説明

発泡成形体

【課題】擦れる方向の力が加わっても、異音が発生するのを効果的に防止することができる発泡成形体を提供する。
【解決手段】発泡成形用金型に充填された発泡性樹脂粒子を加熱して成形される発泡成形体であって、一方向に整列された複数の第1突条8T1と、他方向に整列され、かつ、前記第1突条8T1と交わるように配置された複数の第2突条8T2とを表面に備え、前記第1突条8T1及び前記第2突条8T2のそれぞれ断面が先端側に先細り形状となっていることを特徴とする発泡成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡成形用金型に充填された発泡性樹脂粒子を加熱して成形される発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡成形体は、樹脂粒子を予備発泡し、得られた発泡性樹脂粒子を発泡成形用金型に充填し、蒸気で加熱して再度発泡させ、冷却水等を用いて冷却した後、金型から離型する、といった所謂型内成形法によって製造されるのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−343360号公報(段落0003参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、車両等においては、上記のように製造された軽量で成形性の良い発泡成形体が内装材として用いられることが多くなっている。
【0005】
上記内装材は、表面が平坦であるものが用いられる。そのため、車両走行中等において、車両構造物(他物)とこれに接触状態の内装材(発泡成形体)とが振動などにより擦れ合って異音が発生することがあり、改善の余地があった。
【0006】
本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、擦れる方向の力が加わっても、異音が発生するのを効果的に防止することができる発泡成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発泡成形体は、前述の課題解決のために、発泡成形用金型に充填された発泡性樹脂粒子を加熱して成形される発泡成形体であって、一方向に整列された複数の第1突条と、他方向に整列され、かつ、前記第1突条と交わるように配置された複数の第2突条とを表面に備え、前記第1突条及び前記第2突条は、それぞれ断面が先端側に先細り形状となっていることを特徴としている。
【0008】
上記構成によれば、第1突条及び第2突条は、それぞれ断面が先細り形状となっていることから、少なくとも先端側が柔軟性を有し、かつ、発泡成形体と他物との接触面積が少なくなる。しかも、第1突条及び第2突条は、交わることによって互いに支え合う構造であるため、根元部分から大きく変形するようなことはない。従って、発泡成形体と他物とが擦れ合うような力が加わったとしても、発泡成形体と他物との微小な相対位置変化に追従して第1突条及び第2突条の各先端側が変形し、第1突条及び第2突条と他物との間の滑りが生じにくくなっている。この結果、異音が発生するのを効果的に防止することができる。
【0009】
また、本発明の発泡成形体は、前記複数の第1突条が一定間隔で整列し、前記複数の第2突条が一定間隔で整列していることが好ましい。
【0010】
上記のように第1突条及び第2突条が一定間隔で整列していると、力が均等に分散され、異音防止効果をより一層高めることができる。
【0011】
また、本発明の発泡成形体は、前記先細り形状が、断面において滑らかに連続する輪郭を有するように構成されていてもよい。
【0012】
また、本発明の発泡成形体は、前記先細り形状が、断面において鋭角な輪郭を有するように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上の如く、本発明によれば、一方向に整列された複数の第1突条と、他方向に整列され、かつ、前記第1突条と交わるように配置された複数の第2突条とを表面に備え、前記第1突条及び前記第2突条の断面を先端側に先細り形状とすることによって、第1突条及び第2突条と他物との間の滑りを生じにくくし、これにより、異音が発生するのを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】車両に装着したツールボックス(第一実施形態の発泡成形体)の蓋を閉じる直前の状態の斜視図である。
