説明

発酵における改善された炭素捕捉

本発明は、合成ガス発酵での用途のためのガス化効率の改善に関する。特に、本発明は、アルコール等の生成物を生成するガス化/発酵プロセスの全体的な炭素捕捉効率の向上に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物発酵を含むプロセスにおける全体的な炭素捕捉及び/又は全体的な効率を改善するシステム及び方法に関する。特に、本発明は、COを含む合成ガス基質の微生物発酵を含むプロセスにおける炭素捕捉及び/又は効率の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノールは世界中で主要な高水素含量の液状交通燃料に急速になりつつある。2005年のエタノールの世界的な消費量は推定122億ガロンであった。燃料エタノール産業の世界市場も、ヨーロッパ、日本、米国、及びいくつかの発展途上国でのエタノールへの関心の高まりのため、将来的に急激に成長すると予測されている。
【0003】
例えば、米国では、エタノールは、エタノール10%混合ガソリンであるE10の製造に使用されている。E10ブレンドでは、エタノール成分は酸素化剤として機能し、燃焼効率を改善して大気汚染物質の生成を減少させる。ブラジルでは、エタノールは、ガソリンにブレンドされる酸素化剤として、及びそれ自体での純燃料として交通燃料需要の約30%を満たしている。また、ヨーロッパでも、温室効果ガス(Green House Gas(GHG))排出の結果を取り巻く環境問題に刺激され、欧州連合(European Union(EU))は、加盟国に対してバイオマス由来エタノール等の持続可能な輸送燃料の消費の義務的目標を設定した。
【0004】
燃料エタノールの大部分は、主要な炭素源としてサトウキビから抽出されるショ糖又は穀類作物から抽出されるデンプン等の作物由来炭水化物を使用する伝統的な酵母を用いた発酵プロセスから製造されている。しかし、これらの炭水化物供給原料のコストは、それらの人間又は動物の食料としての価値の影響を受け、他方では、エタノール製造用のデンプン又はショ糖を生産する作物の耕作は、すべての地域で経済的に持続可能とは限らない。したがって、より低コスト及び/又はより豊富な炭素資源を燃料エタノールに変換する技術開発に関心が持たれている。
【0005】
COは、石炭又は石油及び石油由来製品等の有機材料の不完全燃焼の主要で低価格な高エネルギー副生成物である。例えば、オーストラリアの鉄鋼業は、年間500,000トンを超えるCOを生産して大気中に放出している。さらに、あるいはその代わりに、CO豊富ガス流(合成ガス)は、石炭、石油及びバイオマス等の炭素質材料のガス化によって生産できる。炭素質材料は、熱分解、タール分解及びチャーガス化等の様々な方法を用いたガス化によって、CO、CO、H、及び少量のCHを含むガス製品に変換することができる。合成ガスは、水蒸気改質プロセス、例えば、メタンあるいは天然ガスの水蒸気改質でも生産できる。
【0006】
接触プロセスは、主としてCO及び/又はCOと水素(H)からなるガスを様々な燃料及び化学物質に変換するために使用できる。微生物もまたこれらのガスを燃料及び化学物質に変換するために使用できる。これらの生物学的プロセスは、一般に化学反応よりも遅いが、接触プロセスよりも、高い特異性、高い収率、低いエネルギーコスト及び中毒に対する大きい抵抗性等のいくつかの優れた利点を有している。
【0007】
微生物のCOを唯一の炭素源として増殖する能力は1903年に初めて発見された。これは後に独立栄養増殖のアセチル補酵素A(アセチルCoA)生化学的経路(ウッド・ユングダール経路及び一酸化炭素デヒドロゲナーゼ/アセチルCoAシンターゼ(CODH/ACS)経路としても知られている)を使用する生物の特性であると確定された。カルボキシド栄養性((carboxydotrophic)生物、光合成生物、メタン生成及び酢酸生成生物を含む多数の嫌気性生物がCOを種々の最終生成物、即ち、CO、H、メタン、n−ブタノール、アセテート及びエタノールに代謝することが明らかになっている。すべてのそのような生物は、唯一の炭素源としてCOを使用して、これらの最終生成物のうちの少なくとも2種を生成する。
【0008】
クロストリジウム属(genus Clostridium)の細菌等の嫌気性細菌は、CO、CO及びHからアセチルCoA生化学的経路を経てエタノールを生成することが実証されている。例えば、ガスからエタノールを生成する種々のクロストリジウム・リュングダリイ(Clostridium ljungdahlii)株が、PCT公開WO00/68407号、欧州特許117309号、米国特許5,173,429号、5,593,886号及び6,368,819号、PCT公開WO98/00558号及びWO02/08438号に記載されている。またクロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum sp)属由来の細菌もガスからエタノールを生成することが知られている(Abriniら、Archives of Microbiology第161巻、345〜351頁(1994))。
【0009】
しかしながら、微生物によるガス発酵によるエタノール生成は通常はアセテート及び/又は酢酸が同時に生成してしまう。利用可能な炭素の一部は一般にはエタノールではなくアセテート/酢酸に変換されてしまい、このような発酵プロセスを用いるエタノールの生産効率は望ましいものとは言い難い。また、アセテート/酢酸の副生成物が何か他の目的に使用できない場合には、それは廃棄物処理問題をもたらす可能性がある。アセテート/酢酸は微生物によってメタンに変換されるので、GHG排出の原因となる可能性もある。
【0010】
PCT公開WO2007/117157号及びWO2008/115080号(この開示内容は参照により本明細書に組み込まれる)に、一酸化炭素含有ガスの嫌気的発酵によってアルコール、特にエタノールを製造する方法が記載されている。PCT公開WO2007/117157号に記載の発酵プロセスの副生成物として生成するアセテートは、水素ガスと二酸化炭素ガスに変換され、このいずれか又は両方は嫌気的発酵プロセスに使用できる。
【0011】
酸やアルコール等の生成物を生成するためのCOを含むガス状基質の発酵は一般に酸の生成に有利である。アルコールの生産性は、当業者に周知の方法によって促進でき、例えば、参照により本明細書に全体が組み込まれるPCT公開WO2007/117157号、WO2008/115080号、WO2009/022925号、WO2009/064200号に記載の方法がある。
【0012】
米国特許7,078,201号及びPCT公開WO02/08438号にも、発酵が行われる液体栄養培地の条件(例えばpH及び酸化還元電位)を変えることによるエタノール製造のための発酵プロセスの改良について記載されている。それらの公報に開示されているように、類似のプロセスは、ブタノール等の他のアルコールの製造にも使用できる。
【0013】
存在下でのCOの微生物発酵は、炭素のアルコールへの実質的に完全な変換をもたらすことができる。しかしながら、十分なHがない場合は、一部のCOはアルコールに変換されるが、相当部分は下記式に示すようにCOに変換される。
6CO+3HO→COH+4CO
12H+4CO→2COH+6H
COの生成は、全体的な炭素捕捉の効率の悪さを表しており、放出されると、これも温室効果ガス排出の一因となる懸念がある。さらに、ガス化の過程で生成される二酸化炭素やメタン等の他の炭素含有化合物も、統合された発酵反応で消費されない場合は、大気中に放出される懸念がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、当業者に周知の欠点を克服し、かつ様々な有用な製品の最適な生産のための新規な方法を公に提供する1つ以上のシステム及び/又は1つ以上の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の側面において、本発明は、発酵プロセスにおける炭素捕捉を増加させる方法であり、ガス化装置中で供給原料をガス化して合成ガス基質を生成し、次いでバイオリアクター中で前記合成ガス基質の少なくとも一部を1種以上の微生物に接触させ1種以上の生成物を生成することを含み、出口流は前記バイオリアクターを出て、前記出口流の少なくとも一部は前記ガス化装置に送り込まれる方法を提供する。
【0016】
特定の態様では、前記出口流は、発酵による生成物及び/又は副生成物に変換しなかった前記合成ガス流の1種以上の成分を含む。別の態様では、前記出口流は前記基質の発酵の過程で生成するガス状の副生成物を含む。
【0017】
特定の態様では、発酵による生成物及び/又は副生成物に変換されなかった合成ガス流の成分は、CO、CO、CH、及び/又はHを含む。ある態様では、発酵の副生成物として生成したCOの少なくとも一部は、前記ガス化装置に戻される。
【0018】
本発明のいくつかの態様では、前記方法は、前記出口流の選択された成分の少なくとも一部を分離及び/又は富化すること、及び前記の分離及び/又は富化された成分を前記ガス化装置に戻すことを含む。特定の態様において、CO及び/又はCHは分離及び/又は富化され、前記ガス化装置に戻される。
【0019】
別の態様では、前記分離及び/又は富化された成分は前記バイオリアクターに戻される。特定の態様において、CO及び/又はHは分離及び/又は富化され、前記バイオリアクターに戻される。
【0020】
