説明

癌治療用腫瘍低酸素の誘発

【課題】 低酸素活性化生体還元剤の固形腫瘍内腫瘍細胞を死滅させる能力を高める方法および組成物を提供する。
【解決手段】 腫瘍内部または腫瘍を含む領域内部において低酸素領域を作製し、この局所領域内部における低酸素活性化生体還元剤(例 チラパザミン)の活性化を増強する。活性化された低酸素活性化生体還元剤は、腫瘍細胞内部でDNA鎖切断を触媒することにより低酸素領域において腫瘍細胞を死滅させる。その活性が限局されているので、生体還元物質の全身投与の結果として一般的に起こる副作用を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概括的には、固形腫瘍内部の腫瘍細胞を死滅させる低酸素活性化生体還元剤の能力を高める組成物および方法に関する。本発明は特に、腫瘍内部または腫瘍を含む領域内部において、この局所領域内部における低酸素活性化生体還元剤の活性化を増強するとともにそれによる腫瘍細胞死滅を増強するために、局所低酸素領域を作製する方法および組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍増殖には、酸素および栄養物質を供給しかつ有毒代謝物を除去するため新脈管構造網の発達を必要とする。腫瘍中新脈管構造は正常な脈管構造とかなり異なる(1,2)。腫瘍新脈管構造は構造および機能において異常で、無秩序でかつ不適切であり、あるデータは、腫瘍脈管構造が正常組織における細胞骨格としてのチューブリンおよびアクチンの両者に対比して細胞骨格支持体としてのチューブリンにより多く依存するであろう、と提案している(3)。腫瘍脈管構造を標的とすることは、新しい癌療法の発展に有用な戦略に進化した(4)。ふたつのアプローチが現在腫瘍血管を標的とするために用いられている。ひとつは、新規血管形成を防止するために脈管形成因子またはそれらのレセプターをブロックすることで脈管形成過程を防止することである。この種の治療は、血管内皮増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体であるベバシズマブ、およびVEGFレセプターチロシンキナーゼの小分子阻害剤であるソラフェニブまたはスニチニブにより表される(4−8)。
【0003】
腫瘍脈管構造を標的とする第二の戦略は、腫瘍中に存在する内皮細胞を直接死滅させることである。この化合物群は血管破壊剤(VDAs)と称される(9,10)。それらの目標は、既存の腫瘍血管の内皮を死滅させ腫瘍から適切な血液供給を奪い去り腫瘍虚血および最終的に腫瘍壊死とする。この物質群は、コンブレタスタチンA4(CA4)、ZD6126、AVE8062、Oxi4503およびスチルベン誘導体を含む数種の小分子により表される(9−13)。これらの小分子は、コルヒチン部位における微小管重合作用に干渉することで腫瘍内皮細胞を死滅させる。数種のコルヒチン部位微小管阻害剤は、現在、VDAとして開発されているところである。
【0004】
腫瘍低酸素誘発と代償性応答の発生
血管新生阻害剤および血管破壊剤の両者によるこれらの腫瘍血管標的物質の中心的課題は、腫瘍細胞から血管サポートを奪い去り腫瘍が低酸素を生じ次に壊死を受けることにある。腫瘍中低酸素類の発生は従って腫瘍細胞死を誘発する重要要件である。しかし、低酸素腫瘍細胞は低酸素環境で生存を促す解糖系酵素の産生またはVEGFおよび脈管形成を誘発する他の脈管形成因子の産生を誘発する低酸素誘発因子(Hypoxia−Induced Factor)(HIF)1−αの安定化のようなさまざまな低酸素反応を発生させる(14,15)ので、腫瘍中低酸素は細胞死を誘発するには十分でない。低酸素中の腫瘍細胞で産生されるもうひとつの因子である一酸化窒素(NO)は、血管拡張を誘発し従って同様に腫瘍血液供給を改善する(16,17)。NOはまた脈管形成にも強く関連している(18,19)。これらの代償的メカニズムの結果、血管新生阻害剤およびVDAに対する薬物抵抗性が生じることになる。
【0005】
治療効率増強のための戦略
腫瘍脈管構造を標的とする治療効率を増強する可能な戦略が数種ある。ひとつは従来の化学療法といずれかの物質群を併用することであり、それは現在血管新生阻害剤とともに使用される通常の戦略となっている。VEGFに対するモノクローナル抗体であるベバシズマブは通常、結腸直腸癌、非小細胞肺癌および乳癌治療に化学療法と併用される。VDAは現在さまざまな固形腫瘍に対する第二相治験に入っているが、これまでFDA承認を得たものはない。ひとつの新しい戦略は、VDAと血管新生阻害剤を併用することである。これは、VDAがVEGF上昇を誘発しその後骨髄内皮始原細胞を血行循環に移動させ従って破壊された腫瘍血管修復に関与するという観察に基づいている(20)。VEGF経路の阻害剤を用いることで前記移動をブロックし治療効果を増強できた(11,20)が、この戦略は臨床状況で証明されていない。
【0006】
チラパザミン(SR4233;3−アミノ−1,2,4−ベンゾトリアジン−1,4−ジ−N−オキサイド)は低酸素状況で限定的に作用する生体還元物質で、抗癌剤としても試験されている(21)。チラパザミンは1電子反応によりチトクロームP450レダクターゼにより活性化され、それにより、ニトロオキサイドラジカルを産生する。ニトロオキサイドラジカルは酸素がないとDNA中一重鎖および二重鎖の切断を誘導し、細胞死の原因となる。チラパザミンはこの性質のため、酸素が十分な細胞に比較して低酸素細胞に対する毒性が15乃至200倍高い。この物質はまた放射線増感剤であり癌治療計画で白金化合物と相乗的に作用することが明らかとなっている(22,23)。
【0007】
チラパザミン作用のメカニズム
チラパザミン作用について提案されているメカニズムを下図に示した(24−28)。チラパザミンの1電子還元はチトクロームP−450、NADH−チトクロームP−450レダクターゼおよび他のフラビンタンパク質または金属タンパク質を含む酵素類による還元作用により進行する。この1電子転移反応の産物はフリーラジカル(IまたはII)であり、それは酸素により酸化されスーパーオキサイドおよび親薬物チラパザミンを生ずる。これとは別に、このフリーラジカル(IまたはII)は水素抜き取り反応中間体(III)を介してもうひとつ電子を得て安定なモノ−N−オキサイド(SR4317)を形成できる。これらの多様な結末が、低酸素環境におけるチラパザミンの選択的代謝につながる。前記第二の電子を大分子から得ることが、低酸素細胞への致死的傷害の原因であると示唆された。別の可能な経路は、中間体IIからのヒドロキシルラジカルの放出で直接SR4317を産生し、それはさらに類似反応によりSR4330に代謝される。
【0008】
【化1】

【0009】
あらゆる臓器の中でも肝臓はチラパザミン代謝にとって最も重要な臓器である。Costaらは、酸素濃度1、2、4、10および20%の低酸素環境で一時的にインキュベーションした培養ラット肝細胞中でチラパザミンの毒性を調べた(29)。単層肝細胞に対するチラパザミンの用量応答曲線は有意に左側に移動し、そのことは、酸素濃度低下に伴い死をより受けやすくなる(P<0.05)ことを意味している。4%酸素において2時間にわたって50%細胞死を起こすチラパザミンの濃度は、10%または20%酸素濃度で必要な濃度よりも低く、10分の1より小さかった。2%酸素において50%細胞死を起こすチラパザミンの濃度は、20%酸素濃度で同等の細胞死を誘発するために必要な濃度よりも低く、15分の1であった。酸素濃度をさらに1%に低下させると、50%細胞死に必要なチラパザミン濃度は20%酸素で必要な濃度よりも低く、50分の1であった。これらの結果は、通常の20%酸素環境に比較してチラパザミンの能力が2%および1%酸素でそれぞれ、15および50倍も高いことを示している。
【0010】
チラパザミンの前臨床および臨床開発
前臨床および臨床の両者のためチラパザミンの重要な開発が行われてきた。チラパザミンの動物研究は、その潜在的副作用として骨髄毒性、臭覚神経壊死、および網膜変性が含まれることを明らかとした(21)。3週に1度チラパザミンを静注投与する第一相臨床研究は、最大耐量(MTD)が390mg/mであることおよび用量が330mg/mを超えた時の用量制限毒性には可逆性の聴覚毒性や一過性の視覚異常が含まれる(30、31)ことを示した。他の非特異的毒性には、筋肉痙攣、悪心、嘔吐および下痢などが含まれる。血小板減少症グレード1が450mg/mを投与した患者1例で観察され、どの患者でも白血球減少症が全く観察されなかった(30)。
【0011】
チラパザミンの第二相研究が肺癌、子宮頸癌、卵巣癌、メラノーマおよび頭頚部癌で実施され、将来性の高い結果が得られた(32−35)。IV期非小細胞肺癌の第III相無作為治験で患者367名を無作為にカルボプラチンとパクリタキセルをチラパザミン(サイクル1では260mg/mとし、サイクル1の用量を許容できるならばサイクル2−6で330mg/mに増加する)(n=181)とともに投与するか;またはカルボプラチンとパクリタキセルをプラセボとともに投与した(n=186)。結果は残念ながら、チラパザミン投与群で応答率、全体的生存、または進行のない生存に有益でなかった点で、期待を裏切るものであった。対比的に、腹部痙攣、疲労感、一過性聴覚喪失、発熱性好中球減少症、低血圧、熱性筋肉痛、および発疹のような全身毒性の増強が観察され、本研究からかなりの患者が脱落することになった(36)。本治験は暫定分析の後早期に中止され、そのことは予測した生存改善37.5%に到達しないだろうということを示した。骨盤限定頸癌による別の大規模第III相無作為研究が、チラパザミンとともにあるいはチラパザミンを投与せずにシスプラチンおよび放射線を投与する患者で進行中であり、現在まだ結果が得られていない。
【0012】
改良された癌治療を提供することが明らかに今も望まれている。特に、それらの効率を最大にしつつ障害性の副作用を最小とするように公知の物質を用いる癌治療プロトコールを提供することは、有益であろう。
【非特許文献1】MASUNAGASHIN-ICHIRO et al., “Combination of the antivascularagent ZD6126 with hypoxic cytotoxin treatment, withreference to the effect on quiescent cells and the dependency on p53 status oftumor cells”, ONCOLOGY REPORTS, 2005, Vol.14, pp.393-400
【非特許文献2】CLIFFESTEPHEN et al., “COMBINATION BIOREDUCTIVE DRUGS (SR 4233 OR SN 23862) WITH THEVASOACTIVE AGENTS FLAVONE ACETIC ACID OR 5,6-DIMETHYLXANTHENONE ACETIC ACID”,Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys., 1994, Vol.29, No.2, pp.373-377
【非特許文献3】EMMENEGGERURBAN et al., “Low-Dose Metronomic Daily Cyclophosphamideand Weekly Tirapazamine: A Well-Tolerated CombinationRegimen with Enhanced Efficacy That Exploits Tumor Hypoxia”, Cancer Res, 2006,Vol.66, No.3, pp.1664-1674
