説明

発電システムに用いるガス混合装置

【課題】副燃料ガスの変動があるときでも、燃焼用空気に対する混合燃料ガスの混合比率を適切に制御し、失火、NOx濃度の増加を防止することができる発電システムに用いるガス混合装置を提供すること。
【解決手段】ガス混合装置6のガス混合コントローラ8は、次の読込手段81、算出手段82及び調整手段83を備えている。読込手段81は、電力計31による発電出力W、圧力計72による排気圧力P、及び温度計73による排気温度Tを、所定の時間間隔で読み込む。算出手段82は、測定した発電出力Wを出力するときの目標排気抵抗Rrを関係マップMより求めると共に、排気管22の構造及び測定した排気温度Tを用いて煙突効果Zを求め、かつ排気圧力Pに煙突効果Zを加算して求めた排気抵抗Rを求める。調整手段83は、排気抵抗Rが目標排気抵抗Rrになるよう混合ガス制御弁71の開度を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電システムに対して、主燃料ガスと副燃料ガスとの混合燃料ガスを供給するよう構成したガス混合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ガス等の主燃料ガスと、バイオガス等の副燃料ガスとの2種類の燃料ガスを用いてガスエンジンを運転し、このガスエンジンの出力によって発電機を作動させるよう構成した発電システム(コージェネレーションシステム)においては、種々のシステム方式が採用されている。例えば、副燃料ガスの発熱量に応じて主燃料ガスと燃焼用空気との混合気の供給流量を調整し、2種類の燃料ガスを混合して燃焼を行う方式、主燃料ガスと副燃料ガスとの混合燃料を用い、空気比を制御しながら燃焼を行う方式等がある。
【0003】
例えば、特許文献1においては、バイオガス等の副燃料ガスと燃焼用空気との混合気、及び都市ガス等の主燃料ガスをガスエンジンに供給して、運転を行うよう構成したガスエンジンが開示されている。また、特許文献1においては、ガスエンジンの排気ガス中の酸素濃度又は窒素酸化物(NOx)濃度を測定し、この濃度に基づいてガスエンジンへの主燃料ガスの供給流量を変更するバルブの開度を調節することにより、空気比を制御して、ガスエンジンの安定した運転を行っている。
【0004】
また、特許文献2のガスエンジン用空燃比制御装置においては、排気ガスの質量流量変化に応じて変化する1つ以上の入力信号(例えば排気ガス圧力、温度、あるいは体積流量)を受け、調整出力信号を作り出すことによりエンジンの吸気量における空燃比を制御することが開示されている。これによれば、燃料成分が大幅に変動する可能性のあるガスエンジンにおいて、NOxを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−30302号公報
【特許文献2】特開2000−220481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、バイオガスには、一般的に、二酸化炭素、窒素等の不燃成分が多く含まれている。特許文献1において、排気ガス中の酸素濃度が一定になるようバルブの開度を調節すると、燃料ガス中におけるバイオガスの割合、バイオガス中の水素、二酸化炭素等の含有量等が変化したときに、排気ガスの排気量が変化し、ガスエンジンにおける燃焼温度が変化することになる。
【0007】
具体的には、副燃料ガス中の不燃成分の増加により、混合燃料ガス中の不燃成分が増加したときには、排気ガスの排気量が増加して、排気ガス中の酸素濃度が低くなる。そのため、酸素濃度一定制御を行う場合には、排気ガス中の酸素濃度を高くするために、燃焼用空気の供給量を増加させることになり(特許文献1においては主燃料ガスのバルブの開度を減少させることになり)、ガスエンジンにおける燃焼が悪化して、失火等が発生する要因となる。
一方、副燃料ガス中の不燃成分の減少により、混合燃料ガス中の不燃成分が減少したときには、排気ガスの排気量が減少して、排気ガス中の酸素濃度が高くなる。そのため、酸素濃度一定制御を行う場合には、排気ガス中の酸素濃度を低くするために、燃焼用空気の供給量を減少させることになり(特許文献1においては主燃料ガスのバルブの開度を増加させることになり)、ガスエンジンにおける燃焼温度が上昇して、NOxの発生量が増加する要因となる。
【0008】
また、特許文献2においては、ガスエンジンからの排気ガスを排熱回収装置等に用いるコージェネレーションシステムを構築する際には、そのまま採用することはできない。すなわち、この場合には、排気ガスの排熱を多く排熱回収装置等へ回収する場合と、排気ガスの排熱を少なく排熱回収装置等へ回収する場合とにおいて、排気管における排気温度の違いにより排気圧力が大きく変動することがある。そのため、この場合には、NOxの発生量の抑制と失火の防止とを図ることができない。
【0009】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、副燃料ガスの発熱量の変動がある場合、及び排気ガスの排熱を多く回収する場合とほとんど回収しない場合とのいずれの場合においても、燃焼用空気に対する混合燃料ガスの混合比率を適切に制御して、失火、NOx濃度の増加を防止することができる発電システムに用いるガス混合装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ガスエンジンの運転を行って発電機を作動させるよう構成した発電システムに対して装備し、該発電システムへ都市ガス等の主燃料ガスとバイオガス等の副燃料ガスとを混合させた混合燃料ガスを供給するよう構成したガス混合装置であって、
上記発電システムは、上記発電機の発電出力を測定する電力計と、空気配管から吸い込まれた燃焼用空気と燃料配管に供給された上記混合燃料ガスとを混合させて混合気を作り出す混合気供給配管と、該混合気供給配管に配設して、上記ガスエンジンへ供給する上記混合気の流量を調整するためのスロットルバルブと、該スロットルバルブの開度を調整して上記発電機の発電出力を所定の目標発電出力に制御するメインコントローラとを備えており、
上記ガス混合装置は、上記燃料配管に供給する上記混合燃料ガスの流量を調整するための混合ガス制御弁と、上記ガスエンジンの排気管における排気圧力を測定する圧力計と、上記排気管における排気温度を測定する温度計と、上記混合ガス制御弁の開度を調整して上記燃焼用空気に対する上記混合燃料ガスの混合比率を制御するガス混合コントローラとを備えており、
該ガス混合コントローラには、上記電力計によって測定される発電出力Wmと、該発電出力Wmを出力するときに上記圧力計によって測定される排気圧力Pmに煙突効果Zmを加算して求められる排気抵抗Rmとの関係が関係マップとして予め設定してあり、
