説明

発泡性熱可塑性樹脂組成物

【課題】高発泡倍率の発泡体が安定して得られる発泡性熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】発泡性熱可塑性樹脂組成物を、メルトフローレート差が3〜15g/10分、溶解性パラメーター差が0.05〜2、かつ質量比が2:8〜8:2である、二種類の無架橋熱可塑性樹脂100質量部に対し、これら無架橋熱可塑性樹脂のうち融点の低い低融点型無架橋熱可塑性樹脂と同種類であり、この低融点型無架橋熱可塑性樹脂とのメルトフローレート差が1.5〜5g/10分である、架橋後のゲル分率が60〜85質量%となる架橋性シラン変性熱可塑性樹脂1〜50質量部を含有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性熱可塑性樹脂組成物に関し、詳しくは高発泡倍率の発泡体が安定して得られる発泡性熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン及びシラン変性ポリオレフィンから得られる発泡体は、断熱性、柔軟性、成形性等に優れるため、断熱材、自動車用内装材等に用いられ、このような発泡体の調製に用いられる発泡性樹脂組成物として、ほとんど相溶性を有しない二種類の無架橋熱可塑性樹脂、これらの樹脂のうちの一つと同種であり、メルトフローレートの差を規定した架橋性シラン変性熱可塑性樹脂等の組成を有するものも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、この発泡性樹脂組成物は、高発泡倍率の発泡体が必ずしも安定して得られないという問題点がある。
【0003】
【特許文献1】特開平8−73640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、高発泡倍率の発泡体が安定して得られる発泡性熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、発泡性熱可塑性樹脂組成物に、特定のメルトフローレート差を有する二種類の無架橋熱可塑性樹脂を特定の割合で含有してなる樹脂組成物と、これらの無架橋熱可塑性樹脂のうちの融点の低い方のものと同種類で、これと特定のメルトフローレート差のある架橋性シラン変性熱可塑性樹脂を特定割合で含有させることにより、該樹脂組成物を用いて安定に高発泡倍率の発泡体が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0006】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、メルトフローレート差が3〜15g/10分、溶解性パラメーター差が0.05〜2、かつ質量比が2:8〜8:2である、二種類の無架橋熱可塑性樹脂100質量部に対し、これら無架橋熱可塑性樹脂のうち融点の低い低融点型無架橋熱可塑性樹脂と同種類であり、この低融点型無架橋熱可塑性樹脂とのメルトフローレート差が1.1〜5g/10分である、架橋後のゲル分率が60〜85質量%となる架橋性シラン変性熱可塑性樹脂1〜50質量部を含有することを特徴とする発泡性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0007】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記低融点型無架橋熱可塑性樹脂がメルトフローレートの異なる2種以上のものからなり、かつそれらのうち融点の最も低いものについて、それとそれ以外のものとの割合が質量比で2:8〜8:2の範囲であり、しかもそれと架橋性シラン変性熱可塑性樹脂とのメルトフローレート差が2g/10分以下であることを特徴とする発泡性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0008】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、さらに、前記無架橋熱可塑性樹脂100質量部に対し、シラン架橋触媒0.001〜2.5質量部、及び熱分解型発泡剤1〜20質量部を含有することを特徴とする発泡性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の発泡性熱可塑性樹脂組成物によれば、高発泡倍率の発泡体が安定して得られるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、メルトフローレート差が3〜15g/10分である、ほとんど相溶性を有しない二種類の無架橋熱可塑性樹脂からなり、それらの割合が質量比で2:8〜8:2の範囲である樹脂組成物と、その100質量部に対し、前記無架橋熱可塑性樹脂のうち融点の低い方の低融点型無架橋熱可塑性樹脂と同種類である、該樹脂とのメルトフローレート差が5g/10分以下の架橋性シラン変性熱可塑性樹脂1〜50質量部とを含有する発泡性熱可塑性樹脂組成物である。本発明の組成物の構成成分、製造法、用途等について詳細に説明する。
