説明

発光ダイオード用の無機蛍光体

無機発光材料を含む発光ダイオード用の無機蛍光体(102)を提供する。結合前駆体材料(103)が無機蛍光体(102)の表面上に配置され、結合前駆体材料は少なくとも一部が加水分解された有機修飾シランを含む。結合前駆体材料の無機蛍光体への取り付けは無機蛍光体の発光ダイオードへの結合とは分離される。それ故、結合前駆体材料の無機蛍光体への取り付けはLEDに対して有害な条件で行なわれてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード用の無機蛍光体、蛍光変換発光ダイオード、ばかりではなく、無機蛍光体および発光ダイオードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(発光ダイオード)は、現在、たとえば一般的な周囲の照明、信号灯、自動車用の照明および、LCD−表示用のバックライトなどに用いられるディスプレイ装置の照明という幾つかの態様が企図されている。LEDでは、現在、紫外線発光ダイオードから、可視域を介して、赤外線発光ダイオードまでの異なる色を入手することが可能である。
【0003】
特に赤色および琥珀色LEDでは出力光量およびカラーポイント(color point)がそれぞれ温度に強く依存するという問題がある。接合温度の関数である出力光量は、赤色、琥珀色、緑色および青色LEDで異なる。この効果によって、特に車のテールランプおよび点滅指示器では、出力密度が制限されると共に周囲温度の変化に対する感度(変化)が大きくなる。
【0004】
この温度依存性を部分的に解決するために、いわゆる蛍光変換LEDが提案されている。それは、ダイオードの光を吸収し、異なる色に変換する蛍光化合物(すなわち発光化合物)を有する発光ダイオードである。たとえば、青色ダイオードは、少なくとも青色光の一部を吸収し、その結果、赤色光を放出する赤色蛍光体を有していてもよい。
【0005】
無機固体蛍光変換体はこの目的のために提案されてきた。このような変換体は厚さおよび組成物の許容範囲が広くても製造でき、しっかりと光を変換する。
【0006】
しかしながら、このような無機変換体は、発光ダイオード上にしっかりと固定してLEDから無機変換体への光を十分に抽出するために光結合材料(光糊(optical glue)で発光ダイオードに取り付ける必要がある。
【0007】
現在、この取り付けはシリコーンゲルまたはシリコーンゴムのような材料を用いて行われている。このシリコーンゲルまたはシリコーンゴムは一般にポリ−ジ−メチル−シロキサン(PDMS)ベースの材料で、屈折率を大きくするために、そのメチル基の一部がフェニル基で置換されている。この材料の使用および製造中(適度な(mild)温度での硬化ステップの前のディスペンシング(dispensing)である)の取り扱いは容易である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、シリコーン類は光安定性および熱安定性に問題がある。特に高温(150℃以上)および高光束(特に青色および紫外線光)の組み合わせで、劣化が発生する。
【0009】
このように、動作中のLEDから発生する光と熱に耐え得る結合材料である必要がある。
【0010】
また、固体無機蛍光変換体を用いた蛍光変換LEDの製造方法を改良する必要もある。
【0011】
本発明の目的の一つは、少なくとも前述した従来技術の欠点の一部を克服することであり、前述した必要性を満たすことであり、無機蛍光体が上に配置された発光ダイオードを含む光放出デバイスを提供することである。この光放出デバイスは製造が容易で、無機蛍光体は、発光ダイオードから発光される光および発光ダイオードから放散される熱に関して安定しており、発光ダイオードと蛍光体との間の光結合が良好な結合材料で発光ダイオードに固定されている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このように、第1の態様では、本発明は発光ダイオード上に配置するのに好適な無機蛍光体に関し、この無機蛍光体は無機発光材料を含み、結合前駆体材料が無機蛍光体の表面上に配置され、この結合前駆体材料は少なくとも一部が加水分解された有機修飾シランを含む。
【0013】
当該無機蛍光体は、後の段階で、光放出デバイスの製造に用いられてもよいが、そのまま供給され販売されてもよい。
【0014】
