説明

癌細胞増殖阻害方法、増殖阻害剤及びスクリーニング方法

【課題】癌の有効で確実な治療方法を提供すること、また該治療に有効な癌細胞増殖阻害剤を提供すること、及び癌細胞増殖阻害活性を有する物質のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】ZNF143の機能を抑制することから成る、癌細胞の増殖阻害方法、ZNF143に特異的なsiRNAのようなZNF143の機能を阻害し得る物質を活性成分として含有する癌細胞増殖阻害剤、癌の予防および/または治療薬、癌細胞を検出する方法、癌の診断剤、ベクターおよび該ベクターを導入した形質転換細胞、ならびにZNF143蛋白の結合阻害量を基準とした癌細胞増殖阻害活性を有する物質のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレノシスティン(selenocysteine)tRNA遺伝子に関与しているツメガエル(Xenopus)転写アクチベータのヒトホモローグであるZinc finger protein 143をコードする遺伝子(以下、ZNF143ともいう)の機能を抑制することを含む、癌細胞の増殖阻害方法、ZNF143に特異的なsiRNAのようなZNF143の機能を阻害し得る物質を活性成分として含有する癌細胞増殖阻害剤、及び、ZNF143蛋白の結合阻害量を基準とした癌細胞増殖阻害活性を有する物質のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、ヒトの死因の大半を占める致命的疾患である。現在、死因に占める癌の割合は、さらに増加傾向にある。その治療方法としては、手術療法、放射線治療、化学療法などが挙げられる。前記治療方法以外に、癌細胞で特異的に発現レベルが高く、細胞増殖を促進する分子を標的とする阻害剤が開発され、いわゆる分子標的治療が行われている。しかしながら、新しい分子標的の探索とそれに引きつづく創薬は、依然として、最も重要な研究課題である。
【0003】
本発明者らは、DNAダメージによるシグナルで発現が誘導される遺伝子をデファレンシャルディスプレイ法で探索した。その結果、転写因子ZNF143を同定した。この遺伝子は1995年にアフリカツメガエルからセレノシステインtRNA遺伝子の転写因子として単離同定されている(非特許文献1)。その後、転写因子としての機能解析も発表されている。また、本発明者らは、DNAダメージを引き起こす抗癌剤やガンマ線によりZNF143の発現が転写レベルで誘導されること、ZNF143がシスプラチン架橋DNAを認識することを報告している(非特許文献2)。さらに、本発明者らは、ZNF143がシスプラチン耐性癌細胞で高発現していること、ZNF143の発現抑制により細胞がシスプラチン感受性になること、ZNF143が多くのDNA修復遺伝子群の発現を正に制御していることを見出している(非特許文献3)。
【0004】
ZNF143ポリペプチドの結合配列をゲノムワイドで検索した結果が、これまでに報告されている(非特許文献4)。この報告は、ゲノム情報の解析結果に関するものであり、ZNF143が関与している広範な種類の遺伝子を見出したに過ぎない。この報告は、広範な種類の遺伝子がどのような機能を有するかについては全く解析していない。
【0005】
一方、癌細胞の増殖機構は分子レベルで明らかにされつつある。特に、細胞周期に影響を与える分子は、癌治療のために好ましい分子標的として注目されている。
【0006】
細胞周期に関して、ここに簡単に説明する。細胞周期は4つの過程から成り立っており、各過程を順にG1期、S期(DNA複製期)、G2期、M期(分裂期)と呼ぶ。G1期およびG2期の最後(後者をG2/M期ともいう)にはDNAの異常を検知する監視機構が働き、この機構はチェックポイントと呼ばれる。これによるDNA異常の修復が可能な場合は、DNAの異常が修復されると細胞周期が進行する。DNA異常が修復不能の場合は細胞死が誘導され、異常細胞の生存を不可能にしている。
【0007】
正常細胞では、DNA複製は正確に進行することから、S期の前にG1期チェックポイントを活用して異常を検知しており、G2期チェックポイントはほとんど使われないと考えられている。一方、癌細胞の多くでは、G1期チェックポイントが異常を起こして機能せず、かわりにG2期チェックポイントが活性化された状態になっている。したがって、癌細胞のG2期チェックポイントを阻害することによりDNA異常を修復させず、細胞死を起こさせることは癌の治療薬として最も合目的である。さらに、この治療薬の場合、正常細胞への影響は少ないと思われる。
【非特許文献1】Schuster C. et al. EMBO J. 1995, 14, p3777〜3787
【非特許文献2】Ishiguchi H. et al. Int. J. Cancer 2004, 111, 900〜909
【非特許文献3】Wakasugi T. et al. Oncogene 2007 26, p5194〜5203
【非特許文献4】Myslinski M. et al. J. Biol Chem 2006 Nov.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、有効で確実な癌細胞の増殖阻害方法、癌の治療に有効な癌細胞増殖阻害剤、癌の予防および/または治療薬、癌細胞を検出する方法、癌の診断剤、ベクターおよび形質転換細胞、ならびに癌細胞増殖阻害活性を有する物質のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ZNF143特異的siRNAを用いた発現抑制により発現が変化する遺伝子をDNAマイクロアレイによって探索した。その結果、ZNF143はDNA複製、修復、さらに細胞分裂に関わる複数の遺伝子群を特異的に制御していることを見出した。前記遺伝子群のプロモーター領域のヌクレオチド配列解析から、ZNF143結合ヌクレオチド配列がおおむね転写開始点から上流1Kbp以内に存在することも見出した。ZNF143がその配列に確かに結合できることも明らかにした。タグ標識したZNF143を発現する癌細胞を用いたクロマチン免疫沈降法により、ZNF143が細胞内でもこれらの配列に結合していることも見出した。
【0010】
さらにZNF143の機能解析を進めたところ、ZNF143特異的siRNAによる発現抑制は癌細胞の増殖を抑制すること、および細胞周期をG2/M期に停止させることを見出した。これらの事実は、ZNF143が細胞増殖に深くかかわることを示している。そこでZNF143の発現をZNF143特異的抗体(ポリクローナル抗体)を用いて免疫組織染色により解析した。その結果、増殖性疾患の代表である癌組織中の癌細胞の核にZNF143の特異的発現が認められ、周辺の正常組織の細胞では発現がほとんど見られなかった。本発明はかかる知見により達成されたものである。
【0011】
すなわち本発明は以下に関する:
〔1〕 ZNF143の機能を抑制することを含む、癌細胞の増殖阻害方法。
〔2〕 機能の抑制が、ZNF143をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は15塩基以上の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターを用いて行われる、〔1〕記載の方法。
〔3〕 該ポリヌクレオチドが、配列番号6又は8で表されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は21塩基以上の連続するその部分配列を含む二本鎖RNAである、〔2〕記載の方法。
〔4〕 該ポリヌクレオチドが、配列番号1〜3で表されるいずれかのヌクレオチド配列又は21〜24塩基の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含む二本鎖RNAである、〔2〕記載の方法。
〔5〕 機能の抑制が、下記のヌクレオチド配列から選択されるいずれかのZNF143結合ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターを用いて行われる、〔1〕記載の方法:
(1)配列番号4で表されるヌクレオチド配列;及び
(2)配列番号4で表されるヌクレオチド配列に60%以上の同一性を有し、配列番号4で表されるヌクレオチド配列の4、5、6番目のシトシンが保存され、且つ13番目のヌクレオチドがシトシンまたはグアニンであるヌクレオチド配列。
〔6〕 癌が、大腸癌、肺癌、卵巣癌、乳癌、胆嚢癌、前立腺癌および子宮頸癌からなる群から選択されるいずれかである、〔1〕記載の方法。
〔7〕 ZNF143の機能を抑制する物質を含有する、癌細胞増殖阻害剤。
〔8〕 該物質が、ZNF143をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は15塩基以上の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターである、〔7〕記載の阻害剤。
〔9〕 該ヌクレオチドが、配列番号6又は8で表されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は21塩基以上の連続するその部分配列を含む二本鎖RNAである、〔8〕記載の阻害剤。
〔10〕 該ヌクレオチドが、配列番号1〜3で表されるいずれかのヌクレオチド配列又は21〜24塩基の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含む二本鎖RNAである、〔8〕記載の阻害剤。
〔11〕 該物質が、下記のヌクレオチド配列から選択されるいずれかのZNF143結合ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである、〔7〕記載の剤:
(1)配列番号4で表されるヌクレオチド配列;及び
(2)配列番号4で表されるヌクレオチド配列に60%以上の同一性を有し、配列番号4で表されるヌクレオチド配列の4、5、6番目のシトシンが保存され、かつ13番目のヌクレオチドがシトシンまたはグアニンであるヌクレオチド配列。
〔12〕 癌が、大腸癌、肺癌、卵巣癌、乳癌、胆嚢癌、前立腺癌および子宮頸癌からなる群から選択されるいずれかである、〔7〕記載の阻害剤。
