説明

異方導電性組成物

【課題】耐熱性に優れた接着層を被着体の微細領域に簡便に形成できる液状の異方導電性組成物を提供する。
【解決手段】(1)重量平均分子量が8000〜40000のエポキシ樹脂、(2)重量平均分子量が45000〜65000のフェノキシ樹脂、(3)ポリビニルブチラール樹脂、(4)イミダゾール化合物が封入されたマイクロカプセル、(5)導電性粒子及び(6)溶剤を含む異方導電性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方導電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネル、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレーパネル(PDP)等を構成する電子部品(回路基板、ICチップ等)同士を機械的及び電気的に接続させるために、従来より、フィルム状の異方導電性接着剤組成物(ACF:Anisotropic Conductive Film)やペースト状の異方導電性接着剤組成物(ACP:Anisotropic conductive Paste)が用いられている。ACFを積層したり、ACPを塗布することにより、電子部品の片面又は両面に接着層を形成させ、該接着層を介して電子部品同士を機械的及び電気的に接続させることができる。ACF及びACPは、いずれも熱硬化性の接着剤組成物である。
【0003】
例えば、特許文献1には、エポキシ樹脂、マイクロカプセル化イミダゾール誘導体エポキシ化合物及び導電性粒子を含むACFが報告されている。
【0004】
しかしながら、近年、電子部品の微細化が進むにつれて、ACFやACPを用いる場合、電子部品の微細領域に接着層(ACF又はACP)を簡便に形成できないという問題がある。
【0005】
即ち、ACFは、通常テープ状であり、且つ、セパレーターに保持された積層体であるので、使用する際、該積層体をカットする作業、被着体に仮圧着後セパレーターを剥離する作業等が必要である。また、ACPを用いる場合、形成した接着層にタック期間が存在するため、接着作業においてベタ付き等の問題が生じやすい。
【0006】
これらの問題を解決するための手段として、液状の異方導電性接着剤組成物(以下、「異方導電性溶液」と略記する場合がある)を電子部品にスクリーン印刷する方法やディスペンサーを用いて異方導電性溶液を電子部品に塗布する方法が考えられる。
【0007】
異方導電性溶液としては、特許文献2に、導電性粉末、熱圧着性高分子結合剤及び体質顔料を用いて作製された導電異方性ヒートシール用組成物が報告されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2の組成物は、熱可塑性の組成物であるため、形成される接着層が耐熱性に劣るという問題がある。従って、特許文献2の組成物は、耐熱性が要求される分野(車載用等)の電子部品には適用が困難である。
【特許文献1】特開2006−22230
【特許文献2】特公昭61−9342
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、耐熱性に優れた接着層を被着体の微細領域に簡便に形成できる液状の異方導電性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を行った。その結果、特定組成の異方導電性組成物が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、以下の異方導電性組成物を提供するものである。
1. (1)重量平均分子量が8000〜40000のエポキシ樹脂、(2)重量平均分子量が45000〜65000のフェノキシ樹脂、(3)ポリビニルブチラール樹脂、(4)イミダゾール化合物が封入されたマイクロカプセル、(5)導電性粒子及び(6)溶剤を含む異方導電性組成物。
2. 溶剤(6)が、カルビトール類である上記項1に記載の異方導電性組成物。
3. エポキシ樹脂(1)、フェノキシ樹脂(2)及びポリビニルブチラール樹脂(3)が、溶剤(6)に溶解している上記項1又は2に記載の異方導電性組成物。
4. エポキシ樹脂(1)とフェノキシ樹脂(2)との含有割合が、重量比で、(1):(2)=1.5:0.5〜0.5:1.5である上記項1〜3のいずれかに記載の異方導電性組成物。
5. ポリビニルブチラール樹脂(3)の含有量が、組成物中に含まれるエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、5〜15重量部である上記項1〜4のいずれかに記載の異方導電性組成物。
