説明

疼痛および炎症を治療するための4−(ニトロオキシ)−ブチル−(S)−2−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロパノエートの使用

本発明は、鬱血性心不全、肝疾患、硬変、既に発症している腎疾患、容積喪失、または高齢で腎障害、慢性腎不全もしくは本態性高血圧を有する患者における疼痛および炎症、特に筋骨格障害を治療するための、4−(ニトロオキシ)−ブチル−(S)−2−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロパノエート(ナプロクスシノッド)の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重い心疾患、肝疾患、既に発症している腎疾患、容積喪失(volume depletion)、腎障害を有する高齢の患者における疼痛および炎症、特に筋骨格障害を治療するための4−(ニトロオキシ)−ブチル−(S)−2−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロパノエート(ナプロクスシノッド(Naproxcinod))の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
COX阻害性一酸化窒素供与体(CINOD)は、急性および慢性の疼痛の治療のために設計された新規な薬剤群である。
ナプロクスシノッドは、胃腸および心臓血管系への毒性が低い、ナプロキセンの一酸化窒素(NO)放出性誘導体である。
ナプロクスシノッドは、変形性関節症の兆候または症状の治療のための第3相臨床試験にある。
【0003】
非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は、疼痛を緩和するために広く用いられている。
それらは緊急のおよび短時間での使用については、相対的に安全であると考えられているが、常習的なユーザーにとっては有害反応があることがよく知られている。
【0004】
通常のNSAIDは潜在的には腎臓への重大な有害反応を有する(Whelton A, AM J Med 1999; 106:13-24)。
【0005】
腎毒性に進展する主たる危険因子は、男性であること、65歳を超える年齢であること、心臓血管系の病変が存在すること、多量に服用すること、腎疾患以外で新たに入院し、それに伴って腎毒性薬を仮に用いることである(Perez Gutthan Sら., Arch Int Med 1996; 156: 2433-9)。
NSAIDで治療を受けたとき、1以上のこれらの危険因子を有する患者の20%は腎不全を進展させ得る。
服用量と時間との間の著しい関連性が、ほとんど全ての場合で報告されている(Perazzella M, Hosp Pract 2001; 36:43-56)。
【0006】
NSAIDは2つの異なった形態の急性腎不全を誘発し得る。
プロスタグランジンの合成の減少は、可逆性の腎虚血および血行動態的に仲介された急性腎不全を引き起こし得る(Perazzella MA, Eras J, Am J Kid Dis 2000; 35:937-40)。
急性腎不全の第2の形態は急性間質性腎炎である。
数年以上、過剰量のNSAIDを摂取した患者については、乳頭壊死が起こり得る。
【0007】
NSAIDは、臨床的な意味合いでプロスタグランジンPGI2、PGE2およびPGD2の阻害を介して腎潅流を低減させる(Whelton A, AM J Med 1999; 106:13-24)。
実際に、プロスタグランジンは、特に血液量不足症を有し、利尿薬での治療を受けている高齢の患者における、腎臓内の血流と、内因性の血管収縮剤の刺激に応答しての電解質の排泄とを調節する(Clive DM, Stoff JS, N Engl J Med 1984; 310:563-72)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
NSAIDの投与は、本質的に投与の最初の3日間にナトリウムの貯留を促進することが繰り返し示されている。
NSAIDが誘発したナトリウムの貯留は、食塩に敏感な対象者における血圧の上昇、末梢浮腫および体重の増加のような、いくつかの重要な臨床結果を有し得る。
【0009】
ナトリウムの貯留は、フロセミドのような利尿薬を含む薬剤のナトリウム排泄増加効果を低下させるであろうし、チアジドの降圧作用効果を鈍化させ得る。
さらに、ナトリウムの貯留は、高血圧患者における血圧の急激な不安定化、または鬱血性心不全を有する患者における心機能の代償不全の原因となり得る。
【0010】
したがって、鬱血性心不全、硬変、慢性腎不全または本態性高血圧を有する患者における疼痛を治療するために用いることができる、腎機能に対する悪影響、特にナトリウムの貯留が少ないNSAIDを提供することが本発明の課題である。