【図2】同ツールボックスのフランジ部の上面の拡大図であって、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は縦断面図である。
【図3】発泡成形体を成形するための発泡成形用金型であって、(a)は縦断面図、(b)は底面図である。
【図4】ティビアパット(第二実施形態の発泡成形体)を介在した車両下部の縦断面図である。
【図5】(a),(b),(c)は、他実施形態の発泡成形体の縦断面図である。
【図6】(a),(b),(c)は、図5の発泡成形体をそれぞれ成形するための発泡成形用金型の縦断面図である。
【図7】通孔の位置を変更した他実施形態の発泡成形用金型の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る発泡成形体の一実施形態について、図面を参酌しつつ説明する。
【0016】
発泡成形体は、予め予備発泡された発泡性樹脂粒子を発泡成形用金型に充填し、加熱することにより成形される。尚、発泡倍率は、使用目的に応じて適宜変更することができる。前記成形された発泡成形体の一例として、図1に車両に搭載されるツールボックス1を示している。このツールボックス1は、3個の収納部2,3,4を備えた長方形状のボックス本体5と、ボックス本体5の上端に備えた環状のフランジ部6とを備え、このフランジ部6が車体側に設けられたU字状の金属製の枠部材9の上面9Aに載置支持されている。また、ツールボックス1は、前記ボックス本体5の上面を覆い被せるための板状の蓋7を備え、該蓋7の外周縁にはボックス本体5の上面に接触する板状で環状の当接部材7Aが設けられている。
【0017】
また、発泡成形体は、任意の発泡性樹脂材料で作ることができるが、発泡性樹脂材料の中でも熱可塑性樹脂で成形された発泡成形体であることが好ましい。前記熱可塑性樹脂には、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、ポリカーボネート系樹脂、ポリ乳酸系樹脂などが挙げられる。なかでも、ポリスチレンとポリエチレンとを含む複合樹脂を用いることが好ましい。
【0018】
前記ツールボックス1の水平な上面のうちの(矩形状の)外周縁の上面8Aには、図1及び図2(a),(b),(c)に示すように、該上面8Aよりも上方に突出すると共に左右方向に一直線状に延びる多数の第1突条8T1と、第1突条8T1と同一高さとなるように上面8Aよりも上方に突出すると共に第1突条8T1と直交するように前後方向に一直線状に延びる多数の第2突条8T2とが形成されている。多数の第1突条8T1は、前後方向に一定間隔P1を置いて整列され、また、多数の第2突条8T2は、左右方向に一定間隔P2(本実施形態では、P1=P2)を置いて整列されている。また、第1突条8T1及び第2突条8T2の断面が先端側に先細り形状、具体的には鋭角な輪郭を有する(鋭角な外形線によって構成された)略三角形状となっている。
【0019】
従って、前記蓋7を閉じたときに、蓋7の当接部材7Aがツールボックス1の上面8Aに蓋7の重量で押し付けられることになるが、当接部材7Aを第1突条8T1及び第2突条8T2によって安定よく支持することができる。また、第1突条8T1及び第2突条8T2の断面が三角形となっていることから、第1突条8T1及び第2突条8T2と当接部材7Aとの接触面積を少なくしている。
【0020】
一般的に、異音が発生するメカニズム(音鳴りのメカニズム)については、スティックスリップ現象により異音(音鳴り)が発生するものと考えられる。このスティックスリップ現象は、2つの物体が、荷重を受け押し付けられている状態で接触を保ちながら相対的に移動する時、これらの物体表面で付着と滑りが交互に発生して2つの物体の円滑な相対移動が阻害される現象であり、これにより物体内に振動(摩擦振動)が起こり、音が鳴る現象が現れる。すなわち、一方側の物体が、他方(相手)側の物体に対して滑っては付着し、付着しては滑るといった小刻みな移動を繰り返し行うことにより音鳴りが発生すると考えられる。特に、2つの物体が軽量で摩擦係数が高い発泡成形体である場合に、振動などにより異音が発生し易い。また、発泡成形体の中でも、発泡倍率が高い発泡成形体が異音を生じ易い。このような柔らかい素材でなる発泡成形体では、例えば互いに擦れる方向と直交する方向に断面が矩形状の接触面が存在する場合に、擦れ方向前方側に位置する接触面の角の摩擦抵抗が高くなり、擦れによる異音発生の原因になりやすい。かかる異音発生に対しても、第1突条8T1及び第2突条8T2は非常に効果的である。