〔13〕 ZNF143の機能を抑制する物質を活性成分として含有する、癌の予防および/または治療薬。
〔14〕 該物質が、ZNF143をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は15塩基以上の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターである、〔13〕記載の予防および/または治療薬。
〔15〕 該ポリヌクレオチドが、配列番号6又は8で表されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は21塩基以上の連続するその部分配列を含む二本鎖RNAである、〔14〕記載の予防および/または治療薬。
〔16〕 該ポリヌクレオチドが、配列番号1〜3で表されるいずれかのヌクレオチド配列又は21〜24塩基の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含む二本鎖RNAである、〔14〕記載の予防および/または治療薬。
〔17〕 該物質が、下記のヌクレオチド配列から選択されるいずれかのZNF143結合ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである、〔13〕記載の予防および/または治療薬:
(1)配列番号4で表されるヌクレオチド配列;及び
(2)配列番号4で表されるヌクレオチド配列に60%以上の同一性を有し、配列番号4で表されるヌクレオチド配列の4、5、6番目のシトシンが保存され、且つ13番目のヌクレオチドがシトシンまたはグアニンであるヌクレオチド配列。
〔18〕 癌が、大腸癌、肺癌、卵巣癌、乳癌、胆嚢癌、前立腺癌および子宮頸癌からなる群から選択されるいずれかである、〔13〕記載の予防および/または治療薬。
〔19〕 組織における、ZNF143の発現レベルを測定すること、及び該発現レベルに基づき、該組織中に癌細胞が含まれるか否かを判定することを含む、組織における癌細胞を検出する方法。
〔20〕 ZNF143をコードするポリヌクレオチドを特異的に検出し得る核酸プローブ又はプライマー、或いはZNF143を特異的に認識する抗体を含む、癌の診断剤。
〔21〕 下記のヌクレオチド配列から選択されるいずれかのZNF143結合ヌクレオチド配列の下流にモニタリング遺伝子をコードするヌクレオチド配列が機能的に連結されたヌクレオチド配列を有するベクター:
(1)配列番号4で表されるヌクレオチド配列;及び
(2)配列番号4で表されるヌクレオチド配列に60%以上の同一性を有し、配列番号4で表されるヌクレオチド配列の4、5、6番目のシトシンが保存され、且つ13番目のヌクレオチドがシトシンまたはグアニンであるヌクレオチド配列。
〔22〕 〔21〕記載のベクターで形質転換した細胞。
〔23〕 ZNF143の機能を抑制し得る物質を癌細胞の増殖を阻害し得る物質として選択することを含む、癌細胞増殖阻害活性を有する物質のスクリーニング方法。
〔24〕 以下の工程を含む、〔23〕記載の方法:
(a)ZNF143結合ヌクレオチド配列の下流にモニタリング遺伝子をコードするヌクレオチド配列が機能的に連結されたヌクレオチド配列を有するベクターで形質転換した細胞を、被検物質の存在下に培養すること、
(b)被検物質の存在下に培養した細胞におけるモニタリング遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被検物質の非存在下に培養した対照細胞における発現量と比較すること、及び
(c) (b)の比較結果に基づいて、モニタリング遺伝子の発現量を抑制する被検物質を癌細胞の増殖を阻害し得る物質として選択すること。
〔25〕 (a)で培養される細胞が癌細胞である、〔24〕記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、ZNF143の機能を阻害することを含む、癌細胞の増殖を阻害する方法;ZNF143に特異的なsiRNAのようなZNF143発現を抑制する等の機能阻害物質を有効成分として含有する癌細胞に対する特異性が高い優れた癌細胞増殖阻害剤(抗癌剤)等が提供され、また癌細胞増殖阻害活性を有する物質のスクリーニング方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(1.ZNF143の機能の抑制による癌細胞の増殖阻害)
本発明は、ZNF143の機能を抑制する物質を含む剤を提供する。該物質を哺乳動物に投与し、ZNF143の機能を抑制することにより、該哺乳動物における癌細胞の増殖を阻害し、癌を予防または治療することができる。したがって、本発明の剤は、癌細胞増殖阻害剤として、または癌の予防および/または治療薬として有用である。
【0014】
ZNF143は、DNA複製、修復、さらに細胞分裂等に関わる遺伝子群の発現を制御する公知の転写因子である。本発明において使用することのできるZNF143は哺乳動物由来のものである。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来る。哺乳動物は、好ましくはげっ歯類(例えば、マウス)又は霊長類(例えば、ヒト)である。ZNF143のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列も公知であり、公知の遺伝子配列データベース(例;NCBIデータベース)から入手可能である。ヒトZNF143のアミノ酸配列としては配列番号7で表されるアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号:NP_003433)が知られている。ヒトZNF143をコードするヌクレオチド配列(cDNA配列)としては、配列番号6で表されるヌクレオチド配列(NCBIアクセッション番号:NM_003442)が知られている。マウスZNF143のアミノ酸配列としては配列番号9で表されるアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号:NP_033307)が知られている。マウスZNF143をコードするヌクレオチド配列(cDNA配列)としては、配列番号8で表されるヌクレオチド配列(NCBIアクセッション番号:NM_009281)が知られている。
【0015】
本明細書において、あるヌクレオチド配列を有する核酸について記載する場合、特に断らない限り、該ヌクレオチド配列を有する一本鎖ポリヌクレオチド、該ヌクレオチド配列と相補的な配列を有する一本鎖ポリヌクレオチド、それらのハイブリッドである二本鎖ポリヌクレオチドをすべて包含する意味で用いられていると理解されるべきである。
【0016】
ZNF143の機能とは、ZNF143遺伝子の翻訳産物(すなわち、ポチペプチド)が有する生物学的機能(活性)をいう。ZNF143の機能としては、染色体や発現ベクター上のZNF143結合ヌクレオチド配列(例えば配列番号4で表されるヌクレオチド配列部位)に結合し、その下流に機能的に連結された遺伝子の発現を上昇させることを挙げることができる。ZNF143結合ヌクレオチド配列の好適な例としては、例えば配列番号10〜44のいずれかで表されるヌクレオチド配列等を挙げることができる。
【0017】
本明細書において、「ZNF143の機能の抑制」とは、ZNF143ポリペプチドが上述の機能を発揮するのを直接阻害することに加えて、ZNF143遺伝子の発現を抑制することにより結果としてZNF143ポリペプチドの機能が発現するのを抑制することをも含む。従って、本発明において、ZNF143の機能の抑制は、当業者に公知の任意のレベル、例えば、ZNF143遺伝子の転写レベル、ZNF143ポリペプチドの産生、又はZNF143ポリペプチドの活性発現レベルで実施することが可能である。
【0018】
転写レベルでの抑制は、ZNF143をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は15塩基以上の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを発現し得るベクターを用いて行うことができる。該ヌクレオチドは、ZNF143遺伝子(DNA又はmRNA)を標的とするsiRNA等のRNA干渉(RNAi)を誘導するヌクレオチド(ZNF143をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列の21塩基以上の連続する部分ヌクレオチド配列を有する一本鎖RNA又は二本鎖RNA)、アンチセンスヌクレオチド、又は各種のリボザイム等として作用し、ZNF143の発現を抑制することができる。
【0019】
ZNF143をコードするヌクレオチド配列としては、ZNF143をコードするcDNA、mRNA、初期転写産物(未成熟mRNA)、染色体DNAのヌクレオチド配列が含まれ、より具体的には、例えばヒトZNF143をコードするcDNAのヌクレオチド配列(例えば配列番号6)、マウスZNF143をコードするcDNAのヌクレオチド配列(例えば配列番号8)等を挙げることが出来る。
【0020】
目的とするポリヌクレオチドの標的領域と相補的なヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド、即ち、目的とするヌクレオチドと生理的な条件(例えば細胞内等)でハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドは、該目的とするポリヌクレオチドに対して「アンチセンス」であるということができる。ここで「相補的である」とは、ヌクレオチド配列間で約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、更に好ましくは約95%以上、最も好ましくは100%の相補性を有することをいう。本明細書におけるヌクレオチド配列の同一性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(NationalCenter for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。
【0021】
