説明

異方性導電膜およびその製造方法

【課題】膜厚方向の導通信頼性に優れ、安価な異方性導電膜を提供すること、また、その製造方法を提供すること。
【解決手段】膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、高分子よりなる多孔質膜と、無電解めっきにより孔部の内壁面に形成された無電解めっき層と、無電解めっきの金属とエッチングレートが異なる金属による電解めっきにより孔部内に充填され、孔部の両開口端面よりも外側にその一部が突出した突出部を有する電解めっき部と、多孔質膜の両面に被覆された接着層とを備えた異方性導電膜とする。この際、多孔質膜は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、この有機溶媒に可溶な高分子と、両親媒性物質とを少なくとも含む高分子溶液、または、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、両親媒性高分子とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることにより形成されうるものを好適に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性導電膜およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、狭ピッチに配列された複数の導体間を電気的、機械的に接続する用途などに好適な異方性導電膜およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化、小型化などに伴い、狭ピッチに配列された複数の導体間を電気的、機械的に接続する必要性が増大している。このような必要性が生ずる場合としては、例えば、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:LCD)の分野において、TCP(Tape Carrier Package)に駆動用ICを搭載したTAB(Tape Automated Bonding)の電極と液晶パネルの電極とを接続する場合や、液晶パネルのガラス基板上に駆動用ICを直接接続する(Chip On Glass:COG)場合などが挙げられる。
【0003】
上記接続においては、一般に、膜厚方向に導電性を示し、かつ、膜面方向に絶縁性を示す異方性導電膜(Anisotropic Conductive Film:ACF)が多用されている。
【0004】
この種の異方性導電膜としては、例えば、特許文献1に、熱可塑性膜の両面に水溶性膜を配置し、熱可塑性膜および水溶性膜を貫通する孔部を形成した後、この孔部内に導電性物質を充填してなる異方性導電膜が開示されている。
【0005】
この異方性導電膜は、使用に先立ち、表面の水溶性膜を除去することにより、孔部内に充填された導電性物質の両端部を熱可塑性膜の表面から突出させ、その後に使用される。
【0006】
また、孔部内への導電性物質の充填方法としては、膜の片側の面に金属膜を張り付け、これを電極として電解めっきを施した後、エッチングにより金属膜を除去することにより、孔部内に金属めっきを充填する方法が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−273442号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、この種の異方性導電膜は、孔部内に充填された導電性物質が電極・バンプなどと接触することにより、膜厚方向の導通が確保される。したがって、孔部内に充填された導電性物質は、孔部の両開口端面よりも外側にその一部が突出していた方が、導通信頼性上好ましいと言える。
【0009】
この点、上記特許文献1の異方性導電膜は、表面の水溶性膜を除去し、熱可塑性膜の孔部より導電性物質の両端部を突出させてから使用することを前提としている。そのため、膜厚方向の導通については問題がないように思われる。
【0010】
しかしながら、上記導電性物質の充填方法によれば、孔部内に充填された金属めっきは、当然に金属膜と同一金属からなる。そのため、次工程において、エッチングにより金属膜を除去すると、水溶性膜の厚み分に相当する部分(突出部になる部分)の金属めっきも同時にエッチングされる。したがって、金属膜を張り付けてある側については、熱可塑性膜の孔部開口端面よりも外側に金属めっきの端部を突出させることは実際には難しいと思われる。
【0011】
また、特許文献1では、熱可塑性膜の両面に水溶性膜を配置し、これらを貫通する孔部を後形成することで、熱可塑性膜を多孔質としている。
【0012】
しかしながら、当初より多数の孔部を有する多孔質膜を使用する場合には、金属膜を張り付ける前に、孔部を除いた多孔質膜の表面を水溶性膜によりマスキングする必要がある。なぜなら、当初より多数の孔部を有する多孔質膜に直接金属膜をはりつけてしまうと、孔部開口端面よりも外側に金属めっきの端部を突出させることができなくなってしまうからである。
【0013】
ところが、孔部を除いた多孔質膜の表面のみをマスキングするのは、現実には困難である。また、仮に可能であっても、製造コストの増加を招く。さらに、この問題は、孔部の径が小さくなればなるほど顕著になってくる。
【0014】
このように、従来知られる技術では、めっき手法を用いて、膜厚方向の導通信頼性に優れ、安価な異方性導電膜を得ることができなかった。
【0015】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、膜厚方向の導通信頼性に優れ、安価な異方性導電膜を提供すること、また、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明に係る異方性導電膜は 膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、高分子よりなる多孔質膜と、無電解めっきにより上記孔部の内壁面に形成された無電解めっき層と、上記無電解めっきの金属とエッチングレートが異なる金属による電解めっきにより上記孔部内に充填され、上記孔部の両開口端面よりも外側にその一部が突出した突出部を有する電解めっき部と、上記多孔質膜の両面に被覆された接着層とを備えたことを要旨とする。
【0017】
この際、上記多孔質膜は、上記孔部がハニカム状に配列されるとともに、上記孔部の内壁面が外側方向に湾曲されていると良い。
【0018】
このような多孔質膜は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、この有機溶媒に可溶な高分子と、両親媒性物質とを少なくとも含む高分子溶液、または、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、両親媒性高分子とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることにより形成されうるものであると良い。
【0019】
一方、本発明に係る異方性導電膜の製造方法は、膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、高分子よりなる多孔質膜を形成する工程と、無電解めっきにより上記多孔質膜の一方表面および上記孔部の内壁面に無電解めっき層を形成する工程と、上記無電解めっきの金属とエッチングレートが異なる金属による電解めっきにより、上記多孔質膜の両表面に形成されている孔部の両開口端面よりも外側にその一部が突出した突出部を有する電解めっき部を孔部内に充填する工程と、上記多孔質膜の一方表面に形成された無電解めっき層をエッチングにより除去する工程と、上記無電解めっき層の除去前または除去後に上記多孔質膜の他方表面に接着層を被覆する工程と、上記無電解めっき層の除去後に上記多孔質膜の一方表面に接着層を被覆する工程とを有することを要旨とする。
【0020】
この際、上記電解めっき部の充填は、上記無電解めっき層が形成された多孔質膜の一方表面をマスキングした状態で行うと良い。
【0021】
また、上記多孔質膜は、上記孔部がハニカム状に配列されるとともに、上記孔部の内壁面が外側方向に湾曲されていると良い。
【0022】
また、上記多孔質膜の形成は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、この有機溶媒に可溶な高分子と、両親媒性物質とを少なくとも含む高分子溶液、または、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、両親媒性高分子とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることによると良い。
【発明の効果】
【0023】
上記異方性導電膜は、多孔質膜の孔部の両開口端面よりも外側にその一部が突出した突出部を有しているので、その使用時に、電極・バンプなどと接触しやすい。そのため、膜厚方向の導通信頼性に優れる。
【0024】
また、上記異方性導電膜は、膜厚方向の導通を得る導電性物質として、金属めっきを用いているので、その製造コストが比較的安価である。
【0025】
また、上記異方性導電膜は、従来の異方性導電膜のように、その使用前に水溶性膜を除去するなどの必要がないので、使い勝手にも優れる。
【0026】
また、上記異方性導電膜において、上記多孔質膜の孔部がハニカム状に配列されるとともに、孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている場合、この種の多孔質膜は、高分子溶液をキャストした支持体を高湿度雰囲気下に存在させる手法により、簡単かつ安価に形成することができる。そのため、製造コストがより安価な異方性導電膜となる。
