発光装置および電子機器
【課題】白色の有機EL素子と共振構造を組み合わせたトップエミッション方式の発光装置において、有機EL素子におけるアレイ構造を単純にしつつ、少なくとも一色の光取り出し効率を高め、高消費電力化を抑制する。
【解決手段】反射層兼画素電極12から対向電極30までの間の光路長をD、反射層兼画素電極12での反射における位相シフトをφL、対向電極30での反射における位相シフトをφU、反射層兼画素電極12と対向電極30の間に発生する定在波のピーク波長をλ、2以下の整数をmとしたとき、D={(2πm+φL+φU)/4π}λを満たし、赤色画素、緑色画素、および、青色画素の前記光反射層のうち、少なくとも一つの光反射層は、他の光反射層に用いられた金属材料とは異なる金属材料で形成されている。
【解決手段】反射層兼画素電極12から対向電極30までの間の光路長をD、反射層兼画素電極12での反射における位相シフトをφL、対向電極30での反射における位相シフトをφU、反射層兼画素電極12と対向電極30の間に発生する定在波のピーク波長をλ、2以下の整数をmとしたとき、D={(2πm+φL+φU)/4π}λを満たし、赤色画素、緑色画素、および、青色画素の前記光反射層のうち、少なくとも一つの光反射層は、他の光反射層に用いられた金属材料とは異なる金属材料で形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の発光素子を利用した発光装置およびこの発光装置を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、基板上に有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を発光素子として形成し、発光素子の発光光を基板と反対側に取り出すトップエミッション方式の発光装置が電子機器の表示装置などとして多用されている。トップエミッション方式は、発光素子を挟み、基板側に形成された一方の第1電極(例えば陽極)と基板との間に反射層を形成し、発光素子を挟む他方の第2電極(例えば陰極)側から光を取り出す方式であって、光の利用効率が高い方式である。
【0003】
トップエミッション方式の発光装置において、白色の有機EL素子を用い、前記第2電極と反射層との間で所定の波長の光を共振させて、光の取り出し効率を高める技術が開示されている(例えば非特許文献1)。この技術では、共振構造におけるピーク波長をλ、反射層から前記第2電極の光学的距離をD、前記第1電極での反射における位相シフトをφL、前記第2電極での反射における位相シフトをφU、整数をmとしたとき、下記の式を満たす光学構造が提案されている。
D={(2πm+φL+φU)/4π}λ・・・(1)
【0004】
特に、前記(1)式において、m=0とした場合には、有機EL素子におけるアレイ構造を単純にしつつ、広い波長の光をある程度の効率で取り出すことができるため、発光装置の低コスト化を実現でき、かつ、高精細画素を作り込みやすいなどの利点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】SID2010 P-146/S.Lee, Samsung Mobile Display Co.,Ltd
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記(1)式においてm=0とした光学構造の発光装置では、赤色領域、緑色領域、および、青色領域の全ての領域の光を取り出すため、赤色画素、緑色画素、および、青色画素の色分離はカラーフィルターなどで行う必要がある。したがって、観測側での発光スペクトルの帯域幅が広くなり、色純度が悪いという問題があった。また、赤色、緑色、および、青色の各波長領域で比較した場合、光取り出し効率が低いという問題があった。その結果、発光装置の消費電力が高くなり、パネル特性として不利になるという問題があった。
【0007】
このような事情を背景として、本発明は、白色の有機EL素子と共振構造を組み合わせたトップエミッション方式の発光装置において、有機EL素子におけるアレイ構造を単純にしつつ、少なくとも一色の光取り出し効率を高め、高消費電力化を抑制するという課題の解決を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、本発明に係る発光装置は、基板と、前記基板上に形成された光反射層と、前記光反射層上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された電極とを備え、前記光反射層と電極の間の光路長を調整した共振構造を有する発光装置であって、前記光反射層から電極間の光路長をD、前記光反射層での反射における位相シフトをφL、前記電極での反射における位相シフトをφU、前記光反射層と電極の間に発生する定在波のピーク波長をλ、2以下の整数をmとしたとき、
D={(2πm+φL+φU)/4π}λ・・・(2)
を満たし、赤色画素、緑色画素、および、青色画素の前記光反射層のうち、少なくとも一つの光反射層は、他の光反射層に用いられた金属材料とは異なる金属材料で形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明においては、前記(2)式を満たし、赤色画素、緑色画素、および、青色画素の前記光反射層のうち、少なくとも一つの光反射層は、他の光反射層に用いられた金属材料とは異なる金属材料で形成されている。したがって、全ての色の画素の光反射層を同一の金属材料で形成した場合に比べて、少なくとも一つの光反射層において位相シフト量が異なり、光取り出し効率も異なる。したがって、消費電力に影響与える発光色の光取り出し効率を改善でき、消費電力を低減させることができる。
【0010】
本発明に係る発光装置として、位相シフト量をφ、前記発光層の屈折率をn1、前記反射層の屈折率をn2、前記反射層の消衰係数をk2としたとき、
φ=tan−1{2n1k2/(n12−n22−k22)}・・・(3)
を満たし、他の色の画素よりも長波長の色の画素における前記反射層は、他の色の画素における前記反射層よりも位相シフト量φが小さな金属材料で形成することもできる。
【0011】
本発明に係る発光装置においては、前記(3)を満たし、他の色の画素よりも長波長の色の画素における前記反射層は、他の色の画素における前記反射層よりも位相シフト量φが小さな金属材料で形成するので、長波長側の光の取り出し効率を改善でき、消費電力を低減させることができる。
【0012】
本発明に係る発光装置は、前記整数mの値を0とすることもできる。本発明に係る発光装置は、前記整数mの値が0であるため、光反射層から電極までの構造を簡単にしつつ、光の取り出し効率を改善でき、消費電力を低減させることができる。
【0013】
本発明に係る発光装置は、緑色画素と青色画素の前記反射層、または、赤色画素と緑色画素の前記反射層を、共通の金属材料で形成することもできる。
【0014】
本発明に係る発光装置においては、緑色画素と青色画素の前記反射層、または、赤色画素と緑色画素の前記反射層を、共通の金属材料で形成するので、消費電力に影響与える発光色の光取り出し効率を改善でき、消費電力を低減させることができる。
【0015】
本発明に係る発光装置は、赤色画素または緑色画素の反射層を、 赤色画素または緑色画素の反射層は、Cu、Au、もしくはAg、または、これらのうち少なくとも一つを主成分とする金属材料で形成することもできる。本発明に係る発光装置においては、全ての色の画素における反射層をAlで形成する場合に比べて、長波長側の光の取り出し効率を改善でき、消費電力を低減させることができる。
【0016】
本発明に係る発光装置は、前記電極の上層にカラーフィルターを設けることもできる。本発明に係る発光装置においては、前記電極の上層にカラーフィルターを設けた簡単な構造を実現にしつつ、光の取り出し効率を改善でき、消費電力を低減させることができる。
【0017】
本発明に係る電子機器は、前記発光装置を備えていることを特徴とする。本発明に係る電子機器においては、前記発光装置を備えているので、消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る発光装置の概要を示す模式的な断面図である。
【図2】図1における正孔輸送層、発光層、および、電子輸送層に用いられた材料を示す図である。
【図3】Al、Ag、Cu、および、Auで位相シフト量を計算した結果を示す図である。
【図4】Al、Cu、Au、Agの各波長に対する屈折率の変化を示す図である。
【図5】Al、Cu、Au、Agの各波長に対する消衰係数の変化を示す図である。
【図6】共振構造における位相シフト量の影響を調べるシミュレーションに用いたシミュレーションモデルの概要を示す模式的な断面図である。
【図7】図6のシミュレーションモデルを用いて発光層の光取り出し効率を計算した結果を示す図である。
【図8】m=0、1、2、3とした場合の各光学構造における波長と光取り出し効率の関係を示す図である。
【図9】図6のシミュレーションモデルに用いたカラーフィルターの透過率を示す図である。
【図10】比較例1、および、実施例1ないし実施例3の有機層膜厚と反射膜の構成を示す図である。
【図11】比較例1、および、実施例1ないし実施例3の消費電力と色域の結果を示す図である。
【図12】比較例1、および、実施例1ないし実施例3の各画素における光の強度を示す図である。
【図13】Al、Cu、Au、Agの各波長に対する反射率の変化を示す図である。
【図14】比較例2、および、実施例4ないし実施例5の有機層膜厚と反射膜の構成を示す図である。
【図15】比較例2、および、実施例4ないし実施例5の消費電力と色域の結果を示す図である。
