説明

発電システムを備えた超高層建物

【課題】建物計画や景観の妨げとなることが無く、かつ効率的に風のエネルギーを活用して発電を行うことができる発電システムを備えた超高層建物を提供する。
【解決手段】超高層建物1の高さの中間位置よりも上方位置に、方位四方向に開口した中間階2を設けるとともに、この中間階2に、当該中間階内に流入する風のエネルギーによって発電する風力発電装置5、8を設置したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高層建物の高層部における強風を利用して、風の自然エネルギーを効果的に発電に利用するための発電システムを備えた超高層建物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の観点から二酸化炭素の削減を図るために、太陽光、風力、地熱あるいは潮力といった各種の自然エネルギーを利用して発電を行う施策が積極的に推進されている。
【0003】
このような自然エネルギー利用の一種である風力発電は、一般的に、安定的な風向や風力を得る目的から、もっぱら周囲に建物等の人工の大型構造物が無い丘陵部、尾根、沿岸部等を立地場とし、ここに大型の風車を設置する方法が採られている。
【0004】
一方、上記自然エネルギーの積極的な利用は、将来的には、建築分野においても強く要請される可能性が高い。
このため、例えば、都市型風力発電の一つとして、高層あるいは超高層の建物の近傍に風力発電装置を設置して、上記建物に起因するビル風を利用しようとする発案もなされているが、敷地計画や安全性、景観配慮の観点から実現が難しい。
【0005】
また、都市部は、もともと風力が弱く、しかも風向や風速の乱れが大きいために、風力発電に関して最適環境とは言えない。
ところが、超高層建物では、周囲に高層あるいは超高層建物が少ない場合には、比較的上記乱れが少ない上空の強風を捉えることが可能である。
【0006】
そこで、従来の風力発電システムを備えた建物として、当該建物の屋根上に、風車式等の小型の発電装置を設置するものが提案されている。
ちなみに、建物の屋上面上は、図14および図15に示すように、複雑な気流が発生し、安定した風況を得難いために、上記風車等を外縁部から中心方向に3m以上離し、かつ屋根面上から5m以上高い位置に設置することが望ましいとされている。
【0007】
しかしながら、一般に上記屋根面上には、棟屋、清掃用のゴンドラ、設備機器類、ヘリポート等が存在しているために、これらの影響を受けて屋根面上付近の気流が更に複雑になるとともに、配置上の制約が大きいことから、現実的には発電装置の設置場所に適しているとは言い難い。
【0008】
そこで、下記特許文献1、2においては、いずれも建物の外壁面の上端部であって、屋根面との境目部分(屋上出隅部や外壁面出隅部)に風車を配置し、当該外壁面を上昇する風によって上記風車を回転させるようにした風力発電装置あるいは給電装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−193631号公報
【特許文献2】特開平11−336340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しなしながら、上記従来の風力発電装置あるいは給電装置にあっては、図15に見られるように、風の剥離が生じて風向や風力が変動し易い外壁面と屋根面との境目部分に風車を配置しているために、安定的かつ効率的な発電を行うことが難しいという問題点がある。
しかも、構造物から突出する上記風車が、景観上好ましくなく、またその保守や点検等のメンテナンスが困難であるという問題点もある。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、建物計画や景観の妨げとなることが無く、かつ効率的に風のエネルギーを活用して発電を行うことができる発電システムを備えた超高層建物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明に係る発電システムを備えた超高層建物は、超高層建物の高さの中間位置よりも上方位置に、方位四方向に開口した中間階を設けるとともに、この中間階に、当該中間階内に流入する風のエネルギーによって発電する風力発電装置を設置したことを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記中間階を、地上から上記超高層建物の高さの70〜80%の位置に設けたことを特徴とするものである。