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、低酸素活性化生体還元剤(HABA)の抗腫瘍活性をこの物質の全身投与の結果生じうる副作用を低減させるかまたは最小としつつ増強する方法および組成物を開発することに基づいている。HABAは酸素存在下において不活性のプロドラッグである;それらは、低酸素条件下でのみ活性化される。本発明の投与戦略には、例えば腫瘍内または腫瘍を含む領域のようなHABA活性化が望ましい局所領域で低酸素を誘発することが必要である。HABAがまた限局された低酸素領域に存在すると、このHABAは活性化され前記領域中細胞(例 腫瘍細胞)にその死滅効果を発揮するが、前記生体に障害性の全身効果を有さない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この技術を実行するためのふたつの一般的アプローチが開発されている。ひとつのアプローチでは、直接に血管を物理的に閉塞させるすなわち塞栓形成の前またはそれとともに前記生体還元物質を投与する。塞栓形成は孤立した標的領域中に限定し、その結果この孤立した標的領域で低酸素が進行し従ってHABAを活性化させることになる。第二のアプローチでは、HABAを血管破壊剤(VDA)および血管新生阻害剤(AAA)のような1種以上の低酸素誘発剤と併用して腫瘍に投与する。このアプローチでは、物理的塞栓形成を用いる血管の直接物理的閉塞に対比してVDAおよびAAA(化学物質)を血管閉塞という目的のために用いるので、このような物質はまた“化学的塞栓形成”剤として見なされることもある。しかし本文で明確にするため、標準的塞栓形成物質(例 リピオドール)は物理的塞栓形成操作を実行する時にのみ用いられるものと考えられるであろうが、一方、塞栓形成せずにデリバリされる物質(VDAおよびAAA)は、“低酸素誘発物質”と称する。(いくつかの態様で、低酸素誘発物質はまた物理的塞栓形成操作中に任意にデリバリされることもあることがわかる。)物理的塞栓形成の場合と同じように、VDAおよびAAAのような物質をHABAとともに局所的にまたは全身にデリバリさせると、腫瘍中に限局された低酸素環境を選択的に生じ、腫瘍中でHABAが活性化され周囲の腫瘍細胞を死滅させるが、HABAは非低酸素領域中で不活性プロドラッグ形態のまま全身にとどまるであろう。従って、障害性の副作用を避けることができる。本発明のいくつかの態様において、AAAおよび/またはVDA、および/または直接物理的塞栓形成のようなこれらの手法を、HABAの付与とともに投与または実施し、その結果これらのアプローチで誘発された選択的低酸素領域が、HABAを活性化させることになる。これらの進歩的技術の全般的効果は、限局された領域で腫瘍細胞を迅速、効果的にかつ相乗的に破壊することにあるが、一方、広範囲の全身的関与はなくしかも障害性の副作用もない。
【0015】
本発明の目的は、さまざまなアプローチを用い腫瘍またはその周辺領域の孤立領域中において低酸素を誘発することである。このような方法には、塞栓形成、血管破壊剤または血管新生阻害剤をそれぞれまたは組み合わせて用いることを含む。前記プロセスは、低酸素領域でのみ活性化され腫瘍細胞死を誘発する低酸素活性化生体還元剤の投与と組み合わせる。全身毒性もまた最小とし、最大利益を得るであろう。
【0016】
本発明は従って動物において腫瘍細胞を選択的に死滅させる方法を提供する。前記方法は、1)動物に低酸素活性化生体還元剤を付与する過程と、2)1個の腫瘍または1個以上の腫瘍を含む限定された領域中に局所的に酸素10%以下の低酸素領域を形成させる過程とを含む。前記低酸素活性化生体還元剤は、腫瘍または限定された領域内部の低酸素領域で腫瘍細胞を死滅させるように活性化される。1態様において、低酸素領域を局所的に形成するステップは、血管破壊剤および血管新生阻害剤の1種以上(すなわち、1種以上の血管破壊剤または1種以上の血管新生阻害剤、または1種以上の血管破壊剤および1種以上の血管新生阻害剤を組み合わせて)を動物に付与することによって達成される。いくつかの態様において、血管破壊剤および血管新生阻害剤の1種以上を動物に付与する過程は、全身的に実施される。他の態様において、血管破壊剤および血管新生阻害剤の1種以上を動物に付与するステップまたは過程は、前記領域で局所的に実施される。さらに別の態様において、局所的に低酸素領域を形成するステップは、前記付与ステップの後に行われる。これとは別に、局所的に低酸素領域を形成するステップは、前記付与ステップと同時に行われる。本発明のいくつかの態様において、前記局所形成ステップは、コンブレタスタチン、コンブレタスタチン誘導体、(5S)−5−(アセチルアミノ)−9,10,11−トリメトキシ−6,7−ジヒドロ−5H−ジベンゾ〔a,c〕−シクロヘプテン−3−イル ジヒドロゲンホスフェート(ZD6126)、DMXAA(5,6−ジメチルキサンテノン−4−酢酸)、(N−〔2−〔4−ヒドロキシフェニル)アミノ〕−3−ピリジニル〕−4−メトキシベンゼンスルホンアミド)(E7010またはABT−751)、シス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−アミノスチルベン(スチルベン5c)およびシス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−ヒドロキシスチルベン(スチルベン6c)またはそれらの誘導体などのスチルベン誘導体、およびスチルベン5cのプロドラッグモルホリノ−カルバメート誘導体から選択した1種以上の血管破壊剤を付与する。同じ態様または他の態様において、前記局所形成ステップは、ベバシズマブ、ソラフェニブ、スニチニブ、アフリベルセプト、IMC−1C11,バタラニブ(PTK−87)、N−(2,3−ジヒドロ−3,3−ジメチル−1H−インドール−6−イル)−2−〔(4−ピリジニルメチル)アミノ〕−3−ピリジンカルボキサミド(AMG706)、3−(4−ブロモ−2,6−ジフルオロ−ベンジルオキシ)−5−〔3−(4−ピロリジン−1−イル−ブチル)〕−ウレイド〕−イソチアゾール−4−カルボン酸アミド(CP−547,632)、パゾパニブ(GW−786034)、N−(4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル)−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素(ABT−869)、およびセジラニブ(AXD−2171)から選択された1種以上の血管新生阻害剤を付与する。いくつかの態様において、低酸素活性化生体還元剤はチラパザミンであり、前記局所形成ステップは、シス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−アミノスチルベン(スチルベン5c)を付与するステップを含む。さらに別の態様において、局所形成ステップはベバシズマブを付与することを含む。血管破壊剤および血管新生阻害剤の両者を投与する時、局所形成ステップは、1種以上の血管破壊剤を投与後、1種以上の血管新生阻害剤を投与するステップを含んでいてもよい。
【0017】
本発明の他の態様において、低酸素領域を局所的に形成するステップは、塞栓形成により実施される。塞栓形成には1種以上の塞栓形成物質を投与するステップを含んでいてもよい。いくつかの態様において、付与ステップは前記局所形成ステップの前に実施される。他の態様において、付与ステップは前記局所形成ステップと同時に実施される。本発明のこの態様において、低酸素活性化生体還元剤は、チラパザミン、バノキサントロン(AQ4N)、ポルフィロマイシン、アパジクオン(EO9)、1,2−ビス(メチルスルホニル)−1−(2−クロロエチル)−2−〔〔1−(4−ニトロフェニル)エトキシ〕カルボニル〕ヒドラジン(KS119)、(PR104のような)ジニトロベンズアミドマスタード誘導体、または4−〔3−(2−ニトロ−1−イミダゾリル)−プロピルアミノ〕−7−クロロキノリンヒドロクロリド(NLCQ−1、NSC709257)であろう。
【0018】
本発明のいくつかの態様において、前記領域は前記動物の肝臓内に局在している。本発明のいくつかの態様において、前記低酸素領域における酸素レベルは5%以下である。本発明のいくつかの態様において、前記付与ステップは局所的に実施され、一方他の態様において前記付与ステップは全身的に実施される。
【0019】
本発明はまた、動物中の腫瘍細胞を選択的に死滅させる組成物またはキットを含む。前記組成物またはキットは、1)チラパザミンおよび2)血管新生阻害剤または血管破壊剤の1種以上を含む。血管新生阻害剤または血管破壊剤の前記1種以上は、ベバシズマブ、ソラフェニブ、スニチニブ、アフリベルセプト、IMC−1C11,バタラニブ、N−(2,3−ジヒドロ−3,3−ジメチル−1H−インドール−6−イル)−2−〔(4−ピリジニルメチル)アミノ〕−3−ピリジンカルボキサミド(AMG706)、3−(4−ブロモ−2,6−ジフルオロ−ベンジルオキシ)−5−〔3−(4−ピロリジン−1−イル−ブチル)〕−ウレイド〕−イソチアゾール−4−カルボン酸アミド(CP−547,632)、パゾパニブ(GW−786034)、N−(4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル)−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素(ABT−869)、およびセジラニブ(AXD−2171)、コンブレタスタチン、コンブレタスタチン誘導体、(5S)−5−(アセチルアミノ)−9,10,11−トリメトキシ−6,7−ジヒドロ−5H−ジベンゾ〔a,c〕−シクロヘプテン−3−イル ジヒドロゲンホスフェート(ZD6126)、DMXAA(5,6−ジメチルキサンテノン−4−酢酸、(N−〔2−〔4−ヒドロキシフェニル〕アミノ〕−3−ピリジニル〕−4−メトキシベンゼンスルホンアミド)(E7010またはABT−751)、シス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−アミノスチルベン(スチルベン5c)およびシス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−ヒドロキシスチルベン(スチルベン6c)またはそれらの誘導体のようなスチルベン誘導体、およびスチルベン5cのモルホリノ−カルバメート誘導体のようなプロドラッグから選択される。1態様において、血管新生阻害剤および血管破壊剤の前記1種以上は、シス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−アミノスチルベン(スチルベン5c)を含む。別の態様において、血管新生阻害剤および血管破壊剤の前記1種以上は、ベバシズマブを含む。
【発明の効果】
【0020】
