説明

癌を検出するためのマーカー

【課題】 癌を検出する方法、癌を治療するための医薬組成物、および癌を阻害する物質をスクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、Egfl7遺伝子の発現を測定することを含む癌を検出する方法、Egfl7ポリペプチドもしくはその断片に特異的に結合する抗体、Egfl7ポリヌクレオチドおよび/もしくはその誘導体、またはEgfl7ポリペプチドおよび/もしくはその誘導体を含む癌を治療するための医薬組成物、ならびにEgfl7遺伝子の発現を阻害する物質または促進する物質を選択することを含む、癌を阻害する物質をスクリーニングする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌を検出する方法、癌を検出するためのマーカー、癌を阻害する物質をスクリーニングする方法、および癌を治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内皮細胞で発現および分泌されるEgfl7は、血管形成における内皮細胞の増殖に関与することはないが、血管の管腔構造の形成に必須のタンパク質として知られている。それゆえ、胚胎児期や新生児期など発達が進んでいる段階ではEgfl7の発現は維持され続ける。一方、成育した生物の多くの器官では、Egfl7の発現は減少して認められなくなる。しかし、血管の多い肺、心臓および腎臓等の器官、血管創傷による血管再生部、腫瘍等の増殖組織、妊娠期の生殖器官、および炎症組織等ではEgfl7の発現が認められる。このことは、Egfl7の発現が、血管新生および再生に関与していることを示唆している。上記のように、Egfl7が血管形成における血管の管腔構造の形成に関与していることは知られているものの、この知見以外の機能に関しては解明されていない。
【0003】
【非特許文献1】Leon H.Parkerら、(2004),Nature,428,754−758
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、癌を検出する方法、癌を治療するための医薬組成物、および癌を阻害する物質をスクリーニングする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、Egfl7が、肝臓などの器官では癌化に伴って発現が増加するが、その他の器官では癌化に伴って発現が低減することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)Egfl7遺伝子の発現を測定することを含む、癌を検出する方法。
(2)Egfl7遺伝子が配列番号1または2の塩基配列で特定される遺伝子である、(1)記載の方法。
(3)Egfl7ポリヌクレオチドからなる、癌を検出するためのマーカー。
(4)Egfl7ポリヌクレオチドが配列番号1または2の塩基配列の全部または一部を含むポリヌクレオチドである、(3)記載のマーカー。
【0007】
(5)Egfl7ポリペプチドまたはその断片からなる、癌を検出するためのマーカー。
(6)Egfl7ポリペプチドが配列番号3のアミノ酸配列の全部または一部を含むポリペプチドである、(5)記載のマーカー。
(7)Egfl7ポリペプチドまたはその断片に特異的に結合する抗体を含む、癌を検出するためのキット。
(8)Egfl7ポリヌクレオチドを特異的に増幅するための、少なくとも15塩基長の連続したプライマーまたはEgfl7ポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする少なくとも15塩基長の連続したプローブを含む、癌を検出するためのキット。
(9)Egfl7ポリペプチドまたはその断片に特異的に結合する抗体を含む、癌を治療するための医薬組成物。
【0008】
(10)Egfl7ポリヌクレオチドおよび/またはその誘導体、またはEgfl7ポリペプチドおよび/またはその誘導体を含む、癌を治療するための医薬組成物。
(11)Egfl7遺伝子が発現している細胞と被験試料とを接触させ、被験試料の中からEgfl7遺伝子の発現を阻害する物質または促進する物質を選択することを含む、癌を阻害する物質をスクリーニングする方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、癌を検出することができる。また、癌を阻害する物質をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者らは、血管の管腔構造の形成に必須のタンパク質であるEgfl7遺伝子が特定の癌組織において発現が増加し、また別の癌組織においては発現が低減することを見いだした。そして、Egfl7遺伝子の発現を測定することにより、癌を検出できることを見いだした。本発明において、遺伝子の発現を測定することには、発現量を測定することおよび発現の有無を検出することが包含される。
【0011】
本発明において、癌としては、固形癌、血管腫、血管内皮腫、肉腫、カポシ肉腫、造血器腫瘍、腺癌および扁平上皮癌などの種々の悪性腫瘍が包含され、例えば、肝臓癌、肺癌、腎臓癌、小腸癌、大腸癌、卵巣癌、胃癌、舌癌、食道癌、乳癌、子宮癌、咽頭癌等が挙げられる。さらにこれら癌の転移をも包含する。本発明の検出方法は、肝臓癌、肺癌、腎臓癌、大腸癌、小腸癌、卵巣癌の検出に有効であり、特に腎臓癌、肺癌および大腸癌の検出に有効である。
【0012】
本発明においてEgfl7遺伝子の塩基配列は、公知のものが公開されており、例えば、ヒトEgfl7遺伝子の塩基配列は、公開されたデータベース(GenBank、EMBL、DDBJ)においてアクセッションNo.BC088371(配列番号1)およびNo.BC012377(配列番号2)として登録されている。また、ヒトEgfl7遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号3)は、公開されたデータベース(GenBank、EMBL、DDBJ)において、各々アクセッションNo.AAH88371.1およびNo.AAH12377.1として登録されている。なお、配列番号2の塩基配列は、配列番号1の塩基配列の第1番塩基〜第265番塩基が配列番号2の第1番塩基〜第25番塩基と置換し、第1539番塩基〜第1562番塩基が欠落した塩基配列である。各配列は、例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/から入手できる。
【0013】
本発明において、その発現を測定するEgfl7遺伝子は、検出しようとする対象によって適宜選択することができ、特に限定されないが、通常、脊椎動物由来Egfl7遺伝子、好ましくは哺乳動物由来のEgfl7遺伝子、好ましくはヒト由来Egfl7遺伝子である。
【0014】
本発明の一実施形態において、Egfl7遺伝子は、配列番号1または2の塩基配列で特定される遺伝子である。本発明において、配列番号1または2で特定される遺伝子には、配列番号1または2で表される塩基配列からなる遺伝子、および該遺伝子と機能的に同等の遺伝子が包含される。ここで「機能的に同等」とは、対象となる遺伝子によってコードされるポリペプチドが、配列番号1または2で表される塩基配列からなる遺伝子によってコードされるポリペプチドと同等の生物学的機能、生化学的機能を有することを指す。
【0015】
あるポリペプチドと機能的に同等のポリペプチドをコードする遺伝子を調製する当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook,J et al.,Molecular Cloning 2nd ed.,9.47−9.58,Cold Spring Harbor Lab.press(1989))を利用する方法が挙げられる。なお、本明細書中において、「遺伝子」という用語には、DNAのみならずそのmRNAやcDNAも含むものとする。また、全長遺伝子のみならずESTも含むものとする。
【0016】
従って、配列番号1または2で表される塩基配列で特定される遺伝子には、配列番号1または2で表される塩基配列の全部または一部を含む塩基配列からなる遺伝子が包含される。配列番号1または2で表される塩基配列の全部または一部を含む塩基配列からなる遺伝子の塩基長は、機能的に同等であるポリペプチドをコードする限り特に制限されない。塩基配列の一部とは、各塩基配列の一部分の塩基配列であって、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせるのに十分な塩基配列の長さを有するものであり、例えば、少なくとも15塩基、好ましくは少なくとも100塩基、より好ましくは少なくとも200塩基、最も好ましくは少なくとも1000塩基の配列である。好ましくは各塩基配列において連続する少なくとも15塩基、好ましくは少なくとも100塩基、より好ましくは少なくとも200塩基、最も好ましくは少なくとも1000塩基の配列である。ここで「連続する」とは、基準とする塩基配列のうち連続した塩基配列を含むことを意味する。
【0017】