【図16】比較例1と比較例2の各画素、実施例1ないし実施例3の緑色画素および青色画素、ならびに、実施例4ないし実施例6の赤色画素における光の強度を示す図である。
【図17】比較例1、実施例4ないし実施例6の各画素における光の強度を示す図である。
【図18】図1の実施形態に係る発光装置を表示装置として採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図19】図1の実施形態に係る発光装置を表示装置として採用した携帯電話機の構成を示す斜視図である。
【図20】図1の実施形態に係る発光装置を表示装置として採用した携帯情報端末の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。図面においては、各部の寸法の比率は実際のものとは適宜に異ならせてある。
<A:発光装置の構造>
図1は、本発明の一実施形態に係る発光装置E1の概要を示す模式的な断面図である。発光装置E1は、複数の発光素子U1が第1基板10の面上に配列された構成であるが、図1においては、説明の便宜上、ひとつの発光素子U1のみが例示されている。本実施形態の発光装置E1は、トップエミッション型であり、発光素子U1にて発生した光は第1基板10とは反対側に向かって進行する。従って、ガラスなどの光透過性を有する板材のほか、セラミックスや金属のシートなど不透明な板材を第1基板10として採用することができる。本実施形態では、第1基板10の厚さを0.5mmとした。
第1基板10には、発光素子U1に給電して発光させるための配線が配置されているが、配線の図示は省略する。また、第1基板10には、発光素子U1に給電するための回路が配置されているが、回路の図示は省略する。
【0020】
発光素子U1は、第1基板10の上に形成された反射層兼画素電極12(第1電極)と、画素電極12の上に配置された光取り出し側半透明反射層としての対向電極30(第2電極)と、反射層兼画素電極12と対向電極30との間に配置された発光機能層16とを備える。以下、詳細に説明する。図1に示すように、第1基板10上には反射層兼画素電極12が形成される。反射層兼画素電極12は、光反射性を有する材料によって形成される。この種の材料としては、例えばAl(アルミニウム)、Ag(銀)、Au(金)、Cu(銅)などの単体金属、またはAu、CuまたはAgを主成分とする合金などが好適に採用される。本実施形態では、赤色の発光素子の反射層兼画素電極12はAg、AuまたはCuで形成され、緑色および青色の発光素子の反射層兼画素電極12はAlで形成される。本実施形態では、反射層兼画素電極12の膜厚を80nmとした。
【0021】
図1に示すように、発光機能層16は、反射層兼画素電極12上に形成された正孔注入層(HIL:Hole Injection Layer)22と、正孔注入層22上に形成された正孔輸送層(HTL:Hole transport layer)24と、正孔輸送層24上に形成された発光層26(EML:Emitting Layer)と、発光層26上に形成された電子輸送層28(ETL:Electron Transport Layer)とからなる。
【0022】
本実施形態では、正孔注入層22はMoOx(酸化モリブデン)で形成され、正孔輸送層24は図2に示すようにα−NPDで形成される。本実施形態では、正孔注入層22の膜厚を2nmとし、正孔輸送層24の膜厚を25nmとした。なお、正孔注入層22および正孔輸送層24を、正孔注入層22と正孔輸送層24の機能を兼ねる単一の層で形成することもできる。
【0023】
発光機能層26は、正孔と電子が結合して発光する有機EL物質から形成されている。本実施形態では、有機EL物質は低分子材料であって、白色光を発する。赤色のホスト材料および赤色のドーパント材料、ならびに緑色および青色のホスト材料としては図2に示すものが使用される。さらに、青色のドーパント材料としてはDPAVBiが使用される。緑色のドーパント材料としてはキナクリドンが使用される。本実施形態では、発光機能層26の膜厚を50nmとした。
電子輸送層28は図2に示すように、Alq3(トリス8−キノリノラトアルミニウム錯体)で形成される。本実施形態では、電子輸送層28の膜厚を25nmとした。
【0024】
対向電極30は陰極であり、発光機能層16を覆うように形成される。対向電極30は複数の発光素子U1に渡って連続している。対向電極30は、その表面に到達した光の一部を透過するとともに他の一部を反射する性質(すなわち半透過反射性)を持った半透過反射層として機能し、例えばマグネシウムや銀などの単体金属、またはマグネシウムや銀を主成分とする合金から形成される。本実施形態では、対向電極30は、MgAg(マグネシウム銀合金)で形成される。対向電極30の膜厚は、10nmとした。
【0025】
対向電極30上には、発光素子U1に対する水や外気の浸入を防ぐための保護層であって、無機材料からなるパシベーション層31が形成される。パシベーション層31は、SiN(窒化珪素)やSiON(酸窒化珪素)などのガス透過率が低い無機材料から形成される。本実施形態では、パシベーション層31はSiN(窒化珪素)で形成される。パシベーション層31の膜厚は400nmとした。
【0026】
本実施形態では、第1基板10上に形成された複数の発光素子U1と対向するように、第2基板32が配置される。第2基板32はガラスなどの光透過性を有する材料で形成される。第2基板32の厚さは0.5mmとした。第2基板32のうち第1基板10との対向面には、図示しないカラーフィルターおよび遮光膜が形成される。遮光膜は、各発光素子U1に対向して開口が形成された遮光体の膜体である。開口内にはカラーフィルターが形成される。
【0027】
本実施形態では、赤色の発光素子U1に対応する開口内には赤色光を選択的に透過させる赤色用カラーフィルターが形成され、緑色の発光素子U1に対応する開口内には緑色光を選択的に透過させる緑色用カラーフィルターが形成され、青色の発光素子U1に対応する開口内には青色光を選択的に透過させる青色用カラーフィルターが形成される。
【0028】
本実施形態の発光素子U1においては、反射層兼画素電極12と光取り出し側半透明反射層としての対向電極30との間で発光機能層16が発する光を共振させる共振器構造が形成される。これにより、特定の波長の光を効率良く取り出すことができる。
【0029】
カラーフィルターおよび遮光膜が形成された第2基板32は、図示しない封止層を介して第1基板10と貼り合わされる。封止層は、透明の樹脂材料、例えばエポキシ樹脂などの硬化性樹脂から形成される。以上が本実施形態の発光装置の構造である。
【0030】
<B:反射層兼画素電極の構成>
次に、本実施形態の発光装置E1における反射層兼画素電極12の構成について説明する。本実施形態における発光装置E1は、反射層兼画素電極12から光取り出し側半透明反射層としての対向電極30までの光学的距離を所定値に設定することにより、反射層兼画素電極12から対向電極30に定在波を発生させる共振構造を採用している。
【0031】
具体的には、反射層兼画素電極12から対向電極30間の光学的距離をD、下辺電極である反射層兼画素電極12での反射における位相シフトをφL、上辺電極である対向電極30での反射における位相シフトをφU、定在波のピーク波長をλ、整数をmとすると、下記の式を満たす構造となっている。
D={(2πm+φL+φU)/4π}λ・・・(4)
この(4)式を変形すると、
λ=4Dπ/(2πm+φL+φU) ・・・(5)
となる。つまり、同一膜厚であっても、反射界面での位相シフトが小さい場合、定在波のピーク波長は長波長側へシフトする。特に、m=0の場合、
λ=4Dπ/(φL+φU) ・・・(6)
であり、反射界面での位相シフトの影響が大きくなる。
【0032】
位相シフトは、位相シフト量をφ[rad]、発光機能層16の屈折率をn1、対向電極30の屈折率をn2、対向電極30の消衰係数をk2とすると、下記の式で表すことができる。
φ=tan−1{2n1k2/(n12−n22−k22)} ・・・(7)
発光機能層16の屈折率をn1を1.8として、代表的な金属材料であるAl、Cu、Au、Agで位相シフト量を計算した結果を図3に示す。なお、各金属材料であるAl、Cu、Au、Agの各波長に対する屈折率nの変化を図4に、また、消衰係数kの変化を図5に示す。
図3から明らかなように、金属材料としてAlを使用した場合に比べて、Cu、Au、Agを使用した方が、位相シフト量が小さいことがわかる。
【0033】
共振構造における位相シフト量の影響を調べるために、図6に示すようなシュミレーションモデルE2を想定し、発光層26の光取り出し効率を計算した。なお、図6に示すシュミレーションモデルE2は、図1に示す発光装置E1とほぼ同様の構成であるが、電子輸送層28と対向電極30との間に、電子注入層29が設けられているところが図1に示す発光装置E1と異なっている。電子注入層29はLiFからなり、発光機能層17における電子輸送層28上に形成される。また、パシベーション層31としてSiON(酸窒化珪素)を用いてるところも図1に示す発光装置E1とは異なっている。
【0034】
シュミレーションモデルE2においては、第1基板10の厚さを0.5mm、反射層兼画素電極12の膜厚を150nm、正孔注入層22の膜厚を15nm、正孔輸送層24の膜厚を25nm、発光層26の膜厚を20nm、電子輸送層28の膜厚を35nm、電子注入層29の膜厚を1nm、対向電極30の膜厚を10nm、パシベーション層31の膜厚を400nm、および、第2基板32の厚さを0.5mmとした。
【0035】
