説明

発進制御装置

【課題】ドライバの発進意図の有無を正確に判定する。
【解決手段】発進制御装置(ECU200)は、クラッチストロークセンサ129を介して、クラッチペダル10のストロークを検出する位置検出部201と、位置検出部201による検出結果に基づいて、ドライバの発進意図の有無を判定する意図判定部205と、意図判定部205によって、ドライバの発進意図が無いと判定された場合に、車両の発進を禁止する発進禁止部206と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニュアルトランスミッションが搭載された車両において発進の許否を判定し、車両の発進を制御する発進制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃費性能を向上するために、予め設定されたアイドリング停止条件が満たされる場合に、エンジンのアイドリングを停止させ、エンジンのアイドリングが停止された後、予め設定された再始動条件が満たされる場合に、エンジンの再始動を行う車両が知られている。
【0003】
なお、マニュアルトランスミッションが搭載された車両において、上記アイドリングの停止及び再始動を行う場合には、上記再始動条件は、例えば、ドライバによってクラッチペダルが踏み込まれ、且つ、変速機の変速位置がニュートラル以外であることである。また、上記再始動条件が満たされると、エンジンの再始動を行うべくスタータモータの駆動が開始される。そして、このスタータモータの駆動は、エンジンの再始動を確実に行うために、エンジンの回転速度が予め設定された始動回転速度に到達するまで継続される。
【0004】
一方、上記再始動条件が満たされた後に、例えば、ドライバがクラッチクラッチペダルを誤って踏み外した場合には、車両がドライバの意図しない発進をする虞がある。この課題を解消するために、例えば、クラッチペダルの戻り速度が基準値以上となった場合には、車両がドライバの発進意図が無いとして、エンジンの再始動を中断する車両の制御装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−92453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の車両の制御装置では、クラッチペダルの踏み外し等の誤操作を検出することはできるものの、ドライバの発進意図の有無を正確に判定することは困難であった。すなわち、例えば、ドライバが初心者である場合、又は、高齢者である場合には、クラッチペダルの操作が全般的に遅いために、ドライバに発進意図が無いときであっても、クラッチペダルの戻り速度が基準値未満となることがある。このような場合には、ドライバの発進意図の有無を正確に判定することができないことになるからである。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、ドライバの発進意図の有無を正確に判定することの可能な発進制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る発進制御装置は、以下のように構成されている。
【0009】
すなわち、本発明に係る発進制御装置は、マニュアルトランスミッションが搭載された車両において発進の許否を判定し、車両の発進を制御する発進制御装置であって、クラッチペダルのストロークを検出する位置検出手段と、前記位置検出手段による検出結果に基づいて、ドライバの発進意図の有無を判定する意図判定手段と、前記意図判定手段によって、ドライバの発進意図が無いと判定された場合に、前記車両の発進を禁止する発進禁止手段と、を備えることを特徴としている。
【0010】
かかる構成を備える発進制御装置によれば、クラッチペダルのストロークの検出結果に基づいて、ドライバの発進意図の有無が判定されるため、例えば、半クラッチ領域におけるクラッチペダルのストロークの移動速度に基づいてドライバの発進意図の有無を判定することが可能になるので、ドライバの発進意図の有無を正確に判定することが可能となる。また、ドライバの発進意図が無いと判定された場合に、車両の発進が禁止されるため、車両の発進を的確に禁止することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る発進制御装置は、前記位置検出手段による検出結果に基づいて、予め設定された半クラッチ領域におけるクラッチペダルのストロークの移動速度である第1速度を求める第1速度算出手段を更に備え、前記意図判定手段が、前記第1速度に基づいて、ドライバの発進意図の有無を判定することが好ましい。
【0012】
かかる構成を備える発進制御装置によれば、クラッチペダルのストロークの検出結果に基づいて、予め設定された半クラッチ領域におけるクラッチペダルのストロークの移動速度である第1速度が求められ、求められた第1速度に基づいて、ドライバの発進意図の有無が判定されるため、ドライバの発進意図の有無を正確に判定することができる。
【0013】
すなわち、マニュアルトランスミッションが搭載された車両において、車両をスムーズに発進するためには、半クラッチ領域において、クラッチペダルのストロークの移動速度である第1速度を低減する(換言すれば、クラッチを緩やかに係合させる)必要がある。したがって、前記第1速度に基づいて、ドライバの発進意図の有無を正確に判定することができるのである。
【0014】
また、本発明に係る発進制御装置は、前記意図判定手段が、前記第1速度速度が、予め設定された速度閾値以上である場合に、ドライバの発進意図が無いと判定することが好ましい。
【0015】
かかる構成を備える発進制御装置によれば、半クラッチ領域におけるクラッチペダルのストロークの移動速度である第1速度が、予め設定された速度閾値以上である場合に、ドライバの発進意図が無いと判定されるため、速度閾値を適正な値に設定することによって、簡素な構成でドライバの発進意図の有無を正確に判定することができる。
【0016】
また、本発明に係る発進制御装置は、クラッチペダルがストロークの下限位置にあることを検出する下限検出手段と、前記位置検出手段による検出結果に基づいて、前記下限位置から前記半クラッチ領域の下端位置までの、クラッチペダルのストロークの移動速度である第2速度を求める第2速度算出手段とを更に備え、前記意図判定手段が、前記第1速度と前記第2速度とに基づいて、ドライバの発進意図の有無を判定することが好ましい。
【0017】
かかる構成を備える発進制御装置によれば、半クラッチ領域におけるクラッチペダルのストロークの移動速度である第1速度と、クラッチペダルのストロークの下限位置から半クラッチ領域の下端位置までの、クラッチペダルのストロークの移動速度である第2速度とに基づいて、ドライバの発進意図の有無が判定されるため、ドライバの発進意図の有無を更に正確に判定することができる。
