説明

疑似電波発生レーダシステム

【課題】ARMを誘導するための効率的な送信ビーム形成が可能疑似電波発生レーダシステムを提供する。
【解決手段】複数の疑似電波発生装置100と、複数の疑似電波発生装置100から送信する送信ビームを合成するビーム形成部30と、ARMの飛来情報に基づいて、送信信号の相関関数行列を選択するための相関行列選択器21とを備え、相関行列選択器21が選択する相関関数行列に応じて、ビーム形成部30が合成する送信ビームのビームパターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダ装置本体を電波フォーミングミサイルの攻撃から回避するための疑似電波発生レーダシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置本体が発する送信電波を捕捉し、レーダ装置本体を破壊する電波フォーミングミサイルの脅威からレーダ装置を回避するための対抗手段として、レーダ装置本体の周辺に複数の疑似電波発生装置(デコイ装置)を配置し、複数の疑似電波発生装置からレーダ装置本体を模擬した擬似電波を送信することにより電波フォーミングミサイルを誘導し、レーダ装置本体および疑似電波発生装置を電波フォーミングミサイルの攻撃から回避するレーダシステムが知られている。
なお、電波フォーミングミサイルは、対放射源ミサイルとも呼ばれ、以降はARM(Anti-Radiation-Missile)と略すこととする。
疑似電波発生装置(デコイ装置)は、擬似電波を送信するための信号を発信する信号生成器、信号生成器で生成された信号を増幅する信号増幅器、擬似電波を空中に向けて放射する空中線装置、および空中線装置を駆動するアンテナ駆動装置などで構成されている。
【0003】
複数の疑似電波発生装置を用いて各疑似電波発生装置の近傍へARMを誘導する疑似電波発生レーダシステムにおいて、1つもしくは複数の疑似電波発生装置が故障または破壊されて、擬似電波の送信を行う疑似電波発生装置が1つとなった場合、擬似電波を送信する疑似電波発生装置はARMにより確実に破壊される。
このようなことを防止するために、疑似電波発生装置の故障または破壊の状態を常に監視し、疑似電波発生装置が故障または破壊された場合にはARMの誘導の制御方法を変更することで、ARMによるレーダ装置および疑似電波発生装置の破壊を回避するようにした疑似電波発生レーダシステムが提案されている。(例えば、特許文献1参照)
なお、部分信号相関を用いたMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)レーダの送信ビームフォーミングについては下記の非特許文献1に示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−108737号公報
【非特許文献1】「Transmit beamforming for MIMO radar systems using partial signalcorrelation」 Fuhrmann,D.R.; Antonio,G.S Signals,Systems and Computers,2004.Conference Record of the Thirty-Eighth Asilomar Conference nVolume1,Date:7-10 Nov.2004, Pages:295-299 Vol.1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
疑似電波発生装置は、小規模で簡易な空中線装置で擬似電波を発生するものであり、複数の疑似電波発生装置を備えていても、その送信源で個別に運用するのみで、電波ビーム合成機能を有していない。
即ち、従来のレーダシステムにおいては、各疑似電波発生装置は無指向で所定の方位方向に広いパターンを形成して電波ビームを放射するか、駆動系を有するアンテナで任意の方向に電波ビームを形成して放射するかのどちらかであった。
つまり、複数の送信開口でシステムを構成しても、装置規模が大きくなるだけであって、性能は送信サブ開口のパターン以上にはなり得なかった。
このように、送信電波ビーム合成機能を有していない疑似電波発生装置を用いた従来のレーダシステムでは、ARMからの攻撃に対してフレキシブルに対応することができず、擬似電波による効果は限定されるものであった。
【0006】
この発明は、このような課題を解決するものであって、疑似電波発生装置から送信される送信ビームパターンの制御に送信ビームフォーミング技術を適用して、疑似電波発生装置の欺瞞効果を効率的に実現することにより、レーダ装置に対するARMからの攻撃を回避するようにした疑似電波発生レーダシステムを得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係わる疑似電波発生レーダシステムは、複数の疑似電波発生装置と、前記複数の疑似電波発生装置から送信する送信ビームを合成するビーム形成部と、ターゲットである電波フォーミングミサイル(ARM)の飛来情報に基づいて、送信信号の相関関数行列を選択するための相関行列選択器とを備え、前記相関行列選択器が選択する相関関数行列に応じて、前記ビーム形成部が合成する送信ビームのビームパターンを形成するものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、相関行列選択器が選択する相関関数行列に応じて、ビーム形成部が合成する送信ビームのビームパターンを変動することが可能であり、ターゲットであるARMの飛来状況に応じて合成ビームパターンを形成することができる。
