説明

異形断面条の製造方法及びその製造方法により製造されたLEDチップ搭載用異形断面条

【課題】材料ロスにより歩留まり低下させることがなく、設備費の増大等を招くことがなく、ハーフエッチング或いはプレス加工等の加工に頼ることなしに、LEDチップ等がチップオンボードできる薄型で寸法精度の良好な異形断面条を提供する。
【解決手段】複数の大径部3と小径部4とが交互に並んだ段付きロール1と、段付きロール1と平行に配置した平ロール2との間で平板状素材5を圧延するに際し、平板状素材5の幅方向の両端部に、段付きロール1の小径部4により厚肉部7を形成しつつ、小径部4から突出する凸条部12により厚肉部7の端縁部の少なくとも一部を幅方向の内方に向けて押圧加工し、厚肉部の端縁部を押圧加工して形成される端縁溝部により残る厚さが、厚肉部の厚さをTとするとき、0.3×T〜0.95×Tの範囲内に設定され、薄肉部の厚さが0.20mm以下、寸法精度が±0.010mm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んで形成された薄くて寸法精度の良好な異形断面条を製造する方法、および、その製造方法により製造されたLEDチップ搭載用の基板に適した異形断面銅合金条に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、例えば、LEDやパワートランジスタ等のリードフレームや基板に、銅合金等の金属からなる異形断面条が用いられている。この異形断面条を製造する場合、一組のロールの一方を複数の大径部と小径部とが交互に並べられた段付きロールとし、他方を平ロールとして、これらロールの間に平板状素材を送り込んで圧延することにより、大径部によって成形される薄肉部と小径部によって成形される厚肉部とを有する異形断面条が製造される。
このような異形断面条の成形において、大径部の両側面は適宜角度の傾斜面とされている。この場合、この傾斜面と小径部表面との間の角部に材料が十分に充満する必要があるが、幅方向の両端部(条の両側部)では、材料が自由端である端縁に流れ易いため、その端縁に近い位置の厚肉部では、ロールの小径部の表面と大径部の傾斜面とのなす形状と一致せず、幅方向の中央部の厚肉部に比べ、角部がだれた形状になり易いという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、特許文献1、特許文献2記載の技術がある。
特許文献1記載の技術は、複数個の大径部を同じ断面形状で並べた段付きロールとし、幅方向の最も両端位置に、中央部の厚肉部とその両側の薄肉部との間の傾斜面と同じ角度の傾斜面で薄肉部から連続する端部側厚肉部を形成することにより、この端部側厚肉部では材料の充満が不十分となるが、製品となる中央部の厚肉部では十分に材料を充満させることができるようにしている。
また、特許文献2に記載の技術では、ロールの幅方向の両端部に、材料のメタルフローを規制するために、端部側の厚肉部の断面積を中央部の厚肉部の断面積のほぼ1/2とする位置に、薄肉部形成用の凸条部(大径部)よりも高いメタルフロー規制用凸条部と、このメタルフロー規制用凸条部に対応する凹条部とを配置することにより、このメタルフロー規制用凸条部と凹条部との間では圧延が行われないようにして、材料の流れ込みが生じないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−328153号公報
【特許文献2】特開平7−39979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の技術では、端部側厚肉部は材料が十分に充満しないため使用できない部分であり、その分、材料にロスが生じて歩留まりが悪い。また、特許文献2記載の技術も、メタルフロー規制用凸条部と凹条部とで成形した部分は、使用に供される部分ではないため、特許文献1記載の技術と同様に、材料ロスとなって歩留まりを低下させるとともに、メタルフローを生じさせないように成形することが難しく、また、二つのロールともが段付き形状となるため、設備費がかさむ問題も生じていた。
更に、このような銅条材を段付きロールにて異形断面状に加工する製造方法では、異形断面条材の厚みが薄くなるにしたがって加工の寸法精度が低下し、厚肉部で0.80mm以下、薄肉部で0.20mm以下の厚みを有する薄型の異形断面条を±0.010mm以下の寸法精度にて形成することは技術的に困難であった。
【0006】