より具体的には、配列番号1で特定される遺伝子には、配列番号1からなる塩基配列に対し相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつEgfl7と同等の生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなる遺伝子が包含され、配列番号2で特定される遺伝子には、配列番号2からなる塩基配列に対し相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつEgfl7と同等の生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなる遺伝子が包含される。本明細書において、ポリヌクレオチドには、DNAおよびRNAが包含される。
【0018】
本明細書において、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、すなわち、各塩基配列に対し高い相同性(相同性が60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上)を有するポリヌクレオチドがハイブリダイズする条件をいう。より具体的には、このような条件は、当該分野において周知慣用な手法、例えば、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、マイクロアレイ法またはサザンブロットハイブリダイゼーション法などにおいて、具体的には、コロニーまたはプラーク由来のポリヌクレオチドを固定化したメンブランを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(Saline Sodium Citrate;150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウム)溶液を用い、65℃でメンブランを洗浄することにより達成できる。
【0019】
これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するポリヌクレオチドが効率的に得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0020】
また、塩基配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、LAMP法などを利用して、各遺伝子と機能的に同等の遺伝子を単離することも可能である。
【0021】
これらハイブリダイゼーション技術や遺伝子増幅技術により単離される、機能的に同等の遺伝子は、通常、アミノ酸配列レベルにおいて高い相同性または同一性を有する。高い相同性または同一性とは、アミノ酸レベルにおいて、通常、少なくとも50%以上、好ましくは75%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性または同一性を指す。
【0022】
アミノ酸配列や塩基配列の相同性または同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877,1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.J.Mol.Biol.215:403−410,1990)。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0023】
癌を検出する方法
本発明における癌を検出する方法は、Egfl7遺伝子の発現を測定することを特徴とする。被検体由来の試料中におけるEgfl7遺伝子の発現を検出する方法としては、被検体由来の試料中のEgfl7遺伝子によってコードされるポリペプチド(本明細書中、Egfl7ポリペプチドと称する)を検出する方法、被検体由来の試料中のEgfl7遺伝子の全部または一部であるポリヌクレオチド(本明細書中、Egfl7ポリヌクレオチドと称する)、特にEgfl7mRNAを検出する方法が挙げられる。ここで、Egfl7mRNAの検出には、該RNAから変換されたcDNAやcRNAの検出も包含される。
【0024】
すなわち、本発明における癌を検出する方法は、Egfl7ポリヌクレオチドまたはEgfl7ポリペプチドもしくはその断片をマーカーとして用いるものである。
【0025】
一実施形態においてEgfl7ポリヌクレオチドからなるマーカーは、配列番号1または2の塩基配列の全部または一部を含むポリヌクレオチドからなる。配列番号1または2で表される塩基配列の全部または一部を含むポリヌクレオチドの塩基長は、Egfl7遺伝子の全部または一部である限り特に制限されない。塩基配列の一部とは、各塩基配列の一部分の塩基配列であって、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせるのに十分な塩基配列の長さを有するものであり、例えば、少なくとも15塩基、好ましくは少なくとも100塩基、より好ましくは少なくとも200塩基の配列である。好ましくは各塩基配列において連続する少なくとも15塩基、好ましくは少なくとも100塩基、より好ましくは少なくとも200塩基の配列である。ストリンジェントな条件については上記のとおりである。
【0026】
一実施形態において、Egfl7ポリヌクレオチドは、配列番号1もしくは2の塩基配列からなるポリヌクレオチド、または配列番号1もしくは2からなる塩基配列に対し相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつEgfl7と同等の生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0027】
一実施形態においてEgfl7ポリペプチドまたはその断片からなるマーカーは、配列番号3のアミノ酸配列の全部または一部を含むポリペプチドからなる。配列番号3のアミノ酸配列の全部または一部を含むポリペプチドのアミノ酸鎖長は、Egfl7ポリペプチドと同等の機能を有する限り特に制限されない。アミノ酸配列の一部とは、Egfl7ポリペプチドの活性を有するのに十分なアミノ酸鎖長を有するものであり、例えば、少なくとも10残基、好ましくは100残基、より好ましくは少なくとも200残基の配列である。好ましくは各アミノ酸配列において連続する少なくとも10残基、好ましくは100残基、より好ましくは少なくとも200残基の配列である。配列番号3のアミノ酸配列の全部または一部を含むポリペプチドには、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、ならびに配列番号3で表されるアミノ酸配列と少なくとも50%以上の同一性、好ましくは75%以上の同一性、さらに好ましくは85%以上の同一性、さらに好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドが包含される。
【0028】
別の実施形態においてEgfl7ポリペプチドまたはその断片からなるマーカーは、配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列からなり、Egfl7ポリペプチドと同等の生物学的機能を有するポリペプチドからなる。ここで数個とは、通常1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個である。
【0029】
本明細書において、ポリヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドも包含され、ポリペプチドには、オリゴペプチドおよびタンパク質が包含される。
【0030】
1.Egfl7ポリペプチドの検出
試料中のEgfl7ポリペプチドを検出する方法としては、当業者に周知の方法、例えば、酵素結合免疫測定法(ELISA)、二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ法(米国特許第4,376,110号)、モノクローナルポリクローナル抗体サンドイッチアッセイ法(Wideら、KirkhamおよびHunter編集、「ラジオイムノアッセイ法(Radioimmunoassay)」、E.and S.Livingstone、エジンバラ、(1970))、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、プロテインチップによる解析法(蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.5(2002)、蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.8(2002))、2次元電気泳動法、SDSポリアクリルアミド電気泳動法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
以下に、Egfl7ポリペプチドまたはその断片と特異的に結合する抗体を用いて、Egfl7ポリペプチドの発現を検出する方法について詳述する。Egfl7ポリペプチドまたはその断片と特異的に反応する抗体は、肝臓などの器官において発現したEgfl7ポリペプチドと結合することができるため、該抗体を用いて試料中のEgfl7ポリペプチドとの反応を検出することによって、癌を検出することができる。