【0018】
すなわち、マニュアルトランスミッションが搭載された車両において、車両をスムーズに発進させるためには、半クラッチ領域におけるクラッチペダルのストロークの移動速度である第1速度を低減する必要がある。また、マニュアルトランスミッションが搭載された車両において、車両を迅速に発進させるためには、クラッチペダルのストロークの下限位置から半クラッチ領域の下端位置までの、クラッチペダルのストロークの移動速度である第2速度を増大する必要がある。したがって、前記第1速度と前記第2速度とに基づいて、ドライバの発進意図の有無を更に正確に判定することができるのである。
【0019】
また、本発明に係る発進制御装置は、前記意図判定手段が、前記第2速度から前記第1速度を減じた差が、予め設定された速度差閾値以下である場合に、ドライバの発進意図が無いと判定することが好ましい。
【0020】
かかる構成を備える発進制御装置によれば、前記第2速度から前記第1速度を減じた差が、予め設定された速度差閾値以下である場合に、ドライバの発進意図が無いと判定されるため、速度差閾値を適正な値に設定することによって、ドライバの発進意図の有無を更に正確に判定することができる。
【0021】
また、本発明に係る発進制御装置は、前記車両が、予め設定されたアイドリング停止条件が満たされる場合に、内燃機関のアイドリングを停止させる停止手段と、前記停止手段によって前記内燃機関のアイドリングが停止された後、予め設定された再始動条件が満たされる場合に、前記内燃機関の再始動を行う再始動手段と、を備えることが好ましい。
【0022】
かかる構成を備える発進制御装置によれば、予め設定されたアイドリング停止条件が満たされる場合に、内燃機関のアイドリングが停止され、内燃機関のアイドリングが停止された後、予め設定された再始動条件が満たされる場合に、内燃機関の再始動が行われるため、内燃機関の再始動が頻繁に行われるので、本発明の効果が更に顕在化する。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る発進制御装置によれば、ドライバの発進意図の有無を正確に判定することができる。また、ドライバの発進意図が無いと判定された場合に、車両の発進を的確に禁止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る発進制御装置が搭載される車両のパワートレーン及びその制御系統の一例を示す構成図である。
【図2】図1に示す車両に搭載されるエンジンの一例を示す構成図である。
【図3】図1に示す車両に搭載されるクラッチの構成の一例を示す断面図である。
【図4】図1に示す車両に搭載されるクラッチペダルの位置を検出するセンサの一例を示す構成図である。
【図5】図1に示す車両に搭載される発進制御装置の一例を示す機能構成図である。
【図6】発進意図がある場合又は発進意図が無い場合における、クラッチペダルのストロークの変化の一例を示すグラフである。
【図7】図5に示す発進制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1は、本発明に係る発進制御装置が搭載される車両のパワートレーン及びその制御系統の一例を示す構成図である。本実施形態に係る車両は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型の車両であって、エンジン1、手動変速機(マニュアルトランスミッション)2、クラッチ3、差動歯車装置5、及び、ECU(Electronic Control Unit)200等を備えている。ここで、エンジン1は、特許請求の範囲に記載の「内燃機関」に相当する。
【0027】
図1に示すように、エンジン1の出力軸であるクランクシャフト15は、クラッチ3に連結されている。また、クラッチ3が継合状態になると、エンジン1の駆動力(駆動トルク)が、クランクシャフト15、クラッチ3、入力軸21、手動変速機2、ドライブシャフト4、差動歯車装置5、及び、車軸6を介して、駆動輪7へ伝達される。次に、エンジン1、手動変速機2、クラッチ3、及び、ECU200について、以下に説明する。
【0028】
−エンジン1−
まず、図2を参照して、本実施形態に係るエンジン1について説明する。図2は、図1に示す車両に搭載されるエンジン1の一例を示す構成図である。エンジン1は、例えば、多気筒ガソリンエンジンであって、燃焼室1aを形成するピストン1b、及び、出力軸であるクランクシャフト15(図1参照)を備えている。ピストン1bは、コネクティングロッド16を介して、クランクシャフト15に連結されている。また、ピストン1bの往復運動は、コネクティングロッド16によって、クランクシャフト15の回転運動へと変換される。
【0029】
クランクシャフト15には、シグナルロータ17が配設されている。シグナルロータ17の外周面には、複数の突起17aが等間隔で形成されている。シグナルロータ17の側方近傍には、エンジン回転数センサ124が配置されている。エンジン回転数センサ124は、例えば電磁ピックアップであって、クランクシャフト15が回転する際に、エンジン回転数センサ124に対向する位置を通過する突起17aの個数分のパルス状信号(出力パルス)を発生する。
【0030】
エンジン1の燃焼室1aには、点火プラグ103が配設されている。点火プラグ103の点火タイミングは、イグナイタ104によって調整される。イグナイタ104は、ECU200によって制御される。エンジン1のシリンダブロック1cには、エンジン水温(冷却水の水温)を検出する水温センサ121が配設されている。
【0031】
エンジン1の燃焼室1aには、吸気通路11と排気通路12とが接続されている。吸気通路11と燃焼室1aとの間には、吸気バルブ13が設けられている。吸気バルブ13を開閉駆動することによって、吸気通路11と燃焼室1aとが連通又は遮断される。また、排気通路12と燃焼室1aとの間には、排気バルブ14が設けられている。排気バルブ14を開閉駆動することによって、排気通路12と燃焼室1aとが連通又は遮断される。
【0032】
エンジン1の吸気通路11には、エアクリーナ107、エアフローメータ122、吸気温センサ123、及び、スロットルバルブ105等が配設されている。ここで、スロットルバルブ105は、エンジン1の吸入空気量を調整する。また、エンジン1の排気通路12には、O2センサ127、三元触媒108等が配設されている。ここで、O2センサ127は、排気ガス中の酸素濃度を検出する。
【0033】