最近では、発光ダイオードを用いたLEDランプの更なる進化に伴い、基板(ボード)の上に複数のLEDチップを搭載し、樹脂層により被覆したチップオンボード(COB)タイプのものが開発されており、この様なチップオンボードに使用される基板には、熱伝導性、プレス加工性、導電性、機械的強度とのバランスが取れた薄型(厚肉部で0.80mm以下、薄肉部で0.20mm以下の厚み)の異形断面の銅合金条、或いは、その最表面に光沢、耐熱性、接触抵抗性を付与するめっき処理が施された異形断面の銅合金条が使用されている。
この様な薄型のチップオンボードタイプの異形断面の銅合金条を、従来の異形断面条の製造方法にて寸法精度良く製造するのは非常に難しく、平薄銅板をハーフエッチング或いはプレス加工して凸凹をつけて異形断面を有する条材としており、加工の手間がかかり、製造コストも高くなっていた。
【0007】
本発明は、材料ロスにより歩留まり低下させることがなく、設備費の増大等を招くことがなく、ハーフエッチング或いはプレス加工等の加工に頼ることなしに、LEDチップ等がチップオンボードできる薄型で寸法精度の良好な異形断面条を製造する方法、及び、その製造方法により製造されたLEDチップ搭載用の基板に適した異形断面銅合金条を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来の異形断面条の製造技術は、製品部の外側に、製品部と同じ形状の端部側厚肉部を付加し(特許文献1)、あるいはメタルフロー規制用凸条部と凹条部とで成形される部分を付加(特許文献2)することにより、製品部には充満不十分となる部分を発生させないようにしたものであり、製品部以外に付加する部分があるため、材料ロスの発生は避けられなかった。
本発明者らは、鋭意検討の結果、厚肉部が充満不十分となるのは、材料が幅方向の両端方向に逃げるようにメタルフローするからであり、これを解決するために、逃げる分に対応して、材料を逆に両端部から厚肉部に寄せるように流動させてやれば、厚肉部のだれを防止できると考えた。
【0009】
本発明の異形断面条の製造方法は、複数の大径部と小径部とが交互に並んだ段付きロールと、該段付きロールと平行に配置した平ロールとの間で平板状素材を圧延して、複数の厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面条を製造する方法であって、前記段付きロールと平ロールとの間で前記平板状素材を圧延するに際し、該平板状素材の幅方向の両端部に、前記段付きロールの小径部により厚肉部を形成しつつ、該小径部から突出する凸条部により前記厚肉部の端縁部の少なくとも一部を幅方向の内方に向けて押圧加工し、前記厚肉部の端縁部を押圧加工して形成される端縁溝部により残る部分の厚さが、該厚肉部の厚さをTmmとするとき、0.3×Tmm〜0.95×Tmmの範囲内に設定され、前記薄肉部の厚さが0.20mm以下、厚さの寸法精度が±0.010mm以下とされる異形断面条を製造することを特徴とする。
【0010】
この異形断面条では、幅方向の両端部に位置する厚肉部とその内側に隣接する薄肉部との間の段差部において、厚肉部の上面と側面との間の角部(当該厚肉部における条の幅方向内方側の端部)の欠肉を避けるため、厚肉部の端縁部の少なくとも一部を幅方向の内方に向けて押圧加工して、該厚肉部の端縁部から幅方向内方側の角部に向けて材料を寄せるようにメタルフローを生じさせることにより、その部分の欠肉を防止する。
【0011】
更に、厚肉部の端縁部を押圧加工することにより、その部分には溝部が形成されるが、この端縁溝部により残る部分の厚さを厚肉部の厚さTmmに対して0.3×Tmm〜0.95×Tmmの範囲とすることにより、その部分の材料を上記角部に向けて有効にフローさせることが可能となる。
端縁溝部により残る部分の厚さが0.3×Tmm未満では、薄肉部に変形が生じ易く、0.95×Tmmを超えてもメタルフローが十分ではなく、加工の寸法精度が悪くなる。
また、本発明の異形断面条の製造方法においても、異形断面条の厚肉部の厚さで0.2mm、薄肉部の厚さで0.1mmが寸法精度良く(±0.010mm以下)加工できる厚さ及び幅の限度であり、これら未満の厚さでは寸法精度が悪くなり、割れや変形が生じ易くなる。
このような製造方法とすることにより、ハーフエッチング或いはプレス加工等の加工なしに、厚肉部と薄肉部とを有する薄型で寸法精度の良好な異形断面条を製造することができる。
【0012】
更に、本発明のLEDチップ搭載用異形断面条は、本発明の製造方法により製造された異形断面条であって、前記厚肉部の上面にLEDチップが搭載される凹部を有することを特徴とする。
厚肉部の上面にエッチング或いはプレス加工等にて適当な凹部を有する異形断面条を得ることにより、多様なバリュエーションを有するLEDランプに対応可能となる。
【0013】
また、本発明のLEDチップ搭載用異形断面条は、本発明の製造方法により製造された異形断面条であって、表面に光沢度が80%以上であるめっき層が形成されていること特徴とする
