説明

発泡性樹脂組成物及び発泡体

【課題】得られる発泡体の緩衝性能等は実用上問題がなく、合成樹脂の含有量を極力減らしたコスト的に有利な発泡性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】澱粉、合成樹脂、アルカリ性化合物及び水を含有することを特徴とする発泡性樹脂組成物である。アルカリ性化合物としては、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸水素塩及びアルカリ土類金属の炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性樹脂組成物及びそれを発泡させた発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡性樹脂成形体は、包装材、緩衝材、断熱材などに用いられている。これらの材料として、環境問題やコストの点から、ポリスチレンに代えて生分解性樹脂や澱粉が用いられるようになってきている。
特許文献1には、澱粉系高分子、エチレン−酢酸ビニル共重合体、界面活性剤などからなる組成物を発泡させた発泡体が記載されている。また、特許文献2には、熱可塑性樹脂、澱粉及び相溶化剤を含む組成物を発泡させた発泡体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−87969号公報
【特許文献2】特開2004−2613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発泡体の材料として澱粉は樹脂よりも安価であるため、できるだけ澱粉を多く含有させることがコスト上は望ましい。しかしながら、特許文献1及び2に記載される組成物において樹脂含有量を減らし、澱粉含有量を増やすと、成形性が低下したり、緩衝性能等の発泡体としての特性が損なわれるという問題があった。
従って、本発明は、上記の事情に鑑み、得られる発泡体の緩衝性能等は実用上問題がなく、合成樹脂の含有量を極力減らしたコスト的に有利な発泡性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、発泡性樹脂組成物の配合について研究した結果、澱粉と合成樹脂とアルカリ性化合物と水とを配合した発泡性樹脂組成物が、従来のものより樹脂含有量を一層減らしても発泡体として十分に使用可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、澱粉、合成樹脂、アルカリ性化合物及び水を含有することを特徴とする発泡性樹脂組成物である。
本発明の発泡性樹脂組成物は、界面活性剤を更に含有することが好ましい。
本発明において、アルカリ性化合物は、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸水素塩及びアルカリ土類金属の炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
本発明の発泡性樹脂組成物において、アルカリ性化合物の含有量は、0.05質量%〜1質量%であることが好ましい。
本発明において、合成樹脂は、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸及びポリオレフィン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
本発明の発泡性樹脂組成物において、合成樹脂の含有量は、0.02質量%〜10質量%であることが好ましい。
本発明において、澱粉は、天然澱粉であることが好ましい。
また、本発明は、上記発泡性樹脂組成物を発泡させて得られることを特徴とする発泡体、好ましくはバラ状発泡体である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、得られる発泡体の緩衝性能等は実用上問題がなく、合成樹脂の含有量を極力減らしたコスト的に有利な発泡性樹脂組成物を提供することができる。また、本発明の発泡性樹脂組成物は、澱粉の含有量を非常に多くすることができるので、コストが低く且つ環境問題に配慮した発泡体製品とすることができ、緩衝材、包装材、断熱材などに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の発泡性樹脂組成物は、澱粉、合成樹脂、アルカリ性化合物及び水を含有するものである。従来、樹脂の含有量を少なくした発泡性材料は実用的に問題があったが、本発明では、アルカリ性化合物を配合することで、合成樹脂の含有量を、例えば、10質量%以下と極端に少なくしても発泡体の緩衝性能等を実用可能な程度に維持することができる。
【0008】
本発明の発泡性樹脂組成物に用いられる澱粉は、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉(コーンスターチ、コーングリッツなど)、甘藷澱粉、小麦澱粉、米澱粉などの天然澱粉(未加工澱粉と呼ばれることもある)やこれらの分解物、アミロースやアミロペクチン分解物、加工澱粉などが挙げられる。加工澱粉としては、ジカルボン酸澱粉のような酸化澱粉、アセチル化澱粉のようなエステル化澱粉、カルボキシメチル化澱粉のようなエーテル化澱粉、澱粉をアセトアルデヒドやリン酸で処理した架橋化澱粉、澱粉を2−ジメチルアミノエチルクロライドで第3級アミノ化したもののようなカチオン化澱粉などが挙げられる。これらの中でも、安価なことから、天然澱粉を用いることが好ましい。発泡性樹脂組成物を調製する際に材料の混合が容易であり、加工性(特に、押出量のアップ、押出機への投入し易さ)が良好であるという点から、コーングリッツを用いることが好ましい。なお、コーングリッツとは、トウモロコシの胚乳部を挽き割りして一般的に9〜60メッシュの粒度に調整されたものである。
【0009】
本発明の発泡性樹脂組成物において、澱粉の含有量は、コスト及び物性の点から、組成物全体に対して75質量%〜95質量%であることが好ましい。