【0032】
Egfl7ポリペプチドまたはその断片と特異的に反応する抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であり、それぞれEgfl7ポリペプチドのエピトープに結合することができる。該抗体のグロブリンタイプは、上記特徴を有するものである限り特に限定されるものではなく、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれでもよいが、IgGおよびIgMが好ましい。本発明におけるモノクローナル抗体には、特に、重鎖および/または軽鎖の一部が特定の種、または特定の抗体クラスもしくはサブクラス由来であり、鎖の残りの部分が別の種、または別の抗体クラスもしくはサブクラス由来である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、ならびに、所望の生物学的活性を有する限り、Fab、F(ab’)、Fv断片等の免疫反応性の抗体断片が含まれる(米国特許第4,816,567号)。
【0033】
本発明の抗体を作製するにあたり、免疫原(抗原)となるためのポリペプチドを調製する。免疫原ポリペプチドとしては、Egfl7ポリペプチドまたはその断片を用いる。本発明において免疫原として使用可能なEgfl7ポリペプチドのアミノ酸配列および該ポリペプチドをコードするcDNA配列は、上記のとおり公開されている。従って、公開されているアミノ酸配列情報を利用して、当技術分野で公知の手法、例えば固相ペプチド合成法などにより、免疫原として使用するためのEgfl7ポリペプチドまたはその断片を合成することができる。断片としては、Egfl7ポリペプチドの免疫原性を有する断片であればよく、具体的には、Egfl7ポリペプチドのうち少なくとも6アミノ酸、好ましくは6〜200アミノ酸、より好ましくは8〜50アミノ酸からなる部分ペプチドが挙げられる。免疫原としてEgfl7ポリペプチド断片を使用する場合は、KLH、BSAなどのキャリアータンパク質に連結させて使用するのが好ましい。
【0034】
また、公知の遺伝子組換え手法を利用して、Egfl7ポリペプチドをコードするcDNAの情報を用いてEgfl7ポリペプチドを生産することも可能である。以下、組換え手法を用いたEgfl7ポリペプチドの生産に関して説明する。
【0035】
Egfl7ポリペプチド生産用組換えベクターは、上記公開されているcDNA配列を適当なベクターに連結することにより得ることができ、形質転換体は、Egfl7ポリペプチド生産用組換えベクターを、Egfl7ポリペプチドが発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。
【0036】
ベクターには、宿主微生物で自律的に増殖し得るファージまたはプラスミドが使用される。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET21a、pGEX4T、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YEp24、YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、ワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0037】
ベクターにEgfl7cDNAを挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0038】
その他、哺乳動物細胞において用いられるEgfl7ポリペプチド生産用組換えベクターには、プロモーター、Egfl7cDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などが連結されていてもよい。
【0039】
DNA断片とベクター断片とを連結させるには、公知のDNAリガーゼを用いる。そして、DNA断片とベクター断片とをアニーリングさせた後連結させ、Egfl7ポリペプチド生産用組換えベクターを作製する。
【0040】
形質転換に使用する宿主としては、Egfl7ポリペプチドを発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。
【0041】
一例として、細菌を宿主とする場合は、Egfl7ポリペプチド生産用組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、Egfl7DNA、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)BRLなどが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。プロモーターは、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0042】
酵母、動物細胞、昆虫細胞などを宿主とする場合には、同様に、当技術分野で公知の手法に従って、Egfl7ポリペプチドを生産することができる。
【0043】
本発明において免疫原として使用するEgfl7ポリペプチドは、上記作製した形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、培養細胞、培養菌体、または細胞もしくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。上記形質転換体を培地で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0044】
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0045】
培養は、通常、振盪培養または通気攪拌培養などの好気的条件下、37℃で6〜24時間行う。培養期間中、pHは中性付近に保持する。pHの調整は、無機または有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0046】
培養後、Egfl7ポリペプチドが菌体内または細胞内に生産される場合には、菌体または細胞を破砕することによりEgfl7ポリペプチドを抽出する。また、Egfl7ポリペプチドが菌体外または細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体または細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独でまたは適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中からEgfl7ポリペプチドを単離精製することができる。Egfl7ポリペプチドが得られたか否かは、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動等により確認することができる。
【0047】
なお、以上の方法によって得られる組換えEgfl7ポリペプチドには、他の任意のタンパク質との融合タンパク質も含まれる。例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)や緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質などが例示できる。さらに、形質転換細胞で発現されたペプチドは、翻訳された後、細胞内で各種修飾を受ける場合がある。したがって、修飾されたペプチドもEgfl7ポリペプチドとして用いることができる。このような翻訳後修飾としては、N末端メチオニンの脱離、N末端アセチル化、糖鎖付加、細胞内プロテアーゼによる限定分解、ミリストイル化、イソプレニル化、リン酸化などが例示できる。
【0048】
次に、得られたタンパク質を緩衝液に溶解して免疫原を調製する。なお、必要であれば、免疫を効果的に行うためにアジュバントを添加してもよい。アジュバントとしては、市販の完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント等が挙げられ、これらの何れのものを混合してもよい。
【0049】
モノクローナル抗体は、例えばハイブリドーマ法(KOHLER AND MILSTEIN,NATURE(1975)256:495)、または、組換え方法(米国特許第4,816,567号)により製造してもよい。また、ファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。例えば、以下のようにして作製することができる。
【0050】
i)免疫および抗体産生細胞の採取