【0011】
1.組成物を構成する成分
<無架橋熱可塑性樹脂>
本発明の組成物に用いられる無架橋熱可塑性樹脂は、発泡可能であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン(以下「ポリプロピレン」とは、「ホモポリプロピレン、所謂ブロックポリプロピレン(少量のエチレン成分を含む共重合体)、所謂ランダムポリプロピレン(少量のエチレン成分を含むアタクチックコポリマー)、又はこれらの混合物」をいう。)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン等が挙げられ、中でもポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンが、高発泡が可能で、発泡安定性が良いので、好ましい。
【0012】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンの重合度は、高くなっても、低くなっても、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂の分散性が低下するので、各々500〜10000、800〜12000、250〜5000が好ましく、各々600〜5000、1000〜10000、1000〜4000がより好ましい。
【0013】
無架橋熱可塑性樹脂のメルトフローレートは、大きくなると、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂の分散性が低下し、若しくは、高発泡倍率の発泡体が得られず、又、小さくなると、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂の分散性が低下するので、0.1〜50g/10分が好ましく、0.5〜30g/10分がより好ましく、1〜15g/10分が特に好ましい。なお、本発明においてメルトフローレートは、JIS K7210に従って、測定されたものをいう。
【0014】
ポリエチレン、ポリプロピレンの密度は、小さくなると、得られる発泡体の剛性が低下する。従って、各々の密度は、0.91g/cm、0.89g/cm以上が好ましい。
【0015】
エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレンの密度は、大きくなると、結晶性が上がり、他の樹脂との分散性が低下し、又、小さくなると、得られる発泡体の剛性が低下するので、順に、0.92〜0.95g/cm、1.04〜1.60g/cmが好ましい。
【0016】
本発明で用いられる無架橋熱可塑性樹脂は二種類のもの、例えばポリエチレンとポリプロピレン、ポリエチレンとポリスチレン、ポリプロピレンとポリスチレン等であって、各種類のものはそれぞれ、メルトフローレートの差が、3〜15g/10分かつ溶解性パラメーターの差が0.05〜2であり、質量比2:8〜8:2の割合で用いられる。
これら各種類のものはそれぞれ単独で用いてもよいし、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明においては、各種類のものについて、少なくとも一種類のものを2種以上用いる場合には、個々のメルトフローレート及び溶解性パラメーターをそれぞれ加重平均したものをその種類の無架橋熱可塑性樹脂のメルトフローレート及び溶解性パラメーターとする。
【0018】
二種類の無架橋熱可塑性樹脂のメルトフローレートの差は、大きすぎると非常に粗い海島構造(島が大きい)となり、高発泡倍率の発泡体が得られず、又、小さすぎても均一な海島構造を形成せず、高発泡倍率の発泡体が得られないので、通常3〜15g/10分の範囲で選ばれ、さらに粒径が細かく均一な海島構造が実現でき、高発泡倍率の発泡体が得られることから、5〜13g/10分が好ましく、7〜11g/10分がより好ましい。