6. マイクロカプセル(4)中のイミダゾール化合物の含有量が、組成物中に含まれるエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、15〜25重量部である上記項1〜5のいずれかに記載の異方導電性組成物。
7. 異方導電性接着剤である上記項1〜6のいずれかに記載の異方導電性組成物。
【0012】
本発明の異方導電性組成物は、(1)重量平均分子量が8000〜40000のエポキシ樹脂、(2)重量平均分子量が45000〜65000のフェノキシ樹脂、(3)ポリビニルブチラール樹脂、(4)イミダゾール化合物が封入されたマイクロカプセル、(5)導電性粒子及び(6)溶剤を含む。
【0013】
エポキシ樹脂(1)
重量平均分子量が8000〜40000程度、好ましくは25000〜35000程度のエポキシ樹脂(1)を含有させることにより、耐熱性に優れた熱硬化型接着層を好適に形成できる。
【0014】
前記エポキシ樹脂としては、特に、常温(例えば20〜30℃程度)で固体のエポキシ樹脂が好ましい。特に、前記エポキシ樹脂としては、軟化点が169℃程度以上のエポキシ樹脂が好ましい。
【0015】
常温で固形のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。特に、前記エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0016】
エポキシ樹脂(1)の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により求めた値である。GPCの条件は下記の通りである。
装置・・・東ソー株式会社製 HLC-8220GPC、カラム・・・TSKgel 4本、流速・・・1.0 mL/min、検出器・・・UV254nm、カラム恒温槽温度・・・40℃、遊離液・・・THF、注入量100μl
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq)は、特に限定されないが、500〜7500程度が好ましく、3000〜5000程度がより好ましい。
【0017】
前記エポキシ樹脂は、市販品又は公知の方法により製造することにより容易に入手できる。市販品としては、例えば、商品名「エピコート1010」、「エピコート1009」、「エピコート1007」、「エピコート1004」(いずれもジャパンエポキシレジン社製)等が挙げられる。
【0018】
フェノキシ樹脂(2)
重量平均分子量が45000〜65000程度、好ましくは48000〜60000程度のフェノキシ樹脂(2)を含有させることにより、接着層の柔軟性を向上させることができる。接着層の柔軟性を向上させることにより、接着層を有する電子部品を折り曲げた際等に、接着層が剥離する、接着層に亀裂が入る等の問題を好適に回避できる。
【0019】
前記フェノキシ樹脂としては、特に限定されないが、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0020】
フェノキシ樹脂(2)の重量平均分子量は、GPCにより求めた値である。GPCの条件は下記の通りである。
装置・・・東ソー株式会社製 HLC-8120GPC、カラム・・・TSKgel 5本、流速・・・0.5mL/min、検出器・・・UV8020、カラム恒温槽温度・・・40℃、遊離液・・・THF、注入量10μl、圧力114kgf/cm2
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq)は、特に限定されないが、7000〜10000程度が好ましく、7600〜8500程度がより好ましい。
【0021】
前記フェノキシ樹脂は、市販品又は公知の方法により製造することにより容易に入手できる。市販品としては、例えば、商品名「エピコート1256」、「エピコート4250」、「エピコート4275」(ジャパンエポキシレジン社製)等が挙げられる。
【0022】
エポキシ樹脂(1)とフェノキシ樹脂(2)との含有割合は、重量比で、(1):(2)=1.7:0.3〜0.3:1.7程度が好ましく、1.5:0.5〜0.5:1.5程度がより好ましい。
【0023】
ポリビニルブチラール樹脂(3)
ポリビニルブチラール樹脂(3)を含有させることにより、スクリーン印刷による接着層の形成を好適に行うことができる。特に、スクリーン印刷を行う際、ウェビングを抑制又は防止できる。また、前記組成物の揺変性を向上させ、且つ、厚みが均一な塗膜を好適に形成できる。