【0021】
即ち、第1突条8T1及び第2突条8T2は、それぞれ断面が先細り形状となっていることから、少なくとも先端側が柔軟性を有し、かつ、当接部材7Aとの接触面積が少なくなる。しかも、第1突条8T1及び第2突条8T2は、交わることによって互いに支え合う構造であるため、根元部分から大きく変形するようなことはない。従って、ツールボックス1と蓋7とが擦れ合うような力が加わったとしても、第1突条8T1及び第2突条8T2と当接部材7Aとの相対位置変化に追従して第1突条8T1及び第2突条8T2の各先端側が変形し、第1突条8T1及び第2突条8T2と当接部材7Aとの間の滑りが生じにくくなっている。この結果、異音が発生するのを効果的に防止することができるようになっている。
【0022】
特に、前記のように多数の第1突条8T1と直交するように多数の第2突条8T2を備えさせることによって、四方が囲まれた環状(矩形状)の枠部が前後左右方向に連なる状態で形成されることによって、第1突条8T1及び第2突条8T2の保形強度を高めることができ、異音防止に更に効果的である。
【0023】
ここで、ツールボックス1の上面8Aの外周縁の総面積に対する前記第1突条8T1及び第2突条8T2が形成された突条形成領域の面積の比率(単位面積当たりに占める突条形成領域の割合)が80%以下である場合に、異音防止効果が高く、より好ましくは50%以下である場合に、異音防止効果が更に高くなる。
【0024】
また、フランジ部6の下面6Aにも第1突条8T1及び第2突条8T2を備えさせておけば、例えば車両の走行中に、金属製の枠部材9に対してツールボックス1が振動などにより移動するのを防止することができ、フランジ部6の下面6Aと枠部材9の上面9Aとが擦れて異音が発生するのを防止することができる。また、図1の2点鎖線で示す車体構成部材10に接触するボックス本体5の下面5Aにも第1突条8T1及び第2突条8T2を備えさせておけば、車両の走行中に、車体構成部材10に対してツールボックス1が振動などにより移動するのを防止することができ、ボックス本体5の下面5Aと車体構成部材10とが擦れて異音が発生するのを防止することができる。
【0025】
尚、第1突条8T1及び第2突条8T2の高さが1mm以下となる背の低い突条であるため、図1では、第1突条8T1及び第2突条8T2を線で示しているが、第1突条8T1及び第2突条8T2の形状を明確にするため、図2(a),(b),(c)の拡大図で大きく示している。
【0026】
ところで、充填された発泡性樹脂粒子を加熱して成形されたツールボックス1の表面には、発泡粒子の粒径や発泡密度のバラツキ等に起因して亀甲模様が発生することがある。このように亀甲模様が発生した場合でも、前述したように、ツールボックス1の上面に形成された第1突条8T1及び第2突条8T2によって、目立ちにくくすることができ、意匠性に優れたツールボックス1にすることができ、商品価値を高めることができる。また、ツールボックス1(発泡成形体)に例えキズが付いたとしても、第1突条8T1及び第2突条8T2によってキズを打ち消してキズを目立ちにくくすることができる、というのも第1突条8T1及び第2突条8T2が奏する効果である。尚、これらの効果を目的として、ツールボックス1の第1突条8T1及び第2突条8T2を備えていない他の箇所にも第1突条8T1及び第2突条8T2を形成するようにしてもよい。
【0027】