後に発光ダイオードに取り付けられる当該無機蛍光体を個別に供給する利点は、結合前駆体材料の無機蛍光体への取り付けと無機蛍光体の発光ダイオードへの結合を別にできることである。このように、結合前駆体材料の無機蛍光体への取り付けは、例えばLEDにとって有害となる高温またはある種の溶媒を使用するなどの、LEDにとって有害な条件にて行われてもよい。
【0015】
本発明による結合前駆体材料は少なくとも一部が加水分解された有機修飾シランを含む。LEDと接触させて置いて加熱すると、加水分解された有機修飾シランは炭素およびシリコン原子のマトリックスへと縮合(硬化)する。少なくともシリコン原子の一部は炭化水素基と直接結合し、マトリックス中の一部のシリコン原子は3倍に(three−fold)架橋しているので、比較的弾性が高い結合材料を形成する。
【0016】
炭素とシリコン原子のこのようなマトリックス自体は公知であることに留意されたい。たとえば米国特許5991493号に記載されている。しかしながら、LEDチップと無機蛍光変換体間の結合材料として用いられる場合には、この材料はとても高い光安定性および熱安定性があるという予期せぬ効果があるので、LEDと無機蛍光変換体との間の結合材料として非常に好適なものとなる。
【0017】
さらに、この材料によれば、シリコンマトリックスは前述のように本質的に柔軟なので、LEDの動作温度での熱膨張によって生じる応力を処理できる結合が提供される。本発明の実施形態では、結合前駆体材料はSi、Al、Ga、Ti、Ge、P、B、Zr、Y、Sn、Pb、およびHfからなる群から選択される少なくとも一つの元素の酸化物をさらに含有してもよい。当該酸化物は最終形態である結合材料の屈折率を大きくする役目を果たし、そして結合の光結合能力を高める。本発明の実施形態では、結合前駆体材料はさらにガラス粒子を含有してもよい。当該ガラス粒子は該屈折率を大きくする役目を果たし、結合材料中で透明/半透明充填材料として働く可能性がある。実施形態の少なくとも一部が加水分解された有機修飾シランは、少なくとも一部が加水分解されたモノ(mono)−有機修飾トリアルコキシシランを含むが、これに限定されるものではない。通常一般式はR1−Si(OR2)(OR3)(OR4)であり、ここでR1はメチル、エチルおよびフェニルから選択され、R2、R3およびR4はそれぞれ別個にメチル、エチルおよびプロピルから選択される。加水分解され、縮合された場合、モノ−有機修飾トリアルコキシシランは光学的および熱的に安定した、比較的高い弾性を持つ結合材料となる。T−シリコン原子を含有するシリコン樹脂を含む結合前駆体材料の他の実施形態では、一般に樹脂中の少なくとも一部のシリコン原子が、メチル、エチルまたはフェニルから選択される基と直接結合している。
【0018】
好ましくは、結合前駆体材料はゾル−ゲル材料である。さらに他の態様では、本発明は無機蛍光体の製造方法、発光ダイオードに取り付けられた本発明の無機蛍光体を含む光放出デバイスおよびそのような光放出デバイスを製造する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のこれらの及び他の態様を、本発明時点における好ましい実施態様を示す添付の図を参照してさらに詳しく説明する。
【0020】
図1は本発明の蛍光変換発光ダイオードを示す概略図である。
【0021】
本発明の蛍光変換発光ダイオードは図1に概略図で示され、光放出面101を有する発光ダイオード(LED)100を含む。光放出面上に無機蛍光変換体102が配置される。無機蛍光変換体102は発光ダイオード100の光放出面101に結合材料103によって結合される。
【0022】
結合材料103は少なくとも一部が半透明または透明であり、そのことにより発光ダイオードの動作中は、放出された光が結合材料103を通って無機蛍光変換体102に結合する。
【0023】
無機蛍光変換体102はLEDによって放出された光の少なくとも一部を入射するように配置され、入射した光の少なくとも一部を吸収する。
【0024】
無機蛍光変換体102は、LED100から放出された光を吸収してLEDから放出された光とは異なる色の光を放出する発光材料を含む。発光材料は蛍光および/またはリン光材料であってもよい。ここで定義するように、用語“発光ダイオード”(短縮されると“LED”である)は、これに限定されるものではないが、例えば無機ベースのLED、ポリマーベースのLED(ポリLED)、有機小分子ベースのLED(smOLED)等の当業者に公知であるすべてのタイプの発光ダイオードを指す。さらに、レーザー放出ダイオードは用語“発光ダイオード”に包含される。
【0025】
