説明

発光色変換部材

【課題】色域が広く良好な発光特性を有し、高信頼性、長寿命の白色照明光源を得ることが可能な発光色変換部材を提供すること。
【解決手段】鉛化合物およびフッ素化合物を実質的に含まず、SiO2を主成分とするガラスに、青色光を受光して緑色光に色変換する無機蛍光体と青色光を受光して赤色光に色変換する無機蛍光体とが分散してなり、青色光源から発せられる青色光を白色光に変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色光源、特に青色発光ダイオード(LED)素子からの青色光を白色に変換するための発光色変換部材、該発光色変換部材を用いた発光色変換用複合部品、及び、白色照明光源、並びに前記発光色変換部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白色LEDは高効率、高信頼性の白色照明光源として注目され、一部が微小電力小型光源として既に使用に供されている。このような使用に供されているLEDとしては、青色LED素子を黄色のYAG蛍光体と透明樹脂との混合物で被覆モールドした物が一般的である。
【0003】
これに対して特許文献1では、YAG蛍光体に代えて赤色蛍光体と緑色蛍光体と用い、これらを樹脂で封止してなるものを青色LEDと組み合わせて白色発光させる技術が開示されている。かかる技術によれば、YAG蛍光体を用いる場合よりも色域を広くすることができる。
しかしながら、赤色蛍光体と緑色蛍光体との混合体は、YAG蛍光体と比較して耐水性において著しく劣るため、樹脂モールドの場合は樹脂を介しての吸湿により蛍光体が著しく劣化してしまい、発光色の変化が極めて短期間に生じてしまう。
【0004】
また、特許文献2では、樹脂に代えてガラス中に黄色のYAG蛍光体を分散させることで、エネルギーが強い青色光による樹脂の劣化を防止し、長期間使用しても色調が変化しない技術が開示されている。
しかしながら、YAG蛍光体と青色LED素子との組み合わせでは、充分な色域が得られず、狭くなってしまうという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2002−60747号公報
【特許文献2】特開2003−258308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来の青色LED素子からの出射光を白色光に変換する発光色変換部材では、長期間の使用でも色調が変化しない長寿命の達成と、充分な色域が得られる良好な発光特性の達成との両立は未だ為し得ていない。
また、これに加えて赤色蛍光体と緑色蛍光体との混合体は、YAG蛍光体と比較してガラス中に分散する際の反応が激しく、発泡や変色等の異常を起こし易いことから信頼性に欠けるという課題がある。
【0007】
そこで本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、赤色蛍光体と緑色蛍光体との混合蛍光体を使用しても、高信頼性、長寿命の白色照明光源を得ることが可能な発光色変換部材を提供することを目的とする。
また本発明は、前記発光色変換部材を用いた発光色変換用複合部品、及び、白色照明光源、並びに前記発光色変換部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、少なくとも鉛化合物およびフッ素化合物を実質的に含まず、SiO2を主成分とするガラスに、青色光を受光して緑色光に色変換する無機蛍光体と青色光を受光して赤色光に色変換する無機蛍光体とを分散してなり、青色光源から発せられる青色光を白色光に変換する部材とすることで上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明に係る発光色変換部材は、鉛化合物およびフッ素化合物を実質的に含まず、SiO2を主成分とするガラスに、青色光を受光して緑色光に色変換する無機蛍光体と青色光を受光して赤色光に色変換する無機蛍光体とが分散されてなり、青色光源から発せられる青色光を白色光に変換する。
【0010】
また、本発明に係る発光色変換用複合部品は、鉛化合物およびフッ素化合物を実質的に含まず、SiO2を主成分とするガラスに、青色光を受光して緑色光に色変換する無機蛍光体と青色光を受光して赤色光に色変換する無機蛍光体とが分散されてなり、青色光源から発せられる青色光を白色光に変換する発光色変換部材と、該発光色変換部材を支持する支持部材とからなる。
