説明

疾患の治療のための方法

本発明は、血管透過性亢進の抑制を必要とする動物において血管透過性亢進を抑制する方法を提供する。該方法は、血管透過性亢進を抑制する量のダナゾール化合物を動物に投与することを含んでなる。本発明はさらに、動物において内皮細胞の細胞骨格を調整する方法も提供する。該方法は、有効な量のダナゾール化合物を動物に投与することを含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管透過性亢進ならびに血管透過性亢進に起因する浮腫およびその他の有害作用を抑制する方法に関する。本発明はさらに、内皮細胞の細胞骨格を調整する方法に関する。いずれの方法も、動物にダナゾール化合物を投与することを含んでなる。
【背景技術】
【0002】
血管内皮はすべての血管の内側を内張りしている。血管内皮は血液と組織および臓器との間の境界面として働く。内皮は、血液流動コンパートメントの完全性を維持するが、制御された方式で水、イオン、小分子、巨大分子および細胞の通過を許容する、半透性のバリアを形成する。このプロセスの調節異常は、下層組織への血管漏出を生じる。浮腫の原因となる組織内への液体の漏出は、様々な疾患において重大かつ生死に関わる影響を有する可能性がある。従って、浮腫を、好ましくはその最も初期の段階で低減し、かつ内皮バリアを生理的状態へと回復させる方法を有することは非常に望ましいであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記した懸案を鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明はそのような方法を提供する。特に、本発明は、血管透過性亢進ならびに血管透過性亢進に起因する浮腫およびその他の有害作用を抑制する方法を提供する。該方法は、該方法を必要とする動物に血管透過性亢進を抑制する量のダナゾール化合物を投与することを含んでなる。本発明による血管透過性亢進の抑制は、傍細胞性の透過性亢進およびトランスサイトーシスによる透過性亢進の抑制を含む。最近の知見から、トランスサイトーシスによる透過性亢進は、多くの疾患および状態において最終的に組織および臓器の損傷をもたらすプロセスの第一歩であることが示されている。従って、本発明は、これらの疾患および状態において見られる組織および臓器の損傷を、低減、遅延、さらには可能性として防止することができる、該疾患および状態における初期介入の手段を提供する。
【0005】
本発明はさらに、動物において内皮細胞の細胞骨格を調整する方法を提供する。該方法は、有効な量のダナゾール化合物を該動物に投与することを含んでなる。
「血管透過性亢進」とは、本明細書中では、基礎レベルと比較して高い、血管内皮の透過性を意味するために使用される。「血管透過性亢進」は、本明細書中で使用されるように、傍細胞性の透過性亢進およびトランスサイトーシスによる透過性亢進を含む。
【0006】
「傍細胞性の透過性亢進」とは、本明細書中では、基礎レベルと比較して高い、傍細胞輸送に起因する血管透過性亢進を意味するために使用される。「傍細胞性の透過性亢進」の他の特徴は下記に記載されている。
【0007】
「傍細胞輸送」とは、本明細書中では、内皮の内皮細胞の間の内皮細胞間結合(IEJ)を通るイオン、分子および液体の移動を意味するために使用される。
「トランスサイトーシスによる透過性亢進」とは、本明細書中では、基礎レベルと比較して高い、トランスサイトーシスに起因する血管透過性亢進を意味するために使用される。
【0008】
「トランスサイトーシス」とは、本明細書中では、内皮の内皮細胞を横切る巨大分子および随伴する流体相血漿成分の能動輸送を意味するために使用される。「トランスサイトーシス」の他の特徴は下記に記載されている。
【0009】
「基礎レベル」とは、本明細書中では、正常な組織または臓器において見出されるレベルを指すために使用される。
「抑制すること」、「抑制する」および類似の用語は、本明細書中では、低減、遅延または防止することを意味するために使用される。
【0010】
動物は、該動物が現在、血管透過性亢進によって仲介される疾患または状態を有するか、そのような疾患または状態の初期徴候を示すか、そのような疾患または状態を発症する素因を有する場合に、本発明による治療を「必要とする(in need of)」。
【0011】
「仲介される」および類似の用語は、本明細書中では、血管透過性亢進によって引き起こされるか、血管透過性亢進を引き起こすか、血管透過性亢進を伴うか、または血管透過性亢進によって増悪することを意味するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】HUVEC細胞をダナゾールとともにインキュベーションした後に計測された、ダナゾールが内皮細胞の初期増殖を防止する能力の尺度としてのODレベルを示す図。
【図2】ダナゾールとともにインキュベーションした後に撮影された、ダナゾールが内皮細胞のチューブ形成を防止する能力の尺度としてのHUVEC細胞の写真を示す図。A=対照;B=1μMダナゾール、C=10μMダナゾール、D=50μMダナゾールおよびE=50μM LY294002。
【図3】HUVEC細胞をダナゾールで処理した後に計測された、ダナゾールが内皮細胞の浸潤を防止する能力の尺度としての蛍光を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
内皮は、血液から組織実質への分子の交換を制御する重要な門番である。内皮は主として、血液が運ぶ分子に対する特定の血管床の透過性を制御する。内皮細胞バリアの透過性および選択性は、様々な血管床の微小血管系を内張りしている内皮の組織および種類に強く依存する。様々な臓器の微小血管床を内張りする内皮細胞は、3つの主要な形態学的カテゴリーすなわち:類洞、有窓型、および連続型に分類することができる構造的分化を示す。
【0014】
類洞内皮(「不連続型内皮」とも呼ばれる)は、大きな細胞間ギャップおよび細胞内ギャップを有し、かつ基底膜を持たず、毛細血管腔から組織へ、またその逆も同様に、分子の輸送が最小限に制限されるようになっている。類洞内皮は、肝臓、脾臓および骨髄に見出される。
【0015】
有窓内皮は、直径60〜80nmのフェネストラ(窓)と呼ばれる多数の円形の経細胞開口部の存在を特徴とする。有窓内皮は、小分子の迅速な交換を必要とする組織および臓器、例えば腎臓(糸球体、尿細管周囲毛細血管および上行直細血管)、膵臓、副腎、内分泌腺および腸において見出される。フェネストラは、成熟した健康な糸球体内のものを除いて薄い横隔膜によって覆われている。イチムラ(Ichimura)ら、J.Am.Soc.Nephrol.,19:1463−1471(2008)を参照。
【0016】
連続内皮はフェネストラまたは大きなギャップを含んでいない。その代り、連続内皮は途切れのない内皮細胞単層を特徴とする。身体内のほとんどの内皮は連続内皮であり、連続内皮は、脳(血液脳関門)、横隔膜、十二指腸の筋肉組織、脂肪、心臓、腎臓の一部のエリア(乳頭の微小血管系、下行直細血管)、大血管、肺、腸間膜、神経、網膜(血液網膜関門)、骨格筋、精巣、ならびに身体の他の組織および臓器において、または前記組織および臓器の周囲に見出される。
【0017】
連続内皮における内皮の輸送は、一般的な意味で傍細胞性および経細胞性の経路によって生じると考えることができる。傍細胞経路は、内皮細胞間結合(IEJ)を通じた、内皮細胞どうしの間の経路である。乱れのない連続内皮では、水、イオンおよび小分子は拡散および対流によって傍細胞的に輸送される。多量の水(最大40%)は、アクアポリンと呼ばれる水を輸送する膜チャネルを通って経細胞的にも内皮細胞バリアを横断する。様々な刺激は、IEJの機構を混乱させることにより内皮バリア内にギャップを開ける可能性がある。これらの細胞間ギャップの形成は、内皮細胞の間の液体、イオン、巨大分子(例えばタンパク質)および他の血漿成分の通過を無制限なかたちで可能にする。この傍細胞性の透過性亢進は浮腫およびその他の有害作用を生じ、最終的には組織および臓器の損傷をもたらす可能性がある。
【0018】
経細胞経路は、アルブミンその他の血漿タンパク質のような巨大分子の、内皮細胞を横切る能動輸送、すなわち「トランスサイトーシス」と呼ばれるプロセスに関与している。巨大分子の輸送はカベオラと呼ばれる小胞において行われる。カベオラがほとんどない脳および精巣の連続内皮を別にすれば、ほとんどすべての連続内皮は豊富なカベオラを有している。トランスサイトーシスは多段階プロセスであり、原形質膜からの一連のカベオラの出芽および分断ならびに細胞を横切る移動と、続く反対側の原形質膜とのドッキングおよび融合を伴い、反対側の原形質膜においてカベオラはその内容物をエキソサイトーシスにより間質中に放出する。トランスサイトーシスは、正常な生理学的条件下では選択的であり緊密に調節されている。
【0019】
経細胞経路の根本的な重要性の認識が高まっている。血漿タンパク質、特に血漿タンパク質の65%に相当するアルブミンのトランスサイトーシスは、経血管的な膠質浸透圧グラジエントを調節するその能力から、特に興味深い。次いで、当然ながら、基礎レベルを上回るアルブミンその他の血漿タンパク質のトランスサイトーシス増大は該タンパク質の組織タンパク質濃度を上昇させ、ひいては内皮バリアを超えて水を移動させることにより浮腫を生じせしめることになる。
【0020】
低密度リポタンパク質(LDL)もトランスサイトーシスにより内皮細胞を横切って輸送される。高脂血症では、LDLのトランスサイトーシスの著しい増大がアテローム発生における初期事象として検出されている。LDLは内皮下腔に蓄積し、拡張した基底膜および細胞外マトリックスの内側に捕捉される。高脂血症における内皮下のリポタンパク質蓄積に続いて、一連の事象がアテローム斑形成をもたらす。重度のアテローム性動脈硬化症は、IEJの開口ならびにLDLおよびアルブミンの大規模な無制限の通過を伴う場合があることが報告されている。
【0021】
血管合併症は糖尿病の特徴である。大血管のレベルでは、この疾患は、アテローム性動脈硬化の進行の加速現象として表われるようである。微小血管病に関しては、網膜、腎糸球体および神経の微小血管系の変質が最も多数の臨床的合併症を引き起こすが、常に増えつつある調査研究から、糖尿病は他の臓器、例えば腸間膜、皮膚、骨格筋、心臓、脳および肺の微小血管系にも影響を及ぼし、その結果さらなる臨床的合併症を引き起こすことが示されている。これらの血管床全てにおいて、血管透過性の変化は、糖尿病性の内皮機能不全という特徴を表わしているように見える。
【0022】
連続内皮では、糖尿病の初期における血漿中巨大分子に対する毛細血管の透過性亢進は、経内皮小胞輸送の高まりによって(すなわちトランスサイトーシスの増大によって)説明され、IEJの不安定化によっては説明されない。加えて、糖尿病患者の内皮細胞は、脳の内皮細胞を含めて、健常者と比較して多数のカベオラを含むことが報告されており、また糖化タンパク質(特に糖化アルブミン)は内皮細胞によって取り込まれ、該糖化タンパク質の本来の形態よりもかなり高い速度でトランスサイトーシスされる。さらに、巨大分子のトランスサイトーシスの増大は、糖尿病の初期を過ぎても継続するプロセスであり、仮に治療されずに放置されれば該疾患の間全体を通じて糖尿病の組織および臓器における浮腫の原因となるようである。この浮腫は、ひいては組織および臓器の損傷をもたらす。巨大分子の経細胞輸送の同様の増加は高血圧症で報告されている。
【0023】
傍細胞性の透過性亢進も、糖尿病および糖尿病の血管合併症における要因である。傍細胞経路のIEJは接着結合(AJ、アドヘレンスジャンクション)および密着結合(TJ、タイトジャンクション)を備えている。糖尿病は、AJおよびTJの両方においてある種のタンパク質の含量、リン酸化および局在化を変化させることにより、内皮バリアの透過性増大に寄与する。
【0024】
前述の議論の裏付けとして、またさらに詳しい情報については、Frank et al.,Cell Tissue Res.,335:41−47(2009)、Simionescu et al.,Cell Tissue Res.,335:27−40(2009);van den Berg et al.,J.Cyst.Fibros.,7(6):515−519(2008);Viazzi et al.,Hypertens.Res.,31:873−879(2008);Antonetti et al.,Chapter 14,pages 340−342,in Diabetic Retinopathy(edited by Elia J.Duh,Humana Press,2008)、Felinski et al.,Current Eye Research,30:949−957(2005)、Pascariu et al.,Journal of Histochemistry and Cytochemistry,52(1):65−76(2004);Bouchard et al.,Diabetologia,45:1017−1025(2002);Arshi et al.,Laboratory Investigation,80(8):1171−1184(2000);Vinores et al.,Documenta Ophthalmologica,97:217−228(1999);Oomen et al.,European Journal of Clinical Investigation,29:1035−1040(1999);Vinores et al.,Pathol.Res.Pract.,194:497−505(1998);Antonetti et al.,Diabetes,47:1953−1959(1998)、Popov et al.,Acta Diabetol,34:285−293(1997);Yamaji et al.,Circulation Research,72:947−957(1993);Vinores et al.,Histochemical Journal,25:648−663(1993);Beals et al.,Microvascular Research,45:11−19(1993);Caldwell et al.,Investigative Ophthalmol.Visual Sci.,33(5):16101619(1992)を参照されたい。
【0025】
有窓内皮における内皮輸送もトランスサイトーシスおよび傍細胞経路によって行われる。さらに、内皮輸送はフェネストラによって行われる。有窓内皮は、フェネストラの存在により水および小さな親水性の溶質に対して著しく高い透過性を示す。
【0026】
フェネストラは横隔膜によって覆われている場合もあれば、覆われていない場合もある。横隔膜のあるフェネストラを備えた内皮がある場所には、内分泌組織(例えば膵島および副腎皮質)、胃腸粘膜および腎臓の尿細管周囲毛細血管が挙げられる。横隔膜のあるフェネストラを備えた有窓内皮の血漿タンパク質に対する透過性は、連続内皮の透過性を上回らない。
【0027】
横隔膜のないフェネストラを備えた内皮がある場所には、腎臓の糸球体が挙げられる。糸球体の有窓内皮は、フェネストラ内へ伸びるグリコカリックス(いわゆる「シーブプラグ(seive plug)」を形成している)によって、かつより緩く結合した糖タンパク質の内皮細胞表面層によって、覆われている。機能的な選択透過性研究の数学的分析から、フェネストラ内に存在するものを含む糸球体内皮細胞のグリコカリックス、およびこれに伴う表面層が、循環血中の血漿タンパク質の最大95%の保持を担っていると結論付けられている。
【0028】
糸球体内皮のフェネストラの喪失は、いくつかの疾患、例えば糖尿病腎症、移植糸球体症、妊娠高血圧腎症(pre−eclampsia)、糖尿病、腎不全、シクロスポリン腎症、血清病腎炎およびThy−1腎炎においてタンパク尿症に関係していることが見出されている。アクチン再編成、特に緊張繊維の解重合は、フェネストラの形成および維持にとって重要であることが見出されている。
【0029】
有窓内皮についての前述の議論の裏付けとして、またさらなる情報については、Satchell et al.,Am.J.Physiol.Renal Physiol.,296:F947−F956(2009);Haraldsson et al.,Curr.Opin.Nephrol.Hypertens.,18:331−335(2009);Ichimura et al.,J.Am.Soc.Nephrol.,19:1463−1471(2008);Ballermann,Nephron Physiol.,106:19−25(2007);Toyoda et al.,Diabetes,56:2155−2160(2007);Stan,“Endothelial Structures Involved In Vascular Permeability,”pages 679−688,Endothelial Biomedicine(ed.Aird,Cambridge University Press,Cambridge,2007);Simionescu and Antohe,“Functional Ultrastructure of the Vascular Endothelium:Changes in Various Pathologies,”pages 42−69,The Vascular Endothelium I (eds.Moncada and Higgs,Springer−Verlag,Berlin, 2006)を参照されたい。
【0030】
類洞内皮における内皮輸送は、トランスサイトーシスにより、また細胞間ギャップ(内皮間のスリット)および細胞内ギャップ(フェネストラ)を通して行われる。アクチンフィラメントを破壊する薬物を用いた類洞内皮の処理により、ギャップの数を大幅かつ迅速に増加させることが可能であり、これはアクチン細胞骨格による内皮層の有孔率の調節を示している。細胞骨格を変化させるその他の薬物は、フェネストラの直径を変化させることが報告されている。したがって、フェネストラに関連する細胞骨格は、恐らく、類洞内皮(sinusodial endotheluium)における内皮濾過の重要な機能を制御する。肝臓では、内皮の透過性の低下を引き起こすデフェネストレーション(フェネストラの喪失)は、いくつかの疾患および状態、例えば老化、アテローム発生、アテローム性動脈硬化、肝硬変、繊維症、肝不全ならびに原発性および転移性肝臓がんの病因に関係している。前述の裏付けとして、またさらなる情報について、Yokomori,Med.Mol.Morphol.,41:1−4(2008);Stan,“Endothelial Structures Involved In Vascular Permeability,”pages 679−688,Endothelial Biomedicine(ed.Aird,Cambridge University Press,Cambridge,2007);DeLeve,“The Hepatic Sinusoidal Endothelial Cell,”pages 1226−1238,Endothelial Biomedicine(ed.Aird,Cambridge University Press,Cambridge,2007);Pries and Kuebler,“Normal Endothelium,”pages 1−40,The Vascular Endothelium I (eds.Moncada and Higgs,Springer−Verlag,Berlin,2006);Simionescu and Antohe,“Functional Ultrastructure of the Vascular Endothelium: Changes in Various Pathologies,” pages 42−69,The Vascular Endothelium I(eds.Moncada and Higgs,Springer−Verlag,Berlin,2006);Braet and Wisse,Comparative Hepatology,1:1−17(2002);Kanai et al,Anat.Rec,244:175−181(1996);Kempka et al.,Exp.Cell Res.,176:38−48(1988);Kishimoto et al.,Am.J.Anat.,178:241−249 (1987)を参照されたい。
【0031】
本発明は、連続内皮を含んでいるかまたは連続内皮に囲まれた任意の組織または臓器に存在する血管透過性亢進を抑制する方法を提供する。上述のように、連続内皮は、脳(血液脳関門)、横隔膜、十二指腸の筋肉組織、脂肪、心臓、腎臓の一部のエリア(乳頭の微小血管系、下行直細血管)、大血管、肺、腸間膜、神経、網膜(血液網膜関門)、骨格筋、皮膚、精巣、臍帯静脈、ならびに身体の他の組織および臓器に、またはその周囲に存在する。好ましくは、連続内皮は、脳、心臓、肺、神経または網膜において、またはその周囲に見出される連続内皮である。
【0032】
本発明はさらに、有窓内皮を含んでいるかまたは有窓内皮に囲まれた任意の組織または臓器に存在する血管透過性亢進を抑制する方法を提供する。上述のように、有窓内皮は、腎臓(糸球体、尿細管周囲毛細血管および上行直細血管)、膵臓、副腎、内分泌腺および腸に、またはその周囲に存在する。好ましくは、有窓内皮は、腎臓に見出される有窓内皮、特に腎臓の糸球体に見出される有窓内皮である。
【0033】
さらに、血管透過性亢進によってもたらされる任意の疾患または状態を、本発明の方法によって治療することができる。そのような疾患および状態には、糖尿病、高血圧症およびアテローム性動脈硬化が挙げられる。
【0034】
特に、糖尿病の血管合併症、例えば脳、心臓、腎臓、肺、腸間膜、神経、網膜、骨格筋、皮膚、ならびに連続内皮または有窓内皮を含んでいるその他の組織および臓器の血管合併症を、本発明によって治療することができる。これらの血管合併症には、浮腫、内皮下腔へのLDLの蓄積、急速進行性のアテローム性動脈硬化、および下記すなわち:脳(血管壁の老化亢進)、心臓(心筋の浮腫、心筋線維症、拡張機能障害、糖尿病性心筋症)、腎臓(糖尿病性腎症)、肺(糖尿病の母親の胎児における肺分化の遅延、いくつかの肺の生理的パラメータの変化、および感染症に対する感受性増大)、腸間膜(血管過形成)、神経(糖尿病性神経障害)、網膜(黄斑浮腫および糖尿病性網膜症)ならびに皮膚(発赤、褪色、乾燥および潰瘍)が挙げられる。
【0035】
糖尿病性網膜症は、概算2100万人の米国人糖尿病患者のおよそ25%に発症する失明の主要原因である。糖尿病性網膜症の発病および進行は集中的な血糖管理および血圧管理によって低減することができるが、ほぼ全ての1型糖尿病患者および60%を超える2型糖尿病患者が最終的に糖尿病性網膜症となる。糖尿病性網膜症には2つの病期がある。その第1の非増殖性網膜症は、該疾患の初期段階であり、血管透過性の増大、微細動脈瘤、浮腫および最終的には血管閉鎖を特徴とする。新血管新生は非増殖相の構成要素ではない。この段階におけるほとんどの視力喪失は、網膜の中央域である黄斑に蓄積する体液に起因する。この液体の蓄積は黄斑浮腫と呼ばれ、一時的または恒久的な視力減退を引き起こす場合がある。糖尿病性網膜症の第2の段階は増殖性網膜症と呼ばれ、異常な新血管形成を特徴とする。不幸なことに、この異常な新血管新生は、いずれも視力減退または失明の原因となりうる眼内出血、網膜瘢痕組織、糖尿病性網膜剥離または緑内障を引き起こす可能性があることから、極めて有害となりうる。黄斑浮腫は、増殖期にも生じる場合がある。
【0036】
糖尿病性神経障害は一般的で重大な糖尿病合併症である。糖尿病性神経障害には4つの主なタイプすなわち:末梢性ニューロパチー、自律性ニューロパチー、神経叢ニューロパチーおよびモノニューロパチーがある。糖尿病性神経障害の最も一般的なタイプである末梢性ニューロパチーの徴候および症状には、(特に足およびつま先における)無感覚または疼痛もしくは温度変化を感じる能力の低下、刺痛感または灼熱感、鋭痛、歩行時の疼痛、極めて軽い接触に対する極端な感受性、筋衰弱、歩行困難、ならびに重篤な足の障害(例えば潰瘍、感染症、変形、ならびに骨痛および関節痛)が挙げられる。自律性ニューロパチーは、心臓、膀胱、肺、胃、腸、性器および眼を制御する自律神経系を侵し、これらのエリアのうちいずれかにおける障害が生じる場合がある。神経叢ニューロパチー(糖尿病性筋萎縮症、大腿神経障害または近位神経障害とも呼ばれる)は、通常は股関節部、肩部または腹部の神経に、通常は身体の片側において影響を及ぼす。モノニューロパチーは、典型的には腕部、脚部または顔面における、1つの神経だけに対する損傷を意味する。糖尿病性神経障害の一般的な合併症には、下肢(例えばつま先、足または脚部)の喪失、シャルコー関節、尿路感染症、尿失禁、無自覚性低血糖症(致命的な場合すらある)、低血圧、消化器の異常(例えば便秘、下痢、悪心および嘔吐)、性機能障害(例えば勃起障害)、ならびに発汗増加および低発汗が挙げられる。以上のように、症状は、軽症から、苦痛を伴い、障害を引き起しかつ致命的ですらあるものまで多岐にわたる。
【0037】
糖尿病性腎症は米国における末期腎疾患の最も一般的な原因である。腎臓の糸球体毛細血管を侵し、腎臓の濾過能力を低下させるのは、糖尿病の血管合併症である。腎症は、最初に、過剰濾過の出現およびその後の微量アルブミン尿症によって示される。重篤なタンパク尿および進行性の腎機能低下が末期腎疾患に先行する。典型的には、腎症の何らかの徴候が現われる前に、網膜症が診断されているのが通例である。腎移植は、通常は糖尿病による末期腎疾患の患者に対して推奨される。移植を受ける患者の5年生存率は、透析患者のわずか2%に対して約60%である。
【0038】
高血圧症は典型的には何年も経て表面化し、最終的にはほぼ全員に影響を及ぼす。管理不良高血圧は、重大な健康障害、例えば心臓発作、うっ血性心不全、脳卒中、末梢動脈障害、腎不全、動脈瘤、眼損傷、および記憶または理解力に関する障害のリスクを高める。
【0039】
アテローム性動脈硬化もまた徐々に表面化する。アテローム性動脈硬化は、冠動脈、頚動脈、末梢動脈または微小血管系を侵す可能性があり、アテローム性動脈硬化の合併症には、冠動脈疾患(狭心症または心臓発作を引き起こす可能性がある)、冠動脈微小血管系疾患、頚動脈疾患(一過性脳虚血発作または脳卒中を引き起こす可能性がある)、末梢動脈疾患(暑さ寒さに対する感受性の喪失または組織死すら引き起こす可能性がある)、および動脈瘤が挙げられる。
【0040】
本発明によって治療することができるさらなる疾患および状態には、急性肺傷害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、加齢黄斑変性症、脳浮腫、脈絡膜の浮腫、脈絡膜炎、冠動脈微小血管系疾患、大脳の微小血管系疾患、イールズ病(Eals disease)、損傷(例えば外傷または熱傷)による浮腫、高血圧症に関連した浮腫、糸球体の血管漏出、出血性ショック、アーヴァイン・ガス症候群、虚血、黄斑浮腫(例えば、糖尿病によって引き起こされるものに加えて、血管閉塞、眼内手術(例えば白内障手術)後、ブドウ膜炎または色素性網膜炎によって引き起こされるもの)、腎炎(例えば、糸球体腎炎、血清病腎炎およびThy−1腎炎)、腎症、腎炎性浮腫、ネフローゼ症候群、神経障害、組織の浮腫による臓器機能不全(例えば敗血症におけるものまたは外傷によるもの)、妊娠高血圧腎症、肺水腫、肺高血圧症、腎不全、網膜浮腫、網膜出血、網膜静脈閉塞(例えば分岐静脈閉塞または中心静脈閉塞)、網膜炎、網膜症(例えば、糖尿病性網膜症に加えて、アテローム硬化性網膜症、高血圧性網膜症、放射線網膜症、鎌状赤血球網膜症および未熟児網膜症)、無症候性脳梗塞、全身性炎症反応症候群(SIRS)、移植糸球体症、ブドウ膜炎、血管漏出症候群、硝子体出血およびフォンヒッペル・リンドウ病(Von Hipple Lindau disease)が挙げられる。さらに、多発性硬化症を治療するために使用される薬物など、ある種の薬物は血管透過性亢進を引き起こすことが知られており、ダナゾールはこれらの薬物を使用する時のこの望ましくない副作用を低減するために使用することができる。遺伝性血管浮腫および後天性血管浮腫は、本発明によって治療することができる疾患および状態からは明らかに除外される。
【0041】
「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」または「治療(treatment)」は、疾患もしくは状態の症状、持続期間もしくは重症度を(全面的もしくは部分的に)低減すること、例えば該疾患を治癒させること、または、該疾患もしくは状態を予防することを意味するために、本明細書中で使用される。
【0042】
最近の証拠から、トランスサイトーシスによって引き起こされる浸透性亢進は、多くの疾患および状態において最終的に組織および臓器の損傷をもたらすプロセスの第一歩であることが示されている。従って、本発明は、これらの疾患および状態において見られる組織および臓器の損傷を低減、遅延、または可能性として予防することができる、該疾患および状態における初期介入の手段を提供する。例えば、動物を、本発明によって治療可能な疾患または状態(上述の疾患および状態)のうちの1つであるとの診断の直後に治療することが可能である。別例として、好ましいのは、そのような疾患もしくは状態の初期徴候を有しているか、またはそのような疾患もしくは状態を発症しやすい素因を有している動物を、症状が存在する前に治療することである。糖尿病、高血圧症およびアテローム性動脈硬化の初期徴候および危険因子はよく知られており、これらの初期徴候または危険因子を示す動物の治療を、該疾患または状態の症状の存在に先立って(すなわち予防的に)開始することができる。
【0043】
例えば、糖尿病と診断された患者の治療を、診断直後に開始することができる。特に、糖尿病患者は、血管合併症の何らかの症状が存在するのに先立って好ましくはダナゾール化合物で治療されるべきであるが、しかしこれは、診断時にはほとんどの糖尿病患者がそのような症状を示すので通常は不可能である(以下を参照)。別例として、糖尿病患者は、非増殖性糖尿病性網膜症が軽度(すなわち軽症レベルの微細動脈瘤および網膜出血)である間に治療を受けるべきである。Diabetic Retinopathy,page 9(Ed.Elia Duh,M.D.,Human Press,2008)を参照されたい。そのような早期治療は、黄斑浮腫、および網膜症の増殖性糖尿病性網膜症への進行を防止する絶好の機会を提供することになろう。さらに、糖尿病性網膜症の存在は、糖尿病の他の微小血管合併症が存在しているかまたは発症するであろうという徴候と考えられ(上記文献474−477ページを参照)、早期治療はこれらのさらなる合併症も予防または低減することができる。当然、糖尿病の血管合併症であるさらに進行した疾患および状態も有益な結果を伴って治療可能である。
【0044】
しかしながら、上記に示すように、血管合併症は糖尿病が診断された時点で既に存在する場合が多い。従って、糖尿病の初期徴候を有するか、または糖尿病を発症しやすい素因を有する患者を予防的に治療することが望ましい。これらの初期徴候および危険因子には、高値であるが糖尿病として分類されるほどは高くない空腹時血糖(「糖尿病前症」)、高インスリン血症、高血圧症、脂質異常症(高コレステロール、高トリグリセリド、高い低密度リポタンパク質、または低レベルの高密度リポタンパク質のうち少なくともいずれか)、肥満(体容量指数が25より高い)、不活動性、45歳より年長、不適切な睡眠、糖尿病の家族歴、少数民族、妊娠性糖尿病歴および多嚢胞性卵巣症候群の病歴が挙げられる。
【0045】
同様に、高血圧症と診察される患者の治療を、診断直後に開始することができる。高血圧症は一般的には症状を引き起こさないが、予防的治療を、高血圧症を発症しやすい素因を有する患者において開始することができる。高血圧症の危険因子には、年齢、人種(高血圧症は黒人に多く発症する)、家族歴(高血圧症は家系による)、過体重すなわち肥満、運動不足、喫煙、食事における塩分の過剰、食事におけるカリウム不足、食事におけるビタミンD不足、過度の飲酒、高レベルのストレス、ある種の慢性状態(例えば高コレステロール、糖尿病、腎臓病および睡眠無呼吸)ならびにある種の薬物(例えば経口避妊薬、アンフェタミン、やせ薬、ならびに一部の風邪薬およびアレルギー治療薬)の使用が挙げられる。
【0046】
アテローム性動脈硬化と診察される患者の治療を、診断直後に開始することができる。しかしながら、アテローム性動脈硬化の初期徴候を有するか、またはアテローム性動脈硬化を発症しやすい素因を有する患者を予防的に治療することが望ましい。アテローム性動脈硬化の初期徴候および危険因子には、年齢、動脈瘤または初期心疾患の家族歴、高血圧症、高コレステロール、高トリグリセリド、インスリン抵抗性、糖尿病、肥満、喫煙、運動不足、不健康な食事、および高レベルのC反応性タンパク質が挙げられる。
【0047】
血管透過性亢進を抑制するための本発明の方法は、血管透過性亢進を抑制するために、抑制を必要とする動物に有効な量のダナゾール化合物を投与することを含んでなる。本明細書で使用されるように、「ダナゾール化合物」とは、ダナゾール、ダナゾールのプロドラッグならびにダナゾールの薬学的に許容可能な塩およびそのプロドラッグを意味する。
【0048】
ダナゾール(17α−プレグナ−2,4−ジエン−20−イノ[2,3−d]−イソオキサゾール−17β−オール)は既知の合成ステロイドホルモンである。その構造は以下すなわち:
【0049】
【化1】

