説明

瘢痕を抑制する薬剤および方法

本発明は、創傷の治癒に際して形成される瘢痕を予防、軽減、または抑制するために使用されるGABAAレセプターのアゴニストの使用を提供する。また、創傷の治癒に際して形成される瘢痕を予防、軽減、または抑制するための方法であって、治療に効果的な量のGABAAレセプターのアゴニストを、そのような予防、軽減、または抑制を必要とする患者に投与することを含む方法も提供する。GABAAレセプターアゴニストには、ガボクサドール(7-テトラヒドロイソオキサゾロ[5,4-c]ピリジン-3-オール)またはその薬学的に許容される塩のようなGABAAレセプター特異的アゴニストを使用することができる。予防、軽減、または抑制される瘢痕は、真皮の創傷の治癒に際して形成される瘢痕とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷の治癒に際して形成される瘢痕(scarring)を予防、軽減、または抑制するための薬剤の調製(製造)に関する。また、本発明は、創傷の治癒に際して形成される瘢痕を予防、軽減、または抑制するための方法も提供する。さらに、本発明は、創傷の治癒に際して形成される瘢痕を予防、軽減、または抑制するために使用されるGABAAレセプターのアゴニストも提供する。
【背景技術】
【0002】
創傷治療(wound management)に対する臨床的なアプローチは、一般的に、期待される成果に応じて決定される。この成果で考慮される点は、例えば、瘢痕発生の度合いであり、創傷の治癒速度である。ある創傷治療では、発生した瘢痕の度合いを制御することを最重要とする一方で、創傷治癒の速さを促進させることはあまり重要でないものがある。また、他のある治療では、創傷治癒の速さを促進させることを最重要とする一方で、発生した瘢痕の度合いを制御することがあまり重要とされないものがある。本発明は、主な臨床的関心が、治癒の結果として生じた瘢痕の度合いに向けられている場合の創傷の治療に適用することができる。
【0003】
多くの異なるプロセスが、瘢痕に対する反応の間に作用しており、これまでに多くの研究が、これらのプロセスを媒介するものや、これらのプロセスが如何に相互作用して最終状態を生み出すか、ということを発見するためになされてきた。
【0004】
創傷反応は、全ての成長した哺乳類に共有された創傷治癒の際に共通して生じる。瘢痕反応は、大部分の組織タイプの間で保存されており、いずれの場合でも、同じ結果、すなわち「瘢痕(a scar)」と称される修復組織を形成することに繋がる。瘢痕とは、「任意の身体組織の損傷部位で形成された線維性結合組織(fibrous connective tissue)」と定義することができる。
【0005】
瘢痕は、組織の損傷が引き金となった修復反応の結果として生じた構造体(structure)を構成する。この修復プロセスは、負傷した動物が死亡することを防止しようとする生物学的本能に対する進化的な解決策として生じる。
【0006】
感染症(infection)または出血による死亡リスクを抑えるために、身体は、損傷組織を再生しようとするよりも、損傷した領域を直ちに修復するように反応する。損傷組織は、創傷の発生前と同じ組織構造には再生されないために、瘢痕は、非創傷組織と比較した場合のその異常な形態(morphology;モルホルジー)から、識別することもできる。
【0007】
顕著な瘢痕は、「嵩張った(bulky)」外観を呈することがあるにも関わらず、一般的には損傷部分の過剰な細胞増殖とは関連なく、含有する細胞が周囲の非創傷組織より少ないことも多い。瘢痕は、主に結合組織(connective tissue)から成るが、該結合組織は、瘢痕が生じた身体部位に応じて決まってくる。この物質は、治癒プロセス(healing process)に関連する細胞が堆積したものであり、損傷組織、損傷組織の周辺組織、または循環系から生じ得る。瘢痕は、異常な構造を有する結合組織を構成することもあり、これは、皮膚の瘢痕で散見される。この他、瘢痕は、異常に増量した結合組織を構成することもある。大部分の瘢痕は、結合組織が異常に組織化されたもの、および過剰であるものの両方から成るが、これについては、以下に詳述する。
【0008】
瘢痕の異常構造は、その内部構造(微視的解析で確定することができる)、およびその
外観(巨視的に評価することができる)の両面から観察することができる。
【0009】
結合組織(例えば、皮膚)では、細胞外マトリックス(ECM)分子(例えば、コラーゲン、フィブロネクチン等)は、「正常(normal)」(未創傷)状態と瘢痕状態との両組織の主要な構成成分から成る。正常の皮膚では、これらの分子は、微視的に観察した場合に、特徴的なランダム配列を有する線維を形成しており、この配列は、通称「バスケット(籠)織り(basket-weave)」と呼ばれる。当該バスケット織り配列は、瘢痕においては崩れている。瘢痕のECM線維は、相互間で顕著な整列状態(alignment)を示し、これは、正常皮膚の線維のランダム配列とは対照的である。一般的に、瘢痕で観察される線維は、正常皮膚で見受けられる線維よりも直径が小さい。ECM線維の大きさおよび配列状態の両方は、正常の皮膚と比較した場合に、瘢痕の機械的性質を変化させる一因(最も顕著な点は硬度が増すこと)となり得る。
【0010】
巨視的に観察すれば、瘢痕は、組織の周辺の表面より下に押し下げられていることもあり、それらの周辺の損傷を受けていない表面より上に押し上げられていることもある。瘢痕は、正常の組織よりも相対的に暗い[色素沈着過剰(hyperpigmentation)]こともあり、その周囲と比較して、青白い[色素沈着低下(hypopigmentation)]こともある。皮膚の瘢痕の場合は、色素沈着過剰、または色素沈着低下の瘢痕は、いずれも、明白な美容的欠陥となり易い。また、瘢痕は、未創傷の皮膚よりも赤くなることがあるために、目立つと共に美容的に受け入れ難いものとしても知られている。瘢痕の美容的外観は、瘢痕による心理的影響を患者に与える主な要因の1つであり、これらの影響は、損傷自体が消失した後であっても、引き続き長期間にわたることが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Krogsgaard-Larsen P, Frolund B, Liljefors T,Chem Rec 2002, 2:419-430
【非特許文献2】Brown et al., British Journal of Pharmacology 2002, 136(7):965-74
【非特許文献3】Wafford & Ebert , Current Opinion in Pharmacology 2006, 6:30-36
【非特許文献4】St?rustovu & Ebert, The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 2006, 316:1351-1359
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
瘢痕は、その心理的影響に加えて、有害な身体的影響も患者に与え得る。これらの影響は、通常、瘢痕と正常組織との物理的な違いの結果として生じる。瘢痕に含まれる異常な構造および組成物(composition)は、通常、それに対応する正常組織よりも柔軟性に乏しいという特徴がある。結果として、瘢痕は、正常な機能を障害する原因となり得て(瘢痕が関節を覆うことで可動域を制限する場合のように)、さらに、若年者の場合には、正常な成長を阻害し得る。
【0013】
瘢痕は、多くの身体部位で発生し、これらの部位での瘢痕の影響は、一般的に、瘢痕領域の機能の損失または阻害である。皮膚の瘢痕に関連する幾つかの不利益は、上記で述べた。眼の瘢痕(例えば、事故による外傷または外科的介入(surgical intervention)の結果として生じる)の場合には、視力を損ない、さらには失明に繋がる虞がある。内器官(internal organs)の瘢痕の場合には、当該器官の機能の相当部分または全部分を損なわせるような狭窄(stricture)および癒着(adhesion)の形成を引き起こし得る。腱(tendons)および靱帯(ligaments)の瘢痕の場合には、これらの器官への損傷が長期間続くこ
とがあり、このため、関連する関節の自動能(motility)または機能を、低下させ得る。血管(特に心臓弁)に関連する瘢痕は、外傷または外科手術の事後に発生することがある。血管の瘢痕は、再狭窄(restenosis)に至ることがあるが、これは、血管を細くし、瘢痕化した領域を流れる血流量を減少させてしまう。
【0014】
上記に概要を述べた効果は、すべて創傷治癒反応が正常に進行した結果として生じ得る。しかしながら、瘢痕反応が異常に変化し得ることが多々あり、このことは、さらなる有害な作用[異常に過剰な瘢痕(通称、病理学的瘢痕(pathological scarring)と呼ばれる)の生成により引き起こされる]と関連することも多い。病理学的瘢痕を、正常の治癒反応から生じた重症の瘢痕と区別する多くの方法がある。これらには、生じた瘢痕の組織学的な違いを含むのみならず、病理学的瘢痕の素因を示すことができる遺伝標識も含まれる。病理学的または非病理学的瘢痕に対する個々人の病歴は、病理学的瘢痕の将来的な発生の見込みを最も効果的に予知するものの1つであり続けている。病理学的瘢痕のうち最も頻度と重要性が高く分類されるものとしては、肥厚性瘢痕(hypertrophic scar)、ケロイド瘢痕(keloid scarring)、および翼状片(pterygium)が挙げられる。
【0015】
本明細書の大部分は、主にヒトの瘢痕に対する効果に関するものであるが、瘢痕に対する反応は、多くの点で、多種の動物の間で保存されている。このため、上記に概要を述べた問題は、非ヒト動物、特に、家畜用動物またはペット(例えば、馬、牛、犬、猫など)にも適用できる。例として、腹部創傷の不適切な治癒により生じる癒着は、馬(特に競走馬)の家畜としての病死の主因であることは広く知られている。同様に、ペットまたは家畜動物の腱(tendons)および靱帯(ligaments)も損傷することが多く、これらの損傷に対する治癒も、動物の死亡率の増大に関連する瘢痕を引き起こし得る。
【0016】
創傷の治癒により生じる瘢痕の害は、広く知られているが、これらの害を軽減できる効果的な治療法は、これまでのところ無い。このように効果的な治療法が無いことから、創傷の治癒により形成される瘢痕を、予防、軽減、または抑制できる薬剤および治療の提供が、強く望まれていることが理解されるであろう。
【0017】
GABAレセプターは、神経伝達物質γ-アミノ酪酸(GABA)に反応する細胞レセプターに分類される。GABAは、脊椎動物における中枢神経系の主要な抑制性神経伝達物質である。
【0018】
GABAレセプターは、次の3種類のうちの1つに割り当てることができる:すなわち、GABAAレセプター、GABABレセプター、またはGABAcレセプター。GABAAおよびGABAcレセプターは、共にリガンド開口型Cl-イオンチャネルレセプターであり、一方、GABABレセプターは、Gタンパク質共役型レセプターである。GABAAレセプターは、中心孔(central pore)の周囲に配置された5つのサブユニットを持つ多量体膜貫通レセプター(multimeric transmembrane receptor)である。GABAAレセプターには、多数のサブユニットアイソフォームがある。
【0019】
ヒトにおいては、6種類のαサブミットが、知られており、この他に、βサブミットの3形態やγサブミットの3形態が知られており、さらには、δ、ε、πおよびθサブミットも知られている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、1つの観点では、創傷の治癒に際して形成される瘢痕の予防、および/または軽減、および/または抑制に適する薬剤を提供することを目的とする。また、本発明は、さらなる観点では、創傷の治癒に際して形成される瘢痕の予防、および/または軽減、および/または抑制の使用に適する治療方法を提供することを目的とする。また、本発明は、1つの実施態様では、GABABレセプターアゴニストの新規の使用を提供することを目
的とする。本発明に係る薬剤および/または治療方法およびまたは使用は、先行技術により提供される技術を含めることができる。しかし、本発明により提供される薬剤および/または治療方法および/または使用は、先行技術を改善した技術を含むことが好ましい。
【0021】
本発明の第1の観点によれば、創傷の治癒に際して形成される瘢痕を予防、軽減、または抑制するために使用されるGABAAレセプターのアゴニストが提供される。その使用には、瘢痕を予防、軽減、または抑制しようとする部位にGABAAレセプターアゴニストを投与することが含まれる。また、その使用には、創傷、または創傷が形成されようとする部位に、GABAAレセプターアゴニストを投与することが含まれる。
【0022】
本発明の第2の観点によれば、創傷の治癒に際して形成される瘢痕を予防、軽減、または抑制するために使用される薬剤の製造におけるGABAAレセプターのアゴニストが提供される。当該薬剤は、瘢痕を予防、軽減、または抑制しようとする部位に適用できる局所薬剤(topical medicament)とすることもできる。当該薬剤は、創傷部位、または、創傷が形成されようとしている部位に、使用することが好ましい。該薬剤は、本明細書に記載された任意の情報に基づいて、本発明のこの観点に従って製造することができ、さらに本明細書に挙げた本発明のあらゆる使用または方法を実施するのに適している。
【0023】
本発明の第3の観点によれば、創傷の治癒に際して形成される瘢痕を予防、軽減、または抑制するための方法であって、治療に効果的な量のGABAAレセプターのアゴニストを、そのような予防、軽減、または抑制を必要とする患者に投与することを含む方法が提供される。GABAAレセプターアゴニストは、瘢痕を予防、軽減、または抑制しようとする部位に投与することが好ましい。該部位は、創傷、または、創傷が形成されようとしている部位であることが好ましい。
【0024】
本発明に従い使用されるのに好適なGABAAレセプターアゴニストは、本明細書の他の部分でさらに詳述している。
【0025】
そのような使用に適するGABAAレセプターアゴニストは、好ましくは、次から成る群から選ぶことができる:ガボクサドール(7-テトラヒドロイソオキサゾロ[5,4-c]ピリジン-3-オール;THIPとも略される);ムシモール;イソグバシン;イソニコチン酸;ピペリジン‐4‐スルホン酸。このうちガボクサドールは、本発明に従い使用されるGABAAレセプターアゴニストとして特に好ましい。ガボクサドールは、それのみで本発明で用いられるGABAAレセプターアゴニストとして使用することもでき、あるいは1以上の他のGABAAレセプターアゴニストと組み合わせて使用することもできる。しかしながら、本発明の薬剤または方法がガボクサドール以外のGABAAレセプターアゴニストを用いることが好ましい場合もある。
【0026】
通常、本発明に従い使用されるGABAAレセプター(第1、第2、または第3の観点のいずれでも)は、特定のGABAAレセプターアゴニストから成ることが好ましい。特定のGABAAレセプターアゴニストについても、本明細書の他の箇所でさらに詳述する。
【0027】
本発明者らは、GABAAレセプターアゴニストを使用して、瘢痕を予防、軽減、または抑制することは、任意の身体部位および任意の組織もしくは器官(創傷が発生し得る箇所)で達成できると考えている。しかしながら、本発明者らは、皮膚で観察される抗瘢痕効果が特に有意であることから、皮膚は、本発明に従って創傷の治癒に際して形成される瘢痕が予防、軽減、または抑制できる器官として好ましい。このため、皮膚の創傷または皮膚の創傷が形成されようとしている部位は、本発明の薬剤または方法を使用することで有意に治療することができる。
【0028】
本明細書で、本発明を説明するために使用した様々な用語は、後ほど解説する。以下で説明する定義および指針(ガイダンス)は、適宜、特に文脈上必要な場合には、本明細書の他の箇所でさらに詳述することがある。
【0029】
GABAAレセプターのアゴニスト
本発明では、「GABAAレセプターのアゴニスト」(簡略化して「GABAAレセプターアゴニスト」と呼ぶこともある)とは、(特に記載のない限り)瘢痕を抑制できるレセプターのGABAAクラスのすべてのアゴニストが含まれる。GABAAレセプターアゴニストにより達成される瘢痕の抑制を評価すること(さらに必要に応じて定量化すること)ができる好ましい方法は、本明細書の他の箇所で検討しているが、巨視的および/または微視的な瘢痕についての視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale)の使用が挙げられる。
【0030】