【0011】
腎髄質の低酸素症はヒトにおける急性腎不全の発症の前兆現象であり、ヒトのPGE2の合成の減少は、髄質の酸化を改善する能力の損失の部分的な原因であると考えられるため、プロスタグランジンの放出は、重い心疾患、肝疾患、既に発症している腎疾患、容積喪失、高齢で腎障害を有する患者を含む、高いリスクを有する患者にとって特に重要である。
【0012】
極めて驚くべきことに、ナプロクスシノッドは腎髄質の酸化を維持し、その結果、それはナプロキセンより腎毒性が低いことが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明は、鬱血性心不全、肝疾患、硬変、既に発症している腎疾患、容積喪失、または高齢で腎障害、慢性腎不全もしくは本態性高血圧を有する患者についての、特に変形性関節症のような筋骨格障害における疼痛および炎症を治療するための、式(I):
【化1】

のNO放出性ナプロキセンの使用に関する。
上記の化合物は、一般にフロセミドおよびチアジドのような利尿薬で治療される患者に特に有用である。
【0014】
投与される服用量は、例えば年齢、体重、症状、所望の治療効果、投与経路および治療期間により決定される。
成人についての、一人当たりの一度の服用量は、一般に、一日当たり数回までの経口投与によっては、1mg〜1000mgであり、一日当たり数回までの非経口投与(好ましくは静脈内投与)または1〜24時間の継続投与によっては、1mg〜100mgである。
【0015】
上記のとおり、用いられる服用量は様々な条件による。
したがって、上記で明記された範囲より少ないか、または多い服用量が用いられる場合がある。
【0016】
本発明の化合物は、例えば経口投与のための固形の組成物、液体の組成物またはその他の組成物、非経口投与のための注射剤、塗布剤または坐薬の形態で投与され得る。
【0017】
式(I)のNO放出性薬剤の一般的な合成はWO95/09831に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0018】
実施例1
血液酸素濃度依存性磁気共鳴画像(BOLD−MRI)の技術により相対的な組織の酸化の半定量的な指標として用いられる、髄質のパラメーターR2*の変化に対するナプロクスシノッドおよびナプロキセンの効果を、ラットの腎臓で研究した。
【0019】
BOLD−MRIの技術は、ヘモグロビンの磁気的特性が、それが酸化された形態であるかまたは脱酸素された形態であるかのいずれかにより変動するという事実を利用している。
このことは、近傍の水分子の緩和時間T2*に影響し、次いでT2*−加重(weighted)画像におけるMRIのシグナルに影響する。
オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンとの比は血液中のpO2に関連し、毛細管血中のpO2が周囲の組織と平衡になると考えられるため、BOLD−MRIで測定される変化は組織pO2中での変化として解析され得る。
【0020】
18匹の雄のスプラーグ・ドーリー・ラット(315−320g)に、2週間、媒体(カルボキシメチルセルロース/DMSO)、ナプロクスシノッド(14.5mg/kg)または等モルのナプロキセン(10mg/kg)を、胃管栄養法により経口で服用させた。
【0021】
実験当日、ラットを、ケタミン(60−100mg/kg ip)およびチオブタバルビタール(100mg/kg ip)で麻酔し、大腿静脈中にカテーテルを入れ、BOLD−MRI分析のために準備した。
技術的には、BOLD−MRIの取得を、16のT2*加重画像を得るために、マルティプル・グラジエント・エコー・シーケンスを用いて、ショート・ボア・シグナ・ツイン・スピード3.0T(GE ヘルスケア)で行った(TR/TE/フリップ角度/FOV/BW/マトリックス/Thk/NXE=70ms/4.4−57.7ms/30°/10cm/42kHz/256×256/2mm/10)。
【0022】
クアドラチャ四肢コイルをシグナルの受信のために用いた。
シグナル強度対時間のデータを一価の指数関数に適合させて、FUNCTOOL(GE ヘルスケア)を用いてR2*のマップを作製した。
シグナル強度対時間のデータを、一価の減衰指数関数に適合させて、R2*(=1/T2*)の値を決定し、その値を、相対的組織酸化の半定量的な指標として用いた。
2*の増加は、組織pO2の減少を示す。
【0023】
一組のベースラインの画像を得た後、1.5ml/100g 体重/hrで低張グルコース食塩水(0.25% NaCl、0.5% グルコース)を2時間、大腿静脈中でのカテーテルを介して静脈に注入して、水の利尿を誘発した。
【0024】
2*のマップを2時間の間、3分間毎に得た。
着目領域(ROI)を腎髄質に置いて、R2*の平均偏差および標準偏差の値を得た。