その結果、ターゲット(ARM)に対して、効率的な疑似電波の送信ビームの形成が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態例について説明する。
なお、各図間において、同一符合は、同一あるいは相当のものであることを表す。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による疑似電波発生レーダシステムの構成を概念的に示すブロック図である。
また、図2は、図1に示した疑似電波発生装置100の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、疑似電波発生装置100は、空中線装置(アンテナ)10、信号増幅器11、信号生成器12、空中線装置(アンテナ)駆動装置13および制御器14で構成されている。
【0010】
また、図1に示すように、本実施の形態による疑似電波発生レーダシステムは、複数の疑似電波発生装置100および信号処理装置200で構成されており、信号処理装置200は相関行列選択器21を含む監視制御装置20とビーム形成部30とで構成されている。
監視制御装置20の相関行列選択器21は、ターゲットである電波フォーミングミサイル(ARM)の飛来情報に基づいてオペレータが設定する制御データ300に従って、送信信号の相関関数行列を選択する。
ビーム形成部30は、相関行列選択器21が選択する相関関数行列に応じて、複数の疑似電波発生装置100から送信する送信電波ビームを合成して送信ビームパターンを形成する。
【0011】
監視制御装置20に含まれる相関行列選択器21が本発明の特徴的な部位であり、相関行列選択器21は、複数の送信ビームの相関行列を任意に選択する機能(アルゴリズム)を有している。
信号をコヒーレント(coherent)に合成する相関行列を選択すれば、通常のアレーアンテナ合成と同等であり、送信開口面積(等価開口)が大きいならば先鋭ビームを形成することが可能である。
一方、無相関な行列を選択すれば、送信開口1個分の幅の広いビームを形成することができる。
理想的には、限りなく幅の狭い合成ビームから無指向の幅広の合成ビームまで、あらゆる形状のビームを形成することが可能になる。
なお、開口面積が大きいとメインビームの幅は狭くなり、開口面積が小さいとメインビームの幅は広くなる。
【0012】
次に、本実施の形態が適用にされる疑似電波発生レーダシステムの基本的な動作について説明する。
レーダにて目標(ターゲット)を検出し、検出した目標がARMであると認識した場合は、安全域である距離X以遠では通常のサーチを継続する。但し、ARMに対してはトラッキング・ビームで追尾する。
危険域である距離X以内にARMが侵入した場合、レーダ装置本体(図示なし)は段階的に減力送信を行い、疑似電波発生装置(デコイ)100から誤誘導(欺瞞誘導すること)電波を発射する。
【0013】
疑似電波発生装置100の電波発射は、オペレータの操作で実施され、多目標であれば(即ち、検出したARMが複数であれば)、ファンビームを形成する相関行列が相関行列選択器21で選択され、単体目標であればペンシルビームを形成する相関行列が相関行列選択器21で選択される。
なお、ファンビームとは、誘導目標が複数個ある場合に複数の誘導目標を一括して誘導することが可能なビームであり、ペンシルビームとは、単体の誘導目標の遠距離・高精度の誘導が可能なビームである。
【0014】
その後、ビーム形成部30にて振幅・位相の重み付けを実施し、各疑似電波発生装置100に合成信号を出力する。
最終的にレーダ本体は完全に停止し、疑似電波発生装置100のみの送信により、ARMを誤誘導して、レーダ本体から離隔した位置に着弾させるか、または、疑似電波発生装置100に命中させることにより、ARM回避を確実に行う。ARM着弾確認後、レーダ本体は通常送信を開始する。
【0015】
以上説明したように、本実施の形態による疑似電波発生レーダシステムは、複数の疑似電波発生装置100と、複数の疑似電波発生装置100から送信する送信ビームを合成するビーム形成部30と、ターゲットである電波フォーミングミサイル(ARM)の飛来情報に基づいて、送信信号の相関関数行列を選択するための相関行列選択器21とを備え、相関行列選択器21が選択する相関関数行列に応じて、ビーム形成部30が合成する送信ビームのビームパターンを形成する。
【0016】
本実施の形態によれば、相関行列選択器21が選択する相関関数行列に応じて、ビーム形成部30が合成する送信ビームのビームパターンを変化(変動)させることが可能であり、ARMの飛来状況に応じて合成ビームパターンを形成することができる。