当業者であれば、本発明に従い使用されるのに適する多くのGABAAレセプターアゴニスト(GABAそのものに加えて)は想到されるであろう。以下の段落では、適切なGABAAレセプターアゴニストの選定に関して、限定するものではないがその指針を提供し、本発明に従って使用することができる特定のGABAAレセプターアゴニストについての提案を行う。
【0031】
ガボクサドール(7-テトラヒドロイソオキサゾロ[5,4-c]ピリジン-3-オールまたはTHIPとしても知られる)は、本発明に従って使用するのに適する特定のGABAAレセプターアゴニストの例として好ましい。ガボクサドールは、イボテン酸[茸のベニテングタケ(Amanita
muscarid)から得られる天然由来の神経刺激性のある3イソオキサゾール]から誘導される。ベニテングタケを乾燥させると、イボテン酸からカルボキシル基が脱離してムスキモル(muscimol)を生成し、このムスキモルは、構造(コンホメーション)的に制限されたGABAの類似体(アナログ)であり、ヒドロキシイソオキサゾール部位がGABAのカルボキシル基を置換している。ムスキモルは、GABAAレセプターにおいて、GABAよりも10倍のアフィニティーを有する有効なGABAAレセプターアゴニストである。ガボクサドールは、ムスキモルの可能なコンホメーションの1つから誘導され、GABAAレセプターとしてムスキモルと同様に高いアフィニティーを有する。他のムスキモル誘導体(例えば、チオムスシモールおよびジヒドロムスシモール;イソニコチン酸およびピペリジン‐4‐スルホン酸(P4S))も、GABAAレセプターアゴニストとして作用する。
【0032】
ムスキモル誘導体は、本発明で使用することができる有用なGABAAレセプターアゴニストの種類であるが、本発明の実施はそのような化合物の使用に限定されない。多くの他の適切なGABAAレセプターアゴニストは、当業者にとっては公知のものである。
【0033】
単なる例示であるが、本発明者らは、GABAAレセプターアゴニストが、次から成る群から選択されると考えている:ガボクサドール; ムスシモール; チオムスシモール;ジヒドロムスシモール;イソニコチン酸;ピペリジン‐4‐スルホン酸; イソグバシン塩酸塩; 3-アミノ-l-プロパンスルホン酸ナトリウム塩;クロルメチアゾール塩酸塩;およびDEABL (3,3-ジエチル-2-ピロリジノン ジエチル-ラクタム) は、抗瘢痕特性を示し、本発明の使用に適する。これらのGABAAレセプターアゴニストの多くは市販されている(例えば、シグマ−アルドリッチ社製)。
【0034】
現時点の技術水準からも、当業者は、新規のGABAAレセプターアゴニストを設計する手法についての指針を得ることができる。そのような新規のGABAAレセプターアゴニストは、本発明の使用に好適である。単なる例示であるが、本発明で使用される新規のGABAAレセプターアゴニストの設計に有益な技術は、「特異的GABAAアゴニストおよびパーシャルアゴニスト(Specific GABAA agonists and partial agonists)」(非特許文献1)を参照することができる。多くのGABAAレセプターアゴニストは、GABAAレセプターに対してGABAよりも高いアフィニティーを有することが現在知られており、本発明でそのようなアゴ
ニストを使用することが好ましい。ガボクサドールは、GABAそのものよりも高いアフィニティーを有するGABAAレセプターアゴニストの一例である。例えば、非特許文献2には、α4β3δサブミットを含むGABAAレセプターとして、ガボクサドールが高い効能を発揮し(6 μMのEC50) 、最大反応を増すこと(GABAの163%)が示されている。
【0035】
GABAAレセプターアゴニストのガボクサドールは、薬学的に許容された塩(salt)の形態で使用されることが好ましい。そのような塩は、ガボクサドールのみの場合よりも、より早い製造(調合)および取扱いができる。ガボクサドール塩酸塩(ガボクサドールの塩酸塩)は、本発明で使用されるガボクサドールの好ましい形態である。文脈上、別の解釈が必要な場合を除いて、本発明のガボクサドールは、通常、任意の薬学的に許容された塩(特に塩酸塩)を含む。
【0036】
関連技術で示された化合物がGABAAレセプターアゴニストに該当するか否かが示されていない場合には、該化合物のGABAAレセプター活性能を、当業者に公知な任意の適切なアッセイを使用して調べることができる。
【0037】
これらとしては、限定する目的ではないが、非特許文献3および非特許文献4に記載されているように、クローン化されたGABAAレセプター[卵母細胞(特にアフリカツメガエル卵母細胞)から発現される]を、GABAAレセプターアゴニストの効能評価に使用するアッセイが挙げられる。
【0038】
これらの文献の内容は、特にアッセイ(該当する化合物のGABAAレセプターアゴニスト活性を評価すること)に関する限りにおいて、援用される。
【0039】
本発明の薬剤または方法で使用されるのに適する治療に効果的なGABAAレセプターアゴニストは、適切な対照(コントロール)と比較して、少なくとも10%の瘢痕を抑制する効果が得られるアゴニストである。好ましくは、治療に効果的なGABAAレセプターアゴニストは、適切な対照(コントロール)と比較して、少なくとも20%の瘢痕を抑制でき、より好ましくは、少なくとも50%、さらに好ましくは、少なくとも75%、さらに一層好ましくは、少なくとも90%の瘢痕を抑制できる。最も好ましくは、GABAAレセプターアゴニストは、適切な対照(コントロール)と比較して、100%の瘢痕を抑制できる。
【0040】
特に、本発明の薬剤または方法で使用されるのに適する治療に効果的なGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)は、治療された瘢痕に存在する細胞外マトリックス組成物(extracellular matrix components)(例えば、コラーゲン)の量および/または配向(orientation)を変化させることができ、それにより瘢痕を抑制できるものである。本発明の薬剤または方法としての使用に適する治療に効果的なGABAAレセプターアゴニストは、当該ECM構造が、未創傷組織のECM構造に類似する治療瘢痕を生み出せるものである。
【0041】
治療に効果的なGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)は、該アゴニストが投与された部位で、瘢痕を抑制できることが好ましい。そのような部位は、創傷または創傷が形成された部位とすることができる。
【0042】
通常、本発明の薬剤または方法で使用されるGABAAレセプターアゴニストは、アゴニストが投与された患者の体内で相対的に長い半減期を有するアゴニストである。2つ以上の異なるGABAAレセプターアゴニストの混合物が、本発明の薬剤または方法で使用されることで、創傷の治癒に際して形成される瘢痕を抑制することができることは理解されることである。むしろ、そのような使用は、本発明の好ましい実施態様となる。このような使用に適する異なるGABAAレセプターアゴニストの混合物としては、1つ以上のサブタイプのG
ABAAレセプター(すなわち、α、β、γ、δ、またはεサブユニット構成)を活性化させるGABAAレセプターアゴニストが挙げられるが、またはその代わりとして、同じサブタイプクラスのGABAAレセプターに対して特異性を共有するGABAAレセプターアゴニストの混合物から構成されるものがある。
【0043】
治療に効果的な量
GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)の治療に効果的な量は、創傷の治癒に際して形成される瘢痕を予防、軽減、または抑制することができるGABAAレセプターアゴニストの任意の量である。
【0044】
GABAAレセプターアゴニストの治療に効果的な量は、GABAAレセプターアゴニストが投与された部位の瘢痕を抑制できる量であることが好ましい。そのような部位は、創傷が形成されようとしている部位か、または創傷とすることができる。
【0045】
本発明の薬剤の治療に効果的な量は、瘢痕を抑制できる本発明に係る薬剤の任意の量である。この瘢痕の抑制は、本発明の薬剤が投与された部位で達成されることが好ましい。
【0046】
当業者であれば、生来的な治療活性がほとんど無いGABAAレセプターアゴニストであっても、治療に効果的な量が投与されれば、やはり治療に効果があるということは理解されるであろう。
【0047】
本発明の薬剤または方法で使用されるGABAAレセプターアゴニストの治療に効果的な量は、GABAAレセプターアゴニストが治療活性を有する部位で、GABAAレセプターを刺激できる量であることが好ましい。
【0048】
本発明者らは、動物モデル(例えば、ラット切開性創傷モデル)においてインビボで瘢痕を抑制できる活性化された薬剤(エージェント)の治療に効果的な量が、通常、人体の瘢痕を抑制する効果もあることを見出した。これは特に、活性化された薬剤(エージェント)を局所投与した場合に言える。本発明者らは、動物モデルで同定された治療に効果的な量が、そのまま、ヒトに使用できる治療に効果的な量に相当することも多いことを見出した。本発明者らは、特定の仮説に束縛されることを望んではいないが、これは、ある要素[例えば、ヒトまたは非ヒト動物による活性化された薬剤(エージェント)の代謝クリアランス率]の影響が、局所投与(特に皮膚のような器官へ)と全身投与[肝循環による活性化された薬剤(エージェント)のクリアランスが、そのような薬剤(エージェント)の生物学的効果を決定する主役となる]とを比較した場合に低下するためと考えている。
【0049】
GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)または本発明の薬剤の治療に効果的な量は、適切な対照(コントロール)と比較して、少なくとも10%の瘢痕を抑制する効果が得られるアゴニストまたは薬剤の量であることが好ましい。好ましくは、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)または本発明の薬剤の治療に効果的な量は、適切な対照(コントロール)と比較して、少なくとも20%の瘢痕を抑制できる量であり、より好ましくは、少なくとも50%、さらに好ましくは、少なくとも75%、さらに一層好ましくは、少なくとも90%の瘢痕を抑制できる量である。最も好ましくは、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)または本発明の薬剤の治療に効果的な量は、適切な対照(コントロール)と比較して、100%の瘢痕を抑制できる量である。
【0050】
適切な対照(コントロール)を選定することは、当業者にとっては自明であるが、その方針として、GABAAレセプターアゴニストを用いて治療した創傷の治癒に伴う瘢痕の抑制を評価したい場合には、適切な対照(コントロール)としては、未治療または対照(コン
トロール)治療の創傷が含まれる。
【0051】
従って、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)または本発明の薬剤の治療に効果的な量は、未治療または対照(コントロール)の創傷の治癒で生じた瘢痕と比較して、治療された創傷の治癒から生じた瘢痕を、少なくとも10%抑制する効果が得られる量とすることができる。「治療された創傷(treated wounds)」および「未治療の創傷(untreated wounds)」もしくは「対照(コントロール)創傷(control wounds)」とは、本明細書の他の箇所で定義している。GABAAレセプターアゴニストまたは本発明の薬剤の治療に効果的な量は、未治療または対照(コントロール)の創傷の治癒で生じた瘢痕と比較して、治療創傷の治癒により生じた瘢痕を、好ましくは、20%抑制できる量であり、より好ましくは、少なくとも50%抑制できる量であり、さらに好ましくは、少なくとも75%抑制できる量であり、さらに一層好ましくは、少なくとも90%抑制できる量である。
【0052】
創傷の治癒に関する瘢痕の適切な実験モデル、および適切な対照(コントロール)(そのようなモデルで生じる瘢痕を評価する際に使用することができる)は、本明細書の他の箇所で検討している。好ましいモデルは、実験結果に関するセクションで詳述している。
【0053】
瘢痕の度合いの定量評価(アセスメント)(本明細書の至る箇所で引用しているように、瘢痕の抑制を示すパーセント値を生成する)は、任意の適切な手順を使用して行うことができる。
【0054】
そのような定量値は、適切な視覚的アナログスケール(VAS)を使用して示すことが好ましい。適切なVASは、巨視的または微視的な瘢痕の評価に使用することができる。瘢痕の巨視的または微視的評価のいずれでも考慮することができる適切な判断基準は、本明細書の他の箇所で述べている。瘢痕評価は、瘢痕の巨視的外観を考慮することが好ましいが、これは、患者や他の観察者から認識される瘢痕の度合いに大きな影響を与えるために、特に重要である。
【0055】
治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニストは、治療された瘢痕に存在するECM組成物(例えば、コラーゲン)の量および/または配向を治療的に変化させることができる量であることが好ましい。
【0056】
本発明の薬剤は、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニスト(適切な量を適切な経路で投与される)を提供する。本発明の薬剤は、1回以上の服用単位(dosage units)の形態で与えられることが好ましい。各服用単位は、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニスト、または、このような治療に効果的な量を既知の割合で分けたもの、もしくは複合したものが含まれる。
【0057】
本発明者らは、創傷の治癒により生じた瘢痕を受けている部位のセンチメートルあたり、およそ880pgから1mgまでのGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を投与すること(治療の1回分として)が、本発明の治療に効果的な量に含まれると考えている。GABAAレセプターアゴニストの治療に効果的な量は、治療の1回分としてセンチメートルあたり、約880pgから約9μgであることが好ましく、さらに好ましくは、約1.76ngから約9μgである。
【0058】
本発明者らは、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)が、治療の1回分として、瘢痕を受けている部位のセンチメートルあたり、およそ5ピコモル(pmole)から100ナノモル(nmole)の治療に効果的な量で提供することができると考えている。GABAAレセプターアゴニストの治療に効果的な量は、治療の1回分としてセンチメートルあたり
、約5ピコモルから50ナノモルが投与されることが好ましく、さらに好ましくは、約10ピコモルから50ナノモルである。
【0059】
これまでに検討したGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)の治療に効果的な量は、およそ24時間にわたって(およそ24時間の間に)治療を必要とする部位に2回投与されることが好ましい。
【0060】
本発明者らは、これらの治療に効果的な量(すなわち、約10ピコモルから200ナノモルであり、好ましくは、約10ピコモルから100ナノモル、さらに好ましくは、約20ピコモルから100ナノモル)が、治療計画(regime of treatment)全体に含まれるクール(course)で投与される治療に効果的な量として好ましいと考えている(すなわち、効果的な治療計画では、所望の度合いまで瘢痕を予防、軽減、または抑制することを、約24時間の間に、実に2回の投与で達成し得る)。
【0061】
GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)の治療に効果的な量は(一般的なものか、または特定の選択されたアゴニストに関するかのいずれであっても)、インビトロモデル、インビボモデル、および瘢痕を測定するための様々なパラメタに関して作成された適切な効能評価(本明細書の他の箇所で述べている)を利用して調べることができる。
【0062】
当業者であれば、上記の提案は、指針として提示していることが理解されるであろう。特に、GABAAレセプターアゴニストの量は、創傷の治癒に関連する瘢痕を受けている部位で瘢痕を抑制するために投与する場合には、技術のある医療従事者(practitioner)が患者ごとの特定の臨床的要求に応じて変更することができる。
【0063】
臨床医(例えば、対象患者の治療に責任を持つ臨床医)は、経験に基づいて、適切な変化量を決定することができるが、それには次に挙げる要素(これらに限定されるものではない)による:すなわち、治療しようとする組織の特性、治療しようとする部位の面積および/もしくは深さ、創傷の重症度、治癒を悪化させるかもしくは瘢痕の見込みの大きさを増やす要素(例えば感染症)の有無、抑制しようとする瘢痕の特性、および既に達成された任意の瘢痕抑制に関するものである。