図6に示すシミュレーションモデルE2において、反射層兼画素電極12にAl、Cu、Au、Agを使用して、発光層26の光取り出し効率を計算した結果を図7に示す。なお、この計算においては、反射層兼画素電極12と光取り出し側半透明反射層としての対向電極30の距離Dは96nmとした。
図6から明らかなように、位相シフトが小さいCu、Au、Agを反射層兼画素電極12に用いた場合には、Alを用いた場合に比べて、600nm以上の長波長側で光取り出し効率が改善されることがわかる。
【0036】
そこで、本実施形態においては、赤色を発光する発光素子に用いる反射層兼画素電極12には、位相シフトが小さいCu、Au、または、Agを採用することにより、600nm以上の長波長側である赤色の光の取出し効率を改善するように構成した。520〜560nmの波長である緑色を発光する発光素子、および、450〜470nmの波長である青色を発光する発光素子に用いる反射層については、いずれもAlを採用した。このように構成することにより、前記(2)式においてm=0とした場合の光学構造を採用した本実施形態の発光装置E1においても、赤色の光の取出し効率を改善することができ、消費電力を著しく低減させることができる。
図8に、m=0、1、2、3とした場合の各光学構造において、ピーク波長を490nmとした時の光取り出し効率を計算した結果を示す。なお、この計算前提条件は、反射層兼画素電極12をAlとして膜厚100nm、発光層26を膜厚20nm、電子輸送層28と電子注入層29を合わせた膜厚を40nm、対向電極30をMgAgとして膜厚10nm、および、パシベーション層31をSiNとして膜厚を400nmにそれぞれ設定し、正孔注入層22と正孔輸送層24を合わせた膜厚を、ピーク波長が490nmになるように調整したものである。また、反射層兼画素電極12と対向電極30の間の各層の屈折率は1.8としている。図8に示すように、m=1、2、3とした場合の光学構造よりも、m=0とした場合の光学構造の方が、高い光取り出し効率を得られる波長の範囲が広くなることがわかる。
【0037】
<C:パネルシミュレーション>
次に、赤色を発光する発光素子に用いる反射層兼画素電極12に、位相シフトが小さいCu、Au、または、Agを用いた際の消費電力の低減を確認するために行ったパネルシミュレーションについて説明する。
このシミュレーションにおいては、図1に示した発光装置E1とほぼ同様の構成を有し、いずれの色の発光素子にも反射層兼画素電極としてAlを採用したものを比較例とした。また、図1に示した発光装置E1において、赤色を発光する発光素子に用いる反射層兼画素電極12に位相シフトが小さいCu、Au、または、Agを採用したものを実施例とした。
また、このシミュレーションにおいては、図9に示すように、赤色のカラーフィルターとして、600nm以上の光に対する透過率が90%のカラーフィルターを用いた。緑色のカラーフィルターとしては、520〜560nmの光に対する透過率が65〜70%のカラーフィルターを用いた。青色のカラーフィルターとしては、430〜470nmの光に対する透過率が60〜65%のカラーフィルターを用いた。
【0038】
<C−1:比較例1の構造>
比較例1における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図10に示すように、膜厚は100nmとした。また、赤色画素、緑色画素、および、青色画素のいずれの画素についても、反射層兼画素電極はAlで構成した。
<C−2:実施例1の構造>
実施例1における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図10に示すように、膜厚は100nmとした。赤色画素の反射層兼画素電極12としてAuを採用し、緑色画素および青色画素の反射層兼画素電極12にはAlを採用した。
<C−3:実施例2の構造>
実施例2における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図10に示すように、膜厚は100nmとした。赤色画素の反射層兼画素電極12としてCuを採用し、緑色画素および青色画素の反射層兼画素電極12にはAlを採用した。
<C−4:実施例3の構造>
実施例3における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図10に示すように、膜厚は100nmとした。赤色画素の反射層兼画素電極12としてAgを採用し、緑色画素および青色画素の反射層兼画素電極12にはAlを採用した。
即ち、比較例1の赤色画素、緑色画素および青色画素と、実施例1〜3の緑色画素および青色画素は同一構造である。
【0039】
<C−5:パネルシミュレーションの結果>
図11に示すように、比較例1の消費電力を1.00として規格化すると、実施例1の消費電力は0.80、実施例2の消費電力は0.82、実施例3の消費電力は0.85と、いずれも約20%程度、消費電力を低減できることがわかる。
また、色域(xy色度図におけるNTSCカバー率)についても、比較例1の75.14%に比べて、実施例1が76.42%、実施例2が76.28%、実施例3が75.69%と、いずれも色域が広がっていることがわかる。
【0040】
さらに、図12に、比較例1、実施例1、実施例2、および、実施例3における赤色画素、緑色画素、および青色画素の光の強度を示す。図12からわかるように、実施例1、実施例2、および、実施例3の赤色画素においては、緑色と青色の光の強度は比較例1と比較して低下しているのに対して、赤色の波長である600nm付近の光の強度が他の波長に比べて強くなっていることがわかる。つまり、本実施形態では、赤色の光の取り出し効率が改善されている。また、実施例1、実施例2、および、実施例3における緑色画素と青色画素における緑色の領域(520〜560nm)および青色の領域(450〜470nm)の光の強度は、比較例1と変わらないことがわかる。
【0041】
このことは、図13に示す反射率のグラフからもわかる。図13は、発光機能層16の屈折率を1.8とし、Al、Ag、Cu、およびAuの各種金属反射層の界面における反射率を示すグラフである。光取り出し効率を上げるためには、反射率が高い方が良いが、図13に示すように、反射層にAuとCuを用いた場合には、600nm以上の波長の赤色の領域において高い反射率を示していることがわかる。
【0042】
特に、Cuは、赤色の領域よりも短い波長の領域において反射率が低いので、赤色の画素における反射層に用いるのが適していると言える。Auは550nm以下の波長の領域で大きく反射率が低下するため、緑色の画素の反射層か、赤色の画素の反射層に用いるのが適している。また、Auは青色領域での反射率が低いので、赤色画素における青色発光成分を低下させ、カラーフィルター透過前の色純度を良くすることができるという利点もある。
【0043】
以上のように、本実施形態によれば、赤色の画素に用いる反射層兼画素電極として、位相シフトが小さいCu、Au、または、Agを採用したので、前記(2)式においてm=0とした場合の光学構造を有する発光装置で赤色の画素に用いる反射層兼画素電極としてAlを用いた場合に比べて、赤色の光取り出し効率を改善することができ、その結果、消費電力を著しく低減させることができる。
【0044】
<D:変形例>
次に、比較例1、実施例1、実施例2、および、実施例3と比較して、有機層膜厚を90nmに設定した変形例について説明する。この変形例においては、有機層膜厚を、比較例1、実施例1、実施例2、および、実施例3の場合よりも10nm薄くして、90nmとし、短波長側の取り出し効率を上げた構造となっている。膜厚調整は、電子輸送層28と正孔輸送層24の膜厚をそれぞれ、比較例1、実施例1、実施例2、および、実施例3の場合よりも5nm薄くすることにより行った。
【0045】
以上のような構造において、いずれの色の発光素子にも反射層兼画素電極としてAlを採用した発光装置を比較例2とした。また、赤色を発光する発光素子に用いる反射層兼画素電極12に位相シフトが小さいAu、Cu、または、Agをそれぞれ採用した発光装置を実施例4、実施例5、および、実施例6とした。パネルシミュレーションに用いた発光素子は、基本的に図1に示した構造を有しており、反射層兼画素電極12の構成が、以下に説明する比較例2、実施例4、実施例5、および実施例6で異っている。
【0046】
<D−1:比較例2の構造>
比較例2における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図13に示すように、膜厚は90nmとした。また、赤色画素、緑色画素、および、青色画素のいずれの画素についても、反射層兼画素電極はAlで構成した。
<D−2:実施例4の構造>
実施例4における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図14に示すように、膜厚は90nmとした。赤色画素の反射層兼画素電極12としてAuを採用し、緑色画素および青色画素の反射層兼画素電極12にはAlを採用した。
<D−3:実施例5の構造>
実施例5における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図14に示すように、膜厚は90nmとした。赤色画素の反射層兼画素電極12としてCuを採用し、緑色画素および青色画素の反射層兼画素電極12にはAlを採用した。
<D−4:実施例6の構造>
実施例6における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図14に示すように、膜厚は90nmとした。赤色画素の反射層兼画素電極12としてAgを採用し、緑色画素および青色画素の反射層兼画素電極12にはAlを採用した。