【0011】
さらに、本発明に係る白色照明光源は、青色光源と発光色変換部材とを備え、前記発光色変換部材は、鉛化合物およびフッ素化合物を実質的に含まず、SiO2を主成分とするガラスに、青色光を受光して緑色光に色変換する無機蛍光体と青色光を受光して赤色光に色変換する無機蛍光体とが分散してなり、前記青色光源から発せられる青色光を白色光に変換する。
【0012】
そして、本発明に係る発光色変換部材の製造方法は鉛化合物およびフッ素化合物を実質的に含まず、SiO2を主成分とし、粒子径500μm以下で、モード径が77μm以下のガラス粉末と、青色光を受光して緑色光に色変換する無機蛍光体と、青色光を受光して赤色光に色変換する無機蛍光体との混合粉末を前記ガラス粉末の軟化点Ts℃以上、(Ts+30)℃以下で焼結することにより、青色光源から発せられる青色光を白色光に変換する発光色変換部材を得る。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、色域が広く良好な発光特性を有し、高信頼性、長寿命の白色照明光源を得ることが可能な発光色変換部材を提供することができる。
また本発明によれば、色域が広く良好な発光特性を有し、高信頼性、長寿命の白色照明光源を得ることが可能であり、且つ、ハンドリング性に優れた発光色変換用複合部品を提供することができる。
さらに本発明によれば、色域が広く良好な発光特性を有し、高信頼性、長寿命であり、且つ、種々の工業製品への応用が可能な白色照明光源を提供することができる。
またさらに本発明によれば、色域が広く良好な発光特性を有し、高信頼性、長寿命の白色照明光源を得ることが可能である発光色変換部材を容易に製造できる発光色変換部材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
〔発光色変換部材〕
本発明の発光色変換部材は、鉛化合物およびフッ素化合物を実質的に含まず、SiO2を主成分とするガラスに、青色光を受光して緑色光に色変換する無機蛍光体と青色光を受光して赤色光に色変換する無機蛍光体とが分散されてなり、青色光源から発せられる青色光を白色光に変換するものである。
【0015】
次に、本発明に係る発光色変換部材の基本的な構成についてさらに詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限りこれらの態様に限られるものではない。
【0016】
(ガラス)
本発明におけるガラスとは、鉛化合物およびフッ素化合物を実質的に含まず、SiO2を主成分とするものである。尚、実質的に含まずとは、不純物として含有する程度の量を除いては含まずの意味である。
鉛化合物またはフッ素化合物を含むガラスは、ガラスが完全に焼結される温度以下でガラスが蛍光体と反応して焼結体が黒っぽくなることで、発光効率が大幅に低下したり、光が透過しなくなったりしてしまう。また、鉛化合物またはフッ素化合物を含むガラスは、化学的耐久力が悪化し易く、湿気の多い環境では使用中に表面が変質して透過率を下げ、発光効率が低下してしまう怖れがある。
さらに鉛化合物の場合、環境負荷が大きいことも実質的に含まれないことが好ましい理由として挙げられる。
【0017】
また、本発明におけるガラスは、ビスマス系化合物を実質的に含まないことが好ましい。ビスマス系化合物は鉛化合物およびフッ素化合物と同様にガラスが完全に焼結される温度以下で焼結体が黒っぽくなることから、実質的に含まないことが好ましい。
【0018】
さらに、本発明ではガラス自体を着色して光の透過を妨げるような着色物質を実質的に含まないことが好ましく、さらには不純物としても含まないことがより好ましい。例えば、組成中にFe23、CoO等が含まれていると、ガラス自体を着色させるので、これらの成分が含まれることは好ましくない。
【0019】
本発明におけるガラスは、上述した含有しないことが好ましい特定の物質を除き、所望の特性に応じて好ましい任意の物質を含有させることができるが、SiO2の含有率が40重量%以上であることが好ましい。SiO2が40重量%未満であると耐候性(耐水性)に不安があるため好ましくない。即ち、ガラス中のSiO2の含有量を40重量%以上とすることで、耐候性(耐水性)に優れるSiO2含有ガラスで蛍光体を充分に包含し、長期間の使用でも確実に色調が変化しない長寿命なものとすることができるため好ましい。
本発明における好適なガラスの具体例としては、BaO−K2O−SiO2系ガラス、BaO−Na2O−B23−SiO2系ガラス、Na2O−TiO2−SiO2系ガラス等が挙げられる。