この様なチップオンボードに使用される基板としては、熱伝導性、プレス加工性、導電性、機械的強度とのバランスが取れた薄型(厚肉部で0.8mm以下、薄肉部で0.2mm以下の厚み)の異形断面の銅合金条、或いは、その最表面に光沢、耐熱性、接触抵抗性を付与するめっき処理が施された異形断面の銅合金条が好適であり、その表面に付与されるめっきは、特にLEDランプとして光の良好な反射性を得る観点から、光沢度が80%以上であることが好ましい。光沢度が120%を超えると効果が飽和し、コスト面で無駄となる傾向が見られる。
【0014】
更に、めっき処理により、複数のめっき層が異形断面の銅合金条の表面に施されていても良く、その最外層に厚みが0.01〜2.0μmで光沢度が80〜120%である、Sn−Ag、Sn−Ag−Au、Sn−Au、Sn−Pt、Ni−Au、Ni−Ag、Ni−Pd、或いは、Ni−Ptめっきが施されていることが特に好ましい。
また、LEDチップ搭載用の異形断面条は、本発明の製造方法により製造された異形断面条であって、前記厚肉部の上面に凹部を有し、表面に光沢度が80%以上であるめっき層が形成されていることを特徴とする。
この様なチップオンボードに使用される基板としては、熱伝導性、プレス加工性、導電性、機械的強度とのバランスが取れた薄型(厚肉部で0.80mm以下、薄肉部で0.20mm以下の厚み)の異形断面の銅合金条、或いは、その最表面に光沢、耐熱性、接触抵抗性を付与するめっき処理が施された異形断面の銅合金条が好適であり、その最表面に付与されるめっきは、特にLEDランプとして光の良好な反射性を得る観点から、光沢度が80%以上であることが好ましい。光沢度が120%を超えると効果が飽和しコスト面で無駄となる傾向が見られる。
【0015】
また、LEDチップ搭載用異形断面条は、本発明の製造方法により製造された異形断面条であって、前記厚肉部の上面に凹部を有し、表面に光沢度が80%以上であるめっき層が形成されていること特徴とする。
厚肉部内にエッチング或いはプレス加工等にて適当な凹部を有する異形断面条により、複雑な形状の多様なバリュエーションを有するLEDランプに対応することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、材料ロスにより歩留まりを低下させることがなく、設備費の増大等を招くことがなく、ハーフエッチング或いはプレス加工等の加工に頼ることなしに、LEDチップ等がチップオンボードできる薄型で寸法精度の良好な異形断面条を製造する方法、及び、その製造方法により製造されたLEDチップ搭載用の基板に適した異形断面銅合金条を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る異形断面条の製造方法の一実施形態において用いられる段付きロールと平ロールとの間で平板状素材を圧延している状態を示す斜視図である。
【図2】図1の段付きロールと平ロールとの圧延部分を示す縦断面図である。
【図3】図1の段付きロールの正面図である。
【図4】一実施形態の方法で製造された異形断面条の縦断面図であり、(a)が圧延後の状態、(b)が圧延後に両端縁部を切り落とした状態を示す。
【図5】一実施形態の方法で製造された異形断面条の変形例であり、厚肉部の上面に凹部を有する異形断面条の縦断面図である。
【図6】一実施形態の方法で製造された異形断面条のさらなる変形例であり、表面にめっき処理が施された異形断面条の縦断面図である。
【図7】段付きロールの凸条部についての変形例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明の実施形態につき図を参照に説明する。
本実施形態では、図1に示す製造装置を使用することが好ましい。
この製造装置は、図1に示すように、段付きロール1と平ロール2とを備えている。段付きロール1は、半径R1とされた複数の大径部3と、半径R2とされた複数の小径部4とが幅方向に交互に並んだ形状とされ、平ロール2は、幅方向にわたって均一な半径R3とされることにより、外周面が凹凸のない平坦な円周面とされている。これら両ロール1,2は、その間に間隙を開けて両軸線P1,P2を平行にして配置され、図示略の駆動機構によって回転駆動される構成とされている。
そして、これら段付きロール1と平ロール2との間に平板状素材5を通すことにより、段付きロール1の大径部3と小径部4とに対応して、薄肉部6と厚肉部7とが幅方向に並んだ異形断面条8が形成されるようになっている。
【0019】