エンジン1の吸気通路11に配設されたスロットルバルブ105は、スロットルモータ106によって駆動される。スロットルバルブ105の開度は、スロットル開度センサ125によって検出される。なお、スロットルバルブ105の開度(スロットル開度)は、スロットル開度センサ125によって検出される。また、スロットルモータ106は、ECU200によって駆動制御される。
【0034】
また、吸気通路11には、インジェクタ(燃料噴射弁)102が配設されている。インジェクタ102には、燃料ポンプによって燃料タンクから燃料(ここでは、ガソリン)が供給され、インジェクタ102によって吸気通路11に燃料が噴射される。噴射された燃料は、吸入空気と混合されて混合気となって、エンジン1の燃焼室1aに導入される。燃焼室1aに導入された混合気(燃料+空気)は、点火プラグ103によって点火されて燃焼、爆発する。混合気が燃焼室1a内で燃焼、爆発することによって、ピストン1bが図の上下方向に往復運動して、クランクシャフト15が回転駆動される。
【0035】
−手動変速機2−
図1に示す手動変速機2は、例えば、公知の同期噛み合い式のマニュアルトランスミッション(例えば、前進5段、後進1段)である。また、手動変速機2は、図1に示すように、入力軸21がクラッチ3を介してエンジン1のクランクシャフト15に接続され、クラッチ3が係合状態にある場合には、エンジン1からの駆動力(駆動トルク)を所定の変速比で変速してドライブシャフト4に伝達する。
【0036】
また、手動変速機2は、図1に示すシフト装置8のシフトレバー81で選択操作されたシフトポジションに対応する変速段を形成するべく作動する。なお、シフトレバー81で選択されたシフトポジションは、シフトポジションセンサ128によって検出される。
【0037】
−クラッチ3−
次に、図3を参照してクラッチ3の構成について説明する。図3は、図1に示す車両に搭載されるクラッチ3の構成の一例を示す断面図である。本実施形態に係るクラッチ3は、乾式単板の摩擦クラッチ30(以下、単に「クラッチ30」ともいう)、及び、クラッチ駆動装置300を備えている。
【0038】
クラッチ30は、フライホイール31、クラッチディスク32、プレッシャプレート33、ダイヤフラムスプリング34、及び、クラッチカバー35を備えている。フライホイール31は、クランクシャフト15に連結されている。また、フライホイール31には、クラッチカバー35が一体回転可能に取り付けられている。クラッチディスク32は、フライホイール31に対向して配置され、手動変速機2の入力軸21にスプライン嵌合によって固定されている。
【0039】
プレッシャプレート33は、クラッチディスク32とクラッチカバー35との間に配置されている。プレッシャプレート33は、ダイヤフラムスプリング34の外周部によってフライホイール31側へ付勢されている。このプレッシャプレート33への付勢力によって、クラッチディスク32とプレッシャプレート33との間、及び、フライホイール31とクラッチディスク32との間で、それぞれ摩擦力が発生する。これらの摩擦力によって、クラッチ30が接続(継合)された状態となり、フライホイール31、クラッチディスク32及びプレッシャプレート33が一体となって回転する。
【0040】
このようにして、クラッチ30が接続状態になると、クランクシャフト15と手動変速機2の入力軸21とが一体となって回転するため、エンジン1と手動変速機2との間でトルクが伝達される。
【0041】
クラッチ駆動装置300は、レリーズベアリング301、レリーズフォーク302、及び、油圧式のクラッチアクチュエータ303を備えており、クラッチ30のプレッシャプレート33を軸方向に(図3では左右方向に)変位させることによって、当該プレッシャプレート33とフライホイール31との間で、クラッチディスク32を挟持する状態、又は、クラッチディスク32から離間する状態に設定する。
【0042】
レリーズベアリング301は、手動変速機2の入力軸21に軸方向に(図3では左右方向に)変位可能に嵌合されており、ダイヤフラムスプリング34の中央部分に当接している。レリーズフォーク302は、レリーズベアリング301をフライホイール31に近接、離間する方向に(図3では左右方向に)移動させる部材である。クラッチアクチュエータ303は、油室303aを有するシリンダとピストンロッド303bとを備え、油圧によりピストンロッド303bを進退(前進、及び、後退)させることによって、レリーズフォーク302を、支点302aを中心として回動させる。
【0043】
クラッチアクチュエータ303の作動は、図1に示すクラッチペダル10の踏み込み量に基づいて、油圧制御回路304によって制御される。具体的には、図3に示す状態(クラッチ接続状態)から、クラッチペダル10が踏み込まれて、クラッチアクチュエータ303が駆動されてピストンロッド303bが前進する(図3では右向きに移動する)と、レリーズフォーク302が支点302aを中心として回動(図3では、時計周り方向に回動)され、これに伴ってレリーズベアリング301がフライホイール31側に(図3では左側に)向けて移動する。このようにして、レリーズベアリング301が移動することによって、ダイヤフラムスプリング34の中央部分(つまり、レリーズベアリング301に当接するダイヤフラムスプリング34の部分)が、フライホイール31側に(図3では左側に)向けて移動して、ダイヤフラムスプリング34が反転する。これによって、ダイヤフラムスプリング34から付与されるプレッシャプレート33の付勢力が弱くなり、クラッチディスク32とプレッシャプレート33との間、及び、フライホイール31とクラッチディスク32との間での、摩擦力が減少する結果、クラッチ30が切断(開放)された状態になる。
【0044】
逆に、クラッチ切断状態から、クラッチペダル10の踏み込みが解除されて、クラッチアクチュエータ303のピストンロッド303bが後退する(図3では左向きに移動する)と、ダイヤフラムスプリング34の弾性力によって、プレッシャプレート33がフライホイール31側(図3では左側に)に向けて付勢される。このプレッシャプレート33に付与されるダイヤフラムスプリング34からの付勢力によって、クラッチディスク32とプレッシャプレート33との間、及び、フライホイール31とクラッチディスク32との間で、それぞれ、摩擦力が増大し、これらの摩擦力によってクラッチ30が接続(継合)された状態になる。
【0045】
−クラッチペダル10の位置検出センサ129〜131−
次に、図4を参照してクラッチペダル10の位置を検出するセンサ129〜131の構成について説明する。図4は、図1に示す車両に搭載されるクラッチペダル10の位置を検出するセンサ129〜131の一例を示す構成図である。クラッチペダル10は、支軸10a、ペダル板10b、及び、回動部10cを備えている。