である。
【0050】
ダナゾールを製造する方法は当分野において既知である。例えば米国特許第3,135,743号明細書および英国特許第905,844号明細書を参照されたい。さらに、ダナゾールは、バー・ファーマシューティカルズ社(Barr Pharmaceuticals,Inc.)、ラネット社(Lannett Co.,Inc.)、サノフィ・アベンティス・カナダ(sanofi−aventis Canada)、シグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich)、およびパーチェム・トレーディング社(Parchem Trading Ltd.)を含む多くの供給業者から市販されている。
【0051】
「プロドラッグ」とは、そのようなプロドラッグが動物に投与されたときにin vivoにおいて活性を有する親薬物(この場合はダナゾール)を放出する任意の化合物を意味する。ダナゾールのプロドラッグには、任意の基にヒドロキシル基が結合されておりその基がin vivoで開裂されて遊離ヒドロキシルを生成することができるダナゾールが挙げられる。ダナゾール・プロドラッグの例には、ダナゾールのエステル(例えば酢酸エステル、ギ酸エステル、安息香酸エステル誘導体)が挙げられる。
【0052】
ダナゾールおよびそのプロドラッグの薬学的に許容可能な塩には、従来の無毒な塩、例えば無機酸(例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸など)、有機酸(例えば酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、アスコルビン酸など)または塩基(例えば、薬学的に許容可能な金属カチオン、またはN,N−ジベンジルエチレンジアミン、D−グルコサミン、もしくはエチレンジアミンに由来する有機カチオンの、水酸化物、炭酸塩もしくは重炭酸塩)に由来する塩が挙げられる。塩は、従来の方式で、例えば遊離塩基の形態の化合物を酸で中和することによって、調製される。特に、ダナゾールのようなイソオキサゾールは弱塩基物質であり、強酸の付加で酸付加塩を、また強酸のエステル(例えば、強い無機もしくは有機スルホン酸のエステル、好ましくは低級アルキル、低級アルケニルもしくは低級アラルキルのエステル、例えばヨウ化メチル、ヨウ化エチル、臭化エチル、臭化プロピル、臭化ブチル、臭化アリル、硫酸メチル、ベンゼンスルホン酸メチル、メチル−p−トルエンスルホン酸、塩化ベンジルなど)の付加で第四級アンモニウム塩を形成することになる。米国特許第3,135,743号明細書を参照されたい。
【0053】
上記に示すように、ダナゾール化合物は、血管透過性亢進を抑制し、かつ血管透過性亢進によってもたらされる疾患または状態を治療するために、使用することができる。そうするために、ダナゾール化合物は治療を必要とする動物に投与される。好ましくは、動物は、哺乳動物、例えばラビット、ヤギ、イヌ、ネコ、ウマまたはヒトである。最も好ましくは、動物はヒトである。
【0054】
本発明の化合物(すなわちダナゾール、ダナゾールのプロドラッグまたはこれらのうちいずれか一方の薬学的に許容可能な塩)のための有効な投与形態、投与方法および投与量は、本明細書中において提供される手引きを使用して経験的に決定されうる。当業者には当然のことであるが、投与量は、治療される特定の疾患または状態、該疾患または状態の重症度、投与経路、治療期間、該動物に投与されるあらゆる他の薬物が何であるか、該動物の年齢、大きさおよび生物種、ならびに医学分野および獣医学分野で知られた同様の要因に応じて変化することになろう。一般に、本発明の化合物の適切な日用量は、治療効果を生じるのに有効な最低用量である該化合物の量となるであろう。しかしながら、日々の投与は、妥当な医学的判断の範囲内で担当の医師または獣医師によって決定されることになろう。望ましい場合には、有効な日用量が、1日を通じて適切な間隔で別々に投与される、2回、3回、4回、5回、6回またはそれ以上の分割用量として投与されてもよい。化合物の投与は、容認できる応答が達成されるまで継続されるべきである。
【0055】
ダナゾール化合物は血管新生を抑制することが以前に報告されている。国際公開公報第2007/009087号パンフレットを参照のこと。驚くべきことに、かつ実に予想外なことに、ダナゾール化合物は、本発明の実施において、血管新生を抑制するためにかつて報告された投与量よりも約100〜1000倍低く、また他の疾患および状態の治療のために患者に現在投与される量(典型的には成人1人について200〜800mg/日)よりも大幅に少ない至適用量で、使用することができる。これらの低用量のダナゾール化合物の使用は、あらゆる著しい副作用、恐らくは全ての副作用を回避するはずであり、このことは、本発明による疾患および状態の初期治療または予防的治療にとって特に有利となろう。
【0056】
特に、血管透過性亢進を抑制するためのダナゾール化合物の有効投与量は、0.1ng/kg/日〜35mg/kg/日、好ましくは40ng/kg/日〜5.0mg/kg/日、最も好ましくは100ng/kg/日〜1.5mg/kg/日であろう。有効投与量はまた、関連する体液(例えば血液)中に、0.0001μM〜5μM、好ましくは0.1μM〜1.0μM、より好ましくは0.1μM〜0.5μM、最も好ましくは約0.1μMの濃度をもたらすことになる量でもある。有効投与量はまた、治療される組織または臓器中に、約0.17%(重量/重量)以下、好ましくは0.00034%〜0.17%、最も好ましくは0.0034%〜0.017%の濃度をもたらすことになる量でもある。局所的または局部的に与えられる場合、ダナゾール化合物は、0.0001μM〜5μM、好ましくは0.1μM〜1.0μM、より好ましくは0.1μM〜0.5μM、最も好ましくは約0.1μMの濃度で、または約0.17%(重量/重量)以下、好ましくは0.00034%〜0.17%、最も好ましくは0.0034%〜0.017%の濃度で、投与されることが好ましいであろう。成人に経口的に与えられる場合、用量は好ましくは約1ng/日〜約100mg/日となり、より好ましくは用量は約1mg/日〜約100mg/日となり、最も好ましくは用量は約10mg/日〜約90mg/日となり、好ましくは1日当たり2回の等用量として与えられる。さらに、ダナゾールは細胞内および組織内に蓄積すると予想され、従って、初期(負荷)用量(例えば1日当たり100mg)は、一定期間(例えば2〜4週間)後に、著しい副作用を伴わずに、恐らくは何ら副作用を伴うことなく無期限に与えることが可能な、より低い維持用量(例えば1日当たり1mg)に低減されてもよい。本明細書中で使用されるように、ダナゾール化合物の「血管透過性亢進を抑制する量」は、この段落において上記に示された量を意味するものと定義される。
【0057】
本発明はさらに、動物において内皮細胞の細胞骨格を調整する方法を提供する。本発明のこの実施形態は、ダナゾールがFアクチン緊張繊維形成を抑制し、細胞表層アクチンリングの形成を引き起こし、スフィンゴシン1−リン酸(S1P)による細胞表層アクチンリングの形成を増強かつ延長し、RhoAを抑制し、VEカドヘリンのリン酸化を高め、バリアを安定化するGTPアーゼを活性化するようであり、かつ微小管を安定化するようである、という発見に基づいている。細胞骨格の調整により、血管透過性亢進を低減し、また血管透過性低下(vascular hypopermeability)(すなわち基礎レベルより低い透過性)を上昇させることによって、内皮を恒常状態に戻すことができる。従って、血管透過性亢進により仲介される疾患および状態を治療することが可能であり(上記参照)、また血管透過性低下により仲介される疾患および状態も治療することができる。後者のタイプの疾患および状態には、肝臓の加齢、アテローム発生、アテローム性動脈硬化、硬変、肝臓の繊維症、肝不全ならびに原発性および転移性肝臓がんが挙げられる。
【0058】
内皮細胞の細胞骨格を調整する方法は、有効な量のダナゾール化合物を動物に投与することを含んでなる。「ダナゾール化合物」および「動物」は、上述したのと同じ意味を有する。
【0059】
細胞骨格を調整するための本発明の化合物(すなわちダナゾール、ダナゾールのプロドラッグまたはこれらのうちいずれか一方の薬学的に許容可能な塩)の有効な投与形態、投与方法および投与量は、本明細書中において提供される手引きを使用して経験的に決定されうる。当業者には当然のことであるが、投与量は、治療される特定の疾患または状態、該疾患または状態の重症度、投与経路、治療期間、該動物に投与されるあらゆる他の薬物が何であるか、該動物の年齢、大きさおよび生物種、ならびに医学分野および獣医学分野で知られた同様の要因に応じて変化することになろう。一般に、本発明の化合物の適切な日用量は、治療効果を生じるのに有効な最低用量である該化合物の量となるであろう。しかしながら、日々の投与は、妥当な医学的判断の範囲内で担当の医師または獣医師によって決定されることになろう。望ましい場合には、有効な日用量は、1日を通じて適切な間隔で別々に投与される、2回、3回、4回、5回、6回またはそれ以上の分割用量として投与されてもよい。化合物の投与は、容認できる応答が達成されるまで継続されるべきである。
【0060】
特に、内皮細胞の細胞骨格を調整するためのダナゾール化合物の有効投与量は、0.1ng/kg/日〜35mg/kg/日、好ましくは40ng/kg/日〜5.0mg/kg/日、最も好ましくは100ng/kg/日〜1.5mg/kg/日であろう。有効投与量はまた、関連する体液(例えば血液)中に、0.0001μM〜5μM、好ましくは0.1μM〜1.0μM、より好ましくは0.1μM〜0.5μM、最も好ましくは約0.1μMの濃度をもたらすことになる量でもある。有効投与量はまた、治療される組織または臓器中に、約0.17%(重量/重量)以下、好ましくは0.00034%〜0.17%、最も好ましくは0.0034%〜0.017%の濃度をもたらすことになる量でもある。局所的または局部的に与えられる場合、ダナゾール化合物は、0.0001μM〜5μM、好ましくは0.1μM〜1.0μM、より好ましくは0.1μM〜0.5μM、最も好ましくは約0.1μMの濃度で、または約0.17%(重量/重量)以下、好ましくは0.00034%〜0.17%、最も好ましくは0.0034%〜0.017%の濃度で、投与されることが好ましいであろう。成人に経口的に与えられる場合、用量は好ましくは約1ng/日〜約100mg/日となり、より好ましくは用量は約1mg/日〜約100mg/日となり、最も好ましくは用量は約10mg/日〜約90mg/日となり、好ましくは1日当たり2回の等用量として与えられる。さらに、ダナゾールは細胞内および組織内に蓄積すると予想され、従って、初期(負荷)用量(例えば1日当たり100mg)は、一定期間(例えば2〜4週間)後に、著しい副作用を伴わずに、恐らくは何ら副作用を伴うことなく無期限に与えることが可能な、より低い維持用量(例えば1日当たり1mg)に低減されてもよい。
【0061】
本発明の化合物(すなわちダナゾール、ダナゾールのプロドラッグおよびこれらのうちいずれかの薬学的に許容可能な塩)は、任意の適切な投与経路によって、例えば経口的に、経鼻的に、非経口的に(例えば静脈内、腹腔内、皮下または筋肉内)、経皮的に、眼内に、および局所的に(口腔内および舌下を含む)、治療のために動物患者に投与されうる。一般に、本発明によって治療可能な任意の疾患または状態については経口投与が好ましい。眼の疾患および状態の治療のための好ましい投与経路は、経口、眼内および局所である。最も好ましいのは経口である。眼の疾患をダナゾール化合物の経口投与によって治療することができるのは全く予想外かつ驚くべきことである、というのも、そのような疾患および状態の薬物経口投与による治療の成功はかつて報告がないからである。脳の疾患および状態の治療のための好ましい投与経路は、経口および非経口である。最も好ましいのは経口である。
【0062】
本発明の化合物は単独で投与されることも可能であるが、該化合物を医薬製剤(組成物)として投与することが望ましい。本発明の医薬組成物は、有効成分として本発明の1または複数の化合物を、1つ以上の薬学的に許容可能な担体と、任意選択で1つ以上の他の化合物、薬物または他の材料とともに混合して含んでなる。担体はそれぞれ、該製剤の他の成分と両立的でありかつ動物にとって有害でない、という意味において「許容可能」でなければならない。薬学的に許容可能な担体は当分野において良く知られている。選択される投与経路にかかわらず、本発明の化合物は、当業者に既知の従来の方法によって薬学的に許容可能な投与形態へ製剤化される。例えばRemington’s Pharmaceutical Sciencesを参照されたい。
【0063】
経口投与に適した本発明の製剤は、カプセル剤、カシェ剤、丸剤、錠剤、散剤、顆粒剤の形態であってもよいし、または水性もしくは非水性の液体中の液剤もしくは懸濁剤、すなわち水中油型もしくは油中水型の乳剤として、またはエリキシル剤もしくはシロップ剤として、またはパステル剤(不活性の基剤、例えばゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアラビアゴムを使用)などとしての形態であってもよく、各々が有効成分として所定量の本発明の1または複数の化合物を含有している。本発明の1または複数の化合物は、ボーラス剤、舐剤またはペースト剤として投与されてもよい。
【0064】
経口投与のための本発明の固体投与形態(カプセル剤、錠剤、丸剤、ドラジェ、散剤、顆粒剤など)では、有効成分(すなわちダナゾール、ダナゾールのプロドラッグ、これらのうちいずれか一方の薬学的に許容可能な塩、または先述のものの組み合わせ)は、1つ以上の薬学的に許容可能な担体、例えばクエン酸ナトリウムもしくはリン酸カルシウム、または以下すなわち:(1)賦形剤または増量剤、例えばデンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、またはケイ酸のうち少なくともいずれか;(2)結合剤、例えばカルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、またはアラビアゴムのうち少なくともいずれか;(3)湿潤剤、例えばグリセロール;(4)崩壊剤、例えば寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモデンプンもしくはタピオカデンプン、アルギン酸、ある種のケイ酸塩、および炭酸ナトリウム;(5)溶解遅延剤、例えばパラフィン;(6)吸収促進剤、例えば第四アンモニウム化合物;(7)湿潤剤、例えばセチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロール;(8)吸収剤、例えばカオリンおよびベントナイト粘土;(9)滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびこれらの混合物;ならびに(10)着色剤、のうち任意のもの、のうち少なくともいずれかと混合される。カプセル剤、錠剤および丸剤の場合には、医薬組成物はさらに緩衝剤を含んでなる場合がある。同様の種類の固体組成物は、ラクトースまたは乳糖のような添加剤のほかに高分子量ポリエチレングリコールなどを使用して、充填型のソフトおよびハードゼラチンカプセル剤における増量剤として使用されてもよい。
【0065】
錠剤は、任意選択で1つ以上の副成分とともに、圧縮または成型によって製造可能である。圧縮錠剤は、結合剤(例えばゼラチンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性の希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えばデンプングリコール酸ナトリウムまたは架橋カルボキシルメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤または分散剤を使用して調製されうる。湿製錠は、不活性な液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を適切な機械で成型することにより製造可能である。
【0066】
錠剤、ならびに本発明の医薬組成物の他の固体投与形態、例えばドラジェ、カプセル剤、丸剤および顆粒剤は、任意選択で割線入りであってもよいし、コーティングおよび外殻、例えば腸溶コーティングおよび医薬製剤分野において良く知られたその他のコーティングを備えて製造されてもよい。それらはさらに、例えば、所望の放出特性を提供するための様々な比率のヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリクス、リポソーム、またはマイクロスフェアのうち少なくともいずれかを使用して、有効成分の遅延放出または制御放出を該製剤に提供するように製剤化されてもよい。それらは例えば、細菌保特性のフィルタを通す濾過によって、殺菌されてもよい。これらの組成物はさらに、任意選択で乳白剤を含有してもよく、かつ、胃腸管のある部分において、任意選択で遅延方式で、有効成分のみを、または有効成分を優先的に、放出する組成物であってもよい。使用することができる埋込み組成物の例には、高分子物質およびワックスが挙げられる。有効成分はさらに、マイクロカプセル化された形態であってもよい。
【0067】
本発明の化合物の経口投与用の液体投与形態には、薬学的に許容可能な乳剤、マイクロエマルジョン、液剤、懸濁剤、シロップ剤およびエリキシル剤が挙げられる。有効成分に加えて、液体投与形態は、当分野で一般に使用される不活性の希釈剤、例えば、水またはその他の溶媒、可溶化剤および乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、油(特に、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール(tetrahydrofuryl alcohol)、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにこれらの混合物を含むことができる。
【0068】
不活性の希釈剤に加えて、経口組成物はさらに、湿潤剤、乳化剤および懸濁化剤、甘味料、香味料、着色剤、芳香剤、および保存剤のような補助剤を含むこともできる。
懸濁剤は、有効成分に加えて、懸濁化剤、例えばエトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびポリオキシエチレンソルビタンのエステル、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天ならびにトラガント、ならびにこれらの混合物を含有することができる。
【0069】
本発明はさらに、眼の治療に適した医薬製品も提供する。そのような医薬製品には、医薬組成物、医薬デバイスおよび医薬インプラント(組成物でもデバイスでもよい)が含まれる。
【0070】
眼球内に本発明の1または複数の化合物を眼内注射するための医薬製剤(組成物)には、液剤、乳剤、懸濁剤、粒子、カプセル剤、マイクロスフェア、リポソーム、マトリックス剤などが挙げられる。例えば、米国特許第6,060,463号明細書、米国特許出願公開第2005/0101582号明細書、および国際公開公報第2004/043480号パンフレット(これらの全開示内容は参照により本願に組込まれる)を参照されたい。例えば、眼内注射用の医薬製剤は、本発明の1つ以上の化合物を、1つ以上の薬学的に許容可能な無菌の等張な水性もしくは非水性の溶液、懸濁剤または乳剤とともに組み合わせて含んでなることが可能であり、酸化防止剤、緩衝剤、懸濁化剤、粘稠化剤または粘性増強剤(例えばヒアルロン酸ポリマー)を含有してもよい。適切な水性および非水性の担体の例には、水、生理食塩水(好ましくは0.9%)、ブドウ糖水溶液(好ましくは5%)、緩衝液、ジメチルスルホキシド、アルコールおよびポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)が挙げられる。これらの組成物はさらに、湿潤剤および乳化剤および分散剤のような補助剤を含有することもできる。さらに、注射可能な剤形の持続的吸収は、ポリマーおよびゼラチンのような吸収を遅延させる作用薬を含めることによって実現されうる。注射可能なデポー剤形態が、ポリラクチド−ポリグリコリドのような生分解性ポリマーで作られたマイクロカプセルまたはマイクロスフェアの中に薬物を組み入れることにより製造されてもよい。他の生分解性ポリマーの例には、ポリ(オルトエステル)、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンおよびポリ無水物が挙げられる。注射可能なデポー製剤は、眼組織との適合性を有するリポソーム(ジパルミトイルホスファチジルコリンのような通常の成分で構成されているもの)またはマイクロエマルジョンの中に薬物を封入することによっても調製される。ポリマーまたは脂質に対する薬物の比率、その特定のポリマー成分または脂質成分の性質、使用されるリポソームの種類、およびマイクロカプセルまたはマイクロスフェアがコーティングされているか否かに応じて、マイクロカプセル、マイクロスフェアおよびリポソームからの薬物放出の速度を制御することが可能である。
【0071】
本発明の化合物は、眼内インプラントとして外科的に投与されることも可能である。例えば、ポリビニルアルコールまたはポリ酢酸ビニルの拡散性の壁を有し、かつ本発明の1または複数の化合物を含有しているリザーバコンテナが、強膜内または強膜上に移植されてもよい。別例として、本発明の1または複数の化合物は、ポリマー、例えばポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ無水物、または脂質、例えばセバシン酸で作られたポリマーマトリックス中に組み込み可能であり、そして強膜上または眼内に移植されてもよい。これは通常、局所麻酔または局部麻酔されている動物を用いて、角膜の後ろに作られた小さな切開部を使用して成し遂げられる。その後、マトリックスが該切開部を通じて挿入され、強膜に縫合される。
【0072】
本発明の化合物は、眼に局所投与することも可能であり、本発明の好ましい実施形態は眼への適用に適した局所用医薬組成物である。眼への適用に適した局所用医薬組成物には、液剤、懸濁剤、分散物、滴剤、ゲル剤、ヒドロゲルおよび軟膏剤が挙げられる。例えば、米国特許第5,407,926号明細書、国際公開公報第2004/058289号パンフレット、同第01/30337号パンフレット、および同第01/68053号パンフレット(これら全ての全開示内容は参照により本願に組込まれる)を参照されたい。
【0073】
眼への適用に適した局所製剤は、水性または非水性の基剤中に本発明の1つ以上の化合物を含んでなる。局所製剤はさらに、吸収増強剤、浸透増強剤、粘稠化剤、粘性増強剤、pHの調節もしくは維持のうち少なくともいずれか一方のための作用薬、浸透圧を調節するための作用薬、保存剤、界面活性剤、緩衝剤、塩類(好ましくは塩化ナトリウム)、懸濁化剤、分散剤、可溶化剤、安定化剤、または等張化剤のうち少なくともいずれかを含むこともできる。眼への適用に適した局所製剤は、眼内への本発明の1もしくは複数の化合物の吸収もしくは浸透を促進するための吸収増強剤もしくは浸透増強剤、または、眼内における本発明の1もしくは複数の化合物の滞留時間を延長することができる粘稠化剤もしくは粘性増強剤、のうち少なくともいずれかを含んでなることが好ましいであろう。国際公開公報第2004/058289号パンフレット、同第01/30337号パンフレット、および同第01/68053号パンフレットを参照されたい。典型的な吸収/浸透増強剤には、メチルスルホニルメタン(methysulfonylmethane)であって、単独またはジメチルスルホキシド、カルボン酸および界面活性剤と組み合わせたものが挙げられる。典型的な粘稠化剤および粘性増強剤には、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、多糖類ゲル、Gelrite(R)、セルロース系ポリマー(ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、カルボキシル基含有ポリマー(アクリル酸のポリマーまたはコポリマーなど)、ポリビニルアルコールおよびヒアルロン酸またはその塩が挙げられる。