【0024】
このように、本発明の組成物は、ポリビニルブチラール樹脂(3)を含有することにより、接着剤としての印刷作業性や形成する接着層の形状保持性を向上させることができる。
【0025】
前記ポリビニルブチラール樹脂としては、特に限定されないが、長鎖で、且つ、ブチラール化度の高いポリビニルブチラール樹脂が好ましい。例えば、前記ポリビニルブチラール樹脂として、ポリビニルアルコールとブチルアルデヒドとの共重合体を用いることができる。
【0026】
前記共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体またはグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0027】
前記共重合体のブチラール化度は、特に限定されないが、60〜70モル%程度が好ましく、62〜68モル%程度がより好ましい。ブチラール化度は、赤外分光法(IR法)により確認できる。
【0028】
前記共重合体の残存水酸基量は、30〜36モル%程度が好ましく、33〜35モル%程度がより好ましい。
【0029】
前記ポリビニルブチラール樹脂の重合度は、450〜850程度が好ましく、600〜700程度がより好ましい。
【0030】
ポリビニルブチラール樹脂の重合度は、原料であるポリビニルアルコールの極限粘度から求めた概算値である。
【0031】
前記ポリビニルブチラール樹脂は、市販品又は公知の方法により製造することにより容易に入手できる。市販品としては、例えば、商品名「エスレックBM−1」、「エスレックBM−2」、「エスレックBM−5」、「エスレックKS−1」、「エスレックBX−1」(いずれも積水化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0032】
本発明の組成物中における前記ポリビニルブチラール樹脂(3)の含有量は、特に限定されないが、組成物中に含まれるエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、5〜15重量部程度とすることが好ましく、8〜12重量部程度とすることがより好ましい。前記ポリビニルブチラール樹脂(3)の含有量を組成物中に含まれるエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、5〜15重量部程度とすることにより、本発明の組成物の揺変性を向上させ、且つ、適度な硬化速度で前記組成物を硬化させることができる。
【0033】
なお、「組成物中に含まれるエポキシ樹脂」とは、エポキシ樹脂(1)及びフェノキシ樹脂(2)を指すが、本発明の組成物が該(1)(2)以外のエポキシ樹脂をさらに含有する場合には、そのエポキシ樹脂も含まれる。
【0034】
また、「適度な硬化速度で前記組成物を硬化させる」とは、被着体同士を熱圧着させるうえで、熱圧着作業を比較的容易に行いうる適度な硬化温度及び硬化時間で本発明の組成物を硬化させることを言う。例えば、170〜190℃程度の温度で10〜30秒間程度の熱圧着により前記組成物を十分に硬化させる場合が挙げられる。適度な硬化速度で硬化させることにより、優れた接着強度及び接続抵抗を実現させやすくなる。
【0035】
イミダゾール化合物が封入されたマイクロカプセル(4)
前記マイクロカプセル(4)は、エポキシ樹脂(1)及び/又はフェノキシ樹脂(2)を硬化させるための硬化剤として作用する。硬化剤として前記マイクロカプセル(4)を含有させることにより、好適な硬化反応速度を実現できる。また、貯蔵安定性を向上させることができる。
【0036】
前記イミダゾール化合物としては、例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシジメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチル−5−メチルイミダゾール等が挙げられる。これらのイミダゾール化合物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
マイクロカプセルの材質としては、例えば、アクリル樹脂、アクリル酸エステル/アクリロニトリル樹脂、メラミン樹脂、スチレン/ジビニルベンゼン樹脂等が用いられる。
前記マイクロカプセルの平均粒径は、特に限定されないが、1〜6μm程度が好ましい。
【0038】
前記マイクロカプセル壁材膜の厚みは、特に限定されないが、0.001〜0.3μm程度が好ましい。
【0039】