【0019】
二種類の無架橋熱可塑性樹脂は、殆ど相溶性を有しないものであるが、その指標として、溶解性パラメーターが用いられる。即ち、上記二種類の無架橋熱可塑性樹脂の相溶性が低いと、その溶解性パラメーターの差が大きくなり、均一な海島構造が形成されず、又、高いと、溶解性パラメーターの差が小さくなり、海島構造が形成されないので、両者の溶解性パラメーターの差は、通常0.05〜2、好ましくは0.1〜1.5の範囲で選ばれる。
【0020】
上記溶解性パラメーターは、σ=ρΣFi/Mにより求めたものをいう。ここで、ρは、無架橋熱可塑性樹脂の密度、Mは、無架橋熱可塑性樹脂を構成するモノマー分子量、Fiは、モノマーの構成グループのモル引力定数である。
【0021】
二種類の無架橋熱可塑性樹脂の比率は、一方が多くなると、発泡に適した剪断粘度が得られないので、通常2:8〜8:2の範囲で選ばれ、海島構造中、海と島の面積を略同様にし、一方の無架橋熱可塑性樹脂を他方の無架橋熱可塑性樹脂中に、均一に分散させ、高発泡可能な発泡体を得る発泡性熱可塑性樹脂組成物を得るため、4:6〜6:4が好ましく、5:5がより好ましい。
【0022】
二種類の無架橋熱可塑性樹脂のうち、融点の低い方のもの、すなわち低融点型無架橋熱可塑性樹脂は、2種以上組み合わせて用いる場合、それぞれメルトフローレートの異なるものからなり、かつそれらのうち融点の最も低いものについて、それとそれ以外のものとの割合が質量比で2:8〜8:2の範囲であり、しかもそれと架橋性シラン変性熱可塑性樹脂とのメルトフローレート差が2g/10分以下であるのが好ましい。
【0023】
<架橋性シラン変性熱可塑性樹脂>
本発明で用いられる架橋性シラン変性熱可塑性樹脂は、二種類の無架橋熱可塑性樹脂のうち融点の低い低融点型無架橋熱可塑性樹脂と同種類であり、この低融点型無架橋熱可塑性樹脂とのメルトフローレート差が1.1〜5g/10分であるものであって、かつ架橋後のゲル分率が60〜85質量%となるものであることが肝要である。
【0024】
上記架橋性シラン変性熱可塑性樹脂は、一般に用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンのシラン変性物、ポリプロピレンのシラン変性物、エチレン−酢酸ビニル共重合体のシラン変性物、ポリスチレンのシラン変性物等のシラン変性熱可塑性樹脂が挙げられ、高発泡可能であることから、ポリエチレンのシラン変性物、ポリプロピレンのシラン変性物、ポリスチレンのシラン変性物が好ましく、ポリエチレンのシラン変性物、ポリプロピレンのシラン変性物がより好ましい。
【0025】
架橋性シラン変性熱可塑性樹脂は、例えば、熱可塑性樹脂を不飽和シラン化合物でグラフト変性して製造される。
この不飽和シラン化合物としては、一般式RSiR3−m で表されるものが好ましい。
【0026】
この式中、R はビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、シクロヘキセニル基、シクロペンテニル等のシクロアルケニル基や、γ−クロロエチル基、γ−ブロモエチル基等のハロゲン化アルキル基、グリシジル基、アミノ基、メタクリル基等の有機官能基を示す。
は脂肪族飽和炭化水素基又は芳香族炭化水素基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、デシル基、フェニル基等が挙げられる。また、mは0、1又は2を示す。
Yは加水分解可能な有機基を示し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオノキシ基、アルキル基又はアリールアミノ基等が挙げられ、mが0のとき、Y同士は同一であっても異なっていてもよい。
【0027】
上記一般式で表わされる不飽和シラン化合物として好ましくは、一般式CH =CHSi(OA) で表されるものが挙げられる。
この式中、Aはアルキル基又はアシル基であって、炭素数が1〜8、中でも1〜4のものが好ましく、このような好適なA基をもつ不飽和シラン化合物としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等が挙げられる。
【0028】