【0064】
GABAAレセプターアゴニストを局所投与(topical administration)で投与する場合には、その投与量は、組織または器官(局所組成物が投与される)の透過性(permeability)に応じて変更することができる。従って、相対的に不透過(impermeable)な組織または器官の場合には、GABAAレセプターアゴニストの投与量を増やすことが好ましい。このように増やされたGABAAレセプターアゴニストの量も、やはり治療に効果的な量となり得るが、これには、瘢痕を抑制しようとする組織または器官に取り込まれた薬品(エージェント)の量が、治療に効果的であることが必要である。
【0065】
使用される活性化された薬品(エージェント)の服用および量に関して、上記に提示した指針は、本発明の薬剤、さらには本発明の方法のどちらにも適用できる。
【0066】
本発明者らは、1つの特に好ましい実施態様として、GABAAレセプターアゴニストのガボクサドールを、1.76ng/100μlの注射用水薬(solution)の形態で、このような水薬の100μl(治療しようとする部位のセンチメートルあたり)を約24時間あたりに投与することが、特に好ましいことを発見した。水薬は、皮内注射(intradermal injection)で投与されることが好ましく、さらに2日間以上にわたって投与されることが好ましい。
【0067】
これまでの例では、薬剤の具体量(創傷の直線cmあたり)の投与を検討してきたが、こ
の量の投与は、治療しようとする創傷の片端、または両端のいずれに対しても行うことができる。(すなわち、100μlの薬剤に関する場合では、100μlを創傷のいずれかの縁に投与することができ、また、50μlを創傷の縁(互いに接合する縁)の両方に投与することもできる。)当初の治療は、創傷の形成前になされるとともに、GABAAレセプターアゴニストが、創傷が形成されようとしている部位に与えられることが好ましい。GABAAレセプターアゴニストが局所注射で皮膚に投与される場合[例えば、皮内注射(intradermal injection)]には、GABAAレセプターアゴニストから成る水薬を皮膚に導入する結果として、隆起した小疱(bleb)を引き起こすことがある。1つの好ましい実施態様として、小疱は、創傷の形成されようとしている部位で隆起することが挙げられるが、実際に、創傷は、小疱を切開することで形成し得る。この場合には、当初の治療で与えられるGABAAレセプターアゴニストの量は、創傷が形成されようとしている部位の長さから決定することができる。
【0068】
この他、創傷が形成されようとしている部位のどちらかの側で、2つの小疱が隆起することがある。これらの小疱は、創傷の縁が形成される半センチメートル以内にあることが好ましい。この場合には、当初の治療で与えられるGABAAレセプターアゴニストの量は、形成されようとしている創傷の長さ(将来的な創傷の縁のセンチメートルとして測定される)から決定することができる(以下に記載している)。
【0069】
GABAAレセプターアゴニストを創傷の形成前の部位に与える際に利用される小疱は、実質的に、創傷が形成されようとしている部位の全長を覆っていることが好ましい。小疱が、創傷が形成されようとしている部位の長さを超えて拡大していることがより好ましい。そのような小疱としては、形成されようとしている創傷の各末端部を超えて約半センチメートル(またはそれ以上)に拡大しているものが好適である。
【0070】
本発明のこれらの実施態様に従う皮内注射(intradermal injection)は、皮下注射針を用いて、形成されようとしている創傷の正中線(midline)に実質的に平行、または形成されようとしている創傷の縁の正中線(midline)に平行に投与することができる。注射部位は、GABAAレセプターアゴニストを与える領域の長さに沿って互いに約1センチメートル隔てる。
【0071】
別の実施態様として、当初の治療において、GABAAレセプターアゴニストが既存の創傷に与えられることを伴うことが好ましいこともある。本発明者らは、抗瘢痕活性に関連する生物学的機構は、細胞がGABAAレセプターアゴニストに接触することが創傷形成の前後いずれであっても同じであると考えている。いずれの場合でも、必要な生物学的活性は、瘢痕が抑制される部位の細胞が、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニストに接触されれば、創傷形成の前後いずれであっても達成し得る。
【0072】
創傷のセンチメートル
本明細書における「創傷のセンチメートル(centimetre of wound)」とは、予防、軽減、または抑制しようとする瘢痕の存在する部位の大きさを測定することができる単位である。本発明では、創傷のセンチメートルは、創傷が形成されようとしている部位のみならず、創傷部位、または創傷部位の両側の縁(そのような縁が存在している場合)も含まれる。
【0073】
創傷のセンチメートルは、全体もしくは一部に、創傷を受けたかもしくは創傷を受けようとしている身体表面の任意の平方センチメートルから成るものとする。例えば、2センチメートルの長さおよび1センチメートルの幅(すなわち、総表面積が2平方センチメートル)の創傷は、「2創傷センチメートル(two wound centimetres)」となり、2センチメートルの長さおよび2センチメートルの幅(すなわち、総表面積が4平方センチメー
トル)の創傷は、4創傷センチメートルとなる。さらに、2センチメートルの長さを有するが、幅が無視できる(すなわち、表面積が無視できる)直線状の創傷が、2平方センチメートルの身体表面を通って存在している場合には、本発明では「2創傷センチメートル」とみなす。
【0074】
創傷センチメートルで示す部位の大きさは、一般的に、その創傷が、緩和状態(relaxed
state)(すなわち、身体が安静な状態のもとで、測定部位のある身体部位が、所定の位置に置かれた状態)で、評価を行うべきである。皮膚の創傷の場合には、当該大きさは、その皮膚が外部からの張力を受けていない場合に評価を行うべきである。
【0075】
本発明の薬剤
本発明の薬剤とは、本発明のすべての観点または実施態様に従い製造(調合)されるすべての薬剤、または本発明のすべての観点で使用されるGABAAレセプターアゴニストから成るすべての薬剤に及ぶものと解される。
【0076】
本発明の薬剤は、通常、薬学的に許容できる賦形剤(excipient;ベヒクル)、希釈剤(diluent)、または基材(carrier)をGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)に添加して構成される。
【0077】
本発明の薬剤は、GABAAレセプターアゴニストから成る注射用溶液(injectable solution)の形態が好ましい。局部注射(localised injection)(特に、皮内注射(intradermal
injection))に適する溶液は、本発明の薬剤の特に好ましい形態となる。例えば、本発明者らは、リン酸緩衝食塩水(phosphate buffered saline)で希釈したGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)から成る薬剤を皮内注射により投与することで、皮膚の創傷の治癒から生じた瘢痕を軽減することができることを発見した。
【0078】
好ましい身体部位
本発明者らは、GABAAレセプターアゴニストが、あらゆる身体部位およびあらゆる組織もしくは器官で、創傷の治癒に際して形成される瘢痕を予防、軽減、または抑制できると考えている。皮膚は、本発明の薬剤または方法を利用することで、その瘢痕が、予防、軽減、または抑制され得る好ましい部位である。本発明の観点を限定するものではないが、以下の段落では、特定の組織および身体部位(本発明の薬剤または方法を使用する瘢痕の抑制により恩恵を受けることができる箇所)に関する指針を提供する。
【0079】
GABAAレセプターアゴニストを使用して、創傷の治癒に際して形成される瘢痕を抑制することは、以下に述べるような治療を施された外傷領域の美容的外観に、顕著な改善をもたらし得る。美容に関する考察は、多くの臨床状況(clinical context)で重要である[特に、瘢痕が、人目につきやすい身体部位(例えば、顔、首および手)に形成されるような場合]。このため、さらに好ましい実施態様としては、本発明の薬剤および方法が、形成された瘢痕の美容的外観を改善することが望まれている部位の瘢痕の抑制に使用される。
【0080】
このような美容的影響に加えて、皮膚の瘢痕は、このような瘢痕を受ける患者を悩ます多くの害の原因となる。例えば、皮膚の瘢痕は、物理的および機械的機能の低下と関連することがあるが、これは特に、収縮性瘢痕(contractile scars)を横断して形成される場合である。この種の収縮性瘢痕(contractile scar)で見られる収縮(contraction)は、治癒プロセスの正常部分として生じる創傷収縮よりも明確であることから、このような正常に生じた収縮と鑑別することは、治癒プロセスが完了した後(すなわち、創傷の閉塞後)も長期にわたり残存しているかという見方でも行える。関節部位の瘢痕の場合では、瘢痕化した皮膚の機械的特性が変質し(瘢痕化していない皮膚と対比して)、さらに瘢痕の収縮(contraction)が起き、それらの結果として、関節の可動域が大幅に制限され得る。こ
のため、好ましい実施態様としては、本発明の適切な薬剤および方法は、身体の関節を覆う創傷の瘢痕を抑制するために使用することができる。その他の好ましい実施態様としては、本発明の適切な薬剤および方法は、収縮性瘢痕の形成リスクが高い瘢痕を抑制するために使用することができる。(創傷の治癒により生じた瘢痕の場合には、子供の創傷、および/または、火傷で生じた創傷が含まれる)
【0081】
瘢痕形成の度合い、さらには、美容に関する程度もしくは他の損傷の程度(瘢痕により引き起こされ得る)は、瘢痕または創傷が形成された部位の張力のような要素にも影響され得る。例えば、相対的に強い張力をもつ皮膚(例えば、胸部を覆う皮膚、または、張力線(line of tension)に関連する皮膚)は、他の身体部位よりも、さらに危険な瘢痕を生成しやすいということが知られている。このようなことから、好ましい実施態様として、本発明の適切な薬剤および方法は、皮膚張力の強い部位に存在する創傷の治癒により生じた瘢痕を抑制するために使用することができる。
【0082】
皮膚以外の組織も、創傷の治癒により生じた瘢痕を受け易いことから、本発明の薬剤または方法は、これらの組織における創傷の治癒により生じた瘢痕の抑制にも有益となる。
【0083】
腹膜(peritoneum)(内部器官の上皮膜(epithelial covering)、および/または、体腔(body cavity)内部)に関係する創傷を治癒することで、癒着(adhesions)が引き起こされることも多い。このような瘢痕は、帯状の線維性瘢痕組織により形成され、腸(intestines)のループ(loops)を互いに結合させるか、腸を他の腹部の臓器と結合させるか、または、腸を腹壁(abdominal wall)と結合させてしまう。癒着は、腸の切片(section)を外部に引き抜くことがあることから、食物の通過を塞ぐことがある。癒着は、婦人科医学的組織(gynaecological tissues)に関連する通常の手術結果でもある。癒着形成の発生頻度は、感染(例えば、バクテリア感染)または放射能被爆を受けた創傷で増加し得る。本発明の薬剤または方法は、創傷の治癒により生じた瘢痕(癒着の形成を引き起こし得る)の抑制に有益な効果を得ることができる。
【0084】
本発明の薬剤または方法は、眼[特に、角膜(cornea)または網膜(retina)]の創傷の治癒により生じた瘢痕の抑制に使用することに適し、このような使用は、本発明の好ましい実施態様となる。単なる例示に過ぎないが、本発明の薬剤または方法は、事故に関する瘢痕または外科手術[例えば、緑内障濾過手術(glaucoma filtration surgery)(例えば、そのような手術で形成された血圧低下小疱(pressure relieving blebs)部位)、角膜手術(corneal surgery)(例えば、レーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractive keratectomy;PRK)、レーザー上皮細胞屈折矯正術(laser epithelial keratomileusis;LASEK)、もしくは生体内レーザー屈折矯正術(laser assisted in situ keratomileusis;LASIK))、または白内障手術(cataract surgery)(瘢痕が水晶体嚢(lens capsule)の収縮(contraction)に関連することも多い)]の結果として生じた瘢痕を抑制するために使用することができる。
【0085】
血管の瘢痕(例えば、吻合手術(anastomotic surgery)の事後に生じる)は、筋内膜肥厚(myointimal hyperplasia)および血管内腔(blood vessel lumen)の体積減少[再狭窄(restenosis)]をもたらし得る。治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニストは、血管に投与することで、そのような瘢痕を抑制することができる。
【0086】
本発明の薬剤または方法は、腱(tendons)および靱帯(ligaments)の瘢痕を抑制するために使用することができる。このような瘢痕は、外科手術または(心的)外傷(このタイプの組織と関連する)の事後に生じ得るものである。
【0087】
好ましい創傷
本発明者らは、GABAAレセプターアゴニストを、本発明の薬剤または方法に使用することで、あらゆるタイプの創傷から形成された瘢痕を有意に抑制することができると考えている。
【0088】
特定の創傷の例として、その瘢痕を、本発明の薬剤および方法を使用して抑制することができるものには、次の創傷が挙げられるが、これらに、本発明が限定されるものではない:すなわち、皮膚の創傷;眼の創傷(LASIK外科手術、LASEK外科手術、PRK外科手術、緑内障濾過手術(glaucoma filtration surgery)、白内障手術(cataract surgery)または水晶体嚢(lens capsule)が瘢痕化し得る手術のような眼の外科手術により生じる瘢痕の抑制が含まれる)(例えば、結膜瘢痕化(conjunctival cicatrisation)を引き起こすもの);前嚢収縮(capsular contraction)[豊胸手術(breast implant)の周辺にも共通する]となり得る創傷;血管の創傷;腱(tendons)、靱帯(ligaments)または筋肉の創傷;口腔(oral cavity)の創傷[唇(lips)および口蓋(palate)の創傷(例えば、唇または口蓋の治療により生じる瘢痕の抑制を行う創傷)が含まれる];内部器官[例えば、肝臓、心臓、脳、消化組織(digestive tissues)および生殖組織(reproductive tissues)]の創傷;体内腔(body cavities)[例えば、腹腔(abdominal cavity)、骨盤腔(pelvic cavity)および胸腔(thoracic cavity)](瘢痕を抑制することで、癒着形成率および/または形成された癒着の大きさを低下することができる箇所)の創傷;外科的創傷[特に、美容的処置(例えば、瘢痕整形手術(scar revision))に関連する]。本発明の薬剤および方法は、皮膚の創傷に関連する瘢痕を予防、軽減、または抑制するために使用することが特に好ましい。
【0089】
本発明者らは、本発明の薬剤および方法が、瘢痕を抑制できることから、癒着(adhesion)[例えば、骨盤(abdomen)、脊椎(pelvis)、胸部(thorax)または腱(spine)に発生する]の発生を低減することができると考えている。このため、本発明の薬剤または方法を使用して、癒着の形成を予防することは、本発明の好ましい実施態様となる。また、本発明の薬剤または方法を使用して、腹膜(peritoneum)に関わる瘢痕を抑制することは、本発明の好ましい他の実施態様となる。
【0090】
本発明の薬剤および方法は、感染創または放射能被爆創傷の治癒により生じる瘢痕を抑制することに有用となり得る。
【0091】
切開創(incisional wounds)は、そこから生じた瘢痕が、本発明の方法または薬剤を用いて、抑制することができる好ましい創傷のグループである。外科的切開創は、その瘢痕が、本発明の薬剤および方法を使用して抑制することができるという点で、特に好ましい創傷のグループに含まれる。
【0092】
