説明

留置針装置

【課題】内針と外針との間の隙間を血液で満たすプライミング作業を容易に行うことができ、且つ、穿刺時に血液が外針の側孔から漏れ出すことがない留置針装置を提供する。
【解決手段】ハブ40がシールド20の内腔の前端側に位置する初期位置において、内針50が外針30を貫通して外針の先端から外部に突出し、ハブがシールドの内腔の後端側に位置する後退位置において、内針がシールドの内腔内に収納される。外針の外周面に第1側孔31が形成されており、内針の外周面に第2側孔51が形成されている。ハブが初期位置にあるとき、外針の第1側孔を含む領域33の内周面が内針の外周面に密着し、第2側孔は外針の内周面と外針の前記外周面とが密着した領域よりもハブ側に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質の外針と硬質の内針とを備え、外針の先端から内針の先端を突出させた状態で患者に穿刺し、その後、内針を外針から後退させることができるように構成された留置針装置に関する。
【背景技術】
【0002】
留置針装置は、輸液、輸血、体外血液循環などの処置に広く使用される。金属針を血管内に留置すると血管が傷付けられる可能性があるために、軟質の外針と硬質の内針とを備え、外針の先端から内針の先端を突出させた状態で患者の血管に穿刺し、その後、内針を外針から後退させることができる留置針装置が特許文献1に記載されている。
【0003】
図8Aは、特許文献1に記載された留置針装置において、外針910の先端から突出した内針920の先端及びその近傍を示した断面図である。内針920の外周面には側孔921が形成されている。図8Aの状態で内針920及び外針910を順に患者に血管に穿刺すると、患者の血液930は、内針920内を流れるとともに、内針920の側孔921を通って内針920と外針910との間の隙間925を流れる。外針910を透明又は半透明な材料で構成すれば、隙間925を流れる血液を視認することができ、血液のフラッシュバックを容易に確認することができる。また、内針920の内腔に加えて隙間925も患者の血液で満たすことができるので、例えば血液透析ではプライミング作業が容易となり、空気が混入した血液が患者に返血される危険を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−297062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血液透析では、針の先端が血管の内壁に接触すると血液の流量が低下してしまう。そこで、血液透析に使用される留置針装置では、血液の流路を確保するために、針の外周面に側孔を設けることが一般に行われている。
【0006】
ところが、仮に、図8Bに示すように、図8Aに示した留置針装置の外針910の外周面に側孔911を形成すると、患者の血管に穿刺したときに、患者の血液930が、内針920から内針920の側孔921を通過して内針920と外針910との間の隙間925に入り、更に外針910の側孔911を通過して外界に漏れ出してしまうという問題がある。
【0007】
図8Bにおいて、内針920の側孔921を塞いでも、患者の血液は、内針920から、内針920の基端(図示せず)が接続されたハブ(図示せず)を通過して内針920と外針910との間の隙間925に入り、更に外針910の側孔911を通過して外界に漏れ出してしまう。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決し、外針を患者の血管に留置した際に血液の流路を確保するために外針に側孔が形成された留置針装置において、内針と外針との間の隙間を血液で満たすことでプライミング作業を容易に行うことができ、また、穿刺時に血液が外針の側孔から漏れ出すことがない留置針装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の留置針装置は、内腔を有するシールドと、前記シールドの前端に固定された軟質の外針と、前記シールドの前記内腔内に配置され、前記シールドの長手方向に移動可能なハブと、前記ハブの前端に固定された内針とを備える。前記ハブが前記シールドの前記内腔の前端側に位置し且つ前記内針が前記外針を貫通して前記外針の先端から外部に突出する初期位置と、前記ハブが前記シールドの前記内腔の後端側に位置し且つ前記内針が前記シールドの前記内腔内に収納される後退位置とに前記ハブが変位する。
【0010】