【0046】
支軸10aは、当該支軸10aを中心として回動部10cを回動自在に支持する。また支軸10aには、図略のバネが配設され、回動部10cを上向き(反時計回り)に付勢している。ペダル板10bは、回動部10cの先端部に固定され、ドライバによって踏み込まれるものである。
【0047】
ペダル板10bが、ドライバによって踏み込まれると、回動部10cは、支軸10aを中心として、下向き(時計回り)に回動する。また、支軸10a近傍に配設された図略のストッパによって、ペダル板10bの回動可能な範囲が、破線で示す矢印Vcの範囲に制限されている。
【0048】
支軸10aには、クラッチペダル10のストローク(位置)を検出するクラッチストロークセンサ129が配設されている。ここで、クラッチストロークセンサ129は、例えば、磁気抵抗素子を用いた回転角度検出センサ等である。
【0049】
また、矢印Vcで示すペダル板10bの回動可能な範囲の上端位置近傍には、クラッチペダル10が上限位置にあることを検出するクラッチ上限位置検出センサ130が配設されている。更に、矢印Vcで示すペダル板10bの回動可能な範囲の下端位置近傍には、クラッチペダル10が下限位置にあることを検出するクラッチ下限位置検出センサ131が配設されている。ここで、クラッチ上限位置検出センサ130及びクラッチ下限位置検出センサ131は、リミットスイッチ、近接スイッチ等である。
【0050】
なお、クラッチストロークセンサ129、及び、クラッチ下限位置検出センサ131は、本発明に係る発進制御装置の一部に相当する。具体的には、クラッチストロークセンサ129は、特許請求の範囲に記載の「位置検出手段」の一部に相当し、クラッチ下限位置検出センサ131は、特許請求の範囲に記載の「下限検出手段」の一部に相当する。
【0051】
また、本実施形態では、クラッチストロークセンサ129、クラッチ上限位置検出センサ130及びクラッチ下限位置検出センサ131が、クラッチペダル10の近傍に配設される場合について説明するが、クラッチストロークセンサ129、クラッチ上限位置検出センサ130及びクラッチ下限位置検出センサ131のうち、少なくとも1つが、図3に示すピストンロッド303bの近傍に配設されている形態でもよい。すなわち、本実施形態では、センサ129、130、131がクラッチペダル10の位置を直接検出する場合について説明するが、センサ129、130、131がクラッチペダル10が踏み込まれることに対応して作動するピストンロッド303b(図3参照)の位置を検出する形態でもよい。
【0052】
−ECU200−
次に、図5を参照してECU200の構成について説明する。図5は、図1に示す車両に搭載されるECU200の一例を示す機能構成図である。ECU200は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バックアップRAM等を備えている。
【0053】
ROMは、種々の制御プログラム等を記憶する。CPUは、ROMに記憶された種々の制御プログラムを読み出して各種処理を実行する。RAMは、CPUでの演算結果等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMは、エンジン1の停止時に保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0054】
また、ECU200には、水温センサ121、エアフローメータ122、吸気温センサ123、エンジン回転数センサ124、スロットル開度センサ125、アクセルペダル9(図1参照)の踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ126、O2センサ127、シフトポジションセンサ128、クラッチストロークセンサ129、クラッチ上限位置検出センサ130、クラッチ下限位置検出センサ131、及び、車速センサ132等が通信可能に接続されている。
【0055】
更に、ECU200には、制御対象として、インジェクタ102、点火プラグ103のイグナイタ104、スロットルバルブ105のスロットルモータ106等が通信可能に接続されている。そして、ECU200は、上記各種センサの出力に基づいて、インジェクタ102の燃料噴射制御、点火プラグ103の点火時期制御、スロットルモータ106の駆動制御等を含むエンジン1の各種制御を実行する。
【0056】
−発進制御装置の構成−
次に、図5を参照して本発明に係る発進制御装置の構成について説明する。ECU200は、ROMに記憶された制御プログラムを読み出して実行することによって、位置検出部201、下限検出部202、第1速度算出部203、第2速度算出部204、意図判定部205、発進禁止部206、停止部207、及び、再始動部208として機能する。ここで、位置検出部201、下限検出部202、第1速度算出部203、第2速度算出部204、意図判定部205、及び、発進禁止部206は、本発明に係る発進制御装置の一部に相当する。
【0057】
位置検出部201は、クラッチペダル10のストロークを検出する機能部である。ここで、位置検出部201は、特許請求の範囲に記載の「位置検出手段」の一部に相当する。また、位置検出部201は、具体的には、クラッチストロークセンサ129からクラッチペダル10のストロークを示すストローク信号を取得することによって、クラッチペダル10のストロークStを検出する。
【0058】
下限検出部202は、クラッチペダル10がストロークの下限位置にあることを検出する機能部である。ここで、下限検出部202は、特許請求の範囲に記載の「下限検出手段」の一部に相当する。下限検出部202は、具体的には、クラッチ下限位置検出センサ131からの検出信号に基づいて、クラッチペダル10がストロークStの下限位置にあることを検出する。
【0059】
第1速度算出部203は、位置検出部201による検出結果に基づいて、予め設定された半クラッチ領域Ah(図6参照)におけるクラッチペダル10のストロークStの移動速度である第1速度V1を求める機能部である。ここで、第1速度算出部203は、特許請求の範囲に記載の「第1速度算出手段」に相当する。具体的には、第1速度V1は、次の(1)式によって求められる。
【0060】
V1=(S3−S2)/P1 (1)
ここで、ストロークS3は、半クラッチ領域Ahの上端位置におけるクラッチペダル10のストロークStであり、ストロークS2は、半クラッチ領域Ahの下端位置におけるクラッチペダル10のストロークStである。また、期間P1は、クラッチペダル10のストロークStがストロークS2に到達した時点T2から、ストロークStがストロークS3に到達する時点T4までの期間である(図6参照)。