前記マイクロカプセル(4)は、液状のエポキシ樹脂中に分散させた状態で用いることが好ましい。
【0040】
前記液状のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ダイマー酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて反応させることができる。
【0041】
前記マイクロカプセル(4)を液状のエポキシ樹脂中に分散させた分散液を用いる場合、該分散液中におけるエポキシ樹脂とイミダゾール化合物との含有割合は、特に限定されないが、重量比でエポキシ樹脂:イミダゾール化合物=65:35〜68:32程度が好ましい。
【0042】
前記分散液は、市販品又は公知の方法に従って製造することにより容易に入手できる。市販品としては、例えば、商品名「ノバキュアHX−3941HP」(旭化成ケミカルズ(株)製)等が挙げられる。
【0043】
本発明の組成物中における前記マイクロカプセル(4)の含有量は、特に限定されないが、マイクロカプセル(4)中のイミダゾール化合物の含有量が、組成物中に含まれるエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、15〜25重量部程度となることが好ましく、18〜22重量部程度となることがより好ましい。
【0044】
なお、「組成物中に含まれるエポキシ樹脂」とは、エポキシ樹脂(1)及びフェノキシ樹脂(2)を指すが、本発明の組成物が該(1)(2)以外のエポキシ樹脂をさらに含有する場合には、そのエポキシ樹脂も含まれる。例えば、マイクロカプセル(4)として上記分散液を添加して本発明の組成物を調製した場合、該分散液中のエポキシ樹脂も含まれる。
【0045】
導電性粒子(5)
導電性粒子を含有させることにより、電子部品同士の電気的接続が可能になる。
【0046】
導電性粒子としては、金属粒子や金属膜を表面に有する非金属粒子を用いることができる。
【0047】
前記金属粒子としては、例えば、金、銀、パラジウム、銅、タングステン、錫、鉛、ニッケル等の金属又はこれらの合金からなる金属粒子が挙げられる。
【0048】
前記非金属粒子としては、例えば、ガラス、セラミックス、プラスチック等の粒子が挙げられる。
【0049】
前記金属膜としては、例えば、金、銀、パラジウム、銅、タングステン、錫、鉛、ニッケル等の金属又はこれらの合金が挙げられる。
【0050】
導電性粒子の平均粒子径は、0.01〜50μm程度であることが好ましく、0.1〜15μm程度であることがより好ましい。
【0051】
導電性粒子の平均粒子径は、公知の測定装置を用いて測定できる。公知の測定装置としては、例えば、レーザー回折型測定装置、光学顕微鏡、電子顕微鏡等が挙げられる。
【0052】
必要に応じて、前記導電性粒子を表面処理してもよい。例えば、シランカップリング剤を用いて前記導電性粒子を表面処理することにより、本発明の組成物中で、前記導電性粒子を好適に分散させることができる。前記シランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。表面処理の方法としては、特に限定されないが、例えばディッピング法等の公知の方法を適宜採用すればよい。
【0053】
導電性粒子の含有量は、特に限定されず、形成させる接着層の面積、導電性粒子の平均粒子径等に応じて適宜設定すればよい。例えば、形成させる接着層の面積1mm当たり数百個〜数千個の導電性粒子が接着層中に存在するように設定することができる。また、導電性粒子の平均粒子径が比較的大きい場合には、導電性粒子の含有量を少なくし、導電性粒子の平均粒子径が比較的小さい場合には、導電性粒子の含有量を多くしてもよい。
【0054】
具体的に、導電性粒子の含有量は、固形分100重量部に対し、通常2〜20重量部程度であり、好ましくは4〜15重量部程度である。
【0055】
溶剤(6)
溶剤(6)を含有させることにより、被着体の微細領域に対して均一な接着層を好適に形成させることができる。この場合、エポキシ樹脂(1)、フェノキシ樹脂(2)及びポリビニルブチラール樹脂(3)を、溶剤(6)に溶解させておくことが望ましい。
【0056】
前記溶剤としては、スクリーン印刷等を好適に行えるものであればよい。例えば、炭化水素類、ケトン類、エステル類、カルビトール類、カルビトール類を除くアルコール類等が挙げられる。
【0057】
前記炭化水素類としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット、ナフサ等が挙げられる。
【0058】