【0074】
眼の治療に適した液体投与形態(例えば液剤、懸濁剤、分散物および滴剤)は、例えば、本発明の1または複数の化合物を、液剤、分散物または懸濁剤を形成するために、ビヒクル、例えば水、生理食塩水、水性デキストロース、グリセロール、エタノールなどに溶解、分散、懸濁させることなどにより、調製可能である。所望であれば、該医薬製剤はさらに、少量の無毒な補助剤、例えば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミン酢酸ナトリウム、トリエタノールアミンオレアートなどを含有してもよい。
【0075】
眼の治療に適した水性の液剤および懸濁剤は、本発明の1または複数の化合物に加えて、保存剤、界面活性剤、緩衝剤、塩類(好ましくは塩化ナトリウム)、等張化剤および水を含むことができる。懸濁剤が使用される場合、粒度は眼への刺激性を最小限にするために10μm未満であるべきである。液剤または懸濁剤が使用される場合、眼に送達される量は、眼からの過度の溢流を回避するため50μlを超過するべきではない。
【0076】
眼の治療に適したコロイド懸濁剤は、概して、微粒子(すなわちマイクロスフェア、ナノスフェア、マイクロカプセルまたはナノカプセルであって、マイクロスフェアおよびナノスフェアは概してポリマーマトリックスの単一体粒子であり該ポリマーマトリックス内に調合物が捕捉、吸着、またはその他の方法で含められる一方、マイクロカプセルおよびナノカプセルを用いる場合は調合物は実際にカプセル封入される)から形成される。これらの微粒子の大きさの上限は約5μ〜約10μである。
【0077】
眼の治療に適した眼軟膏剤は、本発明の1または複数の化合物を、適切な基剤中に、例えば鉱油、液体ラノリン、白色ワセリン、先述のうち2つもしくは3つすべての組み合わせ、またはポリエチレン鉱物油ゲルの中に含んでいる。保存剤が任意選択で含まれていてもよい。
【0078】
眼の治療に適した眼科用ゲル剤は、本発明の1または複数の化合物を、親水性の基剤中に、例えばCarpobol−940(R)、またはエタノール、水およびプロピレングリコールの組み合わせ(例えば40:40:20の比)の中に、懸濁状態で含んでいる。ヒドロキシエチルセルロース(hydroxylethylcellulose)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはアンモニア化グリチルリチン酸のようなゲル化剤が使用される。保存剤または等張化剤のうち少なくともいずれか一方が任意選択で含まれていてもよい。
【0079】
眼の治療に適したヒドロゲルは、粘稠化剤または粘性増強剤として上記に列挙されたもののような、膨潤可能なゲル形成ポリマーを組み入れることによって形成されるが、ただし当分野で「ヒドロゲル」と呼ばれる製剤は一般に、「粘稠化された」液剤または懸濁剤と呼ばれる製剤よりも高い粘性を有する。そのような前もって形成されるヒドロゲルとは対照的に、製剤は、眼への適用後にin situでヒドロゲルを形成するように調製されてもよい。そのようなゲル剤は、室温では液体であるが、体液に接して置かれた場合など、より高温度ではゲルである(したがって「熱可逆性」ヒドロゲルと名付けられている)。この特性を与える生体適合性ポリマーには、アクリル酸のポリマーおよびコポリマー、N−イソプロピルアクリルアミド誘導体およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのABA型ブロックコポリマー(従来式には「ポロキサマ」と呼ばれ、BASF−ワイアンドッテ(BASF−Wayndotte)より商品名Pluronic(R)として入手可能である)が挙げられる。
【0080】
好ましい分散物はリポソーム分散物であり、この場合、製剤はリポソーム(水性コンパートメントおよび脂質二重層が交互になることで構成された微視的な小胞)内に封入される。
【0081】
点眼剤は、水性または非水性の基剤を用い、さらに1つ以上の分散剤、可溶化剤または懸濁化剤も含んでなるように、製剤化可能である。滴剤は、単純な点眼器−キャップ付きボトルを用いて、または特別に形作られた閉止具により液状内容物を滴下送達するようになされたプラスチックボトルを用いて、送達可能である。
【0082】
本発明の化合物は、薬物が含浸された眼内挿入される固体担体を用いて、局所的に適用されることも可能である。薬物放出は概して、ポリマーの溶解もしくは生侵食、浸透現象、またはこれらの組み合わせによって達成される。いくつかのマトリックス型送達システムを使用することができる。そのようなシステムには、本発明の所望の化合物を含浸または吸収させた親水性のソフトコンタクトレンズのほかに、眼の中に配置した後で取り出す必要のない生物分解性または可溶性のデバイスが挙げられる。これらの可溶性の眼内挿入物は、眼にとって忍容可能であり、かつ投与すべき本発明の化合物との適合性を有する、任意の分解性の物質で構成されうる。そのような物質には、限定するものではないが、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリルアミドのポリマーおよびコポリマー、アクリル酸エチルおよびビニルピロリドン、ならびに架橋型ポリペプチドまたは多糖類、例えばキチンが挙げられる。
【0083】
本発明の化合物の他の種類の(すなわち眼に対するものではない)局所投与用または経皮投与用の投与形態には、散剤、噴霧剤、軟膏剤、パスタ剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、液剤、貼付剤、滴剤および吸入剤が挙げられる。有効成分は、無菌条件において、薬学的に許容可能な担体とともに、また任意の緩衝剤、または必要とされる場合もある噴射剤とともに、混合されうる。軟膏剤、パスタ剤、クリーム剤およびゲル剤は、有効成分に加えて、添加剤、例えば動物性および植物性脂肪、油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、滑石および酸化亜鉛、またはこれらの混合物を含有することができる。散剤および噴霧剤は、有効成分に加えて、添加剤、例えばラクトース、滑石、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウムおよびポリアミド粉末またはこれらの物質の混合物を含有することができる。噴霧剤は、従来の噴射剤、例えばクロロフルオロ炭化水素および揮発性の非置換炭化水素、例えばブタンおよびプロパンを追加として含有することができる。経皮貼付剤は、身体への本発明の化合物の制御送達を提供するという別の長所を有する。そのような投与形態は、本発明の1または複数の化合物を、適切な媒体、例えばエラストマー系マトリックス材料に、溶解、分散、またはその他の方法で組み入れることにより、調製可能である。吸収増強剤も、皮膚を横切る化合物の流れを増大させるために使用可能である。そのような流れの速度は、律速メンブレンを提供するかまたはポリマーマトリックスもしくはゲル中に化合物を分散させるかのいずれかにより、制御可能である。薬物を含浸させた固体担体(例えば包帯剤)も、局所投与に使用することができる。
【0084】
医薬製剤は、吸入もしくは吹送による投与、または経鼻投与に適したものを含む。吸入による上気道(鼻道)または下気道への投与については、本発明の化合物は、吹送装置、ネブライザもしくは加圧パック、またはその他の便利なエアロゾルスプレー送達手段から、適宜送達される。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、またはその他の適切なガスのような、適切な噴射剤を含んでなることができる。加圧エアロゾルの場合には、投与単位は、計量された量を送達するためのバルブを提供することにより決定されうる。
【0085】
別例として、吸入または吹送による投与のために、組成物は、乾燥粉末、例えば本発明の1つ以上の化合物と、ラクトースまたはデンプンのような適切な粉末基剤との混合粉体の形態をとることもできる。該粉体組成物は、例えばカプセルもしくはカートリッジ中の、または例えばゼラチンもしくはブリスターパック中の単位投与形態で提供されてもよく、該単位投与形態から、吸入装置、吹送装置または計量式吸入器の補助を用いて粉体が投与されうる。
【0086】
鼻腔内投与については、本発明の化合物は、点鼻剤または液体スプレーによって、例えばプラスチックボトル・アトマイザーまたは計量式吸入器によって投与されてもよい。液体スプレーは加圧パックから適宜送達される。典型的なアトマイザーは、Mistometer(R)(ウィントロープ(Wintrop))およびMedihaler(R)(リカー(Riker))である。
【0087】
点鼻剤は、水性または非水性の基剤を用い、さらに1つ以上の分散剤、可溶化剤または懸濁化剤も含んでなるように製剤化可能である。滴剤は、単純な点眼器−キャップ付きボトルを用いて、または特別に形作られた閉止具により液状内容物を滴下送達するようになされたプラスチックボトルを用いて、送達可能である。
【0088】
非経口投与に適した本発明の医薬組成物は、1つ以上の本発明の化合物を、1つ以上の薬学的に許容可能な無菌で等張の水性もしくは非水性の溶液、分散物、懸濁剤または乳剤と組み合わせて、または無菌の散剤であって使用直前に無菌の注射用の溶液もしくは分散物に再構成可能なものと組み合わせて含んでなることが可能であり、酸化防止剤、緩衝剤、該製剤を対象とする被投与者の血液と等張にする溶質、または懸濁化剤もしくは粘稠化剤を含有する場合もある。さらに、薬物でコーティングされたステントも使用されうる。
【0089】
本発明の医薬組成物に使用可能な適切な水性および非水性の担体の例には、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびこれらの適切な混合物、オリーブオイルのような植物油、ならびにオレイン酸エチルのような注射可能な有機エステルが挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティング材料の使用によって、分散物の場合は必要とされる粒度の維持によって、また、界面活性剤の使用によって、維持することができる。
【0090】
これらの組成物はさらに、湿潤剤、乳化剤および分散剤のような補助剤も含有することができる。組成物中に糖質、塩化ナトリウムなどのような等張剤を含むことも望ましい場合がある。さらに、注射可能な剤形の持続的吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのような吸収を遅延させる作用薬を含めることによって実現されうる。
【0091】
ある場合には、薬物の効果を延長するために、皮下注射または筋肉内注射からの薬物の吸収を遅延させることが望ましい。これは、水への溶解性に乏しい結晶または無定形材料の液体懸濁物の使用によって実現されうる。その結果、薬物の吸収速度は該薬物の溶解速度に依存し、ひいては結晶の大きさおよび結晶形態に依存しうる。別例として、非経口的に投与される薬物の遅延吸収は、油ビヒクル中に薬物を溶解または懸濁することにより実現される。
【0092】
注射可能なデポー剤形態は、ポリラクチド−ポリグリコリドのような生分解性ポリマー中に薬物のマイクロカプセル化マトリックスを形成することにより作られる。薬物対ポリマーの比率、および使用される特定のポリマーの性質に応じて、薬物放出の速度を制御可能である。他の生分解性ポリマーの例にはポリオルトエステルおよびポリ無水物が挙げられる。注射可能なデポー製剤は、体組織との適合性を有するリポソームまたはマイクロエマルジョン中に薬物を封入することによっても調製される。注射可能な材料は、例えば、細菌保特性のフィルタを通す濾過によって殺菌されてもよい。
【0093】
製剤は、単位用量または複数回用量の密封容器(例えばアンプルおよびバイアル)中に提供可能であり、また、使用直前に無菌の液体担体(例えば注射用水)の添加だけを必要とする凍結乾燥状態で保存されてもよい。即時調製型の注射用溶液および懸濁液は、上述の種類の無菌の散剤、顆粒剤および錠剤から調製されうる。
【0094】
ダナゾール化合物は、血管透過性亢進または細胞骨格の機能不全に関与する疾患または状態を治療するために単独で投与されうる。別例として、ダナゾール化合物は、該疾患または状態を治療するのに適した1つ以上の他の治療または薬物と組み合わせて投与されてもよい。例えば、ダナゾール化合物は、別の治療もしくは薬物に先立って、別の治療もしくは薬物と共に(同時であることを含む)、または別の治療もしくは薬物の後に、投与可能である。別の薬物の場合には、該薬物およびダナゾール化合物が、個別の医薬組成物として投与されてもよいし、同じ医薬組成物の一部として投与されてもよい。適切な薬物は、米国特許出願番号第12/820,325号明細書に記載されており、前記特許文献の全開示内容は参照により本願に組込まれる。
【0095】
本明細書中で使用されるように、「1つの(aまたはan)」は1つ以上を意味する。
本発明のさらなる目的、利点および新たな特徴は、以降の非限定的な実施例を考慮することにより当業者に明白となろう。
【実施例1】
【0096】
血管形成に対するダナゾールの影響(比較)
A.HUVEC細胞増殖
プロトコール:
初代培養のヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)およびEGM−2増殖培地は、キャンブレックス(Cambrex)(米国メリーランド州ウォーカーズヴィル)から入手した。細胞は、組織培養フラスコで2%ウシ胎仔血清(FCS)を補足した培地中で37℃および5%COで継代した。二次培養は、供給業者が指定するように、60〜80%コンフルエントが得られた時にトリプシンを使用して実施した。
【0097】
継代2代目のHUVECの凍結保存アンプルを解凍し、96ウェル組織培養プレートに細胞5,000個/cmとして播種した。ダナゾールの50mM保存溶液をエタノール中で調製し、ダナゾールを溶解状態に保つために培地中のFCSを5%に高めた。細胞を、0.1〜100μMの範囲の終濃度のダナゾールを含有する培地で3連で処理した。24、48および72時間のインキュベーションを実施し、細胞増殖を、プロメガ(Promega)(米国ウィスコンシン州マディソン)のCelltiter 96(R)AQueous One Solution Cell Proliferation assayを利用して測定した。簡潔に述べると、各ウェルから培地を吸引除去し、細胞を、37℃に温めた200μlのキャンブレックスのHepes緩衝生理食塩水(HBSS)で洗浄した。100μlの希釈したcelltiter溶液(15μl原液+85μlの0.1%FCS含有EGM−2)を各ウェルに加え、さらに4時間インキュベーションした。吸光度を、マイクロプレートリーダによって530nmフィルタを使用してブランクを減した後に測定し、データをOD±標準偏差として示した。ウェル中のエタノールの終濃度は0.2%未満であり、細胞増殖または生存度には影響はなかった。
【0098】
全データを、3連で行われた代表的実験として示す。サブセット間の違いはマイクロソフト・エクセル(R)でスチューデントt検定を使用して解析した。P<0.05を統計的に有意とみなした。
【0099】
結果、所見および議論:
ダナゾールの存在下における初代HUVECの培養は、時間および用量依存的な様式でプロメガのcelltiter増殖アッセイから得られるODを減少させた(図1)。celltiterアッセイは、細胞数に直接相関する、デヒドロゲナーゼ酵素によるアッセイ溶液のホルマザン色素への還元に基づいている。
【0100】
24時間におけるダナゾール処理は極めて高い用量においてのみ有効のようであった。アッセイのODの有意な減少(p値<0.05)は10μMまたはそれ以上のダナゾール濃度において見られた。ゼロ用量のウェルで検出されたODは0.414±0.06であり、10μMダナゾールを用いた処理では0.288±0.037までODが減少した一方、100μMでは0.162±0.017となり、それぞれ30%および65%の抑制率(%)に等しいものであった。
【0101】
48時間では、観察された抑制は1μMのレベルでも有意であった。培養物において48時間後に得られたゼロ用量の読取値は0.629±0.095まで増大し、1μMでは0.378±0.037まで、10μMでは0.241±0.012まで、100μMでは0.19±0.033まで減少した(すなわち、それぞれ40%、61%、および70%の抑制率(%))。
【0102】
72時間後には、試験したダナゾール処理群はすべてHUVEC増殖の有意な低減を示した。ゼロ用量のウェルで得られたODは1.113±0.054であり、0.1μM処理後では0.798±0.037まで、1μMでは0.484±0.022まで、10μMでは0.229±0.016まで、100μMでは0.156±0.018まで減少した(それぞれ28%、57%、80%、および86%の抑制)。
【0103】
全ての100μMダナゾール用量から得られたODを検討すると全ての時点において一貫しており、この濃度での細胞増殖の完全な停止が示された。
すなわち、ダナゾールは内皮細胞増殖の強力な抑制を示した。
【0104】
B.HUVECのチューブ形成
プロトコール:
HUVECによる毛細血管様構造物の形成について調べるため、アンジオジェネシスシステム:血管内皮細胞チューブ形成アッセイ(Angiogenesis System:Endothelial Cell Tube Formation Assay)をBDバイオサイエンス(BD Biosciences)(米国カリフォルニア州サンホセ)から購入し、製造業者のプロトコールに従って使用した。簡潔に述べると、100,000個のHUVECを、チューブ形成を誘導するために5%FCSの存在下で96ウェル組織培養プレート中の再水和マトリゲル(TM)のプラグ上に播種した。ダナゾールを、終濃度1μM、10μM、または50μMとなるように添加し、LY294002(陽性対照)を50μMで添加した。18時間後、倒立顕微鏡に取り付けたコダック(Kodak)DCS Pro SLR/Nデジタルカメラ(米国ニューヨーク州ロチェスター)を使用してウェルを撮影した。エタノール処理したウェルを含め、このビヒクルが細胞分化に影響を及ぼすかどうかを測定した。
【0105】
結果、所見および議論:
ダナゾールがHUVECによるチューブ状構造物の形成を防止することができるかどうかを解明するために、マトリゲルプラグが入った96ウェルプレートを使用した。内皮細胞は、血管形成物質の存在下で培養され、かつ細胞間マトリックスの足場が供給された時、毛細管に漠然と似た構造物に分化する。ダナゾールとともに増殖させたHUVECは、対照よりも薄くあまり明確でない相互連結部を備えた少数の組織化構造物を示した(図2を参照。同図においてA=対照、B=1μMダナゾール、C=10μMダナゾール、D=50μMダナゾール、E=50μM LY294002である)。50μMダナゾールを用いた処理は、プラグ内に存在する極めて少数の薄い連結部または血管腔空間を備えたHUVECの単離コロニーをもたらした。ダナゾールの影響は陽性対照化合物LY294002に非常に類似していた。使用したビヒクルが影響を及ぼさなかったことを確認するために、使用した最高用量のダナゾールに相当する濃度でエタノールを用いてウェルを処理したが、チューブ形成に対する影響は観察されなかった(データは示さない)。これらのデータは、ダナゾールが50μMにおいてチューブ形成の有効な阻害剤であることを示している。ダナゾールは1μMまたは10μMではチューブ形成に影響を及ぼさなかった。
【0106】
C.HUVECの浸潤
プロトコール:
BioCoat(TM)マトリゲルインベージョンチャンバー(BioCoat Matrigel Invasion Chamber)をBDバイオサイエンス(米国カリフォルニア州サンホセ)から購入した。インサートを、加湿インキュベータでの使用前に、500μlのHBSSを用いて37℃で2時間再水和した。トリプシン処理したHUVECを、0.1%のFCSを含んだ暖かいEGM−2で2回洗浄し、全容積250μl中に細胞100,000個としてインベージョンインサートの上部室に加えた。ダナゾールおよび対照の化合物を、終濃度10μMおよび100μMとして該上部リザーバに加えた。浸潤を開始させるために5%のFCSを補足した750μlのEGM−2を下部室に加え、プレートを24時間インキュベーションした。湿らせた綿球を用いて非浸潤細胞を上部室から除去し、次いでインサートをHBSSで2回洗浄した。その後、インサートを、HBSS中で調製された10μMカルセインAMの中に浸し、4時間インキュベーションした。蛍光を485nmの励起および595nmの発光としてマイクロプレートリーダで測定した。LY294002、および構造上は類似しているが不活性な化合物LY303511は、この実験についてそれぞれ陽性対照および陰性対照としての役割を果たした。
【0107】
結果:
結果を図3に示す。データはすべて3連として行われた代表的実験として示されている。サブセット間の差異はマイクロソフト・エクセル(R)でスチューデントt検定を使用して解析した。P<0.05を統計的に有意とみなした。
【0108】
多孔性のマトリゲルコーティングインサートを使用して、ダナゾールが内皮細胞の浸潤または遊走を妨げることができるかどうかを測定した(図3)。この研究に使用されたシステムでは、細胞の著しい増加が、内皮細胞の反対側のチャンバーへのFCSの添加後に蛍光色素によって検出された(5674FU±77から7143±516まで)。濃度10μMおよび100μMのダナゾールは影響を及ぼさなかった一方、LY294002は細胞浸潤のほぼ完全な減弱を示した(5814±153)。これらのデータは、FCS中に存在する要因がHUVECによるプロテアーゼの産生を引き起こし、該プロテアーゼが細胞間マトリックスを消化し、その後走化性のグラジエントに沿った遊走が生じることを示している。ダナゾールはこのモデルにおけるHUVECの浸潤および遊走に対して明白な抑制作用を有していない。
【0109】
D.HUVECの遊走
プロトコール:
スクラッチ遊走アッセイにおいてHUVECの遊走に対するダナゾールの影響を測定するためにアッセイを実施した。継代8代目のHUVEC(ロット番号8750、ロンザ(Lonza)より入手)を、内皮増殖培地−2(EGM−2)完全培地(ロンザより入手)中で6ウェルプレート(ICSバイオエクスプレス(ICS BioExpress))に播種した。プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COで48〜72時間培養して、コンフルエントな単層を得た。その後、この単層を1000μlのピペットチップを用いて「スクラッチ」し、暖かいEGM−2培地を用いて2回洗浄した。最後の洗浄培地を吸引除去し、新たなEGM−2培地または一連の濃度範囲のダナゾール濃度(シグマ(Sigma)、#D8399)を含有する新たなEGM−2培地に交換した。損傷を受けた単層の写真を撮影し、プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COでさらに24時間インキュベーションした。ウェルを再び撮影した。各写真においてAdobe(R)Photoshop(R)ソフトウェアを使用して間隙部を計測したが、間隙部の計測値を該間隙部におけるピクセル数として示す。
【0110】
結果:
3回の別個の実験の結果を以下の表1に示す。表1からわかるように、ダナゾールは、50μM、75μMおよび100μMにおいて、このアッセイにおけるHUVECの遊走を有意に抑制することが分かった。このアッセイに使用されたEGM−2培地は、上記セクションCに記載のマトリゲルモデルで使用されたFCSと比較して、成長因子のカクテルを含んでいる。この成長因子の差が、2つのモデルを使用して得られた結果の差の原因である可能性がある。
【0111】
【表1】