前記外針に、その外周面を貫通する第1側孔が形成されている。前記内針に、その外周面を貫通する第2側孔が形成されている。前記ハブが前記初期位置にあるとき、前記外針の前記第1側孔を含む領域の内周面が前記内針の外周面に密着し、前記第2側孔は前記外針の前記内周面と前記内針の前記外周面とが密着した領域よりも前記ハブ側に位置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外針に第1側孔が形成されているので、外針を患者の血管に穿刺して留置した際に、外針の先端の開口が血管の内壁に接触して塞がっても、血液の流路を確保することができる。
【0012】
また、ハブが初期位置にあるとき、内針の第2側孔が外針の内周面と内針の外周面とが密着した領域よりもハブ側に位置するので、第2側孔を通じて、内針と外針との間の隙間を血液で満たすプライミング作業を容易に行うことができる。
【0013】
更に、ハブが初期位置にあるとき、外針の第1側孔を含む領域の内周面が内針の外周面に密着するので、第1側孔から血液が漏れ出すことはない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、ハブが初期位置にある、本発明の一実施形態にかかる留置針装置の斜視図である。
【図2A】図2Aは、図1の2A−2A線を含む面に沿った本発明の一実施形態にかかる留置針装置の矢視平面断面図である。
【図2B】図2Bは、図1の2B−2B線を含む面に沿った本発明の一実施形態にかかる留置針装置の矢視側面断面図である。
【図3】図3Aは、本発明の一実施形態にかかる留置針装置に内蔵されるハブの斜視図である。図3Bは図3Aの3B−3B線を含む面に沿ったハブの矢視平面断面図、図3Cは図3Aの3C−3C線を含む面に沿ったハブの矢視側面断面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態にかかる留置針装置に使用されるストッパーの斜視図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態にかかる留置針装置において、ハブが初期位置にあるときの外針及び内針の先端及びその近傍を示した断面図である。
【図6】図6は、ハブが後退位置にある、本発明の一実施形態にかかる留置針装置の斜視図である。
【図7A】図7Aは、図6の7A−7A線を含む面に沿った本発明の一実施形態にかかる留置針装置の矢視平面断面図である。
【図7B】図7Bは、図6の7B−7B線を含む面に沿った本発明の一実施形態にかかる留置針装置の矢視側面断面図である。
【図8】図8Aは、従来の留置針装置において、外針の先端から突出した内針の先端及びその近傍を示した断面図である。図8Bは、図8Aに示した留置針装置の外針に側孔が形成された仮想の留置針装置を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の上記の留置針装置において、前記ハブが前記初期位置にあるとき、前記外針の前記内周面と前記内針の前記外周面とが密着した前記領域よりも前記シールド側に、前記外針の内周面と前記内針の外周面との間に隙間が形成され、前記第2側孔は、前記隙間を介して前記ハブの外面と前記シールドの内面との間の空間と連通することが好ましい。これにより、ハブが初期位置にあるとき、第2側孔を通じて、内針と外針との間の隙間に加えて、ハブの外面とシールドの内面との間の空間を血液で満たすプライミング作業を容易に行うことができる。
【0016】
前記ハブが前記初期位置にあるとき、前記第1側孔は前記第2側孔と連通しないことが好ましい。これにより、第1側孔から血液が漏れ出すのをより確実に防止することができる。
【0017】
前記ハブが前記初期位置にあるとき、記外針の前記内周面と前記内針の前記外周面とが密着した前記領域よりも前記シールド側に、前記外針の内周面と前記内針の外周面との間に隙間が形成され、前記第1側孔は前記隙間と連通しないことが好ましい。これにより、内針と外針との間の隙間の血液が第1側孔から漏れ出すのをより確実に防止することができる。
【0018】
以下に、本発明を好適な実施形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施形態の構成部材のうち、本発明を説明するために必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。従って、本発明は以下の各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、以下の各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0019】
