癌治療のための方法および組成物
本発明は、酸性セラミダーゼ阻害剤およびコリンキナーゼ阻害剤を含んでなる組成物に関するとともに、癌治療におけるその用途に関する。 本発明はまた、酸性セラミダーゼレベルの検出に基づいて、癌患者のための個別化治療を選択する方法に関する。さらに本発明はまた、コリンキナーゼ阻害剤および化学療法剤を含んでなる組成物ならびに癌治療におけるその用途に関する。最後に、本発明はまた、コリンキナーゼ阻害剤および細胞死受容体リガンドを含んでなる組成物および癌治療におけるその用途に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は治療法の分野に関し、より詳細には、個別に使用される複数の治療用化合物と比較して、改善された作用を示す該化合物含有組成物を用いた癌治療法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
コリンキナーゼは、ケネディ経路やフォスファチジルコリン(PC)合成経路の第1酵素である。コリンキナーゼは、リン酸基供与体としてアデノシン5’‐三リン酸(ATP)を用いてコリンをホスホリルコリン(PCho)にリン酸化することにより作用する。Ras遺伝子は、所謂癌遺伝子の一ファミリーを形成する。癌遺伝子は、全ヒト腫瘍の25〜30%において活性化し、幾つかのヒト腫瘍では90%において活性化することから広く研究されてきている。Rasタンパク質は、細胞の増殖、最終分化、老化の制御に関与するため、細胞内シグナル伝達において重要な役割を担っている。様々な癌遺伝子、その中でも特にras癌遺伝子は形質転換を促進させ、コリンキナーゼ活性レベル(level)が亢進されて、生成物のPChoの細胞内レベルが異常に増加する結果となる。補足的な知見で、ヒト腫瘍の発生におけるChoKの役割が裏付けられている。例えば、核磁気共鳴(NMR)法により、正常細胞と比べて、乳房、前立腺、脳および卵巣腫瘍等幾つかのヒト腫瘍細胞では、PChoが高レベルで認められることが分かっている。一般的な認識として、rasはヒト発癌において最も深く研究されている癌遺伝子の一つであり、ChoK阻害が、癌遺伝子により形質転換された細胞での新しい有効な抗腫瘍戦略であると証明されている。これらの初期の知見は、その後、in vivoでヌードマウスにおいて推定された。
【0003】
このようなデータから考えて、コリンキナーゼ活性やホスホリルコリンによって活性化する酵素に対して、個々にまたは組み合わせることで直接作用する複数の化合物を設計すれば、効果的な抗腫瘍療法の開発が可能になる。
【0004】
その意味で、ChoK阻害剤の研究により、比較的強力かつ選択的遮断薬としてHemicholinium−3(HC−3)が同定されている(Cuadrado A., et al, 1993, Oncogene 8: 2959-2968, Jimenez B., et al., 1995, J. Cell Biochem. 57: 141-149; Hernandez-Alcoceba, R. et al., 1997, Oncogene, 15 :2289-2301)。ビフェニル構造を持つこのコリン同族体は、新規の抗腫瘍薬の設計に使われてきた。とは言え、HC−3は、呼吸器系の強力な麻痺薬であるため、臨床現場での使用にとって適切な候補ではない。ChoK阻害活性を改善し毒性作用を低減した誘導体の幾つかは、HC−3の構造を基にその修飾構造を導入して合成されている。
【0005】
ピリジニウム由来の対称型ビス4級化合物も、細胞全体においてPCho生成を阻害することが分かっている(国際公開番号WO98/05644)。しかし、これらの誘導体には、その治療適用拡大を限定する高レベルの毒性がある。
【0006】
化学療法抵抗性(「薬剤耐性」)は、今日癌治療に使用される多くの化学療法の有効性を制限する根本的問題である。薬剤耐性は、様々なメカニズムに因って発生する可能性がある。例えば、薬剤不活化の上昇、薬剤蓄積の減少、癌細胞からの薬剤排出、化学療法に起因する傷害の治療強化、生存促進性経路の活性化および細胞死経路の不活性化である(Hersey P. et al., 2008, Adv Exp Med Biol. 2008;615:105-26)。薬剤耐性は、抗腫瘍治療の開始前から、腫瘍細胞に本来備わっている場合がある。また、特定の薬剤耐性メカニズムは、腫瘍細胞が特定の治療薬に曝露後活性化されることがある。先天的または後天的耐性に関与するそれらの分子実体の同定によって、こうした薬剤耐性の克服に有効と思われる強力な分子標的に関する貴重な情報が得られる可能性がある。したがって、規定された腫瘍特異治療法のために、薬剤耐性を与える分子成分の阻害を目的とした戦略の設計は、癌治療効率向上に向けて重要な一歩前進になる。
【0007】
Mori et al.(Cancer Res., 2007, 67:11284-11290)は、ChoK阻害剤(コリンキナーゼ特異siRNA)および5−フルオロウラシルの併用が、乳癌細胞の細胞増殖/生存能力の低減に相乗効果を生み出す結果となったと述べている。しかし、この治療法は、in vivoで効率的に標的細胞に輸送されないsiRNAの使用に依存している。また、この目的のために設計されたsiRNAは、ChoKαおよびChoKβの両種類を認識する(Mori et al., Cancer Res., 2007, 67: 11284-11290)が、ChoKαおよびChoKβのみが、腫瘍学の分子標的となっており(国際公開番号WO2006108905および 同時係属中のスペイン特許出願番号P200800416)、この戦略が強力な治療用途になるのかは疑問である。
【0008】
それでも、腫瘍治療に使用できるように、ChoK酵素の阻害活性を高める化合物を開発する必要は大いにあるが、同時にそうした化合物は、最先端の化合物に対する毒性がかなり低い。
【発明の概要】
【0009】
第1の態様によれば、本発明は、1種以上のコリンキナーゼ阻害剤を含んでなる第1の成分と、1種類以上の酸性セラミダーゼ阻害剤、1種類以上の化学療法剤および1種類以上の細胞死受容体リガンドより選択される第2の成分を、個別にまたは共に含んでなる組成物に関する。
【0010】
第2の態様によれば、本発明は、本発明の組成物および薬学的に許容される担体または賦形剤を含んでなる医薬組成物に関し、また、その医学的用途、特に癌治療におけるその用途に関する。
【0011】
もう一つの態様によれば、本発明は、コリンキナーゼ阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性を高めるために、酸性セラミダーゼ阻害剤、化学療法剤または細胞死受容体リガンドの用途に関する。
【0012】
さらにもう一つの態様によれば、本発明は、ChoK阻害剤療法に耐性を示す癌患者の同定方法に関し、前記同定方法は、該患者由来の試料中における酸性セラミダーゼレベルを定量することを含んでなり、前記試料中の酸性セラミダーゼレベルが基準試料(reference sample)よりも高い場合、該患者はChoK阻害剤耐性であると同定される。
【0013】
もう一つの態様によれば、本発明は、癌患者のための個別化治療の選択方法に関し、前記選択方法は、該患者由来の試料中の酸性セラミダーゼレベルを定量することを含んでなり、酸性セラミダーゼの発現レベルが基準試料より高ければ、該患者は、ChoK阻害剤および酸性セラミダーゼ阻害剤の併用療法の候補者である。
【0014】
さらにもう一つの態様によれば、本発明は、癌治療に対するChoK阻害剤の治療効果を高めることができる化合物の同定方法に関し、前記同定方法は、
(i)ChoK阻害剤に耐性を示す腫瘍細胞を、候補化合物と接触させる工程と、
(ii)前記細胞中の酸性セラミダーゼレベルを定量する工程とを含んでなり、候補化合物による治療後、細胞中の酸性セラミダーゼレベルが治療前より低い場合、前記候補化合物は、癌治療に対するChoK阻害剤効果を高めることができるとみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】非小細胞肺癌患者の腫瘍の初代培養細胞における、治療薬MN58bに対する反応性を示す。
【図2】RT−qPCRによるマイクロアレイ解析結果の検証である。
【図3】非小細胞肺癌におけるChoK阻害耐性のメカニズムを示すための提案モデルである。
【図4】RT−qPCRにより定量された、ヒト肺癌由来の様々な細胞株に含まれるASAH1およびChoKのレベルを示す。
【図5】qRT−PCRにより定量されたASAH1遺伝子の発現およびChoK阻害剤耐性細胞株H460において、ウエスタンブロット解析により定量された酸性セラミダーゼタンパク質の発現を示す。
【図6】シスプラチン/ChoK阻害剤の併用連続療法の相乗効果を示す。
【図7】非小細胞肺癌異種移植片におけるシスプラチン/ChoK阻害剤の併用療法を示し、(A):MN58b/シスプラチン(統計的有意性:MN58b、p=0.09;シスプラチン、p=0.3;連続投与、p=0.017;並行投与p=0.016)、(B):非小細胞肺癌異種移植片における併用療法(統計学的有意性:RSM−932A(932A)、p=0.157;シスプラチン(DPP)、p=0.441;連続的DPPおよびTCd−171療法(SEC)、p=0.03);(C)対照群およびChoK阻害剤投与マウスの毒性測定としての体重モニタリング(2mg/Kg)、シスプラチン(1mg/Kg)および併用療法群;(D)併用療法に比べて、シスプラチン単独の同様な抗腫瘍活性は、毒性が有意に上昇する結果となる。
【図8】指定細胞株における、コリンキナーゼ阻害剤(A)RSM−932A(ChoKI)または(B)TRAILに対する腫瘍細胞の感受性を示す。
【図9】ChoKIおよびTRAILの併用療法による協調効果を示す。
【図10】大腸癌細胞におけるMN58bおよびTRAILの併用療法の相乗効果を示す。
【図11】流動細胞分析法により判定された大腸癌細胞におけるMN58bおよびTRAILの併用療法の相乗効果を示す。
【図12】ChoK阻害によるDR5発現の増加を示す。
【図13】ChoKI/TRAIL併用療法後のセラミド生成を示す。
【図14】大腸異種移植片におけるChoKI/TRAIL併用療法を示す。
【図15】大腸癌細胞におけるChoK阻害剤および5−FUによる併用療法の相乗効果を示す。
【図16】流動細胞分析法により判定された大腸癌細胞におけるChoK阻害剤および5−FUによる併用療法の相乗効果を示す。
【図17】大腸異種移植片におけるChoKI/5−FU併用療法を示す。
【発明の具体的説明】
【0016】
ChoK阻害剤および酸性セラミダーゼ阻害剤の併用
(本発明の第1の成分)
本発明の発明者らは、コリンキナーゼ(ChoK)阻害剤耐性の原発性ヒト腫瘍の存在を同定している(図1)。詳細には、本発明の実施例1では、ヒト非小細胞肺癌組織由来の種々の初代培養細胞が、公知のChoK阻害剤であるMN58bに対する分差感度を示すと述べている(図1)。驚くことに、この耐性は、本発明の実施例2および3で示されるように、酸性セラミダーゼの発現レベルの上昇によって引き起こされることが分かっている(図2)。ChoKの機能は、Choをリン酸化してホホコリン(Pcho)を生成することである。ホホコリンは、原形質膜の主要構成成分フォスファチジルコリン(PC)の前駆体である(Lacal JC, IDrugs. 2001; 4:419-26)。しかし、細胞膜そして故にPCが、細胞増殖には絶対的に必要である。したがって、いかなる理論によっても縛られたくないとは思うが、腫瘍細胞は、スフィンゴミエリン(SM)の分解でPChoを生成する代替経路の活性化によって、ChoK阻害に反応すると考えられている(図3)。しかし、SMの分解は、PCho生成のみならず、アポトーシス促進物質であるセラミドの生成にもつながり、結果的に腫瘍細胞には、アポトーシス細胞死が引き起こされる。興味深いことには、そうしたChoK阻害耐性の細胞には、アポトーシス促進性セラミドの分裂促進性スフィンゴシン−1Pへの転換を促進する酵素である酸性セラミダーゼのレベル上昇が見られることが、ここで同定されている(図3)。これらの結果により、酸性セラミダーゼの過剰発現は、細胞内でのセラミドレベルが減少するために、ChoK阻害による細胞死促進を抑制する可能性があることが示唆される。このため、腫瘍細胞内でChoK阻害により誘起されたアポトーシス促進性シグナルは、酸性セラミダーゼの過剰発現によって不活性化される。その上、生成されたセラミドは、分裂促進性スフィンゴシン−1Pに転換される可能性がある(図3)。
【0017】
こうした所見は、ChoK阻害剤への感受性を、酸性セラミダーゼの並行投与によって高めることにより、癌治療改善の可能性を広げるものである。事実、本願の実施例4には、酸性セラミダーゼ阻害剤NOEを使用した非小細胞肺癌由来腫瘍細胞の治療が、ChoK阻害剤に対する感受性を上昇させた結果が示されている。さらには、ChoK阻害剤MN58bまたはRSM−932Aおよび酸性セラミダーゼ阻害剤D−NMAPPDの併用療法では、これらの阻害剤の単独使用と比べ、もしくは、ChoK阻害剤およびアルカリ性セラミダーゼ特異阻害剤の併用と比べて、抗腫瘍効果が改善している(実施例4参照)。このように、酸性セラミダーゼ阻害剤およびChoK阻害剤の併用投与を行えば、その後に投与される化合物の投薬量を低減することができ、好ましくない副作用の減少につながる。
【0018】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、1種以上のコリンキナーゼ阻害剤を含んでなる第1の成分と、1種以上の酸性セラミダーゼ阻害剤を含んでなる第2の成分を、個別にまたは共に含んでなる組成物(以下、本発明の第1の組成物という)を提供する。
【0019】
「組成物」という用語は、本発明の代替的態様に係る種々の組み合わせにおいて、1種類以上の化合物を意味する。好ましくは、前記組成物は、少なくとも1種類の酸性セラミダーゼ阻害剤および少なくとも1種のChoK阻害剤を含んでなる。
【0020】
ここで使用されるコリンキナーゼは、ホスホリルコリン(PCho)生成のために、ATP存在下でコリンのリン酸化を触媒する酵素を意味する(EC 2.7.1.32)。本発明によれば、阻害可能なコリンキナーゼとしては、例えば、コリンキナーゼα等がある(UniProtにおいて、ヒト、マウスおよびラットの各タンパク質を、Accession No.P35790,054804およびQOl134によって規定)。
【0021】
ここで使用される酸性セラミダーゼ(N−アシルスフィンゴシン デアシラーゼ活性、EC 3.5.1.23)は、リソソーム内におけるセラミドのスフィンゴシンおよび遊離脂肪酸への分解に関与する脂質加水分解酵素である。細胞には、少なくとも3種類のセラミダーゼが含まれている。これらのセラミダーゼは、活性および場所毎にその至適pHに応じて(Li CM. et al., Genomics, 1999, 62:223-31)、酸性セラミダーゼ(ASAH1、NM_177924.3またはQ13510)、中性セラミダーゼ(ASAH2,NM O 19893またはQ9NR71)ならびにアルカリ性セラミダーゼ(ASAH3,NM_133492,Q8TDN7またはQ5QJU3)に分類される。第2の酸性セラミダーゼ(酸性セラミダーゼ様またはASAHLとして公知である)ポリペプチドについての記述もある(UniProt Accession No.Q02083)。本発明で使用する阻害剤は、少なくとも酸性セラミダーゼおよび/または酸性セラミダーゼ様タンパク質を阻害するものである。これは、その他の2種類のセラミダーゼはいずれも、ChoK阻害剤耐性細胞における発現が有意に増加するためである。
【0022】
酸性セラミダーゼ活性は、幾つかの種類のヒト癌において異常に発現する。この酵素は、癌における新たな標的として有用かもしれないし、また、抗腫瘍形成治療耐性に関与している可能性がある(Seelan RS., Genes Chromosomes Cancer. 2000, 29:137-46; Liu X., Front Biosci. 2008;13:2293-8 and Morales A., Oncogene. 2007, 26:905-16)。
【0023】
コリンキナーゼ阻害剤
ここで使用されるコリンキナーゼ阻害剤としては、Chok活性を低下させることが可能な何らかの化合物に関連し、例えば、当該酵素の活性を低下させるChok阻害化合物に加え、ChoK遺伝子の発現を妨げ、ChoK mRNAまたはタンパク質のレベルを低減する化合物等がある。
【0024】
一つの好ましい態様によれば、コリンキナーゼ阻害剤は、コリンキナーゼα特異である。
【0025】
ChoK mRNAレベルを低減させる化合物は、mRNA発現レベルを定量するための標準的アッセイを用いて同定することができる。例えば、RT−PCR,RNA保護分析、ノーザンブロット法、in situ ハイブリダイゼーション、マイクロアレイ技術等がある。
【0026】
ChoKタンパク質レベルを低減させる化合物は、タンパク質発現レベル定量用の標準的アッセイを用いて同定することができる。例えば、ウエスタンブロット法またはウエスタントランスファー法、ELISA(酵素結合免疫吸着法)、RIA(放射免疫測定法)、competitive EIA(競合型酵素免疫測定法)、DAS−ELISA(二重抗体サンドイッチELISA)、免疫細胞化学的・免疫組織化学的手法、特定の抗体を含むプロテインチップまたはマイクロアレイ使用に基づく手法、ディップスティック等の形態でのコロイド沈殿に基づくアッセイ等がある。
【0027】
コリンキナーゼの生物学的活性に対する阻害能の定量は、コリンキナーゼの活性を測定するために標準的アッセイを用いて検出を行う。例えば、精製・組換えコリンキナーゼまたはコリンキナーゼ中に濃縮された分画の存在下で、ATPにより[14C]標識コリンをリン酸化し、EP1710236記載の標準的分析手法(TLC等)を用いて、該リン酸化コリンの検出を行う方法等がある。
【0028】
化合物がコリンキナーゼα(ChoKα)に特異的である場合、ChoKαに特異的で、緊縮条件下で他のアイソフォーム(ChoKβ等)とハイブリダイズしないChoKプローブを用いてChoKα mRNAのレベル低下を検出するか、またはChoKαに特異的で、他のアイソフォーム(ChoKβ等)と結合しない抗体を用いてChoKαタンパク質のレベル低下を検出することによって同定されることができる。ChoKα mRNAおよびChoKαタンパク質レベルを特異的に定量するための好適な試薬については、国際公開番号WO2006108905に詳細に記載されている。
【0029】
本発明の第1の組成物において使用可能なコリンキナーゼ阻害剤の例を、表1のIからXVIIIに記載する。
【0030】
【表1】
【0031】
酸性セラミダーゼ阻害剤
ここで使用される酸性セラミダーゼ阻害剤としては、酸性セラミダーゼ活性の低下を生じさせることが可能な何らかの化合物に関連し、例えば、酸性セラミダーゼの活性部位に結合して当該酵素の活性を低下させる化合物に加えて、酸性セラミダーゼ遺伝子の発現を妨げ、酸性セラミダーゼmRNAまたはタンパク質のレベルを低減させる化合物等がある。
【0032】
ここで使用される「酸性セラミダーゼ阻害剤」という表現は、酸性セラミダーゼ活性の低下を生じさせることが可能な何らかの化合物に関連し、酸性セラミダーゼの活性部位に結合して当該酵素の活性を低下させる化合物に加えて、酸性セラミダーゼ遺伝子の発現を妨げ、酸性セラミダーゼmRNAまたはタンパク質のレベルを低減させる化合物等が挙げられる。
【0033】
酸性セラミダーゼmRNAのレベルを低減させる化合物の同定には、mRNA発現レベルを定量するための標準的アッセイを用いることができる。例えば、RT−PCR,RNA保護分析、ノーザンブロット法、in situ ハイブリダイゼーション、マイクロアレイ技術等がある。
【0034】
酸性セラミダーゼタンパク質のレベルを低減させる化合物は、タンパク質発現レベル定量用の標準的アッセイを用いて同定することができる。例えば、ウエスタンブロット法またはウエスタントランスファー法、ELISA(酵素結合免疫吸着法)、RIA(放射免疫測定法)、competitive EIA(競合型酵素免疫測定法)、DAS−ELISA(二重抗体サンドイッチELISA)、免疫細胞化学的・免疫組織化学的手法、特定の抗体を含むプロテインチップまたはマイクロアレイ使用に基づく手法、ディップスティック等の形態でのコロイド沈殿に基づくアッセイ等がある。
【0035】
酸性セラミダーゼの酵素活性を低下させる酸性セラミダーゼ阻害剤の同定には標準的アッセイを用いることができ、精製酸性セラミダーゼまたは酸性セラミダーゼ中に濃縮された分画および該酵素の基質を用いて、酸性セラミダーゼの活性を測定する。例えば、ES2233204に記載の方法は、N−(12−(4−ニトロベンゼン−2−オキサ−1,3−ジアゾロ)ドデシル)スフィンゴシン(サー−C12−NBD)の加水分解の阻害に基づいている。
【0036】
本発明の第1の組成物において使用可能な非限定的酸性セラミダーゼ阻害剤または酸性セラミダーゼ様阻害剤の例を、表2のI〜XIIIに記載する。
【0037】
【表2】
【0038】
酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼに対する特異的な阻害抗体
酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼに存在するエピトープに対する抗体は、これらのタンパク質の機能を効果的に遮断する可能性があり、したがって、本発明の組成物の阻害剤として使用することができる。ここで使用される“阻害抗体”とは、酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼの生物学的活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体を意味する。
【0039】
酸性セラミダーゼの生物学的活性に対する阻害能の定量は、標準的アッセイを用いた検出を行い、精製酸性セラミダーゼまたは酸性セラミダーゼ中に濃縮された分画を使用して酸性セラミダーゼ活性を測定する。その方法としては、例えば、スペイン特許ES2233204号に記載されているように、N−(12−(4−ニトロベンゼン−2−オキサ−1,3−ジアゾロ)ドデシル)スフィンゴシン(サー−C12−NBD)の加水分解を阻害する抗体の能力に基づく方法等がある。
【0040】
コリンキナーゼの生物学的活性に対する阻害能の定量は、コリンキナーゼの活性を測定するために標準的アッセイを用いて検出を行う。例えば、精製・組換えコリンキナーゼまたはコリンキナーゼ中に濃縮された分画の存在下で、ATPにより[14C]標識コリンをリン酸化し、欧州特許EP1710236号記載の標準的分析手法(TLC等)を用いて、該リン酸化コリンの検出を行う方法等がある。
【0041】
コリンキナーゼもしくは酸性セラミダーゼに特異的な阻害抗体または断片は、容易に入手可能であるか、または従来の分子生物学的手法によって容易に生成可能である。例えば、酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼ由来の免疫原を用いて、標準プロトコルを使用することによって、抗タンパク質/抗ペプチドの抗血清もしくはモノクローナル抗体を入手することが可能である(参照例:Antibodies: A Laboratory Manual ed. by Harlow and Lane (Cold Spring Harbor Press: 1988))。マウス、ハムスター、ウサギのような哺乳動物は、ペプチド免疫原(抗体反応を誘導できる酸性セラミダーゼ、コリンキナーゼまたはその抗原断片等)で免疫処置されることができる。タンパク質またはペプチドに免疫原性を与える方法は、担体分子への接合または当該分野で公知の他の手法がある。ポリペプチドの免疫原性部分は、アジュバントの存在下で投与されることができる。
【0042】
免疫化の進行は、血漿または血清中の抗体力価を検出することによってモニタリングすることができる。標準的ELISAまたは他の免疫測定法により、抗原としての免疫原を用いて、抗体のレベルを評価することができる。1つの好ましい態様によれば、本発明の組成物の一部を構成する抗体は、酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼ(またはそれに対して少なくとも80%、85%、90%もしくは98%の同一性を有するバリアント)の抗原決定基に対し免疫特異的である。ある態様によれば、免疫特異的な患者抗体は、無脊椎生物(酵母菌等)の酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼ関連プロテインとは実質的に交差反応しない。「実質的に交差反応しない」とは、該抗体が、酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼに対する該抗体の結合親和性よりも、少なくとも1桁小さい、より好ましくは少なくとも2桁小さい、さらにより好ましくは少なくとも3桁小さい、非相同タンパク質に対する結合親和性を有することを意味している。
【0043】
したがって、本発明の抗体は、コリンキナーゼまたは酸性セラミダーゼのエピトープに結合することが可能であるが、エピトープの形成には、典型的には少なくとも6,8,10もしくは12個の連続アミノ酸が必要であり、非連続アミノ酸から成るエピトープは、もっと多く、例えば、少なくとも15,25もしくは50個のアミノ酸が必要になる可能性がある。「本発明の抗体」という用語は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、それら抗体のFabおよび1本鎖Fv(scFv)断片、二重特異性抗体、ヘテロ結合体、ヒトおよびヒト化抗体等を含む。このような抗体は種々の方法で生成されることができる。例えば、ハイブリドーマ培養、細菌または哺乳類細胞の培養による組換え発現、および遺伝子導入動物による組換え発現等がある。また、抗体は、繊維状ファージ、細菌、酵母菌またはリボソーム等の表示系で発現した配列からなるライブラリーから配列を選択して生成されることができる。特定の生成方法を選択するための文献、例えば、Chadd and Chamow, Curr. Opin. Biotechnol, 12:188-194 (2001)には豊富な案内情報がある。生成方法の選択を左右する幾つかの要因がある。例えば、望ましい抗体構造、抗体における炭水化物部位の重要性、培養および精製の容易さ、ならびにコスト等である。多くの様々な抗体構造は、標準的発現技術を用いて形成することができる。抗体構造には、例えば、全長抗体、FabおよびFv断片等の抗体断片、さらには、異なる種由来の構成部分を含んでなるキメラ抗体等がある。FabおよびFv断片等の、小サイズで、エフェクター機能を持たず限られた薬物動態的活性を有する抗体断片は、細菌発現系での生成が可能である。1本鎖Fv断片は、免疫原性が低く、血液から迅速にクリアランスされる。
【0044】
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であってもよい。このようなポリクローナル抗体は、非ヒト哺乳類等の哺乳類で、例えば、下記のような免疫剤および、好ましくは、アジュバントを一回以上注射して生成することができる。典型的には、免疫剤および/またはアジュバントは、一連の皮下もしくは腹膜内注射により哺乳類に投与される。免疫剤は、コリンキナーゼ、酸性セラミダーゼまたはそれらの断片、それらの融合タンパク質、またはコリンキナーゼもしくは酸性セラミダーゼを発現する細胞等であってよい。このようなタンパク質、断片、または調製物は、適切なアジュバントの存在下で非ヒト哺乳類に導入される。免疫原の別の投与形態は、細胞表面に膜貫通型タンパク質として投与される(例えば、Spiller et al. J. Immunol. Methods, 224: 51-60 (1999)に記載の方法)。これらの細胞は、自然に抗原を発現する細胞であってもよく、または、他のDNA配列のうち抗原をコードする配列、細胞内での十分な発現に必要な配列を含むDNA構築物で細胞のトランスフェクションを行った後に、抗原の発現が得られる細胞であってもよい。こうしたアプローチは、細胞膜が、抗原が発現する天然部位である場合だけではなく、細胞内で一旦合成された抗原であっても、抗原をコードする配列に付加されるシグナルペプチドによって、これらの場所に送られる場合でも可能である。血清中に、もしも好ましくないエピトープに対するポリクローナル抗体が含まれる場合、該ポリクローナル抗体は、免疫親和性クロマトグラフィーによって精製されることができる。
【0045】
あるいはまた、前記抗体はモノクローナル抗体であってもよい。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマで生成されてもよい。その場合、マウス、ハムスター、または他の妥当な宿主動物を免疫剤で免疫化し、該免疫剤に特異的に結合する抗体を生成するもしくは生成可能なリンパ球を誘導する(参照例:Kohler and Milstein, Nature 256:495 (1975))。前記免疫剤としては、典型的には、コリンキナーゼ、酸性セラミダーゼまたはそれらの受容体、断片、もしくは融合タンパク質、および必要に応じて、担体またはコリンキナーゼもしくは酸性セラミダーゼが濃縮された粗タンパク質調製物、または、前記タンパク質のいずれかを発現する細胞等がある。このようなタンパク質、断片または調製物は、適切なアジュバントの存在下で非ヒト哺乳類に導入される。免疫原の別の投与形態は、細胞表面に膜貫通型タンパク質として投与される(例えば、Spiller et al. J. Immunol. Methods, 224: 51-60 (1999)に記載の方法)。これらの細胞は、自然に抗原を発現する細胞であればどの細胞でもよく、または、他のDNA配列のうち抗原をコードする配列、細胞内での十分な発現に必要な配列を含むDNA構築物で細胞のトランスフェクションを行った後に、抗原の発現が得られる細胞ならどのようなものでもよい。こうしたアプローチは、細胞膜が、抗原が発現する天然部位である場合だけではなく、細胞内で一旦合成された抗原であっても、抗原をコードする配列に付加されるシグナルペプチドによって、これらの場所に送られる場合でも可能である。あるいは、リンパ球をin vitroで免疫化してもよい。一般に、もし非ヒト哺乳類ソースが望ましい場合は、脾臓細胞またはリンパ節細胞が用いられ、もしヒト由来の細胞が望ましい場合には、末梢血リンパ球(「PBLs」)が用いられる。これらのリンパ球は、ポリエチレングリコール等の好適な融剤を使用して不死化細胞株と融合されてハイブリドーマ細胞が生成される。一般に、不死化細胞株は、ラット、マウス、ウシまたはヒト由来の骨髄腫細胞である。前記ハイブリドーマ細胞は、好適な培地、好ましくは非融合の不死化細胞の増殖または生存を阻害する一種類以上の物質を含む培地で培養される。クローンは、限界希釈法およびハイブリ
ドーマ細胞を培養する前記培地(上澄み)を用いて単離される。クローンアッセイは、ChoKに対するモノクローナル抗体を得るために、流動細胞分析法、免疫沈降法、または、その他、RIAやELISA等のin vitroでの結合アッセイのような従来手法によって行われることができる。クローンはまた、動物における腹水腫瘍として、in vitroで培養されることができる。
【0046】
好ましくは、ハイブリドーマ細胞のクローンで生成されたモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降、放射免疫測定法(RIA)もしくは酵素結合免疫吸着法(ELISA)等の他のin vitro結合アッセイ、または蛍光顕微鏡もしくは流動細胞分析法等の免疫蛍光法によって定量される。サブクローンで分泌されたモノクローナル抗体は、培地、腹水または血清から、従来の免疫グロブリン精製法、例えば、タンパク質A−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析もしくは親和性クロマトグラフィーによって好適に分離される。
【0047】
モノクローナル抗体はまた、米国特許US4,816,567号記載の方法のような、組換えDNA法によって生成されてもよい。本発明のモノクローナル抗体をコードするDNAは、コリンキナーゼまたは酸性セラミダーゼ受容体特異的ハイブリドーマ細胞から単離され、従来の方法、例えば、ハツカネズミ抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いて配列されることができる。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましいソースとして機能する。一旦単離されたDNAは、発現ベクターに挿入されてもよい。そして、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または他の方法では免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄腫細胞等の宿主細胞にトランスフェクトされ、組換え宿主細胞内にモノクローナル抗体を合成する。前記DNAはまた、例えば、相同ヒト配列を、マウス重鎖および軽鎖定常ドメインのコード配列で置換することによって、または、非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全体もしくは一部を、免疫グロブリンコード配列に共有結合させることによって修飾されることができる。非免疫グロブリンポリペプチドは、本発明の抗体の定常ドメインの代わりに置換されるか、または、本発明に係る抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインの代わりに置換されて、キメラ二価抗体を作ることができる。
【0048】
標的分子に反応する特異的抗体または抗体断片を生成するもう一つの方法は、細菌、酵母菌、繊維状ファージ、リボゾームもしくはリボゾームサブユニットおよび他の表示系で発現する免疫グロブリン遺伝子またはその一部をコードする発現ライブラリーをスクリーニングすることである。これらの方法は、通常、健康なドナー、患者、または健康もしくは不健康な動物等の多様なソースから得られた抗体配列または抗体断片配列の大ライブラリーを使用する。これらの配列は、適切な細胞株でクローニングされて発現され、抗原に対するその結合親和性によって選択される。中和、アゴニスト等の望ましい特性を有する抗体または断片を選択するために様々なアプローチの記述がある(Fernandez, Curr. Op. Biotech., 15: 364-373 (2004); Schmidt, Eur. J. Biochem., 268: 1730-1738 (2001))。1つの態様によれば、本発明のハイブリドーマの特性を有する抗体および抗体断片は、メッセンジャーRNAを抽出し、cDNAライブラリーを構築して、抗体分子のセグメントをコードするクローンを選択して、組換え手段により生成することも可能である。
【0049】
抗体はまた、その臨床用途を変えるために設計されてもよい。数多くのアプローチが、分子生物学および遺伝子技術、例えば遺伝学や免疫グロブリン構造の十分な知識等を利用して、臨床その他の用途のために免疫グロブリンの特性を改善する目的で、免疫グロブリン分子の様々な変形を作り出している。それらの幾つかは、使用されるべき種において、該分子の免疫原性を低下させる傾向があり、合成された分子はその種とより相同性のある配列を有している。健康なヒトにおいて非倫理的であると認められる処置を避けつつ、ヒト由来のmAbsを得るために様々な方法が用いられている。他のアプローチでは、例えば、固形腫瘍内の分子の分布を改善するために、分子の重さやサイズを減らしている。別の可能性は、1個以上の標的分子に対する結合ドメイン分子(2重特異抗体、3重特異抗体等)の接合、または、望ましい機能を備えた別の分子、例えば、有毒物質、ホルモン、成長因子、免疫修飾剤(免疫抑制剤もしくは免疫刺激剤)、細胞増殖阻害剤等と抗体もしくは断片の接合である。一般に、合成された分子はすべて、抗原−抗体結合に特徴的な高い特異性および親和性を与える抗体可変ドメインをほぼ1個保持している。このような構造例の幾つかが以下に記載される:
【0050】
キメラ抗体:
幾つかの種(通常、mAbが生成された哺乳類)の抗体由来の可変領域および他の種(キメラ抗体が使用されることになる種)の定常領域とで構成された抗体を意味する。このような構成の目的は、オリジナルのmAbでありながら免疫原性が低く、治療される患者では寛容性が高く、改善された血清半減期を有し、エフェクターの免疫作用機序、例えば、補体、細胞毒性細胞のFc受容体または種特異性を示す免疫グロブリンに対する他の特異的受容体等のために認識され得る抗体を生成するためである。
【0051】
ヒト化抗体:
「ヒト化抗体」とは、非ヒト抗体由来の抗体、典型的にはネズミ抗体であって、親抗体の抗原結合特性を保持しつつヒトでは免疫原性が低い抗体を意味する。この抗体の実現には、可能性として様々な手法がある。例えば、(a)非ヒト可変ドメイン全体をヒト定常領域にグラフトしてキメラ抗体を生成する;(b)非ヒト相補性決定領域(CDRs)のみを、臨界的フレームワーク残基を保持するかまたは保持していないヒトフレームワークならびに定常領域に、グラフトする;および(c)非ヒト可変ドメイン全体の移植ではあるが、表面残基の置換によりヒト様セクションでそれらを「覆う」等の方法がある。非ヒト抗体をヒト化する方法は、当該分野で記述がある。好ましくは、ヒト化抗体は、非ヒトの供給源から導入された1個以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、「移入」残基と呼ばれることが多く、典型的には、「移入」可変ドメインから取られたものである。ヒト化は、本質的に、Winterおよび共同研究者ら(Jones et al., Nature, 321 :522-525 (1986); Reichmann et al., Nature, 332:323-327 (1988); Verhoeyen et al., Science, 239:1534-1536 (1988))の方法に従って、超可変領域配列をヒト抗体の対応する配列の代わりに置換することにより行われることができる。実際のところ、ヒト化抗体は、典型的には、幾つかの超可変領域残基および、もしかすると幾つかのフレームワーク(FR)残基が、齧歯類抗体の類似部位由来の残基によって置換されているヒト抗体である。ヒト化抗体生成において使用される重鎖および軽鎖のヒト可変ドメインの選択は、抗原に対する特異性および親和性を保持する免疫原性を低減するために非常に重要である。所謂「最適な」方法によれば、齧歯類抗体の可変ドメインの配列について、公知のヒト可変ドメイン配列の全ライブラリーがスクリーニングされる。そして、齧歯類の配列に最も近いヒト配列が、ヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として認められる(Suns et al., J. Immunol, 151 :2296 (1993); Chothia et al., J. MoI. Biol, 196:901 (1987))。もう一つの方法は、軽鎖または重鎖の特定サブグループの全ヒト抗体コンセンサス配列から由来する特定フレームワーク領域を用いる。同じフレームワークを、幾つかの異なるヒト化抗体に用いる場合がある(Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992); Presta et al., J. Immunol, 151 :2623 (1993))
【0052】
さらに重要なことは、抗原に対する親和性が高く、他の好都合な生物学的特性を備えたヒト化抗体を生成することである。この目標を実現するため、好ましい方法によれば、親およびヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列および様々なコンセプトのヒト化産物の解析法により、ヒト化抗体が作製される。
【0053】
霊長類化抗体:
ヒト抗体により類似の抗体を作製するこうしたアプローチにおける次の段階は、所謂霊長類化抗体、すなわち、サル(または他の霊長類)の可変重鎖および軽鎖ドメインを含むように構築された組換え抗体、詳細には、カニクイザル抗体であり、ヒト定常ドメイン配列、好ましくは、ヒト免疫グロブリンγ1またはγ4定常ドメイン(もしくはPEバリアント)を含むものである。このような抗体の作製については、Newman et al, Biotechnology, 10:1455-1460 (1992)、米国特許US5658570およびUS6113898に記載されている。これらの抗体は、ヒト抗体に対する高い相同性85%〜98%を示し、ヒトエフェクター機能を発揮し、低免疫原性であるため、ヒト抗原に対し高親和性である可能性が報告されている。組換え抗体生成におけるもう一つの高効率的手段が、Newman, Biotechnology, 10:1455-1460 (1992)によって開示されている。
【0054】
ヒト抗体:
「ヒト抗体」とは、公知の標準的な方法のいずれかによって生成された、全体としてヒト軽鎖および重鎖ならびに定常領域を含む抗体を意味する。
【0055】
ヒト化の代替として、ヒト抗体を作製することができる。例えば、免疫化を行う際、内因性免疫グロブリン産生が行われない状況下でヒト抗体の完全なレパートリーの産生が可能なトランスジェニック動物(マウス等)を作製することが現在では可能である。例えば、キメラマウスおよび生殖細胞系変異マウスにおける抗体重鎖連結領域PH)遺伝子のホモ接合性欠失は、内因性抗体の生成を完全に阻害するという記述がある。そのような生殖細胞系変異マウスに、ヒト生殖系細胞免疫グロブリン遺伝子アレイを移入することによって、免疫化後ヒト抗体が生成される結果となる。例えば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993); Jakobovits et al., Nature, 362:255-258 (1993) を参照されたい。
【0056】
あるいは、ファージディスプレイ法(McCafferty et al., Nature 348:552-553 (1990))を用いて、ドナー由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからヒト抗体および抗体断片をin vitroで生成することができる。この方法によれば、抗体Vドメイン遺伝子が、繊維状バクテリオファージ、例えばM13もしくはfdなどメジャーなまたはマイナーなコートタンパク質遺伝子のいずれかに、インフレームでクローニングされ、ファージ粒子表面に機能性抗体断片としてディスプレイされる。繊維状粒子はファージゲノムの1本鎖DNAコピーを含んでいるため、抗体の機能特性に基づく選択も、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択につながることとなる。したがって、ファージは、B−細胞の特性の幾つかを模倣する。ファージディスプレイは、様々な形態で実施可能である。それらの概説については、例えば、Johnson, Kevin S. and Chiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3:564-571 (1993)を参照されたい。
【0057】
ヒト抗体はまた、in vitroで活性化されたB細胞またはヒト細胞で再構築された免疫系を有するSCIDマウスによって作製されることができる。
【0058】
ヒト抗体が一旦得られると、それをコードするDNA配列が単離されクローニングされて、適切な発現系、すなわち好ましくは、連続して遺伝子発現し、その抗体が単離可能な培地に放出される哺乳類由来細胞株に導入されることができる。
【0059】
抗体断片:
抗体断片は、例えば、Fab、F(ab’)2、Fab’およびscFvのような抗体断片である。抗体断片の生成のために様々な技術が開発されてきている。従来は、これらの断片は、インタクト抗体のタンパク質消化により誘導されていたが、ごく最近では、組換え宿主細胞によって直接生成されることができる。他の複数の態様によれば、選択される抗体は1本鎖Fv(scFv)断片で、さらに単一特異的または二重特異的であってもよい。
【0060】
抗体のパパイン消化により、2つの同一性抗原結合断片が生成される。「Fab」断片と呼ばれものは、その各々が単一の抗原結合部位を有し、残りの「Fc」断片は、その名が、容易に結晶化するその能力を反映している。ペプシン処理をすると、F(ab’)2断片が生成される。この断片は、2つの抗原結合部位を有しており、抗原の架橋がよりいっそう可能である。
【0061】
「Fv」は、最小の抗体断片で、完全な抗原認識および抗原結合部位を含む。この領域は、密接な非共有結合性の会合において1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインの2量体からなる。この構成において、各可変ドメインの3つの超可変領域が相互作用し、VH-VLダイマーの表面に抗原結合部位を規定する。集合的に、その6つの超可変領域が、抗体に対する抗原結合特異性を与える。しかし、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つの超可変領域のみを含んでなるFvの半分)であっても、抗原を認識して結合する能力を有している。ただし、結合部位全体よりも親和性は低い。
【0062】
「Fab」断片も、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第1定常ドメイン(CH1)とを含む。Fab’断片は、抗体のヒンジ領域から数えて1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に、数個の残基が付加されることによりFab断片とは異なっている。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基が少なくとも1つの遊離チオール基を有するFab’を示す、本明細書中での名称である。F(ab’)2抗体断片は、本来、ヒンジシステインをその間に挟んでいる一対のFab’断片として生成されていた。抗体断片の他の化学的カップリングも公知である。
【0063】
「単一鎖Fv」すなわち「scFv」抗体断片は、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含んでなり、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。好ましくは、Fvポリペプチドはさらに、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーを含んでなり、これにより、scFvが抗原結合のための所望の構造を形成することが可能になる。scFvの概説については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer- Verlag, N.Y., pp. 269-315 (1994) を参照されたい。
【0064】
「ディアボディ」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小抗体断片のことで、該断片は、同じポリペプチド鎖内に軽鎖可変ドメイン(VL)に結合された重鎖可変ドメイン(VH)(VH‐VL)を含んでなる。同じ鎖上の2つのドメイン間における対形成を可能にするには短すぎるリンカーを用いて、これらのドメインは、別の鎖の相補ドメインと対合させられ、2つの抗原結合部位が生じる。ディアボディについての十分な詳細は、例えば、欧州特許EP404,097号、国際公開WO93/11161号,およびHollinger et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993) に記載されている。
【0065】