さらに別の態様では、前記方法は、前記出口流の少なくとも一部が前記ガス化装置に送られる前に、前記出口流から1種以上の発酵生成物の少なくとも一部を分離することを含む。特定の態様では、前記生成物はアルコールである。特定の態様では、エタノールは前記出口流が前記ガス化装置に戻される前に、前記出口流から取り除かれる。
【0021】
第2の側面において、本発明は、発酵プロセスの全体的な効率及び/又は炭素捕捉を改善する方法であって、前記プロセスは、ガス化装置中で供給原料を合成ガスに変換すること、前記合成ガスの少なくとも一部をバイオリアクターに送ること、前記バイオリアクター中の前記合成ガスの少なくとも一部を発酵させて生成物を生成することを含み、前記方法が、前記合成ガスを前記バイオリアクターに送る前に前記合成ガスの1種以上の成分の一部を分離すること、及び前記1種以上の成分を前記ガス化装置に迂回させることを含む方法を提供する。
【0022】
特定の態様では、前記合成ガス流から分離された1種以上の成分がHS、CO、タール及び/又はBTEXから選択される。
第3の側面において、本発明は、1種以上の微生物による合成ガス基質の発酵によって生成物を生成する方法であって、前記合成ガスはガス化装置中で生成され、前記方法が、前記発酵で生成した二酸化炭素副生成物の少なくとも一部を前記ガス化装置に送り込まれることを含む方法を提供する。
【0023】
種々の前述の側面の特定の態様では、前記嫌気性発酵は、COと場合によりHとから、酸及びアルコールを含む生成物を生成する。特定の態様では、1種以上の微生物培養物がCOと場合によりHとを酸及び/又はアルコールを含む生成物に変換する。ある態様では、生成物はエタノールである。
【0024】
特定の態様では、前記微生物培養物は、カルボキシド栄養性細菌の培養物である。ある態様では、前記細菌は、クロストリジウム(Clostridium)、ムーレラ(Moorella)、及びカルボキシドサーマス(Carboxydothermus)から選択される。特定の態様において、前記細菌は、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)である。
【0025】
本発明の種々の態様によれば、前記発酵反応の炭素源は、ガス化に由来する合成ガスである。前記合成ガス基質は、一般的には、COの大部分の割合を含有し、例えば、体積で少なくとも約20%〜約95%のCO、40%〜95%のCO、40%〜60%のCO、及び45%〜55%のCOである。特定の態様では、前記基質は体積で約25%、又は約30%、又は約35%、又は約40%、又は約45%、又は約50%のCO、又は約55%のCO、又は約60%のCOを含む。6%等の低いCO濃度を有する基質も、特に相当量のH及び任意にCOが存在する場合には適切なこともある。
【0026】
第4の側面によれば、本発明は、合成ガス基質の微生物発酵による生成物を生成するプロセスの効率を上げるためのシステムであって、1)CO及びHを含む合成ガス流を生成するように構成されたガス化装置と、2)前記合成ガス流のCOと場合によりHとの少なくとも一部を生成物に変換するように構成されたバイオリアクターと、3)生成物に変換されなかった前記合成ガス流の少なくとも1成分及び/又は発酵の少なくとも1種の副生成物を、前記バイオリアクターを出る出口流から前記ガス化装置に戻す手段とを含むシステムを提供する。
【0027】
特定の態様では、前記システムは、前記出口流の選択された成分を分離及び/又は富化し、それらを前記ガス化装置に戻す手段を含む。特定の態様では、前記システムは、前記出口流のCO及び/又はCHの少なくとも一部を分離及び/又は富化し、分離及び/又は富化されたCO及び/又はCHを前記ガス化装置に戻す手段を含む。
【0028】
ある態様では、前記システムは、さらに、前記出口流のCO及び/又はCHの少なくとも一部を分離及び/又は富化し、分離及び/又は富化されたCO及び/又はCHをバイオリアクターに戻す手段を含む。
【0029】
別の態様では、前記システムは、さらに、前記出口流の1種以上の生成物を分離及び/又は富化する手段を含む。
第5の側面によれば、本発明は、合成ガス基質の微生物発酵による生成物を生成するプロセスの効率を上げるためのシステムであって、1)CO及びHを含む合成ガス流を生成するように構成されたガス化装置と、2)前記合成ガス流から選ばれた成分の少なくとも一部を分離し、前記ガス化装置に戻す手段と、3)CO及びHを含む合成ガス流の残りをバイオリアクターに送る手段と、4)前記合成ガス流の残り由来のCOと任意のHの少なくとも一部を生成物に変換するように構成されたバイオリアクターとを含むシステム。
【0030】
特定の態様では、前記システムは、HS、CO、タール及び/又はBTEXの少なくとも一部を、前記バイオリアクターに送る前に、前記合成基質流から分離及び/又は富化する手段を含む。
【0031】
第4及び第5の側面の特定の態様では、前記システムは、CO及びHを含む合成基質ガス流が所望の組成を有しているかどうかを決定する手段を含む。いかなる既知の手段もこの目的に用いてもよい。さらに、あるいはその代わりに、ガス化装置に戻す前に、出口流及び/又は分離流の組成を判定する測定手段が提供される。流れが、ある特定の段階で望ましくない組成を有していると判定された場合は、その流れを他の場所に迂回させることができる。
【0032】
本発明の特定の態様では、前記システムは、前記システムの様々な段階間を通過する様々な流れを加熱及び/又は冷却する手段を含む。さらに、あるいはその代わりに、前記システムは前記システムの様々な段階間を通過する様々な流れを少なくとも部分的に圧縮する手段を含む。
【0033】
本発明の様々な側面の、各々の特定の態様によれば、ガス分離及び/又は富化に使用される前記プロセスは、1つ以上の極低温分別、分子吸着、圧力変動吸着又は吸収を含む。
本発明を上記のように広く定義しているが、本発明はそれらに限定されず、以下の説明でその例を提供する態様も含む。
【図面の簡単な説明】
【0034】
次に、本発明を添付の図を参照しながら詳細に説明する。
【図1】図1は、発酵槽からガス化装置に出口流を戻すための手段を含むシステムの概略図である。
【図2】図2は、例1の発酵の時間経過での代謝産物量と微生物増殖を示す。
【図3】図3は、例1の発酵の時間経過でのガス消費量及び生成量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
石炭、石油、バイオ燃料やバイオマス等の炭素質材料のガス化から生成される合成ガスを嫌気発酵させ、酸やアルコール等の生成物を生成することができる。発酵過程の使用に最適な合成ガス由来の基質も、一般的には、COやその他のメタン等の炭素を含有する化合物を含む。さらに、例えば、COが酸及び/又はアルコールを含む生成物に変換される多くの発酵反応では、相当な量のCOが生成される可能性がある。本発明は、ガス化に由来する合成ガスを利用する発酵プロセスでの全体的な炭素捕捉を改善する方法、システム、及びプロセスに関する。
【0036】
本発明の方法に従って、ガス化に由来する合成ガス基質の発酵プロセスの全体的な効率及び/又は炭素捕捉は改善される。特定の広い側面によれば、発酵プロセス全体の効率及び/又は炭素捕獲を改善する方法であって、ガス化装置中で供給原料を合成ガスに変換することと、前記合成ガスをバイオリアクターに送ることと、前記バイオリアクターの前記合成ガスの少なくとも一部を発酵させ、生成物を生成することとを含み、前記発酵プロセスの生成物及び/又は副生成物に変換されなかった合成ガスの少なくとも1成分が出口流中で前記バイオリアクターから出て、前記出口流の少なくとも一部は前記ガス化装置に戻される方法を提供する。
【0037】
特定の態様では、CO、CO及び/又はCH等のガス化により生成された炭素含有合成ガス成分はバイオリアクターに送られ、そこで前記COの少なくとも一部は、1種以上のカルボキシド栄養性細菌によって、アルコール及び/又は酸等の生成物に変換される。生成物に変換されなかった成分は、一般には出口流中で前記バイオリアクターを出る。しかしながら、本発明に従い、変換されなかったCO、CO及び/又はCH等の前記出口流中の炭素含有成分は、前記ガス化装置に戻され、少なくとも一部は、CO、CO及びCHを含む化合物に再循環される。前記出口流中で前記バイオリアクターを出るH及び/又はHO等の、その他の炭素を含まない成分も、前記ガス化装置に戻され、再循環できる。
【0038】
理論に拘束されることは望まないが、ガス化装置の中で炭素質材料はいくつかの異なるプロセスを経ると考えられる。本質的には、限られた量の酸素あるいは空気をガス化装置に導入することにより、有機材料の一部を燃焼させ、一酸化炭素とエネルギーを生成することが可能になる。これにより、次に、さらに有機材料を水素と追加の一酸化炭素に変換する第2の反応を引き起こす。定常状態条件の下で作動するガス化装置は、CO、CO、H及び任意にCHを実質的に一定の割合で含む成分を含有するガス流を生成する。したがって、変換されなかったCO、CO、及び/又はCH等の炭素含有成分をガス化装置に戻すことによって、同じ実質的に一定の流れを生成するためにガス化が必要な燃料の量を減らせることとなる。次いで、ガス化流中のCO、CO、及び/又はCHは、バイオリアクターに送ることができ、そこで、さらにCO及び任意にCOが生成物に変換され、前記プロセスの全体的な炭素捕捉を改善する。
【0039】
さらに、発酵後に残存するH、水及び/又は、ガス流によってバイオリアクターから離脱した生成物もガス化装置に再循環され、前記プロセスの全体的なH捕獲が改善される。さらに、あるいはその代わりに、Hが発酵反応で生成されるCOの量を減少させるので、バイオリアクターへの水素供給の効率向上は、全体的な炭素捕獲の効率も改善することとなる。