上記ガス混合コントローラは、上記電力計によって測定した発電出力W、上記圧力計によって測定した排気圧力P、及び上記温度計によって測定した排気温度Tを読み込む読込手段と、
上記測定した発電出力Wを出力するときの目標排気抵抗Rrを上記関係マップより求めると共に、上記排気管の構造及び上記測定した排気温度Tを用いて煙突効果Zを求め、かつ上記排気圧力Pに上記煙突効果Zを加算して排気抵抗Rを求める算出手段と、
上記排気抵抗Rが上記目標排気抵抗Rrになるよう上記混合ガス制御弁の開度を調整する調整手段とを備えていることを特徴とする発電システムに用いるガス混合装置にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0011】
本発明の発電システムに用いるガス混合装置においては、副燃料ガスの発熱量の変動があったときに、混合燃料ガスの発熱量に応じた混合燃料ガスと燃焼用空気との混合比率を適切にして、ガスエンジンに失火が生じることを防止すると共に、ガスエンジンの排気ガス中のNOx濃度の増加を防止するための工夫を行っている。
本発明においては、発電機の発電出力と、排気ガスの排気量とが所定の相関関係にあることに着目し、所定の発電出力のときに、排気ガスの排気量とほぼ比例する排気管の排気抵抗が一定になるように混合ガス制御弁を制御して、燃焼用空気に対する混合燃料ガスの混合比率を変化させる。また、特に、ガスエンジンから排気される排気ガスの排熱を回収する際に、排気ガスの排熱を多く排熱回収装置等へ回収する場合と、排気ガスの排熱を少なく排熱回収装置等へ回収する場合とにおいては、排気ガスの温度が大きく異なる。ガス混合コントローラは、実際に測定される排気圧力が、排気ガスが排気管内を上昇するときに生ずる煙突効果によって低くなっていることを考慮し、この煙突効果による補正を行って混合ガス制御弁の制御を行う。
【0012】
本発明のガス混合装置は、混合ガス制御弁、圧力計、温度計及びガス混合コントローラを備えており、主燃料ガスと副燃料ガスとの混合燃料ガスを用いる際に、既存の発電システムに取り付けて使用することができるものである。
発電システムの運転を行う前には、発熱量の変動がほとんどない燃料ガス(主燃料ガス等を用いることができる。)を発電システムに供給し、所定の発電出力ごとに、実測する排気ガス中のNOx濃度が目標とするNOx濃度となる混合燃料ガスと燃焼用空気との混合比率を設定する。この各混合比率を設定するときに、発電出力W、排気圧力P及び排気温度Tを実際に測定すると共に煙突効果Zを算出し、排気圧力Pと煙突効果Zとの和である排気抵抗Rを求める。こうして、発電出力Wmと排気抵抗Rmとの関係マップを作成し、この関係マップをガス混合コントローラに設定しておく。
【0013】
ガス混合装置のガス混合コントローラは、読込手段、算出手段及び調整手段を備えており、これらの手段によって混合ガス制御弁の制御を行う。
ガス混合コントローラは、読込手段によって、発電出力W、排気圧力P及び排気温度Tを読み込む。このとき、これらの値は、所定の時間間隔で複数回読み込むことができる。ガス混合コントローラは、算出手段によって、測定した発電出力Wを出力するときの目標排気抵抗Rrを関係マップより求めると共に、排気管の構造及び測定した排気温度Tを用いて煙突効果Zを求める。
【0014】
そして、ガス混合コントローラは、調整手段によって、排気圧力Pに煙突効果Zを加算して求めた排気抵抗Rが、目標排気抵抗Rrになるよう混合ガス制御弁の開度を調整する。
ここで、副燃料ガスの発熱量が低下したときには、発電機の発電出力Wが低下することになり、この発電出力Wの低下を補うためにスロットルバルブの開度が大きくなり、その結果、排気管における排気圧力Pが高くなっていると考えられる。スロットルバルブの開度が大きくなるときには、ガスエンジンへの混合燃料ガスの供給量が増加すると共に燃焼用空気の供給量も増加している。
【0015】
このときには、発電機において所定の目標発電出力を出力する際の排気圧力Pを含む排気抵抗Rが目標排気抵抗Rrよりも高くなっていると考えられる。そこで、ガス混合コントローラの調整手段により、混合ガス制御弁の開度が大きくなるよう調整され、排気抵抗Rが目標排気抵抗Rrに近づけられる。
これにより、副燃料ガスの発熱量が低下し、燃焼用空気に対する混合燃料ガスの混合比率が低く、ガスリーン状態(混合燃料ガスの希薄状態)にあるガスエンジンの燃焼状態を最適な燃焼状態に戻すことができる。そのため、ガスリーン状態を回避し、ガスエンジンに失火が生ずることを防止することができる。
【0016】
一方、副燃料ガスの発熱量が上昇したときには、発電機の発電出力Wが上昇することになり、この発電出力Wの上昇を抑えるためにスロットルバルブの開度が小さくなり、その結果、排気管における排気圧力Pが低くなっていると考えられる。スロットルバルブの開度が小さくなるときには、ガスエンジンへの混合燃料ガスの供給量が減少すると共に燃焼用空気の供給量も減少している。このときには、発電機において所定の目標発電出力を出力する際の排気圧力Pを含む排気抵抗Rが目標排気抵抗Rrよりも低くなっていると考えられる。そこで、ガス混合コントローラの調整手段により、混合ガス制御弁の開度が小さくなるよう調整され、排気抵抗Rが目標排気抵抗Rrに近づけられる。
これにより、副燃料ガスの発熱量が上昇し、燃焼用空気に対する混合燃料ガスの混合比率が高く、ガスリッチ状態(混合燃料ガスの濃厚状態)にあるガスエンジンの燃焼状態を最適な燃焼状態に戻すことができる。そのため、ガスリッチ状態を回避し、ガスエンジンの排気ガス中のNOx濃度の増加を防止することができる。
【0017】
ところで、発電システムが排気ガスの排熱を多く回収する場合には、排気ガスの温度が大幅に低くなる一方、排熱をほとんど回収しない場合には、排気ガスの温度が大幅に高くなる。これらの場合において、煙突効果Zの値には大きな差が生じる。
これに対し、本発明においては、煙突効果Zを考慮して排気抵抗Rを求めている。そのため、排気抵抗Rを正確に算出することができ、ガス混合コントローラの調整手段によって混合ガス制御弁を制御する精度を向上させることができる。これにより、混合燃料ガスと燃焼用空気との混合比率を適切に制御することができ、排気ガスの排熱を多く回収する場合とほとんど回収しない場合とのいずれにおいても、失火の発生及びNOx濃度の増加を防止して、ガスエンジンの安定燃焼を行うことができる。
【0018】
それ故、本発明のガス混合装置によれば、副燃料ガスの発熱量の変動がある場合、及び排気ガスの排熱を多く回収する場合とほとんど回収しない場合とのいずれの場合においても、燃焼用空気に対する混合燃料ガスの混合比率を適切に制御して、失火、NOx濃度の増加を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例にかかる、発電システム及びガス混合装置の構成を示す説明図。