【0010】
本発明の発泡性樹脂組成物に用いられる合成樹脂には、一般的な合成樹脂だけでなく、天然物を原料として合成した樹脂も含まれる。このような合成樹脂としては、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリビニルアルコールなどの生分解性樹脂などが挙げられる。これらの中でも、環境負荷低減の点から、生分解性樹脂が好ましく、物性の点から、脂肪族ポリエステル及びポリ乳酸が更に好ましい。また、得られる発泡体の物性の点から、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
脂肪族ポリエステルは、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの多価アルコールと、コハク酸、アジピン酸などの多塩基酸とから合成される。また、脂肪族ポリエステルには、多価アルコールとして1,4−シクロヘキサンジメタノールなどを用いて合成した環状脂肪族ポリエステルや、1,4−ブタンジオール、テレフタル酸及びアジピン酸を用いて合成した脂肪族芳香族ポリエステルも含まれる。
ポリビニルアルコールとしては、鹸化度が90モル%以上のものが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上である。
また、本発明の発泡性樹脂組成物に用いられる合成樹脂は、メルトフローインデックス(MFR)が5g/(190℃、10分)以上のものが好ましく、8g/(190℃、10分)以上のものがさらに好ましい。なお、本発明において、MFRはJIS K7210に準じて190℃、2.16kg荷重で測定した値である。
【0011】
本発明の発泡性樹脂組成物において、合成樹脂の含有量は、コストを低減する点から、組成物全体に対して10質量%以下であることが好ましく、コスト及び物性のバランスを考えると、0.02質量%〜10質量%であることが更に好ましく、0.5質量%〜8質量%であることが最も好ましい。
【0012】
本発明の発泡性樹脂組成物には、アルカリ性化合物が必須成分として含まれる。アルカリ性化合物は、発泡セルに粘り強さを付与し、緩衝性能等の発泡体の特性を改善する役割を果たす。アルカリ性化合物としては、水(温水を含む)に溶解させた時(好ましくは20℃の水100gに対して数g以上溶解)に水溶液がアルカリ性を示す化合物であれば特に限定されないが、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸水素塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、セスキ炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、炭酸水素アンモニウムなどが挙げられる。これらの中でも、取り扱い性の点から、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムが好ましい。
【0013】
本発明の発泡性樹脂組成物において、アルカリ性化合物の含有量は、物性の点から、組成物全体に対して0.05質量%〜1質量%であることが好ましい。
【0014】
本発明の発泡性樹脂組成物は、発泡剤として水を含む。水は、主として澱粉を発泡させる役割を果たす。良好な発泡体を得るためには、澱粉100質量部に対して、10質量部〜40質量部の水が必要である。なお、この水の量には澱粉中の水分も含まれる。即ち、水の量は、添加する水と澱粉中に含まれる水分との合計量である。
また、発泡セルの粘り強さを調整するために、pH7.2〜10程度の弱アルカリ性電解水を用いてもよい。このような電解水としては、食塩水、塩酸水、次亜塩素酸ナトリウム水などを原料にしたものが挙げられる。
【0015】
本発明の発泡性樹脂組成物には、発泡セルに粘り強さを付与するために、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤の何れを用いることもできる。
界面活性剤の含有量は、組成物全体に対して0.001質量%〜5質量%であることが好ましく、0.01質量%〜2質量%であることが更に好ましい。
【0016】
本発明の発泡性樹脂組成物には、無機質フィラーを添加してもよい。無機質フィラーは、発泡体の発泡セルを微細化して発泡体の強度を改善する役割を果たす。無機質フィラーの具体例としては、炭酸カルシウム、酸化チタン、タルク、卵殻、シリカなどが挙げられる。無機質フィラーの粒子径は特に限定されず、樹脂組成物に通常用いられている粒子径のものでよい。本発明の発泡性樹脂組成物において、無機質フィラーの含有量は、組成物全体に対して0.1質量%〜4.5質量%であることが好ましく、0.5質量%〜3質量%であることが更に好ましい。無機質フィラーの含有量が0.1質量%未満であると、発泡体の強度があまり改善されない場合があり、一方、4.5質量%を超えると、発泡体の比重が増すので好ましくない。
【0017】
本発明の発泡性樹脂組成物には、必要に応じて、忌避材、防かび材、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤等の公知の添加剤を添加してもよい。可塑剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0018】