上記架橋性シラン変性熱可塑性樹脂が、メトキシ基を有する場合は、該メトキシ基と水とが接触して加水分解し水酸基となる。この水酸基と他の分子の水酸基が反応してSi−O−Si結合となり、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂同士が架橋する。この際、シラノール縮合触媒を併用するのが好ましい。
【0029】
架橋性シラン変性熱可塑性樹脂の架橋後のゲル分率は、小さくなると、架橋密度が低下し、発泡性熱可塑性樹脂組成物の発泡性が低下するので、通常60〜85質量%の範囲とし、好ましくは発泡安定性の向上の点から70〜80質量%の範囲とするのがよい。
ここで、ゲル分率とは、発泡性熱可塑性樹脂組成物を120℃のキシレン中に24時間浸漬した後の残渣質量の、キシレン浸漬前の発泡性熱可塑性樹脂組成物の質量に対する百分率をいう。
【0030】
架橋性シラン変性熱可塑性樹脂のメルトフローレートは、無架橋熱可塑性樹脂の二種類のうち、融点の低い方の無架橋熱可塑性樹脂のメルトフローレートとの差が1.1〜5g/10分、好ましくは2〜4g/10分であることが肝要である。このメルトフローレート差が5g/10分を超えると架橋性シラン変性熱可塑性樹脂を無架橋熱可塑性樹脂に優先的に溶け込ませることがしにくくなるし、また、1.1g/10分未満では、ほぼ完全に融点の低い方の無架橋樹脂にのみ架橋がかかってしまい、高い発泡倍率が得られなくなるという問題点が生じる。
【0031】
また、融点の低い方の無架橋熱可塑性樹脂として、メルトフローレートの異なる2種以上のものを用いる場合、融点の最も低いもののメルトフローレートと架橋性シラン変性熱可塑性樹脂のメルトフローレートの差は2g/10分以下であるのが好ましい。このメルトフローレート差が2g/10分より大きいと架橋性シラン変性熱可塑性樹脂を無架橋熱可塑性樹脂に優先的に溶け込ませることができにくくなる。
【0032】
架橋性シラン変性熱可塑性樹脂の無架橋熱可塑性樹脂に対する使用割合は、多くなると、得られる発泡体の寸法安定性が低下し、又、少なくなると、発泡性熱可塑性樹脂組成物が、加熱発泡時に発泡に必要な剪断粘度を有さず、発泡しないので、無架橋熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常1〜50質量部、好ましくは5〜40質量部、より好ましくは10〜30質量部の範囲とするのがよい。
【0033】
本発明の発泡性熱可塑性樹脂組成物には、さらにシラン架橋触媒を含有させるのが好ましく、シラン架橋触媒は架橋性シラン変性熱可塑性樹脂同士の架橋反応を促進するものであれば、特に限定されず、例えば、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、オクタン酸錫、オレイン酸錫、オクタン酸鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、オクタン酸コバルト、ナフテン酸鉛、カブリル酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0034】
上記シラン架橋触媒の使用量は、多くなると、発泡性熱可塑性樹脂組成物の発泡性が低下し、又、少なくなると、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂同士の架橋反応速度が低下するので、無架橋熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常0.001〜2.5質量部、好ましくは0.01〜2質量部、より好ましくは0.1〜1.5質量部の範囲とするのがよい。
【0035】
本発明の発泡性熱可塑性樹脂組成物には、さらに熱分解型発泡剤を含有させるのが好ましく、熱分解型発泡剤は、発泡体製造に一般に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、P,P’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、アゾジカルボン酸バリウム、トリヒドラジノトリアジン等が挙げられ、分解ピーク温度が鋭敏であることから、アゾジカルボンアミドが好ましい。
【0036】
熱分解型発泡剤の使用量は、多くなると、破泡し、均一な発泡セルを有する発泡体が得られず、又、少なくなると、発泡性が低下するので、無架橋熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常1〜20質量部、好ましくは5〜15質量部の範囲とするのがよい。