【0027】
一方、上記異方性導電膜の製造方法によれば、めっき手法を用いて、膜厚方向の導通信頼性に優れ、安価な上記異方性導電膜が得られる。
【0028】
この際、上記電解めっき部の充填を、無電解めっき層が形成された多孔質膜の一方表面をマスキングした状態で行った場合には、多孔質膜の一方表面側では、無電解めっき層の厚み分だけ、孔部の開口端面よりも外側に電解めっき部の一部を突出させることができる。一方、多孔質膜の他方表面では、孔部の開口端面よりも外側にめっきが析出した分だけ、電解めっきの一部を突出させることができる。
【0029】
そのため、多孔質膜の両表面に形成されている孔部の両開口端面よりも外側にその一部が突出した突出部を有する電解めっき部、とりわけ、一方の突出部の先端部が無電解めっき層の表面とほぼ同一面内にあり、かつ、他方の突出部が多孔質膜の他方表面に形成されている孔部の開口端面よりも外側に突出した電解めっき部を、孔部内に容易に形成することができる。
【0030】
また、上記異方性導電膜の製造方法において、上記多孔質膜の孔部がハニカム状に配列されるとともに、孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている場合、この種の多孔質膜は、高分子溶液をキャストした支持体を高湿度雰囲気下に存在させる手法により、簡単かつ安価に形成することができる。そのため、より安価に異方性導電膜を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本実施形態に係る異方性導電膜およびその製造方法について詳細に説明する(以下、本実施形態に係る異方性導電膜を「本ACF」と、本実施形態に係る異方性導電膜の製造方法を「本製造方法」ということがある。)。
【0032】
1.本ACF
図1に例示するように、本ACF10は、多孔質膜12と、無電解めっき層14と、電解めっき部16と、接着層18a、18bとを基本的構成として備えている。以下、各構成について順に説明する。
【0033】
1.1 多孔質膜
本ACFにおいて、多孔質膜は、高分子よりなり、多数の孔部を有している。
【0034】
ここで、上記高分子は、基本的には、多孔質膜の形成に支障がないものであれば、何れの種類であっても用いることができる。例えば、耐熱性などを考慮して適宜選択することができる。
【0035】
上記高分子としては、具体的には、例えば、ポリブタジエンゴム、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0036】
この際、上記ポリイミドとしては、より具体的には、例えば、シロキサン成分を重合成分として含むポリイミドなどを例示することができる。また、上記ポリアミドイミドとしては、より具体的には、例えば、シロキサン成分を重合成分として含むポリアミドイミドや、環式炭化水素基(脂環式炭化水素基および/または芳香族炭化水素基)を有するジイソシアネート成分またはジアミン成分と、酸無水物、多価カルボン酸、酸クロリドなどの酸成分とを重合成分として含むポリアミドイミド、このポリアミドイミドにポリカプロラクトンなどのポリエステルなどが共重合されたものなどを例示することができる。
【0037】
上記多孔質膜において、孔部は、膜厚方向に貫通しておれば、その配列、形状などは特に限定されるものではなく、適宜選択することができる。
【0038】
孔部の配列としては、具体的には、例えば、ハニカム状、格子状、ランダム状などを例示することができる。一方、孔部の形状としては、具体的には、例えば、孔部の内壁面が外側方向に湾曲された形状、円柱・多角柱形状、頂部を除いた円錐・多角錐形状などを例示することができる。なお、これら孔部の形状は、多孔質膜中に1種または2種以上含まれていても良い。
【0039】
上記多孔質膜としては、孔部がハニカム状に配列されるとともに、孔部の内壁面が外側方向に湾曲されたものを好適なものとして例示することができる。
【0040】
この好適な多孔質膜の一例につき、図を用いてより具体的に説明する。図2(a)に示すように、この多孔質膜12は、膜厚方向に貫通した多数の孔部12aを有している。また、これら孔部12aの内壁面12bは、外側方向に向かって略球面状に湾曲されている。また、図2(b)に示すように、これら孔部12aは、ハニカム状に配列されており、隣接する各孔部12a同士は、隔壁12cにより離間されている。また、隔壁12cは、隣接する各孔部12aの内壁面12b同士が最も隣接する付近に、膜表面付近よりも肉厚の薄いくびれ部12dを有している。
【0041】
このような多孔質膜は、水と混ざらず、揮発する有機溶媒中に高分子を溶かし、この高分子溶液をキャストした支持体を、高湿度雰囲気下に存在させる方法などを用いて形成することができる。詳しくは、本ACFの製造方法の項にて後述する。
【0042】
また、上記多孔質膜における孔部の径および間隔については、被接続物(例えば、ICチップ、フレキシブルプリント配線板:FPCなど)が有する複数の導体(例えば、突起電極、配線パターンなど)の幅や間隔などを考慮して決定すれば良い。
【0043】
もっとも、膜面方向の絶縁性を確実なものとし、高い接続信頼性を得るなどの観点から、孔部の径は、被接続物が有する複数の導体の間隔のうち、最も狭いものよりも小さく、かつ、孔部の間隔は、被接続物が有する複数の導体の幅のうち、最も狭いものよりも小さいことが望ましい。
【0044】
好ましくは、孔部の径は、被接続物が有する複数の導体の間隔のうち、最も狭いものの1/2以下、かつ、孔部の間隔は、被接続物が有する複数の導体の幅のうち、最も狭いものの1/2以下とするのが良い。
【0045】
なお、図2(b)に示すように、孔部の径とは、膜表面または裏面に表れる孔部の開口部分の直径Rを測定して平均した値をいう。一方、孔部の間隔とは、膜表面または裏面に表れる孔部の開口部分と隣接する孔部の開口部分との間の距離Lを測定して平均した値をいう。また、上記直径Rおよび距離Lは、多孔質膜表面の電子顕微鏡写真、光学顕微鏡写真などにより測定することができる。
【0046】
また、上記多孔質膜の膜厚は、特に限定されるものではなく、要求される機械的強度、耐電圧性などを考慮して適宜決定すれば良い。一般的には、膜厚の好ましい上限値としては、100μm、50μmなどを例示することができる。一方、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値としては、1μm、5μmなどを例示することができる。
【0047】
1.2 無電解めっき層および電解めっき部
本ACFは、導電性物質としての無電解めっき層および電解めっき部を有している。図3に例示するように、無電解めっき層14は、無電解めっきにより、上記多孔質膜12の孔部12aの内壁面12bに形成されている。一方、電解めっき部16は、電解めっきにより、無電解めっき層14が形成された孔部12a内に充填されている。
【0048】
なお、図3では、(a)その内壁面が外側方向に湾曲されている孔部、(b)円柱形状の孔部、(c)頂部を除いた円錐形状の孔部に、それぞれ無電解めっき層と電解めっき部とが形成されている場合を例示している。以下、これら無電解めっき層および電解めっき部につき、順に説明する。
【0049】
本ACFにおいて、無電解めっき層は、膜厚方向の導通を確保する以外に、孔部内に電解めっき部を充填するための下地めっきとしての機能を有している。したがって、無電解めっき層は、これを電極として孔部内に電解めっき部を充填できる範囲内で形成されておれば良い。このような観点から、無電解めっき層は、孔部の内壁面の全体を覆うように形成されていても良いし、孔部の内壁面を部分的に覆うように形成されていても良い。
【0050】
また、無電解めっき層の厚さは、特に限定されるものではなく、少なくとも下地めっきとして機能を発揮できる厚さであれば良い。また、無電解めっき層の厚さは、めっきされた全域に亘ってほぼ同じ厚さであっても良いし、部分的に異なっていても良い。
【0051】
また、図3では、無電解めっき層14が、1層からなる場合について例示しているが、特に限定されることはなく、複数層からなっていても良い。無電解めっき層が複数層からなる場合、各層は、同一または異なる金属種または組成から構成されていても良い。
【0052】
上記無電解めっき層を構成する金属(合金含む、以下省略)は、基本的には、自己触媒型の無電解めっきが可能なものであれば、何れのものであっても用いることができる。無電解めっき層を構成する金属としては、具体的には、例えば、ニッケル、銅、銀、金、白金、パラジウム、コバルトなどの金属、またはこれらを1種または2種以上含む合金などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0053】
これらのうち、無電解めっき層を構成する金属としては、ニッケル、銅、または、これらを1種または2種以上含む合金などを好適に用いることができる。比較的安価である、導通性が良い、浴安定性に優れ実用性がある、エッチング液によりエッチングしやすいなどの利点があるからである。
【0054】
一方、本ACFにおいて、電解めっき部は、主として、膜厚方向の導通信頼性を向上させる役割を有している。図3に示すように、この電解めっき部16は、孔部12aの両開口端面よりも外側に突出した突出部16a、16bを有している。
【0055】