ZNF143をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又はその部分配列を含むヌクレオチド(以下、「アンチセンスZNF143」ともいう)は、クローン化された、あるいは決定されたZNF143をコードするヌクレオチド配列情報に基づき設計し、合成しうる。そうしたポリヌクレオチドは、ZNF143遺伝子の複製または発現を阻害することができる。即ち、アンチセンスZNF143は、ZNF143をコードする遺伝子(染色体DNA)から転写されるRNA(mRNA又は初期転写産物)と生理的な条件(例えば細胞内等)にてハイブリダイズすることができ、mRNAの合成(プロセッシング)または機能(タンパク質への翻訳)を阻害することができる。
【0022】
アンチセンスZNF143の標的領域は、アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、結果としてZNF143ポリペプチドへの翻訳が阻害されるものであればその長さに特に制限はなく、該ポリペプチドをコードするmRNAまたは初期転写産物の全長配列であっても部分配列であってもよく、短いもので約15塩基程度、長いものでmRNAまたは初期転写産物の全長配列が挙げられる。合成の容易さを考慮すれば、約15〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましいがそれに限定されない。このような観点から、本発明に用いられるアンチセンスZNF143は、ZNF143をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は15塩基以上(好ましくは18塩基以上、より好ましくは21塩基以上)の連続するその部分配列を含む。
【0023】
具体的には、例えば、ZNF143をコードする核酸(例えばmRNA又は初期転写産物)の5’端ヘアピンループ、5’端6−ベースペア・リピート、5’端非翻訳領域、翻訳開始コドン、タンパク質コード領域、翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域、および3’端ヘアピンループが標的領域として選択されうるが、ZNF143をコードするポリヌクレオチド内の如何なる領域も標的として選択しうる。例えば、ZNF143遺伝子のイントロン部分を標的領域とすることもまた好ましい。
【0024】
さらに、アンチセンスZNF143は、ZNF143ポリペプチドをコードするmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズしてポリペプチドへの翻訳を阻害するだけでなく、ZNF143ポリペプチドをコードする二本鎖DNAと結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAの転写を阻害し得るものであってもよい。
【0025】
アンチセンスポリヌクレオチドの種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。アンチセンスポリヌクレオチドは一本鎖又は二本鎖である。また、天然型のアンチセンスポリヌクレオチドは、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、アンチセンスポリヌクレオチドは、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’−O−メチル型、モルフォリノオリゴ基修飾型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成もできる。
【0026】
本発明において、ZNF143をコードするmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムもまた、アンチセンスZNF143に包含され得る。「リボザイム」とは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位のヌクレオチド配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
【0027】
ZNF143をコードするmRNAもしくは初期転写産物のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は21塩基以上の連続するその部分配列を含む二本鎖RNAは好ましいアンチセンスZNF143である。二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAの一方の鎖に相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、この現象が哺乳動物細胞でも起こることが確認されて以来[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として広く利用されている。
【0028】
上記二本鎖RNAは、代表的には、ZNF143のmRNAもしくは初期転写産物のヌクレオチド配列又はその部分配列(以下、標的ヌクレオチド配列)を有するRNAとその相補鎖からなる二本鎖オリゴRNAである。また、ヘアピンループ部分を介して、標的ヌクレオチド配列(第1の配列)と、その相補配列(第2の配列)とが連結された一本鎖RNAであって、ヘアピンループ型の構造をとることにより、第1の配列が第2の配列と二本鎖構造を形成するRNA(small hairpin RNA: shRNA)も上記二本鎖RNAに包含される。
【0029】
上記二本鎖RNAに含まれる、標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さは、通常、約21塩基以上の長さであるが、RNA干渉を引き起こすことが出来る限り、特に限定されない。二本鎖RNAが23塩基よりも長い場合には、該二本鎖RNAは細胞内でDicerにより分解されて、約20塩基前後(通常21〜23塩基)のsiRNAを生じるので、理論的には標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さの上限は、ZNF143のmRNAもしくは初期転写産物のヌクレオチド配列の全長である。しかし、合成の容易さや抗原性の問題等を考慮すると、該相補的な部分の長さは、例えば約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。即ち、該相補的な部分の長さは、例えば約21塩基以上、好ましくは約21〜約200塩基、より好ましくは約21〜約50塩基、更に好ましくは約21〜約30塩基、最も好ましくは約21〜約27塩基である。
【0030】
また、二本鎖RNAの全長も、通常、約21塩基以上の長さであるが、RNA干渉を引き起こすことが出来る限り、特に限定されず、理論的には二本鎖RNAの長さの上限はない。しかし、合成の容易さや抗原性の問題等を考慮すると、二本鎖RNAの長さは、例えば約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。即ち、二本鎖RNAの長さは、例えば約21塩基以上、好ましくは約21〜約200塩基、より好ましくは約21〜約50塩基、更に好ましくは約21〜約30塩基、最も好ましくは約21〜約27塩基である。なお、shRNAの核酸の長さは、二本鎖構造をとった場合の二本鎖部分の長さとして示すものとする。
【0031】
二本鎖RNAは、5’又は3’末端に5塩基以下、好ましくは2塩基からなる、塩基対を形成しない、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いると二本鎖RNAの安定性を向上させることができる。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0032】
shRNAのヘアピンループのループ部分の長さは、RNA干渉を引き起こすことが出来る限り、特に限定されないが、通常、5〜25塩基程度である。該ループ部分のヌクレオチド配列は、ループを形成することができ、且つ、shRNAがRNA干渉を引き起こすことができる限り、特に限定されない。
【0033】
1つの好ましい態様において、本発明に用いられるヌクレオチドは、配列番号6又は8で表されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は21塩基以上の連続するその部分配列を含む二本鎖RNAである。該2本鎖RNAには、配列番号6又は8で表されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は21塩基以上の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド(RNA)と、該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド(RNA)とが含まれ、その2つのRNAがハイブリダイズすることにより二本鎖を構成し得る。
【0034】
本発明に用いられる別の好ましいヌクレオチドは、配列番号1〜3で表されるいずれかのヌクレオチド配列又は21〜30塩基の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド(RNA)、及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド(RNA)を含む二本鎖RNAである。該二本鎖RNAにおいては、配列番号1〜3で表されるいずれかのヌクレオチド配列又は21〜30塩基の連続するその部分配列を含むRNAと、該ポリヌクレオチドに相補的なRNAとがハイブリダイズすることにより二本鎖を構成し得る。
【0035】
アンチセンスZNF143は、ZNF143のcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製できる。二本鎖RNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製できる。
【0036】
本発明においては、該上述のアンチセンスZNF143を発現し得る(コードする)発現ベクターを用いてもよい。当該発現ベクターにおいては、通常、上記のアンチセンスZNF143をコードするポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。
【0037】
