説明

発癌抑制用油脂含有組成物

【課題】 遺伝性癌あるいは職業癌の予防、または癌治療後の再発防止等に有効な発癌抑制剤を得ること、または発癌抑制の機能を有する飲食品を得ることを課題とする。
【解決手段】 甘草疎水性抽出物を溶解している油脂を含有することを特徴とする油脂含有組成物が発癌抑制作用を有することを見いだした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、又は医薬品、医薬部外品、化粧品などに使用することができる発癌抑制用の油脂含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の治療法に関しては、これまでに様々な研究がなされている。特に、治療剤については、数多くの研究および開発が行われ、実際に医療現場で使用されている薬剤もある。しかしながら、未だに癌を根治する特効薬はなく、現在使用されている抗癌剤あるいは免疫療法剤などの癌治療薬では、その治療効果の弱さと副作用の強さとが問題となっている。このような癌発生後の治療薬の問題点は、薬剤を正常細胞に影響を与えることなく癌細胞のみに特異的に作用させることの困難性、および化学合成物質の薬剤が本来的に有する安全性の問題に起因する。
【0003】
最近、癌発生後の治療薬とは別に、癌の発生を抑制するという観点で、発癌抑制物質の探索が特に重要視されている。有効な発癌抑制物質を抽出あるいは合成し薬剤として、発癌の抑制に用いることができれば、特に遺伝性癌あるいは職業癌の予防が可能となる。このような薬剤は、今後の新しい医療および日常生活における健康維持に大きく寄与すると考えられる。このような発癌抑制剤は、日常生活で手軽に摂取し得ることが好ましい。さらに、経口投与でも効果を示し、副作用のないことが必要条件である。しかしながら、これまでのところ、安全性に問題がない特定の発癌抑制物質を発癌予防あるいは治療用の薬剤として用いている例はない。
【0004】
甘草はマメ科カンゾウ属(Glycyrrhiza属)の植物であり、食用や医薬用(生薬)として利用されており、主な品種としてグリキルリーザ・グラブラ(Glycyrrhiza. glabra)、G.ウラレンシス(G. uralensis)、G.インフラータ(G. inflata)などが挙げられる。いずれの品種にも親水性成分であるグリチルリチン(グリチルリチン酸)は含まれているが、疎水性成分のフラボノイドは品種によって特異的な化合物が含まれている。この品種特異的なフラボノイドは、甘草の品種同定に利用されることもある。
【0005】
甘草から得られる抽出物のうち、甘草フラボノイドを多く含み、グリチルリチン含量が極微量である甘草疎水性抽出物は、マルチプル・リスク・ファクター症候群の予防及び/又は処置に有用であることが見出されている(特許文献1を参照)。さらに最新の研究において、この甘草疎水性抽出物がPPARγリガンド活性を有し、その活性成分はフラボノイドであることが見出されている(特許文献2を参照)。その中でも、G.グラブラ由来の抽出物に含有される特徴的なフラボノイドであるグラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン及びヒスパグラブリジンBが高いPPARγリガンド活性を有していることが見出されている(特許文献2参照)。
【0006】
一方、甘草疎水性抽出物に含まれる化合物、例えば甘草疎水性フラボノイドは、水にほとんど溶解せず、また、有機溶媒抽出物のままでは固結し易く、着色の進行も早いなど、経時的変化が著しいという性質があるため、利用し難い。それを解決するために、中鎖脂肪酸トリグリセリドに溶解して安定化して製剤化することが提案されている(特許文献3を参照)。特許文献3では、その甘草疎水性フラボノイド製剤を酸化防止剤、抗菌剤、酵素阻害剤、着色料、抗腫瘍剤、抗アレルギー剤、抗ウイルス剤として利用しうる可能性を示唆してはいるが、試験されておらず、実際上、これらの用途に用いることができるのかどうかは不明である。さらに、この文献では、甘草疎水性抽出物を得るための抽出溶剤の種類と用途との詳細な検討もなされていない。
【特許文献1】国際公開第02/047699号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/037316号パンフレット