上記突出部の高さは、特に限定されるものではなく、被接続部が有する導体の形状、導体の高さばらつきなどを考慮して適宜決定すれば良い。もっとも、突出部の高さが過度に低くなると、被接続部が有する導体と接触し難くなり、膜厚方向の導通信頼性が低下する傾向が見られる。一方、突出部の高さが過度に高くなると、圧着時に突出部がつぶされることにより、膜面方向の絶縁性を低下させるおそれがある。
【0056】
したがって、突出部の高さを決定する際には、これらに留意すると良い。突出部の高さとしては、一般的には、例えば、好ましい上限値として10μm、5μmなどを例示することができ、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値として0.1μm、1μmなどを例示することができる。
【0057】
また、上記突出部の形状は、被接続部が有する導体と接触し、導通が得られる形状であれば、特に限定されることはない。また、突出部の形状は、電解めっき部の両端とも同一の形状であっても良いし、異なる形状であっても良い。
【0058】
上記電解めっき部を構成する金属(合金含む、以下省略)は、基本的には、電解めっきが可能なものであれば、何れのものであっても用いることができる。電解めっき部を構成する金属としては、具体的には、例えば、銅、ニッケル、銀、金、白金、パラジウム、コバルト、亜鉛、インジウム、スズ、クロム、鉛、鉄などの金属、またはこれらを1種または2種以上含む合金などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0059】
これらのうち、電解めっき部を構成する金属としては、銅、ニッケル、または、これらを1種または2種以上含む合金などを好適に用いることができる。比較的安価である、導通性が良い、浴安定性に優れ実用性がある、エッチング液によりエッチングしやすいなどの利点があるからである。
【0060】
但し、上記無電解めっき層を構成する金属と、電解めっき部を構成する金属とは、エッチングレートが異なっている必要がある。この理由については、詳しくは、本ACFの製造方法の項にて後述する。
【0061】
本ACFでは、無電解めっき層を構成する金属と、電解めっき部を構成する金属とのエッチングレートを異ならせるため、両者の金属種が異なる組み合わせとしたり、同種の金属であるが、組成が異なる組み合わせとしたりすれば良い。
【0062】
なお、本ACFは、上記多孔質膜の全ての孔部が、無電解めっき層および電解めっき部を有していても良いし、無電解めっき層および/または電解めっき部を有していない孔部が部分的に存在していても良い。すなわち、被接続物が有する導体と対向する孔部のうち、少なくとも1つ以上の孔部が、無電解めっき層および電解めっき部を有しておれば良い。
【0063】
1.3 接着層
図1に例示するように、本ACF10において、接着層18a、18bは、無電解めっき層14および電解めっき部16が孔部内に形成された多孔質膜12の両面に被覆されている。
【0064】
接着層の厚さは、被接続物が有する導体の高さ、導体の間隔などを考慮して適宜設定すれば良い。一般に、接着層の厚さが過度に薄すぎると、熱圧着後の機械的強度が低くなる傾向が見られる。一方、接着層の厚さが過度に厚すぎると、熱圧着時に接着層が流動排除されにくくなる傾向が見られる。したがって、接着層の厚さは、これらに留意して選択すると良い。
【0065】
接着層の厚さとしては、具体的には、例えば、好ましい上限値として100μm、50μmなどを例示することができ、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値として、0.1μm、1μmなどを例示することができる。
【0066】
接着層形成材料としては、被接続物との接着性、絶縁性を有するものであれば、何れのものでもあっても用いることができる。具体的には、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂を半硬化状態としたプリプレグなどを例示することができる。接着層がプリプレグである場合には、被接続物が有する導体間の隙間部分に接着層が流動排除されやすく、また、被接続物との密着性も高まり、高い接続信頼性を確保しやすい利点がある。
【0067】
上記熱硬化性樹脂としては、被接続物との密着性に優れるなどの観点から、エポキシ系樹脂を好適に用いることができる。
【0068】
2.本製造方法
本製造方法は、基本的には、多孔質膜を形成する工程、無電解めっき層を形成する工程、電解めっき部を形成する工程、不要な無電解めっき層をエッチングする工程、多孔質膜の他方表面に接着層を被覆する工程、多孔質膜の一方表面に接着層を被覆する工程とを含んでいる。(以下、順に、「膜形成工程」、「無電解めっき工程」、「電解めっき工程」、「エッチング工程」、「接着層被覆工程A」、「接着層被覆工程B」ということがある。)
【0069】
2.1 膜形成工程
本製造方法において、膜形成工程は、膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、高分子よりなる多孔質膜を形成する工程である。
【0070】
ここで、上記多孔質膜の形成手法は、得たい孔形状・孔配列、膜の生産性、コストなどを考慮して適宜選択することができる。多孔質膜の形成手法としては、具体的には、例えば、(1)上述した高分子の膜に対して、パンチング、ドリリング、レーザ、化学的・物理的エッチングなどの加工手段を用いて貫通孔を後形成する手法や、(2)貫通孔を転写可能な鋳型に上記高分子融液を流し込んだ後、その膜を剥離することにより、膜表面に貫通孔を転写する手法や、(3)水と混ざらず、揮発する有機溶媒中に高分子を溶かし、この高分子溶液をキャストした支持体を、高湿度雰囲気下に存在させる手法などを例示することができる。
【0071】
好ましくは、多数の貫通孔を有する多孔質膜を比較的簡易かつ安価に得ることができるなどの観点から、(3)の手法を好適に用いることができる。以下、この手法について詳細に説明する。
【0072】
この手法を用いた場合、概ね以下の原理によって多孔質膜が自発的に形成される。
【0073】
すなわち、支持体上に、所定濃度、所定塗布厚でキャストされた高分子溶液は、有機溶媒が蒸発する際に潜熱を奪われる。そのため、温度が下がった高分子溶液の表面には、雰囲気中の水蒸気が凝結して形成された微小な水滴群が付着する。付着した水滴群は、潜熱によって高分子溶液内に生じた対流やキャピラリーフォースなどにより輸送、集積され、最終的には最密充填される。その後、水滴群が蒸発すると、自己組織化的に配列した水滴群を鋳型として、図2に示した孔形態を有する多孔質膜が形成される。
【0074】
このような多孔質膜を形成する具体的な手法としては、例えば、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、この有機溶媒に可溶な高分子と、両親媒性物質とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させる手法などを好適に用いることができる。この手法を用いた場合には、比較的簡単かつ安価に上記孔形態を有する多孔質膜が得られるので、より安価に異方性導電膜を製造することができる。
【0075】
この手法を用いる場合、上記疎水性および揮発性を有する有機溶媒としては、具体的には、例えば、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化物、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、メチルエチルケトン(MEK)、アセトンなどのケトン類などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0076】
また、上記有機溶媒に可溶な高分子としては、具体的には、例えば、ポリブタジエンゴム、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、シロキサン成分を重合成分として含むポリイミド、シロキサン成分を重合成分として含むポリアミドイミド、環式炭化水素基(脂環式炭化水素基および/または芳香族炭化水素基)を有するジイソシアネート成分またはジアミン成分と、酸無水物、多価カルボン酸、酸クロリドなどの酸成分とを重合成分として含むポリアミドイミド、このポリアミドイミドにポリエステルなどが共重合されたものなどを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0077】
この際、上記ポリイミド、ポリアミドイミドにおいて、シロキサン成分や、環式炭化水素基を有するジイソシアネート成分またはジアミン成分などを重合成分として含んでいるのは、主に、上記有機溶媒への溶解性を向上させるためである。
【0078】
なお、環式炭化水素基を有するジイソシアネート成分またはジアミン成分と、酸成分とを重合成分として含むポリアミドイミドの重合は、例えば、ジイソシアネート(ジアミン)成分と、酸成分とから、イソシアネート法または酸クロリド法などの方法を用い、任意に触媒を存在させ、アミド系溶剤などの極性溶剤中で行えば良い。また、このポリアミドイミドにポリエステルなどを共重合させる場合には、溶液重合法、溶融重合法、これらを組み合わせた方法などを用いることができる。例えば、ポリアミドイミドを溶液重合した溶液に、予め溶融重合したポリエステルなどを加えて重合する方法などを例示することができる。
【0079】
また、上記両親媒性物質とは、いわゆる、界面活性剤のことであり、疎水的な部位と親水的な部位とを合わせ持った化合物をいう。この両親媒性物質は、主として、高分子溶液の表面上に付着する水滴群を安定化させるなどの目的で添加される。