本発明に包含される、ChoKに結合する機能性抗体断片は、それらが由来する完全長抗体の少なくとも1つの結合機能および/または調節機能を保持している。好ましい機能性抗体断片は、それに対応する完全長抗体の抗原抗体機能を保持する(例えば、哺乳類ChoKを結合する能力)。特に好ましい機能性断片は、結合活性、伝達活性、および/または細胞応答の刺激等、哺乳類ChoKに特徴的な機能の1つ以上を阻害する能力を保持する。例えば、1つの態様によれば、機能性断片は、ChoKとそのリガンド1個以上との結合を阻害する、および/または1つ以上の受容体介在性の機能を阻害することができる。
【0066】
2重特異性抗体:
2重特異性抗体は、少なくとも2個以上の異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体である。例えば、2重特異性抗体は、B細胞表面マーカーの2個の異なるエピトープに結合するものがあり、また他の2重特異性抗体は、第1のB細胞表面マーカーに結合し、さらに第2のB細胞表面マーカーに結合するものがある。あるいは、抗B細胞マーカー結合アームが、T細胞受容体分子(例えば、CD2もしくはCD3)等の白血球上のトリガー分子、またはIgGのFc受容体(FcyR),例えば、FcyRI(CD64)、FcyRII(CD32)、FcyRIII(CD16)等に結合するアームと結合して、B細胞に細胞防御機序を集中させることができる。2重特異性抗体はまた、細胞傷害性薬物をB細胞に局在化するために使用されることもできる。これらの抗体は、B細胞マーカー結合アームおよび細胞傷害性薬物(サポリン、抗インターフェロン‐α、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキセートまたは放射性同位体ハプテン等)に結合するアームを有している。2重特異性抗体は、全長抗体または抗体断片(F(ab)2二重特異性抗体等)として作製できる。
【0067】
2重特異性抗体の作製方法は、当該分野において公知である。全長2重特異性抗体の従来の作製方法は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づいており、この場合、その2つの鎖は異なる特異性を有している(Millstein et al, Nature, 305:537-539 (1983))。免疫グロブリン重鎖-軽鎖は無作為な組み合わせのため、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)が、10個の異なる抗体分子からなる潜在能力を備えた混合物を産生する。そのうち1個のみが正確な2重特異性構造を有している。正確な構造の分子の精製は、通常、親和性クロマトグラフィーの工程により行われるが、多少煩わしく生成物収率は低い。類似の方法が、国際公開番号WO93/08829およびTraunecker et al., EMBO J, 10:3655-3659 (1991)で開示されている。別のアプローチによれば、所望の結合特異性(抗体抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインが、免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合される。当該融合は、好ましくは、ヒンジ領域の少なくとも一部、CH2およびCH3領域を含んでなる免疫グロブリン重鎖定常ドメインとの融合である。
【0068】
好ましくは、軽鎖結合に必要な部位を含む第1の重鎖定常ドメイン(CHI)を、上記融合の少なくとも1つに存在させる。免疫グロブリン重鎖融合および、必要に応じて免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAが、別々の発現ベクターに挿入され、好適な宿主生物に同時トランスフェクトされる。これによって、抗体構築に3つのポリペプチド鎖を不均等比率で使用し最適収率が得られる場合、態様によれば、当該3つのポリペプチド断片の相互比率調整がかなり柔軟に行える。しかし、均等な比率での少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が高収率となる場合、またはその比率が格別重要ではない場合は、1つの発現ベクターに2つもしくは3つ全てのポリペプチド鎖のコード配列を挿入することが可能である。
【0069】
二重特異性抗体は、架橋されたまたは「ヘテロコンジュゲート」抗体を含む。例えば、ヘテロコンジュゲートにおける抗体の一方は、アビジンに結合され、他方はビオチンに結合されることができる。このような抗体は、例えば、好ましくない細胞に対する免疫系細胞を標的にするために提案されている。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の簡便な架橋法を用いて作製されることができる。好適な架橋剤は、当該分野で公知となっており、架橋技術の幾つかと共に、米国特許US4,676,980に開示されている。
【0070】
二重特異性抗体を抗体断片から生成する技術も文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は、化学結合を用いて作製されることができる。
【0071】
酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼに特異的なRNA干渉(RNAi)
もう一つの態様によれば、本発明の組成物の一部を構成する酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼの阻害剤は、酸性セラミダーゼおよび/またはコリンキナーゼの発現、または酸性セラミダーゼおよび/またはコリンキナーゼ機能に必要な任意の成分遺伝子の発現をノックダウンさせることが可能なRNAiである。RNAiは、真核細胞に発生する可能性のある、配列特異的な転写後遺伝子発現のプロセスである。一般に、このプロセスは、特定の配列のmRNAの分解を伴う。該mRNA分解は、その配列に相同的な二本鎖RNA(dsRNA)によって誘導される。例えば、特定の一本鎖mRNA(ssmRNA)の配列に相当する長鎖dsRNAの発現が、そのメッセージを不安定にし、それによって、対応する遺伝子の発現の「干渉」となる。したがって、任意の選択遺伝子の抑制が、その遺伝子に対するmRNAの全体または重要部分に相当するdsRNAの導入によって可能になる。長鎖dsRNAが発現すると、最初に、リボヌクレアーゼIIIによる処理で、わずか21〜22個の塩基対からなる、これまでよりも短い長さのdsRNAオリゴヌクレオチドにされるように思われる。したがって、RNAiは、比較的短い相同的なdsRNAsの導入または発現によって実行されることができる。事実、比較的短い相同dsRNAsの使用には、以下で述べるような特定の利点がある可能性がある。
【0072】
RNAiの実行に使用される二本鎖オリゴヌクレオチドは、好ましくは、長さが30塩基対未満で、より好ましくは、約25個、24個、23個、22個、21個、20個,19個,18個または17個のリボ核酸塩基対を含んでなる。場合により、本発明のdsRNAオリゴヌクレオチドは、3’突出末端を含んでいてもよい。例示的な2−ヌクレオチド3’突出末端は、任意のタイプのリボヌクレオチド残基から構成されることが可能であり、2’−デオキシチミジン残基での構成さえ可能である。これにより、RNA合成のコストが低減され、細胞培地中およびトランスフェクトされた細胞内でsiRNAsのヌクレアーゼ耐性を強化できる(Elbashir et al., Nature 411 : 494-8, 2001を参照)。塩基対が50個、75個、100個、またはさらには500個もしくはそれ以上の長さのdsRNAsもまた、本発明のある態様によれば利用可能である。RNAi実行のためのdsRNAの濃度は、例えば、約0.05nM、0.1nM、0.5nM、1.0nM、1.5nM、25nM、または100nMであるが、治療細胞の性質、標的遺伝子および当業者が容易に認識できる他の要因により、他の濃度も使用可能である。例えば、dsRNAsは、化学的に合成されるか、in vitroで、または適切な発現ベクターを使用してin vivoで合成されることができる。例えば、合成RNAは、公知の方法(Expedite RNA phosphoramidites and thymidine phosphoramidite (Proligo, Germany)等)を用いて化学的に合成された21ヌクレオチドRNAを含む。合成オリゴヌクレオチドは、好ましくは、公知の方法(例えば、Elbashir et al., Genes Dev. 15: 188-200, 2001を参照)を用いて脱保護されゲル精製される。比較的長いRNAは、当該分野で公知のプロモーター、例えばT7RNAポリメラーゼプロモーター等から転写されることができる。in vitroプロモーター下流に、両方向に可能な配向で単一のRNA標的が置かれ、その標的の両鎖を転写して、所望の標的配列のdsRNAオリゴヌクレオチドが作製される。上記のRNA種のいずれも、標的核酸、例えば、緊縮条件および/または生理学的条件下で、ヒト酸性セラミダーゼまたはヒトChoKをコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズする核酸等に表される核酸配列の一部を含むように設計される。
【0073】
オリゴヌクレオチドの設計に使用される特異的配列は、標的の発現した遺伝子メッセージに含まれる任意の連続したヌクレオチド配列であってもよい。当該分野で公知のプログラムおよびアルゴリズムを、適切な標的配列の選択に使用することができる。また、最適な配列の選択は、特定の1本鎖核酸配列の二次構造を予測するために設計されたプログラムを使用して、それらの配列の選択が、折り畳みmRNAの露出した一本鎖核酸領域で生じやすいようにさせることで行われてもよい。適切なオリゴヌクレオチドを設計するための方法および組成物は、例えば、米国特許第6,251,588号で知ることができる。その内容は、本明細書中に参照により組み込まれる。メッセンジャーRNA(mRNA)は、一般に、リボヌクレオチド配列内のタンパク質合成の指示情報を含む直鎖分子として考えられている。しかし、研究によって、ほとんどのmRNAには、多くの二次構造および三次構造が存在することが明らかになっている。RNAの二次構造要素は、同じRNA分子の異なる領域間で、ワトソン・クリック型相互作用により大量に形成される。重要な二次構造要素には、分子内の二本鎖領域、ヘアピンループ、二本鎖RNA内のバルジおよびインターナルループ等がある。三重構造要素は、二重構造要素が互いに接触するか、または一本鎖領域と接触してより複雑な三次元構造が生じる場合に形成される。多くの研究者たちが、大量のRNA二重構造の結合エネルギーを測定し、RNAの二次構造予測に使用可能な一連の法則を見出している(例えば、Jaeger et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 7706, 1989; and Turner et al., Annu. Rev. Biophys. Biophys. Chem. 17:167, 1988を参照)。それらの法則は、RNA構造要素の同定、特に、サイレンシングRNAi、リボザイムまたはアンチセンス技術の標的に対するmRNAの好ましいセグメントを表すことが可能な一本鎖RNA領域の同定に役立つ。したがって、mRNA標的の好ましいセグメントが、dsRNAオリゴヌクレオチドを仲介するRNAiの設計、および本発明の適切なリボザイムならびにハンマーヘッド型リボザイム組成物の設計のために同定されることが可能である。
【0074】
幾つかの異なるタイプの分子が、RNAi技術に効果的に利用されている。低分子干渉RNA(siRNA)は、時には短干渉RNAまたはサイレンシングRNAとしても知られており、20〜25個のヌクレオチド長の二本鎖RNA分子の種類であって、生物学的に多様な役割を果たす。最も注目すべきことは、siRNAがRNA干渉(RNAi)経路に関与しており、その経路で特定遺伝子の発現に干渉するという点である。RNAi経路でのその役割に加えて、siRNAは、RNAi関連経路、例えば、抗ウイルス機序またはゲノムのクロマチン構造形成等においても作用する。合成siRNAによる哺乳類細胞へのRNAi誘導能力が証明されている。この発見により、バイオ医学研究および製薬開発におけるsiRNA/RNAiの利用が急増した。
【0075】
マイクロRNA(miRNA)は、遺伝子調節低分子RNA関連の種類であって、典型的には21〜23ヌクレオチド長を有する。miRNAがsiRNAと典型的に異なる点は、miRNAが一本鎖RNA前駆体から処理されたものであり、mRNA標的に対して一部のみが相補的である点である。初期の研究では、miRNAが、細胞質におけるP体での翻訳阻害の段階で、転写後の遺伝子発現調節を行っていることが指摘されている。しかし、miRNAはまた、siRNA同様に、mRNA開裂の誘導も行う場合がある。これは、植物によく見られるが、標的部位がmiRNAに対して典型的に高い相補性を有している。植物のmRNA中の標的部位は、動物において、5’側非翻訳領域、オープンリーディングフレームおよび3’側非翻訳領域に見られることができるが、主たる標的は3’側非翻訳領域である。miRNAは、初期miRNA(pri‐miRNA)の一部としてまず転写される。そして、Droshaおよびそれを助けるPasha/DGCR8により(マイクロプロセッサー複合体)処理されてpre‐miRNAになる。その約75ヌクレオチド長のpre‐miRNAは、次にエクスポーチン‐5によって細胞質に輸送され、そこでダイサーにより、21〜23ヌクレオチドのsiRNA様分子に分解される。時には、pri‐miRNA上に複数のmiRNAが見られる場合がある。
【0076】
低分子ヘアピンRNA(shRNA)は、さらに別のRNAのタイプであり、RNAiを実行するために使われることができる。RNAの配列は、隙間のないヘアピンターンを形成しており、遺伝子発現をサイレンシングするために使用されることが可能である。shRNAは、RNAポリメラーゼIIIによって転写される。
【0077】
現在、低分子干渉RNA(siRNA)および低分子ヘアピンRNA(shRNA)は、遺伝子機能のサイレンシングを目的に、様々な遺伝子のサイレンシングに広く使用されている。多様なソースを用いた既成のshRNAおよびsiRNA遺伝子サイレンシング構築物からなるライブラリー開発のおかげで、特定の遺伝子のサイレンシングのためにRNAiを利用することはいっそう容易になっている。例えば、shRNA関連情報と関連ウェブサイトのデータベースから構成されるRNAi Codexは、公的に利用可能なshRNAリソースのための入り口として開発され、http://codex.cshl.orgでアクセス可能である。RNAi Codexは現在、Hannon‐Elledge shRNAライブラリー由来のデータを保有しており、生物学者にとって優しい遺伝子名の使用により、所望の遺伝子のサイレンシングができるshRNA構築物情報へのアクセスを可能にしている。それは、そのようなデータが入手可能であればだが、各構築物に関して使用者による注釈および出版物を保管するために設計されている。Olson et al. (Nucleic Acids Res. 34(Database issue): D153-D157, 2006, incorporated by reference)は、RNAi Codexの特徴に関し詳細に記載し、そのツール使用を説明している。これらの全情報が、酸性セラミダーゼ、コリンキナーゼもしくは他の所望のタンパク質を標的とする様々なsiRNAまたはshRNAの設計の手助けとして利用されることができる。
【0078】
酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼに特異的なリボザイム
標的mRNA転写物を触媒作用で開裂するために設計されたリボザイム分子も、酸性セラミダーゼおよび/またはコリンキナーゼmRNAの翻訳を妨げるために使用されることができる。したがって、もう一つの態様によれば、本発明の組成物は、mRNA酸性セラミダーゼおよび/またはコリンキナーゼを特異的に対象とするリボザイムを含んでなる。リボザイムは、RNAの特定の開裂を触媒することができる酵素RNA分子である(概説は、Rossi, Current Biology 4: 469-471, 1994を参照)。リボザイム作用の機序は、相補的な標的RNAに対するリボザイムの配列特異的ハイブリダイゼーション、そしてそれに続くヌクレオチド鎖開裂事象に関与する。リボザイム分子の組成物は、好ましくは、標的mRNAに相補的な1つ以上の配列およびmRNA開裂に関連する公知の触媒配列または機能的に等価な配列を含む(例えば、米国特許第5,093,246号を参照。尚、該特許はその全体が参照により本明細書中に組み込まれる)。
【0079】
部位特異的認識配列でmRNAを開裂するリボザイムは、標的mRNAを破壊するために使用されることができるが、ハンマーヘッドリボザイムの使用が好ましい。ハンマーヘッドリボザイムは、mRNAと相補的塩基対を形成する隣接領域により指示された場所でmRNAを開裂する。好ましくは、標的mRNAは、以下の2塩基の配列:5’‐UG‐3’を有する。ハンマーヘッドリボザイムの構築および生成は当該分野において公知であり、より詳細な記載がHaseloff and Gerlach, Nature 334: 585-591, 1988にあり、またPCT出願番号WO89/05852を参照されたい。該PCT出願の内容は、本明細書に参照により組み込まれる。ハンマーヘッドリボザイム配列を、トランスファーRNA(tRNA)等の安定なRNAに組み込んで、in vivoでの開裂効率を向上させることができる(Perriman et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92: 6175-79, 1995; de Feyter, and Gaudron, Methods in Molecular Biology, Vol. 74, Chapter 43, "Expressing Ribozymes in Plants," Edited by Turner, P. C, Humana Press Inc., Totowa, N. J.)。特に、tRNA融合リボザイムのRNAポリメラーゼIII仲介発現は、当該分野で公知である(Kawasaki et al., Nature 393: 284-9, 1998; Kuwabara et al., Nature Biotechnol. 16: 961-5, 1998; and Kuwabara et al., MoI. Cell. 2: 617-27, 1998; Koseki et al., J Virol 73: 1868-77, 1999; Kuwabara et al., Proc Natl Acad Sci USA 96: 1886-91, 1999; Tanabe et al., Nature 406: 473-4, 2000を参照)。所定のCDNA配列内部には、典型的に多数の潜在的ハンマーヘッドリボザイム開裂部位がある。好ましくは、リボザイムは、開裂認識部位が5’末端近くに位置するように構築され、開裂効率を上げて非機能性mRNA転写物の細胞内蓄積を最小限にする。さらには、例えば、形態に長短がある標的のC‐末端アミノ酸ドメインの異なった部分をコードする標的配列に含まれる任意の開裂認識部位を使用すれば、該標的の一方または他方の形態を選択的に標的とすることが可能となり、したがって、標的遺伝子産物の一形態に対して選択的な効果がある。
【0080】
遺伝子を標的とするリボザイムは、2つの領域、すなわち各々少なくとも5個、好ましくは各々6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個の連続ヌクレオチド長の標的mRNAに対して相補的なハイブリッド形成領域を必ず含む。例えば、酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼ遺伝子に見られる配列のmRNA等である。また、リボザイムは、高度に特異的なエンドヌクレアーゼ活性を有する。該活性は、自動触媒的に標的センスmRNAを開裂するものである。本発明は、治療薬の標的候補遺伝子等の標的遺伝子をコードするセンスmRNAにハイブリダイズし、それにより、機能性ポリペプチド生成物合成のための翻訳がそれ以上できないように、該センスmRNAにハイブリダイズしてそれを開裂するリボザイムにまで及ぶ。
【0081】
本発明の組成物に使用されるリボザイムはまた、例えばテトラヒメナ・サーモフィラ(IVS RNAまたはL‐19 IVS RNAとして公知である)に自然発生するような、RNAエンドリボヌクレアーゼ(以下、「Cech‐型リボザイム」という)も含む。これは、Thomas Cech and collaborators (Zaug et al, Science 224:574-578, 1984; Zaug et al., Science 231 : 470-475, 1986; Zaug et al., Nature 324: 429- 433, 1986; University Patents Inc.による国際公開WO88/04300号; Been, et al., Cell 47: 207-216, 1986)によって広範囲に記載がなされている。Cech‐型リボザイムは、標的RNAにハイブリダイズする8塩基対活性部位を有しており、その後に、標的RNAの開裂が起きる。本発明は、標的遺伝子または核酸配列に存在する8塩基対活性部位配列を標的とするこのようなCech‐型リボザイムを包含する。
【0082】
リボザイムは、修飾オリゴヌクレオチド(例えば、安定性向上、ターゲティング等を目的とする)から構成されることが可能であり、in vivoで標的遺伝子を発現する細胞に送達されるべきである。好ましい送達方法は、トランスフェクト細胞が、内因性標的メッセージを破壊して翻訳を阻害するための十分量のリボゾームを産生するように、強力な構成的polIIIまたはpolIIプロモーターの制御下で、リボザイムを「コードする」DNA構築物の使用を含む。アンチセンス分子と異なり、リボザイムは触媒的に働くため、効率のためには、比較的低い細胞内濃度が求められる。
【0083】
ある態様によれば、リボザイムは、RNAによる有効なノックダウンを引き起こすに十分な配列部分を最初に同定することによって設計されてもよい。次に、同じ配列部位がリボザイムに組み込まれてもよい。本発明のこの態様によれば、リボザイムまたはRNAiの遺伝子標的部分は、標的核酸の少なくとも5個、好ましくは6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個またはそれ以上の連続ヌクレオチドの配列と実質的に同じであり、該標的核酸は、例えば、ヒト酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼ配列のいずれかの核酸等である。長い標的RNA鎖では、相当数の標的部位が二次構造または三次構造内に隠れているため、リボザイムに接近することができない(Birikh et al., Eur J Biochem 245: 1-16, 1997)。標的RNAの接近容易性の問題を克服するために、典型的には、コンピューターで作成された二次構造予測を使用し、一本鎖であるか「開いた」形状である可能性が最も大きい標的の同定が行われる(Jaeger et al., Methods Enzymol 183: 281-306, 1989を参照)。
【0084】
他のアプローチは、二次構造予測のための系統的なアプローチを利用するもので、これには、膨大な数のハイブリダイゼーション候補のオリゴヌクレオチド分子の評価が含まれる(Milner et al, Nat Biotechnol 15: 537-41, 1997; and Patzel and Sczakiel, Nat Biotechnol 16: 64-8, 1998を参照)。また、米国特許第6,251,588号(その内容は、参照により本明細書中に組み込まれる)には、標的核酸配列とのハイブリダイゼーションの可能性を予測するため、オリゴヌクレオチドプローブ配列の評価方法が記載されている。本発明の方法は、当該発明のRNAiおよびリボザイム両方の設計において、一本鎖であると予測される標的mRNAの好ましいセグメントを選択するための上記方法の用途、さらに、好ましくは約10〜20個の連続ヌクレオチドを含んでなる、同じかまたは実質的に同一の標的mRNA配列の便宜的用途を提供する。
【0085】
酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼに特異的なアンチセンス核酸
本発明のさらなる様態は、例えば、酸性セラミダーゼおよび/またはコリンキナーゼ核酸の転写および/または翻訳の阻害により、発現を阻害するための単離「アンチセンス」核酸の使用に関する。前記アンチセンス核酸は、従来の塩基対相補性によって、または、例えば、二重螺旋の主要な溝での特異的相互作用を通じてDNAに結合する場合に、潜在的な標的薬剤に結合することができる。一般に、これらの方法は、当該分野で一般に使用される技術の範囲に当てはまり、またオリゴヌクレオチド配列に対する特異的結合に依拠するいかなる方法をも含む。
【0086】
本発明のアンチセンス構築物は、発現プラスミドとして送達されることができる。該プラスミドは、例えば、細胞に転写されると、ChoKポリペプチドまたは酸性セラミダーゼポリペプチドをコードする細胞内mRNAの少なくとも特殊な部分に相補的なRNAを産生する。あるいは、前記アンチセンス構築物は、オリゴヌクレオチドプローブであり、ex vivoで生成される。該プローブは、細胞に導入されると、標的核酸のmRNAおよび/またはゲノム配列とのハイブリダイゼーションによって発現を阻害する。このようなオリゴヌクレオチドプローブは、好ましくは、内因性ヌクレアーゼ、例えばエキソヌクレアーゼおよび/またはエンドヌクレアーゼ等に耐性で、そのためin vivoで安定な修飾オリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドとして使用される核酸分子の例は、DNAのホスホロアミダイト、ホスホチオエートおよびメチルホスホネート類似体である(米国特許第5,176,996号、第5,264,564号および第5,256,775号も参照)。また、アンチセンス治療に役立つオリゴマーを構築するための一般的アプローチが、例えば、Van der Krol et al, BioTechniques 6: 958-976, 1988; and Stein et al., Cancer Res 48: 2659-2668, 1988により概説されている。
【0087】
アンチセンスDNAに関して、例えば、標的遺伝子の−10領域〜+10領域までの間の翻訳開始部位由来のオリゴデオキシリボヌクレオチドが好ましい。アンチセンスアプローチは、標的ポリペプチドをコードするmRNAに相補的なオリゴヌクレオチド(DNAまたはRNA)の設計に関与する。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、mRNAに結合して翻訳を阻害する。完全な相補性は好ましくはあるが、完全である必要はない。二本鎖アンチセンス核酸の場合、したがって、二本鎖DNAの一本鎖が試験されることができ、または3重構造の分析が可能である。ハイブリダイズする能力は、アンチセンス核酸の相補性の程度および該核酸の長さ次第になる。一般に、ハイブリダイズする核酸が長いほど、RNAに対する塩基ミスマッチがより多く含まれる可能性があり、依然として安定な二重鎖(または、場合により3重鎖)を形成する。当業者は、ハイブリダイズされた複合体の融点を測定するための標準的手法を用いて、ミスマッチの許容度を確認することができる。
【0088】
mRNAの5‘’末端、例えば、AUG開始コドンまでおよびそれを含む5’側非翻訳配列に相補的なオリゴヌクレオチドは、翻訳を阻害する上で最も効率的に働く必要がある。しかし、最近、mRNAの3’側非翻訳配列に相補的な配列も同様に、mRNAの翻訳阻害に有効であることが証明されている(Wagner, Nature 372: 333, 1994)。そのため、遺伝子の5’側または3’側非翻訳、非コード領域に相補的なオリゴヌクレオチドをアンチセンスアプローチに使用すれば、mRNAの翻訳を阻害することが可能である。mRNAの5’側非翻訳領域に相補的なオリゴヌクレオチドは、AUG開始コドンの相補体を含むべきである。mRNAコード領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、あまり有能な翻訳阻害剤ではないが、本発明に従って、これも使用されることができる。mRNAの5’側または3’側 非コード領域のどちらにハイブリダイズするように設計されていても、アンチセンス核酸は、少なくとも6個のヌクレオチド長でなければならないが、好ましくは約100個未満、より好ましくは約50、25,17または10個未満のヌクレオチド長を有する。
【0089】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの遺伝子発現阻害能力を定量するため、in vitro研究をまず実施することが好ましい。これらの研究では、オリゴヌクレオチドのアンチセンス遺伝子阻害と非特異的な生物学的効果の区別の目安となる対照群を使うことが好ましい。さらに、これらの研究で、標的RNAまたはタンパク質のレベルと内部対照RNAまたはタンパク質のレベルとを比較することが好ましい。アンチセンスオリゴヌクレオチドを使用して得られた結果は、対照オリゴヌクレオチドを使用して得られた結果と比較されることができる。好ましくは、対照オリゴヌクレオチドが、被験オリゴヌクレオチドとほぼ同じ長さであり、また、対照オリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列が、標的配列への特異的ハイブリダイゼーションを阻害するために必要なだけのアンチセンス配列と異なる。
【0090】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA、RNA、キメラ混合物、誘導体、それらの修飾物、一本鎖または二本鎖のいずれでも可能である。このオリゴヌクレオチドは、例えば、分子の安定性、ハイブリダイゼーション等を改善するために、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格で修飾されることができる。本ヌクレオチドは、ペプチド等の他の付加基(例えば、宿主受容体を標的とするため)、または細胞膜内外の輸送促進物質(例えば、Letsinger et al, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86: 6553-6556, 1989; Lemaitre et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 84: 648-652, 1987; PCT公報WO88/09810を参照)、血液脳関門を通過する輸送の促進物質(例えば、PCT公報WO89/10134を参照)、ハイブリダイゼーション誘導開裂物質(例えば、Krol et al., BioTechniques 6: 958-976, 1988を参照)、または挿入剤(例えば、Zon, Pharm. Res. 5: 539-549, 1988を参照)を含んでいてもよい。この目的のために、該オリゴヌクレオチドは、別の分子、例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘導架橋物質、輸送物質、ハイブリダイゼーション誘導開裂物質等に結合されることができる。
【0091】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、5‐フルオロウラシル、5‐ブロモウラシル、5‐クロロウラシル、5‐ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4‐アセチルシトシン、5‐(カルボキシヒドロキシエチル)ウラシル、5‐カルボキシメチルアミノメチル‐2‐チオウリジン、5‐カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β‐D‐ガラクトシルケウオシン、イノシン、N6‐イソペンチルアデニン、1‐メチルグアニン、1‐メチルイノシン、2,2‐ジメチルグアニン、2‐メチルアデニン、2‐メチルグアニン、3‐メチルシトシン、5‐メチルシトシン、N6‐アデニン、7‐メチルグアニン、5‐メチルアミノメチルウラシル、5‐メトキシアミノメチル‐2‐チオウラシル、β‐D‐マンノシルケオシン、5’‐メトキシカルボキシメチルウラシル、5‐メトキシウラシル、2‐メチルチオ‐N6‐イソペンチルアデニン、ウラシル‐5‐オキシ酢酸(V),ワイブトキソシン、シュードウラシル、ケオシン、2‐チオシトシン、5‐メチル‐2‐チオウラシル、2‐チオウラシル、4‐チオウラシル、5‐メチルウラシル、ウラシル‐5‐オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル‐5‐オキシ酢酸(V),5‐メチル‐2‐チオウラシル、3‐(3‐アミノ‐3‐N‐2‐カルボキシプロピル)ウラシル、(acp)wおよび2,6‐ジアミノプリンからなるが、これらに限定されない群より選択された少なくとも1つの修飾塩基部分も含んでなることができる。
【0092】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アラビノース、2‐フルオロアラビノース、キシルロースおよびヘキソースからなるが、これらに限定されない群より選択された少なくとも1つの修飾糖部分を含んでなることもできる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、中性ペプチド様骨格を含んでいてもよい。このような分子は、ペプチド核酸(PNA)‐オリゴマーと称され、例えば、Perry-O'Keefe et al, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93: 14670, 1996、および in Eglom et al., Nature 365: 566, 1993に記載されている。PNAオリゴマーの利点の1つは、DNAの中性骨格によって、培地のイオン強度とは本質的に無関係に、相補DNAに結合するその能力である。さらにもう一つの態様によれば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ホスホチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホラミドチオエート、ホスホラミデート、ホスホロジアミデート、メチルホスホネート、アルキルホスホトリエステルおよびホルムアセタールまたはこれらの類似体からなる群から選択された少なくとも1つの修飾リン酸骨格を含んでなる。
【0093】
さらにもう一つの態様によれば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、α‐アノマーオリゴヌクレオチドである。α‐アノマーオリゴヌクレオチドは、相補RNAと特異的な二本鎖ハイブリッドを形成し、通常の逆平行配向に反して、それらの鎖は互いに平行である(Gautier et al., Nucl. Acids Res. 15: 6625-6641, 1987)。該オリゴヌクレオチドは、2’‐0‐メチルリボヌクレオチド(Inoue et al., Nucl. Acids Res. 15: 6131-6148, 1987)またはキメラRNA‐DNA類似体(Inoue et al., FEBS Lett. 215: 327-330, 1987)である。
【0094】
標的mRNA配列のコード領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用はできるが、転写非翻訳領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用も可能である。
【0095】
ある例では、内因性mRNA上での翻訳を抑制するために十分な細胞内濃度のアンチセンスを実現することは難しいかもしれない。そのため、1つの好ましいアプローチは、組換えDNA構築物を使用する。該構築物中のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、強力なpolIIIまたはpolIIプロモーターの制御下に置かれる。標的細胞のトランスフェクトションにこのような構築物を使用することにより、内因性の潜在的薬剤標的転写物との相補的塩基対を形成する十分量の一本鎖RNAが転写される結果となり、それによって翻訳が阻害される。例えば、ベクターは、それが細胞に取り込まれてアンチセンスRNAの転写を指示するように導入されることができる。このようなベクターは、望ましいアンチセンスRNAを生成するために転写が可能でありさえすれば、エピゾームの状態か、または染色体に組み込まれてもよい。このようなベクターは、当該分野で標準的な組換えDNA技術手法によって構築されることができる。ベクターは、プラスミド、ウイルスまたは哺乳類細胞における複製および発現に使用される、当該分野で公知の他の物であってよい。アンチセンスRNAをコードする配列の発現は、哺乳類、好ましくはヒト細胞で作用するために当該分野で公知の任意のプロモーターによるものであってよい。このようなプロモーターは、誘導的または構成的なものであってよい。このようなプロモーターとしては以下が挙げられるが、それらに限定されない:SV40初期プロモーター領域(Bernoist and Chambon, Nature 290: 304-310, 1981)、ラウス肉腫ウイルスの長い3’末端反復配列に含まれるプロモーター(Yamamoto et al, Cell 22: 787-797, 1980)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78: 1441-1445, 1981)、メタロチオネイン遺伝子の調節配列(Brinster et al, Nature 296: 39-42, 1982)等である。
【0096】
あるいは、標的遺伝子発現の低減は、遺伝子の調節領域(例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサー)に相補的なデオキシリボヌクレオチド配列を標的にして、体内の標的細胞における遺伝子転写を阻害する三重螺旋構造の形成によって行うことができる(一般的には、Helene, Anticancer Drug Des. 6(6): 569-84, 1991; Helene et al., Ann. N.Y. Acad. Sci., 660: 27-36, 1992; and Maher, Bioassays 14(12): 807-15, 1992を参照)。
【0097】
転写阻害のために、三重螺旋形成に使用される核酸分子は、好ましくは、一本鎖でデオキシリボヌクレオチドから構成される。これらのオリゴヌクレオチドの塩基組成物は、フーグステン型塩基対合則による三重螺旋形成を促進するものでなくてはならない。該塩基対合則は一般に、二本鎖の一方上に相当な長さのプリン又はピリミジンの存在を必要とする。ヌクレオチド配列は、ピリミジンベースであってもよい。この場合は、形成された3重螺旋の3本の会合鎖に亘ってTATおよびCGCのトリプレットが生じることになる。このピリミジン豊富な分子は、二本鎖のうち一方の鎖のプリン豊富な領域において、その鎖に平行配向で相補的な塩基を与える。また、核酸分子は、例えば伸展したG残基を含むプリン豊富なものが選択されてもよい。これらの分子は、GC対に豊富なDNA二本鎖と共に三重螺旋を形成し、そこでは、プリン残基の大多数が標的二本鎖の一本に存在し、三重構造における3本鎖に亘りCGCトリプレットができることになる。
【0098】
あるいは、三重螺旋形成のために標的となり得る潜在的な標的配列は、所謂「スイッチバック」核酸分子の生成により増加させてもよい。スイッチバック分子は、交互に5’‐3’、3’‐5’の形態で合成され、これにより、該分子は、まず二重鎖のうち一方と塩基対になり、次に他方の鎖と塩基対になり、二重鎖の一方上に相当な長さのプリンまたはピリミジンが存在する必要がなくなる。
【0099】
ある態様によれば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、モルフォリノアンチセンスである。モルフォリノは合成分子であり、天然の核酸構造の再設計による産物である。通常、25塩基長で、標準的な核酸塩基対合によりRNAの相補的配列に結合する。構造上、モルフォリノがDNAと異なる点は、モルフォリノが標準的核酸塩基を有する一方で、これらの塩基は、デオキシリボース環の代わりにモルホリン環に結合し、かつリン酸塩の代わりにホスホロジアミデート基で連結される点である。アニオン性リン酸塩が非荷電のホスホロジアミデート基と置換されることで、通常の生理学的pH範囲におけるイオン化が防止されるため、生物または細胞内のモルフォリノは、非荷電分子である。モルフォリノは、キメラオリゴではなく、モルフォリノの全体骨格は、これらの修飾サブユニットから形成されている。モルフォリノは、一本鎖オリゴとして最も一般的に使用されるが、ヘテロ二重鎖モルフォリノと相補鎖DNAとが、カチオン性サイトゾル送達試薬と組み合わせて使用されることができる。
【0100】
多くのアンチセンス構造のタイプ(ホスホロチオエート等)と異なり、モルフォリノは、その標的RNA分子を分解しない。代わりに、モルフォリノは「立体遮断的」に作用し、RNA内の標的配列に結合して、モルフォリノの結合がなければそのRNAと結合する可能性のある分子を単純に妨害する。モルフォリノリゴは、モルファント胚を産生する胎芽、例えばゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル(ゼノパス)、ひよこ、およびウニの卵または胚における特異的なmRNA転写物の役割を調べるために使用されることが多い。適切なサイトゾル送達系を持つため、モルフォリノは細胞培養に有効である。
【0101】
モルフォリノは、メッセンジャーRNA(mRNA)の5’側非翻訳領域に結合して、5’キャップから開始コドンまでのリボソーム開始複合体の形成進行を妨げる。これにより標的転写物のコード領域の翻訳が阻害される(「ノックダウン」遺伝子発現と呼ぶ)。モルフォリノは、タンパク質の発現をノックダウンしてそのノックダウンによりいかに細胞または生物が変化するかがわかる便利な手段である。
【0102】
モルフォリノは、通常、pre‐RNAの一本鎖上のイントロン境界で、スプライシング誘導性のsnRNP複合体がその標的に結合するのを妨げることで、pre‐mRNAの処理工程も阻害することができる。U1(ドナー部位で)またはU2/U5(ポリピリミヂン体およびアクセプター部位で)の結合を妨害することにより、修飾スプライシングを起こすことが可能であり、普通、成熟mRNAからエクソンが除去されることになる。幾つかのスプライシング標的を対象にすることでイントロンの封入が生じる一方、隠れたスプライス部位の活性が部分的封入または排除につながる可能性がある。U11/U12snRNPsの標的も遮断されることができる。スプライシング修飾は、逆転写ポリメラーゼ鎖反応(RT‐PCR)により、好都合にアッセイされることができ、RT‐PCR生成物のゲル電気泳動後に、バンドシフトとして見られる。
【0103】
モルフォリノはまた、miRNA活性、リボゾーム活性、イントロンスプライシングサイレンサーおよびスプライシングエンハンサーの遮断にも使用されている。U2およびU12snRNP機能は、モルフォリノにより阻害されている。タンパク質コード領域内で「不安定な」mRNA配列を標的にしたモルフォリノは、翻訳のフレームシフトを誘導することができる。こうした様々な標的に対するモルフォリノの活性は、モルフォリノが、タンパク質または核酸とmRNAとの相互作用を遮断するための汎用ツールとして使用可能であることを示唆している。
【0104】
酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼに特異的なDNA酵素
本発明のさらなる態様は、酸性セラミダーゼおよび/またはコリンキナーゼ阻害剤がDNA酵素である組成物に関する。DNA酵素は、アンチセンスおよびリボザイム両技術の仕組みの特徴を幾つか組み込む。DNA酵素は、アンチセンスオリゴヌクレオチドとまさに同様に特定の標的核酸配列を認識するが、リボザイムとほぼ同様に、触媒的に働き特異的に標的核酸を開裂させるように設計される。
【0105】
現在、DNA酵素には2つの基本タイプがあり、その両方ともSantoroおよびJoyceにより同定された(例えば、米国特許第6,110,462号を参照)。10‐23DNA酵素は、2本のアームをつないだループ構造を含んでなる。この2本のアームによって、特定の標的核酸配列の認識による特異性が与えられる一方、ループ構造によって、生理学的条件下で触媒作用が引き起こされる。
【0106】
簡単に述べれば、標的核酸を特異的に認識して開裂させる理想的DNA酵素を設計するには、当業者は、最初に特有の標的配列を同定しなくてはならない。これは、アンチセンスオリゴヌクレオチドの概略で示したものと同様のアプローチを用いて実施することができる。好ましくは、固有のまたは実質的に配列は、約18〜22個のヌクレオチドからなるG/Cが豊富な配列である。配列に含まれるG/Cの量が多いと、DNA酵素と標的配列との相互作用を確実に強くする助けになる。
【0107】
DNA酵素の合成では、メッセージを該酵素の標的にする特異的アンチセンス認識配列が、DNA酵素の2本のアームを含んでなり、DNA酵素ループがその2本の特異的アームの間に置かれるように分割される。
【0108】
DNA酵素を生成して投与する方法は、例えば、米国特許第6,110,462号で見出すことができる。同様に、DNAリボザイムをin vitroまたはin vivoで送達する方法は、上記で詳細に概説したような、RNAリボザイム送達方法を含む。また、当業者は、アンチセンスオリゴヌクレオチドと同様に、DNA酵素が、安定性を改善して分解に対する耐性を向上させるため、任意に修飾され得ることを認識するであろう。
【0109】
本発明のアンチセンスRNAおよびDNA、リボゾーム、RNAiおよび三重螺旋分子は、DNAならびにRNA分子を合成するための当該分野に公知の任意の方法により作製されることができる。これらには、例えば固相ホスホアミダイト化学合成等、当該分野で公知のオリゴデオキシリボヌクレオチドおよびオリゴリボヌクレオチドを化学的に合成する技術も含まれる。あるいは、RNA分子は、アンチセンスRNA分子をコードするDNA配列のin vitroおよびin vivo転写により生成されることができる。このようなDNA配列は、T7またはSP6ポリメラーゼプロモーター等の好適なRNAポリメラーゼプロモーターを組み込む多種多様のベクターに組み込まれることができる。あるいは、アンチセンスRNAを構成的にまたは誘導的に合成するアンチセンスcDNA構築物は、使用されるプロモーターに応じて、細胞株に安定的に導入されることができる。さらには、核酸分子に対する様々な公知の修飾が、細胞内の安定性および半減期を向上させる手段として導入されてもよい。可能な修飾としては、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドの隣接配列を該分子の5’および/または3’末端に付加するか、またはオリゴデオキシリボヌクレオチド骨格内部にホスホジエステラーゼ結合よりもむしろホスホロチオエートもしくは2’O‐メチルの使用等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
コリンキナーゼ阻害剤および酸性セラミダーゼ阻害剤の好ましい組み合わせとしては、MN58b(表1のIIの構造)とNOE(表2のVIにある構造)、RSM−932A(表1のIの構造)とNOE,MN58bとD‐NMAPPD(表2のVIIIの構造)、およびRSM‐932AとD‐NMAPPD.