本発明の目的のために、紫外(UV)光から、可視光を超えて、赤外(IR)光までのどの波長の光をも放出するLEDを本発明で使用することが企図される。しかしながら、好ましくは、LEDは紫外線および/または青色発光ダイオードである。
【0026】
本発明の目的のために、LEDから放出される光は、“ポンプ(pump)−波長範囲”または“ポンプ−色”を有する“ポンプ−光”として参照されるであろう。
【0027】
本発明では、LED100の光放出面101は、通常はSiC等の多結晶表面、または、サファイア表面またはInGaN界面等の結晶表面である。無機蛍光変換体102は無機発光化合物を含有する無機の固体である。無機発光化合物の例として、これに限定されるものではないが、セラミック発光化合物を含む。
【0028】
無機発光化合物の例として次のものを含むが、これに限定されるものではない。
【0029】
黄色から緑色の範囲内で光を放出するLu3Al512:Ce3+、Y3Al512:Ce3+およびY3Al4.8Si0.211.80.2:Ce3+などの一般式(Lu1-x-y-a-bxGdy3(Al1-z-cGazSic512-cc:CeaPrb(0<x<1、0<y<1、0<z≦0.1、0<a≦0.2、0<b≦0.1および0<c<1)および、赤色の範囲内で光を放出するSr2Si58:Eu2+などの一般式(Sr1-x-yBaxCay2-zSi5-aAla8-aa:Euz2+(0≦a<5、0<x≦1、0≦y≦1および0<z≦1)を有するガーネット蛍光体。
【0030】
たとえばSrSi222:Eu2+を含む一般式(Sr1-a-bCabBac)Sixyz:Eua2+(a=0.002〜0.2、b=0.0〜0.25、c=0.0〜0.25、x=1.5〜2.5、y=1.5〜2.5、z=1.5〜2.5);
たとえば、SrGa24:Eu2+を含む一般式(Sr1-u-v-xMguCavBax)(Ga2-y-zAlyInz4):Eu2+
たとえばSrBaSiO4:Eu2+を含む一般式(Sr1-x-yBaxCay2SiO4:Eu2+;及び
たとえば、CaS:Eu2+およびSrS:Eu2+を含む一般式(Ca1-xSrx)S:Eu2+(0<x≦1);及び
たとえばCaAlSiN3:Eu2+およびCaAl1.04Si0.963:Ce3+を含む一般式(Ca1-x-y-zSrxBayMgz1-n(Al1-a+ba)Si1-b3-bb:REn(0≦x 1、0 y≦1、0 z≦1、0 a≦1、0<b≦1、0.002≦n≦0.2およびREはユウロピウム(II)およびセリウム(III)から選択される);
たとえば、Ca0.75Si8.625Al3.3751.3750.625:Eu0.25を含む一般式Mxv+Si12-(m+n)Alm+nn16-n(x=m/vおよびMは金属であり、好ましくはLi、Mg、Ca、Y、Sc、Ce、Pr、Nf、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luまたはそれらの混合物を含む群から選択される)などの他の緑色、黄色および赤色の光を放出する蛍光体。
【0031】
本明細書で使用する場合、“発光(luminescence)”という用語は、蛍光(fluorescence)およびリン光(phosphorescence)の両方、すなわち励起電子の緩和による光子放出を指す。
【0032】
本明細書で使用する場合、“変換光(converted light)”は、上で定義した“ポンプ−光”放出によって無機蛍光変換体から放出される光を指す。
【0033】
本明細書で使用する場合、“合計光(total light)”は蛍光変換体に存在する“変換光”および“ポンプ光”の合計を指し、一般には、変換光成分および吸収されずに変換体を透過したポンプ−光成分を含む。
【0034】
無機蛍光変換体中の発光材料の選択は、その上に配置されるべき発光ダイオード、すなわちポンプ−色、および所望の合計光の色に依存する。
【0035】
無機蛍光変換体の所望の厚さは所望の合計光の色に依存するので、変換体で変換されるポンプ−光の一部およびポンプ−光の色に依存する。
【0036】
本発明の好ましい実施形態では、結合材料103はシリコン原子および酸素原子を含むマトリックスを含有する結合材料であり、ここで少なくともシリコン原子の一部は炭化水素基と直接結合している。
【0037】
当該シリコン−炭素マトリックスをベースとした結合材料は前駆体材料から作製される。好ましい実施形態では、結合前駆体材料は少なくとも一部が加水分解された有機修飾シランを含有する。
【0038】
