説明

癌抑制剤

【課題】癌抑制遺伝子を新たに見出してこれを含有する癌抑制剤 を提供すること。
【解決手段】NR1I2遺伝子又はその相同遺伝子を含有する癌抑制剤;NR1I2タンパク質又はその相同タンパク質を含有する癌抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌抑制遺伝子及び該遺伝子がコードするタンパク質の医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の発症は細胞のタンパク質の変異や量的変化に起因することが知られている。近年の遺伝子工学の発達により、特定のタンパク質をコードする遺伝子の増幅や癌細胞における遺伝子変異の解析が可能となり、癌研究の分野においても飛躍的な発展をもたらした。これまでに細胞の癌化や癌細胞の異常増殖に関与する癌遺伝子の解析及び同定が進んでいる。一方、変異あるいは発現低下により癌化につながる癌抑制遺伝子がここ数年脚光を浴びている。これまでに同定されている癌抑制遺伝子としては、網膜芽細胞腫のRb遺伝子、大腸癌のp53遺伝子及びAPC遺伝子、Wilms腫瘍のWT1遺伝子などが挙げられる。WT1遺伝子を活用した癌抑制剤の例も報告されている(特許文献1)。
【0003】
また、癌の発生、進展悪性化、転移などには一つの遺伝子の異常だけでなく複数の遺伝子の異常が関与していることが次第に明らかになりつつあり、さらに多くの未同定の癌遺伝子及び癌抑制遺伝子が存在するものと考えられている。癌抑制効果を有する遺伝子は数多く知られているが、多くの場合、その選別には患者の遺伝子の変異を、染色体DNAを染色することにより視覚化して見つけ出すアプローチ(非特許文献1)や、遺伝子の欠失をLOH(Loss Of Heterozygosity)解析で大まかな範囲を選定した後、重要な遺伝子領域を絞り込むという方法がこれまで行われてきた(特許文献2)。しかし、これらの方法では、判別できるDNA欠失領域が莫大なものとなり、重要な遺伝子領域を絞り込む作業に大量の時間と手間を必要とする欠点を持っており、癌抑制遺伝子を探し出す手段としては限界があった。
【0004】
【特許文献1】WO2003/002142号公報
【特許文献2】WO01/032859号公報
【非特許文献1】Yasuhide Yamashita,et al.,World J Gastroenterol ,11(33):5129−5135,2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、癌抑制遺伝子を新たに見出してこれを含有する癌抑制剤を提供することを課題とする。本発明はまた、該癌抑制遺伝子がコードするタンパク質を含有する癌抑制剤 、ならびに該癌抑制遺伝子を用いる癌の検出及び診断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく、神経芽細胞腫症例のDNAのメチル化度の異なる遺伝子を同定することを精力的に行ってきた。神経芽細胞腫は、胎生期に神経冠細胞由来の遊走性交感神経芽細胞より発生する小児悪性腫瘍である。癌細胞の場合、大半はメチル化されていないはずの癌の発生を抑える遺伝子(癌抑制遺伝子)の5’領域に存在するCpG部位が密集したゲノム領域(CpGアイランド)が異常にメチル化され、メッセンジャーRNAへの発現が抑制されていることがある。近年、遺伝子の突然変異と並ぶ、重要な発癌機構として認知されている。本発明では、神経芽細胞腫におけるメチル化DNAを特定するために、新規に開発されたBAMCA(BAC array−based MCA)法(Inazawa J.,et al., Cancer Sci. 95(7) ,559,2004)により癌で高頻度にメチル化した遺伝子をスクリーニングした。さらに、本発明者らは、COBRA(combined bisulfite restriction analysis)法(Toyota M.,et al., Cancer Res.59,2307,1999)とRT−PCR法を組み合わせ、神経芽細胞腫でその進行度に伴いDNAのメチル化度が高く、発現が著しく抑制されている遺伝子として、NR1I2(NUCLEAR RECEPTOR SUBFAMILY 1, GROUP I, MEMBER 2; NR1I2、 別名 PREGNANE X RECEPTOR; PXR)遺伝子を同定することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち本発明によれば、NR1I2遺伝子又はその相同遺伝子を含有する癌抑制剤が提供される。
【0008】
好ましくは、前記遺伝子又はその相同遺伝子はベクターに組み込まれている。
好ましくは、前記ベクターはウイルスベクター又は動物細胞発現用プラスミドベクターである。
好ましくは、前記ウイルスベクターはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである。
好ましくは、前記遺伝子又はその相同遺伝子はリポソームに封入されている。
【0009】
本発明の別の態様によれば、NR1I2タンパク質又はその相同タンパク質を含有する癌抑制剤が提供される。
【0010】
本発明のさらに別の態様によれば、NR1I2遺伝子の全部又はその一部を含むDNA又はRNAを用いて検体試料中のNR1I2遺伝子を解析する工程を含む、癌の検出及び診断方法が提供される。
【0011】
好ましくは、前記解析は遺伝子の変異の検出又は遺伝子の発現量の異常の検出である。
好ましくは、癌の検出及び診断方法は、本発明の癌抑制剤の適用対象となる癌を選別するための方法である。
【0012】
本発明のさらに別の態様によれば、NR1I2タンパク質に対する抗体又はその断片を用いて検体試料中のNR1I2タンパク質を解析する工程を含む、癌の検出及び診断方法が提供される。
【0013】
好ましくは、前記解析はタンパク質の発現量の異常の検出である。
好ましくは、癌の検出及び診断方法は、本発明の癌抑制剤の適用対象となる癌を選別するための方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新たに癌抑制機能を見出したNR1I2遺伝子又は該遺伝子がコードするNR1I2タンパク質を含有する癌抑制剤が提供される。これらの薬剤は癌の個別性に基づく治療や癌の予後の改善などの臨床上の観点から、あるいは癌の基礎的研究の観点から非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施態様及び実施方法について詳細に説明する。
(1)癌抑制剤
本発明に一態様によれば、本発明の癌抑制剤は有効成分としてNR1I2遺伝子又はその相同遺伝子を含む。本発明のもう一つの態様によれば、本発明の癌抑制剤は有効成分としてNR1I2タンパク質又はその相同タンパク質を含む。
【0016】
NR1I2遺伝子の塩基配列及びNR1I2タンパク質のアミノ酸配列は既に知られており(Lehmann, J. M. et al. J. Clin. Invest. 102, 1016−1023, 1998)、NR1I2遺伝子の塩基配列はNational Center for Biotechnology Information のデータベースにAF061056番にて、またNR1I2タンパク質のアミノ酸配列は同データベースにAAD05436.1番にて登録されている。NR1I2遺伝子の塩基配列は配列番号1に記載する通りであり、NR1I2タンパク質は配列番号1の塩基配列の304番目から1608番目までの領域によりコードされ、そのアミノ酸配列は配列番号2に示される通りである。
【0017】
本明細書において「NR1I2遺伝子」というのは、上記塩基配列で特定されるヒト由来の遺伝子をいい、「NR1I2タンパク質」というのは、該NR1I2遺伝子がコードし、上記アミノ酸配列で特定されるタンパク質をいう。
【0018】
NR1I2遺伝子は、当業者に公知の技術を用いて培養細胞などから取得したcDNAであってもよいし、又は本明細書の配列番号1に記載の塩基配列に基づいてPCR法などにより合成したものでもよい。PCR法により配列番号1に記載した塩基配列を有するDNAを取得する場合、ヒトの染色体DNA又はcDNAライブラリーを鋳型として使用し、配列番号1に記載した塩基配列を増幅できるように設計した1対のプライマーを使用してPCRを行う。PCRで増幅したDNA断片は大腸菌などの宿主で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。
