説明

発光モジュール

【課題】 チャーピングを低減可能な発光モジュールを提供する。
【解決手段】 本発明の実施の形態に係る発光モジュールは、半導体発光素子と、半導体変調素子と、半導体発光素子に駆動電流を供給する第1の駆動回路と、半導体変調素子に駆動電圧を印加する第2の駆動回路と、第1の駆動回路及び第2の駆動回路を制御する制御回路とを備える。駆動電流は、第1のレベルの電流と該第1のレベルより低レベルの第2のレベルの電流とを含んでいる。駆動電圧は、第3のレベルの逆方向電圧と当該第3のレベルより高レベルの第4のレベルの逆方向電圧とを含んでいる。制御回路は、第1のレベルの電流供給時に第3のレベルの電圧が供給され、第2のレベルの電流供給時に第4のレベルの電圧が供給されるように、第1の駆動回路及び第2の駆動回路を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光モジュールには、直接変調方式の発光モジュールと、外部変調方式の発光モジュールとがある。前者、即ち直接変調方式の発光モジュールでは、半導体レーザの駆動電流を増減させることによって、半導体発光素子から変調光が出力される。一方、後者の発光モジュールは、半導体レーザと電界吸収型(Electro−Absorption)半導体変調素子(以下、「EA素子」という。)を備えている。この発光モジュールでは、半導体レーザは直流電流によって一定のパワー光を出力し、EA素子が当該光の変調を行なう。以上の変調方式については、下記非特許文献1に記載されている。
【非特許文献1】KoichiWakita, 「Semiconductor Optical Modulations」, Kluwer Academic Publishers, 1998, P42, P84
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
直接変調方式の発光モジュールでは、変調光の消光比を大きくするために、消光時に半導体レーザへの駆動電流を、閾値電流の近傍のレベルに抑える必要がある。かかる駆動電流は、発光と消光との切換の際に、半導体レーザの緩和振動と呼ばれる光出力やキャリア密度の変動を生じさせる。その結果、半導体レーザの出力変調光の波長変動、所謂チャーピングが生じる。
【0004】
一方、外部変調方式の発光モジュールでは、EA素子によるチャーピングが生じる。これは、光吸収によるEA素子の屈折率変化に起因するものである。また、消光比を大きくするために、EA素子への印加電圧を大きくすると、チャーピング特性(αパラメータ)が変動するという問題がある。さらに、消光比を大きくするためには消光時の光吸収を大きくする必要がある。その結果、放出時間の長い正孔が印加電圧を打ち消す方向に作用し、変調特性を劣化させるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、チャーピングを低減可能な発光モジュールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発光モジュールは、半導体発光素子と、半導体発光素子と光学的に結合された電界吸収型の半導体変調素子と、半導体発光素子に駆動電流を供給する第1の駆動回路と、半導体変調素子に駆動電圧を印加する第2の駆動回路と、第1の駆動回路及び第2の駆動回路を制御する制御回路とを備える。駆動電流は、第1のレベルの電流と該第1のレベルより低レベルの第2のレベルの電流とを含んでいる。駆動電圧は、第3のレベルの絶対値の逆方向電圧と当該第3のレベルの絶対値より高レベルの絶対値である第4のレベルの絶対値の逆方向電圧とを含んでいる。制御回路は、第1のレベルの電流の半導体発光素子への供給時に第3のレベルの電圧が半導体変調素子に印加され、第2のレベルの電流の半導体発光素子への供給時に第4のレベルの電圧が半導体変調素子に印加されるように、第1の駆動回路及び第2の駆動回路を制御する。
【0007】
この発光モジュールによれば、半導体発光素子および半導体変調素子の双方が変調されている。したがって、直接変調方式の発光モジュールに比べて半導体発光素子の駆動電流の振幅を小さくし、当該駆動電流におけるバイアス電流を大きくすることができる。その結果、光出力やキャリア密度の緩和振動が低減され、半導体発光素子の出力変調光のチャーピングが低減される。
【0008】
また、この発光モジュールによれば、半導体発光素子および半導体変調素子の双方によって光出力が変調されるので、従来の外部変調方式の発光モジュールに比べて半導体変調素子の変調電圧の絶対値を小さくすることができる。したがって、印加電圧に対する半導体変調素子のチャーピング特性の変動が低減される。また、半導体変調素子の光吸収量が低減され、放出時間の長い正孔の残留量が低減されるので、半導体変調素子の変調特性の劣化が低減される。
【0009】