【実施例2】
【0112】
HUVEC単層の血管透過性に対するダナゾールの影響
プロトコール:
HUVEC単層の透過性に対するダナゾールの影響を測定するためにアッセイを実施した。継代5〜10代目のHUVEC(ロット番号7016、ロンザより入手)を、内皮増殖培地−2(EGM−2)(ロンザより入手)を使用して、24ウェルプレートのウェル内に設置された1ミクロン細孔径インサート(グライナー・バイオワン(Greiner BioOne)のThincert(TM)細胞培養インサート24ウェル、#662610、またはISCバイオエクスプレス、#T−3300−15)上に播種した。プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COで48〜72時間培養して、コンフルエントを達成し、かつ緊密な単層を得た。その後、培地を除去し、新たな培地または一連のダナゾール濃度(シグマ、#D8399)を含んでいる新たな培地に交換した。腫瘍壊死因子α(TNFα;ピアス・バイオテクノロジー(Pierce Biotechnology)、#RTNFAI)およびインターロイキン−1β(IL−1β;シグマ、#I−9401)を、それぞれ終濃度10ng/mlとして適切なウェルに添加した。TNFαおよびIL−1βは透過性を誘導する;透過性を最大で10倍増大させる可能性がある。最後に、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)にコンジュゲートされたストレプトアビジン(ピアス・バイオテクノロジー、#N100、1.25mg/ml)を、1:250の最終希釈率として各ウェルに添加した。HRPは約44,000の分子量を有する巨大分子である。最終的な体積は各ウェルの上部室において300μl、下部室において700μlであった。プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COでさらに24時間インキュベーションした。このインキュベーションの後、インサートを取り出して廃棄した。インサート上の細胞の目視検査から、全ての単層がまだ完全であることが示された。
【0113】
HRPのフロースルーを評価するために、下部室に得られた溶液のうち15μlを96ウェルELISAプレートに移した(各反応を3連で実施した)。次に、100μlのテトラメチルベンジジン(TMB)溶液(ピアス)を各ウェルに添加し、室温で5分間発色させた。発色を、0.18Nの酸性溶液100μlを加えることにより停止させた。450nmマイナス530nmに設定したマイクロプレートリーダを使用して各ウェルについてODを測定した。透過性の抑制率(%)を対照に対して計算した。3回の別個の実験の平均値を表2に示す。
【0114】
表2から分かるように、25.0μM以上の濃度のダナゾールは実際に血管透過性を増大させた。10.0μMの濃度は、血管透過性に対して影響はほとんど無いかまたは全く無かった。0.1μM〜5.0μMの濃度のダナゾールは、0.1μM〜0.5μMを最適として、血管透過性を減少させた。用量−応答曲線は極めて興味深い、というのも、0.001μM(または恐らくさらに低濃度)〜0.005μMの濃度において抑制の第2のピークがあるからである。このように、ダナゾールは、血管透過性について非常に驚くべきかつ予想外の用量−応答曲線を示す。
【0115】
実施例1で示されたように、ダナゾールを伴った18〜24時間のインキュベーションの後にHUVECの増殖、遊走およびチューブ形成の抑制を達成するためには50μM〜100μMの濃度が必要であった。この実施例2において示されるように、血管形成の抑制についてのこれらの最適濃度は、24時間後には血管透過性を劇的に増大させるようであった(表2を参照)。反対に、血管透過性を抑制するために使用される最適濃度(0.1μM〜0.5μM)は、24時間では血管形成に対して有意な影響は有していない。
【0116】
【表2】