副作用を軽減した癌性腫瘍の治療のための組成物および方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、固形腫瘍癌細胞を死滅させるための新しい、相乗的処理組み合わせ、およびこの新しい処理組み合わせを用いて悪性すなわち癌性固形腫瘍を治療する方法を提供する。この新規組み合わせは、HABAの全身投与の結果これまで生じたことのある副作用を低減するかまたは最小としつつ、チラパザミンのような低酸素活性化生体還元剤(HABA)の抗腫瘍活性を局所的に増強する。酸素存在下において、生体還元物質は不活性のプロドラッグであり、活性形態への変換は低酸素(ハイポキシア)の条件下で起こる。本発明によれば、生体還元剤の活性形態は、例えば腫瘍または1個以上の腫瘍を含む境界を定めた限定された領域のような望ましい作用領域に制限されており、有利である。ふたつの一般的アプローチが開発されており、その両者ともに生体還元物質が活性化される限局された低酸素領域を作ることを必要とする。ひとつのアプローチでは、このことは通常は介入担当の放射線科医が配置したカテーテルにより塞栓形成物質を投与することで血管を物理的に閉塞させ、標的領域に供給する1本以上の血管を物理的に塞栓形成させることで達成する。第二のアプローチでは、血管破壊剤(VDAおよび/または)血管新生阻害剤(AAA)のような1種以上の低酸素誘発物質を局所的におよび/または全身に投与し、共投与HABAが活性化される限局された低酸素領域を生じさせる。これらの方法のさまざまな組み合わせもまた考えられ(例 塞栓形成プラス1種以上の低酸素誘発物質)、全体的効果を標的とし、活性化生体還元物質を限局して提供し、通常生体還元物質に全身的に暴露すると起こる副作用もなく標的部位内部またはその部位で腫瘍細胞を効率的に死滅させる。この増強により、適切かつ効率的レベルの腫瘍細胞死滅を維持しそれによってさらに毒性を低下させつつ低用量の前記物質の使用を可能とすることができる。
【0022】
“低酸素領域”とは、前記領域内部の酸素レベルが少なくとも約10%以下で、好適には約5%未満であることを意味する。例えば、低酸素領域中の酸素レベルは約10、9、8、7、6、5、4、3、2または1%である。一般的に、約10%以下好適には約5%以下の酸素レベルが、チラパザミンのような低酸素活性化生体還元剤を活性化させそのプロドラッグ形態の10倍以上の活性となるレベルとするために、十分である。当業者は、生体系における酸素レベル測定に通暁しており、また、酸素測定値が“mmHg”で表すことができることを認識しており、例えば、10%Oは76mmHgに等しく1%Oは7.6mmHgに等しい。
【0023】
当業者は、本発明で使用できる数種の低酸素活性化生体還元剤が存在しその例にはチラパザミン、バノキサントロン(AQ4N)、ポルフィロマイシン、アパジクオン(EO9)、1,2−ビス(メチルスルホニル)−1−(2−クロロエチル)−2−〔〔1−(4−ニトロフェニル)エトキシ〕カルボニル〕ヒドラジン(KS119)、(PR104のような)ジニトロベンズアミドマスタード誘導体および4−〔3−(2−ニトロ−1−イミダゾリル)−プロピルアミノ〕−7−クロロキノリンヒドロクロリド(NLCQ−1、NSC709257)が含まれるがそれらに限定されるわけではない(37−39)ことが認識されよう。
【0024】
低酸素活性化生体還元剤の活性を“増強する”または”高める”とは、一定量の低酸素活性化生体還元剤を固形腫瘍または固形腫瘍を含む領域に投与する時この固形腫瘍内部の腫瘍細胞死のレベルが、同一量の低酸素活性化生体還元剤を固形腫瘍または固形腫瘍を含む領域に投与するが本明細書に記載の方法で低酸素領域が生じない時に比べて、本明細書に記載の方法で投与を実行する時(すなわち、本明細書に記載の方法によって腫瘍中または腫瘍を含む領域中で低酸素局所領域を生じさせる時)高くなることを意味する。一般的に活性増加は少なくとも10倍以上で、この増加がはるかに大きく、例えば約20乃至200倍、または約50乃至200倍または100乃至200倍となることもある。
【0025】
本発明の1態様において、古典的かつ最も臨床的に進んだ生体還元物質であるチラパザミンまたはその1種以上の誘導体類を本発明の実施において利用する。チラパザミンはこれまで臨床開発ができなかった。第一相および第二相治験において、チラパザミンはそれ自体で用量390mg/mまで許容された。うまくいかなかった第三相臨床治験を詳細に検討して、チラパザミンをカルボプラチンおよびパクリタキセルのような化学療法剤と併用したことがわかった(36)。処理腫瘍が十分な潅流領域と不良な領域の両者を有していること、および古典的化学療法(カルボプラチン/パクリタキセル)が潅流良好な領域で作用し一方チラパザミンが潅流不良の低酸素領域で細胞毒性効果を有していると想定していた。しかし、白金化合物とチラパザミンとの間の細胞毒性増強効果が、酸素環境と低酸素環境の両者で検出された(36)が、低酸素細胞で前記効果がより強かった。各患者中低酸素腫瘍に実際にデリバリされた薬物の量は全く不明であった。従って、本治験は全身投与により治験参加患者をチラパザミンに不必要に暴露させてしまい、その結果、一般的全身毒性が生じることになった。また、この治験では最大耐量に近いレベルまでチラパザミン用量を増加させる標準的アプローチを採用し、従って、好中球減少症、低血圧、疲労、ニューロパシー、聴覚喪失等のような非特異的問題が生じた。化学療法−チラパザミン併用の全身分布が、この併用の全身的副作用が増強したことを説明する。
【0026】
これらの結果を頭にとどめかつチラパザミンが酸素供給良好な細胞に比較して低酸素細胞で約15−200倍高い細胞毒性という増強活性を有することに基づいて、本発明は、これまで観察されていた副作用を最小にしつつチラパザミンの奉効性を改善するための新しいアプローチを提供する。
【0027】
塞栓形成
“塞栓形成”とは、物質(リピオドール、ゲルフォーム、血栓等)を注入して、腫瘍を含む領域に血液を供給する動脈側枝の閉塞を誘発しその結果腫瘍細胞が適切な血流を得ることができず死亡することによって、例えば肝細胞癌に血液を供給する肝動脈のような確認可能な動脈側枝により血液を供給される腫瘍または腫瘍を含む領域に用いられる限局された療法を意味する。前記領域および周辺正常臓器または組織の血液供給の分析により、周辺臓器/組織が塞栓形成後に血液供給不足により有意な傷害をこうむるかどうかを判定する。例えば、正常肝臓には二重の血管すなわち肝動脈と門脈により血液が供給され、従って、正常肝で有意な傷害を結果として生ずることなく肝動脈またはその側枝の閉塞が可能となる。この操作は一般的に介入担当の放射線科医によって実施され、この放射線科医は鼠径部大腿動脈からカテーテルを配置しカテーテル先端をフルオロスコープX線ガイダンスにより腫瘍に血液を供給する肝動脈側枝まで進める。いったん腫瘍に血液供給する動脈側枝が造影剤注入により確認できると、リピオドールまたはゲルフォームのような塞栓形成物質を注入し側枝を閉塞させる。この操作は、肝細胞癌治療のための標準的移動局所療法である(40−43)。
【0028】
本発明の1態様において、チラパザミンのような低酸素活性化生体還元剤(HABA)を限局された領域における腫瘍の治療のために塞栓形成と組み合わせる。理論に拘束されるわけではないが、このアプローチには3種の根本的原理がある。最初に、塞栓形成がチラパザミンの効果を増強するために低酸素腫瘍環境を付与する。第二に、塞栓形成とともにチラパザミン投与により、チラパザミンの分布を塞栓形成血管により供給される領域に限定する。第三に、塞栓形成誘発低酸素効果が塞栓形成された血管により血液供給される組織に限定されているので、全身的低酸素は全く誘発されず活性化チラパザミンによる全身毒性が従って回避される。本発明のこの面の1態様において、チラパザミンをリピオドールのような標準的塞栓形成に一般的に使用する物質に混合するかまたは溶解させる。前記2種の物質の共投与の結果、チラパザミンをリピオドールのような塞栓形成物質とともに腫瘍内部にトラッピングさせる。この結果、低酸素腫瘍中に活性化チラパザミンが持続的に放出されることになり、細胞毒性効果が結果として生じる。チラパザミンがいったん塞栓形成領域から放出されると、それは、肝内で迅速に代謝され不活性化される。従って、チラパザミンの全身毒性が最小となる。この独自の組み合わせが従ってチラパザミンの細胞死滅能を十分に発揮させるという重要な利点を有しており、チラパザミンを従来の化学療法と併用して静注投与した先の臨床研究(36)で観察された全身毒性という問題が全くなくなる。
【0029】
リピオドールは最も頻繁に使用される塞栓形成物質である。本発明の実施で使用できる他の塞栓形成物質は限定するわけではないが、ゲルフォーム、血栓、ナノ粒子または血管閉塞という目的を達成できる臨床的に証明されたいかなる物理的物質も含まれる。塞栓形成性物質および低酸素活性化生体還元剤(HABA)の投与は、いかなる適切な方法でも実行できる。例えば、HABAは塞栓形成物質投与前(例 約1−20分前)に投与でき、塞栓形成物質のその後の投与が前記領域中にHABAを“トラップ”する。これとは別に、前記2種の物質は、(例 前記2種物質を混合物中に含む調製物を用いて)一緒に投与できる。一般的に、本方法で治療する患者に対して投与されるHABAの投与量は、(例えばチラパザミン)約1mgから約200mgの範囲、好適には、約5乃至約50mgの範囲であろう。さらに、投与されるだろう塞栓形成物質の用量は、例えばリピオドール約5−40ml、好適には約20−30mlの範囲であろう。十分な塞栓形成物質を投与し、フルオロスコープX線検査により意図した血管側枝の完全閉塞を達成し、塞栓形成領域中に低酸素領域または状態を確実に生成させる。塞栓形成物質の投与は通常動脈内注入によって実施される。これとは別に、塞栓形成は、閉塞誘発のための特殊なビーズのような他の手段によって実施することもできる。
【0030】
本方法で治療できる癌のタイプには、塞栓形成によって孤立させることができる、体内位置で生じるいかなるものも含まれ、例えば、肝細胞(肝)癌、胆管癌、および結腸または他の消化管臓器からの転移癌である。この戦略を塞栓形成によって治療できるいかなる癌にも用いることができ、または、患者を不当に傷つけることなく塞栓形成できる体領域に局在するいかなる腫瘍にも、例えば四肢の肉腫に用いることができる。特に、この技術は肝細胞癌の治療において、このタイプの癌が塞栓形成により通常治療されるので、用いられている。化学療法もまた一般的に投与され、化学塞栓形成と称され、化学療法を塞栓形成物質と同時に投与して、塞栓形成された領域だけに化学療法剤をトラップし、全身毒性を最小としかつ治療上の利益を高める。またほとんどの場合物理的塞栓形成は永久的ではなく、塞栓形成物質を適切に選択することで脈管閉塞の期間を制御でき、活性化HABAをある期間作用できるようにし、腫瘍死滅効果を実行しかつその領域での血流が回復した時にその領域への酸素流入によりその後不活性化される。物理的塞栓形成効果プラスHABA投与は腫瘍細胞死滅に関して、この併用療法で生じる腫瘍細胞死滅レベルが各方法を単独で使用した時に基づいて予測したよりも高い点で相乗的であり、すなわち、その効果は単に相加的ではない。
【0031】
例えばチラパザミンを例えば肝細胞癌の治療のために塞栓形成または化学塞栓形成とともに用いる利点がいくつかある。全てのヒト悪性疾患の中でも肝細胞癌または原発性肝癌に対して、チラパザミンが塞栓形成とともに肝内動脈注入によって投与される時、特に有用である。ひとつの理由は、チラパザミンが活性化のためにP450を必要として、このP450が肝中で豊富であることによる。第二に、チラパザミンが低酸素条件下で作用し、それは供給系の肝動脈の塞栓形成により誘発される。チラパザミンを肝中にトラップし、その後、肝細胞癌中にゆっくりと放出させる。塞栓形成後、チラパザミンは肝中で迅速に代謝され、それによって他の正常臓器へのこぼれ落ちを避けかつ全身毒性を最小にする。さらに、もしVDAと(後述するように)併用するならば、VDAの腫瘍血管に対する相対的特異性および塞栓形成効果の増強もまた、全身毒性の最小化に役立つであろう。