【特許文献3】特許2794433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、発癌抑制用の油脂含有組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、本発明者らは、油脂含有組成物であって、甘草をアルコールと接触させて得たアルコール抽出物を油脂と接触させることにより得られる溶液が発癌抑制作用を有することを見出して、本発明の課題が達成された。よって、本発明が提供するのは、以下の通りである。
(1) 甘草疎水性抽出物を油脂と接触させることにより得られる溶液を含む発癌抑制用油脂含有組成物。
(2) 甘草疎水性抽出物として、成人一人一日当たり0.45〜3.6mg/kg体重を摂取できる量である、上記(1)1記載の組成物。
(3) 油脂が、中鎖脂肪酸トリグリセリド及び/または脂肪酸部分グリセリドを含むグリセリン脂肪酸エステルを含む、上記(1)記載の組成物。
(4) 油脂が、中鎖脂肪酸トリグリセリドを50重量%以上含むグリセリン脂肪酸エステルを含む、上記(1)記載の組成物。
(5) 油脂が、脂肪酸部分グリセリドを50重量%以上含むグリセリン脂肪酸エステルを含む、上記(4)記載の組成物。
(6) 飲食用である上記(1)〜(5)のいずれか1項記載の組成物。
(7) 医薬用である上記(1)〜(5)のいずれか1項記載の組成物。
(8) 甘草疎水性抽出物を油脂と接触させることを特徴とする、発癌予防及び/または癌治療用組成物の製造方法。
(9) 甘草疎水性抽出物を油脂と接触させることにより得られる溶液を有効成分として投与することを特徴とする、発癌予防方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、又は医薬品、医薬部外品、化粧品などに利用することができる癌予防または処置用の油脂含有組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
1実施態様では、本発明は、甘草から有機溶媒により抽出された甘草疎水性抽出物を油脂と接触させて得られる溶液を含む、癌予防または処置用の油脂含有組成物を提供する。
【0011】
ここで述べる油脂含有組成物とは、甘草疎水性抽出物を油脂に溶解したままの組成物、甘草疎水性抽出物を溶解した油脂から不溶性不純物を除去した組成物、さらにそれに油脂を添加した組成物、あるいは該組成物から疎水性抽出溶剤を除去した組成物を含むもので、また、これらの組成物を含有してなる飲食用、医薬用、医薬部外用等の組成物である。すなわち、甘草疎水性抽出物を油脂に溶解した組成物、及びこれに他の成分を混合してなる組成物、さらにはこれを加工してなる飲食用、医薬用、医薬部外用等の組成物のいずれも本発明の油脂含有組成物に含まれる。
油脂含有組成物中の甘草疎水性抽出物の量は特に制限されないが、油脂への溶解性の観点から、疎水性抽出溶媒を含まない量に換算して、上限は30重量%以下が好ましく、甘草疎水性抽出物の有効性の観点から、下限は0.01重量%以上が好ましい。より好ましくは、油脂含有組成物中0.1〜30重量%であり、更に好ましくは1〜10重量%である。
【0012】
本発明に用いられる甘草材料は、マメ科カンゾウ属(Glycyrrhiza属)の植物であれば限定されず、グリキルリーザ・グラブラ(Glycyrrhiza. glabra)、G.ウラレンシス(G. uralensis)、G.インフラータ(G. inflata)などが挙げられる。中でも安全性の観点から、最も分布が広く食経験も豊かなG.グラブラ種の甘草が好ましい。
【0013】
本発明において、甘草疎水性抽出物を得る方法は特に限定されないが、G.グラブラ種の甘草より得ることができる。該抽出物を甘草から得る場合、その方法は特に限定されないが、アルコール、酢酸エチル、アセトンなどの有機溶媒による抽出で得ることができるが、飲食用、医薬用、医薬部外用等に用いることからアルコール、とりわけエタノールによる抽出が好ましい。エタノールは食品、医薬品の製造に用いられるものであれば特に限定されないが、疎水性成分の抽出を目的とすることから、その含水率は30%以下、好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下である。
【0014】
