説明

発泡樹脂成形品並びにその成形方法

【課題】可動側金型と固定側金型とを型締めして形成されるキャビティ内に発泡樹脂材料を射出充填した後、可動側金型を後退させて発泡反応を誘起させ、所要形状に成形する発泡樹脂成形品並びにその成形方法であって、製品R形状部分の形状出しを精度良く行なうことで、外観性能並びに隣接部品に対する合わせ精度を高める。
【解決手段】トリムロア(発泡樹脂成形品)30の縦壁部33の内側コーナー部35よりやや中央寄りに変形規制用リブ36を設定する。従って、可動側金型50の後退操作時、縦壁部33は、フロート機構80により型開方向に押圧されるが、変形規制用リブ36が固定側金型60の凹溝65内で支持されることで、縦壁部33の内側コーナー部35の屈曲変形が解消され、結果的に縦壁部33のコーナー部34においてシャープでかつ精度の良い形状出しが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動側金型と固定側金型とを型締めした後、発泡樹脂材料をキャビティ内に射出充填し、更に可動側金型を後退操作して発泡スペースを確保した後、発泡反応を開始させ、所要形状に成形してなる発泡樹脂成形品並びにその成形方法に係り、特に、縦壁コーナー部等のR形状部分においてシャープで精度の良い形状出しを行なうことができ、外観性能並びに隣接部品に対する合わせ精度を高めた発泡樹脂成形品並びにその成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図11は、ドアパネル(図示せず)の室内面側に装着される自動車用ドアトリム1を示すもので、このドアトリム1は、軽量でかつ剛性及び耐衝撃性能に優れ、コストも廉価なことから、ポリプロピレン(PP)発泡体等の発泡樹脂成形品が多く使用されている。上記ドアトリム1には、室内側に向けて膨出するアームレスト部1aが一体成形され、このアームレスト部1aの下方には、ドアポケット用開口1bが開設され、更にそのフロント側にスピーカグリル1cがドアトリム1と一体、あるいは別体に設けられている。尚、ドアトリム1の周縁の一部にパネル側に向く縦壁部1dが一体化されている。
【0003】
そして、この種発泡樹脂成形品を用いたドアトリム1を所要形状に成形する従来の成形方法について、図12,図13を基に説明する。尚、図12は成形金型の概略構成、図13は金型のプレスチャート図をそれぞれ示す。成形金型2は、可動側金型3と固定側金型4とから大略構成され、可動側金型3は昇降シリンダ3aの駆動により、所定ストローク上下動可能であり、固定側金型4に対して型締めが行なわれる。また、固定側金型4には、図示しない射出機が連設されており、この射出機から供給される発泡樹脂材料Mが両金型3,4間のキャビティC内に射出充填される。ここで、型締め時における初期金型状態においては、可動側金型3の金型位置は図13のプレスチャート図の(a1)位置であり、この状態の時、射出機から発泡樹脂材料Mが可動側金型3と固定側金型4との間に画成されるキャビティC内に射出充填される。
【0004】
そして、一定時間経過後、可動側金型3が型開き方向に可動して、図13のプレスチャート図の(a2)位置まで型開きし、この位置で発泡反応が行なわれ、最終形状のドアトリム1が成形されることになる。すなわち、図13中(a1)位置では、可動側金型3と固定側金型4との間のクリアランスが小さく設定されているため、発泡樹脂材料Mの発泡反応を抑えた状態でキャビティC内に発泡樹脂材料Mを迅速に射出充填することができる。尚、充填された発泡樹脂材料Mは、可動側金型3や固定側金型4の型面と接する部位はソリッド層が即座に形成されるが、内部は未発泡状態のままである。そして、金型を図13中(a2)位置まで型開きすれば、すなわち、可動側金型3と固定側金型4との間のクリアランスを若干広く設定することにより、発泡スペースを確保することができ、ソリッド層内部で発泡反応を円滑に行なわせることで、ドアトリム1を最終製品形状に成形できる。
【0005】
