説明

畜糞炭化物からのリン回収方法及びリン回収システム

【課題】炭化物製造装置において畜糞炭化物から効率良くリンを回収する畜糞炭化物からのリン回収方法及びリン回収システムを提供すること。
【解決手段】畜糞を加熱することによって炭化物を生成する炭化物生成工程2と、その炭化物生成工程2で得られた高温の炭化物を冷却水に漬けて冷却する冷却工程3とを経て炭化物を製造する場合において、その冷却工程3が炭化物を冷却水に漬けて所定時間攪拌する攪拌冷却工程であり、攪拌冷却工程3と、攪拌冷却工程3で攪拌した後の炭化物とその炭化物から溶出したリンを含むリン含有水とを分離する固液分離工程4と、固液分離工程4で分離されたリン含有水からリンを回収するリン回収工程6とを有する畜糞炭化物からのリン回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物である畜糞を加熱して生成された炭化物からリンを回収する方法及びシステムに関し、特に従来の炭化物の生成過程や製造装置に組み込まれた畜糞炭化物からのリン回収方法及びリン回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用肥料などとして重要な成分の一つであるリンは化学肥料などに含まれ、発展途上国ではそうした化学肥料の需要が増大してきている。しかし、リンはリン鉱石から作られているため、資源の枯渇が問題となってきており、リン鉱石の値段が高騰してきている。ところで、畜舎から排出される畜糞などの有機性廃棄物について、その有効利用を図るため炭化物の製造が行われているが、その炭化物の中にはリンが含まれている。そのため、リン不足に対する一解決手段として、炭化物などからリンを回収する方法が種々考えられている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、下水汚泥炭化物からのリン、アルミニウム、重金属の除去回収方法が開示されている。すなわち、炭化物に酸を加えて処理溶液を調製し、次いで該処理溶液にアルカリ金属の水酸化物、重炭酸塩、炭酸塩あるいはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩を加えてpHを4〜5に調整し、その後、処理溶液にアルカリ金属水酸化物、炭酸塩あるいはアルカリ土類金属水酸化物を加えてpHを9〜10に調整することにより、炭化物中のリンを除去、回収し、さらにアルミニウム、重金属を大幅に減少させる。
【0004】
一方、下記特許文献2には、畜糞の焼却灰からのリンの回収が記載されている。例えばpHを2以下の鉱酸水溶液を調整し、水酸化ナトリウムあるいは水酸化カルシウムを用いてpHを調整して鉄イオンを除去した後、更にそれらアルカリ水溶液と混合することにより、リンをヒドロキシアパタイト及び/又はリン酸水素カルシウムの無機リン化合物として選択的に凝集・沈澱させるリンの分離・回収方法である。
【特許文献1】特開2002−001259号公報
【特許文献2】特開2007−070217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、いずれの従来技術においてもリンの抽出には酸が使用され、その取り扱いなどに手間を要する。また、リンの回収が炭化物の製造などとは別に考えられているので、リン回収のための設備を別に必要するためコストがかかってしまう。一方、本出願人は、過去に炭化物製造装置について種々提案しているが、その中で効率良くリンの回収ができれば、設備投資に対するコストを抑えつつ、リン不足に対する問題解決にもなると考えられる。また、特許文献2に記載する焼却と比較すると、炭化は炭素を固定する効果を有し、炭化物は、リン抽出後でも微生物の繁殖を助長する優れた土壌改良剤として有効利用できる。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、炭化物製造装置において畜糞炭化物から効率良くリンを回収する、畜糞炭化物からのリン回収方法及びリン回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る畜糞炭化物からのリン回収方法は、畜糞を加熱することによって炭化物を生成する炭化物生成工程と、その炭化物生成工程で得られた高温の炭化物を冷却水に漬けて冷却する冷却工程とを経て炭化物を製造する場合において、その冷却工程が前記炭化物を冷却水に漬けて所定時間攪拌する攪拌冷却工程であり、当該攪拌冷却工程と、当該攪拌冷却工程で攪拌した後の炭化物とその炭化物から溶出したリンを含むリン含有水とを分離する固液分離工程と、前記固液分離工程で分離されたリン含有水からリンを回収するリン回収工程とを有することを特徴とする。