【0020】
ここで、焼結する前の原材料であるガラス粉末は、粒子径500μm以下で、且つモード径(径の最頻値)が77μm以下であることが好ましい。
【0021】
ガラス粉末の粒子径が500μmより大きいものを含む場合や、ガラス粉末群のモード径が77μmよりも大きい場合は、粒子間の空隙に存在する空気の影響で熱伝導が悪化してしまうため、融点が実質的に上がってしまう。この結果、粒子径が500μm以下で且つガラス粉末群のモード径が77μm以下のものと同温度で焼結しても、焼結体中に穴が多く発生してしまい、蛍光体を湿度から保護し難いため、蛍光体をガラスで包含する効果が充分に得られない。さらにこれに加え、ガラスの粒子径が大きすぎると蛍光体が均一に分散されない問題もあり、色むら、輝度低下の原因となり得る。
また、ガラス粉末のモード径の下限値は特になく、粒子径が小さいほど粒子は密な状態で焼結されるため、空隙がないことでより低温で軟化すると共に、焼結体中に穴が発生しなくなり好ましい。但し、ガラスの特性の面からはガラス粉末のモード径は小さいことが好ましいが、原材料としてのガラス粉末を製造するのに多大の工数がかかるため、実用上は好ましくない。例えば、ガラス粉末のモード径が23μm以上のものとすることで容易に原材料のガラス粉末を製造できるため実用上好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
(無機蛍光体)
本発明における無機蛍光体は、青色光を緑色光(発光ピーク約540nm付近)に変換可能な無機蛍光体と、青色光を赤色光(発光ピーク約650nm付近)に変換可能な無機蛍光体とを混合したものである。
無機蛍光体としては、硫化物、ハロリン酸塩、酸化物、窒化物などからなるもの等が挙げられるが、色域が広くなることから、硫化物蛍光体を使用することが好ましい。
【0023】
青色光を緑色光に変換可能な無機蛍光体としては、例えば、(ME:Eu)Ga24、(M:RE)(Si,Al)12(O,N)16、(M:Tb)(Si,Al)12(O,N)16、(M:Yb)(Si,Al)12(O,N)16等が挙げられる。但し、MEはCa、Sr及びBaから成る群より選択された少なくとも1種類の原子を意味し、MはLi、Mg及びCaから成る群より選択された少なくとも1種類の原子を意味し、REはTb及びYbを意味する。これらの中で特に本発明において使用し易いものは、(Sr:Eu)Ga24、(Ca:Eu)Ga24、(Ba:Eu)Ga24である。
【0024】
青色光を赤色光に変換可能な無機蛍光体としては、例えば、(ME:Eu)S、(M:Sm)(Si,Al)12(O,N)16、ME2Si58:Eu、(Ca:Eu)SiN2、(Ca:Eu)AlSiN3等が挙げられる。但し、MEはCa、Sr及びBaから成る群より選択された少なくとも1種類の原子を意味し、MはLi、Mg及びCaから成る群より選択された少なくとも1種類の原子を意味する。これらの中で特に本発明において使用し易いものは、(Ca:Eu)S、(Sr:Eu)S、(Ba:Eu)Sである。
【0025】
青色光を緑色光に変換可能な無機蛍光体と、青色光を赤色光に変換可能な無機蛍光体との混合比率は、白色発光が可能な比率であれば良い。例えば、青色光を緑色光に変換可能な無機蛍光体を85±1重量%とし、残りは青色光を赤色光に変換可能な無機蛍光体とすることで良好な白色発光が可能な発光色変換部材が得られる。
【0026】
また無機蛍光体は、発光色変換部材のガラス組成、厚み等に応じて、良好な白色発色が可能となる適当な量だけ発光色変換部材に含有されることが好ましい。
概ね、ガラスと無機蛍光体との配合割合は、85:15〜97:3(体積比)であることが好ましく、90:10〜95:5(体積比)であることがより好ましい。
ここで一例を挙げると、発光色変換部材の厚みが0.30mmの場合は、ガラス95体積%と無機蛍光体5体積%とからなることが好ましく、発光色変換部材の厚みが0.15mmの場合は、ガラス90体積%と無機蛍光体10体積%とからなることが好ましい。
【0027】
発光色変換部材は、厚みが厚くなると明度が低下し、発光効率が低下する。一方、発光色変換部材が薄いと発光効率が高くなるが、無機蛍光体の絶対量が少なくなり赤色光ならびに緑色光が減少するため、青色側に発光色がシフトし易くなる。このため白色光を効率よく得るためには、無機蛍光体の量と発光色変換部材の厚みを調整することが重要である。