ところで、上述した工程でドアトリム1が成形されるが、ドアトリム1の周縁部に設定される縦壁部1dについては、図14(a),(b)に示すように、可動側金型3を型開き方向に後退操作した際、型開き方向に沿って縦壁部1dを押圧するフロート機構5が設けられている。このフロート機構5は、発泡樹脂材料Mの射出充填時と、可動側金型3の後退時で図示するストローク分(図14中符号dで示す)上下方向に沿って駆動される。上記発泡樹脂成形品並びにその成形方法の従来例については、特許文献1に詳細に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−120252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来の発泡樹脂成形品並びにその成形方法においては、特に、可動側金型3を後退操作し、発泡スペースを確保して発泡成形を精度良く行なう場合には、縦壁部1dのコーナー部のようにシャープなコーナーラインが要求される部位については、フロート機構5を制御して精度の良い形状出しを行なっているが、縦壁部1dの内側コーナー部については、図14(b),図15に示すように、可動側金型3を後退操作した際、型から外れた部分が屈曲変形し易く、狙いのラインL1に対して実際のラインL2は屈曲ラインとなり、それに対応する製品表面側のコーナーラインL3については、シャープな形状出しができないという不具合がある。従って、外観性能が低下するとともに、隣接部品との合わせ精度を低下させるという問題点が指摘されている。
【0008】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、可動側金型と固定側金型の型締め後、キャビティ内に発泡樹脂材料を射出充填し、その後、可動側金型を後退させ、発泡スペースを確保した状態で発泡反応を開始させ、所要形状に成形してなる発泡樹脂成形品並びにその成形方法であって、特に、縦壁コーナー部等のR形状部分においてシャープで精度の良い形状出しが可能となり、外観性能を高めるとともに、隣接部品に対する合わせ精度を向上させた発泡樹脂成形品並びにその成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者等は鋭意研究の結果、製品周縁部に設定した縦壁部における内側コーナー部の近傍部分に変形規制用リブを設定することで、可動側金型の後退操作時に縦壁部における内側コーナー部が屈曲変形することを回避できることに着目し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、可動側金型と固定側金型との間に画成されるキャビティ内に発泡樹脂材料を射出充填した後、可動側金型を微小ストローク後退操作して、発泡スペースを確保した状態で上記発泡樹脂材料を発泡させることにより、所要形状に成形される発泡樹脂成形品であって、上記発泡樹脂成形品の周縁の全長、あるいは周縁の一部に縦壁部が設定され、この縦壁部の内側コーナー部よりやや中央寄りに変形規制用リブが形成されており、可動側金型の後退操作時、この変形規制用リブが固定側金型の凹溝により保持されることで、縦壁部における内側コーナー部の屈曲変形を防止したことを特徴とする。
【0011】
更に、本発明方法は、可動側金型と固定側金型との間に画成されるキャビティ内に発泡樹脂材料を射出充填した後、可動側金型を微小ストローク後退操作して、発泡スペースを確保した状態で上記発泡樹脂材料を発泡させることにより、所要形状に成形される発泡樹脂成形品の成形方法において、前記発泡樹脂成形品の周縁の全長、あるいは周縁の一部に縦壁部を形成するために、本体部用キャビティの外周縁に縦壁部用キャビティが設定されるとともに、縦壁部の内側コーナー部よりやや中央寄りに変形規制用リブを形成するために固定側金型のコーナー部よりやや中央寄りに凹溝が形成されており、発泡樹脂材料を射出充填した後、可動側金型を後退操作する際、縦壁部をフロート機構により型開き方向に押圧するとともに、縦壁部の内側コーナー部近傍に設けた変形規制用リブを固定側金型の凹溝内で保持することにより、縦壁部の内側コーナー部の屈曲変形を抑え、発泡樹脂成形品における表面側のコーナー部においてシャープでかつ精度の良い形状出しを行なうことを特徴とする。
【0012】
