説明

異音診断装置および異音診断方法

【課題】診断対象物における異音の発生箇所を、診断対象物の奥行き方向の位置を含めて容易に特定する。
【解決手段】異音診断装置100は、診断対象物70を撮像する撮像装置20と、円環状のフレーム12に等間隔にマイクロホン11が設けられた構成された集音装置10と、情報処理装置50と、を含んで構成される。そして、情報処理装置50は、集音装置10の前面側から診断対象物70の後面側に到るまでの空間に、撮像装置20の視線の中心軸に略垂直で、互いに平行な複数の仮想スクリーン80を設定する処理と、各仮想スクリーン80上の各点における音圧レベルを算出し、音圧マップを生成する処理と、音圧異常領域を抽出し、音圧マップおよび音圧異常領域を撮像装置20で撮像した診断対象物70の外観画像上に重ね合わせて表示する処理と、を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断対象物から発生する異音の発生箇所を診断する異音診断装置および異音診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、音響情報を用いて装置などの異常箇所を診断する異常診断装置の例が開示されている。この異常診断装置においては、診断対象物を取り囲むように音響センサアレイが設けられており、その音響センサアレイは、フェーズドアレイ法による指向性を有している。そこで、この異常診断装置は、フェーズドアレイ法により付与した指向性の主極方向からの音圧強度を計算し、様々な方向に主極方向を向けることによって音圧強度マップを作成し、その音圧強度マップの特徴量を正常時の音圧強度マップと比較することによって音響の異常を診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−251751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された異常診断装置では、異常な音響(以下、異音という)が発生した方向を特定することはできるものの、異音が発生した奥行きの距離までは特定できない。従って、診断対象物が複雑な形状を呈し、さらに、奥行きが長いものであるような場合には、異音の発生箇所、すなわち、診断対象物における異常箇所を特定できるとは限らない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、診断対象物における異音の発生箇所を、診断対象物の奥行き方向の位置を含めて、容易に特定することが可能な異音診断装置および異音診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る異音診断装置は、診断対象物を撮像する撮像装置と、互いに離間した位置に配置され、それぞれ配置された位置の音響信号を取得する複数の音響センサからなる集音装置と、前記集音装置により取得された音響信号を処理する情報処理装置と、を含んで構成される。そして、前記情報処理装置は、前記集音装置の前面側から前記診断対象物の後面側に到るまでの空間に、前記撮像装置の視線の中心軸に略垂直で、互い離間し、かつ、互いに平行な複数の仮想スクリーンを設定する仮想スクリーン設定手段と、前記複数の音響センサそれぞれが配置された位置情報と、前記設定された複数のそれぞれの仮想スクリーンの位置情報と、前記複数の音響センサそれぞれによって取得された音響信号とに基づき、前記各仮想スクリーン上の各点における音圧レベルを算出する音圧レベル算出手段と、前記各仮想スクリーン上の各点における音圧レベルに基づき、前記各仮想スクリーン上に等音圧レベル線で表した音圧マップを生成する音圧マップ生成手段と、前記生成した音圧マップを前記撮像装置で撮像した診断対象物の撮像画像上に重ね合わせて表示する音圧マップ表示手段と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、診断対象物における異音の発生箇所を、診断対象物の奥行き方向の位置を含めて、容易に特定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係る異音診断装置の全体構成、および、その異音診断装置を診断対象物の異音診断に適用する場合に設定される仮想スクリーンの例を示した図。