上記のようにして得られた免疫原を、哺乳動物、例えばラット、マウス(例えば近交系マウスのBALB/c)、ウサギなどに投与する。免疫原の1回の投与量は、免疫動物の種類、投与経路などにより適宜決定されるものであるが、動物1匹当たり約50〜200μgである。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に免疫原を注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、初回免疫後、数日から数週間間隔で、好ましくは1〜4週間間隔で、2〜6回、好ましくは3〜4回追加免疫を行う。初回免疫の後、免疫動物の血清中の抗体価の測定をELISA(Enzyme−Linked Immuno Sorbent Assay)法等により繰り返し行い、抗体価がプラトーに達したときは、免疫原を静脈内または腹腔内に注射し、最終免疫とする。そして、最終免疫の日から2〜5日後、好ましくは3日後に、抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞または局所リンパ節細胞が好ましい。
【0051】
ii)細胞融合
ハイブリドーマを得るため、上述のように免疫動物から得た抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。
【0052】
抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞としては、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。また株化細胞は、免疫動物と同種系の動物に由来するものが好ましい。ミエローマ細胞の具体例としては、BALB/cマウス由来のヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ(HGPRT)欠損細胞株である、P3X63−Ag.8株、P3X63−Ag.8.U1株、P3/NSI/1−Ag4−1株、P3x63Ag8.653株またはSp2/0−Ag14株などが挙げられる。
【0053】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地などの動物細胞培養用培地中で、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを約1:1〜20:1の割合で混合し、細胞融合促進剤の存在下にて融合反応を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量1,500〜4,000ダルトンのポリエチレングリコール等を約10〜80%の濃度で使用することができる。また場合によっては、融合効率を高めるために、ジメチルスルホキシドなどの補助剤を併用してもよい。さらに、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0054】
iii)ハイブリドーマの選別およびクローニング
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を、例えばウシ胎児血清含有RPMI−1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上に2×10個/ウエル程度まき、各ウエルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。培養温度は、20〜40℃、好ましくは約37℃である。ミエローマ細胞がHGPRT欠損株またはチミジンキナーゼ(TK)欠損株のものである場合には、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジンを含む選択培地(HAT培地)を用いることにより、抗体産生能を有する細胞とミエローマ細胞のハイブリドーマのみを選択的に培養し、増殖させることができる。その結果、選択培地で培養開始後、約10日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0055】
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウエルに含まれる培養上清の一部を採取し、酵素免疫測定法(EIA:Enzyme Immuno AssayおよびELISA)、放射免疫測定法(RIA:Radio Immuno Assay)等によって行うことができる。
【0056】
融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立する。本発明のハイブリドーマは、後述するように、RPMI1640、DMEM等の基本培地中での培養において安定であり、Egfl7ポリペプチドと特異的に反応するモノクローナル抗体を産生、分泌するものである。
【0057】
iv)モノクローナル抗体の採取
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法または腹水形成法等を採用することができる。
【0058】
細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地、DMEM培地または無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃,5%CO濃度)で2〜10日以上培養し、その培養上清から抗体を取得する。
【0059】
腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内にハイブリドーマを約1×10個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜4週間後に腹水または血清を採取する。
【0060】
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫酸アンモニウム沈澱、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独でまたは適宜組み合わせることにより、精製された本発明のモノクローナル抗体を得ることができる。
【0061】
v)ポリクローナル抗体の採取
ポリクローナル抗体を作製する場合は、前記と同様に動物を免疫し、最終の免疫日から6〜60日後に、酵素免疫測定法(EIAおよびELISA)、放射免疫測定法(RIA)等で抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得る。その後は、抗血清中のポリクローナル抗体の反応性をELISA法などで測定する。
【0062】
Egfl7ポリペプチドに対する抗体を用いて被検体由来の試料中のEgfl7遺伝子の発現を検出し、癌を検出する場合には、被検体の試料中のEgfl7ポリペプチドに対する抗体またはその標識化抗体と結合する抗原ポリペプチドを測定することにより、癌の存在を検出できる。そして癌患者またはそのハイリスク者であると判定することができる。すなわち、ここで使用する抗体または標識化抗体は、癌により生じた細胞で発現しているEgfl7ポリペプチドと特異的に結合する抗体であるから、非癌患者に由来する試料と比較して、この抗体と結合する抗原ポリペプチドの量が増加又は低減した試料を、癌化した細胞を含む試料および/または癌患者またはそのハイリスク患者に由来する試料として判定することができる。なおその際に、好ましくは2種類以上、好ましくは5種類以上、さらに好ましくは10種類以上、最も好ましくは15〜39種類の抗体について試料中のEgfl7ポリペプチドとの結合を判定する。被検体由来の試料としては、血液、臓器・組織、細胞などの生体由来試料を対象とすることができる。
【0063】
癌のうち、腎臓癌、肺癌、小腸癌、大腸癌および卵巣癌、特に腎臓癌、肺癌および大腸癌については、試料中において、非癌患者に由来する試料と比較して、該抗原ポリペプチドの量が低減している場合に、癌患者またはそのハイリスク患者であると判定することができる。一方、癌のうち、肝臓癌については、試料中において、非癌患者に由来する試料と比較して、該抗原ポリペプチドの量が増加している場合に、癌患者またはそのハイリスク患者であると判定することができる。
【0064】
また別の態様は、抗体とEgfl7ポリペプチドとの結合を液相系において行う方法である。例えば、標識化抗体と試料とを接触させて標識化抗体とEgfl7ポリペプチドを結合させ、この結合体を分離し、標識シグナルを検出する。
【0065】
液相系での検出の別の方法は、Egfl7ポリペプチドに対する抗体(一次抗体)と試料とを接触させて一次抗体と抗原ポリペプチドを結合させ、この結合体に標識化抗体(二次抗体)を結合させ、この三者の結合体における標識シグナルを検出する。あるいは、さらにシグナルを増強させるためには、非標識の二次抗体を先ず抗体+抗原ポリペプチド結合体に結合させ、この二次抗体に標識物質を結合させるようにしてもよい。このような二次抗体への標識物質の結合は、例えば二次抗体をビオチン化し、標識物質をアビジン化しておくことによって行うことができる。あるいは、二次抗体の一部領域(例えば、Fc領域)を認識する抗体(三次抗体)を標識し、この三次抗体を二次抗体に結合させるようにしてもよい。なお、一次抗体と二次抗体は、両方ともモノクローナル抗体を用いることもでき、あるいは、一次抗体と二次抗体のいずれか一方をポリクローナル抗体とすることもできる。液相からの結合体の分離やシグナルの検出は上記と同様とすることができる。