本発明の薬剤および方法が、形成手術(plastic surgery)または美容的手術に関連する瘢痕の抑制に使用されることは、好ましい実施態様である。形成手術または美容的手術の大多数が、待期的手術(elective surgical procedures)から成ることから、直ちに可能となることは、GABAAレセプターアゴニストを、手術前および/または創傷が閉塞した頃合[例えば、縫合(sutures)の実施前後]に投与することであり、このような使用は、本発明の特に好ましい実施態様となる。
【0093】
外科処置において、GABAAレセプターアゴニストが投与されるのは、局所注射[例えば、皮内注射(intradermal injection)]が好ましい。このような注射は、隆起した小疱(bleb)を形成することがあり、これらは、その後に外科処置の一環として切開することができる。あるいはまた、小疱は、創傷が閉塞した後に(例えば、縫合による)、創傷の縁に注射されることで隆起することがある。
【0094】
1つの好ましい実施態様として、小疱は、創傷の形成されようとしている部位で隆起す
ることが挙げられるが、実際に、創傷は、小疱を切開することで形成し得る。この場合には、当初の治療で与えられるGABAAレセプターアゴニストの量は、創傷が形成されようとしている部位の長さから決定することができる。
【0095】
瘢痕の整形手術は、既存の瘢痕を「整形(revised)」[例えば、切除(excision)または再統合(realignment)によって]する外科処置であり、瘢痕の存在により引き起こされる美容的および/または機械的な欠損を軽減する。おそらく、これらのうち最もよく知られているものは、「Z-plasty」(Z形成術)であるが、これは、2つのV字型の皮弁(flaps of
skin)を置き換えて、張力線(line of tension)を張り替えるものである。瘢痕の整形手術に関する本発明の方法または薬剤は、本発明の好ましい使用となる。
【0096】
本発明の薬剤または方法では、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を使用して瘢痕を抑制することができるが、それは「正常(normal)」の創傷治癒として得られるものである。従って、本発明の薬剤または方法は、正常[慢性的(chronic)とは対を成す]の治療で、さらには非病理学的瘢痕(non-pathological scarring)[例えば、ケロイド(keloids)、肥厚性瘢痕(hypertrophic scars)、および翼状片(pterygium)等の病歴または感受性が無い患者に生じる瘢痕]の抑制に使用することができる。病理学的瘢痕の病歴または感受性は、患者の病歴、または病理学的瘢痕の素因に関して公知の遺伝子マーカーを使用するテストによって確認することができる。
【0097】
肥厚性瘢痕またはケロイドを外科的に整形することが臨床的に必要とされる場合も多くあるが、そのような整形の目的は、相対的に重大な病理学的瘢痕を、あまり目立たない非病理学的瘢痕に置き換えるというものである。このような整形は、病理学的瘢痕の発生率を軽減することを意図しており、例えば、整形した瘢痕部位の張力を低減することや、他の適切な瘢痕抑制の工程を行うことによって成される。このようなことから、ここで述べた薬剤または方法が、非病理学的瘢痕(病理学的瘢痕の外科整形から生じた創傷で発生する)の抑制に使用することは、本発明のさらに好ましい実施態様となる。
【0098】
火傷[本発明では、次の熱傷も含まれる;熱い気体または固体のみならず、熱い液体に関わる熱傷;極低温にさらされることによる「冷凍焼け(freezer burn)」外傷;放射線熱傷(radiation burns);化学熱傷(chemical burns);腐蝕剤(caustic agents)により引き起こされる外傷]により生じた創傷は、人々を苦しめながら広い領域に拡大し得るものである。このため、火傷は、瘢痕形成を引き起こし得るが、その範囲は、患者の身体の大部分にまで及んでしまう。このように火傷が広い範囲に拡大することは、形成された瘢痕が美容的に重要な領域(例えば、顔、首、腕、または手)または機械的に重要な領域(特に、関節を覆う領域または囲む領域)を覆ってしまうリスクを増大させる。熱い液体により引き起こされた火傷は、子供を苦しめることも多く(例えば、なべ、やかんまたは同類のものをひっくり返した結果として)、子供は相対的に体格が小さいがために、特に、身体領域の広い範囲にわたり、大きな損傷を被る傾向がある。さらに、美容的および機械的な損傷(火傷後の瘢痕に関連する)の両方のリスクが高い。このようなことから、本発明の薬剤および方法は、好ましい実施態様として、火傷により生じた瘢痕の抑制に使用することができる。
【0099】
GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)が、瘢痕を抑制する効能は、移植処置(grafting procedures)に関連する瘢痕を抑制することに、非常に有用となる。特に、本発明の薬剤および方法は、移植処置に関連する創傷により生じた瘢痕を抑制するために使用することができる。本発明の薬剤および方法を使用して瘢痕を抑制することは、移植提供(ドナー)部位および移植受容(レシピエント)部位の両方に対して有効である。本発明の薬剤および方法による瘢痕抑制の効果から、移植の際に組織が切除された部位で発生し得る瘢痕か、または、移植組織の治癒および融合に関連し得る瘢痕を抑制でき
る。本発明者らは、本発明の方法および薬剤が、移植利用皮膚(grafts utilising skin)、人工皮膚(artificial skin)、または皮膚代用物(skin substitutes)に関連し得る瘢痕の抑制にも有益であると考えている。
【0100】
また、本発明者らは、本発明の薬剤および方法が、被包化(encapsulation)に関連する瘢痕の抑制にも、使用することができると考えている。被包化とは瘢痕の一形態であり、これは、移植組織片物質(implant materials;インプラント)[例えば、生物活性物質(biomaterial;バイオマテリアル)]が、体内導入された部位の周囲で発生する。被包化は、豊胸(breast implants)に関連して高頻度で起きる合併症であることから、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を使用して、このような状況で被包化を抑制することは、本発明の好ましい実施態様となる。
【0101】
本発明の薬剤および方法、創傷の治癒により生じる瘢痕を抑制することができるが、この創傷としては、次のような創傷が挙げられる:すなわち、擦過傷(abrasions)[通常、「掻爬(擦り傷)」(scrapes)と呼ばれ、これは、相対的に広範囲に及ぶことが多い浅い傷である];裂離(avulsion)(体構造の全体または一部が、その部位から強制的に引っ張られる場合);圧挫創(crush wounds);切開創(incisional wounds);裂傷(lacerations);穿刺(punctures);銃弾創(missile wounds)。すべてのこれらの異なるタイプの創傷は、皮膚(他の組織または器官の間にある)を傷つけ、さらには、程度の大小に違いこそあれ、瘢痕化してしまうことがある。
【0102】
外科処置により生じる創傷は、最も一般的には、切開創(incisional wounds)であり、これらは、瘢痕の原因となることが多い。このようなことから、本発明の薬剤および方法は、好ましい実施態様としては、切開創(例えば、外科的創傷)により生じた瘢痕の抑制に使用することができる。毎年8400万件の皮膚切開を伴う外科処置が、世界中で行われているとされている。このため、本発明の薬剤および方法の潜在的な市場や、それによりもたらされる潜在的な利益は、実際のところかなり大きいことが理解される。
【0103】
本発明者らは、本発明の薬剤または方法が、全層(full thickness)または中間層(partial thickness)の創傷[その上皮層(epithelial layer)が、全部的または部分的に易感染性(compromised)となっている各々の創傷]に関連する瘢痕の抑制に有益となり得ると考えている。中間層創傷の好ましい例としては、それに関連する瘢痕が、本発明の薬剤または方法を使用して抑制することができるものであり、次のようなものが挙げられる:すなわち、「皮膚剥離」(skin peels)[例えば、「化学剥皮(Chemical peel)」(例えば、アルファヒドロキシ酸剥皮、トリクロロ酢酸剥皮、またはフェノール剥皮)、または「レーザー剥皮(Chemical peel)」];皮膚切除術(dermabrasion)に関連する創傷;および、皮膚プレーニング(dermaplaning)に関連する創傷。本発明の薬剤または方法は、美容に関して重要な部位(例えば、顔)に生じる中間層創傷[皮膚剥皮治療(skin peel treatment)の対象となることが多い]に関する瘢痕を抑制することが特に好ましい。
【0104】
瘢痕の予防、軽減、または抑制
瘢痕の予防、軽減、または抑制とは、本発明では、対照(コントロール)治療または未治療創傷の治癒により生じた瘢痕のレベルと比較した場合に、治療創傷の治癒が達成された瘢痕を、いかなる程度であっても予防、軽減、または抑制することが含まれると理解されるべきである。本明細書中、瘢痕の「予防(prevention)」、「軽減(reduction)」、または「抑制(inhibition)」は、通常、特に記載の無い限り、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)が介在することで、実質的に同等の活性(同等のメカニズムを含む)を示すことを意味するものとする。
【0105】
簡潔化のために、本明細書では、主に、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボク
サドール)を利用して瘢痕を「抑制」することについて説明している。しかしながら、このような説明は、特に記載のない限り、その一方では、そのような化合物を利用した瘢痕の予防または軽減することにも及ぶ。
【0106】
本発明の方法および薬剤を使用して達成される瘢痕の抑制は、治療瘢痕の微視的および/または巨視的外観に関して、評価および/または測定することができる。また、瘢痕の抑制は、治療瘢痕の微視的および/または巨視的外観を、未治療瘢痕の微視的および/または巨視的外観と比較することによっても、適切に評価することができる。一般に、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を利用する薬剤または方法を使用して瘢痕を抑制する場合には、治療瘢痕の巨視的外観について評価することが好ましいが、その理由としては、瘢痕の巨視的外観は、認知される瘢痕(瘢痕化対象またはそれ以外のいずれからであっても)を最も的確に示し得るためである。
【0107】
瘢痕が、治療瘢痕または対照(コントロール)瘢痕(さらには確認された瘢痕の抑制)で評価することができる適切な方法およびパラメタは、本明細書の他の箇所で述べている(必要な場合には、このような評価を、集積および定量化することができる方法として)。
【0108】
瘢痕を定量的に評価する場合には、瘢痕の抑制は、対照(コントロール)と比較して、治療された創傷または瘢痕で統計的に有意に減少していることにより示されることが好ましい。
【0109】
「治療された創傷」、「未治療の創傷」、「治療された瘢痕」、および「未治療の瘢痕」
治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を用いて創傷を治療することによって、未治療創傷の治癒中に生じ得る瘢痕が抑制される。
【0110】
本発明では、「未治療の創傷(untreated wound)」とは、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)と接触していない任意の創傷を意味する。また、「希釈剤対照(コントロール)治療創傷(diluent control-treated wound)」とは、未治療の創傷であって、対照(コントロール)希釈剤が投与された創傷であり、「未投薬対照(コントロール)(naive control)」とは、未治療の創傷であって、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)が投与されることなく、さらに適切な対照(コントロール)希釈剤を使用することなく形成され、治療処置を介することなく治癒した創傷である。
【0111】
これに対して、「治療された創傷(treated wound)」とは、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)と接触している創傷とみなすことができる。このため、治療された創傷とは、例えば、本発明の薬剤を施された創傷か、または本発明の方法による治療を受けた創傷とすることができる。
【0112】
本発明では、「治療された瘢痕(treated scar)」とは、治療された創傷の治癒により生じた瘢痕が含まれる[すなわち、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)で治療された創傷]。
【0113】
これに対して、「未治療の瘢痕(untreated scar)」とは、未治療創傷の治癒により生じた瘢痕が含まれる(例えば、プラシーボ治療、対照(コントロール)治療、または、標準治療により治療された創傷)。
【0114】
未治療の瘢痕は、通常、コンパレータ(比較)として、治療された瘢痕で明らかとなった瘢痕の抑制を評価することに使用される。このタイプの適切なコンパレータとしての未
治療の瘢痕は、1つまたは複数の評価基準に関して、該当する治療瘢痕と対応することが好ましく、この評価基準は、次の中から選んでもよい:すなわち、瘢痕の経年数;瘢痕の大きさ;瘢痕の部位;患者のボディマス指数(Body Mass Index);患者の年齢;患者の人種および性別。
【0115】
瘢痕のモデル
創傷の治癒で生じた瘢痕を抑制する場合、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)の治療有効性を評価することができ、且つ活性化された薬剤(エージェント)の治療に効果的な量を決定することができる適切な動物モデルを利用して、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を、実験対象[ヒト対象または非ヒト対象(例えば、マウス(mice)、ラット(rats)、もしくは豚(pigs))のいずれでもよい]の切開(incisional)または切除(excisional)創傷に投与すること、および、そのような創傷の治癒で生じた瘢痕を評価することができる。適切なモデルは、全層(full thickness)または中間層(partial thickness)の創傷を利用することができる(治療しようとする創傷に応じて)。全層または中間層の創傷治癒モデルの例は、当業者にとっては既知のものである。
【0116】
上記に述べた実験モデルは、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)の投与に関する特に効果的な経路または投与計画(regime)も確定(identification)することができる。これらの経路または投与計画は、本発明の薬剤および方法に関連する顕著な利点を提供し得ることから、これらは、本発明のさらなる特徴を招来し得る。
【0117】
瘢痕の評価、および瘢痕の抑制
治療効果を達成するために必要とされ得る瘢痕の抑制程度は、患者のケアに責任を持つ臨床医には明白であり、当該臨床医により、容易に判定することができる。臨床医は、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を使用して達成された瘢痕の抑制程度を適切に判定することができ、治療効果が達成されたか否か、または、達成されている最中であるかを評価する。このような評価は、必ずしも必要ではないが、本文中で提案した測定方法を参照して実施することができる。
【0118】
GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を使用して達成される瘢痕の抑制程度は、このような活性化された薬剤(エージェント)が、本発明の方法または薬剤を処置されたヒトの患者で達成される効果に関して、評価することができる。これとは別に、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)により達成される瘢痕の抑制は、適切なインビトロまたはインビボモデルを使用した臨床試験に関して評価することができる。瘢痕の抑制を調べるための実験モデルの使用は、特定のGABAAレセプターアゴニストの治療効果を評価する場合、または、そのようなアゴニスト(例えば、ガボクサドール)の治療に効果的な量を確立する場合になされることが、特に好ましい。
【0119】