即ち、比較例2の赤色画素、緑色画素および青色画素と、実施例4〜3の緑色画素および青色画素は同一構造である。
【0047】
<D−5:パネルシミュレーションの結果>
図10に示した比較例1の消費電力を1.00として規格化すると、図15に示すように、比較例2の消費電力は0.99であり、比較例1と殆ど変らないことがわかる。
しかし、実施例4の消費電力は0.66、実施例5の消費電力は0.68、実施例6の消費電力は0.75と、実施例1〜実施例3と比較しても、さらに著しく消費電力が低減できることがわかる。
また、色域についても、比較例2の74.36%に比べて、実施例4が75.98%、実施例5が75.72%、実施例6が75.19%と、いずれも色域が広がっていることがわかる。
【0048】
図16に、比較例1と比較例2の各色画素の光の強度と、実施例1、実施例2、および、実施例3の緑色と青色画素の光の強度と、実施例4、実施例5、および、実施例6における各色画素の光の強度とを示す。
図16からわかるように、実施例4、実施例5、および、実施例6のいずれにおいても、赤色画素における600nm付近の赤色の波長の光の強度が、比較例1および比較例2に比べて著しく強くなっていることがわかる。
また、図16に示すように、実施例4、実施例5、および、実施例6のいずれにおいても、緑色画素と青色画素における緑色の領域(520〜560nm)および青色の領域(450〜470nm)の光の強度は、比較例2と比較すれば変わりはない。しかし、図17に示すように、実施例4、実施例5、および、実施例6のいずれにおいても、緑色画素と青色画素における緑色の領域および青色の領域の光の強度は比較例1と比較すれば著しく強くなっていることがわかる。
【0049】
このように、前記(6)式において、定在波のピーク波長が450〜600nmとなるように、反射層兼画素電極12と光取り出し側半透明反射層としての対向電極30との距離Dを設定することにより、赤色画素における赤色の光の取り出し効率だけでなく、緑色画素と青色画素における緑色と青色の光の取り出し効率をも改善することができる。
一般に、消費電力は青色画素の発光効率に大きく影響受ける場合が多い。したがって、この変形例においては、青色画素の発光効率が改善されているので、消費電力をより一層低減させることができる。
【0050】
したがって、この変形例によれば、前記(2)式においてm=0とした場合の光学構造を有する発光装置において、赤色の光の取り出し効率だけでなく、緑色と青色の光の取り出し効率をも改善することができるので、消費電力をさらに低減させることができる。
【0051】
<E:製造プロセス>
次に、赤色の画素の反射層の材料を、他の色の画素の反射層とは異なる材料で発光装置を製造するプロセスについて説明する。一例として、赤色画素の反射層をCuで形成し、緑色および青色画素の反射層をAlで形成する例について説明する。
【0052】
まず、公知の方法で、第1基板10上に駆動素子であるTFTや保持容量を形成し、平坦化膜で覆う。そして、TFTに対応した位置にコンタクトホールを形成する。コンタクトホールを形成した後は、平坦化膜上の画素間の位置に、SiO2やSiNで隔離層を形成する。
【0053】
次に、Cuを用いて、スパッタ、あるいは電解メッキを用いたダマシン法などにより、上下導通層を形成する。この上下導通層をCMP(Chemical Mechanical Polishing(化学的機械研磨))法などにより、前記隔離層の位置まで平坦化し、赤色画素の反射層を形成する。これにより、赤色画素の反射層がCuにより形成される。
【0054】
この時、緑色画素と青色画素の上下導通層もCuにより形成されているが、赤色画素の反射層とは、前記隔離層により隔離されている。また、緑色画素と青色画素の上下導通層も前記隔離層により隔離されている。
そして、緑色画素と青色画素の上下導通層上に、Alの反射層を形成する。緑色画素の反射層と青色画素の反射層は、緑色画素と青色画素の間の隔離層上で隔離するように形成する。
このような製造プロセスによれば、上下導通層と赤色画素の反射層を短工程で形成することができる。
【0055】
なお、緑色画素と青色画素のCuの上下導通層上にAlの反射層を形成する際には、CuとAlの選択比が高い、ドライエッチング、ウェットエッチング等でパターニングすると良い。また、Cu/Al界面の合金化で、Al表面の反射率が下がる場合には、Cu/Al間に拡散防止膜を形成しても良い。
【0056】
<F:応用例>
次に、本発明に係る発光装置を利用した電子機器について説明する。図18は、上述の実施形態に係る発光装置E1を表示装置として採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、表示装置としての発光装置E1と本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ2001およびキーボード2002が設けられている。この発光装置E1は有機EL素子を使用しているので、視野角が広く見易い画面を表示できる。
【0057】
図19に、上述の実施形態に係る発光装置E1を適用した携帯電話機の構成を示す。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、ならびに表示装置としての発光装置E1を備える。スクロールボタン3002を操作することによって、発光装置E1に表示される画面がスクロールされる。
【0058】
図20に、上述の実施形態に係る発光装置E1を適用した携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistant)の構成を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002、ならびに表示装置としての発光装置E1を備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が発光装置E1に表示される。
【0059】
なお、本発明に係る発光装置が適用される電子機器としては、図18から図20に示したもののほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンター、スキャナー、複写機、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。
【0060】
なお、上述した実施形態においては、前記(4)式において、整数mが0となる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、整数mが1または2となる場合にも適用可能である。
【0061】
さらに、上述した実施形態においては、赤色画素の反射層兼画素電極として、Cu、Au、Agを用いた例について説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、赤色画素と緑色画素の反射層兼画素電極として、Cu、Au、またはAgのうち少なくとも一つを主成分とする合金であればよく、例えば、Cu、Mg、およびCaを含む合金、あるいはAuおよびCuを含む合金を用いるようにしてもよい。
また、カラーフィルターは封止膜上にフォトリソグラフィー法で直接形成してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10……第1基板、12……反射層兼画素電極、16……発光機能層、22……正孔注入層、24……正孔輸送層、26……発光層、28……電子輸送層、30…対向電極、31……パシベーション層、32……第2基板、E1……発光装置、U1…発光素子。
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の発光素子を利用した発光装置およびこの発光装置を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、基板上に有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を発光素子として形成し、発光素子の発光光を基板と反対側に取り出すトップエミッション方式の発光装置が電子機器の表示装置などとして多用されている。トップエミッション方式は、発光素子を挟み、基板側に形成された一方の第1電極(例えば陽極)と基板との間に反射層を形成し、発光素子を挟む他方の第2電極(例えば陰極)側から光を取り出す方式であって、光の利用効率が高い方式である。
【0003】
トップエミッション方式の発光装置において、白色の有機EL素子を用い、前記第2電極と反射層との間で所定の波長の光を共振させて、光の取り出し効率を高める技術が開示されている(例えば非特許文献1)。この技術では、共振構造におけるピーク波長をλ、反射層から前記第2電極の光学的距離をD、前記第1電極での反射における位相シフトをφL、前記第2電極での反射における位相シフトをφU、整数をmとしたとき、下記の式を満たす光学構造が提案されている。
D={(2πm+φL+φU)/4π}λ・・・(1)
【0004】
特に、前記(1)式において、m=0とした場合には、有機EL素子におけるアレイ構造を単純にしつつ、広い波長の光をある程度の効率で取り出すことができるため、発光装置の低コスト化を実現でき、かつ、高精細画素を作り込みやすいなどの利点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】SID2010 P-146/S.Lee, Samsung Mobile Display Co.,Ltd