【0037】
本発明の発泡性熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じ、所期の物性を損なわない範囲内で、発泡性熱可塑性樹脂組成物に通常用いられる添加成分、例えば強化剤、難燃剤、帯電防止剤、酸化防止剤、充填剤(炭酸カルシウム、木粉)等を含有させることができる。
【0038】
強化剤としては、各種有機系や無機系の繊維やウィスカー、例えばガラス繊維、炭素繊維、炭化珪素ウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー等が挙げられ、中でもガラス繊維が、得られる発泡体の強度、寸法安定性を向上させるので、好適である。
【0039】
ガラス繊維は、太すぎると発泡性熱可塑性樹脂組成物への練り込みが困難となるし、又、細すぎても繊維が折れて発泡体の強度の向上が図れないので、その太さは5〜30μmが好ましく、7〜20μmがより好ましい。
【0040】
また、ガラス繊維は、長すぎると得られる発泡体のセル壁をガラス繊維が突き破って発泡倍率の低下を引き起こすし、又、短すぎても得られる発泡体の強度の向上が図れないので、その長さは0.1〜10mmが好ましく、0.5〜5mmがより好ましい。
【0041】
ガラス繊維の添加量は、多すぎると発泡性熱可塑性樹脂組成物の発泡性が低下するし、又、少なすぎても得られる発泡体の強度や寸法安定性の向上を図ることができないので、無架橋熱可塑性樹脂及び架橋性シラン変性熱可塑性樹脂の総量100質量部に対して、1〜20質量部が好ましい。
【0042】
本発明の発泡性熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、樹脂配合の一般的な方法であれば特に限定されず、例えば、無架橋熱可塑性樹脂、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂、シラン架橋触媒、熱分解型発泡剤等を、2軸混練押出機等に供給し、熱分解型発泡剤の分解温度より低い温度で、溶融混練し、押出すことにより製造する方法が挙げられ、発泡性熱可塑性樹脂組成物の形態は、ペレット状、ストランド状、シート状等が可能であり、特に限定されない。
【0043】
なお、溶融混練する際、二種類の無架橋熱可塑性樹脂のうち、メルトフローレートの低い無架橋熱可塑性樹脂の粒径は、大きくなると、無架橋熱可塑性樹脂の分散の均一性が低下し、発泡性熱可塑性樹脂組成物の発泡性が低下するので、50μm以下となるように溶融混練するのが好ましく、10μm以下となるように溶融混練するのがより好ましい。
【0044】
本発明の発泡性熱可塑性樹脂組成物から発泡体を得るためには、水処理により、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂同士を架橋させた後、熱分解型発泡剤の分解温度以上に加熱することにより得ることができる。
【0045】
水処理には、発泡性熱可塑性樹脂組成物を水に浸漬する方法の他に、水蒸気に暴露する方法も含まれ、水処理の温度は、高くなると、発生樹脂組成物同士が融着し、均一な発泡倍率を有する発泡体を得ることができず、又、低くなると、架橋反応に時間を要するので、50〜130℃が好ましく、80〜120℃がより好ましい。なお、100℃以上で処理する場合は、加圧下において行う必要がある。又、水処理の時間は、短いと架橋反応が完全に進行しないことがあるので、2時間以上が好ましい。
【0046】
発泡性熱可塑性樹脂組成物の加熱は、一般的な方法が用いられ、例えば、発泡性熱可塑性樹脂組成物をオーブンに供給し、熱分解型発泡剤の分解温度以上に加熱する方法が挙げられる。
【0047】
発泡性熱可塑性樹脂組成物の加熱時間は、短いと、発泡性熱可塑性樹脂組成物の発泡が完了していない場合があるので、30秒以上が好ましい。
【0048】
又、発泡させる際、発泡性熱可塑性樹脂組成物を無機繊維シートに挟んだ後、発泡させることは、得られる発泡体の寸法安定性が向上し好適である。
【0049】
無機繊維シートは、一般的に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、ロックウールからなるシート、炭素繊維からなるシート、ガラス繊維を集束して得られるガラス糸で織られたガラスクロス、ガラス繊維を無方向に均一な厚みに積み重ね、バインダーで接着して得られるサーフェイシングマットが挙げられる。