ここで、発泡樹脂成形品を成形するために使用する成形金型は、可動側金型と固定側金型と、固定側金型に連設されている射出機とから構成される。上記可動側金型は、駆動シリンダの動作により型開き位置から型締め位置(下死点)まで型締め動作を行なう。更に、発泡樹脂材料の発泡スペースを確保するために、型締め位置で発泡樹脂材料を射出充填した後、微小ストローク可動側金型が後退し、この後退位置で発泡成形が行なわれる。そして、発泡成形が終了すれば可動側金型は型開き位置まで動作する。すなわち、可動側金型は、型開き位置、型締め位置、型締め位置からややクリアランスを確保した発泡位置の3つのポジションをとることになる。一方、固定側金型には、射出機から供給される発泡樹脂材料を可動側金型と固定側金型との間に画成されるキャビティ内に射出充填するための樹脂通路として、ホットランナ、ゲート等が設けられている。また、発泡樹脂成形品を突き出すためのエジェクタピン等のエジェクタ機構が配設されているとともに、縦壁部の成形性を高めるためにキャビティ端末には、縦壁部を型開き方向に押圧するフロート機構が設けられている。
【0013】
従って、可動側金型と固定側金型との間で画成されるキャビティ形状は、発泡樹脂成形品の周縁の全長、あるいは周縁の一部に縦壁部が形成されるように、本体部用キャビティの周縁の全長、あるいは一部に縦壁部用キャビティが設定されている。更に、この縦壁部用キャビティの内側コーナー部に対応する固定側金型のコーナー部近傍部分には、凹溝が設けられており、この凹溝形状に沿って縦壁部の内側コーナー部付近に変形規制用リブが対応して形成されることになる。このリブの高さは、可動側金型が後退操作される際の後退ストローク量〜後退ストローク量+1.0mmの範囲が好ましい。すなわち、可動側金型の後退操作時において、凹溝から変形規制用リブが抜けないことが必要である。また、この変形規制用リブの厚みは、成形時にリブが曲がらないために強度を考慮して0.5mm以上に設定するのが好ましい。
【0014】
次いで、発泡樹脂成形品の素材は、熱可塑性樹脂中に発泡剤が混入されたものを使用する。例えば、使用する熱可塑性樹脂は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等から適宜選択される。そして、熱可塑性樹脂に対して混入する発泡剤としては、アゾジカルボンアミド等の有機発泡剤、あるいは重炭酸ナトリウム等の無機発泡剤を使用している。
【0015】
以上の構成から明らかなように、可動側金型と固定側金型との型締め動作により画成されるキャビティ内に発泡樹脂材料を射出充填した後、可動側金型を型開き方向に微小ストローク後退動作させて、発泡スペースを確保した状態で発泡樹脂材料の発泡反応を行なわせ、所要形状に発泡樹脂成形品を成形することができる。その際、発泡樹脂成形品の周縁の全長、あるいは周縁の一部に設けた縦壁部の内側コーナー部には、その近傍部分に下方向に伸びる変形規制用リブが形成されており、このリブは、固定側金型のコーナー部近傍に設けた凹溝内に収容され、可動側金型の後退操作時には、凹溝内で変形規制用リブが保持されるため、縦壁部の形状を精度良く保持することができることから、縦壁部における内側コーナー部に屈曲変形が生じることがなく、対応する製品表面部位には、シャープで精度の良いR形状を現出させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明した通り、本発明に係る発泡樹脂成形品並びにその成形方法は、成形金型のキャビティ内に発泡樹脂材料を射出充填した後、可動側金型を後退動作させて、所定厚みの発泡スペースを確保して発泡反応を開始させ、発泡樹脂成形品を所要形状に成形するというものであり、その際、製品の周縁全長、あるいは周縁の一部に縦壁部が設定されるとともに、縦壁部の内側コーナー部近傍に変形規制用リブが形成されており、可動側金型を後退操作する際、固定側金型の凹溝内に変形規制用リブを保持した状態で可動側金型の後退動作が行なわれるため、フロート機構により縦壁部を型開方向に押圧しても、縦壁部における内側コーナー部が屈曲変形することがなく、対応する製品表面側のR形状部位においてシャープで精度の良い形状出しが可能となり、外観性能を高めるとともに、隣接部品に対する合わせ精度を良好に維持できるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を適用したラゲージサイドトリムを示す正面図である。
【図2】図1中II−II線断面図である。
【図3】図1中III −III 線断面図である。
【図4】本発明方法に使用する成形金型の全体構成を示す説明図である。
【図5】図4に示す成形金型における縦壁部用キャビティ付近の構成を示す説明図である。
【図6】本発明方法における発泡樹脂材料の射出充填工程を示す説明図である。