第2のレベルの電流は半導体発光素子の閾値電流より大きいことが好ましい。これによって、半導体発光素子の緩和振動に伴うオーバーシュートやアンダーシュートが低減されるので、半導体発光素子の出力変調光のチャーピングが低減される。
【0010】
半導体変調素子への駆動電圧は、負の直流バイアス電圧を含むことが好ましい。半導体変調素子にある負の電圧レベルの逆方向電圧を印加すると、半導体変調素子によるチャーピングが半導体発光素子によるチャーピングに対して逆方向となるようにできる。したがって、半導体発光素子によるチャーピングが半導体変調素子によるチャーピングを打ち消して、発光モジュールの光出力のチャーピングを低減することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チャーピングを低減可能な発光モジュールが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る発光モジュールの構成を概略的に示す図である。図1に示す発光モジュールシステム10は、半導体発光素子12、半導体変調素子14、第1の駆動回路16、第2の駆動回路18、および、制御回路20を備える。
【0014】
半導体発光素子12は、半導体レーザである。半導体レーザ12は、基板22と活性層13を有している。活性層13は、例えば、組成の異なるGaInAsP量子井戸層とGaInAsPバリア層からなる多重量子井戸構造を有することができる。なお、基板22は、半導体変調素子14に共有されている。すなわち、半導体レーザ12と半導体変調素子14とは、モノリシックに形成されている。
【0015】
半導体レーザ12は、活性層13に対して基板22と反対側の面12aに電極24を有している。また、半導体レーザ12は、基板22の他方の主面22aに、電極26を有している。この電極26も半導体変調素子14と共有されている。
【0016】
これら電極24と26との間には、第1の駆動回路16から駆動電流が供給される。半導体レーザ12は、駆動電流が供給されると、活性層13における電子と正孔との再結合によって光を発生する。この半導体レーザ12の一端面12bは、半導体変調素子14の一端面14bと光学的に結合されている。
【0017】
半導体変調素子14は、電界吸収型(Electro−Absorption)半導体変調素子(以下、「EA素子」という。)である。EA素子14は、基板22と光吸収層(活性層)15を有している。
【0018】
光吸収層15は半導体レーザ12の活性層13と光学的に結合されている。光吸収層15は、例えば、組成の異なるGaInAsP量子井戸層とGaInAsPバリア層とからなる多重量子井戸構造の光吸収層である。この光吸収層15に対して基板22と反対側の面14aには、電極28が設けられている。
【0019】
電極28と電極26との間には、pn接合構造に対して逆方向の駆動電圧が第2の駆動回路18から供給される。EA素子14は、逆方向の駆動電圧についてレベル(電圧の絶対値)が大きいほど、光吸収層15において半導体レーザ12からの光を多く吸収する。この光吸収層15を通過した光は、EA素子14の他端面14dから出力変調光として出力される。
【0020】
第1の駆動回路16が出力する駆動電流は、制御回路20からの変調信号によって変調されている。また、第2の駆動回路18が出力する駆動電圧は、制御回路20からの変調信号によって変調されている。
【0021】
より具体的には、制御回路20は、半導体レーザ12に供給される駆動電流とEA素子14に供給される駆動電圧とが所定の位相関係を有するように、第1の駆動回路16及び第2の駆動回路18に変調信号を供給する。以下、本実施の形態では、駆動電流と駆動電圧とが逆位相であるものとするが、本発明の目的が達成できれば駆動電流と駆動電圧との位相が逆位相から一定量だけずれていてもよい。
【0022】
図2は、半導体レーザ12の駆動電流−光出力特性と共に、EA素子14の駆動電圧(絶対値)−光吸収特性を示す図である。図2には、これら特性と共に、半導体レーザ12の駆動電流波形A、EA素子14の駆動電圧波形(絶対値)B、半導体レーザ12の光出力波形C、および、EA素子14の光出力波形Dが示されている。
【0023】
第1の駆動回路16は、制御回路20からの変調信号に基づき、駆動電流波形Aに示されるように変調された駆動電流を半導体レーザ12に供給する。この駆動電流は、期間t1では第1のレベルの電流値I1となり、期間t2では第2のレベルの電流値I2となるように変調されている。電流値I2は、半導体レーザ12の閾値電流値Ithに比べて十分に大きい。一般に、半導体レーザ12の閾値電流値は約5mA〜20mAである。したがって、本実施形態では、駆動電流のバイアス電流値Ibを約50mAとし、駆動電流の変調電流値ΔImを約20mA〜30mAとしている。このとき、電流値I1は(Ib+ΔIm)であり、電流値I2は(Ib−ΔIm)である。