段付きロール1は、図示例では3個の大径部3が小径部4を介して幅方向に並んで配置され、両端部が小径部4とされている。各大径部3は、その外周面が軸線P1方向に平行に形成され、図2及び図3に示すように、両側面11が半径内方に向かうにしたがって漸次大径部3の幅を大きくするように半径方向に対して所定の角度θ1で傾斜した傾斜面とされ、また、小径部4は、その外周面が軸線P1方向に平行に形成されている。したがって、小径部4の外周面と大径部3の側面11との間の角部のなす角度は90°よりも大きく、また、大径部3の外周面と側面11との間の角部のなす角度も90°より大きく形成されており、大径部3は台形状の断面となるように形成されている。さらに、大径部3の外周面と側面11との間は例えば0.05〜0.2mmの曲率半径r1で面取り加工されている。
【0020】
また、この段付きロール1の両端部の小径部4には、大径部3の半径R1より小さいが小径部4の半径R2より大きい半径R4を有し、小径部4から若干の高さで突出する凸条部12が形成されている。この凸条部12は、平板状素材5の幅方向両端部に形成される厚肉部7の端縁部を押圧加工するようになっている。
この場合、凸条部12は、段付きロール1の幅方向内方に位置する側縁部で平板状素材5を押圧加工するようになっており、その部分の側面13は、半径方向内方に向かうにしたがって隣接する大径部3の側面11に近づくように、半径方向に対して所定の角度θ2で傾斜した傾斜面とされ、この側面13と外周面との間の角度が90°よりも大きく形成されている。また、その傾斜面13と外周面との間は0.1〜0.2mmの曲率半径r2で面取り加工されている。
なお、大径部3の側面11の角度θ1、凸条部12の側面13の角度θ2は、特に限定するものではないが、5〜60°が好適であり、その角度範囲内で、両方を同じ角度としてもよいし、異なる角度に設定してもよい。
【0021】
次に、このように構成した製造装置によって平板状素材5から異形断面条8を製造する方法について説明する。
平板状素材5は、銅を97.0質量%以上含有し、Fe,P,Mg,Zn,Si,Ni,Sn,Zr等の金属を少なくとも一種以上含み、他が不可避不純物である組成の厚さ0.3〜1.0mm銅合金条を用途に応じて適宜選択することが好ましい。
具体的には、三菱伸銅(株)製の商品名OFC、TC、C151、TAMAC194、TAMAC4、TAMAC2、DC1B、ZC、MZC1等の銅合金条である。
特に、強度と導電率のバランスの優れた、Cu−Fe−P系のTAMAC194、TAMAC4、TAMAC2、或いは、Cu−Zr系のZC、MZC1を適用するのが好ましい。
図1に示すように、段付きロール1と平ロール2との間に平板状素材5を通過させて圧延すると、段付きロール1の大径部3によって薄肉部6が形成され、小径部4によって厚肉部7が形成され、これら薄肉部6と厚肉部7とが幅方向に交互に並んだ異形断面条8が形成される。
【0022】
この場合、図2に示すように、平ロール2の上で段付きロール1の大径部3によって平板状素材5が圧縮されることにより、この平板状素材5が異形断面条8に変形される過程で、大径部3に押圧される部分には破線矢印に示すようにメタルフローが生じる。このうち、大径部3の外周面で押圧される部分では、この大径部3の外周面と平ロール2との間の薄い部分から、隣接する小径部4と平ロール2との間の厚い部分へ回り込むように材料が流動し、また、大径部3の側面11で押圧される部分では、この側面11が傾斜面であることから、この大径部3に小径部4を介して隣接する他方の大径部3に向けて材料が流動する。このようなメタルフローにおいて、小径部4の両側に大径部3が配置されている部分、例えば図2の右側半分の部分では、両大径部3の間で、その一方の大径部3から他方の大径部3に向けて材料が相互に押圧されるので、大径部3と小径部4との間で形成される溝状部分に緊密に材料が充満して、精度よく厚肉部7を形成することができる。
【0023】
一方、段付きロール1の両端部に位置する小径部4の部分(図2の左側半分の部分)では、その内側の大径部3の側面11によって材料が押圧されるので、凸条部12がなければ外側に材料が逃げてしまい、大径部3と小径部4との間に鎖線で示すような欠肉部Aが生じることになるが、凸条部12が平板状素材5の端縁部を押圧することにより、図2に実線矢印で示したように、この凸条部12の外周面と平ロール2との間で材料が、小径部4と平ロール2との間に回り込むように流動し、また、凸条部12の内側の側面13は傾斜面であるので、この側面13が、小径部4を介して隣接する大径部3に向けて材料を押圧する。
【0024】
したがって、この幅方向の両端部では、段付きロール1の大径部3の側面11と小径部4の外周面との間に形成される角部にも緊密に材料が充満し、前述したような欠肉部Aの発生を確実に防止し、精度よく厚肉部7を形成することができる。