図1は、ハブが初期位置にある、本発明の一実施形態にかかる留置針装置10の斜視図である。図2Aは、図1の2A−2A線を含む面に沿った留置針装置10の矢視平面断面図であり、図2Bは、図1の2B−2B線を含む面に沿った留置針装置10の矢視側面断面図である。本発明では、患者に穿刺する側(図2A及び図2Bの紙面の左側)を「前側」、これと反対側を「後側」と呼ぶ。
【0020】
留置針装置10は、シールド20を備える。シールド20は、シールド筒21と、シールド筒21の一端(前端)に固定された外ハブ25とを有する。シールド筒21は、内径が一定の略円筒形状を有する。シールド筒21の外ハブ25とは反対側端(後端)近傍の内周面には、周方向に連続する係止突起22が形成されている。外ハブ25は略漏斗形状を有し、そのシールド筒21とは反対側端(前端)に軟質の外針30が固定されている。外針30は略円筒形状を有し、その先端の近傍に、その外周面を貫通する一対の第1側孔31が形成されている。一対の第1側孔31は、外針30の内腔と連通している。シールド筒21及び外ハブ25の材料としては、特に制限はないが、硬質材料が好ましく、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等を用いることができる。シールド筒21及び外ハブ25が透明又は透光性を有すると、その内腔内の血液やハブ40を透視することができるので好ましい。外針30の材料としては、特に制限はないが、軟質材料が好ましく、例えば、ポリプロピレン、ポリウレタン系エラストマー、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂等を用いることができる。外針30が透明又は透光性を有すると、その内腔内の血液や内針50を透視することができるので好ましい。なお、外ハブ25及び外針30を、上記の軟質材料を用いて一体に形成してもよい。
【0021】
参照符号29a,29bは翼である。翼29a,29bは、略円筒形状の固定部材28に設けられている。固定部材28をシールド筒21の外ハブ25側端近傍の外周面に外装することにより、翼29a,29bがシールド20に装着されている。翼29a,29bの材料としては、特に制限はないが、軟質材料が好ましく、例えば、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリエチレン、オレフィン系又はポリスチレン系の熱可塑性エラストマー等を用いることができる。なお、翼29a,29bは、シールド20に一体に成形されていてもよい。
【0022】
シールド20の内腔内にはハブ40が、シールド20の長手方向(即ち、前後方向)に移動可能に挿入されている。ハブ40の前端には金属製の硬質の内針50が固定され、ハブ40の後端には樹脂製の柔軟なチューブ60の一端が接続されている。チューブ60の他端は、例えば血液透析を行うための血液回路に接続されている。ハブ40の外周面にOリング49が装着されている。Oリング49はシールド筒21の内周面に密着し、シールド20の内腔において、Oリング49よりも外針30側の血液がOリング49よりもチューブ60側に漏洩するのを防ぐ。内針50は略円筒形状を有し、その鋭利な先端の近傍に、その外周面を貫通する第2側孔51が形成されている。第2側孔51は、内針50の内腔52と連通している。ハブ40の材料としては、特に制限はないが、硬質材料が好ましく、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等を用いることができる。チューブ60の材料としては、特に制限はないが、軟質材料が好ましく、例えば、塩化ビニル等を用いることができる。
【0023】
図3Aはハブ40の斜視図、図3Bは図3Aの3B−3B線を含む面に沿ったハブ40の矢視平面断面図、図3Cは図3Aの3C−3C線を含む面に沿ったハブ40の矢視側面断面図である。ハブ40は、一端(前端)に、円錐面状の外面を有する前部41を有し、他端に円筒面状の外面を有する後部42を有する。縦貫路43が、ハブ40の中心軸40aに沿って前部41から後部42までハブ40を縦貫している。図2A及び図2Bに示されているように、内針50は、前部41側から縦貫路43内に挿入されて、ハブ40に保持される。後部42がチューブ60内に挿入されて、ハブ40とチューブ60とが接続される。かくして、内針50とチューブ60とは、ハブ40の縦貫路43を通じて連通される。
【0024】
前部41と後部42との間の、ハブ40の外周面に、周方向に連続する環状溝44が形成されている。図2A及び図2Bに示されているように、環状溝44にOリング49が装着される。