【0024】
第2の駆動回路18は、制御回路20からの変調信号に基づき、駆動電圧波形Bに示されるように変調された駆動電圧を、EA素子14のpn接合構造に対して逆方向となるように、EA素子14に供給する。本実施形態では、第2の駆動回路18は、駆動電圧波形Bのような負のバイアス電圧を含む駆動電圧をEA素子14に供給する。この駆動電圧の絶対値は、期間t1では第3のレベルの電圧値V1となり、期間t2では第4のレベルの電圧値V2となるように変調されている。本実施形態では、駆動電圧のバイアス電圧の絶対値Vbを約0V〜2Vとしており、駆動電圧の変調電圧の絶対値ΔVmを約0V〜3Vとしている。このとき、第3のレベルの電圧の絶対値V1はVbであり、第4のレベルの電圧の絶対値V2は(Vb+ΔVm)である。
【0025】
駆動電圧の変調周波数は、駆動電流の変調周波数と同一である。一般に、光通信システムがとりうる信号のビットレートは2.5Gbps〜40Gbpsであるので、例えばNRZ方式を用いた光通信システムにおける駆動電流および駆動電圧の変調周波数は、1.25GHz〜20GHzである。
【0026】
以上の説明の如く、制御回路20は、期間t1では駆動電流値がI1となり且つ駆動電圧の絶対値がV1となるように、第1の駆動回路16および第2の駆動回路18を制御し、期間t2では駆動電流値がI2となり且つ駆動電圧の絶対値がV2となるように、第1の駆動回路16および第2の駆動回路18を制御する。
【0027】
以下、発光モジュール10システムの動作および作用効果を説明する。第1の駆動回路16が、制御回路20に制御されて、駆動電流波形Aに示されるように変調された駆動電流を、半導体レーザ12に供給する。また、第2の駆動回路18が、制御回路20に制御されて、駆動電圧波形Bに示されるように変調された負のバイアスレベルの駆動電圧を、EA素子14に逆方向に供給する。
【0028】
半導体レーザ12は、供給された駆動電流に応じて、光出力波形Cに示されるように変調された光をEA素子14へ出力する。EA素子14は、半導体レーザ12からの光を受けて、一周期中の期間t1ではこの光を通過させ、一周期中の期間t2では当該光を吸収する。このようにして、発光モジュール10から光出力波形Dに示すように変調された光が出力される。
【0029】
このように、本実施形態では、半導体レーザ12およびEA素子14が変調されている。したがって、直接変調方式の発光モジュールに比べて半導体レーザ12の変調電流の振幅ΔImを小さくすることができる。また、外部変調方式の発光モジュールに比べてEA素子14の変調電圧の絶対値を小さくすることができる。半導体レーザ12に値I2のローレベルの駆動電流が供給されているときに、EA素子14には絶対値V2のハイレベルの逆方向の駆動電圧が印加されているので、半導体レーザ12の変調電流の振幅ΔIm、および、EA素子14の変調電圧の絶対値が小さくても、半導体レーザ12のローレベルの光がEA素子14によって選択的に吸収される。したがって、本実施形態では、直接変調方式および外部変調方式の発光モジュールと同等の消光比を得ることができる。
【0030】
また、半導体レーザ12の変調電流の振幅ΔImを小さくすることができるので、半導体レーザ12の変調電流値I2を半導体レーザ12の閾値電流値Ithまで小さくする必要がない。したがって、光出力やキャリア密度の緩和振動が低減され、半導体レーザ12によるチャーピングが低減される。
【0031】
また、駆動電流値I2を閾値Ithに比べて十分大きくすることができるので、半導体レーザ12の緩和振動に伴うオーバーシュートやアンダーシュートが低減され、半導体レーザ12によるチャーピングが低減される。
【0032】
また、半導体レーザ12を高いバイアス電流値Ibで駆動することができるので、半導体レーザ12の緩和振動周波数が高くなる。したがって、発光モジュール10は、高い周波数で変調する光通信システムに適用されることが好適である。また、半導体レーザ12によるノイズが低減されるので、低ノイズである発光モジュール10が提供される。
【0033】
また、EA素子14の変調電圧の絶対値を小さくすることができるので、印加電圧に対するEA素子14のチャーピング特性の変動が低減される。また、EA素子14の光吸収量が低減され、放出時間の長い正孔の残留量が低減されるので、EA素子14の変調特性の劣化が低減される。
【0034】
また、本実施形態では、EA素子14に負のバイアス電圧を含む逆方向電圧を印加しているので、ある負のバイアス電圧においてEA素子14によるチャーピングが半導体レーザ12によるチャーピングに対して逆の特性のものにすることができる。したがって、半導体レーザ12によるチャーピングがEA素子14によるチャーピングを打ち消し、発光モジュール10の光出力のチャーピングが低減される。