【0014】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記中間階を、近隣環境も含めた気流シミュレーションまたは実験によって得られた上記超高層建物の上記外壁面において最大正圧が作用する箇所に設けたことを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記中間階の外周隅角部に、円柱状コア部を配置したことを特徴とするものであり、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、上記中間階に、複数本の柱を間隔をおいて立設し、これら柱の外周に風力発電装置の発電体となる風車を回転自在に設けたことを特徴とするものである。
【0016】
なお、建築基準法において、超高層建物の高さに係る直接的な定義はないものの、同法第20条からの類推により、請求項1〜5のいずれかに記載の発明において超高層建物とは、高さが60mを超える建物をいう。
【発明の効果】
【0017】
一般に、高さが高い位置程、強い風力を得ることができる。そして、超高層建物における風圧力分布は、風上に面した外壁面の停留点において最も高い正圧となり、当該停留点は、超高層建物において、通常その高さの1/2よりも高い位置になる。
【0018】
したがって、請求項1〜5のいずれかに記載の発明によれば、このような強い風力の風を中間階に流入させて、当該中間階に設けた風力発電装置によって、発電することができる。しかも、上記中間階は、方位四方向に開口しているために、季節等によって中間階に流入する風向きが変化した場合においても、常時発電を行うことが可能である。
【0019】
また、上記風力発電装置を中間階に設けているために、景観上、支障となることがなく、さらに当該風力発電装置が建物内に設けられているために、そのメンテナンス等も容易になる。
このように、本発明によれば、建物計画や景観の妨げとなることが無く、年間を通じて効率的に風のエネルギーを活用して発電を行うことができる。
【0020】
ここで、本発明者等による100mを超える高さの超高層建物における風圧力分布の解析結果によれば、概ね地上から上記超高層建物の高さの70〜80%の位置であって、かつ風向に面した外壁面の幅方向の中央部に、最も正圧が高くなる停留点が位置することが判明している。
【0021】
そこで、請求項2に記載の発明のように、上記中間階を、地上から上記超高層建物の高さの70〜80%の位置に設けるとともに、当該中間階の外周隅角部に、柱、壁、EVシャフト、階段室、PS、DS等からなるコア部を設置すれば、概ね最良の位置から中間階に上記風を流入させることができて好適である。
【0022】
これに対して、上記超高層建物の周囲に、同様の超高層建物が林立している場合や、当該超高層建物の高さが、比較的低いような場合には、上述した停留点が必ずしも高さの70〜80%に位置しない場合も想定される。
【0023】
このような場合には、請求項3に記載の発明のように、近隣の建物や地形等の環境も含めた気流シミュレーションの解析や、模型を用いた実験によって上記超高層建物の上記外壁面における停留点(最大正圧)を求め、当該停留点となる位置に上記中間階を設けるようにすれば、最も効率的な発電を行うことが可能になる。
【0024】
さらに、上記中間階の外周隅角部にコア部を配置する場合には、後述する本発明者等の解析結果に見られるように、上記コア部を、請求項4に記載の発明のように円柱状とすることにより、風向きが変化した場合においても、上記コア部を角柱状に構成した場合と比較して、より一層効率的な発電を行うことができる。
【0025】
さらに、中間階においては、そのスパンによって中央部分にも所定の間隔で柱を設ける必要がある。このような場合に、請求項5に記載の発明によれば、上記柱の外周に風力発電装置の発電体となる風車を回転自在に設けているために、これらの柱が、風の流れの妨げになることが無く、かつ風車の支持体として活用することができるために好適である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る発電システムを備えた超高層建物の第1の実施形態の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1の中間階部分を横断面視して示す拡大図である。
【図3】図2の発電装置を拡大して示す斜視図である。
【図4】図3の発電装置を取り付ける際の状態を示す平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態の概略構成を示す斜視図である。
【図6】図5の中間階部分を横断面視して示す拡大図である。
【図7】第1の実施形態において中間階に外壁面と直交する方向(風向0°)から風が流入した場合の風速ベクトル図である。
