説明

留め具

【課題】限られたシール幅でできるだけ内空の大きい溝を形成すると共に、押圧したときに内側壁の端部が溝内に入り込みにくくして、取付孔表側に対する吸着力を高めることができる、留め具を提供する。
【解決手段】この留め具は、取付孔の表側に配置されるフランジ部と、取付孔の裏側周縁に係合する脚部とを備え、フランジ部は、フランジ本体と、このフランジ本体に固着されると共に、弾性材料から形成され取付孔の表側周縁に当接する環状シール部材22とからなり、この環状シール部材22には、取付孔への当接面P側に所定幅で環状溝23が形成されており、この環状溝23の最も深い底部26aから、同環状溝23の内側壁24の内面側開口縁部24aまでの、当接面Pに沿った幅L1が、前記底部26aから外側壁25の内面側開口縁部25aまでの、当接面Pに沿った幅L2よりも大きくなるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のパネル等に形成された取付孔に挿入されて固定される留め具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のパネル等の被取付部材に所定の取付部材を取付ける際には、取付孔の表側に係合するフランジ部及び取付孔の裏側に係合する脚部を備える留め具が用いられている。また、取付部材がテールランプやリヤコンビランプ等の電気部品などの場合、取付孔からの水分の侵入を防止するために、フランジ部の裏側にエラストマー等からなるシール部材を配置し、これを取付孔の表側周縁に密接させて、取付孔のシール性を高めることが行われている。
【0003】
上記のようなシール部材を備えた留め具として下記特許文献1には、中央にスクリュー挿通孔が形成されると共に、一定肉厚で円板状に広がるフランジ体と、同フランジ体の裏面側外周に二色成形で一体形成され、取付孔の表側周縁に当接する軟質材からなる円形リング体(「シール部材」に相当)と、前記フランジ体の裏面側から立設した有底筒状の挿入体(「脚部」に相当)と、同挿入体の外周に形成された複数の山型突部とを有するスクリューグロメットが開示されている。また、図面上、上記円形リング体の、取付孔の表側周縁に対する当接面は、半径方向に切った断面が円弧状に窪んだ形状となっている。
【0004】
そして、スクリューグロメットの挿入体を取付孔に挿入して、フランジ体裏側の円形リング体を取付孔の表側周縁に押し付け、前記スクリュー挿通孔を通して、スクリューを挿入体内に挿入することにより、挿入体が押し広げられて、その外周に設けられた山型突部が取付孔の裏側に係合して、スクリューグロメットが取付孔に取付けられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平4−35612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、引用文献1には、円形リング体の当接面に形成された断面円弧状の窪みの作用について何ら説明がなく、その深さが浅くて内部空間を確保しにくいと考えられることから、取付孔の表側周縁に押し付けても吸着力を発揮するのか不明である。
【0007】
一方、シール部材を備えた留め具のシール部材の当接面に深い溝を形成して、その内部空間を増大させ、吸着力を高めようとした場合には、フランジ部を押し付けたとき、フランジ部が反り返って変形することにより、円形リング体の当接面の、特に内側壁が押圧力を受けることになり、内側壁の端部が溝内に入り込むように変形しやすくなるという問題があることがわかった。この問題を解決するため、溝幅を広げようとすると、シール部材の幅が広くなってしまい、留め具が大型化してしまうという問題があることがわかった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、限られたシール幅でできるだけ内空の大きい溝を形成すると共に、押圧したときに内側壁の端部が溝内に入り込みにくくして、取付孔表側に対する吸着力を高めることができる、留め具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の留め具は、取付孔の表側に配置されるフランジ部と、前記取付孔の裏側周縁に係合する脚部とを備え、前記フランジ部は、フランジ本体と、このフランジ本体に固着されると共に、弾性材料から形成され前記取付孔の表側周縁に当接する環状シール部材とからなり、この環状シール部材には、前記取付孔への当接面側に周方向に所定幅で形成された環状溝が設けられており、この環状溝の最も深い底部から、該環状溝の取付孔側に位置する内側壁の、内面側開口縁部までの、前記当接面に沿った幅L1が、前記底部から前記内側壁に対向配置された外側壁の、内面側開口縁部までの、前記当接面に沿った幅L2よりも大きくなるように形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の留め具においては、前記環状溝の最も深い底部から、該環状シール部材の内側端縁までの、前記当接面に沿った幅L3が、前記底部から該環状シール部材の外側端縁までの、前記当接面に沿った幅L4よりも大きくなるように形成されていることが好ましい。