【0080】
このような両親媒性物質としては、具体的には、例えば、親水性のアクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてラクトース基もしくはカルボキシル基を併せもつポリマー、または、ヘパリンやデキストラン硫酸などのアニオン性多糖と4級の長鎖アルキルアンモニウム塩とのポリイオン性錯体などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0081】
この際、上記高分子溶液に含まれる高分子の濃度としては、好ましい上限値として50重量%、10重量%などを例示することができ、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値としては、0.05重量%、0.1重量%などを例示することができる。
【0082】
また、上記高分子溶液に含まれる両親媒性物質の割合としては、上記高分子に対し、好ましい上限値として20重量%、10重量%などを例示することができ、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値として0.01重量%、0.05重量%などを例示することができる。
【0083】
他にも、上記(3)の手法において、上述した高分子溶液に代えて、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、両親媒性高分子とを少なくとも含む高分子溶液を用いても、上記孔形態を有する多孔質膜を比較的簡単かつ安価に形成することができる。
【0084】
ここで、両親媒性高分子とは、疎水的な部位と親水的な部位とを合わせ持った高分子をいう。
【0085】
このような両親媒性高分子としては、具体的には、主鎖および/または側鎖に−SOH基、−COOH基などの親水性基を導入したポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどの高分子とカチオン性脂質とのポリイオン性錯体、例えば、ポリアミック酸とカチオン性脂質とのポリイオン性錯体などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0086】
上記において、ポリアミック酸とは、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを極性溶媒中で重合させて得られる樹脂組成物である。
【0087】
上記ポリアミック酸としては、3,3’4、4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’4,4’−ビフェニルエ−テルテトラカルボン酸、3、3’4、4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、3、3’4、4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2、2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、1、1、1、3、3、3−ヘキサフルオロ−2、2−ビス(3、4ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3、4ジカルボキシフェニル)テトラメチルジシロキサンなどのビフェニル構造を有するテトラカルボン酸およびこれらの二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸、1、2、3、4−シクロペンタンテトラカルボン酸、2、3、4、5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸、1、2、4、5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、3、4−ジカルボキシ−1−シクロヘキシルコハク酸、3、4−ジカルボキシ−1、2、3、4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸などの脂環式テトラカルボン酸およびこれらの二無水物、ピロメリット酸、2、3、6、7−ナフタレンテトラカルボン酸、1、2、5、6−ナフタレンテトラカルボン酸、1、4、5、8−ナフタレンテトラカルボン酸、2、3、6、7−アントラセンテトラカルボン酸、1、2、5、6−アントラセンテトラカルボン酸、2、3、4、5、−ピリジンテトラカルボン酸、2、6−ビス(3、4−ジカルボキシフェニル)ピリジンなどの芳香族テトラカルボン酸およびこれらの二無水物、ピロメサート酸、トリメリート酸などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0088】
また、上記ジアミン化合物としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2、5−ジアミノトルエン、2、6−ジアミノトルエン、4、4−ジアミノビフェニル、3、3’−ジメチル−4、4’−ジアミノビフェニル、3、3’−ジメトキシ−4、4’−ジアミノビフェニル、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエ−テル、2、2’−ジアミノジフェニルプロパン、ビス(3、5−ジエチル4−アミノフェニル)メタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノナフタレン、1、4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1、4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、9、10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン、1、3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4、4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、2、2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2、2’−トリフルオロメチル−4、4’−ジアミノビフェニル、4、4’−ビス(4−ジアミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニルなどの芳香族ジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタンなどの脂環式ジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、ジアミノシロキサンなどを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0089】
また、カチオン性脂質としては、炭素数4以上の脂肪族アンモニウム塩化合物、脂環式アンモニウム塩化合物などを例示することができる。
【0090】
具体的には、オクチルアミン、デシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、ドコシルアミン、シクロヘキシルアミンなどの第一アミン類の塩、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジステアリルアミン、ジドコシルアミン、N−メチルオクチルアミン、N−メチル−n−デシルアミン、N−メチル−n−テトラデシルアミン、N−メチル−n−ヘキサデシルアミン、N−メチル−n−オクタデシルアミン、N−メチル−n−エイコシルアミン、N−メチル−n−ドコシルアミン、N−メチル−n−シクロヘキシルアミンなどの第2アミン類の塩、N,N−ジメチルオクチルアミン、N,N−ジメチル−n−デシルアミン、N,N−ジメチル−n−テトラデシルアミン、N,N−ジメチル−n−ヘキサデシルアミン、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアミン、N,N−ジメチル−n−エイコシルアミン、N,N−ジメチル−n−ドコシルアミン、N,N−ジメチル−n−シクロヘキシルアミンなどの第3アミン類の塩、ジメチルジオクチルアミン、ジメチルジデシルアミン、ジメチルジテトラデシルアミン、ジメチルジヘキサデシルアミン、ジメチルジオクタデシルアミン、ジメチルジエイコシルアミン、ジメチルジドコシルアミン、ジメチルジシクロヘキシルアミンなどの第4アミン類の塩などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0091】
上記ポリアミック酸とカチオン性脂質とのポリイオン性錯体は、ポリアミック酸を塩基により中和したものを含む溶液にカチオン性脂質、または、上記アミック酸の重合に用いることができる有機溶媒に溶解させたカチオン性脂質の溶液を配合することなどにより得れば良い。
【0092】
また、ポリアミック酸とカチオン性脂質とのポリイオン性錯体を用いた場合には、膜形成後、その形成された膜を、既知の手法によりイミド化するのが好ましい。ポリアミック酸を閉環してポリイミドからなる多孔質膜とするためである。
【0093】
この際、上記高分子溶液に含まれる両親媒性高分子の濃度は、好ましい上限値として50重量%、10重量%などを例示することができ、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値として0.05重量%、0.1重量%などを例示することができる。