アルコールと甘草材料の重量比は、特に限定されないが、抽出効率の観点から、好ましくは0.5:1〜20:1、より好ましくは1:1〜10:1である。また、抽出温度及び抽出時間については特に限定されないが、抽出率を上げるために20℃以上、好ましくは20〜80℃、更に好ましくは30〜60℃の条件で、抽出時間を1時間以上、好ましくは1〜10時間、更に好ましくは1〜3時間行うことが好ましい。更に抽出回数を複数回行うことにより、甘草材料から疎水性成分を効率よく抽出することが可能であり、少なくとも2回以上抽出することが好ましい。
【0015】
この様にして得られる抽出物は、そのまま使用してもよいが、さらにカラム処理、脱臭処理、脱色処理などにより粗精製又は精製したもの、さらにまたそれらから溶剤を除去した固形物を使用してもよい。また、該抽出物は、精製したものを使用することができるが、飲食品、医薬品、医薬部外品などとして不適当な不純物を含有しない限り粗精製したものを使用することもできる。
【0016】
本発明で使用される油脂は、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含むグリセリン脂肪酸エステルであって、好ましくは中鎖脂肪酸トリグリセリドを約50重量%以上含むグリセリン脂肪酸エステル、より好ましくは中鎖脂肪酸トリグリセリドを約70重量%以上含むグリセリン脂肪酸エステルである。ここでの中鎖脂肪酸トリグリセリドは、炭素原子数約6〜12の脂肪酸を構成脂肪酸とし、その脂肪酸の構成比率は特に限定されないが、炭素原子数約8〜10の脂肪酸の構成比率は約50重量%以上が好ましく、約70重量%以上がより好ましい。とりわけ、約20℃での比重が約0.94〜0.96、約20℃での粘度が約23〜28cPの中鎖脂肪酸トリグリセリドがさらに好ましい。また、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、天然由来のものやエステル交換などにより調製したものなど、いずれも使用することができる。
【0017】
また、本発明で使用される油脂は、脂肪酸部分グリセリドを含むグリセリン脂肪酸エステルであって、好ましくは部分グリセリドを約50重量%以上含むグリセリン脂肪酸エステル、より好ましくは部分グリセリドを約70重量%以上含むグリセリン脂肪酸エステルである。ここでの部分グリセリドとは、ジグリセリド(1,2−ジアシルグリセロール、1,3−ジアシルグリセロール)又はモノグリセリド(1−モノアシルグリセロール、2−モノアシルグリセロール)であり、いずれを用いても良いし、両者が混合されたものを用いても良く、構成脂肪酸についても特に限定されないが、加工性の観点から不飽和脂肪酸および/または中鎖脂肪酸からなるジグリセリドが好ましい。また、部分グリセリドは、天然由来のものやエステル交換などにより調製したものなど、いずれも使用することができる。さらに、本発明で使用される油脂は、上記の中鎖脂肪酸トリグリセリドと部分グリセリドが混合されたものを用いることもできる。
【0018】
本発明において、油脂含有組成物を得る方法は特に限定されないが、上記甘草疎水性抽出物を油脂に溶解することによって得ることが出来る。この場合、通常の撹拌又は混合などの操作により実施できるが、撹拌又は混合などの操作により該抽出物を油脂に溶解した後に、ろ過又は遠心分離などの操作により油脂に不溶な不純物を除去することが望ましい。或いは、WO03/84556記載の方法が好適である。例えば、甘草原料から直接油脂により抽出することも可能であるが、甘草疎水性抽出物を含む有機溶媒、好ましくは、エタノール溶液と油脂を混合した後、エタノールを除去することによって得ることが出来る。さらに、本発明では、これらの甘草疎水性抽出物と油脂の混合物に対してさらに油脂を添加して、甘草疎水性抽出物と油脂の組成比を調整しても良い。
【0019】
一般に、甘草疎水性抽出物は、粉末状態において不安定であり、エタノールなどの有機溶媒へ溶解しても安定性は改善されない。しかし、該抽出物を本発明で使用する油脂に溶解することによりその安定性を改善することができる。また、該抽出物は難水溶性であることから、本発明で使用する油脂に溶解することによりその吸収性が向上することも期待できる。
【0020】
本発明の組成物は飲食用、医薬用または美容用に許容される担体を含んでいてもよい。該医薬用担体は、例えば経口、経腸、経皮、皮下、または非経腸投与のため好適な任意の不活性、有機または無機材料であり得、限定されないが水、ゼラチン、アラビアガム、ラクトース、微結晶性セルロース、スターチ、ナトリウムスターチグリコレート、燐酸水素カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、およびコロイド性二酸化ケイ素、などであることができる。そのような組成物はまた、他の薬理学的活性な剤、および通常の添加物、例えば安定剤、湿潤剤、乳化剤、香味剤、および緩衝剤、などを含みうる。