【0061】
本実施形態においては、第1速度算出部203が、第1速度V1として、半クラッチ領域Ahにおけるクラッチペダル10のストロークStの移動速度の平均値を求める場合について説明するが、第1速度算出部203が、第1速度V1として、半クラッチ領域Ahにおけるクラッチペダル10のストロークStの移動速度を求める形態であればよい。
【0062】
例えば、第1速度算出部203が、第1速度V1として、半クラッチ領域Ahにおけるクラッチペダル10のストロークStの移動速度の最小値(又は、最大値)を求める形態でもよい。
【0063】
第2速度算出部204は、位置検出部201による検出結果に基づいて、クラッチペダル10のストロークStの下限位置(ストロークS1)から半クラッチ領域Ahの下端位置(ストロークS2)までの、クラッチペダル10のストロークStの移動速度である第2速度V2を求める機能部である。ここで、第2速度算出部204は、特許請求の範囲に記載の「第2速度算出手段」に相当する。具体的には、第2速度V2は、次の(2)式によって求められる。
【0064】
V2=(S2−S1)/P2 (2)
ここで、ストロークS2は、半クラッチ領域Ahの下端位置におけるクラッチペダル10のストロークStであり、ストロークS1は、下限検出部202によってクラッチペダル10が下限位置にあると検出されたときの、クラッチペダル10のストロークStである。また、期間P2は、クラッチペダル10のストロークStがストロークS1に到達した時点T1から、ストロークStがストロークS2に到達する時点T2までの期間である(図6参照)。
【0065】
本実施形態においては、第2速度算出部204が、第2速度V2として、クラッチペダル10のストロークStがストロークS1からストロークS2(図6参照)までの、クラッチペダル10のストロークStの移動速度の平均値を求める場合について説明するが、第2速度算出部204が、第2速度V2として、クラッチペダル10のストロークStがストロークS1からストロークS2(図6参照)までの、クラッチペダル10のストロークStの移動速度を求める形態であればよい。
【0066】
例えば、第2速度算出部204が、第2速度V2として、クラッチペダル10のストロークStがストロークS1からストロークS2(図6参照)までの、クラッチペダル10のストロークStの移動速度の最小値(又は、最大値)を求める形態でもよい。
【0067】
意図判定部205は、第1速度V1と第2速度V2とに基づいて、ドライバの発進意図の有無を判定する機能部である。ここで、意図判定部205は、特許請求の範囲に記載の「意図判定手段」に相当する。具体的には、意図判定部205は、次の(3)式を満たすか否かに基づいて、ドライバの発進意図の有無を判定する。
【0068】
(V2−V1)>ΔVth (3)
ここで、速度差閾値ΔVthは、ドライバの発進意図の有無を判定するために予め設定された閾値である。すなわち、意図判定部205は、第2速度V2から第1速度V1を減じた差が、予め設定された速度差閾値ΔVth以下である場合に、ドライバの発進意図が無いと判定する。
【0069】
発進禁止部206は、意図判定部205によって、ドライバの発進意図が無いと判定された場合に、車両の発進を禁止する機能部である。ここで、発進禁止部206は、特許請求の範囲に記載の「発進禁止手段」に相当する。具体的には、再始動部208によって、エンジン1の再始動が行われている際に、意図判定部205によってドライバの発進意図が無いと判定された場合には、発進禁止部206は、エンジン1の再始動を禁止する(エンジン1を停止する)ものである。
【0070】
更に具体的には、意図判定部205によってドライバの発進意図が無いと判定された場合には、発進禁止部206は、スタータモータによるエンジン1の駆動動作の禁止、インジェクタ102による燃料噴射動作の禁止、及び、点火プラグ103による点火動作の禁止を行い、エンジン1の再始動を禁止する。
【0071】
このようにして、意図判定部205によってドライバの発進意図が無いと判定された場合に、発進禁止部206が、スタータモータによるエンジン1の駆動動作の禁止、インジェクタ102による燃料噴射動作の禁止、及び、点火プラグ103による点火動作の禁止を行い、エンジン1の再始動を禁止するため、エンジン1の再始動を確実に禁止することができる。
【0072】
本実施形態では、意図判定部205によってドライバの発進意図が無いと判定された場合に、発進禁止部206が、スタータモータによるエンジン1の駆動動作の禁止、インジェクタ102による燃料噴射動作の禁止、及び、点火プラグ103による点火動作の禁止を行い、エンジン1の再始動を禁止する場合について説明するが、発進禁止部206が、スタータモータによるエンジン1の駆動動作の禁止、インジェクタ102による燃料噴射動作の禁止、及び、点火プラグ103による点火動作の禁止のうち、少なくとも1つを実行する形態でもよい。
【0073】
停止部207は、予め設定された「アイドリング停止条件」が満たされる場合に、エンジン1のアイドリングを停止(燃料供給停止)させる機能部である。ここで、停止部207は、特許請求の範囲に記載の「停止手段」に相当する。また、「アイドリング停止条件」は、例えば、イグニッションが「ON」の状態で、車速センサ132から車速が「0」であることが検出され、且つ、ブレーキペダルセンサからブレーキペダルの踏み込み操作がなされていることが検出されているとの条件である。
【0074】
再始動部208は、停止部207によってエンジン1のアイドリングが停止(燃料供給停止)された後、予め設定された「再始動条件」が満たされる場合に、エンジン1の再始動を行う機能部である。ただし、発進禁止部206によって、エンジン1の再始動が禁止されている場合には、エンジン1の再始動は行われない。また、再始動部208によってエンジン1の再始動が開始された後に、発進禁止部206によって、エンジン1の再始動が禁止された場合には、エンジン1の再始動は中断される。ここで、再始動部208は、特許請求の範囲に記載の「再起動手段」に相当する。
【0075】
また、「再始動条件」は、例えば、停止部207によってエンジン1のアイドリングが停止(燃料供給停止)されている状態で、ドライバによってクラッチペダル10が踏み込まれ(クラッチ下限位置検出センサ131によって、クラッチペダル10が下限位置より下側の位置にあることが検出され)、且つ、シフトポジションセンサ128によって手動変速機2の変速位置がニュートラル以外であることが検出されているとの条件である。
【0076】
