説明

異方性熱伝導素子及びその製造方法

【課題】熱源の熱を効率よく伝導し、且つ、グラフェンシートが積層された構造体と異種部材との接合部分の強度を高め、しかも、容易に製造することが可能な異方性熱伝導素子を提供する。
【解決手段】グラファイト複合体11は、プレート状のグラファイト構造体20と、構造体20の両平面に接合された銅板24,25とにより構成されている。構造体20は、積層方向と交差する方向の厚みが薄く形成されている。銅板24,25は、チタンを含むインサート材35を構造体20との間に介在させた状態で、銅板24,25の外側から加圧され、真空環境及び所定の温度環境のもとで加圧加熱接合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が方向によって異なる構造体を有する異方性熱伝導素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や電子デバイスから発生する熱を効果的に移動させて放熱する素子として、グラフェンシートが積層された構造を有するグラファイトを利用したものが知られている。例えば、特許文献1には、グラファイトの一部に金属が埋め込まれ、熱源から熱を受ける受熱部が上記金属に接触するように構成された熱伝導体が開示されている。また、特許文献2には、熱源との接触面と交差する面に沿ってグラフェンシートが積層されたグラファイトの周部を被覆するように支持部材が設けられ、効率的な熱伝導を実現しつつ、素子の強度を高めることが可能な異方性熱伝導素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−28283号公報
【特許文献2】特開2011−23670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の従来の熱伝導体は、グラファイトに形成された孔にグラファイトよりも融点の低い溶融金属(例えばアルミニウム)が流し込まれて冷却されることにより、グラファイトの一部に金属が埋め込まれた構造を有する。しかしながら、グラファイトは、一般に組成が脆く崩れ安い性質を有しているため、特許文献1の熱伝導体では、金属との接触部分が崩れ易く、熱伝導体としての寿命が短いという問題がある。また、グラファイトと金属との接合面は、互いの元素が混ざり合い難い界面(以下「接合界面」という。)であるため、上記熱伝導体は、上記接合界面における熱抵抗が大きい。そのため、グラファイトから上記金属への熱伝導の効率が極めて悪い。
【0005】
特許文献2に記載の従来の異方性熱伝導素子は、スパッタ法や蒸着法、メッキ法などの成膜法によってグラファイトの表面に形成された金属膜を有する。しかしながら、グラファイトの表面の元素と金属膜の元素との間には、化学的な結合が十分になされていないため、接合界面に接するグラファイト面が崩れ易い。また、金属膜を形成するために、メッキ法などの成膜法による成膜工程が必要なため、異方性熱伝導素子の製造が煩雑である。また、成膜工程において、グラファイトの表面に対してチタン層、ニッケル層(又は銅層)、金層を順次形成する必要があるため、金属膜を形成する成膜工程が極めて煩雑である。また、グラファイトと金属膜との接合界面における熱抵抗が大きいため、グラファイトから上記金属膜への熱伝導の効率が極めて悪い。また、上記異方性熱伝導素子は、グラファイトの表面にセラミックス層を形成する場合は、グラファイトの表面とセラミックス層との接着性を高めるために、プラズマ法やレーザー法によってグラファイトの表面を活性化処理した後に、セラミックスをグラファイトの表面に容射させている。しかしながら、プラズマ法及びレーザー法は、いずれも、プラズマ照射装置又はレーザー照射装置を必要とし、これらの照射工程の後に接合工程を行い、場合によっては加熱工程を伴う。そのため、接着性が高まるとはいえども、セラミックス層を形成する工程が極めて煩雑である。
【0006】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱源の熱を効率よく伝導し、且つ、グラフェンシートが積層された構造体と異種部材との接合部分の強度を高めると共に当該接合部分の熱抵抗を低減させ、しかも、容易に製造することが可能な異方性熱伝導素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明は、第1方向に沿ってグラフェンシートが積層された構造体と、上記第1方向と交差する第2方向における上記構造体の端面に接合される中間部材とを有する異方性熱伝導素子として構成されている。この異方性熱伝導素子は、上記構造体及び上記中間部材それぞれの融点よりも低い温度環境のもとで、上記中間部材が少なくともチタンを含むインサート材を介して上記端面に加圧接合されてなるものである。