【0066】
また別の態様は、抗体とEgfl7ポリペプチドとの結合を固相系において試験する方法である。この固相系における方法は、極微量のEgfl7ポリペプチドの検出と操作の簡便化のため好ましい方法である。すなわちこの固相系の方法は、Egfl7ポリペプチドに対する抗体(一次抗体)を固相(樹脂プレート、メンブレン、ビーズ等)に固定化し、この固定化抗体にEgfl7ポリペプチドを結合させ、非結合ペプチドを洗浄除去した後、プレート上に残った抗体+Egfl7結合体に標識化抗体(二次抗体)を結合させ、この二次抗体のシグナルを検出する方法である。この方法は、いわゆる「サンドイッチ法」と呼ばれる方法であり、マーカーとして酵素を用いる場合には、ELISAとして広く用いられている方法である。一次抗体と二次抗体は、両方ともモノクローナル抗体を用いることもでき、あるいは、一次抗体と二次抗体のいずれか一方をポリクローナル抗体とすることもできる。シグナルの検出は上記と同様とすることができる。
【0067】
2.Egfl7mRNAの検出
被検体由来の試料中のEgfl7mRNAを検出する方法としては、Egfl7ポリヌクレオチドを特異的に増幅するための、少なくとも15塩基長の連続したプライマーまたはEgfl7ポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする少なくとも15塩基長の連続したプローブを用いて被検体由来の試料中のEgfl7遺伝子の発現を検出する方法が挙げられる。
【0068】
該プライマーまたはプローブは、被検体由来の試料中に発現しているEgfl7遺伝子のmRNAまたはmRNAから合成したcDNAまたはcRNAと特異的に結合することから、これらを用いて試料中のEgfl7遺伝子の発現を検出することができる。
【0069】
本発明のプライマーは、Egfl7ポリヌクレオチドの少なくとも一部を増幅するものであればよい。プライマーおよびプローブは、当業者に公知の手法に従って、設計することができる。プライマーおよびプローブ設計の留意点として、例えば以下を指摘することができる。
【0070】
プライマーとして実質的な機能を有する長さは、通常15塩基以上、好ましくは16〜50塩基であり、さらに好ましくは18〜30塩基である。またプローブとして実質的な機能を有する長さとしては、通常15塩基以上、好ましくは16〜1000塩基、さらに好ましくは50〜500塩基である。
【0071】
また設計の際には、プライマーまたはプローブの融解温度(Tm)を確認することが好ましい。Tmとは、任意のポリヌクレオチド鎖の50%がその相補鎖とハイブリッドを形成する温度を意味し、鋳型ポリヌクレオチドとプライマーまたはプローブとが二本鎖を形成してアニーリングまたはハイブリダイズするためには、アニーリングまたはハイブリダイゼーションの温度を最適化する必要がある。一方、この温度を下げすぎると非特異的な反応が起こるため、温度は可能な限り高いことが望ましい。従って、設計しようとするプライマーまたはプローブのTmは、増幅反応またはハイブリダイゼーションを行う上で重要な因子である。Tmの確認には、公知のプライマーまたはプローブ設計用ソフトウエアを利用することができ、本発明で利用可能なソフトウエアとしては、例えばOligoTM(National Bioscience Inc.(米国)製)、GENETYX(ソフトウェア開発(株)(日本)製)などが挙げられる。またTmの確認は、ソフトウエアを使わず、自ら計算することによっても行うことができる。その場合には、最近接塩基対法(Nearest Neighbor Method)、Wallance法、GC%法等に基づく計算式を利用することができる。本発明では、平均Tmが約45〜65℃であることが好ましい。
【0072】
プライマーまたはプローブとして特異的なアニーリングまたはハイブリダイズが可能な条件としては、その他にもGC含量などがあり、そのような条件は当業者に周知である。
【0073】
上述のように設計したプライマーおよびプローブは、当業者に公知の方法に従って調製することができる。さらに、当業者には周知のように、プライマーまたはプローブには、アニーリングまたはハイブリダイズする部分以外の配列、例えばタグ配列などの付加配列が含まれていてもよく、上述したプライマーまたはプローブにそのような付加配列が付加されたものも本発明の範囲内に含まれるものとする。
【0074】
ヒトEgfl7ポリヌクレオチドを特異的に増幅するためのプライマーとしては、配列番号1の塩基配列から選定した少なくとも2種類の連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドであって、かつ選定したオリゴヌクレオチド間に1塩基以上の間隔を有するオリゴヌクレオチドからなるプライマーセット、配列番号2の塩基配列から選定した少なくとも2種類の連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドであって、かつ選定したオリゴヌクレオチド間に1塩基以上の間隔を有するオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットが挙げられる。
【0075】
ヒトEgfl7ポリヌクレオチドを特異的に増幅するためのプライマーとしては、具体的には、配列番号4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号5の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットが挙げられる。アフリカツメガエルEgfl7ポリヌクレオチドを特異的に増幅するためのプライマーとしては、具体的には、配列番号8の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号9の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットが挙げられる。
【0076】
被検体由来の試料におけるEgfl7遺伝子の発現を検出するためには、上記プライマーおよび/またはプローブをそれぞれ増幅反応またはハイブリダイゼーション反応において用い、その増幅産物またはハイブリッド産物を検出する。
【0077】
被検体由来の試料としては、血液、臓器・組織、細胞などの生体由来試料を対象とすることができる。
【0078】
増幅反応またはハイブリダイゼーション反応を行う場合には、通常は、被検体由来の試料から被検ポリヌクレオチドを調製する。被検ポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAのいずれでもよい。DNAまたはRNAは、当技術分野で周知の方法を適宜使用して抽出することができる。例えば、DNAを抽出する場合には、フェノール抽出およびエタノール沈殿を行う方法、ガラスビーズを用いる方法など、またRNAを抽出する場合には、グアニジン−塩化セシウム超遠心法、ホットフェノール法、またはチオシアン酸グアジニウム−フェノール−クロロホルム(AGPC)法などを利用することができる。以上のように調製した試料または被検ポリヌクレオチドを用いて、以下に示す増幅反応および/またはハイブリダイゼーション反応を行う。
【0079】
抽出されたRNAはさらに精製してmRNAとして使用することが好ましい。精製方法は特に限定されないが、真核細胞の細胞質に存在するmRNAの多くは、その3’端にポリ(A)配列を持つため、この特徴を利用して、例えば、以下のように実施することができる。まず抽出した全RNAにビオチン化オリゴ(dT)プローブ を加えてポリ(A)+RNAを吸着させる。次に、ストレプトアビジンを固定化した常磁性粒子担体を加え、ビオチン/ストレプトアビジン間の結合を利用して、ポリ(A)+RNAを捕捉させる。洗浄操作の後、最後にオリゴ(dT)プローブからポリ(A)+RNAを溶出する。また、オリゴ(dT)セルロースカラムを用いてポリ(A)+RNAを吸着させ、これを溶出して精製する方法を採用してもよい。溶出されたポリ(A)+RNAは、さらに、ショ糖密度勾配遠心法等により分画してもよい。
【0080】
プライマーを用いて被検ポリヌクレオチドを鋳型とした増幅反応を行い、その特異的増幅反応を検出することにより、試料中のEgfl7遺伝子の発現を検出することができる。
【0081】
増幅手法としては、特に限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法の原理を利用した公知の方法、例えば、PCR法、RT−PCR法、リアルタイムPCR法等が挙げられる。その他の増幅手法としては、LAMP(Loop−mediated isothermal Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic acids)法、RCA(Rolling Circle Amplification)法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法などを挙げることができる。増幅は、増幅産物が検出可能なレベルになるまで行う。