結合前駆材料を形成する少なくとも一部が加水分解された有機修飾シランは、一般式が次式であるモノ−有機修飾シランを加水分解して得てもよい。
【0039】
1−Si(OR2)(OR3)(OR4)。
【0040】
ここでR1、R2、R3およびR4は炭化水素基であり、R1はフェニルなどのアリール基、および、メチル、エチル並びにプロピルなどのC1〜8−アルキル基から選択されてもよい。
【0041】
2、R3およびR4はそれぞれ別々に、一般にメチル、エチルおよびプロピルと称するC1〜8−アルキルなどのアルキルから選択されてもよい。
【0042】
加水分解されるべき好ましいモノ−有機修飾シランは、これに限定されるものではないが、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランおよびフェニルトリエトキシシランを含む。
【0043】
前述した有機修飾シランは、単独またはそれらの2以上の組み合わせで使用してもよい。
【0044】
結合前駆体材料の最終的な処理の結果物となるであろう結合材料では、屈折率はシリコン原子と直接結合している炭化水素基(R1)の選択および濃度に依存するであろう。たとえば、R1がメチルである場合の屈折率はR1がフェニルである場合よりも小さくなる。このように、屈折率を反応混合物中のメチル−修飾シランとフェニル−修飾シランとの適切な比率を選択することで調整してもよい。
【0045】
結合前駆体材料を形成するために少なくとも部分的に加水分解された前述した有機修飾シランは、少なくとも一部のシランのSi−OR2、Si−OR3およびSi−OR4−基が加水分解でSi−OH−基に加水分解により変換される反応経路を介して得られてもよい。さらに、二つのSi−OH−基は、オリゴマー/ポリマーのネットワークを形成するために、縮合を介してSi−O−Siブリッジを形成してもよい。
【0046】
結合前駆体材料は、後の段階において縮合されてもよい非縮合OH−基を結合しているシリコン原子を含むという点で、好ましくは一部が加水分解されている。縮合反応は、通常は、反応混合物を加熱すると促進され冷却すると抑制され、この反応では加熱を制御することで縮合度が調節されてもよい、熱による反応である。
【0047】
加水分解反応混合物は、さらに、前述した有機修飾シランに加え、たとえばテトラ−メトキシシランおよび/またはテトラ−エトキシシランなどのテトラ−アルコキシシランを、追加のシランとして含有してもよい。
【0048】
当該テトラ−アルコキシシランは加水分解反応にも関与してよく、また最終的な結合材料の弾性率(elasticity module)を調整するために反応混合物に含めてもよい。
【0049】
モノ−有機修飾シランの加水分解および縮合から単独で形成されるネットワーク、たとえばフェニルトリメトキシシラン(PhTMS)などは、フェニル基が反応に関与していないことおよび隣接するシリコン原子が架橋を形成していないことから、弾性率は小さい。それ故、それぞれのシリコン原子は、酸素ブリッジ(Si−O−Si)を介して、最大限、三つの隣接するシリコン原子と架橋してもよい。完全に加水分解された縮合したネットワークでは、当該ネットワーク全体の化学式は(フェニル−Si−O1.5nであろう。
【0050】
一方では、テトラ−エトキシシラン(TEOS)から単独で形成されるネットワークでは、それぞれのシリコン原子が酸素ブリッジ(Si−O−Si)を介して四つの隣接するシリコン原子と架橋してもよいことから、弾性率は大きい。完全に加水分解された縮合したネットワークでは、当該ネットワーク全体の化学式は(Si−O2)nであろう。
【0051】
モノ−有機修飾シランおよびテトラ−アルコキシシランとの好適な比率を選択することで、前述したように好適な弾性率を達成してもよい。
【0052】
一般に、初期の反応混合物のモノ−有機修飾シランおよびテトラ−アルコキシシランとの比(モル/モル)は1:0から1:9の範囲内であり、一般には9:1から1:9の範囲内である。
【0053】
結合前駆体材料は、Si、Al、Ga、Ti、Ge、P、B、Zr、Y、Sn、Pb、およびHfからなる群から選択される少なくとも一つの元素の酸化物をさらに含有してもよい。酸化物は結合の屈折率を増加させる役目をするので、結合の光結合能力を高める。実施例は、酸化物粒子、一般にはナノスケール粒子または分子酸化物前駆体の形で添加したTiO2、ZrO2、HfO2およびTa25を含む。
【0054】
結合前駆体材料は、結合の屈折率を増加させる役目をするので結合の光結合能力を高める一般にはナノスケールガラス粒子である、ガラス粒子をさらに含有してもよい。