このようにして、予め設定されたアイドリング停止条件が満たされる場合に、エンジン1のアイドリングが停止され、エンジン1のアイドリングが停止された後、予め設定された再始動条件が満たされる場合に、エンジン1の再始動が行われるため、エンジン1の再始動が頻繁に行われるので、本発明の効果であるドライバの発進意図の有無を正確に判定することが更に顕在化される。
【0077】
本実施形態では、「アイドリング停止条件」が、イグニッションが「ON」の状態で、車速センサ132から車速が「0」であることが検出され、且つ、ブレーキペダルセンサからブレーキペダルの踏み込み操作がなされていることが検出されているとの条件である場合について説明したが、アイドリング停止条件が、その他の条件である形態でもよい。例えば、「アイドリング停止条件」が、上記3つの条件に加えて、シフトポジションセンサ128によって手動変速機2の変速位置がニュートラルであることが検出されているとの条件である形態でもよい。
【0078】
また、「再始動条件」が、ドライバによってクラッチペダル10が踏み込まれ、且つ、シフトポジションセンサ128によって手動変速機2の変速位置がニュートラル以外であることが検出されているとの条件である場合について説明したが、再始動条件が、その他の条件である形態でもよい。例えば、「再始動条件」が、上記2つの条件に加えて、アクセル開度センサ126によってアクセルペダル9の踏み込み操作がなされていることが検出されているとの条件である形態でもよい。
【0079】
−クラッチペダル10のストロークStの変化−
次に、図6を参照して、クラッチペダル10のストロークStの変化を具体的に説明する。図6は、発進意図がある場合又は発進意図が無い場合における、クラッチペダル10のストロークStの変化の一例を示すグラフである。図6において、横軸は時間Tであって、縦軸は、位置検出部201によって検出されたクラッチペダル10のストロークStである。
【0080】
また、縦軸において、ストロークS1は、下限検出部202によって検出される下限位置におけるクラッチペダル10のストロークStである。また、ストロークS2は、予め設定された半クラッチ領域Ahの下端位置におけるクラッチペダル10のストロークStである。更に、ストロークS3は、半クラッチ領域Ahの上端位置におけるクラッチペダル10のストロークStである。ストロークS4は、クラッチ上限位置検出センサ130によって検出される上限位置におけるクラッチペダル10のストロークStである。
【0081】
破線で示すグラフG0は、クラッチペダル10がドライバによって踏み込まれた場合のクラッチペダル10のストロークStの変化を示すグラフである。グラフG0に示すように、クラッチペダル10がドライバによって踏み込まれて、クラッチペダル10のストロークStが減少し、時点T0において、ストロークS1より下側のストロークS0(例えば、図4における矢印Vcで示すペダル板10bの回動可能な範囲の下端位置に対応するクラッチペダル10のストロークSt)に到達している。
【0082】
太い実線で示すグラフG1は、ドライバに発進意図がある場合におけるクラッチペダル10のストロークStの変化の一例を示すグラフである。一方、細い実線で示すグラフG2は、ドライバに発進意図が無い場合におけるクラッチペダル10のストロークStの変化の一例を示すグラフである。
【0083】
ドライバに発進意図がある場合には、グラフG1で示すように、時点T0からストロークStが増加し始め(ドライバがクラッチペダル10の踏み込みを緩め始め)、時点T1においてストロークS1に到達している。そして、略一定の速度V2(第2速度V2に相当する)でストロークStが増加し続け、時点T2で、半クラッチ領域Ahの下端位置に対応するストロークS2に到達している。その後、時点T2から、ストロークStが半クラッチ領域Ahの下端位置に対応するストロークS3に到達する時点T4までは(すなわち、半クラッチ領域Ah内においては)、速度V2より小さい速度V1(第1速度V1に相当する)でストロークStが増加している。すなわち、半クラッチ領域Ah内においては、クラッチ3をスムーズに係合させるために、ドライバは、クラッチペダル10の上昇速度を低減している。そして、時点T4以降は、速度V1より大きな速度でストロークStが増加し、時点T5においてストロークS4に到達し、時点T6でストロークS5に到達している。
【0084】
一方、ドライバに発進意図が無い場合には、グラフG2で示すように、クラッチペダル10のストロークStが半クラッチ領域Ahにあるか否かに関わらず、略一定の速度V3で、時点T0からストロークStが増加し、時点T3で、ストロークS5に到達している。
【0085】
−発進制御装置の動作−
次に、図7を参照して、本発明に係る発進制御装置の動作を説明する。図7は、図5に示す発進制御装置(ECU200)の動作の一例を示すフローチャートである。なお、ここでは、便宜上、初期状態として、エンジン1がアイドリング停止中であって、クラッチペダル10のストロークStが下限位置のストロークS1より下側の位置にある状態で、再始動条件が成立した場合について説明する。
【0086】
まず、ステップS101において、ドライバがクラッチペダル10の踏み込みを緩め始め、下限検出部202によって、クラッチペダル10がストロークStの下限位置に到達したか否かの判定が行われる。ステップS101でNOの場合には、処理が待機状態とされる。ステップS101でYESの場合には、処理がステップS103に進められる。
【0087】
ステップS103において、第2速度算出部204によって、期間P2の計測が開始される。そして、ステップS105において、第2速度算出部204によって、位置検出部201による検出結果に基づいて、クラッチペダル10のストロークStが半クラッチ領域Ahの下端位置(ストロークS2)に到達したか否かの判定が行われる。ステップS105でNOの場合には、処理が待機状態とされる。ステップS105でYESの場合には、処理がステップS107に進められる。
【0088】
ステップS107において、第2速度算出部204によって、期間P2の計測が終了されて、上記(2)式に基づいて、第2速度V2が求められる。そして、ステップS109において、第1速度算出部203によって、期間P1の計測が開始される。次に、ステップS111において、第1速度算出部203によって、位置検出部201による検出結果に基づいて、クラッチペダル10のストロークStが半クラッチ領域Ahの上端位置(ストロークS3)に到達したか否かの判定が行われる。ステップS111でNOの場合には、処理が待機状態とされる。ステップS111でYESの場合には、処理がステップS113に進められる。
【0089】