利尿前と利尿後とのR2*の間の違いの統計的有意性を、スチューデントの対応のある両側t検定により算出した。
【0025】
対照ラットにおいて、以前のヒトでの所見と一致した、ナプロキセンのグループでは完全に除かれる、R2*の有意な低下があった。
驚くべきことに、尿のPGE2の産生レベルが、ナプロキセンについて見出されたのと同様に、ナプロクスシノッドのグループ中で低下していたにもかかわらず、ナプロクスシノッドのグループにおいては、応答はほとんどそのままであった(表1)。
【0026】
尿流量はベースラインと比べて、水負荷をかけている間(90分)、全てのグループ中で増加したが、ナプロクスシノッドとナプロキセンの両方のグループでは、水負荷をかけている間、尿流量は実質的にはほとんど増加しなかった。
【0027】
水負荷をかけている間のBOLD−MRIの観察は、ナプロキセンとナプロクスシノッドとの間の応答の違いを明確に示唆する。
【0028】
これらの結果は、ナプロクスシノッドが腎髄質の酸化に影響を与え難いため、それはラットで低い腎毒性を有し得ることを示唆する。
【0029】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鬱血性心不全、肝疾患、硬変、既に発症している腎疾患、容積喪失、または高齢で腎障害、慢性腎不全もしくは本態性高血圧を有する患者における疼痛および/または炎症を治療するための、4−(ニトロオキシ)−ブチル−(S)−2−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロパノエート。
【請求項2】
前記の疼痛および/または炎症が、筋骨格障害の兆候または症状である、請求項1に記載の4−(ニトロオキシ)−ブチル−(S)−2−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロパノエート。
【請求項3】
前記の疼痛および/または炎症が、変形性関節症の兆候または症状である、請求項1に記載の4−(ニトロオキシ)−ブチル−(S)−2−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロパノエート。
【請求項4】
利尿薬と共に前記の患者に投与される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の4−(ニトロオキシ)−ブチル−(S)−2−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロパノエート。
【請求項5】
前記の利尿薬がフロセミドおよびチアジドである、請求項4に記載の4−(ニトロオキシ)−ブチル−(S)−2−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロパノエート。
【請求項6】
鬱血性心不全、肝疾患、硬変、既に発症している腎疾患、容積喪失、または高齢で腎障害、慢性腎不全もしくは本態性高血圧を有する患者における、疼痛および/または炎症を治療するための医薬を製造するための、4−(ニトロオキシ)−ブチル−(S)−2−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロパノエートの使用。
【請求項7】
前記の疼痛および/または炎症が筋骨格障害の兆候または症状である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記の疼痛および/または炎症が変形性関節症の兆候または症状である、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
利尿薬と共に前記の患者に投与される、請求項6〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記の利尿薬がフロセミドおよびチアジドである、請求項9に記載の使用。

【公表番号】特表2010−525005(P2010−525005A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504606(P2010−504606)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【国際出願番号】PCT/EP2008/054188
【国際公開番号】WO2008/132025
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(398034032)ニコックス エス エイ (36)
【住所又は居所原語表記】Taissounieres HB4,1681 route des Dolines−BP313,06560 Sophia Antipolis−Valbonne,France
【Fターム(参考)】