本発明において、澱粉、合成樹脂、アルカリ性化合物、水、並びに界面活性剤、無機質フィラーなどの必要に応じて添加される成分の混合方法は特に限定されない。本発明による発泡体は、通常、粉末状あるいは粒状の澱粉、合成樹脂、アルカリ性化合物、水、並びに界面活性剤、無機質フィラーなどの必要に応じて添加される成分をヘンシェルミキサー等により予め混合した後、押出機により加熱、加圧溶融して所望の形状のダイスより発泡させながら押出し、直接に発泡体を得、切断してバラ状の発泡体とすることができる。また、粉末状あるいは粒状の澱粉、合成樹脂、アルカリ性化合物、水、並びに界面活性剤、無機質フィラーなどの必要に応じて添加される成分をヘンシェルミキサー等で混合した後、押出機により発泡しない条件で加熱、加圧溶融し、ダイスよりストランドを得、切断してペレット化する。このペレットを例えば、別の場所で押出機に投入して、高温で加熱、加圧溶融して所望の形状のダイスより押出して発泡体を得ることができる。さらに、粉末状あるいは粒状の澱粉、合成樹脂、アルカリ性化合物、並びに界面活性剤、無機質フィラーなどの必要に応じて添加される成分をヘンシェルミキサー等で混合した後、押出機で混練する際に、水を押出機中に注入して、所望の形状のダイスより発泡させながら押出し、発泡体を得ることができる。従って、本発明の発泡性樹脂組成物には、水を予め添加して組成物としたものの他、押出機で混練中に水を添加するものや、押出機で混練中に、アルカリ性化合物を溶解させた水溶液を添加するものも含まれる。
さらに、水以外の成分を配合したペレットを得、これに水を含浸させ、これを発泡させて発泡ペレットとしたり、あるいは水を含むが発泡しない条件で得たペレットや水を後から含浸したペレットから金型を用いて種々の発泡体とすることができる。従って、本発明の発泡性樹脂組成物には、ペレットに後から水を含浸したものも含まれる。
上記した方法において、アルカリ性化合物と水とを別々に用いてもよいし、アルカリ性化合物を予め水に溶解させた水溶液を用いてもよい。
本発明の発泡性樹脂組成物は、バラ状の発泡体とすることで緩衝材として好適に用いることができる。
成形時の加熱温度は、一般的には、合成樹脂の融点近傍が好ましい。
【0019】
本発明の発泡性樹脂組成物を用いた発泡体の形状や用途は特に制限されない。本発明の発泡性樹脂組成物は、例えば、押出成形、ブロー成形、型発泡成形、射出成形等により、シート、フィルム、容器等に成形することができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例に用いた原料は以下の通りである。
〔澱粉〕
コーンスターチ(王子コーンスターチ社製、商品名コーンスターチの未加工澱粉、水分含有量約8.5質量%)、カチオン化澱粉(王子コーンスターチ社製、エースK100、水分含有量約10質量%)
〔合成樹脂〕
脂肪族ポリエステル(昭和高分子株式会社製、商品名ビオノーレ(登録商標)#1010、MFR10g/(190℃、10分))
〔アルカリ性化合物〕
炭酸水素ナトリウム(旭ガラス社製)、セスキ炭酸ナトリウム(FMC社製)
〔界面活性剤〕
モノステアリン酸グリセリル(花王株式会社製、商品名レオドール(登録商標)MS−165V)
〔無機質フィラー〕
炭酸カルシウム
【0021】
ヘンシェルミキサーを用いて、表1に示す割合で水以外の成分を予め混合し、その混合物を同方向二軸押出機に投入し、この押出機のシリンダーの前半部より表1に示す割合の水を注入し、これを押出して発泡させ、発泡体を得た。このときのシリンダー温度は190℃である。得られた発泡体を切断して円柱状の発泡成形体を得た。実施例1〜9及び比較例2では、押出して発泡させる際の成形性は良好であったが、比較例1では、成形性が悪かった。
【0022】
<緩衝性能評価>
緩衝性能の評価は、円柱状の発泡成形体に力を加えると柔軟に変形し、力を除くと直ぐに復元し、この操作を繰り返しても発泡セルが殆ど崩れないものを◎、円柱状の発泡成形体に力を加えると柔軟に変形し、力を除くと直ぐに復元するが、この操作を繰り返すと発泡セルが徐々に崩れるものを○、円柱状の発泡成形体に力を加えると変形するが、力を除いても復元が鈍く、この操作を繰り返すと発泡セルが崩れるものを×とした。
【0023】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉、合成樹脂、アルカリ性化合物及び水を含有することを特徴とする発泡性樹脂組成物。
【請求項2】
界面活性剤を更に含有することを特徴とする請求項1に記載の発泡性樹脂組成物。
【請求項3】
前記アルカリ性化合物が、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸水素塩及びアルカリ土類金属の炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡性樹脂組成物。
【請求項4】
前記アルカリ性化合物の含有量が、0.05質量%〜1質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の発泡性樹脂組成物。
【請求項5】
前記合成樹脂が、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸及びポリオレフィン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の発泡性樹脂組成物。
【請求項6】
前記合成樹脂の含有量が、0.02質量%〜10質量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の発泡性樹脂組成物。
【請求項7】
前記澱粉が、天然澱粉であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の発泡性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の発泡性樹脂組成物を発泡させて得られることを特徴とする発泡体。
【請求項9】
前記発泡体が、バラ状であることを特徴とする請求項8に記載の発泡体。

【公開番号】特開2010−159323(P2010−159323A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1073(P2009−1073)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【特許番号】特許第4358895号(P4358895)
【特許公報発行日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】