瘢痕の動物モデルは、本発明の薬剤または方法を使用して達成することができる瘢痕抑制の程度を、インビボ評価できる好ましい実験モデルとなる。このようなモデルの例は、例示のみを目的とし、以下に詳述する。ここで述べる瘢痕のモデルおよび瘢痕を評価する方法は、治療に効果的なGABAAレセプターアゴニスト、さらにはアゴニストの治療に効果的な量を決定するために使用することができる。
【0120】
本発明の薬剤および方法を使用する瘢痕の抑制は、これまでに検討した全ての身体部位、および全ての組織もしくは器官を対象とすることができる。なお、説明のために、本発明の薬剤および方法の瘢痕を抑制する活性は、主に皮膚(身体のなかで最も広い器官)に発生し得る瘢痕の抑制に関して述べる。しかしながら、当業者であれば、皮膚の瘢痕の抑制を考慮する場合に関連する多くの要素が他の組織または器官の瘢痕の抑制にも関連する
ことは、直ちに理解されるであろう。従って、当業者であれば、特に記載の無い限り、以下で検討する皮膚の瘢痕のパラメタおよび評価が、皮膚以外の組織の瘢痕にも適用することができることは、理解されるであろう。
【0121】
皮膚では、治療により、瘢痕の巨視的および微視的外観を改善することができる;瘢痕は、巨視的には、あまり目立たずに周囲の皮膚と馴染んでいることがあり、微視的には、瘢痕中のコラーゲン線維が、周囲の皮膚とよく似た形態(morphology;モルホルジー)および組織(organisation)を有することがある。
【0122】
本発明の方法および薬剤を使用して達成される瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の巨視的または微視的外観のいずれかに関して、未治療瘢痕の外観と比較することで、評価および/または測定することができる。また、瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の巨視的および微視的外観の両方に関しても、適切に評価することができる
治療した創傷により生じた瘢痕の巨視的外観を考慮する場合には、瘢痕の範囲、さらに、達成された瘢痕のあらゆる抑制の程度は、多くのパラメタのいずれかに関して評価することができる。最も好ましくは、瘢痕の包括的評価(holistic assessment)であり、これは、独立専門パネリスト(independent expert panel)により巨視的な写真を用いて行うか、独立設置パネリスト(independent lay panel)により行うか、または、臨床的に、患者自身の臨床医による巨視的評価を用いて行われる。評価(アセスメント)は、視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)またはカテゴリー化スケール(categorical scale)を用いて表す。
【0123】
瘢痕の巨視的な特性は、以下のように客観的に評価することができる:
i) 瘢痕の色。瘢痕は、通常、周囲の皮膚との兼ね合いで、色素沈着過剰(hypopigmented)、または色素沈着低下(hyperpigmented)となっている。瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の色素沈着(pigmentation)が、未治療の瘢痕の色素沈着よりも、瘢痕化していない皮膚のそれに近似していることにより、示すことができる。同様に、瘢痕は、周囲の皮膚よりも赤みを帯びていることがある。この場合には、瘢痕の抑制は、未治療の瘢痕と比較して、治療瘢痕の赤みがより早く、もしくはより完全に退色する場合、または周囲の皮膚の外観に類似していることにより示すことができる。非湿潤比色分析(non-invasive colorimetric)に関する装置(デバイス)は多くあり、これらは、瘢痕および瘢痕化していない皮膚の色素沈着(pigmentation)のみならず、皮膚の赤み(瘢痕または皮膚に現れている血管分布(vascularity)の指標とすることができる)に関するデータを提供できる。このような装置の例としては、エックスライト(X-rite) SP-62分光光度計、ミノルタ(Minolta) クロノメーター CR-200/300;Labscan 600;Dr. Lange Micro Colour; Derma 分光器; レーザードップラー血流計; および Spectrophotometric intracutaneous Analysis (SIA)スコープが含まれる。
【0124】
ii) 瘢痕の高さ。瘢痕は、通常、周囲の皮膚と比較して、隆起しているか、または窪んでいるかのいずれかである。瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の高さが、未治療の瘢痕の高さよりも瘢痕化していない皮膚(すなわち、隆起しているか、または、窪んでいるかのいずれでもない皮膚)に、より近似していることにより示すことができる。瘢痕の高さは、患者から測定することができ、直接的な測定には、プロフィロメトリー(profilometry)を用いることができ、間接的な測定には、瘢痕から得られるモールド(moulds)のプロフィロメトリー(profilometry)を用いることができる。
【0125】
iii) 瘢痕の表面テクスチャ(surface texture)。瘢痕は、周囲の皮膚よりも相対的に滑らかな表面となっていることがあり(瘢痕に「艶のある(shiny)」外観を生じさせる)、また、周囲の皮膚よりも粗くなっていることもある。瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の表面テクスチャが、未治療の瘢痕の表面テクスチャよりも、瘢痕化していない皮膚のそ
れに近似していることにより、示すことができる。表面テクスチャは、患者から測定することができ、直接的な測定には、プロフィロメトリーを用いることができ、間接的な測定には、瘢痕から得られるモールド(moulds)のプロフィロメトリーを用いることができる。
【0126】
iv) 瘢痕の硬直(stiffness)。瘢痕の異常な組成および構造は、通常、瘢痕の周囲にある無傷状態の皮膚よりも硬直していることで示される。このような場合には、瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の硬直が、未治療の瘢痕の硬直よりも瘢痕化していない皮膚のそれに、より近似していることにより、示すことができる。
【0127】
治療された瘢痕は、瘢痕の抑制が、本明細書で述べる巨視的評価のパラメタのうち少なくとも1つに関する評価として示されることが好ましい。さらに好ましくは、治療された瘢痕は、瘢痕の抑制が、これらのパラメタのうち少なくとも2つに関して示され、さらに一層好ましくは、少なくとも3つのパラメタに関し、最も好ましくは、これらのパラメタのうち少なくとも4つ(例えば、上記に述べたパラメタのうちの4つすべて)に関して示される。上記に述べたパラメタは、瘢痕の巨視的評価を行うための視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)で使用することができる。VASの実施に関しては、以下に詳述する。
【0128】
微視的評価は、治療された瘢痕、および、未治療もしくは対照(コントロール)瘢痕の特性を比較することができる適切な手段も提供することができる。瘢痕の特性を微視的評価することは、通常、瘢痕の組織片(histological sections)を使用して実施される。瘢痕を微視的評価するための適切なパラメタとしては、以下のものが含まれる:
【0129】
i)細胞外マトリックス(ECM)線維の厚さ。瘢痕には、通常、周囲の皮膚の中で見受けられるよりも薄いECM線維が含まれている。この性質は、ケロイドおよび肥厚性瘢痕の場合に、さらに一層顕著となり、これは、組織マーカー(そのような瘢痕を本発明で処理されたタイプの「正常」の瘢痕と区別できる)の1つとすることができる。
【0130】
ii)ECM線維の配向性(orientation)。瘢痕で見受けられるECM線維は、その傾向として、瘢痕化していない皮膚で見受けられるものよりも、その相互間で一層明確な整列状態となっている(この線維は、ランダムな配向性があり、「バスケット(籠)織り(basket-weave)」と呼ばれることが多い)。病理学的な瘢痕(例えば、ケロイドおよび肥厚性瘢痕)のECMは、さらに一層、異常な配向性を示すことがあり、ECM分子からなる大きな「渦(swirls)」または「カプセル(capsules)」を形成することが多い。従って、瘢痕の抑制は、治療された瘢痕でのECM線維の配向性が、未治療の瘢痕で見受けられるそのような線維の配向性よりも、瘢痕化していない皮膚で見受けられるECM線維に近似していることにより、示すことができる。
【0131】
iii)瘢痕のECM組成(composition)。瘢痕に存在するECM分子の組成は、正常の皮膚で見受けられるものとは異なっているが、これは、瘢痕のECMに存在するエラスチン量が減少しているためである。このため、瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の真皮(dermis)のECM線維の組成が、未治療の瘢痕で見受けられる組成よりも、瘢痕化していない皮膚で見受けられるそのような線維の組成に近似していることにより、示すことができる。
【0132】
iv)瘢痕の細胞(充実)性(cellularity)。瘢痕は、瘢痕化していない皮膚よりも、相対的に少ない細胞(セル)が含まれる傾向がある。従って、瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の細胞性が、未治療の瘢痕の細胞性よりも、瘢痕化していない皮膚の細胞性に近似していることにより、示すことができる。
【0133】
瘢痕の微視的な特性を評価する際に考慮できる他の特徴としては、周囲の瘢痕化してい
ない皮膚と比較して、瘢痕が隆起しているか、もしくは、窪んでいるかということを含み、さらに、瘢痕が、瘢痕化していない皮膚との界面で、突出しているか、もしくは、目立っているかということを含む。
【0134】
上記に述べたパラメタは、瘢痕の微視的評価を行うためのVASを作成するのに使用することができる。このようなVASは、コラーゲン組織を評価することができ、さらに、乳頭真皮(papillary dermis)および網状真皮(reticular dermis)の存在量から、瘢痕の特性に関する有益な指標を得ることもできる。瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の特性が、未治療または対照(コントロール)の瘢痕の特性よりも、瘢痕化していない皮膚の特性に近似していることにより、示すことができる。
【0135】
驚くべきことは、瘢痕(例えば、皮膚の瘢痕)の全体的な外観が、瘢痕が表皮(epidermal)を覆うことによる影響をあまり受けていないということである(但し、瘢痕のうち、観察者に観察される部分について)。それよりむしろ、本発明者らが発見したことによれば、瘢痕に内在する結合組織[例えば、真皮(dermis)または新生真皮(neo-dermis)を構成している]の特性が、より重大な影響を与えるのは、瘢痕として認識される範囲のみならず、瘢痕化した組織の機能にまで及ぶということである。従って、結合組織(例えば、表皮よりも真皮)に関する評価基準は、瘢痕の抑制を評価することに最も役立つものとなろう。
【0136】
ECM線維の厚さおよび配向性は、瘢痕の抑制を評価するための有意なパラメタとなり得る。治療された瘢痕は、改善されたECM配向性(すなわち、未治療の瘢痕の配向性よりも、瘢痕化していない皮膚に近似している配向性)を有することが好ましい。
【0137】
治療された瘢痕は、瘢痕の抑制が、本明細書で述べる微視的評価のパラメタのうち少なくとも1つを用いた評価として示されることが好ましい。さらに好ましくは、治療された瘢痕は、これらのパラメタのうち少なくとも2つを用いて評価することで瘢痕の抑制が示され、さらに一層好ましくは、少なくとも3つのパラメタを用い、最も好ましくは、これらのパラメタのうちの4つすべてを用いて、瘢痕の抑制が示される。
【0138】
瘢痕の抑制が、本発明の薬剤または方法を使用することで達成されたということは、1または複数の適切なパラメタ(異なる評価スキームを組み合せたもの)が改善されたことで示すこともできる。(例えば、抑制は、巨視的評価に使用される少なくとも1つのパラメタ、および、微視的評価に使用される少なくとも1つのパラメタに関して評価される)
【0139】
瘢痕の臨床的な測定および評価に関する適切なパラメタのさらなる例は、様々な測定または評価に基づいて選択することができ、これらに関しては、Duncanら(2006)、Beausangら(1998)、およびvan Zuijlenら(2002)が言及しているものが含まれる。特に記載のない限り、以下に挙げるパラメタの多くは、瘢痕の巨視的および/または微視的な評価に適用することができる。皮膚の瘢痕を評価する適切なパラメタの例としては、以下のものが含まれる:
【0140】
1.視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)瘢痕スコアに関する評価(アセスメント)
瘢痕の予防、軽減、または抑制は、対照(コントロール)瘢痕と比較して、治療された瘢痕のVASスコアが低いことにより示すこともできる。瘢痕の評価に使用できる適切なVASは、Duncanら(2006)またはBeausangら(1998)が述べた方法に基づくことができる。これは、通常、10cmのライン(直線)であり、このライン上で、0cmの位置ではわずかな瘢痕であることが示され、10cmの位置では非常に悪性な肥厚性瘢痕(hypertrophic scar)であることが示される。
【0141】
2.カテゴリー化スケール(categorical scale)に関する評価(アセスメント)
瘢痕の予防、軽減、または抑制は、瘢痕を、いくつかの文字表現に基づく異なるカテゴリー(例えば、「かろうじて気付く程度の状態(barely noticeable)」、「正常の皮膚と混在した状態(blends well with normal skin)」、「正常の皮膚と明確に区別された状態(distinct from normal skin)」等)に、割当てることで測定することができ、この割当ては、治療された瘢痕、および、未治療もしくは対照(コントロール)の瘢痕を比較し、それらの間での何らかの違いを注意深く観察し、その違いを、選択されたカテゴリー(適切な例としては、「穏やかな違い(mild difference)」、「中程度の違い(moderate difference)」、「大きな違い(major difference)」等)に割当てることで行うことができる。この種の評価は、患者(patient)、研究者(investigator)、独立パネリスト(independent panel)、または、臨床医(clinician)により行うことができ、直接的には、患者か、患者から採取された写真もしくはモールド(moulds)か、のいずれかに基づいて行うことができる。瘢痕の抑制は、一般的に、治療された瘢痕が、未治療または対照(コントロール)の瘢痕よりも、より良好なカテゴリーに割当てられることとして示すことができる。
【0142】
3.瘢痕の高さ、瘢痕の幅、瘢痕の周囲長、瘢痕の面積、または、瘢痕の体積
瘢痕の高さおよび幅は、患者から直接測定でき、この測定には、例えば、カルス(callipers)のような手動の測定装置を使用するか、または、プロフィロメータ(profilometers)を使用することで自動化することができる。瘢痕の幅、周囲長、および面積は、患者から直接測定することができ、これには、瘢痕写真を画像分析するか、瘢痕から成形したシリコンモールドを分析するか、または、そのような成形から作成されるポジティブ模型(positive casts)を分析するかのいずれでも行うことができる。また、当業者であれば、さらなる非湿潤(non-invasive)の方法および手段(装置)も考え付くことができるが、これらは、適切なパラメタを調べるために使用することができ、シリコンモールド(silicone moulding)、超音波(ultrasound)、光学立体的側面分析法(optical three-dimensional profilimetry)、および、高解像度の磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging)が含まれる。
【0143】
瘢痕の抑制は、未治療の瘢痕と比較して、治療された瘢痕の高さ、幅、周囲長、面積、もしくは体積、または、これらのうちのいずれかの組み合わせが、低下することにより示すことができる。
【0144】
4.瘢痕の歪みおよび機能的動態
瘢痕の歪み(distortion)は、瘢痕および瘢痕化していない皮膚を、視覚的に比較することにより、評価することができる。適切な比較としては、選択された瘢痕を、歪み無し(no distortion)、穏やかな歪み(mild distortion)、中程度の歪み(moderate distortion)、または、かなりの歪み(severe distortion)に分類することができる。