前記ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0059】
前記エステル類としては、例えば、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0060】
前記カルビトール類としては、例えば、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。
【0061】
前記アルコール類としては、例えば、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ブチルセロソルブ等が挙げられる。
【0062】
これらの溶剤は、一種単独で又は二種以上の混合溶媒として用いることができる。
【0063】
本発明の組成物は、前記溶剤として、カルビトール類を用いることが好ましく、(i)エチルカルビトールアセテート或いは(ii)エチルカルビトールアセテート以外のカルビトールアセテート類(例えばブチルカルビトールアセテート等)とエチルカルビトールとの混合溶媒がより好ましい。(ii)の混合溶媒中のエチルカルビトールの含有割合は、3〜10重量%程度が好ましく、5〜7重量%程度がより好ましい。
【0064】
本発明の組成物中における溶剤(6)の含有量は、組成物中の固形分の含有量が35〜60%程度となるように調整されることが好ましく、40〜50%程度となるように調整されることがより好ましい。
【0065】
なお、前記「固形分の含有量」は、本発明の組成物中に含まれる固形分の合計重量を該組成物の合計重量で除することにより求めた値である。前記固形分には、エポキシ樹脂(1)、フェノキシ樹脂(2)、ポリビニルブチラール樹脂(3)、マイクロカプセル(4)(分散液中のエポキシ樹脂を含む)、導電性粒子(5)及び必要に応じて下記添加剤が含まれる。
【0066】
具体的に、溶剤(6)の含有量は、40〜65重量%程度が好ましく、50〜60重量%程度がより好ましい。
【0067】
その他の添加剤
本発明の組成物には、上記(1)〜(6)以外にも、必要に応じて公知の添加剤を含有させてもよい。公知の添加剤としては、例えば、充填材、軟化剤、促進剤、老化防止剤、着色剤、難燃化剤、チキソトロピック剤、カップリング剤等が挙げられる。これらの添加剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0068】
前記組成物の調製
本発明の組成物は、上記(1)〜(6)及び必要に応じて上記公知の添加剤を混合することにより調製できる。特に、上記エポキシ樹脂(1)、フェノキシ樹脂(2)及びポリビニルブチラール樹脂(3)については、それぞれ予め上記溶剤(6)に溶解させたものを用いることが好ましい。これにより、均一な接着層を好適に形成できる。エポキシ樹脂(1)を溶剤(6)に溶解させてなる溶液の濃度については、特に限定されないが、44〜46重量%程度が好ましい。フェノキシ樹脂(2)を溶剤(6)に溶解させてなる溶液の濃度については、特に限定されないが、34〜36重量%程度が好ましい。ポリビニルブチラール樹脂(3)を溶剤(6)に溶解させてなる溶液の濃度については、特に限定されないが、19〜21重量%程度が好ましい。
【0069】
また、マイクロカプセル(4)は、前記「イミダゾール化合物が封入されたマイクロカプセル(4)」の項で説明した分散液を調製した後、混合することが好ましい。
【0070】
上記(1)〜(6)の添加順序については特に限定されないが、上記エポキシ樹脂(1)、フェノキシ樹脂(2)及びポリビニルブチラール樹脂(3)が溶剤(6)に溶解してなる溶液を調製した後、マイクロカプセル(4)及び導電性粒子(5)を添加することが好ましい。
【0071】
上記(1)〜(6)の添加量については、特に限定されず、例えば、上記(1)〜(6)の含有量が上述した範囲内になるように適宜設定すればよい。
【0072】
混合は、高速分散機等の公知の混合装置を用いて行えばよい。
【0073】
異方導電性接着剤
本発明の異方導電性組成物は、異方導電性接着剤として好適に用いることができる。具体的に、本発明の組成物を被着体に塗布することにより、被着体上に接着層を形成することができる。
【0074】
前記組成物を前記被着体に塗布する際の前記組成物の使用量は、特に限定されず、被着体の種類等に応じて適宜設定すればよい。
【0075】
前記接着層の形成方法としては、例えば、前記組成物を被着体の全体又は一部に塗布して未乾燥塗膜を形成させた後、該未乾燥塗膜を乾燥させることにより被着体上に未硬化の塗膜(接着層)を形成させる方法が挙げられる。