【図2】実施例にかかる、横軸に発電出力Wをとり、縦軸に排気抵抗Rをとって、これらの関係を示すグラフ。
【図3】実施例にかかる、横軸に排気温度Tをとり、縦軸に煙突の煙突効果Zをとって、これらの関係を示すグラフ。
【図4】実施例にかかる、発電システムの制御を行う方法を示すフローチャート。
【図5】実施例にかかる、横軸に排気管の排気抵抗Rをとり、縦軸に排気ガス中のNOx濃度をとって、これらの関係を示すグラフ。
【図6】制御方法のシミュレーションにかかる、混合燃料ガスがメタンのみからなる場合について、混合燃料ガスから排気ガスが作られる際の組成、体積の変化を示す説明図。
【図7】制御方法のシミュレーションにかかる、混合燃料ガスが水素のみからなる場合について、混合燃料ガスから排気ガスが作られる際の組成、体積の変化を示す説明図。
【図8】制御方法のシミュレーションにかかる、混合燃料ガスがメタン及び二酸化炭素からなる場合について、混合燃料ガスから排気ガスが作られる際の組成、体積の変化を示す説明図。
【図9】実施例にかかる、横軸に、混合燃料ガス全体に対する副燃料ガスの混焼率をとり、縦軸に、排気ガス中のNOx濃度及び排気抵抗Rをとって、これらの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上述した本発明の発電システムに用いるガス混合装置における好ましい実施の形態につき説明する。
本発明において、上記読込手段は、上記発電出力W、上記排気圧力P、及び上記排気温度Tを所定の時間間隔で逐次読み込むよう構成されており、上記調整手段は、上記排気抵抗Rが、上記目標排気抵抗Rrに所定の不感帯圧力幅Xを加算した値よりも大きいときには、上記混合ガス制御弁の開度を所定量大きくし、一方、上記排気抵抗Rが、上記目標排気抵抗Rrから所定の不感帯圧力幅Xを減算した値よりも小さいときには、上記混合ガス制御弁の開度を所定量小さくするよう構成することが好ましい(請求項2)。
この場合には、発電出力Wの平均値Wav、排気温度Tの平均値Tav、排気圧力Pの平均値Pavを用いることにより、排気抵抗Rの算出精度を高めることができる。また、調整手段は、混合ガス制御弁の制御を容易に行うことができる。
【0021】
また、上記算出手段は、上記排気抵抗Rを、上記排気温度Tを基準排気ガスの温度Tsに換算した換算排気抵抗として求めるよう構成されていることが好ましい(請求項3)。
この場合には、排気温度Tによって、排気ガスの密度、体積が変化することを考慮して、排気抵抗Rを補正して換算排気抵抗として用いる。これにより、排気抵抗Rを、排気温度Tの変動を考慮して、より正確に算出することができる。
【0022】
また、上記発電システムは、上記排気管に対して、排熱回収装置の排熱回収部と該排熱回収部をバイパスするバイパス弁とを設けてなり、該バイパス弁の開度が調整されることによって上記排熱回収部から回収する熱量が変更される状態において使用することができる(請求項4)。
排気ガスの排熱回収量が大きく変動する場合でも、ガス混合装置において煙突効果Zを考慮して排気抵抗Rを求めていることにより、ガスエンジンの安定燃焼を行うことができる。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明の発電システムに用いるガス混合装置にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例の発電システム1に用いるガス混合装置6は、図1に示すごとく、ガスエンジン2の運転を行って発電機3を作動させるよう構成した発電システム1に対して装備し、発電システム1へ都市ガス(13A)等の主燃料ガスF1とバイオガス等の副燃料ガスF2とを混合させた混合燃料ガスF3を供給するよう構成してある。
発電システム1は、発電機3の発電出力Wを測定する電力計31と、空気配管41から吸い込まれた燃焼用空気Aと燃料配管42に供給された混合燃料ガスF3とを混合させて混合気Gを作り出す混合気供給配管43と、混合気供給配管43に配設して、ガスエンジン2へ供給する混合気Gの流量を調整するためのスロットルバルブ21と、スロットルバルブ21の開度を調整して発電機3の発電出力Wを所定の目標発電出力に制御するメインコントローラ5とを備えている。
【0024】
ガス混合装置6は、燃料配管42に供給する混合燃料ガスF3の流量を調整するための混合ガス制御弁71と、ガスエンジン2の排気管22における排気圧力Pを測定する圧力計72と、排気管22における排気温度Tを測定する温度計73と、混合ガス制御弁71の開度を調整して燃焼用空気Aに対する混合燃料ガスF3の混合比率を制御するガス混合コントローラ8とを備えている。
ガス混合コントローラ8には、図2に示すごとく、電力計31によって測定される発電出力Wmと、発電出力Wmを出力するときに圧力計72によって測定される排気圧力Pmに煙突効果Zmを加算して求められる排気抵抗Rmとの関係が関係マップMとして予め設定してある。
【0025】
図1に示すごとく、ガス混合コントローラ8は、次の読込手段81、算出手段82及び調整手段83を備えている。読込手段81は、電力計31によって測定した発電出力W、圧力計72によって測定した排気圧力P、及び温度計73によって測定した排気温度Tを、所定の時間間隔(サンプリング間隔)t1で読み込むよう構成されている。算出手段82は、測定した発電出力Wを出力するときの目標排気抵抗Rrを関係マップMより求めると共に、排気管22の構造及び測定した排気温度Tを用いて煙突効果Zを求め、かつ排気圧力Pに煙突効果Zを加算して求めた排気抵抗Rを求めるよう構成されている。調整手段83は、排気抵抗Rが目標排気抵抗Rrになるよう混合ガス制御弁71の開度を調整するよう構成されている。
【0026】
以下に、本例のガス混合装置6につき、図1〜図9を参照して詳説する。
本例の発電システム1に用いるガス混合装置6は、主燃料ガスF1と副燃料ガスF2との混合燃料ガスF3を発電システム1に供給するものであり、副燃料ガスF2の発熱量の変動があったときに、混合燃料ガスF3の発熱量に応じた混合燃料ガスF3と燃焼用空気Aとの混合比率を適切にして、ガスエンジン2に失火が生じることを防止すると共に、ガスエンジン2の排気ガスH中におけるNOx濃度の増加を防止するものである。
【0027】