【0040】
特定の態様において、前記バイオリアクターから離脱した生成物等の所望の成分は、前記出口流から分離される。分離された生成物は従来の手段によって発酵ブロスから分離された生成物と混合することができる。
【0041】
本発明の別の態様において、前記発酵反応を出る前記出口ガスを、必要に応じて分離し、CO及び/又はH等の所望の成分を除き、それらを前記バイオリアクターに直接戻すこともできる。さらに、あるいはその代わりに、ガス分離を、前記出口流のCO及び/又はCH等の特定の成分を富化し、富化されたCO及び/又はCH流が前記ガス化装置に送られるように用いることができる。特定の態様では、CO又はCH等の、前記出口流の最初の成分は、1種以上の第2成分から分離することができる。特定の態様では、前記最初の成分は前記ガス化装置に戻されるのに対し、1種以上の第2成分は前記バイオリアクター及び/又は廃棄口部に送られる。他のあまり望ましくない成分(例えば、N等の不活性な化合物)も当業者に周知の手段で分離し、処分のための廃棄流に迂回させる。
【0042】
COをガス化装置に供給することによりエタノールの生産性が向上することで認められる発酵効率の改善は、当業者に周知である。前記ガス装置に供給されるCOの最適量は、参照により全体が本明細書に組み込まれるPCT公開WO2009/154788に詳述される。
【0043】
定義
特に断りのない限り、本明細書全体にわたって使用される下記の用語は以下のように定義される。
【0044】
「炭素捕獲」及び「全体的炭素捕獲」という用語は、供給原料等の炭素源を生成物に変換する効率と関連する。例えば、木質バイオマス供給原料中のアルコール等の有用な生成物に変換された炭素の量である。
【0045】
「供給原料」という用語は、都市固形廃棄物、林業資材、木屑、建設資材、植物材料、石炭、石油、パルプ及び紙廃棄物(例えば黒液)、石油化学副産物、バイオガス、タイヤ、及びその組み合わせ等の炭素質材料を指す。
【0046】
「合成ガス」という用語は、炭素質供給原料のガス化及び/又は改質によって生成される一酸化炭素及び水素の少なくとも一部を含有するガス混合物を指す。
「一酸化炭素を含む基質」及びその類似用語は、当然ながら基質中の一酸化炭素が例えば増殖及び/又は発酵のために1種以上の細菌に利用可能なあらゆる基質を含む。
【0047】
「一酸化炭素を含むガス状基質」は、一酸化炭素を含有するあらゆるガスを含む。ガス状基質は、一般的には、かなりの割合のCO、好ましくは、少なくとも体積で約5%〜約95%のCOを含有する。
【0048】
「バイオリアクター」という用語は、一つ以上の容器及び/又は塔又は配管からなる発酵装置を含み、連続撹拌槽リアクター(continuous stirred tank reactor(CSTR))、固定化細胞リアクター、ガスリフトリアクター、バブルカラムリアクター(bubble column reactor(BCR))、膜リアクター(例えば、中空繊維膜バイオリアクター(Hollow Fiber Membrane Bioreactor(HFMBR))、細流床リアクター(trickle bed reactor(TBR))、モノリスバイオリアクター、強制式又はポンプ式ループバイオリアクター、又はそれらの組み合わせ、又は気液接触に適切なその他の容器又はその他の装置を含む。
【0049】
「酸」という用語は、本明細書中では、カルボン酸及び関連するカルボキシラートアニオンの両方を含み、例えば本明細書中に記載の発酵ブロス中に存在する遊離酢酸及びアセテートの混合物等である。発酵ブロス中の分子酸対カルボキシラートの比率は、系のpHに依存する。さらに、「アセテート」という用語は、酢酸塩単独及び分子状又は遊離酢酸と酢酸塩の混合物の両方を含む。例えば本明細書中に記載の発酵ブロス中に存在する酢酸塩と遊離酢酸の混合物等の酢酸塩単独及び分子状又は遊離酢酸と酢酸塩の混合物の両方を含む。
【0050】
「所望の組成」という用語は、物質中、例えばガス流の成分が所望の濃度と種類であることを言うために使用される。さらに詳しくは、ガスは、特定の成分(例えばCO及び/又はCO)を含有する及び/又は特定の成分を特定の濃度で含有する及び/又は特定の成分(例えば微生物に有害な汚染物質)を含有しない及び/又は特定の成分を特定の濃度で含有しない場合に、「所望の組成」を有するとみなされる。ガス流が所望の組成を有しているかどうかを判定する場合、二つ以上の成分が考慮される。
【0051】
「流(れ)」という用語は、プロセスの一つ以上の段階に入る、通過する、及び出る材料の流れを言うために使用される。例えば、前記材料とはバイオリアクター及び/又は所望によりCO除去装置に供給される材料のことである。流れの組成は流れが特定の段階を通過するとともに変動しうる。例えば、流れがバイオリアクターを通過すると、流れのCO含有量は減少し、CO含有量は増加するかもしれない。同様に、流れがCO除去装置の段階を通過すると、CO含有量は減少する。
【0052】
文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「発酵する」、「発酵プロセス」又は「発酵反応」等の語句は、本明細書中では、プロセスの増殖段階及び生成物生合成段階の両方を包含するものとする。
【0053】
“効率を増大する”、“増大した効率”などの用語は、発酵プロセスとの関連で使用される場合、限定されないが、発酵における微生物の増殖速度、消費される基質(例えば一酸化炭素)の体積又は質量あたり生成する所望の生成物(例えばアルコール)の体積又は質量、所望の生成物の生成速度又は生成量、及び生成した所望の生成物を発酵の他の副生成物と比較した場合の相対的割合の中の1つ以上を増大することを含み、さらに、プロセス中に生成するいかなる副生成物の価値(正でも負でも)を反映してもよい。
【0054】
本発明のある特定の態様、すなわち主要基質としてCO及び任意にHを用いる嫌気的発酵によるエタノールの生成を含む態様は、現在の非常に関心を集める技術に対する価値ある改良であることは容易に分かるが、一方で、当然のことながら、本発明は、他のアルコール等の別の生成物の生成及び別の基質(特にガス状基質)の使用にも適用が可能であることは、本発明の関連する分野の当業者であれば本開示を考慮すれば分かる。例えば、二酸化炭素及び水素を含有するガス状基質を本発明の特定の態様で使用できる。さらに、本発明は、アセテート、ブチレート、プロピオネート、カプロエート、エタノール、プロパノール及びブタノール、並びに水素を生成するための発酵にも適用できる。例えば、これらの生成物は、ムーレラ(Moorella)、クロストリジウム(Clostridia)、ルミノコッカス(Ruminococcus)、アセトバクテリウム(Acetobacterium)、真正細菌(Eubacterium)、ブチリバクテリウム(Butyribacterium)、オキソバクター(Oxobacter)、メタノサルシナ(Methanosarcina)、及びデスルホトマクルム(Desulfotomaculum)属の微生物を使用する発酵によって生成できる。
【0055】
ガス化プロセス
本発明は、ガス化由来の合成ガスからの生成物の生成を支持することに特に適している。本発明のある態様では、供給原料はガス化により合成ガスに変換され、この合成ガスは、CO及び/又はHの少なくとも一部を酸及び/又はアルコール等の生成物に変換する発酵反応に送られる。
【0056】
ガス化反応は、石炭、石油コークス、バイオマス等の炭素質(炭素高含量)供給原料を限られた酸素中で、通常は高圧、高熱及び/又は水蒸気の条件下で、水素及び一酸化炭素(及び少ない量の二酸化炭素及び他の微量ガス)を含むガスに変換する熱化学プロセスである。その結果として得られるガスは、一般的には、主にCO及びHと、最小量のCO、メタン、エチレン、及びエタンを含む。ガス化は、炭素を含む任意の材料を合成ガスに変換する高温(一般的には<700℃)での化学プロセスに依存する。炭素を含む供給原料としては、石炭、石油、石油コークス、天然ガス、バイオマス、及び有機廃棄物(例えば、都市固形廃棄物、下水汚泥あるいは紙パルプ工業等の工業プロセスの副生成物等)が挙げられる。
【0057】
ガス化プロセスにおいて、炭素質材料は、下記を含むいくつかの異なるプロセスを経る。
1.炭素質粒子が熱くなり、揮発性物質が放出されチャーが生成する熱分解(即ち、揮発分除去)プロセスが起る。前記プロセスは炭素質材料の特性に依存し、チャーの構造と組成を決め、チャーは次にガス化反応をする。
2.揮発性生成物と一部のチャーが酸素と反応し、二酸化炭素と一酸化炭素とを生成し、一酸化炭素は後続のガス化反応のための熱を供給する燃焼プロセスが起る。
3.チャーが二酸化炭素と水蒸気と反応して一酸化炭素と水素を生成するさらなるガス状生成物の生成が起る。
4.さらに、可逆的気相の水性ガスシフト反応は、ガス化装置中の温度で平衡に非常に速く達する。これにより、結果として得られたガス化装置から出る合成ガス流中の一酸化炭素、水蒸気、二酸化炭素及び水素の濃度のバランスが保たれる。
【0058】
当業者であれば、合成ガスの生成に適する多くの装置及び/又はシステムを知っている。合成ガスの生成に適している様々なガス化プロセスの要約は、参照により本明細書に組み込まれるSynthetic Fuels Handbook: Properties, Processes and Performance(合成燃料ハンドブック:特性、プロセス及び性能)(J. Speight, McGraw-Hill Professional, 2008)に記載されている。ガス化装置の例としては、逆流固定床、並流固定床、噴流床、流動床、プラズマアーク、シングルステージ、及びマルチステージ、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0059】