【0008】
上記構造体の上記端面は、複数のグラフェンシートのエッジが第1方向に並ぶエッジ面であり、上記端面(エッジ面)に存在する原子は不飽和な状態であるため、他の物質と反応し易い活性状態にある。したがって、反応性の高い活性金属であるチタンを含むインサート材を上記端面に介在させることで、チタンと炭素とが積極的に反応し、チタンカーバイド(TiC)などの金属化合物が形成される。また、中間部材が上記端面に加圧接合されるため、加圧によって構造体及び中間部材双方の原子のエネルギーが大きくなり、接合部分だけでなく、構造体及び中間部材の内部にまで原子拡散が誘発される。この原子拡散によって、接合部分における構造体及び中間部材それぞれとインサート材との反応が促進されて、インサート材を構成するチタンを含むチタンカーバイド(TiC)などの金属化合物が構造体及び中間部材それぞれの内部にまで生成される。これにより、中間部材と構造体とがあたかも一体の物質の如く強固に接合される。また、インサート材には活性金属であるチタンが含まれているため、高温加圧下において溶融したインサート材が構造体に対して高い濡れ性を発揮する。これにより、上記端面からグラフェンシート間にチタンが浸透し、構造体側の原子拡散がより誘発され、中間部材と構造体との強固な接合が実現される。更にまた、構造体と中間部材との接合部分に上記金属化合物が中間層(合金層)として存在するため、構造体から中間部材への熱抵抗が小さくなり、効率のよく熱伝導が行われる。
【0009】
なお、加圧接合の方法としては、例えば、インサート材を用いたろう接合(ろう付け)や、固相拡散接合、液相拡散接合を用いることができる。
【0010】
(2) 上記インサート材の具体例として、銀、銅およびチタンから構成されており、銀の重量比率が銅及びチタンの重量比率よりも高いものが好ましい。
【0011】
銀は、金属の中で最も熱伝導率が高い物質である。したがって、このようなインサート材を介在させて、銀よりも熱伝導率の大きい上記構造体と上記中間部材とを接合させることで、接合部分の中間層の広い範囲に銀化合物が生成される。これにより、構造体を伝わる熱が上記中間層においても効率良く伝達し、中間部材へ伝わる。
【0012】
(3) 上記インサート材の別の具体例として、ニッケル、銅およびチタンから構成されており、チタンの重量比率がニッケル及び銅の重量比率よりも高いものが好ましい。
【0013】
一般に、異種物質同士が接合された物体は、高温環境に置かれると、各物質の熱膨張率の差に起因して、接合部分にクラックが生じる。本発明の異方性熱伝導素子においても、構造体と中間部材との熱膨張率は異なるが、極めて濡れ性の高いチタンをより多く含むインサート材を用いることにより、構造体及び中間部材の内部にチタン化合物が広範囲に分布することになる。このチタン化合物は、構造体及び中間部材の内部側へ進むにつれて徐々に分布率が低下する。そのため、構造体から中間部材に至る部分の熱膨張率の変化が緩やかとなり、本発明の異方性熱伝導素子が高温環境に置かれたとしても、接合部分にクラックが生じることがない。
【0014】
(4) 上記構造体の具体例として、上記第2方向の厚みが薄いプレート状に形成されており、当該構造体の上記第2方向の端面に箔状又はプレート状に形成された上記中間部材が接合されたものが好ましい。
【0015】
このように構造体が構成されていれば、例えば、第2方向の一方面に熱源が取り付けられ、他方面にヒートシンクなどの放熱体が取り付けられている場合に、熱源からの熱が構造体を通って反対側の放熱体へ素早く効率的に伝導させることができる。また、中間部材が熱源や放熱体の取付座の役割を担うため、熱源や放熱体を構造体に直に取り付ける場合に比べて構造体の損傷を防止することができる。
【0016】
(5) 上記構造体の別の具体例として、上記第1方向の厚みが薄いプレート状に形成されており、上記第2方向の端面に箔状又はプレート状に形成された上記中間部材が接合されたものが好ましい。
【0017】
このように構造体が構成されていれば、例えば、第1方向の端面に熱源が取り付けられ、第2方向の端面にヒートシンクなどの放熱体が取り付けられている場合に、熱源からの熱が熱源の取り付け面において放射状に素早く効率的に伝導させることができる。また、中間部材が放熱体の取付座の役割を担うため、放熱体を構造体に直に取り付ける場合に比べて構造体の損傷を防止することができる。
【0018】