【図7】縦壁部用キャビティにおける発泡樹脂材料の射出充填時の状態を示す説明図である。
【図8】本発明方法における可動側金型の後退操作時の状態を示す説明図である。
【図9】縦壁部用キャビティにおける可動側金型の後退操作時の状態を示す説明図である。
【図10】本発明方法における発泡樹脂材料の発泡成形工程を示す説明図である。
【図11】従来のドアトリムを示す正面図である。
【図12】従来のドアトリムを成形する際に使用する成形金型の全体構成を示す説明図である。
【図13】図12に示す成形金型における可動側金型のプレスチャート図である。
【図14】従来のドアトリムの成形工程を示す説明図である。
【図15】従来のドアトリムの成形方法における不具合点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る発泡樹脂成形品並びにその成形方法の一実施例について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、念のため付言すれば、本発明の要旨は特許請求の範囲に記載した通りであり、以下に説明する実施例の内容は、本発明の一例を単に示すものに過ぎない。
【実施例】
【0019】
図1乃至図10は本発明の一実施例を示すもので、図1は本発明に係る発泡樹脂成形品を適用したラゲージサイドトリムを示す正面図、図2,図3は同ラゲージサイドトリムの構成を示す各断面図、図4,図5は本発明方法に使用する成形金型を示す全体図並びに要部断面図、図6乃至図10は本発明方法の各工程を示す説明図である。
【0020】
図1乃至図3において、ラゲージサイドトリム10は、車両のラゲージルームの側壁パネルの室内面側に取り付けられる内装部品であり、トリムアッパー20とトリムロア30の上下二分割体から構成されている。トリムアッパー20及びトリムロア30には、それぞれ各種機能部品、例えば、備品を吊り下げるための多機能型フックや、空調用のエアグリル、あるいはスピーカグリル等がトリムアッパー20、あるいはトリムロア30と別体、あるいは一体に設けられているが、本発明の要旨ではないため、ここではこれら機能部品やその取付構造については省略する。
【0021】
上記トリムアッパー20には、合成樹脂の射出成形品が使用されており、合成樹脂材料としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等が使用できる。一方、トリムロア30には、軽量化に貢献でき、かつ側突時における衝撃吸収機能に優れた発泡樹脂成形品が使用されており、その素材としては、合成樹脂中に発泡剤が混入されたものを使用している。使用できる合成樹脂としては、トリムアッパー20における合成樹脂材料と同一であり、合成樹脂に混入される発泡剤としては、アゾジカルボンアミド等の有機発泡剤、あるいは重炭酸ナトリウム等の無機発泡剤を使用することができる。
【0022】
次に、図2に基づいて、トリムアッパー20とトリムロア30との接合構造について説明する。トリムアッパー20の下縁は、トリムロア30の表面の一部にオーバーラップしており、トリムアッパー20の裏面に横方向に所定ピッチ間隔で溶着用ボス21が立設されている。そして、この溶着用ボス21に対応して、トリムロア30には、取付孔31が開設されており、取付孔31内に溶着用ボス21を挿入した後、溶着用ボス21の先端を超音波溶着加工等でカシメ加工することにより、複数の固定ポイントでトリムアッパー20とトリムロア30とが強固に溶着一体化されている。尚、図示はしないが、トリムロア30は、表面のスキン層30aとその内部の発泡層30bの二層構造体から構成されている。
【0023】
ところで、本発明は、特に、トリムロア30に適用される発泡樹脂成形品並びにその成形方法に特徴があり、図3に示すように、トリムロア30は、製品一般部32の周縁全長、あるいは周縁の一部に縦壁部33が形成されており、この縦壁部33は、トリムロア30に質感を付与するとともに、外周縁部の剛性を強化する機能を備えている。更に、本発明においては、製品一般部32と縦壁部33との境界部に相当するコーナー部34においてシャープで精度の良い形状出しを可能とすることにより、外観性能を高め、かつ隣接部品との間に隙間等が生じることがなく、合わせ精度を良好に維持するようにしたことが特徴である。そのために、縦壁部33の内側コーナー部35よりやや中央寄りに変形規制用リブ36が設定されている。この変形規制用リブ36は内側コーナー部35から1〜5mmの範囲内に設定されており、変形規制用リブ36のリブ高さは1.5〜2.5mmで、板厚は1.0mmに設定されている。尚、この実施例では製品一般部32の厚みは3.5mmに設定されている。また、この変形規制用リブ36を設定することで、製品一般部32と縦壁部33との境界部分に位置するコーナー部34の形状出しをシャープかつ精度良く行なえる理由の説明については、後述するトリムロア30の成形方法における工程説明時に行なう。