本例においては、発電機3の発電出力Wと、排気ガスHの排気量とが所定の相関関係にあることに着目し、所定の発電出力Wのときに、排気ガスHの排気量とほぼ比例する排気管の排気抵抗Rが一定になるように混合ガス制御弁71を制御して、燃焼用空気Aに対する混合燃料ガスF3の混合比率を変化させる。排気抵抗Rは、排気ガスHの流量をQ、排気ガスHの密度をρとしたとき、ρ×Q2にほぼ比例することより、排気抵抗Rを一定に制御すれば、排気ガスHの流量をほぼ一定にすることができる。この結果、本例のガス混合装置6は、排気ガスH中のNOx濃度に影響を与えるガスエンジン2の燃焼温度をほぼ一定に制御することができ、NOx濃度を所定の目標値以下の適切な範囲内に維持することができる。また、排気抵抗Rは、排気ガスHの流量の二乗にほぼ比例するので、検知感度が高いといえる。
【0028】
また、特に、ガスエンジン2から排気される排気ガスHの排熱を回収する際に、排気ガスHの排熱を多く排熱回収装置等へ回収する場合と、排気ガスHの排熱を少なく排熱回収装置等へ回収する場合とにおいては、排気ガスHの温度が大きく異なる。ガス混合コントローラ8は、実際に測定される排気圧力Pが、排気ガスHが排気管22内を上昇するときに生ずる煙突効果Zによって低くなっていることを考慮し、この煙突効果Zによる補正を行って混合ガス制御弁71の制御を行う。
【0029】
排気抵抗Rとは、排気管22における排気ガスHの流れ易さのことをいう。
排気管22が長くなるほどガスエンジン2の出口(排気管22の入口)に配設された圧力計72による排気圧力Pは高くなる。つまり、排気管22が長いほど排気抵抗Rは高くなる。一方、排気管22の高さ寸法が大きいときには、排気ガスHの排気温度Tが高いほど、排気ガスHが上昇する力(排気ガスHと、排気管22の出口における大気との温度の違いによる比重差から生じる力)としての煙突効果Zが大きく作用することになる。これにより、圧力計72によって測定する排気圧力Pは、煙突効果Zの分だけ低くなっている。
そこで、ガス混合コントローラ8においては、算出手段82によって排気抵抗Rを、排気圧力Pと煙突効果Zとの和によって求める。
【0030】
本例の主燃料ガスF1は、発熱量が一定である都市ガス(13A)であり、本例の副燃料ガスF2は、発熱量に変動を生じることがあるバイオガスである。
図1に示すごとく、本例の発電システム1において、ガスエンジン2は、複数の気筒を有して構成されており、混合気供給配管43におけるスロットルバルブ21は、その開度を調整してガスエンジン2へ供給する混合気Gの流量を調整するよう構成されている。発電機3は、種々の負荷に対して電力を供給するよう構成されており、商用電源等と協調して動作することができる。
メインコントローラ5及びガス混合コントローラ8は、いずれもコンピュータを用いて構成されている。メインコントローラ5は、電力計31から発電出力Wのデータを受け取って、スロットルバルブ21の開度を調整して発電機3の発電出力Wを所定の目標発電出力に制御するよう構成することができる。なお、発電出力Wのデータの代わりに、発電機3に設けた回転速度計による回転速度のデータを用いることもできる。
【0031】
外気に開放した空気配管41の入口部には、ガスエンジン2への異物混入を防止するための吸気フィルタ411が設けてある。また、混合燃料ガスF3が流れる燃料配管42と、燃焼用空気Aが流れる空気配管41との合流部には、混合燃料ガスF3と燃焼用空気Aとを混合するミキサー44が設けてある。このミキサー44は、ベンチュリー441による吸引作用を利用して、燃焼用空気Aがベンチュリー441を流れる際に、ベンチュリー441におけるスロート部442が負圧になり、この負圧による吸引力によって燃焼用空気Aに対して混合燃料ガスF3を引き込んで、両者の混合気Gを作り出すものである。
【0032】
図1に示すごとく、ガス混合装置6は、主燃料ガスF1がその供給源から供給される主燃料配管61と、副燃料ガスF2がバイオガス等の副燃料ガスF2のタンクから供給される副燃料配管62とを合流させて、燃料配管42へ混合燃料ガスF3を供給するよう構成してある。
本例の混合ガス制御弁71は、主燃料配管61と副燃料配管62とが合流した混合燃料配管63に設けてあり、ガス混合コントローラ8の指令を受けて、混合燃料ガスF3の流量を調整するよう構成されている。本例のガス混合装置6は、外気の温度を測定する外気温度計74を有している。関係マップMの作成時及び運転時において煙突効果Zを求める際には、外気の温度を用いて補正を行う。
【0033】
また、図1に示すごとく、本例のガス混合装置6は、各構成部品71、72、73、74、8、配管61、62、63等を一体化したユニットとして、既に設置した発電システム1に対して簡単に装備することができるよう構成してある。具体的には、ガス混合装置6は、主燃料ガスF1を通過させる主燃料配管61と、副燃料ガスF2を通過させる副燃料配管62と、副燃料配管62と主燃料配管61とを合流させて混合燃料ガスF3を通過させる混合燃料配管63と、混合燃料配管63に配設した混合ガス制御弁71と、排気管22における排気圧力Pを測定する圧力計72と、排気管22における排気温度Tを測定する温度計73と、外気の温度を測定する外気温度計74と、ガス混合コントローラ8とを一体化したユニットとして構成してある。なお、ガス混合装置6に用いる圧力計72、温度計73、外気温度計74は、発電システム1に予め装備されている場合には、予め装備されたものを使用することができる。
【0034】
そして、ガス混合装置6は、発電システム1における燃料配管42に混合燃料配管63を接続し、発電機3に設けられている電力計31の発電出力Wをガス混合コントローラ8に読み込むよう構成することによって、既に設置した発電システム1に対して簡単に装備することができる。これにより、発電システム1内の改造は、必要最小限にすることができる。
【0035】
図2には、予めガス混合コントローラ8に設定した関係マップMの一例を示す。同図は、横軸に発電出力Wをとり、縦軸に排気抵抗Rをとって、これらの関係を示す。
この関係マップMは、目標とする所定のNOx濃度を実現する、所定の混合燃料ガスF3と燃焼用空気Aとの混合比率で燃焼を行う際における、発電機3の発電出力Wと排気管22における排気抵抗Rとの相関関係によって表される。
【0036】
本例の関係マップMを作成するに当たっては、発熱量の変動がほとんどない主燃料ガスF1を発電システム1のガスエンジン2に供給して発電機3を動作させる際に、所定の発電出力Wごとに、実測する排気ガスH中のNOx濃度が目標とするNOx濃度となる、混合燃料ガスF3と燃焼用空気Aとの混合比率を手動で調整しながら設定する。この各混合比率を設定するときに、発電出力W、排気圧力P及び排気温度Tを実際に測定すると共に煙突効果Zを算出し、排気圧力Pと煙突効果Zとの和である排気抵抗Rを求める。こうして、発電出力Wmと排気抵抗Rmとの関係マップMを作成し、この関係マップMをガス混合コントローラ8に設定しておく。