ガス化装置の多くの設計の多様性が存在し、当業者には周知であるが、それらは一般に3つのカテゴリーに分類される。
移動床−乾燥炭素燃料をガス装置の上部から供給する。それが徐々に容器を通って落ちながら、前記床上方を反対方向に流れる水蒸気及び/又は酸素と反応する。前記燃料は、前記プロセスを経て完全に使用され、低温の合成ガスと溶融灰を残す。微量汚染物質は後で合成ガスから取り除かれる。
【0060】
噴流床−燃料をガス化装置に乾式又は湿式(水と混合)供給することができる。反応物(水蒸気及び/又は酸素)は、ガス化装置中を上下の一方向に流れ、ガス化の段階が起り、高温の完成した合成ガスは前記リアクターの上部から出る。溶融スラッグは下部から抜け落ちる。
【0061】
流動床−水蒸気及び/又は酸素は、ガス化が起っている間で燃料がこの流れに注入されて漂っている間にリアクター塔の上方へ流れる。中程度の温度の合成ガスは、乾燥(未溶融)灰を下部から抜き取る間に出て行く。
【0062】
合成ガスを生成するガス化プロセスのさらなる例は、PCT公開2008/006049号及びWO2009/009388号(これらはともに参照により全体が本明細書に組み込まれる)に詳述されている。
【0063】
合成ガス調整
本発明の特定の態様は、ガス化プロセスで生成した合成ガスを、1種以上の微生物と接触させて生成物に変換するバイオリアクターに送ることを含む。ガス化プロセスで生成された合成ガス流は、一般的には、HS、COS、NO、BTEX(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン類)、タール及び粒子状物質等の少量の副生成物を含んでいる。そのような成分は、複数の単位操作で標準的調整方法を用いて除去できる。当業者であれば、望ましくない成分の除去のための単位操作に精通している。例えば、BTEX成分を、少なくとも1つの活性炭床に流れを通すことにより、合成ガス流から取り除くことができる。さらに、高性能ベンチュリスクラバによる気体洗浄を、合成ガス流から粒子状物質やタールを除去するために用いることができる(Benchmarking Biomass Gasification Technologies for Fuels, Chemicals Hydrogen Production;US department of Energy and National Energy Technology Laboratory, 2002に対してCiferno及びMaranoが作成した報告書)。さらに、ガス調整方法の例は、PCT公開WO2009/009388号に詳述され、参照により本明細書に組み込まれる。
【0064】
ほとんどの成分は、微生物培養物に有害な影響があるとは考えられないため、本発明の方法に従えば、発酵バイオリアクターに送られる合成ガスに必要なのは最小限の調整である。本発明の特定の態様では、合成ガス流から、粒子状物質及び必要に応じてタールを高性能ベンチュリスクラバによる気体洗浄を用いて取り除く。合成ガスを発酵槽に送る前に熱銅触媒を用いて残留酸素を必要に応じて除去する。さらに、あるいはその代わりに、水素の存在下で、パラジウムあるいは酸化パラジウム等の他の金属触媒を用いて酸素を水に還元することができる。
【0065】
発酵反応
本発明の特定の態様には、アルコール及び任意に酸を含む生成物の生成のための合成ガス基質流の発酵が含まれる。ガス状基質からのエタノール及びその他のアルコールの製造法は知られている。典型的なプロセスとしては、例えば、PCT公開WO2007/117157号、PCT公開WO2008/115080号、米国特許第6,340,581号、米国特許第6,136,577号、米国特許第5,593,886号、米国特許第5,807,722号及び米国特許第5,821,111号に記載されているものが挙げられる(これらの特許はそれぞれが参照により本明細書に組み込まれる)。
【0066】
いくつかの嫌気性細菌が、COをn−ブタノール及びエタノールを含むアルコール及び酢酸にする発酵を行うことが知られており、本発明のプロセスに使用するのに適している。本発明の使用に適するそのような細菌の例としては、クロストリジウム属の細菌、例えばクロストリジウム・リュングダリイ(Clostridium ljungdahlii)(PCT公開WO00/68407号、欧州特許117309号、米国特許第5,173,429号、5,593,886号及び6,368,819号、PCT公開WO98/00558号及びWO02/08438号に記載のものを含む)、クロストリジウム・カルボキシジボランス(Clostridium carboxydivorans)(Liouら、International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 33: pp 2085-2091)及びクロストリジウム・オートエタノゲナム (Clostridium autoethanogenum) (Abriniら、Archives of Microbiology 161:pp345-351)の株が挙げられる。その他の適切な細菌としては、ムーレラ属の細菌、例えばムーレラ種HUC22−1(Moorella sp HUC22-1)(Sakaiら、Biotechnology Letters 29:pp1607-1612)、及びカルボキシドサーマス(Carboxydothermus)属の細菌(Svetlichny,V.A.、Sokolova,T.G.ら(1991),Systematic and Applied Microbiology 14:254-260)が挙げられる。さらなる例としては、ムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)、ムーレラ・サーモオートトロフィカ(Moorella thermoautotrophica)、ルミノコッカス・プロダクタス(Ruminococcus productus)、アセトバクテリウム・ウーディイ(Acetobacterium woodii)、ユーバクテリウム・リモサム(Eubacterium limosum)、ブチリバクテリウム・メチロトロフィカム(Butyribacterium methylotrophicum)、オキソバクター・フェニギイ(Oxobacter pfennigii)、メタノサルシナ・バルケリ(Methanosarcina barkeri)、メタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)、デスルホトマクルム・クズネツォビイ(Desulfotomaculum kuznetsovii)(Simpaら、Critical Reviews in Biotechnology,2006 Vol.26.pp41-65)が挙げられる。さらに、当業者には自明の通り、当然ながら、その他のカルボキシド栄養性嫌気性細菌も本発明に適用可能である。また、本発明は、二つ以上の細菌の混合培養物に適用できることも自明である。
【0067】
本発明に使用するのに適する一つの微生物の例はクロストリジウム・オートエタノゲナムである。一態様において、クロストリジウム・オートエタノゲナムは、German Resource Centre for Biological Material(DSMZ)に識別寄託番号19630で寄託された株の識別特徴を有するクロストリジウム・オートエタノゲナムである。別の態様において、クロストリジウム・オートエタノゲナムは、DSMZ寄託番号DSMZ10061の識別特徴を有するクロストリジウム・オートエタノゲナムである。クロストリジウム・オートエタノゲナムによってアルコールを含む生成物を生成するためのCOを含む基質の発酵の例は、PCT公開WO2007/117157号、WO2008/115080号、WO2009/022925号、WO2009/058028号、WO2009/064200号、WO2009/064201号、WO2009/113878号、及びWO2009/151342に記載されている(これらのすべてが参照により本明細書に組み込まれる)。
【0068】
本発明の方法に使用される細菌の培養は、嫌気性細菌を用いる基質の培養及び発酵のための当業者に周知の様々なプロセスを用いて実施できる。典型的な技術は以下の“実施例”の項に提供されている。さらなる例として、発酵にガス状基質を用いる下記文献に一般的に記載されたプロセスも利用できる。(i)K.T.Klassonら、(1991). Bioreactors for synthesis gas fermentations resources. Conservation and Recycling, 5; 145-165; (ii)K.T.Klassonら、(1991). Bioreactor design for synthesis gas fermentations. Fuel. 70. 605-614; (iii)K.T.Klassonら、(1992). Bioconversion of synthesis gas into liquid or gaseous fuels. Enzyme and Microbial Technology. 14; 602-608; (iv)J.L.Vegaら、(1989). Study of Gaseous Substrate Fermentation: Carbon Monoxide Conversion to Acetate. 2. Continuous Culture. Biotech. Bioeng. 34. 6. 785-793; (vi)J.L.Vegaら、(1989). Study of gaseous substrate fermentations: Carbon monoxide conversion to acetate. 1. Batch culture. Biotechnology and Bioengineering. 34. 6. 774-784; (vii) J.L.Vegaら、(1990). Design of Bioreactors for Coal Synthesis Gas Fermentations. Resources, Conservation and Recycling. 3. 149-160。これらのすべてが、参照により本明細書に組み込まれる。