(6) 上記構造体の更に別の具体例として、上記第1方向の厚みが薄いプレート状に形成されており、上記第1方向の一方の端面から他方の端面へ向けて形成された孔を有しており、上記中間部材が上記インサート材を介して上記孔の内面に接合されたものが好ましい。
【0019】
上記第1方向の厚みが薄いプレート状に形成された構造体では、熱伝導率の異方性に起因して、第2方向への熱伝導性は極めて良いが、第1方向(厚み方向)への熱伝導性は極めて悪い。しかしながら、このような中間部材が上記孔の内面に接合されているため、中間部材に伝導された熱が、上記孔に露出された各グラフェンシートのエッジから第1方向に並ぶ各グラフェンシート層に伝導されて、各グラフェンシート層を第2方向へ素早く効率的に伝導することになる。
【0020】
(7) 上記中間部材は、金属またはセラミックスで構成されたものが好ましい。
【0021】
上記中間部材が金属からなるものである場合は、中間部材に熱源や放熱体をはんだ付けし易くなる。また、中間部材がセラミックスからなるものである場合は、熱源や放熱体と構造体とを電気的に絶縁することができる。
【0022】
(8) 上記構造体は、高配向性熱分解グラファイトであることが好ましい。
【0023】
このような高配向性熱分解グラファイトとして、例えば、米国MINTEQ International Inc.製の商品名「PYROID HT」を用いることが可能である。同商品は、第1方向の熱伝導率が1500W/mk以上であるため、効率的な熱移動が可能である。
【0024】
(9) 本発明は、第1方向に沿ってグラフェンシートが積層された構造体と、上記第1方向と交差する第2方向における上記構造体の端面に接合される中間部材とを有する異方性熱伝導素子の製造方法と捉えることができる。この製造方法は、上記構造体及び上記中間部材それぞれの融点よりも低い温度環境のもとで、上記中間部材と上記端面との間に少なくともチタンを含むインサート材を介在させた状態で上記中間部材を上記端面に加圧接合する工程を含む。
【0025】
これにより、少ない工程で上記構造体と異種部材とを接合することが可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の異方性熱伝導素子によれば、熱源の熱を効率よく伝導することが可能であり、しかも、グラフェンシートが積層された構造体と異種部材との接合部分の強度を高めることが可能である。また、上記接合部分の熱抵抗を低減することが可能である。また、本発明の異方性熱伝導素子の製造方法によれば、少ない工程で上記構造体と異種部材とを接合することが可能であり、異方性熱伝導素子を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係るグラファイト複合体11の構成及び使用例を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、グラファイト複合体11の分解斜視図である。
【図3】図3は、グラファイト複合体11の部分断面図である。
【図4】図4は、本発明の第2実施形態に係るグラファイト複合体12の構成を模式的に示す斜視図であり、(A)には外観斜視図が示されており、(B)には切断線IVB-IVBの断面図が示されており、(C)にはグラファイト複合体12の変形例の断面図が示されている。
【図5】図5は、グラファイト複合体12の側面図である。
【図6】図6は、本発明の第3実施形態に係るグラファイト複合体13の構成を模式的に示す斜視図であり、(A)には外観斜視図が示されており、(B)には切断線VIB-VIBの断面図が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
以下、図1〜図3を参照して本発明の第1実施形態に係るグラファイト複合体11(本発明の異方性熱伝導素子の一例)について説明する。
【0029】
図1に示されるように、グラファイト複合体11は、グラファイト構造体20(本発明の構造体の一例、以下「構造体」と略称する)と、構造体20を挟むように設けられた2枚の銅板24,25(本発明の中間部材の一例)とを備える。
【0030】
構造体20は、六員環が共有結合して形成されたグラフェンシート21が一方向に沿って複数積層された結晶構造を有している。構造体20の各グラフェンシート21の層間は、ファンデルワールス力で結合されているため、グラフェンシート21は、層状に剥がれ易い性質を有している。本実施形態の構造体20は、グラフェンシート21が積み重ねられた積層方向、つまりX方向(本発明の第1方向に相当)と交差するY方向(本発明の第2方向に相当)の厚みが薄いプレート状に形成されており、詳細には、厚みが3.5mm〜4.0mmに形成されている。また、構造体20は、平面視で矩形状に形成されており、例えば、一辺が30mmの正方形状に形成されている。なお、グラフェンシート21の実際の厚みは炭素原子1個分であるが、説明の便宜上、各図は実際の厚み以上に表されたグラフェンシート21が示されている。