【0025】
ハブ40の外周面に、環状溝44と前部41との間に、環状溝44側から径大部45及び径小部46がこの順に形成されている。径小部46は径大部45よりも相対的に小さな外径を有し、前部41に隣接している。径小部46には、径小部46を直径方向(中心軸40aに直交する方向)に横貫する横貫路47が形成されている。横貫路47は、縦貫路43と交差し且つ連通している。
【0026】
後部42の周囲に、片持ち支持された4つの弾性片48が、ハブ40の中心軸40aに対して等角度間隔で配置されている。弾性片48は、ハブ40の中心軸40aに対して略平行に延びている。弾性片48の後部42とは反対側の面には、嵌合溝48aとテーパ面48bとが形成されている。嵌合溝48aは、ハブ40の周方向に沿った凹部(溝)である。テーパ面48bは、嵌合溝48aに対して弾性片48の自由端側に隣接し、嵌合溝48a側で外径が大きな円錐面の一部をなす。
【0027】
図1、図2A及び図2Bでは、ハブ40はシールド20の内腔の前端側に位置している。シールド20に対するハブ40のこの位置を本発明では「初期位置」と呼ぶ。初期位置では、ハブ40の前部41に保持された内針50は外針30を貫通し、その先端は外針30の先端から外部に露出している。内針50の内腔52は、ハブ40の縦貫路43を介してチューブ60と連通するとともに、ハブ40の横貫路47を介して、Oリング49よりも前端側のハブ40の外面とシールド20の内面との間の空間12、及び、内針50の外周面と外針30の内周面との間の隙間13(後述する図5を参照)と連通する。
【0028】
ハブ40が初期位置を維持するために、ストッパー70が用いられる。図4はストッパー70の斜視図である。ストッパー70は、略半円筒形状の基端部71、略半円筒形状の挿入部72、及び一対の把持部73を備える。挿入部72及び一対の把持部73は、一対の把持部73の間に挿入部72を挟んで、互いに平行に基端部71に立設されている。
【0029】
図1、図2A及び図2Bに示されているように、シールド筒21の後端から、ストッパー70の挿入部72をシールド筒21とチューブ60との間の隙間に挿入する。ストッパー70をシールド20内に可能なかぎり深く挿入すると、挿入部72の先端がハブ40の弾性片48の後端に衝突し、ハブ40の径大部45が外ハブ25の後端に衝突して、ハブ40はシールド20の内腔内に初期位置に配置される。このとき、ストッパー70の一対の把持部73は、シールド20のシールド筒21の両側に位置している。
【0030】
図5は、ハブ40が初期位置にあるときの外針30及び内針50の先端及びその近傍を示した断面図である。図2Aと異なり、図5では、第1側孔31及び第2側孔51の位置が分かるように、外針30のみを断面として示している。図5に示されているように、外針30の内径は、外針30の長手方向において一定ではなく、外針30の先端から所定の領域33で小さく、この領域33よりも後側ではこれより大きい。従って、領域33では、外針30の内周面と内針50の外周面とは密着し、領域33より後側では、外針30の内周面と内針50の外周面との間に隙間13が形成されている。本発明では、領域33を「密着領域」と呼ぶ。第1側孔31は、密着領域33内に形成されている。また、ハブ40が初期位置にあるとき、第2側孔51は、密着領域33よりも後側に位置している。この結果、第2側孔51は隙間13と連通している。一方、第1側孔31は、第2側孔51と連通せず、且つ、隙間13とも連通しない。
【0031】
以上のように構成された本実施形態の留置針装置10の使用方法及び作用を説明する。
【0032】
図1、図2A及び図2Bに示すように、ハブ40が初期位置にある留置針装置10を、ストッパー70の一対の把持部73を2本の指で挟んで保持する。一対の把持部73は容易に弾性変形してシールド筒21の外周面に密着するので、留置針装置10を安定して保持することができる。この状態で、外針30の先端から突出した内針50を患者の血管に穿刺する。穿刺する際に内針50は反力を受けるが、内針50を保持するハブ40の後端(弾性片48)がストッパー70の挿入部72の先端に当接するので、内針50及びハブ40はシールド20に対して変位することはできない。
【0033】
外針30の第1側孔31が血管内に入るほどに内針50及び外針30を更に深く穿刺する。
【0034】