【図2】本発明の実施形態に係る異音診断装置に含まれる情報処理装置の機能ブロックの構成の例を示した図。
【図3】各仮想スクリーン上における音圧マップを診断対象物の外観画像に重ね合わせて表示した表示画面の第1の例を示した図である。
【図4】各仮想スクリーン上における音圧マップを診断対象物の外観画像に重ね合わせて表示した表示画面の第2の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る異音診断装置の全体構成の例、および、その異音診断装置を診断対象物の異音診断に適用する場合に設定される仮想スクリーンの例を示した図である。図1では、紙面の左の奥側に、異音診断装置100が描かれ、また、紙面の右の前側に、異音診断の対象となる診断対象物70が描かれ、さらに、診断対象物70の位置には、診断対象物70を上下方向に切断し、区分するような仮想スクリーン80が4つ描かれている。
【0011】
異音診断装置100は、診断対象物70およびその周囲から発せられる音響信号を集音する集音装置10、診断対象物70の外観画像を撮像する撮像装置20、集音装置10で集音された音響信号を増幅する増幅回路装置30、増幅回路装置30で増幅された音響信号をディジタル信号に変換するA/D(アナログ/ディジタル)変換装置40、ディジタル化された音響信号に基づき、異音診断処理を実行する情報処理装置50、などを含んで構成される。
【0012】
集音装置10は、三脚13の上部に円環状のフレーム12が設けられ、さらに、音響センサとして複数のマイクロホン11が、その円環状のフレーム12上の互いに等間隔となる位置に取り付けられて構成される。ここで、複数のマイクロホン11は、いずれも同じ音響特性を有し、無指向性であるものとする。なお、図1の例では、フレーム12には、16個のマイクロホン11が取り付けられているが、その数は、16個に限定されない。また、この例のように、複数ないし多数のマイクロホン11が配列された構成は、マイクロホンアレイと呼ばれている。
【0013】
撮像装置20は、診断対象物70の外観を撮像するカメラであり、図1の例では、複数のマイクロホン11が取り付けられたフレーム12の中心の位置、すなわち、複数のマイクロホン11が取り付けられた円環を含む平面(以下、マイクロホンアレイ面という)上で、その円環の中心の位置に設けられる。このとき、撮像装置20の視線の中心軸(以下、光軸という)は、当該マイクロホンアレイ面に略垂直であるとし、その光軸は、診断対象物70の中心部を向いているものとする。
【0014】
仮想スクリーン80は、撮像装置20の光軸に略垂直な平面であり、集音装置10側から診断対象物70の後面側に到る空間内に、仮想的に複数個設けられる。ちなみに、図1の例では、仮想スクリーン80は、4つ設けられており、紙面の一番手前に描かれた仮想スクリーン80(#4)は、撮像装置20側から見たとき、診断対象物70の後面側に位置する仮想スクリーン80に相当する。なお、仮想スクリーン80の横幅は、撮像装置20の水平画角81で定められ、また、縦幅は、垂直画角82によって定められる。
【0015】
以上のように、本実施形態では、撮像装置20を、マイクロホンアレイ面と同じ平面上に配置したことにより、撮像装置20によって撮像される撮像画像にマイクロホン11が写り込むのを避けることができる。また、撮像装置20や他のマイクロホン11によって反射または回折した音響信号の影響を低減することができるので、マイクロホン11によって集音される音響信号の信号対雑音比(S/N比)を向上させることができる。さらに、複数のマイクロホン11が円環上に等間隔に配置されていることから、その信号対雑音比(S/N比)を、到来する音響信号の方向に依存することなく、等しく向上させることができる。
【0016】