ステップS113において、第1速度算出部203によって、期間P1の計測が終了されて、上記(1)式に基づいて、第1速度V1が求められる。そして、ステップS115において、意図判定部205によって、第2速度V2から第1速度V1を減じた差が、予め設定された速度差閾値ΔVthより大であるか否かの判定が行われる。ステップS115でYESである場合には、処理がステップS117に進められる。ステップS115でNOである場合には、処理がステップS121に進められる。
【0090】
ステップS117において、意図判定部205によって、ドライバの発進意図があると判定される。そして、ステップS119において、発進禁止部206によって、車両の発進が許可され、処理がリターンされる。ステップS121において、意図判定部205によって、ドライバの発進意図が無いと判定される。そして、ステップS123において、発進禁止部206によって、車両の発進が禁止され、処理がリターンされる。
【0091】
このようにして、半クラッチ領域Ahにおけるクラッチペダル10のストロークStの移動速度である第1速度V1と、クラッチペダル10のストロークStの下限位置(ストロークS1に対応する位置)から半クラッチ領域Ahの下端位置(ストロークS2に対応する位置)までのクラッチペダル10のストロークStの移動速度である第2速度V2とに基づいて、ドライバの発進意図の有無が判定されるため、ドライバの発進意図の有無を正確に判定することができる。
【0092】
すなわち、手動変速機2(マニュアルトランスミッション)が搭載された車両において、車両をスムーズに発進させるためには、半クラッチ領域Ahにおけるクラッチペダル10のストロークStの移動速度である第1速度V1を低減する必要がある。また、手動変速機2(マニュアルトランスミッション)が搭載された車両において、車両を迅速に発進させるためには、クラッチペダル10のストロークStの下限位置(ストロークS1に対応する位置)から半クラッチ領Ahの下端位置(ストロークS2に対応する位置)までのクラッチペダル10のストロークStの移動速度である第2速度V2を増大する必要がある。したがって、第1速度V1と第2速度V2とに基づいて、ドライバの発進意図の有無を正確に判定することができるのである。
【0093】
具体的には、図7を用いて述べたように、第2速度V2から第1速度V1を減じた差が、予め設定された速度差閾値ΔVthより大であるか否かに応じて、ドライバの発進意図の有無を判定すればよい。この場合には、速度差閾値ΔVthを適正な値に設定することによって、ドライバの発進意図の有無を更に正確に判定することができる。
【0094】
例えば、速度差閾値ΔVthをドライバが初心者であるか否か、高齢者であるか否か等のドライバの特性に応じて予め設定する形態でもよい。この場合には、ドライバの特性に応じて速度差閾値ΔVthが設定されているため、ドライバの発進意図の有無を更に正確に判定することができる。
【0095】
また、例えば、速度差閾値ΔVthをドライバの操作履歴に基づいて学習する形態でもよい。具体的には、ドライバの発進意図があると判定された場合の、第2速度V2から第1速度V1を減じた差ΔVの平均値ΔVA1と、ドライバの発進意図が無いと判定された場合の、第2速度V2から第1速度V1を減じた差ΔVの平均値ΔVA2とを学習し、速度差閾値ΔVthを平均値ΔVA1と平均値ΔVA2とに基づいて設定する形態でもよい。例えば、次の(4)式によって、速度差閾値ΔVthを設定する。
【0096】
ΔVth=(ΔVA1+ΔVA2)/2 (4)
この場合には、速度差閾値ΔVthがドライバの操作履歴に基づいて学習されるため、速度差閾値ΔVthを更に適正な値に設定することができるので、ドライバの発進意図の有無を更に正確に判定することができる。
【0097】
また、本実施形態では、意図判定部205が、第2速度V2から第1速度V1を減じた差が、予め設定された速度差閾値ΔVthより大であるか否かに応じて、ドライバの発進意図の有無を判定する場合について説明したが、意図判定部205が、第1速度V1と第2速度V2とに基づいて、ドライバの発進意図の有無を判定する形態であればよい。
【0098】
例えば、意図判定部205が、第2速度V2を第1速度V1で除した商が、予め設定された速度比閾値より大であるか否かに応じて、ドライバの発進意図の有無を判定する形態でもよい。この場合には、速度比閾値を適正な値に設定することによって、ドライバの発進意図の有無を更に正確に判定することができる。
【0099】
−第2実施形態−
上記実施形態では、意図判定部205が、第1速度V1と第2速度V2とに基づいて、ドライバの発進意図の有無を判定する場合について説明したが、意図判定部205が、第1速度V1に基づいて、ドライバの発進意図の有無を判定する形態でもよい。
【0100】
例えば、意図判定部205が、第1速度V1が予め設定された速度閾値以上である場合に、ドライバの発進意図が無いと判定する形態でもよい。この実施形態を、以下、第2実施形態ともいう。この場合には、速度閾値を適正な値に設定することによって、簡素な構成でドライバの発進意図の有無を正確に判定することができる。
【0101】
すなわち、手動変速機2(マニュアルトランスミッション)が搭載された車両において、車両をスムーズに発進するためには、半クラッチ領域Ahにおいて、クラッチペダル10のストロークStの移動速度である第1速度V1を低減する(換言すれば、クラッチ3を緩やかに係合させる)必要がある。したがって、第1速度V1に基づいて、ドライバの発進意図の有無を正確に判定することができるのである。
【0102】
第2実施形態では、意図判定部205が、第1速度V1が予め設定された速度閾値以上である場合に、ドライバの発進意図が無いと判定する場合について説明したが、意図判定部205が、半クラッチ領域Ahにおけるクラッチペダル10のストロークStの移動速度に基づいてドライバの発進意図を判定する形態であればよい。
【0103】
例えば、意図判定部205が、半クラッチ領域Ahにおけるクラッチペダル10のストロークStの移動速度が、予め設定された判定条件を満たすか否かに基づいて、ドライバの発進意図の有無を判定する形態でもよい。この場合には、上記判定条件を適正な条件に設定することによって、ドライバの発進意図の有無を正確に判定することができる。
【0104】
具体的には、上記判定条件は、例えば、半クラッチ領域Ahを、下側領域Ah1(係合の弱い領域)と、上側領域Ah2(係合の強い領域)とに区分し、上側領域Ah2におけるクラッチペダル10のストロークStの移動速度から、下側領域Ah1におけるクラッチペダル10のストロークStの移動速度を減じた差が、予め設定された速度差閾値より大であることであるとの形態でもよい。
【0105】
