説明

発光材料及び有機発光素子

【課題】蛍光物質をDNAに挿入した従来のDNA複合体に比べ、成膜性に優れると共に、高い電荷輸送性能を有する発光材料を提供する。また、本発明の発光材料を用いて薄膜形成された平滑で且つ高い電荷輸送性能を有する発光層を備えることで、従来のDNA複合体を発光層に用いた有機発光素子に比べて、低電圧で大きな発光強度を得ることができる有機発光素子を提供する。
【解決手段】発光材料は、デオキシリボ核酸(DNA)と、主鎖又は側鎖にプロトン化可能なアミノ基を少なくとも1つ有し、DNAと絡み合う導電性高分子と、DNAのアニオン部に結合するカチオン性官能基を有する脂質化合物と、DNAのアニオン部に結合する蛍光発光性の金属錯体と、を含む。有機発光素子は、この発光材料を含む発光層と、発光層に正孔を注入する陽極と、発光層に電子を注入する陰極と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光材料及び有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デオキシリボ核酸(DNA)を光電子デバイスの材料に応用する研究が進められている。例えば、DNAの二重らせん構造内に金属錯体などの発光物質を挿入(インターカレーション)した「DNA複合体」を発光材料として用い、室温で燐光発光が得られるようにした有機発光素子が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−3165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、材料としてのDNAは、多数のリン酸基を有する水溶性の高分子であり、自己組織化という特性を除けば、元来は光電子デバイスの材料には不向きである。このため、DNA複合体を光電子デバイスの材料に応用するには、疎水化して成膜性を高める必要がある。また、DNAに特有の二重らせん構造を、物質のインターカレーションだけでなく、他の光電子性能に反映させる等の工夫が必要となる。
【0005】
本発明の目的は、蛍光物質をDNAに挿入した従来のDNA複合体に比べ、成膜性に優れると共に、高い電荷輸送性能を有する発光材料を提供することにある。また、本発明の他の目的は、本発明の発光材料を用いて薄膜形成された平滑で且つ高い電荷輸送性能を有する発光層を備えることで、従来のDNA複合体を発光層に用いた有機発光素子に比べて、低電圧で大きな発光強度を得ることができる有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明の発光材料は、デオキシリボ核酸(DNA)と、主鎖又は側鎖にプロトン化可能なアミノ基を少なくとも1つ有し且つ前記DNAと絡み合う導電性高分子と、前記DNAのアニオン部に結合するカチオン性官能基を有する脂質化合物と、前記DNAのアニオン部に結合する蛍光発光性の金属錯体と、を含んでいる。前記金属錯体が、前記脂質化合物との疎水性相互作用により保持されることが好ましい。
【0007】
前記導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリアニシジン、ポリアミノフェノール、ポリメタニル酸、ポリナフチルアニリン、及びポリメトキシアニリンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリアニリンが特に好ましい。
【0008】
前記脂質化合物としては、脂肪族又は芳香族の炭化水素基を有する炭素数が10以上の四級アンモニウム塩を用いてもよい。前記炭化水素基としては、少なくとも1つの電子共役系を有するものが好ましい。例えば、前記脂質化合物は、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩(CTMA)、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、及びN−ヘキサデシルピリジニウム塩からなる群から選択される一種である。
【0009】
前記金属錯体としては、ルテニウム錯体、ロジウム錯体、オスミウム錯体、イリジウム錯体、レニウム錯体を少なくとも含む遷移金属錯体、及び亜鉛錯体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、トリス(2,2−ビピリジル)ルテニウム(II)錯体(Ru(bpy)2+) が特に好ましい。
【0010】
また、上記目的を達成するために本発明の有機発光素子は、本発明の発光材料を含む発光層と、前記発光層に正孔を注入する陽極と、前記発光層に電子を注入する陰極と、を含んでいる。
【0011】
前記発光層と前記陰極との間に、前記金属錯体とは異なる波長で発光する蛍光発光性の金属錯体を含む電子輸送層を更に備えていてもよい。この場合、前記電子輸送層は、トリス(8−オキソキノリン)アルミニウム(III)錯体(Alq)を有していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発光材料によれば、蛍光物質をDNAに挿入した従来のDNA複合体に比べ、成膜性に優れると共に、高い電荷輸送性能を有する発光材料を提供することができる。また、本発明の有機発光素子によれば、本発明の発光材料を用いて薄膜形成された平滑で且つ高い電荷輸送性能を有する発光層を備えることで、従来のDNA複合体を発光層に用いた有機発光素子に比べて、低電圧で大きな発光強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)〜(C)は本実施の形態に係る発光材料(組織体)の分子構造を模式的に示す図である。
【図2】(A)及び(B)は発光材料の溶液の調整手順を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る有機EL素子の積層構造の一例を示す断面図である。
【図4】図3に示す構造の有機EL素子の製造方法の一例を示す概略図である。
【図5】DNA/PAn/CTMA組織体膜のUV−可視吸収スペクトルとCDスペクトルとを一緒に示す図である。
【図6】DNA/PAn/CTMA組織体膜、DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜のUV−可視吸収スペクトルとCDスペクトルとを一緒に示す図である。
