説明

疲労亀裂進展抑制に優れた鋼板

【課題】ベイナイトを主体とする鋼板において、各結晶方位関係を適切に規定することによって、疲労亀裂進展抑制に優れたものとした鋼板を提供する。
【解決手段】本発明の鋼板は、ベイナイト相を主体とする組織からなり、15°以上の大角粒界で囲まれた領域を結晶粒としたとき、当該結晶粒の平均円相当径が15μm以下であって、且つ隣接する結晶粒同士の方位差が55〜60°である割合が0.3以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として船舶や橋梁の構造材として用いられる鋼板に関するものであり、特に亀裂の進展速度を抑制して良好な疲労寿命を確保することのできる鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
造船や橋梁分野を始めとする各種構造材料では、繰り返し応力が加わるものが少なくないことから、構造材料の安全性を確保するためには、素材として用いられている鋼材には疲労特性が良好であることが設計上極めて重要である。
【0003】
鋼材の疲労過程は、応力集中部での亀裂の発生と、一旦発生した亀裂の進展という2つの過程に大別して考えられる。そして、通常の機械部品では巨視的な亀裂の発生が、使用限界として考えられており、設計上亀裂の進展についてはそれほど考慮されていない。しかしながら、溶接構造物においては、疲労亀裂が発生しても直ちに破壊に至ることはなく、亀裂進展速度を遅くすることができれば、破壊に至るまでの寿命を短くすることができ、定期検査などで亀裂を発見することが可能であり、早期に取り替えずとも続けて使用することが可能である。
【0004】
ところで、溶接構造物では、応力集中部としての溶接止端部や欠陥部が多数存在しており、疲労亀裂の発生を完全に防止することは実際問題として不可能であり、こうした設計は経済的にも得策とはいえない。即ち、溶接構造物の疲労寿命を良好にするためには、亀裂の発生そのものを防止するよりも、亀裂が既に存在している状態からの亀裂進展寿命を大幅に延長することが有効であり、そのためには鋼材の亀裂の進展速度をできるだけ遅くするような設計が重要な事項となる。
【0005】
疲労亀裂進展の速度を抑制する技術としてもこれまで様々なものが提案されており、例えば特許文献1には、鋼板表面の法線方向をNDとしたとき、α鉄の(100)面がNDと平行な方位{(100)//ND}を有する結晶粒と、α鉄の(111)面がNDと平行な方位{(111)//ND}を有する結晶粒との間の境界が亀裂の進展方向に沿って少なくとも30μmに1箇所以上横切ることや、鋼板表面に平行な測定面で鋼板内部のα(111)面強度比とα(100)面強度比の比が1.25〜2.0とすることによって疲労亀裂進展(伝播)特性に優れた鋼板とすることが提案されている。
【0006】
高い応力下で使用される鋼板であるほど疲労特性に対する関心は高くなるのであるが、上記技術でフェライトを主体(例えば、70面積%以上)とするものであるので、390〜490MPa程度の強度クラスにしか対応できず、特に疲労亀裂が問題となる部分には適用できないという問題がある。
【0007】
また上記技術では、結晶方位を上記のように制御するために、フェライトを70面積%以上析出させたγ−α二相域の低温度温度領域またはα温度域で強加工をすることが示されている。こうしたフェライト組織に対して、ベイナイト相を主体とする組織(これを「単にベイナイト組織」と呼ぶことがある)では、オーステナイトと一定の方位関係を持って生成することが知られており、上記技術と同様の手段では、結晶方位を制御することはできない。
【0008】
一方、特許文献2では、ベイナイト組織またはマルテンサイト組織で、最大引張・圧縮歪で±0.012、繰り返し速度0.5Hz、最大歪までの波数12の漸増・漸減繰り返し負荷を15回与えたときの、1回の最大歪時の応力σと15回の最大歪時の応力σ15との比σ/σ15で示される繰り返し軟化パラメータが0.65以上0.95以下であるような疲労亀裂進展特性に優れた鋼材が提案されている。そして、この技術では、亀裂先端の転位の移動、消滅による軟化によって歪が緩和され、亀裂進展が抑制されることが示されている。この技術では、汎用鋼と類似の成分系において一般的な製法製造することによって、亀裂進展特性に優れた鋼板とすることができるとしているが、必ずしも一般材との区別が明確にされている訳ではなく、上記のような軟化パラメータを規定するだけで希望する特性が発揮されるとはいえない。更に、破面遷移温度vTrsが0℃を超える実施例が存在し、構造物としての特性を十分に満足できない可能性がある。
【特許文献1】特開2000−17379号公報 特許請求の範囲等