本発明の癌予防または処置用の油脂含有組成物は、グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を溶解している油脂を含有することを特徴としている。
【0021】
本発明において、グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBは、特に限定されないが、G.グラブラ種の甘草より得ることができる。該化合物を甘草から得る場合、その方法は特に限定されないが、アルコール、酢酸エチル、アセトンなどの有機溶媒による抽出で得られる甘草疎水性抽出物に該化合物は含まれ、抽出物のまま使用してもよいが、さらにカラム処理、脱臭処理、脱色処理などにより粗精製又は精製したものを使用してもよい。
【0022】
勿論、該化合物は、その他植物等の天然由来、化学合成あるいは培養細胞などにより生合成した化合物のいずれであっても使用することができる。また、該化合物は、精製したものを使用することができるが、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などとして不適当な不純物を含有しない限り粗精製したものを使用することもできる。
【0023】
該化合物の中でも、グラブリジンを含有し、かつグラブレン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を含有することが好ましい。さらに、グラブリジン及びグラブレンを含有し、かつグラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を含有することがより好ましい。とりわけ、グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBを全て含有していることが最も好ましい。
【0024】
グラブリジン(glabridin)、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン(3'-hydroxyl-4'-O-methylglabridin)、4'−O−メチルグラブリジン(4'-O-methylglabridin)、ヒスパグラブリジンB(hyspaglabridin B)はイソフラバン(isoflavan)に分類されるフラボノイドであり、下記一般式(1)にて表される化合物である。
【化1】

〔グラブリジンはR1=H、R2=OH、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジンはR1=OH、R2=OCH3、4'−O−メチルグラブリジンはR1=H、R2=OCH3、ヒスパグラブリジンBはR1〜R2が−CH=CH−C(CH32−O−で六員環を構成する。〕
【0025】
グラブレン(glabrene)は、イソフラブ−3−エン(isoflav-3-ene)に分類されるフラボノイドであり、下記一般式(2)で表される化合物である。
【化2】

【0026】
グラブロール(glabrol)は、フラバノン(flavanone)に分類されるフラボノイドであり、下記一般式(3)で表される化合物である。
【化3】

【0027】
グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBは、甘草の中でもグリキリーザ・グラブラ(Glycyrrhiza glabra)に特異的に含まれる成分であり、他品種にはほとんど含まれていない。ただし、G.グラブラと他品種との雑種においては含まれる場合もある。該化合物は、ODSなどの逆相カラムを用いたHPLC分析により、他のフラボノイド成分と分離して検出、定量することができる。
得られる油脂抽出物に所望により他の担体を添加して、油脂含有組成物を製造できる。
【0028】
該化合物を含む抽出物、あるいは該化合物の粗精製品を用いる場合、該化合物以外の不純物が含まれているため、撹拌又は混合などの操作により該化合物を油脂に溶解した後に、ろ過又は遠心分離などの操作により油脂に不溶な不純物を除去することが望ましい。該化合物の精製品を用いる場合、容易に均一な溶液を得ることができる。また、該化合物を含む抽出物、あるいは該化合物の粗精製品を用いる場合、予めエタノールなどの有機溶媒に溶解し、その溶液と油脂を混合した後に、有機溶媒を留去することもできる。