【図7】UV−可視吸収スペクトルとCDスペクトルの各々について、DNA/PAn/CTMA組織体膜のスペクトルと、DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜のスペクトルとの差分を示す図である。
【図8】(A)及び(B)はDNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜の表面のAFM像を示す図である。
【図9】DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜のL−I−V特性を測定した結果を示すグラフである。
【図10】(A)はDNA/Ru(bpy)2+組織体膜の表面のAFM像を示す図であり、(B)はDNA/PAn/Ru(bpy)2+組織体膜の表面のAFM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
<発光材料の組成>
まず、発光材料について説明する。
本発明の実施の形態に係る発光材料は、デオキシリボ核酸(DNA)と、主鎖又は側鎖にプロトン化可能なアミノ基を少なくとも1つ有し且つDNAと絡み合う導電性高分子と、DNAのアニオン部に結合するカチオン性官能基を有する脂質化合物と、DNAのアニオン部に結合する蛍光発光性の金属錯体と、を含んでいる。
【0015】
−模式的な分子構造−
図1(A)〜(C)は本実施の形態に係る発光材料(組織体)の分子構造を模式的に示す図である。なお、以下では、複数の成分からなる発光材料を、「complex」の意味で「複合体」又は「組織体」と称する。図1(A)に示すように、DNA10は2重らせん構造を有し、DNA鎖を形成する各糖にはアニオン部10Aとしてリン酸基が結合されている。導電性高分子12は、主鎖又は側鎖にあるアミノ基がプロトン化されてアンモニウム塩となり、プロトン化されたアミノ基がDNA10のアニオン部10Aの一部に結合(イオン結合により塩を形成)している。これにより、導電性高分子12は、DNA鎖に沿ってDNA10に絡み付いている。導電性高分子12が絡み付いたDNA10には、結合可能なアニオン部10Aが残存している。
【0016】
また、図1(B)に示すように、カチオン性官能基を有する脂質化合物14は、導電性高分子12が結合していないDNA10のアニオン部10Aに、そのカチオン性官能基を介して結合している。これにより、DNA10の外側には、長鎖アルキル基など脂質化合物14の疎水部が配置されて、発光材料を疎水化している。
【0017】
更に、図1(C)に示すように、蛍光発光性の金属錯体16は、導電性高分子12や脂質化合物14が結合していないDNA10のアニオン部10Aに、静電相互作用により結合されている。例えば、DNA10のアニオン部10Aは、金属錯体16の配位子の一部となり、錯体金属に配位している。また、金属錯体16は、脂質化合物14との疎水性相互作用により、DNA10のアニオン部10Aに結合された脂質化合物14の間に分散保持されて、DNA10と同様に疎水化されている。
【0018】
本実施の形態に係る発光材料は、上記の分子構造を形成することで、疎水化されて水分を含まなくなると共に、蛍光発光性の金属錯体16が均一に分散される。従って、本実施の形態に係る発光材料を薄膜形成した場合に、防湿性が高く平滑性に優れる発光材料膜を成膜することができる。即ち、本実施の形態では、成膜性に優れる発光材料を得ることができる。
【0019】
また、本実施の形態に係る発光材料は、上記の分子構造を形成することで、DNAの2重らせん構造に沿ってキャリアの輸送性が向上する。従って、本実施の形態に係る発光材料を薄膜形成した場合に、高い電荷輸送性能を有する発光材料膜を得ることができる。即ち、本実施の形態の発光材料膜は、蛍光物質をDNAに挿入した従来のDNA複合体膜に比べ、低電圧で高い発光強度を発揮することができる。
【0020】
−発光材料の各成分−
次に、発光材料に含まれる各成分について説明する。
(1)DNA
本実施の形態に係るデオキシリボ核酸(DNA)は、2本のポリヌクレオチド鎖が二重らせん構造を形成した高分子である。また、二重らせん構造を形成可能であればよく、リボ核酸(RNA)を含む構造でもよい。以下では、DNAとRNAとを特に区別する必要がない場合には、DNAの代わりにRNAを用いてもよい。
【0021】
DNAは、通常は、ナトリウム塩であり水溶性の高分子である。ポリヌクレオチド鎖は、糖、リン酸基、核酸塩基からなるヌクレオチドを単位とする鎖状重合体である。糖はデオキシリボース又はリボースであり、核酸塩基はアデニン(A)、グアニン(G)、ウラシル(U)、シトシン(C)、チミン(T)の5種類から選択される。本実施の形態に係るDNAは、二重らせん構造を形成可能であればよく、DNAの塩基配列自体に特に意味はない。従って、DNAの塩基配列は、同じでも異なっていてもよく、ランダムでも均一でもよい。
【0022】
本実施の形態のDNAとしては、天然DNA及び合成DNAのいずれも使用することができる。天然DNAとしては、細菌ウイルスのλファージDNA、大腸菌染色体DNA、仔牛胸腺DNA、サケ精子DNAを挙げることができる。また、合成DNAとしては、ポリ(dA)、ポリ(dT)、ポリ(dG)、ポリ(dC)、ポリ(dA−dT)、ポリ(dG−dC)などを用いて合成装置によって合成可能な合成DNAを挙げることができる。また、塩基配列の異なる種々の合成RNA、相補的塩基対を有するDNA/RNAハイブリッドも含むことができる。
【0023】
また、DNAのサイズ(長さ)は、成膜性の観点から、塩基対数100〜100万の範囲が好ましく、1000〜20万の範囲がより好ましい。なお、DNAの長さ(塩基対数)は、DNAの分子量に換算可能であり、DNAの分子量と略同じ値となる。
【0024】
(2)導電性高分子
本実施の形態に係る導電性高分子は、主鎖又は側鎖にプロトン化可能なアミノ基を有する導電性高分子である。例えば、主鎖にプロトン化可能なアミノ基を有する導電性高分子としては、下記一般式(A)で表される導電性高分子を用いることができる。
【0025】
【化1】

【0026】
前記一般式(A)において、Xは、芳香族環又は複素環を表す。前記芳香族環としては、例えば、ベンゼン、ハロゲン化ベンゼン、ナフタレンハロゲン化ナフタレン、アントラセン、トルエン、クメン、スチレン、キシレン、フェノール、ナフトール、などが挙げられ、これらは置換基を有していてもよい。これらの中でも、ベンゼン、ナフタレンが好ましく、ベンゼンがより好ましい。前記複素環としては、例えば、チオフェン、ピロール、オキサゾール、フラン、ピリジン、ピリミジン、プリン、インドール、カルバゾール、フルオレノン、などが挙げられ、これらは置換基を有していてもよい。これらの中でも、チオフェン、ピロールが好ましく、ピロールがより好ましい。