【0024】
次いで、図4,図5を基に、ラゲージサイドトリム10におけるトリムロア30の成形に使用する成形金型40の全体構成について説明する。この成形金型40は、可動側金型50と、固定側金型60と、射出機70とフロート機構80とから大略構成されている。更に詳しくは、上記可動側金型50は、駆動シリンダの動作により、型締め位置、型開き位置に加えて、発泡位置の3つのポジションをとるように駆動される。一方、固定側金型60には、射出機70から供給される溶融樹脂の樹脂通路となるホットランナ61、ゲート62を通じて型面に発泡樹脂材料Mが供給されるとともに、成形後のトリムロア30を突き出すためのエジェクタピン63が内装されている。
【0025】
更に、可動側金型50と固定側金型60との間で画成されるキャビティC形状に沿って、トリムロア30が所要形状に成形されるが、トリムロア30の周縁に縦壁部33を延設するために、キャビティCとしては、本体部用キャビティC1の外周部に縦壁部用キャビティC2が設定されている。そして、縦壁部用キャビティC2内に充填される縦壁部33を精度良く成形するために、図5に示すように、縦壁部用キャビティC2の下方には、フロート機構80が設けられている。このフロート機構80は、フロート用ブロック81と駆動シリンダ82とからなり、可動側金型50が後退動作する際に同一のストローク分だけフロート用ブロック81が移動することにより、縦壁部33の形状出しを精度良く行なうことができる。また、本発明においては、製品一般部32と縦壁部33との境界に位置するコーナー部34のシャープな形状出しを行なうように、固定側金型60のコーナー部64から中央寄りに1〜5mmの距離に凹溝65が設けられている。この凹溝65は、図3に示す変形規制用リブ36を成形するためのもので、変形規制用リブ36のリブ高さ、板厚を確保するように、凹溝65の深さや幅寸法が調整されている。
【0026】
そして、図6乃至図10に基づいて、ラゲージサイドトリム10におけるトリムロア30の成形方法について説明する。まず、図6に示すように、固定側金型60に対して可動側金型50を駆動シリンダ51の動作により型締めした後、射出機70からホットランナ61、ゲート62を通じてキャビティC内に発泡樹脂材料Mが射出充填される。この時、キャビティCの外周に設定されている縦壁部用キャビティC2についても、図7に示すように、固定側金型60の凹溝65内に発泡樹脂材料Mが充填されることで、トリムロア30における縦壁部33の内側コーナー部35の近傍に変形規制用リブ36が一体成形される。
【0027】
次いで、発泡樹脂材料Mの射出充填工程が完了すれば、図8に示すように、可動側金型50が型開き方向に微小ストローク後退動作する。この可動側金型50の後退動作時には、製品一般部32の厚みが3.5mmになるように後退ストロークの寸法が設定され、半成形品Pと可動側金型50との間には、発泡スペースSが形成される。この時、図9に示すように、キャビティCの外周縁に設定されている縦壁部用キャビティC2について、フロート機構80が動作し、フロート用ブロック81が半成形品Pの縦壁部P1を型開き方向に押し上げ、特に、縦壁部33の内側コーナー部35の近傍に設定した変形規制用リブ36が固定側金型60の凹溝65内で保持された状態で、可動側金型50の後退動作に追随するため、縦壁部33の内側コーナー部35が屈曲変形することがなく、所定位置に位置決めすることができ、シャープで精度の良いコーナー部34の形状出しを行なうことができる。そして、図10に示すように、可動側金型50と固定側金型60とのクリアランスを3.5mmに維持した状態で発泡反応が開始され、スキン層30aの内部に発泡層30bを一体化した二層構造のトリムロア30を所要形状に成形することができる。
【0028】