【0076】
以下、かかる方法を代表例として前記接着層の形成方法について具体的に説明する。
【0077】
被着体としては、特に限定されず、公知の電子部品を用いることができる。特に、本発明の組成物は耐熱性に優れているため、車載用の電子部品にも好適に使用できる。
【0078】
公知の電子部品としては、例えば、フラットパネルディスプレイ(例えばLCD、PDP等)、フレキシブルプリント基板、リジッド基板、Indium Tin Oxide(ITO)蒸着ガラス基板、メンブレンスイッチ、タッチパネル、テール端子、アンダーフィル剤が使用されていないフリップチップ、ICカード、ICタグ等を挙げることができる。
【0079】
前記組成物の塗布方法としては、特に限定されないが、該組成物を用いて被着体の微細領域に均一な接着層を好適に形成できる点で、スクリーン印刷により該組成物を塗布する方法が好ましい。
【0080】
前記印刷直後の未乾燥塗膜の厚みは、特に限定されないが、40〜100μm程度が好ましい。
【0081】
前記未乾燥塗膜を加熱する際の加熱温度は、特に限定されないが、未乾燥塗膜中の溶剤を好適に除去できる点で、70〜90℃程度が好ましい。
【0082】
加熱時間は、加熱温度等に応じて適宜設定すればよい。通常、10〜20分間程度である。
【0083】
加熱は、通常、空気下で行われるが、前記接着層を形成できる限り、加熱雰囲気については特に制限されない。
【0084】
加熱には、加熱乾燥炉等の公知の加熱装置を用いればよい。
【0085】
前記接着層の厚みは、特に限定されないが、10〜50μm程度が好ましい。
【0086】
形成された接着層は、基本的にタック範囲を有さない。すなわち、本発明の組成物を用いることにより、タックが防止又は抑制された接着層を形成できる。
【0087】
前記接着層を有する電子部品の前記接着層部分に、他の電子部品の接着予定部分を熱圧着させることにより、接着層中の上記エポキシ樹脂(1)、フェノキシ樹脂(2)等を架橋させ、機械的及び電気的に電子部品同士を接合(硬化接合)することができる。
【0088】
熱圧着させる際の温度は、170〜190℃程度が好ましく、170〜180℃程度がより好ましい。特に、170〜180℃程度の温度で熱圧着させる場合、接着層中のマイクロカプセル(4)を好適に破壊し、接着層を熱硬化させることができる。
【0089】
熱圧着させる時間は5〜30秒程度が好ましく、10〜20秒程度がより好ましい。
【0090】
熱圧着させる際の圧力は、特に限定されず、本発明の効果を妨げない範囲内で適宜設定すればよい。
【発明の効果】
【0091】
本発明の組成物によれば、接着層を被着体(電子部品)の微細領域に簡便に且つ均一に形成できる。
【0092】
また、本発明の組成物によれば、タックが防止又は抑制された接着層を形成できるため、接着作業を容易にすることができる。
【0093】
さらに、本発明の組成物は、耐熱性に優れているため、耐熱性が要求される分野(車載用等)の電子部品の接着剤としても好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0094】
以下に、実施例及び比較例を示し本発明の特徴とするところをより一層明確にする。ただし、本発明は実施例等に限定されるものではない。
【0095】
実施例1
<エポキシ樹脂(1)の溶液の調製>
固形エポキシ樹脂であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「エピコート1010」ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ当量:3000〜5000g/eq、重量平均分子量:33000)45重量部をエチルカルビトールアセテート(商品名「酢酸エチルジューキゾール」神港有機化学工業(株)製)55重量部に溶解させることにより、該ビスフェノールA型エポキシ樹脂の濃度が45重量%であるエポキシ樹脂(1)溶液を調製した。
【0096】
<フェノキシ樹脂(2)の溶液の調製>
フェノキシ樹脂であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「エピコート1256」ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ当量:7900g/eq、重量平均分子量:50000)35重量部をエチルカルビトールアセテート(商品名「酢酸エチルジューキゾール」神港有機化学工業(株)製)55重量部に溶解させることにより、該ビスフェノールA型エポキシ樹脂の濃度が35重量%であるフェノキシ樹脂(2)溶液を調製した。