【実施例3】
【0117】
血管透過性に対するダナゾールの影響
継代9代目のヒト網膜内皮細胞(ACBRI 181、アプライド・セル・バイオロジー・リサーチ・インスティテュート(Applied Cell Biology Research Institute)、米国ワシントン州カークランド)をEGM−2培地(ロンザ、米国メリーランド州ウォーカーズヴィル)中で継代し、80%コンフルエントを得た。その後、トリプシン−EDTAを使用して細胞を継代フラスコから剥がし、得られた懸濁液中の細胞を計数して生存度および細胞数の両方を測定した。細胞懸濁液の生存度はこの実験では90%より高かった。
【0118】
次いで、細胞を、24ウェルプレートのウェル内に設置されたインサート(1ミクロン細孔径)(グライナー・バイオワンのThincert細胞培養インサート24ウェル、#662610)上に、300μlのEGM−2完全培地(ロンザより入手)中で播種した。その後、700μlのEGM−2を下部室に入れ、該プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COで48時間培養して、コンフルエントな単層を得た。半透性バリアの確立を確認するために、EVOM(TM)ボルトオームメータに取り付けられたSTX100電極(いずれもワールド・プレシジョン・インスツルメンツ(World Precision Instruments)より入手)を使用して、全てのインサートについて経内皮電気抵抗(TER)の計測を行った。該計測を行なうために、1つのプローブを、電極1つを上部室の中にかつ1つを下部室に備えるように、各ウェルに配置した。
【0119】
次いで、細胞を2連で以下のように処理した。EGM−2培地をインサートから注意深くデカンテーションし、0.5%ウシ胎児血清と、VEGFおよびヒドロコルチゾンを除いたEGM−2補足物とを含んでいるIMDM培地(全てロンザより入手)に交換した。いくつかのウェルでは、IMDM培地に10倍系列希釈としてダナゾール(シグマ、#D8399)を含めた。プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COで4時間インキュベーションした後、4%の蛍光標識ヒト血清アルブミンを含有する溶液30μlを各ウェルの上部室に添加した。プレートを、37℃のインキュベータにおいて5%COでさらに18時間インキュベーションした。
【0120】
このインキュベーションの後、インサートを取り出して廃棄し、下部室の培地200μlを、96ウェル黒色フルオロプレート(ファルコン(Falcon))に3連として移した。その後、各ウェルの蛍光を340nmの励起波長および470nmの発光波長で計測した。その後、各インサートについて平均蛍光単位(FU)を算出し、2連の読取値を平均化した。結果を表3に示す。
【0121】
【表3】