【0111】
Chok阻害剤と化学療法剤との併用
(本発明の第2の組成物)
本発明の発明者らは、驚くべきことに、コリンキナーゼ阻害剤MN58b治療への耐性が、シスプラチン、タキソール、ビレルビンまたはゲムシタビン等の従来の化学療法剤への耐性と相関関係がないことを発見している。
【0112】
これは、ChoK阻害剤耐性の腫瘍(実施例1を参照)およびChoK阻害剤の存在下で増殖を繰り返す周期によって選択された樹立細胞株(本発明の実施例6を参照)の両方で認められている。いかなる理論にも束縛されるつもりはないが、ChoK阻害剤とシスプラチンとの間の非交差耐性は、両剤が異なる機序で作用する事実に起因すると考えられている。この仮説は、異種移植モデルでのin vitroおよびin vivoの両試験(本発明の実施例7を参照)で、ChoK阻害剤とシスプラチンの併用が、その個々の化合物による治療(本発明の実施例7を参照)と比較された場合、腫瘍細胞の増殖抑制において相乗効果を示した事実によって裏付けられている。さらには、本発明の発明者らはまた、コリンキナーゼ阻害剤と5‐フルオロウラシルの併用が、異なる大腸癌細胞株の試験で(実施例9を参照)相乗的抗腫瘍効果を示したことも確認している。
【0113】
したがって、もう一つの態様によれば、本発明は、1種類以上のコリンキナーゼ阻害剤を含んでなる第1の成分と、1種類以上の化学療法剤を含んでなる第2の成分を、個別にまたは共に含んでなる組成物(以下、本発明の第2の組成物)に関する。
【0114】
「組成物」という用語は、本発明の代替的態様に係る様々な組み合わせの1種類以上の化合物を意味する。好ましくは、当該組成物は、ChoK阻害剤および少なくともアルキル化剤を含んでなる。
【0115】
本発明の組成物における使用に好適なChoK阻害剤としては、本発明の第1の組成物の一部を構成するものとして、表1であらかじめ示されたChoK阻害剤のいずれかが挙げられる。1つの好ましい態様によれば、ChoK阻害剤は、Chokαに特異的な阻害剤である。
【0116】
本明細書で使用される「化学療法剤」という用語は、癌細胞の増殖、成長、寿命または転移活性を阻害する化学剤を意味し、以下に限定はされないが、DNAアルキル化剤、代謝拮抗剤、有糸分裂阻害剤、アントラサイクリン、トポイソメラーゼIおよびII阻害剤、ホルモン療法および、EGFR阻害剤セツキシマブ、ゲフィチニブまたはタンパク質チロシンキナーゼ阻害剤イマチニブ等の標的療法が挙げられる。1つの好ましい態様によれば、化学療法剤は、アルキル化剤であり、より詳細には、DNAアルキル化剤または代謝拮抗剤である。
【0117】
本明細書で使用される「アルキル化剤」という表現は、アルキル残基を急速に分化する細胞の遺伝物質に付加して、それにより複製停止および細胞死に導くことのできる化合物を意味する。このような化学物質としては、白金系化合物(platinum-based compound)、窒素マスタード、ニトロソウレア、エチレンイミン誘導体、スルホン酸アルキルおよびトリアゼン、またそれらに限定されないが、メクロレタミン、シクロホスファミド(シトキサンTM)、メルファラン(L‐サルコリシン)、エトポシド、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、セムスチン(メチル‐CCNU)、ストレプトゾシン、クロロゾトシン、ウラシルマスタード、クロルメチン、イホスファミド、クロラムブシル、ピポブロマン、トリエチレンメラミン、トリエチレンチオホスフォルアミン、ブスルファン、プロカルバジン、ダカルバジンおよびテモゾロミド等が挙げられる。
【0118】
1つの態様によれば、アルキル化剤は、白金系化合物である。本発明で使用できる白金系化合物の例としては、シスプラチン、カルボプラチン、イプロプラチン、テトラプラチン、オキサリプラチン、JM118、JM149、JM216、JM335,トランスプラチノ、シス、トランス、シス‐Pt(NH3)(C6H11NH2)(OOCC3H7)2C1、ネダプラチン、マラネート‐1,2‐ジアミノシクロヘキサノプラチン(II)、5‐スルホサリチル酸‐トランス‐(1,2‐ジアミノシクロヘキサン)プラチン(II)(SSP)、ポリ‐[(トランス‐1,2‐ジアミノシクロヘキサン)プラチン]‐カルボキシアミロース(POLY‐PLAT)および4‐ヒドロキシ‐スルホニルフェニルアセテート(トランス‐1,2‐ジアミノシクロヘキサン)プラチノ(II)(SAP)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0119】
本明細書で使用される「代謝拮抗剤」という用語は、広い意味で、正常な代謝を妨害する物質および電子輸送系を阻害してエネルギー豊富な中間体の生成を妨げる物質を意味する。これは、それらの物質が、生きている生物にとって重要な代謝物質(ビタミン、補酵素、アミノ酸ならびに糖等)に構造的または作用機序的に類似しているためである。抗腫瘍活性を有する代謝拮抗剤の例としては、葉酸類似体(メトトレキサート(アメトプテリン)等)、デノプテリン、エダトレキサート、メトトレキサート、ノラトレキシド、ペメトレキセド、ピリトレキシム、プテロプテリン、ラルチトレキセド、トリメトレキサート;ピリミジン類似体(フルオロウラシル(5‐フルオロウラシル:5‐FU(R))、フロキシウリジン(フルオロデ‐オキシウリジン:FudR)、ドキシフルリジンおよびシタラビン(シトシンアラビノシド);プリン類似体(メルカプトプリン(6‐メルカプトプリン:6‐MP)、チオグアニン(6‐チオグアニン:TG)、およびペントスタチン(2’‐デオキシコホルマイシン)等が挙げられるが、これらに限られない。
【0120】
好ましい組み合わせとしては、MN58bとシスプラチン、RSM‐932Aとシスプラチン、MN58bと5‐フルオロウラシル、およびRSM‐932Aと5‐フルオロウラシル等が挙げられる。
これらに限られない。
【0121】
ChoK阻害剤および細胞死受容体リガンドの併用
(本発明の第3の組成物)
本発明の発明者らは、細胞死受容体リガンドおよびChoK阻害剤を個別に使用した治療と比べて、細胞死受容体リガンドおよびChoK阻害剤併用による腫瘍細胞治療が、細胞増殖をより阻害することを明らかにしている。例えば、本発明の実施例8で示されるように、コリンキナーゼ阻害剤RSM−932A(ChoKI)およびTRAILの併用による大腸癌細胞の治療は、各化合物を個別投与して同じ細胞を治療する場合と比べ、細胞傷害性が上昇している。さらに、本発明の実施例8によれば、ChoK阻害剤MN58bおよびTRAILの併用使用により、腫瘍異種移植モデルでの腫瘍成長の阻害が、それらの化合物の各々を別々に使用する場合に見られるよりも改善された結果が示されている。
【0122】
したがって、もう一つの態様によれば、本発明は、1種類以上のChoK阻害剤を含んでなる第1の成分と、1種類以上の細胞死受容体リガンドである第2の成分とを共にまたは個別に含んでなる組成物に関する。
【0123】
本発明の組成物における使用に好適なChoK阻害剤としては、本発明の第1の組成物の一部を構成するものとして、表1であらかじめ示されたChoK阻害剤のいずれかが挙げられる。1つの好ましい態様によれば、ChoK阻害剤は、Chokαに特異的な阻害剤である。
【0124】
本発明の組成物における使用に好適な細胞死受容体リガンドとしては、NGF、CD40L、CD137L/4‐1BBL、TNF‐αCD134L/OX40L、CD27L/CD70、FasL/CD95、CD30L、TNF‐β/LT‐α、LT‐βおよびTRAIL.1つの好ましい態様によれば、TNFファミリー分子はTRAIL、機能的に等価なその誘導体またはその 模倣低分子化合物である。TRAIL(TNF関連アポトーシス誘導リガンド)は、「Apo‐2リガンド」、「Apo‐2L」、「Apo2L」、「Apo2L/TRAIL」および「Apo‐2リガンド/TRAIL」としても知られており、TRAILの同族受容体を発現する細胞のアポトーシスを誘導することができる分子である。TRAILは数年前、サイトカインのTNFファミリーの分子として同定された((Pitti et al., 1996, J.BioLChem., 271 :12687-12690 and US Patent 6,284,236)。完全長のネイティブ配列ヒトTRAILポリペプチドは、アミノ酸281個の長さを有する、配列番号7(UnitProt accession P50591)に示された配列のII型膜貫通タンパク質である。可溶型のTRAILの結晶学的研究により、TNFおよび他の関連タンパク質の構造に類似するホモトリマー構造が明らかになっている。しかし、他のTNFファミリー分子と異なり、TRAILは、その3つのシステイン残基(ホモトリマーの各サブユニットの230番の位置にある)が協調して亜鉛原子の調整を行い、また亜鉛結合がトリマーの安定性および生物学的活性にとって重要であるという独特の構造的特徴を持つことが分かった。本発明は、3つの異なるTRAILアイソフォーム(TRAILα、TRAILβおよびTRAILγ)またはその組み合わせのいずれかの使用を考察する。
【0125】
機能的に等価なTRAILバリアントとしては、可溶性TRAILアイソフォーム類、例えば、国際公開WO08088582号ならびに米国特許US6284236号に記載のTRAILアイソフォーム、または米国特許出願US2002128438号に記載のTRAIL断片類95−281ならびに114−281、Bremer et al (Neoplasia, 2004, 6:636-45)によるscFv:sTRAIL溶解物、米国特許出願US2002061525号に記載の選択的スプライシング型TRAIL、国際公開WO04101608号に記載のTRAIL受容体結合ペプチド、国際公開WO07063301号に記載の19IL、199V、20IL、213W、215Dおよび/または193S TRAIL変異体等のアポトーシス促進受容体に対する特異性が向上したTRAILバリアント類または国際公開WO04001009A号に記載の受容体ファージディスプレイによって選択されるバリアント類、TRAIL同族受容体のTRAIL‐R1(DR4)ならびにTRAIL‐R2(DR5)を標的とするアゴニスト抗体類であるマパツムマブ、レクサツムマブ等、国際公開WO07128231号に記載の抗体類、国際公開WO02094880号に記載の抗体類、国際公開WO06017961号に記載のモノクローナル抗体AD5‐10、国際公開WO05056605号に記載のTRAIL特異的タンデム型ディアボディならびにトリアボディ、国際公開WO9937684号に記載のキメラ抗DR4抗体類、国際公開WO03038043号に記載のアゴニスト抗DR5抗体類、国際公開WO02085946号に記載の二重特異性抗TRAIL受容体抗体類、国際公開WO9832856号に記載の抗DR4特異的抗体類、Park,K.J et al (Cancer Res., 2007, 67:7327-7334) により記載された抗DR2 ScFV、国際公開WO08025516号ならびに国際公開WO04014951号に記載の三量体TRAIL溶解タンパク質、国際公開WO07102690号に記載の十二量体TRAILバリアント類、国際公開WO07145457号に記載のペグ化TRAIL,および米国特許出願US2006153809号、国際公開WO04087930号ならびに米国特許出願US200503
1593号に記載されているようなTRAILをコードするポリヌクレオチドを含んでなるDNAベクター等が挙げられる。
【0126】
アポトーシス促進効果を有するTRAILの低分子模倣体としては、国際公開WO2008094319号に記載の化合物類等が挙げられる。
【0127】
好ましい組み合わせとしては、RSM‐932AとヒトTRAILの細胞外領域(アミノ酸95〜281)およびMN58bとヒトTRAILの細胞外領域(アミノ酸95〜281)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0128】
本発明の製剤
本発明の第1、第2および第3の組成物の一部を構成する化合物としては、そうした化合物のみならず薬学的に許容されるその塩、溶媒和物、プロドラッグ、等が挙げられる。「薬学的に許容される塩、溶媒和物、プロドラッグ」という表現は、任意の薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物、または受容体への投与の場合、本発明に記載の化合物を(直接または間接的に)提供することが可能な他の任意の化合物を意味する。しかし、薬学的に許容されない塩も、薬学的に許容される塩の調製に役立つため本発明の範囲に包含される。塩、プロドラッグおよび誘導体の調製は、当該分野に公知の方法を用いて実施されることができる。
【0129】
例えば、本明細書で提供される化合物の薬学的に許容される塩は、塩基性または酸性の残基を含む原化合物から、従来の化学的方法を用いて合成される。このような塩は一般に、例えば、遊離酸や遊離塩基の形の当該化合物と、化学量論的量の酸性もしくは塩基性水溶液または有機溶媒、または両者の混合溶液とを反応させることによって調製される。DMSO(ジメチルスルホキシド)、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリル等の非水溶性媒体が一般に好ましい。酸付加塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の鉱酸付加塩および酢酸塩、マレイン酸、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸およびp‐トルエンスルホン酸等の有機酸付加塩等が挙げられる。塩基付加塩の例としては、ナトリウム、カリウム、臭化物、カルシウム、アンモニウム、マグネシウム、アルミニウムおよびリチウム塩等の無機塩、エチレンジアミン、エタノールアミン、N,N‐ジアルキレンエタノールアミン、トリエタノールアミン、グルカミンおよび塩基性アミノ酸塩等の有機塩基塩等が挙げられる。
【0130】
特に好ましい誘導体またはプロドラッグは、本発明の化合物を患者に投与した場合(例えば、経口投与化合物を血流によってより容易に吸収させることにより)、それらの生物学的利用能を向上させるもの、または原種に関連して生物学的区分(例えば、脳もしくはリンパ系)における原化合物の放出を促すものである。
【0131】
本発明はまた、当該化合物の少なくとも1つがプロドラッグとして見出される組成物を提供する。「プロドラッグ」という用語は、その最も広い意味で使われており、本発明の化合物にin vivoで変換されるそれらの誘導体等が挙げられる。このような誘導体については、当業者であれば明らかであり、その分子中に存在する官能基に応じて、以下の本発明の化合物の誘導体:エステル、アミノ酸エステル、リン酸エステル、硫酸エステル金属塩、カルバメートおよびアミド等が挙げられるが、これらに限定されない。所定の活性化合物のプロドラッグを製造する方法の例は当業者には公知であり、例えば、Krogsgaard-Larsen et al. "Textbook of Drug design and Discovery" Taylor & Francis (April 2002)で見ることができる。
【0132】
本発明の化合物は、遊離化合物または溶媒和物として結晶形であってもよく、それらの両者とも本発明の範囲内に包含されるものであることが意図されている。溶媒和の方法は、当該分野で一般に知られている。好適な溶媒和物は、薬学的に許容される溶媒和物である。1つの特定の態様によれば、溶媒和物は水和物である。本発明の組成物を形成する化合物としては、C上のキラル中心、すなわち異性体の存在に応じて、多重結合の存在に応じて(例えば、Z、E)、光学異性体を挙げることができる。個々の異性体、光学異性体またはジアステレオ異性体、およびそれらの混合体が、本発明の範囲内に包含される。
【0133】
本発明の様々な化合物のために選択される種々の置換基は、logP値にかなり影響する一連の要因を与える。したがって、ヒドロキシル基は、水素結合ドナーとして作用し、フェノールの場合であっても分子間および分子内結合が確立されることができる。カルボニルまたはカルボキシル基の存在によって、分子内にプロトン受容体基が発生する。ハロゲンの存在は、非常に不完全な炭素を発生させ、生物学的特性をかなり改変する。アミノ基は、分子上に適切な求核基を発生させ、多くの場合、その極性および分極率を著しく改変する。また、さらにアルキル基および/またはアリール基の存在は、分子の親油性を高める。
【0134】
もう一つの態様によれば、本発明は、本発明の第1、第2もしくは第3の組成物を含んでなる医薬組成物、それらの薬学的に許容される塩、誘導体、プロドラッグ、溶媒和物またはそれらの立体異性体と共に、患者に投与されるための薬学的に許容される担体、アジュバントまたはビークルを提供する。ここで使用される「薬学的に許容される担体」という表現は、薬学的に許容される物質、組成物またはビークル、例えば、液体もしくは固形の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒もしくはカプセル封止材等を意味し、体内の1つの臓器もしくは部位から別の臓器もしくは部位に、主剤を運ぶもしくは移動させる働きをする。各担体は、その製剤の他の成分に対して適合性があるという意味で「許容しうる」ものでなくてはならない。薬学的に許容される担体として機能することができる物質の例は、以下のとおりである:(1)乳糖、ブドウ糖、ならびに蔗糖等の糖類;(2)コーンスターチならびにポテトスターチ等のデンプン類;(3)セルロースならびにその誘導体、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロースならびにセルロースアセテート等;(4)粉末トラガント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)ココアバターならびに坐剤ワックス等の賦形剤;(9)ピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、ごま油、オリーブ油、コーン油ならびに大豆油等の油類;(10)プロピレングリコール等のグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ソルトールならびにポリエチレングリコール等のポリオール;(12)オレイン酸エチルならびにラウリン酸エチル等のエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウムならびに水酸化アルミニウム等の緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)発熱性物質除去蒸留水;(17)等張食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝液;および(21)DMSO(ジメチルスルホキシド)ならびにその誘導体等、医薬製剤に使用される他の非毒性適合物質等。
【0135】
医薬組成物は、任意の好適な投与経路、例えば、経口、塗布、経腸または腸管外の経路(皮下、腹腔内、皮内、筋肉内および静脈内経路を含む)によって投与されることができる。
【0136】
経口投与のための好適な剤形には、任意の固形組成(錠剤、トローチ剤、カプセル剤、顆粒剤等)または液状組成(溶液、懸濁液、エマルジョン、シロップ等)等が含まれ、結合剤、例えば糖蜜、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカントゴムもしくはポリビニルピロリドン等;充填剤、例えば乳糖、糖、コーンスターチ、リン酸カルシウム、ソルビトールもしくはグリシン等:錠剤の製剤用の潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム;崩壊剤、例えばデンプン、ポリビニルピロリドン、デンプングリコール酸ナトリウムもしくは微細結晶セルロース等;または薬学的に許容される湿潤剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム等、当該分野で公知となっている従来の賦形剤を含有することができる。
【0137】
固形の経口組成物は、錠剤を混合、充填または調製する従来の方法を用いて調製されることができる。繰り返し混合する作業は、大量の充填剤を使用して、組成物全体に有効成分を分散させるために行うことができる。このような作業は、当該分野では従来的な方法である。錠剤は、例えば湿性または乾燥性の顆粒化によって調製されることができ、場合によっては、通常の薬務でよく知られている方法にしたがってコーティングされることができる。特に、腸溶コーティングはよく知られた方法である。
【0138】
医薬組成物は、好適な個装の剤形になった無菌液、懸濁液または凍結乾燥製剤等、非経口投与用になっているものであってもよい。バルク剤、緩衝剤または界面活性剤等の好適な賦活剤が使用されてもよい。前述の製剤類は、スペイン薬局方、米国薬局方および類似の参考書籍に記載または引用されているような通常の方法を用いて調製されることができる。
【0139】
本発明で使用される化合物または組成物の投与は、静脈内注入、経口剤、腹腔内投与、静脈内投与等の任意の好適な方法で行われることができる。ただ、好ましい投与経路は、患者の状態次第である。経口投与は、患者にとって楽であり、また治療対象の病気が慢性的な特徴を持つものであれば好ましい。
【0140】
本発明の組成物は、それらを治療に適用するため、好ましくは薬学的に許容されるまたは実質的に純粋な形で生成される。言い換えれば、本発明の組成物は、薬学的に許容される賦形剤を除き、かつ通常の投薬レベルで毒性があると思われる物質を含有していない、薬学的に許容される純度を有する。酸性セラミダーゼ阻害剤またはコリンキナーゼ阻害剤の純度は、好ましくは50%を超え、より好ましくは70%を超え、さらに好ましくは90%を超える。1つの態様によれば、当該阻害剤の純度は95%を超える。
【0141】
本発明の組成物において、酸性セラミダーゼ阻害剤、化学療法剤、細胞死受容体リガンドおよびコリンキナーゼ阻害剤の有効治療量は、一般に、他の要因と比べて特に、治療対象となる個人、その個人の病態の重篤度、選択される投与形態等に応じて異なってくる。こうした理由で、本発明で記載される投与量は、当業者にとって指標としてみなされるべきであって、当業者は、あらかじめ記載された変数に従って、投与量を調整しなければならない。その一方、酸性セラミダーゼ阻害剤は、1日一回以上、例えば1日1,2,3または4回、典型的1日用量が1〜200mg/kg(除脂肪体重)/日、好ましくは1〜10mg/kg(除脂肪体重)/日で投与されることができる。同様にして、コリンキナーゼ阻害剤は、1日1回以上、例えば、1日1,2,3または4回、典型的1日用量が1〜200mg/kg(除脂肪体重)/日、好ましくは1〜10mg/kg(除脂肪体重)/日で投与されることができる。
【0142】
本発明に係る組成物は、単一の製剤として処方されることができるが、あるいはまた、同時、並行、個別または連続投与のための調製品として提供されてもよい。
【0143】
本発明において記載される組成物、それらの薬学的に許容される塩、プロドラッグおよび/または溶媒和物、そしてそれらを含有する医薬組成物は、併用療法のために、他の付加的薬剤類と共に使用されることができる。前記付加的薬剤類は、同じ医薬組成物の一部を構成していてもよく、またあるいは、酸性セラミダーゼ阻害剤およびコリンキナーゼ阻害剤または薬学的に許容されるそれらのプロドラッグ、溶媒和物もしくは塩を含んでなる医薬組成物との同時もしくは非同時投与のために、個別の組成物の形態で提供されてもよい。当該他の薬剤は、同時もしくは別々に投与されるために、同じ組成物の一部を構成していてもよく、または個別の組成物として提供されてもよい。
【0144】
本発明の組成物は、当該分野で公知の他の化学療法剤と併用して投与されることができ、例えば以下の化学療法剤がある:
代謝拮抗剤,例えば葉酸類似体、ピリミジン類似体、プリン類似体およびアデノシンデアミナーゼ阻害剤等があり、シタラビン(CYTOSAR‐U)、シトシンアラビノシド、フルオロウラシル(5‐FU)、フロキシウリジン(FudR)、6‐チオグアニン、6‐メルカプトプリン(6‐MP)、ペントスタチン、メトトレキサート、10‐プロパルギル‐5,8‐ジデアザ葉酸(PDDF、CB3717)、5,8‐ジデアザテトラヒドロ葉酸(DDATHF)、ロイコボリン、フルダラビンリン酸、ペントスタチンおよびゲムシタビン等が挙げられるが、これらに限られない;
好適な天然生成物およびそれらの誘導体(ビンカアルカロイド、抗腫瘍抗体、酵素、リンパ球ならびにエピポドフィロトキシン等)、例えばAra‐C,パクリタキシル(タキソール(k)、ドセタキシル(タキソテール)、デオキシコホルマイシン、マイトマイシン‐C、L‐アスパラギナーゼ、アザチオプリン;ブレキナル;アルカロイド類、例えばビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン等;ポドフィロトキシン類、例えばエトポシド、テニポシド等;抗体類、例えばアントラサイクリン、塩酸ダウノルビシン(ダウノマイシン、ルビドマイシン、セルビジン)、イダルビシン、ドキソルビシン、エピルビシンならびにモルフォリノ誘導体等;フェノキシゾンビスシクロペプチド、例えばダクチノマイシン;塩基性糖ペプチド、例えばブレオマイシン;アントラキノン配糖体、例えばプリカマイシン(ミトラマイシン);アントラセンジオン、例えばミトキサントロン;アジリノピロロインドールジオン、例えばマイトマイシン;大環状免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、FK‐506(タクロリムス、プログラフ)、ラパマイシン等が挙げられるが、これらに限定されない。他の抗増殖性・細胞毒性薬剤は、ナベルベン、CPT‐11,アナストロゾール、レトラゾール、カペシタビン、レロキサフィン、シクロホスファミド、イホスファミドおよびドロキサフィン等が挙げられる;
抗増殖活性を有する微小管影響性の薬剤も使用に好適であり、以下のものが挙げられるが、それらに限定されない:アロコルヒチン(NSC 406042)、ハリコンドリンB(NSC 609395)、コルヒチン(NSC 757)、コルヒチン誘導体(NSC 33410等)、ドルスタチン10(NSC 376128)、メイタンシン()、リゾキシン()、パクリタキセル(タキソール)、タキソール誘導体()、デセタキセル()、チオコルヒチン()、トリチルシステイン、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、エポチロンA,エポチロンB、ジスコデルモリド等を含むがこれらに限定されない天然および合成エポチロン;エストラムスチン、ノコダゾール等がある;
チロシンキナーゼ阻害剤、例えばゲフィニチブ、イマチニブ、ソラフェニブ、ダサチニブならびにエルロチニブ等がある;
トポイソメラーゼII阻害剤、例えばトポテカン、イリノテカン、エトポシドならびにテニポシド等のエピポドフィロトキシン等があげられるが、これらに限定されない;
アントラサイクリン(ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン等)がある;
モノクローナル抗体、例えばセツキシマブ、ベバシズマブ、リツキシマブ、アレムツズマブならびにトラスツズマブ等がある。
【0145】
また、本発明の第1および第3の組成物の場合、これらの組成物はさらに、アルキル化剤を含んでなることができる。本発明の第1および第3の組成物に使用するための好適なアルキル化剤には、白金系化合物、例えばカルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、トリプラチン、テトラニトレート、サトラプラチンならびにこれらの併用;ブスルファン等のアルキルスルホン酸、ヘキサメチルメラミン、アルトレタミンまたはチオテパ等のエチレンイミンならびにメチルメラミン、シクロホスファミド、メクロレタミンまたはムスチン等の窒素マスタード、ウラムスチンまたはウラシルマスタード、メルファラン、クロラムブシル、イホスファミド、カルムスチンまたはストレプトゾシン等のニトロソウレア、ダカルバジン等のトリアゼンおよびテモゾロミド等のイミダゾテトラジン等が挙げられる。
【0146】
また、本発明の第1および第2の組成物の場合、これらの組成物はまた、細胞死受容体リガンドを含んでなることができる。好ましくは、前記細胞死受容体リガンドは、NGF、CD40L、CD137L/4‐1BBL、TNF‐α、CD134L/OX40L、CD27L/CD70、FasL/CD95、CD30L、TNF‐β/LT‐α、LT‐βおよびTRAILからなる群から選択される。1つの好ましい態様によれば、TNFファミリー分子は、TAIL,機能的に等価なその誘導体またはその模倣低分子化合物である。TRAIL(TNF関連アポトーシス誘導リガンド)は、「Apo‐2リガンド」「Apo‐2L」「Apo2L」「Apo2L/TRAIL」および「Apo‐2リガンド/TRAIL」としても知られており、TRAIL同族受容体を発現する細胞にアポトーシスを誘導することができる分子である。TRAILは数年前、サイトカインのTNFファミリーの分子として同定された((Pitti et al., 1996, J.BioLChem., 271 :12687-12690 and US Patent 6,284,236)。完全長のネイティブ配列ヒトTRAILポリペプチドは、アミノ酸281個の長さを有するII型膜貫通タンパク質である。TRAILの結晶学的研究により、TNFおよび他の関連タンパク質の構造に類似するホモトリマー構造が明らかになっている。しかし、他のTNFファミリー分子と異なり、TRAILは、その3つのシステイン残基(ホモトリマーの各サブユニットの230番の位置にある)が協調して亜鉛原子の調整を行い、また亜鉛結合がトリマーの安定性および生物学的活性にとって重要であるという独特の構造的特徴を持つことが分かった。本発明は、3つの異なるTRAILアイソフォーム(TRAILα、TRAILβおよびTRAILγ)またはその組み合わせのいずれかの使用を考察する。
【0147】
機能的に等価なTRAILバリアントとしては、可溶性TRAILアイソフォーム類、例えば、国際公開WO08088582号ならびに米国特許US6284236号に記載のTRAILアイソフォーム、または米国特許出願US2002128438号に記載のTRAIL断片類95−281ならびに114−281、Bremer et al (Neoplasia, 2004, 6:636-45)によるscFv:sTRAIL溶解物、米国特許出願US2002061525号に記載の選択的スプライシング型TRAIL、国際公開WO04101608号に記載のTRAIL受容体結合ペプチド、国際公開WO07063301号に記載の19IL、199V、20IL、213W、215Dおよび/または193S TRAIL変異体等のアポトーシス促進受容体に対する特異性が向上したTRAILバリアント類または国際公開WO04001009A号に記載の受容体ファージディスプレイによって選択されるバリアント類、TRAIL同族受容体のTRAIL‐R1(DR4)ならびにTRAIL‐R2(DR5)を標的とするアゴニスト抗体類であるマパツムマブ、レクサツムマブ等、国際公開WO07128231号に記載の抗体類、国際公開WO02094880号に記載の抗体類、国際公開WO06017961号に記載のモノクローナル抗体AD5‐10、国際公開WO05056605号に記載のTRAIL特異的タンデム型ディアボディならびにトリアボディ、国際公開WO9937684号に記載のキメラ抗DR4抗体類、国際公開WO03038043号に記載のアゴニスト抗DR5抗体類、国際公開WO02085946号に記載の二重特異性抗TRAIL受容体抗体類、国際公開WO9832856号に記載の抗DR4特異的抗体類、Park,K.J et al (Cancer Res., 2007, 67:7327-7334) により記載された抗DR2 ScFV、国際公開WO08025516号ならびに国際公開WO04014951号に記載の三量体TRAIL溶解タンパク質、国際公開WO07102690号に記載の十二量体TRAILバリアント類、国際公開WO07145457号に記載のペグ化TRAIL,および米国特許出願US2006153809号、国際公開WO04087930号ならびに米国特許出願US200503
1593号に記載されているようなTRAILをコードするポリヌクレオチドを含んでなるDNAベクター等が挙げられる。
【0148】
アポトーシス促進効果を有するTRAILの低分子模倣体としては、国際公開WO2008094319号に記載の化合物類等が挙げられる。
【0149】
本発明の組成物の治療用途
本発明の組成物は、腫瘍細胞の増殖阻害におけるそれらの相乗効果の点から、医療に用いられることができる。したがって、もう一つの様態で、本発明は、医薬に用いられる本発明の組成物に関する。
【0150】
もう一つの態様によれば、本発明は、癌の治療方法に関し、(i)酸性セラミダーゼ阻害剤およびコリンキナーゼ阻害剤、(ii)コリンキナーゼ阻害剤および化学療法剤、または(iii)コリンキナーゼ阻害剤および細胞死受容体リガンドを含んでなる組成物を患者に投与することを含んでなる、癌の治療のための方法に関する。あるいは、本発明は、癌治療薬の製造に向けた、(i)酸性セラミダーゼ阻害剤およびコリンキナーゼ阻害剤、(ii)コリンキナーゼ阻害剤および化学療法剤、または(iii)コリンキナーゼ阻害剤および細胞死受容体リガンドを含んでなる組成物の使用に関する。あるいは、本発明は、癌の治療用途のための、(i)酸性セラミダーゼ阻害剤およびコリンキナーゼ阻害剤、(ii)コリンキナーゼ阻害剤および化学療法剤、または(iii)コリンキナーゼ阻害剤および細胞死受容体リガンドを含んでなる組成物に関する。
【0151】
本発明はまた、上記に記載の付加的な抗腫瘍薬類を含む本発明の医薬組成物のいずれかの投与を考察する。好ましくは、前記癌は、重鎖疾患、白血病(例えば急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性骨髄単球性白血病、急性前骨髄球性白血病、骨髄異形成症候群、若年性骨髄単球性白血病等)、腫瘍転移、新生物、腫瘍(例えば、聴神経腫瘍、腺癌、副腎皮質癌、肛門癌、血管肉腫、星状細胞腫、基底細胞癌、胆管癌、膀胱癌、脳腫瘍、乳癌、気管支原性癌、腹膜癌、子宮頸部癌、軟骨肉腫、脊索腫、絨毛癌、結腸癌、結直腸癌、頭蓋咽頭腫、嚢胞腺癌、胎生期癌、子宮内膜癌、内皮肉腫、上衣腫、上皮癌、食道癌、ユーイング腫瘍、成人型線維肉腫、消化器癌、尿生殖器癌、膠芽腫、神経膠腫、頭部癌、血管芽腫、肝腫、ホジキン病、腎癌、平滑筋肉腫、粘液様脂肪肉腫、肝癌、肺癌、リンパ管内皮肉腫、リンパ管腫症、リンパ腫、悪性高カルシウム血症、悪性膵臓性インスラノーマ、髄様癌、髄芽腫、メラノーマ、髄膜腫、中皮腫、頸部癌、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、欠突起膠腫、骨原性肉腫、卵巣癌、膵臓癌、乳頭腺癌、乳頭癌、陰茎癌、松果体腫、前癌性皮膚病変、原発性脳腫瘍、原発性マクログロブリン血症、原発性血小板血症、前立腺癌、直腸癌、腎細胞癌、網膜芽細胞腫、唾液腺癌、肉腫、脂腺癌、精上皮腫、小細胞肺癌、扁平上皮細胞癌、胃癌、滑膜性腫瘍、汗腺癌、睾丸腫瘍、甲状腺癌、子宮癌、外陰腺癌、およびウィルムス腫瘍)、または非制御細胞増殖に特徴付けられる何らかの病気もしくは疾患よりなる群から選択される。
【0152】
1つの好ましい態様によれば、前記癌は肺癌である。ここで使われている「肺癌」とは、肺組織に存在する1種類以上の細胞に影響する何らかの腫瘍性変化を意味する。本発明の組成物を使用して治療ができる非限定的種類の肺癌としては、小細胞および非小細胞肺癌、例えば扁平上皮癌、腺癌、大細胞癌ならびに悪性中皮腫等が挙げられる。より好ましい態様によれば、前記肺癌は非小細胞肺癌である。
【0153】
別の好ましい1つの態様によれば、前記癌は、大腸癌または結腸直腸癌である。ここで使われている「結腸直腸癌」という用語は、結腸、直腸および虫垂の腫瘍形成のいずれかのタイプを含有し、早期ならびに後期両方の腺腫および癌腫、さらには遺伝性、家族性または散発性癌を意味する。遺伝性の結腸直腸癌(CRC)には、過誤腫性ポリープ症候群および最も知られた家族性腺腫ポリープ(FAP)等、さらには、遺伝性非ポリープ性結腸直腸癌(HNPCC)またはリンチ症候群Iのような非ポリープ性症候群等、ポリープの存在が含まれる。本発明は、デュークス分類法によるステージA、B、C1、C2およびD、アストラーカラー分類法によるステージA、B1、B2、B3、C1、C2、C3およびD、TNM分類法によるステージTX、TO、Tis、T1、T2、T3、NX、NO、N1、N2、MX、MOおよびM1、さらにはAJCC(米国対癌合同委員会)分類法によるステージ0、I、II、IIIおよびIV等の異なったステージにおける結腸直腸癌の診断を可能にする。
【0154】
本発明に係る組成物は、単一の製剤として処方されることができるが、あるいは、同時、並行、個別または連続の投与のための製剤として提供されてもよい。
【0155】
ChoK阻害剤療法に対する腫瘍細胞感作における酸性セラミダーゼ阻害剤、化学療法剤または細胞死受容体リガンドの使用
本発明の発明者らはまた、コリンキナーゼ阻害剤に対する反応が、酸性セラミダーゼ阻害剤(本発明の実施例6を参照)、化学療法剤(実施例7および9を参照)または細胞死受容体リガンド(実施例8を参照)をあらかじめもしくは同時に投与して治療する場合に高まることも確認している。
【0156】
したがって、もう一つの態様によれば、本発明は、コリンキナーゼ阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性を高める方法に関し、該方法は、酸性セラミダーゼ阻害剤、化学療法剤または細胞死受容体リガンドと併用して前記腫瘍細胞を治療することを含んでなる。さらにもう一つの態様によれば、本発明は、コリンキナーゼ阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性を高めるための酸性セラミダーゼ阻害剤、化学療法剤または細胞死受容体リガンドの使用に関する。
【0157】
ここで使われている「感受性」という用語は、所定のコリンキナーゼ阻害剤に対する細胞の反応を意味し、通常、最小量のコリンキナーゼ阻害剤で腫瘍細胞の増殖が50%阻害されるものとして測定される。したがって、酸性セラミダーゼ、化学療法剤もしくは細胞死受容体リガンドとの併用により、該感受性の上昇、または細胞増殖を50%阻害するために必要な該最小量の低減につながる。
【0158】
コリンキナーゼ阻害剤を用いた療法に対する腫瘍細胞の感作は、酸性セラミダーゼ阻害剤、化学療法剤または細胞死受容体リガンドを同時に投与するか、コリンキナーゼ阻害剤の投与後もしくは投与前に投与して該細胞を治療することによって行うことができる。コリンキナーゼ阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性上昇に使用できる酸性セラミダーゼ阻害剤、化学療法剤および細胞死受容体リガンドとして、本発明の組成物の一部を構成するものとして上述された化合物のいずれかを使用してよい。また、酸性セラミダーゼ阻害剤または細胞死受容体リガンドで感作済みの細胞の治療に使用できるコリンキナーゼ阻害剤は、本質的に、本発明の組成物の成分として上述された阻害剤のいずれかである。
【0159】
ChoK阻害剤耐性の癌患者の同定方法
さらにまた、本発明の発明者らによる発見は、ChoK阻害剤療法に耐性を示す可能性のある癌患者を、該患者の試料中の酸性セラミダーゼレベルを定量することにより同定できる可能性を拓くものである。もし酸性セラミダーゼレベルが基準試料よりも高ければ、患者のChoK阻害剤耐性の可能性を示すことになる。これは、ChoK阻害剤に反応して産生されたアポトーシス促進性セラミダーゼが加水分解され、細胞分裂促進効果を有するスフィンゴシンが生成されるためである。反対に、もし酸性セラミダーゼレベルが、基準試料のレベルより低いかまたは少なくとも高くない場合は、その患者はChoK阻害剤療法に対して好ましい反応を示すことが分かる。
【0160】
したがって、もう一つの形態によれば、本発明は、患者の試料中の酸性セラミダーゼレベルを定量することを含んでなる、ChoK阻害剤療法に耐性の癌患者の同定方法(以下、本発明の第1の方法)に関し、該方法において、前記試料中の酸性セラミダーゼレベルが基準試料よりも高い場合、前記患者はChoK阻害剤耐性であると同定される。
【0161】
本発明の第1の方法を実施するために、研究対象の患者から試料を採取する。ここで使われる「試料」という用語は、該患者から入手可能な何らかの試料に関する。本発明の第1の方法は、生検標本、組織、細胞または液体(血清、唾液、精液、喀痰、脳脊髄液(CSF)、涙、粘液、汗、乳、脳抽出液等)のような、患者由来のいずれかの種類の生物学的試料に適用されることができる。一つの特定の態様によれば、前記試料は、組織試料またはその一部分、好ましくは腫瘍組織試料またはその一部分である。前記試料は、例えば生検等の従来の方法、関連する医療技術分野の当業者に公知の方法によって採取することができる。生検で試料を採取する方法には、細胞塊の総分割(gross apportioning of a mass)、顕微解剖、または他の公知の細胞分離手法等がある。腫瘍細胞はまた、穿刺吸引細胞診で採取されてもよい。試料の保存や扱いを簡素化するために、これらの試料は、ホルマリン固定およびパラフィン包埋されてもよく、または急速冷凍可能な優れた低温培地に浸漬することにより、最初に凍結しその後にOCT化合物等の低温凝固可能な培地に包埋されることができる。
【0162】
患者からの試料採取後、本発明の第1の方法は、酸性セラミダーゼレベルの定量を含んでなる。当業者であれば理解しているように、前記「酸性セラミダーゼレベル」は、酸性セラミダーゼをコードするmRNAのレベルを測定することにより、酸性セラミダーゼのレベルを同定することによって、または酸性セラミダーゼの酵素活性を測定することによって定量されることができる。
【0163】
「発現レベル」がmRNA発現レベル酸性セラミダーゼの測定により定量される場合、生物学的試料には、物理的にもしくは機械で組織または細胞構造を破壊するための処理が施されて、細胞内成分を水性もしくは有機性の溶液に放出させ、さらなる解析のために核酸を調製することができる。核酸は、当業者に公知の方法や市販の方法により試料から抽出される。そして、当該分野で典型的方法のいずれか、例えば、Sambrook, J., et al, 2001, Molecular cloning: a Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, N.Y., Vol. 1-3による手法を用いて、凍結された試料かまたは新しい試料からRNAが抽出される。好ましくは、抽出過程の間、RNAの分解が生じないように考慮する。
【0164】
一つの特定の態様によれば、発現レベルは、ホルマリン固定およびパラフィン包埋された組織試料から採取したmRNAを用いて定量される。mRNAは、保存用の病理学的試料、または最初に脱パラフィンされた生検試料から単離されることができる。脱パラフィンの方法には、例えば、パラフィン化された試料をキシレン等の有機溶媒で洗浄する方法等がある。脱パラフィンされた試料は、低アルコール水溶液で再水和されることができる。好適な低アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノール等が挙げられる。脱パラフィンされた試料は、例えば、濃度が低減されたより低アルコールの溶液で連続洗浄して再水和されてもよい。あるいは、試料の脱パラフィンおよび再水和は同時に行われてもよい。その後に、試料を溶解させて、そこからRNAの抽出が行われる。
【0165】
全ての遺伝子発現プロファイリング技術(RT‐PCR、SAGEまたはTaqMan)が、本発明の前述の態様を実施する上で好適に使用され得るが、遺伝子mRNA発現レベルは、逆転写ポリメラーゼ鎖反応(RT‐PCR)により定量される場合が多い。一つの特定の態様によれば、酸性セラミダーゼmRNAの発現レベルは、定量的PCR、好ましくは、リアルタイムPCRによって定量される。個々の試料または組織マイクロアレイでの検出が可能である。
【0166】
様々な試料中でmRNA発現の値を標準化するために、試験試料における所望のmRNAの発現レベルと対照RNAの発現とを比較することが可能である。ここで使われる「対照RNA」は、非腫瘍原性細胞と比べて、発現レベルが変化しないかまたは限定数の腫瘍細胞においてのみ変化するRNAを意味する。好ましくは、対照RNAは、ハウスキーピング遺伝子に相当するmRNAであり、構造的に発現されるタンパク質をコードして本質的細胞機能を実行する。本発明で使用される好ましいハウスキーピング遺伝子には、β‐2‐マイクログロブリン、ユビキチン、18‐Sリボソームタンパク質、シクロフィリン、GAPDHおよびアクチン等がある。一つの特定の態様によれば、対照RNAはβ‐アクチンmRNAである。ある一つの態様によれば、内因性の対照RNAとしてβ‐アクチンおよび基準として市販の対照RNAを用いて、比較性CT法に従って相対的遺伝子発現定量が計算される。最終結果は、公式:2−(ΔCt試料−ΔCt基準)となる。ここで、基準および試料のΔCTは、ハウスキーピング遺伝子のCT値から標的遺伝子のCT値を引き算することによって決定される。
【0167】
酸性セラミダーゼmRNAのmRNA発現レベルの定量後、本発明の第1の方法は、その発現レベルを基準試料のレベルと比較することを含んでなる。ここで使われる「基準(reference)試料」は、酸性セラミダーゼmRNAの基準レベルを示す試料であることを理解すべきである。例えば、基準試料は、試験対象の患者の腫瘍に類似であるがChoK阻害剤耐性ではない某患者の腫瘍試料であってもよい。あるいは、基準試料として、試験対象の腫瘍と同種類の腫瘍を有する何人かの患者から採取した腫瘍組織試料プールを用いてもよい。あるいは、腫瘍試料の集合体におけるmRNA発現レベルを定量して、個々の値の合計から中間値を決定することも可能である。そして、得られた中間値は、試験対象の試料中のmRNA発現レベルが多いとみなすか否かを判定するための基準値として使われる。
【0168】
被験者間のばらつき(年齢、人種等に関する面)のため、mRNAのレベルの絶対基準値を設定することは、(実際に不可能ではないにしても)非常に困難である。したがって、一つの特定の態様によれば、「高い」または「低い」酸性セラミダーゼmRNAに対する基準値は、酸性セラミダーゼmRNAの発現レベルを得るために健康な被験者(例えば、NSCLCと診断されていない人々)から単離された一群の試料の試験に関わる従来手法を用いて、百分位数(パーセンタイル)の計算により決定される。そして、「高い」レベルとして、好ましくは、酸性セラミダーゼmRNAの発現レベルが、正常集団における50パーセンタイル以上となる試料が指定され、これには、例えば、正常集団で60パーセンタイル以上の発現レベル、正常集団で70パーセンタイル以上の発現レベル、正常集団で80パーセンタイル以上の発現レベル、正常集団で90パーセンタイル以上の発現レベルおよび正常集団で95パーセンタイル以上の発現レベル等が含まれる。
【0169】
あるいは、もう一つの特定の態様によれば、酸性セラミダーゼレベルは、酸性セラミダーゼタンパク質のレベルを測定することにより定量されることができる。当該タンパク質の発現レベルは、ELISA、ウエスタンブロット法または免疫蛍光法等の免疫学的手法によって定量されてもよい。ウエスタンブロット法は、変性状態下でゲル電気泳動によりあらかじめ分離され、細胞膜、一般にはニトロセルロース上に固定化されたタンパク質を、特異的抗体および現像系(化学発光等)を使用したインキュベーションによって検出する手法に基づいている。免疫蛍光法による解析は、発現の分析のために、標的タンパク質に特異的な抗体を使用する必要がある。ELISAは、標的抗原と標識抗体間に形成される共役が、酵素活性を示す複合体の形成になるように、抗原または酵素標識抗体を使用する方法に基づく。それらの要素(抗原または標識抗体)の一方が支持体上に固定されるので、抗体抗原複合体は支持体に固定化され、したがって、酵素により変換される基質を、吸光度測定法または蛍光光度法等によって検出可能な生成物に添加することにより、標的タンパク質を検出することができる。
【0170】
あるいは、酸性セラミダーゼタンパク質発現レベルの定量は、集められた患者の試料が含まれる組織マイクロアレイ(TMA)を構築して、免疫組織化学法によりタンパク質の発現レベルを定量することによって実施できる。免疫染色強度は、その方法の再現性を維持するために、二人の異なる病理学者によって評価され、一定の明確なカットオフ基準を用いて点数化される。食い違いがあれば、同時に再評価することによって解決が可能である。簡単に説明すると、免疫染色の結果は、腫瘍細胞における発現と各マーカーの特異的カットオフ値を考慮しながら、ネガティブ発現(0)vsポジティブ発現、および低発現(1+)vs中程度(+2)ならびに高(3+)発現として記録されることができる。総合的基準として、カットオフ値は、再現性促進のために選択され、また可能であれば、生物学的事象を解釈するために選択された。
【0171】
免疫学的方法を使用する場合、標的タンパク質の量を検出するために、標的タンパク質に高親和性を持って結合することが知られている任意の抗体または試薬を使用することができる。しかし、好ましくは抗体が使用され、例えば、ポリクローナル血清、ハイブリドーマ上澄みもしくはモノクローナル抗体、抗体断片Fv、Fab、Fab’yF(ab’)2、ScFv、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディおよびヒト化抗体が使用される。
【0172】