そして、電力計31によって発電機3の所定の発電出力Wが測定されたときには、この発電出力Wを出力する際の目標排気抵抗Rrを関係マップMから読み取ることができる。
【0037】
本例の発電システム1は、ビル等に設置するものが多く、ガスエンジン2から排気ガスHを排気するための排気管22は、上方に長く形成されている。
排気管22の構造による煙突効果Zは、例えば、次の式によって求めることができる。すなわち、排気管22の煙突高さをH(m)、外気の温度をTG(℃)、排気管22内の排気ガスHの入口出口平均温度をTH(℃)としたとき、煙突効果Z(Pa)は、Z=H×9.8×{353/(273+TG)−342/(273+TH)}から求めることができる。そして、排気抵抗R(Pa)は、排気管22における排気圧力P(Pa)と煙突効果Zとの和(R=P+Z)から求めることができる。
ここで、入口出口平均温度THは、温度計73によって測定した排気管22の入口の排気温度(ガスエンジン2の出口の排気温度)Tと、排気管22の出口の排気温度との平均値として示される。排気管22の出口の排気温度は、排気管22の入口の排気温度に基づいて推定して求める。なお、排気管22の出口の排気温度は、測定することも可能である。
【0038】
また、本例においては、煙突効果Zを、外気の温度TGの所定の平均値算出時間内における複数の測定値の平均値TGav、入口出口平均温度THを、入口出口平均温度THの所定の平均値算出時間t3内における複数の測定値の平均値THavを用いて求め、かつ排気抵抗Rを、排気圧力Pの所定の平均値算出時間内における複数の測定値の平均値Pavに煙突効果Zを加算して求めるよう構成してある。
【0039】
さらに、排気抵抗Rは、排気ガスHの排気量を測定する代わりに求めるものであるため、排気温度Tの違いが排気抵抗Rに及ぼす影響を考慮し、100〜500℃の高温である排気ガスHの温度を基準とする基準排気ガスの温度(例えば120℃)に換算したときの換算排気抵抗Rsとして、算出手段82における算出に用いることができる。
換算排気抵抗Rsは、基準排気ガスの温度をTs(℃)としたとき、Rs=R×(273+Ts)/(273+T)から求めることができる。
なお、排気管22が短い場合には、排気の際の抵抗が低くなり、十分な排気圧力Pを測定できなくなる。そのため、この場合には、排気管22に絞り等を設けてガスエンジン2の許容範囲内の排気抵抗をかけることができる。
【0040】
本例の算出手段82は、目標排気抵抗Rrを、発電出力Wの所定の平均値算出時間内における複数の測定値の平均値Wavを関係マップMに照合して求めるよう構成してある。
また、本例の調整手段83は、排気抵抗Rが、目標排気抵抗Rrに所定の不感帯圧力幅Xを加算した値よりも大きいときには、混合ガス制御弁71の開度を所定量大きくし、一方、排気抵抗Rが、目標排気抵抗Rrから所定の不感帯圧力幅Xを減算した値よりも小さいときには、混合ガス制御弁71の開度を所定量小さくするよう構成されている。
【0041】
また、図1に示すごとく、本例の発電システム1は、ガスエンジン2の排気管22から排気される排気ガスHの排熱を排熱回収装置に回収できるよう構成されている。発電システム1は、排気管22に対して、排熱回収装置の排熱回収部23と、排熱回収部23をバイパスするバイパス弁24とを設けてなる。ガス混合装置6は、バイパス弁24の開度が調整されることによって、排熱回収部23から回収する熱量が変更される状態において使用するよう構成されている。
【0042】
本例の排熱回収部23及びバイパス弁24は、ガスエンジン2の排気管22の入口付近に配設してあり、圧力計72及び温度計73は、排気管22において、排熱回収部23及びバイパス弁24の後流側に配設されている。圧力計72又は温度計73は、排気管22の入口付近の排気圧力P又は排気温度Tを測定する。
排熱回収装置に回収した排熱は、種々の排熱利用装置に利用することができる。排熱回収装置は、排熱利用装置からの要求に応じて、排気ガスHの排熱を回収する量を調整可能である。
【0043】
副燃料配管62には、この副燃料配管62内の副燃料ガスF2の圧力を測定するための副燃料用圧力計を配設することができる。ガス混合コントローラ8は、副燃料用圧力計により測定した副燃料ガスF2の圧力を読み込み、副燃料ガスF2の圧力が、所定の設定圧力よりも低いときには、副燃料ガスF2の供給を停止すると共に主燃料ガスF1のみをガスエンジン2へ供給するよう構成することができる。
主燃料配管61には、必要に応じて手動弁75を設けることができる。この場合には、発電システム1の本運転を行う前に予め試運転を行って、主燃料ガスF1と副燃料ガスF2との初期設定の混合比率を、手動弁75の開度を調整することにより決定しておくことができる。
【0044】
また、手動弁75は、ガス混合コントローラ8によって制御可能な制御弁75とすることができる。この場合には、ガス混合コントローラ8は、混合ガス制御弁71の開度に応じて制御弁75の開度を調整し、主燃料ガスF1と副燃料ガスF2との混合比率を変更可能に構成することができる。そして、例えば、副燃料ガス(バイオガス)F2の熱量が低くなりすぎて、混合ガス制御弁71が全開でも排気抵抗Rが高すぎる場合には、ガス混合コントローラ8は、制御弁75の開度を大きくして主燃料ガス(都市ガス)F1の割合を増加させることができる。これにより、ガスエンジン2に失火のおそれがあるガスリーン状態を回避し、混合燃料ガスF3の熱量を高め、排気抵抗Rを目標排気抵抗Rrとすることができる。そのため、発電システム1に利用することができる副燃料ガス(バイオガス)F2の発熱量の幅を大きくすることができる。
【0045】
図3には、横軸に排気温度Tをとり、縦軸に煙突(排気管22)の煙突効果Zをとって、これらの関係の一例を示す。同図において、排気温度T(排気ガスHの温度)が高くなるに連れて煙突効果も高くなっている。そして、排熱回収装置に排気ガスHの排熱を多く回収する場合Aには、排気温度Tは、左側の120〜200℃の付近になり、排熱回収装置に排気ガスHの排熱をほとんど回収しない、あるいは回収しない場合Bには、排気管22内の排気温度Tは、右側の400〜500℃の付近になる。
【0046】
次に、本例のガス混合装置6を発電システム1に取り付けて、発電システム1の制御を行う方法について、図4のフローチャートを参照して説明する。
まず、ガス混合コントローラ8の読込手段81は、所定の測定時間間隔t1(例えば1秒)ごとに、電力計31による発電出力W、圧力計72による排気圧力P、温度計73による排気温度T、外気温度計74による外気温度TGを測定し(図のステップS1)、この測定を所定の制御時間t2(例えば10秒)になるまで繰り返す(S2)。