【0019】
上記のブローブ又はプライマーの調製、cDNAライブラリーの構築、cDNAライブラリーのスクリーニング、並びに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、例えば、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons(1987−1997)などに記載された方法に準じて行うことができる。
【0020】
本発明において、「NR1I2遺伝子の相同遺伝子」とは、配列番号1に記載の塩基配列において1から数個の塩基が欠失、付加又は置換されている塩基配列であって、癌抑制活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する遺伝子;又は配列番号1に記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、癌抑制活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する遺伝子いう。また、NR1I2遺伝子の相同遺伝子にはNR1I2遺伝子の断片も含まれる。
【0021】
上記の「配列番号1に記載の塩基配列において1から数個の塩基が欠失、付加又は置換されている塩基配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から60個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、さらに好ましくは1から10個、特に好ましくは1から5個程度を意味する。
【0022】
上記の「癌抑制活性」の程度は特に限定はされないが、好ましくはNR1I2タンパク質が有する癌抑制活性と実質的に同等又はそれ以上の癌抑制活性をいう(以下、本明細書における「癌抑制活性」は同じ意味を示す)。
【0023】
従って、「NR1I2遺伝子の相同遺伝子」は上記に定義される構造と機能を有する限り、由来は問わず、ヒト以外の哺乳動物由来であってもよいし、ヒトなどの哺乳動物由来の遺伝子に対して人工的に変異を導入したものであってもよい。ただし、該遺伝子を後記のごとく癌抑制剤に使用する場合は臨床上の安全性の観点からヒト由来ものが好ましい。
【0024】
上記の「配列番号1に記載の塩基配列において1から数個の塩基が欠失、付加又は置換されている塩基配列であって、癌抑制活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する遺伝子」は、化学合成、遺伝子工学的手法又は突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法で作製することができる。具体的には、上記遺伝子は配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAを利用し、これらDNAに変異を導入することにより取得することができる。例えば、配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法などを用いて行うことができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley &Sons (1987−1997)などに記載の方法に準じて行うことができる。
【0025】
上記の「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味し、例えば、コロニー又はプラーク由来のDNA又は該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSC溶液は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAなどを挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989などに記載されている方法に準じて行うことができる。
【0026】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられ、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0027】
上記の「配列番号1に記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、癌抑制活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する遺伝子」は、上述の通り、一定のハイブリダイゼーション条件下でコロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンハイブリダイゼーション法などを行うことにより得ることができる。
【0028】
本発明において、「NR1I2タンパク質の相同タンパク質」とは、配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は挿入したアミノ酸配列であって、癌抑制活性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質;又は、配列番号2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、癌抑制活性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をいう。
【0029】
上記した「配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は挿入したアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
【0030】
上記した「配列番号2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、該アミノ酸配列と配列番号2に記載のアミノ酸配列との相同性が少なくとも70%以上であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であることを意味する。
【0031】
NR1I2タンパク質は、天然由来のタンパク質でも、化学合成したタンパク質でも、遺伝子組み換え技術により作製した組み換えタンパク質の何れでもよい。比較的容易な操作でかつ大量に製造できるという点では、組み換えタンパク質が好ましい。
【0032】
天然由来のタンパク質は、該タンパク質を発現している細胞又は組織からタンパク質の単離・精製方法を適宜組み合わせて単離することができる。化学合成タンパク質は、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法に従って合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して本発明のタンパク質を合成することもできる。組み換えタンパク質は、該タンパク質をコードする塩基配列(例えば、配列番号1に記載の塩基配列)を有するDNAを好適な発現系に導入することにより生産することができる。
【0033】
なお、配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換又は挿入したアミノ酸配列を有するタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードするDNA配列の一例示す配列番号1に記載の塩基配列の情報に基づいて当業者であれば適宜製造又は入手することができる。
【0034】
本発明の癌抑制剤の好ましい態様としては、有効成分として上記のNR1I2遺伝子又はその相同遺伝子をベクターに組み込んだ組換えベクターを含む。ベクターとしてはウイルスベクター又は動物細胞発現用ベクター、好ましくはウイルスベクターが用いられる。
【0035】
ウイルスベクターとしてはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが挙げられる。中でも、レトロウイルスベクターは、細胞に感染後、ウイルスゲノムが宿主染色体に組み込まれ、ベクターに組み込んだ外来遺伝子を安定にかつ長期的に発現させる可能であるからレトロウイルスベクターを使用することが特に望ましい。
【0036】