【0011】
本発明の留め具においては、前記環状溝の内側壁の内面側開口縁部は、円弧状断面をなしていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、取付孔に対して脚部を挿入することにより、取付孔の表側周縁に環状シール部材が当接すると共に、取付孔の裏側周縁に脚部が係合して、取付孔に留め具を取付けることができる。
【0013】
上記クリップ取付時には、取付孔に対してフランジ部が押し付けられて、環状シール部材が圧縮されて環状溝内の空気が抜ける一方、環状シール部材が弾性復帰することにより、環状溝内が減圧されて吸盤効果が作用し、取付孔の表側周縁に環状シール部材が吸着する。このように、環状シール部材に環状溝を設けたことにより、取付孔の表側周縁との間に吸盤効果が働くので、シール効果がより高められる。また、例えば、取付孔に留め具が傾いて取付けられたとしても、環状シール部材が取付孔の表側周縁から離れることなく、その傾きに追従して、取付孔の表側周縁との間のシール性を維持することができる。
【0014】
また、環状溝は、その最も深い底部から内側壁の内面側開口縁部までの当接面に沿った幅L1が、底部から外側壁の内面側開口縁部までの当接面に沿った幅L2よりも大きくなるように設定されているので、外側壁内面の取付孔表面に対する角度よりも、内側壁内面の取付孔表面に対する角度の方が緩やかになる。その結果、フランジ部押し付け時に、内側壁の端部が取付孔中心側へと移動して押し潰されるように撓み変形する。これによって、環状溝の内側壁の端部の環状溝内への入り込み変形を防止して、環状溝内の空隙をなるべく大きく確保できるので、環状シール部材の取付孔表側に対する吸着力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の留め具の一実施形態を示しており、(a)はその斜視図、(b)は(a)とは異なる方向から見た場合の斜視図である。
【図2】同留め具の断面斜視図である。
【図3】本発明の留め具を用いて、被取付部材に取付部材を取付けた状態の説明図である。
【図4】(a)は本発明の留め具を構成する環状シール部材の要部拡大説明図、(b)は同環状シール部材の他形状の要部拡大説明図である。
【図5】(a)は本発明の留め具を取付孔に挿入し、フランジ部を取付孔表側に当接させた状態の要部拡大説明図、(b)は(a)の状態から取付孔に対してフランジ部を押し付けて、環状シール部材が取付孔の表側周縁に吸着した状態の要部拡大説明図、(c)は取付孔にフランジ部が更に大きな荷重で押し付けられたときの要部拡大説明図である。
【図6】本発明の留め具の他の実施形態の斜視図である。
【図7】(a)は同他の実施形態の留め具を構成する環状シール部材の要部拡大説明図、(b)は同留め具を取付孔に挿入し、フランジ部を取付孔表側に当接させた状態の要部拡大説明図、(c)は(b)の状態から取付孔に対してフランジ部を押し付けて、環状シール部材が取付孔の表側周縁に吸着した状態の要部拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜5を参照して、本発明の留め具の一実施形態について説明する。
【0017】
この留め具10は、所定の部材に形成された取付孔に挿入されて、同取付孔に保持固定されるものである。この実施形態における留め具10は、図3に示すように、自動車のパネル等の被取付部材1に形成された取付孔3に挿入され、同被取付部材1に、テールランプやリヤコンビランプ等の電気部品や、ガーニッシュやトリムボード等のカバー部材などの取付部材5を取付ける際に用いられる。特に水密構造を必要とされるテールランプ等をパネルに取付ける際に好適に用いることができる。
【0018】
この実施形態における留め具10は、取付部材5に取付けられたピン40を受け入れ保持するいわゆるグロメットとなっており(図3参照)、図1(a),(b)に示すように、前記被取付部材1に形成された取付孔3の表側に配置されるフランジ部20と、取付孔3の裏側周縁に係合する脚部30とを備えている。