【図8】第1の実施形態において中間階に風向22.5°の風が流入した場合の風速ベクトル図である。
【図9】第1の実施形態において中間階に風向45°の風が流入した場合の風速ベクトル図である。
【図10】第2の実施形態において中間階に外壁面と直交する方向(風向0°)から風が流入した場合の風速ベクトル図である。
【図11】第2の実施形態において中間層に風向22.5°の風が流入した場合の風速ベクトル図である。
【図12】第2の実施形態において中間層に風向45°の風が流入した場合の風速ベクトル図である。
【図13】図10の縦断面視した風速ベクトル図である。
【図14】一般的な超高層建物の屋根面上における風の流速分布を示す風速ベクトル図である。
【図15】図14の縦断面視した風速ベクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1の実施形態)
図1〜図4は、本発明の第1の実施形態を示すもので、図中符号1が超高層建物であり、本実施形態においては高さが100m以上であるものを想定している。
そして、この超高層建物1は、地上から超高層建物1の高さの70〜80%の位置に、発電システムを設置するための中間階2が設けられている。
【0028】
この中間階2は、四隅角部に外法寸法が大きなコア部3が配設されるとともに、これらコア部3間が開放されることにより、方位四方向に開口した構造とされている。また、この中間階2の内部には、所定のスパンで円柱状の柱4が配置されている。そして、各々の柱4に、風力発電装置の一部を構成する風車5が設けられている。ここで、上記所定のスパンは、中間階2において上階の荷重を支持すべき位置であって、かつ隣接する風車5への風の影響の干渉が少ない間隔によって決定されている。
【0029】
この風車5は、図3および図4に示すように、柱4の外周に回転自在に設けられた円筒状の本体6と、この本体6から径方向の突出する4つの翼7から構成されたもので、翼7は本体6の円周方向に等間隔をおいて設けられている。ここで、本体6は、図4に示すように、2分割体6aの一側部同士が蝶番によって回動自在に連結されたもので、互いに開いた状態で柱4の外周を覆って他側部同士が連結されることにより、柱4廻りに回転自在に取り付けられている。
【0030】
また、各柱4の下部には、風車5の回転によって発電するコイル等を内蔵した発電ユニット8が取り付けられている。
そして、上記風車5、発電ユニット8によって風力発電装置が構成されるとともに、当該風力発電装置およびこの風力発電装置で発電された電力を給電するための図示されない給電設備等により、この超高層建物1における発電システムが構成されている。
【0031】
(第2の実施形態)
図5および図6は、本発明に係る発電システムを備えた超高層建物の第2の実施形態を示すもので、図1〜図4に示したものと、同一構成部分については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
この超高層建物1においても、第1の実施形態に示したものと同じ高さ位置に、同様の風力発電装置を備えた中間階2が設けられている。そして、この実施形態においては、中間階2の四隅角部に、大径の円柱状コア部10が配設されている。また、この中間階2の開口部における上下面も、滑らかな凸曲面に形成されている。
【0032】
以上の構成からなる発電システムを備えた超高層建物においては、超高層建物1の風圧が最も高くなる停留点またはその近傍に、方位四方向に開口する中間階2を設け、当該中間階2内に、風車5を備えた風力発電装置を配置しているために、上記中間階2に、風向が安定した強い風力の風を流入させて風車5を回転させることにより、効率的に発電させることができる。
【0033】
しかも、中間階2は、方位四方向に開口しているために、季節等によって中間階に流入する風向きが変化した場合においても、年間を通じて効率的に風のエネルギーを活用して発電を行うことができる。
【0034】
加えて、上記風力発電装置を中間階2内に設けているために、景観上、支障となることがなく、かつ上記風力発電装置のメンテナンス等も容易になる。
また、上記風力発電装置の発電体となる風車5を、中間階2内に設けた柱4廻りに回転自在に設けているために、これらの柱4が、風の流れの妨げになることが無く、かつ風車5の支持体として活用することもできる。
【0035】
なお、上記実施形態においては、一般的に風圧が最も高くなる停留点が位置する地上から超高層建物1の高さの70〜80%の位置に、風力発電装置を設置した中間階2を設けた場合についてのみ説明したが、これに限るものではなく、例えば、超高層建物1の周囲に、同様の超高層建物が林立している場合等においては、近隣の建物や地形等の環境も含めた気流シミュレーションの解析等によって停留点(最大正圧)を求め、当該停留点に中間階2を形成するようにすれば、最も効率的な発電を行うことが可能になる。