使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物の細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のプロモーター等が用いられる。
【0038】
コードされるアンチセンスZNF143が、RNAである場合には、プロモーターとしてpolIII系プロモーターを使用することが好ましい。polIII系プロモーターとしては、例えば、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター等を挙げることができる。
【0039】
本発明に用いる発現ベクターは、好ましくはアンチセンスZNF143の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。
【0040】
本発明において発現ベクターとして使用されるベクターの種類は特に制限されないが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターやプラスミドベクターが挙げられる。このうち、アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能である等の利点を有する。但し、導入遺伝子の宿主染色体への組込みは極めて稀であるので、遺伝子発現は一過性で通常約4週間程度しか持続しない。治療効果の持続性を考慮すれば、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、且つ逆位末端繰り返し配列(ITR)を介して染色体に組み込まれ得るアデノ随伴ウイルスの使用もまた好ましい。
【0041】
ZNF143ポリペプチドの活性発現レベルの抑制としては、ZNF143ポリペプチドのDNA結合阻害や転写機能阻害を挙げることが出来る。上述のように、ZNF143は生理的な条件(例えば細胞内等)において染色体や発現ベクター上のZNF143結合ヌクレオチド配列(例えば配列番号4で表されるヌクレオチド配列)部位に結合し、その下流に機能的に連結された遺伝子の発現を上昇させる機能を有する。従って、ZNF143結合ヌクレオチド配列(例えば下記のヌクレオチド配列から選択されるいずれかのヌクレオチド配列)を含むポリヌクレオチド(デコイポリヌクレオチド)又は該デコイポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターを投与することにより、染色体上のZNF143結合ヌクレオチド配列へのZNF143の結合が阻害され、ZNF143の機能(転写促進活性)が抑制され、癌細胞の増殖が阻害される:
(1)配列番号4で表されるヌクレオチド配列;及び
(2)配列番号4で表されるヌクレオチド配列に60%以上の同一性を有し、配列番号4で表されるヌクレオチド配列の4、5、6番目のシトシンが保存され、且つ13番目のヌクレオチドがシトシンまたはグアニンであるヌクレオチド配列。従って、上記デコイポリヌクレオチド及び該デコイポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターも、本発明の剤に含まれ得るZNF143の機能を抑制する物質として好ましい。ZNF143結合ヌクレオチド配列の好適な例としては配列番号10〜44のいずれかで表されるヌクレオチド配列を挙げることができる。
【0042】
配列番号4で表されるZNF143結合ヌクレオチド配列は、ZNF143によりアップレギュレートされる遺伝子群のプロモーターに共通して存在するZNF143結合ヌクレオチド配列である。配列番号4で表されるヌクレオチド配列の好ましい例としては、例えば配列番号10〜29のいずれかで表されるヌクレオチド配列の3’末端の19塩基、配列番号30〜44のいずれかで表されるヌクレオチド配列等を挙げることができる。
【0043】
上記デコイポリヌクレオチドの好適な例としては、配列番号10〜44のいずれかで表されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド(DNA)を挙げることができる。
【0044】
後述の実施例で示されるように、ZNF143が結合するヌクレオチド配列においては、配列番号4で表されるヌクレオチド配列の4、5、6番目のシトシン、及び13番目のシトシン又はグアニンが高度に保存されているのに対して、それ以外の部分のヌクレオチドが置換されていても、ZNF143の結合活性への影響は低い。従って、配列番号4で表されるヌクレオチド配列に60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、更に好ましくは約90%以上、より更に好ましくは約95%以上の同一性を有し、且つ配列番号4で表されるヌクレオチド配列の4、5、6番目のシトシンが保存され、且つ13番目のヌクレオチドがシトシン又はグアニンであるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドもデコイポリヌクレオチドとして有用である。ZNF143は生理的な条件(例えば細胞内等)で該デコイポリヌクレオチドに結合することが可能であり、その結果、染色体上のZNF143結合ヌクレオチド配列へのZNF143の結合が阻害され、ZNF143の機能(転写促進活性)が抑制される。
【0045】
上記デコイポリヌクレオチドの長さは、合成の容易さや抗原性の問題等から、通常約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。
【0046】
デコイポリヌクレオチドの種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、通常DNAである。デコイポリヌクレオチドは一本鎖又は二本鎖であるが、好ましくは二本鎖である。また、天然型のデコイポリヌクレオチドは、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、デコイポリヌクレオチドは、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’−O−メチル型、モルフォリノオリゴ基型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成もできる。
【0047】
デコイポリヌクレオチドは、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて合成することが可能である。
【0048】
本発明は、該上述のデコイポリヌクレオチドを発現し得る(コードする)発現ベクターを用いても行うことができる。当該発現ベクターにおいては、通常、上記のデコイポリヌクレオチドをコードするヌクレオチド配列が、投与対象である哺乳動物の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。その他の発現ベクターの態様は、上述のアンチセンスポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターと同一である。
【0049】
本発明の剤は、有効量のZNF143の機能を抑制する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。
【0050】
医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニトール、ソルビトール、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑沢剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0051】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の有効成分を溶解させた液剤、有効量の有効成分を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の有効成分を懸濁させた懸濁液剤、有効量の有効成分を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
【0052】
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0053】
ポリヌクレオチドや発現ベクターの細胞内への導入を促進するために、本発明の剤は更にポリヌクレオチド導入用試薬を含むことができる。該ポリヌクレオチドがウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターに組み込まれている場合には、ポリヌクレオチド導入試薬としてはレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。また、該ポリヌクレオチドがプラスミドベクターに組み込まれている場合は、リポフェクチン、リプフェクタミン(lipfectamine)、DOGS(トランスフェクタム;ジオクトアデシルアミドグリシルスペルミン)、DOPE(1,2-ジオールエオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)、DOTAP(1,2-ジオールエオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン)、DDAB(ジメチルジオクトアデシルアンモニウム臭化物)、DHDEAB(N,N-ジ-n-ヘキサアデシル-N,N-ジヒドロキシエチルアンモニウム臭化物)、HDEAB(N-n-ヘキサアデシル-N,N-ジヒドロキシエチルアンモニウム臭化物)、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質やリン酸カルシウムを用いることが出来る。
【0054】
本発明の剤の投与量及び投与方法又は投与手段は、活性の種類、病状の重さ、治療方針、患者の年齢、体重、性別、全般的な健康状態、及び患者の(遺伝的)人種的背景に応じて、当業者が適宜選択することができる。例えば、上記アンチセンスポリヌクレオチドやデコイポリヌクレオチドを成人に投与する場合の投与量は約0.1〜100mg/日/人である。
【0055】