【0050】
[作用]
請求項1に記載の発明について説明する。本発明では、二種類の無架橋熱可塑性樹脂のメルトフローレートの差を、3〜15g/10分の範囲とし、且つ前記二種類の無架橋熱可塑性樹脂は、溶解性パラメーターの差を0.05〜2の範囲とし、殆ど相溶性を有しないものであるので、本発明の組成物を押出機等で配合した場合、一方の無架橋熱可塑性樹脂が他方の無架橋熱可塑性樹脂中に均一微細に分散した、非常にミクロな海島構造をとる。
【0051】
又、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂は、無架橋熱可塑性樹脂のうち融点の低い方の無架橋熱可塑性樹脂と同種類とし、かつこの低融点型無架橋熱可塑性樹脂とのメルトフローレート差を1.1〜5g/10分としているため、該無架橋熱可塑性樹脂に、優先的に架橋性シラン変性熱可塑性樹脂を溶け込ませるのを可能とし、海又は島を構成するいずれの無架橋熱可塑性樹脂に溶け込ませても、二種類の熱可塑性樹脂は非常にミクロな海島構造をとっているため、発泡性熱可塑性樹脂組成物中に、均一に分散させることが可能となり、しかも、低融点型無架橋熱可塑性樹脂として、、メルトフローレートにかなり幅を持たせている(例えば、前記特開平8−73640号公報開示のものに比べた場合など)ため、使用可能な樹脂材料の範囲を拡大することが可能となる。
【0052】
海を構成する無架橋熱可塑性樹脂と同種類で、メルトフローレートとの差が1.1〜5g/10分である、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂の特定量を用い、海を構成する無架橋熱可塑性樹脂に優先的に架橋性シラン変性熱可塑性樹脂を溶け込ませた場合は、水処理を施すことにより架橋性シラン変性熱可塑性樹脂同士が架橋し連続層(海部)に架橋構造が優先的に導入され、発泡時においては連続層たる海が伸長し、本発明の発泡性熱可塑性樹脂組成物は全体として、発泡に適した剪断粘度となる。
【0053】
一方、島を構成する無架橋熱可塑性樹脂と同種類で、メルトフローレートとの差が1.1〜5g/10分である、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂の特定量を用い、島を構成する無架橋熱可塑性樹脂に優先的に架橋性シラン変性熱可塑性樹脂を溶け込ませ、水処理を施すことにより架橋性シラン変性熱可塑性樹脂同士が架橋し非連続層(島部)に架橋構造を優先的に導入した場合は、明確には解明されていないが、以下の作用により発泡に適したものになると推定される。
【0054】
島を構成する無架橋熱可塑性樹脂は均一微細に分散され、通常、島を構成する熱可塑性樹脂の粒径は熱分解型発泡剤の分解によって発生するガス径に比して非常に小さく、島と島の間隔はガス径に比して非常に小さいものとなっているため、マクロ的に見れば、発泡剤の分解により発生するガスは、島を構成する無架橋熱可塑性樹脂によって、略連続的に囲まれた状態となる。従って、ガスは発泡に適した粘度を有する層に包囲された状態となっており、破泡することなく、本発明の発泡性熱可塑性樹脂組成物は全体として、発泡に適した剪断粘度となる。
【0055】
本発明の発泡性熱可塑性樹脂から得られる発泡体は、部分的に架橋密度の低い部分を有するため、成形時、かかる部分が流動性を有し、成形性に優れるものとなる。
【0056】
又、架橋密度の低い部分は再溶融可能であり、架橋密度の高い部分は、一種の充填材として利用でき、再利用が可能である。
【0057】
一方、部分的に架橋性シラン変性熱可塑性樹脂の殆ど溶け込んでいない部分を設け、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂の添加量を、無架橋熱可塑性樹脂100質量部に対して50質量部以下としたことにより、架橋に起因する成形時の内部応力を減少させることができ、発泡性熱可塑性樹脂組成物を発泡させて得られる発泡体は、寸法安定性に優れるものとなる。
【実施例】
【0058】
次に実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
各例において、以下の原料を用いた。
【0059】
(1)無架橋熱可塑性樹脂
ポリエチレン系無架橋熱可塑性樹脂
高密度ポリエチレンI(日本ポリエチレン社製 商品名:HJ360 密度:0.951g/cm メルトフローレート:6.0g/10分)