【特許文献2】特開2004−27355号公報 特許請求の範囲等
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、ベイナイトを主体とする鋼板において、各結晶方位関係を適切に規定することによって、疲労亀裂進展抑制に優れたものとした鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成することのできた本発明の鋼板とは、ベイナイトを主体とする組織からなり、2つの結晶の方位差が15°以上の大角粒界で囲まれた領域を結晶粒としたとき、当該結晶粒の平均円相当径が15μm以下であって、且つ隣接する結晶粒同士の方位差が55〜60°である割合が0.3以上である点に要旨を有するものである。尚、本発明において、「ベイナイトを主体とする」とは、ベイナイト相が組織中に90面積%以上を占める状態を意味する。
【0011】
本発明の高張力鋼板においては、その化学成分組成については通常の鋼板としての成分組成であれば、その効果が発揮されるものであるが、好ましい化学成文組成としては、C:0.01〜0.10%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.01〜0.6%、Mn:0.6〜2.0%、Al:0.005〜0.10%を夫々含有する他、Cu:0.03〜3.0%、Cr:0.03〜3.0%、Ni:0.03〜3.0%、Mo:0.03〜1.0%、V:0.003〜0.1%、Nb:0.003〜0.1%、Ti:0.003〜0.1%およびB:0.0003〜0.003%よりなる群から選択される1種または2種以上を含み、残部が鉄および不可避不純物であるものが挙げられる。また不可避不純物中のPやSは、P:0.025%以下、S:0.02%以下に夫々抑制することが好ましい。
【0012】
本発明の鋼板においては、必要によって、下記(1)式で規定される炭素当量Ceqが0.40〜0.70であることや、更にCaを0.0005〜0.005%および/または希土類元素(REM):0.0005〜0.030%含有するものであることが好ましく、付加する要件に応じて鋼板の特性が更に改善される。
Ceq=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14…(1)
但し、[C],[Si],[Mn],[Ni],[Cr],[Mo]および[V]は、夫々C,Si,Mn,Ni,Cr,MoおよびVの含有量(質量%)を示す。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鋼板においては、ベイナイトを主体とする組織を有する鋼板において、各結晶方位関係を適切に規定することによって、疲労亀裂進展抑制に優れた鋼板が実現でき、こうした鋼板は、造船や橋梁分野を始めとする各種構造材料の素材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するために、特にベイナイト組織である鋼板に着目し、その鋼板における疲労亀裂進展速度を抑制するための手段について様々な角度から検討した。その結果、次のような知見が得られた。即ち、上記のようなベイナイト組織ではオーステナイトに対して、何通りかの方位関係を持って生成することになるのであるが、鋼板の化学成分組成、組織の生成温度、その他の条件等によって選択される各結晶格子の方位関係が変化することになり、一定の結晶方位差を有する結晶粒界では、特に疲労亀裂進展が抑制されることが判明したのである。そして、結晶方位分布を適切に規定すれば、疲労亀裂進展の抑制を良好に実現できる鋼板が実現できることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明が完成させた経緯に沿って、本発明の作用効果について説明する。
【0015】
ベイナイト相を主体とするような単相組織では、粒界が亀裂進展の抵抗となるものと考えられるが、亀裂進展の際に粒界と亀裂が衝突する頻度を高めれば、亀裂の進展が抑制できるものと考えられた。即ち、粒界を細かくすることによって、亀裂との衝突頻度を高めれば良いとの知見が得られた。但し、粒界を形成する両端の方位差が小さい(例えば、15°未満)小角粒界(小傾角境界)では、粒界エネルギーが小さくなってその効果が小さいので、前記方位差が15°以上の大角粒界(大傾角境界)を対象とする必要がある。また、大角粒界のうちでも、隣接する結晶粒同士の方位差が55〜60°である割合が高くなるほど、亀裂進展には有効であることも判明したのである(後記図1参照)。
【0016】