【0069】
発酵は、基質が1種以上の微生物と接触する気体/液体接触用に構成された任意の適切なバイオリアクターで実施できる。例えば、連続撹拌槽リアクター(CSTR)、固定化細胞リアクター、ガスリフトリアクター、バブルカラムリアクター(BCR)、膜リアクター(例えば中空繊維膜バイオリアクター(HFMBR))、細流床リアクター(TBR)、モノリスリアクターあるいはループリアクターである。また、本発明の一部の態様において、バイオリアクターは、微生物が培養される第一の増殖リアクター、及び増殖リアクターからの発酵ブロスが供給され、ほとんどの発酵生成物(例えばエタノール及びアセテート)が製造される第二の発酵リアクターを含んでいてもよい。
【0070】
本発明の様々な態様によれば、発酵反応用の炭素源はガス化に由来する合成ガスである。前記合成ガス基質は、一般的には、体積で、少なくとも約15%〜約75%、約20%〜65%、約20%〜60%、及び約20〜55%等の大きな割合を占めるCOを含有する。特定の態様では、前記基質は体積で約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、又は約50%のCO、又は約55%のCO、約60%のCOを含む。6%等の低いCO濃度を有する基質も、特にH及び任意にCOも併存している場合には適切なこともある。特定の態様では、水素の存在がアルコール生成の全体的な効率の改善をもたらす。ガス状基質は、例えば体積で約1%〜約80%のCO、又は体積で1%〜約30%等のいくらかのCOを含む。
【0071】
本発明の特定の態様に従い、前記流れをバイオリアクターに送る前に、前記基質流のCO含量及び/又はH含量を富化することができる。例えば、圧力変動吸着、極低温分別、膜分離等の当業者に周知の技術を使用して、水素を富化することができる。同様に、銅―アンモニウムスクラビング、超低温分離法、COSORB(登録商標)技術(塩化銅アルミニウム(cuprous aluminium dichloride)のトルエン溶液への吸収)、真空変動吸収、及び膜分離等の当業者に周知の技術を使用して、COを富化することができる。ガス分離と富化に用いられる他の方法は、PCT公開/NZ2008/000275号に詳述されている(これは参照により全体が本明細書に組み込まれる)。
【0072】
さらに、あるいはその代わりに、そのような技術を用い、バイオリアクターを出る流れの1種以上の特定の成分も分離及び/又は富化することができる。CH及び/又はCO等の富化した成分の少なくとも一部を、全プロセスの全体の効率を改善するようにガス化装置に迂回させて戻すことができる。さらに、あるいはその代わり、CO及び/又はCO及び/又はH等の富化した成分を、発酵段階の効率を改善するようにガス化装置に迂回させて戻すことができる。
【0073】
典型的には、一酸化炭素は発酵反応にガス状態で添加される。しかしながら、本発明の方法は、この状態の基質の添加に限定されるものではない。例えば、一酸化炭素は液体で供給することもできる。例えば、液体を一酸化炭素含有ガスで飽和し、その液体をバイオリアクターに添加すればよい。これは標準的な方法論を用いて達成できる。一例を挙げると、微小気泡分散体発生装置(Hensirisakら、Scale-up of microbubble dispersion generator for aerobic fermentation; Applied Biochemistry and Biotechnology Volume 101, Number 3 / October, 2002)をこの目的のために使用することができる。
【0074】
当然のことながら、細菌の繁殖及びCOからのアルコール発酵が起るためには、CO含有基質ガスに加えて、適切な液体栄養培地をバイオリアクターに供給することが必要である。栄養培地は、使用される微生物の増殖させるために十分なビタミンやミネラルを含有する。唯一の炭素源としてCOを用いるエタノールの発酵に適した嫌気性培地は、当業者に知られている。例えば、適切な培地は、上記の米国特許5,173,429号、及び5,593,886号、並びに、PCT公開WO02/08438号、WO2007/117157号、WO2008/115080号、WO2009/022925号、WO2009/058028号、WO2009/064200号、WO2009/064201号、WO2009/113878号及びWO2009/151342号に記載されている。この培地については、以下に詳細に説明する。
【0075】
発酵は、望ましくは、所望の発酵(例えば、COからエタノール)が起るのに適した条件下で行われるべきである。考慮されるべき反応条件としては、圧力、温度、ガス流速、液体流速、培地pH、培地の酸化還元電位、撹拌速度(連続撹拌槽リアクターを使用する場合)、植菌量、確実に液相のCOが制限的とならないような最大ガス基質濃度、及び生成物阻害を回避するための最大生成物濃度が挙げられる。適切な条件は、PTC公開WO02/08438号、WO2007/117157号、WO2008/115080号、WO2009/022925号、WO2009/058028号、WO2009/064200号、WO2009/064201号、WO2009/113878号及びWO2009/151342号に記載されている(これらの全てが、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0076】
最適反応条件は、一部は使用する特定の微生物に左右される。しかし、一般に、発酵は周囲の圧力よりも高い圧力で行うことが好ましい。高い圧力で運転することで、気相から液相へのCO移動速度が著しく上がり、COは液相で微生物にエタノール生成のための炭素源として取り込まれる。このことは、ひいては、バイオリアクターが大気圧より高い圧力に維持された場合、滞留時間(バイオリアクター中の液量を流入ガス流速で割ったものとして定義される)を短縮できることを意味している。
【0077】
ガスからエタノールへの発酵を高圧で行うことの利点は他の場所にも記載されている。例えば、PCT公開WO02/08438号には、30psig及び75psigの圧力下で行われたガス−エタノール発酵で、それぞれ150g/l/日及び369g/l/日のエタノール生産性が得られたことが記載されている。しかしながら、類似の培地及び流入ガス組成を用いて大気圧で行われた発酵例では、1日あたり1リットルにつき10〜20分の1のエタノールしか生産されないことが分かった。
【0078】
CO含有ガス状基質の導入速度は、液相中のCO濃度が決して制限的にならないようなものであることも望ましい。なぜならば、COが制限された条件であると、エタノール生成物が培養物によって消費されるという結果となる可能性があるからである。
【0079】
生成物回収
発酵反応の生成物は公知の方法を用いて回収できる。典型的な方法は、PCT公開WO2007/117157号、WO2008/115080号、およびWO2009/022925並びに米国特許第6,340,581号、6,136,577号、5,593,886号、5,807,722号及び5,821,111号に記載されている。なお、単なる例として手短に述べると、エタノールは発酵ブロスから分別蒸留又は蒸発、及び抽出発酵等の方法によって回収できる。
【0080】
発酵ブロスからのエタノール蒸留によってエタノールと水の共沸混合物(即ち、エタノール95%と水5%)が得られる。無水エタノールは、次いで当業者に周知である分子篩エタノール脱水技術を用いて得ることができる。
【0081】
抽出発酵法は、発酵生体に対する毒性リスクの低い水混和性溶媒を使用して、エタノールを希釈発酵ブロスから回収する方法である。例えば、オレイルアルコールは、このタイプの抽出プロセスに使用できる溶媒である。オレイルアルコールを発酵槽に連続的に導入すると、この溶媒は上昇し、発酵槽の上部に層を形成する。これを連続的に抽出し、遠心分離器に送り込む。ここで水と細胞は前記オレイルアルコールから容易に分離されて発酵槽に戻される。一方、エタノールを含んだ溶媒はフラッシュ蒸発装置に送り込まれる。ほとんどのエタノールは蒸発し凝結するが、オレイルアルコールは非揮発性であり、発酵で再利用するために回収される。
【0082】
発酵反応の副生成物として生成するアセテートも当業者に周知の方法を用いて発酵ブロスから回収できる。
例えば、活性炭フィルタを含む吸着システムが使用できる。この場合、適切な分離装置を用いて最初に微生物細胞を発酵ブロスから除去するのが好ましい。生成物回収のために無細胞発酵ブロスを作り出す多数のろ過に基づく方法は当業者に周知である。次に、無細胞エタノール及びアセテートを含有する透過物を活性炭充填カラムに通してアセテートを吸着させる。酸形(酢酸)のアセテートの方が塩形(酢酸塩)よりも活性炭に容易に吸着される。したがって、活性炭カラムに通す前に発酵ブロスのpHを約3未満に下げて大部分のアセテートを酢酸形に変換するのが好ましい。