【0036】
また、中間階2に設ける風力発電装置も、上述した風車5を用いたものに限定されるものではなく、当該中間階2を流れる風のエネルギーを電力に変換し得るものであれば、各種形態の風力発電装置を設置することが可能である。
【実施例】
【0037】
次いで、本発明者等は、中間階2の四隅角部に、第1の実施形態に示したような角柱状のコア部3を配置した場合と、第2の実施形態に示したような円柱状コア部10を配置した場合とにおける同様の風力発電装置による発電量の相違を解析によって検証した。
【0038】
なお、解析に用いたモデルは、幅40m、奥行き40m、高さ160mの超高層建物の118mから122mまでの4mに中間階を設けたものであり、建物の影響の無い高道祖160mの位置において、風速10m/sである風が上記中間層に流入した場合における高さ120mの位置の風速ベクトルを求めた。
【0039】
図7〜図9は、第1の実施形態と同様に角柱状のコア部3を配置した場合における解析結果を示す風速ベクトル図であり、図7は風向0°、図8は風向22.5°、図9は風向45°の場合である。また、図10〜図12は、第2の実施形態と同様に円柱状コア部10を配置した場合における解析結果を示す風速ベクトル図であり、図10は風向0°、図11は風向22.5°、図12は風向45°の場合である。なお、いずれの図においても、符号×は、上記風力発電装置を設置した場合の仮想位置の印である。
【0040】
先ず、図7においては、図中×印で示す位置における風速(m/s)が、上方、右側、下方、左方の時計回り方向に、順次3.4、9.2、2.6、10.4であった。
また、図8においては、同様に順次9.4、8.7、1.7、9.2であり、図9においては、順次9.8、9.8、8.0、8.1であった。
【0041】
これに対して、図10においては、同様に順次9.0、9.0、9.8、12.3であり、図11においては、順次9.8、9.7、7.2、11.2であった。また、図12においては、順次11.1、11.1、10.6、10.8であった。
【0042】
以上のことから、図7、図8、図9に示した場合の発電量を、それぞれA、B、Cとすると、発電量は風速の3乗に比例することから、図10、図11、図12に示した場合の発電量は、各々2.0A、1.6B、1.7Cになり、よって第2の実施形態のように、中間階2の四隅角部に、円柱状コア部10を配置した場合に、より高い発電量を得られることが判明した。
【0043】
また、図13に示す縦断面視した風速ベクトル図に見られるように、本発明によれば、中間階において高さ方向に一様な速度分布が得られ、よって風力発電装置に均整の取れた風を安定的に作用させ得ることが実証された。
【符号の説明】
【0044】
1 超高層建物
2 中間階
3 コア部
4 柱
5 風車
8 発電ユニット
10 円柱状コア部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高層建物の高さの中間位置よりも上方位置に、方位四方向に開口した中間階を設けるとともに、この中間階に、当該中間階内に流入する風のエネルギーによって発電する風力発電装置を設置したことを特徴とする発電システムを備えた超高層建物。
【請求項2】
上記中間階を、地上から上記超高層建物の高さの70〜80%の位置に設けたことを特徴とする請求項1に記載の発電システムを備えた超高層建物。
【請求項3】
上記中間階を、近隣環境も含めた気流シミュレーションまたは実験によって得られた上記超高層建物の上記外壁面において最大正圧が作用する箇所に設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の発電システムを備えた超高層建物。
【請求項4】
上記中間階の外周隅角部に、円柱状コア部を配置したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の発電システムを備えた超高層建物。
【請求項5】
上記中間階に、複数本の柱を間隔をおいて立設し、これら柱の外周に風力発電装置の発電体となる風車を回転自在に設けたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の発電システムを備えた超高層建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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