つまり、前記方位差が15°以上である大角粒界に囲まれた結晶粒で、同一面積の円に換算したときの直径(円相当直径)の平均値で15μm以下とした結晶粒であって、隣接する結晶粒の方位差の分布において、方位差が55〜60°である割合が0.3以上(30%以上)とすることによって、疲労亀裂進展抑制効果に優れた鋼板が実現できたのである。尚、前記「方位差」は、「ずれ角」若しくは「傾角」とも呼ばれているものであり、以下では「結晶方位差」と呼ぶことがある。またこうした結晶方位差を測定するには、EBSP法(Electoron Backscattering Pattern法)を採用すれば良い。
【0017】
本発明の鋼板において、その化学成分組成については通常の鋼板としての成分組成であれば、その効果が発揮されるものであるが、好ましい化学成分組成としては、C:0.01〜0.10%、Si:0.01〜0.6%、Mn:0.6〜2.0%、Al:0.001〜0.10%を夫々含有する他、Cu:0.03〜3.0%、Cr:0.03〜3.0%、Ni:0.03〜3.0%、Mo:0.03〜1.0%、V:0.003〜0.1%、Nb:0.003〜0.1%、Ti:0.003〜0.1%およびB:0.0003〜0.003%よりなる群から選択される1種または2種以上を含み、残部が鉄および不可避不純物であるものが挙げられる。これらの成分の範囲限定理由は、次の通りである。
【0018】
C:0.01〜0.10%
Cは、鋼板の強度確保のために必要な元素である。鋼板としての最低強度、即ち概ね490MPa程度(使用する鋼材の肉厚にもよるが)を得るためには、0.01%以上含有させるのが良い。しかし、0.10%を超えて過剰に含有させると溶接性が劣化すると共に、ブロックサイズが粗大化して小角粒界の割合が増加して、55〜60°の結晶方位差を有する大角粒界の割合が減少する傾向を示すことになる。こうしたことから、C含有量は0.01〜0.10%とした。尚、C含有量のより好ましい下限は0.03%であり、好ましい上限は0.08%である。
【0019】
Si:0.01〜0.6%
Siは脱酸と強度確保のための必要な元素であり、0.1%に満たないと構造部材としての最低強度を確保できない。しかし、0.6%を超えて過剰に含有させると溶接性が劣化する。尚、Si含有量のより好ましい上限は0.40%である。
【0020】
Mn:0.6〜2.0%
Mnは鋼板の強度および靭性確保のために有効な元素であり、こうした効果を発揮させるためには0.6%以上含有させることが好ましい。しかし、2.0%を超えて過剰に含有させると溶接性、割れ感受性が劣化するので2.0%以下とするのが良い。尚、Mn含有量のより好ましい下限は0.8%である。
【0021】
Al:0.001〜0.10%
Alは脱酸のために有用な元素であり、0.001%に満たないと脱酸効果がない。しかし、0.10%を超えて含有させると溶接部の靭性を劣化させるので0.10%以下とするのが良い。
【0022】
Cu:0.03〜1.0%、Cr:0.03〜1.0%、Ni:0.03〜1.0%、Mo:0.03〜1.0%、V:0.003〜0.1%、Nb:0.003〜0.1%、Ti:0.003〜0.1%およびB:0.0003〜0.003%よりなる群から選択される1種または2種以上
これらの元素は、変態を抑制し、ベイナイト変態開始温度Bsを低下させることによって、組織単位を細かくする作用を発揮する。またベイナイトは、変態の際にK−S関係(Kurdjiumov-Sachsの関係)を持って変態するが、低温で変態することで、単一のバリアント(いわゆる兄弟晶)からなる微細なブロックが生成するようになる。こうした効果を発揮させるためには、上記した各下限値以上含有させることが好ましいが、多量に含有させると溶接性を損なうので各上限値以下とするのが良い。
【0023】
本発明の鋼板における基本成分は上記の通りであり、残部は鉄および不可避不純物(例えば、P,S,N,O等)からなるものであるが、この不可避不純物中のPやSは、下記の観点から夫々0.025%以下および0.02%以下に夫々抑制することが好ましい。また、ベイナイト組織を得るため、および溶接性を良好に維持するという観点からして、前記(1)式で示されるCeqを0.40〜0.70(%)の範囲に制御することが好ましい。
【0024】
P:0.025%以下およびS:0.02%以下
Pは結晶粒に偏析し、延性や靭性に有害に作用する不純物であるので、できるだけ少ない方が好ましいのであるが(0%を含む)、実用鋼の清浄度の程度を考慮して0.025%以下に抑制するのが良い。またSは、鋼板中の合金元素と化合して種々の介在物を形成し、鋼板の延性や靭性に有害に作用する不純物であるので、できるだけ少ない方が好ましいのであるが(0%を含む)、実用鋼の清浄度の程度を考慮して0.02%以下に抑制するのが良い。