また、本発明に係る畜糞炭化物からのリン回収方法は、前記固液分離工程で分離されたリン含有水を、リン濃度が所定値以上になるまで前記攪拌冷却工程に戻して循環させるようにしたものであることが好ましい。
【0008】
本発明に係る畜糞炭化物からのリン回収システムは、畜糞を加熱して炭化物を生成するための炭化生成部と、その炭化生成部で得られた炭化物を冷却水に漬けて冷却する冷却部とを有する炭化物製造装置に組み込まれたものであって、前記冷却部は、前記炭化生成部で生成された炭化物を冷却水に漬けて所定時間攪拌する攪拌冷却手段であり、前記攪拌冷却手段で攪拌した後の炭化物とその炭化物から溶出したリンを含むリン含有水とを分離する固液分離手段と、前記固液分離手段で分離されたリン含有水からリンを回収するリン回収手段とを有するものであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る畜糞炭化物からのリン回収システムは、前記固液分離手段で分離されたリン含有水を、リン濃度が所定値以上になるまで前記攪拌冷却手段に戻して循環させるようにしたものであることが好ましい。
また、本発明に係る畜糞炭化物からのリン回収システムは、前記固液分離手段で分離された炭化物を乾燥する乾燥手段を有し、その乾燥手段で前記炭化物を乾燥する加熱空気を、前記炭化物から排出された排ガスの熱によってつくり出す熱交換手段を有するものであることが好ましい。
また、本発明に係る畜糞炭化物からのリン回収システムは、前記リン回収手段によってリン含有水からリンを回収して残った処理水を使用し、前記炭化物製造装置から排出された排ガスを冷却するガス冷却手段を有するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
よって、本発明によれば、従来の炭化物製造装置で行われる炭化物の冷却工程において、炭化物を冷却水に漬けて冷却するとともに攪拌することで、その冷却水へ炭化物に含まれるリンを溶出させ、そうしたリン含有水からリンを回収することによって畜糞炭化物から効率良くリンを回収することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明に係る畜糞炭化物からのリン回収方法及びリン回収システムについて、その一実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。本実施形態における畜糞炭化物からのリン回収システムは、例えば鶏舎から排出される鶏糞を乾燥後、それらを加熱によって炭化することで炭化物を生成する炭化物製造装置に組み込まれたものであり、炭化物製造の過程でリンを回収するようにしたものである。
【0012】
図1は、炭化物製造装置における炭化物や排ガスなどの流れを概略的に示したブロック図である。被炭化物は、畜糞などであって水分を含んでいるので、炭化炉2に送り込む前に水分除去を行うための乾燥機1を有し、その二次側に炭化炉2が設けられている。従って、被炭化物は、乾燥機1で水分除去が行われた後に、炭化炉2へと送り込まれる。炭化炉2は、例えば炉内を貫通する多段スクリューコンベアによって被炭化物を搬送しながら加熱するものであって、加熱された被炭化物が徐々に炭化して、炉内を通り過ぎるころに炭化物が生成される。
【0013】
炭化炉2を通ってできた炭化物は約250℃〜450℃の高温なので、そのまま外気に触れたのでは発火して燃えてしまうことから、最終製品とするには一定温度にまで冷やす必要がある。そのため、高温の炭化物を冷却工程を通すことにより、外気に触れても発火しない温度までの冷却が行われる。本実施形態では、こうした冷却工程において炭化物に含まれるリンの回収を行うようにした。すなわち、従来の炭化物製造装置でも炭化物を冷やすために冷却水をかけた冷却処理が行われているが、本実施形態の冷却工程では炭化物を冷却水に漬けることにより、リンをその冷却水の中に溶出させることとした。
【0014】
ところで、前記従来例でも炭化物からリンを回収する方法が開示され、その従来方法では溶媒として酸が使用されていた。しかし、本実施形態では、これまでの炭化システムを変えることなく、リンを回収する溶媒として冷却水を使用することを考えた。そこで、鶏糞の炭化物からのリンの回収を他の溶媒と比較してみた。図2は、溶媒を変えて炭化物から溶出したリンの濃度を測定したものである。溶媒には、強酸(HCl)、弱酸(CH3COOH)、水(蒸留水)そしてアルカリ(NaOH)が使用され、各溶媒のpHは、強酸が0.47、弱酸が2.3、水が5.8そしてアルカリが13である。
【0015】