動物細胞発現用ベクターとしては例えばpCXN2(Gene, 108, 193−200, 1991)、PAGE207(特開平6−46841号公報)又はその改変体などを用いることができる。
【0037】
上記組換えベクターは適当な宿主に導入して形質転換し、得られた形質転換体を培養することによって生産することができる。組換えベクターがウイルスベクターの場合、これを導入する宿主としてはウイルス生産能を有する動物細胞が用いられ、例えば、COS−7細胞、CHO細胞、BALB/3T3細胞、HeLa細胞などが挙げられる。レトロウイルスベクターの宿主としては、ΨCRE、ΨCRIP、MLVなどが、アデノウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクターの宿主としては、ヒト胎児腎臓由来の293細胞などが用いられる。ウイルスベクターの動物細胞への導入はリン酸カルシウム法などで行うことができる。また、組換えベクターが動物細胞発現用ベクターの場合、これを導入する宿主としては大腸菌K12株、HB101株、DH5α株などを使用でき、大腸菌の形質転換は当業者に公知である。
【0038】
得られた形質転換体はそれぞれに適した培地、培養条件により培養する。例えば、大腸菌の形質転換体の培養は、生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他を含有するpH5〜8程度の液体培地を用いて行うことができる。培養は通常15〜43℃で約8〜24時間程度行う。この場合、目的とする組み換えベクターは、培養終了後、通常のDNA単離精製法により得ることができる。
【0039】
また、動物細胞の形質転換体の培養は、例えば約5〜20%のウシ胎児血清を含む199培地、MEM培地、DMEM培地などの培地を用いて行うことができる。培地のpHは約6〜8が好ましい。培養は通常約30〜40℃で約18〜60時間行う。この場合、目的とする組み換えベクターは、それを含有するウイルス粒子が培養上清中に放出されるので、ウイルス粒子の濃縮、精製を塩化セシウム遠心法、ポリエチレングリコール沈澱法、フィルター濃縮法などにより得ることができる。
【0040】
本発明の癌抑制剤のうち、有効成分としてNR1I2遺伝子又はその相同遺伝子を含む癌抑制剤(以下、遺伝子治療剤という)は、有効成分であるNR1I2遺伝子又はその相同遺伝子を遺伝子治療剤に通常用いる基剤と共に配合することにより製造することができる。また、NR1I2遺伝子又はその相同遺伝子をウイルスベクターに組み込んだ場合は、組換えベクターを含有するウイルス粒子を調製し、これを遺伝子治療剤に通常用いる基剤と共に配合する。
【0041】
上記基剤としては、通常注射剤に用いる基剤を使用することができ、例えば、蒸留水、塩化ナトリウム又は塩化ナトリウムと無機塩との混合物などの塩溶液、マンニトール、ラクトース、デキストラン、グルコースなどの溶液、グリシン、アルギニンなどのアミノ酸溶液、有機酸溶液又は塩溶液とグルコース溶液との混合溶液などが挙げられる。あるいはまた、当業者に既知の常法に従って、これらの基剤に浸透圧調整剤、pH調整剤、植物油、界面活性剤などの助剤を用いて、溶液、懸濁液、分散液として注射剤を調製することもできる。これらの注射剤は、粉末化、凍結乾燥などの操作により用時溶解用製剤として調製することもできる。
【0042】
また、本発明の遺伝子治療剤は、常法により調製されたリポソームの懸濁液にNR1I2遺伝子を添加し凍結した後融解することにより製造することもできる。リポソームを調製する方法は、薄膜振とう法、超音波法、逆相蒸発法、界面活性剤除去法などがある。リポソームの懸濁液は超音波処理した後、遺伝子を添加するのが遺伝子の封入効率を向上させる上で好ましい。遺伝子を封入したリポソームはそのまま、又は水、生理食塩水などに懸濁して静脈投与することができる。
【0043】
上記遺伝子治療剤の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内などの全身投与でもよいし、あるいは癌原病巣又は予想転移部位に対して、局所注射又は経口投与などの局所投与を行ってもよい。さらに、遺伝子治療剤の投与にあたっては、カテーテル技術、遺伝子導入技術、又は外科的手術などと組み合わせた投与形態をとることもできる。
【0044】
上記遺伝子治療剤の投与量は、患者の年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、一般に、成人では一日当たり組み換え遺伝子の重量として1μg/kg体重から1000mg/kg体重程度の範囲であり、好ましくは10μg/kg体重から100mg/kg体重程度の範囲である。投与回数は特に限定されない。
【0045】
また、本発明の癌抑制剤のうち、有効成分としてNR1I2タンパク質又はその相同タンパク質を含む癌抑制剤(以下、タンパク質製剤という)は、有効成分であるNR1I2タンパク質又はその相同タンパク質に製剤用添加物(例えば、担体、賦形剤など)を含む医薬組成物の形態で提供される。
【0046】
上記タンパク質製剤の形態は特に限定されず、経口投与のための製剤としては例えば、錠剤、カプセル剤、細粒剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤などが挙げられ、非経口投与のための製剤としては例えば、注射剤、点滴剤、座剤、吸入剤、経粘膜吸収剤、経皮吸収剤などが挙げられる。
【0047】
上記タンパク質製剤の投与経路は特に限定されず、経口投与又は非経口投与(例えば、筋肉内投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与などへの粘膜投与、又は吸入投与など)の何れでもよい。
【0048】
上記タンパク質治療剤の投与量は、患者の年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、一般に、成人では一日あたり0.001μg/kg体重から1000μg/kg体重程度の範囲であり、好ましくは0.001μg/kg体重から100μg/kg体重程度の範囲である。投与回数は特に限定されない。
【0049】
上記癌抑制剤(遺伝子治療剤及びタンパク質製剤の両形態を含む)は、その有効量をヒトを含む哺乳動物に投与することによって癌を抑制するのに使用することができる。上記癌抑制剤はまたその予防及び/又は治療有効量をヒトを含む哺乳動物に投与することによって癌の予防及び/又は治療をするのに使用することができる。
【0050】
本明細書でいう「癌抑制」とは、癌の発生又は転移・着床を防止するという予防的作用、ならびに癌細胞の増殖を抑制したり、癌を縮小することによって癌の進行を阻止したり、症状を改善させるという治療的作用の両方を含む最も広い意味を有し、いかなる場合においても限定的に解釈されるものではない。
【0051】
本発明の癌抑制剤の適用対象となる癌の具体例としては、例えば悪性黒色腫、悪性リンパ腫、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、結腸癌、尿管腫瘍、胆嚢癌、胆管癌、胆道癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、睾丸腫瘍、上顎癌、舌癌、口唇癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、甲状腺癌、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、白血病、真性多血症、神経芽細胞腫、網膜芽腫、骨髄腫、膀胱腫、肉腫、骨肉腫、筋肉腫、皮膚癌、基底細胞癌、皮膚付属器癌、皮膚転移癌、皮膚黒色腫などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、上記のうち特に好ましい適用対象となる癌は、神経芽細胞腫である。
【0052】
(2)NR1I2遺伝子を用いた癌の検出方法
本発明の癌の検出及び診断方法は、NR1I2遺伝子の全部又はその一部を含むDNA又はRNAを用いて検体試料中のNR1I2遺伝子を解析する工程を含む。本発明の癌の検出及び診断方法は、本発明の癌抑制剤の適用対象となる癌を選別するための検出方法でもよい。
【0053】
ここで、NR1I2遺伝子の一部とは、配列番号1に記載するNR1I2遺伝子の塩基配列のうち、例えば約10〜30個の連続する塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを意味する。検体試料としては、腫瘍が疑われる組織切片、血液、リンパ液、喀痰、肺洗浄液、尿、便、組織培養上清などを用いることができる。
