説明

発光ダイオードとネットワークアナライアザーを用いる絶縁基板上薄膜の電気特性測定装置と製造装置

【課題】ガラスや樹脂の基板の上の半導体材料、特に光導電特性をもつポリシリコンやアモルファスシリコンの品質を人の目で管理している。製品の流れを止めずに、基板に針で接触することなく品質管理行うことが課題であった。
【解決手段】光が照射されると、光がキャリアーを生成して半導体薄膜には光導電層ができる。金属の筒を半導体薄膜の付いた基板に接触または近づけて空洞を作り、空洞に光を照射しながら高周波を放射すると光導電膜の特性に応じて高周波の電力透過率が変る。この変化を測定すると半導体膜の品質管理に用いることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁基板の上の薄膜の電気特性を測定する装置に関する。特に半導体薄膜の光導電特性の簡便な測定に関する。またそれを用いた、太陽電池製造装置の管理に関係する。
【0002】
絶縁性のガラス基板や樹脂の基板上の薄膜、特に半導体薄膜を用いるデバイスがある。液晶デバイスや有機ELデバイス、太陽電池がその例である。半導体薄膜を積層させて3次元デバイスを作る例もある(特許文献1)
【0003】
それらのデバイスは基板の上の半導体層をもちいる。特性を安定に維持しながら、デバイス製造装置は半導体層を形成したい。しかしそのためには基板を抜き取り分析する必要があった。しかかり製品を抜くと損害になる。分析目的だけの基板を挿入するとラインのスループット低下になる。デバイスを試作して分析すると時間がかかる。これらの分析はコストアップの要因である。
【0004】
製造ラインを一時中断すると製造コストの増加につながるので、見込みで製造する考えもある。しかし、ロット製造したあと、半導体膜の特性が製造規格から外れているのが判明すると、そのロット全体が不良となりコストの増加になる。
【0005】
従って、製造途中に簡単に短時間に製造ラインを止めることなく、半導体薄膜の特性を知りたいという要求がある。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−218468
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS /Vol.57No.1 (Apr.2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来は製造現場の作業員が基板を目でみて良否の判定をしていた。人の目が均一性と異常を無接触で検知するのに敏感であったからである。
【0009】
薄膜の電気特性を分析する一般方法としては4探針法がある。それを図1に示す。
【0010】
測定される薄膜11は基板10より十分に低抵抗であるとき正確に膜のシート抵抗を与える。4本の針12は等間隔で直線上にならび、一定の電流を外の2本に通じて、中の2本で電圧を測定する。電流は2次元的に流れるので一定のパターン(対称鏡像効果のパターン)になる。
【0011】
この方法は針で表面をつつくので、半導体膜に孔欠陥を与えてしまう。
【0012】
図2は測定される薄膜11に電極13を設けて、デバイスと類似構造を作製して電流と電圧の特性を知る方法である。この分析結果を製造ラインにフィードバックさせるのは時間がかかり過ぎてしまう。
【0013】
人の目は敏感ではあるが、人の個性や能力に依存する製造方法は拡張性がない。したがって、工場を世界に拡張できないという弊害がある。
また、問題があると判定された場合でもそれが、何時始まったかを判定できない。
【0014】
人に依存しない方法で判定を行う必要がある。それを製品の流れを止めずに行う必要があること、また分析のための基板を用いることなく製品基板で行う必要があること、製品であるので基板に針で接触することなく行う必要があること、の制限がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
解決する装置の構成の模式図を図3に示す。光ダイオード(LED)31から光が放射される。LEDは金属の筒32の中に供えられてある。放射された光33は筒の内面で反射される。光33で照射されると半導体薄膜には光導電層34ができる。
【0016】
半導体薄膜に比して絶縁性の基板10があるので、光の強く照射された部分には電子と正孔のキャリアーが生成されて光導電層34が形成された導体ができる。
【0017】
光を放射する金属の筒32には電磁波としてのマイクロ波の放射器35が備えられている。高周波電源32に接続されて、マイクロ波が筒32の中に放射される。
【0018】
マイクロ波は筒の中を伝播して筒の開放端36より放射される。筒32の形と大きさにより、マイクロ波の定在波ができる。
【0019】
基板10があり、LED31からの光32があり光導電層34が生成されていると、マイクロ波は筒32に閉じ込められる。筒32の形と大きさにより、筒32はマイクロ波の空洞共振器になる。
【0020】
閉じ込められる効果は基板10の筒の開放端36への接近度と光導電層34のマイクロ波の反射特性または透過特性に依存する。