【0083】
活性炭に吸着された酢酸は、当業者に周知の方法を用いて溶離によって回収することができる。例えば、エタノールを使用して結合したアセテートを溶離することができる。ある態様では、発酵プロセスそのものから生成したエタノールをアセテートの溶離に使用してもよい。エタノールの沸点は78.8℃で酢酸のそれは107℃であるので、エタノールとアセテートは、蒸留等の揮発度に基づく方法を用いて容易に相互分離できる。
【0084】
発酵ブロスからアセテートを回収するためのその他の方法も当業者には周知であり、本発明のプロセスに使用できる。例えば、米国特許第6,368,819号及び6,753,170号は、発酵ブロスから酢酸の抽出に使用できる溶媒及び共溶媒系について記載している。エタノールの抽出発酵で説明したオレイルアルコールベースの系の例と同様、米国特許第6,368,819号及び6,753,170号に記載の系は、酢酸生成物の抽出のために発酵微生物の存在下でも不在下でも発酵ブロスと混合できる水非混和性の溶媒/共溶媒について記載している。次いで、酢酸生成物を含有する溶媒/共溶媒は、蒸留によってブロスから分離される。次に、酢酸を溶媒/共溶媒系から精製するために、第二の蒸留ステップを使用してもよい。
【0085】
発酵反応の生成物(例えばエタノール及びアセテート)は、ブロスの一部を発酵バイオリアクターから連続的に除去し、微生物細胞をブロスから分離し(都合良くはろ過によって)、そして一つ以上の生成物をブロスから同時又は逐次回収することによって、発酵ブロスから回収することができる。エタノールの場合、上記の方法を用いて、蒸留によって都合よく回収でき、アセテートは活性炭への吸着によって回収できる。分離された微生物細胞は発酵バイオリアクターに戻すのが好ましい。エタノール及びアセテートの除去後に残った無細胞透過物も発酵バイオリアクターに戻すのが好ましい。バイオリアクターに戻す前に追加の栄養素(例えばビタミンB類)を無細胞透過物に加えて栄養培地を補充してもよい。また、酢酸の活性炭への吸着を増強するために上記のようにブロスのpHを調整した場合、そのpHは、バイオリアクターに戻す前に発酵バイオリアクターのブロスのpHとほぼ同じpHに再調整されるべきである。
【0086】
流れ成分の再循環
本発明の方法に従って、発酵プロセスの全体的な炭素捕獲効率及び/又は炭素捕獲を改善する方法であって、ガス化装置中で供給原料を合成ガスに変換することと、前記合成ガスをバイオリアクターに送ることと、前記バイオリアクターの前記合成ガスの少なくとも一部を発酵させて生成物を得ることとを含み、前記発酵プロセスの生成物及び/又は副生成物に変換されなかった合成ガスの成分が出口流中で前記発酵槽を出て、前記出口流の少なくとも一部は前記ガス化装置に戻る方法を提供する。
【0087】
特定の態様では、合成ガス基質はガス化装置中で生成され、少なくとも一部がバイオリアクターに送られる。前記合成ガス基質を1種以上の微生物と接触させ、発酵させてアルコール等の1種以上の生成物にする。発酵の過程の間に、CO等の発酵副生成物及び/又は1種以上の微生物によって代謝されない合成ガス流の成分は、出口流中でバイオリアクターを出る。本発明に従って、出口流の少なくとも一部はガス化装置に送られる。さらに、またはその代わりに、出口流は、第一成分と1種以上の第二成分とを含み、少なくとも第一成分の一部分は1種以上の第二成分から分離され、ガス化装置に送られる。
【0088】
特定の態様では、CO、H及び任意にCO等の合成ガス成分は、酸及び/又はアルコール等の生成物に変換される。ある態様では、微生物培養物はCO及び任意にHをエタノール含有生成物に変換する。生成物は、一般に、生成物流のバイオリアクターから回収できる。本発明の特定の態様では、微生物培養物は液体栄養培地に懸濁している。したがって、発酵反応で生成した生成物は、生成物流中のバイオリアクターから除去された液体栄養培地の一部から回収することができる。
【0089】
ある態様では、合成ガス基質流は、一般的には、流れをバイオリアクター中に散布することにより、高流速及び/又は高圧で供給される。そのため、少量の生成物及び/又は水はバイオリアクター中の液体栄養培地から離脱し、出口流に運ばれる。特定の態様において、バイオリアクターから離脱した生成物を当業者に周知の手段によって出口流から分離することができる。例えば、エタノールは既存の膜技術を用いて出口流から分離できる。分離された生成物を従来の手段により発酵ブロスから回収された生成物と混合することができる。
【0090】
本発明の特定の方法に従い、発酵プロセスに供給される合成ガス流は、CO及び/又はCH及び/又はBTEX及び/又はタール等の炭素含有成分を含む。このような成分は、微生物培養物によって生成物に変換されず、一般にはガス状出口流中でバイオリアクターを出る。さらに、バイオリアクターに供給される合成ガス流のCO及び/又はH成分少なくとも一部は、微生物培養物によって生成物に変換されない。その代わり、CO及び/又はHの少なくとも一部は、出口流中でバイオリアクターを出ることができる。さらに、特定の態様では、前記COは少なくとも微生物培養物によりCOに少なくとも部分的に変換され、特にHは制限された濃度で供給される。したがって、微生物培養物によって生成されたCOは、出口流中でバイオリアクターを出ることができる。
【0091】
したがって、本発明に従い、1種以上の炭素含有出口流成分の少なくとも一部を、合成ガスに変換するためにガス化装置に戻すことができる。特定の態様では、出口流の炭素含有成分は、CO、CH及び/又はその他の揮発性有機化合物、タール、CO、BTEX、酸及びアルコールから選択される。さらに、あるいはその代わりに、水素含有出口流成分の1種以上の少なくとも一部は、合成ガスへの変換のためにガス化装置に戻される。特定の態様では、水素含有成分はH及びHOから選択される。
【0092】
炭素含有成分を出口流からガス化装置に戻すことによって、特定の所望組成の合成ガスを生成するために必要な供給原料由来の炭素量を削減することができる。さらに、水素含有成分を出口流からガス化装置に戻すことによって、特定の所望組成の合成ガスを生成するために必要な水/水蒸気の量を削減することができる。したがって、一体化したプロセスの全体の効率が改善され、また、合成ガスが酸及び/又はアルコール等の生成物に変換される特定の態様では、前記プロセスの全体の炭素捕獲が増加する。
【0093】
本発明の特定の態様では、全出口流を、合成ガスへの変換のためにガス化装置に迂回させる。他の態様では、出口流の一部を、合成ガスへの変換のためにガス化装置に迂回させる。特定の態様では、出口流の1種以上の成分を出口流から分離し、ガス化装置に迂回させる。例えば、CO及び/又はCHを、当業界で周知の分離方法によって出口流から分離し、合成ガスへの変換のためにガス化装置に戻す。その他の成分を同様に当業者に周知の技術を用いて分離することができる。ガス分離及び/又はCO捕獲の周知の方法は、PCT公開/NZ2008/000275号に詳述されている(これは参照により全体が本明細書に組み込まれる)。
【0094】
したがって、本発明の特定の態様では、ガス化段階で生成された合成ガスの少なくとも一部はバイオリアクターに送られ、また、発酵段階で1種以上の微生物は、少なくとも合成ガスの一部をアルコール等の生成物に変換する、統合されたガス発酵プロセスでの全体的な炭素捕獲を改善する方法が提供される。特定の態様において、CO等の発酵段階で生成した副生成物は、出口流中でバイオリアクターを出て、前記出口流の少なくとも一部はガス化段階に送られる。
【0095】
別の態様では、BTEX及び/又はタール等の成分を、流れがバイオリアクターに移動する前に合成ガス流から望ましくは除去する。このような態様において、BTEX及び/又はタール等の成分を、当業者に周知の方法を用いて分離し、合成ガスへの変換のためにガス化装置に戻すことができる。というわけで、特定の態様では、発酵プロセス全体の効率及び/又は炭素捕獲を改善する方法であって、前記プロセスが、ガス化装置中で供給原料を合成ガスに変換することと、前記合成ガスをバイオリアクターに送ることと、前記バイオリアクターで前記合成ガスの少なくとも一部を発酵させ、生成物を生産することとを含み、前記方法が合成ガスをバイオリアクターに送る前に1種以上の成分を分離し、前記1種以上の成分をガス化装置に迂回させる方法が提供される。
【0096】
一例として、HS、CO、タール及び/又はBTEXは、バイオリアクターに移動する前に、合成ガス基質流から除去することができる。そのような成分は、溶媒分離等の標準分離技術を使用して除去できる。このような分離方法の例は、Gas Purification 5ed. (Kohl, A., Nielsen, R., Gulf Publishing Company, 1997)に詳述されている。例えば、HS及び/又はCO等の酸性ガスは、Selexol(登録商標)プロセス(2008年3月23日にアクセスしたwww.uop.com/objects/97%20selexol.pdf)を用いてガス流から除去できる。次に分離した成分を回収し、所望によりガス装置に戻すことができる。
【0097】
概要
本発明の態様を例として記載する。しかし、当然ながら、一つの態様に必要な特定の段階が別の態様においては必要でないこともある。反対に、特定の態様の記載に含まれている段階が、それらが明記されていない態様において、所望により有益に利用できることもある。