【0054】
上記の「癌抑制剤の適用対象となる癌を選別するための検出」とは組織等における本発明における癌抑制剤が有効に作用する癌の存在の有無を知ることをいう。
【0055】
癌を選別するための検出は、NR1I2遺伝子の全部又はその一部を含むDNA又はRNAをプライマー又はプローブとして用いて検体試料中のNR1I2遺伝子を解析することにより行う。ここで「NR1I2遺伝子を解析する」とは、具体的にはゲノムDNAのメチル化の検出又は遺伝子の発現量の異常の検出を行うことをいう。
【0056】
遺伝子の変異の検出は、上記DNA又はRNAをプライマーとして用いる場合では、例えば選択した2種の配列のプライマーによりPCR法で検体試料より調製したDNAの部分配列を増幅させ、亜硫酸水素ナトリウムを処理することで、ゲノムDNA中の非メチル化シトシン(C)を、ウラシル(U)に変換する。メチル化されているシトシンは構造上安定であるために、この反応を受けず、ウラシルに変換されない。メチル化の影響を受ける制限酵素と組み合わせて変化したシトシンと非メチル化シトシンを制限酵素切断により解析することにより、メチル化DNAの存在を特定できる(COBRA法)。またPCR法で検体試料より調製したDNAの部分配列を増幅させ、亜硫酸水素ナトリウムを処理後、この増幅産物をプラスミドに組み込み、宿主細胞を形質転換させて培養し、得られるクローンの塩基配列を解析することにより行うことも可能である。
【0057】
一方、遺伝子の発現量の異常の検出は、上記RNA配列を含むプローブを用いてノーザンハイブリダイゼーション法又はRT−PCR(reverse transcription−polymerase chain reaction)法によって行うことができる。
【0058】
(3)NR1I2タンパク質抗体又はその断片を用いた癌を選別するための検出方法
本発明の癌の検出及び診断方法は、NR1I2タンパク質に対する抗体又はその断片を用いて検体試料中のNR1I2タンパク質の量を解析する工程を含む。本発明の癌の検出及び診断方法は、本発明の癌抑制剤の適用対象となる癌を選別するための検出方法でもよい。
【0059】
本方法に用いるNR1I2タンパク質に対する抗体(以下、NR1I2抗体という)は、NR1I2タンパク質の全部又は一部を抗原として、通常の方法で作成することができる。NR1I2タンパク質の一部とは、配列番号2に記載するNR1I2タンパク質のアミノ酸配列のうち、例えば連続する少なくとも6個のアミノ酸、好ましくは少なくとも約8〜10個のアミノ酸、さらに好ましくは、少なくとも約11〜20個のアミノ酸からなるポリペプチドをいう。抗原とするNR1I2タンパク質の全部又は一部の調製法は生物学的手法、化学合成手法いずれでもよい。
【0060】
ポリクローナル抗体は、例えば上記抗原をマウス、モルモット、ウサギなどの動物の皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内などに複数回接種し十分に免疫した後、該動物から採血、血清分離して作製することができる。モノクローナル抗体は、例えば上記抗原で免疫したマウスの脾細胞と市販のマウスミエローマ細胞との細胞融合により得られるハイブリドーマを作成後、該ハイブリドーマ培養上清、又は該ハイブリドーマ投与マウス腹水から作成することができる。
【0061】
上記のようにして調製したNR1I2タンパク質抗体又はその断片を用いることによって検体試料中のNR1I2タンパク質の発現量を知ることができる。測定には、例えばイムノブロット法、酵素抗体法(EIA)、放射線免疫測定法(RIA)、蛍光抗体法、免疫細胞染色などの免疫学的方法、又はウェスタンブロット法などが利用できる。ここで、NR1I2タンパク質抗体の断片とは当該抗体の一本鎖抗体断片(scFv)などをいう。また、検体試料としては、腫瘍が疑われる組織切片、血液、リンパ液、喀痰、肺洗浄液、尿、便、組織培養上清などを用いることができる。測定した検体試料中のNR1I2タンパク質の発現量が低い場合は、検体とした組織や細胞においてNR1I2遺伝子の発現が抑制されていることになり、本発明の癌抑制剤の適用対象となる癌を選別することができる。
【0062】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
実施例1:BAMCA法による神経芽細胞腫からのメチル化DNAの分離
神経芽細胞腫の培養細胞株IMR32およびGOTOを対象サンプルとし、5人の神経芽細胞腫で病期1の患者のDNAを混ぜたものをコントロールサンプルとして用い、MCG Whole Genome Array−4500(Inazawa J.,et al., Cancer Sci.95(7),559,2004)を用いてBAMCA法を行った。IMR32およびGOTO細胞でCy3で標識された各細胞の蛍光シグナルをコントロールサンプルのCy5で標識された混合したstage 1癌細胞の蛍光シグナルで割った値が、1.5以上のメチル化DNAとして分離されたBACクローンとその中に含まれる遺伝子を示している(表1)。NR1I2遺伝子はBACクローンの番号169N13の中に含まれる遺伝子であり、そのDNA中にCpGアイランドを有する。さらにNR1I2遺伝子のメッセンジャーRNA量を測定したところ、コントロールサンプルで発現があるものの、IMR32およびGOTO細胞ではその発現は見られなかった。細胞にDNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤である5−アザ−デオキシシチジン(5−aza−dCyd)を細胞に添加して培養を続けると、DNAのメチル化を低下させることができるが、GOTO細胞に1μMの濃度で5日間培養を続けた後、メッセンジャーRNA量を測定したところNR1I2遺伝子は発現が回復することが判明した。このことは、NR1I2遺伝子は神経芽細胞腫GOTO細胞で、そのDNAは通常メチル化してそのメッセンジャーRNAの発現が低下しており、メチル化を解除することによりメッセンジャーRNAの発現が発生することを意味する。言い換えるとNR1I2遺伝子は進行した神経芽細胞腫でDNAのメチル化によりそのメッセンジャーRNAの発現を制御される、癌抑制遺伝子であることが示された。
【0064】
【表1】

【0065】
実施例2:NR1I2遺伝子を含むBACクローン169N13の構造
神経芽細胞腫の培養細胞株を用い、得られたメチル化DNAを含むBACクローン169N13中のNR1I2遺伝子の構造を図1に示す。NR1I2遺伝子のゲノムDNA構造中には、9個のエクソンが含まれ、その上流域に領域1(Region1)とエクソン3中に239塩基からなる領域2(Region2)と命名するCpGが多く含まれる領域が存在した。
【0066】
実施例3:NR1I2遺伝子のCpG領域のメチル化頻度の確認
NR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現が見られないIMR32とSH−SY5Y、メッセンジャーRNAの発現が見られるSK−N−AS,SJ−N−KP,LCL細胞について、そのゲノムDNAに亜硫酸水素ナトリウムを処理することで、ゲノムDNA中の非メチル化シトシン(C)を、ウラシル(U)に変換させた後、該NR1I2遺伝子のCpG領域をPCRにて増幅後プラスミドに組み込み、そのCpG領域の塩基配列を確認した。図2に、各細胞で3−5回の頻度で塩基配列を検証し、そのCpG領域でメチル化が起こっている場合黒で、起こっていない場合グレーで示した。NR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現(expression+と−)と領域2のメチル化が逆相関していることが明らかになった。
【0067】
実施例4:細胞培養
用いた細胞株は子宮頸部癌細胞HeLaおよび外科的切除したサンプルに由来するSK−N−KS, SK−N−AS, SK−N−SH, SK−N−DZ, SH−SY5Y, MP−N−TS, MP−N−MS,KP−N−RT, KP−N−SIFA, KP−N−SILA, KP−N−TK, KP−N−YS, SMS−KCN, SMS−KAN, SJ−N−CG,NB−1,CHP134,IMR32,GOTO(Saito−Ohara F, et al. Cancer Res.,63,1876,2003)のヒト由来神経芽細胞腫細胞を使用した。また、DNAとしてメチル化を阻害した材料を得るため、DNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤である5−アザ−デオキシシチジン(5−aza−dCyd)を各種細胞に1μMの濃度で5日間添加して培養を行った。