【0145】
瘢痕の機械的動態(mechanical performance)は、多くの非湿潤の方法および手段(装置)を使用して評価できるが、これらは、吸引(suction)、圧力(pressure)、ねじれ(torsion)、張力(tension)、および聴覚(acoustics)に基づくものである。瘢痕の機械的動態を評価することに使用できる手段(装置)の適切な例としては、インデントメーター(Indentometer)、皮膚粘弾性測定装置(Cutemeter;キュートメーター)、衝撃波伝播時間測定装置 (Reviscometer;リビスコメーター)、粘弾性皮膚分析装置(Visco-elastic skin analysis)、Dermaflex、硬度計(Durometer)、皮膚トルク計(Dermal Torque Meter)、弾力計(Elastometer;エラストメーター)が挙げられる。
【0146】
瘢痕の抑制は、未治療の瘢痕により生じたものと比較して、治療された瘢痕により生じた歪みが小さいこととして示すことができる。また、瘢痕の抑制は、瘢痕化していない皮
膚の機械的動態が、未治療の瘢痕よりも治療された瘢痕に、より近似していることとしても示すことができる。
【0147】
写真評価(Photographic Assessments)
独立設置パネリスト(independent lay panel)
治療された瘢痕および未治療の瘢痕の写真評価は、評価者(assessors)で構成される独立設置パネリスト(independent lay panel)により実施することができ、この実施に際しては、標準化され且つ較正化された瘢痕の写真が使用される。瘢痕は、独立設置パネリストにより評価することができるが、この評価で規定されることは、分類的なランキングデータ(ranking data)[例えば、所与の治療された瘢痕は、未治療の瘢痕と比較して、「より良い(better)」、「より悪い(worse)」、または、「差異無し(no different)」に分類される]、および、定量データ[Duncanら(2006)およびBeausangら(1998)により述べられた方法に基づいて視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)を使用する]がある。これらのデータを取得することは、適切なソフトウェアおよび/または電気的システムを使用することができるが、これについては、本出願人の同時出願中の特許出願(PCT/GB2005/004787)に記載している。
【0148】
専門パネリスト(Expert Panel)
治療された瘢痕および未治療の瘢痕の写真評価は、別の方法として、専門評価者(expert assessors)で構成されるパネリスト(Panel)により実施することができ、この実施に使用されるものは、評価を受ける瘢痕の標準化され且つ較正化された写真、および/または、シリコンモールド(silicone moulds)から成る実質的な石膏模型(casts)がある。専門家から成るパネリストは、当業者である人々で構成されることが好ましく、その適切な例としては、形成外科医(plastic surgeons)、皮膚科専門医(dermatologists)、または科学者(scientists)であって、関連技術のバックグラウンドを有する人々が挙げられる。
【0149】
臨床評価(Clinical assessment)
臨床医(clinician)、または、臨床医から成る独立パネリスト(independent panel)は、上述したパラメタ(例えば、VAS、色、カテゴリー化スケール等)をどれでも使用して、患者の瘢痕を評価することができる。適切な臨床医は、例えば、患者のケアに責任を持っている者か、または、瘢痕を抑制する治療の有効性を調べている者である。
【0150】
患者評価(Patient assessment)
患者(被験者)は、体系的に作成されたアンケート(questionnaire)を用いて、自身の瘢痕を評価すること、および/または、瘢痕を比較することができる。適切なアンケートは、次のようなパラメタを測定することができる:すなわち、瘢痕の状態に患者が納得(満足)しているか;瘢痕が、瘢痕化していない皮膚に、どの程度馴染んでいるか;さらには、日常生活での瘢痕の影響はどうか(適切な質問としては、衣服を使って瘢痕を隠しているか、また、この他に、瘢痕の露出を避けているかどうかということを考慮することができる)、および/または、瘢痕の兆候(その例として、痒み、痛み、または錯感覚(paresthesia))。瘢痕の抑制は、未治療の瘢痕と比較して、治療された瘢痕が、患者からより高い評価を受けたこと、および/または、患者にあまり問題を引き起こさなかったこと、および/または、瘢痕の兆候が少なかったこと、および/または、患者の納得(満足)度が高いことにより示すことができる。
【0151】
カテゴリー化データに加えて、定量データ(上記パラメタに関するものが好ましい)を生成することもでき、これには、適切な画像化技術と組み合わせた画像解析が使用される。瘢痕特性の評価に用いることができる適切な画像化技術の例としては、特定の組織染色(histological stains)または免疫標識(immuno-labelling)があり、それらは、染色(staining)または標識(labelling)の度合いを、画像解析を用いて定量的に確定する
ことができる。
【0152】
定量データは、次のパラメタに関して有意かつ迅速に生成することができる:
1.瘢痕の幅、高さ、隆起、体積、および面積
2.コラーゲン組織、コラーゲン線維の厚さ、コラーゲン線維の密度
2.線維芽細胞(fibroblasts)の数および配向性
4.他のECM分子(例えば、エラスチン(elastin)、フィブロネクチン(fibronectin))の量および配向性
【0153】
瘢痕の予防、軽減、または抑制は、上記で検討したいずれかのパラメタでの変化で示すことができるが、この変化とは、治療された瘢痕が、対照(コントロール)または未治療の瘢痕(または、他の適切なコンパレータ瘢痕)よりも、瘢痕化していない皮膚に近似していることである。
【0154】
上記に述べた評価およびパラメタは、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)の瘢痕形成に対する影響の評価に適し、この評価は、動物またはヒトに対する対照(コントロール)治療、プラシーボ(placebo)治療または標準治療と比較することでなされる。これらの評価およびパラメタは、治療に効果的なGABAAレセプターアゴニスト(瘢痕を予防、軽減、または抑制しうるもの)を決定する際に利用することができる;さらには、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)の治療に効果的な量を決定する際に利用することができる。また、適切な統計試験(statistical tests)を用いることで、異なる治療から得られた分析データセットを解析して、結果の有意性を調べることができる。
【0155】
皮膚以外の瘢痕を評価することに使用することができる他のパラメタは、該当する器官に応じて決定することができる。例えば、角膜の瘢痕は、角膜の混濁(opacity)、または、透過度(transmitting)/不応性(refractory)に関する特性、および角膜歪曲(corneal curvature)の大きさを測定することで評価することができる。そのような評価は、例えば、インビボの共焦点顕微鏡(confocal microscopy)および/またはスペキュラーマイクロスコープ(specular microscopy)または角膜トポグラフィー(corneal topography)を使用して行える。
【0156】
腱(tendons)または靱帯(ligaments)の瘢痕を効果的に抑制したことは、本発明の薬剤または方法で処置した組織の機能回復によって示すことができる。機能が適切であることは、腱または靱帯が、耐加重性、伸展性、屈曲性などを有することが含まれる。このような評価は、例えば、電気生理反射検査(electrophysiological reflex examination)、表面筋電図(surface electromyography)、超音波検査(ultrasonography)、超音波/磁気共鳴画像スキャン(ultrasound/MRI scan)、自己報告症状(self reported symptom)、疼痛質問表(pain questionnaires)を使用して実施できる。
【0157】
血管の瘢痕の大きさは、直接的(例えば、超音波を使用する)、または血流を用いて間接的に測定することができる。本発明の薬剤または方法を使用して達成される瘢痕の抑制により、血管内腔(blood vessel lumen)の狭窄(narrowing)を低減することができ、より正常な血流にすることができる。
【0158】
投与計画(Administration regimes)
本発明の薬剤は、治癒反応によって瘢痕が形成されてしまう前に、治療活性が要求される部位に投与すべきである。本発明の方法または薬剤は、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を、既存の創傷部位に投与することに使用することができる。別の方法として、本発明の薬剤または方法は、予防的に(すなわち、
瘢痕の形成前に)使用することもできる。
【0159】
創傷の治癒に関連する瘢痕を抑制する場合において、予防的使用とは、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)の投与に際して、その投与部位が、未だ創傷は無いが、瘢痕を生じうる創傷が形成されようとしている部位であることが含まれる。例として、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)は、待期的手術(例えば、外科手術)の結果として創傷が引き起こされた部位、または、創傷のリスクが高まっていると考えられる部位に対して投与することができる。
【0160】
本発明の薬剤は、創傷が発生したと思われる際に対象部位へ投与するか、もしくは、創傷形成前直ちに(例えば、創傷形成の6時間前までに)対象部位へ投与するか、または、創傷形成前の早い時期(例えば、創傷形成の48時間前までに)で対象部位へ投与することが好ましい。当業者であれば、創傷形成前の投与時期は、多くの要素に関して決定することが最も好ましく、この要素が、選択した薬剤の投与に関する処方(formulation)および経路、投与する薬剤の服用量、形成された創傷の大きさおよび特性、および、患者の生物学的状態[患者の年齢、健康状態、および、治癒合併症(healing complications)もしくは有害瘢痕の素因のような要素に関して決定することができる]を含むことは理解されるであろう。本発明の方法および薬剤の予防的使用は、本発明の好ましい実施態様であり、外科的創傷と関連する瘢痕を、予防、軽減、または抑制する際になされることが特に好ましい。
【0161】
本発明の方法および薬剤は、瘢痕が既に形成された後に投与される場合であっても、瘢痕を抑制できる。このような投与は、創傷の形成後からできるだけ早いことが好ましいが、本発明の薬品(エージェント)は、治癒プロセスが完了するまでの期間であればいつでも、瘢痕を抑制できる(すなわち、創傷が、既に部分的には治癒している状況であっても、本発明の方法および薬剤は、残りの未治癒部分に関する瘢痕の抑制に使用することができる)。本発明の方法および薬剤が、瘢痕の抑制に使用することができる「機会(window)」は、その対象となった創傷の特性(発生した損傷の程度、および創傷領域の大きさが含まれる)に依存する。このため、大きな創傷の場合には、本発明の方法および薬剤は、治癒反応の相対的に遅い時期に投与したとしても、瘢痕を十分に抑制できるが、これは、大きな創傷の治癒に必要な時期が、相対的に長期化しているためである。
【0162】
本発明の方法および薬剤は、例えば、創傷の形成から24時間以内に投与することが好ましいが、創傷の形成から10日まで、あるいは10日より後の投与であっても、やはり瘢痕を抑制することができる。
【0163】
本発明の方法および薬剤は、創傷が閉塞(例えば、縫合による)した後に使用することによって、創傷の治癒に関連する瘢痕を抑制することができる。GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を創傷に投与することは、創傷が閉塞した後に必要な頻度で繰り返すことができ、このことによって所望の瘢痕抑制を図ることができる。
【0164】
本発明の方法および薬剤は、瘢痕を抑制するために、1回または複数回(必要に応じて)で投与することができる。適切な投与計画(regimes)としては、月1回、週1回、1日1回、または1日2回の投与が挙げられる。
【0165】
例えば、創傷の治癒により生じた瘢痕を抑制する場合では、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)は、治癒プロセスが完了するまで、必要な頻度で創傷に投与する。例として、本発明の薬剤は、毎日または2日ごとに創傷へ投与することを、創傷形成から少なくとも最初の3日間行う。特に好ましい実施態様として
は、本発明の薬剤は、創傷形成前に投与し、さらに、創傷形成から約24時間が経過するまでに再び投与する。
【0166】
本発明の方法または薬剤は、創傷形成の前後の両時点で、投与することが最も好ましい。本発明者らが発見したことは、本発明の薬剤の投与を、創傷形成前に速やかに行い、それに引き続き、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)の毎日の投与を、創傷形成から1日以上の間行うことが、創傷の治癒により生じる瘢痕の抑制に、特に効果的であるということである。
【0167】
治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)は、あらゆる適切な投与手段を用いて、提供することができる。これらの投与の適切な投与計画(regimes)は、当業者であれば容易に考案することができるが、その際に使用される各種技法(インビトロ分野、動物およびヒト分野を含む)は、薬剤業界で既知なものであり、当業界内で確立されたものである。
【0168】
創傷または線維性疾患に与える本発明の薬剤の量は、治療に効果的な量の活性化された薬品(エージェント)が、投与されるようにしなければならず、これは、多くの要素に依存する。これらには、本薬剤が存在する薬品(エージェント)の生物学的活性およびバイオアベイラビリティ(bioavailability;生体利用性)が含まれ、そして、これらは、他の要素の中でも、特に薬品(エージェント)の特性および薬剤の投与様式に依存している。薬剤の適切な治療量を決定する他の要素は、次のものが含まれる:
【0169】
A)処方物質に含まれる活性化された薬品(エージェント)の半減期
B)処方する特定条件[例えば、切開(incisional)または切除(excisional)創傷]
C)患者の年齢
D)処方する部位の大きさ
投与頻度も、上記に述べた要素[特に、処方物質に含まれる選択された薬品(エージェント)の半減期]の影響を受ける。
【0170】
一般的に、本発明の薬剤が、既に存在する瘢痕の治療に使用される場合では、本薬剤は、瘢痕化プロセスのできるだけ早い時期、または、線維性疾患の発症時に、投与すべきである。創傷が外見上すぐには現れない場合(例えば、それらが体内部位に存在する場合)では、薬剤は、創傷、つまり瘢痕のリスクが診断された場合にはすぐに投与してよい。本発明の方法または薬剤を用いた治療法は、瘢痕の抑制が、臨床医の納得(満足)が得られる状態まで継続すべきである。
【0171】
投与頻度は、使用した薬品(エージェント)の生物学的な半減期に依存する。一般に、本発明の薬品(エージェント)を含む乳液または軟膏は、標的組織に投与されることにより、創傷または瘢痕での薬品(エージェント)の濃度が、瘢痕を抑制するのに適するレベルを維持するように図ることができる。これには、毎日の投与、または1日あたりさらに数回の投与が必要となり得る。本発明者らは、本発明の薬品(エージェント)の投与に関して、創傷形成前には直ちに行い、創傷形成後には1日あたりにさらに投与することが、瘢痕(投与を行わなければ、このような創傷の治癒により生じ得た瘢痕)を抑制することに特に効果的であることを発見した。
【0172】
本発明の薬品(エージェント)の毎日の服用は、単一投与(例えば、毎日の処方が、局所処方または毎日の注射を用いる場合)として与えることができる。また、別の方法として、本発明の薬品(エージェント)は、1日2回以上の投与とすることができる。さらに別の方法としては、緩速型(slow)の送出手段(release device)を使用することで、本発明の薬品(エージェント)の最適な服用を、繰返し服用を必要とすることなく、患者に