【0032】
低酸素活性化生体還元剤と血管破壊剤(VDA)との併用
本発明の他の態様においては、低酸素を誘発するVDAとともに低酸素活性化生体還元剤を用いる。本発明の実施で用いることができるVDAにはコンブレタスタチン誘導体類(9)、(5S)−5−(アセチルアミノ)−9,10,11−トリメトキシ−6,7−ジヒドロ−5H−ジベンゾ〔a,c〕−シクロヘプテン−3−イル ジヒドロゲンホスフェート(ZD6126)(44)、DMXAA(5,6−ジメチルキサンテノン−4−酢酸(9)、(N−〔2−〔4−ヒドロキシフェニル〕アミノ〕−3−ピリジニル〕−4−メトキシベンゼンスルホンアミド)(E7010またはABT−751)(45)、シス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−アミノスチルベン(スチルベン5c)およびシス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−ヒドロキシスチルベン(スチルベン6c)またはそれらの誘導体のようなスチルベン誘導体、および例えば米国特許出願第11/738,813号(Leeら、その完全な内容を参照により本明細書に組み入れる)により記載されたプロドラッグ類(スチルベン5cのモルホリノ−カルバメート誘導体)が含まれるが、それらに限定されない。これらの化合物は、たとえ全身投与しても腫瘍中に選択的に顕著な低酸素を誘発する(20)。VDAの投与はある種の化学的塞栓形成と見なすことができ、それは、上記で述べた標準的塞栓形成で血管を直接閉塞させるのと対比的に腫瘍含有領域中で選択的に塞栓形成という同一目標を達成するために化学物質を用いる。VDAとチラパザミンのような低酸素活性化生体還元剤の併用は、固形腫瘍悪性疾患の治療においていずれかの物質の単独での活性に基づいて予測されるよりも驚くべきことにより効果的である。すなわち、それらの活性が相乗的である(併用物質の腫瘍死滅効果が各物質単独の効果の算術的総計よりも高い)。例えば、チラパザミン後に投与したVDAはチラパザミンの活性化を可能とし、その後の腫瘍細胞死滅をいずれかの物質単独による腫瘍細胞死滅レベルに比較して少なくとも10倍以上高める。この戦略をまた先に述べた塞栓形成と組み合わせることができ、腫瘍低酸素およびチラパザミン活性化誘発においてはるかに効果的である。
【0033】
“相乗的”相互作用または効果とは、2種(またはそれ以上)の物質または治療モダリティを投与する効果が、各物質がその効果を独立して発揮する場合に予測されるだろう単純な相加的効果よりも大きいことを意味する。すなわち、前記物質が、観察される全体効果を予測以上に高めるように相互作用する。例えば、固形腫瘍に単独でチラパザミンを投与すると約10−20%の腫瘍細胞死レベルが一般的に結果として得られる。固形腫瘍に単独でVDAを投与すると同様に約10−20%の腫瘍細胞死レベルが一般的に結果として得られる。しかし、前記2種をともに投与する時、腫瘍細胞死のレベルは、ほとんど70−80%であり、チラパザミン単独およびVDA単独で得られる2種のレベルの単純な算術総計より大きい。もしこの効果が相加的であるならば、最大約20−40%と予測されるであろう。従って、70−80%レベルは、相乗作用が全く観察されない場合の予測最大値よりも少なくとも約2−4倍高くなる。本発明によれば、1)塞栓形成、2)AAA投与または3)VDA投与またはこれらの3種の2種以上を組み合わせての投与による限局的低酸素領域の作成とともにHABAを投与する時、相乗作用が観察される。相乗作用のレベルは、一般的に、予測されるよりも少なくとも約2−5倍高く(例 2、3、4または5倍高く)、それよりさらに高いこともある(例 6−10倍以上)。
【0034】
観察される代表的な相乗レベルを実施例5(図5)に示す。実施例5(図5)では、チラパザミンまたはVDAであるスチルベン5cのいずれかが10−20%腫瘍壊死を単独で誘発する。一方、チラパザミンおよびスチルベン5cの併用が70−80%まで腫瘍壊死増加を誘発する。壊死分布もまた腫瘍中心が主であるが、それは、腫瘍壊死が腫瘍血流抑制および低酸素誘発によるという観察と一致している。なぜなら、末梢領域における腫瘍が周辺正常組織からの拡散によりなんらかの酸素サポートを得られるからである。
【0035】
チラパザミンとZD6126との併用は、Masunagaら(46)により研究されてきた。しかし、Masunagaらにより記載された投与順序は、本明細書に記載のそれと異なる。Masunagaらは最初に腹腔注入によりマウスにZD6126を投与し、その1時間後および24時間後チラパザミンを投与した。下記実施例セクションに示したデータは、VDAが投与後すぐに(例 数分以内に)腫瘍血管閉鎖を誘発することを実証する。従って、ZD6126の後にチラパザミンを投与することは、いったん腫瘍血流がZD6126により抑制されるとチラパザミンが腫瘍にデリバリされないので、正しくない順序である。代わりに、VDA投与前にチラパザミンを腫瘍にデリバリさせ、チラパザミンの腫瘍中への分布を可能とする。Masunagaらが記載した逆の順序の投与は、チラパザミンの腫瘍へのデリバリ不良により治療効果が有意に障害される可能性がある。この逆の順序では、チラパザミンは主に、ZD6126投与後に腫瘍血流が選択的に抑制されるので、非腫瘍性組織に分布するであろうが、そのことは、チラパザミンの治療効果を低下させるだけでなく全身毒性も高める可能性がある。本発明の方法は、従って、下記の実施例セクションで述べたようにかつ図3で例示したように、Masunagaらのそれに比較して重要な利点を提供し、そこでは、腫瘍血流および低酸素が、VDA投与後数分以内に出現できた。
【0036】
本発明のこの態様において、投与されるHABA投与量は、もしチラパザミンを全身投与するならば約100乃至約300mg/mの範囲であろうし、好適には約150乃至約250mg/mであり、投与されるVDAの投与量は、約10mg/m乃至約100mg/mであり、好適には約50乃至約100mg/mであり、それは、臨床治験で腫瘍血流抑制に有効であると証明された用量に依存する。投与されるVDAの量は、前記領域中酸素レベルを約10%、または好適にはHABA活性を少なくとも10倍高める酸素レベルである約5%未満まで低下させるのに十分である。
【0037】
VDA投与方法は静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、動脈内、直接腫瘍内注入および経口投与を含むが、それらに限定されない。
【0038】
低酸素活性化生体還元剤を血管新生阻害剤(AAA)と組み合わせること
本発明のさらに別の態様において、1種以上のHABAを例えば(ベバシズマブのような)脈管内皮増殖因子(VEGF)モノクローナル抗体または(ソラフェニブまたはスニチニブのような)VEGFレセプターチロシンキナーゼ阻害剤のようなAAAと併用する。共投与が腫瘍低酸素時間を長くすることでAAAとHABAの効果の相乗作用を引き起こし、さらに、HABAの治療効果を増強する。
【0039】
本発明の実施で使用できるAAAにはベバシズマブ、ソラフェニブ、スニチニブ、アフリベルセプト、IMC−1C11,バタラニブ(PTK−87)、N−(2,3−ジヒドロ−3,3−ジメチル−1H−インドール−6−イル)−2−〔(4−ピリジニルメチル)アミノ〕−3−ピリジンカルボキサミド(AMG706)、3−(4−ブロモ−2,6−ジフルオロ−ベンジルオキシ)−5−〔3−(4−ピロリジン−1−イル−ブチル)〕−ウレイド〕−イソチアゾール−4−カルボン酸アミド(CP−547,632)、パゾパニブ(GW−786034)、N−(4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル)−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素(ABT−869)、およびセジラニブ(AXD−2171)(47)などがあるが、それらに限定されない。
【0040】
本発明のこの態様において、投与されるHABAの投与量はもしチラパザミンを全身投与するならば約100乃至約300mg/mの範囲であろうし、好適には約150乃至約250mg/mであり、投与されるAAAの投与量はベバシズマブについて約5乃至約15mg/kgであり、ソラフェニブについて1日2回経口投与で約200−400mgである。他の物質について、前記投与量は、使用した物質の能力に応じて変化させることができる。投与されるAAAの量は、前記領域中酸素レベルを約10%、好適には約5%未満まで低下させるのに十分であり、すなわち低酸素領域を生じさせる。
【0041】
HABAを併用して腫瘍低酸素を誘発するためのAAAの適用は、二つの重大な要因を特徴とする。第一は、AAAの半減期である。ベバシズマブのようなモノクローナル抗体は7日を越える半減期を有し、脈管形成因子VEGFの中和により作用する。VEGFが奪い去られると最終的に腫瘍で新しい脈管構造が防止され、その結果、腫瘍内部での酸素の消費による腫瘍低酸素が生じる(48−50)。ソラフェニブおよびスニチニブのような小分子化合物類は24時間未満の半減期を有し、VEGFレセプター類のキナーゼ活性を直接阻害することによって作用する。従って、AAAによる低酸素誘発のタイミングは、たとえ薬物半減期が公知であっても制御が困難となる。この状況は、何分かのうちにすぐに腫瘍血管が閉じられ低酸素がほとんどすぐに発生するVDAの適用と対比している(実施例3)。チラパザミンの半減期がヒトでは約40分であるので、AAAの投与に対してチラパザミンの共投与のタイミングは、難しい問題である。第二に、AAAはまた腫瘍脈管構造の一時的正常化を誘発し(51−53)、腫瘍血流と腫瘍中酸素レベルを実際に改善する。この理論を用いて、AAAを放射線と組み合わせる根本的原理が説明され、低酸素が放射線効果を障害する一方で放射線による腫瘍死滅のために適切な酸素発生が必須である(51)。AAAによる腫瘍脈管構造の一時的正常化効果は、チラパザミンまたは他のHABAの活性化のために望ましい低酸素環境にとって、直観に反するものである。従って、HABAにAAAだけを併せて適用するのは難しいと予測される。本発明は従って、腫瘍低酸素誘発のためのアプローチとしてVDAおよびAAAを組み合わせることを提案する。この根本的原理は、VDAを用いて腫瘍血流の迅速抑制を誘発し低酸素を誘発しHABAの活性化を誘発することである。しかし、腫瘍低酸素誘発に伴い、腫瘍は骨髄から内皮始原細胞を動員して損傷した腫瘍脈管構造を修復するVEGFまたは他の脈管形成因子の産生のような代償性低酸素応答を発生するであろう(20)。VDAとベバシズマブのようなAAAを併用することによって、VEGFの代償性効果を防止し腫瘍血管中での修復プロセスを阻害して腫瘍が低酸素状態に留まるようにする点でVDAの効果を増強するのに役立つ(20)。スチルベンVDAとベバシズマブの相乗効果を実施例4に示した。
【0042】
従って、本明細書に記載の併用腫瘍療法の構成要素は、1種以上の血管新生阻害剤(AAA)および1種以上の血管破壊剤(VDA)、および低酸素活性化生体還元剤(HABA)を含む。AAAとVDAの併用は、一緒に投与する時腫瘍細胞における長期低酸素を誘発し、それら自体で腫瘍細胞死滅に何らかの有効性を示すが、これらの物質を単独で投与すると固形腫瘍治療において比較的効果が薄かった。しかし、それらの活性は、本明細書で記載のように同様に抗癌物質として公知の低酸素活性化生体還元剤(HABA)と併用投与する時相乗的(非相加的)に有意に増強される。本明細書に記載の方法は、HABAと共投与することによりAAAおよび/またはVDAの抗癌活性を増強する方法またはAAAおよび/またはVDAと共投与することによりHABAの抗癌活性を増強する方法と見なすこともできる。