【0031】
構造体20としては、一般的なグラファイトよりも高い熱伝導性を有する高配向性熱分解グラファイトが採用されている。具体的には、米国MINTEQ International Inc.製の商品名「PYROID HT」が用いられている。構造体20は、X方向の熱伝導率よりもY−Z平面に沿う方向の熱伝導率が極めて高く、詳細には、Y−Z平面に沿う方向の熱伝導率は1500W/mk以上であり、X方向の熱伝導率は5〜10W/mkである。
【0032】
銅板24,25は、箔状又はプレート状に形成されており、図2に示されるように、構造体20におけるY方向の両方の端面31,32(本発明の端面に相当)に接合されている。構造体20の端面31,32は、複数のグラフェンシート21のエッジが幾層にも重ね合わされた状態となっており、一般にエッジ面と称されている。これらの端面31,32の原子結合は不飽和な状態となっているため、他の物質と反応し易い活性状態となっている。これらの端面31,32に、後述するインサート材35を介して銅板24,25が接合される。なお、本実施形態では、銅板24は0.3mmの厚みを有しており、図2において上側の端面31に接合されている。また、銅板25は0.3mmの厚みを有しており、図2において下側の端面32に接合されている。
【0033】
図1に示されるように、グラファイト複合体11は、銅板24の中央にCPUなどの発熱体28が取り付けられ、銅板25にヒートシンクなどの放熱体29が取り付けられることにより、熱伝導素子として使用される。銅板24,25が構造体20に接合されているため、グラファイト複合体11の強度が増すだけでなく、銅板24,25に発熱体28や放熱体29を半田付けによって容易に取り付けることができる。
【0034】
構造体20に対する銅板24,25の接合は、構造体20及び銅板24,25それぞれの融点よりも低い温度環境のもとで行われる。具体的には、図3に示されるように、構造体20の端面31と銅板24との間にインサート材35が挿入され、構造体20の端面32と銅板25との間にインサート材35が挿入され、銅板24及び銅板25それぞれの外側からグラファイトで形成された保持部材38でこれらを所定の圧力で挟み込むようにして保持する。そして、各部材が保持された状態でこれらが炉内で加熱されることにより、構造体20の端面31,32に銅板24,25が接合される。
【0035】
インサート材35としては、銀、銅およびチタンから構成された板状のもの(以下「銀系インサート」と称する)や、ニッケル、銅およびチタンから構成された板状のもの(以下「チタン系インサート」と称する)などが用いられる。銀系インサートは、銀の重量比率が銅及びチタンの重量比率よりも高いものが好ましく、また、チタン系インサートは、チタンの重量比率がニッケル及び銅の重量比率よりも高いものが好ましい。いずれのインサート材35であっても、活性金属であるチタンが含まれているため、接合面に対する濡れ性が極めて高い。なお、インサート材35に代えて、スラリー状のインサート材を用いることも可能である。
【0036】
本実施形態では、インサート材35として厚みが0.05mm〜0.1mmの銀系インサートを用いる場合は、保持部材38によって上記各部材が1000kg/m〜5000kg/mの加重を加えられた状態で、10−3Paの真空環境、及び、摂氏835℃の温度環境のもとで、30分から1時間加熱される。また、インサート材35として厚みが0.05mm〜0.1mmのチタン系インサートを用いる場合は、保持部材38によって上記各部材が1000kg/m〜5000kg/mの加重を加えられた状態で、10−3Paの真空環境、及び、摂氏980℃の温度環境のもとで、1分から15分加熱される。
【0037】
上述したように、構造体20の端面31,32は活性状態となっている。そのため、このような加圧加熱工程において、反応性の高い活性金属であるチタンを含むインサート材35を介在させることで、構造体20、インサート材35、及び銅板24,25のそれぞれの接合部分の原子拡散が誘発される。これにより、チタンと炭素とが積極的に反応し、端面31,32と銅板24,25との接合部分にチタンカーバイド(TiC)などのチタン化合物が生成される。もちろん、チタン化合物だけでなく、インサート材35を構成する銅や銀を含む金属化合物も生成される。また、加圧加熱によって構造体20及び銅板24,25双方の原子のエネルギーが大きくなり、接合部分だけでなく、構造体20及び銅板24,25の内部にまで原子拡散が誘発される。