本発明の剤は癌細胞の増殖阻害用であり得る(癌細胞の増殖阻害剤)。本発明の剤によりZNF143の機能を抑制することにより、所望の癌(例えば、大腸癌、肺癌(腺癌)、卵巣癌、乳癌、胆嚢癌、前立腺癌、子宮頸癌等)の細胞の増殖が抑制される。従って、本発明の剤は、所望の癌(例えば、大腸癌、肺癌(腺癌)、卵巣癌、乳癌、胆嚢癌、前立腺癌、子宮頸癌等)の予防又は治療薬として有用である。
【0056】
(2.ZNF143を利用した癌の検出)
本発明は、組織における、ZNF143の発現レベルを測定すること、及び該発現レベルに基づき、該組織中に癌細胞が含まれるか否かを判定することを含む、組織における癌細胞を検出する方法(本発明の検出方法)を提供するものである。
【0057】
本発明の検出方法において用いることのできる組織の種類としては、前記哺乳動物(ヒト、マウス等)由来の大腸、肺、卵巣、乳線、胆嚢、子宮等を挙げることができるが、特に限定されない。生体から分離された組織を用いることにより、本発明の検出方法をインビトロで行うことができる。
【0058】
本発明の検出方法においては、種々の組織におけるZNF143のポリペプチド又は該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(例えばmRNA、好ましくは成熟mRNA)の発現レベルが測定される。
【0059】
ZNF143ポリペプチドの発現レベルは、ZNF143を特異的に認識する抗体、例えば、配列番号7又は9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識する抗体を用いて、免疫学的手法により測定することができる。免疫学的手法としては、フローサイトメトリー解析、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、ウェスタンブロッティング、免疫組織染色等を挙げることができる。
【0060】
ZNF143を特異的に認識する抗体は、ZNF143ポリペプチドやその抗原性を有する部分ペプチドを免疫原として用い、既存の一般的な製造方法によって製造することができる。本明細書において、抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、およびこれらの結合性断片が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体又はこれらの結合性断片である。結合性断片とは、特異的結合活性を有する前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab')2、Fab'、Fab、Fv、sFv、dsFv、sdAb等が挙げられる(Exp. Opin. Ther. Patents, Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgG又はIgMであり、精製の容易性等を考慮すると、より好ましくはIgGである。
【0061】
ZNF143をコードするポリヌクレオチドの発現レベルは、該ポリヌクレオチドを特異的に検出し得る核酸プローブ又はプライマー、例えば、
(i)配列番号6又は8で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを特異的に検出し得る核酸プローブ又はプライマー、或いは
(ii)配列番号7又は9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを特異的に検出し得る核酸プローブ又はプライマー
を用いて、自体公知の方法により測定することが出来る。該測定方法としては、例えば、RT-PCR、ノザンブロッティング、in situ ハイブリダイゼーション、cDNAアレイ等を挙げることができる。
【0062】
1つの好ましい態様において、本発明の検出方法に用いられる核酸プローブは、配列番号6又は8で表されるヌクレオチド配列、或いは配列番号7又は9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に含まれる、約15塩基以上、好ましくは約18〜約500塩基、より好ましくは約18〜約200塩基、いっそう好ましくは約18〜約50塩基の連続したヌクレオチド配列又はその相補配列を含むポリヌクレオチドである。
【0063】
別の好ましい態様において、本発明の検出方法に用いられる核酸プローブは、配列番号6又は8で表されるヌクレオチド配列、あるいは配列番号7又は9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである。ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。ストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1% SDS中65℃での一回以上の洗浄などが挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダイゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。核酸プローブの長さは、通常約15塩基以上、好ましくは約18〜約500塩基、より好ましくは約18〜約200塩基、更に好ましくは約18〜約50塩基である。
【0064】
核酸プローブは、特異的検出に支障を生じない範囲で付加的配列(検出対象のポリヌクレオチドと相補的でないヌクレオチド配列)を含んでいてもよい。
【0065】
また、核酸プローブは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。あるいは、蛍光物質(例:FAM、VIC等)の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(消光物質)がさらに結合されていてもよい。かかる実施態様においては、検出反応の際に蛍光物質とクエンチャーとが分離して蛍光が検出される。
【0066】
本発明の検出方法に用いられる核酸プライマーは、配列番号6又は8で表されるヌクレオチド配列、あるいは配列番号7又は9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドの一部又は全部の領域を特異的に増幅し得るように設計されたものであればいかなるものであってもよい。例えば、上記ヌクレオチド配列の相補配列の一部にハイブリダイズする、約15〜約50塩基、好ましくは約18〜約30塩基のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドと、このハイブリダイゼーション部位より3’側の上記ヌクレオチド配列の一部にハイブリダイズする、約15〜約50塩基、好ましくは約18〜約30塩基のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドとの組み合わせであり、それらによって増幅される核酸の断片長が約50〜約1,000塩基、好ましくは約50〜約500塩基、より好ましくは約50〜約200塩基である、一対のポリヌクレオチドが挙げられる。
【0067】
核酸プライマーは、特異的検出に支障を生じない範囲で付加的配列(検出対象のポリヌクレオチドと相補的でないヌクレオチド配列)を含んでいてもよい。
【0068】
また、核酸プライマーは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。
【0069】
核酸プローブまたはプライマーは、DNAであってもRNAであってもよく、また、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。二本鎖の場合は二本鎖DNA、二本鎖RNA、DNA/RNAハイブリッドのいずれであってもよい。
【0070】
上記核酸プローブまたはプライマーは、例えば、配列番号6又は8で表されるヌクレオチド配列の情報に基づいて、DNA/RNA自動合成機を用いて常法に従って合成することができる。
【0071】
次に、測定されたZNF143の発現レベルに基づいて、組織中に癌細胞が含まれているか否かが判定される。後述の実施例に示すように、癌細胞においては正常細胞と比較してZNF143の発現レベルが高いので、組織に癌細胞が含まれていると、測定されるZNF143の発現レベルが高くなる。上記判定は、ZNF143の発現レベルと組織中の癌細胞の有無との間のこのような相関に基づき行われる。
【0072】
例えば、癌細胞が含まれていない正常組織(ネガティブコントロール)及び、癌細胞が含まれている組織(ポジティブコントロール)を用意し、対象患者から摘出された組織におけるZNF143発現レベルがポジティブコントロール及びネガティブコントロールのそれと比較される。あるいは、組織中のZNF143発現レベルと癌細胞の有無との相関図をあらかじめ作成しておき、対象患者から摘出された組織におけるZNF143発現レベルをその相関図と比較してもよい。発現レベルの比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。
【0073】
そして、ZNF143発現レベルの比較結果より、測定対象のZNF143発現レベルが相対的に高い場合には、組織中に癌細胞が含まれている可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、測定対象のZNF143発現レベルが相対的に低い場合には、組織中に癌細胞が含まれている可能性が相対的に低いと判定することができる。
【0074】
また、ZNF143発現レベルのカットオフ値をあらかじめ設定しておき、測定されたZNF143発現レベルとこのカットオフ値とを比較することによって行うこともできる。例えば、測定されたZNF143発現レベルが前記カットオフ値以上である場合には、組織中に癌細胞が含まれている可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、ZNF143発現レベルがカットオフ値を下回る場合には、組織中に癌細胞が含まれている可能性が相対的に低いと判定することができる。「カットオフ値」は、その値を基準として疾患や状態の判定をした場合に、高い診断感度(有病正診率)及び高い診断特異度(無病正診率)の両方を満足できる値である。例えば、癌細胞が含まれている組織で高い陽性率を示し、かつ、癌細胞が含まれていない組織で高い陰性率を示す、ZNF143発現レベルをカットオフ値として設定することが出来る。