【0043】
本明細書に記載の物質の投与は当業者に公知のいかなる適切な手段によっても実行できるが、低酸素誘発物質の活性が、治療標的である領域すなわち腫瘍または腫瘍類、または1個以上の腫瘍を有しかつ隣接領域から孤立させることができる体内領域に可能な限りほぼ限定されなければならない。VDAは正常循環を有意に障害することなく腫瘍血流を優先的に抑制する能力を有しており(11)、それらは全身投与することができる。この場合、VDA作用により生じた腫瘍内低酸素領域にその活性化が主に限定されるだろうから、このHABAは局所的にも全身的にも投与できる。しかし、本発明のいくつかの態様においてVDAおよびHABAの投与は主に標的領域に限定され、すなわち投与は、塞栓形成と組み合わせる時のように、局所的である。このことは、前記物質を局所投与することですなわち介入担当の放射線科医が配置したカテーテルを介して腫瘍に血液供給する血管側枝中に動注することにより、達成できる。この局所投与は、本明細書に記載のようにそれぞれ余り間を置くことなく各物質を一度に物質ひとつずつ連続して投与することにより実行することもできるし、または、前記物質の混合物を含む単一の製剤を投与することによっても実行できる。AAAを用いてVDAが誘発した腫瘍低酸素の全身反応誘発性の代償性効果を抑制するという事実により、AAAは、塞栓形成後経口でまたは静注で通常、全身投与される。本発明の他の態様では、低酸素誘発物質(例 AAAおよび/またはVDA)およびHABAを含む全ての物質は、HABAの活性化がVDAの優先的な腫瘍血管効果により腫瘍中限局された低酸素領域でのみ起こるだろうから、全身投与される。全身投与方法は経口投与、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下または動脈内投与、吸入等を含むが、それらに限定されない。塞栓形成もまた実施するさらに他の態様では、前記物質(例 HABA;またはVDAおよびHABA、AAAとともにまたはAAAなしで)を最初に投与しなければならず、その結果、それらが標的領域内部にトラップされる。しかし、もし低酸素がVDAにより化学的に誘発されるならば、低酸素誘発物質は、投与の結果標的領域内部に前記物質が留まる限りにおいて、HABAの後またはHABAとともに投与できる。
【0044】
投与形態は下記の通りである。AAAは、AAAの目的が全身代償性メカニズムをブロックすることにあるので全身投与により投与される。肝細胞癌においてHABAおよびVDAを投与するふたつの手段がある。ひとつは塞栓形成とともにまたは塞栓形成を行わずにVDAおよびHABAを動脈内に投与することによる。AAAをその後全身投与する。この方法は主に、現在標準治療として塞栓形成を用いる唯一の癌である肝細胞癌を治療するために用いられる。第二のアプローチは、VDAを全身静注投与により投与したにしても腫瘍血管の抑制を特異的に誘発できるので、3種の物質を全て全身投与することである。このアプローチは、塞栓形成の候補とならない患者に適しているであろう。肝臓に局在していない他の固形腫瘍について、塞栓形成はこれら腫瘍の治療の標準的アプローチでなく、3種の物質全て(HABA,VDAおよびAAA)は通常、経口、静脈内、腹腔内、または皮下経路で全身投与され、通常その順序は最初にHABA、次にVDAその後AAAである。このようにして、HABAは腫瘍まで分布し。次にVDAが腫瘍血流の停止につながり、低酸素を誘発する。しかし、これらの物質の局所投与も考えられる。AAAの効果ははるかに遅いものであり、AAAをその後投与し低酸素誘発代償性効果を抑制することもできる。
【0045】
本明細書に記載の物質の調製物または処方は一般的に哺乳類患者への投与に適しており、従って、例えば生理的に適合性である。このような組成物には、前記物質の実質的に精製された形態と薬理学的にまたは生理学的に適した(適合性の)担体を含む。このような組成物の調製は、一般的に当業者に公知である。通常は、前記組成物は液状溶液または懸濁液として調製されるが、錠剤、丸剤、粉剤等のような固体形状も考えられる。投与前において液体中溶液または懸濁液に適した固体形状もまた、調製できる。前記調製物はまた乳化することもできる。前記活性成分は薬学的に許容できかつ前記活性成分と適合する賦形剤と混合することもできる。適切な賦形剤は例えば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等またはその組み合わせである。さらに、前記組成物は湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤等のような少量の助剤を含むことができる。もし組成物を経口形状で投与することが望ましいならば、さまざまな粘稠剤、芳香剤、希釈剤、乳化剤、分散助剤または結合剤等を添加することもできる。本発明の組成物は投与に適した形態の組成物を提供するためにいかなる付加的成分も含むことができ、例えば、限局されたデリバリとするために前記物質をマトリックスに結合させることもできる。前記処方中各物質の最終的な量は変化させることができる。しかし、前記量は一般的に約1−99%であろう。前記組成物は、本明細書に記載のようにかつ治療プロトコールの詳細に応じて、唯一の物質または物質混合物(すなわち、HABAまたはAAAまたはVDAまたは塞栓形成物質のみまたはこれらの2種以上のあらゆる組み合わせ)を含むことができる。さらに1種を超える各タイプの物質を組成物として投与することもでき、例えば、HABA1種を2種以上のVDAまたは2種以上のAAAとともに投与でき、または2種以上のHABAを一緒に投与することもできる。
【0046】
特に、本発明は少なくとも1種の低酸素活性化生体還元剤、および低酸素誘発血管破壊剤および血管新生阻害剤の少なくとも1種、プラス生理学的に許容できる担体を含む薬理学的に許容できる組成物および/または前記組成物を含むキットを提供する。他の態様において、少なくとも1種の低酸素活性化生体還元剤および例えばリピオドールのような物理的塞栓形成に使用された塞栓形成物質、および、適宜1種以上のVDAおよび/またはAAAを含む組成物もまた、提供される。
【0047】
本発明の方法で治療できる癌の種類には、固形腫瘍(固形悪性疾患)が生じる例えば肝細胞癌、胆管癌、膵癌、結腸直腸癌、肛門癌、小細胞または非小細胞肺癌を含む肺癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、精巣癌、生殖細胞癌、腎細胞癌、神経内分泌癌、消化管癌、食道癌、頭頚部癌、扁平細胞癌またはメラノーマを含む皮膚癌、柔組織および骨原性肉腫、甲状腺癌、胸腺種、膀胱癌、子宮頸癌、子宮癌、中枢神経系癌、ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫を含む癌が含まれるが、それらに限定されない。原発性および転移性腫瘍の両者ともに、本明細書に記載の方法で治療できる。
【0048】
本発明の方法は一般的に哺乳類、特にヒトの治療を意図しているが、常にそうであるとは限らない。獣医用もまた、考えられる。さらに、当業者は、本発明の方法に例えば腫瘍または腫瘍部分の外科手術による摘出、さまざまな化学療法計画、および悪心の治療のような他の副作用治療、食欲刺激、ビタミン剤等のような他の治療モダリティを組み合わせることができることを理解するであろう。
【実施例】
【0049】
材料および方法
細胞株および腫瘍移植片モデル
本研究に用いた腫瘍細胞株にはUCI−101卵巣癌細胞およびHep3B肝細胞癌細胞が含まれる。細胞を5%CO湿潤環境中10%ウシ胎児血清、グルタミン、およびペニシリウム/ストレプトマイシン添加IMEMおよびDMEM中で、それぞれ、増殖させる。細胞が増殖し80%コンフルエンシーになった時細胞を1%トリプシンで採取し、リン酸緩衝生理食塩水で3回洗浄し、その後ヌードマウスの皮下に注入した。マウス移植片研究のため、2×10腫瘍細胞をその背部に皮下注入した。ヌードマウスは、説明どおり、NCI Development Therapeutic Programから購入した。腫瘍径はカリバーで長軸および短軸(それぞれ、aおよびb)によりモニタリングし、腫瘍容積は、式ab/2により計算した。VDAシス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−アミノスチルベン(スチルベン5c)(50mg/kg)、チラパザミン(60mg/kg)による治療は、腹腔内注入により実施した。AAAベバシズマブによる治療は、用量10mg/kgの尾静脈注入により実行した。
【0050】
腫瘍および正常臓器潅流のDCE−MRIによる判定
腫瘍移植片を有するヌードマウスを1%イソフルランと混合酸素で麻酔した。DEC−MRIは、小型動物イメージングを専門とする実験的磁気共鳴(MR)システム(Bruker、Biospec2.35T/40cm)で行った。頚静脈を切開しカテーテルIVを入れ、急性相研究において造影剤注入を行った。バッチ1のマウスは、頚部カテーテルからガドリニウム(OmniScan)50μlを注入し、MRIイメージは毎秒採取し、注入後すぐのMRIシグナル増加の初期速度を調べた。初期速度を決めた後、次のMRI研究ではガドリニウムシグナルの持続的増加に注目し、そのことはまた、組織潅流の定性的および定量的情報を提供する。この研究のため、ガドリニウム20μlを直接尾静脈に注入した。マウスは、注入1分以内にMRI装置トンネルに移した。MRIイメージは30分間、毎分採取した。
【0051】
組織切片の免疫組織化学研究
マウスを屠殺した後主要臓器と腫瘍を摘出し、10%ホルマリンに固定した。組織をパラフィンに包埋し、切片をH&EおよびCD34抗体で染色し、微小血管密度を定量した。微小血管密度の点数は、Diagnostic Instuments Spot RT CCDカメラ装着Nikon ECLIPSE E800M顕微鏡を用いて倍率200倍のフォトフレーム中CD34−陽性シグナルを計数することによるWeidnerらの方法に基づいていた。
【0052】
VDA処理後の腫瘍酸素および血流変化のリアルタイム測定
ヌードマウスにUCI−101卵巣癌細胞を皮下注入し、腫瘍移植片を形成させた。腫瘍の大きさが最大直径で8−10mmになった時に移植片を酸素および血流研究に供した。腫瘍に25G針で穿孔し、センサープローブ挿入のためのトンネルを形成させた。センサープローブの先端を腫瘍中心に留置した。腫瘍酸素レベルと血流は、組織酸素、温度および血流をレーザードップラー技術で測定するように設計されている“ベア−ファイバー”タイプのセンサープローブを有するOxyLite 2000デュアルチャンネルモニタリングシステム(Optonix、oxford、UK)で測定した。測定はリアルタイムベースで行い(毎秒100回測定)、酸素レベルと腫瘍血流は、連続的に記録した。針およびセンサープローブ挿入により誘発された初期外傷は血流および酸素化を妨害できるので、各マウスは、試験したVDAシス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−アミノスチルベン(スチルベン5c)を50mg/kgでマウスに腹腔内投与する前処理しないで少なくとも20分間、最初に記録した。腫瘍血流および酸素レベルを処理後さらに20分間、記録した。