【0098】
本発明は、任意の公知の移送手段によってシステムを通過又は巡回できるあらゆる種類の流れに関して広く記載するが、ある態様では、基質及び/又は排出流はガス状である。当業者であれば流れを受け取る又はシステム全体に送るように構成可能な適切な管路手段等によって、特定の段階を結合できることは分かる。特定の段階への流れの送達を容易にするためにポンプ又は圧縮機を設けてもよい。さらに、圧縮機は、バイオリアクター等の一つ以上の段階に供給されるガスの圧力を増大するために使用できる。前述のように、バイオリアクター内のガスの圧力はその中で行われる発酵反応の効率に影響を与える可能性がある。したがって、発酵の効率を改善するように圧力を調節することができる。一般的反応のための適切な圧力は当業者には周知である。
【0099】
さらに、本発明のシステム又はプロセスは、所望により、プロセス全体の効率を改良するために、その他のパラメーターを調節及び/又は制御するための手段を含んでいてもよい。例えば、特定の態様は、基質及び/又は排出流の組成をモニターするための測定手段を含んでもよい。さらに、特定の態様は、測定手段によって基質流が特定の段階にとって適切な組成を有していると判定された場合に、前記基質流を特定のシステム内の特定の段階又は要素に送達するのを制御するための手段も含んでもよい。例えば、ガス状基質流が発酵反応に有害である可能性のある低濃度のCO又は高濃度のOを含有している場合、前記基質流をバイオリアクターからそらせてもよい。本発明の特定の態様では、システムは、所望の又は適切な組成を有する流れを特定の段階に送達できるように、基質流の送り先及び/又は流速をモニター及び制御するための手段を含む。
【0100】
さらに、特定のシステム成分又は基質流を、プロセスの一つ以上の段階の前又は最中に加熱又は冷却することが必要なこともある。そのような場合、公知の加熱又は冷却手段が使用できる。
【0101】
図1は、本発明の一態様によるシステム101の概略図である。バイオマス等の炭素質供給原料は、流入口部2を経由し、ガス化装置1に供給される。水蒸気及び/又は酸素流は、流入口部3を経由し、ガス化装置1に供給される。本発明の特定の態様では、ガス化装置は、供給原料流及び水蒸気及び/又は酸素が反応して合成ガスを生成するように構成される。本発明の特定の態様では、本発明の方法に従って生成する合成ガスは、定常状態運転中に実質的に一定の組成で生成される。
【0102】
合成ガスは、出口部4を通ってガス化装置1を出て、任意選択の前処理装置6を経由してバイオリアクター7に移動する前に、任意選択の合成ガス調整段階5に移動する。特定の態様において、任意選択の合成ガス調整段階5は、酸素、粒子状物質、タール、HS及び/又はBTEX等の微生物培養物に有害である可能性のある合成ガス流の成分を除去するように構成される。特定の態様では、除去された成分の少なくとも一部をガス化装置1に戻すことができる。
【0103】
前処理装置6は、汚染物又はその他の望ましくない成分もしくは構成要素の温度及び量を含む流れの様々な側面を制御するために使用することができる。また、流れに成分を追加するために使用することもできる。これは、合成ガス流の特定の組成及び/又は特定の発酵反応及び/又はそのために選択される微生物に左右される。
【0104】
前処理装置6をシステム101内の他の場所に配置しても、あるいは省略してもよく、あるいは複数の前処理装置6をシステム101の様々な箇所に設けてもよい。これは、合成ガス流の特定の源、及び/又は特定の発酵反応、及び/又はそのために選択される微生物に左右される。
【0105】
任意選択の前処理装置の次に、合成ガス基質流を任意の公知の移送手段によってバイオリアクター7に送ってもよい。バイオリアクター7は、生成物を生成する所望の発酵反応を行うように構成される。ある特定の態様によれば、バイオリアクター7は、微生物発酵によって1種以上の酸及び1種以上のアルコールを生成するようにCO及びHを含有する基質を処理するように構成される。特定の態様では、バイオリアクター7は、エタノール及び/又はブタノールを生成するために用いられる。バイオリアクター7は、1つ以上のタンクを含み、各タンクは同じ反応、及び/又は特定の発酵プロセス内の異なる段階、及び/又は、1つ以上の共通段階を含む異なる発酵プロセスのための異なる反応を含む様々な反応を行うように構成されてもよい。
【0106】
バイオリアクター7は、特定の発酵反応を行う際に用いる微生物の許容限界内の温度を制御する冷却手段を備えていてもよい。
バイオリアクター7内のガスの圧力が高くなるように、ポンプあるいは圧縮機(不図示)をバイオリアクター7の上流に設けてもよい。前述のように、バイオリアクター内のガスの圧力はその中で行われる発酵反応の効率に影響を与える可能性がある。したがって、発酵の効率を改善するように圧力を調節することができる。一般的反応のための適切な圧力は当業者には周知である。
【0107】
バイオリアクター7で生成された生成物は、当業者に周知の任意の回収プロセスによって回収できる。変換されなかったCO及び/又はH、CO、CH、BTEX、タール、及び/又はバイオリアクターから離脱した生成物等の成分を含む出口流は、流出口部8を通ってバイオリアクター7から出る。バルブ9は、出口流の少なくとも一部を流入口部10経由で、ガス化装置1に戻すように構成される。ガス化装置1に戻す前に、出口流は、出口流を調整するか、あるいは、任意選択のガス処理段階11で富化された特定の成分で調節してもよい。特定の態様では、任意選択のガス処理段階11は、望まない成分を除去するように構成される。さらに、あるいはその代わり、任意選択のガス処理段階11は、CO等の特定の成分を富化し、富化された流れをガス化装置1に送るように構成される。不要成分は廃棄のために排出口部12に戻すことができる。
【0108】
流れの組成を測定する手段は、所望によりシステムのいずれの段階に含めてもよい。このような手段は、必要に応じ、あるいは所望により、特定の組成の流れを迂回させ特定の段階の方に送る、あるいは離れる方に方向転換する手段と関連付けてもよい。流れを、システムの様々な段階に迂回又は/移動させる手段は、当業者には周知である。
【実施例】
【0109】
実施例1
【0110】
【表1】

【0111】
Cr(II)溶液の調製
1Lの三つ口フラスコに気密性の流入口と流出口を取り付け、不活性ガス中の作業とそれに続く所望の生成物の適切な貯蔵フラスコへの移送ができるようにした。前記フラスコに、CrCl・6HO(40g、0.15mol)、亜鉛顆粒(20メッシュ)(18.3g、0.28mol)、水銀(13.55g、1mL、0.0676mol)及び蒸留水500mLを仕込んだ。Nを1時間流した後、混合物を約80℃に温めて反応を開始させた。一定のN流中で2時間撹拌後、混合物を室温に冷却し、さらに48時間連続撹拌した。その時間までに反応混合物は濃青色溶液に変化した。この溶液をNでパージした血清瓶に移し、後で使うために冷蔵庫に保管した。
【0112】
細菌:使用されたクロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)は、German Resource Centre for Biological Material(DSMZ)に寄託され、受入番号19630を割り当てられたものである。
【0113】
サンプリング及び分析手順
培地サンプルは、CSTRリアクターから20日間までの期間にわたり周期的に採取した。培地を採取するたびに、リアクターに気体が出入りしないように注意した。
【0114】
HPLC
HPLCシステム Agilent 1100シリーズ。移動相:0.0025N硫酸。流速及び圧力:0.800mL/分。カラム:Alltech IOA;カタログ番号9648、150×6.5mm、粒径5μm。カラム温度:60℃。検出器:屈折率。検出器の温度:45℃。
【0115】
試料調製法
試料(400μL)及び0.15モル ZnSO(50μL)及び0.15モル Ba(OH)(50μL)をエッペンドルフ管に入れる。前記管を12,000rpm、4℃で10分間遠心分離する。200μLの上清をHPLCバイアルに移し、5μLをHPLC機器に注入する。
【0116】
ヘッドスペース分析
測定は、二つのチャンネルが設けられたVarian CP−4900 マイクロGCで実施した。チャンネル1を、10mのMol−sieveカラムで、70℃、200kPaのアルゴン及びバックフラッシュ時間4.2秒で運転した。一方、チャンネル2を、10mのPPQカラムで、90℃、150kPaのヘリウムで、バックフラッシュなしで運転した。両チャンネルの注入器温度は70℃であった。測定時間は120秒に設定されたが、関連するすべてのピークは通常100秒以内に溶離した。
【0117】
基質
瓶詰めの合成ガスをコロラド州デンバー(米国)のRange Fuelsの2乾燥トン/日の実証設備から得た。供給原料は、コロラド松のチップであり、生成した合成ガスを乾燥し、残存する芳香族化合物及び過剰のCOを実質的に除去した後に瓶詰めした。
【0118】
実施例1:CSTR中でのバッチ発酵
溶液Aを含む液体培地(800mL)を、無菌の嫌気状態で1リットルのCSTR容器に移送し、継続的にNで散布した。一旦移送されると、培地の還元状態とpHはプローブによって直接測定することができる。培地を37℃まで加熱し、400rpmで撹拌した。次いで、リン酸(30mM)、タングステン酸ナトリウム(10μM)、溶液B及び溶液Cを加えた。硫化ナトリウム溶液(0.5mM)を発酵容器に加え、次いでその培地を塩化クロム(II)溶液の添加によって−200mVに還元した。