【0075】
また、本発明は、上述のZNF143をコードするポリヌクレオチドを特異的に検出し得る核酸プローブ又はプライマー、或いはZNF143を特異的に認識する抗体を含む癌の診断剤を提供するものである。本発明の診断剤は、組織中に癌細胞が含まれるか否かを判定するためのキットであり得る。本発明の診断剤を用いることにより、上述の方法により容易に組織中に癌細胞が含まれるか否かを判定することができる。
【0076】
本発明の診断剤は、ZNF143の発現レベルの測定方法に応じて、当該方法の実施に必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。
【0077】
例えば、本発明の診断剤がZNF143を特異的に認識する抗体を含むものであれば、免疫学的手法によりZNF143発現レベルを測定することにより、組織中に癌細胞が含まれているか否かを判定することができる。この場合、本発明の診断剤は、標識二次抗体、発色基質、ブロッキング液、洗浄緩衝液、ELISAプレート、ブロッティング膜等をさらに含むことができる。
【0078】
本発明の診断剤がZNF143をコードするポリヌクレオチドを特異的に検出し得る核酸プローブ又はプライマーを含むものであれば、RT-PCR、ノザンブロッティング、in situ ハイブリダイゼーション、cDNAアレイ等によりZNF143発現レベルを測定することにより、組織中に癌細胞が含まれているか否かを判定することができる。RT-PCRを測定に用いる場合には、本発明の診断剤は、10×PCR反応緩衝液、10×MgCl2水溶液、10×dNTPs水溶液、Taq DNAポリメラーゼ(5U/μL)、逆転写酵素等をさらに含むことができる。ノザンブロッティングやcDNAアレイを測定に用いる場合には、本発明の診断剤は、ブロッティング緩衝液、標識化試薬、ブロッティング膜等をさらに含むことができる。in situ ハイブリダイゼーションを測定に用いる場合には、本発明の診断剤は、標識化試薬、発色基質等をさらに含むことができる。
【0079】
(3.ZNF143が結合するポリヌクレオチドを含むベクター)
本発明は、上述のZNF143結合ヌクレオチド配列の下流にモニタリング遺伝子をコードするヌクレオチド配列が機能的に連結されたヌクレオチド配列を有するベクターを提供する。本発明のベクターは、下記の本発明のスクリーニング方法において有用である。
【0080】
モニタリング遺伝子としては、発現の検出が容易なタンパク質(発光/蛍光遺伝子群(例えばGFP(緑色蛍光蛋白質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子))が挙げられ、特に限定されないが、発光遺伝子ルシフェラーゼが好ましい。ベクターは本技術分野では公知であり、例えば上述の(1.ZNF143の機能の抑制による癌細胞の増殖阻害)の項で列挙されたベクターを用いることが出来る。また、モニタリング遺伝子が既に組み込まれている市販のベクターを用いてもよい。
【0081】
本発明のベクターにおいては、ZNF143結合ヌクレオチド配列の下流にモニタリング遺伝子をコードするヌクレオチド配列が機能的に連結されている。
「機能的に連結」とは、細胞内においてZNF143結合ヌクレオチド配列がモニタリング遺伝子のプロモーターとして作用し、ZNF143のZNF143結合ヌクレオチド配列への結合によりモニタリング遺伝子の発現が誘導されるような連結の態様をいう。通常、ZNF143結合ヌクレオチド配列はモニタリング遺伝子の5’に配置される。ZNF143結合ヌクレオチド配列とモニタリング遺伝子の開始コドンとの間の距離は、通常20〜150bpであるが、「機能的に連結」が達成される限り特に限定されない。ZNF143結合ヌクレオチド配列とモニタリング遺伝子の転写開始部位との間に介在するヌクレオチド配列も、「機能的に連結」が達成される限り特に限定されない。
【0082】
本発明のベクターにおいて、1つのベクター内に含まれるZNF143結合ヌクレオチド配列のコピー数は特に限定されず、1つのベクター内にZNF143結合ヌクレオチド配列が1コピーのみ含まれていてもよく、あるいは、複数コピー数のZNF143結合ヌクレオチド配列がタンデムに連結された態様で1つのベクター内に含まれていてもよい。複数コピー数のZNF143結合ヌクレオチド配列をタンデムに連結して用いることにより、より強力にモニタリング遺伝子の発現を誘導することが可能となり、下記のスクリーニングにおいてモニタリング遺伝子の検出感度が上昇する。複数コピー数のZNF143結合ヌクレオチド配列をタンデムに連結して用いる場合において、連結されるZNF143結合ヌクレオチド配列のコピー数は特に限定されないが、例えば2〜50コピー、好ましくは2〜20コピー、より好ましくは2〜10コピー程度である。ポリヌクレオチドの連結操作の容易性などを考慮すると、2〜5コピー程度が好ましい。
【0083】
複数コピー数のZNF143結合ヌクレオチド配列をタンデムに連結して使用する場合、それぞれのZNF143結合ヌクレオチド配列は、お互いに同一であっても異なっていてもよい。ZNF143結合ヌクレオチド配列同士は、隣接して(即ち、スペーサー領域を介さずに)連結されていてもよく、或いはスペーサー領域を介して連結されていてもよい。スペーサー領域の長さは、モニタリング遺伝子から連結された複数コピー数のZNF143結合ヌクレオチド配列までの各構成要素が途切れることなく1つのベクター内に安定に存在し得、且つ、ZNF143の結合依存的にモニタリング遺伝子の発現が誘導され得る限り、特に限定されないが、多くとも10Kbp、例えば5Kbp以下、3Kbp以下、1Kbp以下、500bp以下、200bp以下、100bp以下、50bp以下、25bp以下であることが好ましい。スペーサー領域を構成するヌクレオチド配列は、特に限定されず、任意の配列とすることができる。
【0084】
本発明のベクターは、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを、それぞれ機能可能な態様で含有していてもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、dhfrと略称する場合がある)遺伝子〔メソトレキセート(MTX)耐性〕、アンピシリン耐性遺伝子(Ampと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(Neoと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。
【0085】
本発明のベクターを、自体公知の遺伝子導入法(例えば、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、プロトプラスト融合法、エレクトロポレーション法、DEAEデキストラン法、Gene Gunによる遺伝子導入法等)に従って細胞へ導入することにより、該ベクターで形質転換した細胞(本発明の細胞)を製造することができる。該細胞は、下記の本発明のスクリーニング方法に有用である。
【0086】
該細胞としては、例えば、エシェリヒア属菌(エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等)、バチルス属菌(バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)等)、酵母(サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等)、昆虫細胞(夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)等)、哺乳動物細胞などが用いられる。該細胞は好ましくは哺乳動物細胞である。
【0087】
哺乳動物細胞としては、癌細胞株、初代培養細胞等が挙げられ、特にその種類は限定されないが、通常は癌細胞(PC3細胞等)が用いられる。
【0088】
哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オラウータン、チンパンジーなどの霊長類を挙げることが出来る。
【0089】
該細胞は、ZNF143を発現していることが好ましい。ZNF143を発現した細胞に上記ベクターが導入されると、ZNF143がベクター上のZNF結合ヌクレオチド配列に結合し、ZNF143依存的にモニタリング遺伝子が発現する。癌細胞は通常ZNF143を高いレベルで発現しているので、このような観点からも、癌細胞へ本発明のベクターを導入することが好ましい。
【0090】
(4.癌細胞の増殖阻害活性を有する物質のスクリーニング方法)
上述の様に、ZNF143の機能を抑制する物質は、癌細胞の増殖を阻害し、癌を予防・治療し得る。従って、ZNF143の機能を抑制する物質を選択することにより、癌細胞の増殖を阻害する物質、あるいは癌の予防および/または治療用物質を獲得することができる。
【0091】
スクリーニング方法に供される物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0092】
例えば、ZNF143の発現又は機能を測定可能な細胞を、被検物質の存在下で培養し、被検物質の存在下で培養した細胞におけるZNF143の発現量又は機能を測定し、該発現量又は機能を被検物質の非存在下で培養した対照細胞におけるZNF143の発現量又は機能と比較する。
【0093】
ZNF143の発現を測定可能な細胞とは、ZNF143遺伝子の産物、例えば、転写産物、翻訳産物の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。ZNF143遺伝子の産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、ZNF143を天然で発現可能な細胞であり得、一方、ZNF143遺伝子の産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、ZNF143遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。
【0094】