【0027】
前記一般式(A)における複数のXは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよいが、アミノ基が等間隔に配置される点で、互いに同一であるのが好ましい。Xは、置換基を有していてもよく、該置換基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記一般式(A)において、nは、重合度を表す(ここでは、重合度は、上記の「塩基対数」と同義である)。nとしては、成膜性並びに導電性の観点から、100〜100万の範囲が好ましく、1万〜30万の範囲がより好ましい。
【0028】
上記導電性高分子の具体例としては、例えば、ポリアニリン、ポリアニシジン、ポリアミノフェノール、ポリメタニル酸、ポリナフチルアニリン、ポリメトキシアニリン、などが好適に挙げられる。これらの中でも、導電性及び安定性の観点から、次式で表されるポリアニリンが特に好ましい。なお、ポリアニリンは「PAn」又は「PANI」と略記される。
【0029】
【化2】

【0030】
上記のポリアニリンは、下記に示すようにプロトン化されて導電性を示す。
【0031】
【化3】

【0032】
(3)脂質化合物
本実施の形態に係る脂質化合物は、カチオン性官能基を有する脂質化合物である。カチオン性官能基を有する脂質化合物は、DNAを含む発光材料を疎水化できるものであれば特に制限はない。カチオン性官能基を有する脂質化合物としては、基本的に疎水性の官能基を有する四級アンモニウム塩が用いられる。DNAのアニオン部であるリン酸基は、通常はナトリウム塩であるが、四級アンモニウム塩の添加により、ナトリウムイオン(Na)と四級アンモニウムイオンとのイオン交換が起こり、DNAを疎水化することが知られている。
【0033】
例えば、成膜性を向上させるとの観点からは、脂肪族又は芳香族の炭化水素基を有する炭素数が10以上の四級アンモニウム塩が好ましく、炭素数12〜20の脂肪族炭化水素基及び炭素数5〜20の芳香族炭化水素基からなる群より選択された炭化水素基を少なくとも1つ有する四級アンモニウム塩が好ましい。また、キャリア輸送性を向上させるとの観点からは、例えば芳香族の炭化水素基のように、少なくとも1つの共役系を有する炭化水素基を有する四級アンモニウム塩が好ましい。疎水性の官能基に電子共役系を導入することにより、発光材料の導電性(即ち、キャリア輸送性)が改善される。
【0034】
四級アンモニウムとしては、例えば、下記一般式(1)で示される界面活性剤を用いることができる。式中、m、n、及びyは、0〜20までの整数を示す。なお、第四級アンモニウムは、通常、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲンイオン(Cl、Br、I)との塩として提供される。
【0035】
【化4】

【0036】
上記一般式(1)で示される界面活性剤の具体例としては、下記式で表されるヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩があげられる。ヘキサデシルトリメチルアンモニウムの塩化物は、塩化セチルトリメチルアンモニウムとも称され、CTMAと略記される。
【0037】
【化5】

【0038】
また、第四級アンモニウムとしては、下記一般式(2)で示されるポリエチレングリコールを含む界面活性剤を用いることもできる。式中、n及びmは、0〜20までの整数を示す。
【0039】
【化6】

【0040】
更に、第四級アンモニウムとしては、下記一般式(3)で示される芳香環を含む界面活性剤を用いることもできる。式中、nは0〜30までの整数を示す。下記一般式(3)で示される界面活性剤の具体例としては、ベンジルトリメチルアンモニウム塩を挙げることができる。
【0041】
【化7】

【0042】
芳香環を含む前記構造式において、芳香環の種類は特に問わず、例えば一般式(4)に示したような、ピリジンの誘導体を用いることもできる。式中、nは0〜20までの整数を示す。下記一般式(4)で示される界面活性剤の具体例としては、N−ヘキサデシルピリジニウム塩を挙げることができる。
【0043】
【化8】

【0044】
なお、カチオン性官能基を有する脂質化合物は、上記の例示に拘わらず、四級化L−アラニン、四級化L−フェニルアラニン、四級化L−グルタミン酸、四級化ヒスチジン誘導体等のキラリティを有するカチオン性官能基を備えた四級アンモニウム塩でもよい。また、カチオン性官能基は、四級アンモニウムに限らず、リン酸基の負電荷と強い親和性を有する陽電荷を有するものであれば特に制限はない。
【0045】
(4)金属錯体
本実施の形態に係る金属錯体は、蛍光発光性の金属錯体である。本実施の形態に係る金属錯体としては、例えば、遷移金属錯体及び亜鉛錯体から選択される少なくとも1種が好ましく、ルテニウム錯体、ロジウム錯体、オスミウム錯体、イリジウム錯体、レニウム錯体及び亜鉛錯体から選択されるのがより好ましく、これらの中でも、ルテニウム錯体がより好ましい。また、金属錯体の配位子としては、脂質化合物との疎水性相互作用に優れる配位子が好ましい。具体的には、蛍光発光性のルテニウム錯体としては、下記式で表されるトリス(2,2−ビピリジル)ルテニウム(II)錯体(Ru(bpy)2+)が特に好ましい。
【0046】
【化9】

【0047】
上記のトリス(2,2−ビピリジル)ルテニウム(II)錯体(Ru(bpy)2+)は、中心金属であるルテニウムから配位子への電子移動遷移(MLCT)に起因する第一吸収体の極大波長が450nm(ε=1.38×10)付近に存在する。この極大波長は太陽光の中で最も強度が高いスペクトルとほぼ一致するため、当該錯体は、可視光により容易に励起されて蛍光発光する。
【0048】
(5)組成比
本発明の実施の形態に係る発光材料では、各成分の組成比(モル比)は以下の範囲とすることが好ましい。ここで、DNAのモル数はリン酸基のモル数で表される。導電性高分子のモル数はモノマーユニットのモル数で表される。脂質化合物のモル数はカチオン性官能基のモル数で表される。また、金属錯体のモル数は金属イオンのモル数で表される。
【0049】
DNA:導電性高分子は、1:10〜30:1の範囲が好ましく、1:2〜20:1の範囲がより好ましい。導電性高分子がポリアニリンの場合には、DNA:PAn=10:1が好ましい。