【0025】
また、本発明の鋼板には、上記成分の他必要によって、Ca:0.0005〜0.005%および/またはREM:0.0005〜0.0030%を含有させることも有効であり、これらの元素を含有させることによって鋼板の特性が更に改善されることになる。
【0026】
Ca:0.0005〜0.005%および/またはREM:0.0005〜0.030%
CaおよびREMは、Sの固定による靭性の向上に有効な元素であり、その効果を発揮させるためには、いずれも0.0005%以上含有させることが好ましい。しかしながら、過剰に含有させでもその効果が飽和するので、Caで0.005%以下、REMで0.030%以下とすることが好ましい。Caを含有させるときのより好ましい下限は0.001%である。
【0027】
本発明の鋼板は、ベイナイトを主体とする組織からなるものであるが、オーステナイト状態で冷却を行うことによって、過冷状態となり、Ar変態点を低下すると共にベイナイト組織とすることができる。こうしたベイナイト相は、オーステナイトと何通りかの一定の方向の方位関係をもって変態するが、特に低温で変態させると、選択できるバリアントが限定され、ある結晶方位差に大きなピークを持つようになる。変態点を低下させるには、合金元素の添加や冷却速度の増加等が有効である。
【0028】
具体的な製造条件としては、950〜1250℃の温度範囲に加熱し、Ar変態点〜900℃の温度範囲で圧延を終了した後、加速冷却(例えば、水冷)を行なえば良い。このときの加熱温度が950℃未満になると、十分にオーステナイト状態とはならない。しかし、加熱温度が1250℃を超えると、オーステナイト粒が粗大化してしまい、変態後の大角粒界径も粗大化するので好ましくない。
【0029】
圧延後の冷却については、10℃/秒以上の冷却速度で加速冷却を行なうことが好ましい。また加速冷却の停止温度については、組織がベイナイト主体となる温度まで冷却する必要があるので、450℃以下とする。
【0030】
他の方法としては、950〜1250℃の温度範囲に加熱し、再結晶温度域で圧延を行なった後、1℃/秒以上の冷却速度で600〜700℃の温度域まで冷却を行ない、引き続きその温度で過冷オースナイトの状態で圧下率30%以上の圧延を行ない、その後再度加速冷却を行なう方法が挙げられる。この方法では、オーステナイトに低温で圧延を加えることによって、多くの変形帯を導入することができ、オースフォーム(加工熱処理)効果により核生成サイトが増加するので、組織を微細化し、疲労亀裂進展抑制効果を高めることができる。
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含されるものである。
【実施例】
【0032】
実施例1
下記表1に示す化学成分組成の鋼材を転炉で溶製し、種々の冷却、圧延条件によって鋼板を製造した。このときの製造条件を下記表2に示す。尚、下記表2中、「AcC」は加速冷却(水による冷却)、「AC」は空冷、「QT」は焼入れ・焼き戻し、を夫々意味する。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
得られた各鋼板について、機械的特性(降伏点YP、引張り強さTS、伸びEl)を測定すると共に、大角粒界径(平均円相当径)、結晶方位差が55〜60°の割合、疲労亀裂進展速度、破面遷移温度vTrs等を下記の方法によって測定した。これらの結果を一括して、下記表3に示す。
【0036】
[大角粒界径(平均円相当径)]
鋼板の圧延方向に平行な断面において、FE−SEM−EBSP(電子放出型走査電子顕微鏡を用いた電子後方散乱回折像法)によって測定した。具体的には、Tex SEM Laboratries社のEBSP装置(商品名:「OIM」)を、EF−SEMと組み合わせて用い、傾角(結晶方位差)が15°以上の境界を結晶粒界として、結晶粒径を測定した。このときの測定条件は、測定領域:200μm、測定ステップ:0.5μm間隔とし、測定方位の信頼性を示すコンフィテンス・インデックス(Confidence Index)が0.1よりも小さい測定点は解析対象から除外した。このようにして求められる結晶粒径の平均値を算出して、本発明における平均結晶粒径とした。尚、結晶粒径が2.0μm以下のものについては、測定ノイズと判断し、結晶粒径の平均値計算の対象から除外した。
【0037】
[結晶方位差が55〜60°の割合]
OIM自動分析ソフトにより、各粒界における方位差を測定することによって、結晶方位差が55〜60°の割合を求めた(計算した)。
【0038】
[疲労亀裂進展速度]