発泡成形体を成形するための発泡成形用金型11(以下、単に「金型」という)を、図3(a),(b)に示している。この金型11は、左右に分割された1組の金型12,13からなり、左側の金型12を構成する成形型12Aと、右側の金型13を構成する成形型13Aとを対向させて前面側で合わせることによって、発泡性樹脂粒子Sが充填される成形空間を形成するように構成されている。尚、図3(a)に示す金型11は、1組の金型12,13を左右方向(水平方向)に開閉させる横型の金型であるが、上下方向に開閉させる縦型の金型であってもよい。また、図3(a)では、右側の成形型13Aを板状にしているが、左側の成形型12Aと同じ箱型の成形型により成形空間を形成して、発泡成形体の上下両面のそれぞれに後述する突条8T1,8T2を形成してもよい。
【0028】
左側の金型12は、右側が開口された箱状の前記成形型12Aと、成形型12Aの背面側を覆って加熱冷却室12aを形成するためのバックプレート12Bとを備えている。また、右側の金型13は、板状の前記成形型13Aと、成形型13Aの背面側を覆って加熱冷却室13aを形成するためのバックプレート13Bとを備えている。
【0029】
左側の金型12のバックプレート12Bの上板部12bには、加熱冷却室12aに連通する蒸気供給管21及び冷却水供給管22並びに圧縮空気供給管23の一端(下端)が所定間隔を置いて貫通固定されている。それら蒸気供給管21、冷却水供給管22、圧縮空気供給管23の途中に、開閉バルブ21V、22V、23Vを備えている。冷却水供給管22は、上板部12bから後述する下板部12cの近傍まで延出され、その延出部22Aの延出方向に所定間隔を置いて冷却水を供給する開口22aが形成されている。図示していないが、右側の金型13にも蒸気供給管21、冷却水供給管22、圧縮空気供給管23、開閉バルブ21V、22V、23Vを備えている。
【0030】
また、左側の金型12のバックプレート12Bの下板部12cには、ドレン管24及び真空装置に繋がれた真空供給管25の一端(上端)が所定間隔を置いて貫通固定されている。それらドレン管24及び真空供給管25の途中に、開閉バルブ24V,25Vを備えている。図示していないが、右側の金型13にもドレン管24及び真空供給管25並びに開閉バルブ24V,25Vを備えている。
【0031】
左側の成形型12Aについて詳述すれば、成形型12Aの成形面12Kの所定箇所(対象エリア)に、一方向に連続して延びる多数本の第1溝部M1と、該第1溝部M1と同一深さ(高さ)の第1溝部M1と直交するように他方向に連続して延びる多数本の第2溝部M2とが形成されている。
【0032】
多数本の第1溝部M1は、前後方向に一定間隔P1を置いて整列され、また、多数本の第2溝部M2は、上下方向に一定間隔P2(本実施形態では、P1=P2)を置いて整列されている(図1(a),(b)参照)。多数本の第1溝部M1及び第2溝部M2のそれぞれの間隔は、冷却効率を向上させるように定められ、全ての溝部間が一定の間隔でなくてもよいのは言うまでもない。また、本実施形態において第1溝部M1と第2溝部M2とが直交しているが、冷却効率等の向上を図るために異なる方向に溝部を走らせればよく、成形品(発泡成形体)の形状等によっては、直交でなく斜めに交わっていればよい。
【0033】
ここで、対象エリアを、図1において成形型12Aの成形面12Kに対してのみ定めているが、例えば、右側の金型に対向した壁面(成形面12K)だけでなく、図1に示す成形型12Aの上下方向において対向する上下壁面及び/又は前後方向において対向する前後壁面に対しても対象エリアとして定めてもよい。冷却効率等の向上を図るため、壁面の端部間を結ぶように壁面全域に亘って第1溝部及び第2溝部が形成されていることが好ましい。さらに、上記した一の壁面の第1溝部及び第2溝部の端部と他の壁面の第1溝部及び第2溝部の端部とが連続していてもよいし、連続していなくてもよい。このように構成された成形型12A,13A内に発泡性樹脂粒子Sを充填し、充填された発泡性樹脂粒子Sを加熱することにより発泡成形体が成形され、その成形された発泡成形体の表面に、後述する多数の第1突条8T1及び第2突条8T2(図3(a),(b),(c)参照)が突出形成される。
【0034】