【0029】
本発明において、グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBを油脂に溶解する方法は、特に限定されず、通常の撹拌又は混合などの操作により実施できる。
【0030】
一般に、グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBは、粉末状態において不安定であり、エタノールなどの有機溶媒へ溶解しても安定性は改善されない。しかし、該化合物を本発明で使用する油脂に溶解することによりその安定性を改善することができる。油脂は、前の実施態様と同様である。
【0031】
本発明の癌予防または処置用の油脂含有組成物について、その形態は特に限定されず、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、又は医薬品、医薬部外品、化粧品などに利用することができる。例えば、グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBよりなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を溶解している油脂を、そのまま単独で調理用、ソフトカプセル製剤用、ローション用などとして利用することができる。また、油性の対象物と自由に混和することができるため、目的に応じて他の油脂と混合して物性を調整することが可能である。この場合、他の油脂は食品又は医薬品であることが好ましく、その種類及び使用量は、個々の製品に要求される物性や使用温度域などの諸条件を考慮して決定され、その種類及び使用量を調整することにより稠度や融点などの特性をコントロールすることができる。例えば、コーン油、ナタネ油、ハイエルシンナタネ油、大豆油、オリーブ油、紅花油、綿実油、ヒマワリ油、米糠油、パーム油、パーム核油などの植物油、魚油、牛脂、豚脂、乳脂、卵黄油などの動物油、又はこれらを原料として分別、水添、エステル交換などを行った油脂、あるいはこれらの混合油を使用することができる。
【0032】
このようにして得られる油脂含有組成物は、サラダ油やフライ油などの液状油脂、マーガリンやショートニングなどの可塑性油脂としての利用や、油中水型エマルジョン、水中油型エマルジョンへ利用することができる。また、これらを原材料にして製造される飲食用の油脂含有組成物として、チューインガム、チョコレート、キャンディー、ゼリー、ビスケット、クラッカーなどの菓子類、アイスクリーム、氷菓などの冷菓類、乳飲料、清涼飲料、栄養ドリンク、美容ドリンクなどの飲料、うどん、中華麺、スパゲティー、即席麺などの麺類、蒲鉾、竹輪、半片などの練り製品、ドレッシング、マヨネーズ、ソースなどの調味料、パン、ハム、スープ、各種レトルト食品、各種冷凍食品などが例示され、ペットフードや家畜飼料などへも利用することができる。
【0033】
さらに、栄養強化を目的として、ビタミンA,D,Eなどの各種ビタミン類を添加、併用してもよいし、呈味剤としての各種塩類、各種香料、乳関連物質、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、発酵乳、乳脂肪などを添加、併用してもよい。また、上記以外の原材料として、通常の油中水型エマルジョン、水中油型エマルジョンに使用される酸化防止剤、着色剤などを全て使用することができる。
【0034】
本発明の発癌予防及び/又は抑制用の油脂含有組成物に含まれるグラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBが、その発癌予防及び/又は抑制の効果を発揮するためには、甘草抽出物として、成人一日一人当たり0.01〜10mg/kg体重、好ましくは0.45〜3.6mg/kg体重を摂取できる量の該化合物を油脂含有組成物中に含んでいることが望ましい。尚、該化合物の含量は、ODSなどの逆相カラムを用いたHPLC分析によって測定した。
【0035】
本明細書にいう用語「発癌抑制」とは、癌細胞の発生を抑制することおよび一旦発生した癌細胞の増殖を抑制することを意味する。本発明の発癌抑制剤により抑制される腫瘍の種類は、限定されない。すなわち、上皮性腫瘍、非上皮性腫瘍さらにはその良性、悪性を問わない。例えば、体内の各種臓器である、胃、腸、肺、肝臓、腎臓、膵臓、胆嚢、子宮、卵巣、精巣、前立腺、あるいは脳などに発生する上皮性腫瘍および非上皮性腫瘍、神経系腫瘍、骨腫瘍、リンパ系腫瘍などの腫瘍であり得る。