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記(1)式においてm=0とした光学構造の発光装置では、赤色領域、緑色領域、および、青色領域の全ての領域の光を取り出すため、赤色画素、緑色画素、および、青色画素の色分離はカラーフィルターなどで行う必要がある。したがって、観測側での発光スペクトルの帯域幅が広くなり、色純度が悪いという問題があった。また、赤色、緑色、および、青色の各波長領域で比較した場合、光取り出し効率が低いという問題があった。その結果、発光装置の消費電力が高くなり、パネル特性として不利になるという問題があった。
【0007】
このような事情を背景として、本発明は、白色の有機EL素子と共振構造を組み合わせたトップエミッション方式の発光装置において、有機EL素子におけるアレイ構造を単純にしつつ、少なくとも一色の光取り出し効率を高め、高消費電力化を抑制するという課題の解決を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、本発明に係る発光装置は、基板と、前記基板上に形成された光反射層と、前記光反射層上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された電極とを備え、前記光反射層と電極の間の光路長を調整した共振構造を有する発光装置であって、前記光反射層から電極間の光路長をD、前記光反射層での反射における位相シフトをφL、前記電極での反射における位相シフトをφU、前記光反射層と電極の間に発生する定在波のピーク波長をλ、2以下の整数をmとしたとき、
D={(2πm+φL+φU)/4π}λ・・・(2)
を満たし、赤色画素、緑色画素、および、青色画素の前記光反射層のうち、少なくとも一つの光反射層は、他の光反射層に用いられた金属材料とは異なる金属材料で形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明においては、前記(2)式を満たし、赤色画素、緑色画素、および、青色画素の前記光反射層のうち、少なくとも一つの光反射層は、他の光反射層に用いられた金属材料とは異なる金属材料で形成されている。したがって、全ての色の画素の光反射層を同一の金属材料で形成した場合に比べて、少なくとも一つの光反射層において位相シフト量が異なり、光取り出し効率も異なる。したがって、消費電力に影響与える発光色の光取り出し効率を改善でき、消費電力を低減させることができる。
【0010】
本発明に係る発光装置として、位相シフト量をφ、前記発光層の屈折率をn1、前記反射層の屈折率をn2、前記反射層の消衰係数をk2としたとき、
φ=tan−1{2n1k2/(n12−n22−k22)}・・・(3)
を満たし、他の色の画素よりも長波長の色の画素における前記反射層は、他の色の画素における前記反射層よりも位相シフト量φが小さな金属材料で形成することもできる。
【0011】
本発明に係る発光装置においては、前記(3)を満たし、他の色の画素よりも長波長の色の画素における前記反射層は、他の色の画素における前記反射層よりも位相シフト量φが小さな金属材料で形成するので、長波長側の光の取り出し効率を改善でき、消費電力を低減させることができる。
【0012】
本発明に係る発光装置は、前記整数mの値を0とすることもできる。本発明に係る発光装置は、前記整数mの値が0であるため、光反射層から電極までの構造を簡単にしつつ、光の取り出し効率を改善でき、消費電力を低減させることができる。
【0013】
本発明に係る発光装置は、緑色画素と青色画素の前記反射層、または、赤色画素と緑色画素の前記反射層を、共通の金属材料で形成することもできる。
【0014】
本発明に係る発光装置においては、緑色画素と青色画素の前記反射層、または、赤色画素と緑色画素の前記反射層を、共通の金属材料で形成するので、消費電力に影響与える発光色の光取り出し効率を改善でき、消費電力を低減させることができる。
【0015】
本発明に係る発光装置は、赤色画素または緑色画素の反射層を、 赤色画素または緑色画素の反射層は、Cu、Au、もしくはAg、または、これらのうち少なくとも一つを主成分とする金属材料で形成することもできる。本発明に係る発光装置においては、全ての色の画素における反射層をAlで形成する場合に比べて、長波長側の光の取り出し効率を改善でき、消費電力を低減させることができる。
【0016】
本発明に係る発光装置は、前記電極の上層にカラーフィルターを設けることもできる。本発明に係る発光装置においては、前記電極の上層にカラーフィルターを設けた簡単な構造を実現にしつつ、光の取り出し効率を改善でき、消費電力を低減させることができる。
【0017】
本発明に係る電子機器は、前記発光装置を備えていることを特徴とする。本発明に係る電子機器においては、前記発光装置を備えているので、消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る発光装置の概要を示す模式的な断面図である。
【図2】図1における正孔輸送層、発光層、および、電子輸送層に用いられた材料を示す図である。
【図3】Al、Ag、Cu、および、Auで位相シフト量を計算した結果を示す図である。
【図4】Al、Cu、Au、Agの各波長に対する屈折率の変化を示す図である。
【図5】Al、Cu、Au、Agの各波長に対する消衰係数の変化を示す図である。
【図6】共振構造における位相シフト量の影響を調べるシミュレーションに用いたシミュレーションモデルの概要を示す模式的な断面図である。
【図7】図6のシミュレーションモデルを用いて発光層の光取り出し効率を計算した結果を示す図である。
【図8】m=0、1、2、3とした場合の各光学構造における波長と光取り出し効率の関係を示す図である。
【図9】図6のシミュレーションモデルに用いたカラーフィルターの透過率を示す図である。
【図10】比較例1、および、実施例1ないし実施例3の有機層膜厚と反射膜の構成を示す図である。
【図11】比較例1、および、実施例1ないし実施例3の消費電力と色域の結果を示す図である。
【図12】比較例1、および、実施例1ないし実施例3の各画素における光の強度を示す図である。
【図13】Al、Cu、Au、Agの各波長に対する反射率の変化を示す図である。
【図14】比較例2、および、実施例4ないし実施例5の有機層膜厚と反射膜の構成を示す図である。
【図15】比較例2、および、実施例4ないし実施例5の消費電力と色域の結果を示す図である。
【図16】比較例1と比較例2の各画素、実施例1ないし実施例3の緑色画素および青色画素、ならびに、実施例4ないし実施例6の赤色画素における光の強度を示す図である。
【図17】比較例1、実施例4ないし実施例6の各画素における光の強度を示す図である。
【図18】図1の実施形態に係る発光装置を表示装置として採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図19】図1の実施形態に係る発光装置を表示装置として採用した携帯電話機の構成を示す斜視図である。
【図20】図1の実施形態に係る発光装置を表示装置として採用した携帯情報端末の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。図面においては、各部の寸法の比率は実際のものとは適宜に異ならせてある。
<A:発光装置の構造>
図1は、本発明の一実施形態に係る発光装置E1の概要を示す模式的な断面図である。発光装置E1は、複数の発光素子U1が第1基板10の面上に配列された構成であるが、図1においては、説明の便宜上、ひとつの発光素子U1のみが例示されている。本実施形態の発光装置E1は、トップエミッション型であり、発光素子U1にて発生した光は第1基板10とは反対側に向かって進行する。従って、ガラスなどの光透過性を有する板材のほか、セラミックスや金属のシートなど不透明な板材を第1基板10として採用することができる。本実施形態では、第1基板10の厚さを0.5mmとした。
第1基板10には、発光素子U1に給電して発光させるための配線が配置されているが、配線の図示は省略する。また、第1基板10には、発光素子U1に給電するための回路が配置されているが、回路の図示は省略する。
【0020】
発光素子U1は、第1基板10の上に形成された反射層兼画素電極12(第1電極)と、画素電極12の上に配置された光取り出し側半透明反射層としての対向電極30(第2電極)と、反射層兼画素電極12と対向電極30との間に配置された発光機能層16とを備える。以下、詳細に説明する。図1に示すように、第1基板10上には反射層兼画素電極12が形成される。反射層兼画素電極12は、光反射性を有する材料によって形成される。この種の材料としては、例えばAl(アルミニウム)、Ag(銀)、Au(金)、Cu(銅)などの単体金属、またはAu、CuまたはAgを主成分とする合金などが好適に採用される。本実施形態では、赤色の発光素子の反射層兼画素電極12はAg、AuまたはCuで形成され、緑色および青色の発光素子の反射層兼画素電極12はAlで形成される。本実施形態では、反射層兼画素電極12の膜厚を80nmとした。
【0021】
図1に示すように、発光機能層16は、反射層兼画素電極12上に形成された正孔注入層(HIL:Hole Injection Layer)22と、正孔注入層22上に形成された正孔輸送層(HTL:Hole transport layer)24と、正孔輸送層24上に形成された発光層26(EML:Emitting Layer)と、発光層26上に形成された電子輸送層28(ETL:Electron Transport Layer)とからなる。
【0022】
本実施形態では、正孔注入層22はMoOx(酸化モリブデン)で形成され、正孔輸送層24は図2に示すようにα−NPDで形成される。本実施形態では、正孔注入層22の膜厚を2nmとし、正孔輸送層24の膜厚を25nmとした。なお、正孔注入層22および正孔輸送層24を、正孔注入層22と正孔輸送層24の機能を兼ねる単一の層で形成することもできる。