また、蒸気供給管21、冷却水供給管22、圧縮空気供給管23、及びドレン管24を介して前記加熱冷却室12aに導入された蒸気や冷却水(又は冷却風)を成形空間(キャビティ)へ供給するための第1通孔12K1が成形型12Aの第1溝部M1の底面に形成され、同じように第2通孔12K2が成形型12Aの第2溝部M2の底面に形成されている。第1通孔12K1は、各第1溝部M1に設けられることで、第1溝部M1と同様、前後方向に一定間隔P1を置いて形成され、一方、第2通孔12K2は、各第2溝部M2に設けられることで、第2溝部M2と同様、上下方向に一定間隔P2を置いて形成されている。尚、通孔12K1,12K2の形状は、円形の他、楕円形や四角形などでもよいし、縦長のスリット状であってもよい。また、本実施形態では、通孔12K1,12K2は、それぞれの溝部M1,M2に対して1つのみ設けた場合を示しているが、2つ以上設けてもよい。また、第1通孔12K1は、各第1溝部M1に設けられる他、1つ置きの第1溝部M1に1つ以上設けられる、又は2つ置きの第1溝部M1に1つ以上設けられてもよく、ランダムに選択した特定の第1溝部M1に1つ以上設けられてもよい。また、第2通孔12K2も同様に、1つ置きの第2溝部M2に1つ以上の第2通孔12K2が設けられる、又は2つ置きの第2溝部M2に1つ以上の第2通孔12K2が設けられてもよく、ランダムに選択した特定の第2溝部M2に1つ以上の第2通孔12K2が設けられてもよい。勿論、第1溝部M1と第2溝部M2との交差位置に設けられても良い。また、ここで、通孔12K1又は12K2の径が溝部M1又はM2の幅さらには溝部M1又はM2のピッチより大きい場合があり、この場合、通孔12K1又は12K2の一部が少なくとも一方の溝部M1又はM2に設けられているものとする。溝部M1,M2に対する通孔12K1,12K2の位置は、例えば前記のように一定間隔P2を置いて規則性を持って配置してもよいし、ランダムに配置してもよい。もちろん、右側の金型13の成形型13Aには、少なくとも通孔が規則性またはランダムに配置されている。
【0035】
ここで、第1溝部M1及び第2溝部M2の深さが1mm以下、より好ましくは0.3mm以下である場合、及び/又は、第1溝部M1,M1の間隔P1及び第2溝部M2,M2の間隔P2が、2mm〜50mmである場合に離型性が良く、より好ましくは30mm以下(0を除く)である場合に離型性が更に良い。複数本の溝部M1,M2の深さ及び溝部M1,M2の幅は、全て同じであってもよいし、全て異なる又は一部のみ異なったものであってもよい。
【0036】
しかも、上記のように、第1溝部M1及び第2溝部M2の深さは浅いことから、金型11としては、エッチング加工により作製することによって、設計の自由度が増すだけでなく、複雑な形状の金型の成形面を精度よく形成することができて好ましいが、切削加工等その他の作製方法を用いてもよく、金型の作製方法については特に限定されない。
【0037】
次に、前記のように構成された金型11(尚、図3に示す金型11は、第1溝部M1、第2溝部M2、第1通孔12K1及び第2通孔12K2を説明するための概念図であって、以下に説明する発泡成形体と形態が一致するものではない)を用いて発泡成形体を成形する過程を説明する。尚、左側の金型12を中心に説明する。
【0038】
まず、成形型12A,13Aの前面側を合わせて両成形型12A,13Aにて形成される成形空間に発泡性合成樹脂粒子Sを図示していない充填装置により充填する。次に、左側の開閉バルブ21Vを開放状態にすることにより、左側の蒸気供給管21から蒸気を左側の加熱冷却室12aに供給する。このとき、右側の金型13のドレン管(図示せず)が開放され、左側の加熱冷却室12aに供給された蒸気は、左側の成形型12Aの外面を加熱すると共に成形型12Aの通孔12K1,12K2を通して成形空間に供給されて右側の成形型13Aの通孔(図示せず)を通って成形型13Aの外部へ導かれ、右側の金型13のドレン管(図示せず)を介して金型13の外部へ排出される。この第1回目の加熱工程により成形空間に充填された発泡性合成樹脂粒子Sを均等に加熱する。次に、左側の開閉バルブ21Vを閉じて左側のドレン管24を開放し、右側の金型13のドレン管(図示せず)を閉じ、右側の開閉バルブ(図示せず)を開放し、右側の蒸気供給管(図示せず)から右側の加熱冷却室13aに蒸気を供給する。供給された蒸気は、右側の成形型13Aの外面を加熱すると共に成形型13Aの通孔(図示せず)を通して成形空間に供給されて左側の成形型12Aの通孔12K1,12K2を通って成形型12Aの外部へ導かれ、左側の金型12のドレン管24を介して金型12の外部へ排出される。この第2回目の加熱工程により成形空間に充填された発泡性合成樹脂粒子Sを均等に加熱する。加熱後、右側の開閉バルブ(図示せず)を閉じるとともに、左側のドレン管24を閉じてから、第3回目の加熱工程となる。第3回目の加熱工程は、両方の金型12,13のドレン管24(右側の金型13のドレン管は図示せず)を閉じた状態で、両方の金型12,13の開閉バルブ21V(右側の金型13の開閉バルブは図示せず)を開放して、成形空間に充填された発泡性合成樹脂粒子Sを再度加熱する。