表からわかるように、最も低濃度のダナゾール(0.01μM)が最も大きな抑制(約10%)を生じた。細胞なしで実行された対照ウェルは下部室において4000FUを上回り、網膜内皮単層が選択的に透過性であることを示した。
【実施例4】
【0122】
3つの異なる内皮細胞単層のTERに対するダナゾールの影響
ヒト網膜内皮細胞(ACBRI 181、アプライド・セル・バイオロジー・リサーチ・インスティテュート、米国ワシントン州カークランド)の経内皮電気抵抗(TER)に対するダナゾールの影響を測定するためにアッセイを実施した。これを行うために、150,000個の継代14代目のヒト網膜内皮細胞を、24ウェルプレートのウェル内に設置されたインサート(1ミクロン細孔径)(グライナー・バイオワンのThincert細胞培養インサート24ウェル、#662610)上に、300μlのEGM−2完全培地(ロンザより入手)中で播種した。その後、プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COで24時間培養した。このインキュベーションの後、培地を注意深くデカンテーションし、新鮮なEGM−2または終濃度1μMのダナゾールを含んでいる新鮮なEGM−2のうちいずれかに交換した。プレートをインキュベータ内に戻し、さらに144時間培養した。継代8代目のヒト脳内皮細胞および継代8代目のヒト臍帯静脈内皮細胞を使用したアッセイも同じように実施した。
【0123】
初期のTER計測値は、STX100電極に接続されたEVOMボルトオームメータ(いずれもワールド・プレシジョン・インスツルメンツより入手)を使用して、各インサートについて得た。計測値は24、48、72および144時間においても得た。結果を以下の表4、5および6に示す。データはすべて、インサートのTER計測値/cmからブランクのインサートのTERを差し引いて示している。
【0124】
【表4】

【0125】
【表5】

【0126】
【表6】

表から分かるように、ダナゾールは網膜および臍帯静脈の内皮細胞単層におけるTER計測値を高めた(イオン透過性を低減した)。ダナゾールは、最も早い時点を除いて脳内皮細胞単層のTERに対してあまり影響を及ぼすようには見えなかった。TERは細胞単層を横切る電気抵抗の計測値である。TERはバリアの完全性の指標であり、イオン透過性と相関する。
【実施例5】
【0127】
Aktリン酸化に対するダナゾールの影響
ヒト網膜内皮細胞(ACBRI 181、アプライド・セル・バイオロジー・リサーチ・インスティテュート、米国ワシントン州カークランド)におけるAktのリン酸化に対するダナゾールの影響を測定するためにアッセイを実施した。細胞を、25cmフラスコ中、2%ウシ胎仔血清(ロンザ)を含んでいるEGM−2培地(ロンザ、米国メリーランド州ウォーカーズヴィル)の中でコンフルエント付近まで増殖させた。その後、トリプシン/EDTAを使用して細胞を継代フラスコから剥がした。得られた懸濁液中の細胞を計数し、EGM−2培地中で1ウェルあたり細胞1×10個として96ウェルプレートに播種した。該プレートを37℃で5%COとして24時間インキュベーションした。次に、EGM−2培地(対照)または様々な濃度のダナゾールのうちいずれかを200μl添加し、プレートをさらに2時間インキュベーションした。このインキュベーションの後、細胞を直ちに4%ホルムアルデヒドで固定し、冷却し、Aktのリン酸化の程度を、Akt細胞シグナル伝達活性化ELISAキット(Akt Cellular Activation of Signaling ELISA Kit)(AKT S473用のCASETMキット;SAバイオサイエンス(SABiosciences)、米国メリーランド州フレデリック)を使用して製造業者のプロトコールに従って測定した。AKT S473用のCASETMキットは、従来のELISA形式を比色定量的な検出とともに使用する並行アッセイにおいて、総Aktタンパク質に対する活性化(リン酸化)Aktタンパク質の量を定量する。Aktリン酸化部位はセリン473であり、この2つの並行アッセイのうちの一方で使用される抗体のうち1つによって認識されて活性化Aktタンパク質の計測値を提供する。他方の並行アッセイで使用される別の抗体はAktを認識して総Aktタンパク質の計測値を提供する。いずれの一次抗体も、ホースラディッシュペルオキシダーゼで標識された二次抗体を使用して検出される。製造業者の発色溶液(Developing Solution)を添加して10分、その後製造業者の停止溶液(Stop Solution)を添加することにより、比色定量的に計測可能な結果が生じる。
【0128】
結果を以下の表7に示す。表から分かるように、全ての濃度のダナゾールがAktリン酸化(活性化)の増大を引き起こした。
【0129】
【表7】

これらの結果は、実施例2において得られた血管透過性の用量−応答曲線について、可能性としてあり得る説明を提供すると考えられる。実施例2に示されるように、低用量のダナゾールは透過性を低減する一方、高用量では透過性を増大させた。AktのS473におけるあるレベルのリン酸化は透過性を低減し(この実験では0.5〜5.0μMの濃度)、その一方でAktのS473の過リン酸化は高い透過性を引き起こす(この実験では10〜50μMの濃度)と考えられる。
【実施例6】
【0130】
網膜内皮細胞単層のTERに対するダナゾールおよびステロイド受容体アンタゴニストの影響
ヒト網膜内皮細胞(ACBRI 181、アプライド・セル・バイオロジー・リサーチ・インスティテュート、米国ワシントン州カークランド)の経内皮電気抵抗(TER)に対するダナゾールおよびステロイド受容体アンタゴニストの影響を測定するためにアッセイを実施した。これを行うために、グライナーの組織培養ウェルインサート(グライナー・バイオワンのThincert細胞培養インサート24ウェル、#662610)を5μg/cmのフィブロネクチン(シグマ)でコーティングした。次いで、継代12代目のヒト網膜内皮細胞を、体積300μlのEGM−2培地(ロンザ)中で1インサートあたり細胞120,000個としてウェルの上部室に播種した。下部室用の体積は、EGM−2培地(ロンザ)700μlとした。プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COで48時間培養して、完全な単層を確立させた。インキュベーションの終了した後、内皮バリアの完全性を確認するために、EVOMボルトオームメータに取り付けられたSTX2プローブ(いずれもワールド・プレシジョン・インスツルメンツより入手)を使用して全インサートについてTER計測値を得た。全てのインサートが、細胞のないインサートと比較して高い抵抗を示した。
【0131】
その後、培養培地を注意深くデカンテーションし、いくつかの添加剤と共に、また添加剤なしで、新鮮なEGM−2に交換した。添加剤は、ダナゾール、ヒドロキシフルタミド(アンドロゲン受容体アンタゴニスト)、フルベストラント(エストロゲンアンタゴニスト)およびPI3キナーゼ阻害剤LY294002(対照)とした。ダナゾール以外の全ての添加剤の原液は、DMSO中10mMで作製した。ダナゾールの原液はエタノール中10mMとした。全ての添加剤の200μMの使用希釈液を同じ溶媒中に作製した。次いで、各添加剤の200nM希釈液、ならびにエタノールおよびDMSOの等価な希釈液(対照)を、EGM−2培地中に作製し、ダナゾールおよび各々の他の添加剤または培地(対照)を、以下の表に示される組み合わせおよび終濃度でウェルに加えた。その後、プレートをインキュベータに戻し入れ、30分、60分、120分および24時間において各インサートについて上述のようにTER計測値を得た。TERは、インサートの読取値からバックグラウンドの計測値(空のインサート)を差し引き、インサートの表面積(0.33cm)で割ることにより算出した。結果を以下の表8に示す。
【0132】
【表8】