【0050】
DNA:脂質化合物は、10:1〜10:20の範囲が好ましく、10:3〜10:12の範囲がより好ましい。脂質化合物がCTMAの場合には、DNA:CTMA=1:1が好ましい。脂質化合物は、組織体膜の防湿性及び平滑性を向上させて成膜性を高める成分である。従って、脂質化合物の組成比が、低くなり過ぎないようにする。
【0051】
DNA:金属錯体は、1:10〜30:1の範囲が好ましく、1:2〜20:1の範囲がより好ましい。金属錯体がRu(bpy)2+の場合には、DNA:Ru(bpy)2+=10:1が好ましい。
【0052】
従って、本発明の実施の形態に係る発光材料が、DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+の組合せで構成される場合には、その組成比を、DNA:PAn:CTMA:Ru(bpy)2+=10:1:10:1としてもよい。
【0053】
<発光材料の成膜方法>
次に、上記発光材料を用いた成膜方法について説明する。上記発光材料の成膜は、基本的には「溶液キャスト法」により行われる。溶液キャスト法とは、成膜材料を溶媒に溶解した溶液を、基板表面にキャスト(流延)し、溶媒を除去(乾燥)して成膜する方法である。
【0054】
−発光材料溶液の調整−
図2(A)及び(B)は発光材料の溶液の調整手順を示す図である。図2では、発光材料であるDNA/導電性高分子/脂質化合物/金属錯体が、DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+の組合せで構成された例に関して調整手順を説明するが、他の材料を用いた場合にも基本的には同様の手順で、発光材料の溶液を調整することができる。なお、各成分の組成比に関しては上述した通りであり、具体的な濃度等に関しては実施例で説明する。
【0055】
まず、酸性水溶液に、導電性高分子の水溶液を加えた後に、DNAの水溶液を加える。導電性高分子のアミノ基は、酸性下でプロトン化されている。これにより、(DNA/導電性高分子)組織体の水溶液が得られる。次に、図2(A)に示すように、(DNA/導電性高分子)組織体の水溶液に、脂質化合物の水溶液を加える。脂質化合物の結合により(DNA/導電性高分子)組織体が疎水化されて、(DNA/導電性高分子/脂質化合物)組織体が沈殿する。沈殿した(DNA/導電性高分子/脂質化合物)組織体を、ろ過・乾燥する。この際に、イオン交換で生じた塩(例えば、NaCl)、水分、その他の水溶性の不純物が除去されて、(DNA/導電性高分子/脂質化合物)組織体が高い純度で単離される。
【0056】
次に、図2(B)に示すように、疎水性の(DNA/導電性高分子/脂質化合物)組織体を、ブタノール等の有機溶媒に溶解して、(DNA/導電性高分子/脂質化合物)組織体の有機溶媒溶液を得る。金属錯体を同じ有機溶媒に溶解して、金属錯体の有機溶媒溶液を得る。(DNA/導電性高分子/脂質化合物)組織体の有機溶媒溶液に、金属錯体の有機溶媒溶液を加えることで、(DNA/導電性高分子/脂質化合物/金属錯体)組織体の有機溶媒溶液が得られる。
【0057】
なお、(DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+)組織体は、ブタノールに対し均一に溶解している。発光材料の溶液を調整する際には、同様に、(DNA/導電性高分子/脂質化合物/金属錯体)組織体の均一溶液が得られるように、(DNA/導電性高分子/脂質化合物)組織体、金属錯体、(DNA/導電性高分子/脂質化合物/金属錯体)組織体の各々を溶解することができる、有機溶媒を選択する。
【0058】
−その他の成分−
本実施の形態に係る発光材料の溶液は、上記以外の成分(添加物)として、電荷輸送性及び発光量子収率を向上させる観点から、単核又は多核の芳香族化合物や、単核又は多核のヘテロ芳香族化合物等を含んでいてもよい。
【0059】
−成膜−
上述した通り、発光材料の成膜は、基本的には最も簡単な「溶液キャスト法」により行われる。上記調整で得られた発光材料溶液を、基板上にキャストした後で、風乾、熱乾燥、真空乾燥等の乾燥方法により溶媒を除去して乾燥する。発光材料溶液は、所望の膜厚が得られるように、所定の粘度や濃度に調整されてキャストされる。キャストには、カンマコーター、リップコーター、ドクターブレードコーター、バーコーター、ロールコーター等を用いてもよい。なお、成膜方法は、溶液キャスト法に限定される訳ではない。発光材料の成膜性や所望の膜厚に応じて、ディップコート法、スピンコート法など他の成膜方法を用いてもよい。例えば、薄膜の形成には、溶液キャスト法よりも、遠心力を利用したスピンコート法の方が好適である。
【0060】
<有機発光素子>
次に、本発明の有機発光素子の実施の形態に係る有機EL素子について説明する。
本発明の実施の形態に係る有機EL素子は、上記の発光材料を含む発光層と、発光層に正孔を注入する陽極と、発光層に電子を注入する陰極と、を含んでいる。即ち、本発明の実施の形態に係る有機EL素子は、上記の(DNA/導電性高分子/脂質化合物/金属錯体)組織体を発光材料とする発光層を備える以外に特に制限はなく、公知の構成を採用することができる。
【0061】
有機EL素子は、一般に、正孔を注入可能な陽極及び電子を注入可能な陰極による一対の電極間に、該正孔と該電子とを再結合させる際に生ずる再結合エネルギーによって発光中心が励起されて発光を生ずる発光物質を含有する発光層を含む有機化合物層を有している。有機化合物層は、発光層の外に、正孔を輸送する正孔輸送層、電子を輸送する電子輸送層、保護層等を、適宜、含んでいてもよい。
【0062】
−積層構造の一例−
図3は本発明の実施の形態に係る有機EL素子の積層構造の一例を示す断面図である。本実施の形態に係る有機EL素子は、図3に示すように、基板20、基板20上に積層された陽極22、基板20及び陽極22上に積層された発光層24、発光層24上に積層された電子輸送層26、及び電子輸送層26上に積層された陰極28を備えている。陽極22と陰極28とは、発光層24に電界を印加するための電源に接続されている。陽極22は、基板20の一部の表面を覆うように設けられている。発光層24は、陽極22の表面の一部と、陽極22で覆われていない基板20の表面とを覆うように、基板20及び陽極22上に設けられている。陰極28は、電子輸送層26の一部の表面を覆うように設けられている。
【0063】