【実施例1】
【0053】
スチルベン5cによる腫瘍脈管構造の抑制
【0054】
腫瘍血流を抑制し腫瘍低酸素を生じるかどうかを調べるために、スチルベン5cを研究した。急速動態研究では、急速増加10分後ガドリニウムシグナルがプラトーに達し洗い出しを行わなくても少なくとも30分間継続することが明らかになっている(11)。我々は、プラトーのイメージを研究するために注入後30分を選択し、マウス間でのばらつきを回避するためにスチルベン処理前後において同一マウスの同一腫瘍を比較した。マウスを最初に造影剤を使わずにイメージングし、基準値を得た(図1、左上パネル)。腫瘍中心で切片を得た。同一切片中腎臓を、同一マウス腫瘍からの内部臓器対照として用いた。20μlのガドリニウム(OmniScan)を尾静脈から注入後、マウスを急速シークエンスMRIで毎分、総計30分間解析した。腫瘍および腎臓の両者ともに、ガドリニウム注入後MRIシグナル増強を示し、そのことは、腫瘍および腎臓における血管潅流を示した(図1右上パネル)。マウスをその後少なくとも24時間放置し、ガドリニウムの洗い出しを行った。同マウスを、第二日または第三日に腹腔内注入によりスチルベン5c 50mg/kgにより処理した。スチルベン5cの注入4時間後、ガドリニウム注入前後においてマウスを再度同一プロトコールでイメージングし、スチルベン処理前の先のイメージペアと比較した。ガドリニウム注入前の基準イメージにおいて、T1強調イメージは、未処理マウスの基準イメージに比較してMRIシグナルにおけるわずかの増加を示した(図1、左下パネル)。このシグナル増加は、前日から体内に残存した少量のガドリニウムによる可能性があった。ガドリニウム注入後、腎臓および他の正常臓器は、シグナル増強を示した。しかし、腫瘍領域は、スチルベン処理前に比較して有意に少ないガドリニウム増強を示し(図1、右パネル)、このことはスチルベン5cが選択的に腫瘍潅流を阻害し正常臓器を助けることを示す。同様の研究をマウス6匹で行い、T1マップを各マウスについて作成した。ガドリニウム濃度を各イメージについて計算し、結果を図1に示した。腎臓におけるシグナルが飽和してしまったので、計算アルゴリズムは腎臓で作用しなかった。腫瘍中ガドリニウム濃度は、スチルベン処理4時間後腫瘍中で平均62.8%に低下した。対比的に、筋肉中ガドリニウム濃度はスチルベン処理で変わらず、正常血管潅流を障害することなくスチルベン5cが選択的に腫瘍潅流を抑制することを示唆した。
【実施例2】
【0055】
腫瘍および正常臓器切片中CD34血管マーカーによる免疫組織化学染色
【0056】
我々はDCE−MRIで検討した組織を得て、腫瘍の血管密度を検討するとともにDCE−MRI誘導血管潅流研究の結果を相関させた。我々は特に心臓および脳由来切片を検討し、コルヒチン部位阻害剤の毒性を観察した。組織切片を免疫組織化学染色により標準的H&Eおよび抗CD34(内皮マーカー)抗体で染色した。H&E染色は、スチルベン5c処理後いかなる主要臓器でも全く有意な変化を明らかにしなかった(図2)。また、腫瘍中でも組織学的差異が全くなかった。我々は次に抗CD34染色を用いて、腫瘍および種々の正常臓器中の微小血管密度を点数化した(54、55)。結果を、腎臓以外は各パネルの右下隅に示し、腎臓は、見たところ明確なドットまたは管状物というよりもむしろ毛細管網が融合しており、点数化できない。スチルベン5cによる処理は心臓、肝、腎臓および脳の微小血管密度を変化させないが、腫瘍での密度をほとんど4分の1まで有意に低下させる(図2)。この知見は、スチルベン5cが正常臓器潅流を障害することなく選択的に腫瘍血管潅流を低下させるという我々のMRI結果と一致する。
【実施例3】
【0057】
代表的VDAであるスチルベン5cによる腫瘍低酸素の誘導が、チラパザミン活性化を促進する
【0058】
我々は本研究でVDAスチルベン5cにより概念実証研究を実行し、スチルベン5cが腫瘍低酸素を誘発することを確認した。我々は、先に実施例1において、動的コントラスト強調MRI研究を用いてスチルベン5cが腫瘍血流阻害に成功したことを証明した。しかし、DCE−MRI研究の技術を連続モニタリング手段として用いることはできず、スチルベン5cの腫瘍血流抑制の速さと腫瘍低酸素誘発の速さを記録できなかった。リアルタイムモニタリングという目的を達成するため、我々は酸素および血流センサーを用いてマウスをスチルベン5cで処理した後最初の20分間以内のリアルタイム変化を記録する。
【0059】
結果の解釈のため、検討の必要がある課題がいくつかある。腫瘍血流と腫瘍酸素レベルは、腫瘍中のプローブ位置に依存する。プローブ位置がより辺縁であるほど、血流および酸素レベルがより高くなるであろう。一般的に、中心部分はより低い血流となっており従ってより高い低酸素を有するであろう。異なるマウスを比較することは、個体差とセンサープローブを研究用に配置した腫瘍の位置により、非常にむずかしい。結果を解釈する最も信頼性の高い方法は、センサープローブを同一位置に保って空間的変動をなくしているので、処理前血流と酸素レベルをそれ自体の対照として用いて、処理後結果と比較することである。従って、マウス全てを少なくとも20分間記録し、処理前基準値を記録した。基準値研究において、図3に示したように有意な一時的変動が観察された。基準酸素化および腫瘍血流は、時間とともに同調して変動する基準値を示す。腫瘍血流が増加する時、酸素レベルはそれに対応して増加する。我々は連続的モニタリングを少なくとも20分間行いこの一時的変動を確定した後、スチルベン5cを注入し連続モニタリングをさらに20−30分間行い、腫瘍酸素化および血流におけるスチルベンの効果をリアルタイムで調べた。ここでマウス3匹で示したように(図3)、異なる腫瘍は非常に異なる腫瘍血流と酸素化レベルを有していることがわかった。マウス#1は、基準値の大きな変動を繰返しパターンで示し、血流は600−1100で酸素レベルが15−40mmHgであった。なお、最初の10分間の結果は、プローブ挿入による外傷の調整のため、検討しなかった。マウス#2は200−300の間の腫瘍血流を有し、酸素レベルは2個のプラトーを有する。ひとつのプラトーは50−60mmHgであり、その後、低下して、次のプラトーは20−30mmHgになる。マウス#3は、2000−3000の間の非常に高い腫瘍血流と35−55mmHg範囲の酸素レベルを有する。腹腔内スチルベン5c(50mg/kg)注入後、マウス3匹全てが、記録を停止する前に10mmHg未満まで腫瘍酸素レベルの顕著な低下を示した。腫瘍血流はマウス#1と#3でスチルベン処理前レベルの25%未満まで低下した。マウス#2における腫瘍血流変化は最初有意であり、その後ある程度回復したが、まだ基準値血流レベルよりも低かった。これらの結果は下記の知見を示唆する。(a)スチルベン処理は、腫瘍中に低酸素を誘発する際に効果的である。(b)初期腫瘍血流が低いほどスチルベンが誘発する腫瘍血流抑制効果がより低くなる。このことは、腫瘍血流が低いと腫瘍床への薬物デリバリが低くなり腫瘍潅流を低下させる効果がより低くなるという説明により、説明できる。(c)腫瘍血流には有意な、一時的でかつ空間的な変動がある。我々の研究では、空間的変動を除去するために腫瘍中唯一の部位に限定する。
【実施例4】
【0060】
ベバシズマブによるスチルベン5c効果の増強
【0061】
次に、我々は卵巣癌UCI101細胞を用いてスチルベン5cのインビボ効果を検討した。我々は最初に腹腔内注入によりスチルベン5cを25mg/kgで週3回投与した。腫瘍容積は、長軸および短軸を測定することで計算した。我々は残念ながら、対照とスチルベン5c処理マウスで腫瘍成長に全く差を見出さなかった。結果は、スチルベン5c週3回投与が適切な投与方法でないことを示唆している。この失敗は、間欠的投与が生存可能な腫瘍周縁部を残し、それが周辺正常脈管構造から栄養と血液サポートを得ることによりVDAでの処理後も生存する可能性によるのかも知れなかった。VDAによる処理を停止すると、生存可能な腫瘍周縁部が急激に増殖する。腫瘍脈管構造が、移動させた内皮始原細胞を取り込むことにより急速に回復する。我々はこの根本的原理に基づいて、スチルベン5cをベバシズマブと組み合わせ、それを用いてUCI−101腫瘍細胞により分泌されたVEGFを中和させた。より良好な治療効果を得るため、我々はまた、スチルベン5c処理の頻度を連続5日間(月曜日から金曜日)で2週間にわたり20mg/kg/日に増やした。ベバシズマブは,週2回(月曜日と金曜日)10mg/kgで5回投与した。スチルベン5c単独処理群では、約45%の腫瘍増殖抑制を得たが、ベバシズマブ単独処理群では、約25%の腫瘍増殖抑制を得た。スチルベン5cとベバシズマブ併用処理群では、80%の腫瘍増殖抑制を得た(図4)。第24日に腫瘍を摘出した後腫瘍の重量を測定し、この結果で、測定結果を確認した(図示せず)。この研究で2つの結論が得られた。スチルベン5cはより頻繁に投与すればより効果的で、かつ、脈管形成阻害剤ベバシズマブと併用する時はるかに効果的である。
【実施例5】
【0062】
チラパザミンをスチルベン5cと併用
【0063】
次にチラパザミンをスチルベン5cと組み合わせて、原理実証研究を行った。UCI101腫瘍移植片(長軸で腫瘍径約1cm)が定着したヌードマウスを最初に腹腔内でチラパザミン60mg/kgで処理した。60分後、スチルベン5cを腹腔内に50mg/kgで投与したが、それが何分か以内に顕著な腫瘍低酸素を誘発できることが立証されている(図3)。上記にも述べたように、最初にチラパザミンを投与しスチルベン5c投与により腫瘍潅流を停止させる前に腫瘍にその分布を可能とするという流れが、非常に重要である。次にその3日後マウスを屠殺した。腫瘍を採取し、腫瘍の中心部分をスライスし、組織切片とH&E染色で分析した。これまでチラパザミン70mg/kgを単独投与しても腫瘍増殖抑制に全く効果がないことが知られていたので、従って、チラパザミン単独群(図5B)はいかなる効果も示さないと予測された。図5に示したように、対照腫瘍(図5A)およびスチルベン5c処理腫瘍(図5C)は、腫瘍壊死領域が非常に小さかった。スチルベン5c投与の60分前にチラパザミンを投与して、これによりチラパザミンが先に腫瘍内へ分布することが可能な併用群においてその後スチルベン5cにより腫瘍低酸素誘発を行うと、我々は、腫瘍中壊死領域の径が顕著に大きくなることを認めた(図5D)。最も重要なこととして、壊死領域が周辺縁部は温存して腫瘍中心部に主に存在し、このことは、腫瘍の周辺部分が血液と酸素供給を周辺正常組織からの拡散により得ることができるので、この壊死が低酸素の影響によることを示唆している。この知見は、腫瘍低酸素誘発のためのチラパザミンとその後のスチルベン5cの併用が相乗的効果を有しかついずれの物質の治療効果も増強するという我々の理論を裏付けている。
【0064】
次に我々は、複数回投与後腫瘍移植片の径を測定した。ヌードマウスにUCI−101細胞を皮下注入し、第7日以降には腫瘍が見えるようになった。第8、第10および第12日において各群のマウスに腹腔内注入により処理を行った。スチルベン5cの用量は50mg/kgであり、チラパザミンの用量は60mg/kgであった。しかし第14日において、チラパザミン処理を行った2群のマウスは20%の体重減少を示し、全マウスを比較のために屠殺した。腫瘍容積結果を、図6に示した。スチルベン5cまたはチラパザミン処理群の腫瘍径は、対照に比較して平均で約50%の低下を示し、一方、スチルベン5cとチラパザミン処理群は、対照のさらに27%まで抑制された。この結果は、スチルベン5cとチラパザミンが少なくとも相加的であり相乗的でさえありうることを示唆している。