表8から分かるように、対照(処理なし)と比較して、ダナゾールおよびフルベストラントはTER計測値を増大させ(透過性を低減し)、一方でヒドロキシフルタミドは読取値を低減した(透過性を増大させた)。ダナゾールは、ヒドロキシフルタミドによって引き起こされる低減を防止した。これは、ダナゾールがこれらの細胞の中でアンドロゲン受容体に位置を占めているという証拠とも考えられる。ダナゾールおよびフルベストラントはいくつかの時点において相加的な結果を示した。
【実施例7】
【0133】
アクチン緊張繊維形成に対するダナゾールの影響
傍細胞経路のIEJはAJおよびTJを含んでいる。アクチン細胞骨格は各ジャンクションに連結され、アクチン再構築によってジャンクションの完全性を制御する。アクチンフィラメントの緊張繊維への再編成はジャンクションに機械的な力を付与してこれらを引き離し、細胞収縮および形態の変化を引き起こす。アクチン重合のプロセスは非常に動的であって、アクチン構造物の迅速な再編成、ならびに、厚い細胞表層のアクチンリングおよび緊張繊維の不在を特徴とする静止状態の表現型から、細胞表層のアクチンが薄いかまたは全く存在せず豊富な緊張繊維を備えた活性化状態の細胞表現型への移行を可能とする。アクチン細胞骨格はさらに、恐らくはカベオラの移動を調節することにより、トランスサイトーシスに関係するようにも見える。
【0134】
ヒト網膜内皮細胞(ACBRI 181、アプライド・セル・バイオロジー・リサーチ・インスティテュート、米国ワシントン州カークランド)を、ファルコンのOptilux(TM)アッセイプレート(BDバイオサイエンス)に、総体積200μlのEGM−2培地(ロンザ)中で1ウェルあたり細胞1000個として播種した。プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COで48時間培養した。その後、培地を除去し、0.1%ウシ胎児血清を補足したIMDM培地(全てロンザより入手)200μlに置き換え、細胞をこれらの成長因子および血清枯渇条件下で1時間培養してアクチン重合を抑制した。次いでダナゾール(終濃度0.1μMもしくは10μM)またはPBキナーゼ阻害剤LY294002(終濃度10μM)(陽性対照)を添加した。これらの化合物の追加後直ちに、TNFα(終濃度50ng/ml)を添加した。5%COの37℃インキュベータにおける30分間のインキュベーションの後、培地を吸引除去し、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中3.6%のホルムアルデヒドを用いて室温で10分間固定した。次いで全てのウェルを100μlのPBSで2回洗浄した。細胞を、PBS中0.1%のTriton(R)X−100を使用して5分間透過化した。次いで全てのウェルを100μlのPBSで2回洗浄し、PBS中のローダミン−ファロイジン(インビトロジェン(Invitrogen))の1:40希釈液50μlを細胞に加えてFアクチンを染色し、細胞上に室温で20分間放置した。次いで全てのウェルを100μlのPBSで2回洗浄した。次に100μlのPBSを各ウェルに加え、細胞を、ローダミンフィルタ(ex530/em590)を備えた倒立顕微鏡を使用して観察および撮影した。
【0135】
結果は、緊張繊維が発達する能力に対してダナゾールが影響を及ぼすことを示した。ダナゾールで処理すると、細胞は投与量に依存して異なる染色パターンを示した。より低いダナゾール用量(0.1μM)では細胞質全体にわたる拡散染色が観察され、これは恐らく、安定化する事象または静止している表現型を示している。より高いダナゾール用量(10.0μM)では、多数の接触点を備えた緊張繊維が検出された。これらの知見は、低いダナゾール用量は透過性を抑制し、高いダナゾール用量は透過性を増大させるという先の結果(先の実施例を参照)と相関する。TNFαは細胞を刺激し、強く染色する接触点を備えた強い緊張繊維の発達をもたらした。ダナゾールおよびLY294002は、TNFαによる緊張繊維の発達を示す細胞の数を減少させた。
【実施例8】
【0136】
アクチン緊張繊維形成に対するダナゾールの影響
ヒト網膜内皮細胞(ACBRI 181、アプライド・セル・バイオロジー・リサーチ・インスティテュート、米国ワシントン州カークランド)を、1μg/cmのフィブロネクチンでコーティングしたファルコンのOptilux(TM)アッセイプレート(BDバイオサイエンス)に、総体積200μlのEGM−2培地(ロンザ)中で1ウェルあたり細胞3000個として播種した。プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COで48時間培養した。その後、培地を除去し、2.0%ウシ胎児血清を補足したUltraculture(TM)培地(全てロンザより入手)200μlに置き換え、細胞をこれらの成長因子および血清枯渇条件下で終夜培養してアクチン重合を抑制した。その後、培地を除去し、2.0%ウシ胎児血清を補足した新たなUltraculture培地であってダナゾール(0.1μM、1μMもしくは10μM)またはPI3キナーゼ阻害剤LY294002(10μM)(陽性対照)を含んでいるものに交換した。これらの化合物とともに、37℃のインキュベータにおいて5%COで30分間インキュベーションした後、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)(終濃度25ng/ml)を添加した。37℃のインキュベータにおいて5%COでさらに30分間インキュベーションした後、培地を吸引除去し、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中3.6%のホルムアルデヒドを用いて室温で10分間固定した。次いで全てのウェルを100μlのPBSで2回洗浄した。細胞を、PBS中0.1%のTriton(R)X−100を使用して5分間透過化した。次いで全てのウェルを100μlのPBSで2回洗浄し、PBS中のローダミン−ファロイジン(インビトロジェン)の1:40希釈液50μlを細胞に加えてFアクチンを染色し、細胞上に室温で20分間放置した。次いで全てのウェルを100μlのPBSで2回洗浄した。核を対比染色するために、3μMのDAPI(4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール、二乳酸塩(インビトロジェン))溶液100μlを各ウェルに添加した。5分後、細胞を100μlのPBSで2回洗浄した。次に100μlのPBSを各ウェルに加え、細胞を、ローダミンフィルタ(ex530/em590)およびDAPIフィルタ(ex350/em460)を用いて倒立顕微鏡を使用して観察および撮影した。
【0137】
結果は、緊張繊維が発達する能力に対してダナゾールが影響を及ぼすことを示した。ダナゾールで処理すると、細胞は適用した投与量に依存して異なる緊張繊維形成パターンを示した。最も低いダナゾール用量(0.1μM)では、細胞質全体にわたる拡散したFアクチン染色が観察された。1.0μMのダナゾールでは、拡散染色は持続したが、ほとんどの細胞の周辺部のまわりの緊張繊維および接触点が視認できた。最も高いダナゾール用量(10.0μM)では、もはや拡散染色はなく、緊張繊維の発達および接触点が見られた。より低用量のダナゾールを用いて見られた染色は核周囲の染色パターンを示し、このことは、パクリタキセル(微小管を安定化し重合させることが知られるタキソール化合物)を用いて観察されたものに類似の微小管安定化を示している。VEGFを用いると、強い緊張繊維の発達があった。ダナゾールは、用量依存的な様式でVEGFパターンを変化させた、すなわち:(i)最も低い0.1μMダナゾール用量は緊張繊維をあまり明白にせず、若干の拡散した染色が現われた;(ii)1.0μM用量は少数の濃い緊張繊維を示したが、接触点は接触表面上で見られた;(iii)最も高い10.0μMダナゾール用量は、接触点を備えた強い緊張繊維の発達を示した。LY294002は、VEGFを用いて見られた強い緊張繊維の発達を防止し、拡散染色を示した。
【実施例9】
【0138】
血管内皮カドヘリン(VEカドヘリン)リン酸化に対するダナゾールの影響
継代12代目のヒト網膜内皮細胞(ACBRI 181、アプライド・セル・バイオロジー・リサーチ・インスティテュート、米国ワシントン州カークランド)を、フィブロネクチンでコーティングした(1μg/cm)10cm組織培養プレート上で、EGM−2培養培地(ロンザ)を使用して37℃のインキュベータにおいて5%COでコンフルエントになるまで増殖させた。完全にコンフルエントに達したら、培地を0.5%ウシ胎児血清およびL−グルタミンを補足したUltraculture培地(全てロンザより入手)に置き換え、細胞をこれらの成長因子および血清枯渇条件下で24時間培養した。その後、培地を除去し、0.5%ウシ胎児血清およびL−グルタミンを補足した新たなUltraculture培地であってダナゾール(0.1μM、1μMもしくは10μM)またはエタノール(ビヒクル対照)を含んでいるものに交換した。37℃のインキュベータにおいて5%COで15分間インキュベーションした後、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)(終濃度50ng/ml)を添加し、該プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COでさらに15分間インキュベーションした。
【0139】
細胞を溶解するために、プレートを直ちに以下のように処理した。PBSおよび溶解バッファー(PBS中に1%TritonX−100を含有し、ホスファターゼ阻害剤溶液1および2(シグマ)、プロテアーゼ阻害剤(シグマ)ならびに終濃度2mMのオルトバナジウム酸ナトリウムを補足したもの)を4℃に冷却した。細胞を5mlの氷冷PBSで2回洗浄し、次いで500μlの氷冷溶解バッファー中で溶解させた。得られたタンパク質抽出物を1.7mlの微小遠心チューブに移し、4℃、10,000rpmで10分間遠心することにより細胞破壊片を除去した。その後、この除去処理後の溶液450μlを、10μlのC19抗VEカドヘリン・ポリクローナル抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology))でコーティングした(コーティングは製造業者のプロトコールに従って実施した)Protein Dynabeads(R)(インビトロジェン)25μlが入ったチューブに移した。その後、抽出物およびビーズをオービタルシェーカーで4℃にて終夜インキュベーションして抽出物からVEカドヘリンを捕捉した。次に、ビーズを氷冷した溶解バッファーで4回洗浄した。ビーズからタンパク質を放出させるために、ビーズを、20%の還元色素を含んでいるSDSローディング用色素液(インビトロジェン)の中で75℃にて10分間加熱した。
【0140】
放出されたタンパク質を、4〜20%ポリアクリルアミドゲル(インビトロジェン)で、120ボルトで1時間分離させた。ゲル中のリン酸化および総タンパク質を測定するために、Pro−Q(R)ダイアモンド(インビトロジェン)およびSYPRO(R)ルビー(インビトロジェン)タンパク質染色を、製造業者のプロトコールに従って連続して実施した。ゲルを撮影し、コダック(Kodak)イメージングステーションを使用して密度計測を実施した。結果を以下の表9に示す。
【0141】
【表9】

表から分かるように、ダナゾールはVEカドヘリンのリン酸化の増大を引き起こした。VEGFは、VEカドヘリンのリン酸化のさらに大きな増大(過リン酸化)を引き起こしたが、これはダナゾールによって覆された。VEカドヘリンはAJの成分であり、VEカドヘリンのリン酸化は残基によって様々な影響を有しうる。概して、VEカドヘリンのチロシンリン酸化はAJの分解および透過性増大をもたらす。しかしながら、セリン665のリン酸化は、バリア機能の低下を伴うVEカドヘリンの急速だが可逆的な内在化を引き起こす。内在化したVEカドヘリンが、AJと複合体を形成する足場タンパク質である細胞質p120の増加を駆動する、フィードバックループが存在するようである。このアップレギュレーションは、Rac1、Rap−1、およびCdc42のようなバリアを安定化するGTPアーゼの増加を伴った、活性RhoAの減少を引き起こす。低用量ダナゾール処理後に本実験で観察されたVEカドヘリンのリン酸化の増大は、バリアを安定化するGTPアーゼの活性化をもたらすと考えられる。さらに、ダナゾールは、VEGFによって誘導されるリン酸化不安定化事象を防止する可能性がある。
【実施例10】
【0142】
網膜内皮細胞単層のTERに対するダナゾールおよびステロイド受容体アンタゴニストの影響
ヒト網膜内皮細胞(ACBRI 181、アプライド・セル・バイオロジー・リサーチ・インスティテュート、米国ワシントン州カークランド)の経内皮電気抵抗(TER)に対するダナゾールおよびステロイド受容体アンタゴニストの影響を測定するためにアッセイを実施した。これを行うために、グライナーの組織培養ウェルインサート(グライナー・バイオワンのThincert細胞培養インサート24ウェル、#662610)を5μg/cmのフィブロネクチンでコーティングした。次いで、継代13代目のヒト網膜内皮細胞を、体積300μlのEGM−2培地(ロンザ)中で1インサートあたり細胞120,000個としてウェルの上部室に播種した。下部室用の体積は、EGM−2培地(ロンザ)700μlとした。プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COで48時間培養して、完全な単層を確立させた。インキュベーションの終了後、内皮バリアの完全性を確認するために、EVOMボルトオームメータに取り付けられたSTX2プローブ(いずれもワールド・プレシジョン・インスツルメンツより入手)を使用して全インサートについてTER計測値を得た。全てのインサートが、細胞のないインサートと比較して高い抵抗を示した。
【0143】
その後、培養培地を注意深くデカンテーションし、いくつかの添加剤と共に、また添加剤なしで、新鮮なEGM−2に交換した。添加剤は、ダナゾール、ヒドロキシフルタミド(アンドロゲン受容体アンタゴニスト)、フルベストラント(エストロゲンアンタゴニスト)、テストステロン、エストラジオールおよびPI3キナーゼ阻害剤LY294002(対照)とした。ダナゾール以外の全ての添加剤の原液は、DMSO中10mMで作製した。ダナゾールの原液はエタノール中10mMとした。全ての添加剤の200μMの使用希釈液を同じ溶媒中に作製した。次いで、各添加剤の200nM希釈液、ならびにエタノールおよびDMSOの同等の希釈液(対照)をEGM−2培地中に作製し、ダナゾールおよび各々の他の添加剤または培地(対照)を、以下の表に示される組み合わせおよび終濃度でウェルに添加した。その後、プレートをインキュベータに戻し入れ、5分、30分、60分および24時間において各インサートについて上述のようにTER計測値を得た。TERは、インサートの読取値からバックグラウンドの計測値(空のインサート)を差し引き、インサートの表面積(0.33cm)で割ることにより算出した。結果を以下の表10に示す。
【0144】
表10から分かるように、対照(処理なし)と比較して、ダナゾールはTER計測値を増大させ、ヒドロキシフルタミドは読取値を低減し、テストステロンは読取値をごくわずかに低減し、フルベストラントはほとんど影響がなかった。ダナゾールは、ヒドロキシフルタミドによって引き起こされる低減およびテストステロンと用いて見られるごくわずかな低減を防止した。実施例6における結果と同じように、これは、ダナゾールがこれらの細胞の中でアンドロゲン受容体に位置を占めているという証拠とも考えられる。
【0145】
【表10】