上記の有機EL素子では、陽極22と陰極28との間に電圧が印加されると、陽極22から発光層24に正孔が注入されると共に、陰極28から電子輸送層26を介して発光層24に電子が注入される。発光層24では、正孔と電子とが再結合して、再結合エネルギーによって発光層24に含まれる蛍光体を励起する。励起された蛍光体が、励起状態から基底状態に戻る際に光(フォトン)を放出することで、発光層24で蛍光発光が発生する。発光層24で生じた光は、基板20側から取り出される。
【0064】
(1)基板
基板20は、有機EL素子の発光波長の光に対して透明な基板である。基板20としては、通常、石英基板、ガラス基板、樹脂基板等が用いられる。基板20の厚みとしては、機械的強度を保つのに充分な厚みであれば特に制限はないが、石英基板、ガラス基板を用いる場合には、通常0.2mm以上であり、0.7mm以上が好ましい。
【0065】
(2)陽極
陽極22は、発光層24に正孔を注入できれば特に制限はなく、公知の陽極の構成を適宜選択することができる。陽極22の材料としては、金属、合金、金属酸化物等が挙げられる。例えば、金、銀、クロム、ニッケル等の金属及びこれらの合金、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)等の金属酸化物等が挙げられる。これらの中でも、生産性、高伝導性、透明性などの観点からはITOが特に好ましい。陽極22の厚みとしては、材料等により適宜選択可能であるが、通常は10nm〜5μmである。ITOで構成される陽極22は、電子ビーム法、スパッタリング法等により形成することができる。
【0066】
(3)陰極
陰極28は、発光層24に電子を注入できれば特に制限はなく、公知の陰極の構成を適宜選択することができる。陰極28の材料としては、金属、合金、金属酸化物等が挙げられる。例えば、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム−アルミニウム合金等が挙げられる。これらの中でも、仕事関数が4eV以下の材料が好ましく、アルミニウムが特に好ましい。陰極28の厚みとしては、材料等に応じて適宜選択することができるが、通常は10nm〜5μmである。アルミニウム等の金属、合金で構成される陰極28は、電子ビーム法、スパッタリング法等により形成することができる。
【0067】
(4)発光層
発光層24は、電界印加時に陽極22から正孔を注入することができ、陰極28から電子を注入することができ、更に正孔と電子との再結合の場を提供し、再結合の際に生ずる再結合エネルギーにより蛍光光を発光させる機能を有していればよい。本実施の形態では、上記の(DNA/導電性高分子/脂質化合物/金属錯体)組織体を発光材料とする発光層24を備えることにより、上記の機能を発現することができる。発光層24は、発光材料の成膜方法として説明した上記の方法で、成膜することが可能である。発光層24の厚みとしては、発光効率や電荷輸送特性の観点から、100nm以下とすることができ、10nm〜60nmが好ましく、30nm〜50nmがより好ましい。
【0068】
(5)電子輸送層
電子輸送層26は、電界印加時に陰極28から電子を注入する機能、該電子を輸送する機能、陽極22から注入された正孔を障壁する機能のいずれかを有しているものであればよい。電子輸送層26の材料としては、例えば、トリアゾール、トリアジン、オキサゾール、オキサジアゾール、フルオレノン、アントラキノジメタン、アントロン、ジフェニルキノン、チオピランジオキシド、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン、ジスチリルピラジン、ナフタレンペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン、8−キノリノール誘導体の金属錯体、メタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体等の各種金属錯体、などが挙げられる。
【0069】
これらの中でも、電子輸送性や発光特性の観点から、トリス(8−オキソキノリン)アルミニウム(III)錯体(Alq)が特に好ましい。電子輸送層26の厚みとしては、材料等に応じて適宜選択することができるが、通常は10nm〜500nmである。電子輸送性や発光特性の観点から、100nm〜10nmが好ましく、50nm〜30nmがより好ましい。Alq等の金属錯体で構成される電子輸送層26は、真空蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法等により形成することができる。
【0070】
また、電子輸送層26に、上記のAlq等、発光層24に含まれる金属錯体とは異なる波長で発光する蛍光発光性の金属錯体を含むことで、多色発光が可能な有機EL素子を構成することができる。例えば、発光層24の金属錯体であるRu(bpy)2+の発光は610nm(橙色)にピークを有するのに対し、Alqの発光は540nm(緑色)にピークを有する。従って、発光層24の厚さ、電子輸送層26の厚さ、印加電圧を適宜変化させることにより、Ru(bpy)2+とAlqとが異なる強度で発光して多色発光が可能となる。
【0071】
DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜では、PAnがDNAに相互作用することにより組織体膜のホール輸送性が向上する。このためPAnを含む組織体膜を発光層24とした場合には、Alq層(電子輸送層26)でキャリアの再結合が発生する。低電圧印加時にはPAnによるホール移動度が優勢になるのに対し、高電圧印加時にはAlqの電子移動度が優勢となり、キャリアの再結合がAlq層(電子輸送層26)側からDNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜(発光層24)側にシフトして、印加電圧の変化に応じて多色発光が観測される。なお、Alq層が厚過ぎると、キャリアの再結合がAlq層だけで生じ、多色発光は観測されない。
【0072】
−製造方法の一例−
本発明の実施の形態に係る有機EL素子の製造方法は、発光層24を上記の発光材料を用いて成膜する以外には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択した方法により製造することができる。例えば、以下に述べる有機EL素子の製造方法により好適に製造することができる。
【0073】
