説明

発振回路システム

【課題】温度特性情報を生成する際の測定温度の個数を増やすことなく温度補償を高精度に行うことが可能な圧電発振器の発振回路システムを提供する。
【解決手段】圧電振動子12の発振周波数の温度特性を示す温度特性情報76から圧電振動子の発振周波数の温度特性を近似するための第1の近似式を算出し、第1の近似式と温度センサー16の検出電圧66に対応した温度補償量80から周波数補正回路42により発振信号58の温度補償を行う発振回路システムであって、温度特性情報は、圧電振動子の温度と発振周波数との関係を離散的に示した離散温度特性情報に補間温度特性情報を付加した情報に基づいて生成されたものであるとともに、補間温度特性情報は、前記情報から第1の近似式が算出可能となるように、離散温度特性情報に基づいて算出され、第1の近似式より低次の第2の近似式から抽出したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS(Grobal Positioning System)衛星からの測位信号に基づいて位置計測を行う圧電発振器の温度補償に係り、特に温度補償機能を外部に委ねる圧電発振器であるTSXO(Temperature Sensor Xtal Oscillator)に搭載され、外部の温度補償回路に供される圧電発振器の温度補償に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS機能を備えた携帯電話機等の受信装置、及びGPS受信機能を備えた携帯電話器等は、複数のGPS衛星から送信される測位信号を復調・解析して現在位置を測定するものである。これらの受信装置に使用される基準発振器としては、温度による周波数変化の小さい温度補償型圧電発振器TCXO(Temperature Compensated Xtal Oscilalator)が、広く使用されている。その理由は、受信装置に内蔵された発振器の周波数精度が高いほど、GPS衛星から送信される測位信号を捕捉するためのサーチ範囲を狭めることができ、結果的にサーチ時間を短縮して、すなわちGPS衛星の測位信号を捕捉する時間を短縮して、短時間で測位を行うことができる。
【0003】
一方、上述の受信装置等は装置の電源投入時等の立ち上げ時において、装置全体で温度が短時間に上昇したり、携帯電話等においては屋外から屋内、屋内から屋外に移動したときに温度が急激に変動するため、発振器内での温度が安定するまで温度補償が不安定になる問題があった。この問題を解決するため、ユーザー側で温度変化に対して高速で応答できる温度補償回路を独自に構築し、発振器側から発振器に搭載された圧電振動子特有の3次曲線的な周波数温度特性を示す温度特性情報を取得して、これにより温度補償を適切に行なう要請がなされている。よって、これに対応するため、発振回路側として温度補償回路を不要とするTSXOが適用され、TSXOは、搭載された圧電振動子の現在温度をユーザー側に出力する温度センサーと、搭載された圧電振動子の周波数温度情報(温度係数)を記憶し、ユーザー側に周波数温度情報を出力する記憶回路を搭載している(特許文献1参照)。
【0004】
厚みすべり振動を利用した水晶振動子を使用する場合、発振器から出力される発振信号は、正の3次曲線を描く温度依存性を有するが、上述のTSXOを搭載しユーザー側でTSXOに接続した温度補償回路を有するGPSシステム等においては、温度センサーから得た現在温度と、記憶回路から得た温度特性情報をもとに、どの温度においても周波数が一定となるように温度補償回路において温度補償量を算出して周波数補正を掛けている。
【0005】
ここで、記憶回路に記憶している温度特性情報は製造検査工程時に取得したものであるため、製造時のスループットの観点から、温度上昇時、または温度下降時のいずれか一方の温度変化した際の温度特性情報を取得し、記憶回路に記憶するのが一般的である。一方、温度補償回路側ではこの温度特性情報に基づいて水晶振動子の基準温度における発振周波数を基準とし温度変化に対して連続的に変化する周波数偏差の近似式を算出し、この近似式と現在温度から温度補償量を算出している。
【0006】
ところで、上述のGPS機能を搭載した携帯電話端末などの高精度の電子機器の分野においては、周波数偏差(Δf/f)の許容範囲が非常に狭く、例えば、−30℃〜85℃の温度範囲では周波数偏差(Δf/f)は0.5ppm以内であることが要求される。この条件を満たさないとサーチ時間が長くなり、結果的に測位誤差が生じたり、GPS衛星との同調が不調となる虞がある、といった問題があった。このため温度特性情報の情報数を多くすることにより近似式を高精度に算出して温度補償を行うことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−324318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、温度特性情報を取得する際は、互いに異なった設定温度に設定された複数の恒温槽に水晶振動子を順次浸漬し、水晶振動子の温度が浸漬した恒温槽の設定温度になったところでその発振周波数を測定する。しかし温度特性情報の情報数を増やすことはそのまま恒温槽の数を増やすことになるので、作業時間及びコストが掛かるという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、上記問題点に着目し、温度特性情報を生成する際の測定温度の個数を増やすことなく温度補償回路で必要とする温度特性情報を生成し、温度補償回路に周波数偏差情報の近似式を高精度に算出させ温度補償を高精度に行うことが可能な圧電発振器の温度補償方法、圧電発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態及び適用例として実現することが可能である。