こうした溶媒中に炭化物を入れ、攪拌することによってリン濃度を確認した。この場合、攪拌時間は1時間、攪拌温度は室温の25℃とし、攪拌時の回転数を700rpmとして行った。その結果、攪拌後の各溶媒中のリン濃度は、強酸では1.5(g/l)、弱酸では1.2(g/l)、水(蒸留水)では0.73(g/l)そしてアルカリでは0.095(g/l)であった。従って、溶媒が酸性に傾くほどリン濃度の値が大きく、リンの回収に効果が高いが、水であってもリンが溶出し、リンの回収に効果のあることが分かった。
【0016】
また、何れの溶媒の場合でも、攪拌時間が長い程炭化物からリンが溶け出してリン濃度の値が大きくなるが、所定時間を超えると溶媒へのリンの溶出が低下してリン濃度の増加が見られなくなった。そして、攪拌温度によるリン濃度の比較を行ったところ、攪拌温度が高くなるほどリン濃度の値が大きくなることが分かった。そこで、本実施形態では、冷却工程に攪拌冷却槽3を設け、そこに炭化炉2で生成されたリンを含む炭化物を投入し、所定時間攪拌することで、炭化物の冷却とともに炭化物の保有熱によって温度上昇した高温水によるリンの回収を行うようにした。なお、溶媒には常温の工業用水がそのまま使用されるが、攪拌時間や攪拌スピード或いは攪拌方法、そして溶媒となる水の種類や温度は適宜変更可能である。
【0017】
次に、こうした攪拌冷却槽3の二次側には固液分離器4が設けられており、炭化物と、その炭化物から溶出したリンを含むリン含有水との固液分離工程が行われるようになっている。そして、その炭化物が最終的には炭化製品として回収されるが、水分を含んでいるため更に乾燥機5へと送られ、そこで水が除去が行われる。その際、炭化物を乾燥させるための熱には、炭化炉2から排出される排ガスの熱が利用される。
【0018】
炭化炉2に対しては、その炭化炉内で発生した高温ガスを浄化処理するための再燃焼炉7が設けられている。そして、その再燃焼炉7で処理された排ガスの温度は約800℃ほどの高温であるため、さらに浄化するには温度を下げる必要があり、再燃焼炉7には排ガスを冷却する熱交換器8が接続されている。更に、そうした熱交換器8の二次側には、排ガス中の灰などを取り除くバグフィルタ10と、その前段にあってバグフィルタを保護するために排ガスを更に冷却する冷却塔9が接続され、最終的に煙突11から浄化されたガスが放出されるようになっている。そして、本実施形態では、この排ガス処理に用いられている熱交換器8を利用して乾燥機5の熱風をつくりだすようにしている。
【0019】
熱交換器8と乾燥機5との間では空気が循環するように構成されている。従って、乾燥機5内では、炭化物中の水分が加熱空気によって蒸発し、その蒸気を含んで温度を下げた空気が熱交換器8へと送られる。熱交換器8では、炭化炉の排ガスから熱エネルギを受け取った空気が加熱され、再び乾燥機5へと送り込まれる。こうして炭化物を乾燥させる加熱空気が熱交換器8を通して乾燥機5へと送り込まれ、その乾燥機5で水分が除去された炭化物が炭化製品となる。
【0020】
一方、固液分離器4で分離されたリン含有水は、一定のリン濃度になるまで攪拌冷却槽3へ送られる循環が繰り返され、炭化物の攪拌に使用される。そして、リン濃度が一定値を超えたリン含有水が次の脱リン装置6へと送り込まれる。なお、リン含有水の脱リン装置6へ送るタイミングは、例えば、攪拌冷却槽3で所定時間行われる1回の攪拌冷却工程ごとにリン含有水の循環を行う場合に、その循環回数をカウントし、一定数以上でリン濃度が一定値を超えるものとして脱リン装置6へと送ることとする。
【0021】
脱リン装置6では、リン含有水のリンをMAP(リン酸マグネシウムアンモニウム)として晶析させることによって脱リン処理を行う。脱リン装置6では、例えば、MAPの沈降分離部と反応部とを上下に配置し、マグネシウムイオン源を供給する手段を設けたものである。リンやアンモニア、マグネシウムの各モル濃度を掛け合わせた濃度がMAPの溶解度積以上となるように操作し、リン含有水のリンに対して、アンモニア、マグネシウムが等モル、あるいはそれ以上存在するようにしてMAPペレットを成長させ、所定粒径のMAPペレットを装置底部から排出してリン資源を回収する。一方、脱リン装置6からはリンが除去された処理水が得られるが、その一部は冷却塔9へと送られて排ガスを冷却するための噴霧水として利用され、残りは放流される。
【0022】
よって、本実施形態では、従来の炭化物製造装置を構成する冷却部をリンを回収するための攪拌冷却槽3としたことにより、鶏糞などの畜糞から炭化製品を製造する過程でリンを同時に回収することができ、畜糞炭化物から効率良くリンを回収することができるようになった。また、リンの回収には、炭化物製造装置を構成する従来の機器に対し、攪拌冷却槽3の他、固液分離器4、乾燥機5及び脱リン装置6が設けられている。その際、攪拌冷却槽3は、前述した冷却部を構成するものであり、乾燥機5は、排ガスの熱を利用して乾燥を行うものであって、リン回収システムが炭化物製造装置内に組み込まれ、コストを抑えた構成になっている。