酸性セラミダーゼレベルの定量に、mRNA発現レベルを測定するのかタンパク質レベルを測定するのかに関わらず、得られた値は、基準試料の値と比較される必要がある。基準試料は、多くの健康な患者から均等量をプールして得られた試料に相当するものであってもよい。この基準試料の値が設定されると、患者由来の腫瘍細胞に発現される該マーカーのレベルを、この中間値と比較することができ、したがって、「低」、「正常」または「高」のレベルを割り当てることが可能となる。基準レベルが由来する試料のコレクションは、好ましくは患者と同年齢の健康な人からの試料で構成される。いずれの場合でも、異なる数の試料を含むことができる。より好ましい一つの態様によれば、試料は、生脳組織の生検試料である。好ましくは、該コレクションは、正確な基準レベルを提供するために十分なものであるべきである。好ましくは、基準レベルを設定するために使われる試料数は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、500以上である。
【0173】
一つの特定の態様によれば、基準値と比較して、少なくとも1.1倍、1.5倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍またはそれ以上の、基準値を超える発現の増加が「高」発現とみなされる。一つの特定の態様によれば、基準値と比較して、少なくとも0.9倍、0.75倍、0.2倍、0.1倍、0.05倍、0.025倍、0.02倍、0.01倍、0.005倍またはそれ以下の、基準値を下回る発現の減少が「低」発現とみなされる。
【0174】
その一方で、タンパク質発現レベルの定量は、集められた被験者試料を含む組織マイクロアレイ(TMA)を構築して、当該分野に公知の免疫組織化学法によりタンパク質の発現レベルを定量することによって実施することができる。
【0175】
もう一つの態様によれば、酸性セラミダーゼレベルの定量は、試験対象の試料中の酸性セラミダーゼ活性を同定することにより行うことができる。酸性セラミダーゼの酵素活性の同定方法は、当業者には多数知られており、上記で詳細に述べられている。
【0176】
癌患者のための個別化治療を選択する方法
本発明の発明者らにより提供された研究成果によって、ChoK阻害剤療法に耐性を示す可能性のある癌患者を、その患者由来の試料中の酸性セラミダーゼの発現レベルに基づいて同定することが可能になっている。したがって、さらにもう一つの態様によれば、本発明は、癌の患者のための個別化治療を選択するための方法(以下、本発明の第2の方法という)に関し、該方法は、前記患者由来の試料中の酸性セラミダーゼのレベルを同定する方法を含んでなり、前記試料中の酸性セラミダーゼの発現レベルが、基準試料よりも高い場合、前記患者は、ChoK阻害剤またはChoK阻害剤および酸性セラミダーゼ阻害剤併用の治療候補者である。
【0177】
本発明の第2の方法の工程は、本質的に、本発明の第1の方法に記載されているとおりであり、患者由来の試料(好ましくは腫瘍試料)中の酸性セラミダーゼレベルの定量を含み、前記レベルが、mRNAレベル、タンパク質レベルまたは酸性セラミダーゼ活性の何れかを前述の方法のいずれかを用いて測定することにより定量されることができる。
【0178】
酸性セラミダーゼのレベルを定量して基準試料と比較した場合、酸性セラミダーゼレベルが基準試料中に認められるレベルよりも高ければ、その患者は、ChoK阻害剤および酸性セラミダーゼ阻害剤併用治療の候補者である。
【0179】
一つの好ましい態様によれば、前記癌は、非小細胞肺癌である。
【0180】
ChoK阻害剤の治療効果を高める化合物の同定方法
本発明の発明者らは、ChoK阻害剤に高い耐性を示す腫瘍細胞が、酸性セラミダーゼレベルが高いことを確認している。したがって、所定の化合物に反応して酸性セラミダーゼが上昇するレベルを測定することにより、該化合物がChoK阻害剤耐性を低減できるかどうかを判定すること、言い換えればこれらの化合物の治療効果を高めることが可能となる。
【0181】
したがって、もう一つの態様によれば、本発明は、癌治療のためのChoK阻害剤の治療効果を高めることができる化合物の同定方法(以下、本発明の第3の方法という)に関し、該方法は、(i)ChoK阻害剤に耐性を示す腫瘍細胞を候補化合物と接触させ、(ii)前記細胞中における酸性セラミダーゼのレベルを定量することを含んでなり、候補化合物による処置後に、前記細胞中の酸性セラミダーゼレベルが処置前よりも低い場合、該候補化合物は、癌治療のためのChoK阻害剤の治療効果を高めることができるとみなされる。
【0182】
本発明の第3の方法は、ChoK阻害剤に耐性を示す腫瘍細胞を候補化合物と接触させることからなる第1の工程を含んでなる。前記接触工程は、ChoK阻害剤耐性細胞によって形成された腫瘍を含む非ヒト動物において、in vivoで実施されることができるか、またはChoK阻害剤に耐性を示す細胞の培養によりin vitroで実施されることができる。
【0183】
本発明の第3の方法をin vitroで実施する場合、ChoK阻害剤に耐性の腫瘍細胞の培養細胞が必要となる。培養細胞は、ChoK阻害剤耐性に基づいてあらかじめ選択されていた腫瘍細胞、ChoK阻害剤の濃度を高めてあらかじめ一回以上選択処理された腫瘍細胞、ChoKの発現レベルが過剰な細胞、またはChoKに特異的なsiRNAを構成的に発現する細胞から採取することができる。もしもChoK阻害剤の濃度を高めて一回以上選択処理をして選ばれた細胞であれば、上記段落で述べたChoK阻害剤のいずれもこの目的に適する。
【0184】
ChoK阻害剤耐性細胞の培地が設定されると、ChoK阻害剤の治療効果を高める効果が測定される候補化合物に対して、培養細胞が接触させられる。本発明によれば、細胞を候補化合物と「接触させる」ことは、DNA構築物を発現する細胞内に当該候補化合物を取り込むいずれかの可能な方法を含む。したがって、候補化合物が低分子量の分子であれば、前記分子を培地に添加すれば十分である。候補化合物が高分子量の分子(例えば、核酸またはタンパク質等の生物学的ポリマー)なら、その分子が細胞内部に接近できるような手段を提供することが必要である。候補分子が核酸の場合、従来のトランスフェクション手段を、当該分野に公知の方法(リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、ポリブレン法、電気穿孔法、顕微注射、リポソームの仲介による融合、リポフェクション、レトロウィルスによる感染および微粒子銃によるトランスフェクション)のいずれかを用いて適用することができる。候補化合物がタンパク質である場合は、細胞を該タンパク質と直接接触させてもよく、または細胞内部に存在する時には転写/翻訳を可能にする要素類に結合される、該タンパク質をコードする核酸と接触させてもよい。あるいは、その細胞を、研究対象のタンパク質のバリアントと接触させることも可能である。該バリアントは、該タンパク質の細胞内部への移動を促進できるペプチド、例えば、HIV‐1 TATタンパク質由来のTatペプチド、キイロショウジョウバエ由来のアンテナペディアホメオドメインタンパク質の第3ヘリックス、単純ヘルペスウィルスのVP22タンパク質およびアルギニンオリゴマー等で修飾されたものである(Lindgren, A. et al, 2000, Trends Pharmacol. Sci, 21 :99-103, Schwarze, S.R. et al., 2000, Trends Pharmacol. Sci., 21 :45-48, Lundberg, M et al., 2003, MoI. Therapy 8:143-150 and Snyder, EX. and Dowdy, S.F., 2004, Pharm. Res. 21 :389-393)。
【0185】
アッセイ対象の化合物は、好ましくは、単離されたものではなく、天然ソース由来のまたは化合物ライブラリーの一部を構成するほぼ複合混合体の一部を構成する。本発明の方法に従ってアッセイされることのできる化合物ライブラリーは、例えば、D−アミノ酸を含んでなるペプチドおよびそのペプチド類似体または非ペプチド結合を含んでなるペプチドを含むペプチドライブラリー、ホスホチオネート型非ホスホジエステル結合の核酸またはペプチド核酸を含む核酸ライブラリー、抗体ライブラリー、炭水化物ライブラリー、低分子量化合物、好ましくは有機分子化合物ライブラリー、ペプチド模倣体等が挙げられるが、これらに限定されない。低分子量の有機化合物ライブラリーを使用する場合、該ライブラリーは、細胞内部により容易に接近可能な化合物を含むように、事前に選択されておくことができる。これらの化合物は、したがって、サイズ、親油性、新水性、水素結合形成能力等の特定パラメーターに基づいて選択されることが可能である。
【0186】
アッセイされる化合物は、あるいは天然ソース由来の抽出物の一部を構成していてもよい。この天然ソースは、任意の環境から採取された動植物ソース、例えば、土地、大気、海洋生物等の抽出物であってもよいが、これらに限定されない。
【0187】
第2の工程で、本発明の方法は、候補化合物で治療された細胞の酸性セラミダーゼレベルを定量することを含んでなる。酸性セラミダーゼレベルをの定量は、前述されたように、前述された生化学的手法のいずれかを用いて、細胞の抽出物におけるmRNAレベル、タンパク質レベルまたは酸性セラミダーゼ活性を測定することによって行うことができる。酸性セラミダーゼレベルの減少を生じさせる化合物は、ChoK阻害剤に対する腫瘍細胞の反応を高める候補化合物として選択されることになる。
【0188】
候補化合物が、ほぼ複合混合体の一部を構成する場合、本発明はさらに、一つまたは複数の工程(iii)を含んでなり、工程(iii)は、前記混合体を断片化して、転写促進活性に関与する混合体の化合物が単離されるまで、様々な回数で本発明の方法の工程(i)、(ii)ならびに(iii)を反復することを含む。混合体に存在する化合物を断片化するための方法としては、クロマトグラフィー(薄層、ガス、ゲルによる分子排除、親和性クロマトグラフィー)、結晶化、蒸留、濾過、沈殿、昇華、抽出、蒸発、遠心分離、質量分析、吸着等が挙げられる。
【0189】
もう一つの態様によれば、本発明に係るスクリーニング法が、ChoK阻害剤耐性の非ヒト動物腫瘍細胞に移植することにより得られた癌の動物モデルを使用してin vivoで実施される。当該細胞は、前述された方法のいずれかを用いて得られる。ChoK阻害剤耐性細胞は、任意の種の非ヒト動物のいずれか、好ましくは哺乳類、より好ましくは霊長類(サル、ヒヒ、チンパンジー等)、齧歯類(マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター等)またはブタに移植されることができる。腫瘍細胞の移植を容易にするため、該動物は、免疫不全動物であってもよい。レシピエント生物に移植されることができる腫瘍細胞としては、循環腫瘍細胞、腫瘍幹細胞、不死化循環腫瘍細胞由来の細胞株、微小転移性腫瘍細胞、不死化微小転移性腫瘍細胞由来の細胞株、固形腫瘍からあらかじめ精製されていた不死化腫瘍細胞由来の細胞株、固形腫瘍由来の原発腫瘍細胞、固形腫瘍から切除された一片の新鮮な腫瘍、原発腫瘍細胞、臨床転移からあらかじめ精製されていた不死化細胞由来の細胞株(PC3細胞株等)およびこれらの任意の組み合わせ等がある。
【0190】
ChoK阻害剤耐性細胞によって形成された腫瘍の動物モデルが得られると、本発明の方法の第1の工程は、前記腫瘍細胞を候補化合物と接触させることを含んでなる。該接触工程は、前記候補化合物が腫瘍細胞に接近するための適切な条件下で、前記候補化合物を動物に投与することにより行われてもよい。試験化合物の投与は、いずれかの好適な経路で、例えば、経口、経皮、静脈内、点滴、筋肉内投与等によって実施されてもよい。
【0191】
腫瘍が候補化合物と接触すると、前記腫瘍細胞内の酸性セラミダーゼの発現レベルが、前述されたようにして、例えば、酸性セラミダーゼmRNAレベル、酸性セラミダーゼタンパク質レベルまたは酸性セラミダーゼ活性を測定することによって定量される。
【0192】
本発明の第3の方法は、候補化合物による治療後の腫瘍細胞内における酸性セラミダーゼレベルを、該治療前に認められたレベルと比較することを含む。ここで用いられる場合、酸性セラミダーゼは、それが少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%すなわち酸性セラミダーゼレベルが検出不可である場合、治療前よりも低いとみなされる。
【0193】
そこで本発明を、以下の方法および実施例により詳細に記載するが、それらの方法および実施例は、単なる例示と解釈されるべきであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0194】
材料および方法
患者
本分析のために使用されたのは、2001〜2004年までの間にNSCLCの外科切除を受け、その後マドリードのLa Paz病院のMedical Oncology divisionによりフォローアップされた、84人の無作為に選択された患者から採取された肺癌組織の標本である。これらの患者には、アジュバント療法は行われなかった。本研究は、病院の治験審査委員会によって承認され、書面によるインフォームドコンセントが全患者から得られた。
【0195】
NSCLC腫瘍の初代培養
NSCLC患者由来の切除組織が分離され(組織分離用篩い‐組織粉砕キット CD1 SIGMA)、得られた細胞が24ウェルプレート(BD Falcon、バイオサイセンス社、米国カルフォルニア州サンホセ)に接種された。細胞は、DDP、タキソール、ビノレルビン、ゲムシタビンの濃度を漸増して(0、0.5、1、5、10および20μM)、10%ウシ胎児血清(FBS:ライフテクノロジーズ社、ニューヨーク州グランドアイランド)を添加したDMEM:12HAM培地(D8437:シグマ社)で、10日間培養された。各ウェル内の最終的に残存する集団が前述されたようなクリスタルバイオレット法により定量化された(Rodriguez- Gonzalez, A. et al, Oncogene, 22:8803-8812)。
【0196】
化合物
MN58bが国際公開WO9805644に記載されており、1,4‐(4‐4’‐ビス‐((4‐(ジメチルアミン)ピリジニウム‐1‐イル)メチル)ジフェニル)ブタンジブロマイドに相当する。RSM‐932Aは、米国特許出願US2007185170号に記載されており、1,1’‐(ビフェニル‐4,4’‐ジルメチレン)ビス[4‐(4‐クロロ‐N‐メチルアニリノ‐)キノリニウム]ジブロマイドに相当する。NOEは、Sugita et al (Biochim.Biphys.Acta, 1975, 398:125-131)による記載があり、N‐オレオイルエタノールアミン(NOE)に相当する。D‐NMAPPDは、3‐エトキシ‐1‐(2‐メチルアミノエチル)‐3‐フェニル‐インドール‐2‐オン(CAS 35922‐06‐6)に相当し、Raisova, M., et al. (FEBS Lett., 2002, 516:47-52) およびSelzner, M. et al. (Cancer Res., 2001, 61 :1233-1240)により記載されている。TRAILは前述されており、ヒトTRAIL(アミノ酸95‐281)細胞外ドメインに相当する。
【0197】
RNAの単離および遺伝子発現解析
選択された生検のRNAが、RNeasy Mini Kit(キアゲン社、ドイツ、ヒルデン)を用いて、製品の指示に従って、マイクロアレイおよびQT‐PCRのために単離された。試料が調製され、アフィメトリクスジーンチップ発現解析(Affymetrix GeneChip Expression Analysis)技術マニュアルに従って、マイクロアレイのハイブリダイゼーションが行われた。Affymetrix U133plus2遺伝子チップとのハイブリダイゼーション(47,000個の転写物を表す54,614個のプローブセット)、染色、洗浄およびスキャニングの工程が、国立バイオテクノロジーセンター(スペイン、マドリード)のゲノム施設で実施された。これは、www.affymetrix.com (アフィメトリクス社、カルフォルニア州サンタクララ)に掲載されている。シグナルLog比(Signal Log Ratio)で、転写物の大きさおよび変化の方向が評価される。使用されたLogスケールは、2を底とする。したがって、1.0のシグナルLog比は、転写レベルの増加が2倍であることを示し、−1.0は、2倍の減少を示す。シグナルLog比が0であれば、変化が無いことを示す。
【0198】
遺伝子は、インジェヌイティー・パスウェイソフト(IPA,インジェヌイティーシステムズ社、www.ingenuity.com)を用いて、生物学的プロセスに従って分類された。耐性と感受性の間で差別的に調節された遺伝子は、インジェヌイティー・パスウェイノーリッジベース(Ingenuity Pathways Knowledge Base)に含まれる情報から発展した世界的分子ネットワークに載せられる。そして、特異的に発現する遺伝子のネットワークは、それらの相関性に基づいてアルゴリズムにより生み出され、最終的に創造されたネットワークが、遺伝子間の分子関係を図解的に表示する。描かれた全ての接続関係は、出版された参考文献、書籍またはIngenuity Pathways Knowledge Baseに保存されている正規の情報で裏付けされている(Sorensen G, BMC Genomics, 2008, 9:114; Kim SY et al, Stat. Methods Med. Res., 2006, 15:3-20)。
【0199】
定量的リアルタイムPCRによるマイクロアレイ解析の検証
RNA1μgを使い、高性能cDNAアーカイブキット(High-Capacity cDNA Archive Kit:アプライド・バイオシステムズ社)を用いてcDNAを生成し、定量的リアルタイムPCRを、ABI PRISM 7700 配列検出システム(アプライド・バイオシステムズ社)を用いて3点測定で実施した。GAPDHおよび18SリボソームmRNAを、内部対照として増幅した。増幅用のプローブとしては、アプライド・バイオシステムズ社製のTaqman Gene Expression Assaysのプローブ(ASAHl : HS00602774 M1 Taqman Probe, ASAH2: HS00184096 M1 Taqman Probe and ASAH3: HS00370322 M1 Taqman Probe, DUT: HS00798995 S1 Taqman Probe, TYMS: HS00426591 M1 Taqman Probe, UPPl : HS00427695 M1 Taqman Probe, RRM2: HS00357247 G1 Taqman Probe)を使用した。各遺伝子の相対的発現の計算には、2‐ΔΔCt法を使用した(Livak KJ., Methods. 2001; 25:402-8)。
【0200】
細胞培養およびChoK阻害剤耐性細胞株の生成
本研究で使用される全細胞株を、温度(37℃)、湿度(95%)および二酸化炭素(5%)の標準条件下で維持した。ヒト初代気管支上皮細胞NHBE(BEC)(CC‐2541、カンブレックス社)を、BEGM(気管支上皮細胞増殖培地)BulletKit(CC‐3170、カンブレックス社)で増殖させた。ヒト初代乳房上皮細胞HMEC(CC−2551、クロネティクス社)を、ブレットキット添加のMEMB培地で増殖させた。上皮非小細胞肺癌細胞株H460ならびにH1299、および小細胞肺癌細胞株H510ならびにH82を、10%ウシ胎児血清(FBS:ライフテクノロジーズ社、ニューヨーク州グランドアイランド)を添加したRPMIで維持した。
【0201】
MN58bおよびRSM‐932Aに対して耐性の細胞株(MN58RおよびRSM‐932A‐Rとして同定)を、各薬剤の濃度を漸増しつつ長時間持続的曝露により生成した。該細胞株の平行対照(H460細胞株)を、該化合物の非存在下で同じ時間培養した。
【0202】
細胞増殖アッセイ
細胞を、6000個/ウェルの密度で96ウェルプレート(BD Falcon,バイオサイエンス社、米国カルフォルニア州サンホセ)に接種し、24時間標準条件下でインキュベートした。次に、異なる濃度のChoK阻害剤(各濃度4つずつ)で細胞を処理し、72時間維持した。各ウェル内に残っている細胞数の定量化を、MTT(3‐(4,5‐ジメチルチアゾール‐2‐イル)‐2,5‐ジフェニルテトラゾリウムブロマイド)法により行った。595nmの吸光度を、VersaMaxマイクロプレートリーダー (モレキュラーデバイス社, 米国カルフォルニア州サニーベイル)で測定する。酸性セラミダーゼ阻害剤への感作のために、NOEに相当するIC50で、細胞を4時間前処理した後、ChoK阻害剤で処理した。NOE(N‐オレオイルエタノールアミン)は、カルバイオケム社製(米国カルフォルニア州ラホラ)を使用した。
【0203】
異種移植およびin vivo腫瘍増殖阻害アッセイ
指定細胞を、接種(106細胞/0.1モル)直前にDMEMで再懸濁し、免疫抑制マウス(nu/nu)に皮下注射した。スペイン政府ガイドラインに従い、標準的ラボ条件下に置いた。腫瘍が平均体積0.1cm3に達した時、マウスを対照群と治療群に無作為化した。抗腫瘍剤(および対照群にはビークル)による治療を以下の指定スケジュールで実施した(腹腔内投与)。腫瘍は、週3回、直径の大(D)・小(d)を測定してモニターし、腫瘍体積は、V=(D*d2)/2で算出した。腫瘍の成長における有意な変化の統計解析を、SPSSソフトv.13.0を使用して算定した。
【0204】
アネキシンVを使用したアポトーシス検出
アポスクリーン・アネキシンV・アポトーシスキット(Aposcreen Annexin V Apoptosis Kit) (サザンバイオテク社)を用いて製造者の手順に従い、フローサイトメトリーにより、細胞死の解析を行った。細胞は、4×105個/ウェルとなるように6ウェルプレートに接種した。24時間後、指定の化合物で処理した。冷やしたPBSで細胞を2回洗って、PBSを除去後、1×106〜1×107個/mLの濃度になるように、冷やしたIX結合バッファーで再懸濁した。これらの細胞の100μlをフローサイトメトリー用の試験管に集め、アネキシンVを10μl加えた。ボルテックスで静かに混和し、氷で15分間インキュベートし、遮光した。洗浄しないで、各試料にIX結合バッファー380μlを加え、次にプロピジウムイオジン10μlを加え、速やかにフローサイトメリーにより細胞解析を行った。
【0205】
FACSによる細胞周期解析
70%エタノールで固定してプロピジウムイオダイド4μg/mLで染色した細胞(IX106)の細胞周期解析を、Beckton Dickinson FACs SCANを用いて実施した。サイトメトリーのデータは、Cell Quest解析プログラム(ベクトンデッキンソン社)およびFlowJoソフトを使用して解析した。
【0206】
細胞内セラミダーゼレベルの定量
細胞を、6ウェルプレートに1×105個/ウェルとなるように接種し、2日間[14C]‐セリンで脂質を標識した。24時間標識培地は交換せずに、細胞を培養した。次に、脂質を抽出して、事前に記載されたプロトコールを用いてTLCにより解析した(van Echten-Deckert, G. (2000) Sphingo lipid extraction and analysis by thin-layer chromatography. Methods Enzymol, 312, 64-79)。脂質抽出に先だって、細胞は−20℃で保たれた。メタノールで細胞をハーベストして脂質を、最終比60:30:6(v/v/v)のクロロホルム‐メタノール‐水で抽出した。有機相をコンセントレーター内でN2フロー下37℃で乾燥させた。試料をクロロホルム‐メタノール(1:1v/v)で再懸濁してTLCプレートに塗布した。クロロホルム‐メタノール‐2Mアンモニウム(60:45:4、v/v/v)の溶媒混合液を用いて脂質を分離させ、インスタントイメージャー(instant imager)により定量化を行った(Pakard, Meriden, CT, USA)。
【0207】
LS‐MSセラミドおよびジヒドロセラミド解析
細胞を、p100プレート1枚につき8×105個の密度で接種し、24時間後、指定の化合物で処理した。次いで、PBS洗浄を行い、短時間トリプシン処理して採取し、細胞のアリコットを取り出してタンパク質の測定を行った。内部標準物質(N−ドデカノイルスフィンゴシン、N‐ドデカノイルグルコシルスフィンゴシンおよびN‐ドデカノイル スフィンゴシルホスホリルコリンを各0.5モル)で強化されたスフィンゴ脂質抽出物を調製して解析した。液体クロマトグラフィー質量分析装置は、ウォーターズ社直交加速型飛行時間質量分析計(Waters LCT Premier mass spectrometer)に接続されたウォーターズ社Aquity UPLCシステム(ウォーターズ社:マサチューセッツ州ミルフォード)からなり、ポジティブ電子噴霧イオン化モードで作動させた。50〜1500Daの完全スキャンスペクトラムが得られ、個々のスペクトルを合計してデータポイント各0.2sが生成された。質量精度と再現性が、ロックスプレー・インターフィアランス(LockSpray interference)を介する独立した標準噴霧を用いて維持された。解析カラムは、Aquity UPLC BEHC8カラム:100mm×2.1mmi.d;1.7μm(ウォーターズ社)を使用した。二つの移動相は、移動相A:meOH/H2O/HCOOH(74:25:1;v/v/v)および移動相B:meOH/HCOOH(99/1;v/v)で、両者とも5mMのギ酸アンモニウムを含んでいた。勾配が計画された―0.0分、80%B;3分、90%B;6分、90%B;15分、99%B;18分、99%B;20分、80%B.フロー速度は、0.3mL min−1であった。カラムは30℃で保たれた。50mDaウィンドウを使用し、各化合物の抽出イオンクロマトグラムを用いて定量化を行った。直線ダイナミックレンジが、標準混合物を注入することにより決定された。化合物のポジティブ同定は、正確な質量測定に基づいていた(エラー<5ppmおよびLC保持時間±2%:標準との比較)。
【0208】
ウェスタンブロッティング法によるタンパク質発現の定量
等量の細胞溶解産物(30μg)のウェスタンブロット解析を、各相当の抗体を用いて行った。タンパク質を電気泳動で分離して、10%SDS‐PAGEゲルに付着させ、ニトロセルロースにトランスフェクトした。ブロットを、T‐TBS中の5%無脂肪ドライミルクで2時間ブロックした。ASAH1の同定は、BDトランスダクション・ラボラトリーズ社(Ref:6123012)から入手したモノクローナル抗体(1:250)を使用して実施した。ローディングコントロールとして、α‐チューブリン(T9026、シグマ社)を使用してブロットのアッセイを行った。カスパーゼ‐3およびPARPの同定には、抗カスパーゼ‐3および抗‐PARP抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社、カルフォルニア州サンタクルーズ)を使用した。
【0209】
組み合わせ指数を用いたアッセイ
上述された細胞増殖MTTアッセイを使用して、ChoK阻害剤との併用におけるシスプラチンの評価を行った。一晩インキュベートした細胞に、様々に異なる濃度のシスプラチンを添加し、3時間インキュベートした。濃度を漸増しながら、ChoK阻害剤を4時間添加した後、新鮮な培地でさらに24時間培養した。相乗作用、加成性または拮抗作用の点で、コンビネーションアッセイの結果を、チョウ・タラレイ(Chou Talalay)の組み合わせ指数アイソボログラム法 (Chou TC. et al, Trends Pharmacol Sci, 1983, 4:450-4)を用いて解析した。CIの範囲は、既に記載されている値で設定される(Chou TC. et al., supra.)。組み合わせ指数(CI)<1は、2剤間の相乗的相互作用を表す。付加的相互作用は、CI=1で表され、CI>1は両剤間の拮抗作用を表す。協調効果は、相互作用CI<1.0としてみなされる。全ての試験は4通り行った。
【0210】
統計学的分析
事象率の相関関係を、ピアソンのカイ二乗統計を用いて測定した。報告された全P値は両側P値であった。統計学的有意性は、P<0.05として定義された。統計学的分析は、SPSSソフトバージョン13.0(社、イリノイ州シカゴ)を使用して行った。
【0211】
実施例1
NSCLC患者におけるMN58bのChoK阻害に対する本質的薬剤耐性
MN58bによるChoKの特異的阻害に対する薬剤耐性の推定される機序を同定するために、我々は、マドリード(スペイン)La Paz病院の非小細胞肺癌(NSCLC)患者84人の臨床前研究を実施した。その目的のため、それらの患者の切除腫瘍由来の初代培養を確立して10日間培養した。細胞は、ChoK特異的阻害剤MN58bの濃度を20μMまで漸増しながら処理された。一つの濃度が、ヒト肺腫瘍から生成された幾つかの腫瘍由来細胞株における7〜50回のIC50を表す(表6参照)。図1に示されるように、本治療に対して様々な反応が認められた。一つは、一連の39個の試料(46.4%)が、MN58bに対して完全に耐性であったが、これは10日目に、薬剤の最大濃度で、ほぼ100%の細胞が生存していたためである。その一方、その他の45個の腫瘍(53.6%)は、MN58bの抗増殖作用に感受性を示した。中でも、15個の試料群は、10日目に該薬剤が低濃度であった場合でも、細胞の生存率はゼロであったため、MN58bに対して高い感受性があるとみなされた(33.3%)。最終的に、30個の試料群(66.7%)が、MN58bに部分的に感受性があると認められ、約50%の細胞が治療終了時に生存していた。
【0212】
また、これらの患者の腫瘍の初代培養細胞も、NSCLCに用いられる従来の治療法で処理された(Belani CP, Lung Cancer. 2005, 50 Suppl 2: S3-8)。したがって、細胞生存率に関して、当該患者の62個の試料がシスプラチンで、同じ62個の試料がタキソールで処理され、これらの試料の52個はゲムシタビンでも処理され、また、39個がビノレルビンで処理された。表3で示されるように、MN58bは、こうした条件下で最も有効な抗癌剤であることがわかった。これは、55.5%が同剤に感受性を示したためであり、次いでシスプラチンが、50%の腫瘍反応性を示した。
【0213】
【表3】
【0214】
さらに、異なる薬剤間における耐性の相関関係を統計学的に分析した。シスプラチン耐性は、タキソール、ビノレルビンおよびゲムシタビンに対する耐性と有意な関連があった。同様の結果は、タキソール耐性の分析でも認められた。また、ビノレルビン耐性は、シスプラチンおよびタキソールへの耐性と関連があり、ゲムシタビン耐性は、タキソール耐性と関連していた。しかし、他のどの化学療法剤への耐性とも反応関連性が見られなかった唯一の薬剤は、MN58bであった(表4)。
【0215】
【表4】
【0216】
以上の結果により、これらの抗腫瘍治療薬のいずれにも反応しないNSCLC患者は、ChoK阻害に基づく治療に対しては効率よく反応する可能性があることが示唆されている。これは、MN58bの耐性メカニズムが、他の4つの試験薬のそれとは異なるためである。その一方で、これらの結果はまた、ChoK阻害に対する特定の化学療法耐性系が存在することも示唆している。
【0217】
実施例2
NSCLCにおけるChoK阻害への薬剤耐性メカニズムの同定
感受性を示した患者由来の、ChoK阻害剤に本質的に耐性を示す腫瘍の遺伝的相違を調査するため、我々は、代表的なNSCLC患者由来の腫瘍の転写的特徴を分析した。アフィメトリックスジーンチップ:ヒトゲノムHG‐U133およびマイクロアレイ2個を使用して、MN58b耐性を示す腫瘍の患者5人の一群と、同剤に高感受性を示す腫瘍の患者5人からなる別の一群とを比較した。このマイクロアレイプラットフォームは、47,000個の転写物を表す54,614個のプローブセットを含む。−2<倍率変化>2(−1<シグナル比>1)の観点では、912個の適格な転写物が、反応性試料との比較で、耐性のある腫瘍試料において有意な差別的調節を示した。差別的に発現した遺伝子の生物学的有意性を解釈するため、インジェヌイティー・パスウェイ解析(IPA:インジェヌイティーシステムズ社)を用いて遺伝子オントロジー解析を行った(Sorensen G., BMC Genomics. 2008, 9:114)。
【0218】
調節が認められた遺伝子間の相互作用をさらに調べたところ、該ソフトによる解析でスコアが20を超えた反応性試料において、差別的に調節された32個のネットワークが見出された。これは、入力データセットおよび遺伝子間の適切な相関性におけるこれらの遺伝子の関連性を示している。上位の経路は、これらのネットワークに関与する遺伝子の主要機能が、細胞周期、細胞死、癌、免疫反応、脂質代謝および薬剤代謝に関連することを示している。
【0219】
マイクロアレイの多数の転写物によるフォールスポジティブの出現率回避のために、我々は、「B」として知られる第2の統計学的解析を使用した。これによって、試験全体の中で差別的発現が統計学的に有意である遺伝子をさらにフィルタリングすることができる(Kim SY., Stat Methods Med Res., 2006, 15:3-20)。この試験では、ヒト試料を使用したため、本解析が非常に限定的なものとなり、(B>0)の評価を満たしているのは50個の遺伝子である。18個の遺伝子は、両解析(2倍の差別発現およびB>0)で一致しており、そのうちの4個は試料において過剰発現し、MN58b耐性であるとみなされ、14個は下方調節された。これらの遺伝子の中で、酸性セラミダーゼ(ASAH1)は、この二つの解析後、耐性試料において有意に上方調節された。
【0220】
実施例3
MN58b耐性腫瘍のNSCLC細胞株における酸性セラミダーゼ発現
上述のように、脂質代謝に関与する酵素の酸性セラミダーゼ(ASAH1)は、MN58b耐性の腫瘍においては、いずれの選択基準によっても有意に過剰発現することが分かった。
【0221】
NSCLCのMN58b耐性細胞株における様々なセラミダーゼの挙動について、マイクロアレイにより詳細に調べた。表5に示されているように、MN58b耐性のNSCLC腫瘍で調節されるセラミダーゼは、酸性セラミダーゼのみである。また、B統計に準じた有意な方法においてではないが、酸性セラミダーゼ様酵素と呼ばれる同定された酵素であり、酸性セラミダーゼと同じ局在化および機能を有すると思われる酵素も、耐性試料において上方調節される(表5)。
【0222】
【表5】
【0223】
マイクロアレイ解析で認められた変化が、ASAH1の実際の変化に相当することを証明するため、この遺伝子に対する特異的taqmanプローブを使用して、定量的リアルタイムPCRを実施し(Applied Biosystems assay Hs00602774_ml)、ネガティブ対照としての中性およびアルカリセラミダーゼ(Applied Biosystems assay Hs00602774_ml)についても同様のプローブを使用した。この目的のため、マイクロアレイ解析用に、耐性および反応性両方の腫瘍試料を5個を使用すると共に、各ケースにおいて新たな一群として付加した5個の患者試料も本解析に使用した。リアルタイムPCRにより、ASAH1は、ASAH2およびASAH3と異なり、耐性腫瘍で差別的に発現されることが明らかになり、マイクロアレイ解析の結果(図2)を裏付けている。これらの結果は、酸性セラミダーゼが、ChoK阻害耐性の腫瘍患者において特異的に上方調節されること、かつChoK阻害耐性のメカニズムに対する提示モデルの基準であることを証明するものである(図3)。したがって、特異的阻害剤(ChoKI)によるChoK活性の阻害は、PChoのレベルの減少を誘導する。その結果、PCho生成の代替経路が活性化され、スフィンゴミエリナーゼ(SMlase)活性が上昇することになる。この酵素は、PChoおよびセラミドの両方を生成する。この後者の代謝物質は、細胞死の強力な誘発因子である。セラミドのe.スフィンゴシンへの変換に関与する酵素の活性が上昇すれば、ChoKI活性に対する耐性が生じる可能性がある。この酵素が酸性セラミダーゼ(ASAH1)である(図3)。
【0224】
実施例4
酸性セラミダーゼの阻害により、ChoK阻害剤に対してNSCLC細胞を感作する
最初に、一連のヒト肺腫瘍細胞株(NSCLC細胞株としてH460ならびにH1299およびSCLC細胞株としてH510ならびにH82)におけるASAH1のレベルを調べた。図4に示されるように、SCLC由来細胞株は、老衰対照BEC細胞と類似する酸性セラミダーゼレベルを示し、NSCLCでのレベルよりもかなり低いレベルとなった。興味深いことに、これらのSCLC細胞株はまた、コリンキナーゼαが高レベルとなり、NSCLC細胞よりもChoK阻害に対する感受性が非常に高いことを示した(表6)。これにより、低レベルの酸性セラミダーゼは、ChoK阻害剤に対するSCLC細胞の非常に高い反応性を少なくとも部分的に示している可能性のあることが示唆されている。
【0225】
【表6】
【0226】
したがって、酸性セラミダーゼレベルを阻害することにより、ChoK阻害剤がこれらの細胞により有効に作用する可能性がある。この仮説を立証するため、我々は、あらかじめ特徴付けた酸性セラミダーゼ阻害剤のN‐オレオイルエタノールアミン(NOE)を使用して(Grijalvo S., Chem Phys Lipids. 2006; 144:69-84)、酸性セラミダーゼの阻害によるChoK阻害剤への腫瘍細胞株の感作について調査した。この目的のため、H460は、酸性セラミダーゼ阻害のためにNOEで3時間前処理された。次いで、ChoKα阻害剤MN58bおよびRSM‐932Aの濃度を漸増させながら細胞を処理し、全細胞集団の50%が影響された濃度(IC50)を同定した。表7に示されるように、酸性セラミダーゼ阻害剤NOEでH460細胞を前処理したことにより、ChoKα阻害に対して細胞が感作された。これらの結果は、酸性セラミダーゼレベルの上昇が、ChoK阻害に対する薬剤耐性のメカニズムを与える可能性があるという我々の仮説と整合している。
【0227】
【表7】
【0228】
これらの結果を証明する目的で、我々は、別の公知の酸性セラミダーゼ阻害剤CAY10466(CAY)(D‐NMAPPD(1R,2R)‐B13;10006305:ケイマンケミカル社)(表2の項目III)およびネガティブ対照としてアルカリ性セラミダーゼ阻害剤D‐エリスロ‐MAPP(DMP)(10165:ケイマンケミカル社)を使用してさらに試験を行った。セラミダーゼを阻害するため、これらの化合物でH460細胞を3時間前処理した。次に、ChoKα阻害剤MN58bおよびRSM‐932Aの濃度を漸増させながら細胞を処理し、全細胞集団の50%が影響された濃度(IC50)を同定した。表8に示されるように、D‐エリスロ‐MAPPではなく酸性セラミダーゼ阻害剤D‐NMAPPDでH460細胞を前処理したことにより、ChoKα阻害に対して細胞が感作された。これらの結果は、酸性セラミダーゼレベルの上昇が、ChoK阻害に対する薬剤耐性のメカニズムを与える可能性があるという我々の仮説と整合している。その上、ChoK阻害剤および酸性セラミダーゼ阻害剤の併用によって、さらにいっそう強力な抗癌活性が与えられる。
【0229】
【表8】
【0230】
実施例5
ChoK阻害剤耐性NSLC細胞の生成
ChoK阻害に対する耐性の根底にあるメカニズムおよびこの阻害効果における酸性セラミダーゼの意味するものをさらに調査するため、我々は、ヒトNSCLC由来H460細胞株を使用して一連のin vitro試験を行った。この細胞株を9ヶ月間、MN58bおよび第2世代ChoKα阻害剤RSM‐932Aの投与サイクルを徐々に増やしながら培養状態で維持して、これらのChoKα阻害剤への耐性を獲得した新規細胞株を樹立した。対照細胞株(H460細胞株)も、H460の培養を維持しつつ、処理無しで同時に樹立された。したがって、MN58b耐性の樹立細胞株(H460 MN58R)およびRSM‐932A耐性の樹立細胞株(H460 RSM‐932A‐R)は、正常細胞株H460または対照細胞株H460が劇的に影響された濃度で影響を受けなかった。結果的に、これらのMN58bおよびRSM‐932A耐性細胞株における細胞増殖の50%を阻害するための必要濃度(IC50)は、対照群細胞に認められた濃度よりも有意に高くなっている(表9)。その上、両ChoK阻害剤間での強力な交差耐性が認められた。これは、これら2種類の抗腫瘍剤の作用機序が類似しているために起こりうると思われていた(表9)。
【0231】
【表9】
【0232】
ChoKα阻害剤に反応して細胞死することがないのは、酸性セラミダーゼレベルが高いためであるのかを試験する目的で、QT‐PCRおよびウェスタンブロット解析の両方を実施し、こうした細胞の酸性セラミダーゼレベルを測定した。以前の結果と一致して、対照細胞株H460と比較して、ChoKα阻害耐性細胞では、遺伝子発現およびタンパク質レベルとも過剰に発現した(図5)。
【0233】
実施例6
ChoKα阻害剤およびシスプラチン間の非交差耐性
前述されているように、NSCLC患者由来腫瘍の初代培養で実施された、種々の化学療法剤に反応する遺伝子の相関関係の統計学的解析によって、MN58b耐性は、試験された抗腫瘍剤の他のいずれに対する耐性とも関連がないことが分かった(表4)。患者の試料から得られたデータを検証するため、また、ChoK阻害剤耐性のメカニズムがNSCLC治療に使用される従来の他の抗腫瘍剤への耐性と無関係であることを証明するために、ChoK阻害耐性の樹立細胞におけるシスプラチンの抗増殖効果を分析した。表10に示すように、H460 MN58RおよびH460 RSM‐932A‐Rは、親細胞H460よりもシスプラチンの抗増殖効果に対してよりいっそう高い感受性を示した。これらの結果は、ChoK阻害耐性の獲得が、酸性セラミダーゼの過剰発現に関連する可能性のある特異的メカニズムを介して引き起こされ、シスプラチン等他の抗腫瘍剤の作用のメカニズムを妨げるものではないことを示唆する。
【0234】
【表10】
【0235】
実施例7
NSCLCにおけるシスプラチンおよびChoK阻害剤併用療法の有効性
上記で示した結果は、ChoK阻害剤が、シスプラチンに不応のNSCLC患者に抗腫瘍剤として使用可能であること、またその逆も可能であることを示唆している。そこで、ChoK阻害剤およびシスプラチンによる従来の白金系療法との併用治療がいかに強力的効果があるかを分析した。細胞生存率に対するシスプラチンとChoK阻害剤MN58bおよびRSM‐932Aとの併用による効果を、MTTアッセイを用いて、NSCLC由来細胞株H460で評価した。連続投与では、シスプラチンを3時間投与して、その後にChoK阻害剤を40時間投与した。その結果を、チョウ・タラレイ(Chou Talalay)の組み合わせ指数アイソボログラム法(Chou TC. et al., supra.)を用いて解析した。図6に示されているように、強力な相乗的(CIs<0.5)成長阻害が、H460細胞におけるシスプラチンとChoK阻害剤MN58bまたはRSM‐932Aの両剤間に認められ(それぞれCI=0.1およびCI=0.4)、これら2剤の併用が、NSCLC腫瘍成長抑制に有意な利点となり得ることが分かる。
【0236】
これら2剤の併用が、NSCLC腫瘍成長抑制に有意な利点となる可能性を検証するために、NSCLC異種移植を使用したin vivo試験を行った。in vitro試験の知見に準じて、連続治療をin vivoで実施し、シスプラチンを第1週の間(週2回)投与し、次いでChoK阻害剤治療を2週間(週3回)行った。また、3週間MN58bとシスプラチンの平行投与の1群を加えた。図7に示すように、H460異種移植において、シスプラチンとChoK阻害剤MN58b(図7A)またはRSM−932A(図7B)との間に強力な相乗的成長阻害が認められ、毒性の上昇も見られなかった(図7C)。したがって、これらの2剤の併用が、NSCLCの管理に有意な利点になり得ることが分かる。
【0237】
考慮すべき重要なことは、併用スケジュールで得られた抗腫瘍活性と同様の活性率を、シスプラチン単独で得るためには、シスプラチンの濃度を4倍にしなくてはならず、体重減少等毒性の臨床兆候が認められることである(図7D)。したがって、シスプラチンおよびChoK阻害剤の連続的併用療法は、強力な抗腫瘍効果をもたらしつつ、濃度が2倍減少した化学療法剤と同程度のわずかなレベルまで毒性を低減する。
【0238】
実施例8
コリンキナーゼ阻害剤とTRAILの協調が、大腸癌由来細胞株における細胞死を誘導する。
RSM‐932AおよびTRAILの抗腫瘍活性が、類似のまたは別個の作用メカニズムの結果として生じるのかを調査するために、腫瘍細胞の細胞毒性におけるコリンキナーゼ阻害剤(ChoKI)およびTRAILの併用による強調効果を試験した。その目的のために、5種類の大腸癌由来細胞株:DLD‐1、HT‐29、HCT‐116、SW620およびSW480を使用した。
【0239】
この目的のため、処理の24時間前に、96マルチウェルプレートに1×104個/ウェルの密度で細胞を接種した。細胞は、様々な濃度のRSM‐932A(ChoKI)またはTRAILを様々な回数で添加して処理し、MTT[3‐(4,5‐ジメチルチアゾール‐2‐イル)‐2,5‐ジフェニルテトラゾリウムブロマイド]比色分析法を用いて細胞増殖を定量した。
【0240】
その結果によれば、ChoKIに対する感受性は、分析した全細胞株で非常に類似していた(図8A)。しかし、TRAILに対する感受性も、SW620を除く全細胞株で非常に類似していたが、SW620は、TRAIL治療にほぼ耐性を示す(図8B)。次に、効率的なコリンキナーゼ阻害に十分な2時間のChoKIによる前処理を同じ細胞に行った後、さらに24時間、TRAILで処理した。DLD‐1細胞に、ChoKIまたはTRAILの単独処理を実施したところ、細胞毒性は、それぞれ53%と12%となり、認められる細胞死の割合として同定された。両剤併用の場合には、細胞毒性は上昇して、75%の細胞死となった(図9A)。H‐29細胞では、ChoKIおよびTRAILによる誘導性細胞毒性は、それぞれ48%と18%となった一方、併用での細胞毒性は、81%まで上昇した(図9B)。TRAIL耐性のSW620細胞では、ChoKI細胞毒性は9%であったが、併用での細胞毒性は41%まで上昇した(図9C)。この結果は、ウェスタンブロット解析により確認されたが、それは、TRAILおよびコリンキナーゼ阻害剤の併用時に、PARP分解の増加またはカスパーゼ‐3活性も見られたためである(図9D)。
【0241】
この実施例でChoKIとして設計されたRSM−932AおよびTRAILの協調の結果を、チョウ・タラレイ(Chou Talalay)の組み合わせ指数アイソボログラム法(Chou TC. et al., supra.)を用いて解析した。図10に示すように、強力な相乗的(CIs<0.5)成長阻害が、これらの化合物間に認められ(DLD‐1のCI=0.19、HT‐29のCI=0.4およびSW620のCI=0.085)、これら2剤の併用が、大腸腫瘍成長抑制に有意な利点となり得ることが分かる。
【0242】
上記の結果を検証するために、ChoK阻害剤MN58bをDLD‐1およびSW620細胞に使用して、同様の結果を得た(それぞれCI=0.10およびCI=1.15)(図10)。
【0243】
in vitroで認められた相乗作用の解析も行った。この解析では、アポトーシスならびに壊死または後期アポトーシスを区別するため、アネキシンVおよびIP染色法を用いてフローサイトメトリーを実施した。7時間処理した後、MN58bでは、DLD‐1細胞のアポトーシスはほんの少し増加する。これは、MN58による腫瘍細胞死誘導には、7時間よりももっと時間が必要だからである。TRAIL単独でDLD‐1細胞を処理すると、アポトーシスは35%である。併用においては、腫瘍細胞死は50%まで増幅した。RSM−932AをTRAILと併用してDLD‐1を処理すると、腫瘍細胞死は55%の増加であるが、これは、RSM−932Aの効果がMN58よりも早いため、主に壊死または後期アポトーシス集団となる。TRAIL耐性のSW620では、MN58との併用でアポトーシス集団も35%にまで増加する。TRAILとRSM−932Aとを併用すると、壊死または後期アポトーシス集団が増加し、7時間の処理後、総細胞死は59%である(図11)。これにより、大腸癌細胞におけるTRAILおよびChoK阻害剤の併用の相乗効果が証明される。
【0244】
TRAILは、腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーの一つであり、細胞死受容体DR4(TNFSF10AすなわちTRAIL‐R1)およびDR5(TNFRSF10BすなわちTRAIL‐R2)の刺激を介して結びついた外因性経路によってアポトーシスを誘導することができる。TRAILおよびChoK阻害剤併用療法の有効性のメカニズムを同定するため、MN58b、TRAILまたはこれらの同時併用による処理後、定量的PCRにより、DLD‐1およびSW620細胞株におけるDR5およびDR4レベルを解析した。DR4レベルには有意な変化は見られなかったが、MN58b処理において、DR5レベルがSW620細胞株で2倍増加し、DLD‐1細胞株で1.6増加した。これによって、ChoK阻害剤およびTRAIL間に認められる相乗効果の作用メカニズムが説明され得る。
【0245】
MN58bおよびTRAILは共に、細胞内のセラミドレベルを上昇させると以前に記述されている。この系におけるセラミド生成を調べるために、細胞内脂質を48時間[14C]‐セリンで標識してから、DLD‐1細胞をMN58またはTRAILで処理した。抽出後、脂質を薄層クロマトグラフィーによって解析して定量した。図13で認められるように、MN58bおよびTRAILの同時併用では、セラミドレベルが3倍の増加となっている。さらに、SW620のTRAIL耐性は、セラミドシグナル伝達の欠陥に関連しており、外因性セラミドにより克服可能であると以前に記述されている。したがって、処理後のSW620では、C‐16セラミドは増加しない。ChoK阻害がC‐16セラミド生成の一因となっている可能性を調べるため、液体クロマトグラフィーおよび質量分析法で解析を行ったところ、MN58bおよびTRAILの併用でC‐16セラミドは50%増加した(図13)。