次いで、ガス混合コントローラ8の算出手段82は、所定の制御時間t2が経過したときには、現計測時点から遡った所定の平均値算出時間t3(例えば1分間)における発電出力W、排気圧力P、排気温度T、外気温度TGについての平均値Wav、Pav、Tav、TGavを求める(S3)。
【0047】
次いで、算出手段82は、煙突効果Z(Pa)を、排気管22の煙突高さをH(m)、入口出口平均温度THの所定の平均値算出時間t3内の平均値THav(℃)、外気温度TGの平均値TGav(℃)を用いて、Z=H×9.8×{353/(273+TGav)−342/(273+THav)}から求める(S4)。
次いで、算出手段82は、排気抵抗R(Pa)を、排気圧力Pの平均値Pav(Pa)と煙突効果Z(Pa)とを用いて、R=Pav+Zから求める(S5)。
次いで、算出手段82は、排気温度Tの違いが排気抵抗Rに及ぼす影響を考慮して、排気抵抗Rを補正した換算排気抵抗Rsを、基準排気ガスHの温度をTs(℃)として、Rs=R×(273+Ts)/(273+Tav)から求める(S6)。
【0048】
次いで、算出手段82は、発電出力Wの平均値Wavを関係マップMに照合し、この値Wavに対応する目標排気抵抗Rrを関係マップMから読み取る(S7)。
次いで、調整手段83は、換算排気抵抗Rsが、目標排気抵抗Rrに所定の不感帯圧力幅Xを加算した値よりも大きいか否かを判定し(S8)、Rs>Rr+Xである場合には、混合ガス制御弁71の開度を所定量大きくする(S9)。
一方、調整手段83は、Rs>Rr+Xでない場合には、換算排気抵抗Rsが、目標排気抵抗Rrから所定の不感帯圧力幅Xを減算した値よりも小さいか否かを判定し(S10)、Rs<Rr−Xである場合には、混合ガス制御弁71の開度を所定量小さくする(S11)。なお、調整手段83は、Rs<Rr−Xでない場合には、混合ガス制御弁71の開度を維持する。
こうして、ガス混合装置6によって発電システム1を安定して運転することができる。
【0049】
ところで、副燃料ガスF2はバイオガスであり、バイオガスは、メタンの他に、水素、一酸化炭素、二酸化炭素等を含んでおり、その組成の変動によりその発熱量が変動し易い状態にある。
そして、副燃料ガスF2の発熱量が低下したときには、発電機3の発電出力Wが低下することになり、この発電出力Wの低下を補うためにスロットルバルブ21の開度が大きくなり、その結果、排気管22における排気抵抗Rが高くなっていると考えられる。スロットルバルブ21の開度が大きくなるときには、ガスエンジン2への混合燃料ガスF3の供給量が増加すると共に燃焼用空気Aの供給量も増加している。
【0050】
このときには、発電機3において所定の目標発電出力を出力する際の排気圧力Pを含む排気抵抗Rが目標排気抵抗Rrよりも高くなっていると考えられる。そこで、ガス混合コントローラ8の調整手段83により、混合ガス制御弁71の開度が大きくなるよう調整され、排気抵抗Rが目標排気抵抗Rrに近づけられる。
これにより、副燃料ガスF2の発熱量が低下し、燃焼用空気Aに対する混合燃料ガスF3の混合比率が低く、ガスリーン状態(混合燃料ガスF3の希薄状態)にあるガスエンジン2の燃焼状態を最適な燃焼状態に戻すことができる。そのため、ガスリーン状態を回避し、ガスエンジン2に失火が生ずることを防止することができる。
【0051】
一方、副燃料ガスF2の発熱量が上昇したときには、発電機3の発電出力Wが上昇することになり、この発電出力Wの上昇を抑えるためにスロットルバルブ21の開度が小さくなり、その結果、排気管22における排気抵抗Rが低くなっていると考えられる。スロットルバルブ21の開度が小さくなるときには、ガスエンジン2への混合燃料ガスF3の供給量が減少すると共に燃焼用空気Aの供給量も減少している。このときには、発電機3において所定の目標発電出力を出力する際の排気圧力Pを含む排気抵抗Rが目標排気抵抗Rrよりも低くなっていると考えられる。そこで、ガス混合コントローラ8の調整手段83により、混合ガス制御弁71の開度が小さくなるよう調整され、排気抵抗Rが目標排気抵抗Rrに近づけられる。
これにより、副燃料ガスF2の発熱量が上昇し、燃焼用空気Aに対する混合燃料ガスF3の混合比率が高く、ガスリッチ状態(混合燃料ガスF3の濃厚状態)にあるガスエンジン2の燃焼状態を最適な燃焼状態に戻すことができる。そのため、ガスリッチ状態を回避し、ガスエンジン2の排気ガスH中のNOx濃度の増加を防止することができる。
【0052】
ところで、発電システム1が、排気ガスHの排熱を多く回収する場合には、排気ガスHの温度が大幅に低くなる(120℃付近になる)一方、排熱を回収しない場合には、排気ガスHの温度が大幅に高くなる(400〜500℃付近)。これらの場合において、煙突効果Zの値には大きな差が生じる。
これに対し、本例のガス混合コントローラ8においては、煙突効果Zを考慮して排気抵抗Rを求めている。そのため、排気抵抗Rを正確に算出することができ、ガス混合コントローラ8の調整手段83によって混合ガス制御弁71を制御する精度を向上させることができる。これにより、混合燃料ガスF3と燃焼用空気Aとの混合比率を適切に制御することができ、排気ガスHの排熱を多く回収する場合と回収しない場合とのいずれにおいても、失火の発生及びNOx濃度の増加を防止して、ガスエンジン2の安定燃焼を行うことができる。
【0053】
図5には、横軸に排気管22の排気抵抗Rをとり、縦軸に排気ガスH中のNOx濃度(比率)をとって、これらの関係の一例を示す。
同図において、煙突効果Zを考慮した場合の関係ラインを求める際には、発電機3における発電出力Wが所定の値になるよう運転するときに、混合燃料ガスF3と燃焼用空気Aとの混合比率を変化させ、各混合比率のときの排気圧力P、排気温度T等を測定して煙突効果Zを考慮して排気抵抗Rを求めると共に、各混合比率のときの排気ガスH中のNOx濃度を実測した。同図において、丸、三角、菱形のプロット点は、混合比率が異なるときのNOx濃度をそれぞれ示す。そして、各プロット点を回帰分析して描いたものが関係ラインCである。
【0054】
また、発電機3における発電出力Wが所定の値になるよう運転する際に、煙突効果Zを無視して排気抵抗Rを求める場合には、排気ガスHの排気温度Tが450℃一定であるとしたときには、排気抵抗Rと排気ガスH中のNOx濃度との関係は、推定ラインDになる。煙突効果Zを無視する場合には、排気温度Tが高くなるほど関係ラインDは、関係ラインCから左側にオフセットされる量が大きくなる。
【0055】
排気管22の煙突効果Zは、排気ガスHの排気温度Tが高いほど大きく、排気温度Tが400℃と120℃との間では、前者が0.03〜0.04(kPa)大きくなる(図3参照)。この程度の煙突効果Zの差であっても、図5からわかるように、NOx濃度の目標値の設定によっては、NOx濃度が大きく変化してしまうことがある。