【0036】
本発明の発癌抑制剤を投与する場合あるいは飲食品として摂取する場合の例としては、遺伝性癌の予防、環境あるいは生活習慣に起因する癌の予防、あるいは腫瘍摘出手術後の再発および癌転移の予防、あるいは癌治療の1つとしての投与が挙げられる。より具体的には、遺伝子診断により、将来発癌する可能性が高いと認められる者が、発症前に本発明の癌抑制剤を予防的に摂取する場合、喫煙習慣のある者や放射性物質に暴露される職業に従事する者が予防的に摂取する場合、または化学療法としての抗癌剤投与に代わってあるいはそれと並行して投与する場合等がある。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
【0038】
アフガン産甘草(G.グラブラ)9.85kgからエタノール抽出(49.25L、45℃、2時間、2回抽出)、次いで濃縮により濃縮液4.4Lを得た。そのうち3Lを更に濃縮して、活性炭処理、濃縮により甘草疎水性抽出物を含有したエタノール溶液811.2gを得た。
上記のエタノール溶液629.2g(甘草疎水性抽出物125.8gを含有する)と中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)であるアクターM−2(理研ビタミン(株):脂肪酸組成はC8:C10=99:1)187.6gを混合し、約80℃に保温しながら約1時間撹拌した後、減圧濃縮によりエタノールを除去した。吸引ろ過により不溶分を分離し、ろ別後のろ液にMCT45.7gを更に添加して、MCT溶液297.0gを得た。得られたMCT溶液1gをHPLC用メタノールに溶解し、全量を100mlとした。この溶液を試料として下記の条件にてHPLC分析を行った結果、MCT溶液1gあたりにグラブレン、グラブリジン、グラブロール、4'−O−メチルグラブリジンがそれぞれ6.6mg、30.8mg、12.6mg、3.7mg含まれていた。
グラブレン、グラブリジン、グラブロール、4'−O−メチルグラブリジンを含む甘草抽出物は、MCT溶液の約30重量%であった。
【0039】
HPLC分析条件
分析カラムは、J’sphere ODS−H80,4.6×250mm(ワイエムシィ)をカラム温度40℃にて使用した。移動相は、20mMリン酸水溶液に対してアセトニトリルの比率を分析開始から20minまで35%で一定とし、20min以降75min後に70%となるように一定の比率で上昇させ、75minから80minまで80%で一定とするグラジエント条件で、流速1ml/minとした。注入量は20μlとし、検出波長は254nmとした。各化合物の保持時間は、グラブレンが40.0min、グラブリジンが50.2min、グラブロールが58.3min、4'−O−メチルグラブリジンが66.8minであった。
<実施例2>
【0040】
発癌抑制作用
実施例1のMCT溶液の発癌への影響を調べるため中期肝発癌性試験法(伊東テスト)を用いた検索を実施した。本試験法は、げっ歯類を用いた二段階発癌モデルの1つであり、ラット肝臓を標的としたものである。本試験法を用いて既に313以上の化学物質が検索されており、発癌物質あるいは発癌抑制物質を検索する上で、信頼性の高い有用な検索法とされている。よって日・米・EU三極医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議(ICH)においても従来の長期癌原性試験の代替試験として認められている。さらに、本試験は「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成9年3月26日厚生省令第21号)に基づくGLP(Good Laboratory Practice)基準に準拠して実施しており、試験結果の信頼性は充分に高い。
