることもできる。
【符号の説明】
【0080】
1 照明光源
2 原稿台ガラス
3a、3b、3c 反射ミラー
4 結像光学系
4a 自由曲面反射部材
4b 光学的位相変換フィルタ
5 読取手段(リニアイメージセンサ)
7 原稿
SP 絞り
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原稿のスリット領域をイメージセンサに結像するために用いられ、前記スリット領域の長手方向である主走査方向と前記主走査方向に直交する副走査方向とで断面形状が異なる光学素子を備える結像光学系と、
前記原稿から前記イメージセンサへの結像光路中に設けられる絞りと、
前記絞りの付近に設けられ、入射する光束の中心の波面の位相を基準とするとき、前記入射する光束の波面の位相を進める進相作用を有する進相領域と、前記入射する光束の波面の位相を遅らせる遅相作用を有する遅相領域とを備える光学的位相変更フィルタと、
を有する画像読取光学系であって、
前記光学的位相変更フィルタは、
前記入射する光束の中心における面法線を含み、かつ前記主走査方向あるいは前記副走査方向を含む所定面に関してのみ、対称な形状の面形状成分を備え、
前記入射する光束の中心における面法線を含み、前記所定面に直交する面に関して一方側を前記進相領域、他方側を前記遅相領域とすることを特徴とする画像読取光学系。
【請求項2】
原稿のスリット領域をイメージセンサに結像するために用いられ、前記スリット領域の長手方向である主走査方向と前記主走査方向に直交する副走査方向とで断面形状が異なる光学素子を備える結像光学系と、
前記原稿から前記イメージセンサへの結像光路中に設けられる絞りと、
前記絞りの付近に設けられ、入射する光束の中心の波面の位相を基準とするとき、前記入射する光束の波面の位相を進める進相作用を有する進相領域と、前記入射する光束の波面の位相を遅らせる遅相作用を有する遅相領域とを備える光学的位相変更フィルタと、
を有する画像読取光学系であって、
前記光学的位相変更フィルタは、
前記入射する光束の中心における面法線を含み、かつ前記入射する光束の中心における面法線を含む複数の対称面に関して、対称な形状の第1の面形状成分と、
前記主走査方向あるいは前記副走査方向を含む所定面に関してのみ、対称な形状の第2の面形状成分と、
を前記光学的位相変更フィルタの単一の面あるいは異なる面に備え、
前記第1の面形状成分、前記第2の面形状成分は、
前記入射する光束の中心における面法線を含み、前記複数の対称面あるいは前記所定面に直交する面に関して一方側を前記進相領域、他方側を前記遅相領域とすることを特徴とする画像読取光学系。
【請求項3】
前記複数の対称面の数は3以上であることを特徴とする請求項2に記載の画像読取光学系。
【請求項4】
前記複数の対称面の数は7以下であることを特徴とする請求項3に記載の画像読取光学系。
【請求項5】
前記第1の面形状成分に関し、
S(ρ、φ)=A×Q(ρ)×cos(mφ+α)
m:2以上の整数
ρ:径方向の座標系で半径で正規化した数値 0≦ρ≦1
Q(ρ):径方向の形状
φ:回転方向の座標系 0≦φ≦2π
A:定数
で表せることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の画像読取光学系。
【請求項6】
前記第2の面形状成分に関し、
T(ρ,φ)=B×R(ρ)×cos(φ+β)
R(ρ):径方向の形状
B:定数
で表せることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の画像読取光学系。
【請求項7】
径方向の形状として変曲点を備えないことを特徴とする請求項5または6に記載の画像読取光学系。
【請求項8】
前記光学素子は、非共軸な反射面であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像読取光学系。
【請求項9】
前記イメージセンサと、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の画像読取光学系と、を有することを特徴とする画像読取装置。
【請求項1】
原稿のスリット領域をイメージセンサに結像するために用いられ、前記スリット領域の長手方向である主走査方向と前記主走査方向に直交する副走査方向とで断面形状が異なる光学素子を備える結像光学系と、
前記原稿から前記イメージセンサへの結像光路中に設けられる絞りと、
前記絞りの付近に設けられ、入射する光束の中心の波面の位相を基準とするとき、前記入射する光束の波面の位相を進める進相作用を有する進相領域と、前記入射する光束の波面の位相を遅らせる遅相作用を有する遅相領域とを備える光学的位相変更フィルタと、
を有する画像読取光学系であって、
前記光学的位相変更フィルタは、
前記入射する光束の中心における面法線を含み、かつ前記主走査方向あるいは前記副走査方向を含む所定面に関してのみ、対称な形状の面形状成分を備え、
前記入射する光束の中心における面法線を含み、前記所定面に直交する面に関して一方側を前記進相領域、他方側を前記遅相領域とすることを特徴とする画像読取光学系。
【請求項2】
原稿のスリット領域をイメージセンサに結像するために用いられ、前記スリット領域の長手方向である主走査方向と前記主走査方向に直交する副走査方向とで断面形状が異なる光学素子を備える結像光学系と、
前記原稿から前記イメージセンサへの結像光路中に設けられる絞りと、
前記絞りの付近に設けられ、入射する光束の中心の波面の位相を基準とするとき、前記入射する光束の波面の位相を進める進相作用を有する進相領域と、前記入射する光束の波面の位相を遅らせる遅相作用を有する遅相領域とを備える光学的位相変更フィルタと、
を有する画像読取光学系であって、
前記光学的位相変更フィルタは、
前記入射する光束の中心における面法線を含み、かつ前記入射する光束の中心における面法線を含む複数の対称面に関して、対称な形状の第1の面形状成分と、
前記主走査方向あるいは前記副走査方向を含む所定面に関してのみ、対称な形状の第2の面形状成分と、
を前記光学的位相変更フィルタの単一の面あるいは異なる面に備え、
前記第1の面形状成分、前記第2の面形状成分は、
前記入射する光束の中心における面法線を含み、前記複数の対称面あるいは前記所定面に直交する面に関して一方側を前記進相領域、他方側を前記遅相領域とすることを特徴とする画像読取光学系。
【請求項3】
前記複数の対称面の数は3以上であることを特徴とする請求項2に記載の画像読取光学系。
【請求項4】
前記複数の対称面の数は7以下であることを特徴とする請求項3に記載の画像読取光学系。
【請求項5】
前記第1の面形状成分に関し、
S(ρ、φ)=A×Q(ρ)×cos(mφ+α)
m:2以上の整数
ρ:径方向の座標系で半径で正規化した数値 0≦ρ≦1
Q(ρ):径方向の形状
φ:回転方向の座標系 0≦φ≦2π
A:定数
で表せることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の画像読取光学系。
【請求項6】
前記第2の面形状成分に関し、
T(ρ,φ)=B×R(ρ)×cos(φ+β)
R(ρ):径方向の形状
B:定数
で表せることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の画像読取光学系。
【請求項7】
径方向の形状として変曲点を備えないことを特徴とする請求項5または6に記載の画像読取光学系。
【請求項8】
前記光学素子は、非共軸な反射面であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像読取光学系。
【請求項9】
前記イメージセンサと、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の画像読取光学系と、を有することを特徴とする画像読取装置。
【図1】
【図2】
【図4】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図3】
【図5】
【図8】
【図10】
【図13】
【図15】
【図23】
【図2】
【図4】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図3】
【図5】
【図8】
【図10】
【図13】
【図15】
【図23】
【公開番号】特開2013−109331(P2013−109331A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−231142(P2012−231142)
【出願日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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