【0097】
<ポリビニルブチラール樹脂(3)の溶液の調製>
ポリビニルブチラール樹脂(重合度:約650、残存水酸基量:約34モル%、ブチラール化度:65±3モル%、商品名「エスレックBM−1」積水化学工業(株)製)25重量部を、エチルカルビトールアセテート(商品名「酢酸エチルジューキゾール」神港有機化学工業(株)製)とエチルカルビトール(商品名「ジエチレングリコールモノエチルエーテル」キシダ化学(株)製)との混合溶剤100重量部に50℃に加熱しながら溶解させることにより、濃度20重量%のポリビニルブチラール樹脂(3)溶液を調製した。
【0098】
なお、混合溶媒中のエチルカルビトールアセテートとエチルカルビトールとの含有割合は、重量基準で95:5である。
【0099】
<異方導電性組成物の調製>
50℃に加熱された前記ポリビニルブチラール樹脂(3)溶液100重量部に、前記エポキシ樹脂(1)溶液135重量部及び前記フェノキシ樹脂(2)溶液170重量部を加え、さらに、エチルカルビトールアセテート(商品名「酢酸エチルジューキゾール」神港有機化学工業(株)製)を35重量部を加えて希釈しながら混練した。
【0100】
得られた液を室温(25℃)に冷却した後、イミダゾール化合物が封入されたマイクロカプセルをエポキシ樹脂中に分散させた分散液(4)(商品名「ノバキュアHX−3941」旭化成ケミカルズ(株)製、エポキシ樹脂及びイミダゾール化合物の重量比=66.5:33.5)120重量部を加えて混練することにより、絶縁性接着剤溶液を調製した。
【0101】
得られた絶縁性接着剤溶液を100重量部に、導電性粒子(5)(商品名「ミクロパールAU−205」積水化学工業(株)製)5重量部を添加し、さらに、シランカップリング剤(商品名「TSL8350」GE東芝シリコーン製)2重量部を添加した後、高速分散機を用いて分散混合することにより、異方導電性組成物を調製した。
【0102】
なお、前記分散混合の際に、導電性粒子(5)をシランカップリング剤で表面処理した。
【0103】
実施例2
ポリビニルブチラール樹脂(3)溶液の添加量を120重量部とし、混練に際して加えるエチルカルビトールアセテートの添加量を95重量部とし、マイクロカプセル(4)の添加量を180重量部とした以外は、実施例1と同様の方法により、異方導電性組成物を調製した。
【0104】
実施例3
ポリビニルブチラール樹脂(3)溶液の添加量を150重量部とし、エポキシ樹脂(1)溶液の添加量を200重量部とし、フェノキシ樹脂(2)溶液の添加量を85重量部とし、混練に際して加えるエチルカルビトールアセテートの添加量を25重量部とした以外は、実施例1と同様の方法により、異方導電性組成物を調製した。
【0105】
【表1】

【0106】
なお、前記固形分計算値(%)は、エポキシ樹脂(1)、フェノキシ樹脂(2)、ポリビニルブチラール樹脂(3)、マイクロカプセル(4)(分散液中のエポキシ樹脂を含む)、導電性粒子(5)及びシランカップリング剤の合計重量を、得られた異方導電性組成物の合計重量で除することにより求めた値である。
【0107】
比較例1
厚み20μmのACF(商品名「CP9221F」ソニーケミカル(株)製)を用意した。
【0108】
試験例1(スクリーン印刷による塗膜の形成)
実施例1〜3で調製した異方導電性組成物を、それぞれ0.2mmピッチ(L/S=1/1)の20本の接合端子集合体を持つ厚さ0.038mmのポリイミド試験用電極に、スクリーン印刷した。実施例1〜3で調製した異方導電性組成物のいずれを用いた場合も、厚みが約50μmの均一な塗膜(未硬化の塗膜)を形成させることができた。
【0109】
試験例2(柔軟性)
試験例1で形成させた塗膜を80℃で15分間乾燥させることにより、厚みが約20〜25μmの接着層を形成させた。
【0110】
前記接着層が形成された試験用電極を折り曲げた際の前記接着層の柔軟性を確認した。
【0111】
また、比較例1のACFについても同様の評価を行った。
【0112】
接着層にやや弾力があるものを○、接着層が非常に柔軟であるものを△、接着層が硬く、折り曲げた際に亀裂が生じるものを×と評価した。
【0113】
結果を表2に示す。
【0114】
試験例3(作業性)
試験例2で形成させた接着層に触れた際にベタ付くかどうか(タックの有無)を確認した。
【0115】
タックがないものを○、タックがあるものを×と評価した。
【0116】
結果を表2に示す。
【0117】
試験例4
試験例2において形成した接着層と、ITOが蒸着されたガラス基板のITO蒸着面とを圧力3MPaで熱圧着させた。