図2は、異音診断装置に含まれる情報処理装置50の機能ブロックの構成の例を示した図である。情報処理装置50は、図示しないCPU(Central Processing Unit)と、半導体メモリやハードディスク装置などからなる記憶装置と、を含んで構成された、例えば、ノートパソコンなどのパーソンナルコンピュータによって構成される。
【0017】
図2に示すように、情報処理装置50は、音圧信号取得部51、仮想スクリーン設定部52、音圧レベル計算部53、音圧マップ生成部54、音圧異常領域抽出部55、音圧マップ表示部56、撮像画像取得部57などの処理機能ブロックを備える。情報処理装置50は、また、音圧信号記憶部61、仮想スクリーンデータ記憶部62、マイクロホン配置データ記憶部63、音圧レベル記憶部64、基準音圧レベル記憶部65、音圧マップ記憶部66、撮像画像記憶部67などの記憶機能ブロックを備える。なお、処理機能ブロックとは、図示しないCPUが、予め、記憶装置に記憶されたプログラムを実行することによって実現される機能ブロックをいう。以下、各処理機能ブロックの機能について説明する。
【0018】
音圧信号取得部51は、集音装置10に設けられた各マイクロホン11で集音され、増幅回路装置30で増幅され、A/D変換装置40でディジタル信号化された音響信号(以下、音圧信号という)を取得し、その取得した音圧信号を、集音したマイクロホン11に対応させて音圧信号記憶部61に格納する。また、撮像画像取得部57は、撮像装置20によって撮像された診断対象物70の外観画像を、撮像装置20から取得して、撮像画像記憶部67に格納する。
【0019】
仮想スクリーン設定部52は、図1を用いて説明したように、撮像装置20から診断対象物70の後面側に到るまでの空間のいずれかの位置に、撮像装置20の光軸に略垂直な仮想スクリーン80を仮想的に複数個設定する。このとき、仮想スクリーン80の数、仮想スクリーン80を設定する位置(例えば、撮像装置20からの距離)、撮像装置20の水平画角81、垂直画角82などのデータは、予め、仮想スクリーンデータ記憶部62に記憶されているものとする。なお、仮想スクリーンデータ記憶部62に記憶されているこれらのデータは、オペレータがキーボードなどを用いて、適宜、変更できるものとする。
【0020】
音圧レベル計算部53は、仮想スクリーン設定部52によって設定されたそれぞれの仮想スクリーン80について、そのスクリーン面を格子状に分割し、各格子点の座標を計算する。さらに、音圧レベル計算部53は、それぞれの仮想スクリーン80面上の各格子点について、その格子点における音圧レベルを計算し、得られた音圧レベルを各仮想スクリーン80上の各格子点に対応付けて音圧レベル記憶部64に格納する。
【0021】
ここで、各仮想スクリーン80上の各格子点の座標は、例えば、撮像装置20の位置を原点とし、撮像装置20の光軸をz軸とし、前記原点を通り、マイクロホンアレイ面に含まれる水平方向の直線をx軸とし、前記原点を通り、x軸およびz軸に垂直な直線をy軸とする座標系に基づき計算される。
【0022】
このとき、各仮想スクリーン80上の各格子点の音圧レベルは、集音装置10の各マイクロホン11から集音され、音圧レベル記憶部64に格納されている音圧信号に対し、ビームフォーミング処理を施すことによって計算される。ビームフォーミング処理は、公知技術(例えば、日本音響学会誌、第63巻、第7号、341頁−352頁、2007年などを参照)であるので、ここでは、その説明を省略するが、その計算処理では、各マイクロホン11からの音圧信号のほかに、撮像装置20(マイクロホンアレイ面)と仮想スクリーン80との距離、各マイクロホン11の配置位置の座標情報、各仮想スクリーン80上の各格子点の座標情報などが用いられる。このうち、各マイクロホン11の配置位置の座標情報は、予めマイクロホン配置データ記憶部63に格納されているものとする。
【0023】
なお、音圧レベル計算部53でビームフォーミング処理をするに当たっては、集音装置10から集音された生の音圧信号(すなわち、音圧信号記憶部61に記憶されている音圧信号)に対し、周波数分析する処理、任意の周波数帯域を選択するフィルタ処理などを施し、また、ビームフォーミング処理後には、得られた音圧レベルに聴感補正を加える処理、デシベル値に換算する処理などを施すことがあるが、これらの処理も音圧レベル計算部53での処理に含まれるものとする。