【0068】
実施例5:NR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現
NR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現量を測定するため副腎(Adr−gland)をコントロールとし、N−myc遺伝子の増幅の有無が知られている神経芽細胞腫細胞株15株についてRT−PCRを行った(図3)。RT−PCRの発現量のコントロールとして発現量が細胞種、条件で変化しにくいことで知られるGAPDH(グリセルアルデヒド−3燐酸−デヒドロゲナーゼ)を用いた。N−myc遺伝子の増幅とNR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現量の無い現象が相関することが示された。神経芽細胞腫がN−myc遺伝子の増幅に伴い悪性化が進むことを考慮すると、NR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現量低下は神経芽細胞腫の悪性化に関与することが示された。
【0069】
実施例6:NR1I2遺伝子のメチル化、脱メチル化状態でのメッセンジャーRNAの発現比較
通常培養条件下、NR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現がない神経芽細胞腫細胞8株について、DNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤である5−アザ−デオキシシチジン(5−aza−dCyd)を各種細胞に1μMの濃度で5日間添加して培養を行い、NR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現量をRT−PCRで比較した(図4)。RT−PCRの発現量のコントロールとしてGAPDHを用いた。試験した全ての細胞株で、メチル化を阻害することでNR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現が観察されることから、NR1I2遺伝子の発現はそのゲノムDNAのメチル化状態で制御されることが明らかとなった。
【0070】
実施例7:NR1I2遺伝子の領域2におけるCOBRA法によるメチル化検出と発現との相関
神経芽細胞腫細胞11株とNR1I2遺伝子の発現が確認されているBリンパ腫細胞株LCLについて、NR1I2遺伝子の領域2のメチル化をCOBRA法により検出した(図5)。M位置にバンドが出現している細胞種は領域2がメチル化していることを示している。領域2がメチル化している細胞種はNR1I2遺伝子の発現がみられないこととよく相関している。すなわち、NR1I2遺伝子の領域2のメチル化は、NR1I2遺伝子の発現を負に調節していることが明らかとなった。
【0071】
実施例8:臨床サンプルのCOBRA法によるNR1I2遺伝子の領域2のメチル化頻度の検出
表2に、1986年から2003年までに京都府立医科大学に於いて切除され、両親の同意を得、かつ倫理委員会での承認を得た51種の神経芽細胞腫サンプルについてNR1I2遺伝子の領域2のメチル化を解析した。サンプルの内訳は、12症例が病期1、11症例が病期2、8症例が病期3、13症例が病期4、4症例が病期4sであった。また37症例が1歳未満の幼児由来であり、N−mycの増幅は51例中8例(15%)に見られた。39例(76%)は神経芽細胞腫マススクリーニングによって発見された。
【0072】
P−valueはFisher’s exact testにて算出し、優位と思われるものについては太字で表した。病期分類はInternational Neuroblastoma Staging System(INSS)(Brodeur GM,et al.,J Clin Oncol,11,1466,1993)に従った。
【0073】
この解析から、病期が進むこと、N−mycの増幅、予後の悪さに関してNR1I2遺伝子の領域2のメチル化と相関があることが判明した。この結果は、NR1I2遺伝子の領域2のメチル化が神経芽細胞腫の病状を悪性化させることに大きく関係していることを示しており、NR1I2遺伝子の領域2のメチル化、更にNR1I2遺伝子の発現量の低下が神経芽細胞腫の悪性化に重要な働きをしていることが明らかとなった。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例9:レポーターアッセイによるNR1I2遺伝子領域1と領域2の転写促進効果の測定
NR1I2遺伝子のエクソン1の上流1060塩基対からなる領域1、エクソン3を含む480塩基対からなる領域2を用いて転写促進活性の有無をレポーターアッセイにより検証した。用いたレポーターアッセイ系は、ホタルルシフェラーゼ酵素のメッセンジャーRNAが発現し、タンパクに変換されて活性のある酵素として働くことによる発光物を測定する方法によった。pGL3−Basicベクター(プロメガ)を用いルシフェラーゼ遺伝子を中心に配置しNR1I2遺伝子領域1と領域2を以下Aの組み合わせで作製した遺伝子を構築しコンストラクト(construct)とした(図6A)。HeLa、SK−N−AS細胞に対し遺伝子導入し36時間後にルシフェラーゼ酵素活性を測定した。遺伝子導入効率の差を補正するため、pRL−hTK(プロメガ;ウミシイタケルシフェラーゼの発現量を内部コントロールとして、実験用ホタルルシフェラーゼ レポーター遺伝子の発現を補正するベクター)を用いて、相対的なルシフェラーゼ酵素活性を転写活性とした。MockはpGL3−Basicベクターを遺伝子導入した際の陰性コントロールを示す。1/L、2/Lを用いHeLa、SK−N−AS細胞にてルシフェラーゼ酵素活性を測定した結果を図6Bに示す。両細胞共に、2/Lを遺伝子導入したものが高いルシフェラーゼ酵素活性を示すが、この結果は領域2が高い転写活性化能力を有していることを示す。一方、NR1I2遺伝子の転写調節領域と考えられるCpGに富む領域1には転写活性化能力が殆どないことが判明した。次にMockを含め1/L、2/L、L/2、1/L/2をSK−N−AS細胞に対し遺伝子導入後同様にルシフェラーゼ酵素活性を測定した結果を図6Cに示す。図6Bの結果と同様に2/Lを遺伝子導入したものが高いルシフェラーゼ酵素活性を示した。一方、L/2では2/Lの約半分、1/L/2ではほぼ陰性コントロールの転写能力を示した。この結果は、NR1I2遺伝子の領域2は確かな転写活性化能力を有しているが、その能力は転写開始位置の上流で強く発揮されることを意味している。1/L/2でルシフェラーゼ遺伝子への転写活性化能力が殆どないことに関しては、領域1がL/2では上昇していた転写活性化能力を抑制していることがわかった。
【0076】
実施例10:臨床サンプルのCOBRA法によるNR1I2遺伝子の領域2のメチル化検出とNR1I2遺伝子の発現、N−myc遺伝子の増幅、病期、予後との関連
1986年から2003年までに京都府立医科大学に於いて切除され、両親の同意を得、かつ倫理委員会での承認を得た51種の神経芽細胞腫サンプルについてNR1I2遺伝子の領域2のメチル化の解析を行った。
【0077】
図7Aは病期分類したサンプルのうち代表的な9サンプル、T597、T399、T974、T621、T491、T4773、T304、T530、T5718についてNR1I2遺伝子の領域2のメチル化をCOBRA法にて検出したものである。M位置にバンドが出現しているサンプルは領域2がメチル化していることを示している。同様に、図7Bには上記9サンプルからRNAを得た後、NR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現をRT−PCRにて確認した結果を示す。発現量のコントロールとしてGAPDHを用いた。図7Aおよび図7Bから、細胞を用いたサンプルの場合と同様に、臨床サンプルにおいても領域2がメチル化していることとNR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAが負の相関を示すことが明らかとなった。
【0078】