【0118】
また、比較例1のACFを前記試験用電極に80℃で仮圧着した後、ACFのセパレーターを剥離した。その後、ACF面(接着層面)と、ITOが蒸着されたガラス基板のITO蒸着面とを圧力3MPaで熱圧着させた。
【0119】
熱圧着させる際、十分に硬化接合できる条件(熱圧着させる際の温度、圧力及び時間)を確認した。
【0120】
熱圧着させた後、得られた積層体(試験用電極、接着層及びITO蒸着ガラスが順に積層された積層体)の接着強度及び接続抵抗を確認した。
【0121】
温度180℃、時間15秒間の条件下で熱圧着し、接着強度(N/4mm)が3.0〜4.5N/4mmで、且つ、接続抵抗(Ω)が6.0〜8.0Ωの場合を硬化速度が「適度」と評価し、温度165℃、時間10秒間の条件下で熱圧着し、接着強度(N/4mm)が4.0N/4mm以上で、且つ、接続抵抗が7.0Ω以下の場合を硬化速度が「速い」と評価し、温度195℃、時間20秒間の条件下で熱圧着し、接着強度3.0N/4mm以下、且つ、接続抵抗が8Ω以上の場合を硬化速度が「遅い」と評価した。
【0122】
結果を表2に示す(表2の0時間の欄)。
【0123】
また、得られた積層体のうち、実施例1の組成物を用いて形成された積層体及び比較例1のACFを用いて形成された積層体を、温度85℃、相対湿度85%RHの条件下で耐湿熱試験に供した。500時間、1000時間、2000時間供した際の接着強度及び接続抵抗を確認した。
【0124】
接着強度及び接続抵抗については、下記方法により確認した。
【0125】
<接着強度>
前記積層体を試験用電極内の接合端子集合体部分(4mm巾)が完全に切り出されるよう切断した。切断片は、接合端子集合体(電極)、接着層及びITO蒸着ガラスが順に積層されたものである。前記切断片の電極層を、室温(20℃)下、50mm/minの速度で90°剥離した。剥離した際の剥離強度を万能試験機(商品名「AUTOGRAPH AG−X」島津製作所製)を用いて測定した。
【0126】
結果を表2に示す。
【0127】
なお、表2には、2つの試験体(積層体)を測定した測定値の平均値を記載した。
【0128】
<接続抵抗>
積層体の電極内の各端子(20本)とITO面に触針し、各端子の抵抗値を確認した。抵抗値の測定には、抵抗計(商品名「3540mΩ HiTESTER」HIOK社製)を用いた。
【0129】
結果を表2に示す。
【0130】
なお、表2には、2つの試験体(積層体)を測定した測定値の平均値を記載した。
【0131】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)重量平均分子量が8000〜40000のエポキシ樹脂、(2)重量平均分子量が45000〜65000のフェノキシ樹脂、(3)ポリビニルブチラール樹脂、(4)イミダゾール化合物が封入されたマイクロカプセル、(5)導電性粒子及び(6)溶剤を含む異方導電性組成物。
【請求項2】
溶剤(6)が、カルビトール類である請求項1に記載の異方導電性組成物。
【請求項3】
エポキシ樹脂(1)、フェノキシ樹脂(2)及びポリビニルブチラール樹脂(3)が、溶剤(6)に溶解している請求項1又は2に記載の異方導電性組成物。
【請求項4】
エポキシ樹脂(1)とフェノキシ樹脂(2)との含有割合が、重量比で、(1):(2)=1.5:0.5〜0.5:1.5である請求項1〜3のいずれかに記載の異方導電性組成物。
【請求項5】
ポリビニルブチラール樹脂(3)の含有量が、組成物中に含まれるエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、5〜15重量部である請求項1〜4のいずれかに記載の異方導電性組成物。
【請求項6】
マイクロカプセル(4)中のイミダゾール化合物の含有量が、組成物中に含まれるエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、15〜25重量部である請求項1〜5のいずれかに記載の異方導電性組成物。
【請求項7】
異方導電性接着剤である請求項1〜6のいずれかに記載の異方導電性組成物。

【公開番号】特開2010−24384(P2010−24384A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188986(P2008−188986)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(391003624)サンユレック株式会社 (28)
【Fターム(参考)】