【0246】
最終的に、in vivoでの併用治療もヌードマウスの異種移植モデルを使用して実施した。腫瘍体積が0.15cm3になった時、同時併用治療を開始した。1群につき10匹のマウスが含まれていた。マウスの治療は、月曜、水曜および金曜にはMN58b(2mg/kg)で、火曜および木曜はTRAIL20mg/kgで行った。図14で分かるように、3週間の治療後、DLD‐1およびSW620異種移植における腫瘍成長阻害は、それぞれ68%および75%となり、in vitro試験で認められた強力な相乗作用を裏付けている。
【0247】
実施例9
コリンキナーゼ阻害剤および5‐FUの協調が、大腸癌由来細胞株における細胞死を誘導する。
さらに、コリンキナーゼ阻害剤および従来の5‐フルオロウラシル(5‐FU)併用に基づく大腸癌治療の潜在的効果も分析した。細胞生存率に対する5‐FUとChoK阻害剤MN58bおよびRSM‐932A併用の効果を、MTTアッセイによりDLD‐1、SW620およびHT‐29細胞で評価した。最高の組み合わせの選択肢は、並行投与またはChoK阻害剤を短時間(9〜24時間)投与後、5‐FUをそれより長く(48〜72時間)投与した連続投与であることが確認された。この結果を、チョウ・タラレイ(Chou Talalay)の組み合わせ指数アイソボログラム法(Chou TC. et al., supra.)を用いて解析した。図15に示すように、解析された全ヒト大腸癌細胞において、成長阻害への相乗的効果が、5‐FUとChoK阻害剤MN58bまたはRSM‐932Aとの間に認められ、これら2剤の併用が、大腸腫瘍成長抑制に有意な利点となり得ることが分かる。
【0248】
これらの結果もフローサイトメトリー解析で検証された。図16に認められるように、細胞周期の解析により、併用療法が、これらの製剤を低濃度で使用しても細胞死を有意に増加させることが分かっただけではなく、ChoK阻害剤が細胞周期のG0/G1相に効果を発揮する一方、5‐FUは、細胞周期のG2/M相に影響する効果があることも分かった。これらは以前の報告と一致する。これらの結果は、細胞を5‐FUの抗増殖効果に感作させるために併用療法を行う場合、ChoK阻害剤による前処理の必要性の根拠となる。
【0249】
5‐FUの抗腫瘍効果に対するChoKI感作のメカニズムをさらに調べるため、5‐FU代謝経路の遺伝子発現解析をH460細胞で実施した。H460細胞は、アフィメトリクス手法を用いて、MN58bおよびRSM‐932Aにより別々の時点で処理された。表11で分かるように、この経路の幾つかの遺伝子が、ChoK阻害剤の影響を有意にかつ共通して受ける結果となった。これは、ChoK阻害剤による前処理が、5‐FU効果を高める酵素の発現を修飾することを示唆している。
【0250】
【表11】
【0251】
H460はNSCLC由来細胞であるため、上記の結果は、QT‐PCR技術を用いて、三種類の異なる大腸由来の癌細胞で検証し、5‐FU誘導の細胞死増強のこのようなメカニズムが細胞依存性であるのか、そしてこの経路の遺伝子発現レベルの修飾が、大腸癌系に見られるChoKI感作の効果を説明できるのかを明らかにした。表12で分かるように、この経路には、解析された全癌細胞において同程度に有意な変化がみられ、5‐FUの代謝上の変化がこの併用療法の作用メカニズムである可能性が示唆されている。
【0252】
【表12】
【0253】
最後に、これらの2剤の併用がNSCLC腫瘍成長抑制に有意な利点となる可能性を検証するために、2種類の異なる大腸異種移植を使用したin vivo試験を行った。in vitro試験の知見に準じて、並行治療または連続治療をin vivoで実施した。連続治療では、ChoK阻害剤MN58bまたはRSM−932Aを第1週の間(週3回)投与し、次いで5‐FU治療を2週間(週2回)行った。図17に示すように、DLD‐1およびSW620両方の異種移植を用いる5‐FUとChoK阻害剤との間に強力な相乗的成長阻害が認められ、これらの2剤の併用は、大腸腫瘍の成長抑制に有意な利点になり得ることが示唆されている。
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【技術分野】
【0001】
本発明は治療法の分野に関し、より詳細には、個別に使用される複数の治療用化合物と比較して、改善された作用を示す該化合物含有組成物を用いた癌治療法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
コリンキナーゼは、ケネディ経路やフォスファチジルコリン(PC)合成経路の第1酵素である。コリンキナーゼは、リン酸基供与体としてアデノシン5’‐三リン酸(ATP)を用いてコリンをホスホリルコリン(PCho)にリン酸化することにより作用する。Ras遺伝子は、所謂癌遺伝子の一ファミリーを形成する。癌遺伝子は、全ヒト腫瘍の25〜30%において活性化し、幾つかのヒト腫瘍では90%において活性化することから広く研究されてきている。Rasタンパク質は、細胞の増殖、最終分化、老化の制御に関与するため、細胞内シグナル伝達において重要な役割を担っている。様々な癌遺伝子、その中でも特にras癌遺伝子は形質転換を促進させ、コリンキナーゼ活性レベル(level)が亢進されて、生成物のPChoの細胞内レベルが異常に増加する結果となる。補足的な知見で、ヒト腫瘍の発生におけるChoKの役割が裏付けられている。例えば、核磁気共鳴(NMR)法により、正常細胞と比べて、乳房、前立腺、脳および卵巣腫瘍等幾つかのヒト腫瘍細胞では、PChoが高レベルで認められることが分かっている。一般的な認識として、rasはヒト発癌において最も深く研究されている癌遺伝子の一つであり、ChoK阻害が、癌遺伝子により形質転換された細胞での新しい有効な抗腫瘍戦略であると証明されている。これらの初期の知見は、その後、in vivoでヌードマウスにおいて推定された。
【0003】
このようなデータから考えて、コリンキナーゼ活性やホスホリルコリンによって活性化する酵素に対して、個々にまたは組み合わせることで直接作用する複数の化合物を設計すれば、効果的な抗腫瘍療法の開発が可能になる。
【0004】
その意味で、ChoK阻害剤の研究により、比較的強力かつ選択的遮断薬としてHemicholinium−3(HC−3)が同定されている(Cuadrado A., et al, 1993, Oncogene 8: 2959-2968, Jimenez B., et al., 1995, J. Cell Biochem. 57: 141-149; Hernandez-Alcoceba, R. et al., 1997, Oncogene, 15 :2289-2301)。ビフェニル構造を持つこのコリン同族体は、新規の抗腫瘍薬の設計に使われてきた。とは言え、HC−3は、呼吸器系の強力な麻痺薬であるため、臨床現場での使用にとって適切な候補ではない。ChoK阻害活性を改善し毒性作用を低減した誘導体の幾つかは、HC−3の構造を基にその修飾構造を導入して合成されている。
【0005】
ピリジニウム由来の対称型ビス4級化合物も、細胞全体においてPCho生成を阻害することが分かっている(国際公開番号WO98/05644)。しかし、これらの誘導体には、その治療適用拡大を限定する高レベルの毒性がある。
【0006】
化学療法抵抗性(「薬剤耐性」)は、今日癌治療に使用される多くの化学療法の有効性を制限する根本的問題である。薬剤耐性は、様々なメカニズムに因って発生する可能性がある。例えば、薬剤不活化の上昇、薬剤蓄積の減少、癌細胞からの薬剤排出、化学療法に起因する傷害の治療強化、生存促進性経路の活性化および細胞死経路の不活性化である(Hersey P. et al., 2008, Adv Exp Med Biol. 2008;615:105-26)。薬剤耐性は、抗腫瘍治療の開始前から、腫瘍細胞に本来備わっている場合がある。また、特定の薬剤耐性メカニズムは、腫瘍細胞が特定の治療薬に曝露後活性化されることがある。先天的または後天的耐性に関与するそれらの分子実体の同定によって、こうした薬剤耐性の克服に有効と思われる強力な分子標的に関する貴重な情報が得られる可能性がある。したがって、規定された腫瘍特異治療法のために、薬剤耐性を与える分子成分の阻害を目的とした戦略の設計は、癌治療効率向上に向けて重要な一歩前進になる。
【0007】
Mori et al.(Cancer Res., 2007, 67:11284-11290)は、ChoK阻害剤(コリンキナーゼ特異siRNA)および5−フルオロウラシルの併用が、乳癌細胞の細胞増殖/生存能力の低減に相乗効果を生み出す結果となったと述べている。しかし、この治療法は、in vivoで効率的に標的細胞に輸送されないsiRNAの使用に依存している。また、この目的のために設計されたsiRNAは、ChoKαおよびChoKβの両種類を認識する(Mori et al., Cancer Res., 2007, 67: 11284-11290)が、ChoKαおよびChoKβのみが、腫瘍学の分子標的となっており(国際公開番号WO2006108905および 同時係属中のスペイン特許出願番号P200800416)、この戦略が強力な治療用途になるのかは疑問である。
【0008】
それでも、腫瘍治療に使用できるように、ChoK酵素の阻害活性を高める化合物を開発する必要は大いにあるが、同時にそうした化合物は、最先端の化合物に対する毒性がかなり低い。
【発明の概要】
【0009】
第1の態様によれば、本発明は、1種以上のコリンキナーゼ阻害剤を含んでなる第1の成分と、1種類以上の酸性セラミダーゼ阻害剤、1種類以上の化学療法剤および1種類以上の細胞死受容体リガンドより選択される第2の成分を、個別にまたは共に含んでなる組成物に関する。
【0010】
第2の態様によれば、本発明は、本発明の組成物および薬学的に許容される担体または賦形剤を含んでなる医薬組成物に関し、また、その医学的用途、特に癌治療におけるその用途に関する。
【0011】
もう一つの態様によれば、本発明は、コリンキナーゼ阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性を高めるために、酸性セラミダーゼ阻害剤、化学療法剤または細胞死受容体リガンドの用途に関する。
【0012】
さらにもう一つの態様によれば、本発明は、ChoK阻害剤療法に耐性を示す癌患者の同定方法に関し、前記同定方法は、該患者由来の試料中における酸性セラミダーゼレベルを定量することを含んでなり、前記試料中の酸性セラミダーゼレベルが基準試料(reference sample)よりも高い場合、該患者はChoK阻害剤耐性であると同定される。
【0013】
もう一つの態様によれば、本発明は、癌患者のための個別化治療の選択方法に関し、前記選択方法は、該患者由来の試料中の酸性セラミダーゼレベルを定量することを含んでなり、酸性セラミダーゼの発現レベルが基準試料より高ければ、該患者は、ChoK阻害剤および酸性セラミダーゼ阻害剤の併用療法の候補者である。
【0014】
さらにもう一つの態様によれば、本発明は、癌治療に対するChoK阻害剤の治療効果を高めることができる化合物の同定方法に関し、前記同定方法は、
(i)ChoK阻害剤に耐性を示す腫瘍細胞を、候補化合物と接触させる工程と、
(ii)前記細胞中の酸性セラミダーゼレベルを定量する工程とを含んでなり、候補化合物による治療後、細胞中の酸性セラミダーゼレベルが治療前より低い場合、前記候補化合物は、癌治療に対するChoK阻害剤効果を高めることができるとみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】非小細胞肺癌患者の腫瘍の初代培養細胞における、治療薬MN58bに対する反応性を示す。
【図2】RT−qPCRによるマイクロアレイ解析結果の検証である。
【図3】非小細胞肺癌におけるChoK阻害耐性のメカニズムを示すための提案モデルである。
【図4】RT−qPCRにより定量された、ヒト肺癌由来の様々な細胞株に含まれるASAH1およびChoKのレベルを示す。
【図5】qRT−PCRにより定量されたASAH1遺伝子の発現およびChoK阻害剤耐性細胞株H460において、ウエスタンブロット解析により定量された酸性セラミダーゼタンパク質の発現を示す。
【図6】シスプラチン/ChoK阻害剤の併用連続療法の相乗効果を示す。
【図7】非小細胞肺癌異種移植片におけるシスプラチン/ChoK阻害剤の併用療法を示し、(A):MN58b/シスプラチン(統計的有意性:MN58b、p=0.09;シスプラチン、p=0.3;連続投与、p=0.017;並行投与p=0.016)、(B):非小細胞肺癌異種移植片における併用療法(統計学的有意性:RSM−932A(932A)、p=0.157;シスプラチン(DPP)、p=0.441;連続的DPPおよびTCd−171療法(SEC)、p=0.03);(C)対照群およびChoK阻害剤投与マウスの毒性測定としての体重モニタリング(2mg/Kg)、シスプラチン(1mg/Kg)および併用療法群;(D)併用療法に比べて、シスプラチン単独の同様な抗腫瘍活性は、毒性が有意に上昇する結果となる。
【図8】指定細胞株における、コリンキナーゼ阻害剤(A)RSM−932A(ChoKI)または(B)TRAILに対する腫瘍細胞の感受性を示す。
【図9】ChoKIおよびTRAILの併用療法による協調効果を示す。
【図10】大腸癌細胞におけるMN58bおよびTRAILの併用療法の相乗効果を示す。
【図11】流動細胞分析法により判定された大腸癌細胞におけるMN58bおよびTRAILの併用療法の相乗効果を示す。
【図12】ChoK阻害によるDR5発現の増加を示す。
【図13】ChoKI/TRAIL併用療法後のセラミド生成を示す。
【図14】大腸異種移植片におけるChoKI/TRAIL併用療法を示す。
【図15】大腸癌細胞におけるChoK阻害剤および5−FUによる併用療法の相乗効果を示す。
【図16】流動細胞分析法により判定された大腸癌細胞におけるChoK阻害剤および5−FUによる併用療法の相乗効果を示す。
【図17】大腸異種移植片におけるChoKI/5−FU併用療法を示す。
【発明の具体的説明】
【0016】
ChoK阻害剤および酸性セラミダーゼ阻害剤の併用
(本発明の第1の成分)
本発明の発明者らは、コリンキナーゼ(ChoK)阻害剤耐性の原発性ヒト腫瘍の存在を同定している(図1)。詳細には、本発明の実施例1では、ヒト非小細胞肺癌組織由来の種々の初代培養細胞が、公知のChoK阻害剤であるMN58bに対する分差感度を示すと述べている(図1)。驚くことに、この耐性は、本発明の実施例2および3で示されるように、酸性セラミダーゼの発現レベルの上昇によって引き起こされることが分かっている(図2)。ChoKの機能は、Choをリン酸化してホホコリン(Pcho)を生成することである。ホホコリンは、原形質膜の主要構成成分フォスファチジルコリン(PC)の前駆体である(Lacal JC, IDrugs. 2001; 4:419-26)。しかし、細胞膜そして故にPCが、細胞増殖には絶対的に必要である。したがって、いかなる理論によっても縛られたくないとは思うが、腫瘍細胞は、スフィンゴミエリン(SM)の分解でPChoを生成する代替経路の活性化によって、ChoK阻害に反応すると考えられている(図3)。しかし、SMの分解は、PCho生成のみならず、アポトーシス促進物質であるセラミドの生成にもつながり、結果的に腫瘍細胞には、アポトーシス細胞死が引き起こされる。興味深いことには、そうしたChoK阻害耐性の細胞には、アポトーシス促進性セラミドの分裂促進性スフィンゴシン−1Pへの転換を促進する酵素である酸性セラミダーゼのレベル上昇が見られることが、ここで同定されている(図3)。これらの結果により、酸性セラミダーゼの過剰発現は、細胞内でのセラミドレベルが減少するために、ChoK阻害による細胞死促進を抑制する可能性があることが示唆される。このため、腫瘍細胞内でChoK阻害により誘起されたアポトーシス促進性シグナルは、酸性セラミダーゼの過剰発現によって不活性化される。その上、生成されたセラミドは、分裂促進性スフィンゴシン−1Pに転換される可能性がある(図3)。
【0017】
こうした所見は、ChoK阻害剤への感受性を、酸性セラミダーゼの並行投与によって高めることにより、癌治療改善の可能性を広げるものである。事実、本願の実施例4には、酸性セラミダーゼ阻害剤NOEを使用した非小細胞肺癌由来腫瘍細胞の治療が、ChoK阻害剤に対する感受性を上昇させた結果が示されている。さらには、ChoK阻害剤MN58bまたはRSM−932Aおよび酸性セラミダーゼ阻害剤D−NMAPPDの併用療法では、これらの阻害剤の単独使用と比べ、もしくは、ChoK阻害剤およびアルカリ性セラミダーゼ特異阻害剤の併用と比べて、抗腫瘍効果が改善している(実施例4参照)。このように、酸性セラミダーゼ阻害剤およびChoK阻害剤の併用投与を行えば、その後に投与される化合物の投薬量を低減することができ、好ましくない副作用の減少につながる。
【0018】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、1種以上のコリンキナーゼ阻害剤を含んでなる第1の成分と、1種以上の酸性セラミダーゼ阻害剤を含んでなる第2の成分を、個別にまたは共に含んでなる組成物(以下、本発明の第1の組成物という)を提供する。
【0019】
「組成物」という用語は、本発明の代替的態様に係る種々の組み合わせにおいて、1種類以上の化合物を意味する。好ましくは、前記組成物は、少なくとも1種類の酸性セラミダーゼ阻害剤および少なくとも1種のChoK阻害剤を含んでなる。
【0020】
ここで使用されるコリンキナーゼは、ホスホリルコリン(PCho)生成のために、ATP存在下でコリンのリン酸化を触媒する酵素を意味する(EC 2.7.1.32)。本発明によれば、阻害可能なコリンキナーゼとしては、例えば、コリンキナーゼα等がある(UniProtにおいて、ヒト、マウスおよびラットの各タンパク質を、Accession No.P35790,054804およびQOl134によって規定)。
【0021】
ここで使用される酸性セラミダーゼ(N−アシルスフィンゴシン デアシラーゼ活性、EC 3.5.1.23)は、リソソーム内におけるセラミドのスフィンゴシンおよび遊離脂肪酸への分解に関与する脂質加水分解酵素である。細胞には、少なくとも3種類のセラミダーゼが含まれている。これらのセラミダーゼは、活性および場所毎にその至適pHに応じて(Li CM. et al., Genomics, 1999, 62:223-31)、酸性セラミダーゼ(ASAH1、NM_177924.3またはQ13510)、中性セラミダーゼ(ASAH2,NM O 19893またはQ9NR71)ならびにアルカリ性セラミダーゼ(ASAH3,NM_133492,Q8TDN7またはQ5QJU3)に分類される。第2の酸性セラミダーゼ(酸性セラミダーゼ様またはASAHLとして公知である)ポリペプチドについての記述もある(UniProt Accession No.Q02083)。本発明で使用する阻害剤は、少なくとも酸性セラミダーゼおよび/または酸性セラミダーゼ様タンパク質を阻害するものである。これは、その他の2種類のセラミダーゼはいずれも、ChoK阻害剤耐性細胞における発現が有意に増加するためである。
【0022】
酸性セラミダーゼ活性は、幾つかの種類のヒト癌において異常に発現する。この酵素は、癌における新たな標的として有用かもしれないし、また、抗腫瘍形成治療耐性に関与している可能性がある(Seelan RS., Genes Chromosomes Cancer. 2000, 29:137-46; Liu X., Front Biosci. 2008;13:2293-8 and Morales A., Oncogene. 2007, 26:905-16)。
【0023】
コリンキナーゼ阻害剤
ここで使用されるコリンキナーゼ阻害剤としては、Chok活性を低下させることが可能な何らかの化合物に関連し、例えば、当該酵素の活性を低下させるChok阻害化合物に加え、ChoK遺伝子の発現を妨げ、ChoK mRNAまたはタンパク質のレベルを低減する化合物等がある。
【0024】
一つの好ましい態様によれば、コリンキナーゼ阻害剤は、コリンキナーゼα特異である。
【0025】
ChoK mRNAレベルを低減させる化合物は、mRNA発現レベルを定量するための標準的アッセイを用いて同定することができる。例えば、RT−PCR,RNA保護分析、ノーザンブロット法、in situ ハイブリダイゼーション、マイクロアレイ技術等がある。
【0026】
ChoKタンパク質レベルを低減させる化合物は、タンパク質発現レベル定量用の標準的アッセイを用いて同定することができる。例えば、ウエスタンブロット法またはウエスタントランスファー法、ELISA(酵素結合免疫吸着法)、RIA(放射免疫測定法)、competitive EIA(競合型酵素免疫測定法)、DAS−ELISA(二重抗体サンドイッチELISA)、免疫細胞化学的・免疫組織化学的手法、特定の抗体を含むプロテインチップまたはマイクロアレイ使用に基づく手法、ディップスティック等の形態でのコロイド沈殿に基づくアッセイ等がある。
【0027】
コリンキナーゼの生物学的活性に対する阻害能の定量は、コリンキナーゼの活性を測定するために標準的アッセイを用いて検出を行う。例えば、精製・組換えコリンキナーゼまたはコリンキナーゼ中に濃縮された分画の存在下で、ATPにより[14C]標識コリンをリン酸化し、EP1710236記載の標準的分析手法(TLC等)を用いて、該リン酸化コリンの検出を行う方法等がある。
【0028】
化合物がコリンキナーゼα(ChoKα)に特異的である場合、ChoKαに特異的で、緊縮条件下で他のアイソフォーム(ChoKβ等)とハイブリダイズしないChoKプローブを用いてChoKα mRNAのレベル低下を検出するか、またはChoKαに特異的で、他のアイソフォーム(ChoKβ等)と結合しない抗体を用いてChoKαタンパク質のレベル低下を検出することによって同定されることができる。ChoKα mRNAおよびChoKαタンパク質レベルを特異的に定量するための好適な試薬については、国際公開番号WO2006108905に詳細に記載されている。
【0029】
本発明の第1の組成物において使用可能なコリンキナーゼ阻害剤の例を、表1のIからXVIIIに記載する。
【0030】
【表1】
【0031】
酸性セラミダーゼ阻害剤
ここで使用される酸性セラミダーゼ阻害剤としては、酸性セラミダーゼ活性の低下を生じさせることが可能な何らかの化合物に関連し、例えば、酸性セラミダーゼの活性部位に結合して当該酵素の活性を低下させる化合物に加えて、酸性セラミダーゼ遺伝子の発現を妨げ、酸性セラミダーゼmRNAまたはタンパク質のレベルを低減させる化合物等がある。
【0032】
ここで使用される「酸性セラミダーゼ阻害剤」という表現は、酸性セラミダーゼ活性の低下を生じさせることが可能な何らかの化合物に関連し、酸性セラミダーゼの活性部位に結合して当該酵素の活性を低下させる化合物に加えて、酸性セラミダーゼ遺伝子の発現を妨げ、酸性セラミダーゼmRNAまたはタンパク質のレベルを低減させる化合物等が挙げられる。
【0033】
酸性セラミダーゼmRNAのレベルを低減させる化合物の同定には、mRNA発現レベルを定量するための標準的アッセイを用いることができる。例えば、RT−PCR,RNA保護分析、ノーザンブロット法、in situ ハイブリダイゼーション、マイクロアレイ技術等がある。
【0034】
酸性セラミダーゼタンパク質のレベルを低減させる化合物は、タンパク質発現レベル定量用の標準的アッセイを用いて同定することができる。例えば、ウエスタンブロット法またはウエスタントランスファー法、ELISA(酵素結合免疫吸着法)、RIA(放射免疫測定法)、competitive EIA(競合型酵素免疫測定法)、DAS−ELISA(二重抗体サンドイッチELISA)、免疫細胞化学的・免疫組織化学的手法、特定の抗体を含むプロテインチップまたはマイクロアレイ使用に基づく手法、ディップスティック等の形態でのコロイド沈殿に基づくアッセイ等がある。
【0035】
酸性セラミダーゼの酵素活性を低下させる酸性セラミダーゼ阻害剤の同定には標準的アッセイを用いることができ、精製酸性セラミダーゼまたは酸性セラミダーゼ中に濃縮された分画および該酵素の基質を用いて、酸性セラミダーゼの活性を測定する。例えば、ES2233204に記載の方法は、N−(12−(4−ニトロベンゼン−2−オキサ−1,3−ジアゾロ)ドデシル)スフィンゴシン(サー−C12−NBD)の加水分解の阻害に基づいている。
【0036】
本発明の第1の組成物において使用可能な非限定的酸性セラミダーゼ阻害剤または酸性セラミダーゼ様阻害剤の例を、表2のI〜XIIIに記載する。
【0037】
【表2】
【0038】
酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼに対する特異的な阻害抗体
酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼに存在するエピトープに対する抗体は、これらのタンパク質の機能を効果的に遮断する可能性があり、したがって、本発明の組成物の阻害剤として使用することができる。ここで使用される“阻害抗体”とは、酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼの生物学的活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体を意味する。
【0039】
酸性セラミダーゼの生物学的活性に対する阻害能の定量は、標準的アッセイを用いた検出を行い、精製酸性セラミダーゼまたは酸性セラミダーゼ中に濃縮された分画を使用して酸性セラミダーゼ活性を測定する。その方法としては、例えば、スペイン特許ES2233204号に記載されているように、N−(12−(4−ニトロベンゼン−2−オキサ−1,3−ジアゾロ)ドデシル)スフィンゴシン(サー−C12−NBD)の加水分解を阻害する抗体の能力に基づく方法等がある。
【0040】
コリンキナーゼの生物学的活性に対する阻害能の定量は、コリンキナーゼの活性を測定するために標準的アッセイを用いて検出を行う。例えば、精製・組換えコリンキナーゼまたはコリンキナーゼ中に濃縮された分画の存在下で、ATPにより[14C]標識コリンをリン酸化し、欧州特許EP1710236号記載の標準的分析手法(TLC等)を用いて、該リン酸化コリンの検出を行う方法等がある。
【0041】
コリンキナーゼもしくは酸性セラミダーゼに特異的な阻害抗体または断片は、容易に入手可能であるか、または従来の分子生物学的手法によって容易に生成可能である。例えば、酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼ由来の免疫原を用いて、標準プロトコルを使用することによって、抗タンパク質/抗ペプチドの抗血清もしくはモノクローナル抗体を入手することが可能である(参照例:Antibodies: A Laboratory Manual ed. by Harlow and Lane (Cold Spring Harbor Press: 1988))。マウス、ハムスター、ウサギのような哺乳動物は、ペプチド免疫原(抗体反応を誘導できる酸性セラミダーゼ、コリンキナーゼまたはその抗原断片等)で免疫処置されることができる。タンパク質またはペプチドに免疫原性を与える方法は、担体分子への接合または当該分野で公知の他の手法がある。ポリペプチドの免疫原性部分は、アジュバントの存在下で投与されることができる。
【0042】
免疫化の進行は、血漿または血清中の抗体力価を検出することによってモニタリングすることができる。標準的ELISAまたは他の免疫測定法により、抗原としての免疫原を用いて、抗体のレベルを評価することができる。1つの好ましい態様によれば、本発明の組成物の一部を構成する抗体は、酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼ(またはそれに対して少なくとも80%、85%、90%もしくは98%の同一性を有するバリアント)の抗原決定基に対し免疫特異的である。ある態様によれば、免疫特異的な患者抗体は、無脊椎生物(酵母菌等)の酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼ関連プロテインとは実質的に交差反応しない。「実質的に交差反応しない」とは、該抗体が、酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼに対する該抗体の結合親和性よりも、少なくとも1桁小さい、より好ましくは少なくとも2桁小さい、さらにより好ましくは少なくとも3桁小さい、非相同タンパク質に対する結合親和性を有することを意味している。
【0043】
したがって、本発明の抗体は、コリンキナーゼまたは酸性セラミダーゼのエピトープに結合することが可能であるが、エピトープの形成には、典型的には少なくとも6,8,10もしくは12個の連続アミノ酸が必要であり、非連続アミノ酸から成るエピトープは、もっと多く、例えば、少なくとも15,25もしくは50個のアミノ酸が必要になる可能性がある。「本発明の抗体」という用語は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、それら抗体のFabおよび1本鎖Fv(scFv)断片、二重特異性抗体、ヘテロ結合体、ヒトおよびヒト化抗体等を含む。このような抗体は種々の方法で生成されることができる。例えば、ハイブリドーマ培養、細菌または哺乳類細胞の培養による組換え発現、および遺伝子導入動物による組換え発現等がある。また、抗体は、繊維状ファージ、細菌、酵母菌またはリボソーム等の表示系で発現した配列からなるライブラリーから配列を選択して生成されることができる。特定の生成方法を選択するための文献、例えば、Chadd and Chamow, Curr. Opin. Biotechnol, 12:188-194 (2001)には豊富な案内情報がある。生成方法の選択を左右する幾つかの要因がある。例えば、望ましい抗体構造、抗体における炭水化物部位の重要性、培養および精製の容易さ、ならびにコスト等である。多くの様々な抗体構造は、標準的発現技術を用いて形成することができる。抗体構造には、例えば、全長抗体、FabおよびFv断片等の抗体断片、さらには、異なる種由来の構成部分を含んでなるキメラ抗体等がある。FabおよびFv断片等の、小サイズで、エフェクター機能を持たず限られた薬物動態的活性を有する抗体断片は、細菌発現系での生成が可能である。1本鎖Fv断片は、免疫原性が低く、血液から迅速にクリアランスされる。
【0044】
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であってもよい。このようなポリクローナル抗体は、非ヒト哺乳類等の哺乳類で、例えば、下記のような免疫剤および、好ましくは、アジュバントを一回以上注射して生成することができる。典型的には、免疫剤および/またはアジュバントは、一連の皮下もしくは腹膜内注射により哺乳類に投与される。免疫剤は、コリンキナーゼ、酸性セラミダーゼまたはそれらの断片、それらの融合タンパク質、またはコリンキナーゼもしくは酸性セラミダーゼを発現する細胞等であってよい。このようなタンパク質、断片、または調製物は、適切なアジュバントの存在下で非ヒト哺乳類に導入される。免疫原の別の投与形態は、細胞表面に膜貫通型タンパク質として投与される(例えば、Spiller et al. J. Immunol. Methods, 224: 51-60 (1999)に記載の方法)。これらの細胞は、自然に抗原を発現する細胞であってもよく、または、他のDNA配列のうち抗原をコードする配列、細胞内での十分な発現に必要な配列を含むDNA構築物で細胞のトランスフェクションを行った後に、抗原の発現が得られる細胞であってもよい。こうしたアプローチは、細胞膜が、抗原が発現する天然部位である場合だけではなく、細胞内で一旦合成された抗原であっても、抗原をコードする配列に付加されるシグナルペプチドによって、これらの場所に送られる場合でも可能である。血清中に、もしも好ましくないエピトープに対するポリクローナル抗体が含まれる場合、該ポリクローナル抗体は、免疫親和性クロマトグラフィーによって精製されることができる。
【0045】
あるいはまた、前記抗体はモノクローナル抗体であってもよい。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマで生成されてもよい。その場合、マウス、ハムスター、または他の妥当な宿主動物を免疫剤で免疫化し、該免疫剤に特異的に結合する抗体を生成するもしくは生成可能なリンパ球を誘導する(参照例:Kohler and Milstein, Nature 256:495 (1975))。前記免疫剤としては、典型的には、コリンキナーゼ、酸性セラミダーゼまたはそれらの受容体、断片、もしくは融合タンパク質、および必要に応じて、担体またはコリンキナーゼもしくは酸性セラミダーゼが濃縮された粗タンパク質調製物、または、前記タンパク質のいずれかを発現する細胞等がある。このようなタンパク質、断片または調製物は、適切なアジュバントの存在下で非ヒト哺乳類に導入される。免疫原の別の投与形態は、細胞表面に膜貫通型タンパク質として投与される(例えば、Spiller et al. J. Immunol. Methods, 224: 51-60 (1999)に記載の方法)。これらの細胞は、自然に抗原を発現する細胞であればどの細胞でもよく、または、他のDNA配列のうち抗原をコードする配列、細胞内での十分な発現に必要な配列を含むDNA構築物で細胞のトランスフェクションを行った後に、抗原の発現が得られる細胞ならどのようなものでもよい。こうしたアプローチは、細胞膜が、抗原が発現する天然部位である場合だけではなく、細胞内で一旦合成された抗原であっても、抗原をコードする配列に付加されるシグナルペプチドによって、これらの場所に送られる場合でも可能である。あるいは、リンパ球をin vitroで免疫化してもよい。一般に、もし非ヒト哺乳類ソースが望ましい場合は、脾臓細胞またはリンパ節細胞が用いられ、もしヒト由来の細胞が望ましい場合には、末梢血リンパ球(「PBLs」)が用いられる。これらのリンパ球は、ポリエチレングリコール等の好適な融剤を使用して不死化細胞株と融合されてハイブリドーマ細胞が生成される。一般に、不死化細胞株は、ラット、マウス、ウシまたはヒト由来の骨髄腫細胞である。前記ハイブリドーマ細胞は、好適な培地、好ましくは非融合の不死化細胞の増殖または生存を阻害する一種類以上の物質を含む培地で培養される。クローンは、限界希釈法およびハイブリ
ドーマ細胞を培養する前記培地(上澄み)を用いて単離される。クローンアッセイは、ChoKに対するモノクローナル抗体を得るために、流動細胞分析法、免疫沈降法、または、その他、RIAやELISA等のin vitroでの結合アッセイのような従来手法によって行われることができる。クローンはまた、動物における腹水腫瘍として、in vitroで培養されることができる。
【0046】
好ましくは、ハイブリドーマ細胞のクローンで生成されたモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降、放射免疫測定法(RIA)もしくは酵素結合免疫吸着法(ELISA)等の他のin vitro結合アッセイ、または蛍光顕微鏡もしくは流動細胞分析法等の免疫蛍光法によって定量される。サブクローンで分泌されたモノクローナル抗体は、培地、腹水または血清から、従来の免疫グロブリン精製法、例えば、タンパク質A−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析もしくは親和性クロマトグラフィーによって好適に分離される。
【0047】
モノクローナル抗体はまた、米国特許US4,816,567号記載の方法のような、組換えDNA法によって生成されてもよい。本発明のモノクローナル抗体をコードするDNAは、コリンキナーゼまたは酸性セラミダーゼ受容体特異的ハイブリドーマ細胞から単離され、従来の方法、例えば、ハツカネズミ抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いて配列されることができる。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましいソースとして機能する。一旦単離されたDNAは、発現ベクターに挿入されてもよい。そして、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または他の方法では免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄腫細胞等の宿主細胞にトランスフェクトされ、組換え宿主細胞内にモノクローナル抗体を合成する。前記DNAはまた、例えば、相同ヒト配列を、マウス重鎖および軽鎖定常ドメインのコード配列で置換することによって、または、非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全体もしくは一部を、免疫グロブリンコード配列に共有結合させることによって修飾されることができる。非免疫グロブリンポリペプチドは、本発明の抗体の定常ドメインの代わりに置換されるか、または、本発明に係る抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインの代わりに置換されて、キメラ二価抗体を作ることができる。
【0048】
標的分子に反応する特異的抗体または抗体断片を生成するもう一つの方法は、細菌、酵母菌、繊維状ファージ、リボゾームもしくはリボゾームサブユニットおよび他の表示系で発現する免疫グロブリン遺伝子またはその一部をコードする発現ライブラリーをスクリーニングすることである。これらの方法は、通常、健康なドナー、患者、または健康もしくは不健康な動物等の多様なソースから得られた抗体配列または抗体断片配列の大ライブラリーを使用する。これらの配列は、適切な細胞株でクローニングされて発現され、抗原に対するその結合親和性によって選択される。中和、アゴニスト等の望ましい特性を有する抗体または断片を選択するために様々なアプローチの記述がある(Fernandez, Curr. Op. Biotech., 15: 364-373 (2004); Schmidt, Eur. J. Biochem., 268: 1730-1738 (2001))。1つの態様によれば、本発明のハイブリドーマの特性を有する抗体および抗体断片は、メッセンジャーRNAを抽出し、cDNAライブラリーを構築して、抗体分子のセグメントをコードするクローンを選択して、組換え手段により生成することも可能である。
【0049】
抗体はまた、その臨床用途を変えるために設計されてもよい。数多くのアプローチが、分子生物学および遺伝子技術、例えば遺伝学や免疫グロブリン構造の十分な知識等を利用して、臨床その他の用途のために免疫グロブリンの特性を改善する目的で、免疫グロブリン分子の様々な変形を作り出している。それらの幾つかは、使用されるべき種において、該分子の免疫原性を低下させる傾向があり、合成された分子はその種とより相同性のある配列を有している。健康なヒトにおいて非倫理的であると認められる処置を避けつつ、ヒト由来のmAbsを得るために様々な方法が用いられている。他のアプローチでは、例えば、固形腫瘍内の分子の分布を改善するために、分子の重さやサイズを減らしている。別の可能性は、1個以上の標的分子に対する結合ドメイン分子(2重特異抗体、3重特異抗体等)の接合、または、望ましい機能を備えた別の分子、例えば、有毒物質、ホルモン、成長因子、免疫修飾剤(免疫抑制剤もしくは免疫刺激剤)、細胞増殖阻害剤等と抗体もしくは断片の接合である。一般に、合成された分子はすべて、抗原−抗体結合に特徴的な高い特異性および親和性を与える抗体可変ドメインをほぼ1個保持している。このような構造例の幾つかが以下に記載される:
【0050】
キメラ抗体:
幾つかの種(通常、mAbが生成された哺乳類)の抗体由来の可変領域および他の種(キメラ抗体が使用されることになる種)の定常領域とで構成された抗体を意味する。このような構成の目的は、オリジナルのmAbでありながら免疫原性が低く、治療される患者では寛容性が高く、改善された血清半減期を有し、エフェクターの免疫作用機序、例えば、補体、細胞毒性細胞のFc受容体または種特異性を示す免疫グロブリンに対する他の特異的受容体等のために認識され得る抗体を生成するためである。
【0051】
ヒト化抗体:
「ヒト化抗体」とは、非ヒト抗体由来の抗体、典型的にはネズミ抗体であって、親抗体の抗原結合特性を保持しつつヒトでは免疫原性が低い抗体を意味する。この抗体の実現には、可能性として様々な手法がある。例えば、(a)非ヒト可変ドメイン全体をヒト定常領域にグラフトしてキメラ抗体を生成する;(b)非ヒト相補性決定領域(CDRs)のみを、臨界的フレームワーク残基を保持するかまたは保持していないヒトフレームワークならびに定常領域に、グラフトする;および(c)非ヒト可変ドメイン全体の移植ではあるが、表面残基の置換によりヒト様セクションでそれらを「覆う」等の方法がある。非ヒト抗体をヒト化する方法は、当該分野で記述がある。好ましくは、ヒト化抗体は、非ヒトの供給源から導入された1個以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、「移入」残基と呼ばれることが多く、典型的には、「移入」可変ドメインから取られたものである。ヒト化は、本質的に、Winterおよび共同研究者ら(Jones et al., Nature, 321 :522-525 (1986); Reichmann et al., Nature, 332:323-327 (1988); Verhoeyen et al., Science, 239:1534-1536 (1988))の方法に従って、超可変領域配列をヒト抗体の対応する配列の代わりに置換することにより行われることができる。実際のところ、ヒト化抗体は、典型的には、幾つかの超可変領域残基および、もしかすると幾つかのフレームワーク(FR)残基が、齧歯類抗体の類似部位由来の残基によって置換されているヒト抗体である。ヒト化抗体生成において使用される重鎖および軽鎖のヒト可変ドメインの選択は、抗原に対する特異性および親和性を保持する免疫原性を低減するために非常に重要である。所謂「最適な」方法によれば、齧歯類抗体の可変ドメインの配列について、公知のヒト可変ドメイン配列の全ライブラリーがスクリーニングされる。そして、齧歯類の配列に最も近いヒト配列が、ヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として認められる(Suns et al., J. Immunol, 151 :2296 (1993); Chothia et al., J. MoI. Biol, 196:901 (1987))。もう一つの方法は、軽鎖または重鎖の特定サブグループの全ヒト抗体コンセンサス配列から由来する特定フレームワーク領域を用いる。同じフレームワークを、幾つかの異なるヒト化抗体に用いる場合がある(Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992); Presta et al., J. Immunol, 151 :2623 (1993))
【0052】
さらに重要なことは、抗原に対する親和性が高く、他の好都合な生物学的特性を備えたヒト化抗体を生成することである。この目標を実現するため、好ましい方法によれば、親およびヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列および様々なコンセプトのヒト化産物の解析法により、ヒト化抗体が作製される。
【0053】
霊長類化抗体:
ヒト抗体により類似の抗体を作製するこうしたアプローチにおける次の段階は、所謂霊長類化抗体、すなわち、サル(または他の霊長類)の可変重鎖および軽鎖ドメインを含むように構築された組換え抗体、詳細には、カニクイザル抗体であり、ヒト定常ドメイン配列、好ましくは、ヒト免疫グロブリンγ1またはγ4定常ドメイン(もしくはPEバリアント)を含むものである。このような抗体の作製については、Newman et al, Biotechnology, 10:1455-1460 (1992)、米国特許US5658570およびUS6113898に記載されている。これらの抗体は、ヒト抗体に対する高い相同性85%〜98%を示し、ヒトエフェクター機能を発揮し、低免疫原性であるため、ヒト抗原に対し高親和性である可能性が報告されている。組換え抗体生成におけるもう一つの高効率的手段が、Newman, Biotechnology, 10:1455-1460 (1992)によって開示されている。
【0054】
ヒト抗体:
「ヒト抗体」とは、公知の標準的な方法のいずれかによって生成された、全体としてヒト軽鎖および重鎖ならびに定常領域を含む抗体を意味する。
【0055】
ヒト化の代替として、ヒト抗体を作製することができる。例えば、免疫化を行う際、内因性免疫グロブリン産生が行われない状況下でヒト抗体の完全なレパートリーの産生が可能なトランスジェニック動物(マウス等)を作製することが現在では可能である。例えば、キメラマウスおよび生殖細胞系変異マウスにおける抗体重鎖連結領域PH)遺伝子のホモ接合性欠失は、内因性抗体の生成を完全に阻害するという記述がある。そのような生殖細胞系変異マウスに、ヒト生殖系細胞免疫グロブリン遺伝子アレイを移入することによって、免疫化後ヒト抗体が生成される結果となる。例えば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993); Jakobovits et al., Nature, 362:255-258 (1993) を参照されたい。
【0056】
あるいは、ファージディスプレイ法(McCafferty et al., Nature 348:552-553 (1990))を用いて、ドナー由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからヒト抗体および抗体断片をin vitroで生成することができる。この方法によれば、抗体Vドメイン遺伝子が、繊維状バクテリオファージ、例えばM13もしくはfdなどメジャーなまたはマイナーなコートタンパク質遺伝子のいずれかに、インフレームでクローニングされ、ファージ粒子表面に機能性抗体断片としてディスプレイされる。繊維状粒子はファージゲノムの1本鎖DNAコピーを含んでいるため、抗体の機能特性に基づく選択も、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択につながることとなる。したがって、ファージは、B−細胞の特性の幾つかを模倣する。ファージディスプレイは、様々な形態で実施可能である。それらの概説については、例えば、Johnson, Kevin S. and Chiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3:564-571 (1993)を参照されたい。
【0057】
ヒト抗体はまた、in vitroで活性化されたB細胞またはヒト細胞で再構築された免疫系を有するSCIDマウスによって作製されることができる。
【0058】
ヒト抗体が一旦得られると、それをコードするDNA配列が単離されクローニングされて、適切な発現系、すなわち好ましくは、連続して遺伝子発現し、その抗体が単離可能な培地に放出される哺乳類由来細胞株に導入されることができる。
【0059】
抗体断片:
抗体断片は、例えば、Fab、F(ab’)2、Fab’およびscFvのような抗体断片である。抗体断片の生成のために様々な技術が開発されてきている。従来は、これらの断片は、インタクト抗体のタンパク質消化により誘導されていたが、ごく最近では、組換え宿主細胞によって直接生成されることができる。他の複数の態様によれば、選択される抗体は1本鎖Fv(scFv)断片で、さらに単一特異的または二重特異的であってもよい。
【0060】
抗体のパパイン消化により、2つの同一性抗原結合断片が生成される。「Fab」断片と呼ばれものは、その各々が単一の抗原結合部位を有し、残りの「Fc」断片は、その名が、容易に結晶化するその能力を反映している。ペプシン処理をすると、F(ab’)2断片が生成される。この断片は、2つの抗原結合部位を有しており、抗原の架橋がよりいっそう可能である。
【0061】
「Fv」は、最小の抗体断片で、完全な抗原認識および抗原結合部位を含む。この領域は、密接な非共有結合性の会合において1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインの2量体からなる。この構成において、各可変ドメインの3つの超可変領域が相互作用し、VH-VLダイマーの表面に抗原結合部位を規定する。集合的に、その6つの超可変領域が、抗体に対する抗原結合特異性を与える。しかし、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つの超可変領域のみを含んでなるFvの半分)であっても、抗原を認識して結合する能力を有している。ただし、結合部位全体よりも親和性は低い。
【0062】
「Fab」断片も、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第1定常ドメイン(CH1)とを含む。Fab’断片は、抗体のヒンジ領域から数えて1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に、数個の残基が付加されることによりFab断片とは異なっている。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基が少なくとも1つの遊離チオール基を有するFab’を示す、本明細書中での名称である。F(ab’)2抗体断片は、本来、ヒンジシステインをその間に挟んでいる一対のFab’断片として生成されていた。抗体断片の他の化学的カップリングも公知である。