第1の形態に係る発振回路システムは、圧電振動子と、前記圧電振動子を発振させて発振信号を出力する発振回路と、前記圧電振動子の温度に対応した検出電圧を出力する温度検出手段と、前記圧電振動子の発振周波数の温度特性を示す温度特性情報を出力する記憶回路と、を有する圧電発振器と、前記温度特性情報から前記圧電振動子の発振周波数の温度特性を近似するための第1の近似式を算出し、前記第1の近似式と前記検出電圧を用いて温度補償量を出力するCPUと、前記温度補償量に対応して前記発振信号の温度補償を行う周波数補正回路と、を有する温度補償回路と、を備えた発振回路システムであって、前記温度特性情報は、前記圧電振動子の温度と前記発振周波数との関係を離散的に示した離散温度特性情報に補間温度特性情報を付加した情報に基づいて生成されたものであるとともに、前記補間温度特性情報は、前記情報から前記第1の近似式が算出可能となるように、前記離散温度特性情報に基づいて算出され前記第1の近似式より低次の第2の近似式から抽出したものであることを特徴とする発振回路システム。
【0011】
上記構成により、温度特性情報は実測により生成された離散温度特性情報と、離散温度特性情報から第2の近似式を介して求めた補間温度特性情報により構成される。よって温度特性情報は第2の近似式により求めた成分を有するため、全て実測のデータに基づいて構成した場合よりも近似の精度が劣化するとも思われる。しかし、温度補償回路において第1の近似式は、第1の近似式の係数の個数よりも多くの情報数を有する温度特性情報に基づいて行なうため、第1の近似式の係数と温度特性情報との全ての組み合わせから一定の近似の誤差の範囲に収まる係数を算出することになるので、結果的に第1の近似式の精度が向上し、全て実測のデータに基づいて構成した温度特性情報を用いた場合と遜色ないものとなる。したがって、実測のデータを得るための恒温槽の数を増やす必要はなく、作業時間及びコストを抑制し、温度補償回路に高精度な温度補償を行なわせることが可能な発振回路システムとなる。
【0012】
[適用例1]
圧電振動子の発振周波数の温度特性を近似するための第1の近似式を前記圧電振動子の温度特性情報に基づいて算出し、前記第1の近似式と前記圧電振動子の温度に対応する情報を用いて温度補償量を算出可能な温度補償回路に、発振信号と前記温度特性情報を出力する圧電発振器の温度補償方法であって、前記圧電振動子の温度と前記発振周波数との関係を離散的に示した離散温度特性情報を生成し、前記離散温度特性情報に基づいて前記第1の近似式より低次である第2の近似式を算出し、前記第2の近似式から前記第1の近似式が算出可能となる補間温度特性情報を抽出し、前記離散温度特性情報に前記補間温度特性情報を付加した情報を前記温度特性情報として生成したことを特徴とする圧電発振器の製造方法。
【0013】
上記方法により、温度特性情報は実測により生成された離散温度特性情報と、離散温度特性情報から第2の近似式を介して求めた補間温度特性情報により構成される。よって、温度補償回路において第1の近似式は、第1の近似式の係数の個数以上の情報数を有する温度特性情報に基づいて算出するため、一定の近似の誤差の範囲に収まる係数を算出することになる。そのため、第1の近似式を用いた場合の温度補償の精度は、第2の近似式を用いて温度補償を行った場合よりも向上する。したがって、実測のデータを得るための恒温槽の数を増やす必要はなく、作業時間及びコストを抑制し、温度補償回路に高精度な温度補償を行なわせることができる。
【0014】
[適用例2]
前記温度特性情報は、温度の情報と、前記温度に対応した発振周波数、若しくは前記温度に対応した基準周波数からの周波数偏差の情報と、により生成したことを特徴とする適用例1に記載の圧電発振器の製造方法。
【0015】
上記方法により、圧電発振器側で温度係数の演算が不要となるため圧電発振器形成時の作業負担を抑制してコストを抑制することができる。この場合、ユーザー側で温度特性情報に対応する第1の近似式から温度係数を算出することになるが、ユーザー側で独自に正確な温度係数を演算することができる。
【0016】
[適用例3]
前記温度特性情報は、温度の情報と、前記温度に対応した発振周波数の情報、若しくは前記温度に対応した基準周波数からの周波数偏差の情報と、から求めた前記第1の近似式から抽出される温度係数により生成したことを特徴とする適用例1に記載の圧電発振器の製造方法。
【0017】
上記方法により、温度補償回路においては温度係数を算出するための演算が不要となるため、ユーザー側の負担を軽減して圧電発振器を搭載したシステムの構築を容易に行うことができる。
【0018】
[適用例4]
前記圧電振動子の温度に対応した検出電圧を出力する温度検出手段を前記圧電振動子に隣接して配設し、前記第1の近似式、前記第2の近似式及び前記温度特性情報は、前記検出電圧に関連付けられた情報として生成し、前記温度特性情報に基づいて前記第1の近似式を算出し、前記第1の近似式と前記温度検出手段から入力される前記検出電圧を用いて温度補償量を算出可能な温度補償回路に前記発振信号を出力することを特徴とする適用例1乃至3のいずれか1例に記載の圧電発振器の製造方法。
【0019】
上記方法により、温度検出手段は圧電振動子の温度の測定誤差を抑制し、圧電振動子の温度に対応する検出電圧を出力することができるので、離散温度特性情報を高精度に算出して、第2の近似式及び補間温度特性情報を高精度に算出し、これにより第1の近似式、温度特性情報を高精度に算出することができる。さらに圧電振動子の現在温度をリアルタイムでかつ高精度に測定できるので、温度補償回路における補正誤差を抑制して、温度補償を高精度に行なわせることができる。
【0020】
[適用例5]
適用例1乃至4のいずれか1例に記載の圧電発振器の製造方法により形成された圧電発振器に前記温度補償回路を組み込んだことを特徴とする圧電発振器の製造方法。
上記方法により、温度特性情報を生成するための恒温槽を増やすことなく、高精度に温度補償が行われた発振信号を出力することができる。
【0021】
[適用例6]
圧電振動子と、前記圧電振動子を発振させるとともに、前記圧電振動子の発振周波数の温度特性を近似するための第1の近似式を、前記圧電振動子の温度特性情報に基づいて算出し、前記第1の近似式と前記圧電振動子の温度に対応した情報とを用いて温度補償量を算出する温度補償回路に発振信号を出力する発振回路と、前記温度特性情報を記憶する記憶回路と、を有し、前記温度特性情報は、前記圧電振動子の温度と前記発振周波数との関係を離散的に示した離散温度特性情報を生成し、前記離散温度特性情報に基づいて前記第1の近似式より低次である第2の近似式を算出し、前記第2の近似式から前記第1の近似式が算出可能となる補間温度特性情報を抽出し、前記離散温度特性情報に前記補間温度特性情報を付加した情報を前記温度特性情報として前記記憶回路に記憶したことを特徴とする圧電発振器。