図4は図3に示す構造の有機EL素子の製造方法の一例を示す概略図である。図4に示すように、石英基板等の基板20上に、ITO電極等の陽極22がストライプ状に形成されたITO基板を用意する。このITO基板の表面の一部に、上記の発光材料の有機溶媒溶液をスピンコートして、(DNA/導電性高分子/脂質化合物/金属錯体)組織体からなる発光層24を成膜する。成膜後に真空乾燥して、発光層24から溶媒や水分を除去する。この発光層24上に、Alq等を蒸着して電子輸送層26を形成する。最後に、アルミニウム(Al)等を蒸着して、ストライプ状の陰極28を形成する。

【実施例】
【0074】
以下に本発明を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
<実施例1>
DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体を作製して、当該組織体の成膜性と電荷輸送性能とを評価した。組織体の成膜性の評価はATM像の観察により行った。また、組織体の電荷輸送性能の評価は、組織体で発光層を構成したセル(有機EL素子)を作製し、その電界印加時の発光輝度を測定することにより行った。
【0076】
−使用した試料及び条件−
(A)DNA
鮭の精巣より得たNa塩タイプのDNAを使用した。DNA1本あたりの平均塩基対数は10kbpsの高分子DNAを用いた。なお、DNA濃度(モル濃度)は、全てリン酸基濃度とした。DNA0.0368gを水10mlに溶解することで、10mMのDNA水溶液を得た。
【0077】
(B)塩化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTMA)
関東化学社製の塩化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム粉末を使用した。なお、CTMA濃度(モル濃度)は、全てモノマーユニット濃度とした。CTMA0.032gを水10mlに溶解することで、10mMのCTMA水溶液を得た。
【0078】
(C)ポリアニリン(PAn)
アルドリッチ(Ardrich)社製の酸化脱プロトン状態(エメラルディンベース)のPAnを使用した。PAnの重量平均分子量は1×10である。PAn濃度(モル濃度)は、全てモノマーユニットの濃度とした。PAn0.0045gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)10mlに溶解することで、5mMのPAn溶液を得た。
【0079】
(D)トリス(2,2−ビピリジル)ルテニウム(II)錯体(Ru(bpy)2+)
アルドリッチ(Ardrich)社製のトリス(2,2−ビピリジル)ルテニウム(II)6水和物(Tris(2-2’ bipyridyl) dichlororuthenium(II) hexahydrate)を使用した。当該化合物0.0749gをブタノール10mlに溶解することで、10mMのRu(bpy)2+溶液を得た。
【0080】
−DNA組織体溶液の調製−
(A)DNA/CTMA/Ru(bpy)2+組織体溶液の調製
DNA水溶液に対しCTMA水溶液を10:10の割合(以下、モル比)で混合することにより、DNA/CTMA組織体の沈殿物を得た。この沈殿物を濾過によって採取し、真空下で乾燥することで固体状のDNA/CTMA組織体を得た。このDNA/CTMA組織体をブタノールに溶解することで、DNA/CTMA組織体溶液を得た。調製したDNA/CTMA組織体溶液に対し、同じくブタノールを溶媒としたRu(bpy)2+溶液を、DNAに対し濃度比10:1で混合することにより、DNA:CTMA:Ru(bpy)2+=10:10:1のDNA/CTMA/Ru(bpy)2+組織体溶液を得た。
【0081】
(B)DNA/PAn組織体溶液の調製
10mMのDNA水溶液、5mMのPAn溶液、240mMのHClをそれぞれ調製した。これらの溶液を、(1)水40ml、(2)塩酸(HCl)1ml、(3)PAn溶液10ml、(4)DNA水溶液50mlの順序で順次混合し、DNA/PAn組織体を調整した。この時DNA:PAn=10:1であり、組織体溶液の濃度を変更してもこの濃度比は変えないように調製した。この溶液をアセトン800mlを用いて再沈殿処理を行った。この再沈殿物を濾過によって採取し、真空下で乾燥することで固体状のDNA/PAn組織体を得た。これを水に溶解することでDNA/PAn組織体溶液を得た。
【0082】
(C)DNA/PAn/CTMA組織体溶液の調製
調製したDNA/PAn組織体溶液に対しCTMA水溶液を10:10で混合することにより、DNA/PAn/CTMA組織体の沈殿物を得た。この沈殿物を濾過によって採集し、真空下で乾燥することで固体状のDNA/PAn/CTMA組織体を得た。このDNA/PAn/CTMA組織体をブタノールに溶解することで、DNA/PAn/CTMA組織体溶液を得た。
【0083】
(D)DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体溶液の調製
調製したDNA/PAn/CTMA溶液に対し、同じくブタノールを溶媒としたRu(bpy)2+溶液を、DNAに対し濃度比10:1で混合することにより、DNA:PAn:CTMA:Ru(bpy)2+=10:1:10:1のDNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体溶液を得た。
【0084】
−組織体の成膜性と電荷輸送性能の評価方法−
(A)UV−可視吸収スペクトル(UV-vis-NIRスペクトル)の測定
調製した各DNA組織体溶液をクリーンベンチ内で石英基板上にキャストし、そのまま大気下で自然乾燥させた。市販の測定装置を用いて、作製したセルについて200nm〜900nmの波長域のUV−可視吸収スペクトルを測定した。
【0085】
(B)円二色性スペクトル(CDスペクトル)の測定
調製した各DNA組織体溶液をクリーンベンチ内で石英基板上にキャストし、そのまま大気下で自然乾燥させた。日本分光社製の測定装置「J−800」を用いて、作製したセルについて200nm〜900nmの波長域のCDスペクトルを測定した。
【0086】
(C)原子間力顕微鏡(AFM)による表面形状観測
調製した各DNA組織体溶液をITO基板上にスピンコート法によって成膜し、真空下で乾燥させた。SII社製の測定装置SPA400を用いてAFM像を観察した。作製したセルは全て大気下で測定を行った。また、測定モードは全てタッピングモードで行った。
【0087】
(D)輝度−電流−電圧(L−I−V)特性の測定