ASTM E647に準拠し、コンパクト型試験片を用いて、疲労亀裂進展試験を実施することによって、疲労亀裂進展速度を求めた。この際、下記(2)式によって規定されるパリス則が成り立つ安定成長領域ΔK=20(MPa・√m)での値を代表値として評価した。尚、疲労亀裂進展速度の評価、基準については、通常の鋼材が4〜6×10−5mm/cycle(ΔK=20のとき)程度の進展速度であることから、3.0×10−5mm/cycle以下を基準とした。
da/dn=C(ΔK)…(2)
但し、a:亀裂長さ,n:繰り返し数,C,m:材料、荷重等の条件で決まる定数を夫々示す。
【0039】
[破面遷移温度vTrs]
機械加工によって作製したJIS4号衝撃試験片を用い、JIS Z2242に準拠した試験方法で衝撃試験を行い、JISに準拠した方法で脆性破面率(若しくは「延性破面率」)を求め、(試験温度vs脆性破面率)の曲線から、脆性破面率が50%となる遷移温度vTrsを求めた。
【0040】
【表3】

【0041】
表3の結果から次のように考察できる。ます試験No.1〜5のものは、本発明で規定する要件を満足するものであり、十分な疲労亀裂進展抑制効果(進展速度で3.0×10−5mm/cycle以下)が発揮されていることが分かる。
【0042】
これに対して、試験No.6〜14のものでは、本発明で規定する要件のいずれかを欠くものであり、いずれも疲労進展抑制効果が発揮されていない。即ち、試験No.5〜12のものでは、いずれも加速冷却を行なっていないので、結晶方位差が55〜60°である割合が低いので、疲労亀裂進展速度が速くなっている。また、試験No.13のものでは、結晶方位差が55〜60°である割合が高いものの、大角粒界径が大きくなっており、疲労亀裂進展速度が速くなっている。更に、試験No.14のものでは、(フェライト+パーライト)の組織になっており、結晶方位差が55〜60°である割合が低いので、疲労亀裂進展速度が速くなっている。
【0043】
表3の結果に基づき、結晶方位差が55〜60°の割合と疲労亀裂進展速度の関係を図1に示すが、粒径が粗大化したもの(試験No.14)を除いて、上記割合を0.3以上とすることで疲労亀裂進展速度が十分低くなっていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例における結晶方位差が55〜60°の割合と疲労亀裂進展速度の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベイナイト相を主体とする組織からなり、2つの結晶の方位差が15°以上の大角粒界で囲まれた領域を結晶粒としたとき、当該結晶粒の平均円相当径が15μm以下であって、且つ隣接する結晶粒同士の方位差が55〜60°である割合が0.3以上であることを特徴とする疲労亀裂進展抑制に優れた鋼板。
【請求項2】
C:0.01〜0.10%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.01〜0.6%、Mn:0.6〜2.0%、Al:0.005〜0.10%を夫々含有する他、Cu:0.03〜3.0%、Cr:0.03〜3.0%、Ni:0.03〜3.0%、Mo:0.03〜1.0%、V:0.003〜0.1%、Nb:0.003〜0.1%、Ti:0.003〜0.1%およびB:0.0003〜0.003%よりなる群から選択される1種または2種以上を含み、残部が鉄および不可避不純物である請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
不可避不純物中のPを0.025%以下、Sを0.02%以下に夫々抑制したものである請求項2に記載の鋼板。
【請求項4】
下記(1)式で規定される炭素当量Ceqが0.40〜0.70である請求項2または3に記載の鋼板。
Ceq=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14…(1)
但し、[C],[Si],[Mn],[Ni],[Cr],[Mo]および[V]は、夫々C,Si,Mn,Ni,Cr,MoおよびVの含有量(質量%)を示す。
【請求項5】
更に、Ca:0.0005〜0.005%および/または希土類元素:0.0005〜0.030%を含有するものである請求項2〜4のいずれかに記載の鋼板。

【図1】
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【公開番号】特開2007−169678(P2007−169678A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365303(P2005−365303)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】