煙突効果Zを無視した場合には、計算上、排気温度Tが高くなるほど排気抵抗が小さくなり、ガス混合コントローラ8が、排気抵抗を目標排気抵抗になるよう制御することによって、燃焼用空気Aの割合が増加され、NOx濃度が低下するが、ガスエンジン2の効率低下や失火の問題が生ずるおそれがある。
そのため、煙突効果Zを用いて排気抵抗Rを補正することにより、ガスエンジン2の効率低下、失火の発生を抑制できる。
【0056】
(制御方法のシミュレーション)
本シミュレーションにおいては、ガスエンジン2に混合気Gを供給する、スロットルバルブ21の後流側に設けた吸気マニホールドの圧力(混合気Gの圧力)を一定にしてガスエンジン2を運転する制御方法(吸気マニホールド圧力一定制御)を行う場合について、混合気Gの体積及び組成に対する排気ガスHの体積及び組成の変化について示す。そして、この体積及び組成の変化に対して、上記実施例1に示した排気抵抗一定制御(排気ガス量一定制御)を行う場合の効果、並びに吸気マニホールド圧力一定制御を行う場合の課題、及び排気管22における排気ガスH中の酸素濃度を一定にしてガスエンジン2を運転する制御方法(酸素濃度一定制御)を行う場合の課題について検証する。
【0057】
ここに、本シミュレーションにおいては、主燃料ガスF1及び副燃料ガスF2の多くはメタンで構成される一方、副燃料ガスF2としてのバイオガスには、水素、二酸化炭素等が含まれることを考慮し、混合燃料ガスF3が、メタンのみからなる場合、水素のみからなる場合、メタン及び二酸化炭素からなる場合について、完全燃焼を行ったときの体積及び組成の変化を示し、各制御方法による安定燃焼の妥当性を検討する。
【0058】
以下に、ガスエンジン2に供給する混合燃料ガスF3と燃焼用空気Aとの混合気Gの合計体積が5(Nm3)であると仮定したときの燃焼後の排気ガスHの組成、体積(Nm3)の変化について示す。
ここで、水素の発熱量は、10.76(MJ/Nm3)であり、メタンの発熱量は35.85(MJ/Nm3)であるため、水素の発熱量と合わせるため、水素の体積は1(Nm3)メタンの体積は0.3(Nm3)(35.85×0.3=10.76)とした。
【0059】
図6に示すごとく、混合燃料ガスF3がメタンのみからなる場合、CH4+2O2→CO2+2H2Oの反応式からそれぞれの体積割合(Nm3)は、CH4が1、O2が2に対し、CO2が1、H2Oが2となる。この場合、ガスエンジン2に供給される混合気Gは、全体の体積を5(Nm3)として、メタンを0.3(Nm3)、燃焼用空気Aを残りの4.7(Nm3)含むとき、メタンの燃焼に使われる酸素は4.7(Nm3)のうちの0.6(Nm3)となる。そして、メタンの完全燃焼が行われたときには、全体の体積は5(Nm3)のままで、燃焼用空気A中の酸素0.6(Nm3)が消費されると共に二酸化炭素が0.3(Nm3)、水が0.6(Nm3)生成され、残りが残存空気(燃焼用空気Aのうち燃焼に消費された酸素以外の残りの気体)として4.1(Nm3)残ることになる。
【0060】
図7に示すごとく、混合燃料ガスF3が水素のみからなる場合、H2+0.5O2→H2Oの反応式からそれぞれの体積割合(Nm3)は、H2が1、O2が0.5に対し、H2Oが1となる。この場合、ガスエンジン2に供給される混合気Gは、全体の体積を5(Nm3)として、水素を1(Nm3)、燃焼用空気Aを残りの4(Nm3)含むとき、水素の燃焼に使われる酸素は4(Nm3)のうちの0.5(Nm3)となる。そして、水素の完全燃焼が行われたときには、全体の体積が4.5(Nm3)に減少し、燃焼用空気A中の酸素0.5(Nm3)が消費されると共に水が1(Nm3)生成され、残りが残存空気として3.5(Nm3)残ることになる。
【0061】
図8に示すごとく、混合燃料ガスF3がメタン及び二酸化炭素からなる場合、ガスエンジン2に供給される混合気Gは、全体の体積を5(Nm3)として、メタンを0.3(Nm3)、二酸化炭素を0.3(Nm3)、燃焼用空気Aを残りの4.4(Nm3)含むとき、メタンの燃焼に使われる酸素は4.4(Nm3)のうちの0.6(Nm3)となる。そして、メタンの完全燃焼が行われたときには、全体の体積は5(Nm3)のままで、燃焼用空気A中の酸素0.6(Nm3)が消費されると共に二酸化炭素が0.3(Nm3)、水が0.6(Nm3)生成され、二酸化炭素の合計量は0.6(Nm3)となり、残りが残存空気として3.8(Nm3)残ることになる。
【0062】
混合燃料ガスF3が水素のみからなる場合に、吸気マニホールド圧力一定制御によってガスエンジン2の燃焼運転を行うと、体積が減少した分、排気ガスHの温度が高くなり、排気ガスH中のNOx濃度が増加することになる。つまり、吸気マニホールド圧力一定制御によると、副燃料ガスF2中に水素が含まれ、この水素量が増加すると、NOx濃度が増加することを意味する。
【0063】
混合燃料ガスF3がメタンのみからなる場合(図6参照)には、燃焼前の酸素量は、4.7×0.21(空気中の酸素濃度)=0.987(Nm3)であり、燃焼後の酸素量は、0.987−0.6=0.387(Nm3)となるのに対し、混合燃料ガスF3がメタン及び二酸化炭素からなる場合(図8参照)には、燃焼前の酸素量は、4.4×0.21(空気中の酸素濃度)=0.924(Nm3)であり、燃焼後の酸素量は、0.924−0.6=0.324(Nm3)となる。
【0064】
酸素濃度一定制御によってガスエンジン2の燃焼運転を行う際に、二酸化炭素が含まれる場合について考える。
混合気G中に二酸化炭素が含まれないとした場合(図6の混合燃料ガスF3がメタンのみ含む場合)には、排気ガスH中の酸素濃度が0.387/5×100%=7.74%となる。そのため、仮に排気ガスH中の目標酸素濃度が7%であることを想定すると、酸素濃度が7%となるよう、燃焼用空気Aの混合割合が減らされ、ガスリッチになって、NOx濃度が増加することになる。
一方、混合気G中に二酸化炭素が含まれる場合(図8の混合燃料ガスF3がメタン及び二酸化炭素を含む場合)には、排気ガスH中の酸素濃度が0.324/5×100%=6.48%となる。そのため、仮に排気ガスH中の目標酸素濃度が7%であることを想定すると、酸素濃度が7%となるよう、燃焼用空気Aの混合割合が増やされ、ガスリーンになって、失火が発生するおそれが生じる。
【0065】
このように、吸気マニホールド圧力一定制御又は酸素濃度一定制御を行う場合に対し、上記実施例1に示した排気抵抗一定制御を行う場合には、上記NOx濃度の増加、失火の生じるおそれをなくすことができる。すなわち、排気抵抗一定制御を行う場合において、混合燃料ガスF3に水素が含まれる場合には、どのような組成であっても一定の熱量の混合燃料ガスF3の燃焼を行うとき(一定の発電出力Wを出力するとき)の排気ガスHの排気量を一定にする制御を行うことにより、ガスエンジン2における燃焼温度が安定してNOx濃度の増加が防止される。この状態は、図7においては、2点鎖線で示すように、排気ガスの体積が5(Nm3)となるよう、混合気Gの体積が増加される状態として表される。