【0022】
上記構成により、温度特性情報は実測により生成された離散温度特性情報と、離散温度特性情報から第2の近似式を介して求めた補間温度特性情報により構成される。よって温度特性情報は第2の近似式により求めた成分を有するため、全て実測のデータに基づいて構成した場合よりも近似の精度が劣化するとも思われる。しかし、温度補償回路において第1の近似式は、第1の近似式の係数の個数よりも多くの情報数を有する温度特性情報に基づいて行なうため、第1の近似式の係数と温度特性情報との全ての組み合わせから一定の近似の誤差の範囲に収まる係数を算出することになるので、結果的に第1の近似式の精度が向上し、全て実測のデータに基づいて構成した温度特性情報を用いた場合と遜色ないものとなる。したがって、実測のデータを得るための恒温槽の数を増やす必要はなく、作業時間及びコストを抑制し、温度補償回路に高精度な温度補償を行なわせることが可能な圧電発振器となる。
【0023】
[適用例7]
前記温度特性情報は、温度の情報と、前記温度に対応した発振周波数の情報、若しくは前記温度に対応した基準周波数からの周波数偏差の情報と、からなることを特徴とする適用例6に記載の圧電発振器。
【0024】
上記構成により、圧電発振器側で温度係数の演算が不要となるため圧電発振器形成時の作業負担を抑制してコストを抑制することが可能となる。この場合、ユーザー側で温度特性情報に対応する第1の近似式から温度係数を算出することになるが、ユーザー側で独自に正確な温度係数を演算することが可能な圧電発振器となる。
【0025】
[適用例8]
前記温度特性情報は、温度の情報と、前記温度に対応した発振周波数の情報、若しくは前記温度に対応した基準周波数からの周波数偏差の情報とから求めた前記第1の近似式から抽出された温度係数であることを特徴とする適用例6に記載の圧電発振器。
【0026】
上記構成により、温度補償回路においては温度係数を算出するための演算が不要となるため、ユーザー側の負担を軽減して圧電発振器を搭載したシステムの構築を容易に行うことができる。
【0027】
[適用例9]
前記圧電振動子の温度に対応した検出電圧を出力する温度検出手段が前記圧電振動子に隣接して設けられるとともに、前記第1の近似式、前記第2の近似式及び前記温度特性情報は、前記検出電圧に関連付けられた情報として生成し、前記発振回路は、前記温度特性情報に基づいて前記第1の近似式を算出し、前記第1の近似式と前記温度検出手段から入力される前記検出電圧を用いて温度補償量を算出可能な温度補償回路に前記発振信号を出力することを特徴とする適用例6乃至8のいずれか1例に記載の圧電発振器。
【0028】
上記構成により、温度検出手段は圧電振動子の温度の測定誤差を抑制して測定し、圧電振動子の温度に対応する検出電圧を出力することができるので、離散温度特性情報を高精度に算出して、第2の近似式及び補間温度特性情報を高精度に算出し、これにより第1の近似式、温度特性情報を高精度に算出することができる。さらに圧電振動子の現在温度をリアルタイムでかつ高精度に測定できるので、温度補償回路における補正誤差を抑制して、温度補償を高精度に行なわせることが可能な圧電発振器となる。
【0029】
[適用例10]
適用例6乃至9のいずれか1例に記載の圧電発振器に前記温度補償回路を組み込んで形成したことを特徴とする圧電発振器。
上記構成により、温度特性情報を生成するための恒温槽を増やすことなく、高精度に温度補償が行われた発振信号を出力することが可能な温度補償型発振器となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】温度補償回路に接続された本実施形態の圧電発振器を備えた発振回路システムの模式図である。
【図2】本実施形態の圧電発振器と測定器との接続図である。
【図3】本実施形態の第2の近似式及び温度特性情報を算出するフロー図である。
【図4】温度特性情報に付加する単位電圧当たりの温度変化量の係数と、基準温度における電圧の値を取得するフロー図である。
【図5】温度補償回路における温度補償のフロー図である。
【図6】離散温度特性情報と、離散温度特性情報に対応して算出された第2の近似式を示す図である。
【図7】第2の近似式から抽出された補間温度特性情報と、離散温度特性情報と補間温度特性情報を足し合わせて生成した温度特性情報に対応して算出された第1の近似式を示す図である。
【図8】第1の近似式及び第2の近似式を用いた場合の温度補償の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0032】
図1に温度補償回路に接続された本実施形態に係る圧電発振器を備えた発振回路システムを示す。本実施形態に係る圧電発振器10は、圧電振動子12と、前記圧電振動子12を発振させるとともに、前記圧電振動子12の発振周波数の温度特性を近似するための第1の近似式70(図7参照)を、前記圧電振動子12の温度特性情報76に基づいて算出し、前記第1の近似式70と前記圧電振動子12の温度に対応した情報(検出電圧66)とを用いて温度補償量80を算出する温度補償回路40に発振信号58を出力する発振回路14と、前記温度特性情報76を記憶する記憶回路20と、を有し、前記温度特性情報76は、前記圧電振動子12の温度と前記発振周波数との関係を離散的に示した離散温度特性情報74を生成し、前記離散温度特性情報74に基づいて前記第1の近似式70より低次である第2の近似式72(図6参照)を算出し、前記第2の近似式72から前記第1の近似式70が算出可能となる補間温度特性情報78を抽出し、前記離散温度特性情報74に前記補間温度特性情報78を付加した情報を前記温度特性情報76として前記記憶回路20に記憶したものである。
【0033】