この原子拡散によって、構造体20及び銅板24,25の内部におけるインサート材35との反応が促進されて、上記金属化合物、特に、高い濡れ性を有するチタンを含むチタンカーバイド(TiC)が構造体20及び銅板24,25それぞれの内部にまで生成される。これにより、構造体20と銅板24,25とがあたかも一体の物質のような強い結合構造となる。その結果、銅板24,25と構造体20との接合界面が存在しなくなり、銅板24,25と構造体20とが強固に接合される。また、構造体20と銅板24,25との接合部分にチタンカーバイドなどの金属化合物が中間層(合金層)として存在するため、構造体20から銅板24,25への熱抵抗が小さくなり、効率のより熱伝導が実現する。
【0038】
なお、銅板24,25に代えて、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、窒化ホウ素、窒化アルミなどのセラミックスで構成された厚みが0.5mmのセラミックス板を用いることもできる。また、銅板24,25に代えてステンレスで構成された厚み0.2mmのSUS板を用いることもできる。いずれに場合も、インサート材35を介在させた状態で上述の加圧加熱工程を経ることにより構造体20に接合される。なお、このような接合方法は、一般に、ろう接合(ろう付け)、或いは、固相拡散接合、又は液相拡散接合と称されている。要するに、インサート材35を用いて接合部分を原子拡散させることにより接合する方法であれば、如何なる接合方法であっても適用可能である。
【0039】
銅板24,25が接合されたグラファイト複合体11は、主として、パワーデバイス、レーザー発信器、通信モジュールなどの発熱素子を放熱する用途として利用される。一方、セラミックス板が接合されたグラファイト複合体11は、発熱体28と絶縁した状態で構造体20に熱を伝導させる必要がある場合に利用されたり、パワーデバイスなどの絶縁化やペルチェなどの熱電変換モジュールなどに利用される。また、SUS板が接合されたグラファイト複合体11は、SUSの高い安定性を活かして、半導体製造装置用のヒーターや各種熱交換などに好ましく利用される。
【0040】
このようにグラファイト複合体11が構成されているため、グラファイト複合体11のY−Z方向において、概ね500W/mk〜1000W/mkの熱伝導率、Y−Z方向の厚みによっては1000W/mkを越える熱伝導率を実現することが可能となる。これにより、図1に示されるように、発熱体28の熱が構造体20の内部を矢印26の方向へ素早く移動して放熱体29に効率的に伝導される。また、活性金属であるチタンを含むインサート材35を用いて銅板24,25が構造体20に加圧接合されることにより、接合部分の原子拡散が誘発されて、インサート材35を構成する元素(チタン、銅、ニッケル、銀等)やこれらの元素を含む化合物が構造体20および銅板24,25側に生成され、接合部分にチタンカーバイドなどの中間層(合金層)が形成される。これにより、銅板24,25と構造体20とが強固に接合される。また、インサート材35に含まれるチタンは活性金属であり、接合面に対する濡れ性が強いため、接合工程においてインサート材35が接合面に均一に行きわたり、接合部分の原子拡散が均一に誘発され得る。また、少ない工程で構造体20と銅板24,25とを接合することができるので、グラファイト複合体11を容易に製造することができる。
【0041】
なお、インサート材35としての銀系インサート材とチタン系インサート材は、グラファイト複合体11の用途に応じて使い分けることが好ましい。例えば、銀系インサート材は、フラファイト複合体11の熱伝導率を重視する場合に用いられる。銀は、金属の中で最も熱伝導率が高い物質であるため、銀系インサート材を介在させて、銀よりも熱伝導率の大きい構造体20と銅板24,25とを接合させることで、接合部分の中間層(合金層)の広い範囲にチタン化合物だけでなく銀化合物が生成される。これにより、構造体20を伝わる熱が中間層においても効率良く伝達し、銅板24,25へ伝わる。なお、この用途に用いる銀系インサート材の一実施例として、少なくとも重量比率で1〜10%のチタンを含むものが好適である。
【0042】
一方、チタン系インサート材は、グラファイト複合体11の耐熱製を重視する場合に用いられる。つまり、極めて濡れ性の高いチタンをより多く含むチタン系インサート材を用いることにより、構造体20及び銅板24,25の内部にチタンカーバイドが広範囲に分布することになる。このチタンカーバイドは、構造体20及び銅板24,25の内部側へ進むにつれて徐々に分布率が低下する。そのため、構造体20から銅板24,25に至る部分の熱膨張率の変化が緩やかとなる。これにより、グラファイト複合体11が高温環境に置かれたとしても、熱膨張率の差に起因するクラックが接合部分に生じなくなり、高い耐熱性を実現できる。なお、この用途に用いるチタン系インサート材の一実施例として、少なくとも重量比率で60〜80%のチタンを含むものが好適である。