ZNF143を天然で発現可能な細胞は、ZNF143を潜在的に発現するものである限り特に限定されない。かかる細胞は、当業者であれば容易に同定でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。ZNF143を天然で発現可能な細胞としては、例えば、前記哺乳動物の大腸癌細胞、卵巣癌細胞、胚癌細胞、乳癌細胞、胆嚢癌細胞、前立腺癌細胞、子宮頸癌細胞等を挙げることができる。
【0095】
ZNF143遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、ZNF143遺伝子転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。ZNF143遺伝子転写調節領域、レポーター遺伝子は、発現ベクター中に挿入され得る。ZNF143遺伝子転写調節領域は、ZNF143遺伝子の発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つZNF143遺伝子の転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる。レポーター遺伝子は、検出可能な蛋白質又は検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光蛋白質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
【0096】
ZNF143の機能を測定可能な細胞としては、上記本発明の細胞を挙げることができる。該細胞においては、ZNF143の機能レベルを、モニタリング遺伝子の発現量を指標として評価することが可能であり、ZNF143の機能が阻害されると、モニタリング遺伝子の発現量が低下する。
【0097】
次に、被検物質の存在下で培養された細胞におけるZNF143の発現量又は機能が測定される。発現量や機能の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。例えば、ZNF143の発現を測定可能な細胞として、ZNF143を天然で発現可能な細胞を用いた場合、発現量は、ZNF143遺伝子の産物、例えば、転写産物(mRNA)又は翻訳産物(ポリペプチド)を対象として自体公知の方法により測定できる。例えば、転写産物の発現量は、細胞からtotal RNAを調製し、RT-PCR、ノザンブロッティング等により測定され得る。また、翻訳産物の発現量は、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定され得る。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、蛍光抗体法、ウェスタンブロッティング法などが使用できる。一方、ZNF143の発現を測定可能な細胞として、ZNF143遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。また、ZNF143の機能を測定可能な細胞として、上記本発明の細胞を用いた場合、ZNF143の機能は、モニタリング遺伝子の発現量として評価される。
【0098】
次いで、被検物質の存在下で培養した細胞におけるZNF143の発現又は機能が、被検物質の非存在下で培養した対照細胞におけるZNF143の発現又は機能と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被検物質を接触させない対照細胞におけるZNF143の発現量又は機能は、被検物質を接触させた細胞におけるZNF143の発現量又は機能の測定に対し、事前に測定した値であっても、同時に測定した値であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した値であることが好ましい。
【0099】
比較の結果、ZNF143の発現又は機能を抑制すると判定された化合物を、癌細胞の増殖を阻害し得る物質、あるいは癌を予防および/または治療し得る物質として得ることが出来る。
【0100】
好ましい一態様において、本発明のスクリーニング方法は以下の工程を含む:
(a)ZNF143結合ヌクレオチド配列の下流にモニタリング遺伝子をコードするヌクレオチド配列が機能的に連結されたヌクレオチド配列を有するベクターで形質転換した細胞を、被検物質の存在下に培養すること、
(b)被検物質の存在下に培養した細胞におけるモニタリング遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被検物質の非存在下に培養した対照細胞における発現量と比較すること、及び
(c) (b)の比較結果に基づいて、モニタリング遺伝子の発現量を抑制する被検物質を癌細胞の増殖を阻害し得る物質として選択すること。
【0101】
本発明のスクリーニング方法によって得られ得る物質は、医薬品開発のための候補化合物とすることができ、また、上記の本発明の剤と同様に、製剤化することにより、癌細胞の増殖阻害剤、あるいは癌の予防および/または治療薬とすることができる。
【0102】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0103】
〔実施例1〕DNAアレイによる発現解析
肺癌細胞株を用いて、RNA干渉法による発現プロファイル解析を行った。すなわち本文記載の配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなるsiRNAをインビトロゲン社のリポフェクトアミン2000とOpti−MEM培地を用いて肺癌細胞株にトランスフェクトし、3日間培養した後、DNAアレイにより発現解析した。その結果、ZNF143遺伝子は細胞周期を正に制御する分子群の少なくとも20以上の分子について転写調節を司ることが判った。このことから、ZNF143遺伝子はマスター遺伝子の性格を持っていると推測される。
【0104】
siRNA(配列番号1)非存在下で培養された細胞の発現量に比較して発現割合が0.4以下に制御される遺伝子は約150個あった。このうち細胞増殖に必須の遺伝子としては、表1に記載のものが認められた。
【0105】
【表1−1】

【0106】
【表1−2】

【0107】
次に、ヒトゲノム情報から表1に列挙した遺伝子のヌクレオチド配列を検索し、同時にプロモーター部分の塩基配列も確認した。その結果、プロモーターヌクレオチド配列解析から、これらのすべての遺伝子は、コアプロモーター領域にZNF143結合部位をもつことが判った。各遺伝子のプロモーター領域に存在するZNF143結合ヌクレオチド配列を表1に記載する。なおこれらのうち、配列番号10〜29で表されるヌクレオチド配列においては、5’末端の6塩基のヌクレオチドがなくても、それぞれのヌクレオチドはZNF143への結合活性を有する。また、表1に列挙されたZNF143結合ヌクレオチド配列が、各遺伝子のZNF143による発現調節に関与していることを、ゲルシフト法、クロマチン免疫沈降法で明らかにした。
ゲルシフト法では、上記のZNF143結合ヌクレオチド配列(配列番号10〜44)からなるDNAおよびリコンビナント法で製造したZNF143タンパクを精製したものを用いた。これにより、試験管内実験でZNF143が上記ZNF143結合ヌクレオチド配列に結合することが明らかになった。
クロマチン免疫沈降法では、実際に細胞内にZNF143ポリペプチド/ZNF143結合ヌクレオチド配列の結合体の存在が確認された。具体的な手順は以下の通りである。
1)細胞はZNF143ポリペプチドを産生しているので、細胞内でZNF143ポリペプチド/遺伝子結合体が存在している。
2)ホルムアルデヒドを用いて蛋白とDNAを共有結合させる。
3)細胞を破壊して、核(クロマチン)画分を採取する。
4)超音波を用いてDNAを粉砕する。
5)抗ZNF143抗体で免疫沈降させる。
6)DNAを抽出する。
7)別途、標的遺伝子についてのゲノム情報から確認したプロモーター部の結合ヌクレオチド配列を挟むプライマーを設計しておく。
8)当該プライマーを用いてPCR法でヌクレオチド配列を増幅する。
9)アガロースゲル電気泳動により、PCR産物の存在を確認する。
【0108】
上記解析の結果から、ZNF143が、遺伝子のプロモーター領域中の配列番号4で表されるヌクレオチド配列に結合し、該遺伝子の発現を調節していることが示唆された。
【0109】
〔実施例2〕ZNF143特異的siRNA導入細胞のFACS解析
ZNF143特異的siRNA(配列番号1)を前立腺癌細胞株PC3に導入後72時間での細胞周期をFACS解析した。結果を表2に示す。表中の数値は全細胞数に対する各期の細胞数を百分率で表したものである。この解析により、G2/M期への細胞集積が観察され、subG1分画の出現が認められた。従って、ZNF143に対するsiRNAの細胞内導入で癌細胞の増殖は完全に抑制され、G2/M期で細胞周期の停止を起こすことが分かった。
【0110】
【表2】

【0111】
〔実施例3〕臨床癌試料の免疫組織染色
代表的な癌組織のホルマリン固定パラフィン切片を用いた免疫染色を、ポリクローナル抗体、デキストランポリマー法およびジアミノベンチジン(DAB)を用いて行った(Kohno Y. et al. Brit.J.Cancer 2006,94, p710〜716)。
【0112】
癌組織は増殖性疾患の代表である大腸癌、肺癌(腺癌)、卵巣癌、乳癌、胆嚢癌および子宮頸癌の臨床試料を用いた。その結果、正常細胞ではZNF143の発現は少なく、癌細胞では過剰発現していることが判った。染色結果を図2〜4に示す。本解析に使用した抗ZNF143ポリペプチド抗体はウサギポリクローナル抗体でありDr.G.R.Kunkel(Texas A&M University)より分与されたものである(Rincon J.C. et al. Nucleic Acids Res. 1998, 21,p4846〜4852)。
【0113】
〔実施例4〕ZNF143特異的siRNA導入細胞の増殖抑制
配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなるsiRNAおよび非特異的siRNA(インビトロゲン社のコントロールsiRNA)を、インビトロゲン社のリポフェクトアミン2000とOpti−MEM培地とを用いて肺癌細胞株A549と前立腺癌細胞株PC3とに導入した。肺癌細胞株A549の結果を図5に、前立腺癌細胞株PC3の結果を図6に示す。培養の結果、特異的siRNA導入細胞は非特異的siRNA導入細胞に比べ、細胞増殖が抑制された。