【0019】
前記フランジ部20は、フランジ本体21と、このフランジ本体21の裏面側に固着される環状シール部材22とからなる。前記フランジ本体21は円板状をなしており、その中央には、長さ方向両端が円弧形の長孔状をなした開口部21aが形成されている。
【0020】
一方、前記脚部30は、フランジ本体21の開口部21aの裏側周縁から延出する周壁、及び、その先端に連結される底壁からなる有底筒状に形成されている。その内部31には、フランジ本体21の開口部21aを通して、図3に示すピン40が挿入されるようになっている。また、脚部30の長辺側周壁の内面には、係合突部33,33が対向して突設されており(図2参照)、これらがピン40の後述する凹部45に嵌合して(図3参照)、ピン40をスライド可能に抜け止め保持するようになっている。一方、脚部30の長辺側周壁の外面には、一対の係合爪35,35がそれぞれ突設されており、これらが前記被取付部材1の取付孔3の裏側周縁に係合するようになっている(図3参照)。
【0021】
そして、フランジ本体21の裏面側に固着される環状シール部材22は、円板状のフランジ本体21の形状に適合して、フランジ本体21の外径とほぼ同じ外径の円環状をなし、同フランジ本体21の裏側周縁に沿って固着されている。この環状シール部材22は、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム等のエラストマーや、その他の弾性材料から形成されており、これが前記取付孔3の表側周縁に当接する部分となっている。なお、環状シール部材22は、インサート成形や二色成形等によりフランジ本体21と一体成形されたり、接着剤を介してフランジ本体21に接着されたりして、フランジ本体21の裏面側に固着されている。
【0022】
図4,5に示すように、上記環状シール部材22の、取付孔3への当接面Pは、取付孔表面Sに対して平行な平坦面をなし、更にこの当接面P側には、図1(b)及び図2〜5に示すように所定幅で環状溝23が形成されており、同環状溝23の取付孔3側に内側壁24が位置し、同内側壁24に対向した位置に外側壁25が配置されている。
【0023】
なお、図4(a)には、留め具10を取付孔3に取付ける前の、本実施形態に係る環状シール部材22の要部拡大説明図が示されており、(b)には、同環状シール部材22の他形状が示されている。また、図5(a)は留め具10を取付孔3に挿入し、フランジ部20を取付孔3の表側に当接した状態での要部拡大説明図、(b)は(a)の状態から取付孔3に対してフランジ部20が押し付けられ、環状シール部材22が吸盤効果により取付孔3の表側周縁に吸着した状態での要部拡大説明図、(c)は取付孔3にフランジ部20が更に大きな荷重で押し付けられたときの、環状シール部材22の変形挙動を示す要部拡大説明図である。
【0024】
そして、この留め具10においては、環状シール部材22の取付孔3への当接面Pに、上記のような環状溝23を設けたため、フランジ部20の取付孔3への押し付け時に、環状シール部材22が圧縮されて環状溝23内の空気が抜ける一方、環状シール部材22が弾性力により弾性復帰することにより、環状溝内が減圧されて、環状溝23内と外部とに圧力差が生じ、その結果、取付孔3の表側周縁との間に吸盤効果が働いて、取付孔3の表側周縁に環状シール部材22が吸着するようになっている。
【0025】
また、この実施形態における環状溝23の底面26は、円弧状に丸みを帯びた形状となっている。この底面26の、環状溝23の開口部から最も離れた部分が、本発明における環状溝23の最も深い底部26aをなしている。なお、環状溝23の底面26を円弧状に丸みを帯びた形状としたことにより、環状シール部材22の内側壁24及び外側壁25が撓み変形するときに、環状溝23の底部26aへの応力が緩和され、底部26aにヒビやワレが生じにくくなる。
【0026】
そして、図4(a)に示すように、環状溝23の底部26aから、前記内側壁24の内面側開口縁部24aまでの、当接面Pに沿った幅L1が、同環状溝23の底部26aから、前記外側壁25の内面側開口縁部25aまでの、当接面Pに沿った幅L2よりも大きくなるように設定されている。これにより、環状溝23の外側壁内面28の、取付孔表面Sに対する角度θ2よりも、同環状溝23の内側壁内面27の、取付孔表面Sに対する角度θ1の方が緩やかになるようになっている(図4(a)参照)。
【0027】