6週齢のF344系雄ラット100匹からコンピューターを用いた乱塊法により平均体重に統計学的有意差が生じないように7群(第1−5群:15匹、第6,7群:9匹)に群分けした。肝発癌に対するイニシエーション処置のため、ラットにジエチルニトロサミン (DEN) を200 mg/kgの用量で1回腹腔内に投与し、その2週間後から、被験物質であるMCT溶液を0(対照群)、150、300および600 mg/kgの投与量で1日1回、7回/週の頻度で6週間強制経口投与した(第1−4群)。試験に用いたMCT溶液の150、300および600 mg/kgは、有効成分である甘草抽出物に換算すると45、90および180mg/kg体重に相当する。また、フェノバルビタールナトリウム塩(S.PB)を陽性対照群として500 ppmの濃度で混餌投与した(第5群)。なお、DEN無処置の対照群および被験物質600mg/kg群も設けた(第6,7群)。実験第3週経過時(被験物質投与開始1週後)に全動物について部分肝切除術を施行し、肝臓の病変を増幅させた。実験開始8週間経過後(被験物質投与期間終了後)に全てのラットを屠殺剖検し、肝臓を摘出した。それぞれの肝臓から3片の組織を切りだし10%緩衝ホルマリン液にて固定後、パラフィンブロックを作製、薄切して組織標本を作製した。得られたラット肝臓の組織標本について、肝臓の前癌病変の指標である胎盤型グルタチオンS−トランスフェラ−ゼ(GST-P)の発現をアビジン−ビオチン複合体法による免疫組織化学染色を用いて調べた。肝臓切片の面積および直径0.2mm以上のGST-P陽性細胞巣の個数および面積を、病理標本画像解析装置IPAP-WIN(住化テクノサービス株式会社)を用いて計測した後、肝臓切片1cm2当たりの個数および面積を算出し、定量的解析を行った。また、第6および7群の各3例については免疫組織化学的検査に供した肝臓の残りから1部を採取し、4%グルタールアルデヒドで固定後、電子顕微鏡検査を実施した。統計学的解析は、第1群と第2〜4群間の体重、器官重量および肝臓の免疫組織化学的検査における平均値の差の検定については、5%有意水準でBertlett法による等分散検定を行った。等分散の場合はパラメトリックのDunnett法による片側検定を行い、不等分散の場合はノンパラメトリックのSteel法による片側検定を行った。なお、DEN処置の第1群(対照群)と第5群(S.PB群)間およびDEN無処置の第6群(対照群)と第7群(600 mg/kg群)間の平均値の差の検定についてはF検定を用い、等分散である場合はstudentのt検定(片側)を用い、等分散でない場合にはWelch検定(片側)を用いた。肝臓重量およびGST-P陽性細胞巣の定量的解析の結果を表1および表2に示す。
投与期間中、被験物質投与に起因する一般状態の変化、死亡動物、摂餌量および体重変化を認めなかった。摂水量では、DEN処置の300および600 mg/kg群(第3および4群)およびDEN無処置の600 mg/kg群(第7群)において持続的な高値傾向を示したことから被験物質投与の影響と考えられた。肝臓重量では、DEN処置の300および600 mg/kg群(第3および4群)で絶対および相対重量の有意な高値を認め、150 mg/kg群(第2群)では相対重量の有意な高値を認めた。さらにDEN無処置の600mg/kg群(第7群)においても、絶対および相対重量の有意な高値を認めたことから被験物質投与の影響と考えられたが、その程度は軽度であり、光学顕微鏡レベルでは組織学的に差異は認められなかった。さらに、DEN無処置の600 mg/kg群(第7群)で実施した肝臓の電子顕微鏡学的検査でも何らの変化も認めなかった。よって肝臓重量の増加は毒性とは判断されなかった。肝臓のGST-P陽性細胞巣の計測では、DEN処置の600 mg/kg群(第4群)における単位面積当りの数が対照群(第1群)と比較して有意な低値を示し、単位面積当りの面積については150および600 mg/kg群(第2および4群)で有意な低値を示した。
一方、陽性対照のS.PB群(第5群)のGST-P陽性細胞巣の計測では、単位面積当りの個数および面積ともに明らかな高値が認められ、本試験の妥当性が証明された。なお、肝臓においてペルオキシソーム増殖性を示す化合物は本試験系において偽陰性あるいは偽抑制作用を示すことが知られているが、上述したようにDEN無処置の600 mg/kg群(第7群)で実施した肝臓の電子顕微鏡学的検査では、肝細胞内のペルオキシソーム増殖性を認めなかったことより、本試験結果における偽陰性および偽抑制作用の可能性が否定された。
以上、MCT溶液を150、300および600 mg/kgの用量で強制経口投与した結果、いずれの用量においてもGST-P陽性細胞巣の個数および面積に増加を認めず、600mg/kgでは逆に減少が認められた。よってMCT溶液はラット肝臓において発癌促進作用を有さず、発癌抑制作用を有することが明らかとなった。