【0055】
本発明の好ましい実施形態では、結合前駆体材料はゾル−ゲル材料である。本発明の別の好ましい実施形態では、シリコン−炭素マトリックスベースの結合材料を形成する結合前駆体材料はシリコンT−樹脂である。
【0056】
T−樹脂は、部分的に縮合したモノ−有機修飾シランのオリゴマーおよび/またはポリマーを含有し、ここで原則的には全てのシリコン原子はいわゆるT−シリコン原子である。本明細書で使用する場合、用語“T−シリコン原子”は、たとえばメチル、エチルまたはフェニル基などの一つの有機基にのみ直接結合しているシリコン原子を指す。直接結合している有機基に加えて、シリコン原子は酸素ブリッジを介して一つ、二つまたは三つの隣接するシリコン原子および一つまたは二つのOH−基と結合していてもよい。
【0057】
本発明の目的のために、用語“有機基に直接結合しているシリコン原子”は、Si−C−結合を介して有機基に結合しているシリコン原子を指す。従って、メトキシ基はSi−O−結合を介してシリコン原子に結合しているので、メトキシ基に結合しているシリコン原子はこの定義には該当しない。
【0058】
T−シリコン原子は、T1−シリコン原子(ただ一つの他のシリコン原子に結合しているシリコン原子)、T2−シリコン原子(二つの他のシリコン原子に結合しているシリコン原子)およびT3−シリコン原子(三つの他のシリコン原子に結合しているシリコン原子)に分類される。
【0059】
好ましいT−シリコン樹脂では、T1−シリコン原子の含有量は少なく、一般に10%よりも小さく、T2−シリコン原子とT3−シリコン原子との比は、20:80から80:20などの、10:90から90:10までの範囲内である。
【0060】
T−樹脂粒子は好ましくはシランネットワークのオリゴマーを含有し、ここで平均的なオリゴマーの大きさは1オリゴマーに対して6から30シリコン原子の範囲内であり、一般には8から18シリコン原子の範囲内である。
【0061】
好ましくは、オリゴマー中の末端基は、後の段階で樹脂がさらに縮合してもよいように、OH−基である。
【0062】
T−シリコン樹脂では、シリコン原子に直接結合している有機基は樹脂中の全てのシリコン原子に対して同一でもよいし、異なるシリコン原子に対しては異なってもよい。それ故、有機基は、たとえばメチル、エチルまたはフェニル、またはそれらの2以上の混合物であってもよい。たとえば、樹脂は、メチル基とフェニル基との比(モル/モル)が約1:9から約9:1の範囲内、約1:1など、の混合物を含んでもよい。
【0063】
結合前駆体材料の最終的な処理の結果物となるであろう結合材料では、屈折率はT−樹脂中のシリコン原子に直接結合している炭化水素基(R1)の選択と濃度に依存する。たとえば、メチルであるR1はフェニルであるR1よりも屈折率が小さい。それ故、屈折率は、メチル修飾シランとフェニル修飾シランとの適切な比率を有するT−シリコン樹脂の選択によって、または2以上の異なるT−シリコン樹脂の好適な混合物を供給することで調整されてもよい。
【0064】
T−樹脂結合前駆体材料は、さらにSi、Al、Ga、Ti、Ge、P、B、Zr、Y、Sn、Pb、およびHfからなる群から選択される少なくとも一つの元素の酸化物を含有してもよい。酸化物は結合の屈折率を増加させる役目をするので、結合の光結合能力を高める。実施例では、酸化物粒子、一般にはナノスケール粒子または分子酸化物前駆体の形で添加したTiO2、ZrO2、HfO2およびTa25を含む。
【0065】
T−樹脂結合前駆体材料は、結合の屈折率を増加させる役目をするので結合の光結合能力を高める一般にはナノスケールガラス粒子である、ガラス粒子をさらに含有してもよい。発光ダイオード用の無機蛍光変換体を製造する方法がこれから以下に記述されるであろう。
【0066】
前述のような無機蛍光変換体が供給される。この変換体の表面をLED(形および大きさに関して)の光放出面に結合させるように合わせる。
【0067】
この表面上に、結合前駆体材料を配置する。表面上に前駆体材料を配置するには、結合前駆体材料の種類によって使用方法を変えるのが好適かもしれない。当該方法には、吹きつけ被覆、スピン被覆および浸漬被覆、インクジェット印刷およびディスペンシングが含まれるが、これに限定されるものではない。結合前駆体材料を無機蛍光変換体上に配置した後に、前駆体結合材料は、必要があれば、結合前駆体材料が無機蛍光変換体の表面にしっかりと結合するように取り扱われることが好ましい。
【0068】