【0094】
なお、疎水性および揮発性を有する有機溶媒については、上述したものと同様であるので説明は省略する。
【0095】
上記(3)の手法を用いる場合、上述した高分子溶液をキャストする支持体の材料は、上記高分子溶液による液膜の形成に影響を及ぼさない一方、当該溶液に含まれる有機溶媒や各種の添加剤などにより、変質したり、腐食したりしない材料であれば、特に限定されるものではない。支持体の材料としては、具体的には、例えば、ガラス、金属、シリコンウェハーなどの無機材料、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂などの高分子材料、水、流動パラフィンなどの液体などを例示することができる。
【0096】
また、上記支持体の形状は、特に限定されるものではなく、上記高分子溶液による液膜をその表面で安定して保持できるような形状であれば良い。通常は、基板状のものを好適に用いることができる。
【0097】
また、上述した高分子溶液を支持体上にキャストする際の塗布厚は、例えば、高分子の濃度、溶液の粘度などを考慮して、水滴群が貫通孔を形成できるように適宜調節すれば良い。その塗布厚としては、具体的には、例えば、好ましい上限値として3500μm、2000μmなどを例示することができ、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値として50μm、150μmなどを例示することができる。
【0098】
また、高分子溶液をキャストした支持体は、相対湿度50%〜95%の気体雰囲気下に存在させることが望ましい。相対湿度が50%未満では、結露が不十分となる傾向などが見られ、95%を越えると、環境の制御が難しくなる傾向などが見られるからである。
【0099】
なお、上記(3)の手法では、相対湿度50%〜95%の雰囲気下中で高分子溶液を支持体上にキャストしても良いし、予め高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%〜95%の雰囲気下に置いても良い。また、相対湿度50%〜95%の気体を高分子溶液に吹きかけるなどしても良い。この際、雰囲気中の気体、吹きかける気体としては、具体的には、例えば、空気や、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガスなどを例示することができる。好ましくは、コスト的に有利な空気(大気)を用いると良い。
【0100】
また、有機溶媒の蒸発や、水滴群の蒸発を促進させるため、多孔質膜の形成に影響を及ぼさない程度で加熱、乾燥などを行っても良い。
【0101】
ここで、上記(3)の手法、すなわち、上述した原理を用いて多孔質膜を形成した場合、膜形成後、無電解めっき層、電解めっき部を形成する前に、任意付加的な処理として、膜を形成する高分子のガラス転移温度近傍まで膜を加熱しても良い。
【0102】
上述した原理によれば、多孔質膜において、隣接する各孔部同士の間に位置する隔壁は、隣接する水滴同士の隙間に入り込んだ高分子溶液により形成される。
【0103】
そのため、水滴と水滴とが最も近接するくびれ部付近では、特に、隔壁が薄くなる傾向がある。場合によっては、隣接する孔部同士が部分的に連通してしまうこともある。
【0104】
したがって、上記手法により形成した多孔質膜をそのまま用い、次工程においてその孔部内に金属めっきを充填した場合には、くびれ部に存在することがある膜面方向の連通孔を介して、隣接する孔部内の金属めっき同士が導通し、異方性導電膜の膜面方向の絶縁性が低下することも考えられる。
【0105】
ところが、膜形成後、その膜を形成する高分子のガラス転移温度近傍までさらに加熱した場合には、多孔質膜の隔壁のうち、肉厚の薄いくびれ部がいち早く軟化・溶融し、くびれ部に存在することがある連通孔が潰される。そのため、隣接する各孔部間の独立性が増大する。その後、この孔部同士の独立性を向上させた多孔質膜の孔部内に金属めっきを充填すれば、得られる異方性導電膜の膜面方向の絶縁性を一層確実なものにすることができる。
【0106】
この際、上記において「ガラス転移温度近傍」と規定しているのは、多孔質膜の隔壁のうち、くびれ部が軟化・溶融されることにより、くびれ部に存在することがある膜面方向の連通孔を潰すことができる温度範囲に多孔質膜が加熱されれば良いという趣旨である。
【0107】
したがって、上記趣旨が損なわれない範囲で、膜を形成する高分子のガラス転移温度を中心にして、その前後の温度範囲まで多孔質膜を加熱することが可能である。
【0108】
もっとも、多孔質膜を形成する高分子のガラス転移温度より過度に高温であると、多孔質膜自体が溶けてしまうなど、膜の立体構造がくずれてしまう場合がある。一方、多孔質膜を形成する高分子のガラス転移温度より過度に低温であると、くびれ部に存在することがある膜面方向の連通孔が十分に潰されない場合がある。したがって、多孔質膜を加熱する場合には、これらに留意すると良い。
【0109】
また、多孔質膜を加熱する時間は、上記温度範囲などとの兼ね合いで、適宜調節することが可能である。加熱時間が過度に長すぎると、膜の立体構造がくずれてしまう場合がある。一方、加熱時間が過度に短すぎると、くびれ部に存在することがある膜面方向の連通孔が十分に潰されない場合がある。したがって、多孔質膜を加熱する場合には、これらに留意すると良い。
【0110】
多孔質膜を加熱する方法は、接触式、非接触式の何れの加熱方法であっても良く、特に限定されるものではない。
【0111】
具体的な加熱方法としては、例えば、多孔質膜を形成する高分子が、そのガラス転移温度近傍の温度となるように調温された加熱源と、多孔質膜とを一定時間当接させる方法などを例示することができる。より具体的には、所定温度に調温されたホットプレートなどの加熱源上に、一定時間多孔質膜を載置する方法などを例示することができる。
【0112】
また例えば、当該加熱源と多孔質膜とを近接させる方法や、多孔質膜をマイクロ波により加熱する方法や、多孔質膜のくびれ部周辺をレーザなどで加熱する方法などを例示することができる。
【0113】
また、上述したように膜形成後、多孔質膜を任意で加熱する場合、さらに、膜厚方向に多孔質膜を任意で加圧しても良い。
【0114】
上述した原理によれば、高分子溶液の表面上に結露した水滴は、浮島状に密集する。そして、この浮島状に密集した水滴群が輸送、集積されると、水滴群同士がぶつかり合った境界近辺に、膜厚方向の段差ないし凹凸が生じやすい。
【0115】
ところが、膜形成後、多孔質膜を加熱・加圧した場合には、多孔質膜表面に生じた段差ないし凹凸が均一化される。そのため、電解めっき部の突出部に起因する膜厚方向の導通信頼性を損ない難い。また、くびれ部に存在することがある膜面方向の連通孔も潰されやすくなるので、隣接する各孔部間も独立化されやすく、得られる異方性導電膜の膜面方向の絶縁性をより確実なものにすることができる。
【0116】
多孔質膜を加圧する方法としては、平坦面を有する板状部材により多孔質膜を挟持し、この状態を保持したまま、公知の加圧装置により直接あるいは介在物を介して間接的に加圧する方法などを例示することができる。
【0117】
また、多孔質膜を加圧する圧力は、その膜を形成する高分子の硬さ、くびれ部の肉厚、膜の加熱時間などを考慮して種々調節すれば良い。すなわち、膜形成過程において生じた段差を平坦にすることができる圧力であれば良い。多孔質膜を過度に加圧すると、膜の立体構造がくずれてしまう場合がある。一方、多孔質膜に対する加圧力が過度に少ないと、段差を平坦にし難い。したがって、多孔質膜を加圧する場合には、これらに留意すると良い。
【0118】
また、多孔質膜を加圧する場合、この加圧は、多孔質膜の加熱とほぼ同時に行っても良いし、加圧した多孔質膜を加熱しても、加熱した多孔質膜を加圧しても良い。すなわち、多孔質膜に対して少なくとも所望の熱および圧力が掛かった状態が得られれば、何れのタイミングで加圧しても良い。
【0119】
また、上記多孔質膜は、基本的に疎水性を示す高分子より形成されている。そのため、後工程におけるめっき処理などで使用される、めっき液などの親水性の液体との濡れ性を改善するなどの目的で、多孔質膜に対して、予めUV照射、コロナ処理、プラズマ処理などの親水化処理を施しておいても良い。
【0120】
2.2 無電解めっき工程
本製造方法において、無電解めっき工程は、無電解めっきにより無電解めっき層を形成する工程である。
【0121】
ここで、図4に示すように、無電解めっき層14は、多孔質膜12の一方表面と、孔部12aの内壁面12bとに形成される。この無電解めっき工程では、この図4に示すように無電解めっき層を形成することができれば、何れの方法であっても用いることが可能である。具体的には、例えば、以下のような方法を例示することができる。
【0122】
すなわち、先ず、膜支持体上に多孔質膜を載置し、固定する。膜支持体の材質として、具体的には、例えば、ガラスなどの無機材料、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)などのフッ素系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの有機材料などを例示することができる。
【0123】
また、多孔質膜の固定方法は、位置ずれしないように膜支持体上に多孔質膜を固定できれば、何れの物理的・化学的な固定方法であっても用いることができる。多孔質膜の固定方法としては、具体的には、例えば、膜支持体上に多孔質膜を吸着させる方法、膜支持体上に形成した粘着層により多孔質膜を固定する方法などを例示することができる。