【実施例11】
【0146】
アクチン緊張繊維形成に対するダナゾールの影響
継代6代目のヒト腎糸球体微小血管内皮細胞(ACBRI 128、セルシステムズコーポレイション(Cell Systems Corporation)(アプライド・セル・バイオロジー・リサーチ・インスティテュートの一手販売店)、米国ワシントン州カークランド)および継代12代目のヒト網膜内皮細胞(ACBRI 181、セルシステムズコーポレイション(アプライド・セル・バイオロジー・リサーチ・インスティテュートの一手販売店)、米国ワシントン州カークランド)を、5μg/cmのフィブロネクチンでコーティングした16室スライドグラスに、総体積200μlのEGM−2培地(ロンザ)中で1ウェルあたり細胞2000個として播種した。プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COで48時間、毎日培地交換して培養した。その後、ハンク平衡塩類溶液(HBSS;ロンザ)で希釈した試験化合物(ダナゾール、TNFαおよびS1P)を、次の終濃度すなわち:ダナゾール(1μM)(シグマ)、TNFα(1ng/ml)(シグマ)、およびS1P(1μM)(シグマ)となるように添加した。スライドを試験化合物とともに37℃のインキュベータにおいて5%COで、15分、30分または24時間インキュベーションした。このインキュベーションの後、培地を吸引除去し、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中3.6%のホルムアルデヒドを用いて室温で10分間固定した。次いで全てのウェルを100μlのPBSで2回洗浄した。細胞を、PBS中0.1%のTriton(R)X−100を使用して5分間透過化した。次いで全てのウェルを100μlのPBSで2回洗浄し、PBS中のローダミン−ファロイジン(インビトロジェン)の1:40希釈液50μlを細胞に加えてFアクチンを染色し、細胞上に室温で20分間放置した。次いで全てのウェルを100μlのPBSで2回洗浄した。次に100μlのPBSを各ウェルに加え、細胞を、ローダミン(ex530/em590)フィルタを用いて倒立顕微鏡を使用して観察および撮影した。
【0147】
結果は、腎糸球体微小血管内皮細胞において緊張繊維が発達する能力に対してダナゾールが影響を及ぼすことを示した。ダナゾール単独で処理された時、細胞は15分で核周囲の染色を示し、3時間では多数の細胞に波状の縁部を伴って細胞全体の拡散染色を示し、24時間で無処理の対照群に類似の染色を示した。TNFαを単独で用いると、緊張繊維は全ての時点で見られ、緊張繊維を示す細胞の数および繊維の濃さは時間とともに増大した。ダナゾールは緊張繊維の形成および繊維の濃さを全ての時点において減少させ、細胞表層のアクチンリングおよび波状の縁部は3時間で視認可能になり始めた。S1P単独で処理された細胞はアクチンの表層リングを示したが、これは15分で発達し始め、3時間で最も強くなった。この細胞は、24時間で無処理の対照群に類似の形態に戻った。ダナゾールは表層リングを増強するようであった。さらに、拡散染色は特に15分および24時間において観察された。
【0148】
ダナゾール単独で処理された網膜内皮細胞については、細胞は15分で核周囲の染色を示し、3時間では多数の細胞に波状の縁部を伴って細胞全体の拡散染色を示し、24時間で無処理の対照群に類似の染色を示した。TNFαを単独で用いると、緊張繊維は全ての時点で見られ、緊張繊維を示す細胞の数および繊維の濃さは15分から3時間まで増大し、24時間のインキュベーション後には低下した。ダナゾールは、全ての時点において緊張繊維の形成または繊維の濃さのうち少なくともいずれか一方を減少させた。拡散染色は15分および24時間において観察され、細胞表層のアクチンリングは3時間の時点で視認可能であった。S1P単独で処理された細胞はアクチンの表層リングを示したが、これは15分で発達し始め、3時間で最も強くなった。この細胞は、24時間で無処理の対照群に類似の形態に戻った。ダナゾールは、3時間では表層リングを増強するようであった。さらに、拡散染色は特に15分および24時間において観察された。
【0149】
S1P(スフィンゴシン−1リン酸)は、血管内皮の形成および維持において非常に重要な機能を果たす。S1Pは、アクチン細胞骨格(actin cytoskeletion)に対するその影響を通じて血管内皮の組織化およびバリア機能を促進する、構成的なシグナル伝達入力である。特に、S1Pは細胞表層アクチン繊維の形成および接着結合の組織化に関与する。S1Pの枯渇は血管漏出および浮腫をもたらし、またS1Pは内皮機能不全を回復させ、バリア機能を修復することができる。
【0150】
この実験では、ダナゾールは網膜および糸球体のいずれの内皮細胞においてもS1Pの保護作用を強化する能力を示した。またダナゾールは、これらの種類いずれの内皮細胞においてもTNFαによって誘導された緊張繊維の形成を覆した。核周囲の拡散染色はダナゾール単独で処理された細胞に見られる。
【実施例12】
【0151】
ECISに対するダナゾールの影響
ヒト腎糸球体微小血管内皮細胞(ACBRI 128、セルシステムズコーポレイション(アプライド・セル・バイオロジー・リサーチ・インスティテュートの一手販売店)、米国ワシントン州カークランド)またはヒト網膜内皮細胞(ACBRI 181、セルシステムズコーポレイション(アプライド・セル・バイオロジー・リサーチ・インスティテュートの一手販売店)、米国ワシントン州カークランド)の経内皮電気抵抗(TER)に対するダナゾールの影響を測定するために、アッセイを実施した。電気抵抗は、細胞−基質電気インピーダンス計測(ECIS、electric cell−substrate impedance sensing)システム(ECISZθ、アプライドバイオフィジックス(Applied Biophysics)より入手)を8ウェル複合電極プレート(8W10E)と共に使用して計測した。プレートの各ウェルを、HBSS中5μg/cmのフィブロネクチンを用いて、該フィブロネクチンを1ウェルあたり体積で100μl加え、該プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COで30分間インキュベーションすることにより、コーティングした。このフィブロネクチン溶液を除去し、400μlのEGM−2培地(ロンザ)を各ウェルに添加した。プレートをECISZθシステムに接続し、電気的に安定させた。EGM−2培地を吸引除去し、1ウェル当たり100,000個の細胞を含んでいるEGM−2培地200μlに置き換えた。プレートをECISZθシステムに再接続し、37℃のインキュベータにおいて5%COで24時間インキュベーションした。EGM−2培地を吸引除去し、1ウェル当たり400μlの新鮮なEGM−2培地に置き換えた。プレートをECISZθシステムに再接続し、37℃のインキュベータにおいて5%COで6時間インキュベーションした。試験化合物のHBSS中濃縮溶液を調製し、平衡化するためにインキュベータ内に置いた。その後、試験化合物を適切なウェルに、次の終濃度すなわち:ダナゾール(1μM)(シグマ)およびS1P(1μM)(シグマ)に従って添加した。ECIS(抵抗)を90時間モニタリングした。
【0152】
網膜内皮細胞では、1.0μMダナゾール単独では処理後約1.5〜2.0時間で無処理の細胞と比較してECISの上昇が始まり、5時間の持続を示した。S1P単独では、処理後最初の15分以内に無処理の細胞と比較してECISの上昇が始まり、約3時間の持続を示した。ダナゾールおよびS1Pの組み合わせは、S1P単独および無処理の細胞と比較してECISを上昇させ、これは高いECISを約90時間持続した。このように、ダナゾールは、S1Pが存在する場合の本実験全体にわたり、S1Pの早期の影響を増強しかつ高い抵抗を維持する能力を示した。
【0153】
糸球体内皮細胞は異なるパターンを示した。ダナゾール単独では、処理後約30時間までECISへの影響はなかった。ダナゾール単独では、約30〜約90時間の間に無処理の細胞と比較してECISが上昇し、最大の上昇は約60〜90時間であった。S1P単独でも、処理後約30時間までECISへの影響はなかった。S1P単独では、約30〜約60時間に無処理の細胞と比較してECISが上昇した。ダナゾールおよびS1Pの組み合わせは、処理後約30時間までECISへの影響はなかった。この組み合わせでは、無処理の細胞、S1P単独およびダナゾール単独と比較してECISが上昇した。特に、この組み合わせは、約30〜約70時間の間に無処理の細胞と比較してECISが上昇し、約30〜75時間にS1P単独と比較してECISが上昇し、約30〜約50時間にダナゾール単独と比較してECISが上昇した。
【実施例13】
【0154】
ECISに対するダナゾールの影響
ヒト腎糸球体微小血管内皮細胞(ACBRI 128、セルシステムズコーポレイション(アプライド・セル・バイオロジー・リサーチ・インスティテュートの一手販売店)、米国ワシントン州カークランド)の経内皮電気抵抗(TER)に対するダナゾールの影響を測定するために、アッセイを実施した。電気抵抗は、細胞−基質電気インピーダンス計測(ECIS)システム(ECISZθ、アプライドバイオフィジックスより入手)を8ウェル複合電極プレート(8W10E)と共に使用して計測した。プレートの各ウェルを、HBSS中の5μg/cmのフィブロネクチンを用いて、該フィブロネクチンを1ウェルあたり体積で50μl加え、該プレートを37℃のインキュベータにおいて5%COで30分間インキュベーションすることにより、コーティングした。このフィブロネクチン溶液を除去し、200μlのEGM−2培養培地(ロンザ)を各ウェルに添加した。プレートをECISZθシステムに接続し、電気的に安定させた。EGM−2培地を吸引除去し、1ウェル当たり40,000個の継代6代目の細胞を含んでいるEGM−2培地200μlに置き換えた。プレートをECISZθシステムに再接続し、37℃のインキュベータにおいて5%COで24時間インキュベーションした。EGM−2培地を吸引除去し、1ウェル当たり200μlの新鮮なEGM−2培地に置き換えた。プレートをECISZθシステムに再度接続し、37℃のインキュベータにおいて5%COでさらに24時間インキュベーションした。EGM−2培地を吸引除去し、1ウェル当たりデキサメタゾンを含まない200μlの新鮮なEGM−2培地に置き換えた。プレートをECISZθシステムに再接続し、37℃のインキュベータにおいて5%COで終夜インキュベーションした。最後に、EGM−2培地を吸引除去し、1ウェル当たりデキサメタゾンを含まない200μlの新鮮なEGM−2培地に置き換えた。プレートをECISZθシステムに再接続し、37℃のインキュベータにおいて5%COで2時間インキュベーションした。試験化合物のHBSS中濃縮溶液を調製し、平衡化するためにインキュベータ内に置いた。その後、試験化合物を適切なウェルに、次の終濃度すなわち:ダナゾール(1μM)(シグマ)およびデキサメタゾン(1μM)(シグマ)に従って添加した。ECIS(抵抗)を90時間モニタリングした。
【0155】
ダナゾール単独では無処理の細胞と比較してECISが上昇し、これは約3時間で始まり、約90時間持続した。この上昇は約12〜約15時間の間に最も大きかった。デキサメタゾンと比較すると、ダナゾールは類似のパターンを示したが、ECIS(TER)の増強はそれほどではなかった。
【実施例14】
【0156】
RhoAに対するダナゾールの影響
内皮細胞の細胞骨格の再構築は内皮の数多くの機能の中心である。低分子量GTP結合タンパク質であるRhoファミリーは、Fアクチンの細胞骨格動態の主要な調節因子であることが確認されている。Rhoファミリーは、3つのアイソフォーム、すなわちRhoA、RhoBおよびRhoCで構成されている。RhoA活性の活性化は、内皮細胞における顕著な緊張繊維形成をもたらす。トロンビンを用いた内皮細胞の刺激はRhoGTPおよびミオシンリン酸化を増大させるが、これは細胞収縮性の上昇と一致している。RhoAの抑制は、この応答およびバリア機能の損失を妨げ、血管透過性におけるRhoの重大な役割を実証している。
【0157】
この実験は、米国コロラド州デンバーに所在のサイトスケルトン(Cytoskeleton)から購入した市販のRho活性化アッセイ(GLISA(TM))を使用して、製造業者のプロトコールに従って実施した。簡潔に述べると、継代8代目または12代目のヒト網膜内皮細胞(ACBRI 181、アプライド・セル・バイオロジー・リサーチ・インスティテュート、米国ワシントン州カークランド)を、フィブロネクチンでコーティングした(1μg/cm)6ウェル組織培養プレート上で、EGM−2培養培地(ロンザ)を使用して37℃のインキュベータにおいて5%COで24時間培養した(3mlの総体積中として細胞30,000個/ウェル)。次いで、培地を吸引除去し、0.1%ウシ胎児血清、L−グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、ペニシリン/ストレプトマイシンおよびITSS(インスリン、トランスフェリン・ナトリウム・セレン)を補足したUltraculture培地(いずれもロンザより入手)に置き換えて、細胞を血清枯渇としてRhoAのバックグラウンド強度を下げた。この細胞を37℃のインキュベータにおいて5%COで24時間培養した。HBSS中で希釈した試験化合物は、細胞に添加する前にインキュベータ内に置いて平衡化させた。その後、各試験化合物150μlを適切な培養ウェルに添加し、プレートをインキュベータ中でさらに15分間インキュベーションした。次いで、トロンビンを適切なウェルに添加した。1分後、細胞を1.5mlのリン酸緩衝生理食塩水で1回洗浄し、次にプロテアーゼ阻害剤を補足した100μlのGLISA溶解バッファーで溶解させた。抽出物を掻き集めて微小遠心チューブに移し、RhoAの活性型を保存するために氷中に移動させた。その後、全ての抽出物を、10,000rpmとして4℃で2分間遠心処理することにより破壊片を取り除いた。上清を新しいチューブに移し、氷中に戻した。各抽出物のアリコートを、GLISAアッセイおよびタンパク質定量のために取り出した。すべてのタンパク質濃度は10%以内であり、該抽出物をこの達成濃度で使用した(1ウェル当たり15μgの総タンパク質に相当)。GLISAアッセイは、キット内に提供された試薬を使用して実施した。
【0158】
継代12代目の網膜内皮細胞についての結果を以下の表11に示す。予想通り、トロンビンによって誘導された活性RhoAレベルは非常に高かった。全ての試験化合物が、トロンビン誘導型のRhoA活性化を抑制した。
【0159】
継代8代目の網膜内皮細胞についての結果を以下の表12に示す。予想通り、トロンビンによって誘導された活性RhoAレベルは非常に高かった。全ての試験化合物が、トロンビン誘導型のRhoA活性化を抑制した。
【0160】
【表11】

【0161】
【表12】

【実施例15】
【0162】
血管透過性亢進の動物モデル
ニュージーランドホワイトラビットに、0.215mg/kgのダナゾールを経口的に1日2回、7日間投与した。その後、網膜における血管漏出を引き起こすために、このラビットに血管内皮細胞増殖因子A(VEGF−A)を1回硝子体注入した。次いで、24時間後に、フルオレセインナトリウムを注入し、眼の蛍光をFluorotron(TM)(オキュメトリクス(Ocumetrics))を使用して計測した(5回の計測値を平均した)。1羽の対照(プラセボ)ラビットは網膜に250蛍光ユニットを有し、網膜における血管漏出を示した。1羽のダナゾール処理されたラビットは16蛍光ユニットを示したが、これはダナゾールによって血管漏出の94%低減が引き起こされたことを表している。
【0163】
本願は、2009年6月22日に出願された米国仮特許出願第61/219,185号、および2010年3月18日に出願された米国仮特許出願第61/315,350号の利益を主張するものであり、前記両特許文献の全開示内容は参照により本願に組込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管透過性亢進の抑制を必要とする動物において血管透過性亢進を抑制する方法であって、血管透過性亢進を抑制する量のダナゾール化合物を動物に投与することを含んでなる方法。
【請求項2】
動物は、血管透過性亢進によって仲介される疾病または状態が存在するためにダナゾール化合物を必要としている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ダナゾール化合物の投与は、該疾病または状態の診断直後に開始される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
疾病または状態は糖尿病である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
疾病または状態はアテローム性動脈硬化である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
疾病または状態は高血圧症である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
疾病または状態は、急性肺傷害、急性呼吸窮迫症候群、加齢黄斑変性症、脳浮腫、脈絡膜の浮腫、脈絡膜炎、冠動脈の微小血管系疾患、大脳の微小血管系疾患、イールズ病、損傷による浮腫、高血圧症に関連した浮腫、糸球体の血管漏出、出血性ショック、アーヴァイン・ガス症候群、虚血、黄斑浮腫、腎炎、腎症、腎炎性浮腫、ネフローゼ症候群、神経障害、浮腫による臓器機能不全、妊娠高血圧腎症、肺水腫、肺高血圧症、腎不全、網膜浮腫、網膜出血、網膜静脈閉塞、網膜炎、網膜症、無症候性脳梗塞、全身性炎症反応症候群、移植糸球体症、ブドウ膜炎、血管漏出症候群、硝子体出血またはフォンヒッペル・リンドウ病である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
疾病または状態は黄斑浮腫である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
疾病または状態は神経障害である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
疾病または状態は網膜症である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
疾病または状態は糖尿病の血管合併症である、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
血管合併症は、浮腫、内皮下腔への低密度リポタンパク質の蓄積、急速進行性のアテローム性動脈硬化、脳における血管壁の老化亢進、心筋の浮腫、心筋線維症、拡張機能障害、糖尿病性心筋症、糖尿病の母親の胎児における肺分化の遅延、1以上の肺の生理的パラメータの変化、感染症に対する感受性増大、腸間膜における血管過形成、糖尿病性神経障害、糖尿病性黄斑浮腫、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、ならびに皮膚の発赤、褪色、乾燥および潰瘍である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
血管合併症は浮腫である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
血管合併症は糖尿病性心筋症である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
血管合併症は糖尿病性神経障害である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
血管合併症は糖尿病性黄斑浮腫である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
血管合併症は糖尿病性網膜症である、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
糖尿病性網膜症は非増殖性の糖尿病性網膜症である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
血管合併症は糖尿病性腎症である、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
動物は、血管透過性亢進によって仲介される疾病または状態の1つ以上の初期徴候のため、または該疾病または状態を発症する素因のために、ダナゾール化合物を必要としている、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
疾病または状態は、糖尿病、高血圧症またはアテローム性動脈硬化である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
血管透過性亢進は、脳、横隔膜、十二指腸の筋肉組織、脂肪、心臓、腎臓、大血管、肺、腸間膜、神経、網膜、骨格筋、皮膚もしくは精巣において、またはその周辺において見出される連続内皮の血管透過性亢進である、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
連続内皮は、脳、心臓、肺、神経もしくは網膜において、またはその周辺において見出される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
血管透過性亢進は、腎臓、膵臓、副腎、内分泌腺もしくは腸において、またはその周辺において見出される有窓内皮の血管透過性亢進である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
有窓内皮は腎臓において見出される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ダナゾール化合物はダナゾールである、請求項1〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
ダナゾール化合物は経口的に投与される、請求項1〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
動物はヒトである、請求項1〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
血管透過性亢進を抑制する量は、1日あたり1ng〜100mgのダナゾール化合物である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
血管透過性亢進を抑制する量は、1日あたり1mg〜100mgのダナゾール化合物である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
血管透過性亢進を抑制する量は、1日あたり10mg〜90mgのダナゾール化合物である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
動物において内皮細胞の細胞骨格を調整する方法であって、有効な量のダナゾール化合物を動物に投与することを含んでなる方法。
【請求項33】
細胞骨格の調整は、アクチン緊張繊維形成の抑制を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
細胞骨格の調整は、細胞表層アクチンリングの形成を引き起こすこと、増強すること、または延長することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
細胞骨格の調整は、RhoAの抑制を含む、請求項32に記載の方法。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2012−530784(P2012−530784A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517645(P2012−517645)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/039458
【国際公開番号】WO2010/151530
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(510314998)ディエムアイ アクイジション コーポレイション (2)
【氏名又は名称原語表記】DMI ACQUISITION CORP.
【Fターム(参考)】