【0024】
音圧マップ生成部54は、音圧レベル記憶部64から各仮想スクリーン80上の各格子点の音圧レベルを読み出し、各仮想スクリーン80上に、例えば、5デシベルごとの等音圧レベル線を生成し、等音圧レベル線による音圧マップを生成する。そして、その生成した音圧マップを各仮想スクリーン80に対応付けて、音圧マップ記憶部66に格納する。
【0025】
音圧異常領域抽出部55は、音圧レベル記憶部64に記憶されている各仮想スクリーン80上の各格子点の音圧レベルを既定の基準音圧レベルと比較することにより、各仮想スクリーン80について音圧異常領域を抽出する。ここで、音圧異常領域は、例えば、次のような2通りの音圧異常基準によって抽出される。
【0026】
第1の音圧異常基準では、音圧異常領域抽出部55は、音圧レベル記憶部64に記憶されている各仮想スクリーン80上の各格子点の音圧レベルを、既定の基準音圧レベルと比較し、仮想スクリーン80ごとに、その音圧レベルが基準音圧レベルよりも大きい格子点を含んだ領域を抽出し、その抽出した領域を音圧異常領域とする。すなわち、各仮想スクリーン80上の各格子点で、その音圧レベルがある基準音圧レベル(例えば、60デシベル)より大きくなった格子点を含む領域を音圧異常領域とする。なお、このような異常音圧領域を、以下、絶対音圧異常の音圧異常領域と呼ぶ。
【0027】
第2の音圧異常基準では、事前の診断対象物70の正常動作時に各仮想スクリーン80上の各格子点の音圧レベルを基準音圧レベルとして取得し、基準音圧レベル記憶部65に格納しておく。そして、診断対象物70の異音診断時に、音圧異常領域抽出部55は、音圧レベル計算部53により計算された各仮想スクリーン80上の各格子点の音圧レベルを、それぞれ基準音圧レベル記憶部65に記憶されている各仮想スクリーン80上の各格子点の基準音圧レベルと比較して、その差分値を算出し、その差分値が予め定められた基準差分値よりも大きくなった各仮想スクリーン80上の各格子点を含んだ領域を音圧異常領域として抽出する。
【0028】
例えば、基準差分値が10デシベルであったとする場合に、ある仮想スクリーン80上のある格子点の音圧レベルが診断対象物70の正常時に30デシベルであり、その格子点の診断対象物70の診断動作時の音圧レベルが45デシベルであったとすると、その格子点を含む領域は音圧異常領域として抽出される。また、逆に、ある仮想スクリーン80上のある格子点の音圧レベルが診断対象物70の正常時に45デシベルであり、その格子点の診断対象物70の診断動作時の音圧レベルが30デシベルになったとすると、その格子点を含む領域も音圧異常領域として抽出される。すなわち、第2の異常基準では、診断対象物70の診断動作時の音圧レベルが正常動作時に比べ、基準音圧レベル以上大きくなった格子点だけでなく、小さくなった格子点も音圧異常領域の格子点として抽出される。なお、このような第2の音圧異常基準により抽出した音圧異常領域を、以下、相対音圧異常の音圧異常領域と呼ぶ。
【0029】
音圧マップ表示部56は、情報処理装置50に付属する液晶ディスプレイなどの表示装置59に、撮像装置20によって撮像され、撮像画像記憶部67に格納されている診断対象物70の外観画像を表示するとともに、その診断対象物70の外観画像の上に重ね合わせて、音圧マップ記憶部66に格納されている音圧マップを表示する。この表示は、各仮想スクリーン80別に行われる。
【0030】
音圧マップ表示部56は、音圧異常領域抽出部55により音圧異常領域が抽出されていた場合には、診断対象物70の外観画像および音圧マップの重ね合わせ画像の上に、さらに、音圧異常領域を強調して表示する。
【0031】