高密度ポリエチレンII(日本ポリエチレン社製 商品名:HY340 密度:0.953g/cm メルトフローレート:1.5g/10分)
高密度ポリエチレンIII(日本ポリエチレン社製 商品名:HJ381 密度:0.950g/cm メルトフローレート:9.0g/10分)
高密度ポリエチレンVI(旭化成社製 商品名:B161 密度:0.954g/cm メルトフローレート:1.2g/10分)
【0060】
ポリプロピレン系無架橋熱可塑性樹脂
ポリプロピレンI(プライムポリマー社製 商品名:E333GV 密度:0.9g/cm メルトフローレート:2.5g/10分)
ポリプロピレンII(日本ポリプロ社製 商品名MA4 密度:0.9g/cm メルトフローレート:5.0g/10分)
ポリプロピレンIII(日本ポリプロ社製 商品名MA2 密度:0.9g/cm メルトフローレート:16.0g/10分)
【0061】
(2)架橋性シラン変性熱可塑性樹脂
架橋性シラン変性ポリエチレン(三菱化学社製 商品名:リンクロンHM600A メルトフローレート:10g/10分 架橋後のゲル分率:60質量%)
【0062】
架橋性シラン変性ポリプロピレン(三菱科学社製 商品名:リンクロンXPM800HM メルトフローレート:10g/10分 架橋後のゲル分率:80質量%)
【0063】
実施例1〜6
表1に示す所定量(質量部)の上記無架橋熱可塑性樹脂及び架橋性シラン変性熱可塑性樹脂、更にシラン架橋触媒としてジブチル錫ジラウレート1質量部、熱分解型発泡剤としてアゾジカルボンアミド(大塚化学社製、商品名:SO−20、分解温度:201℃)4質量部をタンブラに供給し、混合したものを、スクリュー径30mmの二軸混練押出し機に供給し、180℃で溶融混練し、直径2mmの棒状の発泡性熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0064】
得られた棒状の発泡性熱可塑性樹脂組成物を、冷却ロールで厚さ0.7mmに押しつぶし、これを、角ペレタイザーで切断し、ペレット状とした。ペレット状の発泡性熱可塑性樹脂組成物を、99℃の水に2時間浸漬した。得られた水処理された発泡性熱可塑性樹脂組成物を、ステンレス製の板上に1g/cm 載置し、これを210℃に保持されたギアオーブンに供給し、発泡性熱可塑性樹脂組成物同志を融着させつつ発泡させ、発泡体を得た。
【0065】
得られた発泡体の発泡倍率を以下の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0066】
(発泡倍率)
発泡前の発泡性熱可塑性樹脂組成物の密度を、発泡体の密度で除して求めた。
【0067】
比較例1〜3
表1に示すように、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂をポリプロピレン系のものに代えるか、ポリエチレン系無架橋熱可塑性樹脂を単独であるいは2種のもの全体として低メルトフローレートのものに代えた以外は相当する実施例と同様にして発泡性熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0068】
【表1】

【0069】
これより、実施例とは異なり、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂が、無架橋熱可塑性樹脂のうち融点の高い方のポリプロピレン系のものであるか、あるいは無架橋熱可塑性樹脂のうち融点の低い方のポリエチレン系のものに低メルトフローレートのものを用い、それとのメルトフローレート差が本発明の規定範囲を逸脱して大きすぎる各比較例の発泡性熱可塑性樹脂組成物はいずれも発泡倍率が低いのに対し、実施例の発泡性熱可塑性樹脂組成物はいずれも発泡倍率が高いことが分かる。
【0070】
なお、測定結果から以下のことが推定される。
比較例1では、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂がポリプロピレン系のものであって、無架橋熱可塑性樹脂のうち融点の低い方のポリエチレン系と同種のものではなく、そのため、発泡時高温となって気泡を保持することが困難となることから、得られた発泡体は、低発泡倍率のものとなると推定される。
【0071】