【0039】
加熱が終了すると、両方の金型12,13の開閉バルブ22V(右側の開閉バルブは図示せず)を開放状態にして延出部22Aの開口22aから冷却水を成形型12A,13Aに吹き掛けて成形型12A,13Aを冷却する。このとき、冷却水の一部が通孔12K1,12K2を通して成形型12A,13Aの内部に入り込んで冷却を促進させる。発泡成形体は冷却されることにより収縮を始める。これにより、発泡成形体と成形型12A,13Aとの間に間隙が形成される。この間隙を介して、冷却水は溝を伝わりやすくなり、冷却効率が上がる。
【0040】
冷却水による冷却が終了すると、続いて、両方の金型12,13の開閉バルブ23V(右側の開閉バルブは図示せず)を開放状態にして圧縮空気供給管23から圧縮空気を加熱冷却室12a,13aに供給することによって、通孔12K1,12K2を通して成形型12A,13A内に供給することで、発泡成形体と成形型12A,13Aとの間隙を通して成形型12A内に溜まっている冷却水を通孔12K1,12K2に案内し、通孔12K1,12K2を通して成形型12A,13Aの外部へ排出し、排出された冷却水を左右のドレン管24を介して左右の金型12,13外へそれぞれ排出する。この圧縮空気は、成形型12A及び発泡成形体を冷却する役目もある。
【0041】
続いて、減圧冷却工程に移り、両方の金型12,13のドレン管24の開閉バルブ24V(右側の開閉バルブは図示せず)を閉じてから、開閉バルブ25V(右側の開閉バルブは図示せず)を開放して真空供給管25で加熱冷却室12a,13a内を減圧することにより加熱冷却室12a,13a内の残存水分や成形された発泡成形体に付着もしくは内部に含有されている水分を蒸発させるとともに蒸発潜熱を利用して冷却を促進させて、減圧冷却工程を終了する。こののち、成形型12A,13Aを開くと共に左右の開閉バルブ23V(右側の開閉バルブは図示せず)を開放状態にして左右の圧縮空気供給管23(右側の圧縮空気供給管は図示せず)から離型するための圧縮空気(エア)を加熱冷却室12a,13aに供給することによって、通孔12K1,12K2(右側の通孔は図示せず)を通して成形型12A,13A内に圧縮空気(エア)が供給され、発泡成形体を成形型12A,13Aから取り出して作業が完了する。もちろん、金型に離型ピンを設けて、圧縮空気(エア)と併用してもよいし、離型ピンのみで発泡成形体を取り出してもよい。
【0042】
以上のように、本実施形態の金型11によれば、一方の溝部M1が成形型12Aの成形面の対象エリアに、上下方向の一端から他端に亘って連続的に形成され、他方の溝部M2が金型11の該対象エリアに、前後方向の一端から他端に亘って連続的に形成され、しかも、通孔12K1,12K2は、発泡性樹脂粒子を加熱するための蒸気や発泡成形された直後の発泡成形体を冷却するための冷却水(又は冷却風)を金型内部に供給するための出入口用の孔として用いられるため、第1通孔12K1及び第2通孔12K2を通して供給される蒸気や冷却水が連続形成された溝部M1,M2を伝って成形面の対象エリアに広がり易く、しかもどの方向からも蒸気や冷却水が均一に供給され、成形性及び冷却効率を向上させることができるようになっている。
【0043】
また、金型内部に供給された蒸気は、冷却工程で冷却されて水になり、金型内部に溜まることになるが、この溜った水や冷却水は、第1溝部M1及び第2溝部M2に対応させて設けられた第1通孔12K1及び第2通孔12K2を通して迅速かつ確実に金型外へ排出することができる。このことから、金型内に水が溜まるのを防止することができ、その結果、次回の発泡成形工程時の発泡性樹脂粒子の充填が金型内に溜まった水により阻害されることがないから、充填作業を確実に行って成形性の向上を図ることができる。そして、金型内に水が溜まるという問題を生じないため、水冷水による水冷プロセスを積極的に採用することができ、その結果、冷却効率が向上して時間短縮によるサイクルアップを図ることができる。