【0063】
「単一鎖Fv」すなわち「scFv」抗体断片は、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含んでなり、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。好ましくは、Fvポリペプチドはさらに、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーを含んでなり、これにより、scFvが抗原結合のための所望の構造を形成することが可能になる。scFvの概説については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer- Verlag, N.Y., pp. 269-315 (1994) を参照されたい。
【0064】
「ディアボディ」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小抗体断片のことで、該断片は、同じポリペプチド鎖内に軽鎖可変ドメイン(VL)に結合された重鎖可変ドメイン(VH)(VH‐VL)を含んでなる。同じ鎖上の2つのドメイン間における対形成を可能にするには短すぎるリンカーを用いて、これらのドメインは、別の鎖の相補ドメインと対合させられ、2つの抗原結合部位が生じる。ディアボディについての十分な詳細は、例えば、欧州特許EP404,097号、国際公開WO93/11161号,およびHollinger et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993) に記載されている。
【0065】
本発明に包含される、ChoKに結合する機能性抗体断片は、それらが由来する完全長抗体の少なくとも1つの結合機能および/または調節機能を保持している。好ましい機能性抗体断片は、それに対応する完全長抗体の抗原抗体機能を保持する(例えば、哺乳類ChoKを結合する能力)。特に好ましい機能性断片は、結合活性、伝達活性、および/または細胞応答の刺激等、哺乳類ChoKに特徴的な機能の1つ以上を阻害する能力を保持する。例えば、1つの態様によれば、機能性断片は、ChoKとそのリガンド1個以上との結合を阻害する、および/または1つ以上の受容体介在性の機能を阻害することができる。
【0066】
2重特異性抗体:
2重特異性抗体は、少なくとも2個以上の異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体である。例えば、2重特異性抗体は、B細胞表面マーカーの2個の異なるエピトープに結合するものがあり、また他の2重特異性抗体は、第1のB細胞表面マーカーに結合し、さらに第2のB細胞表面マーカーに結合するものがある。あるいは、抗B細胞マーカー結合アームが、T細胞受容体分子(例えば、CD2もしくはCD3)等の白血球上のトリガー分子、またはIgGのFc受容体(FcyR),例えば、FcyRI(CD64)、FcyRII(CD32)、FcyRIII(CD16)等に結合するアームと結合して、B細胞に細胞防御機序を集中させることができる。2重特異性抗体はまた、細胞傷害性薬物をB細胞に局在化するために使用されることもできる。これらの抗体は、B細胞マーカー結合アームおよび細胞傷害性薬物(サポリン、抗インターフェロン‐α、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキセートまたは放射性同位体ハプテン等)に結合するアームを有している。2重特異性抗体は、全長抗体または抗体断片(F(ab)2二重特異性抗体等)として作製できる。
【0067】
2重特異性抗体の作製方法は、当該分野において公知である。全長2重特異性抗体の従来の作製方法は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づいており、この場合、その2つの鎖は異なる特異性を有している(Millstein et al, Nature, 305:537-539 (1983))。免疫グロブリン重鎖-軽鎖は無作為な組み合わせのため、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)が、10個の異なる抗体分子からなる潜在能力を備えた混合物を産生する。そのうち1個のみが正確な2重特異性構造を有している。正確な構造の分子の精製は、通常、親和性クロマトグラフィーの工程により行われるが、多少煩わしく生成物収率は低い。類似の方法が、国際公開番号WO93/08829およびTraunecker et al., EMBO J, 10:3655-3659 (1991)で開示されている。別のアプローチによれば、所望の結合特異性(抗体抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインが、免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合される。当該融合は、好ましくは、ヒンジ領域の少なくとも一部、CH2およびCH3領域を含んでなる免疫グロブリン重鎖定常ドメインとの融合である。
【0068】
好ましくは、軽鎖結合に必要な部位を含む第1の重鎖定常ドメイン(CHI)を、上記融合の少なくとも1つに存在させる。免疫グロブリン重鎖融合および、必要に応じて免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAが、別々の発現ベクターに挿入され、好適な宿主生物に同時トランスフェクトされる。これによって、抗体構築に3つのポリペプチド鎖を不均等比率で使用し最適収率が得られる場合、態様によれば、当該3つのポリペプチド断片の相互比率調整がかなり柔軟に行える。しかし、均等な比率での少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が高収率となる場合、またはその比率が格別重要ではない場合は、1つの発現ベクターに2つもしくは3つ全てのポリペプチド鎖のコード配列を挿入することが可能である。
【0069】
二重特異性抗体は、架橋されたまたは「ヘテロコンジュゲート」抗体を含む。例えば、ヘテロコンジュゲートにおける抗体の一方は、アビジンに結合され、他方はビオチンに結合されることができる。このような抗体は、例えば、好ましくない細胞に対する免疫系細胞を標的にするために提案されている。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の簡便な架橋法を用いて作製されることができる。好適な架橋剤は、当該分野で公知となっており、架橋技術の幾つかと共に、米国特許US4,676,980に開示されている。
【0070】
二重特異性抗体を抗体断片から生成する技術も文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は、化学結合を用いて作製されることができる。
【0071】
酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼに特異的なRNA干渉(RNAi)
もう一つの態様によれば、本発明の組成物の一部を構成する酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼの阻害剤は、酸性セラミダーゼおよび/またはコリンキナーゼの発現、または酸性セラミダーゼおよび/またはコリンキナーゼ機能に必要な任意の成分遺伝子の発現をノックダウンさせることが可能なRNAiである。RNAiは、真核細胞に発生する可能性のある、配列特異的な転写後遺伝子発現のプロセスである。一般に、このプロセスは、特定の配列のmRNAの分解を伴う。該mRNA分解は、その配列に相同的な二本鎖RNA(dsRNA)によって誘導される。例えば、特定の一本鎖mRNA(ssmRNA)の配列に相当する長鎖dsRNAの発現が、そのメッセージを不安定にし、それによって、対応する遺伝子の発現の「干渉」となる。したがって、任意の選択遺伝子の抑制が、その遺伝子に対するmRNAの全体または重要部分に相当するdsRNAの導入によって可能になる。長鎖dsRNAが発現すると、最初に、リボヌクレアーゼIIIによる処理で、わずか21〜22個の塩基対からなる、これまでよりも短い長さのdsRNAオリゴヌクレオチドにされるように思われる。したがって、RNAiは、比較的短い相同的なdsRNAsの導入または発現によって実行されることができる。事実、比較的短い相同dsRNAsの使用には、以下で述べるような特定の利点がある可能性がある。
【0072】
RNAiの実行に使用される二本鎖オリゴヌクレオチドは、好ましくは、長さが30塩基対未満で、より好ましくは、約25個、24個、23個、22個、21個、20個,19個,18個または17個のリボ核酸塩基対を含んでなる。場合により、本発明のdsRNAオリゴヌクレオチドは、3’突出末端を含んでいてもよい。例示的な2−ヌクレオチド3’突出末端は、任意のタイプのリボヌクレオチド残基から構成されることが可能であり、2’−デオキシチミジン残基での構成さえ可能である。これにより、RNA合成のコストが低減され、細胞培地中およびトランスフェクトされた細胞内でsiRNAsのヌクレアーゼ耐性を強化できる(Elbashir et al., Nature 411 : 494-8, 2001を参照)。塩基対が50個、75個、100個、またはさらには500個もしくはそれ以上の長さのdsRNAsもまた、本発明のある態様によれば利用可能である。RNAi実行のためのdsRNAの濃度は、例えば、約0.05nM、0.1nM、0.5nM、1.0nM、1.5nM、25nM、または100nMであるが、治療細胞の性質、標的遺伝子および当業者が容易に認識できる他の要因により、他の濃度も使用可能である。例えば、dsRNAsは、化学的に合成されるか、in vitroで、または適切な発現ベクターを使用してin vivoで合成されることができる。例えば、合成RNAは、公知の方法(Expedite RNA phosphoramidites and thymidine phosphoramidite (Proligo, Germany)等)を用いて化学的に合成された21ヌクレオチドRNAを含む。合成オリゴヌクレオチドは、好ましくは、公知の方法(例えば、Elbashir et al., Genes Dev. 15: 188-200, 2001を参照)を用いて脱保護されゲル精製される。比較的長いRNAは、当該分野で公知のプロモーター、例えばT7RNAポリメラーゼプロモーター等から転写されることができる。in vitroプロモーター下流に、両方向に可能な配向で単一のRNA標的が置かれ、その標的の両鎖を転写して、所望の標的配列のdsRNAオリゴヌクレオチドが作製される。上記のRNA種のいずれも、標的核酸、例えば、緊縮条件および/または生理学的条件下で、ヒト酸性セラミダーゼまたはヒトChoKをコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズする核酸等に表される核酸配列の一部を含むように設計される。
【0073】
オリゴヌクレオチドの設計に使用される特異的配列は、標的の発現した遺伝子メッセージに含まれる任意の連続したヌクレオチド配列であってもよい。当該分野で公知のプログラムおよびアルゴリズムを、適切な標的配列の選択に使用することができる。また、最適な配列の選択は、特定の1本鎖核酸配列の二次構造を予測するために設計されたプログラムを使用して、それらの配列の選択が、折り畳みmRNAの露出した一本鎖核酸領域で生じやすいようにさせることで行われてもよい。適切なオリゴヌクレオチドを設計するための方法および組成物は、例えば、米国特許第6,251,588号で知ることができる。その内容は、本明細書中に参照により組み込まれる。メッセンジャーRNA(mRNA)は、一般に、リボヌクレオチド配列内のタンパク質合成の指示情報を含む直鎖分子として考えられている。しかし、研究によって、ほとんどのmRNAには、多くの二次構造および三次構造が存在することが明らかになっている。RNAの二次構造要素は、同じRNA分子の異なる領域間で、ワトソン・クリック型相互作用により大量に形成される。重要な二次構造要素には、分子内の二本鎖領域、ヘアピンループ、二本鎖RNA内のバルジおよびインターナルループ等がある。三重構造要素は、二重構造要素が互いに接触するか、または一本鎖領域と接触してより複雑な三次元構造が生じる場合に形成される。多くの研究者たちが、大量のRNA二重構造の結合エネルギーを測定し、RNAの二次構造予測に使用可能な一連の法則を見出している(例えば、Jaeger et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 7706, 1989; and Turner et al., Annu. Rev. Biophys. Biophys. Chem. 17:167, 1988を参照)。それらの法則は、RNA構造要素の同定、特に、サイレンシングRNAi、リボザイムまたはアンチセンス技術の標的に対するmRNAの好ましいセグメントを表すことが可能な一本鎖RNA領域の同定に役立つ。したがって、mRNA標的の好ましいセグメントが、dsRNAオリゴヌクレオチドを仲介するRNAiの設計、および本発明の適切なリボザイムならびにハンマーヘッド型リボザイム組成物の設計のために同定されることが可能である。
【0074】
幾つかの異なるタイプの分子が、RNAi技術に効果的に利用されている。低分子干渉RNA(siRNA)は、時には短干渉RNAまたはサイレンシングRNAとしても知られており、20〜25個のヌクレオチド長の二本鎖RNA分子の種類であって、生物学的に多様な役割を果たす。最も注目すべきことは、siRNAがRNA干渉(RNAi)経路に関与しており、その経路で特定遺伝子の発現に干渉するという点である。RNAi経路でのその役割に加えて、siRNAは、RNAi関連経路、例えば、抗ウイルス機序またはゲノムのクロマチン構造形成等においても作用する。合成siRNAによる哺乳類細胞へのRNAi誘導能力が証明されている。この発見により、バイオ医学研究および製薬開発におけるsiRNA/RNAiの利用が急増した。
【0075】
マイクロRNA(miRNA)は、遺伝子調節低分子RNA関連の種類であって、典型的には21〜23ヌクレオチド長を有する。miRNAがsiRNAと典型的に異なる点は、miRNAが一本鎖RNA前駆体から処理されたものであり、mRNA標的に対して一部のみが相補的である点である。初期の研究では、miRNAが、細胞質におけるP体での翻訳阻害の段階で、転写後の遺伝子発現調節を行っていることが指摘されている。しかし、miRNAはまた、siRNA同様に、mRNA開裂の誘導も行う場合がある。これは、植物によく見られるが、標的部位がmiRNAに対して典型的に高い相補性を有している。植物のmRNA中の標的部位は、動物において、5’側非翻訳領域、オープンリーディングフレームおよび3’側非翻訳領域に見られることができるが、主たる標的は3’側非翻訳領域である。miRNAは、初期miRNA(pri‐miRNA)の一部としてまず転写される。そして、Droshaおよびそれを助けるPasha/DGCR8により(マイクロプロセッサー複合体)処理されてpre‐miRNAになる。その約75ヌクレオチド長のpre‐miRNAは、次にエクスポーチン‐5によって細胞質に輸送され、そこでダイサーにより、21〜23ヌクレオチドのsiRNA様分子に分解される。時には、pri‐miRNA上に複数のmiRNAが見られる場合がある。
【0076】
低分子ヘアピンRNA(shRNA)は、さらに別のRNAのタイプであり、RNAiを実行するために使われることができる。RNAの配列は、隙間のないヘアピンターンを形成しており、遺伝子発現をサイレンシングするために使用されることが可能である。shRNAは、RNAポリメラーゼIIIによって転写される。
【0077】
現在、低分子干渉RNA(siRNA)および低分子ヘアピンRNA(shRNA)は、遺伝子機能のサイレンシングを目的に、様々な遺伝子のサイレンシングに広く使用されている。多様なソースを用いた既成のshRNAおよびsiRNA遺伝子サイレンシング構築物からなるライブラリー開発のおかげで、特定の遺伝子のサイレンシングのためにRNAiを利用することはいっそう容易になっている。例えば、shRNA関連情報と関連ウェブサイトのデータベースから構成されるRNAi Codexは、公的に利用可能なshRNAリソースのための入り口として開発され、http://codex.cshl.orgでアクセス可能である。RNAi Codexは現在、Hannon‐Elledge shRNAライブラリー由来のデータを保有しており、生物学者にとって優しい遺伝子名の使用により、所望の遺伝子のサイレンシングができるshRNA構築物情報へのアクセスを可能にしている。それは、そのようなデータが入手可能であればだが、各構築物に関して使用者による注釈および出版物を保管するために設計されている。Olson et al. (Nucleic Acids Res. 34(Database issue): D153-D157, 2006, incorporated by reference)は、RNAi Codexの特徴に関し詳細に記載し、そのツール使用を説明している。これらの全情報が、酸性セラミダーゼ、コリンキナーゼもしくは他の所望のタンパク質を標的とする様々なsiRNAまたはshRNAの設計の手助けとして利用されることができる。
【0078】
酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼに特異的なリボザイム
標的mRNA転写物を触媒作用で開裂するために設計されたリボザイム分子も、酸性セラミダーゼおよび/またはコリンキナーゼmRNAの翻訳を妨げるために使用されることができる。したがって、もう一つの態様によれば、本発明の組成物は、mRNA酸性セラミダーゼおよび/またはコリンキナーゼを特異的に対象とするリボザイムを含んでなる。リボザイムは、RNAの特定の開裂を触媒することができる酵素RNA分子である(概説は、Rossi, Current Biology 4: 469-471, 1994を参照)。リボザイム作用の機序は、相補的な標的RNAに対するリボザイムの配列特異的ハイブリダイゼーション、そしてそれに続くヌクレオチド鎖開裂事象に関与する。リボザイム分子の組成物は、好ましくは、標的mRNAに相補的な1つ以上の配列およびmRNA開裂に関連する公知の触媒配列または機能的に等価な配列を含む(例えば、米国特許第5,093,246号を参照。尚、該特許はその全体が参照により本明細書中に組み込まれる)。
【0079】
部位特異的認識配列でmRNAを開裂するリボザイムは、標的mRNAを破壊するために使用されることができるが、ハンマーヘッドリボザイムの使用が好ましい。ハンマーヘッドリボザイムは、mRNAと相補的塩基対を形成する隣接領域により指示された場所でmRNAを開裂する。好ましくは、標的mRNAは、以下の2塩基の配列:5’‐UG‐3’を有する。ハンマーヘッドリボザイムの構築および生成は当該分野において公知であり、より詳細な記載がHaseloff and Gerlach, Nature 334: 585-591, 1988にあり、またPCT出願番号WO89/05852を参照されたい。該PCT出願の内容は、本明細書に参照により組み込まれる。ハンマーヘッドリボザイム配列を、トランスファーRNA(tRNA)等の安定なRNAに組み込んで、in vivoでの開裂効率を向上させることができる(Perriman et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92: 6175-79, 1995; de Feyter, and Gaudron, Methods in Molecular Biology, Vol. 74, Chapter 43, "Expressing Ribozymes in Plants," Edited by Turner, P. C, Humana Press Inc., Totowa, N. J.)。特に、tRNA融合リボザイムのRNAポリメラーゼIII仲介発現は、当該分野で公知である(Kawasaki et al., Nature 393: 284-9, 1998; Kuwabara et al., Nature Biotechnol. 16: 961-5, 1998; and Kuwabara et al., MoI. Cell. 2: 617-27, 1998; Koseki et al., J Virol 73: 1868-77, 1999; Kuwabara et al., Proc Natl Acad Sci USA 96: 1886-91, 1999; Tanabe et al., Nature 406: 473-4, 2000を参照)。所定のCDNA配列内部には、典型的に多数の潜在的ハンマーヘッドリボザイム開裂部位がある。好ましくは、リボザイムは、開裂認識部位が5’末端近くに位置するように構築され、開裂効率を上げて非機能性mRNA転写物の細胞内蓄積を最小限にする。さらには、例えば、形態に長短がある標的のC‐末端アミノ酸ドメインの異なった部分をコードする標的配列に含まれる任意の開裂認識部位を使用すれば、該標的の一方または他方の形態を選択的に標的とすることが可能となり、したがって、標的遺伝子産物の一形態に対して選択的な効果がある。
【0080】
遺伝子を標的とするリボザイムは、2つの領域、すなわち各々少なくとも5個、好ましくは各々6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個の連続ヌクレオチド長の標的mRNAに対して相補的なハイブリッド形成領域を必ず含む。例えば、酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼ遺伝子に見られる配列のmRNA等である。また、リボザイムは、高度に特異的なエンドヌクレアーゼ活性を有する。該活性は、自動触媒的に標的センスmRNAを開裂するものである。本発明は、治療薬の標的候補遺伝子等の標的遺伝子をコードするセンスmRNAにハイブリダイズし、それにより、機能性ポリペプチド生成物合成のための翻訳がそれ以上できないように、該センスmRNAにハイブリダイズしてそれを開裂するリボザイムにまで及ぶ。
【0081】
本発明の組成物に使用されるリボザイムはまた、例えばテトラヒメナ・サーモフィラ(IVS RNAまたはL‐19 IVS RNAとして公知である)に自然発生するような、RNAエンドリボヌクレアーゼ(以下、「Cech‐型リボザイム」という)も含む。これは、Thomas Cech and collaborators (Zaug et al, Science 224:574-578, 1984; Zaug et al., Science 231 : 470-475, 1986; Zaug et al., Nature 324: 429- 433, 1986; University Patents Inc.による国際公開WO88/04300号; Been, et al., Cell 47: 207-216, 1986)によって広範囲に記載がなされている。Cech‐型リボザイムは、標的RNAにハイブリダイズする8塩基対活性部位を有しており、その後に、標的RNAの開裂が起きる。本発明は、標的遺伝子または核酸配列に存在する8塩基対活性部位配列を標的とするこのようなCech‐型リボザイムを包含する。
【0082】
リボザイムは、修飾オリゴヌクレオチド(例えば、安定性向上、ターゲティング等を目的とする)から構成されることが可能であり、in vivoで標的遺伝子を発現する細胞に送達されるべきである。好ましい送達方法は、トランスフェクト細胞が、内因性標的メッセージを破壊して翻訳を阻害するための十分量のリボゾームを産生するように、強力な構成的polIIIまたはpolIIプロモーターの制御下で、リボザイムを「コードする」DNA構築物の使用を含む。アンチセンス分子と異なり、リボザイムは触媒的に働くため、効率のためには、比較的低い細胞内濃度が求められる。
【0083】
ある態様によれば、リボザイムは、RNAによる有効なノックダウンを引き起こすに十分な配列部分を最初に同定することによって設計されてもよい。次に、同じ配列部位がリボザイムに組み込まれてもよい。本発明のこの態様によれば、リボザイムまたはRNAiの遺伝子標的部分は、標的核酸の少なくとも5個、好ましくは6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個またはそれ以上の連続ヌクレオチドの配列と実質的に同じであり、該標的核酸は、例えば、ヒト酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼ配列のいずれかの核酸等である。長い標的RNA鎖では、相当数の標的部位が二次構造または三次構造内に隠れているため、リボザイムに接近することができない(Birikh et al., Eur J Biochem 245: 1-16, 1997)。標的RNAの接近容易性の問題を克服するために、典型的には、コンピューターで作成された二次構造予測を使用し、一本鎖であるか「開いた」形状である可能性が最も大きい標的の同定が行われる(Jaeger et al., Methods Enzymol 183: 281-306, 1989を参照)。
【0084】
他のアプローチは、二次構造予測のための系統的なアプローチを利用するもので、これには、膨大な数のハイブリダイゼーション候補のオリゴヌクレオチド分子の評価が含まれる(Milner et al, Nat Biotechnol 15: 537-41, 1997; and Patzel and Sczakiel, Nat Biotechnol 16: 64-8, 1998を参照)。また、米国特許第6,251,588号(その内容は、参照により本明細書中に組み込まれる)には、標的核酸配列とのハイブリダイゼーションの可能性を予測するため、オリゴヌクレオチドプローブ配列の評価方法が記載されている。本発明の方法は、当該発明のRNAiおよびリボザイム両方の設計において、一本鎖であると予測される標的mRNAの好ましいセグメントを選択するための上記方法の用途、さらに、好ましくは約10〜20個の連続ヌクレオチドを含んでなる、同じかまたは実質的に同一の標的mRNA配列の便宜的用途を提供する。
【0085】
酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼに特異的なアンチセンス核酸
本発明のさらなる様態は、例えば、酸性セラミダーゼおよび/またはコリンキナーゼ核酸の転写および/または翻訳の阻害により、発現を阻害するための単離「アンチセンス」核酸の使用に関する。前記アンチセンス核酸は、従来の塩基対相補性によって、または、例えば、二重螺旋の主要な溝での特異的相互作用を通じてDNAに結合する場合に、潜在的な標的薬剤に結合することができる。一般に、これらの方法は、当該分野で一般に使用される技術の範囲に当てはまり、またオリゴヌクレオチド配列に対する特異的結合に依拠するいかなる方法をも含む。
【0086】
本発明のアンチセンス構築物は、発現プラスミドとして送達されることができる。該プラスミドは、例えば、細胞に転写されると、ChoKポリペプチドまたは酸性セラミダーゼポリペプチドをコードする細胞内mRNAの少なくとも特殊な部分に相補的なRNAを産生する。あるいは、前記アンチセンス構築物は、オリゴヌクレオチドプローブであり、ex vivoで生成される。該プローブは、細胞に導入されると、標的核酸のmRNAおよび/またはゲノム配列とのハイブリダイゼーションによって発現を阻害する。このようなオリゴヌクレオチドプローブは、好ましくは、内因性ヌクレアーゼ、例えばエキソヌクレアーゼおよび/またはエンドヌクレアーゼ等に耐性で、そのためin vivoで安定な修飾オリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドとして使用される核酸分子の例は、DNAのホスホロアミダイト、ホスホチオエートおよびメチルホスホネート類似体である(米国特許第5,176,996号、第5,264,564号および第5,256,775号も参照)。また、アンチセンス治療に役立つオリゴマーを構築するための一般的アプローチが、例えば、Van der Krol et al, BioTechniques 6: 958-976, 1988; and Stein et al., Cancer Res 48: 2659-2668, 1988により概説されている。
【0087】
アンチセンスDNAに関して、例えば、標的遺伝子の−10領域〜+10領域までの間の翻訳開始部位由来のオリゴデオキシリボヌクレオチドが好ましい。アンチセンスアプローチは、標的ポリペプチドをコードするmRNAに相補的なオリゴヌクレオチド(DNAまたはRNA)の設計に関与する。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、mRNAに結合して翻訳を阻害する。完全な相補性は好ましくはあるが、完全である必要はない。二本鎖アンチセンス核酸の場合、したがって、二本鎖DNAの一本鎖が試験されることができ、または3重構造の分析が可能である。ハイブリダイズする能力は、アンチセンス核酸の相補性の程度および該核酸の長さ次第になる。一般に、ハイブリダイズする核酸が長いほど、RNAに対する塩基ミスマッチがより多く含まれる可能性があり、依然として安定な二重鎖(または、場合により3重鎖)を形成する。当業者は、ハイブリダイズされた複合体の融点を測定するための標準的手法を用いて、ミスマッチの許容度を確認することができる。
【0088】
mRNAの5‘’末端、例えば、AUG開始コドンまでおよびそれを含む5’側非翻訳配列に相補的なオリゴヌクレオチドは、翻訳を阻害する上で最も効率的に働く必要がある。しかし、最近、mRNAの3’側非翻訳配列に相補的な配列も同様に、mRNAの翻訳阻害に有効であることが証明されている(Wagner, Nature 372: 333, 1994)。そのため、遺伝子の5’側または3’側非翻訳、非コード領域に相補的なオリゴヌクレオチドをアンチセンスアプローチに使用すれば、mRNAの翻訳を阻害することが可能である。mRNAの5’側非翻訳領域に相補的なオリゴヌクレオチドは、AUG開始コドンの相補体を含むべきである。mRNAコード領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、あまり有能な翻訳阻害剤ではないが、本発明に従って、これも使用されることができる。mRNAの5’側または3’側 非コード領域のどちらにハイブリダイズするように設計されていても、アンチセンス核酸は、少なくとも6個のヌクレオチド長でなければならないが、好ましくは約100個未満、より好ましくは約50、25,17または10個未満のヌクレオチド長を有する。
【0089】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの遺伝子発現阻害能力を定量するため、in vitro研究をまず実施することが好ましい。これらの研究では、オリゴヌクレオチドのアンチセンス遺伝子阻害と非特異的な生物学的効果の区別の目安となる対照群を使うことが好ましい。さらに、これらの研究で、標的RNAまたはタンパク質のレベルと内部対照RNAまたはタンパク質のレベルとを比較することが好ましい。アンチセンスオリゴヌクレオチドを使用して得られた結果は、対照オリゴヌクレオチドを使用して得られた結果と比較されることができる。好ましくは、対照オリゴヌクレオチドが、被験オリゴヌクレオチドとほぼ同じ長さであり、また、対照オリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列が、標的配列への特異的ハイブリダイゼーションを阻害するために必要なだけのアンチセンス配列と異なる。
【0090】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA、RNA、キメラ混合物、誘導体、それらの修飾物、一本鎖または二本鎖のいずれでも可能である。このオリゴヌクレオチドは、例えば、分子の安定性、ハイブリダイゼーション等を改善するために、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格で修飾されることができる。本ヌクレオチドは、ペプチド等の他の付加基(例えば、宿主受容体を標的とするため)、または細胞膜内外の輸送促進物質(例えば、Letsinger et al, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86: 6553-6556, 1989; Lemaitre et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 84: 648-652, 1987; PCT公報WO88/09810を参照)、血液脳関門を通過する輸送の促進物質(例えば、PCT公報WO89/10134を参照)、ハイブリダイゼーション誘導開裂物質(例えば、Krol et al., BioTechniques 6: 958-976, 1988を参照)、または挿入剤(例えば、Zon, Pharm. Res. 5: 539-549, 1988を参照)を含んでいてもよい。この目的のために、該オリゴヌクレオチドは、別の分子、例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘導架橋物質、輸送物質、ハイブリダイゼーション誘導開裂物質等に結合されることができる。
【0091】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、5‐フルオロウラシル、5‐ブロモウラシル、5‐クロロウラシル、5‐ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4‐アセチルシトシン、5‐(カルボキシヒドロキシエチル)ウラシル、5‐カルボキシメチルアミノメチル‐2‐チオウリジン、5‐カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β‐D‐ガラクトシルケウオシン、イノシン、N6‐イソペンチルアデニン、1‐メチルグアニン、1‐メチルイノシン、2,2‐ジメチルグアニン、2‐メチルアデニン、2‐メチルグアニン、3‐メチルシトシン、5‐メチルシトシン、N6‐アデニン、7‐メチルグアニン、5‐メチルアミノメチルウラシル、5‐メトキシアミノメチル‐2‐チオウラシル、β‐D‐マンノシルケオシン、5’‐メトキシカルボキシメチルウラシル、5‐メトキシウラシル、2‐メチルチオ‐N6‐イソペンチルアデニン、ウラシル‐5‐オキシ酢酸(V),ワイブトキソシン、シュードウラシル、ケオシン、2‐チオシトシン、5‐メチル‐2‐チオウラシル、2‐チオウラシル、4‐チオウラシル、5‐メチルウラシル、ウラシル‐5‐オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル‐5‐オキシ酢酸(V),5‐メチル‐2‐チオウラシル、3‐(3‐アミノ‐3‐N‐2‐カルボキシプロピル)ウラシル、(acp)wおよび2,6‐ジアミノプリンからなるが、これらに限定されない群より選択された少なくとも1つの修飾塩基部分も含んでなることができる。
【0092】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アラビノース、2‐フルオロアラビノース、キシルロースおよびヘキソースからなるが、これらに限定されない群より選択された少なくとも1つの修飾糖部分を含んでなることもできる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、中性ペプチド様骨格を含んでいてもよい。このような分子は、ペプチド核酸(PNA)‐オリゴマーと称され、例えば、Perry-O'Keefe et al, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93: 14670, 1996、および in Eglom et al., Nature 365: 566, 1993に記載されている。PNAオリゴマーの利点の1つは、DNAの中性骨格によって、培地のイオン強度とは本質的に無関係に、相補DNAに結合するその能力である。さらにもう一つの態様によれば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ホスホチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホラミドチオエート、ホスホラミデート、ホスホロジアミデート、メチルホスホネート、アルキルホスホトリエステルおよびホルムアセタールまたはこれらの類似体からなる群から選択された少なくとも1つの修飾リン酸骨格を含んでなる。
【0093】
さらにもう一つの態様によれば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、α‐アノマーオリゴヌクレオチドである。α‐アノマーオリゴヌクレオチドは、相補RNAと特異的な二本鎖ハイブリッドを形成し、通常の逆平行配向に反して、それらの鎖は互いに平行である(Gautier et al., Nucl. Acids Res. 15: 6625-6641, 1987)。該オリゴヌクレオチドは、2’‐0‐メチルリボヌクレオチド(Inoue et al., Nucl. Acids Res. 15: 6131-6148, 1987)またはキメラRNA‐DNA類似体(Inoue et al., FEBS Lett. 215: 327-330, 1987)である。
【0094】
標的mRNA配列のコード領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用はできるが、転写非翻訳領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用も可能である。
【0095】
ある例では、内因性mRNA上での翻訳を抑制するために十分な細胞内濃度のアンチセンスを実現することは難しいかもしれない。そのため、1つの好ましいアプローチは、組換えDNA構築物を使用する。該構築物中のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、強力なpolIIIまたはpolIIプロモーターの制御下に置かれる。標的細胞のトランスフェクトションにこのような構築物を使用することにより、内因性の潜在的薬剤標的転写物との相補的塩基対を形成する十分量の一本鎖RNAが転写される結果となり、それによって翻訳が阻害される。例えば、ベクターは、それが細胞に取り込まれてアンチセンスRNAの転写を指示するように導入されることができる。このようなベクターは、望ましいアンチセンスRNAを生成するために転写が可能でありさえすれば、エピゾームの状態か、または染色体に組み込まれてもよい。このようなベクターは、当該分野で標準的な組換えDNA技術手法によって構築されることができる。ベクターは、プラスミド、ウイルスまたは哺乳類細胞における複製および発現に使用される、当該分野で公知の他の物であってよい。アンチセンスRNAをコードする配列の発現は、哺乳類、好ましくはヒト細胞で作用するために当該分野で公知の任意のプロモーターによるものであってよい。このようなプロモーターは、誘導的または構成的なものであってよい。このようなプロモーターとしては以下が挙げられるが、それらに限定されない:SV40初期プロモーター領域(Bernoist and Chambon, Nature 290: 304-310, 1981)、ラウス肉腫ウイルスの長い3’末端反復配列に含まれるプロモーター(Yamamoto et al, Cell 22: 787-797, 1980)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78: 1441-1445, 1981)、メタロチオネイン遺伝子の調節配列(Brinster et al, Nature 296: 39-42, 1982)等である。
【0096】
あるいは、標的遺伝子発現の低減は、遺伝子の調節領域(例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサー)に相補的なデオキシリボヌクレオチド配列を標的にして、体内の標的細胞における遺伝子転写を阻害する三重螺旋構造の形成によって行うことができる(一般的には、Helene, Anticancer Drug Des. 6(6): 569-84, 1991; Helene et al., Ann. N.Y. Acad. Sci., 660: 27-36, 1992; and Maher, Bioassays 14(12): 807-15, 1992を参照)。
【0097】
転写阻害のために、三重螺旋形成に使用される核酸分子は、好ましくは、一本鎖でデオキシリボヌクレオチドから構成される。これらのオリゴヌクレオチドの塩基組成物は、フーグステン型塩基対合則による三重螺旋形成を促進するものでなくてはならない。該塩基対合則は一般に、二本鎖の一方上に相当な長さのプリン又はピリミジンの存在を必要とする。ヌクレオチド配列は、ピリミジンベースであってもよい。この場合は、形成された3重螺旋の3本の会合鎖に亘ってTATおよびCGCのトリプレットが生じることになる。このピリミジン豊富な分子は、二本鎖のうち一方の鎖のプリン豊富な領域において、その鎖に平行配向で相補的な塩基を与える。また、核酸分子は、例えば伸展したG残基を含むプリン豊富なものが選択されてもよい。これらの分子は、GC対に豊富なDNA二本鎖と共に三重螺旋を形成し、そこでは、プリン残基の大多数が標的二本鎖の一本に存在し、三重構造における3本鎖に亘りCGCトリプレットができることになる。
【0098】
あるいは、三重螺旋形成のために標的となり得る潜在的な標的配列は、所謂「スイッチバック」核酸分子の生成により増加させてもよい。スイッチバック分子は、交互に5’‐3’、3’‐5’の形態で合成され、これにより、該分子は、まず二重鎖のうち一方と塩基対になり、次に他方の鎖と塩基対になり、二重鎖の一方上に相当な長さのプリンまたはピリミジンが存在する必要がなくなる。
【0099】
ある態様によれば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、モルフォリノアンチセンスである。モルフォリノは合成分子であり、天然の核酸構造の再設計による産物である。通常、25塩基長で、標準的な核酸塩基対合によりRNAの相補的配列に結合する。構造上、モルフォリノがDNAと異なる点は、モルフォリノが標準的核酸塩基を有する一方で、これらの塩基は、デオキシリボース環の代わりにモルホリン環に結合し、かつリン酸塩の代わりにホスホロジアミデート基で連結される点である。アニオン性リン酸塩が非荷電のホスホロジアミデート基と置換されることで、通常の生理学的pH範囲におけるイオン化が防止されるため、生物または細胞内のモルフォリノは、非荷電分子である。モルフォリノは、キメラオリゴではなく、モルフォリノの全体骨格は、これらの修飾サブユニットから形成されている。モルフォリノは、一本鎖オリゴとして最も一般的に使用されるが、ヘテロ二重鎖モルフォリノと相補鎖DNAとが、カチオン性サイトゾル送達試薬と組み合わせて使用されることができる。
【0100】
多くのアンチセンス構造のタイプ(ホスホロチオエート等)と異なり、モルフォリノは、その標的RNA分子を分解しない。代わりに、モルフォリノは「立体遮断的」に作用し、RNA内の標的配列に結合して、モルフォリノの結合がなければそのRNAと結合する可能性のある分子を単純に妨害する。モルフォリノリゴは、モルファント胚を産生する胎芽、例えばゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル(ゼノパス)、ひよこ、およびウニの卵または胚における特異的なmRNA転写物の役割を調べるために使用されることが多い。適切なサイトゾル送達系を持つため、モルフォリノは細胞培養に有効である。
【0101】
モルフォリノは、メッセンジャーRNA(mRNA)の5’側非翻訳領域に結合して、5’キャップから開始コドンまでのリボソーム開始複合体の形成進行を妨げる。これにより標的転写物のコード領域の翻訳が阻害される(「ノックダウン」遺伝子発現と呼ぶ)。モルフォリノは、タンパク質の発現をノックダウンしてそのノックダウンによりいかに細胞または生物が変化するかがわかる便利な手段である。
【0102】
モルフォリノは、通常、pre‐RNAの一本鎖上のイントロン境界で、スプライシング誘導性のsnRNP複合体がその標的に結合するのを妨げることで、pre‐mRNAの処理工程も阻害することができる。U1(ドナー部位で)またはU2/U5(ポリピリミヂン体およびアクセプター部位で)の結合を妨害することにより、修飾スプライシングを起こすことが可能であり、普通、成熟mRNAからエクソンが除去されることになる。幾つかのスプライシング標的を対象にすることでイントロンの封入が生じる一方、隠れたスプライス部位の活性が部分的封入または排除につながる可能性がある。U11/U12snRNPsの標的も遮断されることができる。スプライシング修飾は、逆転写ポリメラーゼ鎖反応(RT‐PCR)により、好都合にアッセイされることができ、RT‐PCR生成物のゲル電気泳動後に、バンドシフトとして見られる。
【0103】
モルフォリノはまた、miRNA活性、リボゾーム活性、イントロンスプライシングサイレンサーおよびスプライシングエンハンサーの遮断にも使用されている。U2およびU12snRNP機能は、モルフォリノにより阻害されている。タンパク質コード領域内で「不安定な」mRNA配列を標的にしたモルフォリノは、翻訳のフレームシフトを誘導することができる。こうした様々な標的に対するモルフォリノの活性は、モルフォリノが、タンパク質または核酸とmRNAとの相互作用を遮断するための汎用ツールとして使用可能であることを示唆している。
【0104】
酸性セラミダーゼまたはコリンキナーゼに特異的なDNA酵素
本発明のさらなる態様は、酸性セラミダーゼおよび/またはコリンキナーゼ阻害剤がDNA酵素である組成物に関する。DNA酵素は、アンチセンスおよびリボザイム両技術の仕組みの特徴を幾つか組み込む。DNA酵素は、アンチセンスオリゴヌクレオチドとまさに同様に特定の標的核酸配列を認識するが、リボザイムとほぼ同様に、触媒的に働き特異的に標的核酸を開裂させるように設計される。
【0105】
現在、DNA酵素には2つの基本タイプがあり、その両方ともSantoroおよびJoyceにより同定された(例えば、米国特許第6,110,462号を参照)。10‐23DNA酵素は、2本のアームをつないだループ構造を含んでなる。この2本のアームによって、特定の標的核酸配列の認識による特異性が与えられる一方、ループ構造によって、生理学的条件下で触媒作用が引き起こされる。
【0106】
簡単に述べれば、標的核酸を特異的に認識して開裂させる理想的DNA酵素を設計するには、当業者は、最初に特有の標的配列を同定しなくてはならない。これは、アンチセンスオリゴヌクレオチドの概略で示したものと同様のアプローチを用いて実施することができる。好ましくは、固有のまたは実質的に配列は、約18〜22個のヌクレオチドからなるG/Cが豊富な配列である。配列に含まれるG/Cの量が多いと、DNA酵素と標的配列との相互作用を確実に強くする助けになる。
【0107】
DNA酵素の合成では、メッセージを該酵素の標的にする特異的アンチセンス認識配列が、DNA酵素の2本のアームを含んでなり、DNA酵素ループがその2本の特異的アームの間に置かれるように分割される。
【0108】
DNA酵素を生成して投与する方法は、例えば、米国特許第6,110,462号で見出すことができる。同様に、DNAリボザイムをin vitroまたはin vivoで送達する方法は、上記で詳細に概説したような、RNAリボザイム送達方法を含む。また、当業者は、アンチセンスオリゴヌクレオチドと同様に、DNA酵素が、安定性を改善して分解に対する耐性を向上させるため、任意に修飾され得ることを認識するであろう。
【0109】
本発明のアンチセンスRNAおよびDNA、リボゾーム、RNAiおよび三重螺旋分子は、DNAならびにRNA分子を合成するための当該分野に公知の任意の方法により作製されることができる。これらには、例えば固相ホスホアミダイト化学合成等、当該分野で公知のオリゴデオキシリボヌクレオチドおよびオリゴリボヌクレオチドを化学的に合成する技術も含まれる。あるいは、RNA分子は、アンチセンスRNA分子をコードするDNA配列のin vitroおよびin vivo転写により生成されることができる。このようなDNA配列は、T7またはSP6ポリメラーゼプロモーター等の好適なRNAポリメラーゼプロモーターを組み込む多種多様のベクターに組み込まれることができる。あるいは、アンチセンスRNAを構成的にまたは誘導的に合成するアンチセンスcDNA構築物は、使用されるプロモーターに応じて、細胞株に安定的に導入されることができる。さらには、核酸分子に対する様々な公知の修飾が、細胞内の安定性および半減期を向上させる手段として導入されてもよい。可能な修飾としては、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドの隣接配列を該分子の5’および/または3’末端に付加するか、またはオリゴデオキシリボヌクレオチド骨格内部にホスホジエステラーゼ結合よりもむしろホスホロチオエートもしくは2’O‐メチルの使用等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
コリンキナーゼ阻害剤および酸性セラミダーゼ阻害剤の好ましい組み合わせとしては、MN58b(表1のIIの構造)とNOE(表2のVIにある構造)、RSM−932A(表1のIの構造)とNOE,MN58bとD‐NMAPPD(表2のVIIIの構造)、およびRSM‐932AとD‐NMAPPD.