図3は、各仮想スクリーン80上における音圧マップを診断対象物70の外観画像に重ね合わせて表示した表示画面の第1の例を示した図である。この第1の例の場合、設定された4つの仮想スクリーン80の位置は、撮像装置20側から順に、仮想スクリーン80(#1)が診断対象物70の前面付近、仮想スクリーン80(#2)が診断対象物70の前半分の中央部付近、仮想スクリーン80(#3)が診断対象物70の後半分の中央部付近、仮想スクリーン80(#4)が診断対象物70の後面付近であるとする(以上、図1参照)。そして、図3(a)〜(d)のそれぞれには、仮想スクリーン80(#1)〜(#4)における音圧マップの例が表示されている。
【0032】
音圧マップは、図3(a)〜(d)に示すように、診断対象物70の外観画像の上に、例えば、10デシベルごとの等音圧レベル線で描かれる。このとき、等音圧レベル線で囲まれた領域は、適宜、網掛け表示または着色表示される。その場合、網掛け表示や着色表示着色を半透明に行い、下地の診断対象物70の外観画像が透けて見えるようにしてもよい。
【0033】
ちなみに、図3(c)の仮想スクリーン80(#3)には、既定の基準音圧レベル(例えば、60デシベル)を超えた絶対音圧異常の音圧異常領域85が現れている。本実施形態では、このような音圧異常領域85は、目立つような強調表示がなされる。図3(c)の例では、音圧異常領域85に「音圧異常」であることを、吹き出しのメッセージで強調表示しているが、その強調表示の仕方は、例えば、音圧異常領域85を点滅表示したり、音圧異常領域85だけをさらに目立つ色(例えば、赤色)で表示したり、音圧異常領域85を太い目立つ色の長方形の枠線などで囲ったりするものであってもよい。
【0034】
また、図3の例では、仮想スクリーン80(#3)に音圧異常領域85が現れているので、診断対象物70における異音の発生箇所は、仮想スクリーン80(#3)近傍にあることが分かる。加えて、図3(c)には、音圧異常領域85、すなわち、異音の発生箇所が診断対象物70の外観画像の上に重ね合わせて表示されている。従って、本実施形態に係る異音診断装置100のオペレータは、診断対象物70のどの部位が異音発生箇所であるかを視覚的に容易に特定することができる。
【0035】
図4は、各仮想スクリーン80上における音圧マップを診断対象物70の外観画像に重ね合わせて表示した表示画面の第2の例を示した図である。この第2の例は、図4(c)に示すように、相対音圧異常の音圧異常領域86を表示する例を示したものである。ここで、4つの仮想スクリーン80の位置は、図3の例と同じであるとしている。また、図4(a)〜(d)には、それぞれ、仮想スクリーン80(#1)〜(#4)における音圧マップが、図3の場合と同様に、診断対象物70の外観画像の上に重ね合わせて表示されている。
【0036】
以上のように、図4の例の表示画面は、図3の例の表示画面と、少なくとも、その表示の仕方において同じである。相違点は、その前段階における音圧異常領域86の抽出の仕方にある。すなわち、図3の例は、絶対音圧異常の音圧異常領域85を抽出したものであるのに対し、図4の例は、図4(c)に示すように、相対音圧異常の音圧異常領域86を抽出したものである。
【0037】
ちなみに、図4(c)の例では、仮想スクリーン80(#3)の音圧マップには、例えば、60デシベルを超える絶対音圧異常の音圧異常領域は存在しないが、仮想スクリーン80(#3)の右上部分に、40〜50デシベル程度の相対音圧異常の音圧異常領域86が存在し、その部分には、「音圧異常」のメッセージが付されている。このような相対音圧異常の音圧異常領域86は、診断対象物70の正常動作時に、例えば、30デシベル以下であった部分が、診断時に、例えば、45デシベルになったような場合に抽出される。なお、相対音圧異常の音圧異常領域86についても、その強調表示の仕方は、図3の場合と同じでよい。
【0038】
いずれにせよ、図4の例の場合にも、4つの仮想スクリーン80(#1)〜(#4)には、音圧異常領域86が診断対象物70の外観画像の上に重ね合わせて表示されるので、オペレータは、相対音圧異常の異音についても、その異音の発生箇所を容易に特定することができる。
【0039】