【0023】
発光機能層26は、正孔と電子が結合して発光する有機EL物質から形成されている。本実施形態では、有機EL物質は低分子材料であって、白色光を発する。赤色のホスト材料および赤色のドーパント材料、ならびに緑色および青色のホスト材料としては図2に示すものが使用される。さらに、青色のドーパント材料としてはDPAVBiが使用される。緑色のドーパント材料としてはキナクリドンが使用される。本実施形態では、発光機能層26の膜厚を50nmとした。
電子輸送層28は図2に示すように、Alq3(トリス8−キノリノラトアルミニウム錯体)で形成される。本実施形態では、電子輸送層28の膜厚を25nmとした。
【0024】
対向電極30は陰極であり、発光機能層16を覆うように形成される。対向電極30は複数の発光素子U1に渡って連続している。対向電極30は、その表面に到達した光の一部を透過するとともに他の一部を反射する性質(すなわち半透過反射性)を持った半透過反射層として機能し、例えばマグネシウムや銀などの単体金属、またはマグネシウムや銀を主成分とする合金から形成される。本実施形態では、対向電極30は、MgAg(マグネシウム銀合金)で形成される。対向電極30の膜厚は、10nmとした。
【0025】
対向電極30上には、発光素子U1に対する水や外気の浸入を防ぐための保護層であって、無機材料からなるパシベーション層31が形成される。パシベーション層31は、SiN(窒化珪素)やSiON(酸窒化珪素)などのガス透過率が低い無機材料から形成される。本実施形態では、パシベーション層31はSiN(窒化珪素)で形成される。パシベーション層31の膜厚は400nmとした。
【0026】
本実施形態では、第1基板10上に形成された複数の発光素子U1と対向するように、第2基板32が配置される。第2基板32はガラスなどの光透過性を有する材料で形成される。第2基板32の厚さは0.5mmとした。第2基板32のうち第1基板10との対向面には、図示しないカラーフィルターおよび遮光膜が形成される。遮光膜は、各発光素子U1に対向して開口が形成された遮光体の膜体である。開口内にはカラーフィルターが形成される。
【0027】
本実施形態では、赤色の発光素子U1に対応する開口内には赤色光を選択的に透過させる赤色用カラーフィルターが形成され、緑色の発光素子U1に対応する開口内には緑色光を選択的に透過させる緑色用カラーフィルターが形成され、青色の発光素子U1に対応する開口内には青色光を選択的に透過させる青色用カラーフィルターが形成される。
【0028】
本実施形態の発光素子U1においては、反射層兼画素電極12と光取り出し側半透明反射層としての対向電極30との間で発光機能層16が発する光を共振させる共振器構造が形成される。これにより、特定の波長の光を効率良く取り出すことができる。
【0029】
カラーフィルターおよび遮光膜が形成された第2基板32は、図示しない封止層を介して第1基板10と貼り合わされる。封止層は、透明の樹脂材料、例えばエポキシ樹脂などの硬化性樹脂から形成される。以上が本実施形態の発光装置の構造である。
【0030】
<B:反射層兼画素電極の構成>
次に、本実施形態の発光装置E1における反射層兼画素電極12の構成について説明する。本実施形態における発光装置E1は、反射層兼画素電極12から光取り出し側半透明反射層としての対向電極30までの光学的距離を所定値に設定することにより、反射層兼画素電極12から対向電極30に定在波を発生させる共振構造を採用している。
【0031】
具体的には、反射層兼画素電極12から対向電極30間の光学的距離をD、下辺電極である反射層兼画素電極12での反射における位相シフトをφL、上辺電極である対向電極30での反射における位相シフトをφU、定在波のピーク波長をλ、整数をmとすると、下記の式を満たす構造となっている。
D={(2πm+φL+φU)/4π}λ・・・(4)
この(4)式を変形すると、
λ=4Dπ/(2πm+φL+φU) ・・・(5)
となる。つまり、同一膜厚であっても、反射界面での位相シフトが小さい場合、定在波のピーク波長は長波長側へシフトする。特に、m=0の場合、
λ=4Dπ/(φL+φU) ・・・(6)
であり、反射界面での位相シフトの影響が大きくなる。
【0032】
位相シフトは、位相シフト量をφ[rad]、発光機能層16の屈折率をn1、対向電極30の屈折率をn2、対向電極30の消衰係数をk2とすると、下記の式で表すことができる。
φ=tan−1{2n1k2/(n12−n22−k22)} ・・・(7)
発光機能層16の屈折率をn1を1.8として、代表的な金属材料であるAl、Cu、Au、Agで位相シフト量を計算した結果を図3に示す。なお、各金属材料であるAl、Cu、Au、Agの各波長に対する屈折率nの変化を図4に、また、消衰係数kの変化を図5に示す。
図3から明らかなように、金属材料としてAlを使用した場合に比べて、Cu、Au、Agを使用した方が、位相シフト量が小さいことがわかる。
【0033】
共振構造における位相シフト量の影響を調べるために、図6に示すようなシュミレーションモデルE2を想定し、発光層26の光取り出し効率を計算した。なお、図6に示すシュミレーションモデルE2は、図1に示す発光装置E1とほぼ同様の構成であるが、電子輸送層28と対向電極30との間に、電子注入層29が設けられているところが図1に示す発光装置E1と異なっている。電子注入層29はLiFからなり、発光機能層17における電子輸送層28上に形成される。また、パシベーション層31としてSiON(酸窒化珪素)を用いてるところも図1に示す発光装置E1とは異なっている。
【0034】
シュミレーションモデルE2においては、第1基板10の厚さを0.5mm、反射層兼画素電極12の膜厚を150nm、正孔注入層22の膜厚を15nm、正孔輸送層24の膜厚を25nm、発光層26の膜厚を20nm、電子輸送層28の膜厚を35nm、電子注入層29の膜厚を1nm、対向電極30の膜厚を10nm、パシベーション層31の膜厚を400nm、および、第2基板32の厚さを0.5mmとした。
【0035】
図6に示すシミュレーションモデルE2において、反射層兼画素電極12にAl、Cu、Au、Agを使用して、発光層26の光取り出し効率を計算した結果を図7に示す。なお、この計算においては、反射層兼画素電極12と光取り出し側半透明反射層としての対向電極30の距離Dは96nmとした。
図6から明らかなように、位相シフトが小さいCu、Au、Agを反射層兼画素電極12に用いた場合には、Alを用いた場合に比べて、600nm以上の長波長側で光取り出し効率が改善されることがわかる。
【0036】
そこで、本実施形態においては、赤色を発光する発光素子に用いる反射層兼画素電極12には、位相シフトが小さいCu、Au、または、Agを採用することにより、600nm以上の長波長側である赤色の光の取出し効率を改善するように構成した。520〜560nmの波長である緑色を発光する発光素子、および、450〜470nmの波長である青色を発光する発光素子に用いる反射層については、いずれもAlを採用した。このように構成することにより、前記(2)式においてm=0とした場合の光学構造を採用した本実施形態の発光装置E1においても、赤色の光の取出し効率を改善することができ、消費電力を著しく低減させることができる。
図8に、m=0、1、2、3とした場合の各光学構造において、ピーク波長を490nmとした時の光取り出し効率を計算した結果を示す。なお、この計算前提条件は、反射層兼画素電極12をAlとして膜厚100nm、発光層26を膜厚20nm、電子輸送層28と電子注入層29を合わせた膜厚を40nm、対向電極30をMgAgとして膜厚10nm、および、パシベーション層31をSiNとして膜厚を400nmにそれぞれ設定し、正孔注入層22と正孔輸送層24を合わせた膜厚を、ピーク波長が490nmになるように調整したものである。また、反射層兼画素電極12と対向電極30の間の各層の屈折率は1.8としている。図8に示すように、m=1、2、3とした場合の光学構造よりも、m=0とした場合の光学構造の方が、高い光取り出し効率を得られる波長の範囲が広くなることがわかる。
【0037】
<C:パネルシミュレーション>
次に、赤色を発光する発光素子に用いる反射層兼画素電極12に、位相シフトが小さいCu、Au、または、Agを用いた際の消費電力の低減を確認するために行ったパネルシミュレーションについて説明する。
このシミュレーションにおいては、図1に示した発光装置E1とほぼ同様の構成を有し、いずれの色の発光素子にも反射層兼画素電極としてAlを採用したものを比較例とした。また、図1に示した発光装置E1において、赤色を発光する発光素子に用いる反射層兼画素電極12に位相シフトが小さいCu、Au、または、Agを採用したものを実施例とした。
また、このシミュレーションにおいては、図9に示すように、赤色のカラーフィルターとして、600nm以上の光に対する透過率が90%のカラーフィルターを用いた。緑色のカラーフィルターとしては、520〜560nmの光に対する透過率が65〜70%のカラーフィルターを用いた。青色のカラーフィルターとしては、430〜470nmの光に対する透過率が60〜65%のカラーフィルターを用いた。
【0038】
<C−1:比較例1の構造>
比較例1における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図10に示すように、膜厚は100nmとした。また、赤色画素、緑色画素、および、青色画素のいずれの画素についても、反射層兼画素電極はAlで構成した。