【0114】
〔実施例5〕化合物スクリーニング系
配列番号16に示したZNF143結合塩基配列を2つタンデムに連結した合成DNAを、pGL3(発光遺伝子ルシフェラーゼを持つベクター)の発光遺伝子の上流に挿入した。このプラスミドを前立腺癌PC3細胞に導入し、ルシフェラーゼを恒常的に発現する細胞を樹立した。樹立された細胞は、ZNF143遺伝子依存的にルシフェラーゼを発現する。この培養系に配列番号3で表されるヌクレオチド配列からなるsiRNAと非特異的siRNA(インビトロゲン社のコントロールsiRNA)とを、それぞれ別個に適用したところ、siRNA(配列番号3)の場合はルシフェラーゼの発現が抑制されて発光が低下したが、非特異的siRNAの場合は変化が認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
ZNF143遺伝子は、細胞周期の進行、及びDNA修復に重要な遺伝子の発現を制御していることから、その機能阻害は癌細胞をG2期に停止させること、およびDNA修復を阻害することが推測される。すなわちZNF143遺伝子はG2期チェックポイント機能阻害を強力におこすことが可能な、創薬の分子標的として理想的と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】実施例1において明らかにされた、ZNF143が正に制御する遺伝子のリストである。
【図2】実施例2において染色された臨床癌試料(乳癌、子宮頸癌)の免疫組織染色図である。
【図3】実施例2において染色された臨床癌試料(大腸癌、胆嚢癌)の免疫組織染色図である。
【図4】実施例2において染色された臨床癌試料(肺癌)の免疫組織染色図である。
【図5】ZNF143特異的siRNA導入細胞(肺癌細胞核A549)の増殖抑制を示す図である。
【図6】ZNF143特異的siRNA導入細胞(前立腺癌PC3)の増殖抑制を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZNF143の機能を抑制することを含む、癌細胞の増殖阻害方法。
【請求項2】
機能の抑制が、ZNF143をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は15塩基以上の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターを用いて行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該ポリヌクレオチドが、配列番号6又は8で表されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は21塩基以上の連続するその部分配列を含む二本鎖RNAである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
該ポリヌクレオチドが、配列番号1〜3で表されるいずれかのヌクレオチド配列又は21〜24塩基の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含む二本鎖RNAである、請求項2記載の方法。
【請求項5】
機能の抑制が、下記のヌクレオチド配列から選択されるいずれかのZNF143結合ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターを用いて行われる、請求項1記載の方法:
(1)配列番号4で表されるヌクレオチド配列;及び
(2)配列番号4で表されるヌクレオチド配列に60%以上の同一性を有し、配列番号4で表されるヌクレオチド配列の4、5、6番目のシトシンが保存され、且つ13番目のヌクレオチドがシトシンまたはグアニンであるヌクレオチド配列。
【請求項6】
癌が、大腸癌、肺癌、卵巣癌、乳癌、胆嚢癌、前立腺癌および子宮頸癌からなる群から選択されるいずれかである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ZNF143の機能を抑制する物質を含有する、癌細胞増殖阻害剤。
【請求項8】
該物質が、ZNF143をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は15塩基以上の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターである、請求項7記載の阻害剤。
【請求項9】
該ヌクレオチドが、配列番号6又は8で表されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は21塩基以上の連続するその部分配列を含む二本鎖RNAである、請求項8記載の阻害剤。
【請求項10】
該ヌクレオチドが、配列番号1〜3で表されるいずれかのヌクレオチド配列又は21〜24塩基の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含む二本鎖RNAである、請求項8記載の阻害剤。
【請求項11】
該物質が、下記のヌクレオチド配列から選択されるいずれかのZNF143結合ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである、請求項7記載の剤:
(1)配列番号4で表されるヌクレオチド配列;及び
(2)配列番号4で表されるヌクレオチド配列に60%以上の同一性を有し、配列番号4で表されるヌクレオチド配列の4、5、6番目のシトシンが保存され、且つ13番目のヌクレオチドがシトシンまたはグアニンであるヌクレオチド配列。
【請求項12】
癌が、大腸癌、肺癌、卵巣癌、乳癌、胆嚢癌、前立腺癌および子宮頸癌からなる群から選択されるいずれかである、請求項7記載の阻害剤。
【請求項13】
ZNF143の機能を抑制する物質を活性成分として含有する、癌の予防および/または治療薬。
【請求項14】
該物質が、ZNF143をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は15塩基以上の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターである、請求項13記載の予防および/または治療薬。
【請求項15】
該ポリヌクレオチドが、配列番号6又は8で表されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又は21塩基以上の連続するその部分配列を含む二本鎖RNAである、請求項14記載の予防および/または治療薬。
【請求項16】
該ポリヌクレオチドが、配列番号1〜3で表されるいずれかのヌクレオチド配列又は21〜24塩基の連続するその部分配列を含むポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含む二本鎖RNAである、請求項14記載の予防および/または治療薬。
【請求項17】
該物質が、下記のヌクレオチド配列から選択されるいずれかのZNF143結合ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである、請求項13記載の予防および/または治療薬:
(1)配列番号4で表されるヌクレオチド配列;及び
(2)配列番号4で表されるヌクレオチド配列に60%以上の同一性を有し、配列番号4で表されるヌクレオチド配列の4、5、6番目のシトシンが保存され、かつ13番目のヌクレオチド配列がシトシンまたはグアニンであるヌクレオチド配列。
【請求項18】
癌が、大腸癌、肺癌、卵巣癌、乳癌、胆嚢癌、前立腺癌および子宮頸癌からなる群から選択されるいずれかである、請求項13記載の予防および/または治療薬。
【請求項19】
組織における、ZNF143の発現レベルを測定すること、及び該発現レベルに基づき、該組織中に癌細胞が含まれるか否かを判定することを含む、組織における癌細胞を検出する方法。
【請求項20】
ZNF143をコードするポリヌクレオチドを特異的に検出し得る核酸プローブ又はプライマー、或いはZNF143を特異的に認識する抗体を含む、癌の診断剤。
【請求項21】
下記のヌクレオチド配列から選択されるいずれかのZNF143結合ヌクレオチド配列の下流にモニタリング遺伝子をコードするヌクレオチド配列が機能的に連結されたヌクレオチド配列を有するベクター:
(1)配列番号4で表されるヌクレオチド配列;及び
(2)配列番号4で表されるヌクレオチド配列に60%以上の同一性を有し、配列番号4で表されるヌクレオチド配列の4、5、6番目のシトシンが保存され、且つ13番目のヌクレオチドがシトシンまたはグアニンであるヌクレオチド配列。
【請求項22】
請求項21記載のベクターで形質転換した細胞。
【請求項23】
ZNF143の機能を抑制し得る物質を癌細胞の増殖を阻害し得る物質として選択することを含む、癌細胞増殖阻害活性を有する物質のスクリーニング方法。
【請求項24】
以下の工程を含む、請求項23記載の方法:
(a)ZNF143結合ヌクレオチド配列の下流にモニタリング遺伝子をコードするヌクレオチド配列が機能的に連結されたヌクレオチド配列を有するベクターで形質転換した細胞を、被検物質の存在下に培養すること、
(b)被検物質の存在下に培養した細胞におけるモニタリング遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被検物質の非存在下に培養した対照細胞における発現量と比較すること、及び
(c) (b)の比較結果に基づいて、モニタリング遺伝子の発現量を抑制する被検物質を癌細胞の増殖を阻害し得る物質として選択すること。
【請求項25】
(a)で培養される細胞が癌細胞である、請求項24記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−159869(P2009−159869A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341430(P2007−341430)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(506087705)学校法人産業医科大学 (24)
【Fターム(参考)】