すなわち、手動変速機2(マニュアルトランスミッション)が搭載された車両において、車両をスムーズに発進させるために、ドライバは、下側領域Ah1(係合の弱い領域)におけるクラッチペダル10のストロークStの移動速度を、下側領域Ah1におけるクラッチペダル10のストロークStの移動速度より小さくする傾向にあるからである。
【0106】
−他の実施形態−
上記実施形態においては、発進制御装置が、ECU200における位置検出部201、下限検出部202、第1速度算出部203、第2速度算出部204、意図判定部205、及び、発進禁止部206として構成されている場合について説明したが、位置検出部201、下限検出部202、第1速度算出部203、第2速度算出部204、意図判定部205、及び、発進禁止部206のうち、少なくとも1つが、電子回路等のハードウェアで構成されている形態でもよい。
【0107】
また、上記実施形態においては、位置検出部201、下限検出部202、第1速度算出部203、第2速度算出部204、意図判定部205、及び、発進禁止部206が1つのECU200において機能部として構成されている場合について説明したが、位置検出部201、下限検出部202、第1速度算出部203、第2速度算出部204、意図判定部205、及び、発進禁止部206が複数のECUに分担されて機能部として構成されている形態でもよい。
【0108】
上記実施形態では、クラッチ30が、乾式単板の摩擦クラッチである場合について説明したが、クラッチが、その他の種類の摩擦クラッチである形態でもよい。例えば、クラッチが、乾式DCT(Dual Clutch Transmission)である形態でもよい。
【0109】
また、上記実施形態では、クラッチ3の駆動源が、油圧式である場合について説明したが、クラッチ3の駆動源が、その他の種類の動力源(例えば、電動式等)である形態でもよい。また、ドライバによるクラッチペダル10の踏み込み力が、クラッチ3に機械的に伝達される形態でもよい。
【0110】
更に、上記実施形態では、半クラッチ領域Ahが、現実の車両における半クラッチ領域である場合について説明したが、半クラッチ領域Ahは、クラッチペダル10のストロークStの適正な領域として予め設定されていればよい。すなわち、例えば、半クラッチ領域Ahが、現実の車両における半クラッチ領域より狭く設定されている形態でもよい。この場合には、第1速度V1を更に適正に求めることができるので、第2実施形態において、ドライバの発進意図の有無を更に正確に判定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、マニュアルトランスミッションが搭載された車両において発進の許否を判定し、車両の発進を制御する発進制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0112】
1 エンジン
102 インジェクタ
103 点火プラグ
2 手動変速機(マニュアルトランスミッション)
3 クラッチ
30 摩擦クラッチ
300 クラッチ駆動装置
129 クラッチストロークセンサ(位置検出手段の一部)
130 クラッチ上限位置検出センサ
131 クラッチ下限位置検出センサ(下限検出手段の一部)
132 車速センサ
200 ECU(発進制御装置)
201 位置検出部(位置検出手段の一部)
202 下限検出部(下限検出手段の一部)
203 第1速度算出部(第1速度算出手段)
204 第2速度算出部(第2速度算出手段)
205 意図判定部(意図判定手段)
206 発進禁止部(発進禁止手段)
207 停止部(停止手段)
208 再始動部(再始動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マニュアルトランスミッションが搭載された車両において発進の許否を判定し、車両の発進を制御する発進制御装置であって、
クラッチペダルのストロークを検出する位置検出手段と、
前記位置検出手段による検出結果に基づいて、ドライバの発進意図の有無を判定する意図判定手段と、
前記意図判定手段によって、ドライバの発進意図が無いと判定された場合に、前記車両の発進を禁止する発進禁止手段と、を備えることを特徴とする発進制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発進制御装置において、
前記位置検出手段による検出結果に基づいて、予め設定された半クラッチ領域におけるクラッチペダルのストロークの移動速度である第1速度を求める第1速度算出手段を更に備え、
前記意図判定手段は、前記第1速度に基づいて、ドライバの発進意図の有無を判定することを特徴とする発進制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の発進制御装置において、
前記意図判定手段は、前記第1速度が、予め設定された速度閾値以上である場合に、ドライバの発進意図が無いと判定することを特徴とする発進制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の発進制御装置において、
クラッチペダルがストロークの下限位置にあることを検出する下限検出手段と、
前記位置検出手段による検出結果に基づいて、前記下限位置から前記半クラッチ領域の下端位置までの、クラッチペダルのストロークの移動速度である第2速度を求める第2速度算出手段とを更に備え、
前記意図判定手段は、前記第1速度と前記第2速度とに基づいて、ドライバの発進意図の有無を判定することを特徴とする発進制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の発進制御装置において、
前記意図判定手段は、前記第2速度から前記第1速度を減じた差が、予め設定された速度差閾値以下である場合に、ドライバの発進意図が無いと判定することを特徴とする発進制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の発進制御装置において、
前記車両は、
予め設定されたアイドリング停止条件が満たされる場合に、内燃機関のアイドリングを停止させる停止手段と、
前記停止手段によって前記内燃機関のアイドリングが停止された後、予め設定された再始動条件が満たされる場合に、前記内燃機関の再始動を行う再始動手段と、を備えることを特徴とする発進制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−122447(P2012−122447A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275868(P2010−275868)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】