なお、この幅方向両端部の厚肉部7の端縁部には、凸条部12によって押圧加工されることにより、図4(a)に示すように若干窪んだ端縁溝部14が形成されるが、この端縁溝部14の部分は図4(b)に示すように切り落としてもよいし、0〜3mmの範囲で残しておいてもよい。
【0025】
このように、この製造方法によれば、異形断面条8の幅方向両端部に形成される厚肉部7の端縁部を凸条部12によって押圧して材料を内側に寄せるように加工するので、この厚肉部7の内側の角部に材料が緊密に充満して、高精度の異形断面条8を製造することができ、厚肉部7で0.80mm以下、薄肉部6で0.20mm以下の厚みで、その寸法精度が±0.010mm以下の薄型の異形断面条8とすることができる。厚肉部7の厚さで0.20mm、薄肉部6の厚さで0.10mmが寸法精度良く(±0.010mm以下)加工できる限度であり、これら未満の厚さでは寸法精度が悪くなり、割れや変形が生じ易くなる。
【0026】
特に、LEDチップが搭載される基板として使用する場合には、前述したFe;1.5〜2.6質量%、P;0.008〜0.08質量%およびZn;0.01〜0.5質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅合金条材において、段付きロール1と平ロール2とによる圧延加工した後に、LEDチップが搭載される部分以外の部分(樹脂がモールドされる部分)を表面処理剤によって粗化するとよい。そして、銅合金条材の表面より10μmまでの深さの範囲の結晶組織内のEBSD法にて測定したCube方位の方位密度が10〜20%であり、EBSD法にて測定した平均結晶粒径が12〜20μmであり、銅合金条材の表面が表面処理剤により粗化された部位の表面の最大高さRzが1.0〜2.0μmであり、粗化されていない部位の表面の算術平均粗さRaが0.02〜0.05μmで、最大高さRzが0.20〜0.40μmであり、二乗平均平方根粗さRqと最大高さRzの比Rq/Rzが0.10〜0.25である放熱性及び樹脂密着性に優れた銅合金条材を使用することが、特にLEDチップ搭載用として好ましい。
【0027】
図5は異形断面条の変形例を示している。この異形断面条31では、一実施形態の製造方法と同様に段付きロール1と平ロール2との圧延加工により製造された異形断面条の厚肉部7の上面に、若干の深さの凹部32が形成されている。この凹部32は、段付きロール1と平ロール2とによる圧延加工の後に、厚肉部7の上面部をエッチング或いはプレス加工等することにより形成される。
そして、その厚肉部7の凹部32内に鎖線で示すようにLEDチップLが固着される。
【0028】
また、図6は異形断面条のさらなる変形例を示している。この異形断面条35は、一実施形態の製造方法と同様に段付きロール1と平ロール2との圧延加工により製造された異形断面条の最表面に、光沢、耐熱性、接触抵抗性を付与するめっき処理が施されている。その最表面に付与されるめっき層36は、特にLEDランプとして光の良好な反射性を得る観点から、光沢度が80%以上であることが好ましく、光沢度が120%を超えると効果が飽和しコスト面で無駄となる傾向が見られる。
このめっき層36は、銀めっき層或いは錫めっき層など、一層からなるものでもよいが、複数のめっき層が異形断面条の表面に施されていても良く、その最外層に厚みが0.01〜2.0μmで光沢度が80〜120%である、Sn−Ag、Sn−Ag−Au、Sn−Au、Sn−Pt、Ni−Au、Ni−Ag、Ni−Pd、或いは、Ni−Ptからなる光沢めっき層が形成されていることが好ましい。
Sn−Agめっき層については、次の方法にて、下層となるSnめっき層上にAgSn合金層が形成されていることが特に好ましい。
先ず、電気化学還元法にてSnめっき層の表面の酸化膜を除去した後、その表面にシアン系化合物を使用した銀ストライクめっき法にてAgめっき層を形成する。電解処理液としては弱アルカリ電解脱脂液を使用する。
また、銀ストライクめっきの条件は、次の表1に示す通りである。
【0029】
【表1】

【0030】
ここで、シアン化銀カリウムの濃度は1g/L未満であると、Sn系めっき層に対して所望の面積被覆率が得られず、また8g/Lを超えると、Agめっき表面が粗くなるので、1〜8g/Lが好ましい。そして、この銀ストライクめっきにより形成されるAgめっき層の厚さは0.01〜0.5μmとする。この範囲のAgめっき層とすることにより、最終的なAgSn合金層を所望の膜厚とすることができる。
次に、このAgめっきした処理材に、ベンゾチアゾール化合物を含む水溶液中にて合金化及び変色防止処理を施す。その合金化及び変色防止処理の条件を次の表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