【0043】
(第2実施形態)
以下、図4及び図5を参照して本発明の第2実施形態に係るグラファイト複合体12(本発明の異方性熱伝導素子の一例)について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成については、第1実施形態で示した符号と同じ番号を付し示すことによりその説明を省略する。
【0044】
図4に示されるように、グラファイト複合体12は、グラファイト構造体40(本発明の構造体の一例、以下「構造体40」と略称する)と、構造体40を挟むように設けられた4つの銅板46(本発明の中間部材の一例)とを備える。
【0045】
構造体40は、第1実施形態の構造体20と同様に構成されているが、グラフェンシート21が積み重ねられた積層方向、つまりX方向の厚みが薄いプレート状に形成されている点が異なる。つまり、構造体20はX−Z平面に沿って平坦に形成されていたが、構造体40は、Y−Z平面に沿って平坦に形成されている。
【0046】
銅板46は、箔状又はプレート状に形成されており、図4に示されるように、構造体40において、X方向と交差するY方向(本発明の第2方向に相当)の両方の端面、及びX方向と交差するZ方向(本発明の第2方向の一例)の両方の端面に接合されている。つまり、4つの銅板46が構造体40のY−Z平面の外周部に接合されている。銅板46は0.3mmの厚みを有しており、図4において構造体40のY−Z平面の外周部を被覆するように接合されている。銅板46は、第1実施形態の接合方法と同様にして、インサート材35を用いて接合されるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0047】
本実施形態では、図5に示されるように、構造体40のX方向の一方面(図5において上側の面)に発熱体28が取り付けられ、銅板46に放熱体29が取り付けられることにより、熱伝導素子として使用される。
【0048】
このようにグラファイト複合体12が構成されているため、グラファイト複合体12のY−Z平面に沿って放射方向へ概ね500W/mk〜1000W/mkの熱伝導率、Y−Z方向の厚みによっては1000W/mkを越える熱伝導率を実現することが可能となる。これにより、図5に示されるように、発熱体28の熱が構造体40の内部を矢印43の方向へ素早く移動して、銅板46に取り付けられた放熱体29に効率的に伝導される。
【0049】
なお、図4(C)に示されるように、発熱体28が取り付けられる構造体40の取り付け面に銅板47を接合する構成を採用してもよい。この場合、グラファイト複合体12の強度が増すだけでなく、銅板47に発熱体28を半田付けによって容易に取り付けることができる。
【0050】
(第3実施形態)
以下、図6を参照して本発明の第3実施形態に係るグラファイト複合体13(本発明の異方性熱伝導素子の一例)について説明する。なお、第2実施形態と同じ構成については、第2実施形態で示した符号と同じ番号を付し示すことによりその説明を省略する。
【0051】
図6に示されるように、本実施形態のグラファイト複合体13は、構造体40のY−Z平面の中央付近に2つの銅柱49(本発明の中間部材の一例)が設けられている。グラファイト複合体13は、銅柱49が設けられている点を除けば、上述の第2実施形態と同様に構成されている。
【0052】
銅柱49は、銅板46と同じ材質、つまり銅で形成された柱状部材である。この銅柱49は、構造体40をX方向の一方側の端面(図6において上側の面)から他方側の端面(図6において下側の面)に貫くように設けられている。この銅柱49は、以下のようにして設けられる。つまり、構造体40にX方向の貫通孔48(図6(B)参照)が形成され、その貫通孔48の内周面に上述のインサート材35を介在させたうえで、貫通孔48に銅柱49を挿入する。そして、銅柱49と貫通孔48の内周面との間にインサート材35を介在させた状態で、上述の第1実施形態と同様にして加圧加熱工程により銅柱49と構造体40とを接合させる。銅柱49は、発熱体28の熱を構造体40の内部に伝導可能なように、発熱体28が取り付けられる取り付け部(図6(A)において波線で囲まれた部分)に配置されている。なお、銅柱49は2つに限られず、1つでも、3つ以上でもかまわない。