【0082】
例えば、PCR法は、被検ポリヌクレオチドであるDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼにより、一対のプライマー間の塩基配列を合成するものである。PCR法によれば、変性、アニーリングおよび合成からなるサイクルを繰り返すことによって、増幅断片を指数関数的に増幅させることができる。PCR法の最適条件は、当業者であれば容易に決定することができる。
【0083】
またRT−PCR法では、まず、被検ポリヌクレオチドであるRNAを鋳型として、逆転写酵素反応によりcDNAを作製し、その後、作製したcDNAを鋳型として一対のプライマーを用いてPCR法を行うものである。
【0084】
なお、増幅手法として競合PCR法やリアルタイムPCR法等の定量的PCR法などを採用することにより、定量的な検出が可能となる。リアルタイムPCR(TaqMan PCR)法では、5’端は蛍光色素(レポーター)で、3’端は消光剤(クエンチャー)で標識した、目的遺伝子の特定領域にハイブリダイズするプローブが使用される。プローブは、通常の状態ではクエンチャーによってレポーターの蛍光が抑制されている。この蛍光プローブ を目的遺伝子に完全にハイブリダイズさせた状態で、その外側からTaq DNAポリメラーゼを用いてPCRを行う。Taq DNAポリメラーゼによる伸長反応が進むと、そのエキソヌクレアーゼ活性により蛍光プローブ が5’端から加水分解され、レポーター色素が遊離し、蛍光を発する。リアルタイムPCR法は、この蛍光強度をリアルタイムでモニタリングすることにより、鋳型DNAの初期量を定量する。
【0085】
またLAMP法では、計6領域の塩基配列を認識する4種類のオリゴヌクレオチドからなるプライマー、鎖置換合成活性を有する核酸合成酵素、および基質を用い、熱変性工程を必要とせずに、終始等温で速やかに特異性の高い遺伝子増幅反応が進行する。LAMP法の最適条件は、当業者であれば容易に決定することができる。
【0086】
上記増幅反応後に特異的な増幅反応が起こったか否かを検出するには、増幅反応により得られる増幅産物を特異的に認識することができる公知の手段を用いることができる。例えば、アガロースゲル電気泳動法等を利用して、特定のサイズの増幅断片が増幅されているか否かを確認することにより、特異的な増幅反応を検出することができる。
【0087】
あるいは、増幅反応の過程で取り込まれるdNTPに、放射性同位体、蛍光物質、発光物質などの標識体を作用させ、この標識体を検出することができる。放射性同位体としては、32P、125I、35Sなどを用いることができる。また蛍光物質としては、例えば、フルオレセン(FITC)、スルホローダミン(SR)、テトラメチルローダミン(TRITC)などを用いることができる。また発光物質としてはルシフェリンなどを用いることができる。
【0088】
これら標識体の種類や標識体の導入方法等に関しては、特に制限されることはなく、従来公知の各種手段を用いることができる。例えば標識体の導入方法としては、放射性同位体を用いるランダムプライム法が挙げられる。
【0089】
標識したdNTPを取り込んだ増幅産物を観察する方法としては、上述した標識体を検出するための当技術分野で公知の方法であればいずれの方法でもよい。例えば、標識体として放射性同位体を用いた場合には、放射活性を、例えば液体シンチレーションカウンター、γ−カウンターなどにより計測することができる。また標識体として蛍光を用いた場合には、その蛍光を蛍光顕微鏡、蛍光プレートリーダーなどを用いて検出することができる。
【0090】
以上のようにして特異的な増幅反応の増減により、試料においてEgfl7遺伝子の発現の増減を検出できる。試料中においてEgfl7遺伝子の発現が、非癌患者に由来する試料と比較して、増加又は低減している場合に、癌が存在すると判定できる。
【0091】
癌のうち、腎臓癌、肺癌、小腸癌、大腸癌および卵巣癌、特に腎臓癌、肺癌および大腸癌については、試料中において、非癌患者に由来する試料と比較して、Egfl7遺伝子の発現が低減している場合に、癌患者またはそのハイリスク患者であると判定することができる。一方、癌のうち、肝臓癌については、試料中において、非癌患者に由来する試料と比較して、Egfl7遺伝子の発現が増加している場合に、癌患者またはそのハイリスク患者であると判定することができる。
【0092】
また、プローブを用いて試料または被検ポリヌクレオチドに対するハイブリダイゼーション反応を行い、その特異的結合(ハイブリッド)を検出することにより、Egfl7遺伝子の発現を検出することもできる。
【0093】
ハイブリダイゼーション反応は、プローブがEgfl7ポリヌクレオチドのみと特異的に結合するような条件、すなわちストリンジェントな条件下で行う必要がある。そのようなストリンジェントな条件は当技術分野で周知であり、特に限定されない。ストリンジェントな条件としては、例えばナトリウム濃度が、10〜300mM、好ましくは20〜100mMであり、温度が25〜70℃、好ましくは42〜65℃における条件が挙げられる。
【0094】
ハイブリダイゼーションを行う場合には、プローブに蛍光標識(フルオレセイン、ローダミンなど)、放射性標識(32Pなど)、酵素標識(アルカリホスファターゼ、西洋ワサビパーオキシダーゼ等)、ビオチン標識等の適当な標識を付加することができる。従って、以下に述べる本発明の検出用キットには、上記のような標識を付加したプローブも含まれる。
【0095】
標識化プローブを用いた検出は、試料またはそれから調製した被検ポリヌクレオチドとプローブとをハイブリダイズ可能なように接触させることを含む。「ハイブリダイズ可能なように」とは、上述したストリンジェントな条件下にて特異的な結合が起こる環境(温度、塩濃度)において、ということである。具体的には、試料または被検ポリヌクレオチドをスライドグラス、メンブラン、マイクロタイタープレート等の適当な固相に固定化し、標識を付加したプローブを添加することにより、プローブと試料または被検ポリヌクレオチドとを接触させてハイブリダイゼーション反応を行い、ハイブリダイズしなかったプローブを除去した後、試料または被検ポリヌクレオチドとハイブリダイズしているプローブの標識を検出する。標識が検出された場合には、試料においてEgfl7遺伝子が発現していることとなる。
【0096】
また、標識の濃度を指標とすることにより、定量的な検出も可能となる。標識化プローブを用いた検出方法の例としては、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)法等を挙げることができる。
【0097】
上記で述べたような本発明の検出方法における判定基準としては、典型的には、ROC曲線(受信者動作特性曲線)を作成してカットオフ値(病態識別値)を設定し、所定のカットオフ値を基準として、癌が存在すること、ならびに癌を伴う患者またはハイリスク患者であることを判定する方法が挙げられる。
【0098】
その他の検出方法として、例えば、サブトラクション法(Sive,H.L.and John,T.St.(1988)Nucleic Acids Research 16,10937、Wang,Z.,and Brown,D.D.(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.88,11505−11509)、ディファレンシャル・ディスプレイ法(Liang,P.,and Pardee,A.B.(1992)Science 257,967−971、Liang,P.,Averboukh,L.,Keyomarsi,K.,Sager,R.,and Pardee,A.B.(1992)Cancer Research 52,6966−6968)、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法(John,T.St.,and Davis,R.W.Cell(1979)16,443−452)、また、適当なプローブ を用いたクロスハイブリダイゼーション法(“Molecular Cloning,A Laboratory Manual”Maniatis,T.,Fritsch,E.F.,Sambrook,J.(1982)Cold Spring Harbor Lab. press)等が挙げられる。
【0099】
癌を検出するためのキット
本発明はまた、癌を検出するためのキットに関する。該キットは、Egfl7遺伝子の発現を検出する手段として、Egfl7ポリペプチドもしくはその断片と特異的に結合する抗体、Egfl7ポリヌクレオチドを特異的に増幅するための少なくとも15塩基長の連続したプライマー、およびEgfl7をコードするポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする少なくとも15塩基長の連続したプローブから選択される少なくとも1種を含む。このようなキットとしては、被検成分の種類に応じて各種のものが市販されており、本発明のキットも、Egfl7遺伝子の発現を検出する上記手段を用いることを除き、公知公用のキットに用いられている各要素によって構成することができる。Egfl7遺伝子の発現を検出するためのプライマー、プローブまたは抗体に加え、例えば、標識二次抗体、担体、洗浄バッファー、試料希釈液、酵素基質、反応停止液、標準物質等を含みうる。