【0021】
マイクロ波の反射特性または透過特性は光によるキャリアーの生成特性を表すので、光を切ったときの特性の変化と比較すると、半導体膜11の光導電特性を知ることができる。
【0022】
また少なくても、違う膜の特性差を知ることができる。光ダイード31を2種類そなえ、光の波長を変化させると、半導体膜11の波長依存特性の比較ができる。
【0023】
また、半導体膜でなくても、導電薄膜であっても、その導電特性の比較をできる。導電薄膜の比抵抗や厚みに関係して、マイクロ波の反射特性が変化する。従って、その変化から導電膜の比抵抗や厚みを比較できる。
【0024】
光導電膜の電気特性を比較するときの指標としてライフタイムがある。単純な一つのライフタイムのときe−t/τに従い光生成されたキャリアーの数は光の遮断のあと減衰する。tは時間、τはライフタイムである。
【0025】
マイクロ波の反射または透過特性を時間関数として表示すると変化速度からライフタイムがわかる。ライフタイムは半導体の欠陥の数が多いと短くなるので、半導体膜の品質管理に用いることが出来る。
【0026】
そして、請求項1に係る発明は、絶縁性の基板の上の薄膜の電気特性を測定する装置であって、光と電磁波を当該薄膜に照射する一端が開放された金属の筒があって、当該基板が当該筒の一端を閉じることにより筒の中の光と電磁波を閉じ込めることが可能であって、当該電磁波の電力の反射または透過特性の光照射による変化を測定することで当該薄膜の電気特性を測定する測定装置である。
【0027】
請求項2に係る発明は、光が紫外光、可視光、赤外光のいずれか、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1記載の装置である。
【0028】
請求項3に係る発明は、電磁波が筒の中で共振することを特徴とする請求項1、2記載の装置である。
【0029】
請求項4に係る発明は、光照射をオフしてからの当該電気特性の時間変化の値を表示または出力することを特徴とする請求項1〜3記載の装置である。
【0030】
請求項5に係る発明は、当該変化の値を光照射をオフする前の値で規格化した値を表示または出力することを特徴とする請求項1〜4記載の装置である。
【0031】
請求項6に係る発明は、当該測定装置を搭載してガラス基板上の半導体薄膜の電気特性を測定できるようにしたデバイス製造装置である。
【0032】
請求項7に係る発明は、当該測定装置を搭載して樹脂基板上の半導体薄膜の電気特性を測定できるようにしたデバイス製造装置である。
【0033】
請求項8に係る発明は、当該薄膜がシリコン,銅,インジューム,Zn,錫のいずれかを含む薄膜であることを特徴とする請求項6、7記載のデバイス製造装置である。
【発明の効果】
【0034】
請求項1から5に係る発明によれば、絶縁性の基板の上の薄膜、特に光導電性の半導体薄膜に光を照射して、薄膜に針で接触することなく薄膜の生成キャリアーのライフタイムまたはその指標を測定する装置が可能である。
【0035】
請求項6から8に係る発明によれば基板が数mの大型ガラス基板であるとき、製造工程を停止することなく、流れている生産ラインの実際の製品デバイス基板の品質を即座に管理できるようになる。用いるダイオードの光の波長を薄膜の光吸収特性に合わせて変えたり、または複数の種類にしたりすることで、太陽光スペクトルに対応した評価も可能であるので、太陽電池デバイスを製造する装置の管理が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は4探針法の模式図である。
【図2】図2は電流電圧法を表す模式図である。
【図3】図3は高抵抗または絶縁性の基板上の光導電層と金属の筒が作る閉じた空間を示す模式図である。電磁波としてのマイクロ波と光がこの空間に閉じ込められる。光をオフにすると、マイクロ波の反射特性または透過特性が変化する。この変化をしることで、半導体膜の電気特性を知ることができる。
【図4】図4は本発明の薄膜の電気特性測定装置の構成の模式図である。
【図5】図5は伝送損失の応答の例である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を添付図4に基づいて説明する。なお、これら添付図中、同一または相当部分には同一符号を付している。
【0038】
装置の構成の模式図を図4に示す。図4は電磁波としての高周波(ここではマイクロ波とも言う)と光が閉じ込められる金属の筒32とその筒の開放端36に接近または接触して、その開放端36を閉じた高抵抗または絶縁性の基板を示す。
【0039】
金属の筒32には第1のLED41と第2のLED42が備えられ、それぞれ青と赤の光を放射する。金属の筒で光は反射される。放射された光34は基板10の上の半導体であるアモルファスシリコン43に当たる。
【0040】
アモルファスシリコンは光で生成された光導電層34を生成する。光導電層34と金属の筒32は閉じた空間を作る。
【0041】