結合前駆体材料が、前述した一部が加水分解された有機修飾シラン、またはT−シリコン樹脂の場合には、例えば前駆体材料中に存在する全ての液体媒質の少なくとも一部を気化するように、この処理は一般に乾燥によって行われる。
【0069】
結合前駆体材料を含むのでその後の発光ダイオード上への配置に好適な無機蛍光変換体は、本発明で特に考慮された態様である。
【0070】
無機蛍光変換体(結合前駆体材料が配置された)は事前に準備して、別個に保管することができるので、蛍光変換LED製造用の製造プロセスを導入する異なるLED−製造業者にさえ販売されるかもしれない。
【0071】
無機蛍光体には、LED−ダイに害を与えるかもしれない条件(温度、使用溶媒、圧力)で結合前駆体材料が供給されてもよい。そして発光ダイオード100は、光放出面101上に無機蛍光変換体103が結合されて供給される。
【0072】
前述のように表面に結合前駆体材料が配置された、事前に準備した無機蛍光変換体も供給される。
【0073】
そのときには無機蛍光変換体は、結合前駆体材料が光放出面に接触するように、LEDの光放出面の上端に取り付けられる。
【0074】
そしてLEDと無機蛍光変換体との物理的および光学的結合が得られる。この物理的および光学的結合は使用される結合前駆体材料によって異なる方法で得られてもよい。
【0075】
結合前駆体材料が、一部が加水分解された有機修飾シランつまりT−シリコン樹脂である場合には、LEDと無機蛍光変換体とをお互いに接触させて押圧している間の任意の時に、前駆体材料を加熱して硬化させることで物理的および光学的結合を得てもよい。
【0076】
LED上に蛍光体が配置された場合には、結合材料が柔軟であるので平坦ではないLED表面を相殺できる(平坦にできる)ようにするために、結合前駆体材料はゲル状態(ゾルゲルなど)であることが好ましい。結合前駆体材料がT−樹脂を含有する場合には、材料は熱処理をすると溶けてリフロー可能となるので、柔軟になり、平坦ではないLED表面を相殺できる(平坦にできる)。
【0077】
あるいは、結合前駆体材料は高沸点の溶媒を含有してもよく、この場合には結合前駆体材料は結合段階の前に事前に乾燥させる。この手順の利点は、高沸点の溶媒を、その後の硬化段階での結合材料を介した拡散で除去されるべき最後の揮発性化合物として残すことができる点である。
【0078】
加熱すると、前駆体材料中のより多くのSi−O−Si結合の形成は、少なくとも一部が残存しているSi−OH−基の縮合によって影響を受ける。この反応は不可逆であって、結合前駆体材料を結合材料へと硬化させる。
【0079】
縮合反応中に形成される水は残された全ての溶媒と同様に加熱段階で気化されるであろう。
【0080】
この縮合温度はおよそ150℃から450℃の範囲内であり、前駆体材料に依存する。
【0081】
一実施形態では、T−シリコン樹脂を結合前駆体材料として使用する場合には、蛍光変換体および蛍光変換体上に配置されたT−シリコン樹脂は約130℃に加熱されてからLED上に配置される。そしてT−シリコン樹脂結合材料は、LEDと蛍光変換体との光学結合を形成するために約200℃で硬化される。
【0082】
このようにして得られた結合材料は、良好な耐熱性および耐光性だけではなく良好な光学結合を示すことが明らかとなり、特に良好な青色光耐光性および紫外線耐光性を示す。
【0083】
当該技術分野における当業者であれば、本発明は前述した好適な実施形態に決して限定されないことを理解する。一方、添付の特許請求の範囲内で多くの変更および変形が可能である。たとえば、加水分解された有機修飾シランおよびガラス材料、たとえば低融点のガラスの混合物を含有した結合前駆体材料を準備することも可能である。
【0084】
たとえば、シラン−組成物は、結合の屈折率を大きくするために、ガラス粒子(一般にはナノサイズ)を含有してもよい。
【0085】
あるいは、前駆体材料は、表面を改質する加水分解された有機修飾シランを乳化剤として、ガラス粒子のエマルジョンの形態で供給されてもよい。このような充填材料としてのガラスの好適な使用実施例には、好ましくは170℃から400℃までの範囲内で転移温度Tgを有し、紫外線および可視域において高い透過度を有する、低融点のカルコゲナイドガラスを含むが、これに限定されるものではない。たとえば、TeO2およびSnO−ベースのガラス、たとえば次の化学組成物を有するガラスなど:90%TeO2,10%P2O;75%TeO2,20%ZnO,5%Na2O;85%TeO2,15%WO3;89%TeO2,11%BaO;20%SnO,30%P25,50%SnF2を使用してもよい。ガラスリスト中のすべての百分率はモル百分率である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の蛍光変換発光ダイオードを示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機発光材料を含む発光ダイオード用の無機蛍光体(102)であって、結合前駆体材料(103)が前記無機蛍光体(102)の表面上に配置され、前記結合前駆体材料は少なくとも一部が加水分解された有機修飾シランを含むことを特徴とする無機燐光体。