【0044】
さらに、第1通孔12K1及び第2通孔12K2は、成形された発泡成形体を成形型12Aから離型するための圧縮空気(エア)を供給するために用いられ、このように溝部M1,M2に通孔12K1,12K2が通っていることから、溝部M1,M2に圧縮空気(エア)を直接供給することによって、圧縮空気(エア)が溝部M1,M2を通して成形面の対象エリアに均一に伝わり易くなり、離型がスムーズに行える。しかも、異なる方向の2つの溝部M1,M2に圧縮空気(エア)が伝えられる構成であることから、発泡成形後の発泡成形体の離型時に、圧縮空気(エア)を均一に分散させることができ、よりスムーズな離型を行うことができる。
【0045】
前記構成の金型11により発泡成形した発泡成形体としては、図4に示す車両の前部座席足元に設けられるティビアパット14であってもよい(又は車両の後部座席足元に設けられるフロアスペーサであってもよい)。このティビアパット14は、フロアパネル15とそれの上に配置される内装材としてのフロアカーペット16との間に配置され、乗員の足17に対する緩衝性を高めて乗り心地を高めることを目的としている。
【0046】
前記ティビアパット14は、発泡性樹脂粒子を加熱して板状に発泡成形され、その上面14Aには、その上面14Aから上方に突出すると共に左右方向に一直線状に延びる多数の第1突条14T1と、第1突条14T1と同一高さとなるように上面14Aよりも上方に突出すると共に第1突条14T1と直交するように前後方向に一直線状に延びる多数の第2突条14T2とが形成されている。多数の第1突条14T1は、前後方向に一定間隔P3(図2(b)の一定間隔P1と同一であってもよいし、異なっていてもよい)を置いて整列され、また、多数の第2突条14T2は、左右方向に一定間隔(図示していないが、第1突条14T1の一定間隔P3と同一であってもよいし、異なる間隔であってもよい)を置いて整列されている。また、第1突条14T1及び第2突条14T2の断面が先端側に先細り形状、具体的には略三角形状となっている。
【0047】
このように形成されたティビアパット14を設けることによって、例えば乗員が車内に乗り込む際にフロアカーペット16が足17の荷重を受けても、その荷重を第1突条14T1及び第2突条14T2で安定よく支持することによって、フロアカーペット16に第1突条14T1及び第2突条14T2が適切に接触し、そのため、異音が発生するのを効果的に防止することができる。しかも、フロアカーペット16がティビアパット14に対して移動しにくいことから、フロアカーペット16がティビアパット14に対して位置ずれするのも防止することができる。尚、図4では、ティビアパット14の表面にのみ第1突条14T1及び第2突条14T2を設けたが、ティビアパット14の裏面にも第1突条14T1及び第2突条14T2を備えさせてもよい。
【0048】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0049】
前記実施形態では、発泡成形体として車両に備えられる内装材を示したが、車両に備えられる内装材以外のもの、例えば部屋の中に置いておく装飾品やソファーやベッドあるいは床下の中に入れるクッション材等を本発明の発泡成形体で構成してもよい。
【0050】
また、前記実施形態では、発泡成形体の第1突条及び第2突条の断面形状を三角形にしたが、図5(a)に示すように成形発泡体の表面から湾曲状に突出させた、即ち半円形状の突条18T1,18T2であってもよい。また、図5(b)に示すように成形発泡体の表面からから二面がそれぞれ垂直かつ互いに平行に立ち上がる基部19T21の先端から湾曲状に突出させた、即ち小判形状の上半分の形状にした突条19T1,19T2であってもよい。また、図5(c)に示すように成形発泡体の表面から滑らかに湾曲状に突出させた、即ち楕円形状の上半分の形状にした突条20T1,20T2であってもよい。このように形成された突条は、滑らかに連続する輪郭を有する(滑らかに連続する外形線によって構成された)先細り形状になっている。このような先細り形状は、どのような形状であってもよいが、先端部に角のない丸い形状であることが好ましい。