【0100】
医薬組成物
本発明により、Egfl7遺伝子の発現が特定の癌、特に肝臓癌の組織において増加することから、Egfl7ポリペプチドまたはその断片に特異的に結合する抗体を投与することにより、癌を治療することが可能であると考えられる。従って、本発明の一実施形態では、Egfl7ポリペプチドまたはその断片に特異的に結合する抗体を含む、癌を治療するための医薬組成物に関する。
【0101】
さらに、本発明者らは、Egfl7遺伝子の発現が、特定の癌、特に腎臓癌、肺癌、小腸癌、大腸癌および卵巣癌の癌組織において低減することから、癌細胞においてEgfl7遺伝子を発現させることにより、もしくはEgfl7ポリヌクレオチドおよび/またはその誘導体、またはEgfl7ポリペプチドおよび/またはその誘導体を投与することにより、癌を治療することが可能であると考えられる。
【0102】
従って、本発明の一実施形態では、Egfl7ポリヌクレオチドおよび/またはその誘導体含む癌を治療するための医薬組成物、ならびにEgfl7ポリペプチドおよび/またはその誘導体を含む癌を治療するための医薬組成物に関する。
【0103】
ポリヌクレオチド誘導体としては、例えば、ポリヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合またはN3’−P5’ホスホアミダイト結合などに変換されたポリヌクレオチド誘導体、リボースとリン酸ジエステル結合がペプチド結合に変換されたポリヌクレオチド誘導体、ポリヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピオニルウラシルまたはC−5チアゾールウラシルなどで置換されたポリヌクレオチド誘導体、ポリヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピオニルシトシンまたはフェノキサジン修飾シトシンなどで置換されたポリヌクレオチド誘導体、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースまたは2’−メトキシエトキシリボースなどで置換されたポリヌクレオチド誘導体などを挙げることができる。ポリペプチド誘導体としては、その他のポリペプチドと融合した融合ポリペプチド、ポリエチレングリコールなどのポリマーに結合させた化学修飾ポリペプチドなどが挙げられる。
【0104】
Egfl7ポリペプチドまたはその断片に特異的に結合する抗体、Egfl7ポリヌクレオチドおよびEgfl7ポリペプチドならびにその誘導体は、通常は薬学的に許容される一つ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬組成物として提供するのが望ましい。投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内および静脈内等の非経口投与を挙げることができる。
【0105】
Egfl7ポリヌクレオチドまたはその誘導体を、癌疾患の治療に使用する場合は、Egfl7ポリヌクレオチドを注射により直接投与する方法のほか、該ポリヌクレオチドが組込まれたベクターを投与する方法が挙げられる。上記ベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター等が挙げられ、これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することができる。また、本発明の遺伝子をリポソームなどのリン脂質小胞に導入し、そのリポソームを投与する方法を採用してもよい。Egfl7ポリヌクレオチドの投与経路としては、通常の静脈内、動脈内等の全身投与のほか、免疫系組織(骨髄、リンパ節など)に局所投与を行うことができる。さらに、カテーテル技術、外科的手術等と組み合わせた投与経路を採用することもできる。
【0106】
癌を阻害する物質をスクリーニングする方法
本発明はまた、癌を阻害する物質をスクリーニングする方法に関する。本発明のスクリーニング方法は、Egfl7遺伝子が発現している細胞と、被験試料とを接触させ、被験試料の中からEgfl7遺伝子の発現を阻害する物質またはEgfl7遺伝子の発現を促進する物質を選択することを特徴とするものである。Egfl7遺伝子の発現を測定する方法については、上記のとおりである。
【0107】
Egfl7遺伝子が発現している細胞と、被験試料とを接触させたときに、Egfl7遺伝子の発現が阻害されたときには、当該試料に肝臓癌の進展を阻害する物質が含まれていると判定することができる。一方、Egfl7遺伝子が発現している細胞と、被験試料とを接触させたときに、Egfl7遺伝子の発現が促進されたときには、当該試料に腎臓癌、肺癌、小腸癌、大腸癌および卵巣癌、特に腎臓癌、肺癌および大腸癌の進展を阻害する物質が含まれていると判定することができる。
【0108】
スクリーニングの対象とする被験試料としては、特に制限はなく、例えば、細胞抽出液、合成低分子化合物のライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成ペプチドのライブラリーなどが挙げられる。
【実施例】
【0109】
(方法)
1)受精卵の準備
受精卵の採取16時間前、アフリカツメガエルの雄および雌の皮下に、各々600IUのゴナトトロピンを注射し自然交配によって受精卵を得た。該受精卵を4.5% L−システイン塩酸塩(pH7.8)を含有したSteinberg氏液(58mM NaCl、0.67mM KCl、0.34mM Ca(NO・24HO、0.83mM MgSO・7HO、3.0mM HEPES)を用いて脱ゼリーした後に20℃条件下に置いて胞胚期(Nieuwkoop and Faberのステージ表によるステージ9)になるまで発生を継続した。
【0110】
2)再集合培養
胞胚期(ステージ9)の胚より、卵膜をピンセットを用いて剥離した後に0.6mm×0.6mmの大きさの未分化予定外胚葉領域(アニマルキャップ)の断片を5枚切り出し、3%寒天上にSteinberg氏液を満たしたシャーレ内で、CaおよびMgを含まないSteinberg氏液(CMF−Steinberg氏液)を用いたピペッティングにより細胞を解離させた。
【0111】
解離させた該細胞を、0.1%の脂肪酸を含まないウシ血清アルブミン(BSA)を含む4mM 塩酸溶液中に溶解した0.4ng/mL アクチビンAによる単独処理、もしくは該0.4ng/mL アクチビンAおよび100ng/mL アンジオポエチン2(TECHNE社)による共処理を、0.1% BSAを含むCMF−Steinberg氏液中で1時間行った。その後、Steinberg氏液にて5回洗浄し、Steinberg氏液中で集合体を形成させた。
【0112】
3)プローブの作製
cDNA断片をクローニングして作製したプラスミドを制限酵素SpeIもしくはSacIIで消化し、それをT7 RNAポリメラーゼもしくはSp6 RNAポリメラーゼを用いてRNAの合成を行い、プローブとした。このとき、基質には10×DIG RNA labeling mix(Roche社製)を使用した。
【0113】
4)マイクロアレイによる検出
8,091クローンのアフリカツメガエルcDNAから60merのオリゴDNAを貼付したDNAマイクロアレイを作製し、検出に使用した。一方、0.4ng/mL アクチビンA単独処理もしくは0.4ng/mL アクチビンAおよび100ng/mL アンジオポエチン2の共処理を施した集合体を2日間、20℃で培養した後に、全てのRNAを抽出した。該抽出RNAより、Low RNA Inputリニア増幅アンドラベル化キット(アジレント社製)を用いて、cy3標識(cyanine 3−CTP(Perkin Elmer社製))およびcy5標識(cyanine 5−CTP(Perkin Elmer社製))で標識したRNAを調製した。ハイブリダイゼーションチャンバに該DNAマイクロアレイおよび該標識RNAを適用し、ハイブリダイゼーションを60℃で17時間実施した。ハイブリダイゼーションの終了後、アジレントマイクロアレイスキャナを使用して解析を行った。
【0114】
5)RNAの調製
全RNAの抽出はISOGEN(ニッポンジーン社製)を使用して実施した。
【0115】
6)逆転写反応
逆転写反応は、スーパースクリプトファーストストランドシステム(Invitrogen社製)を使用し、ランダムプライマー(Takara社製)を用いて行った。
【0116】
7)PCR
PCR反応には、Expand long template PCR amplification system(Roche社製)を使用した。使用したプライマーの配列およびアニール温度は以下の通りである。
(ヒト)
H.Egfl7:
5’−AGCAATATGCCAGCCGCCAT−3’(配列番号4)
5’−TCACGAGTCTTTCTTGCAGG−3’(配列番号5)
アニール温度60℃、35サイクル