このように、本発明においては、ラゲージサイドトリム10におけるトリムロア30の周縁に設定された縦壁部33の形状出しにおいて、特に縦壁部33の内側コーナー部35の近傍位置に変形規制用リブ36を一体化することで、可動側金型50の後退操作時、フロート機構80により縦壁部33を可動側金型50に追随させる際、変形規制用リブ36が固定側金型60の凹溝65内で保持され、縦壁部33における内側コーナー部35が屈曲変形することがなく、理想位置に位置決めできることから、内側コーナー部35と対応する製品表面側に位置するコーナー部34において、シャープでかつ精度の良い形状出しを行なうことができ、外観性能並びに隣接部品に対する合わせ精度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上説明した実施例は、上下二分割構造のラゲージサイドトリム10におけるトリムロア30に本発明品を適用したが、用途はこれに限定されることなく、発泡樹脂成形品全般に適用することができる。また、発泡樹脂材料Mの射出充填時、キャビティ内に圧空エアを供給するカウンタープレッシャー工法を採用することもできる。
【符号の説明】
【0030】
10 ラゲージサイドトリム
20 トリムアッパー
21 溶着用ボス
30 トリムロア
31 取付孔
32 製品一般部
33 縦壁部
34 コーナー部
35 内側コーナー部
36 変形規制用リブ
40 成形金型
50 可動側金型
51 駆動シリンダ
60 固定側金型
61 ホットランナ
62 ゲート
63 エジェクタピン
64 コーナー部
65 凹溝
70 射出機
80 フロート機構
81 フロート用ブロック
82 シリンダ
C キャビティ
C1 本体部用キャビティ
C2 縦壁部用キャビティ
M 発泡樹脂材料
P 半成形品
S 発泡スペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動側金型(50)と固定側金型(60)との間に画成されるキャビティ(C)内に発泡樹脂材料(M)を射出充填した後、可動側金型(50)を微小ストローク後退操作して、発泡スペース(S)を確保した状態で上記発泡樹脂材料(M)を発泡させることにより、所要形状に成形される発泡樹脂成形品(30)であって、
上記発泡樹脂成形品(30)の周縁の全長、あるいは周縁の一部に縦壁部(33)が設定され、この縦壁部(33)の内側コーナー部(35)よりやや中央寄りに変形規制用リブ(36)が形成されており、可動側金型(50)の後退操作時、この変形規制用リブ(36)が固定側金型(60)の凹溝(65)により保持されることで、縦壁部(33)における内側コーナー部(35)の屈曲変形を防止したことを特徴とする発泡樹脂成形品。
【請求項2】
可動側金型(50)と固定側金型(60)との間に画成されるキャビティ(C)内に発泡樹脂材料(M)を射出充填した後、可動側金型(50)を微小ストローク後退操作して、発泡スペースを確保した状態で上記発泡樹脂材料(M)を発泡させることにより、所要形状に成形される発泡樹脂成形品(30)の成形方法において、
前記発泡樹脂成形品(30)の周縁の全長、あるいは周縁の一部に縦壁部(33)を形成するために、本体部用キャビティ(C1)の外周縁に縦壁部用キャビティ(C2)が設定されるとともに、縦壁部(33)の内側コーナー部(35)よりやや中央寄りに変形規制用リブ(36)を形成するために固定側金型(60)のコーナー部(64)よりやや中央寄りに凹溝(65)が形成されており、発泡樹脂材料(M)を射出充填した後、可動側金型(50)を後退操作する際、縦壁部(33)をフロート機構(80)により型開き方向に押圧するとともに、縦壁部(33)の内側コーナー部(35)近傍に設けた変形規制用リブ(36)を固定側金型(60)の凹溝(65)内で保持することにより、縦壁部(33)の内側コーナー部(35)の屈曲変形を抑え、発泡樹脂成形品(30)における表面側のコーナー部(34)においてシャープでかつ精度の良い形状出しを行なうことを特徴とする発泡樹脂成形品の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−788(P2011−788A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145286(P2009−145286)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】