【実施例6】
【0065】
チラパザミンと血管新生阻害剤ベバシズマブの併用
【0066】
我々は血管新生阻害剤が腫瘍脈管構造を抑制し腫瘍低酸素を起こすことができるという根本的原理に基づいて、チラパザミンと抗新脈管形成物質ベバシズマブになんらかの相乗作用があるか調べる。同じUCI−101腫瘍移植片を有するヌードマウスを、チラパザミンとスチルベン5cによる前記研究と同様にチラパザミンとベバシズマブで処理した。腫瘍が確立したマウスを、第8、第10および第12日に腹腔内へのチラパザミン処理を行い、10mg/kgのベバシズマブでの処理は尾静脈からの静注で第8日および第11日に行った。腫瘍移植片を測定し、径を図7にプロットした。ベバシズマブを添加した時腫瘍径縮小がわずかに改善されたが、そのことは、チラパザミン単独とチラパザミンおよびスチルベン5c併用との差と対照的である(図6)。チラパザミン群とチラパザミンおよびベバシズマブ群との間には統計的に有意な差がなかった。この現象について、いくつか可能な説明がある。ひとつは、抗脈管形成活性の効果が、ほとんどすぐに血管閉鎖を誘発する血管破壊剤スチルベン5cよりもはるかに遅いことである。それとは対照的に、ベバシズマブはVEGFを中和し長い処理時間を要して腫瘍低酸素を結果として生じる。第二に、Jainらの血管正常化理論によれば、前記の血管新生阻害剤ベバシズマブは最初に腫瘍中で血管正常化を誘発する(51−53)。従って、腫瘍酸素レベルは血管正常化により抑制される代わりにさらに改善され、チラパザミンの治療効果を増強できなかった。血管新生阻害剤ベバシズマブのチラパザミンとの使用はスチルベンVDAとの組み合わせを必要とするであろうが、そのことが、腫瘍増殖抑制誘発においてはるかに効果的であることを確認した。前記3種の薬物併用を用いるひとつの方法は、最初の設定でチラパザミンとスチルベン血管破壊剤を使用し次に維持療法でベバシズマブを使用することである。
【0067】
本発明を好適な態様の観点から記載してきたが、当業者は、本発明を請求の範囲の真意と範囲の中で修正を行って実施できることを理解するであろう。従って、本発明は、上述の実施の態様に限定されるべきではなく、本明細書の記載の真意と範囲内の改変とその均等物を全て当然含む。
【産業上の利用可能性】
【0068】
ヒトおよび哺乳動物用の癌治療薬の一つとして活用される可能性が高い。
(参考文献)




【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1A】ガドリニウム注入30分後におけるガドリニウム集積を用いた腫瘍潅流の研究。(A)同マウスにおけるスチルベン5c処理前後のT1強調イメージ。確立された皮下UCI101腫瘍移植片を有するヌードマウスについて、DCE−MRIにより腫瘍潅流を解析した。DCE−MRIイメージは、ガドリニウム(OmniScan)を尾静脈に注入30分後に採取した。同マウスをスチルベン5c処理前後に調べ、個体変動を避けた。左パネルはガドリニウム注入前T1強調イメージを示した。右パネルは、ガドリニウム注入30分後のイメージを示した。上パネルはマウスをスチルベン5cで処理する前、腫瘍および腎臓中ガドリニウム増強を示した。下パネルは、腎臓増強がスチルベン処理前の状態と同様であることを示している。しかし、スチルベン5c処理は、スチルベン処理前の右上パネルと比較してガドリニウムによる腫瘍増強を顕著に低減させた(右下パネル)。各イメージにおいて、腫瘍は大きい矢印でマークし、腎臓は小さい矢印でマークした。試験したマウス6匹のうちの1匹について、代表的なそれぞれのイメージを示した。(B)スチルベン5c処理前後の腫瘍および筋肉中ガドリニウム濃度を計算し平均を示す。同実験をマウス6匹中で統計解析のために行った。組織ガドリニウム濃度を計算して組織潅流を示すため、ガドリニウム注入前および30分後のT1マップを作成した。スチルベン5c処理後腫瘍シグナルが平均62.8%低下し;一方筋肉は、スチルベン処理後も有意な変化を全く示さなかった。
【図1B】ガドリニウム注入30分後におけるガドリニウム集積を用いた腫瘍潅流の研究。(A)同マウスにおけるスチルベン5c処理前後のT1強調イメージ。確立された皮下UCI101腫瘍移植片を有するヌードマウスについて、DCE−MRIにより腫瘍潅流を解析した。DCE−MRIイメージは、ガドリニウム(OmniScan)を尾静脈に注入30分後に採取した。同マウスをスチルベン5c処理前後に調べ、個体変動を避けた。左パネルはガドリニウム注入前T1強調イメージを示した。右パネルは、ガドリニウム注入30分後のイメージを示した。上パネルはマウスをスチルベン5cで処理する前、腫瘍および腎臓中ガドリニウム増強を示した。下パネルは、腎臓増強がスチルベン処理前の状態と同様であることを示している。しかし、スチルベン5c処理は、スチルベン処理前の右上パネルと比較してガドリニウムによる腫瘍増強を顕著に低減させた(右下パネル)。各イメージにおいて、腫瘍は大きい矢印でマークし、腎臓は小さい矢印でマークした。試験したマウス6匹のうちの1匹について、代表的なそれぞれのイメージを示した。(B)スチルベン5c処理前後の腫瘍および筋肉中ガドリニウム濃度を計算し平均を示す。同実験をマウス6匹中で統計解析のために行った。組織ガドリニウム濃度を計算して組織潅流を示すため、ガドリニウム注入前および30分後のT1マップを作成した。スチルベン5c処理後腫瘍シグナルが平均62.8%低下し;一方筋肉は、スチルベン処理後も有意な変化を全く示さなかった。
【図2A】スチルベン5c処理は腫瘍中微小血管密度を低下させたが、正常臓器中では低下させなかった。UCI腫瘍移植片を有するヌードマウスを10%DMSOまたは50mg/kgのスチルベン5cで腹腔内処理した。注入後4時間でマウスを屠殺し、さまざまな臓器と腫瘍を採取固定しおよび標準的ヘマトキシリンエオシン染色(H&E)を行った。各切片の免疫組織化学染色は抗CD34抗体により実施し、微小血管密度を定量した。オリジナルの免疫組織化学染色切片において、茶色の染色は、CD34染色陽性シグナルを示した。(A)倍率200倍の白黒写真を示した。各CD34染色写真における陽性シグナルの数を計数し、各パネルの右下すみに示した。(B)最も豊富な微小血管密度を示した4つの異なる場の平均と標準偏差をヒストグラムにプロットした。腎切片は、腎細管周囲の全ての血管が本図で大きなネットワークに融合しているという事実により、点数化できない。これらの結果は、腫瘍血管密度がほぼ4倍位顕著に減少し一方他の臓器である心臓、肝、脳および腎臓のそれはスチルベン5cにより影響を受けなかったことを示した。
【図2B】スチルベン5c処理は腫瘍中微小血管密度を低下させたが、正常臓器中では低下させなかった。UCI腫瘍移植片を有するヌードマウスを10%DMSOまたは50mg/kgのスチルベン5cで腹腔内処理した。注入後4時間でマウスを屠殺し、さまざまな臓器と腫瘍を採取固定しおよび標準的ヘマトキシリンエオシン染色(H&E)を行った。各切片の免疫組織化学染色は抗CD34抗体により実施し、微小血管密度を定量した。オリジナルの免疫組織化学染色切片において、茶色の染色は、CD34染色陽性シグナルを示した。(A)倍率200倍の白黒写真を示した。各CD34染色写真における陽性シグナルの数を計数し、各パネルの右下すみに示した。(B)最も豊富な微小血管密度を示した4つの異なる場の平均と標準偏差をヒストグラムにプロットした。腎切片は、腎細管周囲の全ての血管が本図で大きなネットワークに融合しているという事実により、点数化できない。これらの結果は、腫瘍血管密度がほぼ4倍位顕著に減少し一方他の臓器である心臓、肝、脳および腎臓のそれはスチルベン5cにより影響を受けなかったことを示した。
【図3】腫瘍血流および腫瘍中酸素含量。酸素および血流は、OxyFloおよびOxyLiteシステム(Optronix,Oxford、UK)によりモニタリングした。マウスはイソフルランで麻酔し、温度、酸素および血流を記録するトリプルセンサーを記録のため腫瘍中に挿入し1時間留置した。UCI−101卵巣癌細胞由来同様の径の皮下腫瘍を有するマウス3匹による結果を示した。一番上のパネルは酸素レベルを示し、下のパネルは腫瘍血流を示す。St5c注入の時期をマークした。
【図4】インビボにおけるスチルベン5cの有効性とベバシズマブによる増強効果。ヌードマウスにUCI−101細胞を皮下注入し、週2回のベバシズマブ10mg/kgを併用してあるいは併用せずにマウスをその後月曜日から金曜日まで20mg/kg/dayのスチルベン5cで処理する。腫瘍容積は、長軸および短軸により計算した。各群にはマウス8匹を入れ、平均腫瘍容積および標準偏差を日数に対してプロットした。
【図5A】チラパザミンおよびスチルベン5cの相乗作用。UCI101腫瘍移植片を有するヌードマウスを、ビーヒクル(5A,対照)、チラパザミン単独(5B)、スチルベン5c(50mg/kg)単独(5C)またはチラパザミン(60mg/kg)後にスチルベン5c(50mg/kg)(5D)により処理し、腫瘍低酸素を誘発した。マウスを3日後屠殺し、H&E切片のために腫瘍を採取した。腫瘍切片の低倍率における図を示した。より暗く染色された腫瘍部分が見え、一方、より明るい色の部分は壊死領域である。併用群における右下パネルの腫瘍切片でそれに注目されたい。腫瘍の大半が壊死しているが、中心および周縁の腫瘍のわずかの部分が生存したままである。中心の生存している部分は、大血管の側枝に隣接する。
【図5B】チラパザミンおよびスチルベン5cの相乗作用。UCI101腫瘍移植片を有するヌードマウスを、ビーヒクル(5A,対照)、チラパザミン単独(5B)、スチルベン5c(50mg/kg)単独(5C)またはチラパザミン(60mg/kg)後にスチルベン5c(50mg/kg)(5D)により処理し、腫瘍低酸素を誘発した。マウスを3日後屠殺し、H&E切片のために腫瘍を採取した。腫瘍切片の低倍率における図を示した。より暗く染色された腫瘍部分が見え、一方、より明るい色の部分は壊死領域である。併用群における右下パネルの腫瘍切片でそれに注目されたい。腫瘍の大半が壊死しているが、中心および周縁の腫瘍のわずかの部分が生存したままである。中心の生存している部分は、大血管の側枝に隣接する。
【図5C】チラパザミンおよびスチルベン5cの相乗作用。UCI101腫瘍移植片を有するヌードマウスを、ビーヒクル(5A,対照)、チラパザミン単独(5B)、スチルベン5c(50mg/kg)単独(5C)またはチラパザミン(60mg/kg)後にスチルベン5c(50mg/kg)(5D)により処理し、腫瘍低酸素を誘発した。マウスを3日後屠殺し、H&E切片のために腫瘍を採取した。腫瘍切片の低倍率における図を示した。より暗く染色された腫瘍部分が見え、一方、より明るい色の部分は壊死領域である。併用群における右下パネルの腫瘍切片でそれに注目されたい。腫瘍の大半が壊死しているが、中心および周縁の腫瘍のわずかの部分が生存したままである。中心の生存している部分は、大血管の側枝に隣接する。
【図5D】チラパザミンおよびスチルベン5cの相乗作用。UCI101腫瘍移植片を有するヌードマウスを、ビーヒクル(5A,対照)、チラパザミン単独(5B)、スチルベン5c(50mg/kg)単独(5C)またはチラパザミン(60mg/kg)後にスチルベン5c(50mg/kg)(5D)により処理し、腫瘍低酸素を誘発した。マウスを3日後屠殺し、H&E切片のために腫瘍を採取した。腫瘍切片の低倍率における図を示した。より暗く染色された腫瘍部分が見え、一方、より明るい色の部分は壊死領域である。併用群における右下パネルの腫瘍切片でそれに注目されたい。腫瘍の大半が壊死しているが、中心および周縁の腫瘍のわずかの部分が生存したままである。中心の生存している部分は、大血管の側枝に隣接する。