51種の神経芽細胞腫サンプルで47例について高品質のメッセンジャーRNAが得られたため、NR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現量をRT−PCRにて測定し、コントロールとしてGAPDHのメッセンジャーRNA量を測定し、相対比として算出した。この相対比を縦軸に、
NR1I2遺伝子の領域2のメチル化の有無(COBRA法にて測定)、
N−myc遺伝子の増幅の有無、
神経芽細胞腫の病期分類、
予後(生存しているか、死亡したか)、
についてグラフで示したものが図7Cである。予後の項目を除き、NR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現量と有意差があることが確認された(Mann−Whitney U test)。すなわち、臨床由来神経芽細胞腫サンプルを用いて、
NR1I2遺伝子の領域2のメチル化とメッセンジャーRNAの発現は逆相関する、
N−myc遺伝子の増幅があるものはNR1I2メッセンジャーRNAの発現が低い、
進行した神経芽細胞腫ほどNR1I2メッセンジャーRNAの発現が低い、
ということが明らかとなった。
【0079】
実施例11:神経芽細胞腫細胞へのNR1I2遺伝子導入による癌原性の低下
培養条件下において、正常細胞と癌細胞の性質の違いの一つとして、固形物への付着性が知られている。すなわち、正常細胞が増殖するためには固形物に付着することが必要である(足場依存性)。正常細胞は、0.33%前後の軟らかい寒天培地中で培養した場合、浮遊状態では増殖できないが、多くの癌細胞では、足場依存性の性質は失われ、軟寒天培地中でも増殖可能となる。癌細胞は浮遊しているが、軟寒天培地の中を移動できないので、1個の細胞から次々に分裂を繰り返し、1〜3週間の後には細胞塊(コロニー)を形成する。この細胞の軟寒天コロニー形成能は、移植腫瘍形成能と相関することから、悪性度の指標として広く利用されている(Shin,S.I.,et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72, 4435, 1975)。挿入遺伝子のアミノ末端にmycペプチドを付加可能なpCMV−Tag3ベクター(Stratagene社)にNR1I2完全長cDNAを挿入したものを作成した(pCMV−Tag3−NR1I2)。また、我々はヘルペスウィルス由来VP16タンパクとNR1I2タンパクの融合体がNR1I2タンパク単体より強い転写活性を持つことを以前に発見していることから、pCMV−Tag3ベクターにVP16のcDNAとNR1I2完全長cDNAを挿入したものも作成した(pCMV−Tag3−VP−NR1I2)。NR1I2遺伝子の発現が見られない神経芽細胞腫細胞株IMR32、SMS−KAN細胞にFuGENE6(ロシュダイアグノスティクス)を用い遺伝子導入した。500μg/mlのG418(ジェネテシン)存在下、3週間培養を行った後、クリスタルバイオレット染色後コロニー数を計測した(図8A、B)。IMR32、SMS−KAN細胞共に、NR1I2遺伝子を発現させることで有意にコロニー数を低下させること、特にpCMV−Tag3−VP−NR1I2を使用した場合顕著にコロニー数の減少が確認された。この事象は、NR1I2遺伝子が癌細胞の増殖を抑制する機能を有することを示しており、この遺伝子が神経芽細胞腫で癌抑制遺伝子として機能していることが明らかとなった。
【0080】
実施例12:神経芽細胞腫細胞へのNR1I2遺伝子導入による癌原性の低下
挿入遺伝子を含まないpCMV−Tag3ベクター、pCMV−Tag3−VP−NR1I2をSMS−KAN細胞に導入し、コントロール細胞クローンを1種(empty)、NR1I2タンパクを恒常的に発現する細胞クローンを2種(B1、B2)を得た。これら3種の細胞について、細胞破壊液をウェスタンブロットし、mycタンパク質に対する抗体で検出した結果を、図9Aに示す。コントロール細胞(empty)に比し、NR1I2タンパクが発現していることが確認できる。これら細胞についてその増殖速度について、テトラゾリウム塩(WST−1)を利用した生細胞中のミトコンドリア脱水素酵素によるホルマザン色素への変換にて色素で細胞数をモニター(同仁化学研究所:cell counting kit−8)したのが図9Bである。コントロール細胞(empty)に比しNR1I2タンパクが発現することでクローンB1、B2共に3日培養後以降、有意に細胞増殖が低下した(aはコントロール細胞(empty)とクローンB1、bはコントロール細胞(empty)とクローンB2に対しMann−Whitney U testでP−valueが0.05未満であったことを示す)。
【0081】
この結果から、NR1I2タンパクは細胞内に発現することで細胞増殖を抑制する働きのあることが判明した。これまで知られている癌抑制遺伝子タンパクが細胞増殖を抑制したり、細胞死を誘導することから生体を癌から守っていることから、NR1I2タンパクの一つの側面として癌抑制遺伝子産物としての効果があることが示された。
【0082】
実施例13:NR1I2遺伝子が制御する遺伝子の検索
NR1I2遺伝子は転写因子として知られていることから、NR1I2タンパクを発現しない細胞と発現する細胞からメッセンジャーRNAを取り出し、その発現を比較することによりどのような遺伝子がその発現を制御されるかを知ることが可能である。NR1I2遺伝子タンパクが癌抑制効果を有する可能性があることは先にも述べたが、この効果の実体はNR1I2遺伝子タンパクが制御する遺伝子産物によると考えられる。そこで、SMS−KAN細胞にコントロールとして外来遺伝子を含まないpCMV−Tag3ベクター、検査サンプルとしてNR1I2遺伝子を含むpCMV−Tag3−VP−NR1I2をSMS−KAN細胞に導入し、コントロール細胞クローン、NR1I2タンパクを恒常的に発現する細胞クローンB1を得た。これら2種の細胞を用い、ヒトの30,000遺伝子の発現量を観察可能なAceGene Human oligo chip 30K (DNAチップ研究所)によりメッセンジャーRNAの発現解析を行った(Inoue.J., et al. Am J Pathol.165.71.2004)。Oligo(dT)12−18プライマーを用いて、アミノアリル−dUTP (Ambion Inc.)を取り込ませた相補鎖DNA(complimentary DNA)を作製後、アミノアリル基に反応性のCy3(シアニン3)、Cy5(シアニン5)(Amersham Biosciences)とカップリング反応を行い標識を行った。ハイブリダイゼーションを2回(1回目; Cy3−B1/Cy5−コントロール、2回目; Cy5−B1/Cy3−コントロール)行い、GenePix 4000B(Axon Instruments)を用いてシグナルを測定後、GenePix Pro 4.1ソフトウェア(Axon Instruments)にて解析した。表3及び表4には、2回の実験共にNR1I2遺伝子を導入したSMS−KAN細胞でコントロール細胞クローンに比し、1.5倍以上の発現量を示した遺伝子を示す。
【0083】
NR1I2遺伝子により発現の上昇することが既に判明しているCYP3A4遺伝子がこの実験結果に含まれていたことから、実験は信頼性のあるものであったことが確認された。
【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
実施例14:NR1I2遺伝子が制御する癌抑制効果が期待される遺伝子
これまでに判明しているNR1I2遺伝子の推定される機能として、生体異物が生体に入った際にそれを解毒する酵素群のメッセンジャーRNAを誘導することが知られている(Blumberg B, et al. Genes Dev, 12, 3195, 1998、Kliewer SA, et al. Cell, 92, 73, 1998、Xie W, et al. Nature ,406, 435, 2000)。例えば、NR1I2タンパクは異物代謝酵素CYP3A4や細胞内薬物の排出ポンプであるABCB1(P−glycoprotein)のメッセンジャーRNAを誘導する(Synold TW,et al. Nat Med,7,584, 2001)。しかしながら、NR1I2遺伝子が制御する癌抑制に関わる遺伝子はこれまでに報告されていなかった。そこで先の転写解析実験より得られた105種の遺伝子の中から、過去の論文情報やOMIM情報(Online Mendelian Inheritance in Man,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim/omimhelp.html)を参考として、癌の増殖抑制に関与する遺伝子の候補として10種を選び出し、電気泳動を利用したRT−PCRにてその発現量を観察した(図10)。