<C−2:実施例1の構造>
実施例1における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図10に示すように、膜厚は100nmとした。赤色画素の反射層兼画素電極12としてAuを採用し、緑色画素および青色画素の反射層兼画素電極12にはAlを採用した。
<C−3:実施例2の構造>
実施例2における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図10に示すように、膜厚は100nmとした。赤色画素の反射層兼画素電極12としてCuを採用し、緑色画素および青色画素の反射層兼画素電極12にはAlを採用した。
<C−4:実施例3の構造>
実施例3における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図10に示すように、膜厚は100nmとした。赤色画素の反射層兼画素電極12としてAgを採用し、緑色画素および青色画素の反射層兼画素電極12にはAlを採用した。
即ち、比較例1の赤色画素、緑色画素および青色画素と、実施例1〜3の緑色画素および青色画素は同一構造である。
【0039】
<C−5:パネルシミュレーションの結果>
図11に示すように、比較例1の消費電力を1.00として規格化すると、実施例1の消費電力は0.80、実施例2の消費電力は0.82、実施例3の消費電力は0.85と、いずれも約20%程度、消費電力を低減できることがわかる。
また、色域(xy色度図におけるNTSCカバー率)についても、比較例1の75.14%に比べて、実施例1が76.42%、実施例2が76.28%、実施例3が75.69%と、いずれも色域が広がっていることがわかる。
【0040】
さらに、図12に、比較例1、実施例1、実施例2、および、実施例3における赤色画素、緑色画素、および青色画素の光の強度を示す。図12からわかるように、実施例1、実施例2、および、実施例3の赤色画素においては、緑色と青色の光の強度は比較例1と比較して低下しているのに対して、赤色の波長である600nm付近の光の強度が他の波長に比べて強くなっていることがわかる。つまり、本実施形態では、赤色の光の取り出し効率が改善されている。また、実施例1、実施例2、および、実施例3における緑色画素と青色画素における緑色の領域(520〜560nm)および青色の領域(450〜470nm)の光の強度は、比較例1と変わらないことがわかる。
【0041】
このことは、図13に示す反射率のグラフからもわかる。図13は、発光機能層16の屈折率を1.8とし、Al、Ag、Cu、およびAuの各種金属反射層の界面における反射率を示すグラフである。光取り出し効率を上げるためには、反射率が高い方が良いが、図13に示すように、反射層にAuとCuを用いた場合には、600nm以上の波長の赤色の領域において高い反射率を示していることがわかる。
【0042】
特に、Cuは、赤色の領域よりも短い波長の領域において反射率が低いので、赤色の画素における反射層に用いるのが適していると言える。Auは550nm以下の波長の領域で大きく反射率が低下するため、緑色の画素の反射層か、赤色の画素の反射層に用いるのが適している。また、Auは青色領域での反射率が低いので、赤色画素における青色発光成分を低下させ、カラーフィルター透過前の色純度を良くすることができるという利点もある。
【0043】
以上のように、本実施形態によれば、赤色の画素に用いる反射層兼画素電極として、位相シフトが小さいCu、Au、または、Agを採用したので、前記(2)式においてm=0とした場合の光学構造を有する発光装置で赤色の画素に用いる反射層兼画素電極としてAlを用いた場合に比べて、赤色の光取り出し効率を改善することができ、その結果、消費電力を著しく低減させることができる。
【0044】
<D:変形例>
次に、比較例1、実施例1、実施例2、および、実施例3と比較して、有機層膜厚を90nmに設定した変形例について説明する。この変形例においては、有機層膜厚を、比較例1、実施例1、実施例2、および、実施例3の場合よりも10nm薄くして、90nmとし、短波長側の取り出し効率を上げた構造となっている。膜厚調整は、電子輸送層28と正孔輸送層24の膜厚をそれぞれ、比較例1、実施例1、実施例2、および、実施例3の場合よりも5nm薄くすることにより行った。
【0045】
以上のような構造において、いずれの色の発光素子にも反射層兼画素電極としてAlを採用した発光装置を比較例2とした。また、赤色を発光する発光素子に用いる反射層兼画素電極12に位相シフトが小さいAu、Cu、または、Agをそれぞれ採用した発光装置を実施例4、実施例5、および、実施例6とした。パネルシミュレーションに用いた発光素子は、基本的に図1に示した構造を有しており、反射層兼画素電極12の構成が、以下に説明する比較例2、実施例4、実施例5、および実施例6で異っている。
【0046】
<D−1:比較例2の構造>
比較例2における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図13に示すように、膜厚は90nmとした。また、赤色画素、緑色画素、および、青色画素のいずれの画素についても、反射層兼画素電極はAlで構成した。
<D−2:実施例4の構造>
実施例4における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図14に示すように、膜厚は90nmとした。赤色画素の反射層兼画素電極12としてAuを採用し、緑色画素および青色画素の反射層兼画素電極12にはAlを採用した。
<D−3:実施例5の構造>
実施例5における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図14に示すように、膜厚は90nmとした。赤色画素の反射層兼画素電極12としてCuを採用し、緑色画素および青色画素の反射層兼画素電極12にはAlを採用した。
<D−4:実施例6の構造>
実施例6における有機層の構造は図1に示した構造と同じ構造で、図14に示すように、膜厚は90nmとした。赤色画素の反射層兼画素電極12としてAgを採用し、緑色画素および青色画素の反射層兼画素電極12にはAlを採用した。
即ち、比較例2の赤色画素、緑色画素および青色画素と、実施例4〜3の緑色画素および青色画素は同一構造である。
【0047】
<D−5:パネルシミュレーションの結果>
図10に示した比較例1の消費電力を1.00として規格化すると、図15に示すように、比較例2の消費電力は0.99であり、比較例1と殆ど変らないことがわかる。
しかし、実施例4の消費電力は0.66、実施例5の消費電力は0.68、実施例6の消費電力は0.75と、実施例1〜実施例3と比較しても、さらに著しく消費電力が低減できることがわかる。
また、色域についても、比較例2の74.36%に比べて、実施例4が75.98%、実施例5が75.72%、実施例6が75.19%と、いずれも色域が広がっていることがわかる。
【0048】
図16に、比較例1と比較例2の各色画素の光の強度と、実施例1、実施例2、および、実施例3の緑色と青色画素の光の強度と、実施例4、実施例5、および、実施例6における各色画素の光の強度とを示す。
図16からわかるように、実施例4、実施例5、および、実施例6のいずれにおいても、赤色画素における600nm付近の赤色の波長の光の強度が、比較例1および比較例2に比べて著しく強くなっていることがわかる。
また、図16に示すように、実施例4、実施例5、および、実施例6のいずれにおいても、緑色画素と青色画素における緑色の領域(520〜560nm)および青色の領域(450〜470nm)の光の強度は、比較例2と比較すれば変わりはない。しかし、図17に示すように、実施例4、実施例5、および、実施例6のいずれにおいても、緑色画素と青色画素における緑色の領域および青色の領域の光の強度は比較例1と比較すれば著しく強くなっていることがわかる。
【0049】
このように、前記(6)式において、定在波のピーク波長が450〜600nmとなるように、反射層兼画素電極12と光取り出し側半透明反射層としての対向電極30との距離Dを設定することにより、赤色画素における赤色の光の取り出し効率だけでなく、緑色画素と青色画素における緑色と青色の光の取り出し効率をも改善することができる。
一般に、消費電力は青色画素の発光効率に大きく影響受ける場合が多い。したがって、この変形例においては、青色画素の発光効率が改善されているので、消費電力をより一層低減させることができる。
【0050】
したがって、この変形例によれば、前記(2)式においてm=0とした場合の光学構造を有する発光装置において、赤色の光の取り出し効率だけでなく、緑色と青色の光の取り出し効率をも改善することができるので、消費電力をさらに低減させることができる。
【0051】
<E:製造プロセス>
次に、赤色の画素の反射層の材料を、他の色の画素の反射層とは異なる材料で発光装置を製造するプロセスについて説明する。一例として、赤色画素の反射層をCuで形成し、緑色および青色画素の反射層をAlで形成する例について説明する。
【0052】
まず、公知の方法で、第1基板10上に駆動素子であるTFTや保持容量を形成し、平坦化膜で覆う。そして、TFTに対応した位置にコンタクトホールを形成する。コンタクトホールを形成した後は、平坦化膜上の画素間の位置に、SiO2やSiNで隔離層を形成する。
【0053】
次に、Cuを用いて、スパッタ、あるいは電解メッキを用いたダマシン法などにより、上下導通層を形成する。この上下導通層をCMP(Chemical Mechanical Polishing(化学的機械研磨))法などにより、前記隔離層の位置まで平坦化し、赤色画素の反射層を形成する。これにより、赤色画素の反射層がCuにより形成される。