【図6】スチルベン5cおよびチラパザミンの相乗効果。皮下腫瘍を有するヌードマウスを、(1)正常生理食塩水対照、(2)50mg/kgのスチルベン5c、(3)60mg/kgのチラパザミン、(4)腹腔注入により、第8、10および12日におけるスチルベン5cとチラパザミン併用で処理した。その後、体重減少のためマウスを第14日に屠殺した。腫瘍の長軸および短軸を測定し腫瘍サイズを計算し、日数に対してプロットした。各処理群には、マウス6匹を入れる。
【図7】チラパザミンおよびベバシズマブの併用。皮下腫瘍を有するヌードマウスを、(1)正常生理食塩水対照、(2)第8、10および12日における60mg/kgチラパザミン、(3)第8、10および12日におけるチラパザミンと第8および11日におけるベバシズマブ(10mg/kg)の併用で処理した。その後、マウスを第14日に屠殺した。腫瘍の長軸および短軸を測定し腫瘍サイズを計算し、日数に対してプロットした。各処理群には、マウス6匹を入れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物中腫瘍細胞を選択的に死滅させる方法であって、
前記動物に低酸素活性化生体還元剤を付与する過程と、
腫瘍内部または1個以上の腫瘍を含む限定された領域内部に、酸素10%以下の低酸素領域を局所的に形成し、それによって前記低酸素活性化生体還元剤が活性化され前記腫瘍または限定された領域内部の前記低酸素領域で腫瘍細胞を死滅させる過程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記低酸素領域を局所的に形成させる前記過程が前記動物に対して血管破壊剤および血管新生阻害剤の1種以上を付与することによって達成されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記動物に対して血管破壊剤および血管新生阻害剤の1種以上を付与する前記過程が、全身的に実施されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記動物に対して血管破壊剤および血管新生阻害剤の1種以上を付与する前記過程が前記領域で局所的に実施されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記低酸素領域を局所的に形成させる前記過程が前記付与過程の後に実施されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記低酸素領域を局所的に形成させる前記過程が前記付与過程と同時に実施されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記局所的に形成させる過程が1種以上の血管破壊剤を付与し、かつ、前記血管破壊剤がコンブレタスタチン、コンブレタスタチン誘導体類、(5S)−5−(アセチルアミノ)−9,10,11−トリメトキシ−6,7−ジヒドロ−5H−ジベンゾ〔a,c〕−シクロヘプテン−3−イル ジヒドロゲンホスフェート(ZD6126)、DMXAA(5,6−ジメチルキサンテノン−4−酢酸)、(N−〔2−〔4−ヒドロキシフェニル)アミノ〕−3−ピリジニル〕−4−メトキシベンゼンスルホンアミド)(E7010またはABT−751)、シス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−アミノスチルベン(スチルベン5c)およびシス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−ヒドロキシスチルベン(スチルベン6c)またはそれらの誘導体などのスチルベン誘導体、およびスチルベン5cのプロドラッグモルホリノ−カルバメート誘導体から構成される群から選択されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項8】
前記局所的に形成させる過程が1種以上の血管新生阻害剤を付与し、かつ、前記1種以上の血管新生阻害剤がベバシズマブ、ソラフェニブ、スニチニブ、アフリベルセプト、IMC−1C11,バタラニブ(PTK−87)、N−(2,3−ジヒドロ−3,3−ジメチル−1H−インドール−6−イル)−2−〔(4−ピリジニルメチル)アミノ〕−3−ピリジンカルボキサミド(AMG706)、3−(4−ブロモ−2,6−ジフルオロ−ベンジルオキシ)−5−〔3−(4−ピロリジン−1−イル−ブチル)〕−ウレイド〕−イソチアゾール−4−カルボン酸アミド(CP−547,632)、パゾパニブ(GW−786034)、N−(4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル)−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素(ABT−869)、およびセジラニブ(AXD−2171)から構成される群から選択されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項9】
前記低酸素活性化生体還元剤がチラパザミンであり、前記局所的に形成させる過程がシス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−アミノスチルベン(スチルベン5c)を付与する過程を含むことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項10】
前記局所的に形成させる過程がベバシズマブを付与することを含む請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記局所的に形成させる過程が1種以上の血管破壊剤を投与後1種以上の血管新生阻害剤を投与する過程を含む請求項2記載の方法。
【請求項12】
前記低酸素領域を局所的に形成させる前記過程が塞栓形成によって実施されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項13】
塞栓形成が、1種以上の塞栓形成物質を投与する過程を含む請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記付与過程が前記局所的に形成させる過程の前に実施されることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記付与過程が前記局所的に形成させる過程と同時に実施されることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項16】
前記低酸素活性化生体還元剤が、チラパザミン、バノキサントロン(AQ4N)、ポルフィロマイシン、アパジクオン(EO9)、1,2−ビス(メチルスルホニル)−1−(2−クロロエチル)−2−〔〔1−(4−ニトロフェニル)エトキシ〕カルボニル〕ヒドラジン(KS119)、(PR104のような)ジニトロベンズアミドマスタード誘導体および4−〔3−(2−ニトロ−1−イミダゾリル)−プロピルアミノ〕−7−クロロキノリンヒドロクロリド(NLCQ−1、NSC709257)から構成される群から選択されることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項17】
前記低酸素領域が、前記動物の肝臓に局在することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記低酸素領域中の酸素レベルが5%以下であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記付与過程が、局所的に実施されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記付与過程が、全身的に実施されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項21】
動物中の腫瘍細胞を選択的に死滅させる組成物またはキットで、チラパザミンおよび血管新生阻害剤および血管破壊剤の1種以上を含むことを特徴とする組成物またはキット。
【請求項22】
前記血管新生阻害剤および血管破壊剤の1種以上が、ベバシズマブ、ソラフェニブ、スニチニブ、アフリベルセプト、IMC−1C11,バタラニブ、N−(2,3−ジヒドロ−3,3−ジメチル−1H−インドール−6−イル)−2−〔(4−ピリジニルメチル)アミノ〕−3−ピリジンカルボキサミド(AMG706)、3−(4−ブロモ−2,6−ジフルオロ−ベンジルオキシ)−5−〔3−(4−ピロリジン−1−イル−ブチル)〕−ウレイド〕−イソチアゾール−4−カルボン酸アミド(CP−547,632)、パゾパニブ(GW−786034)、N−(4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル)−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素(ABT−869)、およびセジラニブ(AXD−2171)、コンブレタスタチン、コンブレタスタチン誘導体、(5S)−5−(アセチルアミノ)−9,10,11−トリメトキシ−6,7−ジヒドロ−5H−ジベンゾ〔a,c〕−シクロヘプテン−3−イル ジヒドロゲンホスフェート(ZD6126)、DMXAA(5,6−ジメチルキサンテノン−4−酢酸)、(N−〔2−〔4−ヒドロキシフェニル)アミノ〕−3−ピリジニル〕−4−メトキシベンゼンスルホンアミド)(E7010またはABT−751)、シス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−アミノスチルベン(スチルベン5c)およびシス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−ヒドロキシスチルベン(スチルベン6c)またはそれらの誘導体などのスチルベン誘導体、およびスチルベン5cのプロドラッグモルホリノ−カルバメート誘導体から構成される群から選択されることを特徴とする請求項21記載の組成物またはキット。
【請求項23】
前記血管新生阻害剤および血管破壊剤の1種以上がシス−3、4’、5−トリメトキシ−3’−アミノスチルベン(スチルベン5c)を含むことを特徴とする請求項22記載の組成物またはキット。
【請求項24】
前記血管新生阻害剤および血管破壊剤の前記1種以上がベバシズマブを含むことを特徴とする請求項22記載の組成物またはキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−516565(P2011−516565A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504152(P2011−504152)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/039899
【国際公開番号】WO2009/126705
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(502066627)ヴァージニア コモンウェルス ユニバーシティ (5)
【Fターム(参考)】