したがって上記構成を用いた圧電発振器10の温度補償方法は、圧電振動子12の発振周波数の温度特性を近似するための第1の近似式70を前記圧電振動子12の温度特性情報76に基づいて算出し、前記第1の近似式76と前記圧電振動子12の温度に対応する情報(検出電圧66)を用いて温度補償量80を算出可能な温度補償回路40に、発振信号58と前記温度特性情報76を出力する圧電発振器10の温度補償方法であって、前記圧電振動子12の温度と前記発振周波数との関係を離散的に示した離散温度特性情報74を生成し、前記離散温度特性情報74に基づいて前記第1の近似式70より低次である第2の近似式72を算出し、前記第2の近似式72から前記第1の近似式70が算出可能となる補間温度特性情報78を抽出し、前記離散温度特性情報74に前記補間温度特性情報78を付加した情報を前記温度特性情報76として生成したものである。
【0034】
本実施形態の圧電発振器10は、温度補償回路40を内蔵しないTSXOである。半導体基板(不図示)上にパターニングにより、発振回路14、温度センサー16、バッファー18、記憶回路20、シリアルインターフェース回路22、電源端子36、グランド端子38等の各端子が形成され、発振回路14と圧電振動子12が接続された構造を有している。さらに図1に示すように、圧電発振器10の接続対象となる温度補償回路40は、周波数補正回路42、CPU44、メモリ46、A/D変換器48を有する。また温度特性情報76を算出する際には図2に示すように、圧電発振器10は測定器50に接続され、測定器50は、周波数カウンター52、PC54、電圧マルチメーター56を有する。
【0035】
圧電振動子12は、水晶、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等の圧電材料であり、水晶であればATカットすることにより形成され、発振回路14から交流電圧を受けて、厚みすべり振動により所定の共振周波数で発振することができる。このATカットによる厚みすべり振動を用いた水晶振動子の共振周波数は、基準温度(25℃)を中心として正の3次曲線となる温度特性を有している。
【0036】
発振回路14は、圧電振動子12を発振源とする例えばコルピッツ型の発振回路であり、発振周波数出力端子24を介して温度補償回路40、または測定器50に発振信号58を出力する。
【0037】
温度センサー16は、ダイオード構造を有しており、順方向電流を流し、温度によって変化する検出電圧66をバッファー18を介して温度センサー電圧出力端子34から温度補償回路40または測定器50に出力するものである。ここで検出電圧66は温度上昇とともに1次関数的に減少し、出力される検出電圧66は測定される温度に対応したものとなっている。なお、温度センサー16は圧電振動子12に隣接して配置することが望ましい。これにより圧電振動子12の温度を正確に測定することができ、後述の離散温度特性情報74、第2の近似式72、補間温度特性情報78において温度と周波数、若しくは周波数変位との対応を正確に行ない、第1の近似式70及び温度特性情報76を高精度に算出することができる。このように本実施形態において圧電振動子の温度は、温度センサー16からの検出電圧66に対応しており、後述の温度補償回路40や測定器50もこの検出電圧66に関連付けられた情報として離散温度特性情報74、補間温度特性情報78、温度特性情報76、第1の近似式70、第2の近似式72を算出している。
【0038】
シリアルインターフェース回路22は、外部からの指令を受けて記憶回路20に温度特性情報76を記憶したり、温度センサー16から出力される検出電圧66、記憶回路20に記憶された温度特性情報76を外部に出力するものである。シリアルインターフェース回路22は記憶回路20、温度センサー16に接続されており、データ入出力端子26、第1制御クロック入力端子28、第2制御クロック入力端子30を有している。
【0039】
第1制御クロック入力端子28に第1の制御クロック60を入力すると、データ入出力端子26に入力されるシリアル化された温度特性情報76を、第1の制御クロック60をトリガとして(第1の制御クロック60に同期して)記憶回路20に記憶する(書き込む)ことができる。第2制御クロック入力端子30に第2の制御クロック62を入力すると、記憶回路20に記憶された温度特性情報76を、データ入出力端子26を介して第2の制御クロック62をトリガとしてシリアルデータ化して出力することができる。
【0040】
記憶回路20は、EEPROM等で形成され、シリアルインターフェース回路22を介して温度特性情報76が記憶され(書き込まれ)、または温度特性情報76を出力することができる。温度特性情報76は、有限個のデータにより構成されているが、それぞれ測定器50中のPC54、及び温度補償回路40中のCPU44が共通に認識できるアドレスが設けられている。
【0041】
図2に圧電発振器10と測定器50との接続図を示す。測定器50は、温度補償回路40が必要とする温度特性情報76を記憶回路20に書き込むものである。
すなわち測定器50は、発振回路14に搭載された圧電振動子12の発振周波数の温度特性から温度特性情報76より情報数の少ない離散温度特性情報74を生成し、離散温度特性情報74から第1の近似式70より低次の第2の近似式72を算出し、第2の近似式72において第1の近似式70が算出可能となる補間温度特性情報78を抽出し、離散温度特性情報74と補間温度特性情報78とを加えて温度補償回路40で用いられる温度特性情報76を生成して記憶回路20に書き込むものである。
【0042】
測定器50は、周波数カウンター52、PC(パーソナルコンピューター)54、電圧マルチメーター56により構成される。周波数カウンター52は、発振回路14に接続され、所定時間間隔ごとに発振回路14から出力される発振信号58の周波数を測定してPC54に出力することができる。電圧マルチメーター56は、温度センサー16からの検出電圧66をデジタルデータに変換してPC54に出力することができる。
【0043】
PC54は、キー操作等により周波数カウンター52や電圧マルチメーター56を起動可能であるとともに、温度センサー16からの検出電圧66(現在温度)を入力してPCに付属する記憶領域に記憶することができる。
【0044】
温度特性情報76は、離散温度特性情報74と補間温度特性情報78に基づいて生成されている。離散温度特性情報74は、圧電発振器10を互いの設定温度の異なる複数の恒温槽に順次浸漬し、各恒温槽で圧電発振器10の温度が設定温度と一致して安定したときの圧電振動子12の発振周波数を測定して得られる温度と周波数偏差との関係を示す離散的なデータである。補間温度特性情報78は、離散温度特性情報74に基づいて圧電振動子12の周波数偏差情報の後述の第2の近似式72を算出し、第2の近似式72の曲線から後述の第1の近似式70が算出可能となる温度において抽出したデータである。よって補間温度特性情報78は離散温度特性情報74と温度が重ならない第2の近似式72上の位置から抽出する。