【0119】
埴菌する前に、Nガスを、30%のCO、50%のH、5%のCO、及び15%のCHの混合ガス(Range Fuels合成ガス)に切り替え、実験全体を通して連続的に発酵ブロスに散布した。活発に増殖するクロストリジウム・オートエタノゲナム種培養物をおよそ10%(V/V)の量でCSTRに植菌した。細菌培養物の増殖に従って基質と攪拌を増やした。
【0120】
結果
代謝産物と微生物増殖を図2に示す。1日目からバイオマス及びエタノール生成が始まり、初期は指数関数的な傾向で上昇し、次いで直線的な速度で生成した。バイオマスは、3日目で4.9g/Lのピークに到達し、また、エタノール濃度は3.7日目で最大64g/Lまで増加した。アセテートは、5.9g/Lまで蓄積して発酵の終了までに2g/Lに低下した。
【0121】
ガス消費量及び生成量の傾向は図3から分かる。培養物は植菌後増殖を始めるとともに、発酵ブロスの攪拌とガス流の供給量を次第に増加させた。その結果、1.8日目と3.0日目の間は2.0モル/L/日以上の安定したCO消費量を示し、その間に最も高い割合のエタノール生成が観察された。H消費は、この発酵連続運転の2日目に最大値の1.4モル/L/日に到達し、合計した(COとH)最大ガス消費速度は、3.6g/L/日であった。細菌培養物がCOを消費するとともに、COが生成し、1.8日目と3.0日目の間におよそ1.0モル/L/日の最大値を示した。
【0122】
本発明を、ある特定の好適な態様を参照して本明細書中で説明してきたが、それは過度の実験をせずとも読者が本発明を実施できるようにするためである。当業者であれば、本発明は、具体的に記載されたもの以外にも、多数の変形及び変更をして実施できることは分かる。当然ながら、本発明はすべてのそのような変形及び変更も含む。さらに、表題、見出しなどは、本文献に対する読者の理解を助けるために提供されるものであって、本発明の範囲を制限するものとして読まれるべきでない。本明細書中に引用されたすべての出願、特許及び出版物の全開示内容が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0123】
さらに詳しくは、当業者には分かる通り、本発明の態様の実施には一つ以上の追加的要素が含まれてもよい。特定の実施例又は記載においては本発明をその様々な側面において理解するのに必要な要素しか示されていない。しかしながら、本発明の範囲は、記載された態様に限定されず、一つ以上の追加ステップ及び/又は一つ以上の置換ステップを含むシステム及び/又は方法、及び/又は一つ以上のステップを省略したシステム及び/又は方法も含む。
【0124】
本明細書におけるいずれの先行技術への言及も、その先行技術が世界中のあらゆる国における努力傾注分野での共通の一般的知識の一部を形成しているということの肯定又は何らかの形態での示唆として受け取られない、あるいは受け取られるべきではない。
【0125】
本明細書及び以下の請求項の全体を通じて、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise, comprising)」などの用語は、排他的意味とは反対の包括的意味、即ち「含むが、限定されない」という意味と解釈されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵プロセスにおける炭素捕捉を増加させる方法であって、ガス化装置中で供給原料をガス化して合成ガス基質を生成すること、及びバイオリアクター中で該合成ガス基質の少なくとも一部を1種以上の微生物に接触させて1種以上の生成物を生成することを含み、出口流が該バイオリアクターを出て、該出口流の少なくとも一部が該ガス化装置に送られる方法。
【請求項2】
該出口流が1種以上の発酵の副生成物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
発酵の副生成物が二酸化炭素である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該バイオリアクターを出る該二酸化炭素の少なくとも一部が該ガス化装置に送られる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
二酸化炭素が該出口流中の1種以上の他の成分から実質的に分離される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記出口ガスが、発酵によって生成物に変換されなかった該合成ガスの第一成分と任意に1種以上の第二成分とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
生成物に変換されなかった該第一成分がメタンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該バイオリアクターを出るメタンの少なくとも一部が該ガス化装置に送られる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
メタンが該出口流中の1種以上の成分から実質的に分離される、請求項7又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
1種以上の微生物による合成ガス基質の発酵によって生成物を生成する方法であって、該合成ガスはガス化装置中で生成され、該発酵で生成した二酸化炭素副生成物の少なくとも一部を前記ガス化装置内に送ることを含む方法。
【請求項11】
該微生物が嫌気性カルボキシド栄養性細菌である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
該嫌気性カルボキシド栄養性細菌が、クロストリジウム(Clostridium)、ムーレラ(Moorella)、パイロコッカス(Pyrococcus)、真正細菌(Eubacterium)、デスルホバクテリウム(Desulfobacterium)、カルボキシドサーマス(Carboxydothermus)、アセトゲニウム(Acetogenium)、アセトバクテリウム(Acetobacterium)、アセトアナエロビウム(Acetoanaerobium)、ブチリバクテリウム(Butyribacterium)及びペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)から成る群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
該カルボキシド栄養性細菌がクロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該クロストリジウム・オートエタノゲナムが、German Resource Centre for Biological Material(DSMZ)に識別寄託番号19630で寄託された株の識別特徴を有するクロストリジウム・オートエタノゲナムである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該生成物が1種以上の酸及び/又はアルコールを含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
1種以上の該酸がアセテートを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
1種以上の該アルコールがエタノールを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
該供給原料が、都市固形廃棄物、林業資材、木屑、建設資材、植物材料、石炭、石油、パルプ及び紙廃棄物、石油化学副産物、タイヤ、又はその組み合わせから選択される炭素質材料を含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
合成ガス基質の微生物発酵による生成物を生成するプロセスの効率を上げるためのシステムであって、
a.CO及びHを含む合成ガス基質を生成するように構成されたガス化装置と、
b.該合成ガス基質に由来するCOと場合によりHとの少なくとも一部を生成物に変換するように構成されたバイオリアクターと、
c.生成物に変換されなかった該合成ガス基質の1種以上の成分の少なくとも一部及び/又は該発酵の少なくとも1種の副生成物の少なくとも一部を、該バイオリアクターを出る出口流から該ガス化装置に戻す手段とを含むシステム。
【請求項20】
該システムが、二酸化炭素を含む副生成物の少なくとも一部を該ガス化装置に送るように構成された、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
該システムが、二酸化炭素を該ガス化装置に送ることができるように二酸化炭素を該出口流から分離するように構成された分離手段を含む、請求項19又は20のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−525145(P2012−525145A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508419(P2012−508419)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/NZ2010/000082
【国際公開番号】WO2010/126382
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(510119555)ランザテク・ニュージーランド・リミテッド (6)
【Fターム(参考)】