Agめっきした処理材をこの処理液に浸漬することにより、表面のAgとその下のSnとが相互拡散して合金化し、表面にAgSn合金層が形成される。また、このベンゾチアゾール処理液中に浸漬されることで、AgSn合金層の表面に疎水性保護膜が形成され、酸化及び変色が防止される。
【実施例】
【0033】
幅50mmで厚さ0.12mmの三菱伸銅(株)TAMAC194銅合金条(質量にてCu:97.0%以上、Fe:2.3%、P:0.03%、Zn:0.12%)を使用し、図1に示す製造装置を使用して、本発明の製造方法にて、幅方向両端部の端縁部の残厚tについて、厚肉部の厚さTに対する加工割合を表3の様に変えて、薄肉部の厚さが0.15mm、幅が4.0mm、厚肉部7の厚さが0.60mm、幅が1.0mmの異形断面条を製造し、各部の厚さの加工精度を測定した。その結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
また、薄肉部の厚さが0.09mm、幅が4.0mm、厚肉部7の厚さが0.15mm、幅が1.0mm異形断面条を、端縁溝部の深さを0.50Tにて製造したところ、異形断面条全体に微細なねじれ変形が生じ、加工精度は±0.18mmであった。
【0036】
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、凸条部12に、その側面13と外周面との間の角部を若干の曲率半径r2で面取りしたが、図7に示す段付きロール21の凸条部22のように、曲率半径r3をさらに大きくして、断面が凸円弧面となる側面23としてもよい。
要は、凸条部は、段付きロールの幅方向内方に向く側面が、その外周端から半径方向内方に向かうにしたがって隣接する大径部の側面に漸次近づく方向に傾斜している形状であればよく、平坦面、凸円弧面のいずれでもよい。
また、厚肉部と薄肉部との数や寸法等は図示例に限定されるものではなく、複数の厚肉部どうし、薄肉部どうしの厚さや幅をそれぞれ同じ寸法に設定してもよいし、それぞれ異なる寸法に設定したものとしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 段付きロール
2 平ロール
3 大径部
4 小径部
5 平板状素材
6 薄肉部
7 厚肉部
8 異形断面条
11 側面(傾斜面)
12 凸条部
13 側面(傾斜面)
14 溝状部
21 段付きロール
22 凸条部
23 側面(傾斜面)
31 異形断面条
32 凹部
35 異形断面条
36 めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の大径部と小径部とが交互に並んだ段付きロールと、該段付きロールと平行に配置した平ロールとの間で銅合金からなる平板状素材を圧延して、複数の厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面条を製造する方法であって、前記段付きロールと平ロールとの間で前記平板状素材を圧延するに際し、該平板状素材の幅方向の両端部に、前記段付きロールの小径部により厚肉部を形成しつつ、該小径部から突出する凸条部により前記厚肉部の端縁部の少なくとも一部を幅方向の内方に向けて押圧加工し、前記厚肉部の端縁部を押圧加工して形成される端縁溝部により残る厚さが、該厚肉部の厚さをTとするとき、0.3×T〜0.95×Tの範囲内に設定され、前記薄肉部の厚さが0.20mm以下、寸法精度が±0.010mm以下とされる異形断面条を製造することを特徴とする異形断面条の製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法により製造された異形断面条であって、前記厚肉部の上面にLEDチップが搭載される凹部を有することを特徴とするLEDチップ搭載用異形断面条。
【請求項3】
請求項1の製造方法により製造された異形断面条であって、表面に光沢度が80%以上であるめっき層が形成されていること特徴とするLEDチップ搭載用異形断面条
【請求項4】
請求項2に記載の異形断面条であり、その表面上に光沢度が80%以上であるめっき層が形成されていること特徴とするLEDチップ搭載用異形断面条。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−11394(P2012−11394A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147380(P2010−147380)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】