図4(a)に示すように、この実施形態では、環状溝23の内側壁内面27は、所定角度θ1で傾斜していると共に、内側壁24の内面側開口縁部24aは、所定曲率の円弧状断面をなしている。一方、環状溝23の外側壁内面28は、前記当接面Pに対してほぼ直交しており、外側壁25の内面側開口縁部25aはエッジ状に角張った断面をなしている(図4(a)参照)。
【0028】
なお、上記幅L1,L2を規定するにあたって、内側壁24の内面側開口縁部24a、又は、外側壁25の内面側開口縁部25aの位置は、次のように規定する。すなわち、環状溝23の深さhの中間部分(1/2hの部分)において、その位置にある内側壁内面27又は外側壁内面28の接線C(図4(a),(b)参照)を引き、これを当接面Pに至るまで延長し、この接線Cと、前記当接面Pに沿った線P1との交点を、便宜上、内側壁24の内面側開口縁部24a、又は、外側壁25の内面側開口縁部25aと規定する。
【0029】
このようにすれば、図4(a)に示すような、内側壁24の内面側開口縁部24aが円弧状断面をなしている場合でも、環状溝23の底部26aからの、当接面Pに沿った幅L1を特定できる。
【0030】
また、図4(b)には、外側壁25の内面側開口縁部25aが円弧状断面をなした場合が示されている。この場合も、環状溝23の深さhの中間部分における、外側壁内面28の接線Cと、当接面Pに沿った線P1との交点を、便宜上、外側壁25の内面側開口縁部25aと規定し、これにより環状溝23の底部26aからの、当接面Pに沿った幅L2を特定できる。
【0031】
更に、図4(b)には、環状溝23の内側壁内面27が、取付孔表面Sに対する傾斜角度が異なる複数のテーパ面からなる場合が示されている。この場合も前記と同様に、環状溝23の深さhの中間部分での面における接線Cと、当接面Pに沿った線P1との交点を、便宜上、内側壁24の内面側開口縁部24aと規定し、これにより環状溝23の底部26aからの、当接面Pに沿った幅L1を特定できる。
【0032】
更に、この実施形態においては、環状溝23の最も深い底部26aから、環状シール部材22の内側端縁までの、前記当接面Pに沿った幅L3は、前記底部26aから環状シール部材22の外側端縁までの、前記当接面Pに沿った幅L4よりも大きくなるように設定されている。
【0033】
一方、上記構造をなした留め具10の、脚部30の内部31に収容保持されたピン40は、図3に示すように、取付部材5に形成された枠状の取付台座7に係合する円板状の第1頭部41と、この第1頭部41の裏側から延出する軸部43と、この軸部43の軸方向途中から外径方向に突設され、上記留め具10のフランジ部20の表面側に当接する環状の第2頭部44とから構成されている。また、前記軸部43の軸方向途中には、所定形状にくびれた凹部45が形成されており、この凹部45の軸方向先端側の拡径部45aが、上記留め具10の脚部内面の一対の係合突部33,33に係合して、ピン40が抜け止め保持されるようになっている。
【0034】
次に上記構成からなる留め具10の使用方法について説明する。
【0035】
まず、テールランプ等の取付部材5に形成された取付台座7内に、ピン40の第1頭部41を挿入して、取付台座7にピン40の頭部41を取付ける。
【0036】
また、パネル等の被取付部材1に形成された取付孔3に留め具10を取付ける。すなわち、長孔状の取付孔3の表側から脚部30を挿入することにより、取付孔3の表側周縁に、フランジ部20の裏面側に固着された環状シール部材22が弾性的に当接すると共に、取付孔3の裏側周縁に、脚部30の一対の係合爪35,35がそれぞれ係合して、取付孔3に留め具10が取付けられるようになっている(図3参照)。
【0037】
上記の留め具取付時には、図5(a)に示すように、取付孔3の表側に対してフランジ部20が押し付けられて、内側壁24及び外側壁25が取付孔表面Sに当接して、弾性材料からなる環状シール部材22が圧縮されると共に、環状溝23の開口部が閉塞される。
【0038】
このとき、環状シール部材22の取付孔3への当接面Pに環状溝23が形成されていると共に、この環状溝23は、底部26aから内側壁24の内面側開口縁部24aまでの当接面Pに沿った幅L1が、底部26aから外側壁25の内面側開口縁部25aまでの当接面Pに沿った幅L2よりも大きくなるように設定されているので(図4(a)参照)、外側壁内面28の取付孔表面Sに対する角度θ2よりも、内側壁内面27の取付孔表面Sに対する角度θ1の方が緩やかになる。その結果、図5(b)に示すように、内側壁24の端部が取付孔中心側(図5の紙面左側)へと移動して押し潰されるように変形して、環状溝23内が減圧され、この環状溝23内の減圧により、外側壁25が取付孔中心側に引き込まれる力を受けながら撓み変形する。