【0054】
この時、緑色画素と青色画素の上下導通層もCuにより形成されているが、赤色画素の反射層とは、前記隔離層により隔離されている。また、緑色画素と青色画素の上下導通層も前記隔離層により隔離されている。
そして、緑色画素と青色画素の上下導通層上に、Alの反射層を形成する。緑色画素の反射層と青色画素の反射層は、緑色画素と青色画素の間の隔離層上で隔離するように形成する。
このような製造プロセスによれば、上下導通層と赤色画素の反射層を短工程で形成することができる。
【0055】
なお、緑色画素と青色画素のCuの上下導通層上にAlの反射層を形成する際には、CuとAlの選択比が高い、ドライエッチング、ウェットエッチング等でパターニングすると良い。また、Cu/Al界面の合金化で、Al表面の反射率が下がる場合には、Cu/Al間に拡散防止膜を形成しても良い。
【0056】
<F:応用例>
次に、本発明に係る発光装置を利用した電子機器について説明する。図18は、上述の実施形態に係る発光装置E1を表示装置として採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、表示装置としての発光装置E1と本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ2001およびキーボード2002が設けられている。この発光装置E1は有機EL素子を使用しているので、視野角が広く見易い画面を表示できる。
【0057】
図19に、上述の実施形態に係る発光装置E1を適用した携帯電話機の構成を示す。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、ならびに表示装置としての発光装置E1を備える。スクロールボタン3002を操作することによって、発光装置E1に表示される画面がスクロールされる。
【0058】
図20に、上述の実施形態に係る発光装置E1を適用した携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistant)の構成を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002、ならびに表示装置としての発光装置E1を備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が発光装置E1に表示される。
【0059】
なお、本発明に係る発光装置が適用される電子機器としては、図18から図20に示したもののほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンター、スキャナー、複写機、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。
【0060】
なお、上述した実施形態においては、前記(4)式において、整数mが0となる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、整数mが1または2となる場合にも適用可能である。
【0061】
さらに、上述した実施形態においては、赤色画素の反射層兼画素電極として、Cu、Au、Agを用いた例について説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、赤色画素と緑色画素の反射層兼画素電極として、Cu、Au、またはAgのうち少なくとも一つを主成分とする合金であればよく、例えば、Cu、Mg、およびCaを含む合金、あるいはAuおよびCuを含む合金を用いるようにしてもよい。
また、カラーフィルターは封止膜上にフォトリソグラフィー法で直接形成してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10……第1基板、12……反射層兼画素電極、16……発光機能層、22……正孔注入層、24……正孔輸送層、26……発光層、28……電子輸送層、30…対向電極、31……パシベーション層、32……第2基板、E1……発光装置、U1…発光素子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された光反射層と、
前記光反射層上に形成された発光層と、
前記発光層上に形成された電極とを備え、前記光反射層と電極の間の光路長を調整した共振構造を有する発光装置であって、
前記光反射層から電極間の光路長をD、前記光反射層での反射における位相シフトをφL、前記電極での反射における位相シフトをφU、前記光反射層と電極の間に発生する定在波のピーク波長をλ、2以下の整数をmとしたとき、
D={(2πm+φL+φU)/4π}λ
を満たし、
赤色画素、緑色画素、および、青色画素の前記光反射層のうち、少なくとも一つの光反射層は、他の光反射層に用いられた金属材料とは異なる金属材料で形成されている、
ことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
位相シフト量をφ、前記発光層の屈折率をn1、前記反射層の屈折率をn2、前記反射層の消衰係数をk2としたとき、
φ=tan−1{2n1k2/(n12−n22−k22)}
を満たし、他の色の画素よりも長波長の色の画素における前記反射層は、他の色の画素における前記反射層よりも位相シフト量φが小さな金属材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載の発光装置。
【請求項3】
前記整数mの値が0であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の発光装置。
【請求項4】
緑色画素と青色画素の前記反射層、または、赤色画素と緑色画素の前記反射層は、共通の金属材料で形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一記載の発光装置。
【請求項5】
赤色画素または緑色画素の反射層は、Cu、Au、もしくはAg、または、これらのうち少なくとも一つを主成分とする金属材料で形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一記載の発光装置。
【請求項6】
前記電極の上層にはカラーフィルターが設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一記載の発光装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一記載の発光装置を備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された光反射層と、
前記光反射層上に形成された発光層と、
前記発光層上に形成された電極とを備え、前記光反射層と電極の間の光路長を調整した共振構造を有する発光装置であって、
前記光反射層から電極間の光路長をD、前記光反射層での反射における位相シフトをφL、前記電極での反射における位相シフトをφU、前記光反射層と電極の間に発生する定在波のピーク波長をλ、2以下の整数をmとしたとき、
D={(2πm+φL+φU)/4π}λ
を満たし、
赤色画素、緑色画素、および、青色画素の前記光反射層のうち、少なくとも一つの光反射層は、他の光反射層に用いられた金属材料とは異なる金属材料で形成されている、
ことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
位相シフト量をφ、前記発光層の屈折率をn1、前記反射層の屈折率をn2、前記反射層の消衰係数をk2としたとき、
φ=tan−1{2n1k2/(n12−n22−k22)}
を満たし、他の色の画素よりも長波長の色の画素における前記反射層は、他の色の画素における前記反射層よりも位相シフト量φが小さな金属材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載の発光装置。
【請求項3】
前記整数mの値が0であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の発光装置。
【請求項4】
緑色画素と青色画素の前記反射層、または、赤色画素と緑色画素の前記反射層は、共通の金属材料で形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一記載の発光装置。
【請求項5】
赤色画素または緑色画素の反射層は、Cu、Au、もしくはAg、または、これらのうち少なくとも一つを主成分とする金属材料で形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一記載の発光装置。
【請求項6】
前記電極の上層にはカラーフィルターが設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一記載の発光装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一記載の発光装置を備えたことを特徴とする電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−248434(P2012−248434A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119675(P2011−119675)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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