【0111】
Chok阻害剤と化学療法剤との併用
(本発明の第2の組成物)
本発明の発明者らは、驚くべきことに、コリンキナーゼ阻害剤MN58b治療への耐性が、シスプラチン、タキソール、ビレルビンまたはゲムシタビン等の従来の化学療法剤への耐性と相関関係がないことを発見している。
【0112】
これは、ChoK阻害剤耐性の腫瘍(実施例1を参照)およびChoK阻害剤の存在下で増殖を繰り返す周期によって選択された樹立細胞株(本発明の実施例6を参照)の両方で認められている。いかなる理論にも束縛されるつもりはないが、ChoK阻害剤とシスプラチンとの間の非交差耐性は、両剤が異なる機序で作用する事実に起因すると考えられている。この仮説は、異種移植モデルでのin vitroおよびin vivoの両試験(本発明の実施例7を参照)で、ChoK阻害剤とシスプラチンの併用が、その個々の化合物による治療(本発明の実施例7を参照)と比較された場合、腫瘍細胞の増殖抑制において相乗効果を示した事実によって裏付けられている。さらには、本発明の発明者らはまた、コリンキナーゼ阻害剤と5‐フルオロウラシルの併用が、異なる大腸癌細胞株の試験で(実施例9を参照)相乗的抗腫瘍効果を示したことも確認している。
【0113】
したがって、もう一つの態様によれば、本発明は、1種類以上のコリンキナーゼ阻害剤を含んでなる第1の成分と、1種類以上の化学療法剤を含んでなる第2の成分を、個別にまたは共に含んでなる組成物(以下、本発明の第2の組成物)に関する。
【0114】
「組成物」という用語は、本発明の代替的態様に係る様々な組み合わせの1種類以上の化合物を意味する。好ましくは、当該組成物は、ChoK阻害剤および少なくともアルキル化剤を含んでなる。
【0115】
本発明の組成物における使用に好適なChoK阻害剤としては、本発明の第1の組成物の一部を構成するものとして、表1であらかじめ示されたChoK阻害剤のいずれかが挙げられる。1つの好ましい態様によれば、ChoK阻害剤は、Chokαに特異的な阻害剤である。
【0116】
本明細書で使用される「化学療法剤」という用語は、癌細胞の増殖、成長、寿命または転移活性を阻害する化学剤を意味し、以下に限定はされないが、DNAアルキル化剤、代謝拮抗剤、有糸分裂阻害剤、アントラサイクリン、トポイソメラーゼIおよびII阻害剤、ホルモン療法および、EGFR阻害剤セツキシマブ、ゲフィチニブまたはタンパク質チロシンキナーゼ阻害剤イマチニブ等の標的療法が挙げられる。1つの好ましい態様によれば、化学療法剤は、アルキル化剤であり、より詳細には、DNAアルキル化剤または代謝拮抗剤である。
【0117】
本明細書で使用される「アルキル化剤」という表現は、アルキル残基を急速に分化する細胞の遺伝物質に付加して、それにより複製停止および細胞死に導くことのできる化合物を意味する。このような化学物質としては、白金系化合物(platinum-based compound)、窒素マスタード、ニトロソウレア、エチレンイミン誘導体、スルホン酸アルキルおよびトリアゼン、またそれらに限定されないが、メクロレタミン、シクロホスファミド(シトキサンTM)、メルファラン(L‐サルコリシン)、エトポシド、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、セムスチン(メチル‐CCNU)、ストレプトゾシン、クロロゾトシン、ウラシルマスタード、クロルメチン、イホスファミド、クロラムブシル、ピポブロマン、トリエチレンメラミン、トリエチレンチオホスフォルアミン、ブスルファン、プロカルバジン、ダカルバジンおよびテモゾロミド等が挙げられる。
【0118】
1つの態様によれば、アルキル化剤は、白金系化合物である。本発明で使用できる白金系化合物の例としては、シスプラチン、カルボプラチン、イプロプラチン、テトラプラチン、オキサリプラチン、JM118、JM149、JM216、JM335,トランスプラチノ、シス、トランス、シス‐Pt(NH3)(C6H11NH2)(OOCC3H7)2C1、ネダプラチン、マラネート‐1,2‐ジアミノシクロヘキサノプラチン(II)、5‐スルホサリチル酸‐トランス‐(1,2‐ジアミノシクロヘキサン)プラチン(II)(SSP)、ポリ‐[(トランス‐1,2‐ジアミノシクロヘキサン)プラチン]‐カルボキシアミロース(POLY‐PLAT)および4‐ヒドロキシ‐スルホニルフェニルアセテート(トランス‐1,2‐ジアミノシクロヘキサン)プラチノ(II)(SAP)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0119】
本明細書で使用される「代謝拮抗剤」という用語は、広い意味で、正常な代謝を妨害する物質および電子輸送系を阻害してエネルギー豊富な中間体の生成を妨げる物質を意味する。これは、それらの物質が、生きている生物にとって重要な代謝物質(ビタミン、補酵素、アミノ酸ならびに糖等)に構造的または作用機序的に類似しているためである。抗腫瘍活性を有する代謝拮抗剤の例としては、葉酸類似体(メトトレキサート(アメトプテリン)等)、デノプテリン、エダトレキサート、メトトレキサート、ノラトレキシド、ペメトレキセド、ピリトレキシム、プテロプテリン、ラルチトレキセド、トリメトレキサート;ピリミジン類似体(フルオロウラシル(5‐フルオロウラシル:5‐FU(R))、フロキシウリジン(フルオロデ‐オキシウリジン:FudR)、ドキシフルリジンおよびシタラビン(シトシンアラビノシド);プリン類似体(メルカプトプリン(6‐メルカプトプリン:6‐MP)、チオグアニン(6‐チオグアニン:TG)、およびペントスタチン(2’‐デオキシコホルマイシン)等が挙げられるが、これらに限られない。
【0120】
好ましい組み合わせとしては、MN58bとシスプラチン、RSM‐932Aとシスプラチン、MN58bと5‐フルオロウラシル、およびRSM‐932Aと5‐フルオロウラシル等が挙げられる。
これらに限られない。
【0121】
ChoK阻害剤および細胞死受容体リガンドの併用
(本発明の第3の組成物)
本発明の発明者らは、細胞死受容体リガンドおよびChoK阻害剤を個別に使用した治療と比べて、細胞死受容体リガンドおよびChoK阻害剤併用による腫瘍細胞治療が、細胞増殖をより阻害することを明らかにしている。例えば、本発明の実施例8で示されるように、コリンキナーゼ阻害剤RSM−932A(ChoKI)およびTRAILの併用による大腸癌細胞の治療は、各化合物を個別投与して同じ細胞を治療する場合と比べ、細胞傷害性が上昇している。さらに、本発明の実施例8によれば、ChoK阻害剤MN58bおよびTRAILの併用使用により、腫瘍異種移植モデルでの腫瘍成長の阻害が、それらの化合物の各々を別々に使用する場合に見られるよりも改善された結果が示されている。
【0122】
したがって、もう一つの態様によれば、本発明は、1種類以上のChoK阻害剤を含んでなる第1の成分と、1種類以上の細胞死受容体リガンドである第2の成分とを共にまたは個別に含んでなる組成物に関する。
【0123】
本発明の組成物における使用に好適なChoK阻害剤としては、本発明の第1の組成物の一部を構成するものとして、表1であらかじめ示されたChoK阻害剤のいずれかが挙げられる。1つの好ましい態様によれば、ChoK阻害剤は、Chokαに特異的な阻害剤である。
【0124】
本発明の組成物における使用に好適な細胞死受容体リガンドとしては、NGF、CD40L、CD137L/4‐1BBL、TNF‐αCD134L/OX40L、CD27L/CD70、FasL/CD95、CD30L、TNF‐β/LT‐α、LT‐βおよびTRAIL.1つの好ましい態様によれば、TNFファミリー分子はTRAIL、機能的に等価なその誘導体またはその 模倣低分子化合物である。TRAIL(TNF関連アポトーシス誘導リガンド)は、「Apo‐2リガンド」、「Apo‐2L」、「Apo2L」、「Apo2L/TRAIL」および「Apo‐2リガンド/TRAIL」としても知られており、TRAILの同族受容体を発現する細胞のアポトーシスを誘導することができる分子である。TRAILは数年前、サイトカインのTNFファミリーの分子として同定された((Pitti et al., 1996, J.BioLChem., 271 :12687-12690 and US Patent 6,284,236)。完全長のネイティブ配列ヒトTRAILポリペプチドは、アミノ酸281個の長さを有する、配列番号7(UnitProt accession P50591)に示された配列のII型膜貫通タンパク質である。可溶型のTRAILの結晶学的研究により、TNFおよび他の関連タンパク質の構造に類似するホモトリマー構造が明らかになっている。しかし、他のTNFファミリー分子と異なり、TRAILは、その3つのシステイン残基(ホモトリマーの各サブユニットの230番の位置にある)が協調して亜鉛原子の調整を行い、また亜鉛結合がトリマーの安定性および生物学的活性にとって重要であるという独特の構造的特徴を持つことが分かった。本発明は、3つの異なるTRAILアイソフォーム(TRAILα、TRAILβおよびTRAILγ)またはその組み合わせのいずれかの使用を考察する。
【0125】
機能的に等価なTRAILバリアントとしては、可溶性TRAILアイソフォーム類、例えば、国際公開WO08088582号ならびに米国特許US6284236号に記載のTRAILアイソフォーム、または米国特許出願US2002128438号に記載のTRAIL断片類95−281ならびに114−281、Bremer et al (Neoplasia, 2004, 6:636-45)によるscFv:sTRAIL溶解物、米国特許出願US2002061525号に記載の選択的スプライシング型TRAIL、国際公開WO04101608号に記載のTRAIL受容体結合ペプチド、国際公開WO07063301号に記載の19IL、199V、20IL、213W、215Dおよび/または193S TRAIL変異体等のアポトーシス促進受容体に対する特異性が向上したTRAILバリアント類または国際公開WO04001009A号に記載の受容体ファージディスプレイによって選択されるバリアント類、TRAIL同族受容体のTRAIL‐R1(DR4)ならびにTRAIL‐R2(DR5)を標的とするアゴニスト抗体類であるマパツムマブ、レクサツムマブ等、国際公開WO07128231号に記載の抗体類、国際公開WO02094880号に記載の抗体類、国際公開WO06017961号に記載のモノクローナル抗体AD5‐10、国際公開WO05056605号に記載のTRAIL特異的タンデム型ディアボディならびにトリアボディ、国際公開WO9937684号に記載のキメラ抗DR4抗体類、国際公開WO03038043号に記載のアゴニスト抗DR5抗体類、国際公開WO02085946号に記載の二重特異性抗TRAIL受容体抗体類、国際公開WO9832856号に記載の抗DR4特異的抗体類、Park,K.J et al (Cancer Res., 2007, 67:7327-7334) により記載された抗DR2 ScFV、国際公開WO08025516号ならびに国際公開WO04014951号に記載の三量体TRAIL溶解タンパク質、国際公開WO07102690号に記載の十二量体TRAILバリアント類、国際公開WO07145457号に記載のペグ化TRAIL,および米国特許出願US2006153809号、国際公開WO04087930号ならびに米国特許出願US200503
1593号に記載されているようなTRAILをコードするポリヌクレオチドを含んでなるDNAベクター等が挙げられる。
【0126】
アポトーシス促進効果を有するTRAILの低分子模倣体としては、国際公開WO2008094319号に記載の化合物類等が挙げられる。
【0127】
好ましい組み合わせとしては、RSM‐932AとヒトTRAILの細胞外領域(アミノ酸95〜281)およびMN58bとヒトTRAILの細胞外領域(アミノ酸95〜281)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0128】
本発明の製剤
本発明の第1、第2および第3の組成物の一部を構成する化合物としては、そうした化合物のみならず薬学的に許容されるその塩、溶媒和物、プロドラッグ、等が挙げられる。「薬学的に許容される塩、溶媒和物、プロドラッグ」という表現は、任意の薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物、または受容体への投与の場合、本発明に記載の化合物を(直接または間接的に)提供することが可能な他の任意の化合物を意味する。しかし、薬学的に許容されない塩も、薬学的に許容される塩の調製に役立つため本発明の範囲に包含される。塩、プロドラッグおよび誘導体の調製は、当該分野に公知の方法を用いて実施されることができる。
【0129】
例えば、本明細書で提供される化合物の薬学的に許容される塩は、塩基性または酸性の残基を含む原化合物から、従来の化学的方法を用いて合成される。このような塩は一般に、例えば、遊離酸や遊離塩基の形の当該化合物と、化学量論的量の酸性もしくは塩基性水溶液または有機溶媒、または両者の混合溶液とを反応させることによって調製される。DMSO(ジメチルスルホキシド)、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリル等の非水溶性媒体が一般に好ましい。酸付加塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の鉱酸付加塩および酢酸塩、マレイン酸、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸およびp‐トルエンスルホン酸等の有機酸付加塩等が挙げられる。塩基付加塩の例としては、ナトリウム、カリウム、臭化物、カルシウム、アンモニウム、マグネシウム、アルミニウムおよびリチウム塩等の無機塩、エチレンジアミン、エタノールアミン、N,N‐ジアルキレンエタノールアミン、トリエタノールアミン、グルカミンおよび塩基性アミノ酸塩等の有機塩基塩等が挙げられる。
【0130】
特に好ましい誘導体またはプロドラッグは、本発明の化合物を患者に投与した場合(例えば、経口投与化合物を血流によってより容易に吸収させることにより)、それらの生物学的利用能を向上させるもの、または原種に関連して生物学的区分(例えば、脳もしくはリンパ系)における原化合物の放出を促すものである。
【0131】
本発明はまた、当該化合物の少なくとも1つがプロドラッグとして見出される組成物を提供する。「プロドラッグ」という用語は、その最も広い意味で使われており、本発明の化合物にin vivoで変換されるそれらの誘導体等が挙げられる。このような誘導体については、当業者であれば明らかであり、その分子中に存在する官能基に応じて、以下の本発明の化合物の誘導体:エステル、アミノ酸エステル、リン酸エステル、硫酸エステル金属塩、カルバメートおよびアミド等が挙げられるが、これらに限定されない。所定の活性化合物のプロドラッグを製造する方法の例は当業者には公知であり、例えば、Krogsgaard-Larsen et al. "Textbook of Drug design and Discovery" Taylor & Francis (April 2002)で見ることができる。
【0132】
本発明の化合物は、遊離化合物または溶媒和物として結晶形であってもよく、それらの両者とも本発明の範囲内に包含されるものであることが意図されている。溶媒和の方法は、当該分野で一般に知られている。好適な溶媒和物は、薬学的に許容される溶媒和物である。1つの特定の態様によれば、溶媒和物は水和物である。本発明の組成物を形成する化合物としては、C上のキラル中心、すなわち異性体の存在に応じて、多重結合の存在に応じて(例えば、Z、E)、光学異性体を挙げることができる。個々の異性体、光学異性体またはジアステレオ異性体、およびそれらの混合体が、本発明の範囲内に包含される。
【0133】
本発明の様々な化合物のために選択される種々の置換基は、logP値にかなり影響する一連の要因を与える。したがって、ヒドロキシル基は、水素結合ドナーとして作用し、フェノールの場合であっても分子間および分子内結合が確立されることができる。カルボニルまたはカルボキシル基の存在によって、分子内にプロトン受容体基が発生する。ハロゲンの存在は、非常に不完全な炭素を発生させ、生物学的特性をかなり改変する。アミノ基は、分子上に適切な求核基を発生させ、多くの場合、その極性および分極率を著しく改変する。また、さらにアルキル基および/またはアリール基の存在は、分子の親油性を高める。
【0134】
もう一つの態様によれば、本発明は、本発明の第1、第2もしくは第3の組成物を含んでなる医薬組成物、それらの薬学的に許容される塩、誘導体、プロドラッグ、溶媒和物またはそれらの立体異性体と共に、患者に投与されるための薬学的に許容される担体、アジュバントまたはビークルを提供する。ここで使用される「薬学的に許容される担体」という表現は、薬学的に許容される物質、組成物またはビークル、例えば、液体もしくは固形の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒もしくはカプセル封止材等を意味し、体内の1つの臓器もしくは部位から別の臓器もしくは部位に、主剤を運ぶもしくは移動させる働きをする。各担体は、その製剤の他の成分に対して適合性があるという意味で「許容しうる」ものでなくてはならない。薬学的に許容される担体として機能することができる物質の例は、以下のとおりである:(1)乳糖、ブドウ糖、ならびに蔗糖等の糖類;(2)コーンスターチならびにポテトスターチ等のデンプン類;(3)セルロースならびにその誘導体、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロースならびにセルロースアセテート等;(4)粉末トラガント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)ココアバターならびに坐剤ワックス等の賦形剤;(9)ピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、ごま油、オリーブ油、コーン油ならびに大豆油等の油類;(10)プロピレングリコール等のグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ソルトールならびにポリエチレングリコール等のポリオール;(12)オレイン酸エチルならびにラウリン酸エチル等のエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウムならびに水酸化アルミニウム等の緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)発熱性物質除去蒸留水;(17)等張食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝液;および(21)DMSO(ジメチルスルホキシド)ならびにその誘導体等、医薬製剤に使用される他の非毒性適合物質等。
【0135】
医薬組成物は、任意の好適な投与経路、例えば、経口、塗布、経腸または腸管外の経路(皮下、腹腔内、皮内、筋肉内および静脈内経路を含む)によって投与されることができる。
【0136】
経口投与のための好適な剤形には、任意の固形組成(錠剤、トローチ剤、カプセル剤、顆粒剤等)または液状組成(溶液、懸濁液、エマルジョン、シロップ等)等が含まれ、結合剤、例えば糖蜜、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカントゴムもしくはポリビニルピロリドン等;充填剤、例えば乳糖、糖、コーンスターチ、リン酸カルシウム、ソルビトールもしくはグリシン等:錠剤の製剤用の潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム;崩壊剤、例えばデンプン、ポリビニルピロリドン、デンプングリコール酸ナトリウムもしくは微細結晶セルロース等;または薬学的に許容される湿潤剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム等、当該分野で公知となっている従来の賦形剤を含有することができる。
【0137】
固形の経口組成物は、錠剤を混合、充填または調製する従来の方法を用いて調製されることができる。繰り返し混合する作業は、大量の充填剤を使用して、組成物全体に有効成分を分散させるために行うことができる。このような作業は、当該分野では従来的な方法である。錠剤は、例えば湿性または乾燥性の顆粒化によって調製されることができ、場合によっては、通常の薬務でよく知られている方法にしたがってコーティングされることができる。特に、腸溶コーティングはよく知られた方法である。
【0138】
医薬組成物は、好適な個装の剤形になった無菌液、懸濁液または凍結乾燥製剤等、非経口投与用になっているものであってもよい。バルク剤、緩衝剤または界面活性剤等の好適な賦活剤が使用されてもよい。前述の製剤類は、スペイン薬局方、米国薬局方および類似の参考書籍に記載または引用されているような通常の方法を用いて調製されることができる。
【0139】
本発明で使用される化合物または組成物の投与は、静脈内注入、経口剤、腹腔内投与、静脈内投与等の任意の好適な方法で行われることができる。ただ、好ましい投与経路は、患者の状態次第である。経口投与は、患者にとって楽であり、また治療対象の病気が慢性的な特徴を持つものであれば好ましい。
【0140】
本発明の組成物は、それらを治療に適用するため、好ましくは薬学的に許容されるまたは実質的に純粋な形で生成される。言い換えれば、本発明の組成物は、薬学的に許容される賦形剤を除き、かつ通常の投薬レベルで毒性があると思われる物質を含有していない、薬学的に許容される純度を有する。酸性セラミダーゼ阻害剤またはコリンキナーゼ阻害剤の純度は、好ましくは50%を超え、より好ましくは70%を超え、さらに好ましくは90%を超える。1つの態様によれば、当該阻害剤の純度は95%を超える。
【0141】
本発明の組成物において、酸性セラミダーゼ阻害剤、化学療法剤、細胞死受容体リガンドおよびコリンキナーゼ阻害剤の有効治療量は、一般に、他の要因と比べて特に、治療対象となる個人、その個人の病態の重篤度、選択される投与形態等に応じて異なってくる。こうした理由で、本発明で記載される投与量は、当業者にとって指標としてみなされるべきであって、当業者は、あらかじめ記載された変数に従って、投与量を調整しなければならない。その一方、酸性セラミダーゼ阻害剤は、1日一回以上、例えば1日1,2,3または4回、典型的1日用量が1〜200mg/kg(除脂肪体重)/日、好ましくは1〜10mg/kg(除脂肪体重)/日で投与されることができる。同様にして、コリンキナーゼ阻害剤は、1日1回以上、例えば、1日1,2,3または4回、典型的1日用量が1〜200mg/kg(除脂肪体重)/日、好ましくは1〜10mg/kg(除脂肪体重)/日で投与されることができる。
【0142】
本発明に係る組成物は、単一の製剤として処方されることができるが、あるいはまた、同時、並行、個別または連続投与のための調製品として提供されてもよい。
【0143】
本発明において記載される組成物、それらの薬学的に許容される塩、プロドラッグおよび/または溶媒和物、そしてそれらを含有する医薬組成物は、併用療法のために、他の付加的薬剤類と共に使用されることができる。前記付加的薬剤類は、同じ医薬組成物の一部を構成していてもよく、またあるいは、酸性セラミダーゼ阻害剤およびコリンキナーゼ阻害剤または薬学的に許容されるそれらのプロドラッグ、溶媒和物もしくは塩を含んでなる医薬組成物との同時もしくは非同時投与のために、個別の組成物の形態で提供されてもよい。当該他の薬剤は、同時もしくは別々に投与されるために、同じ組成物の一部を構成していてもよく、または個別の組成物として提供されてもよい。
【0144】
本発明の組成物は、当該分野で公知の他の化学療法剤と併用して投与されることができ、例えば以下の化学療法剤がある:
代謝拮抗剤,例えば葉酸類似体、ピリミジン類似体、プリン類似体およびアデノシンデアミナーゼ阻害剤等があり、シタラビン(CYTOSAR‐U)、シトシンアラビノシド、フルオロウラシル(5‐FU)、フロキシウリジン(FudR)、6‐チオグアニン、6‐メルカプトプリン(6‐MP)、ペントスタチン、メトトレキサート、10‐プロパルギル‐5,8‐ジデアザ葉酸(PDDF、CB3717)、5,8‐ジデアザテトラヒドロ葉酸(DDATHF)、ロイコボリン、フルダラビンリン酸、ペントスタチンおよびゲムシタビン等が挙げられるが、これらに限られない;
好適な天然生成物およびそれらの誘導体(ビンカアルカロイド、抗腫瘍抗体、酵素、リンパ球ならびにエピポドフィロトキシン等)、例えばAra‐C,パクリタキシル(タキソール(k)、ドセタキシル(タキソテール)、デオキシコホルマイシン、マイトマイシン‐C、L‐アスパラギナーゼ、アザチオプリン;ブレキナル;アルカロイド類、例えばビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン等;ポドフィロトキシン類、例えばエトポシド、テニポシド等;抗体類、例えばアントラサイクリン、塩酸ダウノルビシン(ダウノマイシン、ルビドマイシン、セルビジン)、イダルビシン、ドキソルビシン、エピルビシンならびにモルフォリノ誘導体等;フェノキシゾンビスシクロペプチド、例えばダクチノマイシン;塩基性糖ペプチド、例えばブレオマイシン;アントラキノン配糖体、例えばプリカマイシン(ミトラマイシン);アントラセンジオン、例えばミトキサントロン;アジリノピロロインドールジオン、例えばマイトマイシン;大環状免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、FK‐506(タクロリムス、プログラフ)、ラパマイシン等が挙げられるが、これらに限定されない。他の抗増殖性・細胞毒性薬剤は、ナベルベン、CPT‐11,アナストロゾール、レトラゾール、カペシタビン、レロキサフィン、シクロホスファミド、イホスファミドおよびドロキサフィン等が挙げられる;
抗増殖活性を有する微小管影響性の薬剤も使用に好適であり、以下のものが挙げられるが、それらに限定されない:アロコルヒチン(NSC 406042)、ハリコンドリンB(NSC 609395)、コルヒチン(NSC 757)、コルヒチン誘導体(NSC 33410等)、ドルスタチン10(NSC 376128)、メイタンシン()、リゾキシン()、パクリタキセル(タキソール)、タキソール誘導体()、デセタキセル()、チオコルヒチン()、トリチルシステイン、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、エポチロンA,エポチロンB、ジスコデルモリド等を含むがこれらに限定されない天然および合成エポチロン;エストラムスチン、ノコダゾール等がある;
チロシンキナーゼ阻害剤、例えばゲフィニチブ、イマチニブ、ソラフェニブ、ダサチニブならびにエルロチニブ等がある;
トポイソメラーゼII阻害剤、例えばトポテカン、イリノテカン、エトポシドならびにテニポシド等のエピポドフィロトキシン等があげられるが、これらに限定されない;
アントラサイクリン(ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン等)がある;
モノクローナル抗体、例えばセツキシマブ、ベバシズマブ、リツキシマブ、アレムツズマブならびにトラスツズマブ等がある。
【0145】
また、本発明の第1および第3の組成物の場合、これらの組成物はさらに、アルキル化剤を含んでなることができる。本発明の第1および第3の組成物に使用するための好適なアルキル化剤には、白金系化合物、例えばカルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、トリプラチン、テトラニトレート、サトラプラチンならびにこれらの併用;ブスルファン等のアルキルスルホン酸、ヘキサメチルメラミン、アルトレタミンまたはチオテパ等のエチレンイミンならびにメチルメラミン、シクロホスファミド、メクロレタミンまたはムスチン等の窒素マスタード、ウラムスチンまたはウラシルマスタード、メルファラン、クロラムブシル、イホスファミド、カルムスチンまたはストレプトゾシン等のニトロソウレア、ダカルバジン等のトリアゼンおよびテモゾロミド等のイミダゾテトラジン等が挙げられる。
【0146】
また、本発明の第1および第2の組成物の場合、これらの組成物はまた、細胞死受容体リガンドを含んでなることができる。好ましくは、前記細胞死受容体リガンドは、NGF、CD40L、CD137L/4‐1BBL、TNF‐α、CD134L/OX40L、CD27L/CD70、FasL/CD95、CD30L、TNF‐β/LT‐α、LT‐βおよびTRAILからなる群から選択される。1つの好ましい態様によれば、TNFファミリー分子は、TAIL,機能的に等価なその誘導体またはその模倣低分子化合物である。TRAIL(TNF関連アポトーシス誘導リガンド)は、「Apo‐2リガンド」「Apo‐2L」「Apo2L」「Apo2L/TRAIL」および「Apo‐2リガンド/TRAIL」としても知られており、TRAIL同族受容体を発現する細胞にアポトーシスを誘導することができる分子である。TRAILは数年前、サイトカインのTNFファミリーの分子として同定された((Pitti et al., 1996, J.BioLChem., 271 :12687-12690 and US Patent 6,284,236)。完全長のネイティブ配列ヒトTRAILポリペプチドは、アミノ酸281個の長さを有するII型膜貫通タンパク質である。TRAILの結晶学的研究により、TNFおよび他の関連タンパク質の構造に類似するホモトリマー構造が明らかになっている。しかし、他のTNFファミリー分子と異なり、TRAILは、その3つのシステイン残基(ホモトリマーの各サブユニットの230番の位置にある)が協調して亜鉛原子の調整を行い、また亜鉛結合がトリマーの安定性および生物学的活性にとって重要であるという独特の構造的特徴を持つことが分かった。本発明は、3つの異なるTRAILアイソフォーム(TRAILα、TRAILβおよびTRAILγ)またはその組み合わせのいずれかの使用を考察する。
【0147】
機能的に等価なTRAILバリアントとしては、可溶性TRAILアイソフォーム類、例えば、国際公開WO08088582号ならびに米国特許US6284236号に記載のTRAILアイソフォーム、または米国特許出願US2002128438号に記載のTRAIL断片類95−281ならびに114−281、Bremer et al (Neoplasia, 2004, 6:636-45)によるscFv:sTRAIL溶解物、米国特許出願US2002061525号に記載の選択的スプライシング型TRAIL、国際公開WO04101608号に記載のTRAIL受容体結合ペプチド、国際公開WO07063301号に記載の19IL、199V、20IL、213W、215Dおよび/または193S TRAIL変異体等のアポトーシス促進受容体に対する特異性が向上したTRAILバリアント類または国際公開WO04001009A号に記載の受容体ファージディスプレイによって選択されるバリアント類、TRAIL同族受容体のTRAIL‐R1(DR4)ならびにTRAIL‐R2(DR5)を標的とするアゴニスト抗体類であるマパツムマブ、レクサツムマブ等、国際公開WO07128231号に記載の抗体類、国際公開WO02094880号に記載の抗体類、国際公開WO06017961号に記載のモノクローナル抗体AD5‐10、国際公開WO05056605号に記載のTRAIL特異的タンデム型ディアボディならびにトリアボディ、国際公開WO9937684号に記載のキメラ抗DR4抗体類、国際公開WO03038043号に記載のアゴニスト抗DR5抗体類、国際公開WO02085946号に記載の二重特異性抗TRAIL受容体抗体類、国際公開WO9832856号に記載の抗DR4特異的抗体類、Park,K.J et al (Cancer Res., 2007, 67:7327-7334) により記載された抗DR2 ScFV、国際公開WO08025516号ならびに国際公開WO04014951号に記載の三量体TRAIL溶解タンパク質、国際公開WO07102690号に記載の十二量体TRAILバリアント類、国際公開WO07145457号に記載のペグ化TRAIL,および米国特許出願US2006153809号、国際公開WO04087930号ならびに米国特許出願US200503
1593号に記載されているようなTRAILをコードするポリヌクレオチドを含んでなるDNAベクター等が挙げられる。
【0148】
アポトーシス促進効果を有するTRAILの低分子模倣体としては、国際公開WO2008094319号に記載の化合物類等が挙げられる。
【0149】
本発明の組成物の治療用途
本発明の組成物は、腫瘍細胞の増殖阻害におけるそれらの相乗効果の点から、医療に用いられることができる。したがって、もう一つの様態で、本発明は、医薬に用いられる本発明の組成物に関する。
【0150】
もう一つの態様によれば、本発明は、癌の治療方法に関し、(i)酸性セラミダーゼ阻害剤およびコリンキナーゼ阻害剤、(ii)コリンキナーゼ阻害剤および化学療法剤、または(iii)コリンキナーゼ阻害剤および細胞死受容体リガンドを含んでなる組成物を患者に投与することを含んでなる、癌の治療のための方法に関する。あるいは、本発明は、癌治療薬の製造に向けた、(i)酸性セラミダーゼ阻害剤およびコリンキナーゼ阻害剤、(ii)コリンキナーゼ阻害剤および化学療法剤、または(iii)コリンキナーゼ阻害剤および細胞死受容体リガンドを含んでなる組成物の使用に関する。あるいは、本発明は、癌の治療用途のための、(i)酸性セラミダーゼ阻害剤およびコリンキナーゼ阻害剤、(ii)コリンキナーゼ阻害剤および化学療法剤、または(iii)コリンキナーゼ阻害剤および細胞死受容体リガンドを含んでなる組成物に関する。
【0151】
本発明はまた、上記に記載の付加的な抗腫瘍薬類を含む本発明の医薬組成物のいずれかの投与を考察する。好ましくは、前記癌は、重鎖疾患、白血病(例えば急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性骨髄単球性白血病、急性前骨髄球性白血病、骨髄異形成症候群、若年性骨髄単球性白血病等)、腫瘍転移、新生物、腫瘍(例えば、聴神経腫瘍、腺癌、副腎皮質癌、肛門癌、血管肉腫、星状細胞腫、基底細胞癌、胆管癌、膀胱癌、脳腫瘍、乳癌、気管支原性癌、腹膜癌、子宮頸部癌、軟骨肉腫、脊索腫、絨毛癌、結腸癌、結直腸癌、頭蓋咽頭腫、嚢胞腺癌、胎生期癌、子宮内膜癌、内皮肉腫、上衣腫、上皮癌、食道癌、ユーイング腫瘍、成人型線維肉腫、消化器癌、尿生殖器癌、膠芽腫、神経膠腫、頭部癌、血管芽腫、肝腫、ホジキン病、腎癌、平滑筋肉腫、粘液様脂肪肉腫、肝癌、肺癌、リンパ管内皮肉腫、リンパ管腫症、リンパ腫、悪性高カルシウム血症、悪性膵臓性インスラノーマ、髄様癌、髄芽腫、メラノーマ、髄膜腫、中皮腫、頸部癌、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、欠突起膠腫、骨原性肉腫、卵巣癌、膵臓癌、乳頭腺癌、乳頭癌、陰茎癌、松果体腫、前癌性皮膚病変、原発性脳腫瘍、原発性マクログロブリン血症、原発性血小板血症、前立腺癌、直腸癌、腎細胞癌、網膜芽細胞腫、唾液腺癌、肉腫、脂腺癌、精上皮腫、小細胞肺癌、扁平上皮細胞癌、胃癌、滑膜性腫瘍、汗腺癌、睾丸腫瘍、甲状腺癌、子宮癌、外陰腺癌、およびウィルムス腫瘍)、または非制御細胞増殖に特徴付けられる何らかの病気もしくは疾患よりなる群から選択される。
【0152】
1つの好ましい態様によれば、前記癌は肺癌である。ここで使われている「肺癌」とは、肺組織に存在する1種類以上の細胞に影響する何らかの腫瘍性変化を意味する。本発明の組成物を使用して治療ができる非限定的種類の肺癌としては、小細胞および非小細胞肺癌、例えば扁平上皮癌、腺癌、大細胞癌ならびに悪性中皮腫等が挙げられる。より好ましい態様によれば、前記肺癌は非小細胞肺癌である。
【0153】
別の好ましい1つの態様によれば、前記癌は、大腸癌または結腸直腸癌である。ここで使われている「結腸直腸癌」という用語は、結腸、直腸および虫垂の腫瘍形成のいずれかのタイプを含有し、早期ならびに後期両方の腺腫および癌腫、さらには遺伝性、家族性または散発性癌を意味する。遺伝性の結腸直腸癌(CRC)には、過誤腫性ポリープ症候群および最も知られた家族性腺腫ポリープ(FAP)等、さらには、遺伝性非ポリープ性結腸直腸癌(HNPCC)またはリンチ症候群Iのような非ポリープ性症候群等、ポリープの存在が含まれる。本発明は、デュークス分類法によるステージA、B、C1、C2およびD、アストラーカラー分類法によるステージA、B1、B2、B3、C1、C2、C3およびD、TNM分類法によるステージTX、TO、Tis、T1、T2、T3、NX、NO、N1、N2、MX、MOおよびM1、さらにはAJCC(米国対癌合同委員会)分類法によるステージ0、I、II、IIIおよびIV等の異なったステージにおける結腸直腸癌の診断を可能にする。
【0154】
本発明に係る組成物は、単一の製剤として処方されることができるが、あるいは、同時、並行、個別または連続の投与のための製剤として提供されてもよい。
【0155】
ChoK阻害剤療法に対する腫瘍細胞感作における酸性セラミダーゼ阻害剤、化学療法剤または細胞死受容体リガンドの使用
本発明の発明者らはまた、コリンキナーゼ阻害剤に対する反応が、酸性セラミダーゼ阻害剤(本発明の実施例6を参照)、化学療法剤(実施例7および9を参照)または細胞死受容体リガンド(実施例8を参照)をあらかじめもしくは同時に投与して治療する場合に高まることも確認している。
【0156】
したがって、もう一つの態様によれば、本発明は、コリンキナーゼ阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性を高める方法に関し、該方法は、酸性セラミダーゼ阻害剤、化学療法剤または細胞死受容体リガンドと併用して前記腫瘍細胞を治療することを含んでなる。さらにもう一つの態様によれば、本発明は、コリンキナーゼ阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性を高めるための酸性セラミダーゼ阻害剤、化学療法剤または細胞死受容体リガンドの使用に関する。
【0157】
ここで使われている「感受性」という用語は、所定のコリンキナーゼ阻害剤に対する細胞の反応を意味し、通常、最小量のコリンキナーゼ阻害剤で腫瘍細胞の増殖が50%阻害されるものとして測定される。したがって、酸性セラミダーゼ、化学療法剤もしくは細胞死受容体リガンドとの併用により、該感受性の上昇、または細胞増殖を50%阻害するために必要な該最小量の低減につながる。
【0158】
コリンキナーゼ阻害剤を用いた療法に対する腫瘍細胞の感作は、酸性セラミダーゼ阻害剤、化学療法剤または細胞死受容体リガンドを同時に投与するか、コリンキナーゼ阻害剤の投与後もしくは投与前に投与して該細胞を治療することによって行うことができる。コリンキナーゼ阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性上昇に使用できる酸性セラミダーゼ阻害剤、化学療法剤および細胞死受容体リガンドとして、本発明の組成物の一部を構成するものとして上述された化合物のいずれかを使用してよい。また、酸性セラミダーゼ阻害剤または細胞死受容体リガンドで感作済みの細胞の治療に使用できるコリンキナーゼ阻害剤は、本質的に、本発明の組成物の成分として上述された阻害剤のいずれかである。
【0159】
ChoK阻害剤耐性の癌患者の同定方法
さらにまた、本発明の発明者らによる発見は、ChoK阻害剤療法に耐性を示す可能性のある癌患者を、該患者の試料中の酸性セラミダーゼレベルを定量することにより同定できる可能性を拓くものである。もし酸性セラミダーゼレベルが基準試料よりも高ければ、患者のChoK阻害剤耐性の可能性を示すことになる。これは、ChoK阻害剤に反応して産生されたアポトーシス促進性セラミダーゼが加水分解され、細胞分裂促進効果を有するスフィンゴシンが生成されるためである。反対に、もし酸性セラミダーゼレベルが、基準試料のレベルより低いかまたは少なくとも高くない場合は、その患者はChoK阻害剤療法に対して好ましい反応を示すことが分かる。
【0160】
したがって、もう一つの形態によれば、本発明は、患者の試料中の酸性セラミダーゼレベルを定量することを含んでなる、ChoK阻害剤療法に耐性の癌患者の同定方法(以下、本発明の第1の方法)に関し、該方法において、前記試料中の酸性セラミダーゼレベルが基準試料よりも高い場合、前記患者はChoK阻害剤耐性であると同定される。
【0161】
本発明の第1の方法を実施するために、研究対象の患者から試料を採取する。ここで使われる「試料」という用語は、該患者から入手可能な何らかの試料に関する。本発明の第1の方法は、生検標本、組織、細胞または液体(血清、唾液、精液、喀痰、脳脊髄液(CSF)、涙、粘液、汗、乳、脳抽出液等)のような、患者由来のいずれかの種類の生物学的試料に適用されることができる。一つの特定の態様によれば、前記試料は、組織試料またはその一部分、好ましくは腫瘍組織試料またはその一部分である。前記試料は、例えば生検等の従来の方法、関連する医療技術分野の当業者に公知の方法によって採取することができる。生検で試料を採取する方法には、細胞塊の総分割(gross apportioning of a mass)、顕微解剖、または他の公知の細胞分離手法等がある。腫瘍細胞はまた、穿刺吸引細胞診で採取されてもよい。試料の保存や扱いを簡素化するために、これらの試料は、ホルマリン固定およびパラフィン包埋されてもよく、または急速冷凍可能な優れた低温培地に浸漬することにより、最初に凍結しその後にOCT化合物等の低温凝固可能な培地に包埋されることができる。
【0162】
患者からの試料採取後、本発明の第1の方法は、酸性セラミダーゼレベルの定量を含んでなる。当業者であれば理解しているように、前記「酸性セラミダーゼレベル」は、酸性セラミダーゼをコードするmRNAのレベルを測定することにより、酸性セラミダーゼのレベルを同定することによって、または酸性セラミダーゼの酵素活性を測定することによって定量されることができる。
【0163】
「発現レベル」がmRNA発現レベル酸性セラミダーゼの測定により定量される場合、生物学的試料には、物理的にもしくは機械で組織または細胞構造を破壊するための処理が施されて、細胞内成分を水性もしくは有機性の溶液に放出させ、さらなる解析のために核酸を調製することができる。核酸は、当業者に公知の方法や市販の方法により試料から抽出される。そして、当該分野で典型的方法のいずれか、例えば、Sambrook, J., et al, 2001, Molecular cloning: a Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, N.Y., Vol. 1-3による手法を用いて、凍結された試料かまたは新しい試料からRNAが抽出される。好ましくは、抽出過程の間、RNAの分解が生じないように考慮する。
【0164】
一つの特定の態様によれば、発現レベルは、ホルマリン固定およびパラフィン包埋された組織試料から採取したmRNAを用いて定量される。mRNAは、保存用の病理学的試料、または最初に脱パラフィンされた生検試料から単離されることができる。脱パラフィンの方法には、例えば、パラフィン化された試料をキシレン等の有機溶媒で洗浄する方法等がある。脱パラフィンされた試料は、低アルコール水溶液で再水和されることができる。好適な低アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノール等が挙げられる。脱パラフィンされた試料は、例えば、濃度が低減されたより低アルコールの溶液で連続洗浄して再水和されてもよい。あるいは、試料の脱パラフィンおよび再水和は同時に行われてもよい。その後に、試料を溶解させて、そこからRNAの抽出が行われる。
【0165】
全ての遺伝子発現プロファイリング技術(RT‐PCR、SAGEまたはTaqMan)が、本発明の前述の態様を実施する上で好適に使用され得るが、遺伝子mRNA発現レベルは、逆転写ポリメラーゼ鎖反応(RT‐PCR)により定量される場合が多い。一つの特定の態様によれば、酸性セラミダーゼmRNAの発現レベルは、定量的PCR、好ましくは、リアルタイムPCRによって定量される。個々の試料または組織マイクロアレイでの検出が可能である。
【0166】
様々な試料中でmRNA発現の値を標準化するために、試験試料における所望のmRNAの発現レベルと対照RNAの発現とを比較することが可能である。ここで使われる「対照RNA」は、非腫瘍原性細胞と比べて、発現レベルが変化しないかまたは限定数の腫瘍細胞においてのみ変化するRNAを意味する。好ましくは、対照RNAは、ハウスキーピング遺伝子に相当するmRNAであり、構造的に発現されるタンパク質をコードして本質的細胞機能を実行する。本発明で使用される好ましいハウスキーピング遺伝子には、β‐2‐マイクログロブリン、ユビキチン、18‐Sリボソームタンパク質、シクロフィリン、GAPDHおよびアクチン等がある。一つの特定の態様によれば、対照RNAはβ‐アクチンmRNAである。ある一つの態様によれば、内因性の対照RNAとしてβ‐アクチンおよび基準として市販の対照RNAを用いて、比較性CT法に従って相対的遺伝子発現定量が計算される。最終結果は、公式:2−(ΔCt試料−ΔCt基準)となる。ここで、基準および試料のΔCTは、ハウスキーピング遺伝子のCT値から標的遺伝子のCT値を引き算することによって決定される。
【0167】
酸性セラミダーゼmRNAのmRNA発現レベルの定量後、本発明の第1の方法は、その発現レベルを基準試料のレベルと比較することを含んでなる。ここで使われる「基準(reference)試料」は、酸性セラミダーゼmRNAの基準レベルを示す試料であることを理解すべきである。例えば、基準試料は、試験対象の患者の腫瘍に類似であるがChoK阻害剤耐性ではない某患者の腫瘍試料であってもよい。あるいは、基準試料として、試験対象の腫瘍と同種類の腫瘍を有する何人かの患者から採取した腫瘍組織試料プールを用いてもよい。あるいは、腫瘍試料の集合体におけるmRNA発現レベルを定量して、個々の値の合計から中間値を決定することも可能である。そして、得られた中間値は、試験対象の試料中のmRNA発現レベルが多いとみなすか否かを判定するための基準値として使われる。
【0168】
被験者間のばらつき(年齢、人種等に関する面)のため、mRNAのレベルの絶対基準値を設定することは、(実際に不可能ではないにしても)非常に困難である。したがって、一つの特定の態様によれば、「高い」または「低い」酸性セラミダーゼmRNAに対する基準値は、酸性セラミダーゼmRNAの発現レベルを得るために健康な被験者(例えば、NSCLCと診断されていない人々)から単離された一群の試料の試験に関わる従来手法を用いて、百分位数(パーセンタイル)の計算により決定される。そして、「高い」レベルとして、好ましくは、酸性セラミダーゼmRNAの発現レベルが、正常集団における50パーセンタイル以上となる試料が指定され、これには、例えば、正常集団で60パーセンタイル以上の発現レベル、正常集団で70パーセンタイル以上の発現レベル、正常集団で80パーセンタイル以上の発現レベル、正常集団で90パーセンタイル以上の発現レベルおよび正常集団で95パーセンタイル以上の発現レベル等が含まれる。
【0169】
あるいは、もう一つの特定の態様によれば、酸性セラミダーゼレベルは、酸性セラミダーゼタンパク質のレベルを測定することにより定量されることができる。当該タンパク質の発現レベルは、ELISA、ウエスタンブロット法または免疫蛍光法等の免疫学的手法によって定量されてもよい。ウエスタンブロット法は、変性状態下でゲル電気泳動によりあらかじめ分離され、細胞膜、一般にはニトロセルロース上に固定化されたタンパク質を、特異的抗体および現像系(化学発光等)を使用したインキュベーションによって検出する手法に基づいている。免疫蛍光法による解析は、発現の分析のために、標的タンパク質に特異的な抗体を使用する必要がある。ELISAは、標的抗原と標識抗体間に形成される共役が、酵素活性を示す複合体の形成になるように、抗原または酵素標識抗体を使用する方法に基づく。それらの要素(抗原または標識抗体)の一方が支持体上に固定されるので、抗体抗原複合体は支持体に固定化され、したがって、酵素により変換される基質を、吸光度測定法または蛍光光度法等によって検出可能な生成物に添加することにより、標的タンパク質を検出することができる。
【0170】
あるいは、酸性セラミダーゼタンパク質発現レベルの定量は、集められた患者の試料が含まれる組織マイクロアレイ(TMA)を構築して、免疫組織化学法によりタンパク質の発現レベルを定量することによって実施できる。免疫染色強度は、その方法の再現性を維持するために、二人の異なる病理学者によって評価され、一定の明確なカットオフ基準を用いて点数化される。食い違いがあれば、同時に再評価することによって解決が可能である。簡単に説明すると、免疫染色の結果は、腫瘍細胞における発現と各マーカーの特異的カットオフ値を考慮しながら、ネガティブ発現(0)vsポジティブ発現、および低発現(1+)vs中程度(+2)ならびに高(3+)発現として記録されることができる。総合的基準として、カットオフ値は、再現性促進のために選択され、また可能であれば、生物学的事象を解釈するために選択された。
【0171】
免疫学的方法を使用する場合、標的タンパク質の量を検出するために、標的タンパク質に高親和性を持って結合することが知られている任意の抗体または試薬を使用することができる。しかし、好ましくは抗体が使用され、例えば、ポリクローナル血清、ハイブリドーマ上澄みもしくはモノクローナル抗体、抗体断片Fv、Fab、Fab’yF(ab’)2、ScFv、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディおよびヒト化抗体が使用される。
【0172】
酸性セラミダーゼレベルの定量に、mRNA発現レベルを測定するのかタンパク質レベルを測定するのかに関わらず、得られた値は、基準試料の値と比較される必要がある。基準試料は、多くの健康な患者から均等量をプールして得られた試料に相当するものであってもよい。この基準試料の値が設定されると、患者由来の腫瘍細胞に発現される該マーカーのレベルを、この中間値と比較することができ、したがって、「低」、「正常」または「高」のレベルを割り当てることが可能となる。基準レベルが由来する試料のコレクションは、好ましくは患者と同年齢の健康な人からの試料で構成される。いずれの場合でも、異なる数の試料を含むことができる。より好ましい一つの態様によれば、試料は、生脳組織の生検試料である。好ましくは、該コレクションは、正確な基準レベルを提供するために十分なものであるべきである。好ましくは、基準レベルを設定するために使われる試料数は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、500以上である。
【0173】
一つの特定の態様によれば、基準値と比較して、少なくとも1.1倍、1.5倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍またはそれ以上の、基準値を超える発現の増加が「高」発現とみなされる。一つの特定の態様によれば、基準値と比較して、少なくとも0.9倍、0.75倍、0.2倍、0.1倍、0.05倍、0.025倍、0.02倍、0.01倍、0.005倍またはそれ以下の、基準値を下回る発現の減少が「低」発現とみなされる。
【0174】
その一方で、タンパク質発現レベルの定量は、集められた被験者試料を含む組織マイクロアレイ(TMA)を構築して、当該分野に公知の免疫組織化学法によりタンパク質の発現レベルを定量することによって実施することができる。
【0175】
もう一つの態様によれば、酸性セラミダーゼレベルの定量は、試験対象の試料中の酸性セラミダーゼ活性を同定することにより行うことができる。酸性セラミダーゼの酵素活性の同定方法は、当業者には多数知られており、上記で詳細に述べられている。
【0176】
癌患者のための個別化治療を選択する方法
本発明の発明者らにより提供された研究成果によって、ChoK阻害剤療法に耐性を示す可能性のある癌患者を、その患者由来の試料中の酸性セラミダーゼの発現レベルに基づいて同定することが可能になっている。したがって、さらにもう一つの態様によれば、本発明は、癌の患者のための個別化治療を選択するための方法(以下、本発明の第2の方法という)に関し、該方法は、前記患者由来の試料中の酸性セラミダーゼのレベルを同定する方法を含んでなり、前記試料中の酸性セラミダーゼの発現レベルが、基準試料よりも高い場合、前記患者は、ChoK阻害剤またはChoK阻害剤および酸性セラミダーゼ阻害剤併用の治療候補者である。
【0177】
本発明の第2の方法の工程は、本質的に、本発明の第1の方法に記載されているとおりであり、患者由来の試料(好ましくは腫瘍試料)中の酸性セラミダーゼレベルの定量を含み、前記レベルが、mRNAレベル、タンパク質レベルまたは酸性セラミダーゼ活性の何れかを前述の方法のいずれかを用いて測定することにより定量されることができる。
【0178】
酸性セラミダーゼのレベルを定量して基準試料と比較した場合、酸性セラミダーゼレベルが基準試料中に認められるレベルよりも高ければ、その患者は、ChoK阻害剤および酸性セラミダーゼ阻害剤併用治療の候補者である。
【0179】
一つの好ましい態様によれば、前記癌は、非小細胞肺癌である。
【0180】
ChoK阻害剤の治療効果を高める化合物の同定方法
本発明の発明者らは、ChoK阻害剤に高い耐性を示す腫瘍細胞が、酸性セラミダーゼレベルが高いことを確認している。したがって、所定の化合物に反応して酸性セラミダーゼが上昇するレベルを測定することにより、該化合物がChoK阻害剤耐性を低減できるかどうかを判定すること、言い換えればこれらの化合物の治療効果を高めることが可能となる。
【0181】
したがって、もう一つの態様によれば、本発明は、癌治療のためのChoK阻害剤の治療効果を高めることができる化合物の同定方法(以下、本発明の第3の方法という)に関し、該方法は、(i)ChoK阻害剤に耐性を示す腫瘍細胞を候補化合物と接触させ、(ii)前記細胞中における酸性セラミダーゼのレベルを定量することを含んでなり、候補化合物による処置後に、前記細胞中の酸性セラミダーゼレベルが処置前よりも低い場合、該候補化合物は、癌治療のためのChoK阻害剤の治療効果を高めることができるとみなされる。
【0182】
本発明の第3の方法は、ChoK阻害剤に耐性を示す腫瘍細胞を候補化合物と接触させることからなる第1の工程を含んでなる。前記接触工程は、ChoK阻害剤耐性細胞によって形成された腫瘍を含む非ヒト動物において、in vivoで実施されることができるか、またはChoK阻害剤に耐性を示す細胞の培養によりin vitroで実施されることができる。
【0183】
本発明の第3の方法をin vitroで実施する場合、ChoK阻害剤に耐性の腫瘍細胞の培養細胞が必要となる。培養細胞は、ChoK阻害剤耐性に基づいてあらかじめ選択されていた腫瘍細胞、ChoK阻害剤の濃度を高めてあらかじめ一回以上選択処理された腫瘍細胞、ChoKの発現レベルが過剰な細胞、またはChoKに特異的なsiRNAを構成的に発現する細胞から採取することができる。もしもChoK阻害剤の濃度を高めて一回以上選択処理をして選ばれた細胞であれば、上記段落で述べたChoK阻害剤のいずれもこの目的に適する。
【0184】
ChoK阻害剤耐性細胞の培地が設定されると、ChoK阻害剤の治療効果を高める効果が測定される候補化合物に対して、培養細胞が接触させられる。本発明によれば、細胞を候補化合物と「接触させる」ことは、DNA構築物を発現する細胞内に当該候補化合物を取り込むいずれかの可能な方法を含む。したがって、候補化合物が低分子量の分子であれば、前記分子を培地に添加すれば十分である。候補化合物が高分子量の分子(例えば、核酸またはタンパク質等の生物学的ポリマー)なら、その分子が細胞内部に接近できるような手段を提供することが必要である。候補分子が核酸の場合、従来のトランスフェクション手段を、当該分野に公知の方法(リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、ポリブレン法、電気穿孔法、顕微注射、リポソームの仲介による融合、リポフェクション、レトロウィルスによる感染および微粒子銃によるトランスフェクション)のいずれかを用いて適用することができる。候補化合物がタンパク質である場合は、細胞を該タンパク質と直接接触させてもよく、または細胞内部に存在する時には転写/翻訳を可能にする要素類に結合される、該タンパク質をコードする核酸と接触させてもよい。あるいは、その細胞を、研究対象のタンパク質のバリアントと接触させることも可能である。該バリアントは、該タンパク質の細胞内部への移動を促進できるペプチド、例えば、HIV‐1 TATタンパク質由来のTatペプチド、キイロショウジョウバエ由来のアンテナペディアホメオドメインタンパク質の第3ヘリックス、単純ヘルペスウィルスのVP22タンパク質およびアルギニンオリゴマー等で修飾されたものである(Lindgren, A. et al, 2000, Trends Pharmacol. Sci, 21 :99-103, Schwarze, S.R. et al., 2000, Trends Pharmacol. Sci., 21 :45-48, Lundberg, M et al., 2003, MoI. Therapy 8:143-150 and Snyder, EX. and Dowdy, S.F., 2004, Pharm. Res. 21 :389-393)。
【0185】