調製した各DNA組織体溶液を発光層の材料として用いて、図3に示す構造の有機EL素子を作製し、L−I−V特性を測定した。具体的には、ITO基板上のITOを一部取り除いた後、それぞれ調製したDNA組織体溶液をスピンコート法によって成膜し、真空乾燥機内で1日乾燥させた。発光層である組織体膜の上に電子注入層としてAlq、電極としてAlを連続で蒸着し、セルを作製した。作製したセルの素子面積は9mmである。L−I−V特性の測定は全て真空下で行った。また、電圧印加時に観測された発光の発光強度を、輝度計によって測定した。
【0088】
−組織体の成膜性と電荷輸送性能の評価結果及び考察−
(A)DNA/PAn/CTMA組織体におけるPAnの作用
図5に石英基板上に製膜したDNA/PAn/CTMA組織体膜のUV−可視吸収スペクトルとCDスペクトルとを一緒に示す。下側がUV−可視吸収スペクトルであり、上側がCDスペクトルである。横軸は波長(単位:ナノメートル(nm))を示す。UV−可視吸収スペクトルの縦軸は吸収強度(任意単位)を示す。また、CDスペクトルの縦軸は楕円率(単位:ミリ度(mdeg))を示す。図5から分かるように、400nmから450nmにかけて、PAnに起因する吸収の肩が見られる。それに対し、CDスペクトルにおいて誘起CDが観測された。これより、PAnはDNAに対して相互作用していることが確認された。また、負のコットン効果しか観測されないことから、DNAのらせん構造は反映されておらず、図1(A)に示すように、PAnはDNAの一部に部分的に相互作用している。
【0089】
(B)DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体におけるRu(bpy)2+の作用
図6に石英基板上に製膜したDNA/PAn/CTMA組織体膜、DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜のUV−可視吸収スペクトルとCDスペクトルとを一緒に示す。実線がDNA/PAn/CTMA組織体膜に対応し、点線がDNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜に対応する。
【0090】
DNA/PAn/CTMA組織体では、260nmにDNAに起因する吸収ピークが観測された。また、その吸収ピークに対してCDスペクトルに正のキラリティが観測された。このことから、DNAにCTMAを相互作用させた場合においても、DNAの構造規則性は崩れていないことが確認された。また、DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体において、Ru(bpy)2+に起因する吸収ピークが観測され、CDスペクトルに変化が見られた。
【0091】
図7にUV−可視吸収スペクトルとCDスペクトルの各々について、DNA/PAn/CTMA組織体膜のスペクトルと、DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜のスペクトルとの差分を示す。図7から分かるように、Ru(bpy)2+に起因する吸収ピークに対して、誘起CDが観測された。一般的に、Ru(bpy)2+には誘起CDは観測されないことが知られている。このことから、Ru(bpy)2+はDNA/CTMA組織体に対して結合していると考えられる。これは、図1(C)に示すように、Ru(bpy)2+分子がDNAの構造に沿って配列するために、Ru(bpy)2+の分子配列に規則性が生まれたことによる。
【0092】
作用(A)及び作用(B)での考察から分かるように、本実施例では、図1(C)に示すように、DNAのらせん構造を損なわずに、DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+の4種類の成分を組織化させることが可能であり、DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体が得られていることが分かる。また、PAnは、DNAのアニオン部(リン酸基)の一部に相互作用しており、CTMAとRu(bpy)2+とは、DNAのアニオン部(リン酸基)の残部に相互作用していることが分かる。更に、Ru(bpy)2+分子が、DNAのらせん構造に沿って規則的に配列されていることが分かる。これらの事象は、DNAのらせん構造の軸方向での電荷輸送性能の向上を意味すると共に、Ru(bpy)2+分子の分散性の向上(即ち、凝集の低減)による成膜性の向上を意味している。なお、以下の評価結果により、電荷輸送性能の向上と成膜性の向上とが裏付けられている。
【0093】
(C)DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜の成膜性
図8(A)及び(B)はDNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜の表面のAFM像を示す。図8(A)は組織体膜の表面形状を二次元で示すAFM像であり、図8(B)は組織体膜の表面形状を三次元で示すAFM像である。また、図10(A)はDNA/Ru(bpy)2+組織体膜の表面形状を三次元で示すAFM像であり、図10(B)はDNA/PAn/Ru(bpy)2+組織体膜の表面形状を三次元で示すAFM像である。
【0094】
これらのAFM像を比較すれば分かるように、図8(A)及び(B)に示すDNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜では、図10(A)に示すDNA/Ru(bpy)2+組織体膜、図10(B)に示すDNA/PAn/Ru(bpy)2+組織体膜に比べて、組織体膜の表面においてRu(bpy)2+の凝集に起因すると考えられる凹凸が小さくなっていることが確認された。これにより、DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜では、CTMAにより成膜性が向上していることが分かる。
【0095】
(D)DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜の電荷輸送性能
DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体をITO基板上にスピンコート法で成膜した後、Alq、Al電極を蒸着し、ITO/(DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体)/Alq/Alをこの順に積層したセル(有機EL素子)を作製した。このセルについて真空下で、L−I−V特性を測定した。