【0087】
使用したメッセンジャーRNA材料を得た細胞はA:SMS−KAN:コントロール, B:KAN−NR1I2発現クローンB1, C:KAN−NR1I2発現クローンB2、 D: GOTO コントロール、 E:GOTO−NR1I2発現クローンA1を使用した。PCRにて生成したDNAを3%寒天ゲルで電気泳動後LAS−3000(富士フイルム)にてバンドを定量した。GAPDH遺伝子について同様の実験を行い、コントロールとして補正し相対値として各遺伝子の発現量を算出した。NR1I2遺伝子の発現に相関して発現の上昇が見られる遺伝子が、NR1I2遺伝子の制御下にあると考えられる。最もNR1I2遺伝子発現との相関が高かった遺伝子は、PLA2G2A遺伝子であった。図11には実際の電気泳動イメージを示した。NR1I2とPLA2G2A遺伝子の発現がよく相関していることが確認された。
【0088】
PLA2G2A遺伝子は分泌型のホスホリパーゼA2として知られている。興味深いことに、PLA2G2A遺伝子が存在する染色体位置は、神経芽細胞腫でしばしば欠失が観察される1p36位置に存在する(Praml C, et al. Cancer Res, 55,5504,1995)。また、ノックアウトマウスを用いた実験で、PLA2G2A遺伝子を欠如させたマウスは結腸ポリープ数が増加することも報告されており、結腸癌との関連があることが示された(Haluska FG,et al.Int J Cancer 72,337,1997)。
【0089】
実施例の結論
(1)BAMCA法によるスクリーニングから、そのゲノムDNA中に高頻度メチル化部位を有し、悪性な神経芽細胞腫でメッセンジャーRNAの発現が低下するNR1I2遺伝子を単離した。さらに臨床サンプル由来の細胞を用いた実験から、NR1I2遺伝子の発現低下はメチル化を解除することにより回復することも示された。
【0090】
(2)NR1I2遺伝子の領域2(exon3領域)が転写活性化能力を持ち、そのメチル化がそのメッセンジャーRNAレベルでの発現低下に寄与していることが判明した。臨床サンプルの解析から領域2のメチル化は神経芽細胞腫の進行度、N−myc遺伝子の増幅、予後の悪さと相関することが明らかとなった。さらに、NR1I2遺伝子の発現が高いことと、領域2のメチル化、神経芽細胞腫の進行度、N−myc遺伝子の増幅が逆相関することも判明した。
【0091】
(3)NR1I2遺伝子を発現していない神経芽細胞腫細胞株へのNR1I2遺伝子移入後の足場依存性実験における細胞増殖の低下、ならびに細胞増殖速度の低下から、NR1I2遺伝子がタンパクとして発現することが癌細胞としての性質を失う、即ちNR1I2遺伝子は癌抑制遺伝子として機能することが明らかとなった。
【0092】
(4)NR1I2遺伝子は転写因子として働くことが報告されており、他の遺伝子の発現を制御する働きを有する。NR1I2遺伝子を発現していない神経芽細胞腫細胞株へのNR1I2遺伝子移入後に、遺伝子発現が上昇する遺伝子をスクリーニングした結果、NR1I2遺伝子の制御下に増殖を制御する遺伝子としてPLA2G2Aを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、BAMCA法で得られた神経芽細胞腫細胞株でメチル化頻度の高いBACクローン169N13の遺伝子構造を示す。
【図2】図2は、NR1I2遺伝子の発現の有無が既知の細胞株での、CpGに富むNR1I2遺伝子領域(領域1と領域2)についてそのメチル化を配列決定して確認した結果を示す。黒がメチル化部位、グレーが非メチル化CpGを示す。
【図3】図3は、N−myc遺伝子のゲノムDNAでの増幅が既知の神経芽細胞腫細胞株15株と正常人副腎(Adr−gland)でのNR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現をRT−PCRにて電気泳動で観察した結果を示す。鋳型量のコントロールとしてGAPDHを下段に示した。
【図4】図4は、神経芽細胞腫細胞8株について、DNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤である5−aza−dCydの存在(+)、非存在(−)下で培養後、NR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現量をRT−PCRにて電気泳動で観察した結果を示す。鋳型量のコントロールとしてGAPDHを下段に示した。
【図5】図5は、神経芽細胞腫細胞11株とBリンパ腫細胞株LCLについて、NR1I2遺伝子の領域2のメチル化をCOBRA法により検出した結果を示す。M位置にバンドが出現している細胞種は領域2がメチル化していることを示している。それぞれの細胞株で、NR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現があるものをExpression+、ないものを−で表記した。
【図6】図6Aは、レポーターアッセイによるNR1I2遺伝子領域1と領域2を用いたコンストラクトの構造を示す。図6Bは、1/L、2/Lを用いHeLa、SK−N−AS細胞にてルシフェラーゼ酵素活性を測定した結果を示す。Mockは外来遺伝子を含まないベクターを遺伝子導入した際の陰性コントロールを示す。図6Cは、Mockを含め1/L、2/L、L/2、1/L/2をSK−N−AS細胞に遺伝子を導入後同様にルシフェラーゼ酵素活性を測定した結果を示す。
【図7】図7Aは、臨床サンプルで病期分類した9サンプルについてNR1I2遺伝子の領域2のメチル化をCOBRA法にて検出した結果を示す。M位置にバンドが出現しているサンプルは領域2がメチル化していることを示す。図7Bは、これら9サンプルからRNAを得た後、NR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現をRT−PCRにて確認した結果を示す。鋳型量のコントロールとしてGAPDHを下段に示した。図7Cには、神経芽細胞腫サンプル47例について、NR1I2遺伝子のメッセンジャーRNAの発現量をRT−PCRにて測定しGAPDHで補正後、NR1I2遺伝子の領域2のメチル化の有無、N−myc遺伝子の増幅の有無、神経芽細胞腫の病期分類、予後についてグラフで示した。
【図8】図8Aは、神経芽細胞腫細胞株IMR32、SMS−KAN細胞に発現ベクター単体(Empty)、NR1I2遺伝子、VP16が結合したNR1I2遺伝子を導入後、3週間軟寒天培養を行った培養ディッシュのイメージを示す。図8Bは、図8Aの実験で観察された増殖細胞塊(コロニー)数をグラフで示した。
【図9】図9Aは、SMS−KAN細胞に発現ベクターのみ、発現ベクター+NR1I2遺伝子をSMS−KAN細胞に導入し、樹立したコントロール細胞(empty)、NR1I2遺伝子導入株2種(B1、B2)に対し、細胞破壊液をウェスタンブロットし、タグ配列であるmycタンパク質に対する抗体で検出した結果を示す。図9Bは、これら3種の細胞の増殖速度をミトコンドリア脱水素酵素活性を細胞数の指標として縦軸にとり、観察した結果を示す。
【図10】図10は、表3及び表4で示したNR1I2遺伝子が発現することにより、1.5倍以上の発現量を示した遺伝子のうち、がんの増殖抑制に関与する候補遺伝子として10種を選び出し、電気泳動を利用したRT−PCRにてそれぞれの発現量を観察した結果を示す。A:SMS−KAN:コントロール, B:KAN−NR1I2発現クローンB1, C:KAN−NR1I2発現クローンB2, D: GOTO コントロール, E:GOTO−NR1I2発現クローンA1を使用した。GAPDH遺伝子について同様の実験を行い、コントロールとして補正し相対値として各遺伝子の発現量を算出した。
【図11】図11は、SMS−KAN細胞でのコントロール(vector)、NR1I2発現クローンB1、B2およびGOTO細胞でのコントロール(vector)、NR1I2発現クローンA1についてCYP2A4遺伝子、PLA2G2A遺伝子、GAPDH遺伝子のRT−PCRでの電気泳動イメージを示す。
【配列表フリーテキスト】
【0094】
SEQUENCE LISTING
<110> Fuji Photo Film Co.