【0045】
温度特性情報76の内容としては、離散温度特性情報74と補間温度特性情報78とを加えてそのまま用いたもの、すなわち、使用温度範囲から任意に選択した複数の温度(後述の恒温槽の温度)の情報と、前記複数の温度中の各温度に対応した周波数の情報、若しくは基準周波数からの周波数偏差の情報との組み合わせを用いることができる。またはこの組み合わせに基づいて算出した温度係数と温度係数の一部であるオフセット係数との組み合わせを用いることができる。このうち、複数の温度の情報と、前記複数の温度中の各温度に対応した基準周波数からの周波数偏差の情報との組み合わせは、発振周波数の絶対値を用いた場合より桁数を小さくすることができるので、温度特性情報76の容量が最も小さくなる。また温度特性情報76として温度係数を記憶する場合は、温度の情報そのものを記憶する必要はないので温度特性情報76の容量を小さくすることができる。なお、温度特性情報76として、上述の複数の温度の情報と、各温度に対応した周波数の情報との組み合わせとした場合には、基準温度と基準温度における周波数の情報を取得するとともに、その組み合わせについて、PC54及びCPU44が他の情報と識別できるアドレスを付す必要がある。
【0046】
上述の温度特性情報76において、いずれかの形式を用いるかは、温度補償回路40がどのような形式の温度特性情報を用いるかによって決定されるため、PC54において温度補償回路40が必要とする温度特性情報の形式に対応して適宜算出して記憶回路20に書き込むものとする。
【0047】
本実施形態において、互いに設定温度の異なる恒温槽(不図示)を5つ用いて、各恒温槽に圧電発振器10を浸漬して圧電振動子12の温度を恒温槽の設定温度にし、PC54は圧電振動子12が所定の温度に安定したときの温度センサー16から検出電圧66(温度の情報)を入力し、またそのときの圧電振動子12の発振周波数を周波数カウンター52を介して入力し、5点の温度と各温度における発振周波数との関係から離散温度特性情報74を生成する。
【0048】
厚みすべり振動を用いた圧電振動子の発振周波数について、基準温度Tにおける基準周波数をfとすると、任意の温度Tにおける発振周波数の周波数偏差情報は、以下に示すように4次までの次数を有し5つの係数を有する第2の近似式72(Δf/f)により表現できる。
【数1】

【0049】
ここで、B〜Bは周波数偏差情報を決定する温度係数、Bが周波数偏差情報のオフセットを決定するオフセット係数であり温度係数に属するものである。よって、PC54は数式1に離散温度特性情報74を代入して、5つの係数と5つの式を用い、多項式近似を用いることにより数式1の各係数を近似的に算出することができる。
【0050】
一方、温度補償回路40で温度特性情報76に基づいて行う温度補償においては、以下に示すように、5次までの次数を有し6つの係数を有する第1の近似式70(Δf/f)を用いて行なわれる。
【数2】

【0051】
ここで、A〜Aは周波数偏差情報を決定する温度係数、Aは周波数偏差情報のオフセットを決定するオフセット係数であり、温度係数に属するものである。このように数式2において係数は6つあるため、数式2を満たす係数の算出において離散温度特性情報74のみでは不十分となる。よって数式1から第1の近似式70が算出可能な補間温度特性情報78を1点抽出し、これを離散温度特性情報74に付加して温度特性情報76を生成すれば算出可能とも思われる。しかし実際の周波数偏差情報を精度良く表現しうる近似関数を求めるためには、関数を決定する係数の数と同じ数の温度と周波数偏差の情報のみで未知の係数を求めて関数化する方法では精度的に不十分である。本実施形態のように5次近似を行なう場合において、実際に使用した6点の温度と周波数偏差の情報のみが5次の近似式の曲線上を通れば、それが理想の5次の近似式になるとは限らないためで、6点以外の任意の温度ポイントでの周波数偏差と5次の近似式との誤差分ができるだけ小さくなるように考慮しなければならない。よって本実施形態では第1の近似式70を求めるため、温度特性情報76は第1の近似式70の係数の個数以上の情報数を有する必要がある。温度特性情報76が温度の情報と、温度に対応する周波数偏差の情報である場合は、その情報数は7つ(またはそれ以上)用意し、最小二乗法を用いて最も良く整合する近似関数を算出する。最小二乗法とは、組になった複数のデータの関係を下に最良の近似値を推定する方法であり、実際のデータと近似関数上の理論値との誤差の二乗を各離散データごとに全て加算したときの総和が最小となるように係数を導くものである。すなわち(t、f)・・・(t、f)というn個(n=7)のデータが与えられたとき、これらを近似する方程式として、
【数3】

【0052】
という5次の多項式を考え、以下に示すこの方程式の理論値と元になる測定データ(離散温度特性情報74と補間温度特性情報78との組み合わせ)との誤差の二乗和の総和Sが最小となる係数a〜aを決定する。
【数4】

【0053】
この二乗和Sが最小となるようにするには、以下に示すように二乗和Sを各係数a〜aでそれぞれ偏微分した値が全てゼロとなるようにする。
【数5】

【0054】
そして、数式5をもとに導出した連立6元一次方程式をガウスジョルダンの消去法を用いて解くことで、各近似係数a〜aの値を求める。すなわち、
【数6】

となるa(j=0〜5)を求める。ここで、Ajkは正規方程式の係数行列、Fは正規方程式の定数ベクトルで、
【数7】

【数8】

となる。さらに数式6は、
【数9】

であるが、これを
【数10】

に示すように数式9の左辺のAijの部分が単位行列となるように変形し、これによりa=F’,・・・a=F’となるようにして各近似係数a〜aの値を求める。PC54は上述の演算を行なって各近似係数(温度係数)を求め、これを温度特性情報76として生成し記憶回路20に記憶する。また上述の演算は温度補償回路40においても可能であるので、その場合PC54は、離散温度特性情報74に補間温度特性情報78を付加したものを温度特性情報76として生成し記憶回路20に記憶する。