提供することができる。
【0173】
投与経路
瘢痕抑制の望ましい効果を達成できる任意の適切な経路で、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニストを投与することができる。しかし、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニストは、一般的には、組織(その瘢痕が抑制対象であるもの)に局所投与を用いて与えられることが好ましい。
【0174】
このような局所投与を十分に機能させることができる適切な方法は、対象の組織または器官の個々の特質(identity)に依存している。好ましい投与経路の選定は、治療しようとする組織または器官が、選択された薬剤に浸透され得るか否かということにも依存し得る。適切な投与経路は、次から選択することができる:すなわち、注射(injection);スプレー(sprays)、軟膏(ointments)、ゲル(gels)または乳液(creams)の適用;薬剤の吸入(inhalation);生物活性物質(biomaterial;バイオマテリアル)または他の固形剤[縫合糸(suture)もしくは創傷包帯剤(wound dressings)が含まれる]からの放出。一般的に、好ましい投与経路には、局部注射(local injection)[例えば、皮膚の瘢痕を抑制しようとする場合に使用される皮内注射(intradermal injection)]が含まれる。本発明のこれらの実施様態で使用される適切な処方(formulations)は、本明細書の他の箇所で検討している。
【0175】
本発明の薬剤は、局所的な形態で投与することで、創傷の治癒により生じる瘢痕を抑制することができる。このような投与は、創傷部位に関する初期および/または経過観察(フォローアップ)の治療の一部として適する。注射(injections)は、創傷の縁の周辺に投与することができる。予防的に使用する場合には、本発明の薬剤は、創傷が起こり得る部位に適用することができる。
【0176】
投与経路は、治療しようとする組織または器官に関して選択することが好ましい。角膜瘢痕の場合には、本発明の薬剤は、眼の外側(例えば、角膜)に投与することができる。薬剤の処方としては、局所点眼(local eye drops)(粘性または準粘性の点眼を含む)、乳液(creams)、ゲル(gel)、軟膏(ointments)、またはその種の他のものを用いることができ、さらに、例えば、スポンジ(sponge applicator)を使用して投与できる。
【0177】
治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を、内部創傷、例えば、外科手術により引き起こされたもの[もし手術しなければ癒着(adhesion)を形成し得るもの]に与えたい場合には、GABAAレセプターアゴニストから成る薬剤は、洗浄(lavage)、非経口ゲル(parenteral gel)/点滴(instillate)を用いて、または、手術時に挿入され得る局所装置[例えば、GABAAレセプターアゴニストをその周囲に放出できる縫合(sutures)、薄膜(film)または基材(carrier)]を用いて投与することができる。
【0178】
血管の瘢痕の場合には、適切な投与経路としては、血管壁への直接注入[例えば、縫合(suturing)前に行う]、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)から成る媒体を用いた吻合部位(anastomotic site)の洗浄(bathing)、または、局所処方手段(例えば、縫合またはステント)によりアゴニストの投与が含まれる。血管の瘢痕を効果的に抑制していることは、血管障害後の血流が標準レベルに維持されていることで示すことができる。
【0179】
相対的に隔絶された身体部位で生じる瘢痕を抑制しようとする場合には、GABAAレセプターアゴニストは、全身投与されることが好ましい。適切な投与経路としては、特に制約は無く、経口(oral)、経皮(transdermal)、吸入(inhalation)、非経口(parenteral)、経舌(sublingual)、直腸(rectal)、経膣(vaginal)および経鼻(intranasal)
が挙げられる。例として、固形物経口処方[例えば、錠剤(tablets;タブレット)またはカプセル剤(capsules)]を用いる投与で、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニストを瘢痕の抑制に使用することができる。吸入(inhalation)用の煙霧剤(aerosol;エアロゾル)処方は、GABAAレセプターアゴニストを投与する方法として、抑制したい瘢痕が、肺(lungs)および気道(airways)にある創傷の治癒に関連する場合に使用されることが好ましい。
【0180】
上記に述べた全身投与に関する投与経路のいくつかは、瘢痕を抑制したい組織への局所投与(topical administration)にも適している[例えば、吸入(inhalation)または経鼻(intranasal)投与があり、これらによってGABAAレセプターアゴニストを呼吸器系(respiratory system)の創傷または瘢痕に投与することができる]。
【0181】
本発明に従う使用における好適な処方
一般的に、本発明の薬剤は、任意の手法で調合および製造することができるが、この薬剤を患者に投与することで、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)が、瘢痕を予防、軽減、または抑制しようとする部位に与えられるものでなければならない。
【0182】
本発明の薬剤は、多くの投与単位のうちの一形態で与えることができるが、これらの投与単位は、治療に効果的な量(または、治療に効果的な量を既知の割合で分けたもの、もしくは複合したもの)のGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を与えることが好ましい。そのような投与単位の調製(調合)方法は、当業者にとって、既知である;例えば、「レミントンの製剤科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)第18版」(1990)を参照することができる。
【0183】
活性化された薬品(エージェント)を含む組成物または薬剤は、多くの異なる形態をとれるが、その形態は、特に、それらが使用される方法に依存し得る。例えば、それらは、液体(liquid)、軟膏(ointment)、乳液(cream)、ゲル(gel)、ハイドロゲル(hydrogel)、粉末(powder)、または煙霧剤(aerosol;エアロゾル)の形態をとれる。そのような組成物のすべては、創傷または創傷が形成されようとする部位への局所適用に適するものであり、局所適用は、GABAAレセプターアゴニストを、治療を必要とする被験者(ヒトまたは動物)に投与するための好ましい手段となる。
【0184】
適切なアゴニストは、無菌包帯剤(sterile dressing)または吸収薬(patch;パッチ)として投与することができ、これらは、瘢痕を抑制しようとする創傷を覆うように使用することができる。
【0185】
GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)は、装置(デバイス)もしくはインプラント(implant)から放出することができ、また、そのようなデバイス[例えば、ステント)、制御された放出手段(controlled release device)、創傷被覆材(wound
dressing)、もしくは創傷閉塞に使用される縫合(sutures)]を被覆して使用することができる。
【0186】
GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)から成る組成物の賦形剤(ベヒクル)は、患者が十分に耐え得るものであって、アゴニストを治療しようとする創傷瘢痕に放出できるべきである。そのような賦形剤(ベヒクル)は、相対的に「低刺激性(mild)」[すなわち、非炎症性(non-inflammatory)、生分解性(biodegradeable)、生溶解性(bioresolveable)、または生体吸収性(bioresorbable)]であることが好ましい。
【0187】
GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)は、緩速(slow)または遅延
型(delayed)の送出手段(release device)の中に組み込むことができる。このような手段は、例えば、皮膚設置または皮下挿入することができ、アゴニストを、数日、数週間、さらには数ヶ月にわたって放出することができる。
【0188】
遅延型送出手段(delayed release devices)が特に有用な患者としては、例えば、広範囲の創傷を受けている患者であって、治療に効果的な量のGABAAレセプターアゴニストの長期投与を必要とする患者である。このような手段が特に有益となり得るのは、アゴニストが、通常では頻繁な投与(例えば、他の経路による少なくとも毎日の投与)が必要とされるような投与に使用される場合である。
【0189】
GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を含有する組成物の服用は、治療に効果的な量の適切なアゴニストが、単一投与で十分に与えられるようにすることが好ましい。しかし、それぞれの服用は、それ自体では、治療に効果的な量のアゴニストが与えられる必要はないが、その代わりに、治療に効果的な量は、適切な服用を繰返し投与することで累積して達成できるようにする。
【0190】
GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を含む組成物は、種々の適切な形態をとれるが、それらの形態は、本発明に従って使用することができる。1つの実施態様では、適切なアゴニストを投与するための薬学的な賦形剤(ベヒクル)は、液体であり、この場合には、適切な病理学的組成物は、水薬(solution)の形態となる。また、他の実施態様では、薬学的に許容される賦形剤(ベヒクル)は、固体であり、この場合には、適切な組成物は、粉末(powder)の形態となる。また、さらなる実施態様では、GABAAレセプターアゴニストは、薬学的に許容される経皮送達システム(trans-epidermal delivery system)[例えば、パッチ(patch)/包帯剤(dressing)]の一部として処方される。
【0191】
固形の賦形剤(ベヒクル)は、1以上の物質を含むことができ、これらの物質は、香味剤(flavouring agents)、潤滑剤(lubricants)、溶解剤(solubilizers)、懸濁剤(suspending agents)、注入剤(fillers)、流動促進剤(glidants)、圧縮補助剤(compression aids)、結合剤(binders)、または錠剤崩壊剤(tablet-disintegrating agents)として作用することができる;また、カプセル化物質(encapsulating material)を含むこともできる。粉末中では、本賦形剤(ベヒクル)は、細分化された固体となっており、細分化されたアゴニスト(瘢痕を抑制するために使用される)が混ぜ合わせられている。錠剤(タブレット)中では、選択されたアゴニストは、賦形剤(ベヒクル)と混ぜ合わせられており、この賦形剤(ベヒクル)は、必要な圧縮特性(compression properties)を適切な割合で有しており、望ましい形状および大きさで小型化されている。粉末および錠剤(タブレット)は、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)が99%まで含まれていることが好ましい。適切な固形の賦形剤(ベヒクル)としては、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、乳糖(ラクトース)、デキストリン、澱粉、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリジン、低融点ワックス、およびイオン交換樹脂が挙げられる。
【0192】
液状の賦形剤(ベヒクル)は、水薬(solutions)、懸濁液(suspensions)、乳剤(emulsions)、シロップ剤(syrups)、エリキシル剤(elixirs)および加圧された組成物(pressurized compositions)の調製に使用することができる。GABAAレセプターアゴニストは、薬学的に許容される液状の賦形剤(ベヒクル)に溶解または懸濁できるが、この賦形剤(ベヒクル)としては、例えば、水、有機溶媒、その両方の混合物、または、薬学的に許容される油脂もしくは脂肪が挙げられる。リン酸緩衝食塩水(PBS)は、液状の賦形剤(ベヒクル)の例として好ましい。液状の賦形剤(ベヒクル)は、他の適切な医薬添加剤を含むことができるが、これには、例えば、溶解剤(solubilizers)、乳化剤(emulsifiers)、緩衝剤(buffers)、防腐剤(preservatives)、甘味剤(sweeteners)、香味
剤(flavouring agents)、懸濁剤(suspending agents)、増量剤(thickening agents)、着色剤(colours)、粘度調整剤(viscosity regulators)、安定剤(stabilizers)、または浸透圧調節剤(osmo-regulators)がある。経口または非経口投与のための液状の賦形剤(ベヒクル)の適切な例としては、水[部分的に上記添加物が含まれる(例えば、セルロース誘導体、好ましくは、カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液)]、アルコール[一価アルコールおよび多価アルコール(例えば、グリコール)]およびその誘導体、および油脂(例えば、分留されたココナッツオイルやピーナッツオイル)がある。非経口投与では、賦形剤(ベヒクル)は、油性エステル(例えば、オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピル)とすることができる。無菌の液状の賦形剤(ベヒクル)は、非経口投与のための組成物に有用である。圧縮された組成物(pressurized compositions)のための液状の賦形剤(ベヒクル)は、ハロゲン化炭化水素、または、他の薬学的に許容された噴射剤(propellant)とすることができる。
【0193】
液状の薬学的に許容された組成物[GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を含有する無菌の水薬(solutions)または懸濁液(suspensions)]は、例えば、筋肉内(intramuscular)、クモ膜下腔内(intrathecal)、硬膜外(epidural)、腹腔内(intraperitoneal)、皮内(intradermal)、基質内(intrastromal)(角膜)、外膜内(intraadventitial)(血管)、または、皮下(subcutaneous)注射により利用できる。無菌の水薬(solutions)は、静脈注射を用いても投与できる。アゴニストは、無菌の固体状組成物の一部として調製することができ、この組成物は、投与時に、無菌の水、生理的食塩水、または他の適切な無菌の注射用媒体(例えばPBS)を使用することで、溶解または懸濁させることができる。賦形剤(ベヒクル)には、必要且つ不活性な結合剤(binders)、懸濁化剤(suspending agents)、潤滑剤(lubricants)、および防腐剤(preservatives)を含めることができる。本発明者らは、リン酸緩衝食塩水(PBS)中のGABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)から成る無菌の水薬が、注射(例えば、皮内注射)による投与に適する形態として好ましいことを発見した。
【0194】
GABAAレセプターアゴニストが経口摂取(oral ingestion)により投与されることが望まれる場合では、選択されるアゴニストは、分解抵抗(resistance to degradation)の度合いが高いものが好ましい。例えば、選択されるアゴニストを保護することにより(当業者に既知の技術を使用して)、消化路(digestive tract)での分解率(rate of degradation)の低減を図ることができる。
【0195】
GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を含有する薬剤は、肺(lungs)または他の呼吸器系組織(respiratory tissues)の瘢痕の抑制に使用する場合には、吸入(inhalation)用に処方することができる。