G3PDH:
5’−TGAAGGTCGGAGTCAACGGATTTGGT−3’(配列番号6)
5’−CATGTGGGCCATGAGGTCCACCAC−3’(配列番号7)
アニール温度68℃、27サイクル
(アフリカツメガエル)
X.Egfl7:
5’−CCGATTGCAATGTCAGAACG−3’(配列番号8)
5’−TCAAAGCTCCGTCTTGCATG−3’(配列番号9)
アニール温度60℃、38サイクル
ODC:
5’−CAGCTAGCTGTGGTGTGG−3’(配列番号10)
5’−CAACATGGAAACTCACACC−3’(配列番号11)
アニール温度55℃、24サイクル
なお、ヒト組織での発現には、ヒトmultiple tissue cDNA panel(BD Biosciences社製)を鋳型として使用した。また、ヒト癌組織での発現には、ヒト癌組織cDNAパネル(BioChain社製)を鋳型として使用した。
【0117】
8)Whole−mount in situハイブリダイゼーション
正常胚を10% 中性緩衝ホルマリン液中で固定した後に、100% メタノールを用いて脱水した。脱水した後に、Tween 20を含有したPBS溶液と置き換え、95℃で変性させて、4% パラホルムアルデヒドで再度固定した。再固定後、再度Tween 20を含有したPBS溶液と置き換えて試料とし、自動whole−mount in situハイブリダイゼーション装置in situ pro(ABIMED社製)に適用した。発色にはBMパープル(Roche社製)を使用した。
【0118】
(結果)
1)アフリカツメガエル胚未分化細胞からの血管内皮細胞の誘導
解離集合体に0.4ng/mL アクチビン単独処理もしくは0.4ng/mL アクチビンおよび100ng/mL アンジオポエチン2の共処理を施すことにより血管内皮様細胞が誘導できるか検討した。その結果、アクチビン単独処理に比較して、アクチビンおよびアンジオポエチン2の共処理において、血管内皮細胞のマーカーであるmsrおよびtie2遺伝子の発現が著しく増加していることが判明した。このことより、アクチビンおよびアンジオポエチン2の共処理によって解離集合体から血管内皮細胞が誘導されたと考えられた(図1)。さらに、赤血球のマーカーであるglobin遺伝子の発現について検討した結果、globin遺伝子の発現はいずれの場合も認められなかった。すなわち、アクチビンおよびアンジオポエチン2の共処理を行うことにより、血管内皮細胞が誘導される反面、赤血球は誘導されないことが判明し、血管内皮細胞のみを誘導する系を作り出すことができた。この結果、血管の細胞分化や遺伝子解析において有用な実験系が確立された。
【0119】
2)マイクロアレイによる解析
0.4ng/mL アクチビン単独処理ならびに0.4ng/mL アクチビンおよび100ng/mL アンジオポエチン2の共処理による遺伝子発現をDNAマイクロアレイ用いて比較して、血管形成に関与する遺伝子の探索を試みた。解離集合体に0.4ng/mL アクチビン単独処理もしくは0.4ng/mL アクチビンおよび100ng/mL アンジオポエチン2の共処理を施した後、48時間経過した時の遺伝子発現量の比較を行った結果、両者の遺伝子発現が2倍以上の差が認められた遺伝子として57遺伝子が得られた。このうち共処理することにより34遺伝子が増加し、23遺伝子が減少した。遺伝子発現が増加した遺伝子群を表1に、遺伝子発現が減少した遺伝子群を表2に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
【表2】

【0122】
3)Whole−mount in situハイブリダイゼーションによる遺伝子発現部位の特定
DNAマイクロアレイによる解析の結果で遺伝子発現が2倍以上の差が認められた57遺伝子のうち、2倍以上増加したものの中から筋肉で発現しているものを除いた12遺伝子についてアフリカツメガエル胚における発現部位を特定した。この結果、2遺伝子(xl.9480およびxl.23270)が血管で発現していた(図2)。xl.23270に関しては、血管形成に関与する遺伝子であると報告されているEgfl7遺伝子であった(Leon H.Parkerら、(2004),Nature,428,754−758)。
【0123】
4)X.Egfl7の時間的発現の検討
アフリカツメガエル血管で新たに発現が認められた遺伝子X.Egfl7が、発生のどの段階から発現が見られるかをRT−PCR(図3)およびWhole−mount in situハイブリダイゼーション(図4)を用いて検討した。この結果、発生のステージ24から遺伝子X.Egfl7が発現していることが判明した。この時期はアフリカツメガエルにおいて血管が形成されてくる時期で、すなわち、血管形成の時期と遺伝子X.Egfl7の発現が見られる時期が一致していることが分った。
【0124】
5)H.Egfl7の組織特異的発現の検討
さらに、ヒトEgfl7のプライマーを作製し、ヒト癌組織cDNAパネル(BioChain社製)を用いてヒト癌組織で発現が増減しているかを検討した(図5)。その結果、Egfl7は肝臓において癌組織での発現量の増加が認められた。一方、腎臓、肺、大腸、小腸、および卵巣などのその他の組織では癌組織での発現量の低減が見られた。特に、腎臓癌、肺癌、大腸癌において著しい低減が認められ、新規癌マーカーになるものと期待される。また、発現の低減がみられる癌細胞においてこの遺伝子産物を発現させることにより、癌細胞の異常増殖を抑制できることも期待され、遺伝子治療への応用も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】解離集合体におけるmsrおよびtie2の発現解析の結果を示す。解離集合体に0.4ng/mLアクチビンA単独処理、または0.4ng/mLアクチビンAおよび100ng/mLアンジオポエチン2の共処理を施した結果を示す写真である。
【図2】遺伝子xl.9480およびxl.23270が、アフリカツメガエル胚において血管部分で発現していることを示す写真である。st34のアフリカツメガエルを用いた。msrはコントロールであり、黒く染まっているところが血管である。
【図3】遺伝子X.Egfl7について、発生のどの段階から発現が見られるかをRT−PCRを用いて検討した結果を示す写真である。
【図4】遺伝子X.Egfl7について、発生のどの段階から発現が見られるかをWhole−mount in situハイブリダイゼーションを用いて検討した結果を示す写真である。
【図5】H.Egfl7mRNAについて、ヒト癌組織cDNAパネル(BioChain社製)を用いて正常組織と癌組織で比較検討した結果を示す写真である。
【配列表フリーテキスト】
【0126】
配列番号4〜11:合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Egfl7遺伝子の発現を測定することを含む、癌を検出する方法。
【請求項2】
Egfl7遺伝子が配列番号1または2の塩基配列で特定される遺伝子である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Egfl7ポリヌクレオチドからなる、癌を検出するためのマーカー。
【請求項4】
Egfl7ポリヌクレオチドが配列番号1または2の塩基配列の全部または一部を含むポリヌクレオチドである、請求項3記載のマーカー。
【請求項5】
Egfl7ポリペプチドまたはその断片からなる、癌を検出するためのマーカー。
【請求項6】
Egfl7ポリペプチドが配列番号3のアミノ酸配列の全部または一部を含むポリペプチドである、請求項5記載のマーカー。
【請求項7】
Egfl7ポリペプチドまたはその断片に特異的に結合する抗体を含む、癌を検出するためのキット。
【請求項8】
Egfl7ポリヌクレオチドを特異的に増幅するための、少なくとも15塩基長の連続したプライマーまたはEgfl7ポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする少なくとも15塩基長の連続したプローブを含む、癌を検出するためのキット。
【請求項9】
Egfl7ポリペプチドまたはその断片に特異的に結合する抗体を含む、癌を治療するための医薬組成物。
【請求項10】
Egfl7ポリヌクレオチドおよび/またはその誘導体、またはEgfl7ポリペプチドおよび/またはその誘導体を含む、癌を治療するための医薬組成物。
【請求項11】
Egfl7遺伝子が発現している細胞と被験試料とを接触させ、被験試料の中からEgfl7遺伝子の発現を阻害する物質または促進する物質を選択することを含む、癌を阻害する物質をスクリーニングする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−238757(P2006−238757A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57368(P2005−57368)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】