【0028】
さらに本発明では、発光色変換部材の厚さは0.1〜0.5mmであることが好ましい。厚さが0.1mm未満であると加工やハンドリングが容易ではないため好ましくない。また、厚さが0.5mmを超えると輝度が低下するため好ましくない。
【0029】
(青色光源)
本発明における青色光を発する青色光源は、各種公知の青色光源、例えば、青色発光ダイオード、青色レーザーダイオード等を適用可能であるが、青色発光ダイオード素子であることが好ましい。
【0030】
〔発光色変換部材の製造方法〕
発光色変換部材の製造方法は、鉛化合物およびフッ素化合物を実質的に含まず、SiO2を主成分とし、粒子径500μm以下で、モード径が77μm以下のガラス粉末と、青色光を受光して緑色光に色変換する無機蛍光体と、青色光を受光して赤色光に色変換する無機蛍光体との混合粉末を前記ガラス粉末の軟化点Ts℃以上、(Ts+30)℃以下で焼結することにより、青色光源から発せられる青色光を白色光に変換する発光色変換部材を得る。なお、ガラスの軟化点Tsとは、ガラスの粘度が106.65Pa・sになるときの温度と定義される。
【0031】
(焼結前工程)
焼結前の原材料であるガラス粉末は、粒子径500μm以下で、且つモード径(径の最頻値)が77μm以下であることが好ましい。
所望のガラス粉末の粒子径及びモード径を得るためには、従来公知の製造方法を適用でき、例えば、大粒径のガラスカレットを作製した後に、粉砕、分級を経て所望の粒子径、粒度分布とする方法が挙げられる。
【0032】
具体的には、先ず、SiO2等のガラス組成材料が所定の割合となるように調合する。
次いで、これを1100〜1500℃で1〜3時間溶融した後、水中で急冷するなどして大粒径のガラスカレットを作製する。
さらに、得られたガラスカレットをスタンプミルで粉砕した後、100メッシュと150メッシュと300メッシュ(JIS)の篩を通して分級することで所望の粒子径、粒度分布を有するガラス粉末が得られる。
【0033】
また、得られたガラス粉末は、青色光を受光して緑色光に色変換する無機蛍光体と、青色光を受光して赤色光に色変換する無機蛍光体とを添加、混合した後に焼結することで目的の発光色変換部材が得られる。
このときの混合の方法としては、例えばミキサーを用いた機械式混合方法等が挙げられるが、本発明はこれに限られるものではなく、従来公知の混合方法を適用できる。
【0034】
尚、必要に応じて樹脂バインダーなど、上記した二種の無機蛍光体及びガラス粉末以外のものを添加、混合してもよい。
樹脂バインダーとして好ましいものは、アクリルバインダー(オリコックスKC-7025T)、エチルセルロース等が挙げられ、これらの中でもアクリルバインダー(オリコックスKC-7025T)が特に好ましい。
樹脂バインダーの含有量は、1〜5重量%であることが好ましい。
【0035】
(焼結工程)
そして、添加、混合を経た原材料を、金型で加圧成型して所定の形状の予備成型体を作製する。さらに、得られた予備成型体を焼成し樹脂バインダーを除去した後、ガラス粉末の軟化点Ts℃以上、(Ts+30)℃以下で焼結することにより、青色光源から発せられる青色光を白色光に変換する発光色変換部材を得る。
【0036】
焼結温度がガラス粉末の軟化点Ts℃未満であると、ガラスの溶け具合が不完全で焼結体に空孔が多いため好ましくなく、焼結温度が(Ts+30)℃を超えると、蛍光体がガラスと反応して変質し易くなるため好ましくない。
焼結時間は1〜2時間であることが好ましい。
【0037】
〔発光色変換用複合部品〕
発光色変換用複合部品は、前記発光色変換部材と、該発光色変換部材を支持する支持部材とからなる。
支持部材としては種々の形状のものを採用可能である。また、支持部材は、樹脂、セラミック、金属等の異種材料からなる。材料の選択は、機械的強度、膨張等の条件を考慮して適宜選定すればよい。また変換部材の取り付けは、嵌着、接着等の方法で行えばよい。
【0038】
〔白色照明光源〕
白色照明光源は、前記発光色変換部材と青色光源とを備え、該青色光源から発せられる青色光を白色光に変換するものである。
ここで、青色光源は、各種公知の青色光源、例えば、青色発光ダイオード、青色レーザーダイオード等を適用可能であるが、青色発光ダイオード素子であることが好ましい。
【実施例】
【0039】
〔実施例1〜3、比較例1〜4〕
以下、本発明について実施例を挙げてより具体的に説明する。
各試料は次のようにして作製した。