以上のように、本実施形態に係る異音診断装置100は、集音装置10から診断対象物70の後面に到る空間内に、適宜、複数の仮想スクリーン80を設定し、その複数の仮想スクリーン80上の音圧マップおよび音圧異常領域85,86を、診断対象物70の外観画像に重ね合わせて表示する。従って、オペレータは、診断対象物70における異音の発生箇所を、異音が到来する方向だけでなく、奥行きの位置まで、視覚的に容易に特定することができる。さらに、その異音の発生箇所は、多くの場合、診断対象物70の故障箇所でもあるので、オペレータは、診断対象物70の故障箇所を視覚的に容易に特定することもできる。
【0040】
また、本実施形態によれば、オペレータは、仮想スクリーン80を、診断対象物70の奥行き方向の適当な位置に、複数個設定することができるので、本実施形態に係る異音診断装置100は、診断対象物70が複雑な形状を有する産業機械などに対しても、有効に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10 集音装置
11 マイクロホン(音響センサ)
12 フレーム
13 三脚
20 撮像装置
30 増幅回路装置
40 A/D変換装置
50 情報処理装置
51 音圧信号取得部
52 仮想スクリーン設定部(仮想スクリーン設定手段)
53 音圧レベル計算部(音圧レベル計算手段)
54 音圧マップ生成部(音圧マップ生成手段)
55 音圧異常領域抽出部(音圧異常領域抽出手段)
56 音圧マップ表示部(音圧マップ表示手段)
57 撮像画像取得部
59 表示装置
61 音圧信号記憶部
62 仮想スクリーンデータ記憶部
63 マイクロホン配置データ記憶部
64 音圧レベル記憶部
65 基準音圧レベル記憶部(基準音圧レベル記憶手段)
66 音圧マップ記憶部
67 撮像画像記憶部
70 診断対象物
80 仮想スクリーン
81 水平画角
82 垂直画角
85,86 音圧異常領域
100 異音診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象物を撮像する撮像装置と、互いに離間した位置に配置され、それぞれ配置された位置の音響信号を取得する複数の音響センサからなる集音装置と、前記集音装置により取得された音響信号を処理する情報処理装置と、を含んで構成され、前記診断対象物からの異音を診断する異音診断装置であって、
前記情報処理装置は、
前記集音装置の前面側から前記診断対象物の後面側に到るまでの空間に、前記撮像装置の視線の中心軸に略垂直で、互い離間し、かつ、互いに平行な複数の仮想スクリーンを仮想的に設定する仮想スクリーン設定手段と、
前記複数の音響センサそれぞれが配置された位置情報と、前記設定された複数のそれぞれの仮想スクリーンの位置情報と、前記複数の音響センサそれぞれによって取得された音響信号とに基づき、前記各仮想スクリーン上の各点における音圧レベルを計算する音圧レベル計算手段と、
前記各仮想スクリーン上の各点における音圧レベルに基づき、前記各仮想スクリーン上に等音圧レベル線で表した音圧マップを生成する音圧マップ生成手段と、
前記生成した音圧マップを前記撮像装置で撮像した診断対象物の撮像画像上に重ね合わせて表示する音圧マップ表示手段と、
を備えたこと
を特徴とする異音診断装置。
【請求項2】
前記情報処理装置は、
前記音圧レベル算出手段で算出した前記各仮想スクリーン上の各点における音圧レベルが既定の基準音圧レベルを超えた領域を、音圧異常領域として抽出する音圧異常領域抽出手段をさらに備え、
前記音圧マップ表示手段で、前記音圧マップを表示するときには、前記抽出した音圧異常領域を、前記音圧マップに重ね合わせて表示すること
を特徴とする請求項1に記載の異音診断装置。
【請求項3】
前記情報処理装置は、
前記診断対象物の正常動作時に前記音圧レベル算出手段で算出した前記各仮想スクリーン上の各点における音圧レベルを、予め基準音圧レベルとして記憶しておく基準音圧レベル記憶手段と、
前記診断対象物の異音診断時に前記音圧レベル算出手段で算出した前記各仮想スクリーン上の各点における音圧レベルを、前記基準音圧レベル記憶手段に記憶されている前記各仮想スクリーン上の各点における基準音圧レベルと比較して、その差分値を算出し、その差分値が既定の基準差分値を超えた点を含む領域を、音圧異常領域として抽出する第2の音圧異常領域抽出手段と、