【0039】
上記のように環状シール部材22が圧縮され、環状溝23が撓み変形すると、環状溝23内の空気が抜けると共に、環状シール部材22が弾性力により弾性復帰する。それにより環状溝23内が減圧されて、環状溝内と外部との間に圧力差が生じ、環状シール部材22と取付孔3の表側周縁との間に吸盤効果が働いて、取付孔3の表側周縁に環状シール部材22が吸着する(図5(b)参照)。
【0040】
このように、環状シール部材22の取付孔3への当接面Pに、環状溝23を設けたことにより、取付孔3の表側周縁との間に吸盤効果が働くので、例えば、取付孔3に留め具が傾いて取付けられたとしても、環状シール部材22が取付孔3の表側周縁から離れることなく、その傾きに追従することとなり、環状シール部材22と取付孔3の表側周縁との間のシール性を維持することができる。
【0041】
また、上記のように、内側壁24の端部が取付孔中心側へと押し潰されるように変形するのに伴って、外側壁25が取付孔中心側に引き込まれるように撓み変形することから(図5(b)参照)、環状溝23の内側壁24の端部が、環状溝23内へ入り込むように変形することを防止することができ、環状溝23内の空隙をなるべく大きく確保することができる。その結果、環状シール部材22の取付孔3の表側に対する吸着力を高めることができると共に、内側壁24を積極的に変形させて、外側壁24に、減圧による引き込み力を受けさせるようにしたことにより、外側壁25の取付孔表側に対する所定シール面からのはみ出しを極力抑制して、環状シール部材22の取付孔表側へのシール面積を小さくすることができる。
【0042】
更に、この実施形態においては、環状溝23の底部26aから環状シール部材22の内側端縁までの当接面Pに沿った幅L3は、底部26aから環状シール部材22の外側端縁までの当接面Pに沿った幅L4よりも大きくなるように設定されている。これにより、環状溝23の最も深い底部26aから、内側壁24の内面側開口縁部25に至る、環状溝23の内側壁内面27の傾斜角度θ1をより緩やかにして、内側壁24が環状溝23内に倒れ込むのを防止できる。また、押圧力のかかりやすい内側壁24が潰れにくく、押圧力のかかかりにくい外側壁25が潰れやすくなるので、低い押圧力で環状シール部材22をスムーズに潰して撓み変形させることができ、環状シール部材22の取付孔表側に対する吸盤効果をより高めることができる。
【0043】
更にまた、この実施形態においては、環状溝23の内側壁24の内面側開口縁部24aは、円弧状断面をなしている。これによれば、図5(a)に示すように、取付孔3の表側に対してフランジ部20を押し付けるときに、内側壁24の内面側開口縁部24aが、取付孔3の表側にスムーズに当接するので、内側壁24を取付孔中心側により変形させやすくすることができる。また、環状シール部材22が取付孔3の表側に押し付けられて変形したとき、取付孔3の表側に、内側壁24の円弧状をなした内面側開口縁部24aが面接触しやすくなるので、環状溝23の内側壁24のシール面積を確保することができる。
【0044】
上記のようにして被取付部材1の取付孔3に留め具10を取付けた後、取付部材5に取付けられたピン40の軸部43を、開口部21aを通して脚部30の内部31に挿入して、ピン40の第1頭部41を、フランジ本体21の表面側に当接させると共に、脚部30内の一対の係合突部33,33を、ピン40の凹部45の拡径部45aにそれぞれ係合させることにより、留め具10にピン40が抜け止め保持される(図3参照)。その結果、留め具10を介して被取付部材1に取付部材5を取付けることができる。
【0045】
上記状態では、留め具10のフランジ本体21の表面側に、ピン40の第1頭部41が当接していて、取付部材5からの荷重を受けるため、図5(c)に示すように、環状シール部材22が取付孔3側に向けて大きく撓み変形する。また、留め具10を取付孔3に挿入する際にも、その押し込み力が強い場合には、図5(c)に示すように、環状シール部材22が取付孔3側に向けて大きく撓み変形する。
【0046】
これに対し、この留め具10においては、上述したように内側壁24及び外側壁25の環状溝23内への入り込み変形が防止されているので、図5(c)に示すように環状シール部材22が取付孔3側へ大きく撓み変形しても、内側壁24及び外側壁25が環状溝23に倒れ込むことなく、環状シール部材22の取付孔表側に対する吸着力を維持することができる。
【0047】