【0196】
本発明の薬剤は、体腔[例えば、腹部(abdomen)または骨盤(pelvis )]の瘢痕の抑制に使用する場合には、イリゲーション液(irrigation fluid)、洗浄液(lavage)、ゲル(gel)、または点滴(instillate)として処方することができる。
【0197】
GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)は、本発明の薬剤または方法として使用する場合には、生物活性物質(biomaterial;バイオマテリアル)と一体化することができ、そこから放出されて瘢痕を抑制することができる。GABAAレセプターアゴニストと一体化した生物活性物質(biomaterial)は、多くの状況で、さらには多くの身体部位での使用に適するものであり、このような部位としては瘢痕を抑制することが望まれる部位であるが、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)を、眼[例えば、網膜手術(retina surgery)または緑内障濾過手術(glaucoma filtration surgery)の施術後]に投与する場合、または、再狭窄(restenosis)もしくは癒着(adhesion)の抑制が望まれる部位に投与する場合に特に有用となり得る。本発明者らは、GABAAレセプ
ターアゴニストと一体化した生物活性物質(biomaterial)が、縫合糸(suture)の作製時に使用することができ、さらに、このような縫合糸(suture)が、本発明の薬剤の好ましい実施態様となると考えている。
【0198】
既知の処置、例えば、慣習的に薬学業界で用いられてきたもの(例えば、インビボ実験、臨床試験など)を用いて、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール)が含まれる組成物を用いる対症処方(specific formulations)を確立することができ、さらに、そのような組成物を投与することにより、正確な治療プログラム(例えば、アゴニストの毎日の必要服用量、および投与頻度に関して)を確立することができる。
【0199】
本発明の薬剤または方法は、瘢痕を抑制するために、単剤療法(monotherapy)(例えば、本発明の薬剤または方法のみを使用する治療)として使用することができる。あるいはまた、本発明の方法または薬剤は、瘢痕を抑制する他の化合物または治療と併用することができる。そのような併合治療の一部として使用することができる適切な化合物は、当業者には既知のものである。
【0200】
ヒトの瘢痕を抑制する結果として得ることができる多くの利点は、他の動物、特に、家畜用動物またはペット(例えば、馬、牛、犬、猫など)にも適用することができる。従って、本発明の薬剤および方法は、非ヒト動物の瘢痕の抑制にも使用することができる。
【0201】
ここで、下記の配列情報(Sequence Information)、実験結果および図面に沿って、本発明を、さらに詳述する:
【図面の簡単な説明】
【0202】
【図1】GABAAレセプターアゴニストであるガボクサドール塩酸塩または希釈対照(コントロール)(PBS)で治療された創傷の治癒に際して形成される瘢痕の巨視的VASスコアの平均差(mean difference)を比較したグラフである。スコアは、創傷形成から70日後に評価した。べた黒の円は、差分値(VAS希釈対象 - VAS治療で計算される)を示し、棒線が±95%信頼区間(治療群あたりn=6)を示す。「*」は、VAS スコアとの差(p<0.038)に基づいて十分に有意に瘢痕が抑制されたことが示され、「+」は、瘢痕を抑制する傾向が示される(p=0.11)。示された値は、(左側から右側にかけて)ガボクサドール塩酸塩の水薬0.1μM、ガボクサドール塩酸塩の水薬100μM、およびガボクサドール塩酸塩の水薬500μMの100μlを2回投与して治療した創傷の瘢痕に相当する。
【図2】治療された瘢痕[総量3.52ngのGABAAレセプターアゴニストであるガボクサドール塩酸塩(ガボクサドール塩酸塩0.1μMの水薬の100μlを2度投与した)で治療した創傷の治癒から得られたもの)]を左側に、希釈対照(コントロール)創傷の治癒から得られた瘢痕を右側にして、巨視的外観を表す代表例を示す。
【図3】治療された瘢痕[総量3.52ngのGABAAレセプターアゴニストであるガボクサドール塩酸塩(ガボクサドール塩酸塩100μMの水薬の100μlを2度投与した)で治療した創傷の治癒から得られたもの)]を左側に、希釈対照(コントロール)創傷の治癒から得られた瘢痕を右側にして、巨視的外観を表す代表例を示す。
【図4】治療された瘢痕[総量3.52ngのGABAAレセプターアゴニストであるガボクサドール塩酸塩(ガボクサドール塩酸塩0.1μMの水薬の100μlを2度投与した)で治療した創傷の治癒から得られたもの)]を左側に、希釈対照(コントロール)創傷の治癒から得られた瘢痕を右側にして、巨視的外観を表す代表例を示す。当図は、5倍率で、マッソントリクローム染色(Masson's trichrome)で染色した瘢痕の組織片から得た。矢印は、全層型切開創および治療に続いて生じる瘢痕の縁を示す。「E」は表皮(epidermis)を示し、「S」は瘢痕(scar)を示し、「ND」は瘢痕の周囲の正常真皮(normal dermis)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0203】
実験結果
GABAAレセプターアゴニストであるガボクサドール塩酸塩(シグマ アルドリッチ、カタログ番号T101)を、リン酸緩衝食塩水(PBS)で希釈し、以下濃度の本発明の薬剤を作成した:
i) 1.76ng/100μL (濃度0.1μMであり、薬剤の各100μlは、10ピコモル(pmol)のガボクサドール塩酸塩を提供する);
ii) 1.76ng/100μL (濃度100μMであり、薬剤の各100μlは、10ナノモル(nmol)のガボクサドール塩酸塩を提供する); および
iii) 8.83μg/100μL (濃度500μMであり、薬剤の各100μlは、50ナノモル(nmol)のガボクサドール塩酸塩を提供する)
【0204】
瘢痕モデル
0日目に、オトナのオスのスプレーグドーリー(Sprague Dawley)ラット(体重200-250g)に麻酔をかけ、剪毛し、創傷部位として、テンプレート(2つの創傷モデルがあり、各々1cmの長さで、頭蓋骨(skull)の底部から5cm離れた位置のものと、正中線(midline)から1cm離れた位置のものとがある)に従って傷跡をつけた。
【0205】
本発明の1つの薬剤[リン酸緩衝食塩水(PBS, pH 7.2−GIBCO BRL, カタログ番号# 20012-019を購入)とプラシーボ(PBSのみ)の100マイクロリットルに、ガボクサドール塩酸塩が、0.1μM、100μM、または500μM含まれる]を、皮内注射を用いて、創傷の形成部位に注入した。皮内注射により、隆起した小疱(bleb)が形成されたが、これを直ちに切開して、長さ1cmの実験的創傷を作成した。
【0206】
すべての治療創傷または希釈対照(コントロール)創傷は、創傷形成後の1日目に再注射し、適切な治療(薬またはプラシーボ)をこの注射の50μlで1cm創傷の2つの縁の各々に与え、創傷形成から70日目に組織回収(harvest)した。
【0207】
瘢痕の評価(アセスメント)
創傷は、創傷形成後(1日目および組織回収日の再注射前)に撮影した。瘢痕は、視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)を用いて評価したが、このVASは、スケールを示す0-10cmのラインから構成され、左から右にかけて0(正常の皮膚に相当する)から10(酷い瘢痕を示す)となっている。
【0208】
微視的評価として、瘢痕は、実験用ラットから切除し(少量の周囲の正常皮膚を含めて)、その瘢痕を、10% (v/v)の緩衝化された規定の生理的食塩水で固定化した。その後、この固定化組織に、ワックス組織処理(wax histology)を施し、マッソントリクローム染色(Masson's trichrome)を使用して染色し、再生真皮の瘢痕を評価した。
【0209】
結果
0.1μM、100μM、または500μM濃度のガボクサドール塩酸塩(PBS希釈)(各々、センチメートルあたり1.76ng、1.76μg、および8.83μgのガボクサドールが各投与で与えられる)の水薬100μlを、2回の連続的な皮内注射(intradermal injection)を含む治療により、希釈対照(コントロール)創傷により生じた瘢痕と比較して、全層型(full thickness)皮膚切開性創傷により生じた瘢痕の巨視的外観が改善した。
【0210】
得られた改善が最も大きかったのは、GABAAレセプターアゴニストであるガボクサドールが、センチメートルあたり1.76ngまたは1.76μg与えられた場合(この場合、0.1μMまたは100μMの水薬を投与した)であり、得られた有意な結果は、図2および図3に示す代表例で確認することができる(結果は各々0.1μMまたは100μMのガボクサドール塩酸塩の水薬を使用して得た)。
【0211】
0.1μMのガボクサドール塩酸塩を使用する治療では、治療創傷の巨視的外観に関する評価として、統計的に有意に瘢痕が抑制された[希釈対照(コントロール)と比較してp<0.05を示した]。100μMのガボクサドール塩酸塩を使用する治療では、瘢痕を抑制する傾向が示された[希釈対照(コントロール)と比較してp=0.11を示した]。これらの結果は図1に示している。
【0212】
0.1μM、100μM、または500μM濃度のガボクサドール塩酸塩(PBS希釈)の水薬100μlによる創傷の治療は、微視的に評価したところ、瘢痕を軽減してもいた(0.1μM水薬で得られた代表的な結果で確認することができ、図4に示す)。
【0213】
これらの結果から、GABAAレセプターアゴニスト(例えば、ガボクサドール塩酸塩)は、インビボで、創傷の治癒に際して形成される瘢痕を予防、軽減、または抑制できることが明示された。また、これらの結果から、治療に効果的な量のこのようなGABAAレセプターアゴニストが、創傷または創傷が形成されようとしている部位に投与された場合に、瘢痕を抑制できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷の治癒に際して形成される瘢痕を予防、軽減、または抑制するために使用されるGABAAレセプターのアゴニスト。
【請求項2】
GABAAレセプターのアゴニストが、GABAAレセプター特異的アゴニストである請求項1に記載のアゴニスト。
【請求項3】
GABAAレセプターのアゴニストが、ガボクサドール(7-テトラヒドロイソオキサゾロ[5,4-c]ピリジン-3-オール)またはその薬学的に許容される塩から成る請求項1または請求項2に記載のアゴニスト。
【請求項4】
瘢痕を予防、軽減、または抑制しようとする部位に投与して使用される上記請求項のいずれかに記載のアゴニスト。
【請求項5】
アゴニストが投与される部位が、創傷が形成されようとする部位および創傷から成る群から選択される請求項4に記載のアゴニスト。
【請求項6】
瘢痕が、真皮の創傷の治癒に際して形成される瘢痕から成る上記請求項のいずれかに記載のアゴニスト。
【請求項7】
瘢痕が、眼の創傷、眼の外科手術から生じる創傷、LASIK外科手術から生じる創傷、LASEK外科手術から生じる創傷、PRK外科手術から生じる創傷、緑内障濾過手術(glaucoma filtration surgery)から生じる創傷、白内障手術(cataract surgery)から生じる創傷;前嚢収縮(capsular contraction)を受けた創傷;網膜手術(retinal surgery)から生じる創傷;血管(blood vessels)の創傷;腱(tendons)、靱帯(ligaments)または筋肉の創傷;口腔(oral cavity)、唇(lips)、口蓋(palate)の創傷;および腹腔(abdominal cavity)、骨盤腔(pelvic cavity)および胸腔(thoracic cavity)のような体内腔(body
cavities)から成る群から選択される創傷の治癒に際して形成される瘢痕から成る上記請求項のいずれかに記載のアゴニスト。
【請求項8】
創傷が外科的創傷である上記請求項のいずれかに記載のアゴニスト。
【請求項9】
外科的創傷が瘢痕整形手術(scar revision surgery)に関連する請求項8に記載のアゴニスト。
【請求項10】
処方された部位にセンチメートルあたり約20 フェムトモル(fmoles)から100ナノモル(nmoles)の量のGABAAレセプターアゴニストが与えられるように使用される上記請求項のいずれかに記載のアゴニスト。
【請求項11】
GABAAレセプターアゴニストの局所投与(localised administration)が、その使用に含まれる上記請求項のいずれかに記載のアゴニスト。
【請求項12】
皮内注射(intradermal injection)によりGABAAレセプターアゴニストが投与されることが、その使用に含まれる請求項11に記載のアゴニスト。
【請求項13】
創傷の治癒に際して形成される瘢痕を予防、軽減、または抑制するための薬剤を製造するためのGABAAレセプターアゴニストの使用。
【請求項14】
創傷の治癒に際して形成される瘢痕を予防、軽減、または抑制するための方法であって
、治療に効果的な量のGABAAレセプターのアゴニストを、そのような予防、軽減、または抑制を必要とする患者に投与することを含む方法。
【請求項15】
GABAAレセプターアゴニストが、GABAAレセプター特異的アゴニストである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
GABAAレセプターアゴニストが、ガボクサドールまたはその薬学的に許容される塩から成る請求項14または請求項15に記載の方法。
【請求項17】
アゴニストが、瘢痕を予防、軽減、または抑制しようとする部位に投与される請求項14〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
アゴニストを投与される部位が、創傷が形成されようとする部位および創傷から成る群から選択される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
瘢痕が、真皮の創傷の治癒に際して形成される瘢痕から成る請求項14〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
瘢痕が、眼の創傷、眼の外科手術から生じる創傷、LASIK外科手術から生じる創傷、LASEK外科手術から生じる創傷、PRK外科手術から生じる創傷、緑内障濾過手術(glaucoma filtration surgery)から生じる創傷、白内障手術(cataract surgery)から生じる創傷;前嚢収縮(capsular contraction)を受けた創傷;血管(blood vessels)の創傷;腱(tendons)、靱帯(ligaments)または筋肉の創傷;口腔(oral cavity)、唇(lips)、口蓋(palate)の創傷;および腹腔(abdominal cavity)、骨盤腔(pelvic cavity)および胸腔(thoracic cavity)のような体内腔(body cavities)から成る群から選択される創傷の治癒に際して形成される瘢痕から成る請求項14〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
創傷が外科的創傷である請求項14〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
処方された部位にセンチメートルあたり約10ピコモル(pmoles)から200ナノモル(nmoles)の量のGABAAレセプターアゴニストが与えられるように使用される請求項14〜21のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−522020(P2011−522020A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512197(P2011−512197)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001386
【国際公開番号】WO2009/147390
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(500588178)レノボ・リミテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】RENOVO LTD.
【Fターム(参考)】