【0124】
次に、多孔質膜の一方表面および孔部の内壁面に、無電解めっきが適切になされるように必要に応じて予め前処理を施す。前処理としては、具体的には、例えば、油分などを取り除くための脱脂処理、膜基材と金属めっきとの密着性を向上させるための表面粗化(エッチング)処理、無電解めっき反応を起こさせるのに必要な触媒を付与する触媒付与処理などが挙げられる。
【0125】
なお、上記脱脂処理に用いる脱脂剤は、酸性脱脂剤、アルカリ性脱脂剤(例えば、有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基、界面活性剤などから構成される)の何れであっても良く、適宜選択して用いれば良い。
【0126】
また、上記表面粗化処理に用いる粗化処理液としては、具体的には、例えば、塩酸、硫酸などの無機酸、KOH、NaOHなどのアルカリ金属水酸化物などを含む溶液などを例示することができる。
【0127】
また、上記触媒付与処理により付与される触媒としては、具体的には、例えば、パラジウム、銀などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合された状態で付与されていても良い。
【0128】
また、触媒付与方法としては、具体的には、例えば、スズ−パラジウムコロイドなどを含むキャタリスト液(触媒付与液)に多孔質膜を浸漬し、触媒付与面にスズ−パラジウムコロイドを吸着させ、その後、硫酸、フッ化物などを含む酸性溶液であるアクセレーター液に浸漬してスズを除去し、パラジウムを触媒活性化させるなどといった「キャタリスト/アクセレーター法」、塩化スズなどの塩酸溶液からなるセンシタイザー液に多孔質膜を浸漬し、触媒付与面にスズイオンを吸着させ、その後、塩化パラジウムなどの塩酸溶液からなるアクチベーター液に浸漬してパラジウムと置換させるなどといった「センシタイザー/アクチベーター法」、パラジウムイオン錯体などからなるアルカリキャタリスト液(触媒付与液)に多孔質膜を浸漬し、触媒付与面にパラジウムイオン錯体を吸着させ、その後、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤を含む還元液に浸漬して金属パラジウムに還元させるなどといった「アルカリキャタリスト法」などを例示することができる。これら触媒付与方法は、多孔質膜を形成する高分子材料の種類などを考慮して適宜選択すれば良い。
【0129】
以上の各前処理は、各処理の目的が達せられるように処理温度、処理時間などの条件を適宜設定して行えば良い。
【0130】
次に、無電解めっき層を構成する金属成分を少なくとも含んだ無電解めっき浴中に、膜支持体により支持された状態の多孔質膜を浸漬し、多孔質膜の一方表面および孔部の内壁面に無電解めっき層を形成する。
【0131】
上記無電解めっき浴としては、具体的には、例えば、無電解銅めっき浴、無電解ニッケル−リンめっき浴、無電解ニッケル−ホウ素めっき浴などを例示することができる。
【0132】
この際、無電解めっき浴の温度、浸漬時間などの無電解めっき条件は、一般に、用いる無電解めっき液の組成などにより異なる。基本的には、後工程において、孔部内に電解めっき部を充填する際の下地めっきとしての機能を少なくとも発現できる程度まで、孔部の内壁面に無電解めっき層を形成できれば、本工程の目的は達せられる。そのため、これを考慮して、無電解めっき浴の温度、浸漬時間などの条件を適宜設定すれば良い。
【0133】
なお、上記方法によれば、多孔質膜の他方表面側は、その表面に接触している膜支持体がマスク材として機能するため、マスキングされた状態にある。そのため、多孔質膜の他方表面に前処理や無電解めっきがなされることはなく、ほぼ多孔質膜の一方表面および孔部の内壁面にだけ無電解めっきをすることができる。また、多孔質膜の支持とマスキングとを同時にすることができるので、生産性の向上にも寄与する。
【0134】
また、上記無電解めっき層の形成は、1回の処理で行っても良いし、複数回の処理で行っても良い。
【0135】
2.3 電解めっき工程
本製造方法において、電解めっき工程は、電解めっきにより電解めっき部を孔部内へ充填する工程である。
【0136】
ここで、図5に示すように、電解めっき部16は、無電解めっき層14が形成されている多孔質膜12の孔部12a内に充填される。また、充填された電解めっき部16は、多孔質膜12の両表面に形成されている孔部12aの両開口端面よりも外側にその一部が突出した突出部16a、16bを有している。
【0137】
この電解めっき工程では、上記形態を有する電解めっき部を孔部内へ充填することができれば、何れの方法であっても用いることが可能である。具体的には、例えば、以下のような方法を例示することができる。
【0138】
すなわち、上記無電解めっき工程にて無電解めっき層を形成した後、多孔質膜の他方表面側にある膜支持体を剥離するとともに、多孔質膜の一方表面側(無電解めっき層により覆われた表面側)に膜支持体を貼り付け、多孔質膜を固定する。なお、この膜支持体の種類、多孔質膜の固定方法は、上記無電解めっき工程にて上述した通りである。
【0139】
次に、この貼り替えた膜支持体上に固定されている多孔質膜を、この状態を保ったまま、電解めっき部を構成する金属成分を少なくとも含んだ電解めっき浴中に浸漬し、電解めっきを行う。
【0140】
上記電解めっき浴としては、具体的には、例えば、電解銅めっきの場合には、硫酸銅浴、ピロリン酸銅浴などを例示することができる。この際、硫酸銅浴を用いる場合には、レベリング性に優れた、いわゆるビアフィリングタイプのものを用いると良い。レベリング性を付与する添加剤を含んだ硫酸銅浴を用いると、孔部内に優先的に銅めっきを充填しやすいからである。レベリング性を付与する添加剤の種類、含有量などについては、多孔質膜の孔径、膜厚(孔の深さ)などを考慮して適宜選択すれば良い。また、電解ニッケルめっきの場合には、ワット浴、スルファミン酸浴などを例示することができる。
【0141】
但し、この電解めっきの金属については、無電解めっきの金属とエッチングレートが異なっている必要がある。その理由については、次の「エッチング工程」の項で説明する。
【0142】
本工程では、電解めっきが進むにつれて、めっき液と接触している孔部内壁面の無電解めっき層には、金属めっきが析出してくる。これが成長することにより、金属めっきにより孔部内が充填されていく。
【0143】
この際、多孔質膜の一方表面は膜支持体により覆われているので、多孔質膜の一方表面に形成されている無電解めっき層の厚さに相当する分だけ、孔部開口端面よりも外側に金属めっきが成長する。これにより、図5に示すように、多孔質膜12の一方表面に形成されている無電解めっき層14の表面とほぼ同一面内にその先端部が位置する突出部16aが形成される。
【0144】
一方、電解めっき条件を適宜調節することにより、多孔質膜の他方表面に形成されている孔部開口端面よりも外側にめっき金属を過剰に析出させれば、図5に示すように、孔部の開口端面よりも外側に突出した突出部16bが形成される。
【0145】
なお、上記方法によれば、無電解めっき層が形成されている多孔質膜の一方表面は、その表面に接触している膜支持体がマスク材として機能するため、マスキングされた状態にある。そのため、無電解めっき層が形成されている多孔質膜の一方表面に電解めっきがなされることはない。
【0146】
また、電解めっき浴の温度、電流密度、通電時間などの電解めっき条件は、一般に、用いる電解めっき液の組成などにより異なる。基本的には、突出部を有する電解めっき部を孔部内に充填できれば、本工程の目的は達せられる。そのため、この点などを考慮して、各種電解めっき条件を適宜設定すれば良い。
【0147】
2.4 エッチング工程
本製造工程において、エッチング工程は、多孔質膜の一方表面に形成された無電解めっき層をエッチングにより除去する工程である。
【0148】
すなわち、図5に示される状態のままでは、多孔質膜12の一方表面に形成されている無電解めっき層14と、電解めっき部16とは導通している。そのため、このままでは、膜面方向の絶縁性が確保されていない。そこで、図6に示すように、多孔質膜12の一方表面に形成された無電解めっき層14をエッチングにより選択的に除去することにより、膜面方向の絶縁性が確保される。またさらに、このエッチング工程を経ることにより、電解めっき部16の突出部16aが、孔部12aの開口端面よりも外側に突出され、膜厚方向の導通信頼性も確保される。
【0149】
この際、仮に、無電解めっきの金属と電解めっきの金属とのエッチングレートが同じであるとすると、せっかく形成した電解めっき部16の突出部16aが、多孔質膜12の一方表面に形成されている無電解めっき層14とともにエッチングされてしまう。そのため、本願では、これを防ぐために、無電解めっきの金属と電解めっきの金属とのエッチングレートを異ならせているのである。
【0150】
また、本工程において用いるエッチング液の組成、エッチング時間、エッチング温度、エッチング方法(浸漬、スプレーなど)などのエッチング条件については、基本的に、無電解めっきの金属と電解めっきの金属との組み合わせ、無電解めっき層の厚みなどにより異なる。そのため、各種エッチング条件については、これらを考慮して適宜設定すれば良い。
【0151】
2.5 接着層被覆工程Aおよび接着層被覆工程B
本製造方法において、接着層被覆工程Aは、多孔質膜の他方表面に接着層を被覆する工程である。
【0152】