内針50の先端が血管内に挿入されることにより、患者の血液は、内針50の先端の開口から、内針50の内腔52内に流入する。図2A及び図2Bから理解できるように、内針50の内腔52内に流入した血液は、内針50の内腔52及びハブ40の縦貫路43を順に通ってチューブ60に流入する。また、内針50の内腔52内に流入した血液は、内針50の第2側孔51を通って外針30の内周面と内針50の外周面との間の隙間13(図5参照)に流入し、ハブ40の外面とシールド20の内面との間の空間12、ハブ40の横貫路47、及び、ハブ40の縦貫路43を順に通ってチューブ60に流入する。
【0035】
このように、穿刺時に、内針50の内腔52に加えて、外針30の内周面と内針50の外周面との間の隙間13やハブ40の外面とシールド20の内面との間の空間12も血液で満たされるので、プライミング作業を容易且つ迅速に行うことができる。
【0036】
また、外針30の第1側孔31は、密着領域33内に形成されているので、隙間13が血液で満たされても、穿刺の過程でその血液が第1側孔31から外界に漏れ出すことはない。
【0037】
外針30及び/又はシールド20が透明又は透光性を有していれば、穿刺による血液のフラッシュバックを目視にて確認することができる。
【0038】
その後、シールド20からストッパー70を引き抜き、これと同時に又はこれに続いて、シールド20からチューブ60を引っ張る。チューブ60の前端にはハブ40が接続されているので、チューブ60を引っ張ることによって、ハブ40及びこれに保持された内針50がシールド20に対して後方に移動する。
【0039】
シールド筒21の後端近傍の内周面には係止突起22が形成されている。ハブ40が係止突起22まで移動し、ハブ40の弾性片48の外面に形成されたテーパ面48bが係止突起22上を摺動する。このとき弾性片48は後部42側に弾性変形する。次いで、テーパ面48bが係止突起22を乗り越えると、弾性片48が弾性回復し、嵌合溝48aに係止突起22が嵌入する。嵌合溝48aと係止突起22とが嵌合したときの、シールド20に対するハブ40の位置を本発明では「後退位置」と呼ぶ。
【0040】
図6は、ハブ40が後退位置にある留置針装置10の斜視図である。図7Aは、図6の7A−7A線を含む面に沿った留置針装置10の矢視平面断面図であり、図7Bは、図6の7B−7B線を含む面に沿った留置針装置10の矢視側面断面図である。
【0041】
図7A及び図7Bに示されているように、ハブ40が後退位置にあるとき、ハブ40の嵌合溝48a(図3A、図3B、図3Cを参照)とシールド筒21の係止突起22とが嵌合している。また、ハブ40に保持された内針50は外針30から抜き去られ、シールド20の内腔内に収納されている。
【0042】
この状態で翼29a,29bの上から粘着テープを患者の皮膚に貼り付け、留置針装置10を患者に固定する。外針30のみが患者に穿刺された状態で留置される。
【0043】
初期位置(図1、図2A及び図2B参照)に比べると、後退位置では、外針30内の流路の断面積は内針50の断面積分だけ増大するので、血液の流量が増大する。また、後退位置では、外針30からチューブ60に至る流路としては、内針50の内腔52及びハブ40の縦貫路43を順に通る第1流路と、シールド20の内面と内針50及びハブ40の各外面との間の空間12、ハブ40の横貫路47、及びハブ40の縦貫路43を順に通る第2流路の2つがあるので、大きな流量で血液を流すことができる。
【0044】
後退位置では、柔軟な外針30内に硬質の内針50が存在しないので、患者が動くなどにより、患者に対する留置針装置10の姿勢が仮に変化しても、外針30が患者の血管等を傷付けることはない。
【0045】
外針30の先端近傍に第1側孔31が形成されているので、外針30の先端の開口が血管の内壁に接触して塞がっても、血液は第1側孔31を通じて流れることができる。従って、常に血液の流路が確保され、血液流量の低下を防ぐことができる。
【0046】
必要な処置が終了すると、翼29a,29bを固定する粘着テープを患者から剥がし、外針30を患者から引き抜く。シールド20に対してチューブ60を押し引きしても、ハブ40の嵌合溝48aとシールド筒21の係止突起22との嵌合状態は解除されない。即ち、内針50を外針30の先端から再度突出させたり、ハブ40とともに外針30をシールド20から引き抜いたりすることはできない。従って、硬質の内針50を誤って穿刺したり、使用済みの留置針装置10を誤って再使用したりするのを防止している。使用済みの留置針装置10は廃棄される。
【0047】
上記の実施形態は例示であって、本発明は上記の実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
【0048】