ラットに比べてヒトの感受性は約50〜100倍高いことが知られている。したがって、MCT溶液150〜600 mg/kg(すなわち、有効成分である甘草抽出物換算で45〜180mg/kg)の用量でラットが発癌抑制作用を有するということは、ヒトでは、甘草抽出物0.45〜3.6mg/kg用量で発癌抑制作用を有すると推定される。
【表1】

【表2】

<実施例3>
【0041】
ソフトカプセル剤の製造
実施例1のMCT溶液を、ロータリー式ソフトカプセル製造装置を用いてゼラチン皮膜に圧入し、内容量350mgのソフトカプセル剤を得た。
<実施例4>
【0042】
マーガリンの製造
硬化綿実油(商品名:スノーライト、株式会社カネカ)80重量部、実施例1のMCT溶液20重量部、無塩バター(四つ葉乳業(株))10重量部に、グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーMS、理研ビタミン(株))0.2重量部、レシチン0.2重量部を添加し、60℃に加熱溶解し油相を調製した。
調製された油相84.9重量部に撹拌しながら水15.1重量部を添加し、20分間乳化を行った後、コンビネーターで冷却捏和してマーガリンを作製した。
<実施例5>
【0043】
濃縮乳の製造
実施例1のMCT溶液10重量部を70℃に加温後、レシチン0.1重量部及びポリグリセリン脂肪酸エステル0.1重量部を順次溶解して油相を作製した。
脱脂粉乳25重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.1重量部、ショ糖脂肪酸エステル0.1重量部を60℃の水64.6重量部に溶解して水相を調製した。
調製した水相と油相を予備乳化した後、UHT殺菌機にて145℃で4秒間殺菌した。次いで真空冷却した後、均質化機により10MPaの圧力で均質化し、更に10℃までプレート冷却して加工用濃縮乳を得た。
<実施例6>
【0044】
マヨネーズの製造
醸造酢10重量部、食塩1重量部、砂糖0.6重量部、マスタード粉末0.2重量部、グルタミン酸ナトリウム0.2重量部を混合器の中に加え、15〜20℃下で攪拌・混合し水相を調製した。その後、米白絞油68重量部、実施例1のMCT溶液10重量部に卵黄10重量部を加え、攪拌乳化して得た乳化液(10〜15℃)を少しずつ加えながら15〜20℃下で攪拌し、予備乳化した。次いで、コロイドミルを用いて仕上げ乳化を行いマヨネーズを得た。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘草疎水性抽出物を油脂と接触させることにより得られる溶液を含む発癌抑制用油脂含有組成物。
【請求項2】
甘草疎水性抽出物として、成人一人一日当たり0.45〜3.6mg/kg体重を摂取できる量である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
油脂が、中鎖脂肪酸トリグリセリド及び/または脂肪酸部分グリセリドを含むグリセリン脂肪酸エステルを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
油脂が、中鎖脂肪酸トリグリセリドを50重量%以上含むグリセリン脂肪酸エステルを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
油脂が、脂肪酸部分グリセリドを50重量%以上含むグリセリン脂肪酸エステルを含む、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
飲食用である請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
医薬用である請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
甘草疎水性抽出物を油脂と接触させることを特徴とする、発癌予防及び/または癌治療用組成物の製造方法。
【請求項9】
甘草疎水性抽出物を油脂と接触させることにより得られる溶液を有効成分として投与することを特徴とする、発癌予防方法。


【公開番号】特開2006−306855(P2006−306855A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92683(P2006−92683)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】