【0055】
温度特性情報76は上述のように、離散温度特性情報74に補間温度特性情報78を付加したものと、この付加したものから最小二乗法を用いて数式2の温度係数を算出したものがある。温度特性情報76を温度係数とした場合は温度の情報を省略できるだけでなく情報数が1つ減るので、温度特性情報76の容量を削減し、記憶回路20の小型化が可能となり、圧電発振器10の小型化及び低コスト化を測ることができる。
【0056】
上述のようにPC54において温度特性情報76を構築したのち、PC54は、第1制御クロック入力端子28に第1の制御クロック60を出力し、第1の制御クロック60に同期させてシリアル化させた温度特性情報76をデータ入出力端子26に出力し、シリアルインターフェース回路22を介して記憶回路20に温度特性情報76を記憶する。
【0057】
前述のように測定器50は温度センサー16からの検出電圧66に関連付けられた情報として離散温度特性情報74、第2の近似式72、補間温度特性情報78、温度特性情報76を生成している。一方、温度補償回路40も検出電圧66を定義域とし温度特性情報76を用いて第1の近似式70を算出するが、実際の温度の値を定義域として第1の近似式70を算出する場合は、温度特性情報76をこれに対応させる必要がある。
【0058】
上述のように温度センサー16から出力される検出電圧66は温度変化に対して一次関数的に変化するものである。ここで基準温度(25℃)における検出電圧66の値をV25とすると、温度センサー16から出力された検出電圧66(Vread)とそのときの温度Tは以下のように表すことができる。
【数11】

【0059】
ここでAは1V当たりの温度変化量の係数であり、Aは以下のように求めることができる。
【数12】

【0060】
ここでV85は設定最高温度における検出電圧66の値、V(−25)は設定最低温度における検出電圧66の値である。よってPC54は設定最低温度(−30℃)、基準温度(25℃)、設定最高温度(85℃)における検出電圧66のそれぞれの値(V(−30)、V25、V85)を測定して係数Aを求め、係数Aと、基準温度(25℃)における検出電圧66の値V25と、にCPU44が認識できるアドレスを付加した上で温度特性情報76に付加する。
【0061】
図1に示すように、温度補償回路40は、圧電発振器10とは分離した外部システムの一部である。温度補償回路40は、PC54から記憶回路20に入力された温度特性情報76を用いて第1の近似式70を算出し、第1の近似式70と温度センサー16から常時入力される検出電圧66(温度の情報)に基づいて温度補償量80を算出するものであり、周波数補正回路42、CPU44、メモリ46等から構成される。周波数補正回路42は、CPU44から出力される温度補償量80に対応して出力信号の周波数を可変させる回路であって、発振回路14に接続されて発振信号58が入力され、CPU44の制御のもと温度補償を行った発振信号68を出力するものである。
【0062】
CPU44は、温度補償回路40の中核をなすものであって、記憶回路20から入力した温度特性情報76から周波数偏差情報となる第1の近似式70を算出し、第1の近似式70と温度センサー16から入力される検出電圧66(温度の情報)に基づいて温度補償量80を算出して周波数補正回路42に出力するものである。
【0063】
CPU44は、データ入出力端子26、第2制御クロック入力端子30、周波数補正回路42、さらに温度センサー16にA/D変換器48を介して接続されている。CPU44は、起動時に、プログラムにより第2制御クロック入力端子30に第2の制御クロック62を入力し、第2の制御クロック62に同期して記憶回路20内の温度特性情報76をシリアルインターフェース回路22を介して出力させ、CPU44に付属するメモリ46に記憶する。
【0064】
記憶回路20に記憶された温度特性情報76が圧電振動子12の使用温度範囲の複数の温度の情報と、前記複数の温度中の各温度に対応した周波数偏差の情報との組み合わせである場合、CPU44は、温度特性情報76と数式2〜数式8を用いて、温度係数と、オフセット係数を上述の方法により算出し、付属のメモリ46に記憶可能な構成を有するものを用いる。また温度特性情報76が上述の複数の温度の情報と各温度に対応した周波数(絶対値)の情報である場合は、CPU44は温度特性情報76中の基準温度の情報と基準温度で測定した周波数の情報のアドレスを識別可能とし、温度特性情報76と数式2〜数式8を用いて、温度係数と、オフセット係数を上述の方法により算出し、付属のメモリ46に記憶可能な構成を有するものを用いる。また記憶回路20に記憶された温度特性情報76が温度係数とオフセット係数であれば、CPU44は、そのまま付属のメモリ46に記憶する構成を有するものを用いる。
【0065】
またCPU44は、プログラムにより所定時間ごとに温度センサー16からの検出電圧66(温度の情報)をA/D変換器48を介してデジタル化して入力し、付属のメモリ46に記憶する。そしてメモリ46から温度係数とオフセット係数を読み出して第1の近似式70を算出し、さらにメモリ46から温度センサー16からの検出電圧66(電圧の情報)を読み出して、第1の近似式70と検出電圧66から温度補償量80を算出し、温度補償量80を周波数補正回路42に出力する。よってCPU44は所定時間ごとに温度補償量80を算出して周波数補正回路42に出力する。これにより周波数補正回路42からは所定時間ごとに温度補償が行われた発振信号68が出力される。なおCPU44が実際の温度を定義域として第1の近似式70を算出する場合は、CPU44は数式9に基づいて入力された検出電圧66(現在電圧)を温度に変換する構成を有するものとする。これに対応してPC54は上述のように温度特性情報76に係数AとV25を付加しておく。
【0066】
本実施形態に係る圧電発振器10の温度特性情報の書き込みの手順について述べる。
図3に第2の近似式及び温度特性情報を算出するフロー図を示し、図4に温度特性情報に付加する単位電圧当たりの温度変化量の係数と、基準温度における電圧の値を取得するフロー図を示す。
【0067】