例えば、上記の本実施形態では、第1側孔31の数は2であったが、本発明はこれに限定されず、1つでも又は3つ以上であってもよい。第1側孔31の形状、寸法、周方向の配置位置なども特に制限はない。但し、第1側孔31は、密着領域33内に形成されており、且つ、密着領域33よりもシールド20側には形成されていないことが必要である。
【0049】
また、上記の実施形態では、第2側孔51の数は1であったが、本発明はこれに限定されず、2つ以上であってもよい。第2側孔51の形状、寸法、周方向の配置位置なども特に制限はない。但し、第2側孔51は、ハブ40が初期位置にあるときに、隙間13(図5参照)と連通できる位置に形成されている必要がある。ハブ40が初期位置にあるときに、第1側孔31と第2側孔51とが連通しなければ、第2側孔51の一部が密着領域33内に存在していてもよい。内針50と外針30との間の隙間13を血液で満たすプライミング作業の観点からは、ハブ40が初期位置にあるときに、第2側孔51は、密着領域33の近傍に設けられていることが好ましい。
【0050】
ハブ40を初期位置に保持することができれば、ストッパー70は上記実施形態以外の構成を有していてもよい。あるいは、ストッパー70を用いずに、例えば初期位置にあるハブ40をシールド20に嵌合させる嵌合構造をハブ40及びシールド20に設けてもよい。
【0051】
後退位置にあるハブ40とシールド20との嵌合構造は、上記以外の構成を有していてもよい。あるいは、当該嵌合構造を省略してもよい。
【0052】
上記の説明では本発明の留置針装置を血液透析に用いたが、本発明の留置針装置の用途はこれに限定されず、輸液や輸血等の留置針装置が使用される任意の用途に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の利用分野は特に制限はなく、輸液、輸血、体外血液循環などの処置を行う際の留置針装置として広範囲に利用することができる。中でも、血液透析用の留置針装置として好ましく利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 留置針装置
13 内針の外周面と外針の内周面との間の隙間
20 シールド
21 シールド筒
25 外ハブ
30 外針
31 第1側孔
33 密着領域
40 ハブ
50 内針
51 第2側孔
60 チューブ
70 ストッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内腔を有するシールドと、
前記シールドの前端に固定された軟質の外針と、
前記シールドの前記内腔内に配置され、前記シールドの長手方向に移動可能なハブと、
前記ハブの前端に固定された内針とを備え、
前記ハブが前記シールドの前記内腔の前端側に位置し且つ前記内針が前記外針を貫通して前記外針の先端から外部に突出する初期位置と、前記ハブが前記シールドの前記内腔の後端側に位置し且つ前記内針が前記シールドの前記内腔内に収納される後退位置とに前記ハブが変位する留置針装置であって、
前記外針に、その外周面を貫通する第1側孔が形成されており、
前記内針に、その外周面を貫通する第2側孔が形成されており、
前記ハブが前記初期位置にあるとき、前記外針の前記第1側孔を含む領域の内周面が前記内針の外周面に密着し、前記第2側孔は前記外針の前記内周面と前記内針の前記外周面とが密着した領域よりも前記ハブ側に位置することを特徴とする留置針装置。
【請求項2】
前記ハブが前記初期位置にあるとき、前記外針の前記内周面と前記内針の前記外周面とが密着した前記領域よりも前記シールド側に、前記外針の内周面と前記内針の外周面との間に隙間が形成され、前記第2側孔は、前記隙間を介して前記ハブの外面と前記シールドの内面との間の空間と連通する請求項1に記載の留置針装置。
【請求項3】
前記ハブが前記初期位置にあるとき、前記第1側孔は前記第2側孔と連通しない請求項1に記載の留置針装置。
【請求項4】
前記ハブが前記初期位置にあるとき、前記外針の前記内周面と前記内針の前記外周面とが密着した前記領域よりも前記シールド側に、前記外針の内周面と前記内針の外周面との間に隙間が形成され、前記第1側孔は前記隙間と連通しない請求項1に記載の留置針装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−251081(P2011−251081A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128778(P2010−128778)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】