【0051】
図5(a),(b),(c)で示した発泡成形体を成形するための金型を、図6(a),(b),(c)に示している。つまり、図5(a)の発泡成形体を成形する金型を図6(a)に示し、半円形状の溝部M3,M4が形成されている。また、図5(b)の発泡成形体を成形する金型を図6(b)に示し、小判形状の上半分の形状の溝部M5,M6が形成されている。また、図5(c)の発泡成形体を成形する金型を図6(c)に示し、楕円形状の上半分の形状の溝部M7,M8が形成されている。
【0052】
また、前記実施形態では、第1突条の間隔及び第2突条の間隔を両方とも一定間隔にしたが、一方又は両方を一定でない不定間隔に設定して実施してもよい。
【0053】
また、前記実施形態では、発泡成形体の第1突条及び第2突条を一直線状に構成したが、連続するジグザグ状に構成してもよいし、連続する曲線状に構成してもよい。また、第1突条と第2突条とを直交させる他、90度以外の所定角度で交わるように第1突条と第2突条とを交差させてもよい。
【0054】
また、前記実施形態では、第1溝部M1に第1通孔12K1を形成し、第2溝部M2に第2通孔12K2を形成したが、図7に示すように、第1溝部M1及び第2溝部M2でない部分、つまり並設された第1溝部M1,M1同士間の中間部(中間部でなくてもよい)及び並設された第2溝部M2,M2同士間の中間部(中間部でなくてもよい)、具体的には、第1溝部M1及び第2溝部M2で四方が囲まれて形成された平面部分12Hの中心部(中心部でなくてもよい)に通孔12Kを形成してもよい。図7では、四方が囲まれた平面部分12Hの全てに通孔12Kを形成しているが、特定の平面部分12Hのみに形成して実施してもよい。また、図3で示した第1通孔12K1及び第2通孔12K2だけでなく、図7で示した通孔12Kをも備えた金型であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…ツールボックス、2,3,4…収納部、5…ボックス本体、5A…下面、6…フランジ部、6A…下面、7…蓋、7A…当接部材、8A…上面、8T1,8T2…突条、9…枠部材、9A…上面、10…車体構成部材、11…金型、12…金型本体、12A…底面、12H…平面部分、12K,12K1,12K2…通孔、12a,13a…加熱冷却室、13…蓋体、14…ティビアパット、14A…上面、14T1,14T2…突条、15…フロアパネル、16…フロアカーペット、17…足、18T1,18T2…突条、19T1,19T2…突条、20T1,20T2…突条、M1〜M8…溝部、P1,P2,P3…一定間隔、S…発泡性樹脂粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡成形用金型に充填された発泡性樹脂粒子を加熱して成形される発泡成形体であって、
一方向に整列された複数の第1突条と、他方向に整列され、かつ、前記第1突条と交わるように配置された複数の第2突条とを表面に備え、前記第1突条及び前記第2突条は、それぞれ断面が先端側に先細り形状となっていることを特徴とする発泡成形体。
【請求項2】
前記複数の第1突条が一定間隔で整列し、前記複数の第2突条が一定間隔で整列していることを特徴とする請求項1に記載の発泡成形体。
【請求項3】
前記先細り形状が、断面において滑らかに連続する輪郭を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発泡成形体。
【請求項4】
前記先細り形状が、断面において鋭角な輪郭を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発泡成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−51176(P2012−51176A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194373(P2010−194373)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】