【請求項2】
前記結合前駆体材料は、さらにSi、Al、Ga、Ti、Ge、P、B、Zr、Y、Sn、PbおよびHfからなる群から選択される少なくとも一つの元素の酸化物を含む請求項1に記載の無機蛍光体。
【請求項3】
前記結合前駆体材料はさらにガラス粒子を含む請求項1に記載の無機蛍光体。
【請求項4】
前記結合前駆体材料は少なくとも一部が加水分解されたモノ−有機修飾トリアルコキシシランを含む請求項1乃至3の何れかに記載の無機蛍光体。
【請求項5】
前記モノ−有機修飾トリアルコキシシランの一般式はR1−Si(OR2)(OR3)(OR4)であって、R1はメチル、エチルおよびフェニルから選択され、R2、R3およびR4はそれぞれ別々にメチル、エチルおよびプロピルから選択される請求項4に記載の無機蛍光体。
【請求項6】
前記結合前駆体材料はT−シリコン原子を有するシリコン樹脂を含む請求項1乃至5の何れかに記載の無機蛍光体。
【請求項7】
前記シリコン樹脂中の少なくとも一部のシリコン原子は、メチル、エチルおよびフェニルから選択される基に直接結合する請求項6に記載の無機蛍光体。
【請求項8】
前記結合前駆体材料はゾル−ゲル材料である請求項1乃至7の何れかに記載の無機蛍光体。
【請求項9】
発光ダイオード用の無機蛍光体の製造方法であって、
無機蛍光体(102)を提供するステップと、
少なくとも一部が加水分解された有機修飾シランを含有する結合前駆体材料を準備するステップと、
前記無機蛍光体の表面上に前記結合前駆体材料(103)の層を配置するステップと、を含む無機蛍光体の製造方法。
【請求項10】
前記配置するステップには前記結合前駆体材料を乾燥させるステップが含まれる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
光放出表面(101)を有する少なくとも一つの発光ダイオード(100)および結合材料(103)によって前記光放出表面に接続される無機蛍光体(102)を含む光放出デバイスであって、前記結合材料はシリコン原子および酸素原子を含むマトリックスを含み、少なくとも一部の前記シリコン原子は炭化水素基に直接結合していることを特徴とする光放出デバイス。
【請求項12】
光放出デバイスの製造方法であって、
発光ダイオード(100)を提供するステップと、
請求項9に記載の方法によって得ることができるまたは請求項1に記載の結合前駆体材料(103)を有する無機蛍光体(102)を提供するステップと、
前記発光ダイオードの光放出面上に前記無機蛍光体(102)を、前記結合前駆体材料(103)が前記発光ダイオード(100)の前記光放出面(101)に接触するように配置するステップと、
前記蛍光体と前記発光ダイオード間で物理的および光学的結合を得るように、前記結合前駆体材料の少なくとも一部を縮合するステップとを有する光放出デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記縮合は、前記結合前駆体材料を加熱することで行なわれる請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記縮合は前記蛍光体(102)を前記発光ダイオード(100)に押圧している間に行なわれる請求項12または請求項13に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−538955(P2009−538955A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512712(P2009−512712)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【国際出願番号】PCT/IB2007/051738
【国際公開番号】WO2007/138502
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】