図6,7には、本発明の留め具の他の実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0048】
この実施形態の留め具10aは、前記実施形態の留め具10とは異なり、取付部材5(図3参照)に一端が固定され、他端が被取付部材1の取付孔3に挿入固定されて、取付部材5を被取付部材1に取付けるためのクリップとなっている。
【0049】
具体的には、この留め具10aは、軸部11と、軸部11の上端にフランジ状に突設した第1頭部12と、この第1頭部12よりも軸方向下方に配置されたフランジ状の第2頭部13とを有し、この第2頭部13よりも更に軸方向下方に、フランジ部20が設けられている。このフランジ部20は、軸部11の周方向途中から軸方向下方に向けて、斜め外方に傘状に広がる形状をなしたフランジ本体21bを有しており、このフランジ本体21bの外周縁の裏側に、環状シール部材22aが固着されている。
【0050】
この環状シール部材22aは、前記実施形態の環状シール部材22と基本的な形状は同じだが、傘状に広がるフランジ本体21bの形状に対応して、取付孔3への当接面Pとは反対側の面が、径方向内方に向けて次第に高くなるテーパ状をなしており(図7(a)参照)、その結果、取付孔3への当接面Pが取付孔表面Sに対して平行となっている。
【0051】
また、図6に示すように、フランジ部20の下面中央部からステム51が延出されており、このステム51の外周からは、複数の弾性係合片37が周方向に沿って延設されており、これらが取付孔3の裏側周縁に係合する部分となっている。
【0052】
そして、この実施形態の留め具10aにおいても、図7(b)に示すように、取付孔3の表側に対してフランジ部20が押し付けられると、内側壁24が取付孔中心側へと押し潰されるように変形し、この変形に伴って外側壁25が取付孔中心側に引き込まれるように撓み変形して、図7(c)に示すように、内側壁24及び外側壁25が取付孔表面Sに密接して、環状溝23が閉塞されて、環状シール部材22と取付孔3の表側周縁との間に吸盤効果が働き、取付孔3の表側周縁に環状シール部材22が吸着することとなる。
【0053】
なお、本発明に係る留め具は、図1〜5に示す実施形態ではグロメットとして用い、図6,7に示す実施形態ではクリップとして用いたが、これ以外にも、取付孔の開口を閉塞するためのホールプラグ等に適用してもよく、特に限定されない。また、脚部の構造に関しても、例えば、柱状のステム部と、該ステム部の先端から碇足状に延出した一対の係合片とからなる構造等としてもよく、特に限定されない。
【符号の説明】
【0054】
3 取付孔
10,10a 留め具
20 フランジ部
21,21b フランジ本体
22,22a 環状シール部材
23 環状溝
24 内側壁
24a 内面側開口縁部
25 外側壁
25a 内面側開口縁部
26a 底部
27 内側壁内面
28 外側壁内面
30 脚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付孔の表側に配置されるフランジ部と、前記取付孔の裏側周縁に係合する脚部とを備え、
前記フランジ部は、フランジ本体と、このフランジ本体に固着されると共に、弾性材料から形成され前記取付孔の表側周縁に当接する環状シール部材とからなり、
この環状シール部材には、前記取付孔への当接面側に周方向に所定幅で形成された環状溝が設けられており、
この環状溝の最も深い底部から、該環状溝の取付孔側に位置する内側壁の、内面側開口縁部までの、前記当接面に沿った幅L1が、前記底部から前記内側壁に対向配置された外側壁の、内面側開口縁部までの、前記当接面に沿った幅L2よりも大きくなるように形成されていることを特徴とする留め具。
【請求項2】
前記環状溝の最も深い底部から、該環状シール部材の内側端縁までの、前記当接面に沿った幅L3が、前記底部から該環状シール部材の外側端縁までの、前記当接面に沿った幅L4よりも大きくなるように形成されている請求項1記載の留め具。
【請求項3】
前記環状溝の内側壁の内面側開口縁部は、円弧状断面をなしている請求項1又は2記載の留め具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−158049(P2011−158049A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21359(P2010−21359)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000124096)株式会社パイオラックス (331)
【Fターム(参考)】