この接着層被覆工程Aでは、図7(a)に示すように、多孔質膜12の他方表面への接着層18bの被覆は、無電解めっき層14の除去前に行っても良いし、図7(b)に示すように、無電解めっき層14の除去後に行っても良い。
【0153】
一方、本製造方法において、接着層被覆工程Bは、多孔質膜の一方表面に接着層を被覆する工程である。
【0154】
この接着層被覆工程Bでは、多孔質膜の一方表面への接着層の被覆は、上記エッチング工程の後であれば、何れの段階で行っても良い。すなわち、図8(a)に示すように、多孔質膜12の一方表面への接着層18aの被覆は、無電解めっき層14の除去後すぐに行っても良いし、図8(b)に示すように、上記接着層被覆工程Aの後、つまり、先に接着層18bを被覆した後に行っても良い。
【0155】
上記接着層被覆工程Aおよび接着層被覆工程Bを何れのタイミングで行うかについては、各製造工程のレイアウト、生産効率などを考慮して、各種の組み合わせの中から最適なものを選択すれば良い。
【0156】
ここで、両工程における接着層の被覆方法としては、具体的には、例えば、コーターなど公知の塗布手段を用いて上述した接着層形成材料を塗布する方法や、予め作製しておいた膜状の接着層をラミネートする方法などが挙げられる。
【0157】
後者の方法を用いる場合、取扱い性などを向上させる観点から、セパレータ上に接着層を形成したものを用いて、接着層をラミネートすると良い。
【0158】
この場合のセパレータは、接着層との剥離性に優れた材料から形成されておれば、基本的には、何れのものであっても用いることができる。
【0159】
セパレータ材料としては、具体的には、例えば、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)などのフッ素系樹脂、シリコーン樹脂や、シリコーン樹脂層などの離型層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂、オレフィン樹脂などを例示することができる。
【0160】
このように、セパレータ上に接着層を形成したものを用いた場合には、得られた異方性導電膜の両面がセパレータにより覆われるので、接着層に埃などが付着しにくく、取扱い性が向上するなどの利点がある。
【0161】
また、異方性導電膜の使用時には、接着層からセパレータを剥離するため、各セパレータの剥離性に差をつけておくと、セパレータをより剥離しやすくなる利点がある。
【0162】
以上、本製造方法によれば、比較的安価なめっき手法を用いて、多孔質膜の孔部の両開口端面よりも外側にその一部が突出した突出部を有する電解めっき部を備えた本ACFが得られる。そして、得られた本ACFは、その使用時に、電解めっき部の突出部が、電極・バンプなどの被接続物が有する導体と容易に接触するので、膜厚方向の導通信頼性が向上する。
【0163】
本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【実施例】
【0164】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、以下では、上記実施形態における部材と同一機能を有する部材については、同一の番号を付している。
【0165】
1.実施例に係る異方性導電膜の作製
クロロホルムにポリブタジエンゴム(JSR製、「RB820」)を0.5[wt%]の濃度で溶解した液に、両親媒性物質として、ドデシルアクリルアミドとカプロン酸との共重合体をポリブタジエンゴムに対して10[wt%]添加し、高分子溶液を調製した。
【0166】
次いで、この高分子溶液を、相対湿度50%の空気を連続的に吹き付けているシャーレ(φ90[mm])に塗布膜厚780[μm]でキャストし、クロロホルムを揮発させた。その結果、膜厚方向に貫通する多数の孔部を有し、孔部がハニカム状に配列するとともに、孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている、ポリブタジエンゴムよりなる多孔質膜が得られた。なお、多孔質膜の孔部の孔径は、5μmであった。
【0167】
次いで、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体フィルム(以下、「FEPフィルム」という。)上に多孔質膜を載置、吸着させ、これを一対のガラス基板により挟持した。次いで、これを、ホットプレート上に載置するとともに、ゴムシートを介して加圧装置によりガラス基板上面を加圧することにより、孔部の独立性を確実なものとした。なお、この時の加熱・加圧条件は100℃×1分間×6Paとした。
【0168】
次いで、ガラス基板を取り外し、FEPフィルム上の多孔質膜に対して、254nmのUV光を10分間照射し、多孔質膜の一方表面(FEPフィルムと接している側と反対側の表面)および孔部の内壁面に親水処理を施した。なお、このUV光の照射により、多孔質膜を形成するポリブタジエンゴムは架橋されている。
【0169】
次に、このようにして得られた、FEPフィルム上に載置、固定された多孔質膜(孔径5μm、深さ2μm)の一方表面および孔部の内壁面に対して、アルカリ脱脂剤(奥野製薬工業(株)製、「エースクリーン850」)を用いて40℃で1分間脱脂処理を行った。
【0170】
次いで、触媒付与剤(奥野製薬工業(株)製、「OPC−50インデューサー」)を用いて40℃で5分間触媒吸着処理を行い、多孔質膜の一方表面および孔部の内壁面にパラジウムイオンを吸着させた。
【0171】
次いで、還元剤(奥野製薬工業(株)製、「OPC−150クリスター」)を用いて25℃で5分間還元処理を行い、多孔質膜の一方表面および孔部の内壁面に吸着されたパラジウムイオンを金属パラジウムに還元し、触媒を活性化させた。これにより、多孔質膜の一方表面および孔部の内壁面にパラジウム触媒を付与した。
【0172】
次いで、一方表面および孔部の内壁面に触媒が付与された多孔質膜を、FEPフィルム上に載置、固定したままの状態で、40℃の無電解ニッケルめっき液(奥野製薬工業(株)製、「TMP−化学ニッケル」)中に10分間浸漬し、無電解ニッケルめっきを行った。これにより、図9に示すように、多孔質膜12の一方表面および孔部12aの内壁面12bに厚み0.5μmの無電解ニッケルめっき層14を形成した。なお、多孔質膜12の他方表面は、FEPフィルム20によりマスキングされているので、パラジウム触媒が付与されることなく、また、無電解ニッケルめっき層も形成されていない。
【0173】
次に、多孔質膜の他方表面側にあるFEPフィルムを剥離した。その後、図10に示すように、多孔質膜12の一方表面側に剥離したFEPフィルム20を貼り付け、多孔質膜12を固定した。
【0174】
次いで、ビアフィリングタイプの硫酸銅めっき浴中に、上記FEPフィルムに固定された多孔質膜を浸漬し、陰極電流密度0.5A/dmにて4分間電解銅めっきを行った。その結果、図11に示すように、無電解ニッケルめっき層14が形成されている孔部12a内に電解銅めっき部16が充填された。
【0175】
この際、電解銅めっき部16の上部には、多孔質膜12の一方表面に形成されている無電解めっき層14の表面とほぼ同一面内にその先端部が位置する突出部16aが形成された。また、電解銅めっき部16の下部には、多孔質膜12の他方表面に形成されている孔部12aの開口端面よりも外側に、電解銅めっきが過剰に析出して形成された、高さ0.5μmの突出部16bが形成された。
【0176】
なお、上記ビアフィリングタイプの硫酸銅めっき浴は、硫酸銅200g/L、硫酸50g/L、塩素イオン50mg/L、添加剤(奥野製薬工業(株)製、「トップルチナα」)8.5g/Lを混合して調製したものである。
【0177】
次に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製、「エピコート1001」)と、NBR(日本ゼオン製、「ニポール1072J」)と、イミダゾール硬化剤(四国化成製、「キュアゾールC11Z」)とを、ビスフェノールA型エポキシ樹脂:NBR:イミダゾール硬化剤=40:50:5の重量割合で、固形分が30[wt%]となるようにMEK/THF=50/50の混合溶媒に溶解し、接着層形成液を調製した。
【0178】
次いで、他のFEPフィルム22上に、塗布厚20μmで上記接着層形成液を塗工した後、60℃で10分間乾燥させ、厚み5μmの接着層を形成した。次いで、図12に示すように、FEPフィルム22上の接着層18bを、多孔質膜12の他方表面(電解銅めっき部16の突出部16bが形成されている側)に張り合わせた。これにより、多孔質膜12の他方表面に接着層18bを被覆した。
【0179】
次に、図13に示すように、これまで多孔質膜12を支持していたFEPフィルム20を剥離した。
【0180】
次いで、卓上エッチング機((株)山縣機械製、「YCE−85R」)を用いて、エッチング液(メック(株)製、「メックリムーバーNH−1862」)を、スプレー圧0.2MPa、液温25℃で2.5分間噴霧することにより、多孔質膜12の一方表面に形成されていた無電解ニッケルめっき層14(厚み0.5μm)をエッチングにより選択的に除去した。
【0181】
これにより、多孔質膜12の一方表面に形成されている孔部12aの開口端面から、電解めっっき部16の突出部16aを露出させた。なお、この突出部の高さは、0.5μmであった。
【0182】
次いで、フッ素系樹脂により表面が離型処理されたPETフィルム上に、上記調製した接着層形成液を塗布厚20μmで塗工した後、60℃で10分間乾燥させ、厚み5μmの接着層を形成した。次いで、図14に示すように、PETフィルム24上の接着層18aを、多孔質膜12の一方表面(電解銅めっき部16の突出部16aが形成されている側)に張り合わせた。これにより、多孔質膜12の一方表面に接着層18aを被覆した。