【0066】
また、排気抵抗一定制御を行う場合において、混合燃料ガスF3に二酸化炭素が含まれる場合には、燃焼用空気Aの供給量が維持されて燃焼前後における混合燃料ガスF3と排気ガスHとの体積がほとんど変化しないように制御され、失火を生じることが防止される。
従って、上記実施例1に示した排気抵抗一定制御を行うことにより、NOx濃度の増加を防止し、失火の発生を防止できることがわかる。
【0067】
図9には、横軸に、混合燃料ガスF3全体に対する副燃料ガスF2の混焼率(混合率)をとり、縦軸に、排気ガスH中のNOx濃度及び排気抵抗Rをとって、上記実施例1の排気抵抗一定制御を行う場合と、従来の酸素濃度一定制御を行う場合とについて、排気ガスH中のNOx濃度を実測し、排気抵抗Rの変化を算出した結果を示す。なお、副燃料ガスF2の組成は、メタンが60%vol、二酸化炭素が40%volであるとした。
酸素濃度一定制御を行う場合には、副燃料ガスF2の混焼率の変化に伴って、排気抵抗Rが変化する。特に、副燃料ガスF2の混焼率が低いときには、ガスエンジン2から排気される排気ガスH中のNOx濃度が増加することがわかる。これは、副燃料ガスF2の混焼率が低くなると、排気ガスHの排気量が減少し、ガスエンジン2の燃焼温度が上昇することにより、NOx濃度が増加したものと考えられる。
【0068】
これに対し、排気抵抗一定制御を行う場合には、副燃料ガスF2の混焼率の変化に対して、排気抵抗Rがほぼ一定になる。そして、排気抵抗Rがほぼ一定であることにより、排気ガスHの排気量がほぼ一定になり、排気ガスH中のNOx濃度をほぼ一定に保つことができることがわかる。
【符号の説明】
【0069】
1 発電システム
2 ガスエンジン
21 スロットルバルブ
22 排気管
3 発電機
31 電力計
41 空気配管
42 燃料配管
43 混合気供給配管
5 メインコントローラ
6 ガス混合装置
71 混合ガス制御弁
72 圧力計
73 温度計
74 外気温度計
8 ガス混合コントローラ
81 読込手段
82 算出手段
83 調整手段
F1 主燃料ガス
F2 副燃料ガス
F3 混合燃料ガス
A 燃焼用空気
G 混合気
H 排気ガス
M 関係マップ
W 発電出力
P 排気圧力
T 排気温度
TG 外気温度
Z 煙突効果
R 排気抵抗
Rr 目標排気抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスエンジンの運転を行って発電機を作動させるよう構成した発電システムに対して装備し、該発電システムへ都市ガス等の主燃料ガスとバイオガス等の副燃料ガスとを混合させた混合燃料ガスを供給するよう構成したガス混合装置であって、
上記発電システムは、上記発電機の発電出力を測定する電力計と、空気配管から吸い込まれた燃焼用空気と燃料配管に供給された上記混合燃料ガスとを混合させて混合気を作り出す混合気供給配管と、該混合気供給配管に配設して、上記ガスエンジンへ供給する上記混合気の流量を調整するためのスロットルバルブと、該スロットルバルブの開度を調整して上記発電機の発電出力を所定の目標発電出力に制御するメインコントローラとを備えており、
上記ガス混合装置は、上記燃料配管に供給する上記混合燃料ガスの流量を調整するための混合ガス制御弁と、上記ガスエンジンの排気管における排気圧力を測定する圧力計と、上記排気管における排気温度を測定する温度計と、上記混合ガス制御弁の開度を調整して上記燃焼用空気に対する上記混合燃料ガスの混合比率を制御するガス混合コントローラとを備えており、
該ガス混合コントローラには、上記電力計によって測定される発電出力Wmと、該発電出力Wmを出力するときに上記圧力計によって測定される排気圧力Pmに煙突効果Zmを加算して求められる排気抵抗Rmとの関係が関係マップとして予め設定してあり、
上記ガス混合コントローラは、上記電力計によって測定した発電出力W、上記圧力計によって測定した排気圧力P、及び上記温度計によって測定した排気温度Tを読み込む読込手段と、
上記測定した発電出力Wを出力するときの目標排気抵抗Rrを上記関係マップより求めると共に、上記排気管の構造及び上記測定した排気温度Tを用いて煙突効果Zを求め、かつ上記排気圧力Pに上記煙突効果Zを加算して排気抵抗Rを求める算出手段と、
上記排気抵抗Rが上記目標排気抵抗Rrになるよう上記混合ガス制御弁の開度を調整する調整手段とを備えていることを特徴とする発電システムに用いるガス混合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発電システムに用いるガス混合装置において、上記読込手段は、上記発電出力W、上記排気圧力P、及び上記排気温度Tを所定の時間間隔で逐次読み込むよう構成されており、
上記調整手段は、上記排気抵抗Rが、上記目標排気抵抗Rrに所定の不感帯圧力幅Xを加算した値よりも大きいときには、上記混合ガス制御弁の開度を所定量大きくし、一方、上記排気抵抗Rが、上記目標排気抵抗Rrから所定の不感帯圧力幅Xを減算した値よりも小さいときには、上記混合ガス制御弁の開度を所定量小さくするよう構成されていることを特徴とする発電システムに用いるガス混合装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発電システムに用いるガス混合装置において、上記算出手段は、上記排気抵抗Rを、上記排気温度Tを基準排気ガスの温度Tsに換算した換算排気抵抗として求めるよう構成されていることを特徴とする発電システムに用いるガス混合装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の発電システムに用いるガス混合装置において、上記発電システムは、上記排気管に対して、排熱回収装置の排熱回収部と該排熱回収部をバイパスするバイパス弁とを設けてなり、
該バイパス弁の開度が調整されることによって上記排熱回収部から回収する熱量が変更される状態において使用することを特徴とする発電システムに用いるガス混合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−82791(P2012−82791A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231395(P2010−231395)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【Fターム(参考)】