【0023】
以上、本発明に係る畜糞炭化物からのリン回収方法及びリン回収システムについて実施形態を示したが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では鶏糞を例に挙げて説明したが、牛糞や豚糞など他の家畜による畜糞であってもよい。
また、冷却水による炭化物の冷却およびリンの溶出手段としてメッシュコンベア上での冷却水のシャワーリングであってもよい。
更に、前記実施形態では、リンの回収についてMAPとして回収する方法を説明したが、HAP(ヒドロキシアパタイト)として回収する方法でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】炭化物製造装置における炭化物や排ガスなどの流れを概略的に示したブロック図である。
【図2】炭化物から溶出するリンの濃度を各溶媒について示したものである。
【符号の説明】
【0025】
1 乾燥機
2 炭化炉
3 攪拌冷却槽
4 固液分離器
5 乾燥機
6 脱リン装置
7 再燃焼炉
8 熱交換器
9 冷却塔
10 バグフィルタ
11 煙突

【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜糞を加熱することによって炭化物を生成する炭化物生成工程と、その炭化物生成工程で得られた高温の炭化物を冷却水に漬けて冷却する冷却工程とを経て炭化物を製造する場合において、その冷却工程が前記炭化物を冷却水に漬けて所定時間攪拌する攪拌冷却工程であり、
当該攪拌冷却工程と、当該攪拌冷却工程で攪拌した後の炭化物とその炭化物から溶出したリンを含むリン含有水とを分離する固液分離工程と、前記固液分離工程で分離されたリン含有水からリンを回収するリン回収工程とを有することを特徴とする畜糞炭化物からのリン回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載する畜糞炭化物からのリン回収方法において、
前記固液分離工程で分離されたリン含有水を、リン濃度が所定値以上になるまで前記攪拌冷却工程に戻して循環させるようにしたことを特徴とする畜糞炭化物からのリン回収方法。
【請求項3】
畜糞を加熱して炭化物を生成するための炭化生成部と、その炭化生成部で得られた炭化物を冷却水に漬けて冷却する冷却部とを有する炭化物製造装置に組み込まれた、畜糞炭化物からのリン回収システムであり、
前記冷却部は、前記炭化生成部で生成された炭化物を冷却水に漬けて所定時間攪拌する攪拌冷却手段であり、前記攪拌冷却手段で攪拌した後の炭化物とその炭化物から溶出したリンを含むリン含有水とを分離する固液分離手段と、前記固液分離手段で分離されたリン含有水からリンを回収するリン回収手段とを有するものであることを特徴とする畜糞炭化物からのリン回収システム。
【請求項4】
請求項3に記載する畜糞炭化物からのリン回収システムにおいて、
前記固液分離手段で分離されたリン含有水を、リン濃度が所定値以上になるまで前記攪拌冷却手段に戻して循環させるようにしたものであることを特徴とする畜糞炭化物からのリン回収システム。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載する畜糞炭化物からのリン回収システムにおいて、
前記固液分離手段で分離された炭化物を乾燥する乾燥手段を有し、その乾燥手段で前記炭化物を乾燥する加熱空気を、前記炭化物から排出された排ガスの熱によってつくり出す熱交換手段を有するものであることを特徴とする畜糞炭化物からのリン回収システム。
【請求項6】
請求項3乃至請求項5のいずれかに記載する畜糞炭化物からのリン回収システムにおいて、
前記リン回収手段によってリン含有水からリンを回収して残った処理水を使用し、前記炭化物製造装置から排出された排ガスを冷却するガス冷却手段を有するものであることを特徴とする畜糞炭化物からのリン回収システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−143808(P2010−143808A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324961(P2008−324961)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】