先ず、下記表1に示す割合になるようにシリカ、ホウ酸、酸化ビスマス、酸化鉛、酸化亜鉛、炭酸バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸、酸化マグネシウム、ジルコニア、酸化テルル、酸化チタン、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化イットリウムを調合し、No.1〜No.7の7種類のガラス原料の秤量を行なった(ただし、炭酸バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムについては加熱溶融時に二酸化炭素を放出し、酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウムになるため、予め放出分を加味して最終的に表1の組成になるように調合を行なう)。続いて、これらをそれぞれ白金坩堝に入れ、1100〜1500℃で1〜3時間溶融した後、即座に水冷してガラスカレットを作製した。出来上がった各ガラスの軟化点を表1の下部に記載する。
【0040】
【表1】

【0041】
次いで、ガラスカレットをスタンプミルで粉砕した後、100メッシュと150メッシュと300メッシュ(JIS)の篩を通して分級し、図1に示すような3種類の粒度のガラス粉末試料を得た。
【0042】
図1は本発明に用いたガラス粉末の粒度分布を示すグラフである。図1(A)は、メッシュ#100を通過しメッシュ#150に残ったガラス粉末の粒度分布、図1(B)は、メッシュ#150を通過しメッシュ#300に残ったガラス粉末の粒度分布、図1(C)は、メッシュ#300を通過したガラス粉末の粒度分布を夫々示す。
【0043】
得られた3種類の粒度分布のガラス粉末試料の粒子径とモード径を下記(i)〜(iii)に示す。
(i):メッシュ#100を通過しメッシュ#150に残ったガラス粉末の粒子径は2〜600μm、モード径は152μmである。
(ii):メッシュ#150を通過しメッシュ#300に残ったガラス粉末の粒子径は1.5〜500μm、モード径は77μmである。
(iii):メッシュ#300を通過したガラス粉末の粒子径は1〜250μm、モード径は23μmである。
【0044】
これらを蛍光体と混合して焼結した際、このうち上記(i)は低温で焼結し難いため、上記(ii)や(iii)と同温度で焼結しても焼結体中に穴が多く発生してしまい、蛍光体を湿度から保護し難いため、蛍光体をガラスで包含する効果が得られなかった。従って、ガラス粉末はメッシュ#150を通過する粒度である必要があり、それはすなわちガラス粉末の粒径が500μm以下でかつモード径が77μm以下のものを使用しなければならない。
【0045】
さらに、得られた上記(ii)のガラス粉末試料と、無機蛍光体粉末とを焼結させて発光色変換部材を作製する。
先ず、各ガラス粉末試料(No.1〜No.7)に、無機蛍光体粉末を添加、混合して混合粉末とした。無機蛍光体としては、青色光を受光して緑色光に変換するものよりも赤色光に変換する無機蛍光体の方がガラスと反応し易く耐水性も悪いため、この実験における無機蛍光体としては赤色光に変換する無機蛍光体のみを用いて実験を行なった。
尚、本実施例では、青色光を赤色光に変換可能な無機蛍光体として、(Ca:Eu)Sを用いた。
【0046】
ガラス粉末試料と無機蛍光体の比率は体積比で、95:5とした。さらに少量の樹脂バインダー(オリコックスKC-7025Tを試料重量の3重量%)を添加、混合した後、金型で加圧成型して直径20mmのボタン状予備成型体を作製した。続いて、予備成形体を焼成し樹脂バインダーを除去した後、各ガラス粉末試料の軟化温度から定めた、表2に示すような種々の焼結温度で、予備成型体を焼結させ、完全な塊状の焼結体となったものについては直径約18mm、厚さ0.3mmの大きさの円盤状に加工した。表1の各ガラス組成(No.1〜No.7)を用いた蛍光体含有の上記焼結体試料を表2に示すとおり実施例1〜3及び比較例1〜4とし、これらについて焼結体の色調を目視にて評価した。尚、最適な焼結温度とは、表2においてピンク色の塊になる温度を言う。また、粉状の場合や完全な塊状をとらない場合では未だ焼結温度が低い状態であることを意味し、茶色や黒色等は試料に含有した蛍光体の変色を意味する。
【0047】
【表2】

【0048】
上記表2に記載のとおり、実施例1〜3では各ガラス粉末の軟化点Ts℃以上、(Ts+30)℃以下の温度で焼結することで良好な塊状の焼結体が得られ、さらには変色が生じることがないことから良好な発色性能が得られる。