まず図2に示すように、圧電発振器10に測定器50を接続し、圧電発振器10を浸漬する5つの恒温槽(不図示)の設定温度を互いに異なる値に設定し、圧電発振器を恒温槽に順次浸漬する。そして圧電発振器10の温度が安定したところでPC54が検出電圧66(温度の情報)と発振周波数を取得し、離散温度特性情報74を生成してPC54の記憶領域(不図示)に記憶する。そして多項式近似を用いて4次の次数を有する第2の近似式72を算出する。そして離散温度特性情報74と重複しない第2の近似式72上の2点を抽出して補間温度特性情報78を生成し、補間温度特性情報78に記憶領域から読み出した離散温度特性情報74を加えた情報を温度特性情報76とし、これを記憶領域(不図示)に記憶する。
【0068】
ここで温度補償回路40に温度係数を出力する場合は、PC54の記憶領域から読み出した温度特性情報76を用いて5次の次数を有する第1の近似式70を最小二乗法を用いて算出し、得られた温度係数を新たな温度特性情報76としてPC54の記憶領域に上書きする。次に図4に示すように。離散温度特性情報74の低温側及び恒温側の両端の温度(−30℃、80℃)と、その温度における温度センサー16から出力される検出電圧66の値V(−30)、V80、そして基準温度(25℃)における検出電圧66の値V25を抽出し、単位電圧当たりの温度変化量の係数Aを数式9に従って算出し、係数AとV25を、PC54の記憶領域から読み出した温度特性情報76に付加して、付加した後の温度特性情報76を記憶領域に上書きする。
【0069】
次に温度補償回路40における温度補償の手順について説明する。本実施形態では圧電発振器10及び温度補償回路40を包含するGPS機器を想定して説明する。図5に温度補償回路における温度補償のフロー図を示す。
【0070】
図1に示すように圧電発振器10に温度補償回路40を接続し、周波数補正回路42に発振信号58を出力する。そして、周波数補正回路42から出力された発振信号68を受けたGPS機器がGPS衛星からの測位信号を一定の探索範囲で捕捉する作業を開始する。このときCPU44は記憶回路に記憶された温度特性情報76を取得して、第1の近似式を算出する。ここで温度特性情報76が離散温度特性情報74と補間温度特性情報78を足し合わせたものである場合は、上述の最小二乗法を用いて第1の近似式70の係数を算出する。また温度特性情報76がすでにPC54において温度係数に変換されたものであるときは第1の近似式70に対応する係数にそのまま代入する。そして温度センサー16から検出電圧66(Vread)を取得して周波数偏差を求める。このとき温度補償回路40が検出電圧66ではなく実際の温度の値を定義域として周波数偏差を算出する場合は、温度補償回路40は温度を定義器として生成された温度特性情報76を用いて温度を定義域とする第1の近似式70を算出し、取得した温度特性情報76から係数Aと基準温度における電圧の値V25を抽出して数式9に従って入力された検出電圧66から現在温度の値を算出する。そして第1の近似式70上の現在温度の値を抽出して周波数偏差を算出し、この周波数偏差から温度補償量80を周波数補正回路42に出力して新たな温度補償が行われた発振信号68をGPS機器に出力し、測位信号の探索範囲をオフセットさせる。これにより測位信号の捕捉を短時間に行なうことができる。
【0071】
本実施形態の圧電発振器を用いた温度補償の作用効果について述べる。
図6は測定により得られた離散温度特性情報74と、離散温度特性情報74に対応して算出された第2の近似式72の模式図を示す。図7は離散温度特性情報74と、第2の近似式72上の点であって第1の近似式70が算出可能となる(離散温度特性情報74と温度が重複しない)温度において抽出した生成された補間温度特性情報78と、離散温度特性情報74及び補間温度特性情報78を元に生成された第1の近似式70の模式図を示す。
【0072】
図6において離散温度特性情報74は、−30℃、0℃、25℃、55℃、85℃にて測定している。第2の近似式72は離散温度特性情報74を元に算出するため、離散温度特性情報74のプロット上を通過しており、第2の近似式72は離散温度特性情報74に対して良好な近似曲線となっている。しかし、それ以外の温度で近似曲線が実際の周波数偏差との誤差を縮小するためにはさらに高次の近似が必要となる。よって本実施形態では図3に示すように−15℃と75℃における第2の近似式72上の点を抽出して補間温度特性情報78を生成した。そして図7に示すように、離散温度特性情報74と補間温度特性情報78を元に最小二乗法を用いて5次の次数を有する第1の近似式70を算出した。
【0073】
図8は第2の近似式72で温度補償を行った場合の温度補償特性(細線)と、第1の近似式70で温度補償を行った場合の温度補償特性(太線)とを比較した結果を示したものである。図8に示すように、4次の次数を有する第2の近似式72を用いて温度補償を行った場合(細線)は、45℃付近で0.2ppmを超える温度補償の誤差が発生している。一方、5次の次数を有する第1の近似式70を用いて温度補償を行った場合(太線)は45℃付近の誤差が1.5ppm程度に改善されるとともに、それ以外の温度領域でもほぼ0.1ppm程度に抑えられている。よって5点の設定温度による実測データを共通に用いても、4次の近似式より5次の近似式のほうが温度補償の精度が改善されていることが分かる。
【0074】
本来5次の近似式を最小二乗法で精度良く算出するためには7点の設定温度に基づく実測データがあるのが好ましい。しかし、本実施形態においては5点の設定温度に基づく実測データとなる離散温度特性情報74をもとにしている。従って、近似式の近似誤差を考慮すると、実測データが5点の場合は5つの係数を有する4次の近似式を算出するのが好ましい。そこで、本実施形態では上述の離散温度特性情報74をもとに算出した4次の次数を有する第2の近似式72上の2点を抽出して生成した補間温度特性情報78を、離散温度特性情報74に付加して温度特性情報76を生成し、これをもとに最小二乗法を用いて5次の次数を有する第1の近似式70を算出し、これに基づいて温度補償を行っている。このような温度補償方法を用いることにより、図8に示すように4次の近似式で温度補償を行った場合より温度補償の精度を高めることが可能であることがわかる。
【0075】