つまり、送信ビーム合成の効果によって、送信される合成疑似電波ビームは先鋭化され、先鋭化ビームによるARMの遠距離・高精度誘導が可能になる。
従って、ARMの誤誘導のための効率的な送信ビーム形成が可能になる。
【0017】
ここで、本発明に関して、説明を補足しておく。
本発明のベース技術は、前述した非特許文献1の論文によるものである。
この論文は、MIMOレーダシステムにおいて、任意の相関関数Rを選択(最適化)することができる伝送信号を用いた波形整形シミュレーションの結果を示している。
通常、MIMOレーダシステムは、送信局・受信局共に複数のアンテナで構成されているため、各アンテナの相関を求めることが可能である。つまり、相関関数Rを自由に選択できれば、所望のビームパターンを形成することも可能となる。
所望のビームパターンに近似の送信ビームパターンを形成するには、相関関数Rの値を決定することが問題となるが、本論文では相関関数Rのコレスキーファクタを算出することで解決法を見出している。
【0018】
本実施の形態では、相関関数の算出自体は、本論文に開示された理論を用いて行われるのであるが、このような理論を用いたビームフォーミング技術をデコイ(疑似電波発生装置)に適用することにより、従来のように単体のデコイでは届かなかった遠距離にまで欺瞞効果を及ぼすようにした点が本発のポイントである。(ファンビームの場合でも、単体のデコイでファンビームを形成する場合に比べて遠距離まで欺瞞効果が及ぶ。)
実施の形態では相関行列選択器21にて算出された相関関数に基づいてビーム形成部30がビームパターンを形成することが記載されているが、この場合、ビームパターン(ペンシルまたはファン)だけでなく、ビーム形成の方位も決められており、そのようなビーム形成方位を指示する相関関数が算出されている。
当然、相関行列選択器21に入力される制御データも、ビームパターンおよびそのビーム形成方位を指示するデータとなる。
【0019】
実施の形態2.
図3は、実施の形態2による疑似電波発生レーダシステムの構成を概念的に示すブロック図である。
本実施の形態による疑似電波発生レーダシステムは、前述の実施の形態1による疑似電波発生レーダシステムおいて、更に同時に発射されたターゲット(ARM)の数に応じて、形成するペンシルビームの本数を切り替える機能を有したビーム切替器22を追加したことを特徴とする。
ビーム切替器22は、オペレータの判断により、検出したARMの数に応じてビーム形成部30が形成する送信ビーム(ペンシルビーム)の本数を切り替える。
敵機から複数のARMが同時に発射された場合、相関行列選択器21では同時多目標欺瞞を目的に、ペンシルビームを複数形成する相関行列を選択する。
【0020】
以上説明したように、本実施の形態による疑似電波発生レーダシステムは、同時に発射されたターゲット(ARM)の数に応じてビーム形成部が合成する送信ビームの本数を切り替えるビーム切替器22を備えている。
従って、複数のARMが同時に発射された場合でも、複数のARMを同時に誤誘導することができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
この発明は、レーダ装置本体に対する攻撃を回避する疑似電波発生レーダシステムの実現に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態1による疑似電波発生レーダシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した疑似電波発生装置の構成を示すブロック図である。
【図3】実施の形態2による疑似電波発生レーダシステムの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0023】
10 空中線装置(アンテナ) 11 信号増幅器
12 信号生成器 13 アンテナ駆動装置
14 制御器 20 監視制御装置
21 相関行列選択器 22 ビーム切替器
30 ビーム形成部 100 疑似電波発生装置
200 信号処理装置 300 制御データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の疑似電波発生装置と、
前記複数の疑似電波発生装置から送信する送信ビームを合成するビーム形成部と、
ターゲットである電波フォーミングミサイル(ARM)の飛来情報に基づいて、送信信号の相関関数行列を選択するための相関行列選択器とを備え、
前記相関行列選択器が選択する相関関数行列に応じて、前記ビーム形成部が合成する前記送信ビームのビームパターンを形成することを特徴とする疑似電波発生レーダシステム。
【請求項2】
前記電波フォーミングミサイル(ARM)の数に応じて、前記ビーム形成部が合成する送信ビームの本数を切り替えるビーム切替器を備えたことを特徴とする請求項1に記載の疑似電波発生レーダシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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