<120> Cancer suppressing agent
<130> A51756A
<160> 2
<170> PatentIn version 3.3
<210> 1
<211> 2146
<212> DNA
<213> Homo sapiens
<400> 1
tgaaatatag gtgagagaca agattgtctc atatccgggg aaatcataac ctatgactag 60
gacgggaaga ggaagcactg cctttacttc agtgggaatc tcggcctcag cctgcaagcc 120
aagtgttcac agtgagaaaa gcaagagaat aagctaatac tcctgtcctg aacaaggcag 180
cggctccttg gtaaagctac tccttgatcg atcctttgca ccggattgtt caaagtggac 240
cccaggggag aagtcggagc aaagaactta ccaccaagca gtccaagagg cccagaagca 300
aacctggagg tgagacccaa agaaagctgg aaccatgctg actttgtaca ctgtgaggac 360
acagagtctg ttcctggaaa gcccagtgtc aacgcagatg aggaagtcgg aggtccccaa 420
atctgccgtg tatgtgggga caaggccact ggctatcact tcaatgtcat gacatgtgaa 480
ggatgcaagg gctttttcag gagggccatg aaacgcaacg cccggctgag gtgccccttc 540
cggaagggcg cctgcgagat cacccggaag acccggcgac agtgccaggc ctgccgcctg 600
cgcaagtgcc tggagagcgg catgaagaag gagatgatca tgtccgacga ggccgtggag 660
gagaggcggg ccttgatcaa gcggaagaaa agtgaacgga cagggactca gccactggga 720
gtgcaggggc tgacagagga gcagcggatg atgatcaggg agctgatgga cgctcagatg 780
aaaacctttg acactacctt ctcccatttc aagaatttcc ggctgccagg ggtgcttagc 840
agtggctgcg agttgccaga gtctctgcag gccccatcga gggaagaagc tgccaagtgg 900
agccaggtcc ggaaagatct gtgctctttg aaggtctctc tgcagctgcg gggggaggat 960
ggcagtgtct ggaactacaa acccccagcc gacagtggcg ggaaagagat cttctccctg 1020
ctgccccaca tggctgacat gtcaacctac atgttcaaag gcatcatcag ctttgccaaa 1080
gtcatctcct acttcaggga cttgcccatc gaggaccaga tctccctgct gaagggggcc 1140
gctttcgagc tgtgtcaact gagattcaac acagtgttca acgcggagac tggaacctgg 1200
gagtgtggcc ggctgtccta ctgcttggaa gacactgcag gtggcttcca gcaacttcta 1260
ctggagccca tgctgaaatt ccactacatg ctgaagaagc tgcagctgca tgaggaggag 1320
tatgtgctga tgcaggccat ctccctcttc tccccagacc gcccaggtgt gctgcagcac 1380
cgcgtggtgg accagctgca ggagcaattc gccattactc tgaagtccta cattgaatgc 1440
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gggtgacacc tccgagaggc agccagaccc agagccctct gagccgccac tcccgggcca 1680
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cctgctatga cagctggcta gcattcctca ggaaggacat gggtgccccc cacccccagt 1800
tcagtctgta gggagtgaag ccacagactc ttacgtggag agtgcactga cctgtaggtc 1860
aggaccatca gagaggcaag gttgcccttt ccttttaaaa ggccctgtgg tctggggaga 1920
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ccatctgggg tctatgccca catacccacg tttgttcgct tcctgagtct tttcattgct 2040
acctctaata gtcctgtctc ccacttccca ctcgttcccc tcctcttccg agctgctttg 2100
tgggctccag gcctgtactc atcggcaggt gcatgagtat ctgtgg 2146
<210> 2
<211> 434
<212> PRT
<213> Homo sapiens
<400> 2
Met Glu Val Arg Pro Lys Glu Ser Trp Asn His Ala Asp Phe Val His
1 5 10 15
Cys Glu Asp Thr Glu Ser Val Pro Gly Lys Pro Ser Val Asn Ala Asp
20 25 30
Glu Glu Val Gly Gly Pro Gln Ile Cys Arg Val Cys Gly Asp Lys Ala
35 40 45
Thr Gly Tyr His Phe Asn Val Met Thr Cys Glu Gly Cys Lys Gly Phe
50 55 60
Phe Arg Arg Ala Met Lys Arg Asn Ala Arg Leu Arg Cys Pro Phe Arg
65 70 75 80
Lys Gly Ala Cys Glu Ile Thr Arg Lys Thr Arg Arg Gln Cys Gln Ala
85 90 95
Cys Arg Leu Arg Lys Cys Leu Glu Ser Gly Met Lys Lys Glu Met Ile
100 105 110
Met Ser Asp Glu Ala Val Glu Glu Arg Arg Ala Leu Ile Lys Arg Lys
115 120 125
Lys Ser Glu Arg Thr Gly Thr Gln Pro Leu Gly Val Gln Gly Leu Thr
130 135 140
Glu Glu Gln Arg Met Met Ile Arg Glu Leu Met Asp Ala Gln Met Lys
145 150 155 160
Thr Phe Asp Thr Thr Phe Ser His Phe Lys Asn Phe Arg Leu Pro Gly
165 170 175
Val Leu Ser Ser Gly Cys Glu Leu Pro Glu Ser Leu Gln Ala Pro Ser
180 185 190
Arg Glu Glu Ala Ala Lys Trp Ser Gln Val Arg Lys Asp Leu Cys Ser
195 200 205
Leu Lys Val Ser Leu Gln Leu Arg Gly Glu Asp Gly Ser Val Trp Asn
210 215 220
Tyr Lys Pro Pro Ala Asp Ser Gly Gly Lys Glu Ile Phe Ser Leu Leu
225 230 235 240
Pro His Met Ala Asp Met Ser Thr Tyr Met Phe Lys Gly Ile Ile Ser
245 250 255
Phe Ala Lys Val Ile Ser Tyr Phe Arg Asp Leu Pro Ile Glu Asp Gln
260 265 270
Ile Ser Leu Leu Lys Gly Ala Ala Phe Glu Leu Cys Gln Leu Arg Phe
275 280 285
Asn Thr Val Phe Asn Ala Glu Thr Gly Thr Trp Glu Cys Gly Arg Leu
290 295 300
Ser Tyr Cys Leu Glu Asp Thr Ala Gly Gly Phe Gln Gln Leu Leu Leu
305 310 315 320
Glu Pro Met Leu Lys Phe His Tyr Met Leu Lys Lys Leu Gln Leu His
325 330 335
Glu Glu Glu Tyr Val Leu Met Gln Ala Ile Ser Leu Phe Ser Pro Asp
340 345 350
Arg Pro Gly Val Leu Gln His Arg Val Val Asp Gln Leu Gln Glu Gln
355 360 365
Phe Ala Ile Thr Leu Lys Ser Tyr Ile Glu Cys Asn Arg Pro Gln Pro
370 375 380
Ala His Arg Phe Leu Phe Leu Lys Ile Met Ala Met Leu Thr Glu Leu
385 390 395 400
Arg Ser Ile Asn Ala Gln His Thr Gln Arg Leu Leu Arg Ile Gln Asp
405 410 415
Ile His Pro Phe Ala Thr Pro Leu Met Gln Glu Leu Phe Gly Ile Thr
420 425 430
Gly Ser

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NR1I2遺伝子又はその相同遺伝子を含有する癌抑制剤。
【請求項2】
前記遺伝子又はその相同遺伝子がベクターに組み込まれている、請求項1に記載の癌抑制剤。
【請求項3】
前記ベクターがウイルスベクター又は動物細胞発現用プラスミドベクターである、請求項2に記載の癌抑制剤。
【請求項4】
前記ウイルスベクターがレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである、請求項3に記載の癌抑制剤。
【請求項5】
前記遺伝子又はその相同遺伝子がリポソームに封入されている、請求項1に記載の癌抑制剤。
【請求項6】
NR1I2タンパク質又はその相同タンパク質を含有する癌抑制剤。
【請求項7】
NR1I2遺伝子の全部又はその一部を含むDNA又はRNAを用いて検体試料中のNR1I2遺伝子を解析する工程を含む、癌の検出及び診断方法。
【請求項8】
前記解析が遺伝子の変異の検出又は遺伝子の発現量の異常の検出である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から6の何れかに記載の癌抑制剤の適用対象となる癌を選別するための方法である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
NR1I2タンパク質に対する抗体又はその断片を用いて検体試料中のNR1I2タンパク質を解析する工程を含む、癌の検出及び診断方法。
【請求項11】
前記解析がタンパク質の発現量の異常の検出である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から6の何れかに記載の癌抑制剤の適用対象となる癌を選別するための方法である、請求項10又は11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−119359(P2007−119359A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309921(P2005−309921)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】