一方、比較例1では480℃で、比較例2では500℃で、比較例3では450℃で、比較例4では500℃で、それぞれ変色が生じてしまい、良好な塊状の焼結体が得られる温度においては良好な発色性能が得られない。
【0049】
さらに、得られたガラス試料単体の耐候性を評価した。
ガラスの耐候性を簡易的に加速評価する方法として、強アルカリ溶液にガラスを浸して重量変化を測定する方法がある。具体的には図2に示すように、評価するガラス粉末を溶解、線引して線径がφ0.5、長さが50mmのロッド形状にし、これを4規定の水酸化ナトリウム溶液に浸し、時間経過とともにガラスの重量変化を測定する。このとき、水酸化ナトリウム溶液を入れる容器にはアルカリに溶出しないポリプロピレン製のものを使用した。
上記表1のガラスのうちNo.2(SiO2含有率40%)、No.4(SiO2含有率15%)、No.5(SiO2含有率45%)、No.6(SiO2含有率13%)について、上記の加速評価を行なった結果を図3に示す。ガラス中のSiO2の含有率が40重量%以上であるNo.2とNo.5については強アルカリ浸漬後14400分(240時間=10日)でも80%以上の重量を維持しており、耐候性に不安がないと言える。
【0050】
また本発明の発光色変換部材は、図4に示すような円盤状の変換部材10、図5に示すような円筒キャップ状の変換部材20等、種々の形状に成形して使用することができる。尚、図4中、黒点で示してあるものは無機蛍光体11を、白色で示してあるものはガラス12を示している。
【0051】
また、図6に示すように、発光色変換部材30と、これを支持する支持部材40とからなる複合部品として使用することも可能である。支持部材としては種々の形状のものを採用可能であり、例えば図6に示すような円筒形状のものを使用できる。さらに支持部材は、上述のとおり樹脂、セラミック、金属等の異種材料からなる。材料の選択は、機械的強度、膨張等の条件を考慮して適宜選定すればよい。また変換部材の取り付けは、嵌着、接着等の方法で行えばよい。
【0052】
以上の実施例においては、無機蛍光体として赤色変換蛍光体だけを用いたが、実際には青色光を受光して緑色光に変換する硫化物蛍光体と、青色光を受光して赤色光に変換する硫化物蛍光体とを、青色光との兼ね合いで白色となるように適量配合する。
【0053】
〔実施例4〕
次に、青色光を受光して緑色光に変換する硫化物蛍光体と、青色光を受光して赤色光に変換する硫化物蛍光体とを用いる例について説明する。
本実施例では、青色光を受光して緑色光に変換する硫化物蛍光体と、青色光を受光して赤色光に変換する硫化物蛍光体とを重量比率で85:15の割合で配合し、ガラスと無機蛍光体の比率は体積比で、95:5とした。このとき、青色光を受光して緑色光に変換する無機蛍光体には、(Sr:Eu)Ga24を、青色光を受光して赤色光に変換する無機蛍光体として、(Ca:Eu)Sを、ガラスには表1のNo.1に記載の組成のものを用い、製法は実施例1と同様にして実施例4の焼結体試料を得た。
得られた焼結体試料は、両面を鏡面研磨仕上げして厚みが0.30mmとなる発光色変換部材にした。この部材を青色光を発光するLEDと組み合わせることで白色光を発光することができた。
【0054】
さらに、実施例4の焼結体試料を用いて環境試験を行った。
図7は環境試験におけるPL強度測定に用いるPL強度測定装置の構成を示す概略図である。このPL強度測定装置では、焼結体試料である発光色変換部材50に、光照射・ディテクター装置51より光を照射/検出することでPL強度を測定する。
環境試験は温度85℃、湿度85%の環境下の恒温恒湿槽中に、発光色変換部材を放置し、所定の時間ごとにPL強度を測定し、初期値からの変化率を測定した結果を図8及び図9に示す。
図8は波長に対するPL強度の時間変化を示すグラフであり、図9は、緑色光の中央部の波長である535nmにおけるPL強度の時間変化および赤色光の中央部の波長である649nmにおけるPL強度の時間変化を示すグラフである。
実施例4の焼結体試料では、500時間後においても初期のPL強度の85%を超えるPL強度を発揮しており、高温高湿環境下における劣化に耐性を有していると言える。
【0055】
以上の構成を有する本発明の発光色変換部材は、ガラス中に無機蛍光体が分散してなるため、入射した青色光の一部が2種の無機蛍光体によって赤色光と緑色光に変換され、また残部の青色光が透過、散乱する。この変換された赤色光ならびに緑色光と、透過、散乱した青色光とが合わさって白色光に近いスペクトルを合成することにより、青色光が白色光に転換される。