なお、本実施形態において、圧電振動子12は厚みすべり振動子を前提として述べてきたが、これに限定されず、双音叉型圧電振動子、シングルビーム型圧電振動子、SAW共振子等にも適用できる。また本実施形態において、圧電発振器10はTSXOを前提として述べてきたが、温度補償回路40を組み込むことにより温度補償型発振器(TCXO)を形成でき、高精度な温度補償がなされた発振信号68が出力可能であることは言うまでもない。
【0076】
以上述べたように、本実施形態に係る圧電発振器10及び圧電発振器10の製造方法によれば、第1には、温度特性情報76は実測により生成された離散温度特性情報74と、離散温度特性情報74から第2の近似式72を介して求めた補間温度特性情報78により構成される。よって、温度補償回路40において第1の近似式70は、第1の近似式70の係数の個数以上の情報数を有する温度特性情報76に基づいて算出するため、一定の近似の誤差の範囲に収まる係数を算出することになる。そのため、第1の近似式70を用いた場合の温度補償の精度は、第2の近似式72を用いて温度補償を行った場合よりも向上する。したがって、実測のデータを得るための恒温槽の数を増やす必要はなく、作業時間及びコストを抑制し、温度補償回路40に高精度な温度補償を行なわせることができる。
【0077】
第2には、温度特性情報76は、圧電振動子の温度の情報と、圧電振動子の温度に対応した発振周波数の情報、若しくは基準周波数からの周波数偏差の情報により生成したことにより、圧電発振器10側で温度係数の演算が不要となるため圧電発振器10形成時の作業負担を抑制してコストを抑制することができる。この場合、ユーザー側で温度特性情報76に対応する第1の近似式70から温度係数を算出することになるが、ユーザー側で独自に正確な温度係数を演算することができる。
【0078】
第3には、温度特性情報76は、圧電振動子の温度の情報と、圧電振動子の温度に対応した発振周波数の情報、若しくは基準周波数からの周波数偏差の情報に第1の近似式70を整合させて抽出される温度係数により生成したことにより、温度補償回路40においては温度係数を算出するための演算が不要となるため、ユーザー側の負担を軽減して圧電発振器10を搭載したシステムの構築を容易に行うことができる。
【0079】
第4には、温度に対応した検出電圧66を出力する温度センサー16を圧電振動子12に隣接して配設し、第1の近似式70、第2の近似式72及び温度特性情報76は、検出電圧66に関連付けられた情報として生成し、温度特性情報76に基づいて第1の近似式70を算出し、第1の近似式70と温度センサー16から入力される温度の情報(検出電圧66)を用いて温度補償量80を算出可能な温度補償回路40に発振信号58を出力することにより、温度センサー16は圧電振動子12の温度を測定誤差を抑制して測定することができるので、離散温度特性情報74を高精度に算出して、第2の近似式72及び補間温度特性情報78を高精度に算出し、これにより第1の近似式70、温度特性情報76を高精度に算出することができる。さらに圧電振動子12の現在温度をリアルタイムでかつ高精度に測定できるので、温度補償回路40における補正誤差を抑制して、温度補償を高精度に行なわせることができる。
【0080】
また本実施形態に係る温度補償型発振器及びその製造方法によれば、上述の圧電発振器10に温度補償回路40を組み込んで形成したことにより、温度特性情報76を生成するための恒温槽を増やすことなく、高精度に温度補償が行われた発振信号68を出力することができる。
【符号の説明】
【0081】
10………圧電発振器、12………圧電振動子、14………発振回路、16………温度センサー、18………バッファー、20………記憶回路、22………シリアルインターフェース回路、24………発振周波数出力端子、26………データ入出力端子、28………第1制御クロック入力端子、30………第2制御クロック入力端子、34………温度センサー電圧出力端子、36………電源端子、38………グランド端子、40………温度補償回路、42………周波数補正回路、44………CPU、46………メモリ、48………A/D変換器、50………測定器、52………周波数カウンター、54………PC、56………電圧マルチメーター、58………発振信号、60………第1の制御クロック、62………第2の制御クロック、66………検出電圧、68………発振信号、70………第1の近似式、72………第2の近似式、74………離散温度特性情報、76………温度特性情報、78………補間温度特性情報、80………温度補償量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子と、前記圧電振動子を発振させて発振信号を出力する発振回路と、前記圧電振動子の温度に対応した検出電圧を出力する温度検出手段と、前記圧電振動子の発振周波数の温度特性を示す温度特性情報を出力する記憶回路と、を有する圧電発振器と、
前記温度特性情報から前記圧電振動子の発振周波数の温度特性を近似するための第1の近似式を算出し、前記第1の近似式と前記検出電圧を用いて温度補償量を出力するCPUと、前記温度補償量に対応して前記発振信号の温度補償を行う周波数補正回路と、を有する温度補償回路と、を備えた発振回路システムであって、
前記温度特性情報は、
前記圧電振動子の温度と前記発振周波数との関係を離散的に示した離散温度特性情報に補間温度特性情報を付加した情報に基づいて生成されたものであるとともに、
前記補間温度特性情報は、
前記情報から前記第1の近似式が算出可能となるように、前記離散温度特性情報に基づいて算出され前記第1の近似式より低次の第2の近似式から抽出したものであることを特徴とする発振回路システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−120199(P2011−120199A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45686(P2010−45686)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【分割の表示】特願2009−275391(P2009−275391)の分割
【原出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】