比較例2では、ポリエチレン系無架橋熱可塑性樹脂のメルトフローレートが1.2と低く、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂とのメルトフローレート差は8.8と大きく、本発明で規定する許容範囲を大きく超え、そのためポリエチレン系無架橋熱可塑性樹脂に優先的に架橋をかけることができず、また、均一に架橋をかけることができないことから、得られた発泡体は、低発泡倍率のものとなると推定される。
【0072】
比較例3では、2種のポリエチレン系無架橋熱可塑性樹脂をほぼ半々用い、各メルトフローレート6.0と1.5より、これら2種のポリエチレン系無架橋熱可塑性樹脂は平均してメルトフローレート3.9程度と推定されるので、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂とのメルトフローレート差は約6.1と大きく、本発明で規定する許容範囲を超え、そのため比較例2の場合と同様の理由により、得られた発泡体は、低発泡倍率のものとなると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の発泡性熱可塑性樹脂組成物は、高発泡倍率の発泡体を安定して得ることができ、また、使用しうる組成成分の範囲を拡大することができ、自動車用天井材等の自動車用内装材や各種建築用内装材の原料等として好適に使用することができる。
本発明の発泡性熱可塑性樹脂組成物には特定の条件を満たす二種類の無架橋熱可塑性樹脂を用いており、押出機等で配合した場合、一方の無架橋熱可塑性樹脂が他方の無架橋熱可塑性樹脂中に均一微細に分散した、非常にミクロな海島構造をとる。
又、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂についても、無架橋熱可塑性樹脂と一定の関係を有するものを用いているため、発泡性熱可塑性樹脂組成物中に、均一に分散させることが可能となる。
このように、本発明の発泡性熱可塑性樹脂組成物は全体として発泡に適した剪断粘度を有しているため、高発泡倍率の発泡体を得ることができ、又、部分的に架橋のない部分を有するため、成形時、かかる部分が流動性を有し、成形性に優れた発泡体が得られる。
更に、架橋密度の低い部分は再溶融可能であり、架橋密度の高い部分は、一種の充填材として利用でき、ひいては再利用が可能なものである。
一方、架橋性シラン変性熱可塑性樹脂の添加量を、無架橋熱可塑性樹脂100質量部に対して50質量部以下としたことにより、架橋に起因する成形時の内部応力を減少させることができ、発泡性熱可塑性樹脂組成物を発泡させて得られる発泡体は、寸法安定性に優れたものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトフローレート差が3〜15g/10分、溶解性パラメーター差が0.05〜2、かつ質量比が2:8〜8:2である、二種類の無架橋熱可塑性樹脂100質量部に対し、これら無架橋熱可塑性樹脂のうち融点の低い低融点型無架橋熱可塑性樹脂と同種類であり、この低融点型無架橋熱可塑性樹脂とのメルトフローレート差が1.1〜5g/10分である、架橋後のゲル分率が60〜85質量%となる架橋性シラン変性熱可塑性樹脂1〜50質量部を含有することを特徴とする発泡性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記低融点型無架橋熱可塑性樹脂がメルトフローレートの異なる2種以上のものからなり、かつそれらのうち融点の最も低いものについて、それとそれ以外のものとの割合が質量比で2:8〜8:2の範囲であり、しかもそれと架橋性シラン変性熱可塑性樹脂とのメルトフローレート差が2g/10分以下であることを特徴とする請求項1に記載の発泡性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、前記無架橋熱可塑性樹脂100質量部に対し、シラン架橋触媒0.001〜2.5質量部、及び熱分解型発泡剤1〜20質量部を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の発泡性熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−277487(P2007−277487A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109053(P2006−109053)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】