【0183】
以上のようにして、離型性の異なるFEPフィルム22、PETフィルム24によりその両面が被覆された異方性導電膜10を得た。
【0184】
2.異方導電性の評価
次に、上記作製した実施例に係る異方性導電膜につき、膜厚方向の導通性能および膜面方向の絶縁性能を評価することにより異方導電性の評価を行った。
【0185】
(1)膜厚方向の導通性能の評価
膜厚方向の導通性能の評価は、以下のように行った。すなわち、実施例に係る異方性導電膜の一方面を、ピッチ=30μm、L/S(ライン/スペース)=15μmのくし型電極(隣り合う電極が、絶縁基材により互いに絶縁されて配置されているくし状の電極)に仮圧着した。次いで、くし型電極を仮圧着した異方性導電膜を、その他方面側が、ガラス板上に積層した銅板と接するように載置した。次いで、この状態のまま、170℃で20秒間、2MPaの圧力で本圧着することにより試料Aを作製した。
【0186】
次いで、得られた試料につき、テスター(AND社製、AD5522)で導通性能を評価した。なお、本評価では、試料数は、N=10[個]とした。
【0187】
本評価の結果、試料Aは、10/10[個]のサンプルにおいて、くし型電極間の抵抗値が0[Ω]となった。この結果から、実施例に係る異方性導電膜は、膜厚方向の導通が十分に確保されていることが確認できた。
【0188】
(2)膜面方向の絶縁性能の評価
膜面方向の絶縁性能の評価は、以下のように行った。すなわち、実施例に係る異方性導電膜の一方面を、上記と同様のくし型電極に仮圧着した。次いで、くし型電極を仮圧着した異方性導電膜を、その他方面側が、ガラス板と接するように載置した。次いで、この状態のまま、170℃で20秒間、2MPaの圧力で本圧着することにより試料Bを作製した。
【0189】
次いで、得られた試料Bにつき、100[V]の直流電圧を印加したときの電流値[A]から膜面方向の抵抗を算出することにより絶縁性能を評価した。なお、本評価では、試料数は、N=10[個]とした。また、測定装置には、KEITHLEY社製 237 HIGH VOLTAGE SOURCE MEASURE UNITを使用した。
【0190】
本評価の結果、試料Bは、10/10[個]のサンプルにおいて、くし型電極間の抵抗値が10[Ω]以上になった。この結果から、実施例に係る異方性導電膜は、膜面方向の絶縁性が十分に確保されていることが確認できた。
【0191】
以上の実施例によれば、比較的安価なめっき手法を用いて、多孔質膜の孔部の両開口端面よりも外側にその一部が突出した突出部を有する電解めっき部を備えた異方性導電膜が得られることが確認できた。また、得られた異方性導電膜は、基本性能である異方導電性に優れ、しかも、突出部により膜厚方向に導通化しやすく、導通信頼性に優れていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】本ACFの断面図である。
【図2】本ACFに用いる多孔質膜の一例を模式的に示した図であり、(a)が多孔質膜の断面図、(b)が多孔質膜の平面図である。
【図3】本ACFが有する多孔質膜において、異なる形状の孔部内に、無電解めっき層および電解めっき層がそれぞれ形成された状態の一例を模式的に示した拡大図である。
【図4】本製造方法における無電解めっき工程において形成された無電解めっき層の一例を模式的に示した拡大図である。
【図5】本製造方法における電解めっき工程において、孔部内に充填された電解めっき部の一例を模式的に示した拡大図である。
【図6】本製造方法におけるエッチング工程において、多孔質膜の一方表面に形成されていた無電解めっき層をエッチングにより選択的に除去した状態の一例を模式的に示した拡大図である。
【図7】本製造方法における接着層被覆工程Aにおいて、多孔質膜の他方表面に接着層を被覆した状態の一例を模式的に示した拡大図である。
【図8】本製造方法における接着層被覆工程Bにおいて、多孔質膜の一方表面に接着層を被覆した状態の一例を模式的に示した拡大図である。
【図9】実施例において、FEPフィルム上に載置、固定した多孔質膜の一方表面および孔部の内壁面に無電解ニッケルめっき層を形成した状態の一例を模式的に示した図である。
【図10】実施例において、電解銅めっき部を行う前の多孔質膜およびFEPフィルムの関係を模式的に示した図である。
【図11】実施例において、無電解ニッケルめっき層が形成されている孔部内に電解銅めっき部を充填した状態の一例を模式的に示した図である。
【図12】実施例において、FEPフィルム上に形成した接着層により、多孔質膜の他方表面を被覆した状態の一例を模式的に示した図である。
【図13】実施例において、多孔質膜の一方表面に形成されている無電解ニッケルめっき層を選択的にエッチングして、孔部の開口端面から、電解めっっき部の突出部を突出させた状態の一例を模式的に示した図である。
【図14】実施例において作製した異方性導電膜の一例を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0193】
10 異方性導電膜
12 多孔質膜
12a 孔部
12b 内壁面
12c 隔壁
12d くびれ部
14 無電解めっき層
16 電解めっき部
16a 突出部
16b 突出部
18a 接着層
18b 接着層
20 FEPフィルム
22 FEPフィルム
24 PETフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、高分子よりなる多孔質膜と、
無電解めっきにより前記孔部の内壁面に形成された無電解めっき層と、
前記無電解めっきの金属とエッチングレートが異なる金属による電解めっきにより前記孔部内に充填され、前記孔部の両開口端面よりも外側にその一部が突出した突出部を有する電解めっき部と、
前記多孔質膜の両面に被覆された接着層とを
備えたことを特徴とする異方性導電膜。
【請求項2】
前記多孔質膜は、前記孔部がハニカム状に配列されるとともに、前記孔部の内壁面が外側方向に湾曲されていることを特徴とする請求項1に記載の異方性導電膜。
【請求項3】
前記多孔質膜は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、この有機溶媒に可溶な高分子と、両親媒性物質とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることにより形成されうるものであることを特徴とする請求項2に記載の異方性導電膜。
【請求項4】
前記多孔質膜は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、両親媒性高分子とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることにより形成されうるものであることを特徴とする請求項2に記載の異方性導電膜。
【請求項5】
膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、高分子よりなる多孔質膜を形成する工程と、
無電解めっきにより前記多孔質膜の一方表面および前記孔部の内壁面に無電解めっき層を形成する工程と、
前記無電解めっきの金属とエッチングレートが異なる金属による電解めっきにより、前記多孔質膜の両表面に形成されている孔部の両開口端面よりも外側にその一部が突出した突出部を有する電解めっき部を孔部内に充填する工程と、
前記多孔質膜の一方表面に形成された無電解めっき層をエッチングにより除去する工程と、
前記無電解めっき層の除去前または除去後に前記多孔質膜の他方表面に接着層を被覆する工程と、
前記無電解めっき層の除去後に前記多孔質膜の一方表面に接着層を被覆する工程とを有することを特徴とする異方性導電膜の製造方法。
【請求項6】
前記電解めっき部の充填は、前記無電解めっき層が形成された多孔質膜の一方表面をマスキングした状態で行われることを特徴とする請求項5に記載の異方性導電膜の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質膜は、前記孔部がハニカム状に配列されるとともに、前記孔部の内壁面が外側方向に湾曲されていることを特徴とする請求項5または6に記載の異方性導電膜の製造方法。
【請求項8】
前記多孔質膜の形成は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、この有機溶媒に可溶な高分子と、両親媒性物質とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることによることを特徴とする請求項7に記載の異方性導電膜の製造方法。
【請求項9】
前記多孔質膜の形成は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、両親媒性高分子とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることによることを特徴とする請求項7に記載の異方性導電膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−73388(P2007−73388A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260066(P2005−260066)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】