をさらに備え、
前記音圧マップ表示手段で、前記音圧マップを表示するときには、前記抽出した音圧異常領域を、前記音圧マップに重ね合わせて表示すること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の異音診断装置。
【請求項4】
前記集音装置は、
前記撮像装置が配置された位置を中心とした円の円周上に、前記音響センサが等間隔に配置されて構成されていること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の異音診断装置。
【請求項5】
前記音圧レベル算出手段は、ビームフォーミング法により、前記各仮想スクリーン上の各点における音圧レベルを算出すること
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の異音診断装置。
【請求項6】
診断対象物を撮像する撮像装置と、互いに離間した位置に配置され、それぞれ配置された位置の音響信号を取得する複数の音響センサからなる集音装置と、前記集音装置により取得された音響信号を処理する情報処理装置と、を含んで構成された異音診断装置で前記診断対象物からの異音を診断する異音診断方法であって、
前記情報処理装置は、
前記集音装置の前面側から前記診断対象物の後面側に到るまでの空間に、前記撮像装置の視線の中心軸に略垂直で、互い離間し、かつ、互いに平行な複数の仮想スクリーンを仮想的に設定する仮想スクリーン設定処理と、
前記複数の音響センサそれぞれが配置された位置情報と、前記設定された複数のそれぞれの仮想スクリーンの位置情報と、前記複数の音響センサそれぞれによって取得された音響信号とに基づき、前記各仮想スクリーン上の各点における音圧レベルを計算する音圧レベル計算処理と、
前記各仮想スクリーン上の各点における音圧レベルに基づき、前記各仮想スクリーン上に等音圧レベル線で表した音圧マップを生成する音圧マップ生成処理と、
前記生成した音圧マップを前記撮像装置で撮像した診断対象物の撮像画像上に重ね合わせて表示する音圧マップ表示処理と、
を実行すること
を特徴とする異音診断方法。
【請求項7】
前記情報処理装置は、
前記音圧レベル算出処理で算出した前記各仮想スクリーン上の各点における音圧レベルが既定の基準音圧レベルを超えた領域を、音圧異常領域として抽出する音圧異常領域抽出処理をさらに実行し、
前記音圧マップ表示処理で、前記音圧マップを表示するときには、前記抽出した音圧異常領域を、前記音圧マップに重ね合わせて表示すること
を特徴とする請求項6に記載の異音診断方法。
【請求項8】
前記情報処理装置は、
前記診断対象物の正常動作時に前記音圧レベル算出処理で算出した前記各仮想スクリーン上の各点における音圧レベルを、予め基準音圧レベルとして記憶しておく基準音圧レベル記憶手段を備え、
前記診断対象物の異音診断時に前記音圧レベル算出処理で算出した前記各仮想スクリーン上の各点における音圧レベルを、前記基準音圧レベル記憶手段に記憶されている前記各仮想スクリーン上の各点における基準音圧レベルと比較して、その差分値を算出し、その差分値が既定の基準差分値を超えた点を含む領域を、音圧異常領域として抽出する第2の音圧異常領域抽出処理を実行し、
前記音圧マップ表示処理では、前記音圧マップを表示するときには、前記抽出した音圧異常領域を、前記音圧マップに重ね合わせて表示すること
を特徴とする請求項6または請求項7に記載の異音診断方法。
【請求項9】
前記情報処理装置は、
前記音圧レベル算出処理において、ビームフォーミング法により、前記各仮想スクリーン上の各点における音圧レベルを算出すること
を特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれか1項に記載の異音診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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