【0053】
このような銅柱49が設けられているため、グラファイト複合体13では、発熱体28から銅柱49に伝導された熱がX方向に並ぶ複数のグラフェンシート21それぞれに伝導される。このため、構造体40の内部全域を効率良く熱が伝導してY−Z平面に沿って放射方向へ効率的に伝導することになる。
【0054】
なお、この第3実施形態では、銅板46と銅柱49が構造体40に接合されたグラファイト複合体13について例示したが、グラファイト複合体13は、銅柱49だけが構造体40に接合されており銅板46が接合されていない構成であってもよい。
【0055】
上述した各実施形態は、本発明の異方性熱伝導素子が具体化された単なる一例である。したがって、本発明は、その要旨を変更しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上述の各実施形態では、銅で構成された銅板24,25,46,47を例示して説明したが、上記銅板に代えて、銀や金、チタン等の金属からなる板部材を利用することも可能である。
【0056】
11,12,13・・・グラファイト複合体
20・・・グラファイト構造体
21・・・グラフェンシート
24,25・・・銅板
26・・・矢印
28・・・発熱体
29・・・放熱体
31,32・・・端面
35・・・インサート材
38・・・保持部材
40・・・グラファイト構造体
43・・・矢印
46,47・・・銅板
49・・・銅柱



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に沿ってグラフェンシートが積層された構造体と、上記第1方向と交差する第2方向における上記構造体の端面に接合される中間部材とを有し、
上記構造体及び上記中間部材それぞれの融点よりも低い温度環境のもとで、上記中間部材が少なくともチタンを含むインサート材を介して上記端面に加圧接合されてなる異方性熱伝導素子。
【請求項2】
上記インサート材は、銀、銅およびチタンから構成されており、銀の重量比率が銅及びチタンの重量比率よりも高い請求項1に記載の異方性熱伝導素子。
【請求項3】
上記インサート材は、ニッケル、銅およびチタンから構成されており、チタンの重量比率がニッケル及び銅の重量比率よりも高い請求項1に記載の異方性熱伝導素子。
【請求項4】
上記構造体は、上記第2方向の厚みが薄いプレート状に形成されており、当該構造体の上記第2方向の端面に箔状又はプレート状に形成された上記中間部材が接合されている請求項1から3のいずれかに記載の異方性熱伝導素子。
【請求項5】
上記構造体は、上記第1方向の厚みが薄いプレート状に形成されており、上記第2方向の端面に箔状又はプレート状に形成された上記中間部材が接合されている請求項1から3のいずれかに記載の異方性熱伝導素子。
【請求項6】
上記構造体は、上記第1方向の厚みが薄いプレート状に形成されており、上記第1方向の一方の端面から他方の端面へ向けて形成された孔を有し、
上記中間部材は、上記インサート材を介して上記孔の内面に接合されている請求項1から3のいずれかに記載の異方性熱伝導素子。
【請求項7】
上記中間部材は、金属またはセラミックスで構成されている請求項1から6のいずれかに記載の異方性熱伝導素子。
【請求項8】
上記構造体は、高配向性熱分解グラファイトである請求項1から7のいずれかに記載の異方性熱伝導素子。
【請求項9】
第1方向に沿ってグラフェンシートが積層された構造体と、上記第1方向と交差する第2方向における上記構造体の端面に接合される中間部材とを有する異方性熱伝導素子の製造方法であって、
上記構造体及び上記中間部材それぞれの融点よりも低い温度環境のもとで、上記中間部材と上記端面との間に少なくともチタンを含むインサート材を介在させた状態で上記中間部材を上記端面に加圧接合する工程を含む異方性熱伝導素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−238733(P2012−238733A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107017(P2011−107017)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日刊工業新聞,第21020号、平成22年12月1日発行,発行者 株式会社日刊工業新聞社 日刊工業新聞,第21115号、平成23年4月15日発行,発行者 株式会社日刊工業新聞社 日刊工業新聞,第21119号、平成23年4月21日発行,発行者 株式会社日刊工業新聞社
【出願人】(509204286)株式会社サーモグラフィティクス (2)
【Fターム(参考)】