また、本発明の発光色変換部材は、高温高湿環境下における劣化に耐性を有し、PL強度の劣化が少なく長期に亘り使用できる。
【0056】
尚、以上の実施例1〜4は上記(ii)のガラス粉末試料と、無機蛍光体粉末とを焼結させて発光色変換部材を作製した例であるが、ガラス粉末試料を上記(iii)のガラス粉末試料に代えて行った例においても同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】(A)メッシュ#100を通過しメッシュ#150に残ったガラス粉末の粒度分布である。(B)メッシュ#150を通過しメッシュ#300に残ったガラス粉末の粒度分布である。(C)メッシュ#300を通過したガラス粉末の粒度分布である。
【図2】ガラスの耐候性を簡易的に加速評価する方法を説明するための概略図である。
【図3】強アルカリ(4規定の水酸化ナトリウム溶液)に浸漬させたガラスの重量の時間変化を示すグラフである。
【図4】円盤状の発光色変換部材の構成を示す概略図である。
【図5】円筒キャップ状の発光色変換部材の構成を示す概略図である。
【図6】支持部材と発光色変換部材とを有する発光色変換用複合部材の構成を示す概略図である。
【図7】環境試験におけるPL強度測定に用いるPL強度測定装置の構成を示す概略図である。
【図8】波長に対するPL強度の時間変化を示すグラフである。
【図9】535nmにおけるPL強度の時間変化および649nmにおけるPL強度の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
10 発光色変換部材、11 無機蛍光体、12 ガラス、20 発光色変換部材、30 発光色変換部材、40 支持部材、50 発光色変換部材、51 光照射・ディテクター装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛化合物およびフッ素化合物を実質的に含まず、SiO2を主成分とするガラスに、青色光を受光して緑色光に色変換する無機蛍光体と青色光を受光して赤色光に色変換する無機蛍光体とが分散されてなり、
青色光源から発せられる青色光を白色光に変換する、発光色変換部材。
【請求項2】
前記無機蛍光体が硫化物蛍光体である、請求項1に記載の発光色変換部材。
【請求項3】
前記ガラス中のSiO2の含有率が40重量%以上である、請求項1に記載の発光色変換部材。
【請求項4】
前記青色光源が、青色発光ダイオード素子である、請求項1に記載の発光色変換部材。
【請求項5】
鉛化合物およびフッ素化合物を実質的に含まず、SiO2を主成分とするガラスに、青色光を受光して緑色光に色変換する無機蛍光体と青色光を受光して赤色光に色変換する無機蛍光体とが分散されてなり、青色光源から発せられる青色光を白色光に変換する発光色変換部材と、
該発光色変換部材を支持する支持部材とからなる、発光色変換用複合部品。
【請求項6】
青色光源と発光色変換部材とを備え、
前記発光色変換部材は、鉛化合物およびフッ素化合物を実質的に含まず、SiO2を主成分とするガラスに、青色光を受光して緑色光に色変換する無機蛍光体と青色光を受光して赤色光に色変換する無機蛍光体とが分散されてなり、
前記青色光源から発せられる青色光を白色光に変換する、白色照明光源。
【請求項7】
前記青色光源が、青色発光ダイオード素子である、請求項6に記載の白色照明光源。
【請求項8】
鉛化合物およびフッ素化合物を実質的に含まず、SiO2を主成分とし、粒子径500μm以下で、モード径が77μm以下のガラス粉末と、青色光を受光して緑色光に色変換する無機蛍光体と、青色光を受光して赤色光に色変換する無機蛍光体との混合粉末を前記ガラス粉末の軟化点Ts℃以上、(Ts+30)℃以下で焼結することにより、青色光源から発せられる青色光を白色光に変換する発光色変換部材を得る、発光色変換部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−157577(P2010−157577A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334282(P2008−334282)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】