【0096】
図9はDNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜のL−I−V特性を測定した結果を示すグラフである。横軸は印加電圧(単位:ボルト(V))を示す。縦軸(左側)は電流密度(単位:ミリアンペア/平方センチメートル(mA/cm))を示し、縦軸(右側)は蛍光強度(単位:カンデラ/平方メートル(cd/m))を示す。また、●はI−V測定結果のプロットを示し、■はL−V測定結果のプロットを示す。
【0097】
図9から分かるように、DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体を発光層に用いたセル(有機EL素子)では、印加電圧が5Vの際にRu(bpy)2+に起因する赤色発光が観測された。印加電圧が約9Vで蛍光強度が最大となり、その大きさは約1cd/mであった。これに対し、図示はしていないが、PAnを含まないDNA/CTMA/Ru(bpy)2+組織体(10:10:1)を発光層に用いたセル(有機EL素子)では、印加電圧15V以下では、発光を観測することができなかった。この差異から、ホール輸送性の高いPAnがDNAに相互作用することにより、DNA/PAn/CTMA/Ru(bpy)2+組織体膜のホール輸送性が向上していることが分かる。
【0098】
<実施例2〜7>
下記表1に示すように、発光材料の脂質化合物の種類、組成比を種々変更した以外は実施例1と同様にして発光材料を成膜した。いずれの実施例でも、UV−可視吸収スペクトルと円二色性スペクトルの測定結果から、図1(C)に示す構造の組織体が形成されていることが確認された。また、AFM像から、Ru(bpy)2+錯体が分散され、平滑な組織体膜が形成されていることが確認された。また、組織体膜を発光層に用いたセル(有機EL素子)を作製した。得られた有機EL素子についてL−I−V特性を測定した。各実施例の有機EL素子の発光開始電圧を下記表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
上記の結果から、共役系を有する脂質化合物を含む組織体膜の方が導電性に優れており、有機EL素子の発光開始電圧が低下していることが分かる。また、成膜性が低下しない範囲では、Ru(bpy)2+錯体のDNAに対するモル比が高い方が導電性に優れており、有機EL素子の発光開始電圧が低下していることが分かる。
【符号の説明】
【0101】
10 DNA
10A アニオン部
12 導電性高分子
14 脂質化合物
16 金属錯体
20 基板
22 陽極
24 発光層
26 電子輸送層
28 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デオキシリボ核酸(DNA)と、
主鎖又は側鎖にプロトン化可能なアミノ基を少なくとも1つ有し且つ前記DNAと絡み合う導電性高分子と、
前記DNAのアニオン部に結合するカチオン性官能基を有する脂質化合物と、
前記DNAのアニオン部に結合する蛍光発光性の金属錯体と、
を含む発光材料。
【請求項2】
前記金属錯体が、前記脂質化合物との疎水性相互作用により保持される請求項1に記載の発光材料。
【請求項3】
前記導電性高分子が、ポリアニリン、ポリアニシジン、ポリアミノフェノール、ポリメタニル酸、ポリナフチルアニリン、及びポリメトキシアニリンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の発光材料。
【請求項4】
前記導電性高分子が、ポリアニリンである請求項3に記載の発光材料。
【請求項5】
前記脂質化合物が、脂肪族又は芳香族の炭化水素基を有する炭素数が10以上の四級アンモニウム塩である請求項1から4のいずれか1項に記載の発光材料。
【請求項6】
前記炭化水素基は、少なくとも1つの電子共役系を有する請求項4に記載の発光材料。
【請求項7】
前記脂質化合物は、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩(CTMA)、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、及びN−ヘキサデシルピリジニウム塩からなる群から選択される一種である請求項1から5のいずれか1項に記載の発光材料。
【請求項8】
前記金属錯体は、ルテニウム錯体、ロジウム錯体、オスミウム錯体、イリジウム錯体、レニウム錯体を少なくとも含む遷移金属錯体、及び亜鉛錯体からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1から7のいずれか1項に記載の発光材料。
【請求項9】
前記金属錯体は、トリス(2,2−ビピリジル)ルテニウム(II)錯体(Ru(bpy)2+)である請求項1から7のいずれか1項に記載の発光材料。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の発光材料を含む発光層と、
前記発光層に正孔を注入する陽極と、
前記発光層に電子を注入する陰極と、
を含む有機発光素子。
【請求項11】
前記発光層と前記陰極との間に、前記金属錯体とは異なる波長で発光する蛍光発光性の金属錯体を含む電子輸送層を更に備えた請求項10に記載の有機発光素子。
【請求項12】
前記電子輸送層は、トリス(8−オキソキノリン)アルミニウム(III)錯体(Alq)を有する請求項11に記載の有機発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−36228(P2012−36228A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174495(P2010−174495)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月12日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第90春季年会(2010)講演予稿集」に発表 平成22年3月29日 社団法人 日本化学会主催の「日本化学会第90春季年会」において文書をもって発表
【出願人】(508123445)有限会社 緒方材料科学研究所 (5)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)
【Fターム(参考)】