【0035】
図3は、EA素子14、半導体レーザ12、および、発光モジュール10によるチャーピング特性を示す図である。図3における(a)〜(c)には、駆動電圧のバイアス電圧値Vbをそれぞれ0V、−1.0V、−1.5VとしたときのEA素子14によるチャープ量(波長変動)が示されている。図3における(a)〜(c)から明らかなように、EA素子14のチャーピング特性は駆動電圧のバイアス電圧値Vbに依存する。
【0036】
図3における(d)には、半導体レーザ12によるチャープ量(波長変動)が示されている。図3における(a)〜(d)を参照すれば、駆動電圧のバイアス電圧値Vbをある適当な負の電圧としたときのEA素子14のチャーピング特性が、半導体レーザ12によるチャーピング特性に対して逆の特性となることがわかる。
【0037】
図3における(e)には、駆動電圧のバイアス電圧値Vbを−1.5VとしたときのEA素子14と半導体レーザ12とを用いた発光モジュール10の光出力のチャープ量が示されている。また、図3における(f)には、この発光モジュール10の光出力が示されている。図3における(e)および(f)を参照すれば、半導体レーザ12によるチャーピングがEA素子14によるチャーピングを打ち消し、発光モジュール10の光出力のチャーピングが低減されることがわかる。
【0038】
図4は、従来の直接変調方式による発光モジュールの光出力特性を示す図である。図4における(a)には、直接変調方式の光出力波形が示されており、(b)にはチャーピング特性が示されている。従来の直接変調方式の半導体レーザでは、消光のための駆動電流を半導体レーザの閾値電流レベルにする必要があるため、図4に示すように光出力に大きなチャーピング(波長変動)が生じている。一方、本実施の形態の発光モジュール10によれば、前述のようにチャーピングが低減され、光出力のオーバーシュートおよびアンダーシュートの低減によって光出力波形が改善される。
【0039】
なお、本発明は上記した本実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、本実施形態では、半導体レーザ12とEA素子14とが同一の基板22上に形成されているが、これらが異なる基板上に形成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態に係る発光モジュールの構成を概略的に示す図である。
【図2】半導体レーザの駆動電流−光出力特性と共に、EA素子の駆動電圧(絶対値)−光吸収特性を示す図である。
【図3】EA素子、半導体レーザ、および、発光モジュールによるチャーピング特性を示す図である。
【図4】従来の直接変調方式による発光モジュールの光出力特性を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10…発光モジュール、12…半導体発光素子(半導体レーザ)、13…活性層、14…半導体変調素子(EA素子)、15…光吸収層、16…第1の駆動回路、18…第2の駆動回路、20…制御回路、22…基板、24、26、28…電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光素子と、
前記半導体発光素子と光学的に結合された電界吸収型の半導体変調素子と、
前記半導体発光素子に駆動電流を供給する第1の駆動回路と、
前記半導体変調素子に駆動電圧を印加する第2の駆動回路と、
前記第1の駆動回路及び前記第2の駆動回路を制御する制御回路と、
を備え、
前記駆動電流は、第1のレベルの電流と該第1のレベルより低レベルの第2のレベルの電流とを含んでおり、
前記駆動電圧は、第3のレベルの絶対値の逆方向電圧と当該第3のレベルの絶対値より高レベルの絶対値である第4のレベルの絶対値の逆方向電圧とを含んでおり、
前記制御回路は、前記第1のレベルの電流の前記半導体発光素子への供給時に前記第3のレベルの電圧が前記半導体変調素子に印加され、前記第2のレベルの電流の前記半導体発光素子への供給時に前記第4のレベルの電圧が前記半導体変調素子に印加されるように、前記第1の駆動回路及び前記第2の駆動回路を制御する、
発光モジュール。
【請求項2】
前記第2のレベルの電流が前記半導体発光素子の閾値電流より大きい、請求項1記載の発光モジュール。
【請求項3】
前記駆動電圧は、負の直流バイアス電圧を含む、
請求項1または2記載の発光モジュール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−19418(P2007−19418A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201943(P2005−201943)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】