第1のLED41には第1の電源44と第1のスイッチ45があり、スイッチ45で光放射をオンオフできる。同様に、第2のLED42には第2の電源46と第2のスイッチ47がある。金属の筒32には高周波導入器48が備えられている。
【0042】
高周波導入器48には同軸ケーブル49で高周波ネットワークアナライザー50が接続されて、電力の反射特性または透過特性が測定できる。アナライザーとしてはAgilent社製の8753Eを用いた。
【0043】
1から6GHzの間で周波数を変化させ透過率を測定した。第1のスイッチ、第2のスイッチをオンオフすると、電力の透過率が変化した。約3GHzで透過率の負のピークが現れ、光のオフで減衰した。LEDの数を増やすと、負のピークは大きくなった。
【0044】
ダイオードの色によってもピークの大きさは違った。
【0045】
アモルファスシリコンの代わりにアルミニュームをスパッタしたガラス板で塞ぐと光のオンオフに依存しなく、ピークはより大きくなった。筒を塞ぐ材料の電気特性に依存することが確認できた。
【0046】
このほか、CuとIn,Ga,Seの元素でできたカルコパイアライト形結晶も光導電特性をもっているので、これのついたガラス基板で筒を閉じても電力の透過特性は変化した。
【0047】
また、亜鉛(Zn)やインジューム(In)、錫(Sn)の酸化物導電材料のついた基板で筒を閉じても電力の透過特性は変化した。
【0048】
スイッチ45、47をオンからオフに切り替えるとピークは減衰した。生成されていたキャリアーの数はキャリアーのライフタイムに従い減衰する。単純な一つのライフタイムのときe−t/τに従い減衰する。tは時間、τはライフタイムである。
【0049】
減衰を透過率の時間関数として表示すると減衰の速度がわかる。ライフタイムは半導体の欠陥の数が多いと短くなるので、品質管理に用いることが出来る。
【0050】
ダイオードをオフしたあと透過率の負のピーク高さの時間応答例を模式的に図5に示す。ピーク高さは光を切断する前の値で規格化した。
【0051】
時間とともにキャリアーが減衰してアモルファスシリコンは高抵抗となり電力反射特性が減少するので透過率が回復する。キャリア−の数の減少速度はe-t/τに依存して始まるので、直線が透過率=1/10(-10dB)を横切る時間は薄膜のキャリアーのライフタイムτに相当した指標を与える。
【0052】
ここで得られるライフタイムは電子も正孔も含んでいて分別できない。しかし、半導体のキャリアーの消滅速度に依存した数値は、材料の品質の管理指標として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は絶縁基板や絶縁性のフレキシブル基板上に形成した薄膜半導体の電気特性を安価に製造工程内で迅速に測定できるので、製造コスト削減と製造管理に応用できる。また光の波長を選ぶことにより光スペクトル応答の製造管理に使用できる。
【符号の説明】
【0054】
10 高抵抗または絶縁性の基板
11 測定される薄膜
12 4本の針
13 電極
31 光ダイオード
32 金属の筒
33 放射された光
34 光導電層
35 マイクロ波の放射器
36 筒の開放端
37 高周波電源
41 第1のLED
42 第2のLED
43 アモルファスシリコン
44 第1の電源
45 第1のスイッチ(SW)
46 第2の電源
47 第2のスイッチ(SW)
48 高周波導入器
49 同軸ケーブル
50 高周波ネットワークアナライザー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の基板の上の薄膜の電気特性を測定する装置であって、光と電磁波を当該薄膜に照射する一端が開放された金属の筒があって、当該基板が当該筒の一端を閉じることにより筒の中の光と電磁波を閉じ込めることが可能であって、当該電磁波の電力の反射または透過特性の光照射による変化を測定することで当該薄膜の電気特性を測定する測定装置。
【請求項2】
光が紫外光、可視光、赤外光のいずれか、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
電磁波が筒の中で共振することを特徴とする請求項1、2記載の装置。
【請求項4】
光照射をオフしてからの当該電気特性の時間変化の値を表示または出力することを特徴とする請求項1〜3記載の装置。
【請求項5】
当該変化の値を光照射をオフする前の値で規格化した値を表示または出力することを特徴とする請求項1〜4記載の装置。
【請求項6】
当該測定装置を搭載してガラス基板上の半導体薄膜の電気特性を測定できるようにしたデバイス製造装置。
【請求項7】
当該測定装置を搭載して樹脂基板上の半導体薄膜の電気特性を測定できるようにしたデバイス製造装置。
【請求項8】
当該薄膜がシリコン,銅,インジューム,Zn,錫のいずれかを含む薄膜であることを特徴とする請求項6、7記載のデバイス製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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