アッセイ対象の化合物は、好ましくは、単離されたものではなく、天然ソース由来のまたは化合物ライブラリーの一部を構成するほぼ複合混合体の一部を構成する。本発明の方法に従ってアッセイされることのできる化合物ライブラリーは、例えば、D−アミノ酸を含んでなるペプチドおよびそのペプチド類似体または非ペプチド結合を含んでなるペプチドを含むペプチドライブラリー、ホスホチオネート型非ホスホジエステル結合の核酸またはペプチド核酸を含む核酸ライブラリー、抗体ライブラリー、炭水化物ライブラリー、低分子量化合物、好ましくは有機分子化合物ライブラリー、ペプチド模倣体等が挙げられるが、これらに限定されない。低分子量の有機化合物ライブラリーを使用する場合、該ライブラリーは、細胞内部により容易に接近可能な化合物を含むように、事前に選択されておくことができる。これらの化合物は、したがって、サイズ、親油性、新水性、水素結合形成能力等の特定パラメーターに基づいて選択されることが可能である。
【0186】
アッセイされる化合物は、あるいは天然ソース由来の抽出物の一部を構成していてもよい。この天然ソースは、任意の環境から採取された動植物ソース、例えば、土地、大気、海洋生物等の抽出物であってもよいが、これらに限定されない。
【0187】
第2の工程で、本発明の方法は、候補化合物で治療された細胞の酸性セラミダーゼレベルを定量することを含んでなる。酸性セラミダーゼレベルをの定量は、前述されたように、前述された生化学的手法のいずれかを用いて、細胞の抽出物におけるmRNAレベル、タンパク質レベルまたは酸性セラミダーゼ活性を測定することによって行うことができる。酸性セラミダーゼレベルの減少を生じさせる化合物は、ChoK阻害剤に対する腫瘍細胞の反応を高める候補化合物として選択されることになる。
【0188】
候補化合物が、ほぼ複合混合体の一部を構成する場合、本発明はさらに、一つまたは複数の工程(iii)を含んでなり、工程(iii)は、前記混合体を断片化して、転写促進活性に関与する混合体の化合物が単離されるまで、様々な回数で本発明の方法の工程(i)、(ii)ならびに(iii)を反復することを含む。混合体に存在する化合物を断片化するための方法としては、クロマトグラフィー(薄層、ガス、ゲルによる分子排除、親和性クロマトグラフィー)、結晶化、蒸留、濾過、沈殿、昇華、抽出、蒸発、遠心分離、質量分析、吸着等が挙げられる。
【0189】
もう一つの態様によれば、本発明に係るスクリーニング法が、ChoK阻害剤耐性の非ヒト動物腫瘍細胞に移植することにより得られた癌の動物モデルを使用してin vivoで実施される。当該細胞は、前述された方法のいずれかを用いて得られる。ChoK阻害剤耐性細胞は、任意の種の非ヒト動物のいずれか、好ましくは哺乳類、より好ましくは霊長類(サル、ヒヒ、チンパンジー等)、齧歯類(マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター等)またはブタに移植されることができる。腫瘍細胞の移植を容易にするため、該動物は、免疫不全動物であってもよい。レシピエント生物に移植されることができる腫瘍細胞としては、循環腫瘍細胞、腫瘍幹細胞、不死化循環腫瘍細胞由来の細胞株、微小転移性腫瘍細胞、不死化微小転移性腫瘍細胞由来の細胞株、固形腫瘍からあらかじめ精製されていた不死化腫瘍細胞由来の細胞株、固形腫瘍由来の原発腫瘍細胞、固形腫瘍から切除された一片の新鮮な腫瘍、原発腫瘍細胞、臨床転移からあらかじめ精製されていた不死化細胞由来の細胞株(PC3細胞株等)およびこれらの任意の組み合わせ等がある。
【0190】
ChoK阻害剤耐性細胞によって形成された腫瘍の動物モデルが得られると、本発明の方法の第1の工程は、前記腫瘍細胞を候補化合物と接触させることを含んでなる。該接触工程は、前記候補化合物が腫瘍細胞に接近するための適切な条件下で、前記候補化合物を動物に投与することにより行われてもよい。試験化合物の投与は、いずれかの好適な経路で、例えば、経口、経皮、静脈内、点滴、筋肉内投与等によって実施されてもよい。
【0191】
腫瘍が候補化合物と接触すると、前記腫瘍細胞内の酸性セラミダーゼの発現レベルが、前述されたようにして、例えば、酸性セラミダーゼmRNAレベル、酸性セラミダーゼタンパク質レベルまたは酸性セラミダーゼ活性を測定することによって定量される。
【0192】
本発明の第3の方法は、候補化合物による治療後の腫瘍細胞内における酸性セラミダーゼレベルを、該治療前に認められたレベルと比較することを含む。ここで用いられる場合、酸性セラミダーゼは、それが少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%すなわち酸性セラミダーゼレベルが検出不可である場合、治療前よりも低いとみなされる。
【0193】
そこで本発明を、以下の方法および実施例により詳細に記載するが、それらの方法および実施例は、単なる例示と解釈されるべきであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0194】
材料および方法
患者
本分析のために使用されたのは、2001〜2004年までの間にNSCLCの外科切除を受け、その後マドリードのLa Paz病院のMedical Oncology divisionによりフォローアップされた、84人の無作為に選択された患者から採取された肺癌組織の標本である。これらの患者には、アジュバント療法は行われなかった。本研究は、病院の治験審査委員会によって承認され、書面によるインフォームドコンセントが全患者から得られた。
【0195】
NSCLC腫瘍の初代培養
NSCLC患者由来の切除組織が分離され(組織分離用篩い‐組織粉砕キット CD1 SIGMA)、得られた細胞が24ウェルプレート(BD Falcon、バイオサイセンス社、米国カルフォルニア州サンホセ)に接種された。細胞は、DDP、タキソール、ビノレルビン、ゲムシタビンの濃度を漸増して(0、0.5、1、5、10および20μM)、10%ウシ胎児血清(FBS:ライフテクノロジーズ社、ニューヨーク州グランドアイランド)を添加したDMEM:12HAM培地(D8437:シグマ社)で、10日間培養された。各ウェル内の最終的に残存する集団が前述されたようなクリスタルバイオレット法により定量化された(Rodriguez- Gonzalez, A. et al, Oncogene, 22:8803-8812)。
【0196】
化合物
MN58bが国際公開WO9805644に記載されており、1,4‐(4‐4’‐ビス‐((4‐(ジメチルアミン)ピリジニウム‐1‐イル)メチル)ジフェニル)ブタンジブロマイドに相当する。RSM‐932Aは、米国特許出願US2007185170号に記載されており、1,1’‐(ビフェニル‐4,4’‐ジルメチレン)ビス[4‐(4‐クロロ‐N‐メチルアニリノ‐)キノリニウム]ジブロマイドに相当する。NOEは、Sugita et al (Biochim.Biphys.Acta, 1975, 398:125-131)による記載があり、N‐オレオイルエタノールアミン(NOE)に相当する。D‐NMAPPDは、3‐エトキシ‐1‐(2‐メチルアミノエチル)‐3‐フェニル‐インドール‐2‐オン(CAS 35922‐06‐6)に相当し、Raisova, M., et al. (FEBS Lett., 2002, 516:47-52) およびSelzner, M. et al. (Cancer Res., 2001, 61 :1233-1240)により記載されている。TRAILは前述されており、ヒトTRAIL(アミノ酸95‐281)細胞外ドメインに相当する。
【0197】
RNAの単離および遺伝子発現解析
選択された生検のRNAが、RNeasy Mini Kit(キアゲン社、ドイツ、ヒルデン)を用いて、製品の指示に従って、マイクロアレイおよびQT‐PCRのために単離された。試料が調製され、アフィメトリクスジーンチップ発現解析(Affymetrix GeneChip Expression Analysis)技術マニュアルに従って、マイクロアレイのハイブリダイゼーションが行われた。Affymetrix U133plus2遺伝子チップとのハイブリダイゼーション(47,000個の転写物を表す54,614個のプローブセット)、染色、洗浄およびスキャニングの工程が、国立バイオテクノロジーセンター(スペイン、マドリード)のゲノム施設で実施された。これは、www.affymetrix.com (アフィメトリクス社、カルフォルニア州サンタクララ)に掲載されている。シグナルLog比(Signal Log Ratio)で、転写物の大きさおよび変化の方向が評価される。使用されたLogスケールは、2を底とする。したがって、1.0のシグナルLog比は、転写レベルの増加が2倍であることを示し、−1.0は、2倍の減少を示す。シグナルLog比が0であれば、変化が無いことを示す。
【0198】
遺伝子は、インジェヌイティー・パスウェイソフト(IPA,インジェヌイティーシステムズ社、www.ingenuity.com)を用いて、生物学的プロセスに従って分類された。耐性と感受性の間で差別的に調節された遺伝子は、インジェヌイティー・パスウェイノーリッジベース(Ingenuity Pathways Knowledge Base)に含まれる情報から発展した世界的分子ネットワークに載せられる。そして、特異的に発現する遺伝子のネットワークは、それらの相関性に基づいてアルゴリズムにより生み出され、最終的に創造されたネットワークが、遺伝子間の分子関係を図解的に表示する。描かれた全ての接続関係は、出版された参考文献、書籍またはIngenuity Pathways Knowledge Baseに保存されている正規の情報で裏付けされている(Sorensen G, BMC Genomics, 2008, 9:114; Kim SY et al, Stat. Methods Med. Res., 2006, 15:3-20)。
【0199】
定量的リアルタイムPCRによるマイクロアレイ解析の検証
RNA1μgを使い、高性能cDNAアーカイブキット(High-Capacity cDNA Archive Kit:アプライド・バイオシステムズ社)を用いてcDNAを生成し、定量的リアルタイムPCRを、ABI PRISM 7700 配列検出システム(アプライド・バイオシステムズ社)を用いて3点測定で実施した。GAPDHおよび18SリボソームmRNAを、内部対照として増幅した。増幅用のプローブとしては、アプライド・バイオシステムズ社製のTaqman Gene Expression Assaysのプローブ(ASAHl : HS00602774 M1 Taqman Probe, ASAH2: HS00184096 M1 Taqman Probe and ASAH3: HS00370322 M1 Taqman Probe, DUT: HS00798995 S1 Taqman Probe, TYMS: HS00426591 M1 Taqman Probe, UPPl : HS00427695 M1 Taqman Probe, RRM2: HS00357247 G1 Taqman Probe)を使用した。各遺伝子の相対的発現の計算には、2‐ΔΔCt法を使用した(Livak KJ., Methods. 2001; 25:402-8)。
【0200】
細胞培養およびChoK阻害剤耐性細胞株の生成
本研究で使用される全細胞株を、温度(37℃)、湿度(95%)および二酸化炭素(5%)の標準条件下で維持した。ヒト初代気管支上皮細胞NHBE(BEC)(CC‐2541、カンブレックス社)を、BEGM(気管支上皮細胞増殖培地)BulletKit(CC‐3170、カンブレックス社)で増殖させた。ヒト初代乳房上皮細胞HMEC(CC−2551、クロネティクス社)を、ブレットキット添加のMEMB培地で増殖させた。上皮非小細胞肺癌細胞株H460ならびにH1299、および小細胞肺癌細胞株H510ならびにH82を、10%ウシ胎児血清(FBS:ライフテクノロジーズ社、ニューヨーク州グランドアイランド)を添加したRPMIで維持した。
【0201】
MN58bおよびRSM‐932Aに対して耐性の細胞株(MN58RおよびRSM‐932A‐Rとして同定)を、各薬剤の濃度を漸増しつつ長時間持続的曝露により生成した。該細胞株の平行対照(H460細胞株)を、該化合物の非存在下で同じ時間培養した。
【0202】
細胞増殖アッセイ
細胞を、6000個/ウェルの密度で96ウェルプレート(BD Falcon,バイオサイエンス社、米国カルフォルニア州サンホセ)に接種し、24時間標準条件下でインキュベートした。次に、異なる濃度のChoK阻害剤(各濃度4つずつ)で細胞を処理し、72時間維持した。各ウェル内に残っている細胞数の定量化を、MTT(3‐(4,5‐ジメチルチアゾール‐2‐イル)‐2,5‐ジフェニルテトラゾリウムブロマイド)法により行った。595nmの吸光度を、VersaMaxマイクロプレートリーダー (モレキュラーデバイス社, 米国カルフォルニア州サニーベイル)で測定する。酸性セラミダーゼ阻害剤への感作のために、NOEに相当するIC50で、細胞を4時間前処理した後、ChoK阻害剤で処理した。NOE(N‐オレオイルエタノールアミン)は、カルバイオケム社製(米国カルフォルニア州ラホラ)を使用した。
【0203】
異種移植およびin vivo腫瘍増殖阻害アッセイ
指定細胞を、接種(106細胞/0.1モル)直前にDMEMで再懸濁し、免疫抑制マウス(nu/nu)に皮下注射した。スペイン政府ガイドラインに従い、標準的ラボ条件下に置いた。腫瘍が平均体積0.1cm3に達した時、マウスを対照群と治療群に無作為化した。抗腫瘍剤(および対照群にはビークル)による治療を以下の指定スケジュールで実施した(腹腔内投与)。腫瘍は、週3回、直径の大(D)・小(d)を測定してモニターし、腫瘍体積は、V=(D*d2)/2で算出した。腫瘍の成長における有意な変化の統計解析を、SPSSソフトv.13.0を使用して算定した。
【0204】
アネキシンVを使用したアポトーシス検出
アポスクリーン・アネキシンV・アポトーシスキット(Aposcreen Annexin V Apoptosis Kit) (サザンバイオテク社)を用いて製造者の手順に従い、フローサイトメトリーにより、細胞死の解析を行った。細胞は、4×105個/ウェルとなるように6ウェルプレートに接種した。24時間後、指定の化合物で処理した。冷やしたPBSで細胞を2回洗って、PBSを除去後、1×106〜1×107個/mLの濃度になるように、冷やしたIX結合バッファーで再懸濁した。これらの細胞の100μlをフローサイトメトリー用の試験管に集め、アネキシンVを10μl加えた。ボルテックスで静かに混和し、氷で15分間インキュベートし、遮光した。洗浄しないで、各試料にIX結合バッファー380μlを加え、次にプロピジウムイオジン10μlを加え、速やかにフローサイトメリーにより細胞解析を行った。
【0205】
FACSによる細胞周期解析
70%エタノールで固定してプロピジウムイオダイド4μg/mLで染色した細胞(IX106)の細胞周期解析を、Beckton Dickinson FACs SCANを用いて実施した。サイトメトリーのデータは、Cell Quest解析プログラム(ベクトンデッキンソン社)およびFlowJoソフトを使用して解析した。
【0206】
細胞内セラミダーゼレベルの定量
細胞を、6ウェルプレートに1×105個/ウェルとなるように接種し、2日間[14C]‐セリンで脂質を標識した。24時間標識培地は交換せずに、細胞を培養した。次に、脂質を抽出して、事前に記載されたプロトコールを用いてTLCにより解析した(van Echten-Deckert, G. (2000) Sphingo lipid extraction and analysis by thin-layer chromatography. Methods Enzymol, 312, 64-79)。脂質抽出に先だって、細胞は−20℃で保たれた。メタノールで細胞をハーベストして脂質を、最終比60:30:6(v/v/v)のクロロホルム‐メタノール‐水で抽出した。有機相をコンセントレーター内でN2フロー下37℃で乾燥させた。試料をクロロホルム‐メタノール(1:1v/v)で再懸濁してTLCプレートに塗布した。クロロホルム‐メタノール‐2Mアンモニウム(60:45:4、v/v/v)の溶媒混合液を用いて脂質を分離させ、インスタントイメージャー(instant imager)により定量化を行った(Pakard, Meriden, CT, USA)。
【0207】
LS‐MSセラミドおよびジヒドロセラミド解析
細胞を、p100プレート1枚につき8×105個の密度で接種し、24時間後、指定の化合物で処理した。次いで、PBS洗浄を行い、短時間トリプシン処理して採取し、細胞のアリコットを取り出してタンパク質の測定を行った。内部標準物質(N−ドデカノイルスフィンゴシン、N‐ドデカノイルグルコシルスフィンゴシンおよびN‐ドデカノイル スフィンゴシルホスホリルコリンを各0.5モル)で強化されたスフィンゴ脂質抽出物を調製して解析した。液体クロマトグラフィー質量分析装置は、ウォーターズ社直交加速型飛行時間質量分析計(Waters LCT Premier mass spectrometer)に接続されたウォーターズ社Aquity UPLCシステム(ウォーターズ社:マサチューセッツ州ミルフォード)からなり、ポジティブ電子噴霧イオン化モードで作動させた。50〜1500Daの完全スキャンスペクトラムが得られ、個々のスペクトルを合計してデータポイント各0.2sが生成された。質量精度と再現性が、ロックスプレー・インターフィアランス(LockSpray interference)を介する独立した標準噴霧を用いて維持された。解析カラムは、Aquity UPLC BEHC8カラム:100mm×2.1mmi.d;1.7μm(ウォーターズ社)を使用した。二つの移動相は、移動相A:meOH/H2O/HCOOH(74:25:1;v/v/v)および移動相B:meOH/HCOOH(99/1;v/v)で、両者とも5mMのギ酸アンモニウムを含んでいた。勾配が計画された―0.0分、80%B;3分、90%B;6分、90%B;15分、99%B;18分、99%B;20分、80%B.フロー速度は、0.3mL min−1であった。カラムは30℃で保たれた。50mDaウィンドウを使用し、各化合物の抽出イオンクロマトグラムを用いて定量化を行った。直線ダイナミックレンジが、標準混合物を注入することにより決定された。化合物のポジティブ同定は、正確な質量測定に基づいていた(エラー<5ppmおよびLC保持時間±2%:標準との比較)。
【0208】
ウェスタンブロッティング法によるタンパク質発現の定量
等量の細胞溶解産物(30μg)のウェスタンブロット解析を、各相当の抗体を用いて行った。タンパク質を電気泳動で分離して、10%SDS‐PAGEゲルに付着させ、ニトロセルロースにトランスフェクトした。ブロットを、T‐TBS中の5%無脂肪ドライミルクで2時間ブロックした。ASAH1の同定は、BDトランスダクション・ラボラトリーズ社(Ref:6123012)から入手したモノクローナル抗体(1:250)を使用して実施した。ローディングコントロールとして、α‐チューブリン(T9026、シグマ社)を使用してブロットのアッセイを行った。カスパーゼ‐3およびPARPの同定には、抗カスパーゼ‐3および抗‐PARP抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社、カルフォルニア州サンタクルーズ)を使用した。
【0209】
組み合わせ指数を用いたアッセイ
上述された細胞増殖MTTアッセイを使用して、ChoK阻害剤との併用におけるシスプラチンの評価を行った。一晩インキュベートした細胞に、様々に異なる濃度のシスプラチンを添加し、3時間インキュベートした。濃度を漸増しながら、ChoK阻害剤を4時間添加した後、新鮮な培地でさらに24時間培養した。相乗作用、加成性または拮抗作用の点で、コンビネーションアッセイの結果を、チョウ・タラレイ(Chou Talalay)の組み合わせ指数アイソボログラム法 (Chou TC. et al, Trends Pharmacol Sci, 1983, 4:450-4)を用いて解析した。CIの範囲は、既に記載されている値で設定される(Chou TC. et al., supra.)。組み合わせ指数(CI)<1は、2剤間の相乗的相互作用を表す。付加的相互作用は、CI=1で表され、CI>1は両剤間の拮抗作用を表す。協調効果は、相互作用CI<1.0としてみなされる。全ての試験は4通り行った。
【0210】
統計学的分析
事象率の相関関係を、ピアソンのカイ二乗統計を用いて測定した。報告された全P値は両側P値であった。統計学的有意性は、P<0.05として定義された。統計学的分析は、SPSSソフトバージョン13.0(社、イリノイ州シカゴ)を使用して行った。
【0211】
実施例1
NSCLC患者におけるMN58bのChoK阻害に対する本質的薬剤耐性
MN58bによるChoKの特異的阻害に対する薬剤耐性の推定される機序を同定するために、我々は、マドリード(スペイン)La Paz病院の非小細胞肺癌(NSCLC)患者84人の臨床前研究を実施した。その目的のため、それらの患者の切除腫瘍由来の初代培養を確立して10日間培養した。細胞は、ChoK特異的阻害剤MN58bの濃度を20μMまで漸増しながら処理された。一つの濃度が、ヒト肺腫瘍から生成された幾つかの腫瘍由来細胞株における7〜50回のIC50を表す(表6参照)。図1に示されるように、本治療に対して様々な反応が認められた。一つは、一連の39個の試料(46.4%)が、MN58bに対して完全に耐性であったが、これは10日目に、薬剤の最大濃度で、ほぼ100%の細胞が生存していたためである。その一方、その他の45個の腫瘍(53.6%)は、MN58bの抗増殖作用に感受性を示した。中でも、15個の試料群は、10日目に該薬剤が低濃度であった場合でも、細胞の生存率はゼロであったため、MN58bに対して高い感受性があるとみなされた(33.3%)。最終的に、30個の試料群(66.7%)が、MN58bに部分的に感受性があると認められ、約50%の細胞が治療終了時に生存していた。
【0212】
また、これらの患者の腫瘍の初代培養細胞も、NSCLCに用いられる従来の治療法で処理された(Belani CP, Lung Cancer. 2005, 50 Suppl 2: S3-8)。したがって、細胞生存率に関して、当該患者の62個の試料がシスプラチンで、同じ62個の試料がタキソールで処理され、これらの試料の52個はゲムシタビンでも処理され、また、39個がビノレルビンで処理された。表3で示されるように、MN58bは、こうした条件下で最も有効な抗癌剤であることがわかった。これは、55.5%が同剤に感受性を示したためであり、次いでシスプラチンが、50%の腫瘍反応性を示した。
【0213】
【表3】
【0214】
さらに、異なる薬剤間における耐性の相関関係を統計学的に分析した。シスプラチン耐性は、タキソール、ビノレルビンおよびゲムシタビンに対する耐性と有意な関連があった。同様の結果は、タキソール耐性の分析でも認められた。また、ビノレルビン耐性は、シスプラチンおよびタキソールへの耐性と関連があり、ゲムシタビン耐性は、タキソール耐性と関連していた。しかし、他のどの化学療法剤への耐性とも反応関連性が見られなかった唯一の薬剤は、MN58bであった(表4)。
【0215】
【表4】
【0216】
以上の結果により、これらの抗腫瘍治療薬のいずれにも反応しないNSCLC患者は、ChoK阻害に基づく治療に対しては効率よく反応する可能性があることが示唆されている。これは、MN58bの耐性メカニズムが、他の4つの試験薬のそれとは異なるためである。その一方で、これらの結果はまた、ChoK阻害に対する特定の化学療法耐性系が存在することも示唆している。
【0217】
実施例2
NSCLCにおけるChoK阻害への薬剤耐性メカニズムの同定
感受性を示した患者由来の、ChoK阻害剤に本質的に耐性を示す腫瘍の遺伝的相違を調査するため、我々は、代表的なNSCLC患者由来の腫瘍の転写的特徴を分析した。アフィメトリックスジーンチップ:ヒトゲノムHG‐U133およびマイクロアレイ2個を使用して、MN58b耐性を示す腫瘍の患者5人の一群と、同剤に高感受性を示す腫瘍の患者5人からなる別の一群とを比較した。このマイクロアレイプラットフォームは、47,000個の転写物を表す54,614個のプローブセットを含む。−2<倍率変化>2(−1<シグナル比>1)の観点では、912個の適格な転写物が、反応性試料との比較で、耐性のある腫瘍試料において有意な差別的調節を示した。差別的に発現した遺伝子の生物学的有意性を解釈するため、インジェヌイティー・パスウェイ解析(IPA:インジェヌイティーシステムズ社)を用いて遺伝子オントロジー解析を行った(Sorensen G., BMC Genomics. 2008, 9:114)。
【0218】
調節が認められた遺伝子間の相互作用をさらに調べたところ、該ソフトによる解析でスコアが20を超えた反応性試料において、差別的に調節された32個のネットワークが見出された。これは、入力データセットおよび遺伝子間の適切な相関性におけるこれらの遺伝子の関連性を示している。上位の経路は、これらのネットワークに関与する遺伝子の主要機能が、細胞周期、細胞死、癌、免疫反応、脂質代謝および薬剤代謝に関連することを示している。
【0219】
マイクロアレイの多数の転写物によるフォールスポジティブの出現率回避のために、我々は、「B」として知られる第2の統計学的解析を使用した。これによって、試験全体の中で差別的発現が統計学的に有意である遺伝子をさらにフィルタリングすることができる(Kim SY., Stat Methods Med Res., 2006, 15:3-20)。この試験では、ヒト試料を使用したため、本解析が非常に限定的なものとなり、(B>0)の評価を満たしているのは50個の遺伝子である。18個の遺伝子は、両解析(2倍の差別発現およびB>0)で一致しており、そのうちの4個は試料において過剰発現し、MN58b耐性であるとみなされ、14個は下方調節された。これらの遺伝子の中で、酸性セラミダーゼ(ASAH1)は、この二つの解析後、耐性試料において有意に上方調節された。
【0220】
実施例3
MN58b耐性腫瘍のNSCLC細胞株における酸性セラミダーゼ発現
上述のように、脂質代謝に関与する酵素の酸性セラミダーゼ(ASAH1)は、MN58b耐性の腫瘍においては、いずれの選択基準によっても有意に過剰発現することが分かった。
【0221】
NSCLCのMN58b耐性細胞株における様々なセラミダーゼの挙動について、マイクロアレイにより詳細に調べた。表5に示されているように、MN58b耐性のNSCLC腫瘍で調節されるセラミダーゼは、酸性セラミダーゼのみである。また、B統計に準じた有意な方法においてではないが、酸性セラミダーゼ様酵素と呼ばれる同定された酵素であり、酸性セラミダーゼと同じ局在化および機能を有すると思われる酵素も、耐性試料において上方調節される(表5)。
【0222】
【表5】
【0223】
マイクロアレイ解析で認められた変化が、ASAH1の実際の変化に相当することを証明するため、この遺伝子に対する特異的taqmanプローブを使用して、定量的リアルタイムPCRを実施し(Applied Biosystems assay Hs00602774_ml)、ネガティブ対照としての中性およびアルカリセラミダーゼ(Applied Biosystems assay Hs00602774_ml)についても同様のプローブを使用した。この目的のため、マイクロアレイ解析用に、耐性および反応性両方の腫瘍試料を5個を使用すると共に、各ケースにおいて新たな一群として付加した5個の患者試料も本解析に使用した。リアルタイムPCRにより、ASAH1は、ASAH2およびASAH3と異なり、耐性腫瘍で差別的に発現されることが明らかになり、マイクロアレイ解析の結果(図2)を裏付けている。これらの結果は、酸性セラミダーゼが、ChoK阻害耐性の腫瘍患者において特異的に上方調節されること、かつChoK阻害耐性のメカニズムに対する提示モデルの基準であることを証明するものである(図3)。したがって、特異的阻害剤(ChoKI)によるChoK活性の阻害は、PChoのレベルの減少を誘導する。その結果、PCho生成の代替経路が活性化され、スフィンゴミエリナーゼ(SMlase)活性が上昇することになる。この酵素は、PChoおよびセラミドの両方を生成する。この後者の代謝物質は、細胞死の強力な誘発因子である。セラミドのe.スフィンゴシンへの変換に関与する酵素の活性が上昇すれば、ChoKI活性に対する耐性が生じる可能性がある。この酵素が酸性セラミダーゼ(ASAH1)である(図3)。
【0224】
実施例4
酸性セラミダーゼの阻害により、ChoK阻害剤に対してNSCLC細胞を感作する
最初に、一連のヒト肺腫瘍細胞株(NSCLC細胞株としてH460ならびにH1299およびSCLC細胞株としてH510ならびにH82)におけるASAH1のレベルを調べた。図4に示されるように、SCLC由来細胞株は、老衰対照BEC細胞と類似する酸性セラミダーゼレベルを示し、NSCLCでのレベルよりもかなり低いレベルとなった。興味深いことに、これらのSCLC細胞株はまた、コリンキナーゼαが高レベルとなり、NSCLC細胞よりもChoK阻害に対する感受性が非常に高いことを示した(表6)。これにより、低レベルの酸性セラミダーゼは、ChoK阻害剤に対するSCLC細胞の非常に高い反応性を少なくとも部分的に示している可能性のあることが示唆されている。
【0225】
【表6】
【0226】
したがって、酸性セラミダーゼレベルを阻害することにより、ChoK阻害剤がこれらの細胞により有効に作用する可能性がある。この仮説を立証するため、我々は、あらかじめ特徴付けた酸性セラミダーゼ阻害剤のN‐オレオイルエタノールアミン(NOE)を使用して(Grijalvo S., Chem Phys Lipids. 2006; 144:69-84)、酸性セラミダーゼの阻害によるChoK阻害剤への腫瘍細胞株の感作について調査した。この目的のため、H460は、酸性セラミダーゼ阻害のためにNOEで3時間前処理された。次いで、ChoKα阻害剤MN58bおよびRSM‐932Aの濃度を漸増させながら細胞を処理し、全細胞集団の50%が影響された濃度(IC50)を同定した。表7に示されるように、酸性セラミダーゼ阻害剤NOEでH460細胞を前処理したことにより、ChoKα阻害に対して細胞が感作された。これらの結果は、酸性セラミダーゼレベルの上昇が、ChoK阻害に対する薬剤耐性のメカニズムを与える可能性があるという我々の仮説と整合している。
【0227】
【表7】
【0228】
これらの結果を証明する目的で、我々は、別の公知の酸性セラミダーゼ阻害剤CAY10466(CAY)(D‐NMAPPD(1R,2R)‐B13;10006305:ケイマンケミカル社)(表2の項目III)およびネガティブ対照としてアルカリ性セラミダーゼ阻害剤D‐エリスロ‐MAPP(DMP)(10165:ケイマンケミカル社)を使用してさらに試験を行った。セラミダーゼを阻害するため、これらの化合物でH460細胞を3時間前処理した。次に、ChoKα阻害剤MN58bおよびRSM‐932Aの濃度を漸増させながら細胞を処理し、全細胞集団の50%が影響された濃度(IC50)を同定した。表8に示されるように、D‐エリスロ‐MAPPではなく酸性セラミダーゼ阻害剤D‐NMAPPDでH460細胞を前処理したことにより、ChoKα阻害に対して細胞が感作された。これらの結果は、酸性セラミダーゼレベルの上昇が、ChoK阻害に対する薬剤耐性のメカニズムを与える可能性があるという我々の仮説と整合している。その上、ChoK阻害剤および酸性セラミダーゼ阻害剤の併用によって、さらにいっそう強力な抗癌活性が与えられる。
【0229】
【表8】
【0230】
実施例5
ChoK阻害剤耐性NSLC細胞の生成
ChoK阻害に対する耐性の根底にあるメカニズムおよびこの阻害効果における酸性セラミダーゼの意味するものをさらに調査するため、我々は、ヒトNSCLC由来H460細胞株を使用して一連のin vitro試験を行った。この細胞株を9ヶ月間、MN58bおよび第2世代ChoKα阻害剤RSM‐932Aの投与サイクルを徐々に増やしながら培養状態で維持して、これらのChoKα阻害剤への耐性を獲得した新規細胞株を樹立した。対照細胞株(H460細胞株)も、H460の培養を維持しつつ、処理無しで同時に樹立された。したがって、MN58b耐性の樹立細胞株(H460 MN58R)およびRSM‐932A耐性の樹立細胞株(H460 RSM‐932A‐R)は、正常細胞株H460または対照細胞株H460が劇的に影響された濃度で影響を受けなかった。結果的に、これらのMN58bおよびRSM‐932A耐性細胞株における細胞増殖の50%を阻害するための必要濃度(IC50)は、対照群細胞に認められた濃度よりも有意に高くなっている(表9)。その上、両ChoK阻害剤間での強力な交差耐性が認められた。これは、これら2種類の抗腫瘍剤の作用機序が類似しているために起こりうると思われていた(表9)。
【0231】
【表9】
【0232】
ChoKα阻害剤に反応して細胞死することがないのは、酸性セラミダーゼレベルが高いためであるのかを試験する目的で、QT‐PCRおよびウェスタンブロット解析の両方を実施し、こうした細胞の酸性セラミダーゼレベルを測定した。以前の結果と一致して、対照細胞株H460と比較して、ChoKα阻害耐性細胞では、遺伝子発現およびタンパク質レベルとも過剰に発現した(図5)。
【0233】
実施例6
ChoKα阻害剤およびシスプラチン間の非交差耐性
前述されているように、NSCLC患者由来腫瘍の初代培養で実施された、種々の化学療法剤に反応する遺伝子の相関関係の統計学的解析によって、MN58b耐性は、試験された抗腫瘍剤の他のいずれに対する耐性とも関連がないことが分かった(表4)。患者の試料から得られたデータを検証するため、また、ChoK阻害剤耐性のメカニズムがNSCLC治療に使用される従来の他の抗腫瘍剤への耐性と無関係であることを証明するために、ChoK阻害耐性の樹立細胞におけるシスプラチンの抗増殖効果を分析した。表10に示すように、H460 MN58RおよびH460 RSM‐932A‐Rは、親細胞H460よりもシスプラチンの抗増殖効果に対してよりいっそう高い感受性を示した。これらの結果は、ChoK阻害耐性の獲得が、酸性セラミダーゼの過剰発現に関連する可能性のある特異的メカニズムを介して引き起こされ、シスプラチン等他の抗腫瘍剤の作用のメカニズムを妨げるものではないことを示唆する。
【0234】
【表10】
【0235】
実施例7
NSCLCにおけるシスプラチンおよびChoK阻害剤併用療法の有効性
上記で示した結果は、ChoK阻害剤が、シスプラチンに不応のNSCLC患者に抗腫瘍剤として使用可能であること、またその逆も可能であることを示唆している。そこで、ChoK阻害剤およびシスプラチンによる従来の白金系療法との併用治療がいかに強力的効果があるかを分析した。細胞生存率に対するシスプラチンとChoK阻害剤MN58bおよびRSM‐932Aとの併用による効果を、MTTアッセイを用いて、NSCLC由来細胞株H460で評価した。連続投与では、シスプラチンを3時間投与して、その後にChoK阻害剤を40時間投与した。その結果を、チョウ・タラレイ(Chou Talalay)の組み合わせ指数アイソボログラム法(Chou TC. et al., supra.)を用いて解析した。図6に示されているように、強力な相乗的(CIs<0.5)成長阻害が、H460細胞におけるシスプラチンとChoK阻害剤MN58bまたはRSM‐932Aの両剤間に認められ(それぞれCI=0.1およびCI=0.4)、これら2剤の併用が、NSCLC腫瘍成長抑制に有意な利点となり得ることが分かる。
【0236】
これら2剤の併用が、NSCLC腫瘍成長抑制に有意な利点となる可能性を検証するために、NSCLC異種移植を使用したin vivo試験を行った。in vitro試験の知見に準じて、連続治療をin vivoで実施し、シスプラチンを第1週の間(週2回)投与し、次いでChoK阻害剤治療を2週間(週3回)行った。また、3週間MN58bとシスプラチンの平行投与の1群を加えた。図7に示すように、H460異種移植において、シスプラチンとChoK阻害剤MN58b(図7A)またはRSM−932A(図7B)との間に強力な相乗的成長阻害が認められ、毒性の上昇も見られなかった(図7C)。したがって、これらの2剤の併用が、NSCLCの管理に有意な利点になり得ることが分かる。
【0237】
考慮すべき重要なことは、併用スケジュールで得られた抗腫瘍活性と同様の活性率を、シスプラチン単独で得るためには、シスプラチンの濃度を4倍にしなくてはならず、体重減少等毒性の臨床兆候が認められることである(図7D)。したがって、シスプラチンおよびChoK阻害剤の連続的併用療法は、強力な抗腫瘍効果をもたらしつつ、濃度が2倍減少した化学療法剤と同程度のわずかなレベルまで毒性を低減する。
【0238】
実施例8
コリンキナーゼ阻害剤とTRAILの協調が、大腸癌由来細胞株における細胞死を誘導する。
RSM‐932AおよびTRAILの抗腫瘍活性が、類似のまたは別個の作用メカニズムの結果として生じるのかを調査するために、腫瘍細胞の細胞毒性におけるコリンキナーゼ阻害剤(ChoKI)およびTRAILの併用による強調効果を試験した。その目的のために、5種類の大腸癌由来細胞株:DLD‐1、HT‐29、HCT‐116、SW620およびSW480を使用した。
【0239】
この目的のため、処理の24時間前に、96マルチウェルプレートに1×104個/ウェルの密度で細胞を接種した。細胞は、様々な濃度のRSM‐932A(ChoKI)またはTRAILを様々な回数で添加して処理し、MTT[3‐(4,5‐ジメチルチアゾール‐2‐イル)‐2,5‐ジフェニルテトラゾリウムブロマイド]比色分析法を用いて細胞増殖を定量した。
【0240】
その結果によれば、ChoKIに対する感受性は、分析した全細胞株で非常に類似していた(図8A)。しかし、TRAILに対する感受性も、SW620を除く全細胞株で非常に類似していたが、SW620は、TRAIL治療にほぼ耐性を示す(図8B)。次に、効率的なコリンキナーゼ阻害に十分な2時間のChoKIによる前処理を同じ細胞に行った後、さらに24時間、TRAILで処理した。DLD‐1細胞に、ChoKIまたはTRAILの単独処理を実施したところ、細胞毒性は、それぞれ53%と12%となり、認められる細胞死の割合として同定された。両剤併用の場合には、細胞毒性は上昇して、75%の細胞死となった(図9A)。H‐29細胞では、ChoKIおよびTRAILによる誘導性細胞毒性は、それぞれ48%と18%となった一方、併用での細胞毒性は、81%まで上昇した(図9B)。TRAIL耐性のSW620細胞では、ChoKI細胞毒性は9%であったが、併用での細胞毒性は41%まで上昇した(図9C)。この結果は、ウェスタンブロット解析により確認されたが、それは、TRAILおよびコリンキナーゼ阻害剤の併用時に、PARP分解の増加またはカスパーゼ‐3活性も見られたためである(図9D)。
【0241】
この実施例でChoKIとして設計されたRSM−932AおよびTRAILの協調の結果を、チョウ・タラレイ(Chou Talalay)の組み合わせ指数アイソボログラム法(Chou TC. et al., supra.)を用いて解析した。図10に示すように、強力な相乗的(CIs<0.5)成長阻害が、これらの化合物間に認められ(DLD‐1のCI=0.19、HT‐29のCI=0.4およびSW620のCI=0.085)、これら2剤の併用が、大腸腫瘍成長抑制に有意な利点となり得ることが分かる。
【0242】
上記の結果を検証するために、ChoK阻害剤MN58bをDLD‐1およびSW620細胞に使用して、同様の結果を得た(それぞれCI=0.10およびCI=1.15)(図10)。
【0243】
in vitroで認められた相乗作用の解析も行った。この解析では、アポトーシスならびに壊死または後期アポトーシスを区別するため、アネキシンVおよびIP染色法を用いてフローサイトメトリーを実施した。7時間処理した後、MN58bでは、DLD‐1細胞のアポトーシスはほんの少し増加する。これは、MN58による腫瘍細胞死誘導には、7時間よりももっと時間が必要だからである。TRAIL単独でDLD‐1細胞を処理すると、アポトーシスは35%である。併用においては、腫瘍細胞死は50%まで増幅した。RSM−932AをTRAILと併用してDLD‐1を処理すると、腫瘍細胞死は55%の増加であるが、これは、RSM−932Aの効果がMN58よりも早いため、主に壊死または後期アポトーシス集団となる。TRAIL耐性のSW620では、MN58との併用でアポトーシス集団も35%にまで増加する。TRAILとRSM−932Aとを併用すると、壊死または後期アポトーシス集団が増加し、7時間の処理後、総細胞死は59%である(図11)。これにより、大腸癌細胞におけるTRAILおよびChoK阻害剤の併用の相乗効果が証明される。
【0244】
TRAILは、腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーの一つであり、細胞死受容体DR4(TNFSF10AすなわちTRAIL‐R1)およびDR5(TNFRSF10BすなわちTRAIL‐R2)の刺激を介して結びついた外因性経路によってアポトーシスを誘導することができる。TRAILおよびChoK阻害剤併用療法の有効性のメカニズムを同定するため、MN58b、TRAILまたはこれらの同時併用による処理後、定量的PCRにより、DLD‐1およびSW620細胞株におけるDR5およびDR4レベルを解析した。DR4レベルには有意な変化は見られなかったが、MN58b処理において、DR5レベルがSW620細胞株で2倍増加し、DLD‐1細胞株で1.6増加した。これによって、ChoK阻害剤およびTRAIL間に認められる相乗効果の作用メカニズムが説明され得る。
【0245】
MN58bおよびTRAILは共に、細胞内のセラミドレベルを上昇させると以前に記述されている。この系におけるセラミド生成を調べるために、細胞内脂質を48時間[14C]‐セリンで標識してから、DLD‐1細胞をMN58またはTRAILで処理した。抽出後、脂質を薄層クロマトグラフィーによって解析して定量した。図13で認められるように、MN58bおよびTRAILの同時併用では、セラミドレベルが3倍の増加となっている。さらに、SW620のTRAIL耐性は、セラミドシグナル伝達の欠陥に関連しており、外因性セラミドにより克服可能であると以前に記述されている。したがって、処理後のSW620では、C‐16セラミドは増加しない。ChoK阻害がC‐16セラミド生成の一因となっている可能性を調べるため、液体クロマトグラフィーおよび質量分析法で解析を行ったところ、MN58bおよびTRAILの併用でC‐16セラミドは50%増加した(図13)。
【0246】
最終的に、in vivoでの併用治療もヌードマウスの異種移植モデルを使用して実施した。腫瘍体積が0.15cm3になった時、同時併用治療を開始した。1群につき10匹のマウスが含まれていた。マウスの治療は、月曜、水曜および金曜にはMN58b(2mg/kg)で、火曜および木曜はTRAIL20mg/kgで行った。図14で分かるように、3週間の治療後、DLD‐1およびSW620異種移植における腫瘍成長阻害は、それぞれ68%および75%となり、in vitro試験で認められた強力な相乗作用を裏付けている。
【0247】
実施例9
コリンキナーゼ阻害剤および5‐FUの協調が、大腸癌由来細胞株における細胞死を誘導する。
さらに、コリンキナーゼ阻害剤および従来の5‐フルオロウラシル(5‐FU)併用に基づく大腸癌治療の潜在的効果も分析した。細胞生存率に対する5‐FUとChoK阻害剤MN58bおよびRSM‐932A併用の効果を、MTTアッセイによりDLD‐1、SW620およびHT‐29細胞で評価した。最高の組み合わせの選択肢は、並行投与またはChoK阻害剤を短時間(9〜24時間)投与後、5‐FUをそれより長く(48〜72時間)投与した連続投与であることが確認された。この結果を、チョウ・タラレイ(Chou Talalay)の組み合わせ指数アイソボログラム法(Chou TC. et al., supra.)を用いて解析した。図15に示すように、解析された全ヒト大腸癌細胞において、成長阻害への相乗的効果が、5‐FUとChoK阻害剤MN58bまたはRSM‐932Aとの間に認められ、これら2剤の併用が、大腸腫瘍成長抑制に有意な利点となり得ることが分かる。
【0248】
これらの結果もフローサイトメトリー解析で検証された。図16に認められるように、細胞周期の解析により、併用療法が、これらの製剤を低濃度で使用しても細胞死を有意に増加させることが分かっただけではなく、ChoK阻害剤が細胞周期のG0/G1相に効果を発揮する一方、5‐FUは、細胞周期のG2/M相に影響する効果があることも分かった。これらは以前の報告と一致する。これらの結果は、細胞を5‐FUの抗増殖効果に感作させるために併用療法を行う場合、ChoK阻害剤による前処理の必要性の根拠となる。
【0249】
5‐FUの抗腫瘍効果に対するChoKI感作のメカニズムをさらに調べるため、5‐FU代謝経路の遺伝子発現解析をH460細胞で実施した。H460細胞は、アフィメトリクス手法を用いて、MN58bおよびRSM‐932Aにより別々の時点で処理された。表11で分かるように、この経路の幾つかの遺伝子が、ChoK阻害剤の影響を有意にかつ共通して受ける結果となった。これは、ChoK阻害剤による前処理が、5‐FU効果を高める酵素の発現を修飾することを示唆している。
【0250】
【表11】
【0251】
H460はNSCLC由来細胞であるため、上記の結果は、QT‐PCR技術を用いて、三種類の異なる大腸由来の癌細胞で検証し、5‐FU誘導の細胞死増強のこのようなメカニズムが細胞依存性であるのか、そしてこの経路の遺伝子発現レベルの修飾が、大腸癌系に見られるChoKI感作の効果を説明できるのかを明らかにした。表12で分かるように、この経路には、解析された全癌細胞において同程度に有意な変化がみられ、5‐FUの代謝上の変化がこの併用療法の作用メカニズムである可能性が示唆されている。
【0252】
【表12】
【0253】
最後に、これらの2剤の併用がNSCLC腫瘍成長抑制に有意な利点となる可能性を検証するために、2種類の異なる大腸異種移植を使用したin vivo試験を行った。in vitro試験の知見に準じて、並行治療または連続治療をin vivoで実施した。連続治療では、ChoK阻害剤MN58bまたはRSM−932Aを第1週の間(週3回)投与し、次いで5‐FU治療を2週間(週2回)行った。図17に示すように、DLD‐1およびSW620両方の異種移植を用いる5‐FUとChoK阻害剤との間に強力な相乗的成長阻害が認められ、これらの2剤の併用は、大腸腫瘍の成長抑制に有意な利点になり得ることが示唆されている。
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上のコリンキナーゼ阻害剤を含んでなる第1の成分と、
1種類以上の酸性セラミダーゼ阻害剤、1種類以上の化学療法剤および1種類以上の細胞死受容体リガンドからなる群から選択される第2の成分とを、個別にまたは共に含んでなる、組成物。
【請求項2】
前記コリンキナーゼ阻害剤が、コリンキナーゼαに特異的である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記コリンキナーゼ阻害剤が、表1に示された化合物である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記酸性セラミダーゼが、表2に示された化合物である、請求項1または3に記載の組成物。
【請求項5】
前記化学療法剤がアルキル化剤である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記アルキル化剤が白金系化合物である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記白金系化合物がシスプラチンである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記化学療法剤が代謝拮抗剤である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記代謝拮抗剤が5−フルオロウラシルである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記細胞死受容体リガンドが、TRAIL、機能的に同等なその変異体、またはその模倣低分子化合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物と薬学的に許容される担体または賦形剤とを含んでなる、医薬組成物。
【請求項12】
医薬に用いられる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
癌の治療に用いられる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記癌が非小細胞肺癌または大腸癌である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
コリンキナーゼ阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性を高める方法であって、前記細胞と、酸性セラミダーゼ、化学療法剤、または細胞死受容体リガンドとを接触させることを含んでなる、方法。
【請求項16】
前記化学療法剤がアルキル化剤または代謝拮抗剤である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ChoK阻害剤を用いた療法に耐性を示す癌患者の同定方法であって、
前記患者由来の試料中における酸性セラミダーゼレベルを定量することを含んでなり、前記試料中の酸性セラミダーゼレベルが基準試料よりも高い場合、前記患者はChoK阻害剤耐性であると同定される、方法。
【請求項18】
前記試料が腫瘍試料である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
癌患者のための個別化治療を選択する方法であって、
前記患者由来の試料中における酸性セラミダーゼレベルを定量することを含んでなり、前記試料中の酸性セラミダーゼの発現レベルが前記基準試料におけるレベルよりも高い場合、前記患者は、ChoK阻害剤および酸性セラミダーゼ阻害剤併用治療の候補者である、方法。
【請求項20】
前記癌は、非小細胞肺癌または大腸癌である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記ChoK阻害剤は、表1に示された化合物または化合物の混合物であり、および/または前記酸性セラミダーゼ阻害剤が、表2に示された化合物または化合物の混合物である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
癌治療のためのChoK阻害剤の治療効果を高めることができる化合物の同定方法であって、
(i)ChoK阻害剤耐性を示す腫瘍細胞と、候補化合物とを接触させ、
(ii)前記細胞中の酸性セラミダーゼのレベルを定量することを含んでなり、
前記候補化合物による処置後に、前記細胞中の酸性セラミダーゼのレベルまたは酸性セラミダーゼ活性が、前記処置の前よりも低い場合、前記候補化合物は、癌治療のためのChoK阻害剤の効果を高めることができるとされる、方法。
【請求項1】
1種類以上のコリンキナーゼ阻害剤を含んでなる第1の成分と、
1種類以上の酸性セラミダーゼ阻害剤、1種類以上の化学療法剤および1種類以上の細胞死受容体リガンドからなる群から選択される第2の成分とを、個別にまたは共に含んでなる、組成物。
【請求項2】
前記コリンキナーゼ阻害剤が、コリンキナーゼαに特異的である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記コリンキナーゼ阻害剤が、表1に示された化合物である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記酸性セラミダーゼが、表2に示された化合物である、請求項1または3に記載の組成物。
【請求項5】
前記化学療法剤がアルキル化剤である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記アルキル化剤が白金系化合物である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記白金系化合物がシスプラチンである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記化学療法剤が代謝拮抗剤である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記代謝拮抗剤が5−フルオロウラシルである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記細胞死受容体リガンドが、TRAIL、機能的に同等なその変異体、またはその模倣低分子化合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物と薬学的に許容される担体または賦形剤とを含んでなる、医薬組成物。
【請求項12】
医薬に用いられる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
癌の治療に用いられる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記癌が非小細胞肺癌または大腸癌である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
コリンキナーゼ阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性を高める方法であって、前記細胞と、酸性セラミダーゼ、化学療法剤、または細胞死受容体リガンドとを接触させることを含んでなる、方法。
【請求項16】
前記化学療法剤がアルキル化剤または代謝拮抗剤である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ChoK阻害剤を用いた療法に耐性を示す癌患者の同定方法であって、
前記患者由来の試料中における酸性セラミダーゼレベルを定量することを含んでなり、前記試料中の酸性セラミダーゼレベルが基準試料よりも高い場合、前記患者はChoK阻害剤耐性であると同定される、方法。
【請求項18】
前記試料が腫瘍試料である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
癌患者のための個別化治療を選択する方法であって、
前記患者由来の試料中における酸性セラミダーゼレベルを定量することを含んでなり、前記試料中の酸性セラミダーゼの発現レベルが前記基準試料におけるレベルよりも高い場合、前記患者は、ChoK阻害剤および酸性セラミダーゼ阻害剤併用治療の候補者である、方法。
【請求項20】
前記癌は、非小細胞肺癌または大腸癌である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記ChoK阻害剤は、表1に示された化合物または化合物の混合物であり、および/または前記酸性セラミダーゼ阻害剤が、表2に示された化合物または化合物の混合物である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
癌治療のためのChoK阻害剤の治療効果を高めることができる化合物の同定方法であって、
(i)ChoK阻害剤耐性を示す腫瘍細胞と、候補化合物とを接触させ、
(ii)前記細胞中の酸性セラミダーゼのレベルを定量することを含んでなり、
前記候補化合物による処置後に、前記細胞中の酸性セラミダーゼのレベルまたは酸性セラミダーゼ活性が、前記処置の前よりも低い場合、前記候補化合物は、癌治療のためのChoK阻害剤の効果を高めることができるとされる、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図16】
【図17A】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図16】
【図17A】
【公表番号】特表2012−502954(P2012−502954A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527326(P2011−527326)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062078
【国際公開番号】WO2010/031825
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(511069079)トラスラショナル、キャンサー、ドラッグス、ファーマ、ソシエダッド、リミターダ (1)
【氏名又は名称原語表記】TRASLATIONAL CANCER DRUGS PHARMA, S.L.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062078
【国際公開番号】WO2010/031825
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(511069079)トラスラショナル、キャンサー、ドラッグス、ファーマ、ソシエダッド、リミターダ (1)
【氏名又は名称原語表記】TRASLATIONAL CANCER DRUGS PHARMA, S.L.
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]